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「スクールカースト」の版間の差分

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[[File:スクールカースト概念図.png|thumb]]
[[File:スクールカースト概念図.png|thumb]]
'''スクールカースト'''(または'''学校カースト'''<ref name="school">{{Cite web |author=森口朗 |url=http://www.moriguchiakira.com/entry/20070604 |title=スクールカーストとは何か〜その3〜 |date=2007-06-04 |accessdate=2018-09-29}}</ref><ref name="gakkou">「学校カーストが「キモメン」生む」 『[[AERA]]』2007年11月19日号、朝日新聞出版、62-63頁。</ref>)は、[[学校]]において自然発生する生徒間の序列<ref name=":0">{{Cite web |title=スクールカーストとは |url=https://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88-189538 |website=コトバンク |accessdate=2022-02-18 |language=ja |last=知恵蔵,デジタル大辞泉}}</ref>、また、序列の近い生徒らが小集団を形成し、学校社会が階層化しているという仮説である<ref name=":0" />。上下関係が固定化することから、[[嫌がらせ|ハラスメント]]の原因になっていると考えられている<ref name=":0" />。
'''スクールカースト'''(または'''学校カースト'''<ref name="school">{{Cite web |author=森口朗 |url=http://www.moriguchiakira.com/entry/20070604 |title=スクールカーストとは何か〜その3〜 |date=2007-06-04 |accessdate=2018-09-29}}</ref><ref name="gakkou">「学校カーストが「キモメン」生む」 『[[AERA]]』2007年11月19日号、朝日新聞出版、62-63頁。</ref>)は、[[学校]]において自然発生する生徒間の固定的な序列<ref name=":0">{{Cite web |title=スクールカーストとは |url=https://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88-189538 |website=コトバンク |accessdate=2022-02-18 |language=ja |last=知恵蔵,デジタル大辞泉}}</ref>、また、序列の近い生徒らが小集団を形成し、学校社会が階層化しているという仮説である<ref name=":0" />。上下関係が固定化することから、[[嫌がらせ|ハラスメント]]の原因になっているとの見解がある<ref name=":0" />。スクールカーストの呼称は、学校における生徒間の序列を、インドの固定的・階級的な[[身分制度]]である[[カースト]]になぞらえた[[和製英語]]である


スクールカーストの語は2005年頃からインターネットで用例が現れはじめ、当初は[[ネットスラング]]のような扱いであったが、のちに国会での言及やメディアでの報道などが続き、社会に一定の定着をみせた言葉となった。2017年の調査では、大学生のスクールカーストという語の認知度は8割を超え、中学生時代に学校内に序列があったという回答の割合も7割にのぼった。
スクールカーストの呼称は、日本の[[インターネット]]上において定着した<ref name="school" />、インドの[[カースト]]になぞらえた和製英語であり、日本以外では通用しない。


== 歴史 ==
2006年11月16日の[[衆議院]]「青少年問題に関する[[特別委員会]]」で参考人となった[[教育学者]]の[[本田由紀]]が言及したあと<ref>{{Cite web |url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/165/0073/16511160073003c.html |title=衆議院会議録情報 第165回国会 青少年問題に関する特別委員会 第3号 |publisher=国立国会図書館 |accessdate=2018-09-30}}</ref>、[[教育評論家]]の[[森口朗]]も著書『いじめの構造』で2007年に紹介し、その後[[教育]]や[[文芸批評]]の文脈で議論の対象とされるようになった。ただし、スクールカーストという言葉が流通するようになる前の1990年代から学校内に序列があること自体は研究者から指摘されている{{sfn|松谷|2012|p=285}}。雑誌『[[AERA]]』2007年11月19日号にはスクールカーストという言葉を初めてインターネット上に登録したと述べている当時29歳の男性への取材記事が掲載されているため、この記事を信じるならば、これがスクールカーストという語の初出といえる{{sfn|鈴木|2012|pp=30-33}}。
[[File:スクールカースト googleトレンド検索結果.png|thumb|[[Google Trends]]によると、2005年頃に用例が現れ、2013年に反響を呼び定着した]]
2006年11月16日の[[衆議院]]「青少年問題に関する[[特別委員会]]」で参考人となった[[教育学者]]の[[本田由紀]]が言及したあと<ref>{{Cite web |url=http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/165/0073/16511160073003c.html |title=衆議院会議録情報 第165回国会 青少年問題に関する特別委員会 第3号 |publisher=国立国会図書館 |accessdate=2018-09-30}}</ref>、[[教育評論家]]の[[森口朗]]も著書『いじめの構造』で2007年に紹介し、その後[[教育]]や[[文芸批評]]の文脈で議論の対象とされるようになった。ただし、スクールカーストという言葉が流通するようになる前の1990年代から学校内に序列があること自体は研究者から指摘されている{{sfn|松谷|2012|p=285}}。

雑誌『[[AERA]]』2007年11月19日号にはスクールカーストという言葉を初めてインターネット上に登録したと述べている当時29歳の男性への取材記事が掲載されているため、この記事を信じるならば、これがスクールカーストという語の初出といえる{{sfn|鈴木|2012|pp=30-33}}。
== 定義 ==
スクールカーストという言葉はまだ学術的に十分に整理された概念ではないが{{sfn|鈴木|2012}}、次のような森口{{sfn|森口|2007}}の定義によって紹介されることが多い{{sfn|鈴木|2012}}<ref>{{Cite journal|author=水野君平 , 加藤弘通 , 川田学|year=2015|title=中学生における『スクールカースト』とコミュニケーション・ス キル及び学校適応感の関係 : 教室内における個人の地位と集団の地位という視点から|journal=子ども発達臨床研究|volume=7|page=13–22}}</ref>
スクールカーストとは、クラス内のステイタスを表す言葉として、近年若者たちの間で定着しつつある言葉です。従来と異なるのは、ステイタスの決定要因が、人気やモテるか否かという点であることです。上位から「'''一軍、二軍、三軍'''」「'''A、B、C'''」などと呼ばれます。-森口朗「いじめの構造」(2007)
この定義からスクールカーストがクラス内のステイタスを示すということがわかるが、これまでのスクールカースト研究においては、スクールカーストにもう一つの重要な特性があり、そのステイタスは個人個人のものではなくそれぞれが所属する固定化された交友グループのものであり、グループ間の力関係を示すものであるということである<ref>{{Cite journal|author=小原 一馬,平山 愛理|year=2018|title=大学生における、中高時の スクールカースト経験の長期的影響|journal=宇都宮大学教育学部研究紀要|volume=第68号}}</ref><ref>{{Cite journal|author=水野君平 , 加藤弘通 , 川田学|year=2015|title=中学生における『スクールカースト』とコミュニケーション・ス キル及び学校適応感の関係 : 教室内における個人の地位と集団の地位という視点から|journal=子ども発達臨床研究|volume=7|page=13–22}}</ref><ref>{{Cite journal|author=石田靖彦|year=2017|title=各学校段階におけるスクールカーストの認識とその要因 ― 大学生を対象にした回 想法による検討 ―|journal=愛知教育大学教育臨床総合センター紀要|volume=7|page=17–23}}</ref><ref>{{Cite journal|author=貴島侑哉, 中村俊哉, 笹山郁生|year=2017|title=スクールカースト特性尺度の作成と学級内地位との関連の検 討|journal=福岡教育大学紀要|volume=第4分冊, 教職科編(66)|page=27–37}}</ref>


== スクールカーストの構造 ==
== スクールカーストの構造 ==
[[File:島宇宙化 概念図.png|thumb|島宇宙化 概念図]]
現代の学校空間では、クラス内にいくつかの友達同士のグループが形成され、それらの内部で活発に交流が行われるだけで人間関係が完結する現象がみられる。[[社会学者]]の[[宮台真司]]は、教室内に限らず若者の[[コミュニケーション]]空間全般で発生しているこの変容を「島宇宙化」と呼び、分断された各グループ(島宇宙)は優劣のつけられない横並びの状態になっており(フラット化)、異なるグループ間でのつながりが失われたと論じた<ref>宮台真司 『制服少女たちの選択』 [[講談社]]、1994年11月。ISBN 978-4062053549。{{要ページ番号|date=2018-09-30}}</ref>。これについて[[本田由紀]]や[[評論家]]の[[荻上チキ]]は、分断化自体は認めながらも<ref group="注">ただし本田は、[[#統計調査|後述]]するアンケート調査で「いつも一緒の友だちグループ以外の人とは、特に仲良くしたいと思わない」という質問への否定的な回答が全体の3/4を超えたことを根拠として、自身の所属するグループの外へのコミュニケーション接続の志向も残ってはいることを指摘している。荻上は、([[インターネット]]環境の普及を背景として)全体としてある程度の棲み分けが進行する一方で、個人は単一の島宇宙にとどまるのではなく複数の島宇宙に帰属して常時接続することが求められるとして、これを「コミュニケーションの網状化」と呼んでいる。</ref>、教室内の各グループは等価な横並び状態にあるのではなく序列化(上下関係の付与)が働いていると述べている{{sfn|本田|2011|pp=41-45}}{{sfn|荻上|2008|pp=199-202}}。この序列はスクールカーストと呼ばれ、[[精神科医]]の[[和田秀樹]]は、現代の若者は思春期頃に親から分離した人格を得て親友をつくっていくという発達プロセスを適切に踏むことができていないため、同じ価値観を持つ親友同士からなる教室内グループを形成することができず代わりにスクールカーストという階層が形成されたのだとしている{{sfn|和田|2010|pp=172-173}}。スクールカーストでは、上位層・中位層・下位層をそぞれ「一軍・二軍・三軍」「A・B・C」などと表現す{{sfn|森口|2007|p=43}}
現代の学校空間では、クラス内にいくつかの友達同士のグループが形成され、それらの内部で活発に交流が行われるだけで人間関係が完結する現象がみられる。[[社会学者]]の[[宮台真司]]は、教室内に限らず若者の[[コミュニケーション]]空間全般で発生しているこの変容を「島宇宙化」と呼び、分断された各グループ(島宇宙)は優劣のつけられない横並びの状態になっており(フラット化)、異なるグループ間でのつながりが失われたと論じた<ref>宮台真司 『制服少女たちの選択』 [[講談社]]、1994年11月。ISBN 978-4062053549。{{要ページ番号|date=2018-09-30}}</ref>。これについて[[本田由紀]]や[[評論家]]の[[荻上チキ]]は、分断化自体は認めながらも<ref group="注">ただし本田は、[[#社会調査|後述]]するアンケート調査で「いつも一緒の友だちグループ以外の人とは、特に仲良くしたいと思わない」という質問への否定的な回答が全体の3/4を超えたことを根拠として、自身の所属するグループの外へのコミュニケーション接続の志向も残ってはいることを指摘している。荻上は、([[インターネット]]環境の普及を背景として)全体としてある程度の棲み分けが進行する一方で、個人は単一の島宇宙にとどまるのではなく複数の島宇宙に帰属して常時接続することが求められるとして、これを「コミュニケーションの網状化」と呼んでいる。</ref>、教室内の各グループは等価な横並び状態にあるのではなく序列化(上下関係の付与)が働いていると述べている{{sfn|本田|2011|pp=41-45}}{{sfn|荻上|2008|pp=199-202}}。このグループ間の序列してスクールカーストと呼ばれる。


=== 一般にイメージされるカースト構成の要因 ===
一般的なイメージとしては、以下のようになる{{sfn|斎藤|2011|p=20}}。
一般的なイメージとしては、以下のようになる{{sfn|斎藤|2011|p=20}}。
* [[恋愛]]・[[性愛]]経験 - 豊富なほど上位
* [[恋愛]]・[[性愛]]経験 - 豊富なほど上位
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* [[趣味]]・文化圏 - [[ヤンキー (不良少年)|ヤンキー]]・[[ギャル]]系([[繁華街]]で遊び慣れているなど)は上位{{sfn|荻上|2008|p=152}}、[[オタク]]系は下位
* [[趣味]]・文化圏 - [[ヤンキー (不良少年)|ヤンキー]]・[[ギャル]]系([[繁華街]]で遊び慣れているなど)は上位{{sfn|荻上|2008|p=152}}、[[オタク]]系は下位
* 自己像<ref group="注">精神科医の[[斎藤環]]は、若者の傾向をコミュニケーション能力は低いが自己像が安定的な「引きこもり系」とコミュニケーション能力は高いが自己像が不安定な「自分探し系」に大別した。</ref> - 自分探し系は上位、[[引きこもり]]系は下位{{sfn|斎藤|2011|p=24}}
* 自己像<ref group="注">精神科医の[[斎藤環]]は、若者の傾向をコミュニケーション能力は低いが自己像が安定的な「引きこもり系」とコミュニケーション能力は高いが自己像が不安定な「自分探し系」に大別した。</ref> - 自分探し系は上位、[[引きこもり]]系は下位{{sfn|斎藤|2011|p=24}}
=== コミュニケーション能力 ===
[[森口朗]]によれば、スクールカースト上での位置決定に影響する最大の特性は[[コミュニケーション能力]]である<ref group="注">一般に社会で人間に対する評価指標がコミュニケーション能力・人間力といった抽象的なものにシフトしているということは、例えば[[ハイパー・メリトクラシー]]という用語でも論じられている。</ref>。クラス内でのステータスの上下関係自体は以前からあったものの、それは運動神経や学力が大きく関係したものであり、そうではなく判断基準がほとんどコミュニケーション能力に依存している点がスクールカーストの新しい点であるといえる{{sfn|森口|2007|p=43}}。ここでいうコミュニケーション能力とは、具体的には「自己主張力([[リーダーシップ]]を得るために必要な能力)」「[[共感|共感力]](人望を得るために必要な能力)」そして「同調力([[場の空気]]に適応するために必要な能力)」の3つを指す{{sfn|森口|2007|p=44}}。


[[森口朗]]によれば、スクールカースト上で位置決定に影響する最大の特性は[[コミュニケーション能力]]である<ref group="注">一般に社会で人間に対する評価指標がコミュニケーション能力・人間力といった抽象的なものにシフトしているということは、例えば[[ハイパー・メリトクラシー]]という用語でも論じられている。</ref>。クラス内でのステータスの上下関係自体は以前からあったものの、それは運動神経や学力が大きく関係したものであり、そうではなく判断基準がほとんどコミュニケーション能力に依存している点がスクールカーストの新しい点であるといえる{{sfn|森口|2007|p=43}}。ここでいうコミュニケーション能力とは、具体的には「自己主張力([[リーダーシップ]]を得るために必要な能力)」「[[共感|共感力]](人望を得るために必要な能力)」そして「同調力([[場の空気]]に適応するために必要な能力)」の3つを指す{{sfn|森口|2007|p=44}}。和田によれば、コミュニケーション能力の有無に偏重したスクールカーストという序列が発生した背景には、学業成績の相対評価を廃止するなど生徒に対する序列付け自体を否定するような過剰な平等主義があり、「学業成績」「運動能力」といった(努力で挽回可能な)特性によるアイデンティティを失った子供たちは「人気(コミュニケーション能力)」という(努力で挽回不可能な)特性に依存した序列付けを発生させてしまったのだという{{sfn|和田|2010|pp=65,86-87}}。カーストの規定要因については、本田が統計分析を用いて具体的に研究している([[#統計調査|後述]])。スクールカーストとコミュニケーション能力の関係について、中高生の交友関係を研究している[[鈴木翔]]は、「自分の意見を押し通す」能力とスクールカーストの高低には相関関係があるものの、「友達の意見に合わせる」能力とスクールカーストの高低にはあまり相関がみられないという統計に注目している。この事実からは、コミュニケーション能力があるからカースト上位になるのではなく、カースト上位にいるからそれを利用して他人に自分の意見を押し付けることができるようになり、コミュニケーション能力があると判断されているという解釈も可能となる{{sfn|鈴木|2012|pp=130-132}}。
[[精神科医]]の[[和田秀樹]]によれば、コミュニケーション能力の有無に偏重したスクールカーストという序列が発生した背景には、学業成績の相対評価を廃止するなど生徒に対する序列付け自体を否定するような過剰な平等主義があり、「学業成績」「運動能力」といった(努力で挽回可能な)特性によるアイデンティティを失った子供たちは「人気(コミュニケーション能力)」という(努力で挽回不可能な)特性に依存した序列付けを発生させてしまったのだという{{sfn|和田|2010|pp=65,86-87}}。

カーストの規定要因については、本田が統計分析を用いて具体的に研究している([[#社会調査|後述]])。スクールカーストとコミュニケーション能力の関係について、中高生の交友関係を研究している鈴木翔は、「自分の意見を押し通す」能力とスクールカーストの高低には相関関係があるものの、「友達の意見に合わせる」能力とスクールカーストの高低にはあまり相関がみられないという統計に注目している。この事実からは、コミュニケーション能力があるからカースト上位になるのではなく、カースト上位にいるからそれを利用して他人に自分の意見を押し付けることができるようになり、コミュニケーション能力があると判断されているという解釈も可能となる{{sfn|鈴木|2012|pp=130-132}}。


スクールカーストの格差は小学校段階で発生するもののまだ目立たないが、[[思春期]](中学校ぐらい)からは顕著にみられるようになる{{sfn|斎藤|2011|p=19}}。大学に入ると高校までのように常に同じ教室内で生徒同士で時間を過ごすのではなく自由に講義を履修するようになるためスクールカーストのような人間関係は薄れていくと考えられるが、実際には([[#いじめとの関係|後述]]するようないじめに発展するような熾烈な事態にはならないにせよ)場の空気を読むことが強制され[[コミュニケーション能力]]が過大評価されるような高校までの環境の延長線上にあるような大学も相当数あり{{sfn|和田|2010|pp=186-187}}、SNSでの交友関係の広さや恋人の社会的地位などによって決まるとされる「女子大生カースト」の特集が女性向け[[ファッション雑誌]]で組まれたこともある<ref>{{Cite web |url=https://www.j-cast.com/2013/07/14179371.html?p=all |title=自分が好かれているかが気になって仕方がない 女子大生悩ます「カースト」問題の深刻 |date=2013-07-14 |publisher= J-CAST, Inc. |accessdate=2018-09-30}}</ref>。
スクールカーストの格差は小学校段階で発生するもののまだ目立たないが、[[思春期]](中学校ぐらい)からは顕著にみられるようになる{{sfn|斎藤|2011|p=19}}。大学に入ると高校までのように常に同じ教室内で生徒同士で時間を過ごすのではなく自由に講義を履修するようになるためスクールカーストのような人間関係は薄れていくと考えられるが、実際には([[#いじめとの関係|後述]]するようないじめに発展するような熾烈な事態にはならないにせよ)場の空気を読むことが強制され[[コミュニケーション能力]]が過大評価されるような高校までの環境の延長線上にあるような大学も相当数あり{{sfn|和田|2010|pp=186-187}}、SNSでの交友関係の広さや恋人の社会的地位などによって決まるとされる「女子大生カースト」の特集が女性向け[[ファッション雑誌]]で組まれたこともある<ref>{{Cite web |url=https://www.j-cast.com/2013/07/14179371.html?p=all |title=自分が好かれているかが気になって仕方がない 女子大生悩ます「カースト」問題の深刻 |date=2013-07-14 |publisher= J-CAST, Inc. |accessdate=2018-09-30}}</ref>。


鈴木は自身の行ったインタビュー調査に基づき、小学校時代のスクールカーストと中学・高校時代のスクールカーストでは、それがどの程度強く意識されるかという程度の差だけではない異なった様相がみられると論じている。それによると、小学校の段階では生徒の地位の高低が特定の生徒の名前と結びつけて認識されているのに対し、中学以降では「(地位の高い)ギャル系」「(地位の低い)オタク系」というようなグループ単位で認識されている傾向があるという{{sfn|鈴木|2012|p=96}}。
鈴木は自身の行ったインタビュー調査に基づき、小学校時代のスクールカーストと中学・高校時代のスクールカーストでは、それがどの程度強く意識されるかという程度の差だけではない異なった様相がみられると論じている。それによると、小学校の段階では生徒の地位の高低が特定の生徒の名前と結びつけて認識されているのに対し、中学以降では「(地位の高い)ギャル系」「(地位の低い)オタク系」というようなグループ単位で認識されている傾向があるという{{sfn|鈴木|2012|p=96}}。
=== 地域差 ===

和田によれば、スクールカーストによる階層化には地域差が存在するという{{sfn|和田|2010|pp=73-77}}。スクールカースト化は人間関係の流動性が低く閉鎖的な場(いざというときに逃げられない状況)で起こりやすい現象であるため、具体的には以下のような地域ではカースト化が進みにくいと考えられる。
和田によれば、スクールカーストによる階層化には地域差が存在するという{{sfn|和田|2010|pp=73-77}}。{{要出典範囲|スクールカースト化は人間関係の流動性が低く閉鎖的な場(いざというときに逃げられない状況)で起こりやすい現象であるため、具体的には以下のような地域ではカースト化が進みにくいと考えられる。|date={{#time:Y年n月|+9 hours}}}}
* [[学習塾]]への通塾率が高い地域 - 塾という学校とは別の場が用意されているため
* [[学習塾]]への通塾率が高い地域 - 塾という学校とは別の場が用意されているため
* [[中学受験]]への意識が高い地域 - 受験によって別々の学校に進学し友人関係がリセットされるため
* [[中学受験]]への意識が高い地域 - 受験によって別々の学校に進学し友人関係がリセットされるため
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小中一貫校(9年制)や中高一貫校(6年制)のような一貫教育は、スクールカーストの条件が整いやすい。<br>しかし、現代では逃げられる環境であろうがなかろうが、スクールカーストは全国的に大多数の中高生が体験するものであるという意見もある<ref>{{Cite web |url=http://www.edu.utsunomiya-u.ac.jp/sociology/2017hirayama.pdf |title=スクールカーストが現在の大学生に与える影響について |publisher=宇都宮大学 |accessdate=2019-10-08}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/BS/0040/BS00400L043.pdf |title=「スクールカースト」における中学生の対人関係といじめ現象 |publisher=誠一郎 |accessdate=2019-10-08}}</ref>。
小中一貫校(9年制)や中高一貫校(6年制)のような一貫教育は、スクールカーストの条件が整いやすい。<br>しかし、現代では逃げられる環境であろうがなかろうが、スクールカーストは全国的に大多数の中高生が体験するものであるという意見もある<ref>{{Cite web |url=http://www.edu.utsunomiya-u.ac.jp/sociology/2017hirayama.pdf |title=スクールカーストが現在の大学生に与える影響について |publisher=宇都宮大学 |accessdate=2019-10-08}}</ref><ref>{{Cite web |url=https://archives.bukkyo-u.ac.jp/rp-contents/BS/0040/BS00400L043.pdf |title=「スクールカースト」における中学生の対人関係といじめ現象 |publisher=誠一郎 |accessdate=2019-10-08}}</ref>。


=== いじめとの関係 ===
== いじめとの関係 ==
場の空気を読んで摩擦・衝突を回避しながらポジションをさぐりあうという教室内における生徒たちの人間関係に対する緊張感は、しばしば[[戦場]]に喩えられる<ref>[[#ebihara 2010|海老原・2010年]] p. 348.</ref>。荻上は([[#キャラ的コミュニケーション|後述]]するようなキャラをコントロールしながら行うコミュニケーションの闘争を)「(終わりなき)キャラ戦争」と呼び{{sfn|荻上|2008|p=206}}、評論家の[[宇野常寛]]も「[[ケータイ小説]]好きの女子」と「[[美少女ゲーム]]好きの男子」というように文化的トライブを異にする者同士が(場合によっては互いに軽蔑しあいながら)共存する学校教室を、[[ポストモダン]]化の進行によって複数の異なる価値観が乱立する「バトルロワイヤル状況」のミクロな意味での象徴だとしている{{sfn|宇野|2008|p=97}}(詳しくは[[#スクールカーストの|後述]])。また、[[社会学者]]の[[土井隆義]]は中学生が創作した「教室はたとえて言えば[[地雷原]]」という[[川柳]]をスクールカースト的な一触即発の環境を端的に表現したものとして紹介している{{sfn|土井|2008|p=9}}。
場の空気を読んで摩擦・衝突を回避しながらポジションをさぐりあうという教室内における生徒たちの人間関係に対する緊張感は、しばしば[[戦場]]に喩えられる<ref>[[#ebihara 2010|海老原・2010年]] p. 348.</ref>。荻上は([[#キャラ的コミュニケーション|後述]]するようなキャラをコントロールしながら行うコミュニケーションの闘争を)「(終わりなき)キャラ戦争」と呼び{{sfn|荻上|2008|p=206}}、評論家の[[宇野常寛]]も「[[ケータイ小説]]好きの女子」と「[[美少女ゲーム]]好きの男子」というように文化的トライブを異にする者同士が(場合によっては互いに軽蔑しあいながら)共存する学校教室を、[[ポストモダン]]化の進行によって複数の異なる価値観が乱立する「バトルロワイヤル状況」のミクロな意味での象徴だとしている{{sfn|宇野|2008|p=97}}(詳しくは[[#スクールカーストの構造|後述]])。また、[[社会学者]]の[[土井隆義]]は中学生が創作した「教室はたとえて言えば[[地雷原]]」という[[川柳]]をスクールカースト的な一触即発の環境を端的に表現したものとして紹介している{{sfn|土井|2008|p=9}}。


こうしたシビアなコミュニケーション環境{{#tag:ref|これらは「優しい関係」{{sfn|土井|2008|p=8}}{{sfn|土井|2009|p=12}}・「マサツ回避の世代」<ref>[[千石保]]『マサツ回避の世代―若者のホンネと主張』[[PHP研究所]]、1994年。ISBN 978-4569544892。{{要ページ番号|date=2018-09-30}}</ref>と表現されたりするもので、[[哲学者]]の[[アルトゥル・ショーペンハウアー]]の寓話である[[ヤマアラシ#哲学用語|ヤマアラシのジレンマ]]に相当するともいえる<ref>[[児美川孝一郎]]『若者とアイデンティティ』[[法政大学出版局]]、2006年、114頁。ISBN 978-4588680038。</ref>。|group="注"}}は、場合によっては[[いじめ]]を誘発して生徒を[[自殺]]に追い込むなどの深刻な事態を引き起こす背景にもなっており<ref>[[#ebihara 2010|海老原・2010年]] pp. 320-321.</ref>、もともと森口が著書『いじめの構造』にてスクールカーストを紹介したのは、[[教育社会学]]者の[[藤田英典]]による理念的ないじめの分類<ref group="注">いじめを「モラルの低下・混乱によるもの」「社会的偏見・差別による排除的なもの」「閉鎖的な集団内で発生するもの」「特定の個人への暴行・恐喝を反復するもの」の4つに分類した。詳細は[[いじめ#分類]]を参照。</ref>に当事者間で使用されている概念を組み合わせてリアリティを補強することが目的であった{{sfn|森口|2007|p=41}}。
こうしたシビアなコミュニケーション環境{{#tag:ref|これらは「優しい関係」{{sfn|土井|2008|p=8}}{{sfn|土井|2009|p=12}}・「マサツ回避の世代」<ref>[[千石保]]『マサツ回避の世代―若者のホンネと主張』[[PHP研究所]]、1994年。ISBN 978-4569544892。{{要ページ番号|date=2018-09-30}}</ref>と表現されたりするもので、[[哲学者]]の[[アルトゥル・ショーペンハウアー]]の寓話である[[ヤマアラシ#哲学用語|ヤマアラシのジレンマ]]に相当するともいえる<ref>[[児美川孝一郎]]『若者とアイデンティティ』[[法政大学出版局]]、2006年、114頁。ISBN 978-4588680038。</ref>。|group="注"}}は、場合によっては[[いじめ]]を誘発して生徒を[[自殺]]に追い込むなどの深刻な事態を引き起こす背景にもなっており<ref>[[#ebihara 2010|海老原・2010年]] pp. 320-321.</ref>、もともと森口が著書『いじめの構造』にてスクールカーストを紹介したのは、[[教育社会学]]者の[[藤田英典]]による理念的ないじめの分類<ref group="注">いじめを「モラルの低下・混乱によるもの」「社会的偏見・差別による排除的なもの」「閉鎖的な集団内で発生するもの」「特定の個人への暴行・恐喝を反復するもの」の4つに分類した。詳細は[[いじめ#分類]]を参照。</ref>に当事者間で使用されている概念を組み合わせてリアリティを補強することが目的であった{{sfn|森口|2007|p=41}}。


いじめは基本的にはスクールカーストが下位のものを対象として行われるが、最上位のカーストの者が最下位のカーストの者をいじめるといった落差の大きいものはあまりなく、同一カースト内か隣接するカーストの者が対象となることが多い{{sfn|土井|2009|p=21}}。生徒が形成している各グループ内部で行われるいじめについては、グループ間の移動の可能性はカースト上位ほど容易であることから<ref group="注">これは森口の著述による。[[#統計調査|後述]]する本田の統計調査によれば、一緒に行動する友人の固定性が強いことはカースト上位を得ることにプラスの影響があるとされる。</ref>、カースト下位のグループほどいじめが発生しやすい(自分がいじめの対象となりそうな兆候があっても別グループへ離脱できないため){{sfn|森口|2007|p=49}}。
いじめは基本的にはスクールカーストが下位のものを対象として行われるが、最上位のカーストの者が最下位のカーストの者をいじめるといった落差の大きいものはあまりなく、同一カースト内か隣接するカーストの者が対象となることが多い{{sfn|土井|2009|p=21}}。生徒が形成している各グループ内部で行われるいじめについては、グループ間の移動の可能性はカースト上位ほど容易であることから<ref group="注">これは森口の著述による。[[#社会調査|後述]]する本田の統計調査によれば、一緒に行動する友人の固定性が強いことはカースト上位を得ることにプラスの影響があるとされる。</ref>、カースト下位のグループほどいじめが発生しやすい(自分がいじめの対象となりそうな兆候があっても別グループへ離脱できないため){{sfn|森口|2007|p=49}}。


いじめとカーストの関係は、いじめの加害者(被害者)になることによってカーストが上昇(下降)するという面もあり、両者は相互に干渉しあっている{{sfn|森口|2007|p=59}}。いじめには示威行為としての側面があるため、特にもともと多くの生徒が内心では嫌っていた相手に対して先陣を切っていじめを始めた場合などは人気の獲得によってカーストが上昇する{{sfn|森口|2007|p=79}}。他方、加害者側と同等以上にカーストの高い別の生徒あるいは教師などの介入によってクラスのモラルが回復した場合(いじめが恥ずべき行為であるとの意識が共有された場合)、いじめ加害者のカーストが下降することもある{{sfn|森口|2007|p=82}}。中立者(いじめの直接的な加害者でも被害者でもない人)が被害者の救済を試みた場合、成功すればヒーローとしてカーストの上昇が期待できるが、失敗した場合はカーストの下降の危険性(さらにそれと付随して次は自分がいじめの新たな対象となる可能性)がある{{sfn|森口|2007|p=53}}。また、年少者の間ではいじめが発生していることを教員に密告する(チクる)ことは、不名誉なことであるとされているため、そのことが知られればカーストは下降することになる{{sfn|森口|2007|p=53}}。
いじめとカーストの関係は、いじめの加害者(被害者)になることによってカーストが上昇(下降)するという面もあり、両者は相互に干渉しあっている{{sfn|森口|2007|p=59}}。いじめには示威行為としての側面があるため、特にもともと多くの生徒が内心では嫌っていた相手に対して先陣を切っていじめを始めた場合などは人気の獲得によってカーストが上昇する{{sfn|森口|2007|p=79}}。他方、加害者側と同等以上にカーストの高い別の生徒あるいは教師などの介入によってクラスのモラルが回復した場合(いじめが恥ずべき行為であるとの意識が共有された場合)、いじめ加害者のカーストが下降することもある{{sfn|森口|2007|p=82}}。中立者(いじめの直接的な加害者でも被害者でもない人)が被害者の救済を試みた場合、成功すればヒーローとしてカーストの上昇が期待できるが、失敗した場合はカーストの下降の危険性(さらにそれと付随して次は自分がいじめの新たな対象となる可能性)がある{{sfn|森口|2007|p=53}}。また、年少者の間ではいじめが発生していることを教員に密告する(チクる)ことは、不名誉なことであるとされているため、そのことが知られればカーストは下降することになる{{sfn|森口|2007|p=53}}。
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いじめとスクールカーストが関連して論じられることについて鈴木は、両者は同じものではなく、スクールカーストが存在することの弊害のひとつとしていじめの問題があるという関係であると整理し、いじめという文脈を外してスクールカーストを検証することも必要であると述べている{{sfn|鈴木|2012|pp=40-41}}。
いじめとスクールカーストが関連して論じられることについて鈴木は、両者は同じものではなく、スクールカーストが存在することの弊害のひとつとしていじめの問題があるという関係であると整理し、いじめという文脈を外してスクールカーストを検証することも必要であると述べている{{sfn|鈴木|2012|pp=40-41}}。


=== キャラ的コミュニケーション ===
== キャラ的コミュニケーション ==
{{See also|キャラ (コミュニケーション)}}
現代の日本の若者は、各自の実際の性格だけではなく場合によっては[[場の空気]]による暗黙の圧力で配分される「[[キャラ (コミュニケーション)|キャラ]]」を演じてコミュニケーションをとるというスタイルが定着しており、教室内は例えば「[[不思議ちゃん]]キャラ」「[[毒舌]]キャラ」のような様々なキャラがひしめきあう状態となっている{{sfn|斎藤|2011|pp=18-20}}。こうした環境はスクールカーストの形成やいじめの発生と密接に関係しており{{sfn|斎藤|2011|p=28,31}}、スクールカーストという序列は各々の「キャラ」に対して行われる格付けであるともいえる{{sfn|荻上|2008|p=152}}。
[[キャラ (コミュニケーション)|キャラ]]とは、[[キャラクター (曖昧さ回避)|キャラクター]]({{lang-en-short|character}}、[[性格]]・[[人格]])を省略した[[若者言葉]]で、[[コミュニケーション]]の場における振舞い方に関する類型的な役割を意味する<ref>「空気の戦場――あるいはハイ・コンテクストな表象=現実空間としての教室」『サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ』 344頁。</ref>。その具体的な役割に応じて、例えば「[[まじめ]]キャラ」「[[馬鹿|バカ]]キャラ」「[[へたれ]]キャラ」「[[癒やし]]キャラ」のようにさまざまなものが存在する<ref>『キャラ論』77頁。</ref>。

現代の日本の若者は、各自の実際の性格だけではなく場合によっては[[場の空気]]による暗黙の圧力で配分される「キャラ」を演じてコミュニケーションをとるというスタイルが定着しており、教室内は例えば「[[不思議ちゃん]]キャラ」「[[毒舌]]キャラ」のような様々なキャラがひしめきあう状態となっている{{sfn|斎藤|2011|pp=18-20}}。こうした環境はスクールカーストの形成やいじめの発生と密接に関係しており{{sfn|斎藤|2011|p=28,31}}、スクールカーストという序列は各々の「キャラ」に対して行われる格付けであるともいえる{{sfn|荻上|2008|p=152}}。


うまくキャラを確立できた者が勝利するという構造は日本の芸能界における[[お笑い芸人]]・[[雛壇芸人]]の生存競争にみられるものであり<ref>[[荻上チキ]]『社会的な身体〜振る舞い・運動・お笑い・ゲーム』[[講談社]]、2009年、122頁。ISBN 978-4062879989。</ref>、与えられたキャラを演じる若者の作法は日本の[[お笑い番組]]・[[バラエティ番組]]・[[トーク番組]]における彼らのやりとりの影響を強く受けている{{sfn|土井|2009|p=11}}{{sfn|斎藤|2011|p=18}}。ほかにも、[[2000年代|ゼロ年代]]末から急速に支持を集めた[[女性アイドルグループ]]である[[AKB48]]の運営戦略と受容の構造<ref group="注">「[[AKB48選抜総選挙|選抜総選挙]]」と呼ばれる人気投票(序列化)によって、「おっさんキャラの[[大島優子]]」「[[ギャル]]キャラの[[板野友美]]」といったキャラの分化が促進され、実質的には(個々のアイドルの身体性というより)それらキャラクター性がファンから消費の対象となっている。詳細は[[AKB48#キャラクター消費]]を参照。</ref>も、「コミュニケーション能力(≒人気獲得力)によって決定される序列」が「キャラの分化を促進する」という意味でスクールカーストの持つ構造と一致するものである{{sfn|斎藤|2011|pp=182-183}}。
うまくキャラを確立できた者が勝利するという構造は日本の芸能界における[[お笑い芸人]]・[[雛壇芸人]]の生存競争にみられるものであり<ref>[[荻上チキ]]『社会的な身体〜振る舞い・運動・お笑い・ゲーム』[[講談社]]、2009年、122頁。ISBN 978-4062879989。</ref>、与えられたキャラを演じる若者の作法は日本の[[お笑い番組]]・[[バラエティ番組]]・[[トーク番組]]における彼らのやりとりの影響を強く受けている{{sfn|土井|2009|p=11}}{{sfn|斎藤|2011|p=18}}。ほかにも、[[2000年代|ゼロ年代]]末から急速に支持を集めた[[女性アイドルグループ]]である[[AKB48]]の運営戦略と受容の構造<ref group="注">「[[AKB48選抜総選挙|選抜総選挙]]」と呼ばれる人気投票(序列化)によって、「おっさんキャラの[[大島優子]]」「[[ギャル]]キャラの[[板野友美]]」といったキャラの分化が促進され、実質的には(個々のアイドルの身体性というより)それらキャラクター性がファンから消費の対象となっている。詳細は[[AKB48#キャラクター消費]]を参照。</ref>も、「コミュニケーション能力(≒人気獲得力)によって決定される序列」が「キャラの分化を促進する」という意味でスクールカーストの持つ構造と一致するものである{{sfn|斎藤|2011|pp=182-183}}。
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荻上は、スクールカーストによるキャラの序列化を「コミュニケーションの[[地形効果]]」として説明している。地形効果とは、[[ウォー・シミュレーションゲーム]]において戦闘キャラクター自身の属性とそれが位置している場所(地形)の属性の相性に良し悪しによって戦闘能力にプラスまたはマイナスの修正が与えられるということであるが、これと同じように現実世界のコミュニケーション空間でもどのような場にどのようなキャラの人が存在しているかによってその位置づけは変わるのであり、例えば「学校空間」という場では「根暗キャラ([[インキャラ]])な人はマイナスの修正を受ける」というような地形効果の影響を受けていると考えられる{{sfn|荻上|2008|pp=214-218}}。
荻上は、スクールカーストによるキャラの序列化を「コミュニケーションの[[地形効果]]」として説明している。地形効果とは、[[ウォー・シミュレーションゲーム]]において戦闘キャラクター自身の属性とそれが位置している場所(地形)の属性の相性に良し悪しによって戦闘能力にプラスまたはマイナスの修正が与えられるということであるが、これと同じように現実世界のコミュニケーション空間でもどのような場にどのようなキャラの人が存在しているかによってその位置づけは変わるのであり、例えば「学校空間」という場では「根暗キャラ([[インキャラ]])な人はマイナスの修正を受ける」というような地形効果の影響を受けていると考えられる{{sfn|荻上|2008|pp=214-218}}。


キャラおよびスクールカーストの可変性について、森口は([[#いじめとの関係|前述]]したようにいじめの発生に付随した行動によってカーストの上昇/下降がみられることを指摘しながらも)新しい学年の始まる4月〜5月頃のポジション取り(カーストの決定)が基本的には次のクラス替えまで1年間保存されるとしている{{sfn|森口|2007|p=44}}。鈴木は2010年から2011年に大学1年生を対象としてインタビューを行っているが、その結果ではカーストが下降することはあっても自力で上昇するのはほとんど不可能であるとの意見が多かったとしている。それによると、部活動をはじめとするクラス間をまたぐ交友関係によって個々の生徒の情報は共有されることになるため、クラス替えなどを契機に人間関係がある程度リセットされたとしても過去のカーストが新年度もそのまま維持されてしまいがちなのだという{{sfn|鈴木|2012|pp=190-194}}。[[土井隆義]]や[[精神科医]]の[[斎藤環]]、[[荻上チキ]]らは学校空間でのカーストの固定性が強いことや固定化がいじめへつながる危険性を持つことを認めながらも{{sfn|土井|2009|p=24など{{要ページ番号|date=2018-09-30|title=ページ番号が「24など」と不明瞭。}}}}{{sfn|斎藤|2011|pp=20-21}}{{sfn|荻上|2008|p=205}}、キャラ自体は周囲の状況に応じて切り替えられていく可変的なものであることを指摘しており<ref group="注">[[キャラ (コミュニケーション)#キャラとアイデンティティ]]を参照。</ref>、[[宇野常寛]]{{#tag:ref|[[宇野常寛]]によると、いわゆる[[場の空気|空気]]の読めない人は自己の[[アイデンティティ]]を「…である」という固定的な自己像に対する承認によって獲得しようとするが、現実には「…した」という具体的な行動によって他者からの人物像が形成されるのであり、現代社会の流動性の高いコミュニティにおいてキャラクターは自身のコミュニケーションによって書き換え可能であるという{{sfn|宇野|2008|pp=310-315}}。|group="注"}}や荻上{{#tag:ref|荻上チキは、一般に個人が複数のキャラを持っており場面に応じてそのどれかひとつを決めてそれを演じる「キャラ分け」が行われているとしている{{sfn|荻上|2008|p=225など{{要ページ番号|date=2018-09-29|title=ページ番号の指定が「p.225など」と不明瞭。}}}}。|group="注"}}はこのキャラの可変性に注目した論考を行っている。それらを踏まえた評論家の[[海老原豊]]の論<ref>[[#ebihara 2010|海老原・2010年]] pp. 343-346.</ref>によれば、カースト/キャラが可変性と不変性を併有しているのは、その位置決定にかかわるコミュニケーション能力そのものが、具体的な対人関係の中で成長させることが可能ではあるが、家庭環境のような(当人にはコントロール不可能な)外的要因の影響も受けるという二面性を持っているからであるとしている。そして、そもそもカースト/キャラの可変性の前提となっているのは現代におけるメディア・テクノロジー環境の変化をもたらした個人の固定的な身体性(階級・生育環境など)の抑圧であり、その箍が外れたときに(あたかも本物のカースト制度のように)「本来あるべきカースト」への固定化が働くと考えられる<ref group="注">例えば、中学時代にいじめられていた子供が、中学卒業・高校入学を機会にキャラを変更して(いわゆる「高校デビュー」)カーストの上昇を試みて成功したかに見えても、ひとたび過去の自分の姿を暴露されれば(抑圧が解放されれば)再びカースト最下層への転落を余儀なくされる、ということ。</ref>。
キャラおよびスクールカーストの可変性について、森口は([[#いじめとの関係|前述]]したようにいじめの発生に付随した行動によってカーストの上昇/下降がみられることを指摘しながらも)新しい学年の始まる4月〜5月頃のポジション取り(カーストの決定)が基本的には次のクラス替えまで1年間保存されるとしている{{sfn|森口|2007|p=44}}。鈴木は2010年から2011年に大学1年生を対象としてインタビューを行っているが、その結果ではカーストが下降することはあっても自力で上昇するのはほとんど不可能であるとの意見が多かったとしている。それによると、部活動をはじめとするクラス間をまたぐ交友関係によって個々の生徒の情報は共有されることになるため、クラス替えなどを契機に人間関係がある程度リセットされたとしても過去のカーストが新年度もそのまま維持されてしまいがちなのだという{{sfn|鈴木|2012|pp=190-194}}。
[[土井隆義]]や[[精神科医]]の[[斎藤環]]、[[荻上チキ]]らは学校空間でのカーストの固定性が強いことや固定化がいじめへつながる危険性を持つことを認めながらも{{sfn|土井|2009|p=24など{{要ページ番号|date=2018-09-30|title=ページ番号が「24など」と不明瞭。}}}}{{sfn|斎藤|2011|pp=20-21}}{{sfn|荻上|2008|p=205}}、キャラ自体は周囲の状況に応じて切り替えられていく可変的なものであることを指摘しており<ref group="注">[[キャラ (コミュニケーション)#キャラとアイデンティティ]]を参照。</ref>、[[宇野常寛]]{{#tag:ref|[[宇野常寛]]によると、いわゆる[[場の空気|空気]]の読めない人は自己の[[アイデンティティ]]を「…である」という固定的な自己像に対する承認によって獲得しようとするが、現実には「…した」という具体的な行動によって他者からの人物像が形成されるのであり、現代社会の流動性の高いコミュニティにおいてキャラクターは自身のコミュニケーションによって書き換え可能であるという{{sfn|宇野|2008|pp=310-315}}。|group="注"}}や荻上{{#tag:ref|荻上チキは、一般に個人が複数のキャラを持っており場面に応じてそのどれかひとつを決めてそれを演じる「キャラ分け」が行われているとしている{{sfn|荻上|2008|p=225など{{要ページ番号|date=2018-09-29|title=ページ番号の指定が「p.225など」と不明瞭。}}}}。|group="注"}}はこのキャラの可変性に注目した論考を行っている。それらを踏まえた評論家の[[海老原豊]]の論<ref>[[#ebihara 2010|海老原・2010年]] pp. 343-346.</ref>によれば、カースト/キャラが可変性と不変性を併有しているのは、その位置決定にかかわるコミュニケーション能力そのものが、具体的な対人関係の中で成長させることが可能ではあるが、家庭環境のような(当人にはコントロール不可能な)外的要因の影響も受けるという二面性を持っているからであるとしている。そして、そもそもカースト/キャラの可変性の前提となっているのは現代におけるメディア・テクノロジー環境の変化をもたらした個人の固定的な身体性(階級・生育環境など)の抑圧であり、その箍が外れたときに(あたかも本物のカースト制度のように)「本来あるべきカースト」への固定化が働くと考えられる<ref group="注">例えば、中学時代にいじめられていた子供が、中学卒業・高校入学を機会にキャラを変更して(いわゆる「高校デビュー」)カーストの上昇を試みて成功したかに見えても、ひとたび過去の自分の姿を暴露されれば(抑圧が解放されれば)再びカースト最下層への転落を余儀なくされる、ということ。</ref>。

== 社会調査 ==
=== 「スクールカースト」という語の認知度 ===
2018年に[[北海道大学]]の水野君平が、北海道の専門学生・大学生 347 名を対象としてアンケートを行い、中学生の頃と現在において、スクールカーストを知っているかどうかを「はい」「いいえ」で回答を求めた。中学生の時点で「スクールカースト」という言葉を知っていた回答者は'''約47%'''であり、回答時点で知っていた回答者は'''約85%'''であった。このことから水野は、スクールカーストという言葉は少なくとも青年の中では十分認知されている言葉だと結論付けている。中学生の頃のグループ間・内の地位とそれぞれの時点での認知は有意な関連を示さなかったことから、スクールカーストの中の地位に関わらず、スクールカーストは多くの青年にとって認知されている言葉だったとしている<ref>{{Cite journal|author=水野, 君平|year=2018|title=青年の抱くスクールカーストの認知度、印象および偏 見の検討 : 過去のグループ間地位、現在の社会的支 配志向性との関連|journal=対人社会心理学研究|volume=18|page=P.35-P.41}}</ref>。

2017年に宇都宮大学の小原、平山が同大学の学生206名を対象にして行ったアンケートでは、「スクールカーストという言葉を知っていますか?」という設問に対し、「よく知っている」が約 43%、「なんとなく知っている」が 約42%であり、あわせて回答者のうちの '''約85%'''の学生がスクールカーストという言葉を知っていることから、大学生におけるスクールカーストについての認知度は非常に高いとした。

=== 序列化の認識率 ===
2016年に[[愛知教育大学]]の石田靖彦は、大学生117名を対象に小学校から高校までの学級内の人間関係を回想させた上で,グループ間における非公式なステイタスの序列として定義される「スクールカースト」が存在したかを検証した。同性グループに対する序列化の認識率は,中学校でもっとも高く男子で'''77%''',女子で'''87%'''が少しはあったと回答した。小学校でも男子で54%,女子で72%が少しはあったと回答しており,女子では小学校でもグループ間の序列化が行われていることが示された。高校では男子で67%,女子で62%で中学校よりも低下していた<ref>{{Cite journal|author=石田靖彦|year=2017|title=各学校段階におけるスクールカーストの認識とその要因 ― 大学生を対象にした回 想法による検討 ―|journal=愛知教育大学教育臨床総合センター紀要|volume=7|page=17–23}}</ref>。

序列の認識が中学校でもっとも高かった理由として、石田は三島、Rubin、Bukowski、Parkerらの先行研究を踏まえて、児童期から青年期にかけての友人関係の発達的変化を理由として挙げた。他方、中学校にくらべて高校時代で序列化の認識が低下していた理由については、石田は高校入試による選抜のため、学級内の生徒の多様性が小中学校より低いからではないかと推測した。ただし、当研究の調査対象者は国立大学に所属する大学生であり、平均以上の学力を有する高校に偏っていると考えられることから、当研究の結果が他の高校に一般化できるかは疑問の余地があるとした。


=== 各階層の比率と階層決定の因子 ===
=== 統計調査 ===
本田は、2009年〜2010年に[[神奈川県]]の[[公立中学校]]の生徒2874名に対して[[アンケート]]調査を行った。そのデータを元に分析すると、「高位・中位・低位・いじられ{{#tag:ref|「人気がある」「馬鹿にされている」という一見すると相反する評価を周囲が受けている「いじられキャラ」のことで、[[道化]]のように、からかわれる(=いじられる)ことによって人気を得ている{{sfn|本田|2011|pp=49-50}}。「いじり」はコミュニケーション操作系いじめにつながりかねない否定的な側面も持っており、例えばスクールカーストものとして頻繁に引用される[[小説]]『りはめより100倍恐ろしい』のタイトルにある“りはめ”は、意味不明の単語ではなく、「いじ'''り'''」は「いじ'''め'''」よりも恐ろしいという意味である{{sfn|荻上|2008|p=165}}。森口朗は、スクールカーストを規定するコミュニケーション能力の3要素のうち、「同調力は高いが共感力と自己主張力が低い」ものがいじられキャラのポジションにおさまるとしている{{sfn|森口|2007|p=45}}。|group="注"}}」の比率が「10:60:25:5」になったという{{sfn|本田|2011|p=68}}。
本田は、2009年〜2010年に[[神奈川県]]の[[公立中学校]]の生徒2874名に対して[[アンケート]]調査を行った。そのデータを元に分析すると、「'''高位・中位・低位・いじられ{{#tag:ref|「人気がある」「馬鹿にされている」という一見すると相反する評価を周囲が受けている「いじられキャラ」のことで、[[道化]]のように、からかわれる(=いじられる)ことによって人気を得ている{{sfn|本田|2011|pp=49-50}}。「いじり」はコミュニケーション操作系いじめにつながりかねない否定的な側面も持っており、例えばスクールカーストものとして頻繁に引用される[[小説]]『りはめより100倍恐ろしい』のタイトルにある“りはめ”は、意味不明の単語ではなく、「いじ'''り'''」は「いじ'''め'''」よりも恐ろしいという意味である{{sfn|荻上|2008|p=165}}。森口朗は、スクールカーストを規定するコミュニケーション能力の3要素のうち、「同調力は高いが共感力と自己主張力が低い」ものがいじられキャラのポジションにおさまるとしている{{sfn|森口|2007|p=45}}。|group="注"}}'''」の比率が「'''10:60:25:5'''」になったという{{sfn|本田|2011|p=68}}。


さらに、[[性別]]・[[学力]]・[[生きる力]](自主性・主体性・論理性)・(家庭の)[[経済資本]]・(家庭の)[[文化資本]]・クラス内友人数・(普段一緒に行動する)友人の固定性・部活動(運動系か文化系か)といった要素がカーストの位置決定にどう影響しているかを[[ロジスティック回帰|ロジスティック]][[回帰分析]]によって調べている。それによれば、(「中位」を基準として)「高位」に位置する典型的な生徒像は「友人数が多くてかつ固定的で生きる力が高く学力も高め」、「低位」に位置する生徒像は「文化資本は豊富だが学力は低めで友人数は少なく文化部所属の男子」、「いじられ」に属する生徒像は「友人数が多くてかつ固定的で生きる力と文化資本が豊富かつ学力は低めの男子」となる{{sfn|本田|2011|pp=50-53}}。
さらに、[[性別]]・[[学力]]・[[生きる力]](自主性・主体性・論理性)・(家庭の)[[経済資本]]・(家庭の)[[文化資本]]・クラス内友人数・(普段一緒に行動する)友人の固定性・部活動(運動系か文化系か)といった要素がカーストの位置決定にどう影響しているかを[[ロジスティック回帰|ロジスティック]][[回帰分析]]によって調べている。それによれば、(「中位」を基準として)「高位」に位置する典型的な生徒像は「友人数が多くてかつ固定的で生きる力が高く学力も高め」、「低位」に位置する生徒像は「文化資本は豊富だが学力は低めで友人数は少なく文化部所属の男子」、「いじられ」に属する生徒像は「友人数が多くてかつ固定的で生きる力と文化資本が豊富かつ学力は低めの男子」となる{{sfn|本田|2011|pp=50-53}}。
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また、本田はカーストが「(学校での)友人関係」「教師との関係」「将来像(進路希望)」と関係しているかどうかも調査している。友人関係について、学校生活で自分の本心に反して求められているキャラを演出したりするかという質問への肯定的な回答は、「上位」と「中位」が同程度で、それより「低位」が高く、さらにそれより「いじられ」が高くなっている{{sfn|本田|2011|pp=54-55}}。教師との関係については、「上位」「いじられ」の生徒が他と比べて教師と積極的にコミュニケーションをとっている{{sfn|本田|2011|pp=79-80}}。将来像については、「高位」「中位」「低位」の順に大学進学の希望率が下がる{{sfn|本田|2011|pp=100-101}}。
また、本田はカーストが「(学校での)友人関係」「教師との関係」「将来像(進路希望)」と関係しているかどうかも調査している。友人関係について、学校生活で自分の本心に反して求められているキャラを演出したりするかという質問への肯定的な回答は、「上位」と「中位」が同程度で、それより「低位」が高く、さらにそれより「いじられ」が高くなっている{{sfn|本田|2011|pp=54-55}}。教師との関係については、「上位」「いじられ」の生徒が他と比べて教師と積極的にコミュニケーションをとっている{{sfn|本田|2011|pp=79-80}}。将来像については、「高位」「中位」「低位」の順に大学進学の希望率が下がる{{sfn|本田|2011|pp=100-101}}。


=== その他 ===
一方で、スクールカーストを扱った心理学的な研究では水野君平と太田正義による中学生を対象としたアンケート調査がある。この調査による高位、中位、低位の比率は本田の調査のものとほとんど同じであった。また、高位のグループに属する生徒は学校適応感が高いことや、その間には集団支配志向性と呼ばれる集団間の格差関係を肯定する価値観が介在していることも明らかにしている。
スクールカーストを扱った心理学的な研究では水野君平と太田正義による中学生を対象としたアンケート調査がある。この調査による高位、中位、低位の比率は本田の調査のものとほとんど同じであった。また、高位のグループに属する生徒は学校適応感が高いことや、その間には集団支配志向性と呼ばれる集団間の格差関係を肯定する価値観が介在していることも明らかにしている。


== スクールカーストを題材としたフィクション ==
== スクールカーストを題材とした創作 ==
教室内での人間関係をめぐる駆け引きを描いた物語([[小説]])は、'''スクールカーストもの'''(スクールカースト小説)と呼称され、[[2000年代]]頃から日本では若手作家による[[純文学]]や[[ライトノベル]]の分野で存在感を保っている{{sfn|宇野|2008|p=114}}。中には著者自身が実際に学校空間で体験したことが反映されていると考えられるものもあり、[[ドキュメンタリー]]的な面もある{{sfn|斎藤|2011|p=25}}。
教室内での人間関係をめぐる駆け引きを描いた物語([[小説]])は、'''スクールカーストもの'''(スクールカースト小説)と呼称され、[[2000年代]]頃から日本では若手作家による[[純文学]]や[[ライトノベル]]の分野で存在感を保っている{{sfn|宇野|2008|p=114}}。中には著者自身が実際に学校空間で体験したことが反映されていると考えられるものもあり、[[ドキュメンタリー]]的な面もある{{sfn|斎藤|2011|p=25}}。


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* [[安野モヨコ]]『[[花とみつばち]]』(2000年 - 2003年連載){{sfn|鈴木|2012|p=23}}
* [[安野モヨコ]]『[[花とみつばち]]』(2000年 - 2003年連載){{sfn|鈴木|2012|p=23}}
* [[竹内文香]]『[[ある日突然ハブられた]]』(2007年){{sfn|鈴木|2012|p=25}}
* [[竹内文香]]『[[ある日突然ハブられた]]』(2007年){{sfn|鈴木|2012|p=25}}

== 日本国外におけるスクールカースト ==
== 日本国外におけるスクールカースト ==
「スクールカースト」の語は和製英語であり、またその概念も国外で直接に通用するものではないが、学校における生徒間の人気度に着目した研究は北米を中心に積み重ねがある。
「スクールカースト」の語は和製英語であり、またその概念も国外で直接に通用するものではないが、学校における生徒間の人気度に着目した研究は北米を中心に積み重ねがある。
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小原、水野ともに、生徒間の人気度の序列について、北米以外ではほとんど研究例が見られないとしている。
小原、水野ともに、生徒間の人気度の序列について、北米以外ではほとんど研究例が見られないとしている。

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* [[BULLY]](2008年) -海外産のゲームで、欧米におけるスクールカーストを題材としたアクションアドベンチャーゲーム。主人公のいたずらっ子ジミーを操作して様々なミッションや出来事をクリアし、スクールカーストの頂点を目指す。
* [[BULLY]](2008年) -海外産のゲームで、欧米におけるスクールカーストを題材としたアクションアドベンチャーゲーム。主人公のいたずらっ子ジミーを操作して様々なミッションや出来事をクリアし、スクールカーストの頂点を目指す。
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== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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== 関連項目 ==
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* [[ママカースト]]
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* [[ジョック]] - [[アメリカ合衆国]]のスクールカーストについて。ジョックはクイーンビーと共にヒエラルキーの最上位
* [[ジョック]]

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2022年3月3日 (木) 15:25時点における版

スクールカースト(または学校カースト[1][2])とは、学校において自然発生する生徒間の固定的な序列[3]、また、序列の近い生徒らが小集団を形成し、学校社会が階層化しているという仮説である[3]。上下関係が固定化することから、ハラスメントの原因になっているとの見解がある[3]。スクールカーストの呼称は、学校における生徒間の序列を、インドの固定的・階級的な身分制度であるカーストになぞらえた和製英語である。

スクールカーストの語は2005年頃からインターネットで用例が現れはじめ、当初はネットスラングのような扱いであったが、のちに国会での言及やメディアでの報道などが続き、社会に一定の定着をみせた言葉となった。2017年の調査では、大学生のスクールカーストという語の認知度は8割を超え、中学生時代に学校内に序列があったという回答の割合も7割にのぼった。

歴史

Google Trendsによると、2005年頃に用例が現れ、2013年に反響を呼び定着した

2006年11月16日の衆議院「青少年問題に関する特別委員会」で参考人となった教育学者本田由紀が言及したあと[4]教育評論家森口朗も著書『いじめの構造』で2007年に紹介し、その後教育文芸批評の文脈で議論の対象とされるようになった。ただし、スクールカーストという言葉が流通するようになる前の1990年代から学校内に序列があること自体は研究者から指摘されている[5]

雑誌『AERA』2007年11月19日号にはスクールカーストという言葉を初めてインターネット上に登録したと述べている当時29歳の男性への取材記事が掲載されているため、この記事を信じるならば、これがスクールカーストという語の初出といえる[6]

定義

スクールカーストという言葉はまだ学術的に十分に整理された概念ではないが[7]、次のような森口[8]の定義によって紹介されることが多い[7][9]

スクールカーストとは、クラス内のステイタスを表す言葉として、近年若者たちの間で定着しつつある言葉です。従来と異なるのは、ステイタスの決定要因が、人気やモテるか否かという点であることです。上位から「一軍、二軍、三軍」「A、B、C」などと呼ばれます。-森口朗「いじめの構造」(2007) 

この定義からスクールカーストがクラス内のステイタスを示すということがわかるが、これまでのスクールカースト研究においては、スクールカーストにもう一つの重要な特性があり、そのステイタスは個人個人のものではなくそれぞれが所属する固定化された交友グループのものであり、グループ間の力関係を示すものであるということである[10][11][12][13]

スクールカーストの構造

島宇宙化 概念図

現代の学校空間では、クラス内にいくつかの友達同士のグループが形成され、それらの内部で活発に交流が行われるだけで人間関係が完結する現象がみられる。社会学者宮台真司は、教室内に限らず若者のコミュニケーション空間全般で発生しているこの変容を「島宇宙化」と呼び、分断された各グループ(島宇宙)は優劣のつけられない横並びの状態になっており(フラット化)、異なるグループ間でのつながりが失われたと論じた[14]。これについて本田由紀評論家荻上チキは、分断化自体は認めながらも[注 1]、教室内の各グループは等価な横並び状態にあるのではなく序列化(上下関係の付与)が働いていると述べている[15][16]。このグループ間の序列を指してスクールカーストと呼ばれる。

一般にイメージされるカースト構成の要因

一般的なイメージとしては、以下のようになる[17]

コミュニケーション能力

森口朗によれば、スクールカースト上での位置決定に影響する最大の特性はコミュニケーション能力である[注 3]。クラス内でのステータスの上下関係自体は以前からあったものの、それは運動神経や学力が大きく関係したものであり、そうではなく判断基準がほとんどコミュニケーション能力に依存している点がスクールカーストの新しい点であるといえる[20]。ここでいうコミュニケーション能力とは、具体的には「自己主張力(リーダーシップを得るために必要な能力)」「共感力(人望を得るために必要な能力)」そして「同調力(場の空気に適応するために必要な能力)」の3つを指す[21]

精神科医和田秀樹によれば、コミュニケーション能力の有無に偏重したスクールカーストという序列が発生した背景には、学業成績の相対評価を廃止するなど生徒に対する序列付け自体を否定するような過剰な平等主義があり、「学業成績」「運動能力」といった(努力で挽回可能な)特性によるアイデンティティを失った子供たちは「人気(コミュニケーション能力)」という(努力で挽回不可能な)特性に依存した序列付けを発生させてしまったのだという[22]

カーストの規定要因については、本田が統計分析を用いて具体的に研究している(後述)。スクールカーストとコミュニケーション能力の関係について、中高生の交友関係を研究している鈴木翔は、「自分の意見を押し通す」能力とスクールカーストの高低には相関関係があるものの、「友達の意見に合わせる」能力とスクールカーストの高低にはあまり相関がみられないという統計に注目している。この事実からは、コミュニケーション能力があるからカースト上位になるのではなく、カースト上位にいるからそれを利用して他人に自分の意見を押し付けることができるようになり、コミュニケーション能力があると判断されているという解釈も可能となる[23]

スクールカーストの格差は小学校段階で発生するもののまだ目立たないが、思春期(中学校ぐらい)からは顕著にみられるようになる[24]。大学に入ると高校までのように常に同じ教室内で生徒同士で時間を過ごすのではなく自由に講義を履修するようになるためスクールカーストのような人間関係は薄れていくと考えられるが、実際には(後述するようないじめに発展するような熾烈な事態にはならないにせよ)場の空気を読むことが強制されコミュニケーション能力が過大評価されるような高校までの環境の延長線上にあるような大学も相当数あり[25]、SNSでの交友関係の広さや恋人の社会的地位などによって決まるとされる「女子大生カースト」の特集が女性向けファッション雑誌で組まれたこともある[26]

鈴木は自身の行ったインタビュー調査に基づき、小学校時代のスクールカーストと中学・高校時代のスクールカーストでは、それがどの程度強く意識されるかという程度の差だけではない異なった様相がみられると論じている。それによると、小学校の段階では生徒の地位の高低が特定の生徒の名前と結びつけて認識されているのに対し、中学以降では「(地位の高い)ギャル系」「(地位の低い)オタク系」というようなグループ単位で認識されている傾向があるという[27]

地域差

和田によれば、スクールカーストによる階層化には地域差が存在するという[28]スクールカースト化は人間関係の流動性が低く閉鎖的な場(いざというときに逃げられない状況)で起こりやすい現象であるため、具体的には以下のような地域ではカースト化が進みにくいと考えられる。[要出典]

  • 学習塾への通塾率が高い地域 - 塾という学校とは別の場が用意されているため
  • 中学受験への意識が高い地域 - 受験によって別々の学校に進学し友人関係がリセットされるため
  • (公立中学校の)学校選択制がある地域 - 受験しなかったとしても、友人関係のリセットが行われるため

小中一貫校(9年制)や中高一貫校(6年制)のような一貫教育は、スクールカーストの条件が整いやすい。
しかし、現代では逃げられる環境であろうがなかろうが、スクールカーストは全国的に大多数の中高生が体験するものであるという意見もある[29][30]

いじめとの関係

場の空気を読んで摩擦・衝突を回避しながらポジションをさぐりあうという教室内における生徒たちの人間関係に対する緊張感は、しばしば戦場に喩えられる[31]。荻上は(後述するようなキャラをコントロールしながら行うコミュニケーションの闘争を)「(終わりなき)キャラ戦争」と呼び[32]、評論家の宇野常寛も「ケータイ小説好きの女子」と「美少女ゲーム好きの男子」というように文化的トライブを異にする者同士が(場合によっては互いに軽蔑しあいながら)共存する学校教室を、ポストモダン化の進行によって複数の異なる価値観が乱立する「バトルロワイヤル状況」のミクロな意味での象徴だとしている[33](詳しくは後述)。また、社会学者土井隆義は中学生が創作した「教室はたとえて言えば地雷原」という川柳をスクールカースト的な一触即発の環境を端的に表現したものとして紹介している[34]

こうしたシビアなコミュニケーション環境[注 4]は、場合によってはいじめを誘発して生徒を自殺に追い込むなどの深刻な事態を引き起こす背景にもなっており[39]、もともと森口が著書『いじめの構造』にてスクールカーストを紹介したのは、教育社会学者の藤田英典による理念的ないじめの分類[注 5]に当事者間で使用されている概念を組み合わせてリアリティを補強することが目的であった[40]

いじめは基本的にはスクールカーストが下位のものを対象として行われるが、最上位のカーストの者が最下位のカーストの者をいじめるといった落差の大きいものはあまりなく、同一カースト内か隣接するカーストの者が対象となることが多い[41]。生徒が形成している各グループ内部で行われるいじめについては、グループ間の移動の可能性はカースト上位ほど容易であることから[注 6]、カースト下位のグループほどいじめが発生しやすい(自分がいじめの対象となりそうな兆候があっても別グループへ離脱できないため)[42]

いじめとカーストの関係は、いじめの加害者(被害者)になることによってカーストが上昇(下降)するという面もあり、両者は相互に干渉しあっている[43]。いじめには示威行為としての側面があるため、特にもともと多くの生徒が内心では嫌っていた相手に対して先陣を切っていじめを始めた場合などは人気の獲得によってカーストが上昇する[44]。他方、加害者側と同等以上にカーストの高い別の生徒あるいは教師などの介入によってクラスのモラルが回復した場合(いじめが恥ずべき行為であるとの意識が共有された場合)、いじめ加害者のカーストが下降することもある[45]。中立者(いじめの直接的な加害者でも被害者でもない人)が被害者の救済を試みた場合、成功すればヒーローとしてカーストの上昇が期待できるが、失敗した場合はカーストの下降の危険性(さらにそれと付随して次は自分がいじめの新たな対象となる可能性)がある[46]。また、年少者の間ではいじめが発生していることを教員に密告する(チクる)ことは、不名誉なことであるとされているため、そのことが知られればカーストは下降することになる[46]

和田は、スクールカーストに依拠したいじめの発生を精神分析家のウィルフレッド・ビオンによる集団心理の理論によって説明している。それによれば、集団における無意識(基底想定グループ)には、集団内に自己が位置づけられることによる不安を解消するための手段として「依存グループ(リーダーに全責任をゆだねて不安から逃れる)」「つがいグループ(幸福なカップルへの期待感によって不安から逃れる)」「闘争・逃避グループ(共通敵を想定して不安から逃れる)」という3つのパターンがあるが、スクールカーストの構造は「カースト下位者」という共通の敵を設定していじめの対象とするという意味で「闘争・逃避グループ」の反応であると考えられる[47]

携帯電話インターネット環境の普及によって、例えば学校裏サイトプロフなどを舞台としたネットいじめ社会問題化しているが、荻上チキによればネット上で誹謗中傷などの対象となるのも(通常のいじめと同様に)概ねスクールカーストの下位者だという[18]。メディア社会論を専門とする岡田朋之は、加害者の特定が難しい「ネットいじめ」では「リアルいじめ」[注 7]と違って、「少数側が多数側を攻撃する」「弱者が強者を攻撃する」といったことが可能であり、現実世界でのカースト上位者の支配に納得のいかない下位者側が、反動としてネットいじめの加害者側になるケースが存在することは珍しくないとしている[48]

いじめとスクールカーストが関連して論じられることについて鈴木は、両者は同じものではなく、スクールカーストが存在することの弊害のひとつとしていじめの問題があるという関係であると整理し、いじめという文脈を外してスクールカーストを検証することも必要であると述べている[49]

キャラ的コミュニケーション

キャラとは、キャラクター: character性格人格)を省略した若者言葉で、コミュニケーションの場における振舞い方に関する類型的な役割を意味する[50]。その具体的な役割に応じて、例えば「まじめキャラ」「バカキャラ」「へたれキャラ」「癒やしキャラ」のようにさまざまなものが存在する[51]

現代の日本の若者は、各自の実際の性格だけではなく場合によっては場の空気による暗黙の圧力で配分される「キャラ」を演じてコミュニケーションをとるというスタイルが定着しており、教室内は例えば「不思議ちゃんキャラ」「毒舌キャラ」のような様々なキャラがひしめきあう状態となっている[52]。こうした環境はスクールカーストの形成やいじめの発生と密接に関係しており[53]、スクールカーストという序列は各々の「キャラ」に対して行われる格付けであるともいえる[18]

うまくキャラを確立できた者が勝利するという構造は日本の芸能界におけるお笑い芸人雛壇芸人の生存競争にみられるものであり[54]、与えられたキャラを演じる若者の作法は日本のお笑い番組バラエティ番組トーク番組における彼らのやりとりの影響を強く受けている[55][56]。ほかにも、ゼロ年代末から急速に支持を集めた女性アイドルグループであるAKB48の運営戦略と受容の構造[注 8]も、「コミュニケーション能力(≒人気獲得力)によって決定される序列」が「キャラの分化を促進する」という意味でスクールカーストの持つ構造と一致するものである[57]

荻上は、スクールカーストによるキャラの序列化を「コミュニケーションの地形効果」として説明している。地形効果とは、ウォー・シミュレーションゲームにおいて戦闘キャラクター自身の属性とそれが位置している場所(地形)の属性の相性に良し悪しによって戦闘能力にプラスまたはマイナスの修正が与えられるということであるが、これと同じように現実世界のコミュニケーション空間でもどのような場にどのようなキャラの人が存在しているかによってその位置づけは変わるのであり、例えば「学校空間」という場では「根暗キャラ(インキャラ)な人はマイナスの修正を受ける」というような地形効果の影響を受けていると考えられる[58]

キャラおよびスクールカーストの可変性について、森口は(前述したようにいじめの発生に付随した行動によってカーストの上昇/下降がみられることを指摘しながらも)新しい学年の始まる4月〜5月頃のポジション取り(カーストの決定)が基本的には次のクラス替えまで1年間保存されるとしている[21]。鈴木は2010年から2011年に大学1年生を対象としてインタビューを行っているが、その結果ではカーストが下降することはあっても自力で上昇するのはほとんど不可能であるとの意見が多かったとしている。それによると、部活動をはじめとするクラス間をまたぐ交友関係によって個々の生徒の情報は共有されることになるため、クラス替えなどを契機に人間関係がある程度リセットされたとしても過去のカーストが新年度もそのまま維持されてしまいがちなのだという[59]

土井隆義精神科医斎藤環荻上チキらは学校空間でのカーストの固定性が強いことや固定化がいじめへつながる危険性を持つことを認めながらも[60][61][62]、キャラ自体は周囲の状況に応じて切り替えられていく可変的なものであることを指摘しており[注 9]宇野常寛[注 10]や荻上[注 11]はこのキャラの可変性に注目した論考を行っている。それらを踏まえた評論家の海老原豊の論[65]によれば、カースト/キャラが可変性と不変性を併有しているのは、その位置決定にかかわるコミュニケーション能力そのものが、具体的な対人関係の中で成長させることが可能ではあるが、家庭環境のような(当人にはコントロール不可能な)外的要因の影響も受けるという二面性を持っているからであるとしている。そして、そもそもカースト/キャラの可変性の前提となっているのは現代におけるメディア・テクノロジー環境の変化をもたらした個人の固定的な身体性(階級・生育環境など)の抑圧であり、その箍が外れたときに(あたかも本物のカースト制度のように)「本来あるべきカースト」への固定化が働くと考えられる[注 12]

社会調査

「スクールカースト」という語の認知度

2018年に北海道大学の水野君平が、北海道の専門学生・大学生 347 名を対象としてアンケートを行い、中学生の頃と現在において、スクールカーストを知っているかどうかを「はい」「いいえ」で回答を求めた。中学生の時点で「スクールカースト」という言葉を知っていた回答者は約47%であり、回答時点で知っていた回答者は約85%であった。このことから水野は、スクールカーストという言葉は少なくとも青年の中では十分認知されている言葉だと結論付けている。中学生の頃のグループ間・内の地位とそれぞれの時点での認知は有意な関連を示さなかったことから、スクールカーストの中の地位に関わらず、スクールカーストは多くの青年にとって認知されている言葉だったとしている[66]

2017年に宇都宮大学の小原、平山が同大学の学生206名を対象にして行ったアンケートでは、「スクールカーストという言葉を知っていますか?」という設問に対し、「よく知っている」が約 43%、「なんとなく知っている」が 約42%であり、あわせて回答者のうちの 約85%の学生がスクールカーストという言葉を知っていることから、大学生におけるスクールカーストについての認知度は非常に高いとした。

序列化の認識率

2016年に愛知教育大学の石田靖彦は、大学生117名を対象に小学校から高校までの学級内の人間関係を回想させた上で,グループ間における非公式なステイタスの序列として定義される「スクールカースト」が存在したかを検証した。同性グループに対する序列化の認識率は,中学校でもっとも高く男子で77%,女子で87%が少しはあったと回答した。小学校でも男子で54%,女子で72%が少しはあったと回答しており,女子では小学校でもグループ間の序列化が行われていることが示された。高校では男子で67%,女子で62%で中学校よりも低下していた[67]

序列の認識が中学校でもっとも高かった理由として、石田は三島、Rubin、Bukowski、Parkerらの先行研究を踏まえて、児童期から青年期にかけての友人関係の発達的変化を理由として挙げた。他方、中学校にくらべて高校時代で序列化の認識が低下していた理由については、石田は高校入試による選抜のため、学級内の生徒の多様性が小中学校より低いからではないかと推測した。ただし、当研究の調査対象者は国立大学に所属する大学生であり、平均以上の学力を有する高校に偏っていると考えられることから、当研究の結果が他の高校に一般化できるかは疑問の余地があるとした。

各階層の比率と階層決定の因子

本田は、2009年〜2010年に神奈川県公立中学校の生徒2874名に対してアンケート調査を行った。そのデータを元に分析すると、「高位・中位・低位・いじられ[注 13]」の比率が「10:60:25:5」になったという[71]

さらに、性別学力生きる力(自主性・主体性・論理性)・(家庭の)経済資本・(家庭の)文化資本・クラス内友人数・(普段一緒に行動する)友人の固定性・部活動(運動系か文化系か)といった要素がカーストの位置決定にどう影響しているかをロジスティック回帰分析によって調べている。それによれば、(「中位」を基準として)「高位」に位置する典型的な生徒像は「友人数が多くてかつ固定的で生きる力が高く学力も高め」、「低位」に位置する生徒像は「文化資本は豊富だが学力は低めで友人数は少なく文化部所属の男子」、「いじられ」に属する生徒像は「友人数が多くてかつ固定的で生きる力と文化資本が豊富かつ学力は低めの男子」となる[72]

また、本田はカーストが「(学校での)友人関係」「教師との関係」「将来像(進路希望)」と関係しているかどうかも調査している。友人関係について、学校生活で自分の本心に反して求められているキャラを演出したりするかという質問への肯定的な回答は、「上位」と「中位」が同程度で、それより「低位」が高く、さらにそれより「いじられ」が高くなっている[73]。教師との関係については、「上位」「いじられ」の生徒が他と比べて教師と積極的にコミュニケーションをとっている[74]。将来像については、「高位」「中位」「低位」の順に大学進学の希望率が下がる[75]

その他

スクールカーストを扱った心理学的な研究では水野君平と太田正義による中学生を対象としたアンケート調査がある。この調査による高位、中位、低位の比率は本田の調査のものとほとんど同じであった。また、高位のグループに属する生徒は学校適応感が高いことや、その間には集団支配志向性と呼ばれる集団間の格差関係を肯定する価値観が介在していることも明らかにしている。

スクールカーストを題材とした創作

教室内での人間関係をめぐる駆け引きを描いた物語(小説)は、スクールカーストもの(スクールカースト小説)と呼称され、2000年代頃から日本では若手作家による純文学ライトノベルの分野で存在感を保っている[76]。中には著者自身が実際に学校空間で体験したことが反映されていると考えられるものもあり、ドキュメンタリー的な面もある[77]

宇野常寛は、21世紀に入った頃からアメリカ同時多発テロ事件小泉内閣主導の新自由主義路線(聖域なき構造改革)といった社会状況の影響により、それまで(1990年代後半頃)の日本のポップカルチャーで優勢だった引きこもりがちな自意識の葛藤を描く作風(いわゆるセカイ系)から「価値相対的な過酷な状況を自分の力で生き延びる」という「サヴァイヴ系/バトルロワイヤル系」の作風に物語のパラダイムシフトが起こっていると論じており、一連のスクールカースト小説も後者の想像力のひとつに位置づけている[78]。宇野の議論によれば、大きな物語(社会全体に共有されるような特権的な価値観)が失墜しポストモダン化の進行した現代社会では個人が自力で拠り所とする小さな物語を決断的に選び取らなければならない状況に陥っており、無数に散在する小さな物語(島宇宙)の内部において、自分がその共同体に帰属していることを確認するための自己目的化したコミュニケーション(社会学者北田暁大がいうつながりの社会性)が繰り返されているという。そして、それを現実認知として描けばスクールカーストものも属するバトルロワイヤル系の想像力となり、逆に消費者の欲望に合わせて理想化させて描けば(スクールカーストものと同様にしばしば教室空間を舞台としてつながりの社会性が顕在化したコミュニケーションの連鎖が描かれる)空気系の想像力になると考えられる[79]

社会学者中西新太郎は、主に小説(ライトノベル)などを参照した上で日常圏に侵食する社会圏の困難を描く想像力を「シャカイ系」と呼んでいるが、若者にとって日常の大半の時間をすごすことになる学校空間も、人間関係からの隔離という危険と隣り合わせの「社会」に変貌しつつあるとしている[80]

スクールカーストに言及した論考などで参照されたことのある作品

小説・ライトノベル

漫画

日本国外におけるスクールカースト

「スクールカースト」の語は和製英語であり、またその概念も国外で直接に通用するものではないが、学校における生徒間の人気度に着目した研究は北米を中心に積み重ねがある。

宇都宮大学教育学者の小原一馬は、スクールカーストに近しい概念として、米国のクリーク(clique)およびクラウド(Crowd)を挙げた。小原は2015年のMilnerの研究をもとに、クリークの上下関係の人気に基づく自己準拠的な性格、グループ間の上下関係、グループの閉鎖性がスクールカーストに共通するものであるとして、米国のクリーク研究の成果は日本のスクールカースト研究に応用が可能であろうとした[91]。一方、北海道大学の水野君平はピア(peer group)・クラウドの研究はスクールカーストの研究と類似点も見られるが、クラウド研究が学級内の実在集団を対象とはしていない点や、学級ごとのピア・クラウドの多様性やその研究方法がスクールカースト研究と異なることから、ピア・クラウドの研究知見をスクールカーストに直接用いることは難しいとした[92]

小原、水野ともに、生徒間の人気度の序列について、北米以外ではほとんど研究例が見られないとしている。

脚注

注釈

  1. ^ ただし本田は、後述するアンケート調査で「いつも一緒の友だちグループ以外の人とは、特に仲良くしたいと思わない」という質問への否定的な回答が全体の3/4を超えたことを根拠として、自身の所属するグループの外へのコミュニケーション接続の志向も残ってはいることを指摘している。荻上は、(インターネット環境の普及を背景として)全体としてある程度の棲み分けが進行する一方で、個人は単一の島宇宙にとどまるのではなく複数の島宇宙に帰属して常時接続することが求められるとして、これを「コミュニケーションの網状化」と呼んでいる。
  2. ^ 精神科医の斎藤環は、若者の傾向をコミュニケーション能力は低いが自己像が安定的な「引きこもり系」とコミュニケーション能力は高いが自己像が不安定な「自分探し系」に大別した。
  3. ^ 一般に社会で人間に対する評価指標がコミュニケーション能力・人間力といった抽象的なものにシフトしているということは、例えばハイパー・メリトクラシーという用語でも論じられている。
  4. ^ これらは「優しい関係」[35][36]・「マサツ回避の世代」[37]と表現されたりするもので、哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーの寓話であるヤマアラシのジレンマに相当するともいえる[38]
  5. ^ いじめを「モラルの低下・混乱によるもの」「社会的偏見・差別による排除的なもの」「閉鎖的な集団内で発生するもの」「特定の個人への暴行・恐喝を反復するもの」の4つに分類した。詳細はいじめ#分類を参照。
  6. ^ これは森口の著述による。後述する本田の統計調査によれば、一緒に行動する友人の固定性が強いことはカースト上位を得ることにプラスの影響があるとされる。
  7. ^ インターネット上ではなく現実の空間で行われるいじめのこと。
  8. ^ 選抜総選挙」と呼ばれる人気投票(序列化)によって、「おっさんキャラの大島優子」「ギャルキャラの板野友美」といったキャラの分化が促進され、実質的には(個々のアイドルの身体性というより)それらキャラクター性がファンから消費の対象となっている。詳細はAKB48#キャラクター消費を参照。
  9. ^ キャラ (コミュニケーション)#キャラとアイデンティティを参照。
  10. ^ 宇野常寛によると、いわゆる空気の読めない人は自己のアイデンティティを「…である」という固定的な自己像に対する承認によって獲得しようとするが、現実には「…した」という具体的な行動によって他者からの人物像が形成されるのであり、現代社会の流動性の高いコミュニティにおいてキャラクターは自身のコミュニケーションによって書き換え可能であるという[63]
  11. ^ 荻上チキは、一般に個人が複数のキャラを持っており場面に応じてそのどれかひとつを決めてそれを演じる「キャラ分け」が行われているとしている[64]
  12. ^ 例えば、中学時代にいじめられていた子供が、中学卒業・高校入学を機会にキャラを変更して(いわゆる「高校デビュー」)カーストの上昇を試みて成功したかに見えても、ひとたび過去の自分の姿を暴露されれば(抑圧が解放されれば)再びカースト最下層への転落を余儀なくされる、ということ。
  13. ^ 「人気がある」「馬鹿にされている」という一見すると相反する評価を周囲が受けている「いじられキャラ」のことで、道化のように、からかわれる(=いじられる)ことによって人気を得ている[68]。「いじり」はコミュニケーション操作系いじめにつながりかねない否定的な側面も持っており、例えばスクールカーストものとして頻繁に引用される小説『りはめより100倍恐ろしい』のタイトルにある“りはめ”は、意味不明の単語ではなく、「いじ」は「いじ」よりも恐ろしいという意味である[69]。森口朗は、スクールカーストを規定するコミュニケーション能力の3要素のうち、「同調力は高いが共感力と自己主張力が低い」ものがいじられキャラのポジションにおさまるとしている[70]

出典

  1. ^ 森口朗 (2007年6月4日). “スクールカーストとは何か〜その3〜”. 2018年9月29日閲覧。
  2. ^ 「学校カーストが「キモメン」生む」 『AERA』2007年11月19日号、朝日新聞出版、62-63頁。
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参考文献

関連項目