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「核果」の版間の差分

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[[ファイル:Drupe fruit diagram-en.svg|250px|thumb|[[モモ]]を用いた核果のモデル。]]
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{{redirect|石果|中国の美術家|石果 (芸術家)}}
[[File:Drupes (2944503498).jpg|thumb|200px|right|さまざまな核果([[モモ]]、[[スモモ亜属|プラム]]、[[ラズベリー]])]]
{{読み仮名|'''核果'''|かくか}}({{Lang-en-short|Drupe}}, Stone fruit)とは[[果実]]の1型であり、[[種子]]を包む[[内果皮]]が硬化して'''{{仮リンク|核 (植物)|label=核|fr|Noyau (fruit)}}'''となり、核を囲む[[中果皮]]がふつう多肉質となる果実のこと。{{読み仮名|'''石果'''|せきか}}ともよばれる。多くの場合、鳥などに果実ごと食べられ、硬い内果皮で保護された種子が排出されることで散布される。


[[キイチゴ属]]は1つの花にある多数の[[雌しべ]]がそれぞれ小さな核果(小核果)となり、この[[集合果]]は'''[[キイチゴ状果]]'''とよばれる。また[[ヤマボウシ]]では小さな花が密集しており、個々の花からできた核果が合着して[[複合果]](多花果)になる。
'''核果'''(かくか、{{lang-en|drupe}})は[[果実]]の1タイプで、一般的なイメージにおける果実に近いものの一つで、中心に大きな種が1つ入っているものである。

== 語源 ==
英単語の【{{lang|en|Drupe}}】は、[[ラテン語]]の「{{lang|la|Drurupa}}」ならびに[[ギリシャ語]]の「{{Lang|el|δρύππα}}」([[ラテン文字化|ラテン文字転写]]:{{lang|la|Drúppa}})に由来する。この語は両方とも[[オリーブ]]を意味する{{efn2|元々の単語は過熟状態のオリーブのみを指していた。}}。


== 定義 ==
== 定義 ==
[[File:Drupe fruit diagram.svg|thumb|150px|right|典型的な核果である[[モモ]]([[バラ科]])の概略構造<br>果実と種子の両方を図解したもの]]
'''核果'''(かくか)と呼ばれる果実は、外側の果皮([[外果皮]])および果肉([[中果皮]])が[[内果皮]]の硬化した硬い核(殻)を取り巻き、核の中に[[種子]]があるものをいう。核は種子を構成する要素でなく果実の一部である。種子は核に保護されるため、表面を覆う種皮は通常薄く脆弱である。'''石果'''(せきか)ともいう。
[[File:Տհաս արմավ.JPG|thumb|150px|right|[[ナツメヤシ]]([[ヤシ科]])の核果と核]]
[[File:CoconutLayers.svg|thumb|150px|right|[[ココヤシ]]([[ヤシ科]])の果実([[ココナッツ]])の模式図: ①[[外果皮]]、②[[中果皮]]、③[[内果皮]]、④[[胚乳]]、⑤[[胚]]]]
[[File:AD2009Aug13 Rubus 01.jpg|thumb|150px|right|[[ラズベリー]](ヨーロッパキイチゴ)と[[ブラックベリー]]([[バラ科]])のキイチゴ状果]]
[[種子]]を包む内果皮が木化して'''核'''(果核; stone, pit, putamen{{efn2|name="putamen"|複数形は putamina<ref name="清水2001" />。}})となっており[[裂開 (植物)|裂開]]しない果実は'''核果'''(石果)とよばれ、核を覆う中果皮はふつう多肉質である<ref name="清水2001">{{cite book|author=清水建美|year=2001|chapter=|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=96–108}}</ref><ref name="生物学辞典_石果">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=石果|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=781}}</ref><ref name="平凡社">{{Cite book|author=|year=2015|chapter=植物用語の図解|editor=大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩|title=改訂新版 日本の野生植物 1|publisher=平凡社|isbn=978-4582535310|pages=10–17}}</ref><ref name="山崎1984">{{Cite book|author=|year=1984|chapter=1. 果実|editor=山崎敬 (編集), 本田正次 (監修)|title=現代生物学大系 7a2 高等植物A2|publisher=中山書店|isbn=978-4521121710|pages=101–110}}</ref><ref name="コトバンク_核果">{{Cite Kotobank|word=核果|encyclopedia=|accessdate=2022-05-14}}</ref><ref name="Kew2004">{{Cite book|author=Stuppy, W.|year=2004|chapter=|editor=|title=Glossary of Seed and Fruit Morphological Terms|publisher=Seed Conservation Department, Royal Botanic Gardens, Kew, Wakehurst Place|isbn=|pages=1–24}}</ref>。内果皮が硬化して核を形成している点で、内果皮も多肉質になっている{{読み|[[漿果]]|しょうか}}(狭義の液果)と区別される<ref name="清水2001" />。狭義には1心皮からなり1種子を含むもの([[サクラ属]]、[[ウルシ属]]など)を核果とし、複数の心皮からなるものは複核果として分けることもある<ref name="濱1958">{{Cite book|author=濱健夫|year=1958|chapter=果実の分類|editor=|title=植物形態学|publisher=コロナ社|isbn=978-4339075540|pages=285–295}}</ref>。しかし、ふつうは複数の心皮からなるものや複数の種子を含むものでも同様の特徴をもつ果実は核果とよばれる<ref name="清水2001" />。1個の種子を含む1個の核をもつもの([[サクラ属]]など)から、複数室に分かれた核を1個もつもの([[センダン]]など)、各1室の核を複数もつもの([[モチノキ科]]など)まである<ref name="清水2001" />。[[子房上位]]のものも[[子房下位]]のものもあり、後者の場合([[ミズキ科]]、{{仮リンク|ガマズミ科|en|Adoxaceae}}など)は子房に由来する果皮は花托筒で包まれていることになる<ref name="清水2001" />。


[[ナツメヤシ]]([[ヤシ科]])、[[モモ]]、[[ウメ]]などの核果は、食用などとして人間に利用されている<ref name="Wayne'sFruit">{{Cite web|author=Armstrong, W.P.|date=|url=https://www2.palomar.edu/users/warmstrong/fruitid1.htm|title=Identification Of Major Fruit Types|website=Wayne's Word|publisher=|accessdate=2022-05-06}}</ref>。日本で見られる野生植物としては、[[センリョウ科]]、[[ツヅラフジ科]]、[[ユズリハ科]]などに核果を形成するものが多い<ref name="鈴木2012">{{cite book|author=鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|year=2012|chapter=|editor=|title=草木の種子と果実|publisher=誠文堂新光社|isbn=978-4-416-71219-1|pages=22–249}}</ref>{{efn2|name="科"|ただしこれらの科の中には、核果以外の果実を形成する種を含む科もある。}}。
== 意味 ==
例外はあるものの、核果の多くは[[哺乳類]]や[[鳥類]]などの[[脊椎動物]]に食われることで、それらの[[消化管]]を通じて[[糞]]とともに種子を散布するものが大半である。そのため、通常中果皮は多肉質になって[[糖分]]や[[脂肪]]などの[[栄養素]]を蓄え、果実の芳香や外果皮の色彩によって種子散布動物を誘引しているのが普通である。そのため、多くの核果において核は種子散布動物による種子の破壊を防ぐ機能を担う適応現象として発達したと考えられている。


[[ココヤシ]]([[ヤシ科]])の果実も種子が木化した硬い内果皮で包まれているが、中果皮が多肉質ではなく厚い繊維質となっており、"乾質の核果"(dry drupe, nuculanium<ref name="Kew2004" /><ref name="Spjut">{{Cite web|author=Spjut, R.W.|date=|url=http://www.worldbotanical.com/fruit_types.htm|title=A Systematic Treatment of Fruit Types|website=The World Botanical Associates Web Page|publisher=|accessdate=2022-06-11}}</ref>)ともよばれる<ref name="Wayne'sFruit1">{{Cite web|author=Armstrong, W.P.|date=|url=https://www2.palomar.edu/users/warmstrong/fruitid1.htm|title=Fruit Terminology Part 2|website=Wayne's Word|publisher=|accessdate=2022-05-16}}</ref>。[[マカダミア]]([[ヤマモガシ科]])や[[カシューナットノキ]]([[ウルシ科]])、[[カンラン科]]、[[ノヂシャ]]([[スイカズラ科]])などの果実も、"乾質の核果"と表記されることがある<ref name="Wayne'sNuts" /><ref name="Kew2004" /><ref name="Spjut" />。
== 特殊な例 ==
核果でありながら、上記の種子散布戦略に当てはまらないものとして、[[ココヤシ]]の果実([[ココナッツ]])が挙げられる。ココヤシは種子散布を海流のような水の流れに依存しており、中果皮は空気を多く蓄えた繊維質で、果実を水上に浮かべる浮きの役割を果たし、硬化した核は海上を果実が運ばれている間、種子の内部が脱水しないようなシェルターの機能を持っている。


[[クルミ属]]や[[ペカン属]]([[クルミ科]])では、種子が木化した硬い中・内果皮で包まれ、さらに外側が外果皮とともに[[花托]]など[[子房]]外の構造を含む外皮で覆われている<ref name="Wayne'sFruit1" />。そのため、このような果実は"核果状の[[堅果]]"(drupe-like nut または drupaceous nut)や"偽の核果"(pseudodrupe)、クルミ果、殻果ともよばれる<ref name="Wayne'sNuts">{{Cite web|author=Armstrong, W.P.|date=|url=https://www2.palomar.edu/users/warmstrong/ecoph8.htm|title=Fruits Called Nuts|website=Wayne's Word|publisher=|accessdate=2022-05-06}}</ref><ref name="斎藤2000クルミ">{{Cite book|author=斎藤新一郎|year=2000|chapter=|editor=|title=木と動物の森づくり|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944600|page=30, 180}}</ref><ref name="コトバンク_殻果">{{Cite Kotobank|word=殻果|encyclopedia=|accessdate=2022-05-18}}</ref>。
また、[[クルミ]]や[[アーモンド]]など、[[種実類|ナッツ]]として利用される果実の一部は核果ではあるが、いずれも肉質の中果皮は薄く、動物にとって魅力的な糖分や脂肪を蓄えていない。また核の内部の種子は[[子葉]]がよく発達して脂肪を多く蓄えている。これらの種子散布様式は多くの核果と異なり、むしろドングリのものに近いと考えられる。つまり、種子の内部の子葉を食べる[[リス]]や[[ネズミ]]のような動物がこれらの果実を冬季の食物として土に埋めて分散[[貯食]]し、春に余って食べ残されたものが新天地で発芽して新しい世代の植物となるわけである。これらの植物では、核は貯食を行うネズミやリス以外の動物に容易に種子を食べられなくして、より多くの種子がこれらの動物の貯食にまわるようにしていると考えられる。


[[キイチゴ属]]([[バラ科]])の花は多数の雌しべをもち、これがそれぞれ小さな核果となる。このような核果は、'''小核果'''(小石果; drupelet, drupel)とよばれる<ref name="清水2001" /><ref name="生物学辞典_石果" /><ref name="Kew2004" />。共通の[[花托]]上に多数の小核果がついたまとまりを形成し、このまとまりは'''集合核果'''(drupetum, drupecetum, etaerio of drupelets)とよばれ、また特に'''キイチゴ状果'''ともよばれる<ref name="清水2001" /><ref name="生物学辞典_石果" /><ref name="平凡社" /><ref name="小林2007キイチゴ">{{Cite book|author=小林正明|year=2007|chapter=小果実が集まって集合効果|editor=|title=花からたねへ 種子散布を科学する|publisher=全国農村教育協会|isbn=978-4881371251|pages=136–139}}</ref><ref name="多田2010キイチゴ">{{Cite book|author=多田多恵子|year=2010|chapter=モミジイチゴ、ナワシロイチゴ|editor=|title=身近な草木の実とタネハンドブック|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829910757|pages=104, 105}}</ref><ref name="Kew2004">{{Cite book|author=Stuppy, W.|year=2004|chapter=|editor=|title=Glossary of Seed and Fruit Morphological Terms|publisher=Seed Conservation Department, Royal Botanic Gardens, Kew, Wakehurst Place|isbn=|pages=1–24}}</ref>。
さらに、果肉で動物を誘引して種子散布を行っている果実がすべて核果になっているわけではない。例えば[[カキノキ|カキ]]や[[リンゴ]]、[[柑橘類]]、[[ブルーベリー]]などの果実では内果皮ではなく種皮が硬化して、動物の消化管内での胚の損傷を防いでいる。


[[ヤマボウシ]]([[ミズキ科]])や[[ヤエヤマアオキ]]{{efn2|name="ヤエヤマアオキ"|[[ヤエヤマアオキ]]の果実は、核果ではなく液果としている記述もある<ref name="清水2001" />。}}([[アカネ科]])では、多数の花が集まって咲き、個々の花は核果となって互いに合着して1つの[[複合果]]('''核果型多花果'''、multiple fruit of drupelets)を形成する<ref name="清水2001" /><ref name="鈴木2012" /><ref name="多田2010ヤマボウシ">{{Cite book|author=多田多恵子|year=2010|chapter=ヤマボウシ、ハナミズキ|editor=|title=身近な草木の実とタネハンドブック|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829910757|pages=126, 127}}</ref><ref name="内貴2017">{{cite book|author=内貴章世|year=2017|chapter=アカネ科|editor=大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編)|title=改訂新版 日本の野生植物 4|publisher=平凡社|isbn=978-4582535341|pages=266–293}}</ref><ref name="小林2007ヤマボウシ">{{Cite book|author=小林正明|year=2007|chapter=小さな果実が集まって大きな果実を見せる|editor=|title=花からたねへ 種子散布を科学する|publisher=全国農村教育協会|isbn=978-4881371251|pages=155–157}}</ref>。ヤマボウシの近縁種である[[ハナミズキ]]でもそれぞれの花が核果となるが、合着せずにそれぞれ独立している<ref name="多田2010ヤマボウシ" /><ref name="鈴木2012" />。
== ==
次のような例がある:
* [[モモ]]、[[スモモ]]、[[ウメ]]、[[サクランボ]]、[[アーモンド]]など[[バラ科]][[サクラ属]]の果実:多くは果肉を食用にし、アーモンドは核の中の種子を食用にする。
* [[コーヒー]]
* [[ナツメ]]
* [[マンゴー]]
* [[オリーブ]]、[[アブラヤシ]]、[[ハゼノキ]]、[[ウルシ]]は糖分ではなく、脂肪を果肉に蓄える核果である。
* [[ココナッツ]]も核果であるが、果肉の部分は繊維質で乾燥している。
* [[キイチゴ]]は多数の果実が結合した集合果であるが、1つ1つの果実は核果であり「小核果」と呼ばれる。


{{Clear}}

== 種子散布 ==
[[File:Parus minor and Toxicodendron succedaneum.jpg|thumb|150px|right|[[ハゼノキ]]([[ウルシ科]])の核果を食べる[[シジュウカラ]]]]
核果の多くは、[[鳥類]]や[[哺乳類]]に食べられ、それらの[[消化管]]を通って[[糞]]とともに硬い[[内果皮]]に包まれた[[種子]](核)が散布される<ref name="斎藤2000内果皮" />(被食散布、糞散布<ref name="動物被食散布">{{Cite web|和書|author=福原達人|date=|url=https://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/keitai/8-4.html|title=8-4. 動物被食散布|website=植物形態学|publisher=福岡教育大学|accessdate=2022-05-13}}</ref>)。このような被食散布される核果において、種子が硬い内果皮に包まれていることは、種子の破壊・消化を防ぐために発達したと考えられている<ref name="岡本1992">{{Cite journal|author=岡本素治|year=1992|title=果実の形態にみる種子散布 (総説)|journal=植物分類, 地理|volume=43|issue=2|pages=155-166|doi=10.18942/bunruichiri.KJ00001078987}}</ref><ref name="斎藤2000内果皮">{{Cite book|author=斎藤新一郎|year=2000|chapter=種皮の硬化|editor=|title=木と動物の森づくり|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944600|pages=111–122}}</ref>。鳥によって散布される果実はふつう匂いを欠き、成熟しても自然落下しにくく高い位置についているものが多いが、哺乳類によって散布される果実は、ときに強い匂いをもち、低い位置についていたり自然落下しやすいものが多い<ref name="岡本1992" />。

多くの場合、中果皮が多肉質であり、種によって[[糖]]や水分、[[脂質]]などに富み、動物にとって魅力ある可食部になっている<ref name="岡本1992" /><ref name="多田2010核果">{{Cite book|author=多田多恵子|year=2010|chapter=|editor=|title=身近な草木の実とタネハンドブック|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829910757|pages=85, 86, 97, 98, 104, 105, 113, 114, 125–128, 131, 135, 136, 138, 139}}</ref><ref name="小林2007被食">{{Cite book|author=小林正明|year=2007|chapter=子房が少数の大きな種子を包む|editor=|title=花からたねへ 種子散布を科学する|publisher=全国農村教育協会|isbn=978-4881371251|pages=126–133}}</ref>。特殊な例として、[[ケンポナシ]]([[クロウメモドキ科]])や[[カシューナットノキ]]([[ウルシ科]])では、核果の中果皮は薄く、核果がついている枝が多肉質の可食部になる<ref name="多田2010ケンポナシ">{{Cite book|author=多田多恵子|year=2010|chapter=ケンポナシ|editor=|title=身近な草木の実とタネハンドブック|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829910757|page=149}}</ref><ref name="Wayne'sNuts" /><ref name="多田2010核果" />。

[[File:Anacardium occidentale ap 008.jpg|thumb|150px|right|[[カシューナットノキ]]([[ウルシ科]])の果実をつけた果柄は赤く発達する(カシューアップルとよばれる<ref name="Wayne'sNuts" />)]]
多くの場合、核果は成熟すると、赤やオレンジ、白、藍、黒など目立つ色になることで動物による視認性を高めている<ref name="岡本1992" /><ref name="多田2010核果" /><ref name="斎藤2000被食">{{Cite book|author=斎藤新一郎|year=2000|chapter=被食型散布|editor=|title=木と動物の森づくり|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944600|pages=91–99}}</ref>。[[可視光]]だけではなく、鳥などには認識できる[[紫外線]]を反射している例もある<ref name="多田2010アオツヅラフジ">{{Cite book|author=多田多恵子|year=2010|chapter=アオツヅラフジ|editor=|title=身近な草木の実とタネハンドブック|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829910757|page=97}}</ref>。キイチゴ状果(上記)では、小さな核果(小核果)が密集することで動物に対してより目立つようになっている<ref name="小林2007キイチゴ" />。また果実の成熟度によって色が変わることもあり、複数の色でより目立たせる効果や、未熟な果実を避けてもらう効果があると考えられている<ref name="岡本1992" /><ref name="多田2010色変わり">{{Cite book|author=多田多恵子|year=2010|chapter=|editor=|title=身近な草木の実とタネハンドブック|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829910757|pages=86, 139}}</ref><ref name="小林2007変色">{{Cite book|author=小林正明|year=2007|chapter=|editor=|title=花からたねへ 種子散布を科学する|publisher=全国農村教育協会|isbn=978-4881371251|pages=107–110}}</ref>。[[クサギ]]([[シソ科]])では、藍色の核果が赤い萼で囲まれており、二色効果によって目立つ<ref name="多田2010クサギ">{{Cite book|author=多田多恵子|year=2010|chapter=|editor=|title=身近な草木の実とタネハンドブック|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829910757|page=136}}</ref>。

[[ココヤシ]]の核果では[[中果皮]]が多肉質ではなく繊維質でコルク状になっており、これによって海面に浮かぶことができる<ref name="小林2007ココヤシ">{{Cite book|author=小林正明|year=2007|chapter=果実や果皮がコルク質や空洞になって水に浮く|editor=|title=花からたねへ 種子散布を科学する|publisher=全国農村教育協会|isbn=978-4881371251|pages=204–208}}</ref>。堅い[[内果皮]]に包まれた[[種子]]は海水に長期間浸かることに耐えられ、海流によって遠距離に散布される<ref name="鈴木2012海流">{{cite book|author=鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|year=2012|chapter=流れ着く種子 & 果実たち|editor=|title=草木の種子と果実|publisher=誠文堂新光社|isbn=978-4-416-71219-1|pages=252–257}}</ref>。同様に海流散布される核果は、[[ミフクラギ]]([[キョウチクトウ科]])や[[ハマゴウ]]([[シソ科]])などにも見られる<ref name="鈴木2012" /><ref name="鈴木2012水流">{{cite book|author=鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文|year=2012|chapter=水流散布|editor=|title=草木の種子と果実|publisher=誠文堂新光社|isbn=978-4-416-71219-1|page=20}}</ref><ref name="多田2008水流">{{Cite book|author=多田多恵子|year=2008|chapter=水に浮くコルク|editor=|title=身近な植物に発見! 種子たちの知恵|publisher=NHK出版|isbn=978-4140402306|page=61}}</ref>。

{{Clear}}

== ギャラリー ==
<gallery style="font-size:80%;">
ファイル:Sarcandra glabra 20101209 c.jpg|[[センリョウ]]([[センリョウ科]])の核果
ファイル:Owoce Daktyl.jpg|[[ナツメヤシ]]([[ヤシ科]])の核果
ファイル:Arecanut.jpg|[[ビンロウ]](ヤシ科)の核果<br>画像は完熟状態の果実
ファイル:Moonseed fruit 1.jpg|[[コウモリカズラ属]]([[ツヅラフジ科]])の核果と核
ファイル:Ziziphus zizyphus fruit inside.jpeg|[[ナツメ]]([[クロウメモドキ科]])の核果と断面
ファイル:Aprikot.png|[[アンズ]]([[バラ科]])の核果の断面
ファイル:Owoce Nektarynka.jpg|[[モモ]](バラ科)の核果
ファイル:Almond in an open shell.jpg|[[アーモンド]](バラ科)の核と種子
ファイル:Cherry fruit on white background.jpg|[[サクランボ]](バラ科)の核果
ファイル:Cherry sliced white background.jpg|サクランボの核果断面
ファイル:Bayberry (14293533218).jpg|[[ヤマモモ]]([[ヤマモモ科]])の核果
ファイル:Fruits immatures, noyau et graines de melia.jpg|[[センダン]]([[センダン科]])の未熟核果と割った核、種子
ファイル:Toxicodendron vernicifluum 03.jpg|[[ウルシ]]([[ウルシ科]])の核果
ファイル:Owoce Orzeszki pistacjowe.jpg|[[ピスタチオ]](ウルシ科)の核果
ファイル:2020-09-22 14 20 29 Flowering Dogwood fruit along Tranquility Court in the Franklin Farm section of Oak Hill, Fairfax County, Virginia.jpg|[[ハナミズキ]]([[ミズキ科]])の核果
ファイル:Garryaceae - Aucuba japonica.JPG|[[アオキ (植物)|アオキ]]([[アオキ科]])の核果
ファイル:Coffea - Drup on White background.png|[[コーヒーノキ]]([[アカネ科]])の核果と核
ファイル:Olives rouges, fruit entier et coupé.jpg|[[オリーブ]]([[モクセイ科]])の核果と断面
ファイル:1576-Viburnum dentatum-DZ-8.12.JPG|[[ガマズミ属]]({{仮リンク|ガマズミ科|en|Adoxaceae}})の核果
ファイル:Nuss mit Schale.jpg|[[クルミ]]([[クルミ科]])の核果の断面
ファイル:Phyllanthus emblica - whole and cross section.jpg|[[ユカン]]([[コミカンソウ科]])の核果と断面
</gallery>

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}

== 関連項目 ==
{{果実}}
{{果実}}

== 外部リンク ==
{{Commonscat|Drupe}}
* {{Cite Kotobank|word=核果|encyclopedia=|accessdate=2022-05-16}}
* {{Cite web|author=Spjut, R.W.|date=|url=http://www.worldbotanical.com/fruit_types.htm|title=A Systematic Treatment of Fruit Types|website=The World Botanical Associates Web Page|publisher=|accessdate=2022-06-11}}(英語)
* {{Cite web|author=Armstrong, W.P.|date=|url=https://www2.palomar.edu/users/warmstrong/termfr4.htm|title=Fruit Terminology Part 4|website=Wayne's Word|publisher=|accessdate=2022-06-03}}(英語)

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[[Category:植物形態学]]
[[Category:果実]]
[[Category:果実]]

2024年10月11日 (金) 07:26時点における最新版

さまざまな核果(モモプラムラズベリー

核果かくか: Drupe, Stone fruit)とは果実の1型であり、種子を包む内果皮が硬化してフランス語版となり、核を囲む中果皮がふつう多肉質となる果実のこと。石果せきかともよばれる。多くの場合、鳥などに果実ごと食べられ、硬い内果皮で保護された種子が排出されることで散布される。

キイチゴ属は1つの花にある多数の雌しべがそれぞれ小さな核果(小核果)となり、この集合果キイチゴ状果とよばれる。またヤマボウシでは小さな花が密集しており、個々の花からできた核果が合着して複合果(多花果)になる。

語源

[編集]

英単語の【Drupe】は、ラテン語の「Drurupa」ならびにギリシャ語の「δρύππα」(ラテン文字転写Drúppa)に由来する。この語は両方ともオリーブを意味する[注 1]

定義

[編集]
典型的な核果であるモモバラ科)の概略構造
果実と種子の両方を図解したもの
ナツメヤシヤシ科)の核果と核
ココヤシヤシ科)の果実(ココナッツ)の模式図: ①外果皮、②中果皮、③内果皮、④胚乳、⑤
ラズベリー(ヨーロッパキイチゴ)とブラックベリーバラ科)のキイチゴ状果

種子を包む内果皮が木化して(果核; stone, pit, putamen[注 2])となっており裂開しない果実は核果(石果)とよばれ、核を覆う中果皮はふつう多肉質である[1][2][3][4][5][6]。内果皮が硬化して核を形成している点で、内果皮も多肉質になっている漿果しょうか(狭義の液果)と区別される[1]。狭義には1心皮からなり1種子を含むもの(サクラ属ウルシ属など)を核果とし、複数の心皮からなるものは複核果として分けることもある[7]。しかし、ふつうは複数の心皮からなるものや複数の種子を含むものでも同様の特徴をもつ果実は核果とよばれる[1]。1個の種子を含む1個の核をもつもの(サクラ属など)から、複数室に分かれた核を1個もつもの(センダンなど)、各1室の核を複数もつもの(モチノキ科など)まである[1]子房上位のものも子房下位のものもあり、後者の場合(ミズキ科ガマズミ科英語版など)は子房に由来する果皮は花托筒で包まれていることになる[1]

ナツメヤシヤシ科)、モモウメなどの核果は、食用などとして人間に利用されている[8]。日本で見られる野生植物としては、センリョウ科ツヅラフジ科ユズリハ科などに核果を形成するものが多い[9][注 3]

ココヤシヤシ科)の果実も種子が木化した硬い内果皮で包まれているが、中果皮が多肉質ではなく厚い繊維質となっており、"乾質の核果"(dry drupe, nuculanium[6][10])ともよばれる[11]マカダミアヤマモガシ科)やカシューナットノキウルシ科)、カンラン科ノヂシャスイカズラ科)などの果実も、"乾質の核果"と表記されることがある[12][6][10]

クルミ属ペカン属クルミ科)では、種子が木化した硬い中・内果皮で包まれ、さらに外側が外果皮とともに花托など子房外の構造を含む外皮で覆われている[11]。そのため、このような果実は"核果状の堅果"(drupe-like nut または drupaceous nut)や"偽の核果"(pseudodrupe)、クルミ果、殻果ともよばれる[12][13][14]

キイチゴ属バラ科)の花は多数の雌しべをもち、これがそれぞれ小さな核果となる。このような核果は、小核果(小石果; drupelet, drupel)とよばれる[1][2][6]。共通の花托上に多数の小核果がついたまとまりを形成し、このまとまりは集合核果(drupetum, drupecetum, etaerio of drupelets)とよばれ、また特にキイチゴ状果ともよばれる[1][2][3][15][16][6]

ヤマボウシミズキ科)やヤエヤマアオキ[注 4]アカネ科)では、多数の花が集まって咲き、個々の花は核果となって互いに合着して1つの複合果核果型多花果、multiple fruit of drupelets)を形成する[1][9][17][18][19]。ヤマボウシの近縁種であるハナミズキでもそれぞれの花が核果となるが、合着せずにそれぞれ独立している[17][9]

種子散布

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ハゼノキウルシ科)の核果を食べるシジュウカラ

核果の多くは、鳥類哺乳類に食べられ、それらの消化管を通ってとともに硬い内果皮に包まれた種子(核)が散布される[20](被食散布、糞散布[21])。このような被食散布される核果において、種子が硬い内果皮に包まれていることは、種子の破壊・消化を防ぐために発達したと考えられている[22][20]。鳥によって散布される果実はふつう匂いを欠き、成熟しても自然落下しにくく高い位置についているものが多いが、哺乳類によって散布される果実は、ときに強い匂いをもち、低い位置についていたり自然落下しやすいものが多い[22]

多くの場合、中果皮が多肉質であり、種によってや水分、脂質などに富み、動物にとって魅力ある可食部になっている[22][23][24]。特殊な例として、ケンポナシクロウメモドキ科)やカシューナットノキウルシ科)では、核果の中果皮は薄く、核果がついている枝が多肉質の可食部になる[25][12][23]

カシューナットノキウルシ科)の果実をつけた果柄は赤く発達する(カシューアップルとよばれる[12]

多くの場合、核果は成熟すると、赤やオレンジ、白、藍、黒など目立つ色になることで動物による視認性を高めている[22][23][26]可視光だけではなく、鳥などには認識できる紫外線を反射している例もある[27]。キイチゴ状果(上記)では、小さな核果(小核果)が密集することで動物に対してより目立つようになっている[15]。また果実の成熟度によって色が変わることもあり、複数の色でより目立たせる効果や、未熟な果実を避けてもらう効果があると考えられている[22][28][29]クサギシソ科)では、藍色の核果が赤い萼で囲まれており、二色効果によって目立つ[30]

ココヤシの核果では中果皮が多肉質ではなく繊維質でコルク状になっており、これによって海面に浮かぶことができる[31]。堅い内果皮に包まれた種子は海水に長期間浸かることに耐えられ、海流によって遠距離に散布される[32]。同様に海流散布される核果は、ミフクラギキョウチクトウ科)やハマゴウシソ科)などにも見られる[9][33][34]

ギャラリー

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脚注

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注釈

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  1. ^ 元々の単語は過熟状態のオリーブのみを指していた。
  2. ^ 複数形は putamina[1]
  3. ^ ただしこれらの科の中には、核果以外の果実を形成する種を含む科もある。
  4. ^ ヤエヤマアオキの果実は、核果ではなく液果としている記述もある[1]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. pp. 96–108. ISBN 978-4896944792 
  2. ^ a b c 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “石果”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 781. ISBN 978-4000803144 
  3. ^ a b 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩, ed (2015). “植物用語の図解”. 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 10–17. ISBN 978-4582535310 
  4. ^ 山崎敬 (編集), 本田正次 (監修), ed (1984). “1. 果実”. 現代生物学大系 7a2 高等植物A2. 中山書店. pp. 101–110. ISBN 978-4521121710 
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  6. ^ a b c d e Stuppy, W. (2004). Glossary of Seed and Fruit Morphological Terms. Seed Conservation Department, Royal Botanic Gardens, Kew, Wakehurst Place. pp. 1–24 
  7. ^ 濱健夫 (1958). “果実の分類”. 植物形態学. コロナ社. pp. 285–295. ISBN 978-4339075540 
  8. ^ Armstrong, W.P.. “Identification Of Major Fruit Types”. Wayne's Word. 2022年5月6日閲覧。
  9. ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 (2012). 草木の種子と果実. 誠文堂新光社. pp. 22–249. ISBN 978-4-416-71219-1 
  10. ^ a b Spjut, R.W.. “A Systematic Treatment of Fruit Types”. The World Botanical Associates Web Page. 2022年6月11日閲覧。
  11. ^ a b Armstrong, W.P.. “Fruit Terminology Part 2”. Wayne's Word. 2022年5月16日閲覧。
  12. ^ a b c d Armstrong, W.P.. “Fruits Called Nuts”. Wayne's Word. 2022年5月6日閲覧。
  13. ^ 斎藤新一郎 (2000). 木と動物の森づくり. 八坂書房. p. 30, 180. ISBN 978-4896944600 
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  23. ^ a b c 多田多恵子 (2010). 身近な草木の実とタネハンドブック. 文一総合出版. pp. 85, 86, 97, 98, 104, 105, 113, 114, 125–128, 131, 135, 136, 138, 139. ISBN 978-4829910757 
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  28. ^ 多田多恵子 (2010). 身近な草木の実とタネハンドブック. 文一総合出版. pp. 86, 139. ISBN 978-4829910757 
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  33. ^ 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 (2012). “水流散布”. 草木の種子と果実. 誠文堂新光社. p. 20. ISBN 978-4-416-71219-1 
  34. ^ 多田多恵子 (2008). “水に浮くコルク”. 身近な植物に発見! 種子たちの知恵. NHK出版. p. 61. ISBN 978-4140402306 

関連項目

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外部リンク

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