「ハウスドルフ次元」の版間の差分
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[[File:SierpinskiTriangle-ani-0-7.gif|thumb|250px|[[フラクタル図形]]の一種である[[シェルピンスキー・ガスケット]]の構成過程の様子。この過程を無限回繰り返して得られる図形のハウスドルフ次元は {{Sfrac|log 3|log 2}} = 1.5849… である。]] |
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{{複数の問題 |
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|正確性=2017年8月 |
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|出典の明記=2017年8月 |
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[[ファイル:KochFlake.svg|サムネイル|280x280ピクセル|非整数次元を持つ図形の例。左上から順に[[コッホ曲線]]の最初の4回の操作を示す。それぞれの操作において、全ての線分がもとの長さの 1/3 の4つの[[自己相似]]図形に置き換えられる。ハウスドルフ次元 ''D'' の一つの方法論として[[相似次元]](ボックスカウンティング次元)は、[[スケール因子]]の逆数 ''S'' = 3 と自己相似図形の個数 ''N'' = 4 を用い、''D'' = (log ''N'')/(log ''S'') = (log 4)/(log 3) ≈ 1.26 と計算される<ref name="CampbellAnnenberg15">{{cite web| first= MacGregor | last=Campbell |year= 2013 | title= 5.6 Scaling and the Hausdorff Dimension | work= ''Annenberg Learner:MATHematics illuminated'' | url= http://www.learner.org/courses/mathilluminated/units/5/textbook/06.php | accessdate= 5 March 2015}}</ref>。則ち、[[点 (数学)|点]]のハウスドルフ次元は0であり、[[直線]]のハウスドルフ次元は1、[[正方形]]のハウスドルフ次元は2、そして[[立方体]]のハウスドルフ次元は3である。コッホ曲線のような[[フラクタル]]図形のハウスドルフ次元は、非整数になりうる。]] |
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'''ハウスドルフ次元'''(ハウスドルフじげん、{{Lang-en-short|Hausdorff dimension|links=no}})は、[[フェリックス・ハウスドルフ]]が導入した非負[[実数]]値の[[次元 (数学)|次元]]である。[[フラクタル]]のような複雑な[[図形]]ないし[[集合]]の次元を表す道具として用いられる。[[ハウスドルフ測度]]を使って定義される次元で、ある集合のハウスドルフ次元は、その集合のハウスドルフ測度が {{Math|∞}} から {{Math|0}} へ移る不連続点から定義される。 |
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ハウスドルフの後に、{{仮リンク|アブラム・ベシコビッチ|en|Abram Besicovitch}}が研究を深めて更に明確化した。そのため、'''ハウスドルフ・ベシコビッチ次元'''(ハウスドルフ・ベシコビッチじげん、{{Lang-en-short|Hausdorff-Besicovitch dimension|links=no}})とも呼ばれる。[[フラクタル幾何学]]や[[実解析]]で重要な役割を果たし、特にフラクタル幾何学では最重要概念の一つである。一般的に与えられた集合のハウスドルフ次元を決定するのは困難であるが、[[自己相似集合]]などの一部の[[クラス (集合論)|クラス]]の集合では求め方が確立している。確定的な定義ではないが、ハウスドルフ次元が位相次元より大きな集合がフラクタルと定義づけられる。 |
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[[初等幾何学]]で用いられる通常の[[ジョルダン測度]](あるいは[[ルベーグ測度]])に関して、例えば[[正方形]]が二次元であるということは、その三次元より高次のジョルダン測度(つまり、体積および高次元体積)が {{math|0}} であり、二次元ジョルダン測度([[面積]])が正の値を持つ(さらに一次元および零次元のジョルダン測度は形式的に {{math|∞}} となる)ということを本質的に表している。{{mvar|d}}-次元実[[内積空間]] {{math|'''R'''{{sup|''d''}}}} の {{mvar|d}}-次元ジョルダン測度は、部分集合 {{mvar|S}} に対して、{{mvar|S}} の球体{{efn|これは内積の誘導するノルムに関する {{mvar|d}}-次元ノルム球体の意味だが、位相的に同値なノルムに取り換えても構わないから、立方体充填を考えても同じことである。外測度のほうも同じ}}による充填近似が定める[[内測度]]と、球体被覆による近似の定める[[外測度]]の一致するとき、その一致する値として定義されるのであった(あるいは[[ルベーグ測度]]は[[ルベーグ外測度|外測度]]のみを利用して構成される)が、(定数因子の違いを除けば){{mvar|d}}-次元ジョルダン測度は一次元ジョルダン測度(長さ)の {{mvar|d}} 個の直積と本質的に同じであり、{{mvar|d}}-次元球(あるいは立方体)の {{mvar|d}}-次元体積は本質的に半径の {{mvar|d}}-乗である。ハウスドルフ次元は、これらの事実を抽象化して、台となる空間を一般の[[距離空間]]とし、部分集合の一次元ハウスドルフ測度を距離球体被覆による近似の下限として定まる外測度、また非整数値{{efn|ここでは任意の実数値、あるいは正負の無限大を含む[[補完数直線]] {{overline|{{mathbf|ℝ}}}} に値をとるものとしてよいが、正の拡張実数値に取るのが普通である}}の {{mvar|d}} に対する {{mvar|d}}-次元距離球体のハウスドルフ測度を一次元測度の {{mvar|d}}-乗(の適当な定数倍)となるように定める。ジョルダン測度の場合と同じく、部分集合 {{mvar|S}} の {{mvar|d}}-次元ハウスドルフ測度は次元 {{mvar|d}} が大きければほとんどすべてに対して零であり、零でなくなるようなギリギリ小さい値として {{mvar|S}} のハウスドルフ次元を定めるのである。 |
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==背景== |
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ハウスドルフ次元は、[[相似次元|ボックスカウンティング次元]]({{ill2|ミンコフスキー–ブーリガン次元|en|Minkowski–Bouligand dimension}})のより単純だがふつうは同値な後継である。 |
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一般的な「[[次元]]」という言葉は、現実世界の空間が高さ・幅・奥行きの3つから成るので3次元と呼ぶ考え方に立脚している{{Sfn|山口|1986|p=183}}。この考え方の延長上で、平面は縦・横から成るので2次元で、直線や線分は1次元であるという風に考えられてきた{{Sfn|山口|1986|p=183}}。数学の世界でも、19世紀終わり近くまで、点が 0 次元、直線が 1 次元、平面が 2 次元、…という素朴な次元の概念しか存在しなかった{{Sfn|石村・石村|1990|p=68}}。しかし、19世紀後半に、[[ゲオルク・カントール]]が平面上の点と直線上の点が[[1対1対応]]を持つことを、[[ジュゼッペ・ペアノ]]が単位区間から正方形の上への[[連続写像]]を構成できることを発見し、数学界で次元の概念の再考が迫られた{{Sfnm|マンデルブロ |2011|1pp=368–367|石村・石村|1990|2p=68}}<ref>{{Cite book ja-jp |editor = 瀬山 士郎 |title = なっとくする集合・位相 |url = https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000148750 |publisher = サイエンス社 |year = 2001 |isbn = 978-4-06-154534-2 |pages = 115–117}}</ref>。その後、[[位相的性質|位相不変]]で整数値を取る[[位相次元]](正確には[[ルベーグ被覆次元|被覆次元]]、[[帰納次元|大きな帰納的次元]]、[[帰納次元|小さな帰納的次元]]がある{{Sfn|石村・石村|1990|p=92}})が、次元の精密な定義として導入された{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=3|山口|1986|2p=183}}。 |
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[[File:Hausdorff 1913-1921.jpg|thumb|x230px|[[フェリックス・ハウスドルフ]]]] |
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== 直観 == |
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一方、「長さ」「面積」「体積」といった直感的概念についても一般の集合に拡張させる動きが、19世紀末から20世紀初頭にかけて[[エミール・ボレル]]や[[アンリ・ルベーグ]]によって進められた{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=3|ファルコナー|1989|2p=iv}}。1914年、[[コンスタンティン・カラテオドリ]]は {{Mvar|n}} 次元[[ユークリッド空間]]内の {{Mvar|s}} 次元測度を定義した{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=3}}。カラテオドリの定義では {{Mvar|s}} は整数値であった<ref>{{Cite journal | author = A. S. Besicovitch | year = 1950 | title = Parametric Surfaces | journal = Bulletin of the American Mathematical Society | volume = 56 | page = 288 | publisher = American Mathematical Society | issn = 1088-9485 | doi = 10.1090/S0002-9904-1950-09402-6 | url = https://www.ams.org/journals/bull/1950-56-04/S0002-9904-1950-09402-6/S0002-9904-1950-09402-6.pdf }}</ref>。1919年、カラテオドリの仕事を引き継いだ[[フェリックス・ハウスドルフ]]は、カラテオドリの定義は非整数の {{Mvar|s}} に対しても意味があることを指摘し、後に'''ハウスドルフ次元'''({{Lang-en-short|Hausdorff dimension|links=no}})と呼ばれる非整数次元を導入した{{Sfnm|ファルコナー|1989|1p=iv|山口・畑・木上|1993|2p=3}}。ハウスドルフは、[[カントールの3進集合]]のハウスドルフ次元が {{Math|{{Sfrac|log 2|log 3}} {{=}} 0.6309…}} であることを実際に示してみせた{{Sfn|ファルコナー|1989|p=iv}}。 |
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{{refimprove section|date=March 2015}} |
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幾何学的対象 {{mvar|X}} の次元の直観的概念は、その対象内の点を一意に指定するために必要な独立なパラメタの数というものである。しかし、二つのパラメタによって特定される任意の点は、代わりに一つのパラメタによって特定することができる。それは実平面の[[濃度 (数学)|濃度]]が[[実数直線]]の濃度に等しいという事実(このことは、二つの数の小数展開を織り交ぜて情報量を落とすことなく一つの数を与える[[カントールの対角線論法|論法]]により示せる)による。[[空間充填曲線]]の例が、一つの実数を二つの実数の対に全射(すなわち、任意の対を対象として)かつ連続的に対応付けられることを示すから、一次元の対象は完全により高次の対象を埋め尽くす。 |
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ハウスドルフの後に、ハウスドルフ次元および[[ハウスドルフ測度]]の概念を明確化を担ったのは{{仮リンク|アブラム・ベシコビッチ|en|Abram Besicovitch}}である<ref name="EoM">{{Cite web |url= https://encyclopediaofmath.org/wiki/Hausdorff_dimension |title= Hausdorff dimension |work = Encyclopedia of Mathematics |publisher = EMS Press |accessdate=2023-09-26}}</ref>。そのため、彼の名も取ってハウスドルフ次元は'''ハウスドルフ・ベシコビッチ次元'''({{Lang-en-short|Hausdorff-Besicovitch dimension|links=no}})とも呼ばれる<ref name="EoM"/>。ハウスドルフ測度とそれを使った幾何学の数学的成果の多くはベシコビッチによって与えられた{{Sfn|ファルコナー|1989|p=v}}。[[ブノワ・マンデルブロ]]は「ハウスドルフが標準的でない次元の父であったのに対し、ベシコビッチは、その母であった」と評している{{Sfn|マンデルブロ |2011|p=266}}。 |
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任意の空間充填曲線はいくつかの点を複数回通過するから、連続な逆写像を持たない。すなわち、二次元の上に連続かつ連続的可逆に写すことは不可能である。位相次元とも呼ばれる[[ルベーグ被覆次元]]はその理由を説明する。この次元が {{mvar|n}} であるとは、小さな開球体による {{mvar|X}} のどのような被覆においても、少なくとも一点は {{math|''n'' + 1}} 個の球体が重なるものが存在するときに言う。例えば、線分を小開区間によって被覆するとき、いくつかの点は二つの区間に属さなければならないから、次元 {{math|1=''n'' = 1}} が与えられる。 |
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そのマンデルブロは、自然の海岸線や樹木の形の数学的理想化として、カントールの3進集合や[[コッホ曲線]]や[[ワイエルシュトラス関数]]などの以前より報告されていた特異な数学的[[集合]]の総称として、[[フラクタル]]という概念と名称を与えた{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=1|山口|1986|2p=149}}。マンデルブロは、1977年のエッセイ「Fractals: Form, Chance and Dimension」で、ハウスドルフ次元が位相次元よりも大きい集合をフラクタルの数学的な定義とした{{Sfn|マンデルブロ |2011|p=258}}。1982年の著書「The Fractal Geometry of Nature」でフラクタルの概念は一躍有名となり、フラクタルは各分野で研究され始めた{{Sfn|石村・石村|1990|p=i}}。次元は[[フラクタル幾何学]]の中心的概念であり、その中でも最重要なのがハウスドルフ次元である{{Sfn|Falconer|2006|p=34}}。ハウスドルフ測度およびハウスドルフ次元はフラクタル幾何学や[[実解析]]で重要な役割を果たす{{Sfn|新井|2023|p=198}}。 |
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しかし位相次元は空間の局所的な大きさ(点の近くでの大きさ)に関する非常に粗い測度である。概空間充填曲線は、それが領域の面積をほとんど埋め尽くす場合でさえ、やはりその位相次元は {{math|1}} である。[[フラクタル]]は整数の位相次元を持つが、それが取り上げる空間の量の意味では、高次元空間のような振る舞いをする。 |
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==定義== |
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ハウスドルフ次元は、二点間の距離を勘定に入れた空間([[距離空間]])の局所的大きさの測度である。{{mvar|X}} を完全に被覆するために必要な、半径高々 {{mvar|r}} の[[球体]]の数 {{math|''N''(''r'')}} を考えるとき、{{mvar|r}} が非常に小さければ {{math|''N''(''r'')}} は {{math|1/''r''}} を変数とする多項式的に増加する。十分素性の良い {{mvar|X}} に対して、そのハウスドルフ次元 {{mvar|d}} とは {{mvar|r}} を零に近づけるとき {{math|''N''(''r'')}} が {{math|1/''r{{sup|d}}''}} と同程度に増大するものとして一意に定まる数を言う。より精確に言えば、これにより{{ill2|ミンコフスキー–ブーリガン次元|en|Minkowski–Bouligand dimension|label=ボックスカウンティング次元}}が定義され、その値 {{mvar|d}} が空間の被覆に不十分な増大率と過剰な増大率の間の臨界境界値であるときには、ハウスドルフ次元に一致する。 |
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===ハウスドルフ測度=== |
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[[File:Diameter of a set in metric space.svg|thumb|250px|部分集合 ''X'' の[[直径]] {{Abs|''X''}} ]] |
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次元を定義したい図形として、{{Mvar|n}}-次元[[ユークリッド空間]] {{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} 上の[[空集合|空]]ではない[[部分集合]] {{Mvar|X}} を考える{{Sfnm|Falconer|2006|1p=34|山口・畑・木上|1993|2p=6}}。ユークリッド空間に限定せずに、一般の[[距離空間]]でもよい{{Sfn|マンデルブロ |2011|p=263}}。{{Mvar|X}} 上の 2 点 {{Math|''x'', ''y''}} の[[ユークリッド距離]]を {{Math|''d''(''x'', ''y'')}} で表す。集合 {{Mvar|X}} の[[直径]]を次で定義する。 |
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従来の幾何学および科学で扱われたような滑らかな図形あるいは少ない数の頂点を持つ図形に対して、ハウスドルフ次元は位相次元と一致する整数値となるが、[[ブノア・マンデルブロ]]は[[フラクタル]](非整数ハウスドルフ次元を持つ集合)が自然界の至る所に見つかることを観測した。マンデルブロは身の回りにあるほとんどの乱雑な形状の真正な理想化は滑らかな理想化図形ではなくて、フラクタルな理想化図形によって述べられるということに気付いたのである: |
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:<math> \left \vert X \right \vert = \sup \{ d(x, y) \ | \ x,y \isin X \}</math> |
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{{Cquote|雲は球形でなく、山は円錐形でなく、海岸線は円形でなく、樹皮は滑らかでなく、雷光は直線上には進まない|4=ブノア・マンデルブロ<ref name="mandelbrot">{{cite book | last= Mandelbrot | first= Benoît | authorlink= Benoît Mandelbrot | title= The Fractal Geometry of Nature | publisher= W. H. Freeman | series= Lecture notes in mathematics | volume= 1358 | year= 1982 | isbn= 0-7167-1186-9}}</ref>}} |
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ここで {{Math|sup}} は[[順序集合|上限]]を意味し、{{Math|''d''(''x'', ''y'')}} は {{Mvar|x}} と {{Mvar|y}} の[[ユークリッド距離]]である{{Sfnm|Falconer|2006|1pp=3, 34|石村・石村|1990|2pp=78, 104–105}}。単純に言えば、直径とは集合 {{Mvar|X}} の中のもっとも離れた2点間の距離を意味している{{Sfn|石村・石村|1990|p=106}}。 |
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自然界に生じるフラクタルに対して、ハウスドルフ次元とボックスカウンティング次元は一致する。{{ill2|充填次元|en|packing dimension}} はさらにもう一つの多くの図形に対して同じ値を与える同様の概念であるが、これら三種の次元がすべて異なるよく成文化された例外が存在する。 |
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[[File:Delta-covering for Hausdorff measure.svg|thumb|250px|部分集合 ''X'' に対する ''δ'' [[被覆 (位相空間論)|被覆]]の例]] |
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== 定義 == |
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{{refimprove section|date=March 2015}} |
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=== ハウスドルフ容積 === |
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{{mvar|X}} を距離空間とする。{{math|''S'' ⊂ ''X''}} および {{math|''d'' ∈ {{closed-open|0, ∞}}}} に対して、{{mvar|S}} の {{mvar|d}}-次元ハウスドルフ容積{{efn|容積 (content) は一般的には「弱い意味の測度」として[[有限加法的測度]]の意味で用いるが、ここではおそらく[[外測度]]の意味である。}}は、半径 {{math|''r{{sub|i}}'' > 0}} の[[球体]] {{math|''B''(''x{{sub|i}}'', ''r{{sub|i}}'')}} からなる(高々可算な)列による {{mvar|S}} の被覆がとれるときの、半径の {{mvar|d}}-乗和 {{math|{{sum|i}} {{subsup|r|''i''|''d''}}}} の{{ill2|上限と下限|label=下限|en|Infimum and supremum}}: |
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<math display="block"> |
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C_\text{Haus}^d(S) := \inf\Big\{ \sum_{i\in\N} r_i^d : \exists I\subseteq\N, \exists (x_i)_{i\in I},\exists(r_i)_{i\in I}\text{ s.t. }S\sub \bigcup_{i\in I} B(x_i,r_i)\Bigr\} |
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</math> |
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と定義される<ref>[[#CITEREF_EOM_Hausdorff_measure|Hausdorff measure]] at Encyclopedia of Mathematics</ref>。言い換えれば、<math>\sum_{i\in I}r_{i}^{d}<\delta</math> を満たす半径 {{math|''r{{sub|i}}'' > 0}} を持つ球によって {{mvar|S}} を被覆するときの、{{mvar|δ}} の下限である(ただし、標準的な規約 ({{math|1=inf ∅ = +∞}}) に則り、そのような {{mvar|δ}} が存在しない場合のハウスドルフ容積は無限大とする)。 |
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ある {{Mvar|X}} が与えられたとき、それに対する[[可算集合|可算個]]の集合族 {{Math|{{Mset|''U<sub>i</sub>''}}}} による[[被覆 (位相空間論)|被覆]]を考える。ただし、{{Math|{{Mset|''U<sub>i</sub>''}}}} それぞれの直径は、ある正の実数 {{Mvar|δ}} 以下とする。このような {{Math|{{Mset|''U<sub>i</sub>''}}}} を '''{{Mvar|δ}} 被覆'''と呼ぶ。すなわち、 |
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=== ハウスドルフ次元 === |
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{{mvar|X}} の'''ハウスドルフ次元'''は、ハウスドルフ容積が {{math|0}} となるような {{mvar|d}} の下限: <math display="block">\operatorname{\dim_\text{Haus}}(X):=\inf\{d\ge 0: C_H^d(X)=0\}</math> と定義される{{efn|十分大きな {{mvar|d}} に対して常にその容積 {{math|{{subsup|C|Haus|''d''}}(''X'')}} は {{math|0}} となることに注意せよ}}。同じことだが、{{math|dim{{sub|Haus}}(''X'')}} を {{mvar|X}} の {{mvar|d}}-次元{{ill2|ハウスドルフ測度|en|Hausdorff measure}}{{efn|ハウスドルフ容積が球体被覆の半径の和で測るのに対し、ハウスドルフ測度は任意の被覆の差し渡し(径)の和で測る}}が {{math|0}} となるような {{math|''d'' ∈ {{closed-open|0, ∞}}}} の下限としても定義できる。これは、{{mvar|X}} の {{mvar|d}}-次元ハウスドルフ測度が無限大となるような {{math|''d'' ∈ {{closed-open|0, ∞}}}} の上限に等しい(ただし、そのような {{mvar|d}} が存在しないときハウスドルフ次元は {{math|0}} とする({{math|1=sup ∅ = 0}}))。 |
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:<math> X \subset \bigcup_{i=1}^\infty U_i </math> かつ <math> \left \vert U_i \right \vert \le \delta </math> |
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== 例 == |
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{{unreferenced section|date=March 2015}} |
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<!--{{Essay-like|section|date=March 2015}}-->{{正確性|see [[:en:Talk:Hausdorff dimension]]|date=March 2015}} |
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<!--{{Prose|section|date=May 2016}}-->{{雑多な内容の箇条書き|section=1|date=May 2016}} |
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[[ファイル:Sierpinski_deep.svg|サムネイル|250x250ピクセル|[[シェルピンスキーの三角形|シェルピンスキーのギャスケット]]のハウスドルフ次元は log(3)/log(2) ≈ 1.58 である。]] |
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* [[可算集合]]のハウスドルフ次元は 0{{citation needed|date=March 2015}} |
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* [[ユークリッド空間]] '''R'''<sup>''n''</sup> のハウスドルフ次元は ''n''、円 '''S'''<sup>1</sup> のハウスドルフ次元は1{{citation needed|date=March 2015}} |
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* フラクタル図形はルベーグ被覆次元を超える。例えば、[[カントール集合]]のルベーグ被覆次元は 0 であるが、ハウスドルフ次元は log(2)/log(3) ≈ 0.63{{sfn|Falconer|2003}}{{page needed|date=2017年8月}} |
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* シェルピンスキーのギャスケットのハウスドルフ次元は log(3)/log(2) ≈ 1.58 |
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* [[ペアノ曲線]]のような空間充填曲線やシェルピンスキー曲線は充填される空間と同じハウスドルフ次元を持つ{{citation needed|date=March 2015}} |
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* 2次元以上の空間における[[ブラウン運動]]のハウスドルフ次元は{{ill2|ほとんど確実|en|almost surely}}に(つまり確率 1 で)2 である<ref>{{cite book|last=Morters|first=Peres|title=Brownian Motion|year=2010|publisher=[[Cambridge University Press]]}}</ref> |
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[[ファイル:Great_Britain_Hausdorff.svg|サムネイル|250x250ピクセル|[[グレートブリテン島]]の海岸線のハウスドルフ次元の推定]] |
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* ブノワ・マンデルブロの ''{{ill2|How Long Is the Coast of Britain? Statistical Self-Similarity and Fractional Dimension|en|How Long Is the Coast of Britain? Statistical Self-Similarity and Fractional Dimension}}'' と題された初期の論文およびその後の他の研究者による研究では、海岸線のハウスドルフ次元は推測できると主張されている{{full|date=March 2015}}。その結果は南アフリカの海岸線の 1.02 から、グレートブリテン島の西海岸の 1.25 まで変化する{{citation needed|date=March 2015}}。しかし、海岸線および他の多くの自然現象の「フラクタル次元」は、大いにヒューリスティックであり、厳密にはハウスドルフ次元と見なすことはできない{{citation needed|date=March 2015}}。それらの結果は目盛りの大きい範囲における海岸線のスケーリング性に基づくものであるが、それらは(測定が原子および亜原子構造に依存するような)任意に小さい目盛りがまったく含まれないから、次元は上手く定義されない{{dubious|date=March 2015}}。 |
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である。{{Math|{{Mset|''U<sub>i</sub>''}}}} は有限個でもよい{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=6}}。 |
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== ハウスドルフ次元の性質 == |
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{{refimprove section|date=March 2015}} |
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=== ハウスドルフ次元と帰納次元 === |
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{{mvar|X}} を任意の[[可分空間|可分]]距離空間とする。位相的な概念として {{mvar|X}} に対する[[帰納次元]] {{math|dim{{sub|ind}}(''X'')}} が再帰的に定義され、常に整数値(または {{math|+∞}})をとる。 |
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さらに、各々の {{Math|''U<sub>i</sub>''}} の直径を正の実数 {{Mvar|s}} で[[冪乗]]したものの[[総和]] {{Math|{{sum|''i'' {{=}} 1|∞}}{{abs|''U<sub>i</sub>''}}<sup>''s''</sup>}} を取る。そして、{{Mvar|δ}} と {{Mvar|s}} の値を固定し、{{Mvar|X}} に対して可能なあらゆる {{Mvar|δ}} 被覆 {{Math|{{Mset|''U<sub>i</sub>''}}}} を考えた場合の {{Math|{{sum|''i'' {{=}} 1|∞}}{{abs|''U<sub>i</sub>''}}<sup>''s''</sup>}} の[[下限]]を取る。これを |
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; 定理: {{mvar|X}} が[[空集合|空]]でないならば <math display="block">\operatorname{\dim_{\text{Haus}}}(X) \geq \operatorname{\dim_\text{ind}}(X)</math> が成り立つ。さらに言えば、{{mvar|Y}} が {{mvar|X}} と[[同相]]な距離空間を走るとき <math display="block">\inf_Y \dim_{\text{Haus}}(Y) =\dim_{\text{ind}}(X)</math> が成り立つ。ここで {{mvar|X}} と {{mvar|Y}} が同相というのは、{{mvar|X}} と {{mvar|Y}} の台集合は同じであり、{{mvar|Y}} の距離 {{mvar|d{{sub|Y}}}} は {{mvar|d{{sub|X}}}} と位相的に同値であることを意味する。 |
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:<math> H^{s}_{\delta} (X) = \inf \sum_{i=1}^\infty \left \vert U_i \right \vert ^s </math> |
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この結果は、もともとはエドワード・マルチェフスキ (1907–1976) が確立したものである{{sfn|Hurewicz|Wallman|1948|loc=Chapter VII}}。 |
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と定義する{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=6}}。 |
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=== ハウスドルフ次元とミンコフスキー次元 === |
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{{ill2|ミンコフスキー次元|en|Minkowski–Bouligand dimension}}(ボックスカウント次元)は(少なくとも大きさについては)ハウスドルフ次元と似ており、多くの場合に同じ値を持つ。しかし、{{closed-closed|0, 1}} に属する有理数全体の成す集合のハウスドルフ次元が {{math|0}} になるのに対し、ミンコフスキー次元は {{math|1}} である。ミンコフスキー次元がハウスドルフ次元より真に大きいコンパクト集合さえも存在する。 |
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被覆を抑える2つの直径 {{Mvar|δ}} が {{Math|''δ''<sub>2</sub> < ''δ''<sub>1</sub>}} という大小関係にあるとする。このとき、直径を {{Mvar|δ<sub>1</sub>}} 以下とする被覆は、直径を {{Mvar|δ<sub>2</sub>}} 以下とする被覆を含んでいる。よって、{{Mvar|H {{sup sub|s|δ<sub>1</sub>}}}} の値は、{{Mvar|H {{sup sub|s|δ<sub>2</sub>}}}} よりも小さいか等しいかのいずれかとなる。結局、 |
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=== ハウスドルフ次元とフロストマン測度 === |
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距離空間 {{mvar|X}} の[[ボレル集合族]]上定義された[[ボレル測度]] {{mvar|μ}} が存在して、全測度が {{math|0 < ''μ''(''X'')}} かつ {{math|''μ''(''B''(''x'', ''r'')) ≤ ''r{{sup|s}}''}} が適当な定数 {{math|''s'' > 0}} および {{mvar|X}} 内の任意の球体 {{math|''B''(''x'', ''r'')}} に対して成り立つならば、{{math|dim{{sub|Haus}}(''X'') ≥ ''s''}} である。[[フロストマンの補題]]{{efn|この補題により、ハウスドルフ次元の[[フロストマンの補題#ハウスドルフ次元の特徴付け|内測度を用いた定義]]が可能となる。}}によって、部分的な逆が得られる(詳細は当該の項目を参照)。 |
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:<math> \delta_2 < \delta_1</math> ならば <math> H^{s}_{\delta_2} (X) \le H^{s}_{\delta_1} (X) </math> |
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=== 合併および直積に対する振る舞い === |
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有限または可算合併 <math display="inline">X=\bigcup_{i\in I}X_i</math> に対し、<math display="block"> \operatorname{\dim_\text{Haus}}(X) =\sup_{i\in I} \operatorname{\dim_\text{Haus}}(X_i)</math> が成立することは定義から直接に確かめられる。 |
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であるから、{{Mvar|H {{sup sub|s|δ}}}} は {{Mvar|δ}} の減少とともに[[単調増加]]する{{Sfn|石村・石村|1990|pp=114, 116}}。したがって、 |
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{{mvar|X}} および {{mvar|Y}} が空でない距離空間ならば、それらの直積のハウスドルフ次元は <math display="block"> \operatorname{\dim_text{Haus}}(X\times Y)\ge \operatorname{\dim_\text{Haus}}(X)+ \operatorname{\dim_\text{Haus}}(Y)</math> を満たす{{sfn|Marstrand|1954}}{{page needed|date=2017年8月}}。ここで等号が成り立たない場合も起こり得る。実際、次元 {{math|0}} の二つの集合で、それらの直積の次元が {{math|1}} であるものが存在する{{sfn|Falconer|2003}}{{page needed|date=2017年8月}}。逆向きの不等号を持つような次元の不等式として、{{mvar|X, Y}} を {{math|'''R'''{{sup|''n''}}}} の[[ボレル集合]]とすれば、直積 {{math|''X'' × ''Y''}} のハウスドルフ次元は {{mvar|X}} のハウスドルフ次元と {{mvar|Y}} の上パッキング次元の和で上から抑えられることが知られている。これらについて、{{harvtxt|Mattila|1995}}に議論がある。 |
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:<math> H^{s} (X) = \lim_{\delta \to 0} \inf \sum_{i=1}^\infty \left \vert U_i \right \vert ^s </math> |
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=== ハウスドルフ次元定理 === |
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; 定理: 任意に与えられた {{math|''r'' > 0}} に対し、{{math|''n'' ≥ [[天井関数|⌈''r''⌉]]}} なる任意の {{mvar|n}} に対するユークリッド空間 {{math|'''R'''{{sup|''n''}}}} において、ハウスドルフ次元 {{mvar|r}} を持つフラクタルは非可算個存在する<ref>{{citation|first=Mohsen |last= Soltanifar |year= 2006 | title= On A sequence of cantor Fractals | journal= Rose Hulman Undergraduate Mathematics Journal | volume= 7 | issue= 1 paper 9}} </ref>。 |
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という[[極限値]]が、 {{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'') {{=}} ∞}} の場合まで含めると常に存在する{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=7}}。この {{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'')}} は[[外測度]]の条件を満たし、'''{{Mvar|s}} 次元ハウスドルフ外測度'''や'''ハウスドルフ {{Mvar|s}} 次元外測度'''と呼ばれる{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=7|新井|2023|2p=243|ファルコナー|1989|3p=8}}。さらに、[[可測集合]](または [[完全加法族|{{Mvar|σ}}-集合体]])に[[制限 (数学)|制限]]した {{Mvar|H <sup>s</sup>}} は '''[[ハウスドルフ測度|{{Mvar|s}} 次元ハウスドルフ測度]]'''や'''ハウスドルフ {{Mvar|s}} 次元測度'''と呼ばれる{{Sfnm|ファルコナー|1989|1p=9|新井|2023|2p=245|Falconer|2006|3pp=14–15, 35}}。 |
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== 自己相似集合 == |
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自己相似性条件によって定義された多くの集合は明示的に決定できる次元を持つ。大まかには、集合 {{mvar|E}} が自己相似であるとは、それが適当な[[集合値函数|集合値変換]] {{mvar|ψ}} の[[不動点]]、すなわち {{math|1=''ψ''(''E'') = ''E''}} となるときに言う。正確な定義は以下に与える: |
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===ハウスドルフ次元=== |
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; 定理: {{math|'''R'''{{sup|''n''}}}} 上の写像の列 <math display="block"> |
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上記のように定義された {{Mvar|s}} 次元ハウスドルフ外測度 {{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'')}} を、{{Mvar|X}} を固定して {{Mvar|s}} の関数として見る。{{Math|''s'' < ''t''}} を満たす任意の {{Mvar|s}} と {{Mvar|t}} について、{{Mvar|δ}} 被覆は、 |
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\psi_i\colon \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}^n, \quad(i=1, \dotsc , m) |
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</math> が縮小定数 {{math|''r{{sub|i}}'' < 1}} を持つ[[縮小写像]]ならば、空でないコンパクト集合 {{mvar|A}} が一意に存在して <math display="block"> A = \bigcup_{i=1}^m \psi_i (A)</math> が成り立つ。 |
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:<math> \sum_{i=1}^\infty \left \vert U_i \right \vert ^t = \sum_{i=1}^\infty \left \vert U_i \right \vert ^{t-s} \left \vert U_i \right \vert ^s \le \delta^{t-s} \left \vert U_i \right \vert ^s</math> |
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定理は[[バナッハの不動点定理]]を {{math|'''R'''{{sup|''n''}}}} の空でないコンパクト部分集合全体が[[ハウスドルフ距離]]に関してなす完備距離空間に適用することで得られる<ref>{{cite book |author=Falconer, K. J. |title=The Geometry of Fractal Sets |publisher=Cambridge University Press |location=Cambridge, UK |year=1985 |isbn=0-521-25694-1}}</ref>{{rp|at=Theorem 8.3}}。 |
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を満たすので、 |
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=== 開集合条件 === |
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(特定の場合の)自己相似集合 {{mvar|A}} の次元を決定するためには、縮小写像列 {{mvar|ψ{{sub|i}}}} に関する「開集合条件」と呼ばれる技術的な条件を必要とする。 |
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; 条件 (開集合条件) |
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: 相対コンパクト開集合 {{mvar|V}} が存在して <math display="block">\bigcup_{i=1}^m\psi_i(V) \subseteq V</math> が成り立つ。ただし、左辺の和に現れる集合族はどの二つも[[素集合|互いに交わらない]]ものとする。 |
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:<math> H^{t}_{\delta} (X) \le \delta^{t-s} H^{s}_{\delta} (X) </math> |
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開集合条件は、像 {{math|''ψ{{sub|i}}''(''V'')}} たちが「重なり過ぎない」ことを保証する分離条件になっている。 |
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という関係が成り立つ{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=7|ファルコナー|1989|2p=9}}。よって、{{Math|''δ'' → 0}} である {{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'')}} は {{Mvar|s}} の[[単調減少関数]]である{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=7|ファルコナー|1989|2p=9}}。 |
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; 定理: 開集合条件が満足され、各 {{mvar|ψ{{sub|i}}}} が相似変換、すなわち[[等長変換]]と適当な点を中心とする{{ill2|拡大変換|en|dilation (metric space)}}の合成であるとき、{{mvar|ψ}} の唯一の不動点はハウスドルフ次元 {{mvar|s}} を持つ集合である、ただし {{mvar|s}} は <math display="block">\sum_{i=1}^m r_i^s = 1</math> の唯一の解である{{sfn|Hutchinson|1981|pp=736-737}}。相似変換の縮小係数はこの拡大変換の大きさに一致する。 |
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[[File:Graph of Hausdorff measure vs its exponent.svg|thumb|250px|''s'' の関数としての見たときの ''H <sup>s</sup>''(''X'') のグラフ]] |
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この定理を用いてシェルピンスキーの三角形([[シェルピンスキーのガスケット]])のハウスドルフ次元を計算することができる。平面 {{math|'''R'''{{sup|2}}}} 上の[[共線|同一直線上にない三点]] {{math|''a''{{sub|1}}, ''a''{{sub|2}}, ''a''{{sub|3}}}} を考え、{{mvar|ψ{{sub|i}}}} を {{mvar|a{{sub|i}}}} を中心とする拡大比 {{math|1/2}} の拡大変換とする。この写像 {{mvar|ψ}} に対応する空でない唯一の不動点がシェルピンスキーのガスケットであり、次元 {{mvar|s}} は <math display="inline">(\tfrac{1}{2})^s+(\tfrac{1}{2})^s+(\tfrac{1}{2})^s = 3(\frac{1}{2})^s =1</math> の一意な解である。両辺の[[自然対数]]を取れば {{mvar|s}} について解くことができて、{{math|1=''s'' = ln(3)/ln(2)}} を得る。シェルピンスキーのガスケットは自己相似かつ開集合条件を満たすことに注意。一般に、写像 <math display="inline"> A \mapsto \psi(A) = \bigcup_{i=1}^m \psi_i(A) </math> の不動点となる集合 {{mvar|E}} が自己相似となるための必要十分条件は、どの二つの交わりに関しても <math display="block"> H^s(\psi_i(E) \cap \psi_j(E)) =0</math> が成り立つことである。ただし {{mvar|s}} は {{mvar|E}} のハウスドルフ次元で、{{mvar|H{{sup|s}}}} は {{mvar|s}}-次元[[ハウスドルフ測度]]とする。これはシェルピンスキーのガスケットの場合には明らか(交わりはちょうど点になるから)であるが、より一般に次も成り立つ: |
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さらに、上の関係により、{{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'') < ∞}} であるならば {{Math|''H <sup>t</sup>''(''X'') {{=}} 0}} である。また、{{Math|''H <sup>t</sup>''(''X'') > 0}} であるならば、{{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'') {{=}} ∞}} である{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1pp=7–8|新井|2023|2pp=248–249|本田|2002|3p=36}}。したがって、{{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'')}} を {{Mvar|s}} の関数として見たとき、{{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'')}} は高々 1 つの[[不連続性の分類|第一種不連続点]] {{Mvar|s}} を持つ{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1pp=7–8|本田|2002|2p=36}}。この不連続点を {{Mvar|D}} と表すと、 |
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; 定理: 前の定理と同じ条件のもとで、{{mvar|ψ}} の唯一の不動点は自己相似である。 |
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:<math>\begin{align} |
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== 脚注 == |
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D & = \inf \{ s \isin [0,\ \infty) | H^{s}(X) = 0 \} \\ |
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=== 注釈 === |
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& = \sup \{ s \isin [0,\ \infty) | H^{s}(X) = \infty \} |
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{{notelist}} |
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\end{align}</math> |
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=== 出典 === |
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{{reflist|30em}} |
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を満たす {{Math|''D'' ≥ 0}} が唯一定まる{{Sfn|石村・石村|1990|p=116}}。'''ハウスドルフ次元'''または'''ハウスドルフ・ベシコビッチ次元'''とは不連続点 {{Mvar|D}} の値のことで、これを {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''X'')}} や {{Math|dim<sub>''H''</sub> ''X''}} などと表して |
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== 参考文献 == |
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* {{Cite book | last= Falconer | first= Kenneth | title= Fractal Geometry: Mathematical Foundations and Applications | edition= 2nd | year= 2003 | publisher= [[John Wiley & Sons]] |location= Hoboken, New Jersey | ref= harv}} |
|||
* {{Cite book | first1= Witold | last1= Hurewicz | author1-link= Witold Hurewicz | first2= Henry | last2= Wallman | author2-link = Henry Wallman | title= Dimension Theory | year= 1948 | publisher= Princeton University Press | ref= harv}} |
|||
* {{Cite journal | last= Hutchinson | first= John E. | year= 1981 | title= Fractals and self similarity | journal= Indiana Univ. Math. J. | volume= 30 | issue= 5 | pages= 713–747 | doi= 10.1512/iumj.1981.30.30055 | ref= harv}} |
|||
* {{Cite journal | last= Marstrand | first= J. M. | year= 1954 | title= The dimension of cartesian product sets | journal= Proc. Cambridge Philos. Soc. | volume= 50 | issue= 3 | pages= 198–202 | bibcode= 1954PCPS...50..198M | doi= 10.1017/S0305004100029236 | ref= harv}} |
|||
* {{Cite book | last1= Mattila | first1= Pertti | author1-link= Pertti Mattila | title= Geometry of sets and measures in Euclidean spaces | year= 1995 | publisher= [[Cambridge University Press]] | isbn=978-0-521-65595-8 | ref= harv}} |
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:<math> \dim_{H}(X) = \inf \{ s \isin [0,\ \infty) | H^{s}(X) = 0 \} </math> |
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== 関連文献 == |
|||
* {{Cite journal|first=A. S. |last=Besicovitch|author-link=A. S. Besicovitch|year=1929|title=On Linear Sets of Points of Fractional Dimensions|journal=[[Mathematische Annalen]]|volume=101|issue=1|pages=161–193|doi=10.1007/BF01454831}} |
|||
* {{Cite journal|first=A. S. |last= Besicovitch|year=1937|title=Sets of Fractional Dimensions|journal=Journal of the London Mathematical Society|volume=12|issue=1|pages=18–25|doi=10.1112/jlms/s1-12.45.18}}: Several selections from this volume are reprinted in {{Cite book|last=Edgar, Gerald A.|author=Edgar, Gerald A.|title=Classics on fractals|year=1993|publisher=Addison-Wesley|ISBN=0-201-58701-7|location=Boston}} See chapters 9,10,11. |
|||
* {{Cite journal|last=Dodson|first=M. Maurice|date=June 12, 2003|title=Hausdorff Dimension and Diophantine Approximation|journal=Fractal geometry and applications: a jubilee of Benoît Mandelbrot. Part, --347 | series= Proc. Sympos. Pure Math. 72 |publisher= Amer. Math. Soc. |location= Providence, RI|volume=1|issue=305|arxiv=math/0305399|bibcode=2003math......5399D}} |
|||
* {{Cite journal|first=F. |last= Hausdorff|author-link=F. Hausdorff|date=March 1919|title=Dimension und äußeres Maß|journal=Mathematische Annalen|volume=79|issue=1–2|pages=157–179|doi=10.1007/BF01457179}} |
|||
* {{Cite journal|last=Szpilrajn|first=E. |author-link=Edward Marczewski|year=1937|title=La dimension et la mesure|journal=Fundamenta Mathematicae|volume=28|pages=81–9}} |
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あるいは、 |
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== 関連項目 == |
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* {{ill2|ハウスドルフ次元別フラクタルの一覧|en|List of fractals by Hausdorff dimension}}: 決定論的フラクタル、確率フラクタル、自然フラクタル… |
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* {{ill2|アスワド次元|en|Assouad dimension}}: ハウスドルフ次元同様に(球体被覆を用いて)定義されたフラクタル次元 |
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* {{ill2|内在次元|en|Intrinsic dimension}} |
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* {{ill2|パッキング次元|en|Packing dimension}}: ハウスドルフ次元と双対的に、球体充填の定める内測度から定義されたフラクタル次元 |
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* [[フラクタル次元]] |
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:<math> \dim_{H}(X) = \sup \{ s \isin [0,\ \infty) | H^{s}(X) = \infty \} </math> |
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== 外部リンク == |
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* {{MathWorld|urlname=HausdorffDimension|title=Hausdorff Dimension}} |
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* {{nlab|urlname=Hausdorff+dimension|title=Hausdorff dimension}} |
|||
* {{PlanetMath|urlname=HausdorffDimension|title=Hausdorff dimension}} |
|||
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Dimension_(Topology)<!--/Hausdorff_Dimension-->|title=Definition:Dimension (Topology)<!--/Hausdorff Dimension-->}} |
|||
* {{SpringerEOM|urlname=Hausdorff_dimension|title=Hausdorff dimension|author=Koshevnikova,I.G.}} |
|||
* {{wikicite|reference={{SpringerEOM|urlname=Hausdorff_measure|title=Hausdorff measure|author=Minlos, R.A.}}|ref= CITEREF_EOM_Hausdorff_measure}} |
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で定義される{{Sfnm|Falconer|2006|1p=39|本田|2002|2p=36}}。 |
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{{DEFAULTSORT:はうすとるふしけん}} |
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[[Category:次元論]] |
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===直感的説明=== |
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ハウスドルフ次元の意味を直感的に説明すると、ハウスドルフ外測度 {{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'')}} の次元 {{Mvar|s}} は[[ものさし]]の粗さのようなもので、{{Math|''s'' < dim<sub>''H''</sub>(''X'')}} で {{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'') {{=}} ∞}} となるのは、集合 {{Mvar|X}} の厚さを測るのには {{Mvar|s}} がものさしとして細か過ぎて、そのものさしからは {{Mvar|X}} は捕え切れないほど大きく見える状態である{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=8}}。一方、{{Math|''s'' > dim<sub>''H''</sub>(''X'')}} で {{Math|''H <sup>s</sup>''(''X'') {{=}} 0}} となるのは、集合 {{Mvar|X}} の厚さを測るのには {{Mvar|s}} がものさしとして粗過ぎて、そのものさしからは{{Mvar|X}} の厚さは無視できるほど小さく見える状態である{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=8}}。{{Math|''s'' {{=}} dim<sub>''H''</sub>(''X'')}} は、それらの中間で、{{Mvar|X}} の厚さを測るのにちょうどいい粗さのものさしであることを意味している{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=8}}。 |
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ハウスドルフ外測度を定義するために出てきた {{Math|{{sum|''i'' {{=}} 1|∞}}{{abs|''U<sub>i</sub>''}}<sup>''s''</sup>}} という和は、{{Math|''s'' {{=}} 1}} を代入してみると、{{Math|{{sum|''i'' {{=}} 1|∞}}{{abs|''U<sub>i</sub>''}}<sup>1</sup>}} という長さ {{Math|{{abs|''U<sub>i</sub>''}}}} の線分の長さの合計となる。これを使って集合 {{Mvar|X}} のハウスドルフ外測度を求めるという行為は、{{Mvar|X}} の長さのような量を決めているのに等しい。集合 {{Mvar|X}} が曲線だとすれば、{{Mvar|X}} は実際に長さに相当する量を持っているので、{{Math|''s'' {{=}} 1}} のハウスドルフ外測度でその長さを測ることができる{{Sfn|石村・石村|1990|pp=110, 122–130}}。同様に {{Math|''s'' {{=}} 2}} で考えると、{{Math|{{sum|''i'' {{=}} 1|∞}}{{abs|''U<sub>i</sub>''}}<sup>2</sup>}} は一辺長さが {{Math|{{abs|''U<sub>i</sub>''}}}} の正方形の面積の合計である。よって、集合 {{Mvar|X}} が面であれば、{{Math|''s'' {{=}} 2}} で適切にその面積を測ることができる{{Sfn|石村・石村|1990|pp=110–112, 130–134}}。 |
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このように、ある集合の長さや面積のような量を測るにあたっては、適切な {{Mvar|s}} の値が存在する。適切な {{Mvar|s}} の値は、逆にその集合を特徴づけすることができる値とも捉えられる。曲線ならば {{Math|''s'' {{=}} 1}} で面ならば {{Math|''s'' {{=}} 2}} であったが、集合がもっと複雑になれば[[自然数]]ではない {{Mvar|s}} の値が最適ということもありうる。このような考え方にもとづいて、 {{Math|{{sum|''i'' {{=}} 1|∞}}{{abs|''U<sub>i</sub>''}}<sup>''s''</sup>}} 自体の値ではなく、{{Mvar|s}} の方の最適値に着目して定義としたのがハウスドルフ次元といえる{{Sfn|石村・石村|1990|pp=110–112}}。 |
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==基本的性質== |
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ハウスドルフ次元は、「次元」と呼ばれるものが当然満たすであろう次の基本的な性質を満たす{{Sfnm|Falconer|2006|1p=40|本田|2002|2p=37}}。 |
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* {{Math|''A'' ⊂ ''B'' ⊂ ℝ<sup>''n''</sup>}} であれば、{{Math|dim<sub>''H''</sub>(''A'') ≤ dim<sub>''H''</sub>(''B'')}} である |
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* {{Math|''A'' ⊂ ℝ<sup>''n''</sup>}} が[[開集合]]であれば、常に {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''A'') {{=}} ''n''}} である |
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* {{Math|''A''<sub>1</sub>, ''A''<sub>2</sub>, ''A''<sub>3</sub>, …}} を可算個の集合列とすると、{{Math2|dim<sub>''H''</sub>(∪<sub>''i''</sub> ''A''<sub>''i''</sub>) {{=}} sup{{Mset|dim<sub>''H''</sub>(''A<sub>i</sub>'')}}}} である |
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* {{Mvar|A}} が[[可算集合]]であれば、常に {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''A'') {{=}} 0}} である |
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* {{Mvar|A}} が {{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} 上の滑らかな {{Mvar|m}} 次元多様体であれば、{{Math|dim<sub>''H''</sub>(''A'') {{=}} ''m''}} である |
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また、{{Math|''A'' ⊂ ℝ<sup>''n''</sup>}} に対して、{{Math|''s'' > ''n''}} ならば {{Math|''H<sup>s</sup>''(''A'') {{=}} 0}} なので、常に {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''A'') ≤ ''n''}} である{{Sfn|新井|2023|p=248}}。 |
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位相次元は[[同相写像]]に対して不変であることが一般的だが、ハウスドルフ次元はこの性質は持たない<ref name="畑1990">{{Cite journal ja-jp |author = 畑 政義 |year = 1990 |title = フラクタル-自己相似集合について |journal = 数学 |volume = 42 |issue = 4 |publisher = 日本数学会 |doi = 10.11429/sugaku1947.42.304 |page = 307 }}</ref>。しかし、写像 {{Math|''f'' : ''X'' → ℝ<sup>''n''</sup>}} が[[リプシッツ連続]]であれば、すなわち、ある正の定数 {{Mvar|c}} が存在して任意の {{Math|''x'', ''y'' ∈ ''X'' ⊂ ℝ<sup>''n''</sup>}} に対して |
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:<math>d(f(x),\ f(y)) \le c d(x,\ y) </math> |
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を満たすならば |
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:<math>\dim_{H}(f(X)) \le \dim_{H}(X) </math> |
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が成り立つ<ref name="畑1990"/>。さらに {{Mvar|f}} が双リプシッツであれば、すなわち、ある正の定数 {{Math|''c''<sub>1</sub>}} と {{Math|''c''<sub>2</sub>}} が存在して任意の {{Math|''x'', ''y'' ∈ ''X''}} に対して |
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:<math> c_{1} d(x,\ y) \le d(f(x),\ f(y)) \le c_{2} d(x,\ y) </math> |
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を満たすならば |
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:<math> \dim_{H}(f(X)) = \dim_{H}(X) </math> |
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が成り立つ{{Sfn|Falconer|2006|p=41}}。これによって、[[位相幾何学]]で同相写像の存在によって2つの集合を「[[位相同型|同じ]]」と見なすように、フラクタル幾何学では双リプシッツ写像の存在によって「同じ」と見なす取り組み方が成立する{{Sfn|Falconer|2006|p=41}}。 |
|||
{{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} の部分集合を {{Mvar|A}}とし、{{Math|ℝ<sup>''m''</sup>}} の部分集合を {{Mvar|B}}とすると、これらの[[直積集合]] {{Math2|''A'' × ''B'' {{=}} {{Mset|(''x'', ''y'') ∈ ℝ<sup>''n'' + ''m''</sup> | ''x'' ∈ ℝ<sup>''n''</sup>, ''y'' ∈ ℝ<sup>''m''</sup>}}}} のハウスドルフ次元について一般的に成り立つ関係は |
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:<math> \dim_{H}(A \times B) \le \dim_{H}(A) + \dim_{H}(B)</math> |
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である{{Sfn|Falconer|2006|pp=127, 130}}。しかし、[[#ボックス次元|後述]]の {{Math|{{Overline|dim}}<sub>''B''</sub>}} に対して {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''X'') {{=}} {{Overline|dim}}<sub>''B''</sub>(''X'')}} が満たされるならば、 |
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:<math> \dim_{H}(A \times B) = \dim_{H}(A) + \dim_{H}(B)</math> |
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が成り立つ{{Sfn|Falconer|2006|pp=130–131}}。 |
|||
射影に関しては、{{Mvar|X}} を {{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} の部分空間へ写す[[射影作用素|正射影]]を {{Math|''p''(''X'')}} とすると |
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:<math> \dim_{H}(p(X)) \le \dim_{H}(X)</math> |
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が一般的な関係として成り立つ{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=9}}。 |
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==計算== |
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===定義からの直接計算=== |
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一般的に、与えられた集合 {{Mvar|X}} のハウスドルフ次元を決定するのは困難である{{Sfnm|石村・石村|1990|1p=152|ファルコナー|1989|2p=18}}。次元を決定するためによく使われる手法は、上からの評価と下からの評価を行い、それらが同じ値を取ることを証明する手法である{{Sfn|Falconer|2006|p=42}}。すなわち、{{Math|dim<sub>''H''</sub>(''X'') ≤ ''s''}}(上から)かつ {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''X'') ≥ ''s''}}(下から)であることを証明すれば {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''X'') {{=}} ''s''}} である{{Sfn|Falconer|2006|p=42}}。上からの評価は比較的簡単で、特殊な {{Mvar|δ}} 被覆を設定すれば求まる{{Sfn|山口・畑・木上|1993|pp=10, 25}}。特に一般的に大変なのが、ハウスドルフ測度およびハウスドルフ次元の下からの評価を得ることである{{Sfn|ファルコナー|1989|p=18}}。下からの評価のためにはあらゆる被覆を考えて決める必要があり、難しくなる{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=10}}。 |
|||
[[File:Construccio Conjunt Cantor.svg|thumb|300px|[[カントールの3進集合]]の構成]] |
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数直線 {{Math|ℝ<sup>1</sup>}} 上の図形であれば、定義からの直接計算でもハウスドルフ次元の決定は比較的容易である{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=10}}。ハウスドルフ次元が非整数を取る図形の中でもっとも有名な集合として、[[カントール集合]]がある{{Sfn|ファルコナー|1989|p=19}}。カントール集合ないしカントールの3進集合とは、線分 1 の中央から1/3の長さの線分を除去し、さらに残った2つの線分の中央のそれぞれの1/3の長さの線分を除去し、という操作を繰り返し無限回行うことで得られる図形である{{Sfn|本田|2002|pp=1–2}}。カントール集合を作る途中の {{Mvar|k}} 番目の操作でできる図形を {{Mvar|C<sub>k</sub>}} と表すと |
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:<math>C_k = \left [0, \frac{1}{3^k} \right ] \cup \left [\frac{2}{3^k}, \frac{3}{3^k} \right ] \cup \ldots \cup \left [\frac{3^k - 1}{3^k}, 1 \right ] </math> |
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であり、カントール集合を {{Mvar|C}} と表すと |
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:<math> C = \bigcap_{k=1}^{\infty} C_k </math> |
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と定義される{{Sfn|石村・石村|1990|pp=135–136}}。カントール集合はハウスドルフ次元を正確に決定できる少ない例のうちの一つである{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=11}}。 |
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カントール集合のハウスドルフ測度およびハウスドルフ次元の場合、{{Mvar|I<sub>k</sub>}} を {{Mvar|C}} に対する {{Mvar|δ}} 被覆と考えれば、上からの評価が得られる{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=11|新井|2023|2p=250}}。この被覆について {{Math|''s'' {{=}} {{Sfrac|log 2|log 3}}}} と仮定すると、 {{Math|''H <sup>s</sup>''(''C'') ≤ 1}} および {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''C'') ≤ ''s''}} であることが得られる{{Sfnm|Falconer|2006|1p=44|新井|2023|2pp=250–251}}。また、少し技巧的な証明を要するが、任意の閉区間による被覆に対して {{Math|''H <sup>s</sup>''(''C'') ≥ 1}} および {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''C'') ≥ ''s''}} であることが得られる{{Sfnm|新井|2023|1pp=251–252|山口・畑・木上|1993|2pp=11–12}}。したがって、{{Math|dim<sub>''H''</sub>(''C'') {{=}} {{Sfrac|log 2|log 3}}}} である{{Sfnm|新井|2023|1pp=251–252|山口・畑・木上|1993|2pp=11–12}}。 |
|||
===自己相似集合の場合=== |
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フラクタルの中でも、ハウスドルフ次元を正確かつ簡単に決定できる[[クラス (集合論)|クラス]]の集合がある{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=21|石村・石村|1990|2p=152}}。写像 {{Math2|''f'' : ℝ<sup>''n''</sup> → ℝ<sup>''n''</sup>}} が、ある定数 {{Math|''c<sub>i</sub>'' < 1}} が存在して、 |
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:<math> \left \vert f(x) - f(y) \right \vert \le c_i \left \vert x - y \right \vert </math> |
|||
が任意の {{Math2|''x'', ''y'' ∈ ℝ<sup>''n''</sup>}} について成り立つとき、{{Mvar|f}} を[[縮小写像]]という{{Sfnm|ファルコナー|1989|1pp=168–169|山口・畑・木上|1993|2p=22}}。{{Math|''m'' ≥ 2}} 個の縮小写像の組 {{Math2|''f''<sub>1</sub>, ''f''<sub>2</sub>, …, ''f''<sub>''m''</sub> : ℝ<sup>''n''</sup> → ℝ<sup>''n''</sup>}} が与えられたとき、 |
|||
:<math> U \bigcup_{i=1}^{m} f_i </math> |
|||
を満たす[[コンパクト集合]] {{Math|''U'' ⊂ ℝ<sup>''n''</sup>}} を[[自己相似集合]]という{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=22|石村・石村|1990|2p=10}}。自己相似集合 {{Mvar|U}} が |
|||
:<math> \bigcup_{i=1}^{m} f_i \subset U </math> |
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かつ任意の {{Mvar|i}} と {{Math|''j'' ≠ ''i''}} について |
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:<math> f_i (U) \cap f_j (U) = \emptyset </math> |
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を満たすとき、{{Mvar|U}} は[[開集合条件]]を満たすという{{Sfn|ファルコナー|1989|p=172}}。 |
|||
さらに、{{Math|''m'' ≤ 2}} 個の縮小写像の組における各写像 {{Mvar|f<sub>i</sub>}} について、ある定数 {{Math|''c<sub>i</sub>'' < 1}} が存在し、 |
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:<math> \left \vert f_{i}(x) - f_{i}(y) \right \vert = c_i \left \vert x - y \right \vert </math> |
|||
が任意の {{Math2|''x'', ''y'' ∈ ℝ<sup>''n''</sup>}} について成り立つとき、{{Mvar|f<sub>i</sub>}} は'''相似縮小変換'''などと呼ばれる{{Sfnm|新井|2023|1pp=254–255|山口・畑・木上|1993|2p=27}}。定数 {{Mvar|c}} は'''縮小率'''と呼ばれる{{Sfnm|ファルコナー|1989|1pp=169|石村・石村|1990|2p=2}}。すなわち、{{Mvar|f<sub>i</sub>}} は縮小、回転、平衡移動、反転などの変換を組み合わせて、{{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} 上の部分集合を幾何学的に[[図形の相似|相似]]な集合に写す線形変換である{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=27}}。 |
|||
以上のように、縮小写像が相似縮小変換でなおかつ開集合条件を満たすとき、その縮小写像の組から定まる自己相似集合 {{Mvar|U}} のハウスドルフ次元は |
|||
:<math> \sum_{i=1}^{m} (c_{i})^s = 1 </math> |
|||
を満たす {{Mvar|s}} と等しいことが定理として成り立つ{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1pp=26–27|Falconer|2006|2p=164}}。この定理より、多くの自己相似フラクタルのハウスドルフ次元が求まる{{Sfn|Falconer|2006|p=166}}。カントールの3進集合は {{Math2|''m'' {{=}} 2, ''c''<sub>1</sub> {{=}} 1/3, ''c''<sub>2</sub> {{=}} 1/3}} という開集合条件を満たす相似縮小変換で構成できるため、上記の定理からハウスドルフ次元 {{Math|{{Sfrac|log 2|log 3}}}} を求めることもできる{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=30}}。 |
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==例== |
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[[File:Koch curve construction.svg|thumb|[[コッホ曲線]]の構成]] |
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カントールの3進集合のハウスドルフ次元は {{Math|{{Sfrac|log 2|log 3}} {{=}} 0.6309…}} であったが、一般化したカントール集合、例えば線分の真ん中を {{Math|1 − 2''k''}} 除去する場合は、ハウスドルフ次元は {{Math|{{Sfrac|log 2|log 1/''k''}}}} である{{Sfn|ファルコナー|1989|p=20}}。カントール集合と同様に再帰的な手続きから構成できるフラクタル図形の単純な例には、[[コッホ曲線]] {{Mvar|K}}、[[シェルピンスキー・ガスケット]] {{Mvar|S}} などがある{{Sfn|Falconer|2006|pp=xvii–xxiv}}。これらも開集合条件を満たす相似縮小変換であり、それぞれのハウスドルフ次元は {{Math2|dim<sub>''H''</sub>(''K'') {{=}} {{Sfrac|log 4|log 3}} {{=}} 1.2618…}} と {{Math2|dim<sub>''H''</sub>(''S'') {{=}} {{Sfrac|log 3|log 2}} {{=}} 1.5849…}} である{{Sfn|新井|2023|pp=257–261}}。 |
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[[力学系]]でもフラクタルが様々な形で現れる{{Sfn|Falconer|2006|p=233}}。{{Mvar|α}} 倍に縮む散逸系の[[パイこね変換]]の[[アトラクター]]はハウスドルフ次元 {{Math2|1 + {{Sfrac|log 2|−log ''α''}}}} である{{Sfn|Falconer|2006|pp=241–242}}。[[複素力学系]]の[[マンデルブロ集合]]は非常な複雑な図形だが[[連結空間|連結]]で、その[[境界 (位相空間論)|境界]]はハウスドルフ次元 {{Math|2}} である{{Sfn|Falconer|2006|p=286}}。 |
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規則的に作られる自己相似フラクタルの外に、自然界で見られるようなランダムパターンから生まれる自己相似フラクタルもある<ref>{{Cite book ja-jp |author = 松下 貢 |title = フラクタルの物理(I)―基礎編― |url = https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2208-3.htm |series = 裳華房フィジックスライブラリー |publisher = 裳華房 |edition= 第4版 |year = 2009 |isbn = 978-4-7853-2208-3 |ref = 17–19, 62 }}</ref>。{{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} 上の[[ブラウン運動]]の軌跡は、{{Math|''n'' ≥ 2}} であれば {{Mvar|n}} の値にかかわらず確率 {{Math|1}} でハウスドルフ次元 {{Math|2}} である{{Sfn|ファルコナー|1989|pp=206–207}}。 |
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[[File:Takagi curve.png|thumb|[[高木関数]]のグラフ]] |
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ハウスドルフ次元が位相次元よりも大であることをフラクタルの定義とすると、直感的にはフラクタルに相応しいような図形がフラクタルにならない例もある{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=4|マンデルブロ |2011|2p=260}}。例えば、[[カントール関数|カントールの悪魔の階段]]や[[高木関数]]のグラフは、位相次元・ハウスドルフ次元ともに {{Math|1}} である{{Sfnm|山口・畑・木上|1993|1p=4|マンデルブロ |2011|2p=260}}。連続曲線でありながら平面を充填する[[ペアノ曲線]]も、位相次元・ハウスドルフ次元ともに {{Math|2}} で一致する{{Sfnm|山口|1986|1pp=183–184|石村・石村|1990|2pp=99–100}}。こういった集合の存在が、フラクタルの定義に改善の余地がある理由の一つである{{Sfn|マンデルブロ |2011|p=260}}。 |
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ハウスドルフ次元の決定が[[数学上の未解決問題]]となっているものには、次のようなものがある。{{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} 上の部分集合 {{Mvar|K}} が[[有界]][[閉集合|閉]]で、全ての方向の長さ {{Math|1}} の[[線分]]を含み、さらに {{Mvar|n}} 次元[[ルベーグ測度]]が {{Math|0}} のとき、{{Mvar|K}} を {{Mvar|n}} 次元[[掛谷集合]]と呼ぶ。{{Mvar|n}} 次元掛谷集合のハウスドルフ次元は {{Mvar|n}} であろうと予想されており、[[掛谷予想]]や掛谷問題と呼ばれる。{{Math|2}} 次元掛谷集合のハウスドルフ次元は {{Math|2}} であることは証明されたが、{{Math|3}} 次元以上は未解決である{{Sfn|新井|2023|pp=266–267}}。 |
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==他の次元との関係== |
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===位相次元=== |
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縦・横・高さという直感的な次元は[[位相次元]]と呼ばれる{{Sfn|石村・石村|1990|p=98}}。上で述べたように、{{Mvar|A}} が {{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} 上の滑らかな {{Mvar|m}} 次元[[多様体]]であれば、{{Math|dim<sub>''H''</sub>(''A'') {{=}} ''m''}} であるので、ハウスドルフ次元は位相次元と矛盾しない拡張となっている{{Sfnm|Falconer|2006|1p=40|本田|2002|2p=37}}。位相次元と呼ばれるものは正確には[[ルベーグ被覆次元|被覆次元]]、[[帰納次元|大きな帰納的次元]]、[[帰納次元|小さな帰納的次元]]の3つがあるが、[[ユークリッド空間]]上では3者は常に一致する{{Sfn|石村・石村|1990|p=92}}。以下、 {{Math|ℝ<sup>''n''</sup>}} 上の集合 {{Mvar|X}} の位相次元を {{Math|dim<sub>''T''</sub>(''X'')}} と表す。 |
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位相次元 {{Math|dim<sub>''T''</sub>(''X'')}} とハウスドルフ次元 {{Math|dim<sub>H</sub>(''X'')}} は一致することもあれば、異なることもある{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=4}}。例えば、線分の {{Math|dim<sub>''T''</sub>(''X'')}} と {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''X'')}} は共に 1 で、正方形の {{Math|dim<sub>''T''</sub>(''X'')}} と {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''X'')}} は共に 2 である{{Sfn|石村・石村|1990|p=134}}。このような単純な図形では {{Math|dim<sub>''T''</sub>(''X'')}} と {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''X'')}} は一致するが、図形が複雑になると相異なってくる{{Sfn|石村・石村|1990|p=134}}。しかし一般的な関係として、任意の集合 {{Mvar|X}} の位相次元とハウスドルフ次元は |
|||
:<math> \dim_T (X) \le \dim_H (X) </math> |
|||
という関係が成り立つ{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=4}}。例えば、カントールの3進集合 {{Mvar|C}} は {{Math|dim<sub>''H''</sub>(''C'') {{=}} {{Sfrac|log 2|log 3}} {{=}} 0.6309…}} だが、{{Math|dim<sub>''T''</sub>(''C'') {{=}} 0}} である{{Sfn|石村・石村|1990|pp=98, 162–164}}。 |
|||
[[フラクタル]]の提唱者である[[ブノワ・マンデルブロ]]自身のフラクタルの定義は、ハウスドルフ次元が位相次元よりも高い集合(図形)がフラクタルとされる{{Sfnm|山口|1986|1p=149|マンデルブロ |2011|2p=258}}。ただし、マンデルブロも述べているように、このフラクタルの定義は確定的ではない{{Sfnm|Falconer|2006|1pp=xxvii|マンデルブロ |2011|2p=259}}。「[[フラクタル次元]]」という言葉はしばしば曖昧に用いられ、定義が与えられずに用いられたり、使う人によっては定義が異なったりするが{{Sfn|Falconer|2006|pp=xxvii}}、一つの考え方としては非整数値を取る次元をフラクタル次元と呼ぶ{{Sfn|本田|2002|p=30}}<ref>{{Cite book ja-jp |author = 高安 秀樹・高安 美佐子 |publisher = ダイヤモンド社 |title = フラクタルって何だろう |year = 1988 |isbn = 4-478-83004-5 |page = 51 }}</ref>。マンデルブロはハウスドルフ次元のことをフラクタル次元と言い換えており<ref>{{Cite book ja-jp |author = B.マンデルブロ |others = 広中 平祐(監訳) |publisher = 筑摩書房 |title = フラクタル幾何学 上 |url = https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480093561/ |series = ちくま学芸文庫 |
|||
|year = 2011 |isbn = 978-4-480-09356-1 |pages = 12, 41 }}</ref>、文献によってはフラクタル次元とはハウスドルフ次元を指す{{Sfnm|石村・石村|1990|1p=182|山口|1986|2p=149}}。 |
|||
===ボックス次元=== |
|||
[[File:Great Britain Hausdorff.svg|thumb|300px|[[グレートブリテン島]]の海岸線をボックス次元で測る様]] |
|||
ハウスドルフ次元は数値の具体的な計算が難しいという欠点がある{{Sfn|本田|2002|p=42}}。これに対し、被覆する集合の直径を全て同じとしたのが[[ボックス次元]]と呼ばれる次元で、ハウスドルフ次元よりも数学的には扱いにくいが計算は容易である{{Sfnm|Falconer|2006|1p=60|本田|2002|2p=42}}。ボックス次元には同値な定義がいくつかあるが{{Sfn|Falconer|2006|pp=53–59}}、集合 {{Mvar|X}} に対して |
|||
:<math>\underline{\dim}_{B}(X) = \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \inf \dfrac{\log N_\delta (X)}{\log\frac{1}{\delta}} </math> |
|||
:<math>\overline{\dim}_{B}(X) = \lim_{\epsilon \rightarrow 0} \sup \dfrac{\log N_\delta (X)}{\log\frac{1}{\delta}} </math> |
|||
とおいて、 |
|||
:<math> \underline{\dim}_{B}(X) = \overline{\dim}_{B}(X) = {\dim}_{B}(X) </math> |
|||
が成り立つとき、{{Math|dim<sub>''B''</sub>(''X'')}} を {{Mvar|X}} のボックス次元という{{Sfn|青木|2004|p=37}}。ここで、{{Mvar|δ}} は {{Mvar|X}} を被覆する開被覆の直径、{{Math|''N''<sub>''δ''</sub>(''X'')}} は {{Mvar|X}} を被覆するのに必要な {{Mvar|δ}} 開被覆の最小個数を表す{{Sfn|青木|2004|p=37}}。ハウスドルフ次元とボックス次元には、一般的に |
|||
:<math> \dim_{H}(X) \le \underline{\dim}_{B}(X) \le \overline{\dim}_{B}(X) </math> |
|||
あるいは |
|||
:<math> \dim_{H}(X) \le \dim_{B}(X) </math> |
|||
という関係が成り立つ{{Sfnm|青木|2004|1p=38|山口・畑・木上|1993|2p=5}}。 |
|||
===相似次元=== |
|||
[[File:Dimensions.svg|thumb|280px|線分・正方形・立方体は、それ自体の中に 1/''r'' 倍のコピーがそれぞれ ''r''<sup>1</sup>, ''r''<sup>2</sup>, ''r''<sup>3</sup> 個ある]] |
|||
[[File:Koch curve comprises four copies of itself scaled by one-third.svg|thumb|280px|[[コッホ曲線]]は、それ自体の中に 1/3 倍のコピーが 4 個ある]] |
|||
上記の[[#自己相似集合の場合]]に求められる次元 {{Mvar|s}} は、[[相似次元]]とも呼ばれる{{Sfn|ファルコナー|1989|p=173}}。相似次元は自己相似性の観点から得られる{{Sfn|本田|2002|p=38}}。例えば、ある線分を {{Math|1/3}} 倍したコピーを考えると、元の線分はそのコピー {{Math|3 {{=}} 3<sup>1</sup>}} 個から成り立っている。また、ある正方形を {{Math|1/3}} 倍したコピーを考えると、元の正方形はそのコピー {{Math|9 {{=}} 3<sup>2</sup>}} 個から成り立っている。そして、ある立方体を {{Math|1/3}} 倍したコピーを考えると、元の立方体はそのコピー {{Math|27 {{=}} 3<sup>3</sup>}} 個から成り立っている。線分、正方形、立方体のそれぞれの次元 {{Math2|1, 2, 3}} は、コピーの個数の指数として現れている。これを一般化すると、{{Mvar|c}} 倍したコピーを考えると元の図形はそのコピーの {{Mvar|m}} 個から成り立つとき、次元 {{Mvar|s}} と {{Mvar|c}} と {{Mvar|m}} のあいだには |
|||
:<math> N = \left ( \frac{1}{c} \right )^s </math> |
|||
という関係がある{{Sfn|本田|2002|pp=38–39}}。よって次元 {{Mvar|s}} は |
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:<math> s = \frac{\log N}{\log (1/c)} </math> |
|||
と定義でき、これを相似次元と呼ぶ{{Sfn|本田|2002|p=39}}。 |
|||
一般的な相似次元は、縮小写像の {{Mvar|m}} 個の組 {{Math2|''f''<sub>1</sub>, ''f''<sub>2</sub>, …, ''f''<sub>''m''</sub> : ℝ<sup>''n''</sup> → ℝ<sup>''n''</sup>}} が与えられたときに、これに対応する自己相似集合に対して、それぞれの縮小率 {{Math2|''c<sub>i</sub>'' (''i'' {{=}} 1, 2, … ''m'')}} から |
|||
:<math> \sum_{i=1}^{m} (c_{i})^s = 1 </math> |
|||
を満たす {{Mvar|s}} の正の値によって与えられる{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=26}}。自己相似集合を {{Mvar|X}} として、その相似次元を {{Math|dim<sub>''S''</sub>(''X'')}} と表すとする。上記のとおり、縮小写像が相似縮小変換でなおかつ開集合条件を満たすとき、その自己相似集合のハウスドルフ次元と相似次元には |
|||
:<math> \dim_{H}(X) = \dim_{S}(X) </math> |
|||
という関係がある{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=27}}。また、相似縮小変換かつ開集合条件という条件を付与しない一般的な自己相似集合については、ハウスドルフ次元と相似次元の関係は次のようになる{{Sfn|山口・畑・木上|1993|p=26}}。 |
|||
:<math> \dim_{H}(X) \le \dim_{S}(X) </math> |
|||
==出典== |
|||
{{Reflist|2}} |
|||
==参照文献== |
|||
*{{Cite book ja-jp |
|||
|author = Kenneth Falconer |
|||
|translator = 服部 久美子・村井 浄信 |
|||
|title = フラクタル幾何学 |
|||
|url = https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320018013 |
|||
|series = 新しい解析学の流れ |
|||
|publisher = 共立出版 |
|||
|year = 2006 |
|||
|isbn = 4-320-01801-X |
|||
|ref = {{SfnRef|Falconer|2006}} |
|||
}} |
|||
*{{Cite book ja-jp |
|||
|author = K.J.ファルコナー |
|||
|translator = 畑 政義 |
|||
|title = フラクタル集合の幾何学 |
|||
|publisher = 近代科学社 |
|||
|edition= 初版 |
|||
|year = 1989 |
|||
|isbn = 4-7649-1013-6 |
|||
|ref = {{SfnRef|ファルコナー|1989}} |
|||
}} |
|||
*{{Cite book ja-jp |
|||
|author = 山口 昌哉・畑 政義・木上 淳 |
|||
|title = フラクタルの数理 |
|||
|series = 岩波講座 応用数学1 [対象7] |
|||
|url = https://www.iwanami.co.jp/book/b480065.html |
|||
|publisher = 岩波書店 |
|||
|edition= 初版 |
|||
|year = 1993 |
|||
|isbn = 4-00-010511-6 |
|||
|ref = {{SfnRef|山口・畑・木上|1993}} |
|||
}} |
|||
*{{Cite book ja-jp |
|||
|author = 本田 勝也 |
|||
|title = フラクタル |
|||
|url = https://www.asakura.co.jp/detail.php?book_code=11611 |
|||
|series = シリーズ非線形科学入門1 |
|||
|publisher = 朝倉書店 |
|||
|edition= 初版 |
|||
|year = 2002 |
|||
|isbn = 978-4-254-11611-3 |
|||
|ref = {{SfnRef|本田|2002}} |
|||
}} |
|||
*{{Cite book ja-jp |
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|author = 石村 貞夫・石村 園子 |
|||
|title = フラクタル数学 |
|||
|publisher = 東京図書 |
|||
|edition= 初版 |
|||
|year = 1990 |
|||
|isbn = 4-489-00332-3 |
|||
|ref = {{SfnRef|石村・石村|1990}} |
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}} |
|||
*{{Cite book ja-jp |
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|author = 青木 統夫 |
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|title = 測度・エントロピー・フラクタル |
|||
|url = https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10010325.html |
|||
|series = 非線形解析III |
|||
|publisher = 共立出版 |
|||
|edition= 初版 |
|||
|year = 2004 |
|||
|isbn = 4-320-01773-0 |
|||
|ref = {{SfnRef|青木|2004}} |
|||
}} |
|||
*{{Cite book ja-jp |
|||
|author = 山口 昌哉 |
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|title = カオスとフラクタル ―非線形の不思議― |
|||
|url = https://gendai.media/list/books/bluebacks/9784061326521 |
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|series = ブルーバックス B-652 |
|||
|publisher = 講談社 |
|||
|year = 1986 |
|||
|isbn = 4-06-132652-X |
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|ref = {{SfnRef|山口|1986}} |
|||
}} |
|||
*{{Cite book ja-jp |
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|author = B.マンデルブロ |
|||
|others = 広中 平祐(監訳) |
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|publisher = 筑摩書房 |
|||
|title = フラクタル幾何学 下 |
|||
|url = https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480093578/ |
|||
|series = ちくま学芸文庫 |
|||
|year = 2011 |
|||
|isbn = 978-4-480-09357-8 |
|||
|ref = {{SfnRef|マンデルブロ |2011}} |
|||
}} |
|||
*{{Cite book ja-jp |
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|author = 新井 仁之 |
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|title = ルベーグ積分講義 ―ルベーグ積分と面積0の不思議な図形たち― |
|||
|url = https://nippyo.co.jp/shop/book/9057.html |
|||
|publisher = 日本評論社 |
|||
|edition= 改訂版 |
|||
|year = 2023 |
|||
|isbn = 978-4-535-78945-6 |
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|ref = {{SfnRef|新井|2023}} |
|||
}} |
|||
==外部リンク== |
|||
*[https://encyclopediaofmath.org/wiki/Hausdorff_dimension Hausdorff dimension] - Encyclopedia of Mathematics |
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*[https://mathworld.wolfram.com/HausdorffDimension.html Hausdorff Dimension] - MathWorld |
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2023年10月20日 (金) 14:57時点における版
ハウスドルフ次元(ハウスドルフじげん、英: Hausdorff dimension)は、フェリックス・ハウスドルフが導入した非負実数値の次元である。フラクタルのような複雑な図形ないし集合の次元を表す道具として用いられる。ハウスドルフ測度を使って定義される次元で、ある集合のハウスドルフ次元は、その集合のハウスドルフ測度が ∞ から 0 へ移る不連続点から定義される。
ハウスドルフの後に、アブラム・ベシコビッチが研究を深めて更に明確化した。そのため、ハウスドルフ・ベシコビッチ次元(ハウスドルフ・ベシコビッチじげん、英: Hausdorff-Besicovitch dimension)とも呼ばれる。フラクタル幾何学や実解析で重要な役割を果たし、特にフラクタル幾何学では最重要概念の一つである。一般的に与えられた集合のハウスドルフ次元を決定するのは困難であるが、自己相似集合などの一部のクラスの集合では求め方が確立している。確定的な定義ではないが、ハウスドルフ次元が位相次元より大きな集合がフラクタルと定義づけられる。
背景
一般的な「次元」という言葉は、現実世界の空間が高さ・幅・奥行きの3つから成るので3次元と呼ぶ考え方に立脚している[1]。この考え方の延長上で、平面は縦・横から成るので2次元で、直線や線分は1次元であるという風に考えられてきた[1]。数学の世界でも、19世紀終わり近くまで、点が 0 次元、直線が 1 次元、平面が 2 次元、…という素朴な次元の概念しか存在しなかった[2]。しかし、19世紀後半に、ゲオルク・カントールが平面上の点と直線上の点が1対1対応を持つことを、ジュゼッペ・ペアノが単位区間から正方形の上への連続写像を構成できることを発見し、数学界で次元の概念の再考が迫られた[3][4]。その後、位相不変で整数値を取る位相次元(正確には被覆次元、大きな帰納的次元、小さな帰納的次元がある[5])が、次元の精密な定義として導入された[6]。
一方、「長さ」「面積」「体積」といった直感的概念についても一般の集合に拡張させる動きが、19世紀末から20世紀初頭にかけてエミール・ボレルやアンリ・ルベーグによって進められた[7]。1914年、コンスタンティン・カラテオドリは n 次元ユークリッド空間内の s 次元測度を定義した[8]。カラテオドリの定義では s は整数値であった[9]。1919年、カラテオドリの仕事を引き継いだフェリックス・ハウスドルフは、カラテオドリの定義は非整数の s に対しても意味があることを指摘し、後にハウスドルフ次元(英: Hausdorff dimension)と呼ばれる非整数次元を導入した[10]。ハウスドルフは、カントールの3進集合のハウスドルフ次元が log 2/log 3 = 0.6309… であることを実際に示してみせた[11]。
ハウスドルフの後に、ハウスドルフ次元およびハウスドルフ測度の概念を明確化を担ったのはアブラム・ベシコビッチである[12]。そのため、彼の名も取ってハウスドルフ次元はハウスドルフ・ベシコビッチ次元(英: Hausdorff-Besicovitch dimension)とも呼ばれる[12]。ハウスドルフ測度とそれを使った幾何学の数学的成果の多くはベシコビッチによって与えられた[13]。ブノワ・マンデルブロは「ハウスドルフが標準的でない次元の父であったのに対し、ベシコビッチは、その母であった」と評している[14]。
そのマンデルブロは、自然の海岸線や樹木の形の数学的理想化として、カントールの3進集合やコッホ曲線やワイエルシュトラス関数などの以前より報告されていた特異な数学的集合の総称として、フラクタルという概念と名称を与えた[15]。マンデルブロは、1977年のエッセイ「Fractals: Form, Chance and Dimension」で、ハウスドルフ次元が位相次元よりも大きい集合をフラクタルの数学的な定義とした[16]。1982年の著書「The Fractal Geometry of Nature」でフラクタルの概念は一躍有名となり、フラクタルは各分野で研究され始めた[17]。次元はフラクタル幾何学の中心的概念であり、その中でも最重要なのがハウスドルフ次元である[18]。ハウスドルフ測度およびハウスドルフ次元はフラクタル幾何学や実解析で重要な役割を果たす[19]。
定義
ハウスドルフ測度
次元を定義したい図形として、n-次元ユークリッド空間 ℝn 上の空ではない部分集合 X を考える[20]。ユークリッド空間に限定せずに、一般の距離空間でもよい[21]。X 上の 2 点 x, y のユークリッド距離を d(x, y) で表す。集合 X の直径を次で定義する。
ここで sup は上限を意味し、d(x, y) は x と y のユークリッド距離である[22]。単純に言えば、直径とは集合 X の中のもっとも離れた2点間の距離を意味している[23]。
ある X が与えられたとき、それに対する可算個の集合族 {Ui} による被覆を考える。ただし、{Ui} それぞれの直径は、ある正の実数 δ 以下とする。このような {Ui} を δ 被覆と呼ぶ。すなわち、
- かつ
である。{Ui} は有限個でもよい[24]。
さらに、各々の Ui の直径を正の実数 s で冪乗したものの総和 ∑∞
i = 1|Ui|s を取る。そして、δ と s の値を固定し、X に対して可能なあらゆる δ 被覆 {Ui} を考えた場合の ∑∞
i = 1|Ui|s の下限を取る。これを
と定義する[24]。
被覆を抑える2つの直径 δ が δ2 < δ1 という大小関係にあるとする。このとき、直径を δ1 以下とする被覆は、直径を δ2 以下とする被覆を含んでいる。よって、H s
δ1 の値は、H s
δ2 よりも小さいか等しいかのいずれかとなる。結局、
- ならば
であるから、H s
δ は δ の減少とともに単調増加する[25]。したがって、
という極限値が、 H s(X) = ∞ の場合まで含めると常に存在する[26]。この H s(X) は外測度の条件を満たし、s 次元ハウスドルフ外測度やハウスドルフ s 次元外測度と呼ばれる[27]。さらに、可測集合(または σ-集合体)に制限した H s は s 次元ハウスドルフ測度やハウスドルフ s 次元測度と呼ばれる[28]。
ハウスドルフ次元
上記のように定義された s 次元ハウスドルフ外測度 H s(X) を、X を固定して s の関数として見る。s < t を満たす任意の s と t について、δ 被覆は、
を満たすので、
という関係が成り立つ[29]。よって、δ → 0 である H s(X) は s の単調減少関数である[29]。
さらに、上の関係により、H s(X) < ∞ であるならば H t(X) = 0 である。また、H t(X) > 0 であるならば、H s(X) = ∞ である[30]。したがって、H s(X) を s の関数として見たとき、H s(X) は高々 1 つの第一種不連続点 s を持つ[31]。この不連続点を D と表すと、
を満たす D ≥ 0 が唯一定まる[32]。ハウスドルフ次元またはハウスドルフ・ベシコビッチ次元とは不連続点 D の値のことで、これを dimH(X) や dimH X などと表して
あるいは、
で定義される[33]。
直感的説明
ハウスドルフ次元の意味を直感的に説明すると、ハウスドルフ外測度 H s(X) の次元 s はものさしの粗さのようなもので、s < dimH(X) で H s(X) = ∞ となるのは、集合 X の厚さを測るのには s がものさしとして細か過ぎて、そのものさしからは X は捕え切れないほど大きく見える状態である[34]。一方、s > dimH(X) で H s(X) = 0 となるのは、集合 X の厚さを測るのには s がものさしとして粗過ぎて、そのものさしからはX の厚さは無視できるほど小さく見える状態である[34]。s = dimH(X) は、それらの中間で、X の厚さを測るのにちょうどいい粗さのものさしであることを意味している[34]。
ハウスドルフ外測度を定義するために出てきた ∑∞
i = 1|Ui|s という和は、s = 1 を代入してみると、∑∞
i = 1|Ui|1 という長さ |Ui| の線分の長さの合計となる。これを使って集合 X のハウスドルフ外測度を求めるという行為は、X の長さのような量を決めているのに等しい。集合 X が曲線だとすれば、X は実際に長さに相当する量を持っているので、s = 1 のハウスドルフ外測度でその長さを測ることができる[35]。同様に s = 2 で考えると、∑∞
i = 1|Ui|2 は一辺長さが |Ui| の正方形の面積の合計である。よって、集合 X が面であれば、s = 2 で適切にその面積を測ることができる[36]。
このように、ある集合の長さや面積のような量を測るにあたっては、適切な s の値が存在する。適切な s の値は、逆にその集合を特徴づけすることができる値とも捉えられる。曲線ならば s = 1 で面ならば s = 2 であったが、集合がもっと複雑になれば自然数ではない s の値が最適ということもありうる。このような考え方にもとづいて、 ∑∞
i = 1|Ui|s 自体の値ではなく、s の方の最適値に着目して定義としたのがハウスドルフ次元といえる[37]。
基本的性質
ハウスドルフ次元は、「次元」と呼ばれるものが当然満たすであろう次の基本的な性質を満たす[38]。
- A ⊂ B ⊂ ℝn であれば、dimH(A) ≤ dimH(B) である
- A ⊂ ℝn が開集合であれば、常に dimH(A) = n である
- A1, A2, A3, … を可算個の集合列とすると、dimH(∪i Ai) = sup{dimH(Ai)} である
- A が可算集合であれば、常に dimH(A) = 0 である
- A が ℝn 上の滑らかな m 次元多様体であれば、dimH(A) = m である
また、A ⊂ ℝn に対して、s > n ならば Hs(A) = 0 なので、常に dimH(A) ≤ n である[39]。
位相次元は同相写像に対して不変であることが一般的だが、ハウスドルフ次元はこの性質は持たない[40]。しかし、写像 f : X → ℝn がリプシッツ連続であれば、すなわち、ある正の定数 c が存在して任意の x, y ∈ X ⊂ ℝn に対して
を満たすならば
が成り立つ[40]。さらに f が双リプシッツであれば、すなわち、ある正の定数 c1 と c2 が存在して任意の x, y ∈ X に対して
を満たすならば
が成り立つ[41]。これによって、位相幾何学で同相写像の存在によって2つの集合を「同じ」と見なすように、フラクタル幾何学では双リプシッツ写像の存在によって「同じ」と見なす取り組み方が成立する[41]。
ℝn の部分集合を Aとし、ℝm の部分集合を Bとすると、これらの直積集合 A × B = {(x, y) ∈ ℝn + m | x ∈ ℝn, y ∈ ℝm} のハウスドルフ次元について一般的に成り立つ関係は
である[42]。しかし、後述の dimB に対して dimH(X) = dimB(X) が満たされるならば、
が成り立つ[43]。
射影に関しては、X を ℝn の部分空間へ写す正射影を p(X) とすると
が一般的な関係として成り立つ[44]。
計算
定義からの直接計算
一般的に、与えられた集合 X のハウスドルフ次元を決定するのは困難である[45]。次元を決定するためによく使われる手法は、上からの評価と下からの評価を行い、それらが同じ値を取ることを証明する手法である[46]。すなわち、dimH(X) ≤ s(上から)かつ dimH(X) ≥ s(下から)であることを証明すれば dimH(X) = s である[46]。上からの評価は比較的簡単で、特殊な δ 被覆を設定すれば求まる[47]。特に一般的に大変なのが、ハウスドルフ測度およびハウスドルフ次元の下からの評価を得ることである[48]。下からの評価のためにはあらゆる被覆を考えて決める必要があり、難しくなる[49]。
数直線 ℝ1 上の図形であれば、定義からの直接計算でもハウスドルフ次元の決定は比較的容易である[49]。ハウスドルフ次元が非整数を取る図形の中でもっとも有名な集合として、カントール集合がある[50]。カントール集合ないしカントールの3進集合とは、線分 1 の中央から1/3の長さの線分を除去し、さらに残った2つの線分の中央のそれぞれの1/3の長さの線分を除去し、という操作を繰り返し無限回行うことで得られる図形である[51]。カントール集合を作る途中の k 番目の操作でできる図形を Ck と表すと
であり、カントール集合を C と表すと
と定義される[52]。カントール集合はハウスドルフ次元を正確に決定できる少ない例のうちの一つである[53]。
カントール集合のハウスドルフ測度およびハウスドルフ次元の場合、Ik を C に対する δ 被覆と考えれば、上からの評価が得られる[54]。この被覆について s = log 2/log 3 と仮定すると、 H s(C) ≤ 1 および dimH(C) ≤ s であることが得られる[55]。また、少し技巧的な証明を要するが、任意の閉区間による被覆に対して H s(C) ≥ 1 および dimH(C) ≥ s であることが得られる[56]。したがって、dimH(C) = log 2/log 3 である[56]。
自己相似集合の場合
フラクタルの中でも、ハウスドルフ次元を正確かつ簡単に決定できるクラスの集合がある[57]。写像 f : ℝn → ℝn が、ある定数 ci < 1 が存在して、
が任意の x, y ∈ ℝn について成り立つとき、f を縮小写像という[58]。m ≥ 2 個の縮小写像の組 f1, f2, …, fm : ℝn → ℝn が与えられたとき、
を満たすコンパクト集合 U ⊂ ℝn を自己相似集合という[59]。自己相似集合 U が
かつ任意の i と j ≠ i について
さらに、m ≤ 2 個の縮小写像の組における各写像 fi について、ある定数 ci < 1 が存在し、
が任意の x, y ∈ ℝn について成り立つとき、fi は相似縮小変換などと呼ばれる[61]。定数 c は縮小率と呼ばれる[62]。すなわち、fi は縮小、回転、平衡移動、反転などの変換を組み合わせて、ℝn 上の部分集合を幾何学的に相似な集合に写す線形変換である[63]。
以上のように、縮小写像が相似縮小変換でなおかつ開集合条件を満たすとき、その縮小写像の組から定まる自己相似集合 U のハウスドルフ次元は
を満たす s と等しいことが定理として成り立つ[64]。この定理より、多くの自己相似フラクタルのハウスドルフ次元が求まる[65]。カントールの3進集合は m = 2, c1 = 1/3, c2 = 1/3 という開集合条件を満たす相似縮小変換で構成できるため、上記の定理からハウスドルフ次元 log 2/log 3 を求めることもできる[66]。
例
カントールの3進集合のハウスドルフ次元は log 2/log 3 = 0.6309… であったが、一般化したカントール集合、例えば線分の真ん中を 1 − 2k 除去する場合は、ハウスドルフ次元は log 2/log 1/k である[67]。カントール集合と同様に再帰的な手続きから構成できるフラクタル図形の単純な例には、コッホ曲線 K、シェルピンスキー・ガスケット S などがある[68]。これらも開集合条件を満たす相似縮小変換であり、それぞれのハウスドルフ次元は dimH(K) = log 4/log 3 = 1.2618… と dimH(S) = log 3/log 2 = 1.5849… である[69]。
力学系でもフラクタルが様々な形で現れる[70]。α 倍に縮む散逸系のパイこね変換のアトラクターはハウスドルフ次元 1 + log 2/−log α である[71]。複素力学系のマンデルブロ集合は非常な複雑な図形だが連結で、その境界はハウスドルフ次元 2 である[72]。
規則的に作られる自己相似フラクタルの外に、自然界で見られるようなランダムパターンから生まれる自己相似フラクタルもある[73]。ℝn 上のブラウン運動の軌跡は、n ≥ 2 であれば n の値にかかわらず確率 1 でハウスドルフ次元 2 である[74]。
ハウスドルフ次元が位相次元よりも大であることをフラクタルの定義とすると、直感的にはフラクタルに相応しいような図形がフラクタルにならない例もある[75]。例えば、カントールの悪魔の階段や高木関数のグラフは、位相次元・ハウスドルフ次元ともに 1 である[75]。連続曲線でありながら平面を充填するペアノ曲線も、位相次元・ハウスドルフ次元ともに 2 で一致する[76]。こういった集合の存在が、フラクタルの定義に改善の余地がある理由の一つである[77]。
ハウスドルフ次元の決定が数学上の未解決問題となっているものには、次のようなものがある。ℝn 上の部分集合 K が有界閉で、全ての方向の長さ 1 の線分を含み、さらに n 次元ルベーグ測度が 0 のとき、K を n 次元掛谷集合と呼ぶ。n 次元掛谷集合のハウスドルフ次元は n であろうと予想されており、掛谷予想や掛谷問題と呼ばれる。2 次元掛谷集合のハウスドルフ次元は 2 であることは証明されたが、3 次元以上は未解決である[78]。
他の次元との関係
位相次元
縦・横・高さという直感的な次元は位相次元と呼ばれる[79]。上で述べたように、A が ℝn 上の滑らかな m 次元多様体であれば、dimH(A) = m であるので、ハウスドルフ次元は位相次元と矛盾しない拡張となっている[38]。位相次元と呼ばれるものは正確には被覆次元、大きな帰納的次元、小さな帰納的次元の3つがあるが、ユークリッド空間上では3者は常に一致する[5]。以下、 ℝn 上の集合 X の位相次元を dimT(X) と表す。
位相次元 dimT(X) とハウスドルフ次元 dimH(X) は一致することもあれば、異なることもある[80]。例えば、線分の dimT(X) と dimH(X) は共に 1 で、正方形の dimT(X) と dimH(X) は共に 2 である[81]。このような単純な図形では dimT(X) と dimH(X) は一致するが、図形が複雑になると相異なってくる[81]。しかし一般的な関係として、任意の集合 X の位相次元とハウスドルフ次元は
という関係が成り立つ[80]。例えば、カントールの3進集合 C は dimH(C) = log 2/log 3 = 0.6309… だが、dimT(C) = 0 である[82]。
フラクタルの提唱者であるブノワ・マンデルブロ自身のフラクタルの定義は、ハウスドルフ次元が位相次元よりも高い集合(図形)がフラクタルとされる[83]。ただし、マンデルブロも述べているように、このフラクタルの定義は確定的ではない[84]。「フラクタル次元」という言葉はしばしば曖昧に用いられ、定義が与えられずに用いられたり、使う人によっては定義が異なったりするが[85]、一つの考え方としては非整数値を取る次元をフラクタル次元と呼ぶ[86][87]。マンデルブロはハウスドルフ次元のことをフラクタル次元と言い換えており[88]、文献によってはフラクタル次元とはハウスドルフ次元を指す[89]。
ボックス次元
ハウスドルフ次元は数値の具体的な計算が難しいという欠点がある[90]。これに対し、被覆する集合の直径を全て同じとしたのがボックス次元と呼ばれる次元で、ハウスドルフ次元よりも数学的には扱いにくいが計算は容易である[91]。ボックス次元には同値な定義がいくつかあるが[92]、集合 X に対して
とおいて、
が成り立つとき、dimB(X) を X のボックス次元という[93]。ここで、δ は X を被覆する開被覆の直径、Nδ(X) は X を被覆するのに必要な δ 開被覆の最小個数を表す[93]。ハウスドルフ次元とボックス次元には、一般的に
あるいは
という関係が成り立つ[94]。
相似次元
上記の#自己相似集合の場合に求められる次元 s は、相似次元とも呼ばれる[95]。相似次元は自己相似性の観点から得られる[96]。例えば、ある線分を 1/3 倍したコピーを考えると、元の線分はそのコピー 3 = 31 個から成り立っている。また、ある正方形を 1/3 倍したコピーを考えると、元の正方形はそのコピー 9 = 32 個から成り立っている。そして、ある立方体を 1/3 倍したコピーを考えると、元の立方体はそのコピー 27 = 33 個から成り立っている。線分、正方形、立方体のそれぞれの次元 1, 2, 3 は、コピーの個数の指数として現れている。これを一般化すると、c 倍したコピーを考えると元の図形はそのコピーの m 個から成り立つとき、次元 s と c と m のあいだには
という関係がある[97]。よって次元 s は
と定義でき、これを相似次元と呼ぶ[98]。
一般的な相似次元は、縮小写像の m 個の組 f1, f2, …, fm : ℝn → ℝn が与えられたときに、これに対応する自己相似集合に対して、それぞれの縮小率 ci (i = 1, 2, … m) から
を満たす s の正の値によって与えられる[99]。自己相似集合を X として、その相似次元を dimS(X) と表すとする。上記のとおり、縮小写像が相似縮小変換でなおかつ開集合条件を満たすとき、その自己相似集合のハウスドルフ次元と相似次元には
という関係がある[63]。また、相似縮小変換かつ開集合条件という条件を付与しない一般的な自己相似集合については、ハウスドルフ次元と相似次元の関係は次のようになる[99]。
出典
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- ^ 新井 2023, pp. 257–261.
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- ^ Falconer 2006, p. 286.
- ^ 松下 貢、2009、『フラクタルの物理(I)―基礎編―』第4版、裳華房〈裳華房フィジックスライブラリー〉 ISBN 978-4-7853-2208-3
- ^ ファルコナー 1989, pp. 206–207.
- ^ a b 山口・畑・木上 1993, p. 4; マンデルブロ 2011, p. 260.
- ^ 山口 1986, pp. 183–184; 石村・石村 1990, pp. 99–100.
- ^ マンデルブロ 2011, p. 260.
- ^ 新井 2023, pp. 266–267.
- ^ 石村・石村 1990, p. 98.
- ^ a b 山口・畑・木上 1993, p. 4.
- ^ a b 石村・石村 1990, p. 134.
- ^ 石村・石村 1990, pp. 98, 162–164.
- ^ 山口 1986, p. 149; マンデルブロ 2011, p. 258.
- ^ Falconer 2006, pp. xxvii; マンデルブロ 2011, p. 259.
- ^ Falconer 2006, pp. xxvii.
- ^ 本田 2002, p. 30.
- ^ 高安 秀樹・高安 美佐子、1988、『フラクタルって何だろう』、ダイヤモンド社 ISBN 4-478-83004-5 p. 51
- ^ B.マンデルブロ、広中 平祐(監訳)、2011、『フラクタル幾何学 上』、筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉 ISBN 978-4-480-09356-1 pp. 12, 41
- ^ 石村・石村 1990, p. 182; 山口 1986, p. 149.
- ^ 本田 2002, p. 42.
- ^ Falconer 2006, p. 60; 本田 2002, p. 42.
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- ^ a b 青木 2004, p. 37.
- ^ 青木 2004, p. 38; 山口・畑・木上 1993, p. 5.
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- ^ 本田 2002, p. 38.
- ^ 本田 2002, pp. 38–39.
- ^ 本田 2002, p. 39.
- ^ a b 山口・畑・木上 1993, p. 26.
参照文献
- Kenneth Falconer、服部 久美子・村井 浄信(訳)、2006、『フラクタル幾何学』、共立出版〈新しい解析学の流れ〉 ISBN 4-320-01801-X
- K.J.ファルコナー、畑 政義(訳)、1989、『フラクタル集合の幾何学』初版、近代科学社 ISBN 4-7649-1013-6
- 山口 昌哉・畑 政義・木上 淳、1993、『フラクタルの数理』初版、岩波書店〈岩波講座 応用数学1 [対象7]〉 ISBN 4-00-010511-6
- 本田 勝也、2002、『フラクタル』初版、朝倉書店〈シリーズ非線形科学入門1〉 ISBN 978-4-254-11611-3
- 石村 貞夫・石村 園子、1990、『フラクタル数学』初版、東京図書 ISBN 4-489-00332-3
- 青木 統夫、2004、『測度・エントロピー・フラクタル』初版、共立出版〈非線形解析III〉 ISBN 4-320-01773-0
- 山口 昌哉、1986、『カオスとフラクタル ―非線形の不思議―』、講談社〈ブルーバックス B-652〉 ISBN 4-06-132652-X
- B.マンデルブロ、広中 平祐(監訳)、2011、『フラクタル幾何学 下』、筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉 ISBN 978-4-480-09357-8
- 新井 仁之、2023、『ルベーグ積分講義 ―ルベーグ積分と面積0の不思議な図形たち―』改訂版、日本評論社 ISBN 978-4-535-78945-6
外部リンク
- Hausdorff dimension - Encyclopedia of Mathematics
- Hausdorff Dimension - MathWorld
- 掛谷予想とハウスドルフ次元:掛谷問題入門 No.3 - YouTube
- Hausdorff次元 - J-GLOBAL