「ヤヌス (衛星)」の版間の差分
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| 画像ファイル = Janus 2006 closeup by Cassini.jpg |
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| 画像サイズ = 250px |
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| 画像説明 = [[カッシーニ (探査機)|カッシーニ]]が[[土星]]を背に撮影したヤヌス。 |
| 画像説明 = [[カッシーニ (探査機)|カッシーニ]]が2006年に[[土星]]を背景にして撮影したヤヌス。 |
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| 画像背景色 = |
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| 仮符号・別名 = '''Saturn X''', S 10<br />S/1966 S 2<br />S/1979 S 2<br />S/1980 S 1<br />S/1980 S 2 |
| 仮符号・別名 = '''Saturn X''', S 10<br />S/1966 S 2<br />S/1979 S 2<br />S/1980 S 1<br />S/1980 S 2 |
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| 視等級 = 14.4(平均) |
| 視等級 = 14.4(平均) |
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| 視直径 = |
| 視直径 = |
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| 分類 = 衛星 |
| 分類 = [[土星の衛星]] |
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| 軌道の種類 = F環とG環の間・<br />[[エピメテウス (衛星)|エピメテウス]]との<br />共有軌道 |
| 軌道の種類 = F環とG環の間・<br />[[エピメテウス (衛星)|エピメテウス]]との<br />共有軌道 |
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{{天体 発見 |
{{天体 発見 |
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| 色 = 衛星 |
| 色 = 衛星 |
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| 発見日 = [[1966年]] |
| 発見日 = [[1966年]]12月15日<ref name="NASA"/> |
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| 発見者 = [[オドゥワン・ドルフュス|A. ドルフュス]] |
| 発見者 = [[オドゥワン・ドルフュス|A. ドルフュス]] |
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| 発見方法 = |
| 発見方法 = |
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| 色 = 衛星 |
| 色 = 衛星 |
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| 元期 = |
| 元期 = |
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| 平均公転半径 = 151,460 ± 10 km |
| 平均公転半径 = 151,460 ± 10 km<ref name="Spitale+2006"/> |
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| 近点・遠点対象 = 土 |
| 近点・遠点対象 = 土 |
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| 近点距離 = 150,400 km |
| 近点距離 = 150,400 km |
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| 遠点距離 = 152,500 km |
| 遠点距離 = 152,500 km |
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| 離心率 = 0.0068 |
| 離心率 = 0.0068<ref name="Spitale+2006"/> |
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| 公転周期 = 16 時間 40 分 18 秒 |
| 公転周期 = 0.694660342 日<ref name="Spitale+2006"/><br/>(16 時間 40 分 18 秒) |
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| 軌道傾斜角 = 0. |
| 軌道傾斜角 = 0.163° ± 0.004°<ref name="Spitale+2006"/> |
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| 近日点引数 = 16.012°<ref name="jplssd"/> |
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| 昇交点黄経 = 154.175°<ref name="jplssd"/> |
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| 平均近点角 = 17.342°<ref name="jplssd"/> |
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| 主惑星 = [[土星]] |
| 主惑星 = [[土星]] |
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{{天体 物理 |
{{天体 物理 |
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| 色 = 衛星 |
| 色 = 衛星 |
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| 三軸径 = |
| 三軸径 = 203 × 185 × 152.6 km<ref name="Thomas2010"/> |
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| 平均半径 = 89.5 ± 1.4 km<ref name="Thomas2010"/> |
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| 表面積 = |
| 表面積 = |
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| 体積 = |
| 体積 = |
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| 質量 = |
| 質量 = 1.8975 ± 0.0012 {{e|18}} kg<ref name="Thomas2010"/> |
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| 相対対象 = 土星 |
| 相対対象 = 土星 |
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| 相対質量 = 3.36 {{e|-9}} |
| 相対質量 = 3.36 {{e|-9}} |
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| 平均密度 = 0. |
| 平均密度 = 0.63 ± 0.03 [[グラム毎立方センチメートル|g/cm<sup>3</sup>]]<ref name="Thomas2010"/> |
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| 表面重力 = |
| 表面重力 = 0.011–0.017 [[メートル毎秒毎秒|m/s<sup>2</sup>]]<ref name="Thomas2010"/> |
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| 脱出速度 = |
| 脱出速度 = |
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| 自転周期 = 16 時間 40 分 18 秒<br />(公転と同期) |
| 自転周期 = 16 時間 40 分 18 秒<br />(公転と同期) |
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| アルベド = 0.71 |
| アルベド = 0.71 ± 0.02<ref name="Verbiscer+2007"/> |
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| 赤道傾斜角 = 0 度 |
| 赤道傾斜角 = 0 度 |
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| 表面温度 = |
| 表面温度 = |
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| 色 = 衛星 |
| 色 = 衛星 |
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'''ヤヌス''' ( |
'''ヤヌス''' (Saturn X Janus) は、[[土星]]の第10[[土星の衛星|衛星]]である。同時期に発見された土星の第11衛星[[エピメテウス (衛星)|エピメテウス]]と軌道を共有する特殊な状態にあることが知られている。詳しくはエピメテウスの記事も参照のこと。 |
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第11衛星[[エピメテウス (衛星)|エピメテウス]]と公転軌道を共有している。詳しくはエピメテウスの記事を参照のこと。 |
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== 発見の経緯 == |
== 発見の経緯 == |
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=== 初期の発見報告 === |
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土星の10番目の衛星は、[[20世紀]]初頭にその発見が報告されていながら、長らくその存在が確認されなかった'''幻の衛星'''だった。 |
土星の10番目の衛星は、[[20世紀]]初頭にその発見が報告されていながら、長らくその存在が確認されなかった'''幻の衛星'''だった。 |
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[[19世紀]]末に、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の天文学者[[ウィリアム・ヘンリー・ピッカリング]]が第9衛星[[フェーベ (衛星)|フェーベ]]を発見したが、程なくしてピッカリングは自分が撮影した写真乾板より新たな衛星を発見したと主張し、'''[[テミス (衛星)|テミス]]'''と名 |
[[19世紀]]末に、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の天文学者[[ウィリアム・ヘンリー・ピッカリング]]が第9衛星[[フェーベ (衛星)|フェーベ]]を発見したが、程なくしてピッカリングは自分が撮影した写真乾板より新たな衛星を発見したと主張し、'''[[テミス (衛星)|テミス]]'''と名付けた<ref name="Pickering1905"/>。ところがその後、誰もテミスを確認することができなかった。そのため、テミスはピッカリングの誤報だったとされている。 |
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テミス騒動より60年後の[[1966年]]になって、[[フランス]]の天文学者[[オドゥワン・ドルフュス]]によって新たな衛星の発見が報告された。当初テミスの再発見かと思われたが全く別の衛星で、ヤヌスと名 |
テミス騒動より60年後の[[1966年]]12月15日になって、[[フランス]]の天文学者[[オドゥワン・ドルフュス]]によって新たな衛星の発見が報告された<ref name="Gingerich1967"/>。当初テミスの再発見かと思われたが全く別の衛星で、ドルフュスはヤヌスという名称を提案した<ref name="Gingerich1967c"/>。これで土星の第10衛星が実在することが確認されたのである。ところがヤヌスもテミス同様、同年のリチャード・ウォーカーらの報告を除いて<ref name="Gingerich1967b"/>、その後誰にも確認されることがなく、またも幻の衛星なのか、土星には第10衛星は存在しないのかと悲観的な見方が強まった。 |
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なおウォーカーらが報告したものはヤヌスと公転軌道を共有する別の衛星であったことが後に判明しており、'''エピメテウス'''と名づけられている<ref name="Marsden1983"/>。発見報告当初は同じ軌道に天体は一つしか存在しないと考えられたため同一視されていたが、ドルフュスが発見した天体とウォーカーが発見した天体が同じ軌道を共有する別の天体であった可能性は[[1978年]]に Stephen M. Larson と John W. Fountain によって指摘されている<ref name=Fountain+Larson1978/>。 |
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問題の解決を見たのは、[[1979年]]から[[1980年]]にかけて行われた無人探査機[[パイオニア11号]]による土星探査ミッションによってであった。この間、パイオニア11号は幾つかの新衛星を発見しており、その後の分析でうち3つの衛星は同一のものであり、さらにこれがドルフュスが発見したヤヌスと同じものであることが判明した。そのため、パイオニア11号の接近の際にヤヌスは3回も'''発見'''されたことになり、最初に発見されたときのものと合わせて4つの仮符号を持つことになった。これでようやく、ヤヌスの実在が確定した。 |
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=== 再発見 === |
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問題の解決を見たのは、[[1979年]]から[[1980年]]にかけての多数の観測によってである。これらには地上からの観測だけではなく、無人探査機[[パイオニア11号]]や[[ボイジャー1号]]による土星探査ミッションも含んでいる。まずはパイオニア11号が撮影した画像の中に衛星と思われる天体が発見され、S/1979 S 1 という[[仮符号]]が与えられた<ref name="Marsden1979"/>。さらにこれとは独立に近くの天体によるエネルギー粒子の吸収が検知され、こちらには S/1979 S 2 という仮符号が与えられた<ref name="Marsden1979"/>。軌道の位置からこの2つは同じ天体であると考えられ、またドルフュスが発見した天体と軌道が類似していることが指摘された<ref name="Marsden1979"/>。 |
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さらにその後、1980年2月19日には[[アメリカ海軍天文台]]の Dan Pascu が 66 cm 口径の望遠鏡を用いて衛星を発見しており、これには S/1980 S 1 いう仮符号が与えられた<ref name="Marsden1980"/>。程なくして2月23日には Fountain、Larson、Harold J. Reitsema、Bradford A. Smith によって S/1980 S 2 の発見が報告され、これは Pascu が発見したものと同一の天体である可能性が高く、またドルフュスが発見した天体の軌道とほぼ一致することも分かった<ref name="Marsden1980b"/>。 |
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最終的に、ドルフュスが発見した天体とこれらの天体は同じものであることが確認された<ref name="Marsden1980b"/><ref name="Marsden1980c"/><ref name="Marsden1980d"/><ref name="Marsden1980e"/>。なお[[国際天文学連合]]の天体の命名に関するワーキンググループでは、ヤヌスを再発見した Pascu もドルフュスと並んで発見者として扱われている<ref name="planetarynames"/>。 |
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== 名称 == |
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ヤヌスの名前は、[[ローマ神話]]の出入口と扉の双面神[[ヤーヌス]]に由来する<ref name="NASA"/>。先述の通り、発見者のドルフュスが発見後まもない頃に提案した名称である<ref name="Gingerich1967c"/>。国際天文学連合によって正式に名称が承認されたのは[[1983年]]9月30日だが<ref name="Marsden1983"/>、それまでの間も使用されていた。名称が承認されると同時に '''Saturn X''' という確定番号も与えられているが、この呼び方も正式に付与される以前から慣習的に使用されていた<ref name="Gingerich1967c"/><ref name="Marsden1983"/>。なお、エピメテウスも同じタイミングで正式に命名されている。 |
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発見の経緯でも述べたようにヤヌスは複数回「発見」されているため、多くの仮符号を持つ。ドルフュスによる初めての発見に伴う仮符号は '''S/1966 S 2''' である。その後のパイオニア11号や地上観測により、S/1979 S 1<ref name="Marsden1979"/>、S/1979 S 2<ref name="Marsden1979"/>、S/1980 S 1<ref name="Marsden1980"/>、S/1980 S 2<ref name="Marsden1980b"/>、S/1980 S 9<ref name="Marsden1980d"/> という仮符号が与えられている。なおパイオニア11号によって発見された S/1979 S 1 に関してはヤヌスではなくエピメテウスと同一とする見解があるものの、確実ではない<ref name="Marsden1980e"/>。 |
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== エピメテウスとの軌道の共有 == |
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[[ファイル:JanusEpimetheus.gif|thumb|right|300px|ヤヌスとエピメテウスの軌道の交換。互いに接近する4年ごとにお互いの軌道を入れ替えている。]] |
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[[ファイル:Epimetheus-Janus Orbit.png|thumb|300px|馬蹄形の軌道 ( Horseshoe orbit )で公転するヤヌスとエピメテウスの動きを描いた2.5次元で描いた図。]] |
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[[ファイル:Animation of Epimetheus orbit - Rotating reference frame.gif|thumb|300px|馬蹄形の軌道 ( Horseshoe orbit )で公転するヤヌスとエピメテウスの動きを動画で描いた図。<br>{{legend2| Darkkhaki| 土星}}{{·}}{{legend2| Lime| ヤヌス }}{{·}}{{legend2|Magenta|エピメテウス}}]] |
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ヤヌスはエピメテウスと公転軌道を共有しており、およそ4年ごとに接近して軌道を「交換」している<ref name="DancingMoon"/>。これは[[軌道力学]]の観点から見ると、ヤヌスとエピメテウスが 1:1 の[[軌道共鳴|平均運動共鳴]]をしているという状態に相当する<ref name="NAOJ_koyomi"/>。そのため、お互いに衝突することなく安定して土星の周りを公転している。このような軌道共有関係にある天体は、ヤヌスとエピメテウスの他には発見されていない<ref name="ElMoutamid+2016"/>。 |
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{{詳細記事|エピメテウス_(衛星)#ヤヌスとの軌道の共有|{{仮リンク|馬蹄形軌道|en|Horseshoe orbit}}}} |
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== 物理的特徴 == |
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ヤヌスの表面は多くの[[クレーター]]に覆われており、そのうちいくつかは直径 30 km を超える大きさを持つ。ヤヌスの主要なクレーターには、Castor、Phoebe、Idas、Lynceus という名前が付けられている<ref name="NASA"/>。また[[火星]]の衛星[[フォボス (衛星)|フォボス]]にも見られるような複数の溝 (groove) も発見されており、かすめるような衝突を経験したことを示唆している。ヤヌスとエピメテウスは共通の母天体の破壊によって形成されたとする考えがある。もしこれが正しい場合、破壊は惑星・衛星形成の初期段階で発生したはずである。これは表面のクレーターから推定されるヤヌスとエピメテウスの表面は非常に古いというのが根拠である<ref name="NASA"/>。 |
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天体の大部分は氷で出来ていると考えられるが、ヤヌスの平均密度は 0.63 g/cm<sup>3</sup> であり<ref name="Thomas2010"/>、これは氷の密度よりも低い。そのためヤヌスは、衝突で発生した破片が重力でゆるく集まって出来た[[ラブルパイル天体]]であると考えられる<ref name="NASA"/>。アルベドが非常に高い値であることも、この天体の主成分が氷であることを支持している<ref name="Verbiscer+2007"/>。 |
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== 土星の環との関係 == |
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[[2006年]]の土星探査機[[カッシーニ (探査機)|カッシーニ]]による前方散乱光の観測で、ヤヌスとエピメテウスが公転している領域に[[土星の環#ヤヌス/エピメテウス環|薄い塵の環]]が存在することが判明した。この環はヤヌス/エピメテウス環と呼ばれており、半径方向に 5,000 km ほどの広がりを持っている<ref name="MoonMadeRings"/>。この環は、ヤヌスとエピメテウス表面への隕石衝突によって発生した塵が公転軌道周辺にばらまかれた結果として形成されていると考えられる<ref name="Cassini_eclipse2"/><ref name="AstroArts"/>。 |
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また、ヤヌスはエピメテウスと共に[[土星の環]]の[[土星の環#A環|A環]]の維持に関与していることが分かっている。両者は共にA環からはやや離れているが、7:6 の軌道共鳴によってA環の明瞭な縁を形作っていると考えられている<ref name="Lakdawalla2007"/>。共鳴を起こす軌道は「内側の軌道」であり、質量の大きいヤヌスが内側の軌道にいる時の方がこの影響が顕著である<ref name="ElMoutamid+2016"/>。 |
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== 出典 == |
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{{reflist|2|refs= |
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<ref name="Spitale+2006">{{cite journal| doi = 10.1086/505206| last1 = Spitale| first1 = J. N.| last2 = Jacobson| first2 = R. A.| last3 = Porco| first3 = C. C.| last4 = Owen| first4 = W. M., Jr.| year = 2006| title = The orbits of Saturn's small satellites derived from combined historic and ''Cassini'' imaging observations| journal = The Astronomical Journal| volume = 132| issue = 2| pages = 692–710| url = http://iopscience.iop.org/1538-3881/132/2/692/pdf/1538-3881_132_2_692.pdf| pmid = | pmc = | bibcode = 2006AJ....132..692S}}</ref> |
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<ref name="Thomas2010">{{cite journal| doi = 10.1016/j.icarus.2010.01.025| last1 = Thomas| first1 = P. C.| date = 2010-07| title = Sizes, shapes, and derived properties of the saturnian satellites after the Cassini nominal mission| journal = Icarus| volume = 208| issue = 1| pages = 395–401| pmid = | pmc = | url = http://www.ciclops.org/media/sp/2011/6794_16344_0.pdf| bibcode = 2010Icar..208..395T}}</ref> |
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<ref name="NAOJ_koyomi">{{cite web | url = https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B6A6CCC4.html | title = 暦Wiki/共鳴 - 国立天文台暦計算室 | author = | authorlink = | coauthors = | date = | format = | work = 暦計算室 | publisher = [[国立天文台]] | pages = | language = | archiveurl = | archivedate = | quote = | accessdate = 2018-11-25}}</ref> |
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== 関連項目 == |
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2018年12月31日 (月) 02:29時点における版
ヤヌス Janus | |
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仮符号・別名 | Saturn X, S 10 S/1966 S 2 S/1979 S 2 S/1980 S 1 S/1980 S 2 |
見かけの等級 (mv) | 14.4(平均) |
分類 | 土星の衛星 |
軌道の種類 | F環とG環の間・ エピメテウスとの 共有軌道 |
発見 | |
発見日 | 1966年12月15日[1] |
発見者 | A. ドルフュス |
軌道要素と性質 | |
平均公転半径 | 151,460 ± 10 km[2] |
近土点距離 (q) | 150,400 km |
遠土点距離 (Q) | 152,500 km |
離心率 (e) | 0.0068[2] |
公転周期 (P) | 0.694660342 日[2] (16 時間 40 分 18 秒) |
軌道傾斜角 (i) | 0.163° ± 0.004°[2] |
近日点引数 (ω) | 16.012°[3] |
昇交点黄経 (Ω) | 154.175°[3] |
平均近点角 (M) | 17.342°[3] |
土星の衛星 | |
物理的性質 | |
三軸径 | 203 × 185 × 152.6 km[4] |
平均半径 | 89.5 ± 1.4 km[4] |
質量 | 1.8975 ± 0.0012 ×1018 kg[4] |
土星との相対質量 | 3.36 ×10−9 |
平均密度 | 0.63 ± 0.03 g/cm3[4] |
表面重力 | 0.011–0.017 m/s2[4] |
自転周期 | 16 時間 40 分 18 秒 (公転と同期) |
アルベド(反射能) | 0.71 ± 0.02[5] |
赤道傾斜角 | 0 度 |
大気圧 | 0 kPa |
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ヤヌス (Saturn X Janus) は、土星の第10衛星である。同時期に発見された土星の第11衛星エピメテウスと軌道を共有する特殊な状態にあることが知られている。詳しくはエピメテウスの記事も参照のこと。
発見の経緯
初期の発見報告
土星の10番目の衛星は、20世紀初頭にその発見が報告されていながら、長らくその存在が確認されなかった幻の衛星だった。
19世紀末に、アメリカの天文学者ウィリアム・ヘンリー・ピッカリングが第9衛星フェーベを発見したが、程なくしてピッカリングは自分が撮影した写真乾板より新たな衛星を発見したと主張し、テミスと名付けた[6]。ところがその後、誰もテミスを確認することができなかった。そのため、テミスはピッカリングの誤報だったとされている。
テミス騒動より60年後の1966年12月15日になって、フランスの天文学者オドゥワン・ドルフュスによって新たな衛星の発見が報告された[7]。当初テミスの再発見かと思われたが全く別の衛星で、ドルフュスはヤヌスという名称を提案した[8]。これで土星の第10衛星が実在することが確認されたのである。ところがヤヌスもテミス同様、同年のリチャード・ウォーカーらの報告を除いて[9]、その後誰にも確認されることがなく、またも幻の衛星なのか、土星には第10衛星は存在しないのかと悲観的な見方が強まった。
なおウォーカーらが報告したものはヤヌスと公転軌道を共有する別の衛星であったことが後に判明しており、エピメテウスと名づけられている[10]。発見報告当初は同じ軌道に天体は一つしか存在しないと考えられたため同一視されていたが、ドルフュスが発見した天体とウォーカーが発見した天体が同じ軌道を共有する別の天体であった可能性は1978年に Stephen M. Larson と John W. Fountain によって指摘されている[11]。
再発見
問題の解決を見たのは、1979年から1980年にかけての多数の観測によってである。これらには地上からの観測だけではなく、無人探査機パイオニア11号やボイジャー1号による土星探査ミッションも含んでいる。まずはパイオニア11号が撮影した画像の中に衛星と思われる天体が発見され、S/1979 S 1 という仮符号が与えられた[12]。さらにこれとは独立に近くの天体によるエネルギー粒子の吸収が検知され、こちらには S/1979 S 2 という仮符号が与えられた[12]。軌道の位置からこの2つは同じ天体であると考えられ、またドルフュスが発見した天体と軌道が類似していることが指摘された[12]。
さらにその後、1980年2月19日にはアメリカ海軍天文台の Dan Pascu が 66 cm 口径の望遠鏡を用いて衛星を発見しており、これには S/1980 S 1 いう仮符号が与えられた[13]。程なくして2月23日には Fountain、Larson、Harold J. Reitsema、Bradford A. Smith によって S/1980 S 2 の発見が報告され、これは Pascu が発見したものと同一の天体である可能性が高く、またドルフュスが発見した天体の軌道とほぼ一致することも分かった[14]。
最終的に、ドルフュスが発見した天体とこれらの天体は同じものであることが確認された[14][15][16][17]。なお国際天文学連合の天体の命名に関するワーキンググループでは、ヤヌスを再発見した Pascu もドルフュスと並んで発見者として扱われている[18]。
名称
ヤヌスの名前は、ローマ神話の出入口と扉の双面神ヤーヌスに由来する[1]。先述の通り、発見者のドルフュスが発見後まもない頃に提案した名称である[8]。国際天文学連合によって正式に名称が承認されたのは1983年9月30日だが[10]、それまでの間も使用されていた。名称が承認されると同時に Saturn X という確定番号も与えられているが、この呼び方も正式に付与される以前から慣習的に使用されていた[8][10]。なお、エピメテウスも同じタイミングで正式に命名されている。
発見の経緯でも述べたようにヤヌスは複数回「発見」されているため、多くの仮符号を持つ。ドルフュスによる初めての発見に伴う仮符号は S/1966 S 2 である。その後のパイオニア11号や地上観測により、S/1979 S 1[12]、S/1979 S 2[12]、S/1980 S 1[13]、S/1980 S 2[14]、S/1980 S 9[16] という仮符号が与えられている。なおパイオニア11号によって発見された S/1979 S 1 に関してはヤヌスではなくエピメテウスと同一とする見解があるものの、確実ではない[17]。
エピメテウスとの軌道の共有
ヤヌスはエピメテウスと公転軌道を共有しており、およそ4年ごとに接近して軌道を「交換」している[19]。これは軌道力学の観点から見ると、ヤヌスとエピメテウスが 1:1 の平均運動共鳴をしているという状態に相当する[20]。そのため、お互いに衝突することなく安定して土星の周りを公転している。このような軌道共有関係にある天体は、ヤヌスとエピメテウスの他には発見されていない[21]。
物理的特徴
ヤヌスの表面は多くのクレーターに覆われており、そのうちいくつかは直径 30 km を超える大きさを持つ。ヤヌスの主要なクレーターには、Castor、Phoebe、Idas、Lynceus という名前が付けられている[1]。また火星の衛星フォボスにも見られるような複数の溝 (groove) も発見されており、かすめるような衝突を経験したことを示唆している。ヤヌスとエピメテウスは共通の母天体の破壊によって形成されたとする考えがある。もしこれが正しい場合、破壊は惑星・衛星形成の初期段階で発生したはずである。これは表面のクレーターから推定されるヤヌスとエピメテウスの表面は非常に古いというのが根拠である[1]。
天体の大部分は氷で出来ていると考えられるが、ヤヌスの平均密度は 0.63 g/cm3 であり[4]、これは氷の密度よりも低い。そのためヤヌスは、衝突で発生した破片が重力でゆるく集まって出来たラブルパイル天体であると考えられる[1]。アルベドが非常に高い値であることも、この天体の主成分が氷であることを支持している[5]。
土星の環との関係
2006年の土星探査機カッシーニによる前方散乱光の観測で、ヤヌスとエピメテウスが公転している領域に薄い塵の環が存在することが判明した。この環はヤヌス/エピメテウス環と呼ばれており、半径方向に 5,000 km ほどの広がりを持っている[22]。この環は、ヤヌスとエピメテウス表面への隕石衝突によって発生した塵が公転軌道周辺にばらまかれた結果として形成されていると考えられる[23][24]。
また、ヤヌスはエピメテウスと共に土星の環のA環の維持に関与していることが分かっている。両者は共にA環からはやや離れているが、7:6 の軌道共鳴によってA環の明瞭な縁を形作っていると考えられている[25]。共鳴を起こす軌道は「内側の軌道」であり、質量の大きいヤヌスが内側の軌道にいる時の方がこの影響が顕著である[21]。
出典
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