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[[先住権]](先住民族の権利)の定義については曖昧な部分もあるが、[[アムネスティ・インターナショナル]]によると、「土地や資源の返還を求める権利」、「自治を求める権利」、「伝統的につながりを持ってきた土地や資源を利用する権利」などが[[国際連合]]で認められている<ref>{{Cite web |url=https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/ihrl/minority.html |title=自由権規約委員会による日本審査:先住民族 |access-date=2022-05-13 |publisher=[[アムネスティ・インターナショナル日本]]}}</ref>。 |
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2023年6月22日 (木) 12:11時点における版
アイヌ民族運動(アイヌみんぞくうんどう)は、日本(主に北海道)及びロシアに居住するアイヌ民族が、その地における民族的権利の獲得を目指して行っている運動である。日本国内では、アイヌの人々は近代において権利や文化を否定され、現代においては差別問題や先住性の議論などが残る。
日本国内
歴史背景
日本人(和人)の北海道(蝦夷地、アイヌモシリ)への入植は、15世紀頃から始まり、19世紀後半に本格化した。「開拓」が推し進められる中で、アイヌの人々は明治政府によって土地や漁場、民族独自の風習や文化を否定された。また、明治から1970年代にかけてアイヌの人々の遺骨が研究などの目的で持ち出された。
アイヌに関する法律
1997年、アイヌを民族として否定する同化政策法ともいえる[1]北海道旧土人保護法[注 1]に代わって、アイヌ文化振興法[注 2]が施行されたが、これはアイヌ文化の振興を目的とするもので、権利については触れられなかった。2007年に国際連合総会で『先住民族の権利に関する国際連合宣言』が採択され、日本では、2019年にアイヌ施策推進法[注 3]が施行された。この法律では、アイヌ民族が「先住民族」と初めて明記されたが、またしても民族の権利は保障されなかった。
所有権・財産権
先住権(先住民族の権利)の定義については曖昧な部分もあるが、アムネスティ・インターナショナルによると、「土地や資源の返還を求める権利」、「自治を求める権利」、「伝統的につながりを持ってきた土地や資源を利用する権利」などが国際連合で認められている[2]。
土地の所有権
1989年に二風谷ダム建設のための強制収用の裁決を北海道収用委員会が行い、これを不服とした萱野茂らが札幌地方裁判所に提訴した。萱野茂は、「アイヌ民族の『聖地』を奪う」ものだとし、札幌地裁は「裁決は違法」との判決を下した[注 4][3]。
遺骨返還訴訟
日本国内外の大学に保管されているアイヌ遺骨の返還を求める訴訟がある。
漁業権
2019年9月、北海道紋別市でアイヌ民族出身の畠山敏が、道に捕獲許可の申請をせずに伝統儀式用のサケを捕獲した。道職員は違法行為として制止し、その後道警の取り調べを受けた[4][5]。畠山は「サケ漁をするかどうかは自己決定権だ」と主張している[5]。
2020年8月、ラポロアイヌネイションが現在は法律で禁止されている、河川での商業的なサケ捕獲の権利(サケ捕獲権)の確認を求め、国と北海道を提訴した[6][7]。先住権の確認を求める訴訟は日本では初となり、同団体の長根弘喜会長は「私たちアイヌがもともと持っていた権利を取り戻すための裁判だ」と述べた[8]。
自治権
国会にアイヌ民族の議席(特別枠)を設けるべきとの意見があるほか、アイヌ民族でつくる団体などが自治権の拡大を求めている。また、日本共産党の紙智子氏は、「アイヌに関して新たな政策づくり、運動の発展に力を尽くします」と、日本共産党北海道委員会で語った[9]。
年表
- 1457年 コシャマインの戦い
- 1669年 シャクシャインの戦い
- 1789年 北海道東部でアイヌによる和人への蜂起が起きる。
- 1931年 札幌市で全道アイヌ青年大会開催。
- 1946年 北海道アイヌ協会設立。
- 1972年 日本人類学会年次大会総会において、活動家の太田竜、民族運動団体代表の結城庄司らが壇上を占拠。アイヌ不在のまま研究の名目でアイヌ文化を管理領有してきたとして学術学会を厳しく糾弾する声明と公開質問状を読み上げる。
- 1986年 中曽根康弘「単一民族発言」
- 1994年 萱野茂がアイヌ民族出身者として初となる国会議員に選出。
- 1997年
- 1999年 小川隆吉らがアイヌ民族共有財産の返還手続きの無効の確認求め提訴。
- 2006年 アイヌ民族共有財産裁判で原告団側の敗訴確定。
- 2007年 国連で『先住民族の権利に関する国際連合宣言』採択。
- 2008年 衆参両院で『アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議』採択。
- 2014年 金子快之札幌市議会議員(当時)、Twitterに「アイヌ民族なんて、いまはもういないんですよね」などと投稿[10][注 6]。
- 2019年
- 2020年
- 7月12日 ウポポイ(民族共生象徴空間)開業。
- 8月17日 ラポロアイヌネイションがサケ捕獲権(先住権)の確認求め国と道を提訴[6][7][8]。
- 2021年
- 2022年
ロシア国内
先住民族認定以前
ロシアがカムチャツカ地方の先住民族として認めているのはコリャク、イテリメンなど6民族だけであり、ソ連時代を含め、アイヌ民族に関しては「日本人」だとして先住民とは認めてこなかった。ソ連の侵攻時に千島列島に居住していたアイヌは、戦後にソ連によってサハリンやカムチャツカ半島への移住をさせられている。ソ連は戦後、サハリンや千島列島のアイヌを日本人としたことで戦前に出生していたアイヌの出生証明書はなく、アイヌであることを示す証拠も残らなかった。2008年5月に先住民族認定を求め、ロシアでは初となるアイヌ民族団体「アイヌ」が設立された[17]。北海道新聞によると、代表のアレクセイ・ナカムラは、2002年のロシアの人口調査で民族欄に「アイヌ」と初めて書いたが、「国の登録項目にアイヌ民族はない」と却下され、「民族の権利回復」を決意したという[17]。2018年12月のプーチン大統領への報告ではロシア国内のアイヌについて、ソ連時代に移住させられたため「カムチャツカ地方に105人しかいない」とされている[18]。
認定以後
2018年12月、ロシアは方針転換し、プーチン大統領がカムチャッカ地方の「北方領土を含む千島列島」(ロシア名:クリル諸島)などに居住するアイヌ民族をロシアの先住民族として認める考えを示した[18]。
2019年1月11日にはアイヌ民族団体モシㇼ コㇽ カムイの会が以下のように書いた要望書を、「ロシア連邦大統領ウラジーミル・プーチン閣下」及び「在札幌ロシア連邦総領事館ファブリーチニコフ・アンドレイ閣下」に対して提出した[19]。
いま日本国の領土に暮らすわたしたちは、2007年に国際連合総会で採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」にちからを得て、日本国政府に対し、先住民族アイヌの諸権利を妨害しないよう、また、これまでの妨害によってアイヌが被った不利益を早急に回復するよう求めていますが、今般、貴国政府と日本国政府の間で、いわゆる領土交渉が活発化していることにかんがみ、この地域の先住民族として、貴国大統領閣下ならびに総領事閣下に、以下の要望をお伝えいたします。1.クリル諸島をアイヌ民族の自治州/区としてください。
2.クリル諸島沿海域をアイヌ民族による漁業資源管理エリアとしてください。
3.クリル諸島の自然環境を保全してください。とくに南クリル地域については、UNESCO世界自然遺産登録地である知床半島(北海道島)との一体的な保全管理をご検討ください。 — モシㇼ コㇽ カムイの会、ウラジーミル・プーチン大統領あての要望書[20]
しかしながら日本国内では、ロシア政府による同国国内のアイヌの先住民族認定をロシアの北海道への領土的野心の現れと指摘する向きもある[21][22]。また、2022年ウクライナ侵攻開始後の4月、同国の野党・公正ロシア党首、セルゲイ・ミロノフは「ロシアは北海道の権利を有している」と主張した[21]。
年表
- 2008年 ロシアでは初となるアイヌ民族団体「アイヌ」設立[17]。
- ボリス・ヤラヴォイによってロシア極東アイヌ協会 (RADA) 設立[23]。
- 2018年 プーチン大統領がカムチャツカ地方のクリル諸島などに居住するアイヌをロシアの先住民族として認める考えを示す[18]。
脚注
注釈
- ^ 1899年制定
- ^ a b 正式な名称は「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」である。
- ^ a b 正式な名称は「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」である。
- ^ 裁決の取り消しを求める請求は棄却した。また、アイヌを国の機関としては初めて先住民族と認めた。
- ^ 来場者に処遇改善をアピールするために、アイヌ自身が積極的に参加する立場をとった。
- ^ 金子自身は、自身のブログで『「アイヌ民族もういない」騒動』と表現している[11]。
出典
- ^ “アイヌとは”. コトバンク. 2022年5月13日閲覧。
- ^ “自由権規約委員会による日本審査:先住民族”. アムネスティ・インターナショナル日本. 2022年5月13日閲覧。
- ^ a b “1989年 二風谷ダム建設で強制収用裁決”. 朝日新聞. (2017年10月7日). オリジナルの2022年5月13日時点におけるアーカイブ。 2022年5月13日閲覧。
- ^ “逮捕覚悟 先住権問う 「アイヌの伝統」許可申請せずサケ漁”. 東京新聞. (2019年9月17日). オリジナルの2021年1月3日時点におけるアーカイブ。 2022年6月13日閲覧。
- ^ a b “「サケ捕獲は先住権」 アイヌ民族の畠山敏さん決行”. 日本経済新聞. (2019年9月1日). オリジナルの2021年3月5日時点におけるアーカイブ。 2022年6月13日閲覧。
- ^ a b “「先住権」確認求め提訴へ 浦幌アイヌ、サケ捕獲で 4月、札幌地裁に”. 日本経済新聞. (2020年1月12日). オリジナルの2022年5月13日時点におけるアーカイブ。 2022年5月13日閲覧。
- ^ a b “アイヌ先住権訴訟「大きな転換点に」「議論深まれば」”. 朝日新聞デジタル. (2020年8月18日). オリジナルの2022年5月13日時点におけるアーカイブ。 2022年5月13日閲覧。
- ^ a b “アイヌの団体 先住権確認求め提訴 全国初”. NHK. (2020年8月17日). オリジナルの2021年3月31日時点におけるアーカイブ。 2022年5月28日閲覧。
- ^ “アイヌ先住権を考える 共産党北海道委が集い”. しんぶん赤旗. (2020年9月20日). オリジナルの2022年5月13日時点におけるアーカイブ。 2022年5月13日閲覧。
- ^ “金子快之・札幌市議「アイヌ民族、もういない」とツイート その真意は?”. ハフィントンポスト日本版. (2014年8月17日). オリジナルの2022年5月14日時点におけるアーカイブ。 2022年5月14日閲覧。
- ^ 金子快之.プロフィール|金子快之のひとりごと.2022年5月20日閲覧
- ^ a b “WEBニュース特集 反省と謝罪は別? アイヌ遺骨と大学 #アイヌ”. NHK. (2019年12月13日). オリジナルの2022年5月15日時点におけるアーカイブ。 2022年5月15日閲覧。
- ^ “本学が保管するアイヌ遺骨に関する声明について(2019年11月5日)”. 北海道大学. 2022年5月15日閲覧。
- ^ “アイヌ民族遺骨収集を謝罪 札幌医科大”. 朝日新聞デジタル. (2019年11月20日). オリジナルの2022年5月15日時点におけるアーカイブ。 2022年5月15日閲覧。
- ^ “日テレ、「スッキリ」の放送内容で謝罪「アイヌの方を傷つけた」”. 毎日新聞. (2021年3月12日). オリジナルの2022年5月17日時点におけるアーカイブ。 2022年5月17日閲覧。
- ^ “アイヌ遺骨返還進める 岸田首相”. 時事通信社. (2022年1月20日). オリジナルの2022年5月15日時点におけるアーカイブ。 2022年5月15日閲覧。
- ^ a b c “「アイヌ」を先住民族に―ロシアに初の団体”. 北海道新聞. (2008年5月28日). オリジナルの2022年2月24日時点におけるアーカイブ。 2022年5月15日閲覧。
- ^ a b c “アイヌ民族は「ロシアの先住民族」 プーチン大統領が認定方針”. 北海道新聞 (2018年12月19日). 2018年12月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年12月19日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “ウラジーミル・プーチン大統領あての要望書”. 2022年5月17日閲覧。
- ^ ウラジーミル・プーチン大統領あての要望書
- ^ a b 名越健郎. “プーチン発言「アイヌはロシアの先住民族である」は、「北海道はロシア固有の領土」と主張する前触れだ”. 2022年7月14日閲覧。
- ^ “プーチンが目論む「北海道占領」ウクライナ侵攻手詰まりで待ち受ける「悪夢の最終シナリオ」”. exciteニュース. (2022年7月3日)
- ^ Paul Goble (2011年4月10日). “Russia’s Ainu Community Makes Its Existence Known – Analysis” (英語). eurasiareview. オリジナルの2022年5月15日時点におけるアーカイブ。 2022年5月15日閲覧。