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直交多項式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

数学における直交多項式列(ちょっこうたこうしきれつ、: orthogonal polynomial sequence)または直交多項式系 (system of orthogonal polynomials) は、多項式の成す多項式列)であって、それに属するどの二つの多項式も適当な内積に関して直交するものをいう[1][2][3][4]

最も広く用いられる直交多項式列は古典直交多項式列英語版中国語版と呼ばれる一群で、エルミート多項式列、ラゲール多項式列、ヤコビ多項式英語版ドイツ語版フランス語版スペイン語版列やそれらの特別の場合としてのゲーゲンバウアー多項式列、チェビシェフ多項式列 (チェビシェフ補間英語版ロシア語版クレンショ―=カーティス求積英語版に使われている)、ルジャンドル多項式列 (ガウス・ルジャンドル公式による求積に使われている[5]) などが含まれる[1][2][3][4]

直交多項式系に関する分野は、19世紀後半にチェビシェフによる連分数の研究から発展し、マルコフスティルチェスが続いた。直交多項式系に関して業績・貢献のある数学者は多数いる (後述する)。

一変数および実測度の場合の定義

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実数直線上定義された非減少函数 α が任意に与えられたとき、函数 fα に関するルベーグ–スティルチェス積分

が定義できる[1][2][3][4]。この積分が任意の多項式に対して有限であるとき、多項式の対 f, g に対して内積

が定義される[1][2][3][4]。この演算は多項式全体の成すベクトル空間上の半正定値内積であり、α が無限個の増加点を持つならば正定値になる。この内積に関して通常の仕方で直交性が定義できる(つまり二つの多項式が直交するとはそれらの内積が零であることをいう[1][2][3][4])。

このとき多項式列 (Pn)
n=0
(deg(Pn) = n)
が直交系であるとは、mn のとき常に関係式

を満たすことを言う[1][2][3][4]。即ち直交多項式列は単項式列 1, x, x2, … に与えられた内積に関するグラム–シュミットの直交化を施して得られる[5]

正規直交系

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通常はさらに正規直交系、すなわち

となることも要求する (これを課すことにより直交多項式列は一意に定まる[1])。

絶対連続の場合

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αルベーグ測度 dx に対して絶対連続であるとき、すなわち適当な区間 [x1,x2]x1 = −∞ および x2 = ∞ となってもよい)上にを持つ非負函数 W を密度函数 (weight function) として

と書けるとき、内積

の形に与えられる[1][2][3][4]。しかし多くの直交多項式系の例において、測度 dα(x)α の不連続点集合が正の測度を持ち、このような密度函数 W を与えることはできない。

直交多項式列の例

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古典直交多項式列

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もっともよく利用される直交多項式系は、実数直線上の適当な区間にを持つ測度に対して直交するものである。例えば:

離散直交多項式列

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適当な離散測度に関して直交する多項式列は離散直交系英語版であるという。この場合、測度が有限台、つまり多項式の無限列ではなく有限列となることもある。ラカー多項式英語版列は離散直交多項式列の例であり、特別の場合としてハーン多項式[8]および双対ハーン多項式[8]を含む。したがってさらに特別の場合としてマイズナー多項式英語版クラウチューク多項式列、シャルリエ多項式英語版などが含まれる。

篩直交多項式列

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篩直交多項式列英語版、例えば篩超球多項式英語版列、篩ヤコビ多項式英語版篩ポラツェック多項式英語版列など、は修正された漸化式を持つ。

単位円上の直交多項式列

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ガウス平面上の適当な曲線に関する直交多項式系も考えられる。実数直線上を除いてもっとも重要な場合は、考える曲線が単位円の場合である。単位円上の直交多項式列英語版には例えばロジャース–セゲー多項式英語版中国語版列がある。

三角形や円板のような平面領域上で定義された直交多項式の族も存在する。それらの中には、ヤコビ多項式列を用いて書き表すことができるものもある。例えばゼルニケ多項式列は単位円板上で直交する。

性質

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実数直線上の非負測度に関する一変数直交多項式列は以下のような性質を満たす。

モーメントとの関係

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直交多項式列 {Pn} モーメント mn = ∫ xndα(x) を用いて

と表すことができる[1]。ここに任意定数 cnPn の正規化に関するものである。

漸化式

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直交多項式列 {Pn} は以下の形の漸化式

を満足する[1][2][7][5]。逆の結果は ファヴァールの定理英語版フランス語版を見よ[10][12][13]

クリストッフェル–ダルブーの公式[1][2][3][7]

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零点

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測度 が区間 [a, b]を持つならば Pn零点は全て [a, b] に属する[1][5] (この性質を応用したのが直交多項式による多項式補間[1]ガウス求積[1][7][5][14]ガウス=クロンロッド求積法[15]である。)。

交絡性質

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以下のような交絡性質 (interlacing property):

m > n ならば Pm の各零点は必ず Pn の任意の二つの零点の間にある。

を満たす[1]

重根の非存在

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Pnの零点は全て相異なる実根である(重根を持たない)[1][5]

多変数の直交多項式列[16][17]

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マクドナルド多項式英語版[18][19]アフィンルート系の選び方に依存して決まる多変数直交多項式系である。マクドナルド多項式列はその特別の場合として他の多くの多変数直交多項式族、例えばジャック多項式英語版[19]ホール–リトルウッド多項式英語版[19]ヘックマン–オプダム多項式英語版列、コーンウィンダー多項式英語版列などを含む。アスキー–ウィルソン多項式英語版フランス語版中国語版[11]はある種の階数 1 の非被約ルート系に対するマクドナルド多項式の特別な場合である。

関連項目

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研究者・専門家

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直交多項式に関して業績・貢献のある数学者として以下が挙げられる。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 時弘哲治、工学における特殊関数、共立出版
  2. ^ a b c d e f g h i j k 青本和彦: 直交多項式入門, 数学書房, 2013 年.
  3. ^ a b c d e f g h i Hazewinkel, Michiel, ed. (2001), “Orthogonal polynomials”, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4, https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Orthogonal_polynomials 
  4. ^ a b c d e f g h Abramowitz, Milton [in 英語]; Stegun, Irene Ann [in 英語], eds. (1983) [June 1964]. "Chapter 22". Handbook of Mathematical Functions with Formulas, Graphs, and Mathematical Tables. Applied Mathematics Series. Vol. 55 (Ninth reprint with additional corrections of tenth original printing with corrections (December 1972); first ed.). Washington D.C.; New York: United States Department of Commerce, National Bureau of Standards; Dover Publications. p. 773. ISBN 978-0-486-61272-0. LCCN 64-60036. MR 0167642. LCCN 65-12253
  5. ^ a b c d e f 山本哲朗『数値解析入門』(増訂版)サイエンス社〈サイエンスライブラリ 現代数学への入門 14〉、2003年6月。ISBN 4-7819-1038-6 
  6. ^ a b c d e Koekoek, R., & Swarttouw, R. F. (1996). The Askey-scheme of hypergeometric orthogonal polynomials and its -analogue. arXiv preprint math/9602214.
  7. ^ a b c d e f Andrews, G. E., Askey, R., & Roy, R. (1999). Special functions. en:Cambridge university press.
  8. ^ a b c d Hahn, Wolfgang (1949), "Über Orthogonalpolynome, die q-Differenzengleichungen genügen", Mathematische Nachrichten, 2: 4–34, doi:10.1002/mana.19490020103, ISSN 0025-584X, MR 0030647
  9. ^ a b c Koekoek, R., Lesky, P. A., & Swarttouw, R. F. (2010). Hypergeometric orthogonal polynomials and their -analogues. en:Springer Science & Business Media.
  10. ^ a b c Ismail, Mourad E. H. (2005). Classical and Quantum Orthogonal Polynomials in One Variable. Cambridge: Cambridge Univ. Press. ISBN 0-521-78201-5. http://www.cambridge.org/us/catalogue/catalogue.asp?isbn=9780521782012 
  11. ^ a b c Askey, Richard; Wilson, James (1985), "Some basic hypergeometric orthogonal polynomials that generalize Jacobi polynomials", Memoirs of the en:American Mathematical Society, 54 (319): iv+55, doi:10.1090/memo/0319, ISBN 978-0-8218-2321-7, ISSN 0065-9266, MR 0783216
  12. ^ Favard theorem. Encyclopedia of Mathematics. URL: http://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Favard_theorem&oldid=43634
  13. ^ J. Favard, "Sur les polynomes de Tchebicheff" C.R. Acad. Sci. Paris , 200 (1935) pp. 2052-2053
  14. ^ 森正武、数値解析第2版、共立出版
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  16. ^ a b Ismail, M. E., & Zhang, R. (2017). A review of multivariate orthogonal polynomials. Journal of the Egyptian Mathematical Society, 25(2), 91-110.
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  18. ^ Langer, R. (2008). Symmetric functions and Macdonald polynomials.
  19. ^ a b c Kuznetsov, V. B. (2006). Workshop on Jack, Hall-Littlewood, and Macdonald Polynomials, September 23-26, 2003, ICMS, Edinburgh, United Kingdom. en:American Mathematical Society.
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  23. ^ Orthogonal polynomials: computation and approximation, en:Oxford University Press, Oxford, 2004.
  24. ^ Orthogonal polynomials in MATLAB: exercises and solutions, SIAM, Philadelphia, 2016.

参考文献

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外部リンク

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