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酒飯論絵巻

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
文化庁本 酒飯論絵巻 部分

酒飯論絵巻(しゅはんろんえまき)は、16世紀に制作されたと言われる日本絵巻。『下戸上戸絵詞』『三論絵詞』『酒食論』『下戸上戸之巻』とも呼ばれる。1巻、詞書と絵が各4段。酒好きの男と、下戸でご飯好きの男、両方適度に嗜む男の3人がそれぞれの持論を展開するという構成で描かれている[1]。調理から配膳、飲食の様子が詳細に描かれており、当時の食文化を知る貴重な資料となっている。

概要

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最も原本に近い、もしくは原本そのものの可能性がある文化庁本の大きさは、縦30.7×長さ1416cm。狩野元信の筆になるものと、土佐光元によるものがあり、その模写本や異本が多数存在する[1]。主人公の三人は、酒好きの公家・造酒正糟屋朝臣長持(みきのじょうかすやあそんながもち)、飯好きの僧侶・飯室律師好飯(いいむろりっしこうはん)、中庸派の武士・中左衛門大夫中原仲成(ちゅうざえもんだゆうなかはらなかなり)である[2]

4部構成になっており、第一段に三人の紹介、第二段では酒の徳、第三段では飯やおかず、茶の面白さ、第四段ではどちらもほどほどがよいと語られる[1]。長持は念仏宗[3]、好飯は法華宗、仲成は天台宗のそれぞれ宗徒であり、表向きは飲食について語りながら、天台宗の中道観の優位性を説いている。また、公家と僧侶の争いを武士が仲裁するのは、室町時代の権力構造を反映しているといえる。

2009年から多分野に渡る研究者の共同研究の対象となり、2012年に研究報告がなされた。

伝本リスト

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系統 所蔵者(所蔵番号) 形状・員数 技法 寸法(縦 x 横cm) 年代 備考
詞書のみ 神宮文庫(一六〇五) 1冊 紙本墨画 成立年不明
詞書のみ 金沢市立玉川図書館近世史料館 1冊 紙本墨画 成立年不明
土佐光元系統絵巻 静嘉堂文庫美術館 1軸1巻 紙本著色 17.5 x 1297.4
土佐光元系統絵巻 東京国立博物館(A-2819) 1軸 紙本一部淡彩 25.7
土佐光元系統絵巻 国立国会図書館(本別七ー五六五) 1軸 紙本墨画、一部著色、色指示有り 16.6
狩野元信系統絵巻 文化庁[4] 1軸 紙本著色 30.7 x 1416 16世紀中期
狩野元信系統絵巻 個人(勝海船旧蔵) 1軸 紙本著色、色指示有り 28.7 x 713.2 16世紀(安土桃山時代
フランス国立図書館本とその系統 フランス国立図書館(Japonais 5343) 1軸 紙本著色 31.1 x 732.5 近世中期
フランス国立図書館本とその系統 群馬県立歴史博物館 1軸 紙本著色 31.1 x 732.5 江戸時代
フランス国立図書館本とその系統 東京国立博物館(A-277)) 1軸 紙本淡彩 40.4 x 1558 明治時代 フランス国立図書館の模写か
フランス国立図書館本とその系統 国立国会図書館(んー89) 1軸 紙本淡彩 41 x 1517.9
著色他模写 大倉集古館 掛物対幅 紙本著色 24.2 x 44.2(各) 桃山・江戸時代前期
著色他模写 三時知恩寺 1軸 紙本著色 江戸時代
著色他模写 海の見える杜美術館(1986-145) 2軸 紙本著色 江戸時代
著色他模写 茶道資料館 1軸 紙本著色 34.5 x 1340.5 江戸時代 詞書が流布本系統に比べて相違点が多い。
著色他模写 国立国会図書館(本別10ー39) 1軸 紙本著色 36.2 x 583.1 江戸時代
著色他模写 個人 2軸 紙本淡彩 32.5 x 396、32.5 x 597 江戸中期
著色他模写 愛媛県歴史博物館 1軸 紙本著色 34.5 x 826 江戸後期
著色他模写 チェスター・ビーティー・ライブラリー(CJB、1121-39) 1軸 紙本著色 34 x 1200 近世前期
著色他模写 ニューヨーク公共図書館(スペンサー・コレクション) 2軸 紙本著色 江戸中期 狩野探信 (守政)筆 |
著色他模写 大英博物館(アンダーソン・コレクション 177) 1軸 紙本著色 36 x 1187.5 江戸中期
著色他模写 ボストン美術館(フェノロサ・ウェルド・コレクション) 1軸 紙本著色 36.6 x 1272 17世紀 勝田竹翁筆 |
著色他模写 京都大学文学部(別置449<152736>)(田中尚房旧蔵) 1軸 紙本著色 1914年(大正3年)
白描写本 茶道資料館 1軸 紙本淡彩 32.1 x 599.9 室町時代(?)
白描写本 東京文化財研究所 1軸 墨画 27.2 x 1534.3 1795年(寛政7年)
白描写本 文化庁 1軸 墨画 30.2 x 812 1820年(文政3年)外箱
白描写本 T家本 1軸 紙本墨画
白描写本 西尾市岩瀬文庫(141-42) 1冊 墨画 27.2 x 19.2 1847年(弘化4年)序文
白描写本 早稲田大学図書館(請求記号:チ04-00510) 1冊 一部朱書 28 1851年(嘉永3年)
白描写本 慶應義塾大学魚菜文庫(旧称石泰文庫)(242x-169) 1軸
著色粉本 金沢市立玉川図書館近世史料館加越能文庫(特16-03-1) 1軸 紙本著色 39 x 1020 19世紀
未詳写本 「酒飯論絵巻画稿」の名前で2009年京都国立博物館に出品されたもの |
蔀関月筆本系統 ギメ美術館 紙本著色 29.5 x 990.1 1846年

※ ヴェロック・ベランジュ 「『酒飯論絵巻』伝本リスト」(『『酒飯論絵巻』影印と研究 文化庁本・フランス国立図書館本とその周辺』pp.18-21、2015年、臨川書店 ISBN 978-4653041153)を元に作成。

フランス国立図書館本『酒飯論絵巻』第3段末尾より

脚注

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  1. ^ a b c 並木誠士「酒飯論絵巻考 : 原本の確定とその位置付け」『美学』第45巻第1号、美学会、1994年、64-74頁、doi:10.20631/bigaku.45.1_64ISSN 0520-0962NAID 110003714082 
  2. ^ 伊藤信博「『酒飯論絵巻』に描かれる食物について--第三段、好飯の住房を中心に」『言語文化論集』第32巻第2号、名古屋大学大学院国際言語文化研究科、2011年、63-75頁、doi:10.18999/stulc.32.2.63ISSN 03886824NAID 120002933890 
  3. ^ 文化庁本第二段詞書末尾より。詞書には「念仏宗をぞ深く頼める」とあるだけで、絵からも念仏宗のうちのどれなのかは判別できない。
  4. ^ 並木(1994)では、N家A本と表記。

参考文献

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  • 阿部泰郎・伊藤信博編 『【アジア遊学172】 『酒飯論絵巻』の世界―日仏共同研究』 勉誠出版、2014年3月20日
  • 伊藤信博 クレール=碧子・ブリッセ 増尾伸一郎編 『『酒飯論絵巻』影印と研究 文化庁本・フランス国立図書館本とその周辺』 臨川書店、2015年2月28日、ISBN 978-4-653-04115-3
  • 並木誠士 『日本絵画の転換点 酒飯論絵巻―「絵巻」の時代から「風俗画」の時代へ』 昭和堂、2017年8月4日、ISBN 978-4-8122-1631-6

外部リンク

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