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「著作権法 (アメリカ合衆国)」の版間の差分

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{{翻訳中途|[[:en:Copyright_law_of_the_United_States|英語版 "Currywurst" 08:51, 8 May 2007 (UTC)]]|date=2019年1月}}
* {{Pathnav|知的財産権|著作権}}
'''アメリカ合衆国の著作権法'''は、作家や芸術家に一連の独占的権利を与えることによって芸術や文化の創造を促進することを目的とする。著作権法は、作家および芸術家に、自分の作品のコピーを作成および販売する独占権、派生作品を作成する権利、および自分の作品を公に発表または発表する権利を付与する。 これらの独占権は制限付きであり、一般に著者の死後70年で失効する。米国では、1923年1月1日より前に作曲された音楽は、一般に[[パブリックドメイン]]と見なされる。
* {{Pathnav|アメリカ合衆国議会|アメリカ法}}
</div>
{{Law|地域=[[アメリカ合衆国]]}}


'''アメリカ合衆国の著作権法''' (アメリカがっしゅうこくのちょさくけんほう、{{Lang-en|Copyright law of the United States}}、以下「米国著作権法」) は、文芸・映像・音楽・美術・[[ソフトウェア]]などの[[著作物]]と、その[[著作者]]などの権利を保護する[[アメリカ合衆国]](以下、米国)の法律である。米国民の創作した著作物だけでなく、米国内に流通する外国著作物や、世界のインターネット上に広く流通するデジタル著作物にも米国著作権法は適用されうる。
米国著作権法は、1976年著作権法により 、米国法典のタイトル17で体系化され、最後に一般的に改正された。[[アメリカ合衆国憲法]]は、著作権条項として知られている第1条第8項第8項に基づく著作権法を制定する権限を議会に明示的に付与している。 著作権条項の下で、 [[アメリカ合衆国議会|議会]]は、「著者および発明者に限られた時間の間、それぞれの著作物および発見に対する独占権を確保することによって、科学および有用な芸術の進歩を促進する」という権限を与える。


1970年代以降、著作物の中でも特にメディア・エンターテイメントやITといった米国の主力産業が世界的に興隆しており、2017年時点での狭義の米国著作権市場<ref group="註">著作物の創作、複製、販売、実演などに直接関与する業界を「狭義」の著作権市場とした場合の米国年間市場規模。</ref>は1兆3000億米ドルに達し、米国[[GDP]]全体の6.85%を占める巨大産業を形成している{{Refnest|group="註"|さらに周辺産業を加えた広義の著作権市場では、2.2兆米ドル (対GDP比11.59%) に達する<ref name=IIPA-Economy2018>{{Cite web |url=https://copyrightalliance.org/ca_post/copyrights-economy-2017/ |title=Copyright's Contributions to the U.S. Economy in 2017 |trans-title=2017年の米国経済における著作権市場の貢献度調査 |last=Siwek |first=Stephen E. |work=Copyright Industries in the U.S. Economy (19th edition) |publisher=International Intellectual Property Alliance (IIPA) |date=2018 |accessdate=2019-04-25 |language=en}}</ref>。}}。このような社会的・技術的な変化を受け、米国著作権法は頻繁に改正されているものの、十分に追いついていない。また世界的に見ても、米国著作権法は主流から外れ、他の先進国よりも著作権保護の水準が低い状況が長らく続いており、国内外から批判の声が上がっている{{Sfn|岡本薫|2003|pp=14&ndash;16}}{{Sfn|田村善之|1998|pp=464&ndash;465|ps=-- 玉井克哉 (1995) からの孫引き}}<ref name=UMich-Rep-Act1976>{{Cite web |title=Copyright, Compromise and Legislative History |trans-title=著作権 - 妥協と改正立法の歩み |url=https://repository.law.umich.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1223&context=articles |format=PDF |Author=Jessica D. Litman ([[ミシガン大学]]ロースクール准教授) |quote=''Courts, however, have apparently found title seventeen an unhelpful guide. For the most part, they look elsewhere for answers, relying primarily on prior courts' constructions of an earlier and very different statute on the same subject. (中略)... Although the 1909 Act had been outmoded for a long time, various general revision bills introduced between 1924 and 1974 had failed.'' |date=1987 |accessdate=2019-04-05 |language=en}}</ref><ref name=AG-Act1976>{{Cite web |title=We helped bring U.S. copyright law into line with the rest of the world. - SOME SUCCESS STORIES |trans-title=成功事例紹介: 当団体は米国著作権法を国際水準に適合するよう改正をサポート |url=https://www.authorsguild.org/who-we-are/success-stories/ |quote=''For more than 100 years, the United States' copyright laws were out of sync with much of the world and with the Berne Convention, an international treaty. (中略)...an inadvertent error by an author or publisher could cause one's work to become part of the public domain forever in the U.S. and elsewhere in the world. '' |publisher=[[全米作家協会]] |accessdate=2019-04-05 |language=en}}</ref><ref group="註">もっとも、[[コモンロー]]を採用する米国では法律文面上 (成文法上) ではなく、判例で柔軟に保護を与えていることから、実質的に著作権の保護水準が低いかは検証の余地がある。[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)]]も参照のこと。</ref>。
米国著作権局は、著作権登録、 著作権移転の記録、および著作権法のその他の行政的側面を処理する。


さらに、米国内では[[著作権侵害]]を巡る訴訟も多く発生していて、2008年からの10年間に毎年3000件前後が新たに提訴されている<ref name=BloombergBNA>{{Cite web |url=https://www.bna.com/patent-copyright-lawsuit-n73014449878/ |title=Patent, Copyright Lawsuit Volumes Fall in 2016 |last=Nayak |first=Malathi |publisher=[[ブルームバーグ (企業)|Bloomberg]] BNA |date=2017-01-17 |accessdate=2019-05-13}}</ref><ref name=SyracuseU>{{Cite web |url=https://trac.syr.edu/tracreports/civil/483/ |title=Fewer Copyright Infringement Lawsuits Filed |publisher=[[シラキューズ大学]] |date=2017-09-29 |accessdate=2019-05-13}}</ref><ref group="註">アダルト映画製作Malibu Mediaの1社だけで2012年から2016年の間に計5000件以上提訴していることから、この5年間の総件数の上振れ特殊要因となっているが、「年平均3000件前後」の数値からはMalibu Mediaの特殊要因は除している。</ref>。これら訴訟の原告側には米国外の企業や個人も含まれていることから、国際政治上の問題としても注視され{{Refnest|group="註"|例として、[[全米作家協会他対Google裁判]]が挙げられる。[[Googleブックス]]による書籍のデジタルスキャンが世界的に行われていた結果、当裁判にはフランスやドイツ当局からも意見書が提出されている<ref name=Reuters-Ger-Google>{{Cite web |url=https://www.reuters.com/article/us-google-books-idUSN0149201520090901 |title=Germany: Google book deal violates copyright law |trans-title=ドイツ政府: Googleブックスの和解案は著作権法違反 |first=Diane |last=Bartz |publisher=[[ロイター通信]] |date=2009-09-02 |accessdate=2019-07-01 |language=en}}</ref><ref name=DW-Ger-Google>{{Cite web |url=https://www.dw.com/en/germany-calls-on-us-court-to-reject-google-book-settlement/a-4619278 |title=Germany calls on US court to reject Google book settlement |trans-title=Googleブックスの和解案を却下するようドイツ政府が米裁判所に要請 |publisher=DW.com |date=2009-09-02 |accessdate=2019-07-01 |language=en}}</ref><ref name=Reuters-Fra-Google>{{Cite web |url=https://www.reuters.com/article/us-google-books-antitrust/judge-slaps-down-googles-digital-library-settlement-idUSTRE72L6D920110322 |title=Judge slaps down Google's digital library settlement |trans-title=Googleブックスの和解案を判事が却下 |first=Diane |last=Bartz |publisher=[[ロイター通信]] |date=2011-03-23 |accessdate=2019-07-01 |language=en |quote=The French government had opposed the deal but reached an agreement with Google in early 2010 to allow French works to be scanned without surrendering control of copyright. The German government opposes the deal. }}</ref>。}}、著作権に関する[[条約|国際条約]]を通じて、米国と他国の著作権法の足並みを揃える動きも長年の課題となっている。
== 歴史 ==
米国の[[著作権]]法は、その系統をイギリス[[アン法|のアン法]]に遡る。これは、最初の米国連邦著作権法である1790年著作権法に影響を与えた。著作権法は何度も更新されており、特に1976年の著作権法および1998年のソニー・ボノ[[著作権延長法|著作権期間延長法]] (「[[ミッキーマウス]]保護法」とも呼ばれる。漫画のキャラクターのミッキーマウスの成功) {{要出典|date=December 2018}}
{{rquote|right|議会は、著者および発明者に限られた時間だけ彼らのそれぞれの執筆および発見に対する独占権を確保することによって、科学および有用な芸術の進歩を促進する権限を有するものとする。|[[アメリカ合衆国憲法]]}}
米国憲法の著作権条項に規定されているように、著作権法の目的は「著者および発明者に限られた時間だけ彼らのそれぞれの著作および発見に対する独占権を確保することによって、科学の進歩と有用な芸術を促進すること」である。これは芸術、文学、建築、音楽、そして他の作家作品の創作を奨励することを含む。多くの法的原則と同様に、その目的を達成する上での著作権法の有効性は議論の余地がある。


このような文脈も踏まえながら、[[合衆国法典]]第17編 (17 U.S.C.) に1947年から収録<ref name=USC-Circ1a>{{Cite web |title=Circular 1a, United States Copyright Office: A Brief Introduction and History |trans-title=アメリカ合衆国著作権局: 組織紹介と著作権の歴史概説 |publisher=[[アメリカ合衆国著作権局]] |url=http://www.copyright.gov/circs/circ1a.html |accessdate=2019-02-20 |language=en}}</ref>されている[[アメリカ法#連邦法と州法の関係|連邦法]]としての著作権法を中心に、本項では解説する。著作権法改正の歴史や、著作権に関連する個別の訴訟についても概観するが、詳細については「[[著作権法の歴史 (アメリカ合衆国)|米国著作権法の歴史]]」と「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)|米国著作権法の判例一覧]]」にそれぞれ解説を譲る。
== 著作権法の対象となる作品 ==
<!-- 見出しが細かくなりすぎると目次リンクが不必要に長くなるため、小見出し (サブサブセクション) の代わりに「[[Help:ページの編集#箇条書き]]」で用いられる「;」 セミコロンを使用して太字表記した上で、ページ内リンクを飛ばせるように{{Anchors}}および{{Visible anchor}}を埋め込んでいます。アンカーの使用方法は「[[Help:セクション#リンクの方法]]」も参照して下さい。なお、当ページは肥大化を理由に、将来的にトピック毎にページ分割 (一部転記) される可能性があります。分割までの短期・中期的な措置としてアンカーを挿入していますが、分割後は分割先ページに直接リンクすることになりますので、役目を終えたアンカーは分割時に削除して頂いて問題ありません。削除の際には必ずinsource検索を使い、影響範囲分析を行って下さい。 -->
米国の著作権法は、有形媒体に固定「の原作者のオリジナル作品、」保護文学、演劇、音楽、芸術的、およびその他の知的作品を含む。この保護は、出版された作品と未発表の作品の両方に利用できる。著作権法には、次の種類の著作物が含まれる。
== 米国著作権法の国際比較 ==
{{See also|[[大陸法#大陸法と英米法の違い|大陸法と英米法の違い]]}}


米国著作権法が国際的な主流と異なる理由は、そのルーツにある。[[1887年]]発効の[[ベルヌ条約]]が、今なお基本条約として世界的に機能しているが、条約の原加盟国であるフランスやドイツなどの各国は「大陸法」を採用していることから、ベルヌ条約の内容も大陸法をベースにしている。一方の米国は「英米法」であり、根本的な発想が異なる{{Refnest|group="註"|大陸法の国々では、著作物とは著作者の人格を投影した成果物であることから、他の誰でもない著作者の所有物であり (人格理論)、著作物の創作にかかる労力に見合った利益を享受する権利がある (労働理論) とも考えられている。一方の米国においては、著作権は産業・文化の振興政策として付与されるものだとする「産業政策理論」に立脚している{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;11}}。人格理論についてはドイツの法哲学者[[ヘーゲル]]を、労働理論についてはイギリスの哲学者[[ジョン・ロック|ロック]]の政府二論を下敷きにしている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;11}}。その一方で、米国著作権法はイギリスの[[アン法]]を模倣しており、英米ともに、あくまで公共の学問・学術を奨励することが目的であり、その手段として著作権保護があると捉えられている{{Sfn|松川実|2014|pp=3&ndash;4}}。その結果、著作権は英語ではCopyright (コピーする権利) と表現されるように、著作者以外に無断で複製させず、著作者の財産を守る権利だと狭義に捉えられてきた{{Sfn|岡本薫|2003|p=16}}。}}。一般的に大陸法は、法律の条文 (立法府による[[成文法]]) を明文化して法を守る運用なのに対し、英米法で法律の解釈 (司法府による[[判例法]])に重きを置いている。そのため条文だけを見ると、後述のとおり、米国著作権法の権利保護は不十分であり、ベルヌ条約の方針に完全には適合していない。
* 文学
* ミュージカル
* 劇的
* パントマイムと振り付け作品
* 絵画、グラフィック、彫刻作品
* 視聴覚作品
* 録音
* [[二次的著作物|派生作品]]
* コンピレーション
* 建築作品


=== アイデア表現二分法 ===
=== 他国との相違点 ===
日本を含む他の先進国との相違点は、以下の通りである。
著作権法はアイデアの「表現」を保護するが、著作権は「アイデア」自体を保護しない。 この区別は、アイデア - 表現二分法と呼ばれる。 [[:en:Baker_v._Selden|Baker v. Selden]], 101 U.S. 99 (1879); see also CDN Inc. v. Kapes, 197 F.3d 1256, 1261–62 (9th Cir. 1999). 「アイデア」と「表現」の区別は、著作権法の基本である。 1976年著作権法より ( 17 USC {{UnitedStatesCode|17|102}} {{UnitedStatesCode|17|102}} )


{| class="wikitable" style="margin-left: auto; margin-right: auto; border: none; width:35%"
== 参考文献 ==
! 広義の著作権の内訳 !! style="width:8%" | 大陸法の国 !! style="width:8%" | 米国
|+ 他の先進国との権利保護範囲の違い
|-
| style="width:19%" | 著作者本人の権利 (狭義の著作権) || ||
|-
| {{0}}{{0}}{{0}}著作財産権<br>{{0}}{{0}}{{0}}(著作者の財布を守る権利) || {{ya}} || {{ya}}
|-
| {{0}}{{0}}{{0}}著作者人格権<br>{{0}}{{0}}{{0}}(著作者の心を守る権利) || {{ya}} || {{partial|限定的}}
|-
| 著作隣接者の権利 || {{ya}} || {{na}}
|}

# 著作権の保護対象が狭い{{Refnest|group="註"|2001年、日本政府から米国政府に対し、著作権の改善要求6項目が公式に提出されている。その内訳は、インターネット対応の送信可能化権の明記、未固定の著作物の保護、放送事業者の著作隣接権の保護、実演者の権利拡大、著作者人格権の権利拡大、貸与権 (レンタル) の権利拡大である{{Sfn|岡本薫|2003|pp=15&ndash;16}}。}}
#* [[著作隣接権]] (著作物の流通に寄与する[[実演家]]などの権利) が、著作権法上で明確に定められていない{{Refnest|group="註"|[[欧州連合]] (EU) からはWTO協定違反であると指摘されている{{Sfn|岡本薫|2003|p=16}}。}}
#* [[著作者人格権]]が認められている範囲が、視覚芸術作品の一部に限定されている (1989年以前は全く認められていなかった)<ref name=USCO-VARA>{{Cite web |url=https://www.copyright.gov/reports/exsum.html |title=Waiver of Moral Rights in Visual Artworks |trans-title=視覚芸術作品における著作者人格権の放棄 |publisher=[[アメリカ合衆国著作権局]] |date=1996-10-24 |accessdate=2019-06-14 |language=en}}</ref>
#* 「既発表」(published) の著作物しか保護されなかった (1978年以降は未発表の著作物も保護されるようになった)<ref name=USCO-Circ15a>{{Cite web |url=https://www.copyright.gov/circs/circ15a.pdf |title=Circular 15a - Duration of Copyright |trans-title=手引書 15a号 - 著作権の保護期間 |publisher=[[アメリカ合衆国著作権局]] |date=2011-08 |accessdate=2019-06-14 |language=en}}</ref>
#* 著作物を登録し、[[著作権マーク]]「&copy;」を表示しないと保護されなかった (1989年以降不要となった)<ref name=Congress-BerneAct>{{Cite web |url=https://www.congress.gov/bill/100th-congress/senate-bill/1301 |title=S.1301 - Berne Convention Implementation Act of 1988 {{!}} 100th Congress (1987-1988) |trans-title=1988年制定のベルヌ条約履行法 {{!}} 連邦議会第100会期 (1987年-1988年) 上院にS.1301法案として提出 |publisher=アメリカ合衆国議会 |accessdate=2019-06-14 |language=en}}</ref>
#* 記録媒体に「固定」(fixed) されていない著作物は保護されない (詳細は[[#著作物の定義]]で後述)
# 国際条約を通じた国際社会との連帯が不十分
#* 著作権の基本条約である[[ベルヌ条約]] (世界187か国加盟) に米国が加盟したのは、条約発効から1世紀以上経ってから<ref name=BerneConv-WIPO-2/>{{Refnest|group="註"|ベルヌ条約の批准が大幅に遅れた理由は、著作物を審査・登録せずとも著作権を自動的に認める「無方式主義」である。米国は方式主義を採用していたため、ベルヌ条約批准には国内法の整備調整に時間を要した。しかしこの無方式主義がベルヌ条約に採用されたのは、原条約の署名から22年後の1908年ベルリン改正時であり、かつ米国はベルヌ条約の原条約交渉の場には出席していた。したがって、ベルヌ条約に原加盟しなかったのは、無方式主義の問題とは関係なく、外交政策上の[[モンロー主義]] (他国への不干渉政策) が理由だとされている{{Sfn|山本隆司|2008|p=17}}。}}
#* 著作隣接権を定めた[[実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約|ローマ条約]] (1964年発効、世界93か国加盟) に米国は加盟していない<ref name=WIPO-Rome>{{Cite web |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=17 |title=Contracting Parties > Rome Convention (Total Contracting Parties : 93) |trans-title=加盟国一覧 > ローマ条約 (2019年6月閲覧時点で加盟国数: 93 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-06-04 |language=en}}</ref>
#* 「ベルヌ・プラス方式」とも呼ばれる[[TRIPS協定]] (1995年発効) に米国は原加盟しているが、米国への訴訟リスクを回避するためTRIPS協定から著作者人格権の規定が除外された{{Sfn|岡本薫|2003|pp=218&ndash;219}}
#* さらにTRIPS協定では、米国の産業構造に合わせて著作隣接権も一部業界にだけ手厚く、その他業界は認めないねじれ構造{{Sfn|岡本薫|2003|pp=218&ndash;219}}
# 立法府の権限が複雑
#* 著作権法は連邦法と州法の二重構造 (詳細は[[#連邦著作権法と関連法の関係]]で後述)
#* ただし、連邦法の立法権限は[[合衆国憲法]]内に{{仮リンク|著作権条項|en|Copyright Clause}}として明記されており、重要視されている{{Refnest|group="註"|日米で比較すると、日本国憲法第41条~第64条が「国会」に関する記述であるが、主に国会の運営方法について定められており、国会が有する権限 (なすべき役割) として著作権あるいはその上位概念の知的財産権保護という文言は登場しない<ref name=JPCons-2019>{{Cite web |title=日本国憲法 (昭和二十一年憲法) 第四章 国会 |url=http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=321CONSTITUTION#116 |publisher=総務省 e-Gov |accessdate=2019-02-14}}</ref>。日本以外の多くの国でも、著作権の法源が憲法にまで遡ることはない<ref>{{Harvnb|山本隆司|2008|p=8}}</ref>。}}<ref group="註">知的財産権は著作権 (文化の創造と表現の保護) と、[[特許権]]などの[[産業財産権]] (産業アイディアを促進) に分けられる。合衆国憲法の第1条第8項第8節は、Copyright Clauseと一般的には呼ばれることが多いが、著作権と産業財産権の双方を包含した知的財産権全般を指している条項であることから、Intellectual Property Clauseの方がより正確である。</ref>
#* 多数の著作権改正法案が連邦議会に提出されているが、総じて可決率が低い{{Refnest|group="註"|もっとも、連邦議会への法案提出は他国と比較して容易であるため、著作権法に限らず全体的に廃案が多い。1973年1月~2019年1月の会期を通算すると、著作権法を含むすべての法案 (Bill) および両院合同決議 (Joint resolution) の可決率合計は1割前後である<ref name=GovTrack>{{Cite web |url=https://www.govtrack.us/congress/bills/statistics |title=Statistics and Historical Comparison {{!}} Bills by Final Status |publisher=Gov Track |accessdate=2019-05-16}}</ref>。}}
#* しかし、著作権保有者からの[[ロビイング]] (政治的圧力) が強い業界分野のみ、他国より先んじて著作権保護が強化されやすい{{Sfn|岡本薫|2003|pp=14&ndash;16}}
# 著作物の利用に関する例外規定が充実している
#* 著作権侵害に当たらない[[フェアユース]] (公正利用) の基準が著作権法上で定められ、司法判断で広く活用されている
#* 他国と比較し、フェアユース以外の個別例外が詳細に規定されている{{Sfn|山本隆司|2008|p=82|ps=--「実は、日本法よりもはるかに詳細な権利制限規定が設けられている」}}<ref group="註">フェアユースは第107条を、その他個別の例外規定は第108~122条を参照のこと。</ref>
#* 賛否あるものの、著作権侵害におけるインターネット関連事業者への免責 (通称: ノーティス・アンド・テイクダウン手続、DMCA通告) など、デジタル化対応が世界でもいち早く明文化されている{{Sfn|山本隆司|2008|p=14|ps=--「米国は、どの国よりも早く、著作権法を情報社会に対応させている」}}
# 権利侵害の判断は司法に大きく委ねられている
#* フェアユースの抽象的な法的基準を、裁判所がケースバイケースで考慮し、著作権侵害の有無を判定<ref group="註">詳細は[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)]] を参照のこと。</ref>
#* 著作権法と相反する、あるいは補完関係にある他分野の法律を交えた、総合的な司法判断が下されている (特に特許法、商標法、[[反トラスト法|独占禁止法]]、表現の自由を謳った憲法修正1条など)

=== {{Visible anchor|国際条約の加盟状況|国際条約}} ===
{{Main2|条約の採択・発効・批准の違い|条約#条約の締結|世界各国の著作権関連条約加入状況|:en: List of parties to international copyright agreements}}

{{Wikisource|1=昭和五十年条約第四号|2=ベルヌ条約 (1971年パリ改正版)|3=日本批准時の日本語訳}}
{{Wikisource|1=千九百七十一年七月二十四日にパリで改正された万国著作権条約|2=万国著作権条約 (1971年改正版)|3=日本批准時の日本語訳}}
{| class="wikitable" style="width:71%"
! style="width:9%" | 条約名 !! style="width:19%" | 概要 !! style="width:5%" | 狭義の<br>著作権 !! style="width:5%" | 著作<br>隣接権 !! style="width:11%" | 条約の効力状況 !! style="width:8%" | 加盟国数 !! style="width:14%" | 米国の対応状況
|+ 著作権に関する主要条約{{Sfn|文化庁|2007|pp=69&ndash;71}}
|-
! colspan="7" | 法的意義が継続している条約
|-
| [[ベルヌ条約]] || 狭義の著作権 (著作者本人の権利) に関する基本条約 || {{ya}} || || 1886年採択、1887年発効<br>その後4回改正<ref name=BerneConv-WIPO-1>{{Cite web |title=Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works |trans-title=文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約 |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ip/berne/ |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref> || 世界187か国<ref name=BerneConv-WIPO-2>{{Cite web |title=Contracting Parties > Berne Convention > Paris Act (1971) (Total Contracting Parties : 187) |trans-title=ベルヌ条約の1971年パリ改正版の加盟国 (閲覧時点で187か国加盟済) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ActResults.jsp?act_id=26 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-06-04 |language=en}}</ref> || {{partial|1世紀後の1988年に加入し、1989年3月1日から施行<ref name=BerneConv-WIPO-2/><ref group="註">一部は条約の水準を満たしておらず他国から条約違反が指摘されている。</ref>}}
|-
| [[実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約|ローマ条約]] || [[著作隣接権]]の基本条約 || || {{ya}} || 1961年採択、1964年発効<ref name=RomeConv-WIPO-1>{{Cite web |title=International Convention for the Protection of Performers, Producers of Phonograms and Broadcasting Organizations (Authentic text) |trans-title=実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約 (公式条文) |url=https://wipolex.wipo.int/en/treaties/textdetails/12656 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-06-11 |language=en}}</ref> || 世界93か国<ref name=RomeConv-WIPO-2>{{Cite web |title=Contracting Parties > Rome Convention (Total Contracting Parties : 93) |trans-title=ローマ条約の加盟国 (閲覧時点で93か国加盟済) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=17 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-06-11 |language=en}}</ref> || {{na}}<ref name=RomeConv-WIPO-2/>
|-
| [[レコード保護条約]] || 著作隣接権の一つである[[原盤権]]に関する条約 || || {{partial}} || 1971年採択、1973年発効<ref name=GenevaPhoneConv-WIPO-1>{{Cite web |title=Convention for the Protection of Producers of Phonograms Against Unauthorized Duplication of Their Phonograms |trans-title=許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約 |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ip/phonograms/ |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref> || 世界80か国<ref name=GenevaPhoneConv-WIPO-2/> || {{yes2|1973年に批准し、1974年3月10日から施行}}<ref name=GenevaPhoneConv-WIPO-2>{{Cite web |title=Contracting Parties > Phonograms Convention (Total Contracting Parties : 80) |trans-title=レコード保護条約の加盟国 (閲覧時点で80か国加盟済) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=18 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref>
|-
| [[TRIPS協定]] || 偽ブランドや海賊版の取締強化を目的とする「ベルヌ・プラス方式」。違反時には[[世界貿易機関]] (WTO) に提訴可能 || {{partial}} || {{partial}} || 1994年採択、1995年発効<ref name=TRIPS-WTO-1>{{Cite web |title=Overview: the TRIPS Agreement |trans-title=TRIPS協定の概要 |url=https://www.wto.org/english/tratop_e/trips_e/intel2_e.htm |publisher=[[WTO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref> || 世界164か国 (WTOの全加盟国)<ref name=TRIPS-WIPO-1/><ref group="註">WTOに加盟すると自動的にTRIPS協定の順守義務を負う。</ref> || {{yes2|1995年1月1日から施行}}<ref name=TRIPS-WIPO-1>{{Cite web |title=Contracting Parties/Signatories > Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights (TRIPS Agreement) (Total Contracting Parties: 164) |trans-title=TRIPS協定の加盟国 (閲覧時点で164か国加盟済) |url=https://wipolex.wipo.int/en/treaties/parties/231 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref>
|-
| [[WIPO著作権条約]] || デジタル著作物への対応強化を目的とし、「ベルヌ条約の2階部分」と呼ばれる || {{ya}} || || 1996年採択、2002年発効<ref name=WCT-WIPO-1>{{Cite web |title=Summary of the WIPO Copyright Treaty (WCT) (1996) |trans-title=1996年採択 WIPO著作権条約 (WCT) の概要 |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ip/wct/summary_wct.html |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref> || 世界102か国<ref name=WCT-WIPO-2/> || {{yes2|1997年署名、1999年批准、2002年3月6日から施行}}<ref name=WCT-WIPO-2>{{Cite web |title=Contracting Parties > WIPO Copyright Treaty (Total Contracting Parties : 100) |trans-title=WIPO著作権条約の加盟国 (閲覧時点で100か国加盟済) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=16 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref>
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| [[WIPO実演・レコード条約]] || デジタル著作物への対応強化を目的とするが、加盟にあたってローマ条約の遵守はもとめられない{{Sfn|山本隆司|2008|p=20}} || || {{ya}} || 1996年採択、2002年発効<ref name=WPPT-WIPO-1>{{Cite web |title=Summary of the WIPO Performances and Phonograms Treaty (WPPT) (1996) |trans-title=1996年採択 WIPO実演・レコード条約 (WPPT) の概要 |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ip/wppt/summary_wppt.html |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref> || 世界102か国<ref name=WPPT-WIPO-2/> || {{yes2|1997年署名、1999年批准、2002年5月20日より施行}}<ref name=WPPT-WIPO-2>{{Cite web |title=Contracting Parties > WIPO Performances and Phonograms Treaty (Total Contracting Parties : 100) |trans-title=WIPO実演・レコード条約の加盟国 (閲覧時点で100か国加盟済) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=20 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref>
|-
| [[視聴覚的実演に関する北京条約]] || 視聴覚著作物に限定し、実演家に著作財産権の一部および人格権を認める{{Refnest|group="註"|著作財産権のうち、映画などの固定著作物については、複製権・頒布権・貸与権・公表権の4種を、ライブ実演などの未固定著作物については、公衆送信権、公表権、および著作物の固定化の3種を認めており、固定と未固定で対応が異なる<ref name="Beijin-WIPO-1">{{Cite web |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ip/beijing/summary_beijing.html |title=Summary of the Beijing Treaty on Audiovisual Performances (2012) |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-06-22}}</ref>。}} || || {{ya}} || 2012年採択、未発効{{Refnest|group="註"|30か国以上が批准または加入手続を完了してから発効されるため<ref name="Beijin-WIPO-1" />。}} || 世界26か国 (署名済は74か国)<ref name="Beijin-WIPO-2" /> || {{partial|2012年原署名、批准未済}}<ref name="Beijin-WIPO-2">{{Cite web |title=Contracting Parties > Beijing Treaty on Audiovisual Performances (Treaty not yet in force) |trans-title=視聴覚的実演に関する北京条約 (閲覧時点で未発効) |url=https://www.wipo.int/treaties/en/ShowResults.jsp?lang=en&treaty_id=841 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-06-22 |language=en}}</ref>
|-
! colspan="7" | 法的意義を終えた条約
|-
| {{仮リンク|ブエノスアイレス条約|en|Buenos Aires Convention}} || 万国著作権条約の前身 || {{ya}} || || 1910年採択{{Refnest|group="註"|name=BAC|1910年当初の署名国はアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、キューバ、[[ドミニカ共和国]]、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、アメリカ合衆国、ウルグアイ、ベネズエラの20か国である<ref name=USCO-Circular1977>{{Cite web |title=International Copyright Conventions {{!}} Circular 38c |trans-title=著作権に関する国際会議 {{!}} 第38c号 |url=https://copyright.gov/comp3/chap2100/doc/appendixD-circ38c.pdf |format=PDF |publisher=[[アメリカ合衆国著作権局]] |date=1977-05 |accessdate=2019-04-07 |language=en}}</ref>。その後国内での批准をキューバ、エルサルバドルとベネズエラの3か国が行わず、署名時には参画していなかったボリビアが後に批准したため、ブエノスアイレス条約の加盟国は計18か国となっている<ref name=WIPO-ArgeConvParties>{{Cite web |title=IP Regional Treaties > Contracting Parties/Signatories > Buenos Aires Convention (Total Contracting Parties: 21) |trans-title=ブエノスアイレス条約の署名国 (2019年4月閲覧時点で計21か国) |url=https://wipolex.wipo.int/en/treaties/parties/398 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-04-18 |language=en}}</ref>。}} || 米国およびラテンアメリカ諸国の計18か国が批准<ref group="註" name=BAC/> || {{yes2|1910年に原加盟国として署名}}<ref group="註" name=BAC/>
|-
| [[万国著作権条約]] || ベルヌ条約の代替で権利保護の水準は低い || {{ya}} || || 1952年採択、同年発効<br>その後1回改正<ref name=UCC-UNESCO-1>{{Cite web |title=Universal Copyright Convention |trans-title=万国著作権条約 |url=http://www.unesco.org/new/en/culture/themes/creativity/creative-industries/copyright/universal-copyright-convention/ |publisher=[[UNESCO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref> || 世界100か国<ref name=UCC-UNESCO-2/> || {{yes2|1952年に原加盟国として署名}}<ref name=UCC-UNESCO-2>{{Cite web |title=Universal Copyright Convention, with Appendix Declaration relating to Articles XVII and Resolution concerning Article XI 1952 |trans-title=万国著作権条約、および条項XVIIに関連する追加宣言と条項XI 1952に関する決議 |url=http://portal.unesco.org/en/ev.php-URL_ID=15381&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html |publisher=[[UNESCO]] |accessdate=2019-04-06 |language=en}}</ref>
|}

[[著作権マーク]]「&copy;」は21世紀に入ってからも多くの著作物上に見られるが、これはベルヌ条約批准が遅れた米国などの国々への対応のなごりである。日本を含む大陸法の国々では、著作物が創作された時点で自動で著作権保護がされる「無方式主義」を採用しているが、米国などの英米法の国々では、創作された著作物を政府当局に登録する手続きを経て初めて権利保護される「方式主義」が長年採られてきた。その結果、日本の美術品やフランスの小説などを米国で販売する際にも、外国著作権者が{{仮リンク|アメリカ合衆国著作権局|en|United States Copyright Office}} (略称: USCO) に著作物を登録する必要が出てきた。この手続を回避するため、万国著作権条約に加盟している国の著作物は、「&copy;」を付していればUSCOに未登録でも法的に保護されると定めた。もっとも、これら方式主義の国々が最終的にベルヌ条約を批准して、無方式主義に転換したため、今日においては「&copy;」の表示は法的に何ら意味はなくなっている{{Sfn|文化庁|2007|p=72}}。
{{See also|[[著作権#方式主義と無方式主義|方式主義と無方式主義]]|万国著作権条約#発効時点のベルヌ条約との比較}}

=== 国内業界への政治的な配慮 ===
上述の米国独自の特徴は、米国内の特定業界への配慮や産業振興が背景にある。
; レコード業界
米国がローマ条約には加盟せず、レコード保護条約にのみ加盟したのは、著作隣接権の保護対象の違いである。著作隣接権とは著作者本人ではなく、著作物の流通に寄与する者 (著作隣接者) の権利であるが、ローマ条約では[[実演家]]、[[レコード製作者]]、[[放送事業者]]を包含している。しかし、レコード保護条約では実演家と放送事業者は除外されている。この理由は、1960年代頃からのレコード業界からの政治的圧力により、レコード製作者の権利は守る必要が出てきたが、著作隣接者すべての権利を守るとなると、ハリウッド映画業界が俳優 (実演家) に追加で利用料を払わなければならなくなるためである。そこでレコード業界とハリウッド映画業界の双方に配慮するため、米国においては著作隣接権は引き続き認めないが、レコード製作者のみは著作隣接者ではなく著作者とみなし、著作者本人の権利 (狭義の著作権) で保護することにしたのである{{Sfn|岡本薫|2003|pp=217&ndash;218}}{{Refnest|group="註"|ローマ条約未加盟の理由として、合衆国憲法の特許著作権条項 (Copyright Clause) に基づき、未固定の著作物は保護しない方針だったことから、実演や放送著作物の保護を見送ったとの説もあるが、不確実性を残した表現に留まっている{{Sfn|山本隆司|2008|p=18|ps= --「『特許著作権条項』によって未固定の著作物を保護できないので、固定されていない実演や放送を保護することを義務づけるローマ条約への加盟を見送ったようである」}}。}}。

; IT業界
レコード業界と並んで米国の主力産業であるコンピュータ・プログラムも、政治的配慮が見られる。日本では一般的に、「産業」に関するアイディアは[[産業財産権]] ([[特許権]]や[[商標権]]などの総称) で守り、アイディアの「文化的」な表現は著作権で守るという、二分論がとられている。しかし米国では産業と文化という縦割りではなく、アイディアとその表現という横割りの[[アイディア・表現二分論]]がとられている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=11&ndash;13}}。これにより、実用的な産業であるソフトウェアなども、米国では著作権法の下で保護されている<ref name=Accumu-Computer>{{Cite web |url=https://www.accumu.jp/back_numbers/vol11/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%81%A8%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9.html |title=コンピュータ・プログラムと著作権 |author=仙元隆一郎 (同志社大学教授) |publisher=京都コンピュータ学院 |work=Accume vol.11 |date=2002 |accessdate=2019-02-23}}</ref><ref name=CRIC-Computer>{{Cite web |title=コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書 |url=http://www.cric.or.jp/db/report/h4_3/h4_3_main.html |publisher=[[著作権情報センター]] |author=文化庁 |date=1992-03 |accessdate=2019-02-23}}</ref>。これは今日では世界的に共通の慣行であるが、もともとは米国から他国への強力な働きかけによるものであったとされ、特許を取得していないコンピュータ・プログラムであっても、著作権で保護されるようになった{{Refnest|group="註"|著作物の利用者は、著作物を知覚してアイディアを学ぶことは許されており、著作権侵害にはならない。しかしコンピュータ・プログラムの場合、端末にプログラムをインストールする (またはインストールされたサーバーにアクセスする) ことでしか知覚できない。このインストールの行為が、著作権法上の複製権 (著作権者が他者に無断でコピーされない権利) に該当することから、コンピュータ・プログラムも著作権で保護されるという法的ロジックになっている{{Sfn|岡本薫|2003|pp=215&ndash;217}}。}}。

== {{Visible anchor|現行法の詳細解説|現行法の主な特徴}} ==
※本節における「現行」とは、特記のない限り'''2019年2月現在'''の合衆国法典第17編 (米国著作権法) <ref name=USC17-full-201902>{{Cite web |title=Browse the United States Code - Title 17: Copyrights |trans-title=合衆国法典の閲覧 - 第17編: 著作権 |url=http://uscode.house.gov/browse/prelim@title17&edition=prelim |publisher=The Office of the Law Revision Counsel in the U.S. House of Representatives |accessdate=2019-02-14 |language=en}}</ref>に基づき記述している{{Refnest|group="註"|条文内の専門用語は、合衆国著作権局 (USCO) による定義解説に準拠する<ref name=USCO-Terminology>{{Cite web |title=FAQ - Definitions |trans-title=よくある質問 - 定義について |url=https://www.copyright.gov/help/faq-definitions.html |publisher=[[アメリカ合衆国著作権局]] |accessdate=2019-02-16 |language=en}}</ref>。各種用語の日本語訳は、公益社団法人[[著作権情報センター]]の表記を一部参照しつつ<ref name=CRIC-USC17-Trans-201902>{{Cite web |title=外国著作権法 >> アメリカ編 |url=http://www.cric.or.jp/db/world/america.html |publisher=公益社団法人[[著作権情報センター]] |author=山本隆司 (訳、米国著作権法弁護士)|date=2018-09 |accessdate=2019-02-14}}</ref>、[[著作権法|日本国著作権法]]で多用される一般的な著作権用語に一部置き換えている。}}。

※米国著作権法は特にデジタル著作物に関連する法改正が頻繁に発生しており、1998年10月28日から2014年12月4日の約16年間を例にとると、この期間に可決・制定された著作権の改正立法は計20本以上に上る<ref name=CRIC-USC17-Trans-201902/>。条文の最新は合衆国法典の[http://uscode.house.gov/browse/prelim@title17&edition=prelim 公式ウェブサイト]を参照すること。

=== 合衆国法典第17編の全体構成 ===
合衆国法典第17編は章 (Chapter) の名称とその内容に一部不一致が起こっており、章の下の条 (Section) レベルで参照しないと、全体構成が把握できないため注意が必要である。これは米国著作権法の改正が頻繁に起こり、その度に権利保護の対象となる著作物が増え、例外や罰則などが追加で規定されてきたためである<ref group="註">例えば20世紀に入ってから世に登場した[[集積回路|半導体チップ]]製品は、その著作権について[http://uscode.house.gov/browse/prelim@title17/chapter9&edition=prelim 第9章]にまとめて追記されている。その一方で、[[衛星放送]]によるテレビ番組の遠隔二次放送に関しては、第1章の[http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section119&num=0&edition=prelim 第119条]に規定されている。この第119条には章名に呼応した著作権保護の範囲だけでなく、著作権侵害発生時の救済手段、放送コンテンツの使用許諾の手続やUSCOへの支払明細書の送付方法など、他章に横断する委細が記述されている。</ref>。

{| class="wikitable collapsible" style="width:52%; font-size:smaller"
|+ style="font-size:larger" | 合衆国法典第17編の章構成
|-
! style="width:5%" | 章 !! style="width:37%" | 章名 !! style="width:10%" | 条
|-
! 第1章
| 著作権の対象および範囲 (Subject matter and scope of copyright) || 第101~122条
|-
! 第2章
| 著作権の帰属および移転 (Copyright ownership and transfer) || 第201~205条
|-
! 第3章
| 著作権の保護期間 (Duration of Copyright) || 第301~305条
|-
! 第4章
| 著作権表示、納付および登録 (Copyright notice, deposit and registration) || 第401~412条
|-
! 第5章
| 著作権侵害および救済 (Copyright infringement and remedies) || 第501~513条
|-
! 第6章
| 輸入および輸出 (Importation and Exportation) || 第601~603条
|-
! 第7章
| 著作権局 (Copyright office) || 第701~710条
|-
! 第8章
| 著作権使用料審判官による手続 (Proceeding by copyright royalty judges) || 第801~805条
|-
! 第9章
| 半導体チップ製品に対する保護 (Protection of semiconductor chip products) || 第901~914条
|-
! 第10章
| デジタル音声録音装置および媒体 (Digital audio recording devices and media) || 第1003~1010条
|-
! 第11章
| 録音物および音楽ビデオ (Sound recordings and music videos) || 第1101条
|-
! 第12章
| 著作権保護および管理システム (Copyright protection and management systems) || 第1201~1205条
|-
! 第13章
| 創作的なデザインの保護 (Protection of original designs) || 第1301~1332条
|-
! 第14章
| -- (Unauthorized use of pre-1972 sound recordings) || 第1401条
|}

著作物の利用者の観点では、著作権者に無断で利用しても著作権侵害に当たらないケースとして、後述する[[フェアユース]] (公正利用、[http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section107&num=0&edition=prelim 第107条]) が知られている。しかしフェアユースは原則論に留まっており、著作物の種別や条件に応じた個別規定は複数の条にまたがっている点に留意が必要である。

=== 著作権の定義と保護範囲 ===
どのような種類の権利を、どのような著作物に対して付与し、どのような条件下で法的に保護するかを解説する。
==== {{Visible anchor|権利の内訳|著作者の有する排他的権利|支分権|第106条}} ====
著作権のうち、著作者本人の諸権利を日本の著作権法ではまとめて「[[著作権#支分権|支分権]]」と呼んでいるが、米国著作権法では「排他的な権利」(exclusive rights) という強い表現が使われているのが特徴である。具体的に排他的権利とは (1)「著作物のコピーまたはレコード複製」('''複製権''')、(2)「二次的著作物の作成」('''翻案権''')、(3)「販売、所有権の移転、貸与による頒布」('''頒布権''')、(4)「著作物を使った実演」('''実演権''')、(5)「著作物を使った展示」('''展示権''')、(6)「録音物の場合、デジタル音声送信による実演」('''デジタル実演権''') の6点だと定義されている ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section106&num=0&edition=prelim 第106条]){{Refnest|group="註"|著作権者の支分権はもともと5種類だったが、録音物に対しては実演権が与えられていなかったことから、放送局との既得権益との妥協を経て、1995年制定の著作権法改正 (デジタル実演権法、The Digital Performance Right in Sound Recordings Act of 1995) が成立し、6種類目としてデジタル実演権が追加された{{Sfn|山本隆司|2008|p=15}}。}}。換言すると、複製や頒布などを著作者の許諾なしに第三者が行うと、著作権侵害になることを意味する ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section501&num=0&edition=prelim 第501条])。

{{Anchors|著作者人格権|第106A条|視覚芸術著作物}}
さらに1990年制定の法改正 (Visual Artists Rights Act of 1990、略称: VARA) により、いわゆる (7) '''[[著作者人格権]]'''が付け加わった ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section106A&num=0&edition=prelim 第106A条])。ただし日本や他の先進国の著作権法と異なり、著作者人格権が認められるのは視覚芸術著作物 (visual arts) に限定されている<ref name=USCO-VARA/>。米国著作権法における視覚芸術著作物とは、絵画・素描・版画・彫刻・展示目的の現像写真の5種類に限られている。さらにこれら5種類のうち、複製が200点以下であり、シリアルナンバーと著者の署名が刻まれているものに限定し、著作者人格権が認められる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section101&num=0&edition=prelim 第101条])。つまり、容易に大量複製や[[翻案権|翻案化]]できるもの、あるいは大衆向け商業目的の著作物には著作者人格権が認められない。著作者人格権が認められないケースとして、ポスター、地図・地球儀、海図、技術図面、図表、模型、応用美術、映画などの動画、書籍、雑誌、新聞、定期刊行物、データベース、電子情報サービス、電子出版物、商品、広告宣伝・説明、パッケージなどの包装・容器、職務著作物が挙げられている ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section101&num=0&edition=prelim 第101条])。

==== {{Visible anchor|著作物の類型|著作物の定義}} ====
米国著作権法が定める著作物とは (1)「言語著作物」、(2)「音楽著作物」(これに伴う歌詞を含む)、(3)「演劇著作物」(これに伴う音楽を含む)、(4)「無言劇および舞踊の著作物」、(5)「絵画、図形および彫刻の著作物」、(6)「映画およびその他の視聴覚著作物」、(7)「録音物」、(8)「建築著作物」の8種に分類されているが、例示でありこれらに限らないと記されている ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section102&num=0&edition=prelim 第102条])。

また、原著作物を活用した「編集著作物」と「[[二次的著作物]]」も法の保護の対象となる。編集著作物とは、既存の素材またはデータを選択し、整理しまたは配列し、これらを収集し編成して作られた著作物である。二次的著作物とは、原著作物を用いて、翻訳、編曲、脚色、映画化、改訂するなどして創作された作品を指す ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section102&num=0&edition=prelim 第102条])。これらの編集ないし二次的著作物と、その素材となった原著作物の著作権は別個に存在する ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section103&num=0&edition=prelim 第103条])。

{{Quote box
|title = 連邦法による著作権の保護目的と対象
|quote = [[アメリカ合衆国議会|連邦議会]]は、著作者 (author) および発明者に対して、それぞれ著作 (writings) および発明に対する排他的権利を一定の期間に限り付与することにより、科学および有用な技芸の振興を促進する...権限を有する。
|source = [[合衆国憲法]] 第1条第8項第8条 (通称: {{仮リンク|著作権条項|en|Copyright Clause}}){{Sfn|山本隆司|2008|p=8|ps=--著者による訳文}}
|width = 40%
|align = right
|quoted = 1
}}
著作物の定義に関し、米国著作権法が他の先進国と異なる点が「固定」(fixed) である。つまり、印刷物や録音・録画など何らかの媒体に記録されている必要があり (第102条)、固定されていない生の著作物は法的保護の対象外となってしまう{{Sfn|山本隆司|2008|p=13}}。例えば、日米の大学間でインターネットを使って合同授業が行われており、それがライブ配信されただけでは、その授業内容は米国側では著作権保護されない{{Sfn|岡本薫|2003|p=14}}。

さらに、上述の8種類のいずれかに該当し、固定されていたとしても、著作権で保護されないケースがある。その一つが「創作性」の有無である。合衆国憲法で定めた著作権条項の「著作者 (author)」の用法から、著作権には創作性 (originality) が必要であり、また「著作 (writings)」から著作物は何らかの媒体に固定 (fixation) されていなければならないと解されている{{Sfn|山本隆司|2008|p=13}}<ref group="註">Originalityは一般的な日本語訳として「独創性」や「斬新さ」が充てられることがあるが、米国では発明といった新規性は特許法などで審査・保護されており、著作権法上では新規性の有無は問われない。偶然にも著作物の表現が似通ってしまったとしても、Originalityはあるとして著作権保護される。したがって、米国著作権法上のOriginalityには「創作性」の訳が充てられている。</ref>。

;: {{Visible anchor|どこまでが著作物なのか}}

;: (1) 言語著作物
: 第101条の定義によると、言葉、数字、数学的な記号、符号などの著作物を指す。ただし、楽譜は符号だが音楽著作物に、演劇脚本は言葉だが演劇著作物に分類される。また判例上は、言語著作物に登場するキャラクターや、言語著作物の題名には著作物に該当しないと解されている{{Sfn|山本隆司|2008|p=23}}。キャラクターの保護を巡る裁判としては、1954年の第9巡回区控訴裁「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ対CBS裁判|ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ対CBS裁判]]」が知られている{{Refnest|group="註"|この判例では、小説や戯曲といった言語著作物におけるキャラクターやタイトルは著作権保護の対象にならないとしている。しかし、1930年に第2巡回区控訴裁が下した「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ニコルズ対ユニバーサル・ピクチャーズ裁判|ニコルズ対ユニバーサル・ピクチャーズ裁判]]」と比較して、キャラクター保護の制限が厳格であり、ワーナー対CBS裁判で示された基準を満たせる言語著作のキャラクターはほぼ存在しないことから、後の判例や法学者から広く支持されてはいないとの指摘もある{{Sfn|Leaffer|2008|pp=115&ndash;117}}。}}。

: コンピュータ・プログラムも一部はこの言語著作物として含まれている。1980年制定の著作権法改正で、第101条 (各種用語の定義) にコンピュータ・プログラムが追加されたほか、第117条でコンピュータ・プログラムの権利制限が追加規定された。また、1983年の第3巡回区控訴裁による「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#アップルコンピュータ対フランクリンコンピュータ裁判|アップルコンピュータ対フランクリンコンピュータ裁判]]」を始めとする判例によって、コンピュータ・プログラムとデータベースの著作権が保護されるようになった{{Sfn|山本隆司|2008|p=15}}。

;: (4) 無言劇および舞踊の著作物
: (2) 音楽著作物 ~ (4) 無言劇および舞踊の著作物に関し、第101条で定義は示されていない。(4) については、言葉を使わず動きとジェスチャーで表現する演劇全般、および観客の前でのダンサーの動きを表現した記録や表記だと解されている。しかし、社交ダンスのステップのように、形式が決まっているものについては著作物として認められていない{{Sfn|山本隆司|2008|p=24}}。

;: (5) 絵画、図形および彫刻の著作物
: 第101条の定義によると、純粋な美術品だけでなく、写真や地図、模型、建築設計図などもこれに含まれる。ただし、単純な実用品 (useful article) のデザインは著作物として認められていない。これは実用的なデザインは著作権ではなく、意匠特許権で守られるべきと考えられているからである。両者の線引きは、美しさの有無ではなく、美的「表現」なのか、デザインの「新たな発明」なのかの違いにある{{Sfn|山本隆司|2008|pp=24&ndash;25}}。実用デザインを巡る裁判としては、ダンサー像がデザインされた卓上ランプに関する「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#メイザー対ステイン裁判|メイザー対ステイン裁判]]」、およびチアリーディングのユニフォーム製造業同士で争った「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#スター・アスレティカ対ヴァーシティ・ブランズ裁判|スター・アスレティカ対ヴァーシティ・ブランズ裁判]]」も参照のこと。

;: (7) 録音物
: 第101条では、一連の音楽、会話その他音声の著作物だと定義されている。ただし、映画などの視聴覚著作物に含まれているセリフなどは除く。音楽レコードについては録音著作物に該当するが、アーティストである実演家と、レコード会社であるレコード製作者の共同著作物と考えられているため{{Sfn|山本隆司|2008|p=26}}、日本の著作権法のように、実演家やレコード製作者は著作隣接者としてはみなされていない。

;: (8) 建築著作物
: 建築の設計図は (5) 絵画、図形および彫刻の著作物に含まれるが、ベルヌ条約加盟以前は建築物そのものは著作物として保護されていなかった。これは実用的なデザインとみなされていたからである。1990年の改正法により、建築著作物も著作権保護が認められるようになった{{Sfn|山本隆司|2008|pp=26&ndash;27}}。

;: 編集著作物
: 日本ではデータベースは編集著作物ではなく別個の著作物としているが、米国およびその他諸外国はデータベースを編集著作物としている。編集著作物 (compilations) には集合著作物 (collective works) を含む。集合著作物の例は定期刊行物、選集、百科事典などが挙げられる{{Sfn|山本隆司|2008|p=27}}。

==== {{Visible anchor|保護されない著作物|著作権保護の例外と制約}} ====
著作権で保護されない著作物は[[パブリック・ドメイン]] (公有) とみなされ、これらの著作物を第三者が無断で利用しても、上述の排他的権利を侵害したことにはならない。パブリック・ドメインの内訳は、著作権が「元来発生しない」性質の著作物と、著作権は発生したが後に「消滅した」著作物に大きく分けられる。

前者の元来権利が発生しない著作物としては、[[アメリカ合衆国政府の著作物|合衆国政府の著作物]]が挙げられる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section105&num=0&edition=prelim 第105条])。ただし、州政府などの地方自治体の著作物については、合衆国法典の規定の範囲外であり、各自治体で別途定められている。例えば[[オレゴン州]]や[[ジョージア州]]などでは、注釈付きの州法法令集は著作権保護の対象内だとしている{{Refnest|group="註"|州法法令集の著作権を巡っては、ジョージア州対マラムッド裁判などが起こっている。2015年7月、ジョージア州は{{仮リンク|Public.Resource.Org|en|Public.Resource.Org}}の創設者でありオープンコンテンツ推進の活動家でもある{{仮リンク|カール・マラムッド|en|Carl Malamud}}を相手取り、著作権侵害でアトランタの連邦裁判所に提訴した。訴状によると、注釈付きのジョージア州法をマラムッド自身のウェブサイトに掲載した著作権侵害は「テロ行為」(terrorism) だとジョージア州は糾弾しているものの、両者の主張は対立している<ref name=Malamud-LAT>{{Cite web |first=Michael |last=Hiltzik |title=Georgia claims that publishing its state laws for free online is 'terrorism' |publisher=Los Angeles Times |date=2015-07-27 |url=http://www.latimes.com/business/hiltzik/la-fi-mh-state-of-georgia-copyright-wall-20150727-column.html |accessdate=2019-02-23}}</ref><ref name=Malamud-Eff>{{Cite web |url=https://www.eff.org/ja/deeplinks/2018/10/appeals-court-tells-georgia-state-code-cant-be-copyrighted |title=Appeals Court Tells Georgia: State Code Can't be Copyrighted |last=Mullin |first=Joe |date=2018-10-23 |accessdate=2019-02-23}}</ref>。}}。後者の著作権保護が消滅してパブリック・ドメインに帰す著作物には、著作権の保護期間切れなどがある。

==== 著作権の保護期間 ====
{{Main2|各国共通の総論|著作権の保護期間|現行の保護期間の比較|世界各国の著作権保護期間の一覧}}
原則は、著作者の没後70年間が著作権の保護期間となる。しかし保護期間は数回の法改正により延伸していることから、現行法においては著作物の発表日が1978年1月1日 (1976年制定の著作権改正法の発効日) を境にして保護期間が異なるほか、様々な条件分岐が発生している。未発表または米国内で初めて発表された著作物 (但し録音物および建築物を除く) を例にとると、保護期間は以下となる<ref name=Cornell-Duration>{{Cite web |title=Copyright Term and the Public Domain in the United States |url=https://copyright.cornell.edu/publicdomain |trans-title=アメリカ合衆国における著作権の保護期間とパブリック・ドメイン |publisher=Copyright Information Center, [[Cornell University]] Library |accessdate=2019-03-03 |language=en}}</ref>。なお、「発表」については[[#著作物の発表の定義]]で、著作権表示や登録手続については[[#著作権保護の手続]]で後述する。

; {{Visible anchor|1976年制定の改正法以前の法的スキーム (旧法) が適用される著作物|旧法スキームでの保護期間}}<ref group="註">旧法では未発表の著作物、および既発表でも著作権表示や延長更新手続を怠った著作物は、著作権法の保護対象外であった。</ref><ref group="註" name="DurationTableNote">下表の解説対象は未発表または米国内で初めて発表された著作物 (但し録音物および建築物を除く) に限る。</ref>

{| class="wikitable" style="width:51%; font-size:smaller"
! rowspan="2" style="width:15%" | 発表日 !! colspan="2" | 著作権表示あり !! rowspan="2" style="width:7%" | 著作権<br>表示なし
|-
! style="width:7%" | 更新手続あり !! style="width:7%" | 更新手続なし
|-
| 1923年以前 || {{n/a|PD}} || {{n/a|PD}} || {{n/a|PD}}
|-
| 1924年1月1日 - 1963年12月31日 || {{yes2|発95}} || {{n/a|PD}} || {{n/a|PD}}
|-
| 1964年1月1日 - 1977年12月31日 || {{yes2|発95}} || {{yes2|発95}} || {{yes2|発95}}
|}

; {{Visible anchor|1976年制定の改正法以降の法的スキーム (新法) が適用される著作物|新法スキームでの保護期間}}<ref group="註">1976年制定の改正法が1978年1月1日より施行され、未発表著作物も保護対象となった他、著作権表示や登録などの手続が保護要件から外されたほか、著作権保護期間が全般的に延伸した。また[[著作権延長法|ソニー・ボノ著作権延長法]]によりさらに期間が延伸し、下表の状況に至る。</ref><ref group="註" name="DurationTableNote"/>
{| class="wikitable" style="width:52%; font-size:smaller"
! rowspan="3" style="width:8%" | 発表日<ref group="註">Copyright Act of 1976 (1976年制定の改正法) が1978年1月1日より施行、Berne Convention Implementation Act of 1988 (1988年制定のベルヌ条約履行法) が1989年3月1日より施行。</ref> !! rowspan="3" style="width:7%" | 創作日 !! colspan="3" | 実名著作物 !! colspan="3" | 実名著作物以外
|-
! rowspan="2" style="width:6%" | 著作権<br>表示あり || colspan="2" | 著作権表示なし || rowspan="2" style="width:6%" | 著作権<br>表示あり || colspan="2" | 著作権表示なし
|-
! style="width:6%" | 事後登録<br>あり !! style="width:6%" | 事後登録<br>なし !! style="width:6%" | 事後登録<br>あり !! style="width:6%" | 事後登録<br>なし
|-
| rowspan="2" | 1978年1月1日 -<br>1989年2月28日 || 1977年以前 || {{partial|旧法 or<br>2047末}} || {{no2|没70}} || {{n/a|PD}} || {{partial|旧法 or<br>2047末}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{n/a|PD}}
|-
| 1978年以降 || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{n/a|PD}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{n/a|PD}}
|-
| rowspan="2" | 1989年3月1日 -<br>2002年12月31日 || 1977年以前 || {{partial|旧法 or<br>2047末}} || {{partial|旧法 or<br>2047末}} || {{partial|旧法 or<br>2047末}} || {{partial|旧法 or<br>2047末}} || {{partial|旧法 or<br>2047末}} || {{partial|旧法 or<br>2047末}}
|-
| 1978年以降 || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{TBA|発95 or<br>創120}}
|-
| rowspan="2" | 2003年以降 || 1977年以前 || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{TBA|発95 or<br>創120}}
|-
| 1978年以降 || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{TBA|発95 or<br>創120}} || {{TBA|発95 or<br>創120}}
|-
| 未発表 || 不問 || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{no2|没70}} || {{free|創120}} || {{free|創120}} || {{free|創120}}
|}

; 凡例
{| class="wikitable collapsible" style="width:45%; font-size:smaller"
! style="width:8%; white-space:nowrap" | 凡例 !! style="width:37%" | 解説
|-
| {{no2|没70}} || 著作者の没後70年間
|-
| {{TBA|発95 or 創120}} || 発表から95年間、あるいは創作から120年間のいずれか短い方 <br>(職務著作、変名著作、無名著作、著作者の死亡日不明など、実名著作で定めた「没後70年間」を適用できないため)
|-
| {{yes2|発95}} || 発表から95年間
|-
| {{free|創120}} || 創作から120年間
|-
| {{partial|旧法 or 2047末}} || 旧法で規定の保護期間満了まで、あるいは2047年12月31日までのいずれか長い方
|-
| {{n/a|PD}} || 保護期間が消滅し、パブリック・ドメインに帰す
|}

1978年1月1日以降に創作された著作物に対しては、米国著作権法では一般的に著作者の没後70年までとされる。著作者が複数人いる場合は、最も生存の長かった者を基準とする。ただし、[[職務著作]]・無名著作 (著作者不明)・[[変名#著作権法上の変名|変名]]著作 (ペンネームや芸名などを使った創作)・著作者の没年不明の場合は、創作日から120年あるいは発表から95年のいずれか短い年数が適用される ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section302&num=0&edition=prelim 第302条])。

1978年1月1日より前 (1977年12月31日以前) に創作された著作物の保護は、既発表と未発表で保護期間が異なる。未発表かつパブリック・ドメインにも帰していない場合は、上述の第302条と同期間が適用される。ただし、この未発表著作物が1978年1月1日~2002年12月31日の間に発表された場合は、2047年12月31日まで著作権の保護が認められる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section303&num=0&edition=prelim 第303条])。また、1978年1月1日より前に頒布していても、レコードに関しては既発表とは見なされない例外が設けられている (第303条)。

1978年1月1日より前に創作された既発表著作物のうち、1978年1月1日時点で最初の保護期間中の場合は、28年間が認められる。また最初の保護期間が満了した後、一定の条件を満たせばさらに67年間更新延長できる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section304&num=0&edition=prelim 第304条])<ref group="註">ここでの「最初の保護期間」であるが、1976年制定の著作権改正法以前は、保護期間が28年 + 更新延長28年の2段階方式に設定されており、「最初」は前者を指している。最初の保護期間が満了した時点で著作者が生存していれば、更新延長が可能であった。</ref>。

ただし、著作者の生死に関わらず、1923年12月31日以前に創作 (楽曲の場合は1922年12月31日以前に作曲) された著作物は、保護期間が消滅してパブリック・ドメインと見なされる<ref name=Cornell-Duration>{{Cite web |title=Copyright Term and the Public Domain in the United States |url=https://copyright.cornell.edu/publicdomain |trans-title=アメリカ合衆国における著作権の保護期間とパブリック・ドメイン |publisher=Copyright Information Center, [[Cornell University]] Library |accessdate=2019-03-03 |language=en}}</ref>。

; 保護期間の計算方法
米国著作権法の場合、保護期間の満了日は暦年の最終日までとされる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section305&num=0&edition=prelim 第305条])。例えば1980年代に創作され、著作者が1990年9月1日に死去した場合、著作権の保護期間は死後70年のため2060年であり、その暦年の最終日である2060年12月31日が満了日となる。日本の著作権法でも死後70年で満了の場合、死去日の翌年から起算して70年間のため、満了日は必ず暦年の最終日 (12月31日) に到来する<ref name=Bunka-FAQ-Duration01>{{Cite web |title=Q. 保護期間の計算方法について教えてください。 |url=https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000186 |quote=死後70年、公表後70年、創作後70年の計算方法は、死亡等の日の属する年の翌年から起算します。例えば、2005年1月12日に著作者が死亡した場合の著作権は、原則として2005年に70年を加えた2075年の12月31日までということになります。 |publisher=文化庁 |work=著作権なるほど質問箱 |accessdate=2019-02-28}}</ref>。したがって米国と日本の満了日の計算方法は実質的に同じである。

==== {{Visible anchor|著作物の発表の定義}} ====
著作物の流通の観点からは、「既発表」(published) と「未発表」(unpublished) に分類され、著作権の保護範囲が異なる<ref group="註">publishは「発表」や「公表」以外に「発行」の日本語訳が充てられることがあるが、いずれにしても紙で印刷された著作物に限定されない。</ref>。{{仮リンク|1976年の著作権改正法|en|Copyright Act of 1976}}(Copyright Act of 1976) が施行された1978年1月以降は、米国著作権法の連邦法でも未発表著作物が保護されるようになったが<ref name=USCO-Circ15a/>、いまだに既発表と未発表では保護期間に差異がある。ここでの「発表」(publication, publish) の定義とは ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section101&num=0&edition=prelim 第101条])、「著作物を複製 (copy) またはレコード収録 (phonerecord) し、一般に頒布すること」であり、「販売その他手段による所有権の移転、レンタル、リースや貸与」が頒布の具体的手段として挙げられている。そして「更なる頒布、実演または展示を目的として、複製またはレコード収録した著作物を特定の団体組織に提供することを発表と呼ぶ」としている。注意点として、「著作物を公に実演したり展示する行為そのものは、ここでの発表には含まれない」とされる<ref group="註">原文は''"Publication" is the distribution of copies or phonorecords of a work to the public by sale or other transfer of ownership, or by rental, lease, or lending. The offering to distribute copies or phonorecords to a group of persons for purposes of further distribution, public performance, or public display, constitutes publication. A public performance or display of a work does not of itself constitute publication.''である。</ref>。

{{Anchors|インターネット上での発表の定義}}
著作物の多くがインターネットを介して流通している現代社会において、発表の境界線をどのように解すべきか、いくつかのアプローチがとられている。全米の著作権関連団体・企業などが参加する{{仮リンク|米国著作権連盟|en|Copyright Alliance}} (The Copyright Alliance) によると、公衆向けに流通・販売・展示する目的で、著作物が複製またはレコード収録された最初の日が、既発表と未発表の境目だとされる。既発表の著作物の場合、発表日を起点として著作権の保護期間が計算される<ref name=CA-Pub-Unpub>{{Cite web |title=What is the difference between “Published” vs. “Unpublished” works, why does it matter, and how does the difference relate to Online vs. Print publishing? |trans-title=著作物の「発表」と「未発表」の違いとその意義は? オンラインと紙媒体の発表方法との関連は? |url=https://copyrightalliance.org/ca_faq_post/what-is-the-difference-between-published-vs-unpublished-works-why-does-it-matter-and-how-does-the-difference-relate-to-online-vs-print-publishing/ |accessdate=2019-02-16 |language=en}}</ref>。

また{{仮リンク|米国メディア写真家協会|en|American Society of Media Photographers}} (ASMP) は、写真のデジタル画像をウェブサイトにアップロードした場合、発表に相当するのかについて回答を寄せている<ref name=ASMP-FAQ>{{Cite web |title=Defining Published and Unpublished |trans-title=PublishedとUnpublishedの定義 |url=https://www.asmp.org/copyright-tutorial/defining-published-unpublished/ |publisher=[[ASMP]] |accessdate=2019-02-18 |language=en}}</ref>。同協会によると、
* 顧客に依頼されて撮影した写真をデジタルデータの形式で納品した場合、「複製またはレコード収録した著作物を特定の団体組織に提供」に該当するため、発表と見なされる可能性がある
* 写真家個人が運用するウェブサイトにデジタル画像を掲載した場合、そのサイトが一般からアクセス可能な状態であれば発表と見なされ、またそのウェブサイト自体が写真だけでなく文章やイラストなどの著作物で構成されているため、ウェブサイト全体が著作権保護の対象となるだろう
と解説している{{Refnest|group="註"|ただし個別ケースの判断においてはUSCOの''[https://www.copyright.gov/circs/ Circular]'' (手引書) を参照するよう推奨している。''Circular 66''では、ウェブサイトおよびそのコンテンツに関する著作権登録について記述されている<ref name=USCO-Circular66>{{Cite web |title=Copyright Registration of Websites and Website Content |trans-title=ウェブサイトおよびそのコンテンツに関する著作権登について |url=https://www.copyright.gov/circs/circ66.pdf |format=PDF |publisher=[[アメリカ合衆国著作権局]] |date=2017-09 |accessdate=2019-02-18 |language=en}}</ref>。}}。

==== 著作権保護の手続 ====
1976年制定・1978年施行の著作権改正法により、USCOへの著作物の登録がなくとも著作権保護が与えられることとなった ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section409&num=0&edition=prelim#sourcecredit 第409条])。しかし著作権侵害などで民事訴訟を起こす際には、USCOへの登録が必要となる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section411&num=0&edition=prelim 第411条])。登録申請にあたり、著作者名・住所、(無名または変名著作物の場合は) 著作者の国籍または住所、創作年と発表日・発表国などを著作権者は記入する必要がある (第409条)。これは無名・変名・職務著作物や、最初の発表国が米国内であるか否かによって、著作権保護期間のカウント方法が異なるためである。USCO局長は提出された登録申請に基づき、著作権法が定める著作物でないと判断した場合は却下し、許可されたもののみ登録証明書を発行する ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section410&num=0&edition=prelim 第410条])。裏を返すと、著作権法の保護対象をUSCO局長が線引きしており、司法に対する越権行為ではないかとの懸念もあり、この「登録」の定義を巡って争われた裁判も数件存在する (「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ニューヨーク・タイムズ他対タシーニ裁判|ニューヨーク・タイムズ他対タシーニ裁判]]」、「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#リード・エルゼビア対マッチニック裁判|リード・エルゼビア対マッチニック裁判]]」、「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#フォース・エステート対Wall-Street.com裁判|フォース・エステート対Wall-Street.com裁判]]」も参照)。

{{仮リンク|1988年のベルヌ条約履行法|en|Berne Convention Implementation Act of 1988}}(Berne Convention Implementation Act of 1988) の成立により、米国でも1989年から無方式主義が採用された結果、著作権保護の観点からは[[著作権マーク]]「&copy;」 (マルC、Copyrightの意) または「&#x2117;」(マルP、レコードのPhonogramの意) や著作者名、発表年の表示は必須ではなくなった ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section401&num=0&edition=prelim 第401条])。
{{See also|著作権表示}}

USCOへの納付は引き続き原則必要となっており、発表から3か月以内に行わなければならない。納付はコピー2部 (レコードの場合は発表に付属していた印刷物などの付属資料も) が求められている。ただし元々コピーが4部以下しか作成されていない著作物 (1点ものの絵画など) や、シリアルナンバーを付した限定リリース品などは納付の義務が免除されている。納付を怠った場合、著作物1点あたり250ドル以下の罰金が科される ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section407&num=0&edition=prelim 第407条])。

==== {{Visible anchor|国際的な著作物への対応|国外への米国法の適用|第104条|国際著作物}} ====
{{seealso|著作権の準拠法}}
著作物が国際的に流通する社会において、どこの国の著作物がどこで利用された場合に米国著作権法が適用されるのかが問題となる。米国著作権法では、既発表と未発表著作物で対応が異なる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section104&num=0&edition=prelim 第104条])。未発表著作物の場合、著作者の国籍や現在居住地は不問で著作権の保護対象になる。一方の既発表著作物は、以下6要件のいずれか1つ以上に該当すれば、米国著作権法が適用されうる。
# 発表初日の段階で、著作者の一人以上が「米国籍あるいは米国住民」、「条約加盟国の国民、住民、あるいは加盟国の政府機関などの主権者」、「無国籍者 (現在居住地は問わない)」のいずれかに該当する場合
# 米国内で最初に発表されたか、あるいは発表初日の段階で条約加盟済の国で発表された場合
# 音声レコーディングのうち、条約加盟国内で最初に録音完了したもの
# 絵画、図形または彫刻作品のうち、ビルなどの建造物に組み込まれている場合、あるいは建築著作物のうち、米国ないし条約加盟国内のビルなどの建造物に組み込まれている場合
# 最初の発表者が[[国際連合]]もしくは国際連合の専門機関、または[[米州機構]] (OAS) の場合
# 一定の条件下で、米国大統領の布告 (proclamation) によって保護すると指定された著作物

国際著作物に対するこのような運用は、米国以外の著作権法でも見られることから、同一の著作物を巡って、同一の原告と被告が世界各国の裁判所で係争する事態が発生している。その代表例が「[[チャイヨー・プロダクション#ウルトラマン訴訟|ウルトラマン裁判]]」である。本件では、日本、タイ、中国、米国でそれぞれ訴訟が起こり、異なる判決が出ている{{Sfn|小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘|2019|pp=212&ndash;213|ps=--河野俊行による解説執筆}}<ref name=ToyoKeizai-Ultraman>{{Cite web |url=https://toyokeizai.net/articles/-/218151 |title=円谷プロ「ウルトラマン」、完全勝訴の全内幕 {{!}} 米裁判所が1976年の版権譲渡書は偽物と判断 |author=本田雅一 |publisher=[[東洋経済]] |date=2018-04-24 |accessdate=2019-06-14}}</ref><ref name=HuffPo-Ultraman>{{Cite web |url=https://www.huffingtonpost.jp/2018/04/24/tsuburaya-usa_a_23418641/ |title=「ウルトラマンは誰の物?」を問う裁判、円谷プロがアメリカ地裁で勝訴 |publisher=[[HuffPost]] |author=
安藤健二 |date=2018-04-24 |accessdate=2019-06-14}}</ref>。

=== 著作者と第三者の権利関係 ===
==== {{Visible anchor|著作者と著作権者の相違点|著作権者の定義|第201条}} ====
個人・団体を問わず著作権を有する者を「著作権者」と呼ぶが、米国著作権法では著作権が誰に帰属するのかを大きく3つに分けて定義している ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section201&num=0&edition=prelim 第201条])。第一に、著作物の著作者 (最初の作成者) が著作権者だとする「原始的帰属」 (Initial ownership) という基本的な考え方である。第二に、雇用主の命により業務の一環で従業員が著作物を作成した場合は、著作者である従業員個人ではなく雇用主が著作権者だとする「[[職務著作]]」 (Works made for hire、またはWorks for hire) の考え方である。第三に、個々の著作物を寄せ集めて作成・編纂された「集合著作物」である。複数の楽曲を収録した音楽アルバムや、複数のジャーナリストが寄稿して発行される雑誌などが集合著作物に該当する。集合著作物の著作権と、それを構成する個々の著作物の著作権は別個に存在する。

==== {{Visible anchor|第三者への著作権の移転|移転|第201(d)条}} ====
第106条で定められた排他的権利 (支分権) は、譲渡や独占[[ライセンス]]許諾、抵当設定、相続などによって著作者から第三者に移転 (transfer) することができる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section201&num=0&edition=prelim 第201条 (d)])。著作権の移転が効力を発揮するには、著作権者あるいはその代理人による署名付きの書面作成が必須となる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section204&num=0&edition=prelim 第204条])。この譲渡証書は任意でUSCOに登録することもできる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section205&num=0&edition=prelim 第205条])。

移転は支分権全てである必要はなく、その一部のみ移転させることが可能である。例えば、小説の作者が小説出版権 (原著作物の頒布権) を出版A社に売却し、小説の映画化権 (二次的著作物の作成権) を映画配給B社に売却するといったように、諸権利をバラバラに分解する行為も移転と定義される。また、独占ライセンスの許諾に有効期限を設定したり、その独占をある地域に限定するといった、時空を特定することも可能である ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section201&num=0&edition=prelim 第201条])。ただし、米国著作権法上の移転の定義には、非独占ライセンス許諾は含まれない ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section101&num=0&edition=prelim 第101条])。また移転の対象に第106A条は含まれないことから、著作者が死去すると著作者人格権は第三者に継承できないと解される (第201条)。集合著作物、法人著作とライセンスを巡って争われた例として「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ウォーレン出版対スパーロック裁判|ウォーレン出版対スパーロック裁判]]」も参照のこと。

==== {{Visible anchor|所有者の権利と消尽論|所有者の権利|第109条|消尽論}} ====
米国著作権法の定める著作権者とは、著作物の排他的権利を有している者であって、排他的権利を行使して作成された実物の所有者 (購入者) とは分けて捉えられている ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section202&num=0&edition=prelim 第202条])。所有者とは例えば、出版された書籍や音楽ダウンロードサービスで楽曲を購入した消費者である。仮に小説を執筆した著作者がその小説を出版販売したとしても、小説の購入者が所有しているのは小説という実物の商品のみであって、小説の著作権まで購入したわけではないという意味である。

複製された著作物の所有者は、著作権者の許諾なしで自由に所有物を売却処分することができる。つまり、著作権者の排他的権利は、複製された著作物の処分方法にまでは及ばずに消えることから、これを「[[消尽|消尽論]]」または「ファースト・セールス・ドクトリン」(The First Sales Doctrine) と呼ぶ{{Sfn|山本隆司|2008|pp=88&ndash;89}}。ただし、録音物またはその録音物に含まれる音楽著作、あるいはコンピュータ・プログラムのコピー所有者が処分する際には、一部の例外を除き、著作権者の許諾が必要になる。また所有者は、著作物のコピーまたはレコード複製を使って、その場で一般の観衆向けに展示することができる。展示が許されるのは所有者であり、著作権者から著作物を貸与された場合は適用外となる ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section109&num=0&edition=prelim 第109条])。消尽論を巡る裁判は、「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#カートサン対ワイリー裁判|カートサン対ワイリー裁判]]」と「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#オメガ対コストコ裁判|オメガ対コストコ裁判]]」も参照のこと。

=== 著作物の利用と著作権侵害 ===
==== {{Visible anchor|フェアユース (総論)|第107条}} ====
{{seealso|フェアユース|著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#フェアユース関連}}
著作物そのものはパブリック・ドメインに帰しておらず保護期間内であっても、一定の条件を満たしていれば著作者に無断で利用しても著作権侵害とはならない。その代表例が[[フェア・ユース]] (公正利用) である。

フェアユースの利用シーンとしては「批評、解説、ニュース報道、教育、研究または調査」が例示されており、また最終的には「使用の目的」(非営利の教育など)、「著作物の内容」、「量・質の両側面から著作物が使用された割合」、「使用によって著作物の市場価値にどの程度影響を及ぼすか」などを考慮して総合して判断される。条文ではincludingやsuch asといった表現が使われていることから、これら利用シーンや考慮点はあくまで例示である点に留意が必要である ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section107&num=0&edition=prelim 第107条])<ref group="註">用語の定義が記された第101条において、''"The terms "including" and "such as" are illustrative and not limitative."'' (includingやsuch asといった表現はイメージの例示であり、例以外を排除するものではない) と記されている。</ref>。

==== {{Visible anchor|フェアユース以外の個別規定|第108~122条}} ====
第107条のフェアユースとは別に、特定条件下で著作権者の排他的権利に制限がかかり、利用が緩和・促進されている条項が複数ある (第108条~122条)。例えば、図書館や文書資料館による複製は公共の利益目的であり、著作権侵害に該当しないとされている ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section108&num=0&edition=prelim 第108条])。またコンピュータ・プログラムにも著作権が認められるが、そのプログラムのコピー所有者が著作者に無断で新たにコピーまたは翻案物 (adaptation) を作成する場合、一定の条件を満たしていれば著作権侵害とならない。その条件とは、コンピュータ・プログラムを内蔵した機械・端末を生産する目的であり、それ以外に転用されないこと、あるいは保存目的で更なるコピーまたは翻案物を作成し、所有者が所有権を喪失した時点で廃棄することの2点である ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section117&num=0&edition=prelim 第117条])。

==== 著作権侵害と救済手段 ====
{{seealso|著作権侵害}}

{{Tree list}}
* 著作権者の排他的権利 (第106条など) を侵害した者に対し取りうる手段は、以下のように分類される。
** [[民事訴訟]] ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section501&num=0&edition=prelim 第501条])
*** [[差止命令]] ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section502&num=0&edition=prelim 第502条])
**** 一時的差止命令
**** 終局的差止命令
*** [[差押]]および処分 ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section503&num=0&edition=prelim 第503条])
*** [[損害賠償]] ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section504&num=0&edition=prelim 第504条])
**** 現実損害賠償
**** [[法定損害賠償#アメリカ合衆国|法定損害賠償]]
*** 訴訟関連費用の補填 ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section505&num=0&edition=prelim 第505条])
** [[刑事手続]] ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section506&num=0&edition=prelim 第506条])
*** 著作権侵害罪 (懲役または罰金)
*** 没収・破棄・返還
{{Tree list/end}}

==== 民事訴訟 ====
侵害された被害者 (著作権者) は、請求権が発生してから3年以内であれば民事訴訟を起こすことが可能である ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section502&num=0&edition=prelim 第507条])。裁判は長期化することもあるため、短期的な救済として差止命令、差押や処分を被害者は裁判所に請求し、さらなる侵害を食い止めることができる (第502条、第503条)。差止命令とは侵害者の行為を止めさせる裁判所命令であり、合衆国全域で効力を発揮する。換言すると、差止命令の法的強制力は米国外には及ばないことを意味する。差止命令の法的根拠と手続については、合衆国法典第28編 (各種[[訴訟法]]) の[http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title28-section1498&num=0&edition=prelim 第1498条] (特許権および著作権) に定められている。また、著作物を違法に複製している場合などは、その複製物を差押するだけでなく、複製のために用いられる版木やテープといった手段も廃棄処分できる (第503条)。

金銭的な補償として、被害者は現実損害賠償あるいは法定損害賠償を選択できる。現実損害賠償の場合、被害者が被った現実損害の額と、著作権侵害者が得た利益の総額で算出される。被害者は侵害者の総収入のみ立証責任がある。総収入のうち、著作権侵害以外から得た収入などがある場合は、侵害者側の申告で初めて控除され、現実損害賠償額が最終決定される (第504条)。

一方、法定損害賠償を選択した場合、著作物1点あたり、原則は750ドル以上3万ドル未満で裁判所が賠償金額を決定する。原著作物を用いて作成された編集著作物や二次的著作物も著作権侵害を被った場合、著作物1点あたりの賠償単価が上乗せされることはあるが、「著作物1点」がダブルカウントされるわけではない (第504条)。また、著作権侵害が故意だと認められた場合は、賠償単価の上限が3万ドル未満から15万ドル未満まで増額される。逆に侵害者が知らずに侵害していた場合は、賠償単価の下限が750ドル以上から200ドル以上まで減額される<ref group="註">「侵害者が知らずに」の例として、第107条のフェアユースが挙げられている。侵害者は自らの行為がフェアユースだと信じていて、かつその侵害者が非営利の教育機関、図書館、資料館、あるいは公共放送事業者であった場合、減額される。</ref>。

損害賠償に加えて、民事訴訟に要した費用も請求できる。具体的には提訴に要する諸手続の費用の他、雇用した弁護士への報酬支払額も補填の対象となる (第505条)。

==== インターネット関連事業者への免責 ====
著作権侵害がインターネットを介して行われた場合、その通信環境を提供した[[インターネットサービスプロバイダー]] (ISP) またはオンラインサービスプロバイダー (OSP)、あるいは[[検索エンジン]]などの[[キャッシュ (コンピュータシステム)|データキャッシング]]事業者各社は、一定の条件下で損害賠償を免責される ([http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section512&num=0&edition=prelim 第512条])。この免責条件は1998年制定・施行の[[デジタルミレニアム著作権法]]によって加えられ、いわゆる{{仮リンク|セーフハーバー|en|Safe harbor (law)}}条項とされる{{Refnest|group="註"|法学におけるセーフハーバー (safe harbor、安全な港) とは、ある一定条件下での行為であれば違法ではないとする例外規定のことである。例えば土地の所有者に対して、土地面積を計測して報告する義務を課す州法が新たに成立したとする。後に報告された面積が実態と乖離していたら、罰金を科すのを原則とする。ただしこの乖離が計測器の不備や外部委託業者の不手際で生じた場合、土地所有者に対する罰金は免ぜられる。このような免責をセーフハーバー条項と呼ぶ<ref name=Cornell-SafeHarbor>{{Cite web |title=Safe harbor example |trans-title=セーフハーバーの例 |url=https://www.law.cornell.edu/wex/example/%5Bfield_short_title-raw%5D_28 |publisher=[[コーネル大学]]ロースクール |accessdate=2019-03-14 |language=en}}</ref>。}}。ISPやOSPに適用される免責条件を例に取ると、以下の5要件全てを満たしている必要がある。
# 著作権侵害のデジタルデータがISPやOSP以外の第三者によって送信されたこと
# 送信・転送・接続・データの蓄積が自動的に行われていること
# データの受信相手をISPやOSPが指定していないこと (ただし相手からの返信で自動送信したケースは「指定」に含まれない)
# 受信者以外の第三者がアクセス可能な方法でシステム上に侵害データを保存していないこと (受信者が未受信のままサーバー上のメールボックスに保存されている分には問題ない)
# 送信の際にデジタルデータをISPやOSPが改変していないこと

{{Anchors|ノーティス・アンド・テイクダウン}}
また同512条では、いわゆる「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続についても規定している。これは著作権者の許可なく著作物が第三者によってウェブサイトに掲載されたと通知 (notice) を受けた場合、そのウェブサイトの運営者が速やかに削除 (takedown) すれば損害賠償などを免責されるという仕組みである。運営者が免責される要件や要点は以下の通りである<ref name=Soumu-WG05-05>{{Cite web |url=http://www.soumu.go.jp/main_content/000105846.pdf |format=PDF |title=資料5 ノーティスアンドテイクダウン手続について |work=プロバイダ責任制限法検証WG(第5回会合) |publisher=総務省 |date=2011-02-03 |accessdate=2019-03-31}}</ref>。
* ウェブサイトの運営者は、著作権者が侵害を通知できる連絡先を常に掲示しておかなければならない。
* 著作権者から削除要請の通知を受けた時点で、実際に著作権侵害かをウェブサイト運営者自身で調査・判断する必要はなく削除できる。
* 削除した後、運営者はその情報を無断掲載した本人に対し、削除済の通告をしなければならない。
* 無断掲載者から反対通知 (著作権侵害ではないとの反論) がなければ、たとえ著作権侵害に当たらない内容だったとしても削除されたままで問題ない。
* 無断掲載者から反対通知が届いた場合、ウェブサイトの運営者はその反対通知の写しを著作権者にも提供しなければならない。
* 反対通知の写しを受領した著作権者が10~14営業日以内に提訴しない限り、ウェブサイトの運営者は削除済の内容を復活させる。
* ただし、ウェブサイトの運営者が著作権侵害の事実を明確に知りえた場合は、著作権者からの削除申請通知がなくても、削除などの適切な対応をとらなければならない。
米国のノーティス・アンド・テイクダウン手続は、ウェブサイトの運営者に対して「『とりあえず削除』のインセンティブを高めてしまうのではないか」との懸念が呈されており、日本においても2011年総務省主催の専門家ワーキンググループ会合にて、日本に同様の法制度を導入することへの慎重論が展開された<ref name=Soumu-WG05-05/><ref name=Soumu-WG05-Top>{{Cite web |url=http://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/kenkyu/provider05siryo.html |title=会合議題・配布資料・議事要旨など |work=プロバイダ責任制限法検証WG(第5回会合) |publisher=総務省 |date=2011-02-03 |accessdate=2019-03-31}}</ref>。また、米国のオンラインニュース[[TechCrunch]]では「史上最高に馬鹿げた著作権侵害のDMCA通告」と題して批判している<ref name=TC-DMCA-2008>{{Cite web |title=史上最高に馬鹿げた著作権侵害のDMCA通告 |url=https://jp.techcrunch.com/2008/04/07/20080405possibly-the-most-ridiculous-dmca-take-down-yet/ |publisher=[[TechCrunch]] |first=Hiroshi |last=Iwatani |date=2008-04-07 |accessdate=2019-03-31}}</ref>。当手続の濫用が問われた例として、「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#イコールズ・スリー対ジューキン・メディア裁判|イコールズ・スリー対ジューキン・メディア裁判]]」も参照のこと。

==== 刑事手続 ====
被害者による民事訴訟以外に、警察や検察が刑事事件として手続を執る場合がある。著作権侵害罪として刑法上で扱われるのは、(1) 故意で商業的あるいは私的利益を目的とした場合、(2) 過去180日以内に総額1000ドル超の市場価値を有する複製または頒布を行った場合、(3) 商業的な目的でインターネット上で著作物を頒布した場合の3条件のいずれかに該当する場合である。

総額2500ドル超の市場価格を有し、10点以上を複製または頒布した場合を例にとると、初犯は懲役5年以下または25万ドル以下の罰金 (あるいはその両方) に処せられる<ref name=Justia-Criminal>{{Cite web |title=Criminal Copyright Infringement |trans-title=刑法上の著作権侵害 |url=https://www.justia.com/intellectual-property/copyright/intellectual-property/copyright/ |publisher=Justia |accessdate=2019-04-11 |language=en}}</ref>。同条件で再犯の場合は懲役10年以下または25万ドル以下の罰金 (あるいはその両方) に引き上げられ、さらに常習犯の場合は刑が重くなる。一方、軽犯罪の場合は懲役1年以下または10万ドル以下の罰金に軽減される。また、デジタルミレニアム著作権法施行による改正により、{{仮リンク|技術的保護手段の回避禁止|en|Anti-circumvention}}が盛り込まれた。その結果、[[コピーガード|コピーコントロール]]や[[アクセス制御|アクセスコントロール]]を回避・解除して著作権を侵害した場合は、初犯でも懲役5年以下または50万ドル以下の罰金 (あるいはその両方)、再犯の場合は懲役10年以下または100万ドル (あるいはその両方) に処される<ref name=Justia-Criminal/>。

これらの懲役・罰金に加え、合衆国法典第18編 ([[刑法]]および[[刑事訴訟法]]) の[http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title18-section2323&num=0&edition=prelim 第2323条] で定められた方法に従って、没収・破棄・返還を行うことができる。また他者を欺く目的で偽りの著作権表示を行ったり、そのような[[詐欺罪#欺罔行為|欺罔]]的な表示の複製品を頒布・輸入したり、著作権表示自体を除去したり、偽りの著作権登録申請を行った場合は、それぞれ2500ドル以下の罰金に処せられる。

侵害が発生してから5年以内であれば検察による刑事訴訟の着手は可能で、その手続の詳細は合衆国法典第18編の[http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title18-section2319&num=0&edition=prelim 第2319条] (著作権侵害) に定められている。

なお、日本を含む[[環太平洋パートナーシップ協定]] (TPP11) 締結各国は<ref name=MOFA-TPP-InForce>{{Cite web |title=環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉 |url=https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/index.html |publisher=外務省 |date=2019-04-05 |accessdate=2019-04-11 |quote=''現在までに (2019年4月5日の意),メキシコ,日本,シンガポール,ニュージーランド,カナダ,オーストラリア,ベトナムの7か国が国内手続を完了した旨の通報を寄託国ニュージーランドに行っており,2018年12月30日に発効しました。''}}</ref>、2018年12月に発効した同協定に基づいて著作権侵害の「非親告罪化」のための国内法手続を進めている<ref name=Bunka-TPP-InForce>{{Cite web |title=環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号)及び環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第70号)について |url=http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_hokaisei/ |publisher=[[文化庁]] |accessdate=2019-04-11 |quote=''著作権等侵害罪の一部非親告罪化(第123条第2項及び第3項関係)''}}</ref>。[[親告罪]]とは、被害者本人あるいは法で定めた者 (法定代理人、親族など) からの[[告訴]]がない限り、刑事訴訟に至らない犯罪を指す。これを非親告罪化することはすなわち、著作権者以外の告訴によっても検察は刑事訴訟に踏み切れることになる。しかし米国はTPP交渉から途中離脱したため、非親告罪化を合衆国法典上で明文化する必要はなくなった。ただし合衆国法典では元々、著作権侵害罪が親告罪だとも明文化されていない。
{{Seealso|日本の著作権法における非親告罪化}}

=== 連邦著作権法と関連法の関係 ===
ここまでは連邦法としての著作権法を解説したが、ここからは密接に関係するその他の法律を取り上げ、その関係性について見ていく。

==== 州法との関係 ====
{{Seealso|アメリカ法#連邦法と州法の関係}}
[[#著作物の定義|上述のとおり]]、連邦法で守ることができる著作物には、何らかの媒体に固定されていること、また創作性が必要であることが合衆国憲法の著作権条項から解釈されている。しかし、合衆国憲法はあくまで連邦法であり、各州の州法とは別個に運用されている。そのため、連邦法で範疇外の対象であっても、州法の著作権法で権利保護を認めている州が一部ある。特に、未発表の著作物に対する複製権と頒布権の保護を「コモンロー・コピーライト (common law copyright)」と呼び、未発表の著作物が連邦法で十分カバーされていない場合でも、州法で保護されることがある{{Sfn|山本隆司|2008|pp=37&ndash;38}}。

たとえば[[カリフォルニア州]]の民法典では、その第980条で実演や演説などの未固定著作物も保護している。また同法典の第985条では、書簡その他の私信 (手紙) などは、その作成者の意に反して書簡の受領者が発表してはならないとされる。さらに、同法典の第982条によると、純粋美術の原作品を著作者が第三者に譲渡した場合であっても、譲渡契約書で特段の定めがない限りにおいて、著作者は複製権を持ち続ける。逆に芸術作品の著作権のみを譲渡した場合は、第988条の規定に則り、原則として著作者に作品の所有権は残る。加えて、その美術作品が販売された場合、かつ売り主がカリフォルニア州住民であるか、売買がカリフォルニア州で行われた場合は、その売買代金の5%相当を売り主から著作者に支払う義務が第986条で規定されている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=37&ndash;38}}。

==== 近接する各種連邦法との関係 ====
[[File:Copyright IdeaExpDivide Ja.png|米国のアイディア・表現二分論は横割りなのに対し、日本は実用的な産業財と文化的な芸術品で分ける縦割りの発想が強い。|thumb|400px]]
連邦法だけをとってみても、著作権とは[[知的財産権]]の一種であることから、著作権の姉妹にあたる法律が複数存在する。これら姉妹と著作権法は補完関係にあるわけだが、権利侵害が起こった時に具体的にどの法律が適用されるのかを切り分ける必要が出てくる。この問題は米国に限らず世界共通だが、米国では「[[アイディア・表現二分論]]」という階層的な横割りによって境界線を引いている。

これに対し、日本の著作権法は[[w:著作権法#第一節 通則|第2条]]において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されている。この定義には、経済産業省 (特許庁) 対 文部科学省 (文化庁著作権課) という行政組織の縦割りがあり、産業の技術は特許法で、文化的な芸術は著作権法でそれぞれ守る棲み分けがなされている背景があると指摘されている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=11&ndash;13}}。よって、横割りの米国と縦割りの日本では、著作権法の姉妹にあたる各種法律の関係性が異なってくる。

{{Tree list}}
* 日本における知的財産権の一般的な分類方法
** 著作権
*** 著作者本人の権利 (狭義の著作権)
**** 著作財産権 (最狭義の著作権。著作者の財布を守る権利)
**** 著作者人格権 (著作者の心を守る権利)
*** 著作隣接権
** [[産業財産権]]
*** [[特許権]]
*** [[商標権]]
*** [[意匠権]]
*** ...など
{{Tree list/end}}

米国著作権法では著作者人格権の保護対象が狭い、と他国から批判を受けている。しかしこれに対し米国は、著作者人格権のうち、ベルヌ条約が求めている同一性保持権 (著作者に無断で内容を改変されない権利) と氏名表示権 (著作物を発表する際に、実名・変名・無名など著作者名の表記を選択できる権利) の2点については<ref group="註">著作者人格権の一部である同一性保持権と氏名表示権については、ベルヌ条約発効時の原条約には含まれていなかったものの、1928年のローマ改正時に追加となっている。</ref>、米国内では著作権法ではなく、{{仮リンク|ランハム法|en|Lanham Act}}で保護されていると解されている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;19}}。ランハム法とは、日本の[[商標法]]に[[不正競争防止法]]の要素を足した法律であるが、純粋な産業財だけでなく、文化寄りの作品にも適用される。著作権法とランハム法の両方が問われた裁判として、[[ドワイト・D・アイゼンハワー|アイゼンハワー]]大統領による戦争回想録のテレビ番組を巡る「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ダスター対20世紀フォックス裁判|ダスター対20世紀フォックス裁判]]」も参照のこと。

==== 合衆国憲法との関係 ====
主に合衆国憲法と著作権法の関係が問われるのは、著作権条項 (合衆国憲法 第1条第8項第8条)、州際取引条項 (合衆国憲法 第1条第1項第3号)、表現の自由 ([[権利章典_(アメリカ)#修正第1条|憲法修正第1条]]) の3点である。

;: 州際取引条項
: TRIPS協定では、未固定の音楽実演の保護を第14条第1項で求めている。しかし先述の通り、著作権条項に基づき、米国著作権法では固定された著作物しか保護されないと解されている。そこで、合衆国憲法第1条第1項第3号の「州際取引条項」に基づいて、米国著作権法の[http://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid:USC-prelim-title17-section1101&num=0&edition=prelim 第1101条]で未固定の音楽実演の保護規定を追加し、TRIPS協定に対応している{{Sfn|山本隆司|2008|p=19}}。この規定に従うと、たとえば音楽バンドのライブ演奏会場で、観客が無断でビデオ撮影し、そのデジタルファイルをインターネット上にアップロードする行為は禁止される。ただし、州際取引条項は米国内の州をまたぐ (または国をまたぐ) 行為にのみ適用されるため{{Sfn|山本隆司|2008|p=32}}、仮に無断撮影したライブ音楽をCD-ROMに焼いて、どこかの州内に限って配ったり販売した場合には違法とはならない。

;: 表現の自由
: 憲法修正第1条は、メディアであれ個人であれ表現の自由を保障し、この自由を制限するような法律を連邦議会が制定してはならないと規定している<ref name=Cornell-1stAmend>{{Cite web |url=https://www.law.cornell.edu/constitution/first_amendment |title=First Amendment |publisher=[[コーネル大学]]ロースクール |accessdate=2019-06-23}}</ref>。著作権は著作物という表現を著作者が独占できる権利であり、無断で第三者が利用できなくなるため、結果的に著作者以外の人々の表現の自由を抑制しうるため、行き過ぎた著作権保護は違憲だとの主張がなされることがある。たとえば、通称「ミッキーマウス訴訟」とも呼ばれた「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#エルドレッド対アシュクロフト司法長官裁判|エルドレッド対アシュクロフト司法長官裁判]]」は、著作権の保護期間を延長する改正立法によって、表現の自由に抵触するとの訴えである<ref name=Justia-Eldred>{{Cite web |url=https://supreme.justia.com/cases/federal/us/537/186/ |title=Eldred v. Ashcroft, 537 U.S. 186 (2003) |publisher=Justia |accessdate=2019-07-01}}</ref>。また、「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ゴラン対ホルダー司法長官裁判|ゴラン対ホルダー司法長官裁判]]」では、パブリック・ドメインに帰していた外国著作物の権利を復活させた1994年の改正法により、著作物の自由な利用が妨げられるとして、憲法修正第1条の違憲性が問われた<ref name=Justia-Golan>{{Cite web |url=https://supreme.justia.com/cases/federal/us/565/302/ |title=Golan v. Holder, 565 U.S. 302 (2012) |publisher=Justia |accessdate=2019-07-01}}</ref>。「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#電子フロンティア財団対米国政府裁判|電子フロンティア財団対米国政府裁判]]」では、[[デジタルミレニアム著作権法]]によって[[リバースエンジニアリング]]が禁止され、他者のアイディアから学んで表現する自由が奪われたと主張されている<ref name=CL-EFF>{{Cite web |url=https://www.courtlistener.com/docket/4214943/green-v-us-department-of-justice/ |title=GREEN v. U.S. DEPARTMENT OF JUSTICE (1:16-cv-01492) |publisher=Court Listener |accessdate=2019-07-01}}</ref><ref name=EFF-Press2016>{{Cite web |url=https://www.eff.org/press/releases/eff-lawsuit-takes-dmca-section-1201-research-and-technology-restrictions-violate |title=EFF Lawsuit Takes on DMCA Section 1201: Research and Technology Restrictions Violate the First Amendment {{!}} Future of Technology and How It's Used Is At Stake |date=2016-07-21 |trans-title=デジタルミレニアム著作権法 第1201条は研究や技術発展を阻害し、憲法修正第1条違反として、電子フロンティア財団が提訴 {{!}} 技術革新や技術利用が危機に瀕する事態に |publisher=電子フロンティア財団 |accessdate=2019-07-01 |language=en}}</ref>。

: これらの主張の背景には、米国が著作権保護にあたって「産業政策理論」を採っていることが挙げられる。産業政策理論とは、著作権によって一定期間に限って著作者や発明者を動機づけし、保護期間終了後は、その成果物を公衆が利用することで、公共の利益を達成しようとする考え方である。つまり、連邦議会が著作権者に与える独占的権利は、無制限でもなければ私的恩恵を与える目的でもない。競争の自由を阻害する市場独占権は悪であり、これに対する強い警戒心が米国の根底に流れていると指摘されている{{Sfn|山本隆司|2008|pp=9&ndash;11}}。

== 法改正の歴史 ==
{{Main|著作権法の歴史 (アメリカ合衆国)}}
=== 米国内法の主な改正点 ===
米国の著作権法は、世界初の本格的な著作権の制定法とも言われる英国の[[アン法]]の流れを汲み<ref name="Yu143">{{Cite book| last = Peter K| first = Yu| title = Intellectual Property and Information Wealth: Copyright and related rights| publisher = Greenwood Publishing Group| year = 2007| page = 143| url = https://books.google.com/books?id=bnW8ypT9_pIC&pg=PA143&lpg=PA143| isbn = 978-0-275-98883-8}}</ref>、独自の米国連邦法としては初めて1790年に著作権法 (Copyright Act of 1790) が制定された{{Refnest|group="註"|1790年以前も[[マサチューセッツ州]]、[[ペンシルベニア州]]、[[ニューハンプシャー州]]、[[コネチカット州]]、[[メリーランド州]]といった一部の州では[[アメリカ法#連邦法と州法の関係|州法]]レベルで著作権を成文化していた{{Sfn|松川実|2014|pp=7&ndash;12}}。}}。その後、時代の変遷に合わせて多くの改正が重ねられているが、主な改正点は以下の通りである<ref group="註">"Act of 西暦年"となっているがこれらは法律の制定年であり、施行年ではない。例えばCopyright Act of 1976は1976年に連邦議会で可決されて制定されたものの、施行は1978年1月1日である。</ref><ref group="註">「1976年制定の著作権法 (Copyright Act of 1976) が現行法である」との記述が一部見受けられるが、これは誤りである。1790年の初回立法以外はほぼ部分修正・加筆の改訂法であり、1976年制定の改正法もその後一部が上書きされている。米国連邦法は、まず連邦議会に法案 (Bill) が提出され、可決・承認されると制定法 (Act) になり、現行法に修正・加筆がなされて更新されるプロセスを経る。したがって、著作権法の現行法全量は主に合衆国法典第17編のことを指し、Copyright Act of 1976など初回立法以外のActには改正の差分しか含まれていない。</ref>。
* {{仮リンク|1790年の著作権制定法|en|Copyright Act of 1790}} (Copyright Act of 1790) - 初の米国連邦法。著作権保護期間を14年 + 更新延長14年に設定
* {{仮リンク|1891年の国際著作権改正法|en|International Copyright Act of 1891}} (International Copyright Act of 1891) - 米国外の著作物を対象とした米国内での権利保護規定
* {{仮リンク|1909年の著作権改正法|en|Copyright Act of 1909}} (Copyright Act of 1909) - 著作権保護期間を28年 + 更新延長28年に改正
* {{仮リンク|1976年の著作権改正法|en|Copyright Act of 1976}} (Copyright Act of 1976) - 20世紀最大の改正。著作権保護期間を75年または著作者の死後から50年に改正。未発表の著作も保護対象化
* {{仮リンク|1988年のベルヌ条約履行法|en|Berne Convention Implementation Act of 1988}} (Berne Convention Implementation Act of 1988) - 国際条約に合わせた米国内の著作権法改正 (無方式主義の採用など)
* [[著作権延長法|ソニー・ボノ著作権延長法]] (Copyright Term Extension ActまたはSonny Bono Act) - 1998年制定。著作権保護期間を出版から95年または創作から120年、または著作者の没後70年に改正
* [[デジタルミレニアム著作権法]] (Digital Millennium Copyright ActまたはDMCA) - 1998年制定。[[WIPO著作権条約]]に則して、デジタル著作物に関する著作権侵害の罰則と免責を明確化

=== 国際化とデジタル化への対応 ===
[[File:Joseph_Ferdinand_Keppler_-_The_Pirate_Publisher_-_Puck_Magazine_-_Restoration_by_Adam_Cuerden.jpg|他国の著作物を著者に無断・無償で自国で出版する''海賊出版社''の挿絵。1886年に風刺漫画雑誌{{仮リンク|Puck (雑誌)|label=''Puck''|en|Puck (magazine)}}に掲載。|thumb|300px]]
1790年の米国著作権法では、その権利保護の対象は米国籍の著作者であり、米国内に流通する著作物に限定されていた<ref name=Hoern-Act1790>{{Cite journal |last1=Hoern |first1=Thomas |title=Charles Dickens and the international copyright law |journal=Journal of the Copyright Society of the U.S.A |date=2016-01 |volume=63 |issue=2 |pages=341–352}}</ref>。米国内では米国外の著作物が盛んに無断で複製され、その著作者に印税やライセンス料が入らない事態が発生していたことから、1800年から1860年代までは海賊版出版時代 (The Great Age of Piracy) と呼ばれていた。1870年代後半から大手出版社らが国際著作権保護支持に転じ、1891年に国際著作権改正法が成立した<ref name=IIP-Sonoda-P3>{{Cite web |url=https://www.iip.or.jp/summary/pdf/detail06j/18_22.pdf |title=1830年代から1960年代にかけての国際著作権法整備の過程における著作権保護に関する国際的合意の形成とその変遷 |author=園田暁子 |publisher=一般財団法人[[知的財産研究教育財団]] 知的財産研究所 |p=3 |work=知財研紀要 |format=PDF |date=2007 |accessdate=2019-04-18}}</ref>。なお、同時期の1887年にはベルヌ条約が発効している。

20世紀最大の改正と言われるのが、1976年制定・1978年施行の改正法である。これにより国際水準からの遅れを取り戻し、1988年にベルヌ条約批准に至っている。

インターネットの普及に呼応する形で、国際社会がデジタル著作物の法的保護に取り組み始めたが、米国ではいち早く1998年にデジタルミレニアム著作権法 (DMCA) を成立させ、デジタル著作物に関する罰則と免責条件が明文化している。しかし著作権侵害が不明瞭でも「とりあえず削除」のインセンティブをインターネット事業者に与えうるとして批判は根強い。DMCA成立以降もデジタル著作物に関連する法案は連邦議会に多数提出されているが、大幅な改正法案は全て廃案となっている<ref name=BunkaRep2016>{{Cite web |title=海外における著作権制度及び関連政策動向等に関する調査研究報告書 |url=http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/chosakuken/pdf/h28_kaigai_hokokusho.pdf |author=シティユーワ法律事務所 |work=平成 27 年度文化庁調査研究事業 |publisher=文化庁 |format=PDF |date=2016-03 |accessdate=2019-02-02}}</ref>。
{{Clear}}

== 司法判断 ==
{{Main|著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)}}

米国著作権法には多くの判例が存在するが、その一部を紹介する。

法的に保護される著作物の範囲を巡って争われたのが、1990年最高裁判決の「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#ファイスト出版対ルーラル電話サービス裁判|ファイスト出版対ルーラル電話サービス裁判]]」である。これは電話帳に掲載された番号を無断で転載した事件であるが、単なるデータの配列だけの電話帳が、そもそも著作物と言えるのかが問われた。この判決により、[[アイディア・表現二分論]] (著作者の創作性・オリジナリティに基づく表現を保護するのが著作権だとする考え方) が明示され、{{仮リンク|額の汗の法理|en|Sweat of the brow}} (著作物の内容や特性の如何に関わらず、著作者の労力の賜物である著作物を保護しようとする考え方) は否定されることとなった<ref name=SfB-Ito>{{Cite web |url=http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8745244 |title=Feist出版社対Rural電話サービス会社 |author=伊藤博文 |work=[[豊橋創造大学]]短期大学部研究紀要. (17) |publisher=[[国立国会図書館]]デジタルコレクション |date=2000 |accessdate=2019-04-23}}</ref>。

フェアユース関連で注目された大規模裁判が、「[[全米作家協会他対Google裁判]]」である。[[Googleブックス]]が著作者に無断・無償で書籍をデジタルスキャンして、インターネット上に公開する行為が著作権侵害かが問われた。当初は当事者間で和解交渉が進められていたが、和解によって逆にGoogleの電子書籍市場における独占が強まる恐れがあり、[[反トラスト法]] (独占禁止法) への抵触が指摘された。さらにGoogleブックスのスキャンした書籍が世界各地におよんでいたことから、諸外国の政府からも批判を受け、一時は外交・国際司法の問題も孕んでいた。裁判所も当初は著作権侵害を認めていたが一転し、最終的にGoogleのフェアユースを認める判決で11年後の2016年に終結した<ref name=AG-vGoogle01>{{Cite web |url=https://www.authorsguild.org/where-we-stand/authors-guild-v-google/ |title=Authors Guild v. Google |trans-title=全米作家協会対Google |publisher=The Authors Guild |accessdate=2019-02-05 |language=en}}</ref>。

また、「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#Oracle対Google裁判|Oracle対Google裁判]]」もフェアユースの動向を探るうえで注目されている。企業買収により、Oracleが[[Java]] [[アプリケーションプログラミングインタフェース|API]]の権利を獲得したが、Java APIがGoogle製のモバイル用OSである[[Android]]に利用されており、OracleがGoogleを提訴している<ref name=OracleGoogle-Patest/><ref name=OracleGoogle-Diamond>{{Cite web |url=https://diamond.jp/articles/-/167921 |title=Google-Oracle訴訟はOracleに有利な判断 判決からAndroid登場時の裏が見えてくる |author=末岡洋子 (ASCII編集部) |publisher=[[ダイヤモンド社]] |date=2018-04-18 |accessdate=2019-04-23}}</ref>。Oracleは特許権と著作権侵害あわせて88億米ドル (約1兆円) の損害賠償を求めている。二審では原告Oracle有利の判示が出ているが<ref name=OracleGoogle-Patest>{{Cite web |url=https://www.patest.co.jp/cafc/2018/cafc20180401.html |title=ORACLE AMERICA, INC. 対 GOOGLE LLC 事件 {{!}} 米国連邦控訴裁判所 (CAFC) 判決 2018年 |publisher=大塚国際特許事務所 |accessdate=2019-04-23}}</ref><ref name=OracleGoogle-Diamond/>、Googleは2019年1月、二度目の最高裁への上告受理申立て (certiorari) を行っている<ref name=OracleGoogle-Harvard2019>{{Cite web |url=https://jolt.law.harvard.edu/digest/google-v-oracle-silicon-valley-braces-for-lawsuit-of-the-decade-as-google-petitions-for-cert-to-decide-api-copyrightability |title=Google v. Oracle: Silicon Valley Braces for "Lawsuit of the Decade" as Google Petitions for Cert to decide API Copyrightability |trans-title=Google対Oracle: シリコンバレーは過去10年の一大訴訟へ - APIの著作権巡りGoogleが上告受理申立てへ |last=Ward |first=Aaron |publisher=[[ハーバード大学]]ロースクール |date=2019-03-13 |accessdate=2019-04-23 |language=en}}</ref>。

国際著作物の管轄と準拠法に関する判例としては、一連の「[[チャイヨー・プロダクション#ウルトラマン訴訟|ウルトラマン裁判]]」がある。特撮作品の『[[ウルトラシリーズ]]』の原作者・[[円谷英二]]が設立した[[円谷プロダクション]]が、同作品の独占的利用権を1976年に[[タイ王国|タイ]]企業の[[チャイヨー・プロダクション]]に譲渡していたかが問われた{{Sfn|小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘|2019|pp=212&ndash;213|ps=--河野俊行による解説執筆}}。譲渡書は日本国外すべての地域を対象としていることから、[[著作権の準拠法]]における不法行為地の観点から、訴訟が世界各国で展開された。日本の最高裁は2004年、譲渡書の筆跡鑑定などを行わないまま、原告の円谷プロダクション敗訴を下している。中国においても、円谷の敗訴。しかしタイ最高裁は2008年、譲渡書のサインが異なることから偽物だと判定し、円谷の勝訴となっていた。2018年、米国カリフォルニア州中央区地方裁は譲渡書が偽物だとして、円谷の勝訴となっている<ref name=ToyoKeizai-Ultraman/><ref name=HuffPo-Ultraman/><ref name=CL-Ultraman>{{Cite web |url=https://www.courtlistener.com/docket/5919144/um-corporation-v-tsuburaya-productions-co-ltd/?page=3 |title=UM Corporation v. Tsuburaya Productions Co. Ltd. (2:15-cv-03764) |publisher=Court Listener |date=2019-01-21 |accessdate=2019-06-14}}</ref>。

[[#消尽論|消尽論]]関連では、2013年最高裁判決の「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#カートサン対ワイリー裁判|カートサン対ワイリー裁判]]」が知られている。[[タイ王国|タイ]]人留学生が、米国とタイで販売される同一の教科書の価格差に着目し、タイから逆輸入してオークションサイトの[[eBay]]で転売した事件である<ref name=Wiley-CNN>{{Cite web |url=https://edition.cnn.com/2012/10/26/justice/court-student-copyright/index.html |title=Supreme Court to hear arguments in case of student who resold books |trans-title=学生が中古販売した書籍を巡って最高裁が聴聞 |first=Bill |last=Mears |publisher=[[CNN]] |date=2012-10-27 |accessdate=2019-04-23 |language=en}}</ref>。2013年、二審の判決を覆す形で、最高裁はカートサン無罪の判決を下した。この判決により、米国の著作物が米国外で複製印刷・販売され、再び米国内に逆輸入した際にも、米国著作権法 第109条が定める消尽論が適用されることが判示された<ref name=BunkaRep2016/>。

米国内での保護水準が低いとされる著作者人格権に関しては、勝訴のレアケースとして「[[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)#モンティ・パイソン対ABC裁判|モンティ・パイソン対ABC裁判]]」が挙げられる<ref name=MoralRights-NEA>{{Cite web |url=http://www.law.harvard.edu/faculty/martin/art_law/esworthy.htm |title=A Guide to the Visual Artists Rights Act |trans-title=視覚芸術家権利法の基礎 |author=Esworthy, Cynthia ({{仮リンク|全米芸術基金|en|National Endowment for the Arts}}所属 |publisher=[[ハーバード大学]]ロースクール |accessdate=2019-04-23 |language=en}})</ref>。イギリスを代表するコメディ・グループによるテレビ番組『[[空飛ぶモンティ・パイソン]]』(英国[[BBC]]にて放送) が、米国[[アメリカン・ブロードキャスティング・カンパニー|ABC]]でも放送された際に一部内容が改変されたことから、原著作物の同一性保持権侵害が問われた裁判である。二審は1976年、編集カットによって[[モンティ・パイソン]]のブランドが毀損するとして原告勝訴の判決を下した<ref name=Justia-Pythons>{{Cite web |title=Terry Gilliam et al., Plaintiffs-appellants-appellees, v. American Broadcasting Companies, Inc., Defendant-appellee-appellant, 538 F.2d 14 (2d Cir. 1976) |url=https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/F2/538/14/93445/ |publisher=Justia |accessdate=2019-04-23}}</ref><ref name=JetLaw-Pythons>{{Cite web |title=Moral Rights in the US: Why Monty Python Would Say "Ni!" |url=http://www.jetlaw.org/2017/09/15/moral-rights-in-the-us-why-monty-python-would-say-%E2%80%9Cni%E2%80%9D/ |publisher=JETLaw |date=2017-10-04 |accessdate=2019-04-23}}</ref>。なお、著作者人格権は狭義の[[#視覚芸術著作物|視覚芸術著作物]]に限定する形で、1989年に米国著作権法上で明文化されている。仮にこの改正以降に提訴していた場合、著作者人格権はテレビ番組には適用不可と判断され、敗訴していた可能性も指摘されている<ref name=JetLaw-Pythons/>。

== 著作権管理サービス ==
著作権者 (創作者) が排他的な権利を有したままでは著作物の社会利用の妨げになることから、著作権者と利用者を仲介する機能が求められる。この仲介を公的に果たしているのが{{仮リンク|アメリカ合衆国著作権局|en|United States Copyright Office}} (略称: USCO) であり、米国著作権法によってその役割が規定されている。主な業務は著作物の収集と登録、権利移転 (名義書き換え) である。これにより、誰がどの著作物の権利を有しているのかが可視化できる。著作権は財産の一部であることから、土地・建物のように自由に著作権を相続・売却・貸与できるため、移転の処理件数は多く発生している。

また、民間の仲介機能としては[[著作権管理団体]]の存在が大きい。

=== 合衆国著作権局 ===
USCOは[[アメリカ議会図書館]]の一部局であり、議会図書館は連邦議会 (つまり立法府) の一組織である<ref group="註">日本の類似機能としては、[[文化庁]]著作権課 (前身は文部省文化局) がこれに該当するが、文化庁著作権課が行政府の一機能であるのに対し、USCOは組織定義上は立法府の一機関という差異がある。</ref>。これは元々、議会図書館が世の中の著作物を広く収集し、新たな法律の作成・改正の際の調査分析に役立てるために存在しているからである<ref name=USCO-About>{{Cite web |title=Overview of the Copyright Office |trans-title=アメリカ合衆国著作権局の概要 |url=https://www.copyright.gov/about/ |publisher=[[アメリカ合衆国著作権局]] |accessdate=2019-02-17 |language=en}}</ref>。著作権者の名義登録が不要になった現在でも、著作物の納付が義務付けられているのはこのためである。2018年度の実績報告によると<ref group="註">米国政府のfiscal yearは暦年とは一致しておらず、2018年度とは2017年10月~2018年9月を指す。</ref>、議会や行政機関および一般からの議会図書館に対する問い合わせ件数は100万件を超える。また同年度のUSCOによる著作物の登録処理件数は56万件超、著作権者の移転処理件数は2万件超、著作物の登録申請のうち、96%は電子申請システム経由で提出されている。登録料収入は年3800万ドルに達している<ref name=LOC-FY2018>{{Cite web |title=Year 2018 at a Glance {{!}} General Information |trans-title=2018年度概況 {{!}} 一般情報 |url=https://www.loc.gov/about/general-information/#year-at-a-glance |publisher=[[アメリカ議会図書館]] |accessdate=2019-05-25 |language=en}}</ref><ref name=USCO-About/>。

ベルヌ条約の批准に伴い、無方式主義を米国も採用するようになったことから<ref name=Rep-Berne-Kobayashi>{{Cite web |title=アメリカのベルヌ条約加入と著作権法 |url=http://current.ndl.go.jp/ca642 |author=小林正 |work=カレントアウェアネス No.125 |publisher=国立国会図書館 |date=1990-01-20 |accessdate=2019-02-17}}</ref>、著作権保護の観点ではUSCOへの著作物の登録は必須ではなくなった{{Refnest|group="註"|ただし著作権侵害などで訴訟を起こす際には、米国籍の著作者あるいは米国で発表された著作物に限り、USCOへの著作物の事前登録が必要となる<ref name=Rep-Berne-Kobayashi/>。}}。その反動で、著作物を利用したくとも許諾を求める相手が不明な著作物 (orphan works、直訳は[[権利の所在が不明な著作物|孤児著作物]]) が増加し、著作物の社会利用が妨げられるジレンマを抱えるようになった<ref name=USCO-DigitalOrphanRep2015>{{Cite web |url=https://www.copyright.gov/orphan/reports/orphan-works2015.pdf |title=Orphan Works and Mass Digitization - A Report of the Register of Copyrights |trans-title=著作権者不明の著作物と大衆デジタル化 - 著作権登録に関する調査レポート |publisher=[[アメリカ合衆国著作権局]] |format=PDF |date=2015-06 |accessdate=2019-02-22 |language=en}}</ref>。

さらにUSCOの責務は単なる管理業務に留まらず、著作権法のあり方に関して連邦議会に提言する立場にある<ref name=LOC-FY2018/>。特に20世紀最大と言われる1978年の改正法は、USCO局長だった{{仮リンク|バーバラ・リンガー|en|Barbara Ringer}}が立役者と言われ、草案作成から議会へのロビイング、そして可決まで21年を費やしたとされる<ref name=Atlantic-Ringer>{{Cite web |url=https://www.theatlantic.com/technology/archive/2014/07/the-lost-and-found-legacy-of-a-copyright-hero/373948/ |title=The Lost and Found Legacy of Barbara Ringer |trans-title=バーバラ・リンガーの偉業再考 |last=Levendowski |first=Amanda |publisher=The Atlantic |date=2014-07-11 |accessdate=2019-05-25 |language=en}}</ref><ref name=ChicagoTrib-Ringer>{{Cite web |url=https://www.chicagotribune.com/news/ct-xpm-2009-04-27-0904260230-story.html |title=Barbara A. Ringer: 1925-2009 |trans-title=バーバラ・A・リンガーの生涯: 1925-2009年 |last=Schudel |first=Matt ([[ワシントン・ポスト]]所属) |publisher=Chicago Tribune |date=2009-04-27 |accessdate=2019-05-25 |language=en}}</ref>。

またデジタルミレニアム著作権法 (DMCA) に基づき、ノーティス・アンド・テイクダウン手続がインターネット事業者の免責として定められているが、その通報先と通報窓口担当者をUSCOのデータベースに電子登録する仕組みを2016年12月より導入した<ref name=USCO-DCMADirectory>{{Cite web |url=https://www.copyright.gov/dmca-directory/ |title=DMCA Designated Agent Directory |trans-title=デジタルミレニアム著作権法が定める通報先担当者検索・登録ディレクトリー |[[アメリカ合衆国著作権局]] |accessdate=2019-05-25 |language=en}}</ref>。このようにUSCOは著作権者と利用者の利害調整として広範な役割を果たしている。

=== 著作権管理団体 ===
{{Main2|著作権管理団体の総論|著作権管理団体|世界各国の著作権管理団体の一覧|:en: List of copyright collection societies}}

著作権管理団体は著作権者に代わって著作物の利用ライセンスを販売したり、ライセンス料を徴収・分配する集中管理・決済機能を果たしており、音楽や映画、出版など業界別に複数の団体が米国に存在する<ref name=BunkaRep2016/>。単にUSCOに登録しただけでは、著作権者と利用者はN対Nの関係のままであり、利用許諾や利用料の徴収業務が多数発生して煩雑化してしまう。そこで、著作権管理団体が著作権者および著作隣接権者の窓口を担うことで、これが1対Nの関係となり、効率性が増す{{Sfn|岡本薫|2003|pp=188&ndash;191}}<ref name=WIPO-CMO>{{Cite web |url=https://www.wipo.int/copyright/en/management/ |title=Collective Management of Copyright and Related Rights |trans-title=著作権および著作隣接権に関する集中管理 |publisher=[[WIPO]] |accessdate=2019-05-25 |language=en}}</ref>。ただし、著作権管理団体は巨額のライセンス権を取り扱うことから、[[アメリカ合衆国司法省|司法省]]の監督の元で[[反トラスト法]] (米国の独占禁止法) の規制が一部掛かっている<ref name=BunkaRep2016/>。

インターネットの普及に伴い、この構図が1対Nから1対1の関係にシフトする傾向が生まれた。つまり、権利者側の窓口が著作権管理団体なのに対し、利用者側の窓口をインターネットサービス事業者や携帯電話などの通信事業者が務める構図である{{Sfn|岡本薫|2003|pp=188&ndash;191}}。音楽業界を例にとると、[[Amazon Music]]や[[Spotify]]などが著作権利用料込みで一般ユーザに課金し、それを一括して著作権管理団体に支払うマネーフローである。これらインターネットサービス事業者の市場における存在感が増すにつれ、著作権者や著作権管理団体との利害衝突も発生している。これに関しては米国よりも欧州連合 (EU) が先行しており、2019年4月可決・同年6月施行の「[[デジタル単一市場における著作権に関する指令]]」に基づき、EU加盟国は国内法を整備する義務を負い、権利者サイドとインターネットサービス事業者サイドの利害調整と単一化を目指している<ref name=CMO-Reg-EU>{{Cite journal |url=https://www.jipitec.eu/issues/jipitec-7-3-2016/4507/hviid_schroff_street_regulating_collective_management_organisations_by_competition_jiptec_7_3_2016_256.pdf |title=Regulating Collective Management Organisations by Competition |trans-title=著作権管理団体に対する不正競争防止の観点からの規制 |last=Hviid |first=Morten |last2=Schroff |first2=Simone |last3=Street |first3=John |work=Journal of Intellectual Property, Information Technology and Electronic Commerce Law (JIPITEC) |publisher=DGRI |format=PDF |year=2016 |accessdate=2019-05-25 |language=en}}</ref>。
{{See also|著作権法 (欧州連合)}}

== 関連項目 ==
* [[著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)]]
* [[著作権]] - 世界各国共通の法的概念を解説
* [[著作権法]] - 日本の著作権法に特化した詳細解説
* [[著作権法 (欧州連合)]] - すべてのEU加盟国に義務付けられている著作権法改正の[[EU指令]]概説

== 註釈 ==
{{Reflist|group="註"}}

== 出典 ==
{{Reflist|30em}}
{{Reflist|30em}}


=== 引用文献 ===
{{デフォルトソート:あめりかのちよさくけんほう}}
; 主要文献
[[Category:各国の著作権法]]
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法の基礎知識 |edition=第2版 |author=山本隆司 |publisher=太田出版 |year=2008 |isbn=978-4-7783-1112-4 |ref=harv}} - 米国と日本の知的財産法に通じた弁護士の著作で、米国著作権法の逐条解説や判例の日米比較など広範にカバー<!-- 中級~上級者向けだが読みやすい。産業政策論、哲学者ジョン・ロックに基づく労働理論など、思想にも一部言及 -->
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法 |last=Leaffer |first=Marshall A. |translator=牧野和夫 |series=LexisNexis アメリカ法概説 (5) |publisher=レクシスネクシス・ジャパン |origyear=2005 |year=2008 |isbn=978-4-8419-0509-0 |ref=harv}} - "''Understanding Copyright Law, 4th edition''" の日本語訳。著作権侵害の判定基準や法理、実際の判例などが充実した、ロースクールの教科書的解説<!-- かなり読みづらい。訳者の問題ではなく筆者の文体が元々クネクネしている -->
* {{Cite book |和書 |author=岡本薫 |title=著作権の考え方 |publisher=岩波書店 |series=岩波新書 (新赤版) 869 |year=2003 |isbn=4-00-430869-0 |ref=harv}} - 著作権の基本的な考え方を紹介するとともに、日本の文化庁国際著作権課長などの職務経験から、米国著作権法も主に批判的見地で解説<!-- 初心者向け。アンチ米国のトーンがやや強いので中立性の観点に注意 -->
* {{Cite book|和書|title=アメリカ著作権法の形成 |author=松川実 |series=青山学院大学法学叢書 第2巻 |publisher=日本評論社 |year=2014 |isbn=978-4-535-52052-3 |ref=harv}} - 米国のイギリス植民地時代から1790年の連邦初の米国著作権法成立までの歴史と思想を解説
; 補完的文献
* {{Cite book |和書 |title=著作権法概説 |author=田村善之 |year=1998 |publisher=[[有斐閣]] |isbn=4-641-04473-2 |ref=harv}} - 日本の著作権法および国際条約のみ解説<!-- 日本の著作権法の有名学者で教科書的な網羅性だが、他国は詳しくない -->
* {{Cite book |和書 |title=著作権法入門 2007 |author=文化庁 |publisher=社団法人 [[著作権情報センター]] (CRIC) |year=2007 |isbn=978-4-88526-057-5 |ref=harv}} - 日本の著作権法および国際条約のみ解説<!-- 日本の著作権法中心だが、田村氏より図解が多くて読みやすい -->
* {{Cite journal |和書 |title=知的財産に関する新たな国際的枠組の発足 |author=玉井克哉 |journal=ジュリスト |publisher=[[有斐閣]] |issue=1071 |year=1995 |month=07 |url=http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/detail/014674 |ref=harv}}<!-- 田村氏の書籍から孫引き -->
* {{Cite journal |和書 |title=著作権判例百選 |url=http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641115422 |journal=別冊ジュリスト |author=小泉直樹・田村善之・駒田泰土・上野達弘 |publisher=[[有斐閣]] |series=第6版 |year=2019 |isbn=978-4-641-11542-2 |ref=harv}} - 日本の判例のみ収録。著作権の準拠法の観点で一部引用

== 外部リンク ==
* [https://www.copyright.gov/fair-use/fair-index.html フェアユース関連判例検索データベース] (英語) - USCO公式運営で、著作物のジャンル別に判例の検索が可能
* [https://cocatalog.loc.gov/cgi-bin/Pwebrecon.cgi?DB=local&PAGE=First 著作物検索データベース] (英語) - USCO登録済著作物のオンライン検索
* [https://www.copyright.gov/circs/ 米国著作権法の詳細手引書『Circulars』] (英語) - USCO発行
* [https://www.copyright.gov/help/faq-definitions.html 米国著作権法の用語定義] (英語) - USCO発行のよくある質問 (FAQ)

{{著作権 (法学)}}
{{世界の著作権法}}

{{デフォルトソート:ちよさくけんほう あめりかかつしゆうこく}}
[[Category:各国の著作権法|あめりかかつしゆうこく]]
[[Category:アメリカ合衆国の著作権法]]
[[Category:アメリカ合衆国の著作権法]]
[[Category:アメリカ合衆国の連邦法律|ちよさくけんほう]]

2019年7月20日 (土) 14:35時点における版

アメリカ合衆国の著作権法 (アメリカがっしゅうこくのちょさくけんほう、英語: Copyright law of the United States、以下「米国著作権法」) は、文芸・映像・音楽・美術・ソフトウェアなどの著作物と、その著作者などの権利を保護するアメリカ合衆国(以下、米国)の法律である。米国民の創作した著作物だけでなく、米国内に流通する外国著作物や、世界のインターネット上に広く流通するデジタル著作物にも米国著作権法は適用されうる。

1970年代以降、著作物の中でも特にメディア・エンターテイメントやITといった米国の主力産業が世界的に興隆しており、2017年時点での狭義の米国著作権市場[註 1]は1兆3000億米ドルに達し、米国GDP全体の6.85%を占める巨大産業を形成している[註 2]。このような社会的・技術的な変化を受け、米国著作権法は頻繁に改正されているものの、十分に追いついていない。また世界的に見ても、米国著作権法は主流から外れ、他の先進国よりも著作権保護の水準が低い状況が長らく続いており、国内外から批判の声が上がっている[2][3][4][5][註 3]

さらに、米国内では著作権侵害を巡る訴訟も多く発生していて、2008年からの10年間に毎年3000件前後が新たに提訴されている[6][7][註 4]。これら訴訟の原告側には米国外の企業や個人も含まれていることから、国際政治上の問題としても注視され[註 5]、著作権に関する国際条約を通じて、米国と他国の著作権法の足並みを揃える動きも長年の課題となっている。

このような文脈も踏まえながら、合衆国法典第17編 (17 U.S.C.) に1947年から収録[11]されている連邦法としての著作権法を中心に、本項では解説する。著作権法改正の歴史や、著作権に関連する個別の訴訟についても概観するが、詳細については「米国著作権法の歴史」と「米国著作権法の判例一覧」にそれぞれ解説を譲る。

米国著作権法の国際比較

米国著作権法が国際的な主流と異なる理由は、そのルーツにある。1887年発効のベルヌ条約が、今なお基本条約として世界的に機能しているが、条約の原加盟国であるフランスやドイツなどの各国は「大陸法」を採用していることから、ベルヌ条約の内容も大陸法をベースにしている。一方の米国は「英米法」であり、根本的な発想が異なる[註 6]。一般的に大陸法は、法律の条文 (立法府による成文法) を明文化して法を守る運用なのに対し、英米法で法律の解釈 (司法府による判例法)に重きを置いている。そのため条文だけを見ると、後述のとおり、米国著作権法の権利保護は不十分であり、ベルヌ条約の方針に完全には適合していない。

他国との相違点

日本を含む他の先進国との相違点は、以下の通りである。

広義の著作権の内訳 大陸法の国 米国
他の先進国との権利保護範囲の違い
著作者本人の権利 (狭義の著作権)
000著作財産権
000(著作者の財布を守る権利)
Yes Yes
000著作者人格権
000(著作者の心を守る権利)
Yes 限定的
著作隣接者の権利 Yes No
  1. 著作権の保護対象が狭い[註 7]
    • 著作隣接権 (著作物の流通に寄与する実演家などの権利) が、著作権法上で明確に定められていない[註 8]
    • 著作者人格権が認められている範囲が、視覚芸術作品の一部に限定されている (1989年以前は全く認められていなかった)[16]
    • 「既発表」(published) の著作物しか保護されなかった (1978年以降は未発表の著作物も保護されるようになった)[17]
    • 著作物を登録し、著作権マーク「©」を表示しないと保護されなかった (1989年以降不要となった)[18]
    • 記録媒体に「固定」(fixed) されていない著作物は保護されない (詳細は#著作物の定義で後述)
  2. 国際条約を通じた国際社会との連帯が不十分
    • 著作権の基本条約であるベルヌ条約 (世界187か国加盟) に米国が加盟したのは、条約発効から1世紀以上経ってから[19][註 9]
    • 著作隣接権を定めたローマ条約 (1964年発効、世界93か国加盟) に米国は加盟していない[21]
    • 「ベルヌ・プラス方式」とも呼ばれるTRIPS協定 (1995年発効) に米国は原加盟しているが、米国への訴訟リスクを回避するためTRIPS協定から著作者人格権の規定が除外された[22]
    • さらにTRIPS協定では、米国の産業構造に合わせて著作隣接権も一部業界にだけ手厚く、その他業界は認めないねじれ構造[22]
  3. 立法府の権限が複雑
  4. 著作物の利用に関する例外規定が充実している
    • 著作権侵害に当たらないフェアユース (公正利用) の基準が著作権法上で定められ、司法判断で広く活用されている
    • 他国と比較し、フェアユース以外の個別例外が詳細に規定されている[26][註 13]
    • 賛否あるものの、著作権侵害におけるインターネット関連事業者への免責 (通称: ノーティス・アンド・テイクダウン手続、DMCA通告) など、デジタル化対応が世界でもいち早く明文化されている[27]
  5. 権利侵害の判断は司法に大きく委ねられている
    • フェアユースの抽象的な法的基準を、裁判所がケースバイケースで考慮し、著作権侵害の有無を判定[註 14]
    • 著作権法と相反する、あるいは補完関係にある他分野の法律を交えた、総合的な司法判断が下されている (特に特許法、商標法、独占禁止法、表現の自由を謳った憲法修正1条など)

国際条約の加盟状況


条約名 概要 狭義の
著作権
著作
隣接権
条約の効力状況 加盟国数 米国の対応状況
著作権に関する主要条約[28]
法的意義が継続している条約
ベルヌ条約 狭義の著作権 (著作者本人の権利) に関する基本条約 Yes 1886年採択、1887年発効
その後4回改正[29]
世界187か国[19] 1世紀後の1988年に加入し、1989年3月1日から施行[19][註 15]
ローマ条約 著作隣接権の基本条約 Yes 1961年採択、1964年発効[30] 世界93か国[31] No[31]
レコード保護条約 著作隣接権の一つである原盤権に関する条約 部分的 1971年採択、1973年発効[32] 世界80か国[33] 1973年に批准し、1974年3月10日から施行[33]
TRIPS協定 偽ブランドや海賊版の取締強化を目的とする「ベルヌ・プラス方式」。違反時には世界貿易機関 (WTO) に提訴可能 部分的 部分的 1994年採択、1995年発効[34] 世界164か国 (WTOの全加盟国)[35][註 16] 1995年1月1日から施行[35]
WIPO著作権条約 デジタル著作物への対応強化を目的とし、「ベルヌ条約の2階部分」と呼ばれる Yes 1996年採択、2002年発効[36] 世界102か国[37] 1997年署名、1999年批准、2002年3月6日から施行[37]
WIPO実演・レコード条約 デジタル著作物への対応強化を目的とするが、加盟にあたってローマ条約の遵守はもとめられない[38] Yes 1996年採択、2002年発効[39] 世界102か国[40] 1997年署名、1999年批准、2002年5月20日より施行[40]
視聴覚的実演に関する北京条約 視聴覚著作物に限定し、実演家に著作財産権の一部および人格権を認める[註 17] Yes 2012年採択、未発効[註 18] 世界26か国 (署名済は74か国)[42] 2012年原署名、批准未済[42]
法的意義を終えた条約
ブエノスアイレス条約 万国著作権条約の前身 Yes 1910年採択[註 19] 米国およびラテンアメリカ諸国の計18か国が批准[註 19] 1910年に原加盟国として署名[註 19]
万国著作権条約 ベルヌ条約の代替で権利保護の水準は低い Yes 1952年採択、同年発効
その後1回改正[45]
世界100か国[46] 1952年に原加盟国として署名[46]

著作権マーク「©」は21世紀に入ってからも多くの著作物上に見られるが、これはベルヌ条約批准が遅れた米国などの国々への対応のなごりである。日本を含む大陸法の国々では、著作物が創作された時点で自動で著作権保護がされる「無方式主義」を採用しているが、米国などの英米法の国々では、創作された著作物を政府当局に登録する手続きを経て初めて権利保護される「方式主義」が長年採られてきた。その結果、日本の美術品やフランスの小説などを米国で販売する際にも、外国著作権者がアメリカ合衆国著作権局 (略称: USCO) に著作物を登録する必要が出てきた。この手続を回避するため、万国著作権条約に加盟している国の著作物は、「©」を付していればUSCOに未登録でも法的に保護されると定めた。もっとも、これら方式主義の国々が最終的にベルヌ条約を批准して、無方式主義に転換したため、今日においては「©」の表示は法的に何ら意味はなくなっている[47]

国内業界への政治的な配慮

上述の米国独自の特徴は、米国内の特定業界への配慮や産業振興が背景にある。

レコード業界

米国がローマ条約には加盟せず、レコード保護条約にのみ加盟したのは、著作隣接権の保護対象の違いである。著作隣接権とは著作者本人ではなく、著作物の流通に寄与する者 (著作隣接者) の権利であるが、ローマ条約では実演家レコード製作者放送事業者を包含している。しかし、レコード保護条約では実演家と放送事業者は除外されている。この理由は、1960年代頃からのレコード業界からの政治的圧力により、レコード製作者の権利は守る必要が出てきたが、著作隣接者すべての権利を守るとなると、ハリウッド映画業界が俳優 (実演家) に追加で利用料を払わなければならなくなるためである。そこでレコード業界とハリウッド映画業界の双方に配慮するため、米国においては著作隣接権は引き続き認めないが、レコード製作者のみは著作隣接者ではなく著作者とみなし、著作者本人の権利 (狭義の著作権) で保護することにしたのである[48][註 20]

IT業界

レコード業界と並んで米国の主力産業であるコンピュータ・プログラムも、政治的配慮が見られる。日本では一般的に、「産業」に関するアイディアは産業財産権 (特許権商標権などの総称) で守り、アイディアの「文化的」な表現は著作権で守るという、二分論がとられている。しかし米国では産業と文化という縦割りではなく、アイディアとその表現という横割りのアイディア・表現二分論がとられている[50]。これにより、実用的な産業であるソフトウェアなども、米国では著作権法の下で保護されている[51][52]。これは今日では世界的に共通の慣行であるが、もともとは米国から他国への強力な働きかけによるものであったとされ、特許を取得していないコンピュータ・プログラムであっても、著作権で保護されるようになった[註 21]

現行法の詳細解説

※本節における「現行」とは、特記のない限り2019年2月現在の合衆国法典第17編 (米国著作権法) [54]に基づき記述している[註 22]

※米国著作権法は特にデジタル著作物に関連する法改正が頻繁に発生しており、1998年10月28日から2014年12月4日の約16年間を例にとると、この期間に可決・制定された著作権の改正立法は計20本以上に上る[56]。条文の最新は合衆国法典の公式ウェブサイトを参照すること。

合衆国法典第17編の全体構成

合衆国法典第17編は章 (Chapter) の名称とその内容に一部不一致が起こっており、章の下の条 (Section) レベルで参照しないと、全体構成が把握できないため注意が必要である。これは米国著作権法の改正が頻繁に起こり、その度に権利保護の対象となる著作物が増え、例外や罰則などが追加で規定されてきたためである[註 23]

合衆国法典第17編の章構成
章名
第1章 著作権の対象および範囲 (Subject matter and scope of copyright) 第101~122条
第2章 著作権の帰属および移転 (Copyright ownership and transfer) 第201~205条
第3章 著作権の保護期間 (Duration of Copyright) 第301~305条
第4章 著作権表示、納付および登録 (Copyright notice, deposit and registration) 第401~412条
第5章 著作権侵害および救済 (Copyright infringement and remedies) 第501~513条
第6章 輸入および輸出 (Importation and Exportation) 第601~603条
第7章 著作権局 (Copyright office) 第701~710条
第8章 著作権使用料審判官による手続 (Proceeding by copyright royalty judges) 第801~805条
第9章 半導体チップ製品に対する保護 (Protection of semiconductor chip products) 第901~914条
第10章 デジタル音声録音装置および媒体 (Digital audio recording devices and media) 第1003~1010条
第11章 録音物および音楽ビデオ (Sound recordings and music videos) 第1101条
第12章 著作権保護および管理システム (Copyright protection and management systems) 第1201~1205条
第13章 創作的なデザインの保護 (Protection of original designs) 第1301~1332条
第14章 -- (Unauthorized use of pre-1972 sound recordings) 第1401条

著作物の利用者の観点では、著作権者に無断で利用しても著作権侵害に当たらないケースとして、後述するフェアユース (公正利用、第107条) が知られている。しかしフェアユースは原則論に留まっており、著作物の種別や条件に応じた個別規定は複数の条にまたがっている点に留意が必要である。

著作権の定義と保護範囲

どのような種類の権利を、どのような著作物に対して付与し、どのような条件下で法的に保護するかを解説する。

権利の内訳

著作権のうち、著作者本人の諸権利を日本の著作権法ではまとめて「支分権」と呼んでいるが、米国著作権法では「排他的な権利」(exclusive rights) という強い表現が使われているのが特徴である。具体的に排他的権利とは (1)「著作物のコピーまたはレコード複製」(複製権)、(2)「二次的著作物の作成」(翻案権)、(3)「販売、所有権の移転、貸与による頒布」(頒布権)、(4)「著作物を使った実演」(実演権)、(5)「著作物を使った展示」(展示権)、(6)「録音物の場合、デジタル音声送信による実演」(デジタル実演権) の6点だと定義されている (第106条)[註 24]。換言すると、複製や頒布などを著作者の許諾なしに第三者が行うと、著作権侵害になることを意味する (第501条)。

さらに1990年制定の法改正 (Visual Artists Rights Act of 1990、略称: VARA) により、いわゆる (7) 著作者人格権が付け加わった (第106A条)。ただし日本や他の先進国の著作権法と異なり、著作者人格権が認められるのは視覚芸術著作物 (visual arts) に限定されている[16]。米国著作権法における視覚芸術著作物とは、絵画・素描・版画・彫刻・展示目的の現像写真の5種類に限られている。さらにこれら5種類のうち、複製が200点以下であり、シリアルナンバーと著者の署名が刻まれているものに限定し、著作者人格権が認められる (第101条)。つまり、容易に大量複製や翻案化できるもの、あるいは大衆向け商業目的の著作物には著作者人格権が認められない。著作者人格権が認められないケースとして、ポスター、地図・地球儀、海図、技術図面、図表、模型、応用美術、映画などの動画、書籍、雑誌、新聞、定期刊行物、データベース、電子情報サービス、電子出版物、商品、広告宣伝・説明、パッケージなどの包装・容器、職務著作物が挙げられている (第101条)。

著作物の類型

米国著作権法が定める著作物とは (1)「言語著作物」、(2)「音楽著作物」(これに伴う歌詞を含む)、(3)「演劇著作物」(これに伴う音楽を含む)、(4)「無言劇および舞踊の著作物」、(5)「絵画、図形および彫刻の著作物」、(6)「映画およびその他の視聴覚著作物」、(7)「録音物」、(8)「建築著作物」の8種に分類されているが、例示でありこれらに限らないと記されている (第102条)。

また、原著作物を活用した「編集著作物」と「二次的著作物」も法の保護の対象となる。編集著作物とは、既存の素材またはデータを選択し、整理しまたは配列し、これらを収集し編成して作られた著作物である。二次的著作物とは、原著作物を用いて、翻訳、編曲、脚色、映画化、改訂するなどして創作された作品を指す (第102条)。これらの編集ないし二次的著作物と、その素材となった原著作物の著作権は別個に存在する (第103条)。

連邦法による著作権の保護目的と対象
連邦議会は、著作者 (author) および発明者に対して、それぞれ著作 (writings) および発明に対する排他的権利を一定の期間に限り付与することにより、科学および有用な技芸の振興を促進する...権限を有する。
合衆国憲法 第1条第8項第8条 (通称: 著作権条項英語版)[58]

著作物の定義に関し、米国著作権法が他の先進国と異なる点が「固定」(fixed) である。つまり、印刷物や録音・録画など何らかの媒体に記録されている必要があり (第102条)、固定されていない生の著作物は法的保護の対象外となってしまう[59]。例えば、日米の大学間でインターネットを使って合同授業が行われており、それがライブ配信されただけでは、その授業内容は米国側では著作権保護されない[60]

さらに、上述の8種類のいずれかに該当し、固定されていたとしても、著作権で保護されないケースがある。その一つが「創作性」の有無である。合衆国憲法で定めた著作権条項の「著作者 (author)」の用法から、著作権には創作性 (originality) が必要であり、また「著作 (writings)」から著作物は何らかの媒体に固定 (fixation) されていなければならないと解されている[59][註 25]

どこまでが著作物なのか
(1) 言語著作物
第101条の定義によると、言葉、数字、数学的な記号、符号などの著作物を指す。ただし、楽譜は符号だが音楽著作物に、演劇脚本は言葉だが演劇著作物に分類される。また判例上は、言語著作物に登場するキャラクターや、言語著作物の題名には著作物に該当しないと解されている[61]。キャラクターの保護を巡る裁判としては、1954年の第9巡回区控訴裁「ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ対CBS裁判」が知られている[註 26]
コンピュータ・プログラムも一部はこの言語著作物として含まれている。1980年制定の著作権法改正で、第101条 (各種用語の定義) にコンピュータ・プログラムが追加されたほか、第117条でコンピュータ・プログラムの権利制限が追加規定された。また、1983年の第3巡回区控訴裁による「アップルコンピュータ対フランクリンコンピュータ裁判」を始めとする判例によって、コンピュータ・プログラムとデータベースの著作権が保護されるようになった[57]
(4) 無言劇および舞踊の著作物
(2) 音楽著作物 ~ (4) 無言劇および舞踊の著作物に関し、第101条で定義は示されていない。(4) については、言葉を使わず動きとジェスチャーで表現する演劇全般、および観客の前でのダンサーの動きを表現した記録や表記だと解されている。しかし、社交ダンスのステップのように、形式が決まっているものについては著作物として認められていない[63]
(5) 絵画、図形および彫刻の著作物
第101条の定義によると、純粋な美術品だけでなく、写真や地図、模型、建築設計図などもこれに含まれる。ただし、単純な実用品 (useful article) のデザインは著作物として認められていない。これは実用的なデザインは著作権ではなく、意匠特許権で守られるべきと考えられているからである。両者の線引きは、美しさの有無ではなく、美的「表現」なのか、デザインの「新たな発明」なのかの違いにある[64]。実用デザインを巡る裁判としては、ダンサー像がデザインされた卓上ランプに関する「メイザー対ステイン裁判」、およびチアリーディングのユニフォーム製造業同士で争った「スター・アスレティカ対ヴァーシティ・ブランズ裁判」も参照のこと。
(7) 録音物
第101条では、一連の音楽、会話その他音声の著作物だと定義されている。ただし、映画などの視聴覚著作物に含まれているセリフなどは除く。音楽レコードについては録音著作物に該当するが、アーティストである実演家と、レコード会社であるレコード製作者の共同著作物と考えられているため[65]、日本の著作権法のように、実演家やレコード製作者は著作隣接者としてはみなされていない。
(8) 建築著作物
建築の設計図は (5) 絵画、図形および彫刻の著作物に含まれるが、ベルヌ条約加盟以前は建築物そのものは著作物として保護されていなかった。これは実用的なデザインとみなされていたからである。1990年の改正法により、建築著作物も著作権保護が認められるようになった[66]
編集著作物
日本ではデータベースは編集著作物ではなく別個の著作物としているが、米国およびその他諸外国はデータベースを編集著作物としている。編集著作物 (compilations) には集合著作物 (collective works) を含む。集合著作物の例は定期刊行物、選集、百科事典などが挙げられる[67]

保護されない著作物

著作権で保護されない著作物はパブリック・ドメイン (公有) とみなされ、これらの著作物を第三者が無断で利用しても、上述の排他的権利を侵害したことにはならない。パブリック・ドメインの内訳は、著作権が「元来発生しない」性質の著作物と、著作権は発生したが後に「消滅した」著作物に大きく分けられる。

前者の元来権利が発生しない著作物としては、合衆国政府の著作物が挙げられる (第105条)。ただし、州政府などの地方自治体の著作物については、合衆国法典の規定の範囲外であり、各自治体で別途定められている。例えばオレゴン州ジョージア州などでは、注釈付きの州法法令集は著作権保護の対象内だとしている[註 27]。後者の著作権保護が消滅してパブリック・ドメインに帰す著作物には、著作権の保護期間切れなどがある。

著作権の保護期間

原則は、著作者の没後70年間が著作権の保護期間となる。しかし保護期間は数回の法改正により延伸していることから、現行法においては著作物の発表日が1978年1月1日 (1976年制定の著作権改正法の発効日) を境にして保護期間が異なるほか、様々な条件分岐が発生している。未発表または米国内で初めて発表された著作物 (但し録音物および建築物を除く) を例にとると、保護期間は以下となる[70]。なお、「発表」については#著作物の発表の定義で、著作権表示や登録手続については#著作権保護の手続で後述する。

1976年制定の改正法以前の法的スキーム (旧法) が適用される著作物[註 28][註 29]
発表日 著作権表示あり 著作権
表示なし
更新手続あり 更新手続なし
1923年以前 PD PD PD
1924年1月1日 - 1963年12月31日 発95 PD PD
1964年1月1日 - 1977年12月31日 発95 発95 発95
1976年制定の改正法以降の法的スキーム (新法) が適用される著作物[註 30][註 29]
発表日[註 31] 創作日 実名著作物 実名著作物以外
著作権
表示あり
著作権表示なし 著作権
表示あり
著作権表示なし
事後登録
あり
事後登録
なし
事後登録
あり
事後登録
なし
1978年1月1日 -
1989年2月28日
1977年以前 旧法 or
2047末
没70 PD 旧法 or
2047末
発95 or
創120
PD
1978年以降 没70 没70 PD 発95 or
創120
発95 or
創120
PD
1989年3月1日 -
2002年12月31日
1977年以前 旧法 or
2047末
旧法 or
2047末
旧法 or
2047末
旧法 or
2047末
旧法 or
2047末
旧法 or
2047末
1978年以降 没70 没70 没70 発95 or
創120
発95 or
創120
発95 or
創120
2003年以降 1977年以前 没70 没70 没70 発95 or
創120
発95 or
創120
発95 or
創120
1978年以降 没70 没70 没70 発95 or
創120
発95 or
創120
発95 or
創120
未発表 不問 没70 没70 没70 創120 創120 創120
凡例
凡例 解説
没70 著作者の没後70年間
発95 or 創120 発表から95年間、あるいは創作から120年間のいずれか短い方
(職務著作、変名著作、無名著作、著作者の死亡日不明など、実名著作で定めた「没後70年間」を適用できないため)
発95 発表から95年間
創120 創作から120年間
旧法 or 2047末 旧法で規定の保護期間満了まで、あるいは2047年12月31日までのいずれか長い方
PD 保護期間が消滅し、パブリック・ドメインに帰す

1978年1月1日以降に創作された著作物に対しては、米国著作権法では一般的に著作者の没後70年までとされる。著作者が複数人いる場合は、最も生存の長かった者を基準とする。ただし、職務著作・無名著作 (著作者不明)・変名著作 (ペンネームや芸名などを使った創作)・著作者の没年不明の場合は、創作日から120年あるいは発表から95年のいずれか短い年数が適用される (第302条)。

1978年1月1日より前 (1977年12月31日以前) に創作された著作物の保護は、既発表と未発表で保護期間が異なる。未発表かつパブリック・ドメインにも帰していない場合は、上述の第302条と同期間が適用される。ただし、この未発表著作物が1978年1月1日~2002年12月31日の間に発表された場合は、2047年12月31日まで著作権の保護が認められる (第303条)。また、1978年1月1日より前に頒布していても、レコードに関しては既発表とは見なされない例外が設けられている (第303条)。

1978年1月1日より前に創作された既発表著作物のうち、1978年1月1日時点で最初の保護期間中の場合は、28年間が認められる。また最初の保護期間が満了した後、一定の条件を満たせばさらに67年間更新延長できる (第304条)[註 32]

ただし、著作者の生死に関わらず、1923年12月31日以前に創作 (楽曲の場合は1922年12月31日以前に作曲) された著作物は、保護期間が消滅してパブリック・ドメインと見なされる[70]

保護期間の計算方法

米国著作権法の場合、保護期間の満了日は暦年の最終日までとされる (第305条)。例えば1980年代に創作され、著作者が1990年9月1日に死去した場合、著作権の保護期間は死後70年のため2060年であり、その暦年の最終日である2060年12月31日が満了日となる。日本の著作権法でも死後70年で満了の場合、死去日の翌年から起算して70年間のため、満了日は必ず暦年の最終日 (12月31日) に到来する[71]。したがって米国と日本の満了日の計算方法は実質的に同じである。

著作物の発表の定義

著作物の流通の観点からは、「既発表」(published) と「未発表」(unpublished) に分類され、著作権の保護範囲が異なる[註 33]1976年の著作権改正法英語版(Copyright Act of 1976) が施行された1978年1月以降は、米国著作権法の連邦法でも未発表著作物が保護されるようになったが[17]、いまだに既発表と未発表では保護期間に差異がある。ここでの「発表」(publication, publish) の定義とは (第101条)、「著作物を複製 (copy) またはレコード収録 (phonerecord) し、一般に頒布すること」であり、「販売その他手段による所有権の移転、レンタル、リースや貸与」が頒布の具体的手段として挙げられている。そして「更なる頒布、実演または展示を目的として、複製またはレコード収録した著作物を特定の団体組織に提供することを発表と呼ぶ」としている。注意点として、「著作物を公に実演したり展示する行為そのものは、ここでの発表には含まれない」とされる[註 34]

著作物の多くがインターネットを介して流通している現代社会において、発表の境界線をどのように解すべきか、いくつかのアプローチがとられている。全米の著作権関連団体・企業などが参加する米国著作権連盟英語版 (The Copyright Alliance) によると、公衆向けに流通・販売・展示する目的で、著作物が複製またはレコード収録された最初の日が、既発表と未発表の境目だとされる。既発表の著作物の場合、発表日を起点として著作権の保護期間が計算される[72]

また米国メディア写真家協会英語版 (ASMP) は、写真のデジタル画像をウェブサイトにアップロードした場合、発表に相当するのかについて回答を寄せている[73]。同協会によると、

  • 顧客に依頼されて撮影した写真をデジタルデータの形式で納品した場合、「複製またはレコード収録した著作物を特定の団体組織に提供」に該当するため、発表と見なされる可能性がある
  • 写真家個人が運用するウェブサイトにデジタル画像を掲載した場合、そのサイトが一般からアクセス可能な状態であれば発表と見なされ、またそのウェブサイト自体が写真だけでなく文章やイラストなどの著作物で構成されているため、ウェブサイト全体が著作権保護の対象となるだろう

と解説している[註 35]

著作権保護の手続

1976年制定・1978年施行の著作権改正法により、USCOへの著作物の登録がなくとも著作権保護が与えられることとなった (第409条)。しかし著作権侵害などで民事訴訟を起こす際には、USCOへの登録が必要となる (第411条)。登録申請にあたり、著作者名・住所、(無名または変名著作物の場合は) 著作者の国籍または住所、創作年と発表日・発表国などを著作権者は記入する必要がある (第409条)。これは無名・変名・職務著作物や、最初の発表国が米国内であるか否かによって、著作権保護期間のカウント方法が異なるためである。USCO局長は提出された登録申請に基づき、著作権法が定める著作物でないと判断した場合は却下し、許可されたもののみ登録証明書を発行する (第410条)。裏を返すと、著作権法の保護対象をUSCO局長が線引きしており、司法に対する越権行為ではないかとの懸念もあり、この「登録」の定義を巡って争われた裁判も数件存在する (「ニューヨーク・タイムズ他対タシーニ裁判」、「リード・エルゼビア対マッチニック裁判」、「フォース・エステート対Wall-Street.com裁判」も参照)。

1988年のベルヌ条約履行法英語版(Berne Convention Implementation Act of 1988) の成立により、米国でも1989年から無方式主義が採用された結果、著作権保護の観点からは著作権マーク「©」 (マルC、Copyrightの意) または「℗」(マルP、レコードのPhonogramの意) や著作者名、発表年の表示は必須ではなくなった (第401条)。

USCOへの納付は引き続き原則必要となっており、発表から3か月以内に行わなければならない。納付はコピー2部 (レコードの場合は発表に付属していた印刷物などの付属資料も) が求められている。ただし元々コピーが4部以下しか作成されていない著作物 (1点ものの絵画など) や、シリアルナンバーを付した限定リリース品などは納付の義務が免除されている。納付を怠った場合、著作物1点あたり250ドル以下の罰金が科される (第407条)。

国際的な著作物への対応

著作物が国際的に流通する社会において、どこの国の著作物がどこで利用された場合に米国著作権法が適用されるのかが問題となる。米国著作権法では、既発表と未発表著作物で対応が異なる (第104条)。未発表著作物の場合、著作者の国籍や現在居住地は不問で著作権の保護対象になる。一方の既発表著作物は、以下6要件のいずれか1つ以上に該当すれば、米国著作権法が適用されうる。

  1. 発表初日の段階で、著作者の一人以上が「米国籍あるいは米国住民」、「条約加盟国の国民、住民、あるいは加盟国の政府機関などの主権者」、「無国籍者 (現在居住地は問わない)」のいずれかに該当する場合
  2. 米国内で最初に発表されたか、あるいは発表初日の段階で条約加盟済の国で発表された場合
  3. 音声レコーディングのうち、条約加盟国内で最初に録音完了したもの
  4. 絵画、図形または彫刻作品のうち、ビルなどの建造物に組み込まれている場合、あるいは建築著作物のうち、米国ないし条約加盟国内のビルなどの建造物に組み込まれている場合
  5. 最初の発表者が国際連合もしくは国際連合の専門機関、または米州機構 (OAS) の場合
  6. 一定の条件下で、米国大統領の布告 (proclamation) によって保護すると指定された著作物

国際著作物に対するこのような運用は、米国以外の著作権法でも見られることから、同一の著作物を巡って、同一の原告と被告が世界各国の裁判所で係争する事態が発生している。その代表例が「ウルトラマン裁判」である。本件では、日本、タイ、中国、米国でそれぞれ訴訟が起こり、異なる判決が出ている[75][76][77]

著作者と第三者の権利関係

著作者と著作権者の相違点

個人・団体を問わず著作権を有する者を「著作権者」と呼ぶが、米国著作権法では著作権が誰に帰属するのかを大きく3つに分けて定義している (第201条)。第一に、著作物の著作者 (最初の作成者) が著作権者だとする「原始的帰属」 (Initial ownership) という基本的な考え方である。第二に、雇用主の命により業務の一環で従業員が著作物を作成した場合は、著作者である従業員個人ではなく雇用主が著作権者だとする「職務著作」 (Works made for hire、またはWorks for hire) の考え方である。第三に、個々の著作物を寄せ集めて作成・編纂された「集合著作物」である。複数の楽曲を収録した音楽アルバムや、複数のジャーナリストが寄稿して発行される雑誌などが集合著作物に該当する。集合著作物の著作権と、それを構成する個々の著作物の著作権は別個に存在する。

第三者への著作権の移転

第106条で定められた排他的権利 (支分権) は、譲渡や独占ライセンス許諾、抵当設定、相続などによって著作者から第三者に移転 (transfer) することができる (第201条 (d))。著作権の移転が効力を発揮するには、著作権者あるいはその代理人による署名付きの書面作成が必須となる (第204条)。この譲渡証書は任意でUSCOに登録することもできる (第205条)。

移転は支分権全てである必要はなく、その一部のみ移転させることが可能である。例えば、小説の作者が小説出版権 (原著作物の頒布権) を出版A社に売却し、小説の映画化権 (二次的著作物の作成権) を映画配給B社に売却するといったように、諸権利をバラバラに分解する行為も移転と定義される。また、独占ライセンスの許諾に有効期限を設定したり、その独占をある地域に限定するといった、時空を特定することも可能である (第201条)。ただし、米国著作権法上の移転の定義には、非独占ライセンス許諾は含まれない (第101条)。また移転の対象に第106A条は含まれないことから、著作者が死去すると著作者人格権は第三者に継承できないと解される (第201条)。集合著作物、法人著作とライセンスを巡って争われた例として「ウォーレン出版対スパーロック裁判」も参照のこと。

所有者の権利と消尽論

米国著作権法の定める著作権者とは、著作物の排他的権利を有している者であって、排他的権利を行使して作成された実物の所有者 (購入者) とは分けて捉えられている (第202条)。所有者とは例えば、出版された書籍や音楽ダウンロードサービスで楽曲を購入した消費者である。仮に小説を執筆した著作者がその小説を出版販売したとしても、小説の購入者が所有しているのは小説という実物の商品のみであって、小説の著作権まで購入したわけではないという意味である。

複製された著作物の所有者は、著作権者の許諾なしで自由に所有物を売却処分することができる。つまり、著作権者の排他的権利は、複製された著作物の処分方法にまでは及ばずに消えることから、これを「消尽論」または「ファースト・セールス・ドクトリン」(The First Sales Doctrine) と呼ぶ[78]。ただし、録音物またはその録音物に含まれる音楽著作、あるいはコンピュータ・プログラムのコピー所有者が処分する際には、一部の例外を除き、著作権者の許諾が必要になる。また所有者は、著作物のコピーまたはレコード複製を使って、その場で一般の観衆向けに展示することができる。展示が許されるのは所有者であり、著作権者から著作物を貸与された場合は適用外となる (第109条)。消尽論を巡る裁判は、「カートサン対ワイリー裁判」と「オメガ対コストコ裁判」も参照のこと。

著作物の利用と著作権侵害

フェアユース (総論)

著作物そのものはパブリック・ドメインに帰しておらず保護期間内であっても、一定の条件を満たしていれば著作者に無断で利用しても著作権侵害とはならない。その代表例がフェア・ユース (公正利用) である。

フェアユースの利用シーンとしては「批評、解説、ニュース報道、教育、研究または調査」が例示されており、また最終的には「使用の目的」(非営利の教育など)、「著作物の内容」、「量・質の両側面から著作物が使用された割合」、「使用によって著作物の市場価値にどの程度影響を及ぼすか」などを考慮して総合して判断される。条文ではincludingやsuch asといった表現が使われていることから、これら利用シーンや考慮点はあくまで例示である点に留意が必要である (第107条)[註 36]

フェアユース以外の個別規定

第107条のフェアユースとは別に、特定条件下で著作権者の排他的権利に制限がかかり、利用が緩和・促進されている条項が複数ある (第108条~122条)。例えば、図書館や文書資料館による複製は公共の利益目的であり、著作権侵害に該当しないとされている (第108条)。またコンピュータ・プログラムにも著作権が認められるが、そのプログラムのコピー所有者が著作者に無断で新たにコピーまたは翻案物 (adaptation) を作成する場合、一定の条件を満たしていれば著作権侵害とならない。その条件とは、コンピュータ・プログラムを内蔵した機械・端末を生産する目的であり、それ以外に転用されないこと、あるいは保存目的で更なるコピーまたは翻案物を作成し、所有者が所有権を喪失した時点で廃棄することの2点である (第117条)。

著作権侵害と救済手段

民事訴訟

侵害された被害者 (著作権者) は、請求権が発生してから3年以内であれば民事訴訟を起こすことが可能である (第507条)。裁判は長期化することもあるため、短期的な救済として差止命令、差押や処分を被害者は裁判所に請求し、さらなる侵害を食い止めることができる (第502条、第503条)。差止命令とは侵害者の行為を止めさせる裁判所命令であり、合衆国全域で効力を発揮する。換言すると、差止命令の法的強制力は米国外には及ばないことを意味する。差止命令の法的根拠と手続については、合衆国法典第28編 (各種訴訟法) の第1498条 (特許権および著作権) に定められている。また、著作物を違法に複製している場合などは、その複製物を差押するだけでなく、複製のために用いられる版木やテープといった手段も廃棄処分できる (第503条)。

金銭的な補償として、被害者は現実損害賠償あるいは法定損害賠償を選択できる。現実損害賠償の場合、被害者が被った現実損害の額と、著作権侵害者が得た利益の総額で算出される。被害者は侵害者の総収入のみ立証責任がある。総収入のうち、著作権侵害以外から得た収入などがある場合は、侵害者側の申告で初めて控除され、現実損害賠償額が最終決定される (第504条)。

一方、法定損害賠償を選択した場合、著作物1点あたり、原則は750ドル以上3万ドル未満で裁判所が賠償金額を決定する。原著作物を用いて作成された編集著作物や二次的著作物も著作権侵害を被った場合、著作物1点あたりの賠償単価が上乗せされることはあるが、「著作物1点」がダブルカウントされるわけではない (第504条)。また、著作権侵害が故意だと認められた場合は、賠償単価の上限が3万ドル未満から15万ドル未満まで増額される。逆に侵害者が知らずに侵害していた場合は、賠償単価の下限が750ドル以上から200ドル以上まで減額される[註 37]

損害賠償に加えて、民事訴訟に要した費用も請求できる。具体的には提訴に要する諸手続の費用の他、雇用した弁護士への報酬支払額も補填の対象となる (第505条)。

インターネット関連事業者への免責

著作権侵害がインターネットを介して行われた場合、その通信環境を提供したインターネットサービスプロバイダー (ISP) またはオンラインサービスプロバイダー (OSP)、あるいは検索エンジンなどのデータキャッシング事業者各社は、一定の条件下で損害賠償を免責される (第512条)。この免責条件は1998年制定・施行のデジタルミレニアム著作権法によって加えられ、いわゆるセーフハーバー条項とされる[註 38]。ISPやOSPに適用される免責条件を例に取ると、以下の5要件全てを満たしている必要がある。

  1. 著作権侵害のデジタルデータがISPやOSP以外の第三者によって送信されたこと
  2. 送信・転送・接続・データの蓄積が自動的に行われていること
  3. データの受信相手をISPやOSPが指定していないこと (ただし相手からの返信で自動送信したケースは「指定」に含まれない)
  4. 受信者以外の第三者がアクセス可能な方法でシステム上に侵害データを保存していないこと (受信者が未受信のままサーバー上のメールボックスに保存されている分には問題ない)
  5. 送信の際にデジタルデータをISPやOSPが改変していないこと

また同512条では、いわゆる「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続についても規定している。これは著作権者の許可なく著作物が第三者によってウェブサイトに掲載されたと通知 (notice) を受けた場合、そのウェブサイトの運営者が速やかに削除 (takedown) すれば損害賠償などを免責されるという仕組みである。運営者が免責される要件や要点は以下の通りである[80]

  • ウェブサイトの運営者は、著作権者が侵害を通知できる連絡先を常に掲示しておかなければならない。
  • 著作権者から削除要請の通知を受けた時点で、実際に著作権侵害かをウェブサイト運営者自身で調査・判断する必要はなく削除できる。
  • 削除した後、運営者はその情報を無断掲載した本人に対し、削除済の通告をしなければならない。
  • 無断掲載者から反対通知 (著作権侵害ではないとの反論) がなければ、たとえ著作権侵害に当たらない内容だったとしても削除されたままで問題ない。
  • 無断掲載者から反対通知が届いた場合、ウェブサイトの運営者はその反対通知の写しを著作権者にも提供しなければならない。
  • 反対通知の写しを受領した著作権者が10~14営業日以内に提訴しない限り、ウェブサイトの運営者は削除済の内容を復活させる。
  • ただし、ウェブサイトの運営者が著作権侵害の事実を明確に知りえた場合は、著作権者からの削除申請通知がなくても、削除などの適切な対応をとらなければならない。

米国のノーティス・アンド・テイクダウン手続は、ウェブサイトの運営者に対して「『とりあえず削除』のインセンティブを高めてしまうのではないか」との懸念が呈されており、日本においても2011年総務省主催の専門家ワーキンググループ会合にて、日本に同様の法制度を導入することへの慎重論が展開された[80][81]。また、米国のオンラインニュースTechCrunchでは「史上最高に馬鹿げた著作権侵害のDMCA通告」と題して批判している[82]。当手続の濫用が問われた例として、「イコールズ・スリー対ジューキン・メディア裁判」も参照のこと。

刑事手続

被害者による民事訴訟以外に、警察や検察が刑事事件として手続を執る場合がある。著作権侵害罪として刑法上で扱われるのは、(1) 故意で商業的あるいは私的利益を目的とした場合、(2) 過去180日以内に総額1000ドル超の市場価値を有する複製または頒布を行った場合、(3) 商業的な目的でインターネット上で著作物を頒布した場合の3条件のいずれかに該当する場合である。

総額2500ドル超の市場価格を有し、10点以上を複製または頒布した場合を例にとると、初犯は懲役5年以下または25万ドル以下の罰金 (あるいはその両方) に処せられる[83]。同条件で再犯の場合は懲役10年以下または25万ドル以下の罰金 (あるいはその両方) に引き上げられ、さらに常習犯の場合は刑が重くなる。一方、軽犯罪の場合は懲役1年以下または10万ドル以下の罰金に軽減される。また、デジタルミレニアム著作権法施行による改正により、技術的保護手段の回避禁止英語版が盛り込まれた。その結果、コピーコントロールアクセスコントロールを回避・解除して著作権を侵害した場合は、初犯でも懲役5年以下または50万ドル以下の罰金 (あるいはその両方)、再犯の場合は懲役10年以下または100万ドル (あるいはその両方) に処される[83]

これらの懲役・罰金に加え、合衆国法典第18編 (刑法および刑事訴訟法) の第2323条 で定められた方法に従って、没収・破棄・返還を行うことができる。また他者を欺く目的で偽りの著作権表示を行ったり、そのような欺罔的な表示の複製品を頒布・輸入したり、著作権表示自体を除去したり、偽りの著作権登録申請を行った場合は、それぞれ2500ドル以下の罰金に処せられる。

侵害が発生してから5年以内であれば検察による刑事訴訟の着手は可能で、その手続の詳細は合衆国法典第18編の第2319条 (著作権侵害) に定められている。

なお、日本を含む環太平洋パートナーシップ協定 (TPP11) 締結各国は[84]、2018年12月に発効した同協定に基づいて著作権侵害の「非親告罪化」のための国内法手続を進めている[85]親告罪とは、被害者本人あるいは法で定めた者 (法定代理人、親族など) からの告訴がない限り、刑事訴訟に至らない犯罪を指す。これを非親告罪化することはすなわち、著作権者以外の告訴によっても検察は刑事訴訟に踏み切れることになる。しかし米国はTPP交渉から途中離脱したため、非親告罪化を合衆国法典上で明文化する必要はなくなった。ただし合衆国法典では元々、著作権侵害罪が親告罪だとも明文化されていない。

連邦著作権法と関連法の関係

ここまでは連邦法としての著作権法を解説したが、ここからは密接に関係するその他の法律を取り上げ、その関係性について見ていく。

州法との関係

上述のとおり、連邦法で守ることができる著作物には、何らかの媒体に固定されていること、また創作性が必要であることが合衆国憲法の著作権条項から解釈されている。しかし、合衆国憲法はあくまで連邦法であり、各州の州法とは別個に運用されている。そのため、連邦法で範疇外の対象であっても、州法の著作権法で権利保護を認めている州が一部ある。特に、未発表の著作物に対する複製権と頒布権の保護を「コモンロー・コピーライト (common law copyright)」と呼び、未発表の著作物が連邦法で十分カバーされていない場合でも、州法で保護されることがある[86]

たとえばカリフォルニア州の民法典では、その第980条で実演や演説などの未固定著作物も保護している。また同法典の第985条では、書簡その他の私信 (手紙) などは、その作成者の意に反して書簡の受領者が発表してはならないとされる。さらに、同法典の第982条によると、純粋美術の原作品を著作者が第三者に譲渡した場合であっても、譲渡契約書で特段の定めがない限りにおいて、著作者は複製権を持ち続ける。逆に芸術作品の著作権のみを譲渡した場合は、第988条の規定に則り、原則として著作者に作品の所有権は残る。加えて、その美術作品が販売された場合、かつ売り主がカリフォルニア州住民であるか、売買がカリフォルニア州で行われた場合は、その売買代金の5%相当を売り主から著作者に支払う義務が第986条で規定されている[86]

近接する各種連邦法との関係

米国のアイディア・表現二分論は横割りなのに対し、日本は実用的な産業財と文化的な芸術品で分ける縦割りの発想が強い。

連邦法だけをとってみても、著作権とは知的財産権の一種であることから、著作権の姉妹にあたる法律が複数存在する。これら姉妹と著作権法は補完関係にあるわけだが、権利侵害が起こった時に具体的にどの法律が適用されるのかを切り分ける必要が出てくる。この問題は米国に限らず世界共通だが、米国では「アイディア・表現二分論」という階層的な横割りによって境界線を引いている。

これに対し、日本の著作権法は第2条において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されている。この定義には、経済産業省 (特許庁) 対 文部科学省 (文化庁著作権課) という行政組織の縦割りがあり、産業の技術は特許法で、文化的な芸術は著作権法でそれぞれ守る棲み分けがなされている背景があると指摘されている[50]。よって、横割りの米国と縦割りの日本では、著作権法の姉妹にあたる各種法律の関係性が異なってくる。

  • 日本における知的財産権の一般的な分類方法
    • 著作権
      • 著作者本人の権利 (狭義の著作権)
        • 著作財産権 (最狭義の著作権。著作者の財布を守る権利)
        • 著作者人格権 (著作者の心を守る権利)
      • 著作隣接権
    • 産業財産権

米国著作権法では著作者人格権の保護対象が狭い、と他国から批判を受けている。しかしこれに対し米国は、著作者人格権のうち、ベルヌ条約が求めている同一性保持権 (著作者に無断で内容を改変されない権利) と氏名表示権 (著作物を発表する際に、実名・変名・無名など著作者名の表記を選択できる権利) の2点については[註 39]、米国内では著作権法ではなく、ランハム法英語版で保護されていると解されている[87]。ランハム法とは、日本の商標法不正競争防止法の要素を足した法律であるが、純粋な産業財だけでなく、文化寄りの作品にも適用される。著作権法とランハム法の両方が問われた裁判として、アイゼンハワー大統領による戦争回想録のテレビ番組を巡る「ダスター対20世紀フォックス裁判」も参照のこと。

合衆国憲法との関係

主に合衆国憲法と著作権法の関係が問われるのは、著作権条項 (合衆国憲法 第1条第8項第8条)、州際取引条項 (合衆国憲法 第1条第1項第3号)、表現の自由 (憲法修正第1条) の3点である。

州際取引条項
TRIPS協定では、未固定の音楽実演の保護を第14条第1項で求めている。しかし先述の通り、著作権条項に基づき、米国著作権法では固定された著作物しか保護されないと解されている。そこで、合衆国憲法第1条第1項第3号の「州際取引条項」に基づいて、米国著作権法の第1101条で未固定の音楽実演の保護規定を追加し、TRIPS協定に対応している[88]。この規定に従うと、たとえば音楽バンドのライブ演奏会場で、観客が無断でビデオ撮影し、そのデジタルファイルをインターネット上にアップロードする行為は禁止される。ただし、州際取引条項は米国内の州をまたぐ (または国をまたぐ) 行為にのみ適用されるため[89]、仮に無断撮影したライブ音楽をCD-ROMに焼いて、どこかの州内に限って配ったり販売した場合には違法とはならない。
表現の自由
憲法修正第1条は、メディアであれ個人であれ表現の自由を保障し、この自由を制限するような法律を連邦議会が制定してはならないと規定している[90]。著作権は著作物という表現を著作者が独占できる権利であり、無断で第三者が利用できなくなるため、結果的に著作者以外の人々の表現の自由を抑制しうるため、行き過ぎた著作権保護は違憲だとの主張がなされることがある。たとえば、通称「ミッキーマウス訴訟」とも呼ばれた「エルドレッド対アシュクロフト司法長官裁判」は、著作権の保護期間を延長する改正立法によって、表現の自由に抵触するとの訴えである[91]。また、「ゴラン対ホルダー司法長官裁判」では、パブリック・ドメインに帰していた外国著作物の権利を復活させた1994年の改正法により、著作物の自由な利用が妨げられるとして、憲法修正第1条の違憲性が問われた[92]。「電子フロンティア財団対米国政府裁判」では、デジタルミレニアム著作権法によってリバースエンジニアリングが禁止され、他者のアイディアから学んで表現する自由が奪われたと主張されている[93][94]
これらの主張の背景には、米国が著作権保護にあたって「産業政策理論」を採っていることが挙げられる。産業政策理論とは、著作権によって一定期間に限って著作者や発明者を動機づけし、保護期間終了後は、その成果物を公衆が利用することで、公共の利益を達成しようとする考え方である。つまり、連邦議会が著作権者に与える独占的権利は、無制限でもなければ私的恩恵を与える目的でもない。競争の自由を阻害する市場独占権は悪であり、これに対する強い警戒心が米国の根底に流れていると指摘されている[12]

法改正の歴史

米国内法の主な改正点

米国の著作権法は、世界初の本格的な著作権の制定法とも言われる英国のアン法の流れを汲み[95]、独自の米国連邦法としては初めて1790年に著作権法 (Copyright Act of 1790) が制定された[註 40]。その後、時代の変遷に合わせて多くの改正が重ねられているが、主な改正点は以下の通りである[註 41][註 42]

国際化とデジタル化への対応

他国の著作物を著者に無断・無償で自国で出版する海賊出版社の挿絵。1886年に風刺漫画雑誌Puck英語版に掲載。

1790年の米国著作権法では、その権利保護の対象は米国籍の著作者であり、米国内に流通する著作物に限定されていた[97]。米国内では米国外の著作物が盛んに無断で複製され、その著作者に印税やライセンス料が入らない事態が発生していたことから、1800年から1860年代までは海賊版出版時代 (The Great Age of Piracy) と呼ばれていた。1870年代後半から大手出版社らが国際著作権保護支持に転じ、1891年に国際著作権改正法が成立した[98]。なお、同時期の1887年にはベルヌ条約が発効している。

20世紀最大の改正と言われるのが、1976年制定・1978年施行の改正法である。これにより国際水準からの遅れを取り戻し、1988年にベルヌ条約批准に至っている。

インターネットの普及に呼応する形で、国際社会がデジタル著作物の法的保護に取り組み始めたが、米国ではいち早く1998年にデジタルミレニアム著作権法 (DMCA) を成立させ、デジタル著作物に関する罰則と免責条件が明文化している。しかし著作権侵害が不明瞭でも「とりあえず削除」のインセンティブをインターネット事業者に与えうるとして批判は根強い。DMCA成立以降もデジタル著作物に関連する法案は連邦議会に多数提出されているが、大幅な改正法案は全て廃案となっている[99]

司法判断

米国著作権法には多くの判例が存在するが、その一部を紹介する。

法的に保護される著作物の範囲を巡って争われたのが、1990年最高裁判決の「ファイスト出版対ルーラル電話サービス裁判」である。これは電話帳に掲載された番号を無断で転載した事件であるが、単なるデータの配列だけの電話帳が、そもそも著作物と言えるのかが問われた。この判決により、アイディア・表現二分論 (著作者の創作性・オリジナリティに基づく表現を保護するのが著作権だとする考え方) が明示され、額の汗の法理英語版 (著作物の内容や特性の如何に関わらず、著作者の労力の賜物である著作物を保護しようとする考え方) は否定されることとなった[100]

フェアユース関連で注目された大規模裁判が、「全米作家協会他対Google裁判」である。Googleブックスが著作者に無断・無償で書籍をデジタルスキャンして、インターネット上に公開する行為が著作権侵害かが問われた。当初は当事者間で和解交渉が進められていたが、和解によって逆にGoogleの電子書籍市場における独占が強まる恐れがあり、反トラスト法 (独占禁止法) への抵触が指摘された。さらにGoogleブックスのスキャンした書籍が世界各地におよんでいたことから、諸外国の政府からも批判を受け、一時は外交・国際司法の問題も孕んでいた。裁判所も当初は著作権侵害を認めていたが一転し、最終的にGoogleのフェアユースを認める判決で11年後の2016年に終結した[101]

また、「Oracle対Google裁判」もフェアユースの動向を探るうえで注目されている。企業買収により、OracleがJava APIの権利を獲得したが、Java APIがGoogle製のモバイル用OSであるAndroidに利用されており、OracleがGoogleを提訴している[102][103]。Oracleは特許権と著作権侵害あわせて88億米ドル (約1兆円) の損害賠償を求めている。二審では原告Oracle有利の判示が出ているが[102][103]、Googleは2019年1月、二度目の最高裁への上告受理申立て (certiorari) を行っている[104]

国際著作物の管轄と準拠法に関する判例としては、一連の「ウルトラマン裁判」がある。特撮作品の『ウルトラシリーズ』の原作者・円谷英二が設立した円谷プロダクションが、同作品の独占的利用権を1976年にタイ企業のチャイヨー・プロダクションに譲渡していたかが問われた[75]。譲渡書は日本国外すべての地域を対象としていることから、著作権の準拠法における不法行為地の観点から、訴訟が世界各国で展開された。日本の最高裁は2004年、譲渡書の筆跡鑑定などを行わないまま、原告の円谷プロダクション敗訴を下している。中国においても、円谷の敗訴。しかしタイ最高裁は2008年、譲渡書のサインが異なることから偽物だと判定し、円谷の勝訴となっていた。2018年、米国カリフォルニア州中央区地方裁は譲渡書が偽物だとして、円谷の勝訴となっている[76][77][105]

消尽論関連では、2013年最高裁判決の「カートサン対ワイリー裁判」が知られている。タイ人留学生が、米国とタイで販売される同一の教科書の価格差に着目し、タイから逆輸入してオークションサイトのeBayで転売した事件である[106]。2013年、二審の判決を覆す形で、最高裁はカートサン無罪の判決を下した。この判決により、米国の著作物が米国外で複製印刷・販売され、再び米国内に逆輸入した際にも、米国著作権法 第109条が定める消尽論が適用されることが判示された[99]

米国内での保護水準が低いとされる著作者人格権に関しては、勝訴のレアケースとして「モンティ・パイソン対ABC裁判」が挙げられる[107]。イギリスを代表するコメディ・グループによるテレビ番組『空飛ぶモンティ・パイソン』(英国BBCにて放送) が、米国ABCでも放送された際に一部内容が改変されたことから、原著作物の同一性保持権侵害が問われた裁判である。二審は1976年、編集カットによってモンティ・パイソンのブランドが毀損するとして原告勝訴の判決を下した[108][109]。なお、著作者人格権は狭義の視覚芸術著作物に限定する形で、1989年に米国著作権法上で明文化されている。仮にこの改正以降に提訴していた場合、著作者人格権はテレビ番組には適用不可と判断され、敗訴していた可能性も指摘されている[109]

著作権管理サービス

著作権者 (創作者) が排他的な権利を有したままでは著作物の社会利用の妨げになることから、著作権者と利用者を仲介する機能が求められる。この仲介を公的に果たしているのがアメリカ合衆国著作権局 (略称: USCO) であり、米国著作権法によってその役割が規定されている。主な業務は著作物の収集と登録、権利移転 (名義書き換え) である。これにより、誰がどの著作物の権利を有しているのかが可視化できる。著作権は財産の一部であることから、土地・建物のように自由に著作権を相続・売却・貸与できるため、移転の処理件数は多く発生している。

また、民間の仲介機能としては著作権管理団体の存在が大きい。

合衆国著作権局

USCOはアメリカ議会図書館の一部局であり、議会図書館は連邦議会 (つまり立法府) の一組織である[註 43]。これは元々、議会図書館が世の中の著作物を広く収集し、新たな法律の作成・改正の際の調査分析に役立てるために存在しているからである[110]。著作権者の名義登録が不要になった現在でも、著作物の納付が義務付けられているのはこのためである。2018年度の実績報告によると[註 44]、議会や行政機関および一般からの議会図書館に対する問い合わせ件数は100万件を超える。また同年度のUSCOによる著作物の登録処理件数は56万件超、著作権者の移転処理件数は2万件超、著作物の登録申請のうち、96%は電子申請システム経由で提出されている。登録料収入は年3800万ドルに達している[111][110]

ベルヌ条約の批准に伴い、無方式主義を米国も採用するようになったことから[112]、著作権保護の観点ではUSCOへの著作物の登録は必須ではなくなった[註 45]。その反動で、著作物を利用したくとも許諾を求める相手が不明な著作物 (orphan works、直訳は孤児著作物) が増加し、著作物の社会利用が妨げられるジレンマを抱えるようになった[113]

さらにUSCOの責務は単なる管理業務に留まらず、著作権法のあり方に関して連邦議会に提言する立場にある[111]。特に20世紀最大と言われる1978年の改正法は、USCO局長だったバーバラ・リンガー英語版が立役者と言われ、草案作成から議会へのロビイング、そして可決まで21年を費やしたとされる[114][115]

またデジタルミレニアム著作権法 (DMCA) に基づき、ノーティス・アンド・テイクダウン手続がインターネット事業者の免責として定められているが、その通報先と通報窓口担当者をUSCOのデータベースに電子登録する仕組みを2016年12月より導入した[116]。このようにUSCOは著作権者と利用者の利害調整として広範な役割を果たしている。

著作権管理団体


著作権管理団体は著作権者に代わって著作物の利用ライセンスを販売したり、ライセンス料を徴収・分配する集中管理・決済機能を果たしており、音楽や映画、出版など業界別に複数の団体が米国に存在する[99]。単にUSCOに登録しただけでは、著作権者と利用者はN対Nの関係のままであり、利用許諾や利用料の徴収業務が多数発生して煩雑化してしまう。そこで、著作権管理団体が著作権者および著作隣接権者の窓口を担うことで、これが1対Nの関係となり、効率性が増す[117][118]。ただし、著作権管理団体は巨額のライセンス権を取り扱うことから、司法省の監督の元で反トラスト法 (米国の独占禁止法) の規制が一部掛かっている[99]

インターネットの普及に伴い、この構図が1対Nから1対1の関係にシフトする傾向が生まれた。つまり、権利者側の窓口が著作権管理団体なのに対し、利用者側の窓口をインターネットサービス事業者や携帯電話などの通信事業者が務める構図である[117]。音楽業界を例にとると、Amazon MusicSpotifyなどが著作権利用料込みで一般ユーザに課金し、それを一括して著作権管理団体に支払うマネーフローである。これらインターネットサービス事業者の市場における存在感が増すにつれ、著作権者や著作権管理団体との利害衝突も発生している。これに関しては米国よりも欧州連合 (EU) が先行しており、2019年4月可決・同年6月施行の「デジタル単一市場における著作権に関する指令」に基づき、EU加盟国は国内法を整備する義務を負い、権利者サイドとインターネットサービス事業者サイドの利害調整と単一化を目指している[119]

関連項目

註釈

  1. ^ 著作物の創作、複製、販売、実演などに直接関与する業界を「狭義」の著作権市場とした場合の米国年間市場規模。
  2. ^ さらに周辺産業を加えた広義の著作権市場では、2.2兆米ドル (対GDP比11.59%) に達する[1]
  3. ^ もっとも、コモンローを採用する米国では法律文面上 (成文法上) ではなく、判例で柔軟に保護を与えていることから、実質的に著作権の保護水準が低いかは検証の余地がある。著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)も参照のこと。
  4. ^ アダルト映画製作Malibu Mediaの1社だけで2012年から2016年の間に計5000件以上提訴していることから、この5年間の総件数の上振れ特殊要因となっているが、「年平均3000件前後」の数値からはMalibu Mediaの特殊要因は除している。
  5. ^ 例として、全米作家協会他対Google裁判が挙げられる。Googleブックスによる書籍のデジタルスキャンが世界的に行われていた結果、当裁判にはフランスやドイツ当局からも意見書が提出されている[8][9][10]
  6. ^ 大陸法の国々では、著作物とは著作者の人格を投影した成果物であることから、他の誰でもない著作者の所有物であり (人格理論)、著作物の創作にかかる労力に見合った利益を享受する権利がある (労働理論) とも考えられている。一方の米国においては、著作権は産業・文化の振興政策として付与されるものだとする「産業政策理論」に立脚している[12]。人格理論についてはドイツの法哲学者ヘーゲルを、労働理論についてはイギリスの哲学者ロックの政府二論を下敷きにしている[12]。その一方で、米国著作権法はイギリスのアン法を模倣しており、英米ともに、あくまで公共の学問・学術を奨励することが目的であり、その手段として著作権保護があると捉えられている[13]。その結果、著作権は英語ではCopyright (コピーする権利) と表現されるように、著作者以外に無断で複製させず、著作者の財産を守る権利だと狭義に捉えられてきた[14]
  7. ^ 2001年、日本政府から米国政府に対し、著作権の改善要求6項目が公式に提出されている。その内訳は、インターネット対応の送信可能化権の明記、未固定の著作物の保護、放送事業者の著作隣接権の保護、実演者の権利拡大、著作者人格権の権利拡大、貸与権 (レンタル) の権利拡大である[15]
  8. ^ 欧州連合 (EU) からはWTO協定違反であると指摘されている[14]
  9. ^ ベルヌ条約の批准が大幅に遅れた理由は、著作物を審査・登録せずとも著作権を自動的に認める「無方式主義」である。米国は方式主義を採用していたため、ベルヌ条約批准には国内法の整備調整に時間を要した。しかしこの無方式主義がベルヌ条約に採用されたのは、原条約の署名から22年後の1908年ベルリン改正時であり、かつ米国はベルヌ条約の原条約交渉の場には出席していた。したがって、ベルヌ条約に原加盟しなかったのは、無方式主義の問題とは関係なく、外交政策上のモンロー主義 (他国への不干渉政策) が理由だとされている[20]
  10. ^ 日米で比較すると、日本国憲法第41条~第64条が「国会」に関する記述であるが、主に国会の運営方法について定められており、国会が有する権限 (なすべき役割) として著作権あるいはその上位概念の知的財産権保護という文言は登場しない[23]。日本以外の多くの国でも、著作権の法源が憲法にまで遡ることはない[24]
  11. ^ 知的財産権は著作権 (文化の創造と表現の保護) と、特許権などの産業財産権 (産業アイディアを促進) に分けられる。合衆国憲法の第1条第8項第8節は、Copyright Clauseと一般的には呼ばれることが多いが、著作権と産業財産権の双方を包含した知的財産権全般を指している条項であることから、Intellectual Property Clauseの方がより正確である。
  12. ^ もっとも、連邦議会への法案提出は他国と比較して容易であるため、著作権法に限らず全体的に廃案が多い。1973年1月~2019年1月の会期を通算すると、著作権法を含むすべての法案 (Bill) および両院合同決議 (Joint resolution) の可決率合計は1割前後である[25]
  13. ^ フェアユースは第107条を、その他個別の例外規定は第108~122条を参照のこと。
  14. ^ 詳細は著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国) を参照のこと。
  15. ^ 一部は条約の水準を満たしておらず他国から条約違反が指摘されている。
  16. ^ WTOに加盟すると自動的にTRIPS協定の順守義務を負う。
  17. ^ 著作財産権のうち、映画などの固定著作物については、複製権・頒布権・貸与権・公表権の4種を、ライブ実演などの未固定著作物については、公衆送信権、公表権、および著作物の固定化の3種を認めており、固定と未固定で対応が異なる[41]
  18. ^ 30か国以上が批准または加入手続を完了してから発効されるため[41]
  19. ^ a b c 1910年当初の署名国はアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、キューバ、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、アメリカ合衆国、ウルグアイ、ベネズエラの20か国である[43]。その後国内での批准をキューバ、エルサルバドルとベネズエラの3か国が行わず、署名時には参画していなかったボリビアが後に批准したため、ブエノスアイレス条約の加盟国は計18か国となっている[44]
  20. ^ ローマ条約未加盟の理由として、合衆国憲法の特許著作権条項 (Copyright Clause) に基づき、未固定の著作物は保護しない方針だったことから、実演や放送著作物の保護を見送ったとの説もあるが、不確実性を残した表現に留まっている[49]
  21. ^ 著作物の利用者は、著作物を知覚してアイディアを学ぶことは許されており、著作権侵害にはならない。しかしコンピュータ・プログラムの場合、端末にプログラムをインストールする (またはインストールされたサーバーにアクセスする) ことでしか知覚できない。このインストールの行為が、著作権法上の複製権 (著作権者が他者に無断でコピーされない権利) に該当することから、コンピュータ・プログラムも著作権で保護されるという法的ロジックになっている[53]
  22. ^ 条文内の専門用語は、合衆国著作権局 (USCO) による定義解説に準拠する[55]。各種用語の日本語訳は、公益社団法人著作権情報センターの表記を一部参照しつつ[56]日本国著作権法で多用される一般的な著作権用語に一部置き換えている。
  23. ^ 例えば20世紀に入ってから世に登場した半導体チップ製品は、その著作権について第9章にまとめて追記されている。その一方で、衛星放送によるテレビ番組の遠隔二次放送に関しては、第1章の第119条に規定されている。この第119条には章名に呼応した著作権保護の範囲だけでなく、著作権侵害発生時の救済手段、放送コンテンツの使用許諾の手続やUSCOへの支払明細書の送付方法など、他章に横断する委細が記述されている。
  24. ^ 著作権者の支分権はもともと5種類だったが、録音物に対しては実演権が与えられていなかったことから、放送局との既得権益との妥協を経て、1995年制定の著作権法改正 (デジタル実演権法、The Digital Performance Right in Sound Recordings Act of 1995) が成立し、6種類目としてデジタル実演権が追加された[57]
  25. ^ Originalityは一般的な日本語訳として「独創性」や「斬新さ」が充てられることがあるが、米国では発明といった新規性は特許法などで審査・保護されており、著作権法上では新規性の有無は問われない。偶然にも著作物の表現が似通ってしまったとしても、Originalityはあるとして著作権保護される。したがって、米国著作権法上のOriginalityには「創作性」の訳が充てられている。
  26. ^ この判例では、小説や戯曲といった言語著作物におけるキャラクターやタイトルは著作権保護の対象にならないとしている。しかし、1930年に第2巡回区控訴裁が下した「ニコルズ対ユニバーサル・ピクチャーズ裁判」と比較して、キャラクター保護の制限が厳格であり、ワーナー対CBS裁判で示された基準を満たせる言語著作のキャラクターはほぼ存在しないことから、後の判例や法学者から広く支持されてはいないとの指摘もある[62]
  27. ^ 州法法令集の著作権を巡っては、ジョージア州対マラムッド裁判などが起こっている。2015年7月、ジョージア州はPublic.Resource.Org英語版の創設者でありオープンコンテンツ推進の活動家でもあるカール・マラムッド英語版を相手取り、著作権侵害でアトランタの連邦裁判所に提訴した。訴状によると、注釈付きのジョージア州法をマラムッド自身のウェブサイトに掲載した著作権侵害は「テロ行為」(terrorism) だとジョージア州は糾弾しているものの、両者の主張は対立している[68][69]
  28. ^ 旧法では未発表の著作物、および既発表でも著作権表示や延長更新手続を怠った著作物は、著作権法の保護対象外であった。
  29. ^ a b 下表の解説対象は未発表または米国内で初めて発表された著作物 (但し録音物および建築物を除く) に限る。
  30. ^ 1976年制定の改正法が1978年1月1日より施行され、未発表著作物も保護対象となった他、著作権表示や登録などの手続が保護要件から外されたほか、著作権保護期間が全般的に延伸した。またソニー・ボノ著作権延長法によりさらに期間が延伸し、下表の状況に至る。
  31. ^ Copyright Act of 1976 (1976年制定の改正法) が1978年1月1日より施行、Berne Convention Implementation Act of 1988 (1988年制定のベルヌ条約履行法) が1989年3月1日より施行。
  32. ^ ここでの「最初の保護期間」であるが、1976年制定の著作権改正法以前は、保護期間が28年 + 更新延長28年の2段階方式に設定されており、「最初」は前者を指している。最初の保護期間が満了した時点で著作者が生存していれば、更新延長が可能であった。
  33. ^ publishは「発表」や「公表」以外に「発行」の日本語訳が充てられることがあるが、いずれにしても紙で印刷された著作物に限定されない。
  34. ^ 原文は"Publication" is the distribution of copies or phonorecords of a work to the public by sale or other transfer of ownership, or by rental, lease, or lending. The offering to distribute copies or phonorecords to a group of persons for purposes of further distribution, public performance, or public display, constitutes publication. A public performance or display of a work does not of itself constitute publication.である。
  35. ^ ただし個別ケースの判断においてはUSCOのCircular (手引書) を参照するよう推奨している。Circular 66では、ウェブサイトおよびそのコンテンツに関する著作権登録について記述されている[74]
  36. ^ 用語の定義が記された第101条において、"The terms "including" and "such as" are illustrative and not limitative." (includingやsuch asといった表現はイメージの例示であり、例以外を排除するものではない) と記されている。
  37. ^ 「侵害者が知らずに」の例として、第107条のフェアユースが挙げられている。侵害者は自らの行為がフェアユースだと信じていて、かつその侵害者が非営利の教育機関、図書館、資料館、あるいは公共放送事業者であった場合、減額される。
  38. ^ 法学におけるセーフハーバー (safe harbor、安全な港) とは、ある一定条件下での行為であれば違法ではないとする例外規定のことである。例えば土地の所有者に対して、土地面積を計測して報告する義務を課す州法が新たに成立したとする。後に報告された面積が実態と乖離していたら、罰金を科すのを原則とする。ただしこの乖離が計測器の不備や外部委託業者の不手際で生じた場合、土地所有者に対する罰金は免ぜられる。このような免責をセーフハーバー条項と呼ぶ[79]
  39. ^ 著作者人格権の一部である同一性保持権と氏名表示権については、ベルヌ条約発効時の原条約には含まれていなかったものの、1928年のローマ改正時に追加となっている。
  40. ^ 1790年以前もマサチューセッツ州ペンシルベニア州ニューハンプシャー州コネチカット州メリーランド州といった一部の州では州法レベルで著作権を成文化していた[96]
  41. ^ "Act of 西暦年"となっているがこれらは法律の制定年であり、施行年ではない。例えばCopyright Act of 1976は1976年に連邦議会で可決されて制定されたものの、施行は1978年1月1日である。
  42. ^ 「1976年制定の著作権法 (Copyright Act of 1976) が現行法である」との記述が一部見受けられるが、これは誤りである。1790年の初回立法以外はほぼ部分修正・加筆の改訂法であり、1976年制定の改正法もその後一部が上書きされている。米国連邦法は、まず連邦議会に法案 (Bill) が提出され、可決・承認されると制定法 (Act) になり、現行法に修正・加筆がなされて更新されるプロセスを経る。したがって、著作権法の現行法全量は主に合衆国法典第17編のことを指し、Copyright Act of 1976など初回立法以外のActには改正の差分しか含まれていない。
  43. ^ 日本の類似機能としては、文化庁著作権課 (前身は文部省文化局) がこれに該当するが、文化庁著作権課が行政府の一機能であるのに対し、USCOは組織定義上は立法府の一機関という差異がある。
  44. ^ 米国政府のfiscal yearは暦年とは一致しておらず、2018年度とは2017年10月~2018年9月を指す。
  45. ^ ただし著作権侵害などで訴訟を起こす際には、米国籍の著作者あるいは米国で発表された著作物に限り、USCOへの著作物の事前登録が必要となる[112]

出典

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引用文献

主要文献
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  • Leaffer, Marshall A. 著、牧野和夫 訳『アメリカ著作権法』レクシスネクシス・ジャパン〈LexisNexis アメリカ法概説 (5)〉、2008年(原著2005年)。ISBN 978-4-8419-0509-0  - "Understanding Copyright Law, 4th edition" の日本語訳。著作権侵害の判定基準や法理、実際の判例などが充実した、ロースクールの教科書的解説
  • 岡本薫『著作権の考え方』岩波書店〈岩波新書 (新赤版) 869〉、2003年。ISBN 4-00-430869-0  - 著作権の基本的な考え方を紹介するとともに、日本の文化庁国際著作権課長などの職務経験から、米国著作権法も主に批判的見地で解説
  • 松川実『アメリカ著作権法の形成』日本評論社〈青山学院大学法学叢書 第2巻〉、2014年。ISBN 978-4-535-52052-3  - 米国のイギリス植民地時代から1790年の連邦初の米国著作権法成立までの歴史と思想を解説
補完的文献

外部リンク