「アレン (化学)」の版間の差分
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{{翻訳直後|[[:en:Special:Permalink/1142651081|en: Allenes]]|date=2023年3月}} |
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{{otheruses|アレン(Allene)|アレーン(Arene)|芳香族化合物}} |
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[[画像:Chiral sym CCCXYXY.svg|thumb|アレンの構造]] |
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[[ファイル:Allene.png|右|サムネイル|[[プロパジエン]]は最も単純なアレンであり、単にアレンと呼ばれることもある]] |
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[[画像:Propyl allene.png|thumb|最も単純なアレン、1,2-[[プロパジエン]]]] |
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[[有機化学]]において'''アレン'''({{Lang-en-short|Allene}})とは、隣接する2つの[[炭素]]原子の両方と[[二重結合]]する炭素原子を含む、すなわち、Rを[[水素|H]]もしくはなんらかの[[基|置換基]]として、化学式{{Chem2|R2C\dC\dCR2}}で表わされるような[[有機化合物]]をいう。'''集積[[ジエン]]'''({{Lang-en-short|cumulated diene}})とも呼ばれる。アレンの親化合物は、[[プロパジエン]]({{Chem2|H2C\dC\dCH2}})である。プロパジエンのことを指してアレンということもある。RをHもしくはなんらかの[[アルカン|アルキル基]]として、{{Chem2|R2C\dC\dCR\s}}のような置換基は'''アレニル基'''({{Lang-en-short|allenyl group}})と呼ばれる。 |
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[[Image:Allene3D.png|thumb|right|200px|1,2-プロパジエンの3D画像。]] |
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'''アレン''' (allene) は3個の炭素の間に2個の二重結合が連続した C=C=C の部分構造を持つ[[不飽和結合|不飽和化合物]]の総称である。[[不飽和結合#集積二重結合|集積二重結合化合物]]の一種。中心の炭素が[[電子不足]]であることから[[求核剤]]に対して高い反応性を持ち、さまざまな[[付加反応]]、[[環化付加反応]]を起こす。 |
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== 歴史 == |
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アレン構造の両端の[[炭素]]原子は sp<sup>2</sup>[[混成軌道]]の平面型、中心の炭素原子は sp混成軌道の直線型をとっている。 |
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長年にわたり、アレンは好奇心の対象とされることはあっても、合成上の用途は無く調製も保管も難しいと考えられていた<ref name=":2">{{Cite journal|last=Taylor|first=David R.|date=1967-06-01|title=The Chemistry of Allenes|url=https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/cr60247a004|journal=Chemical Reviews|volume=67|issue=3|pages=317–359|language=en|doi=10.1021/cr60247a004|issn=0009-2665}}</ref>。伝えられるところによれば<ref name=":1">{{Cite journal|last=Hoffmann-Röder|first=Anja|last2=Krause|first2=Norbert|date=2004-02-27|title=Synthesis and Properties of Allenic Natural Products and Pharmaceuticals|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.200300628|journal=Angewandte Chemie International Edition|volume=43|issue=10|pages=1196–1216|language=en|doi=10.1002/anie.200300628|issn=1433-7851|pmid=14991780}}</ref>、アレンとして初めて合成された{{仮リンク|グルチン酸|en|Penta-2,3-dienedioic acid}}は、アレンが存在しないことを示そうとして合成されたという<ref>{{Cite journal|last=Burton|first=B. S.|last2=von Pechmann|first2=H.|date=January 1887|title=Ueber die Einwirkung von Chlorphosphor auf Acetondicarbonsäureäther|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cber.18870200136|journal=Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft|volume=20|issue=1|pages=145–149|language=de|doi=10.1002/cber.18870200136}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Jones|first=E. R. H.|last2=Mansfield|first2=G. H.|last3=Whiting|first3=M. C.|date=1954|title=Researches on acetylenic compounds. Part XLVII. The prototropic rearrangements of some acetylenic dicarboxylic acids|url=http://xlink.rsc.org/?DOI=jr9540003208|journal=Journal of the Chemical Society (Resumed)|pages=3208–3212|language=en|doi=10.1039/jr9540003208|issn=0368-1769}}</ref>。1950年代から状況は変化しはじめ、2012年にはその年だけでも300報を超えるアレンに関する論文が発表された。アレンは中間体として興味深いだけではなく、それ自体が価値のある合成対象となっている。150種を超えるアレンもしくはクムレン部分構造を含む天然化合物が今までに知られている<ref name=":1" />。 |
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== 構造と物性 == |
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2個のπ結合が互いに直交していることから、両端の sp<sup>2</sup>炭素の結合平面も直交している。そのため両端炭素上で置換基がそれぞれ異なる(図、X≠Y)とき、[[キラリティー]]を示す。このように[[不斉炭素原子]]がないにもかかわらず、軸上のねじれによって誘起されたキラリティーを[[軸不斉]]と呼び、一対の[[光学異性体]]に分割することも可能である。これはアレンが合成される数十年前に[[ユストゥス・フォン・リービッヒ|リービッヒ]]が予言していた。詳しくは[[キラリティー]]の項を参照。 |
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=== 幾何構造 === |
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[[ファイル:Allene3D.png|右|サムネイル|プロパジエン(アレン)の3次元構造]] |
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アレンの中心炭素原子は2つの[[σ結合]]と2つの[[π結合]]を持つ。2つの末端炭素原子は[[混成軌道|sp<sup>2</sup>混成軌道]]を持つ。3つの炭素原子の結合角は180度であり、直線構造を成す。2つの末端炭素原子は平面構造をなし、それぞれの平面は90度ねじれた配置となる。この構造は[[メタン]]のような[[四面体形分子構造]]を「引き伸ばした」構造に似ているとみなすことができ、誘導体の立体化学分析はこのアナロジーを用いて行われる。 |
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=== 対称性 === |
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[[ファイル:Allene_symmetry.png|なし|300x300ピクセル]] |
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アレンの[[分子対称性]]と異性体は長年の間有機化学者たちを魅了してきた<ref>{{March6th}}</ref>。4つの同一置換基を持つアレンには、中心炭素原子を通り、2つの末端{{Chem2|CH2}}平面それぞれから45度傾いた2本の2回回転対称軸C<sub>2</sub>がある。したがって、この分子は2枚羽の[[プロペラ]]になぞらえて考えることができる。また、{{Chem2|1=C=C=C}}結合軸に沿った3つめの2回回転対称軸も持ち、2つの{{Chem2|CH2}}平面は両方とも鏡映対称面となっている。したがって、この分子の対称性は[[点群]]D<sub>2d</sub>に属する。この対称性のため、無置換アレンは総[[双極子]]モーメントを持たず、非極性分子である。 |
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{{Multiple image|align=left|image1=Allene chirality.png|width1=300|image2=Allenes_chirality_depiction.png|width2=300|footer=''R''配置と''S''配置は分子の軸部分に結合する置換基を、軸に沿って見たときの置換基の優先順位にしたがって決まる。手前側が奥側よりも優先され、最終的に優先順位2位と3位との相対配置により(したがって手前と奥との相対配置により)''R''配置か''S''配置かが決まる。}}{{Clear}}2つの炭素原子のそれぞれに異なる2つの置換基が結合した誘導体は、鏡映対称面がなくなるため[[キラリティー]]を持つ。この種のキラリティーは[[1875年]]に[[ヤコブス・ヘンリクス・ファント・ホッフ|ファント・ホッフ]]により予言されたが、実験的に実証されたのは[[1935年]]になってからである<ref>{{Cite journal|last=Maitland|first=Peter|last2=Mills|first2=W. H.|year=1935|title=Experimental Demonstration of the Allene Asymmetry|journal=Nature|volume=135|issue=3424|pages=994|bibcode=1935Natur.135Q.994M|doi=10.1038/135994a0}}</ref>。[[軸不斉]]配置を考える際には、[[カーン・インゴールド・プレローグ順位則]]に加えて、手前側原子に結合する置換基が奥側原子に結合する置換基よりも優先されるという規則が追加される。奥側の原子に結合する置換基は、優先順位の高い1つのみを考慮すれば十分である。 |
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キラリティーをもつアレンは、珍しいキラル光学特性をもつ有機材料の合成におけるビルディングブロックとして使われるようになっている<ref>{{Cite journal|last=Rivera Fuentes|first=Pablo|last2=Diederich|first2=François|date=2012|title=Allenes in Molecular Materials|journal=Angew. Chem. Int. Ed. Engl.|volume=51|issue=12|pages=2818–2828|doi=10.1002/anie.201108001|pmid=22308109}}</ref>。また、アレン系を部分構造としてもつ薬分子もいくつか知られている<ref>{{Cite journal|last=Celmer|first=Walter D.|last2=Solomons|first2=I. A.|date=1952|title=The Structure of the Antibiotic Mycomycin|url=https://doi.org/10.1021/ja01127a529|journal=Journal of the American Chemical Society|volume=74|issue=7|pages=1870–1871|doi=10.1021/ja01127a529|issn=0002-7863}}</ref>。抗[[結核]]性[[抗生物質]]の1つ、[[マイコマイシン]](Mycomycin)<ref>[https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Mycomycin Mycomycin], [[PubChem]]</ref>が典型的な例として挙げられる<ref>{{Cite journal|last=JENKINS|first=D E|date=1950|title=Mycomycin: a new antibiotic with tuberculostatic properties.|journal=J Lab Clin Med|volume=36|issue=5|pages=841–2|pmid=14784717}}</ref>。この薬はアレンに由来する軸不斉を持つ。 |
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教科書的には、アレンの結合は準局所的[[ヒュッケル法]]を用いて直交するπ軌道対として説明されるが、分子軌道全体を用いてさらに詳細に説明される。アレンのsymmetry-correct{{訳語疑問点|date=2023年3月}}(D<sub>2d</sub>点群に適合する)2重に縮退したHOMOは、直交する2つの分子軌道としても、直交する2つの分子軌道をねじれた螺旋型に線形結合をとったものとしても表わすことができる。系の対称性と軌道の縮退度から、これら2つの表現は(ベンゼンの2重に縮退したHOMOおよびLUMOの表現は無限に存在しどれも正しいのと同様に)どちらも正しいが、置換により縮退が解けた、たとえばC<sub>2</sub>対称な1,3ジメチルアレンの場合、HOMOおよびHOMO-1の記述としては螺旋型軌道が唯一のsymmetry-correctな描像となる<ref>{{Cite journal|last1=H. Hendon|first1=Christopher|last2=Tiana|first2=Davide|last3=T. Murray|first3=Alexander|last4=R. Carbery|first4=David|last5=Walsh|first5=Aron|date=2013|title=Helical frontier orbitals of conjugated linear molecules|journal=Chemical Science|volume=4|issue=11|pages=4278–4284|language=en|doi=10.1039/C3SC52061G|doi-access=free}}</ref><ref>{{Cite journal|last1=Garner|first1=Marc H.|last2=Hoffmann|first2=Roald|last3=Rettrup|first3=Sten|last4=Solomon|first4=Gemma C.|date=2018-06-27|title=Coarctate and Möbius: The Helical Orbitals of Allene and Other Cumulenes|url=|journal=ACS Central Science|volume=4|issue=6|pages=688–700|doi=10.1021/acscentsci.8b00086|issn=2374-7943|pmid=29974064|pmc=6026781|author-link4=Gemma Solomon}}</ref>。この定性的な分子軌道描像は奇数炭素クムレン(例:1,2,3,4-ペンタテトラエン)に一般化することができる。{{Clear}} |
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=== 化学的性質および分光物性 === |
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アレンの化学的性質は、他のアルケンとは大きく異なる。孤立ジエンや共役ジエンと比べ、アレンは非常に不安定である。ペンタジエンの生成エンタルピーの異性体による差を比較すると、アレンの1,2-ペンタジエンが{{Val|33.6|ul=kcal/mol}}、共役ジエンの(E)-[[ピペリレン|1,3-ペンタジエン]]が{{Val|18.1|u=kcal/mol}}、孤立ジエンの{{仮リンク|1,4-ペンタジエン|de|1,4-Pentadien}}では{{Val|25.4|u=kcal/mol}}となる<ref>{{Cite journal|last=Informatics|first=NIST Office of Data and|year=1997|title=Welcome to the NIST WebBook|url=https://webbook.nist.gov/index.html.en-us.en|language=en|accessdate=2020-10-17|doi=10.18434/T4D303}}</ref>。 |
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アレンのC–H結合は典型的な[[ビニル基]]におけるC-H結合に比べて弱く、より酸性が強く、アレンにおける[[結合解離エネルギー]]は{{Val|87.7|u=kcal/mol}}(エチレンでは{{Val|111|u=kcal/mol}})である。[[プロトン親和力]]は{{Val|381|u=kcal/mol}}(エチレンでは{{Val|409|u=kcal/mol}}<ref>{{Cite book |last=Alabugin |first=Igor V. |url=http://doi.wiley.com/10.1002/9781118906378 |title=Stereoelectronic Effects: A Bridge Between Structure and Reactivity |date=2016-09-19 |publisher=John Wiley & Sons, Ltd |isbn=978-1-118-90637-8 |location=Chichester, UK |language=en |doi=10.1002/9781118906378}}</ref>)であり[[プロパルギル基]]のC-H結合({{Val|382|u=kcal/mol}})よりもわずかに酸性度が高い。 |
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アレンの<sup>13</sup>C NMRスペクトルはsp混成炭素原子に由来する、{{Val|200|-|220|ul=ppm}}に位置するピークにより特徴づけられる。対照的に、sp<sup>2</sup>混成炭素原子に由来する信号は、典型的なアルキンやニトリル炭素原子の信号と重なる{{Val|80|u=ppm}}近辺にピークを持つ。アレンの末端CH<sub>2</sub>基のプロトンに由来するピークは{{Val|4.5|u=ppm}}と、典型的ビニル基のプロトンに比べて若干上に位置する<ref>{{Cite book |last=Pretsch, Ernö, 1942- |url=https://www.worldcat.org/oclc/405547697 |title=Structure determination of organic compounds : tables of spectral data |date=2009 |publisher=Springer |others=Bühlmann, P. (Philippe), 1964-, Badertscher, M. |isbn=978-3-540-93810-1 |edition=Fourth, Revised and Enlarged |location=Berlin |oclc=405547697}}</ref>。 |
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アレンはさまざまな[[環化付加反応]]を起こす。[4+2]環化付加反応と[2+2]環化付加反応のどちらも起こし得るし<ref>{{Cite journal|last=Alcaide|first=Benito|last2=Almendros|first2=Pedro|last3=Aragoncillo|first3=Cristina|date=2010-01-28|title=Exploiting [2+2] cycloaddition chemistry: achievements with allenes|url=https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2010/cs/b913749a|journal=Chemical Society Reviews|volume=39|issue=2|pages=783–816|language=en|doi=10.1039/B913749A|issn=1460-4744|pmid=20111793}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Pasto|first=Daniel J.|date=January 1984|title=Recent developments in allene chemistry|url=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S004040200191289X|journal=Tetrahedron|volume=40|issue=15|pages=2805–2827|language=en|doi=10.1016/S0040-4020(01)91289-X}}</ref>、遷移金属触媒下で形式的環化付加反応を起こすことも知られる<ref>{{Cite journal|last=Alcaide|first=Benito|last2=Almendros|first2=Pedro|date=August 2004|title=The Allenic Pauson−Khand Reaction in Synthesis|url=http://doi.wiley.com/10.1002/ejoc.200400023|journal=European Journal of Organic Chemistry|volume=2004|issue=16|pages=3377–3383|language=en|doi=10.1002/ejoc.200400023|issn=1434-193X}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Mascareñas|first=José L.|last2=Varela|first2=Iván|last3=López|first3=Fernando|date=2019-02-19|title=Allenes and Derivatives in Gold(I)- and Platinum(II)-Catalyzed Formal Cycloadditions|url=|journal=Accounts of Chemical Research|volume=52|issue=2|pages=465–479|language=en|doi=10.1021/acs.accounts.8b00567|issn=0001-4842|pmid=30640446|pmc=6497370}}</ref>。また、遷移金属触媒下で{{仮リンク|水素化官能化反応|en|Hydrofunctionalization}}の[[基質 (化学)|基質]]としても働く<ref>{{Cite journal|last=Zi|first=Weiwei|last2=Toste|first2=F. Dean|date=2016-08-08|title=Recent advances in enantioselective gold catalysis|url=https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2016/cs/c5cs00929d|journal=Chemical Society Reviews|volume=45|issue=16|pages=4567–4589|language=en|doi=10.1039/C5CS00929D|issn=1460-4744|pmid=26890605}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Lee|first=Mitchell|last2=Nguyen|first2=Mary|last3=Brandt|first3=Chance|last4=Kaminsky|first4=Werner|last5=Lalic|first5=Gojko|date=2017-12-04|title=Catalytic Hydroalkylation of Allenes|journal=Angewandte Chemie International Edition|volume=56|issue=49|pages=15703–15707|language=en|doi=10.1002/anie.201709144|pmid=29052303}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Kim|first=Seung Wook|last2=Meyer|first2=Cole C.|last3=Mai|first3=Binh Khanh|last4=Liu|first4=Peng|last5=Krische|first5=Michael J.|date=2019-10-04|title=Inversion of Enantioselectivity in Allene Gas versus Allyl Acetate Reductive Aldehyde Allylation Guided by Metal-Centered Stereogenicity: An Experimental and Computational Study|url=|journal=ACS Catalysis|volume=9|issue=10|pages=9158–9163|doi=10.1021/acscatal.9b03695|pmid=31857913|pmc=6921087}}</ref>。 |
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== 合成 == |
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アレンの合成には特殊な合成手法が必要となることが多いが、アレンの親化合物として、[[プロパジエン]]は[[プロピン|メチルアセチレン]]との平衡混合物から産業的に大規模生産されている。 |
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: <chem>H2C=C=CH2 <=> H3C-C#CH</chem> |
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この混合物は{{仮リンク|マップガス|en|MAPP gas}}の名称で市販されている。{{Val|298|ul=K}}におけるこの反応の[[ギブズエネルギー|{{Math|Δ''G''°}}]]は{{Val|-1.9|u=kcal/mol}}であり、{{Math|1=[[平衡定数|''K''{{sub|eq}}]] = 24.7}}に相当する<ref>{{Cite journal|last=Robinson|first=Marin S.|last2=Polak|first2=Mark L.|last3=Bierbaum|first3=Veronica M.|last4=DePuy|first4=Charles H.|last5=Lineberger|first5=W. C.|date=1995-06-01|title=Experimental Studies of Allene, Methylacetylene, and the Propargyl Radical: Bond Dissociation Energies, Gas-Phase Acidities, and Ion-Molecule Chemistry|url=https://doi.org/10.1021/ja00130a017|journal=Journal of the American Chemical Society|volume=117|issue=25|pages=6766–6778|doi=10.1021/ja00130a017|issn=0002-7863}}</ref>。 |
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初めて合成されたアレンは{{仮リンク|グルチン酸|en|Penta-2,3-dienedioic acid}}であり、[[1887年]]にBurtonおよびPechmannにより合成された。しかし、この構造が正しく同定されたのは[[1954年]]になってからである<ref>{{Cite journal|last=Jones|first=E. R. H.|last2=Mansfield|first2=G. H.|last3=Whiting|first3=M. C.|date=1954-01-01|title=Researches on acetylenic compounds. Part XLVII. The prototropic rearrangements of some acetylenic dicarboxylic acids|url=https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/1954/jr/jr9540003208|journal=Journal of the Chemical Society (Resumed)|pages=3208–3212|language=en|doi=10.1039/JR9540003208|issn=0368-1769}}</ref>。 |
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研究室スケールでアレンを合成する手法としては以下のようなものが挙げられる。 |
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* [[ジェミナル]]ジハロゲン化シクロプロパンと[[有機リチウム]]化合物(または金属[[ナトリウム]]および[[マグネシウム]])から、シクロプロピリデン[[カルベン]]および[[カルベン錯体|カルベノイド]]を経由した、{{仮リンク|Skattebøl 転位|en|Skattebøl rearrangement}}({{仮リンク|デーリング–ラフラム・アレン合成|en|Doering–LaFlamme allene synthesis}}) |
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* 特定の末端[[アルキン]]を[[ホルムアルデヒド]]、[[臭化銅(I)]]および塩基下で反応させる({{仮リンク|クラベ反応|en|Crabbé reaction|label=クラベ–マー・アレン合成}})<ref>{{OrgSynth|title=One-Step Homologation of Acetylenes to Allenes: 4-Hydroxynona-1,2-diene [1,2-Nonadien-4-ol]|last1=Crabbé|first1=Pierre|last2=Nassim|first2=Bahman|last3=Robert-Lopes|first3=Maria-Teresa|volume=63|doi=10.15227/orgsyn.063.0203}}</ref><ref>{{OrgSynth|title=Buta-2,3-dien-1-ol|first1=Hongwen|last1=Luo|first2=Dengke|last2=Ma|first3=Shengming|last3=Ma|doi=10.15227/orgsyn.094.0153}}</ref> |
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* ハロゲン化プロパルギルと有機[[クプラート]]のS<sub>N</sub>2′置換反応<ref>{{Cite journal|last=Yoshikai|first=Naohiko|last2=Nakamura|first2=Eiichi|date=2012-04-11|title=Mechanisms of Nucleophilic Organocopper(I) Reactions|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr200241f|journal=Chemical Reviews|volume=112|issue=4|pages=2339–2372|language=en|doi=10.1021/cr200241f|issn=0009-2665|pmid=22111574}}</ref> |
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* 特定の[[ハロゲン化物|ジハロゲン化物]]の{{仮リンク|脱ハロゲン化水素反応|en|Dehydrohalogenation}}<ref>{{OrgSynth|title=Allene|last1=Cripps|first1=H. N.|last2=Kiefer|first2=E. F.|volume=42|doi=10.15227/orgsyn.042.0012}}</ref> |
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* トリフェニルホスフィニルエステルと[[酸ハロゲン化物]]との、脱ハロゲン化水素反応を伴う[[ウィッティヒ反応]]<ref>{{Cite journal|last=Lang|first=Robert W.|last2=Hansen|first2=Hans-Jürgen|date=1980|title=Eine einfache Allencarbonsäureester-Synthese mittels der Wittig-Reaktion|journal=[[Helv. Chim. Acta]]|volume=63|issue=2|pages=438–455|doi=10.1002/hlca.19800630215}}</ref><ref>{{OrgSynth|title=α-Allenic Esters from α-Phosphoranylidene Esters and Acid Chlorides: Ethyl 2,3-Pentadienoate [2,3-Pentadienoic acid, ethyl ester]|last1=Lang|first1=Robert W.|last2=Hansen|first2=Hans-Jürgen|volume=62|doi=10.15227/orgsyn.062.0202}}</ref> |
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* [[プロパルギルアルコール]]を出発物質とする、[[立体特異性|立体特異的]]な{{仮リンク|マイヤーズ・アレン合成|en|Myers allene synthesis}} |
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* アレンもしくは置換アレンに[[n-ブチルリチウム]]をメタレーションさせたのち、[[求電子剤]](RX, R<sub>3</sub>SiX, D<sub>2</sub>O, etc.)と反応させる<ref>{{Cite journal|last=Michelot|first=Didier|last2=Clinet|first2=Jean-Claude|last3=Linstrumelle|first3=Gérard|date=1982-01-01|title=Allenyllithium Reagents (VI)1. A Highly Regioselective Metalation of Allenic Hydrocarbons2. A Route to Mono, DI, TRI or Tetrasubstituted Allenes|url=https://doi.org/10.1080/00397918208061912|journal=Synthetic Communications|volume=12|issue=10|pages=739–747|doi=10.1080/00397918208061912|issn=0039-7911}}</ref> |
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アレンの化学については様々な書籍<ref>{{Cite book |url=https://www.worldcat.org/oclc/501315951 |title=The chemistry of ketenes, allenes and related compounds. Part 1 |date=1980 |publisher=Wiley |others=Saul Patai |isbn=978-0-470-77160-0 |location=Chichester |oclc=501315951}}</ref><ref>{{Cite book |url=https://www.worldcat.org/oclc/520990503 |title=The chemistry of ketenes, allenes and related compounds. Part 2 |date=1980 |publisher=Wiley |others=Saul Patai |isbn=978-0-470-77161-7 |location=Chichester |oclc=520990503}}</ref><ref name=":10">{{Cite book |last=Brandsma |first=L. |url=https://www.worldcat.org/oclc/162570992 |title=Synthesis of acetylenes, allenes and cumulenes : methods and techniques |date=2004 |publisher=Elsevier |others=H. D. Verkruijsse |isbn=978-0-12-125751-4 |edition=1st |location=Amsterdam |oclc=162570992}}</ref>や雑誌論文<ref name=":2">{{Cite journal|last=Taylor|first=David R.|date=1967-06-01|title=The Chemistry of Allenes|url=https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/cr60247a004|journal=Chemical Reviews|volume=67|issue=3|pages=317–359|language=en|doi=10.1021/cr60247a004|issn=0009-2665}}</ref><ref name=":7">{{Cite journal|last=Pasto|first=Daniel J.|date=January 1984|title=Recent developments in allene chemistry|url=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S004040200191289X|journal=Tetrahedron|volume=40|issue=15|pages=2805–2827|language=en|doi=10.1016/S0040-4020(01)91289-X}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Zimmer|first=Reinhold|last2=Dinesh|first2=Chimmanamada U.|last3=Nandanan|first3=Erathodiyil|last4=Khan|first4=Faiz Ahmed|date=2000-08-01|title=Palladium-Catalyzed Reactions of Allenes|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr9902796|journal=Chemical Reviews|volume=100|issue=8|pages=3067–3126|language=en|doi=10.1021/cr9902796|issn=0009-2665|pmid=11749314}}</ref><ref name=":8">{{Cite journal|last=Ma|first=Shengming|date=2009-10-20|title=Electrophilic Addition and Cyclization Reactions of Allenes|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/ar900153r|journal=Accounts of Chemical Research|volume=42|issue=10|pages=1679–1688|language=en|doi=10.1021/ar900153r|issn=0001-4842|pmid=19603781}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Alcaide|first=Benito|last2=Almendros|first2=Pedro|last3=Aragoncillo|first3=Cristina|date=2010|title=Exploiting [2+2] cycloaddition chemistry: achievements with allenes|url=http://xlink.rsc.org/?DOI=B913749A|journal=Chem. Soc. Rev.|volume=39|issue=2|pages=783–816|language=en|doi=10.1039/B913749A|issn=0306-0012|pmid=20111793}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Pinho e Melo|first=Teresa M. V. D.|date=July 2011|title=Allenes as building blocks in heterocyclic chemistry|url=http://link.springer.com/10.1007/s00706-011-0505-7|journal=Monatshefte für Chemie - Chemical Monthly|volume=142|issue=7|pages=681–697|language=en|doi=10.1007/s00706-011-0505-7|issn=0026-9247}}</ref><ref>{{Cite journal|last=López|first=Fernando|last2=Mascareñas|first2=José Luis|date=2011-01-10|title=Allenes as Three‐Carbon Units in Catalytic Cycloadditions: New Opportunities with Transition‐Metal Catalysts|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/chem.201002366|journal=Chemistry – A European Journal|volume=17|issue=2|pages=418–428|language=en|doi=10.1002/chem.201002366|issn=0947-6539|pmid=21207554}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Aubert|first=Corinne|last2=Fensterbank|first2=Louis|last3=Garcia|first3=Pierre|last4=Malacria|first4=Max|last5=Simonneau|first5=Antoine|date=2011-03-09|title=Transition Metal Catalyzed Cycloisomerizations of 1, n -Allenynes and -Allenenes|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr100376w|journal=Chemical Reviews|volume=111|issue=3|pages=1954–1993|language=en|doi=10.1021/cr100376w|issn=0009-2665|pmid=21391568}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Krause|first=Norbert|last2=Winter|first2=Christian|date=2011-03-09|title=Gold-Catalyzed Nucleophilic Cyclization of Functionalized Allenes: A Powerful Access to Carbo- and Heterocycles|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr1004088|journal=Chemical Reviews|volume=111|issue=3|pages=1994–2009|language=en|doi=10.1021/cr1004088|issn=0009-2665|pmid=21314182}}</ref>が書かれている。アレンの合成にむけたキーアプローチのうちいくつかをまとめた図を以下に示す<ref name=":3">{{Cite journal|last=Sydnes|first=Leiv K.|date=2003-04-01|title=Allenes from Cyclopropanes and Their Use in Organic SynthesisRecent Developments|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr010025w|journal=Chemical Reviews|volume=103|issue=4|pages=1133–1150|language=en|doi=10.1021/cr010025w|issn=0009-2665|pmid=12683779}}</ref><ref name=":4">{{Cite journal|last=Brummond|first=Kay|author-link=Kay Brummond|last2=DeForrest|first2=Jolie|date=March 2007|title=Synthesizing Allenes Today (1982-2006)|url=http://www.thieme-connect.de/DOI/DOI?10.1055/s-2007-965963|journal=Synthesis|volume=2007|issue=6|pages=795–818|language=en|doi=10.1055/s-2007-965963|issn=0039-7881}}</ref><ref name=":5">{{Cite journal|last=Yu|first=Shichao|last2=Ma|first2=Shengming|date=2011|title=How easy are the syntheses of allenes?|url=http://xlink.rsc.org/?DOI=C0CC05640E|journal=Chemical Communications|volume=47|issue=19|pages=5384–5418|language=en|doi=10.1039/C0CC05640E|issn=1359-7345|pmid=21409186}}</ref><ref name=":6">{{Cite journal|last=Tejedor|first=David|last2=Méndez-Abt|first2=Gabriela|last3=Cotos|first3=Leandro|last4=García-Tellado|first4=Fernando|date=2013|title=Propargyl Claisen rearrangement: allene synthesis and beyond|url=http://xlink.rsc.org/?DOI=C2CS35311C|journal=Chem. Soc. Rev.|volume=42|issue=2|pages=458–471|language=en|doi=10.1039/C2CS35311C|issn=0306-0012|pmid=23034723}}</ref>。 |
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[[ファイル:Overview_common_allene_syntheses_Zhurakovskyi.svg]] |
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このなかでも古いものの1つがSkattebøl転位<ref name=":3">{{Cite journal|last=Sydnes|first=Leiv K.|date=2003-04-01|title=Allenes from Cyclopropanes and Their Use in Organic SynthesisRecent Developments|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr010025w|journal=Chemical Reviews|volume=103|issue=4|pages=1133–1150|language=en|doi=10.1021/cr010025w|issn=0009-2665|pmid=12683779}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Skattebøl|first=Lars|last2=Nilsson|first2=Martin|last3=Lindberg|first3=Bengt|last4=McKay|first4=James|last5=Munch-Petersen|first5=Jon|date=1963|title=The Synthesis of Allenes from 1,1-Dihalocyclopropane Derivatives and Alkyllithium.|url=http://actachemscand.org/doi/10.3891/acta.chem.scand.17-1683|journal=Acta Chemica Scandinavica|volume=17|pages=1683–1693|language=en|doi=10.3891/acta.chem.scand.17-1683|issn=0904-213X}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Moore|first=William R.|last2=Ward|first2=Harold R.|date=December 1962|title=The Formation of Allenes from gem-Dihalocyclopropanes by Reaction with Alkyllithium Reagents 1,2|url=https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jo01059a013|journal=The Journal of Organic Chemistry|volume=27|issue=12|pages=4179–4181|language=en|doi=10.1021/jo01059a013|issn=0022-3263}}</ref>(デーリング–ムーア–Skattebøl転位もしくはデーリング–ラフラム転位とも<ref>{{Cite journal|last=Fedoryński|first=Michał|date=2003-04-01|title=Syntheses of gem -Dihalocyclopropanes and Their Use in Organic Synthesis|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr0100087|journal=Chemical Reviews|volume=103|issue=4|pages=1099–1132|language=en|doi=10.1021/cr0100087|issn=0009-2665|pmid=12683778}}</ref><ref>{{Cite book |last=Kurti |first=Laszlo |url=https://www.worldcat.org/oclc/850164343 |title=Strategic Applications of Named Reactions in Organic Synthesis : Background and Detailed Mechanisms. |date=2005 |publisher=Elsevier Science |others=Barbara Czako |isbn=978-0-08-057541-4 |location=Burlington |pages=758 |oclc=850164343}}</ref>)であり、ジェミナルジハロゲン化シクロプロパン'''3'''を有機リチウム化合物(もしくは溶解しつつある金属)で処理して生じるといわれる中間体が転位反応をおこし、カルベン様化学種を経て直接アレンに転位する。この手法によれば、ゆがんだアレンをも得ることができる<ref>{{Cite journal|last=Shi|first=Min|last2=Shao|first2=Li-Xiong|last3=Lu|first3=Jian-Mei|last4=Wei|first4=Yin|last5=Mizuno|first5=Kazuhiko|last6=Maeda|first6=Hajime|date=2010-10-13|title=Chemistry of Vinylidenecyclopropanes|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr900381k|journal=Chemical Reviews|volume=110|issue=10|pages=5883–5913|language=en|doi=10.1021/cr900381k|issn=0009-2665|pmid=20518460}}</ref>。性質の異なる[[脱離基]]のかかわる変種も知られる<ref name=":3" />。おそらく現代では、プロパルギル基質からの[[シグマトロピー転位]]がもっとも簡便なアレン合成であろう<ref name=":4">{{Cite journal|last=Brummond|first=Kay|author-link=Kay Brummond|last2=DeForrest|first2=Jolie|date=March 2007|title=Synthesizing Allenes Today (1982-2006)|url=http://www.thieme-connect.de/DOI/DOI?10.1055/s-2007-965963|journal=Synthesis|volume=2007|issue=6|pages=795–818|language=en|doi=10.1055/s-2007-965963|issn=0039-7881}}</ref><ref name=":5">{{Cite journal|last=Yu|first=Shichao|last2=Ma|first2=Shengming|date=2011|title=How easy are the syntheses of allenes?|url=http://xlink.rsc.org/?DOI=C0CC05640E|journal=Chemical Communications|volume=47|issue=19|pages=5384–5418|language=en|doi=10.1039/C0CC05640E|issn=1359-7345|pmid=21409186}}</ref><ref name=":6">{{Cite journal|last=Tejedor|first=David|last2=Méndez-Abt|first2=Gabriela|last3=Cotos|first3=Leandro|last4=García-Tellado|first4=Fernando|date=2013|title=Propargyl Claisen rearrangement: allene synthesis and beyond|url=http://xlink.rsc.org/?DOI=C2CS35311C|journal=Chem. Soc. Rev.|volume=42|issue=2|pages=458–471|language=en|doi=10.1039/C2CS35311C|issn=0306-0012|pmid=23034723}}</ref>。ケテン[[アセタール]]'''4'''のジョンソン–クライゼン転位<ref name=":6" />およびアイルランド–クライゼン転位<ref>{{Cite journal|last=Ireland|first=Robert E.|last2=Mueller|first2=Richard H.|last3=Willard|first3=Alvin K.|date=May 1976|title=The ester enolate Claisen rearrangement. Stereochemical control through stereoselective enolate formation|url=https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja00426a033|journal=Journal of the American Chemical Society|volume=98|issue=10|pages=2868–2877|language=en|doi=10.1021/ja00426a033|issn=0002-7863}}</ref>はアレンエステルおよび酸を調製するためにしばしば用いられる。Saucy–Marbet転位反応により、ビニルエステル'''5'''からはアレンアルデヒドを得ることができ<ref>{{Cite journal|last=Kurtz|first=Kimberly C.M.|last2=Frederick|first2=Michael O.|last3=Lambeth|first3=Robert H.|last4=Mulder|first4=Jason A.|last5=Tracey|first5=Michael R.|last6=Hsung|first6=Richard P.|date=April 2006|title=Synthesis of chiral allenes from ynamides through a highly stereoselective Saucy–Marbet rearrangement|url=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0040402006001268|journal=Tetrahedron|volume=62|issue=16|pages=3928–3938|language=en|doi=10.1016/j.tet.2005.11.087}}</ref>スルフェン酸プロパルギル'''6'''からはアレン[[スルホキシド]]が得られる<ref>{{Cite journal|last=Mukai|first=Chisato|last2=Kobayashi|first2=Minoru|last3=Kubota|first3=Shoko|last4=Takahashi|first4=Yukie|last5=Kitagaki|first5=Shinji|date=March 2004|title=Construction of Azacycles Based on Endo-Mode Cyclization of Allenes|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jo035729f|journal=The Journal of Organic Chemistry|volume=69|issue=6|pages=2128–2136|language=en|doi=10.1021/jo035729f|issn=0022-3263|pmid=15058962}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Mukai|first=Chisato|last2=Ohta|first2=Masaru|last3=Yamashita|first3=Haruhisa|last4=Kitagaki|first4=Shinji|date=October 2004|title=Base-Catalyzed Endo-Mode Cyclization of Allenes: Easy Preparation of Five- to Nine-Membered Oxacycles|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jo0488614|journal=The Journal of Organic Chemistry|volume=69|issue=20|pages=6867–6873|language=en|doi=10.1021/jo0488614|issn=0022-3263|pmid=15387613}}</ref>。'''9'''および'''10'''(求核剤Nu<sup>−</sup>はたとえばハロゲン化物イオン)からの[[求核置換反応]]や、'''8'''からの1,2-[[脱離反応]]、'''7'''からのプロトン転移などによってもアレンを調製することができ、他にもあまり一般的でない手法はさまざまある<ref name=":4" /><ref name=":5" />。 |
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== 用途および分布 == |
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=== 用途 === |
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アレンは反応性に富み、さまざまな発見への扉を開いた<ref name=":72">{{Cite journal|last=Pasto|first=Daniel J.|date=January 1984|title=Recent developments in allene chemistry|url=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S004040200191289X|journal=Tetrahedron|volume=40|issue=15|pages=2805–2827|language=en|doi=10.1016/S0040-4020(01)91289-X}}</ref><ref name=":82">{{Cite journal|last=Ma|first=Shengming|date=2009-10-20|title=Electrophilic Addition and Cyclization Reactions of Allenes|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/ar900153r|journal=Accounts of Chemical Research|volume=42|issue=10|pages=1679–1688|language=en|doi=10.1021/ar900153r|issn=0001-4842|pmid=19603781}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Yu|first=Shichao|last2=Ma|first2=Shengming|date=2012-03-26|title=Allenes in Catalytic Asymmetric Synthesis and Natural Product Syntheses|url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201101460|journal=Angewandte Chemie International Edition|volume=51|issue=13|pages=3074–3112|language=en|doi=10.1002/anie.201101460|pmid=22271630}}</ref><ref name=":9">{{Cite journal|last=Ma|first=Shengming|date=2005-07-01|title=Some Typical Advances in the Synthetic Applications of Allenes|url=https://pubs.acs.org/doi/10.1021/cr020024j|journal=Chemical Reviews|volume=105|issue=7|pages=2829–2872|language=en|doi=10.1021/cr020024j|issn=0009-2665|pmid=16011326}}</ref>。2つの[[π結合]]は互いに90°ねじれて位置するので、反応試薬は若干異なる方向から近付く必要がある。ファントホッフが1875年に予測したとおり、アレンは適切な置換パターンのもとで軸性キラリティーを示す。このような化合物は広く調べられている<ref name=":9" />。アレンのプロトン化により得られるカチオン'''11'''はさらなる変換を受ける<ref>{{Cite book |last=Fleming |first=Ian |url=https://www.worldcat.org/oclc/607520014 |title=Molecular orbitals and organic chemical reactions |date=2010 |publisher=Wiley |isbn=978-0-470-68949-3 |edition=Reference |location=Hoboken, N.J. |pages=526 |oclc=607520014}}</ref>。[[HSAB則|軟らかい]]求電子剤(e.g. Br<sup>+</sup>)との反応により、正に帯電した[[オニウム化合物|オニウムイオン]]'''13'''が生じる<ref name=":102">{{Cite book |last=Brandsma |first=L. |url=https://www.worldcat.org/oclc/162570992 |title=Synthesis of acetylenes, allenes and cumulenes : methods and techniques |date=2004 |publisher=Elsevier |others=H. D. Verkruijsse |isbn=978-0-12-125751-4 |edition=1st |location=Amsterdam |oclc=162570992}}</ref>。遷移金属触媒下で、アレル性の中間体'''15'''を経る反応は、近年大きな注目を集めている<ref>{{Cite journal|last=Ma|first=Shengming|date=2006-01-01|title=Transition-metal-catalyzed reactions of allenes|url=https://www.degruyter.com/document/doi/10.1351/pac200678020197/html|journal=Pure and Applied Chemistry|volume=78|issue=2|pages=197–208|doi=10.1351/pac200678020197|issn=1365-3075}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Bates|first=Roderick W.|last2=Satcharoen|first2=Vachiraporn|date=2002-03-06|title=Nucleophilic transition metal based cyclization of allenes|url=http://xlink.rsc.org/?DOI=b103904k|journal=Chemical Society Reviews|volume=31|issue=1|pages=12–21|doi=10.1039/b103904k|pmid=12108979}}</ref>。'''12'''を与える[4+2]-環化付加反応、'''14'''を与える(2+1)-環化付加反応、'''16'''を与える[2+2]-環化付加反応など、様々な環化付加反応が知られている<ref name=":72" /><ref>{{Cite journal|last=Cherney|first=Emily C.|last2=Green|first2=Jason C.|last3=Baran|first3=Phil S.|date=2013-08-19|title=Synthesis of ent -Kaurane and Beyerane Diterpenoids by Controlled Fragmentations of Overbred Intermediates|journal=Angewandte Chemie International Edition|volume=52|issue=34|pages=9019–9022|language=en|doi=10.1002/anie.201304609|pmid=23861294|pmc=3814173}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Wiesner|first=K.|date=August 1975|title=On the stereochemistry of photoaddition between α,β-unsaturated ketones and olefins|url=https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/0040402075850824|journal=Tetrahedron|volume=31|issue=15|pages=1655–1658|language=en|doi=10.1016/0040-4020(75)85082-4}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Rahman|first=W.|last2=Kuivila|first2=Henry G.|date=March 1966|title=Synthesis of Some Alkylidenecyclopropanes from Allenes 1|url=https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jo01341a029|journal=The Journal of Organic Chemistry|volume=31|issue=3|pages=772–776|language=en|doi=10.1021/jo01341a029|issn=0022-3263}}</ref>。 |
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[[ファイル:Overview_allene_reactivity_Zhurakovskyi.svg]] |
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=== 分布 === |
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[[ファイル:Fucoxanthin.svg|サムネイル|422x422ピクセル|[[カロテノイド]]の中でも最も広くみられる[[フコキサンチン]]。カロテノイドは[[褐藻]]の[[葉緑体]]にみられる[[色素]]であり、褐藻の茶色〜オリーブ色の原因となっている。]] |
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数多くの自然物質にアレン官能基が含まれている。その中でも、[[フコキサンチン]]と[[ペリジニン]]の2つの色素は特筆に値する。その[[生合成]]過程はあまりわかっていないが、アルキン前駆体から生成されるという仮説がある<ref>{{Cite book |title=Modern Allene Chemistry |chapter=18. Allenic Natural Products and Pharmaceuticals |first=Norbert |last=Krause |first2=Anja |last2=Hoffmann‐Röder |editor-first=Norbert |editor-last=Krause |editor2-first=A. Stephen K. |editor2-last=Hashmi |year=2004 |pages=997–1040 |doi=10.1002/9783527619573.ch18 |isbn=9783527619573}}</ref>。 |
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アレンは[[有機金属化学]]における[[配位子]]としてもはたらく。典型的な[[錯体]]としてPt([[ハプト数|η<sup>2</sup>]]-アレン)(PPh<sub>3</sub>)<sub>2</sub>が挙げられる。Ni(0)試薬はアレンの環化重合反応を触媒する<ref>Otsuka, Sei; Nakamura, Akira "Acetylene and allene complexes: their implication in homogeneous catalysis" Advances in Organometallic Chemistry 1976, volume 14, pp. 245-83. {{Doi|10.1016/S0065-3055(08)60654-1}}.</ref>。適切な触媒(例:[[ウィルキンソン触媒]])を使うことにより、アレンの2重結合のうち1つだけを還元することも可能である<ref>{{Cite journal|last=Bhagwat|first=M. M.|last2=Devaprabhakara|first2=D.|year=1972|title=Selective hydrogenation of allenes with chlorotris-(triphenylphosphine) rhodium catalyst|journal=[[Tetrahedron Letters]]|volume=13|issue=15|pages=1391–1392|doi=10.1016/S0040-4039(01)84636-0}}</ref>。 |
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== δ慣習法 == |
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多くの環状化合物は、集積的でない結合の最大数を前提とした半系統的命名法で名付けられている。集積的な結合を含む(したがって骨格から予想されるより水素が少ない)誘導体を曖昧さなく特定するために、ある原子がもつ集積2重結合の数を上付き数字として添えた小文字のδを使い、例えば8δ<sup>2</sup>-ベンゾシクロノネンのように命名することがある。λ慣習法と組み合わせて、例えば[[チエノチオフェン|2λ<sup>4</sup>δ<sup>2</sup>,5λ<sup>4</sup>δ<sup>2</sup>-チエノ[3,4-c]チオフェン]]のように非標準的な価数状態をもつ化合物を表わすこともできる<ref>{{Cite journal|year=1988|title=Nomenclature for cyclic organic compounds with contiguous formal double bonds (the δ-convention)|url=http://www.chem.qmul.ac.uk/iupac/hetero/De.html|journal=Pure Appl. Chem.|volume=60|page=1395-1401|doi=10.1351/pac198860091395}}</ref>。 |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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* [[ジエン]] - 集積しているかどうかを問わず2重結合を2本もつ化合物 |
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* [[ケテン]] |
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* [[ケテン]] - {{Chem2|1=R2C=C=O}}の一般式で表わされる、集積2重結合をもつ化合物 |
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This article incorporates text by Oleksandr Zhurakovskyi available under the CC BY 2.5 license. |
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== 関連書籍== |
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* Brummond, Kay M. (editor). ''[http://www.beilstein-journals.org/bjoc/browse/singleSeries.htm?sn=14 Allene chemistry]'' (special thematic issue). ''Beilstein Journal of Organic Chemistry'' '''7''': 394–943. |
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== 外部リンク == |
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* [https://www.organic-chemistry.org/synthesis/C1C/chains/allenes.shtm Synthesis of allenes] |
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2023年3月22日 (水) 10:41時点における版
この項目「アレン (化学)」は翻訳されたばかりのものです。不自然あるいは曖昧な表現などが含まれる可能性があり、このままでは読みづらいかもしれません。(原文:en: Allenes) 修正、加筆に協力し、現在の表現をより自然な表現にして下さる方を求めています。ノートページや履歴も参照してください。(2023年3月) |
有機化学においてアレン(英: Allene)とは、隣接する2つの炭素原子の両方と二重結合する炭素原子を含む、すなわち、RをHもしくはなんらかの置換基として、化学式R
2C=C=CR
2で表わされるような有機化合物をいう。集積ジエン(英: cumulated diene)とも呼ばれる。アレンの親化合物は、プロパジエン(H
2C=C=CH
2)である。プロパジエンのことを指してアレンということもある。RをHもしくはなんらかのアルキル基として、R
2C=C=CR–のような置換基はアレニル基(英: allenyl group)と呼ばれる。
歴史
長年にわたり、アレンは好奇心の対象とされることはあっても、合成上の用途は無く調製も保管も難しいと考えられていた[1]。伝えられるところによれば[2]、アレンとして初めて合成されたグルチン酸は、アレンが存在しないことを示そうとして合成されたという[3][4]。1950年代から状況は変化しはじめ、2012年にはその年だけでも300報を超えるアレンに関する論文が発表された。アレンは中間体として興味深いだけではなく、それ自体が価値のある合成対象となっている。150種を超えるアレンもしくはクムレン部分構造を含む天然化合物が今までに知られている[2]。
構造と物性
幾何構造
アレンの中心炭素原子は2つのσ結合と2つのπ結合を持つ。2つの末端炭素原子はsp2混成軌道を持つ。3つの炭素原子の結合角は180度であり、直線構造を成す。2つの末端炭素原子は平面構造をなし、それぞれの平面は90度ねじれた配置となる。この構造はメタンのような四面体形分子構造を「引き伸ばした」構造に似ているとみなすことができ、誘導体の立体化学分析はこのアナロジーを用いて行われる。
対称性
アレンの分子対称性と異性体は長年の間有機化学者たちを魅了してきた[5]。4つの同一置換基を持つアレンには、中心炭素原子を通り、2つの末端CH
2平面それぞれから45度傾いた2本の2回回転対称軸C2がある。したがって、この分子は2枚羽のプロペラになぞらえて考えることができる。また、C=C=C結合軸に沿った3つめの2回回転対称軸も持ち、2つのCH
2平面は両方とも鏡映対称面となっている。したがって、この分子の対称性は点群D2dに属する。この対称性のため、無置換アレンは総双極子モーメントを持たず、非極性分子である。
2つの炭素原子のそれぞれに異なる2つの置換基が結合した誘導体は、鏡映対称面がなくなるためキラリティーを持つ。この種のキラリティーは1875年にファント・ホッフにより予言されたが、実験的に実証されたのは1935年になってからである[6]。軸不斉配置を考える際には、カーン・インゴールド・プレローグ順位則に加えて、手前側原子に結合する置換基が奥側原子に結合する置換基よりも優先されるという規則が追加される。奥側の原子に結合する置換基は、優先順位の高い1つのみを考慮すれば十分である。
キラリティーをもつアレンは、珍しいキラル光学特性をもつ有機材料の合成におけるビルディングブロックとして使われるようになっている[7]。また、アレン系を部分構造としてもつ薬分子もいくつか知られている[8]。抗結核性抗生物質の1つ、マイコマイシン(Mycomycin)[9]が典型的な例として挙げられる[10]。この薬はアレンに由来する軸不斉を持つ。
教科書的には、アレンの結合は準局所的ヒュッケル法を用いて直交するπ軌道対として説明されるが、分子軌道全体を用いてさらに詳細に説明される。アレンのsymmetry-correct[訳語疑問点](D2d点群に適合する)2重に縮退したHOMOは、直交する2つの分子軌道としても、直交する2つの分子軌道をねじれた螺旋型に線形結合をとったものとしても表わすことができる。系の対称性と軌道の縮退度から、これら2つの表現は(ベンゼンの2重に縮退したHOMOおよびLUMOの表現は無限に存在しどれも正しいのと同様に)どちらも正しいが、置換により縮退が解けた、たとえばC2対称な1,3ジメチルアレンの場合、HOMOおよびHOMO-1の記述としては螺旋型軌道が唯一のsymmetry-correctな描像となる[11][12]。この定性的な分子軌道描像は奇数炭素クムレン(例:1,2,3,4-ペンタテトラエン)に一般化することができる。
化学的性質および分光物性
アレンの化学的性質は、他のアルケンとは大きく異なる。孤立ジエンや共役ジエンと比べ、アレンは非常に不安定である。ペンタジエンの生成エンタルピーの異性体による差を比較すると、アレンの1,2-ペンタジエンが33.6 kcal/mol、共役ジエンの(E)-1,3-ペンタジエンが18.1 kcal/mol、孤立ジエンの1,4-ペンタジエンでは25.4 kcal/molとなる[13]。
アレンのC–H結合は典型的なビニル基におけるC-H結合に比べて弱く、より酸性が強く、アレンにおける結合解離エネルギーは87.7 kcal/mol(エチレンでは111 kcal/mol)である。プロトン親和力は381 kcal/mol(エチレンでは409 kcal/mol[14])でありプロパルギル基のC-H結合(382 kcal/mol)よりもわずかに酸性度が高い。
アレンの13C NMRスペクトルはsp混成炭素原子に由来する、200–220 ppmに位置するピークにより特徴づけられる。対照的に、sp2混成炭素原子に由来する信号は、典型的なアルキンやニトリル炭素原子の信号と重なる80 ppm近辺にピークを持つ。アレンの末端CH2基のプロトンに由来するピークは4.5 ppmと、典型的ビニル基のプロトンに比べて若干上に位置する[15]。
アレンはさまざまな環化付加反応を起こす。[4+2]環化付加反応と[2+2]環化付加反応のどちらも起こし得るし[16][17]、遷移金属触媒下で形式的環化付加反応を起こすことも知られる[18][19]。また、遷移金属触媒下で水素化官能化反応の基質としても働く[20][21][22]。
合成
アレンの合成には特殊な合成手法が必要となることが多いが、アレンの親化合物として、プロパジエンはメチルアセチレンとの平衡混合物から産業的に大規模生産されている。
この混合物はマップガスの名称で市販されている。298 Kにおけるこの反応のΔG°は−1.9 kcal/molであり、Keq = 24.7に相当する[23]。
初めて合成されたアレンはグルチン酸であり、1887年にBurtonおよびPechmannにより合成された。しかし、この構造が正しく同定されたのは1954年になってからである[24]。
研究室スケールでアレンを合成する手法としては以下のようなものが挙げられる。
- ジェミナルジハロゲン化シクロプロパンと有機リチウム化合物(または金属ナトリウムおよびマグネシウム)から、シクロプロピリデンカルベンおよびカルベノイドを経由した、Skattebøl 転位(デーリング–ラフラム・アレン合成)
- 特定の末端アルキンをホルムアルデヒド、臭化銅(I)および塩基下で反応させる(クラベ–マー・アレン合成)[25][26]
- ハロゲン化プロパルギルと有機クプラートのSN2′置換反応[27]
- 特定のジハロゲン化物の脱ハロゲン化水素反応[28]
- トリフェニルホスフィニルエステルと酸ハロゲン化物との、脱ハロゲン化水素反応を伴うウィッティヒ反応[29][30]
- プロパルギルアルコールを出発物質とする、立体特異的なマイヤーズ・アレン合成
- アレンもしくは置換アレンにn-ブチルリチウムをメタレーションさせたのち、求電子剤(RX, R3SiX, D2O, etc.)と反応させる[31]
アレンの化学については様々な書籍[32][33][34]や雑誌論文[1][35][36][37][38][39][40][41][42]が書かれている。アレンの合成にむけたキーアプローチのうちいくつかをまとめた図を以下に示す[43][44][45][46]。
このなかでも古いものの1つがSkattebøl転位[43][47][48](デーリング–ムーア–Skattebøl転位もしくはデーリング–ラフラム転位とも[49][50])であり、ジェミナルジハロゲン化シクロプロパン3を有機リチウム化合物(もしくは溶解しつつある金属)で処理して生じるといわれる中間体が転位反応をおこし、カルベン様化学種を経て直接アレンに転位する。この手法によれば、ゆがんだアレンをも得ることができる[51]。性質の異なる脱離基のかかわる変種も知られる[43]。おそらく現代では、プロパルギル基質からのシグマトロピー転位がもっとも簡便なアレン合成であろう[44][45][46]。ケテンアセタール4のジョンソン–クライゼン転位[46]およびアイルランド–クライゼン転位[52]はアレンエステルおよび酸を調製するためにしばしば用いられる。Saucy–Marbet転位反応により、ビニルエステル5からはアレンアルデヒドを得ることができ[53]スルフェン酸プロパルギル6からはアレンスルホキシドが得られる[54][55]。9および10(求核剤Nu−はたとえばハロゲン化物イオン)からの求核置換反応や、8からの1,2-脱離反応、7からのプロトン転移などによってもアレンを調製することができ、他にもあまり一般的でない手法はさまざまある[44][45]。
用途および分布
用途
アレンは反応性に富み、さまざまな発見への扉を開いた[56][57][58][59]。2つのπ結合は互いに90°ねじれて位置するので、反応試薬は若干異なる方向から近付く必要がある。ファントホッフが1875年に予測したとおり、アレンは適切な置換パターンのもとで軸性キラリティーを示す。このような化合物は広く調べられている[59]。アレンのプロトン化により得られるカチオン11はさらなる変換を受ける[60]。軟らかい求電子剤(e.g. Br+)との反応により、正に帯電したオニウムイオン13が生じる[61]。遷移金属触媒下で、アレル性の中間体15を経る反応は、近年大きな注目を集めている[62][63]。12を与える[4+2]-環化付加反応、14を与える(2+1)-環化付加反応、16を与える[2+2]-環化付加反応など、様々な環化付加反応が知られている[56][64][65][66]。
分布
数多くの自然物質にアレン官能基が含まれている。その中でも、フコキサンチンとペリジニンの2つの色素は特筆に値する。その生合成過程はあまりわかっていないが、アルキン前駆体から生成されるという仮説がある[67]。
アレンは有機金属化学における配位子としてもはたらく。典型的な錯体としてPt(η2-アレン)(PPh3)2が挙げられる。Ni(0)試薬はアレンの環化重合反応を触媒する[68]。適切な触媒(例:ウィルキンソン触媒)を使うことにより、アレンの2重結合のうち1つだけを還元することも可能である[69]。
δ慣習法
多くの環状化合物は、集積的でない結合の最大数を前提とした半系統的命名法で名付けられている。集積的な結合を含む(したがって骨格から予想されるより水素が少ない)誘導体を曖昧さなく特定するために、ある原子がもつ集積2重結合の数を上付き数字として添えた小文字のδを使い、例えば8δ2-ベンゾシクロノネンのように命名することがある。λ慣習法と組み合わせて、例えば2λ4δ2,5λ4δ2-チエノ[3,4-c]チオフェンのように非標準的な価数状態をもつ化合物を表わすこともできる[70]。
関連項目
- ジエン - 集積しているかどうかを問わず2重結合を2本もつ化合物
- ケテン - R
2C=C=Oの一般式で表わされる、集積2重結合をもつ化合物 - クムレン - 3本以上の2重結合が集積した構造を持つ化合物
- アリル化合物(allyl compound) - -CH2CH=CH2の構造をもつ化合物。語源は同一だが同一構造ではない。
出典
This article incorporates text by Oleksandr Zhurakovskyi available under the CC BY 2.5 license.
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関連書籍
- Brummond, Kay M. (editor). Allene chemistry (special thematic issue). Beilstein Journal of Organic Chemistry 7: 394–943.