コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

調和共役 (幾何学)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
DA,Bに対するCの調和共役
A, D, B, C は調和点列

KLMN完全四角形

射影幾何学において、調和共役(ちょうわきょうやく、英語: harmonic conjugate)は、実射影直線における以下の点の関係のことである[1][2][3][4][5][6]

同一直線上にある三点 A, B, CについてLをその直線上にない点、M, NをそれぞれあるCを通る直線とLA, LBの交点とする。またANBMの交点をKとする。LKABの交点DCA,Bに対する調和共役点という[7][8][9][10][11]

D複比の不変性やデザルグの定理により、点Lや直線MNの取り方に依らない。

またこのときの複比については (A, B; C, D) = −1が成り立つ。

平面幾何学では{P,Q}調和共役({P,Q}-harmonic conjugate)と書かれることもある[12]

複比の基準

[編集]

A, D, B, C調和点列(Harmonic range)または調和列点と呼ばれている[13][14][15][16][17][18][19][20][21]ABに対するDの内分比とCの外分比は常に等しい。つまり以下が成り立つ。線分比について符号付き距離を導入すると複比は以下の式で表される。

調和点列の複比は常に-1である。

複比を取る4点の選びは6通りあり、選び方によって複比の値は変わってしまう。しかし、調和点列の場合、{−1, 1/2, 2}のいずれかとなる。これらは調和比(harmonic cross-ratio)と呼ばれる[22][8][23][24]

実数直線状の点a, bについて点x分割比(division ratio)は以下の式で表される[25][26]a < x < bならば、t(x)は負の値を取る。逆にa, bの外であれば正の値を取る。複比は分割比を用いて と書くことができる。t(c) + t(d) = 0ならば、cda,bに対する調和共役である。

調和共役の関係にある2つの点との距離が、調和点列の分比である点の軌跡はアポロニウスの円と呼ばれる。

中点の調和共役

[編集]
中点と無限遠点

ab中点xに対しての分割比は-1である。複比の基準によれば、中点xの調和共役点yt(y) = 1を満たさなければならない。しかし無限の概念を使わねば、yを定義することができない。中点xの調和共役点は実数直線上の無限遠点として定義される。

調和四角形

[編集]

調和共役と完全四辺形英語版KLMNは深い関係にある。完全四角形の調和共役による表現はH. S. M.コクセターによって提唱された。

どの3点も共線でない4点A,B,C,Dを結んでできる6つの直線のからできる図形を完全四角形または完全四辺形という[27]

最初に調和共役を用いたカール・フォン・シュタウトは著作「Geometrie der Lage」の中で、調和共役を初等幾何学の概念から射影幾何学の概念へ発展させた[28]

parallelogram with diagonals
P1 = A, P2 = S, P3 = B, P4 = Q, D = M

ジョン・ウェスレー・ヤングによれば、調和四角形によって中点を定義することができる。

2直線 AQ, AS についてそれぞれ平行な直線,BS, BQ を描く。 AQ, SB の交点は無限遠点RAS, QBの交点無限遠点Pである。調和四角形PQRS の対角線は直線ABと、AB上の無限遠点Mである。平行四辺形の対角線の交点は対角線を二等分することより、 Mの調和共役点はABの中点である[29]

円錐曲線

[編集]

円錐曲線CC上にないPについて、Pを通る直線とCの交点をそれぞれA,Bとする。直線が動くとき、 PA,Bに対する調和共役点は、ある直線上を動く。この時P(pole)、調和共役点の動く直線をP極線(polar line)と言う。

反転幾何学

[編集]

特に円の場合、調和共役は円による反転と等しい。これはSmogorzhevskyの定理の一つである[30]

k, q が垂直に交わっているときk,qの中心を結ぶ直線とqの2つの交点はkについて、反転の関係にある。また、kの中心,kと直線のq側の交点に対してk,qの中心を結ぶ直線とqの2つ交点は調和共役の関係にある。

円錐曲線とJoachimthalの等式

[編集]

を以下の式で表される楕円とする。

楕円の外にある点 について、を通る直線楕円,で交わっている。 の座標を とする。上の点を、:に内分する、楕円の内部に位置する点とすると、以下が成り立つ。

.

これらの方程式を𝜉と𝜂について解く代わりに、以下の式が解であることを代入によって調べることができる。

上にあることは以下の式から確かめられる。

この等式はJoachimthal's equationと呼ばれる。Joachimthal's equationの2つの根,に対する,の位置を決定する。

上の等式の両辺がと等しいならば

このとき に対する の内分比との外分比は等しい。すなわちこれは調和比である。

この等式は を極とする極線を表す。

出典

[編集]
  1. ^ Eugène Rouché,Charles de Comberousse 著、小倉金之助 編『初等幾何学 第1巻 平面之部』山海堂書店、1913年。doi:10.11501/930885 
  2. ^ 英国幾何学教授法改良協会 著、原浜吉 訳『平面幾何学 : 初等教育 下巻』両輪堂、1893年、252頁。 
  3. ^ デボーヴ 著、吉田好九郎 訳『平面幾何学研究法 訂再版,Questions de géométrie elémentaire』富山房、1914年、38-71頁。doi:10.11501/952193 
  4. ^ 保田棟太, 白井伝三郎『平面幾何教科書』光風館、1907年、238頁。doi:10.11501/828886 
  5. ^ 調和共役”. mixedmoss. 2024年7月23日閲覧。
  6. ^ 真辺仙一『手によりて分類せる幾何学問題集』敬文館書店、1924年、20,263-264頁。doi:10.11501/921465 
  7. ^ R. L. Goodstein & E. J. F. Primrose (1953) Axiomatic Projective Geometry, University College Leicester (publisher). This text follows synthetic geometry. Harmonic construction on page 11 
  8. ^ a b ショヴネー 著、乙部兵義 訳『ショヴネー氏幾何教科書 下巻』開新堂、1891年、142-143,152頁。doi:10.11501/828565 
  9. ^ 長沢亀之助『平面幾何学小辞典』東京宝文館、1913年、5,11-12頁。 
  10. ^ 三余学寮『数学新辞典 (辞典叢書)』田中宋栄堂、1907年、180頁。doi:10.11501/826427 
  11. ^ 菊池大麓『初等幾何学教科書 立体之部(訂3版)』大日本図書、1898年、126頁。doi:10.11501/828701 
  12. ^ GLOSSARY, a support page for ENCYCLOPEDIA TRIANGLE CENTERS”. faculty.evansville.edu. 2024年3月23日閲覧。
  13. ^ 森本清吾『初等幾何学』朝倉書店、1953年、70-73頁。doi:10.11501/1372292 
  14. ^ ジョン・ケージー 著、山下安太郎,高橋三蔵 訳『幾何学続編』有朋堂、1909年、111頁。doi:10.11501/828521 
  15. ^ 秋山武太郎『平面幾何學教科書 改訂再版』明治書院、1919年、310-312頁。doi:10.11501/1184187 
  16. ^ 山崎栄作『最新平面幾何学講義』内田老鶴圃、1925年、203-213頁。doi:10.11501/942889 
  17. ^ 越智治成『幾何学徹底的研究』文明社、1937年、152-153頁。doi:10.11501/1457461 
  18. ^ 松室隆光『登竜幾何学問題選集』広文館、1936年、103-105頁。doi:10.11501/1112996 
  19. ^ 澤山勇三郞,森本清吾『初等幾何学』積善館、1931年、142-147頁。doi:10.11501/1174278 
  20. ^ 調和点列の様々な定義と具体例”. 高校数学の美しい物語 (2021年3月7日). 2024年7月23日閲覧。
  21. ^ 世界大百科事典, 日本大百科全書(ニッポニカ),改訂新版. “調和列点(ちょうわれってん)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2024年7月23日閲覧。
  22. ^ 中川銓吉『平面解析幾何学』富山房、1913年、128頁。doi:10.11501/980959 
  23. ^ チャーレス・スミス 著、宮本藤吉 訳『解析幾何学教科書』三省堂、1906年、57頁。doi:10.11501/828396 
  24. ^ サーモン 著、小倉金之助 訳『解析幾何学 : 円錐曲線』山海堂出版部、1914年、112頁。doi:10.11501/952208 
  25. ^ Dirk Struik (1953) Lectures on Analytic and Projective Geometry, page 7
  26. ^ 窪田忠彦『幾何学的変換論初歩』金港堂書籍、1925年、2頁。doi:10.11501/980958 
  27. ^ H. S. M. Coxeter (1942) Non-Euclidean Geometry, page 29, University of Toronto Press 
  28. ^ B.L. Laptev & B.A. Rozenfel'd (1996) Mathematics of the 19th Century: Geometry, page 41, Birkhäuser Verlag ISBN 3-7643-5048-2 
  29. ^ John Wesley Young (1930) Projective Geometry, page 85, Mathematical Association of America, Chicago: Open Court Publishing 
  30. ^ A.S. Smogorzhevsky (1982) Lobachevskian Geometry, Mir Publishers, Moscow