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{{otheruses|気象現象の「雨」|その他の作品名などの「雨」}}
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[[ファイル:22 Regen ubt.jpeg|thumb|200px|降雨]]
[[File:22 Regen ubt.jpeg|thumb|300px|降雨]]
[[ファイル:Here comes rain again.jpg|thumb|200px|ファルト上降り水紋を作る雨]]
[[File:Thirsk_MMB_01_A170_Sutton_Road.jpg|thumb|300px|車の窓ガラスに付いた]]
'''雨'''(あめ)とは、[[地球の大気|大気]]から[[水]]の[[滴]]が落下する現象で、[[降水]]現象および[[天気]]の一種<ref>[[#NMB|岩槻]]、p216</ref><ref>[[#hpc|気象観測の手引き]]、p61</ref>。また、落下する水滴そのもの(雨粒)のこと<ref name="GMEN-ame">[[#GMEN|グランド現代大百科事典]]、大田正次『雨』p412-413</ref>。大気に含まれる[[水蒸気]]が源であり、冷却されて凝結した微小な水滴が[[雲]]を形成、雲の中で水滴が成長し、やがて[[重力]]により落下してくるものである。ただし、成長の過程で一旦[[凍結]]し[[氷晶]]を経て再び[[融解]]するものもある<ref>[[#WHC|荒木]]、p42-43</ref>。地球上の[[水循環]]を構成する最大の[[淡水]]供給源で、[[生態系]]に多岐にわたり関与するほか、[[農業]]や[[水力発電]]などを通して人類の生活にも関与している<ref name="GMEN-ame"/><ref name="WEN-ame"/>。
[[File:RainAmsterdamTheNetherlands.jpg|thumb|200px|窓ガラスに滴る雨の粒]]
'''雨'''(あめ)とは、[[空]]から水滴が落ちてくる[[天候]]のこと。また、その水滴。


== 雨の形成 ==
{{右|[[ファイル:Watercyclejapanese.jpg|thumb|180px|水循環]]
[[ファイル:Steigungsregen.jpg|thumb|180px|冷たい雨の一例]]
[[File:Watercyclejapanese.jpg|thumb|250px|水循環]]
[[File:Here comes rain again.jpg|thumb|250px|アスファルト上に降り水紋を作る雨]]
[[ファイル:Konvektionsregen.jpg|thumb|180px|暖かい雨の一例]]}}
[[File:Starkregen.jpg|thumb|250px|移動する雨雲と雨筋]]
=== 水蒸気から雲へ ===
地球の大気([[空気]])は、場所により量が異なるが、水蒸気を含んでいる。この水蒸気は、[[海洋]]や[[湖]]の表面、[[地面]]からの[[蒸発]]、植物からの[[蒸散]]などを通して供給されるものである<ref name="WHC-75-77">[[#WHC|荒木]]、p75-77</ref>。


空気中の水蒸気の量を表す身近な指標として[[相対湿度]]があり、通常は単に湿度と呼ぶ。相対湿度とは、空気がある[[温度]]([[気温]])であるときに含むことができる水蒸気の最大量([[飽和水蒸気量]])を100%とし、実際に含まれている量を最大量に対する[[割合]]で表したものである。例えば、気温25[[セルシウス度|℃]]・相対湿度50%の空気には、1[[立方メートル|m<sup>3</sup>]](=1000[[リットル]])あたり11.4[[グラム|g]]の水蒸気が含まれる<ref name="NMB-112">[[#NMB|岩槻]]、p112, p118-120</ref>。
大まかな成因は次の通り。[[大気]]中に含まれる[[水蒸気]]が、[[気温]]が下がったり[[上昇気流]]に運ばれたりすることで[[凝結]]して、細かな水滴(雨粒)でできた[[雲]]となり、雲の中で雨粒が成長し、やがて大きくなった雨粒が地上に落下することで、雨となる(詳しくは「[[降水過程]]」を参照)。


空気の相対湿度が増して100%に達することを飽和という。空気は、何らかの要因によって冷やされることで飽和する。飽和した空気では、水蒸気が凝結して微小な水滴を形成する。これが'''[[雲]]'''である<ref name="WHC-75-77"/>。
一般的に、雨を降らせる雲は、気象学上[[乱層雲]]、[[積乱雲]]、[[層雲]]に分類される雲が多く、その他の雲は比較的少ない。雨雲の下端([[雲底]])の高さは実にさまざまだが平均的には約500m - 2,000m程度で、多くの雨粒はこの距離を落下してくる。落下距離が長くなったり、通過する大気中の気温が高いと、雨は落下する途中で蒸発してしまう。このときには、雲の下に筋状の雨跡を見ることができ、これを降水条や[[尾流雲]]と呼ぶ。


先の例に挙げた、25℃・相対湿度50%の空気1m<sup>3</sup>を考える。この空気には11.4gの水蒸気が含まれる。これを10℃まで冷却すると、10℃の飽和水蒸気量は9.3g/m<sup>3</sup>なので、11.4 - 9.3 = 2.1g分が凝結し水滴となることが分かる<ref name="NMB-112"/>。
[[気象学]]的には、雨は[[降水]]現象の一つと位置づけられる。降水現象の中では最も頻度が高い。雨および降水現象は、[[地球]]上で[[水]]が循環する過程([[水循環]])の一部分に位置づけられ、[[生態系]]や[[地形]]といった地球の[[自然]]に深く関与している。


空気を冷却して飽和させるプロセスは、主に断熱膨張による冷却である。[[断熱膨張]]とは、上空へいくほど[[気圧]]が低いため、空気が持ち上げられて気圧が下がると膨張し、同時に冷却されることを言う。大気の[[対流]]、[[気団]]同士の衝突([[前線 (気象)|前線]])などの大気の大規模な運動、また気流が山にぶつかったりするような物理的障害によって起こる。このほかには、例えば暖かい空気が冷たい海面に触れたり、空気が[[熱放射]]として[[宇宙]]に向かって[[赤外線]]を放射したり(冬の晴れた夜間に起こる[[放射冷却]]としてよく知られている)、降雨時の雨粒が蒸発の際に[[潜熱]]を奪い周りの空気を冷やしたりするプロセスがある<ref>{{cite web|author=Robert Fovell|year=2004|url=http://www.atmos.ucla.edu/~fovell/AS3downloads/saturation.pdf|format=pdf|title=Approaches to saturation|publisher=University of California in Los Angelese|accessdate=2015-04-07}}</ref>。
雨はその成因によって、具体的には雨粒が作られる時の上空の気温(氷晶になるかならないか)により、以下の2つに大別される。すべての雨は空気中の水蒸気を起源とする([[気体]]である)が、それ以降、[[液体]]と[[固体]]の状態を経て降る雨が“冷たい雨”、液体の状態だけを経て降る雨が“温かい雨”である。


=== 凝結・暖かい雨 ===
またごく稀に、冷たい雨の成立する環境下で上空に0℃以上の[[逆転層]]が存在する時、落下中は液体([[過冷却]])であるものの着地時に凍結して氷の層(雨氷)を形成する、[[着氷性の雨]]というものも存在する。
空気中での水滴の凝結は実際には、[[凝結核]]を介して行われる。球の形をする水滴には[[表面張力]]が働くが、水滴が小さいほど表面張力が強く[[核生成]]が安定しない。ある実験によれば、ほこりのない非常に清浄な空気中では、0℃のとき相対湿度が100%を超過([[過飽和]])してさらに430%まで達しなければ、水滴は自発的に形成されない。対して、通常の大気のように凝結核がある空気中では、[[大気エアロゾル粒子|エアロゾル粒子]]の働きにより凝結が助けられるため、相対湿度は概ね101%を上回ることがない。雲の凝結核として働く主なエアロゾル粒子には、燃焼ガスや火山ガスに由来する0.1-1[[マイクロメートル|µm]]の[[硫酸塩]]粒子、海のしぶきに由来する数µmの[[海塩粒子]]や、[[土壌]]由来の粒子、有機エアロゾルなどがある<ref name="NMB">[[#NMB|岩槻]]、p180-184</ref><ref>[[#GME|小倉]]、p78-88</ref><ref>[[#WHC|荒木]]、p116-128</ref>。


雲ができたての時の水滴([[雲粒]])の大きさは、半径1 - 20µm(0.001 - 0.02[[ミリメートル|mm]])程度である。これに対し、雨粒の平均的な大きさは半径1,000µm(1mm)である。なお、雲の中には1m<sup>3</sup>あたり1000万 - 数百億個の雲粒が存在する。半径1 - 10µm程度の初期の段階では、雲粒の表面にさらに水蒸気が凝結していくことにより通常でも数分ほどで10µm程度の大きさに成長する(凝結過程)。しかし、凝結による成長は粒径が大きくなるほど遅くなる。雲粒の平均を半径10µmだとして、半径100倍の1,000µmに成長するためには、[[体積]]にして100万倍、これを雲の中の平均的な水蒸気量の下で凝結だけで行うと約2週間かかると試算され、現実とはかけ離れている。実際には、10 - 30µm程度に達すると水滴同士の衝突により成長する(併合過程)。衝突併合による成長は粒径が大きいほど速いため、この段階では加速的に成長が進む。なお、海洋の積雲では、吸湿性の海塩粒子が豊富な事から大きな粒子がすぐに生成され、雲ができ始めてから20 - 30分程度で雨が降り出すことも珍しくない<ref>[[#GME|小倉]]、p81, p85-92</ref><ref>[[#WHC|荒木]]、p77-82, p128-129</ref><ref>[[#RSC|武田]]、p31-34</ref>。
== 冷たい雨 ==
水蒸気が[[凝結]]してできた水滴が、気温0℃を大きく下回る空気の中に(上昇して)入って凍り、氷晶となって成長し、気温0℃を大きく上回る空気の中に(落下して)入って融け、降る雨。解けずに降れば雪など(その他に霰、雹が含まれる)になる{{要出典|date=2011年3月}}。


上記のように、一貫して液体のまま雨として降るプロセスを「[[降水過程#暖かい雨|暖かい雨]]」という。これに対し、途中で凍結して氷晶になり、再び融解して降るプロセスを「[[降水過程#冷たい雨|冷たい雨]]」という。日本で降る雨は、およそ8割が「冷たい雨」のプロセスによるものだと言われている<ref>[[#GME|小倉]]、p87-88, 98</ref>。
「気温0℃を大きく下回る空気」で凍るとしているが、実際の空気中では、気温が0℃を少し下回ったくらいでは凍結が始まらないことが多いためである。温度0℃以下で凍らない状態を[[過冷却]]と言う。


{{Main|降水過程}}
雲の中で一部の水滴が凍って氷晶になり始めると、まだ凍っていない過冷却の水滴は蒸発して氷晶の表面に[[昇華 (化学)|昇華]]するため、急速に成長する。


=== 氷晶・冷たい雨 ===
氷晶が落下する途中で、気温が[[セルシウス度|摂氏]]0℃より高い領域に達すると氷晶は融け始め、完全に融けると[[液体]]となり、雨粒となる。融けきれない場合は[[雪]]となる。地上の[[気温]]が摂氏2℃以上の場合、上空1500[[メートル|m]]で-6℃以上、または上空-5500mで-30℃以上で冷たい雨(または[[霙]])である。
気温が0℃を下回る冷たい空気の環境下で起こる。単体氷晶の形成としては、水蒸気が凝結核を介して凝結した水滴がさらに[[氷晶核|凍結核]]の働きにより凍結し氷晶となるパターンと、水蒸気が[[昇華核]]を介して[[昇華 (化学)|昇華]]し直接氷晶を形成するパターン、さらに、氷晶同士の衝突などで生じる二次氷晶がある<ref name="WHC-132-148">[[#WHC|荒木]]、p132-148</ref>。


空気中では、気温が0℃を少し下回ったくらいでは水滴の凍結が始まらないことが多い。0℃以下で凍らない状態を[[過冷却]]と言う。凍結核は、水滴に衝突することによる衝撃や、水滴に溶け出すことによる化学的効果などを通して、概ね-30℃以上の環境下で凍結を促す。-30℃以下の環境では、昇華による氷晶の形成が起こる。また、-40℃以下の環境では、凍結核がない場合でも純水の均質[[核生成]]により水滴が凍結する<ref name="WHC-132-148"/>。
「気温0℃を大きく上回る空気」で融けるとしているが、これは、氷晶が0℃以上になっても、氷晶が昇華してその際に奪われる[[昇華熱]]により氷晶の温度が低下するため、0℃を数℃上回らないと完全に融けない。また、湿度が高いほどこのときの温度は低くなる。


雲の中で一部の水滴が凍って氷晶になり始めると、周囲に存在する過冷却の水滴は蒸発して氷晶の表面に昇華するため、急速に成長する。例えば直径10µmの氷晶は、同じ大きさの水滴に比べて10倍の速度で成長する。氷晶は成長過程で分化し、結晶が集まった雪片になるものと、主に[[積乱雲]]の中で生じるが丸みを帯びた氷の粒([[霰]]や[[雹]])になるものに分かれる<ref name="WHC-132-148"/><ref name="GME-92-99">[[#GME|小倉]]、p92-99</ref>。
日本の降雨の8割はこの「冷たい雨」の機構で起こるといわれている。


雪片や霰が落下する途中で、0℃より高い空気の層に達すると融け始め、完全に融けると液体の雨粒となる。融けきれない場合は[[雪]]となる。雪は落下途中で昇華(気化)しながら[[昇華熱]]を放出するため、2 - 3℃程度では雪の形状を保ったまま降ることがある。雪になるか雨になるか、あるいは雪と雨が混合する[[霙]]になるかは、気温と相対湿度により決まる<ref name="WHC-132-148"/><ref name="GME-92-99"/>([[雪#雪・霙・雨の境目、雪の目安]]も参照)。
== 暖かい雨 ==
水蒸気が[[凝結]]してできた水滴が、水滴のまま成長し、そのまま降る雨。こちらは気温0℃以上の場合の現象であるが、0℃以下であっても水滴が過冷却のまま凍結しない場合もある。


またごく稀に、冷たい雨の成立する環境下で上空に0℃以上の[[逆転層]]が存在する時、落下中は液体([[過冷却]])であるものの着地時に凍結して氷の層([[雨氷]])を形成する、[[着氷性の雨]]というものも存在する<ref>[[#hpc|気象観測の手引き]]、p61</ref>。
湿潤な空気が[[上昇]]すると、[[断熱膨張]]により冷却が起こり、凝結高度に達すると[[過飽和]]の状態になる。この際、大気中の'''[[エアロゾル]]'''を凝結核として雲粒が成長する。この成長はゆっくりしたものであるが、雲粒同士の併合過程により、一部の雲粒が急速に成長して重力に耐えきれなくなるほど大きくなる。この併合過程は、海洋性の[[積雲]]の場合に急速に成長する条件が揃っている。


== 世界のの降り方 ==
=== 雲から ===
[[File:Wfronts.png|thumb|300px|right|[[寒冷前線]](左)と[[温暖前線]](右)による雨の模式図]]
[[気候帯]]によって、雨の降り方は全くと言っていいほど異なる。
なお、雲の段階で水滴が落ちてこないのは、落下速度が遅いからである。半径1 - 10µmのオーダーの水滴の[[終端速度]]は1[[センチメートル毎秒|cm/s]]に満たないが、雲の中ではこれを優に上回る速度の[[上昇気流]]が普通に存在するため、浮かんでいるように見える。一方、水滴が半径1mm(直径2mm)のときの終端速度は7m/sに達し、上昇気流を振り切って落下する。短い場合、特に海洋上で発生する積雲の場合、雲ができ始めてから最短15 - 20分程度で雨が降り出す場合がある。また熱帯地方の「暖かい雨」の場合も、30分 - 1時間程度で雨が降り出す。ただ、これらより長く滞留して降る雨も少なくない<ref>[[#GME|小倉]]、p86, 89</ref><ref>[[#WHC|荒木]]、p77-82, 129-131</ref>。


主に雨を降らせる雲は、10種分類において[[層雲]]、[[乱層雲]]、[[積乱雲]]に分類される雲である。層雲は地上に近いところにでき、弱く変化の少ない雨を降らせることが多い。乱層雲は灰色を呈し風により変化に富む形状をする雲で、雨を降らせる代表的な雲である。積乱雲は上空高くもくもくと盛り上がる雲で、乱層雲よりも激しく変化の大きい雨を降らせ、しばしば雷や雹を伴う<ref>[[#WHC|荒木]]、p23-38</ref>。
季節性で言えば、[[温帯]]の中でも[[夏]]に雨が多い[[温帯夏雨気候]]、[[冬]]に雨が多い[[地中海性気候]]もあれば、変化はあるが年間を通して一定以上の雨が降る[[温暖湿潤気候]]や[[西岸海洋性気候]]もある。温帯の特徴として、[[亜寒帯低圧帯]]に入ることが多いため[[移動性高気圧]]と[[温帯低気圧]]が交互にやってきて、低気圧やそれに付随する[[前線 (気象)|前線]]の通過に伴って雨が降ることが多い。また、[[亜熱帯高気圧]]に覆われる時期には雨が少ないが、[[赤道気団]]に由来する[[モンスーン]]の影響を受ける[[インド]]、[[東アジア]]([[梅雨]])など、顕著な[[雨季]]のあるところもある。[[亜寒帯]]でも同様に気候帯ごとに雨に季節性がある。


雨雲の下端([[雲底]])の高さは実にさまざまだが平均的には約500m - 2,000m程度で、多くの雨粒はこの距離を落下してくる。周囲の空気が乾燥していると、雨は落下する途中で蒸発してしまう。このときには、雲の下に筋状の雨跡を見ることができ、これを降水条や[[尾流雲]]と呼ぶ<ref>[[#WHC|荒木]]、p103-104</ref>。
[[熱帯]]では[[熱帯収束帯]]の影響下にある時期に雨が降り、発達した[[積乱雲]]によって[[スコール]]と呼ばれる[[突風]]を伴った[[集中豪雨]]が降る。[[熱帯雨林気候]]では年間を通して雨が多く、[[サバナ気候]]や[[熱帯モンスーン気候]]では[[雨季]]と[[乾季]]がある。熱帯では年間の気温変化が大きくないので、気温よりも雨の変化が季節変化として重視される。


== 雨の降り方 ==
地球上の多くの場所で起こる気象現象であるが、[[雪]]しか降らない[[南極]]・[[北極]]や[[高山]]地帯などで夏でも気温が0℃以上にならないような極寒地域では雨が降らない。また、[[ステップ (植生)|ステップ]]や[[砂漠]]などの極端な乾燥地であっても、雨が全く降らない時期が数か月と続くことはあっても、全く降らないことはない。
=== 降水型 ===
雨は、雲を生じさせる要因によりいくつかの[[降水型]]に分類できる<ref name="WEN-ame">[[#WEN|世界大百科事典]]、内田英治『雨』p475-476</ref>。
*対流性降雨 - [[大気不安定|不安定成層]]をした大気において生じる対流性の雲から降る雨<ref name="WEN-ame"/>。
*地形性降雨 - 山のような地形の起伏により気流が強制的に上昇させられて生じる雲から降る雨<ref name="WEN-ame"/>。
*前線性降雨 - [[温暖前線]]や[[寒冷前線]]の前線面で気流が上昇して生じる雲から降る雨。温暖前線は広い地域にしとしとと降り、寒冷前線は局地的に強く降る、という傾向がある<ref name="GMEN-ame"/>。
*低気圧性降雨(収束性降雨) - [[台風]]や[[低気圧]]のもとで下層の空気が集まり[[収束]]して生じる雲から降る雨<ref name="WEN-ame"/><ref name="GMEN-ame"/>。


== 雨 ==
=== 雨の強さ ===
雨の強さ、一定時間に降る雨の量を'''雨量'''(うりょう)と言う。雨量は、[[雨量計]]と呼ばれる直径20cmの円筒形の器具で測定し、その深さを[[ミリメートル]](mm)で表現する。通常用いるのは1時間の雨量(時間雨量)だが、短時間の降雨の強さを表すために10分間雨量などを用いることもある。なお、雪や霰などの雨以外による降水も含めた場合は[[降水量]]と言う<ref name="WEN-ame"/>。
''雨滴''(うてき)ともいう。雨水が軒などから落ちるのは''雨垂れ''(あまだれ)、雨だれが落ちて打ち当るところを''雨垂落''(あまだれおち)という。なお、雨によるものではないが、濃霧の時、森林の中で霧の微小な水滴が枝葉につき、大粒の水滴となって雨のように降り落ちる現象を''樹雨''(きさめ、きあめ)という。


[[気象庁]]では、雨の強さの表現を時間雨量により次のように分類している<ref>「[http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/amehyo.html 雨の強さと降り方] 平成12年8月作成、平成14年1月一部改正」気象庁、2015年4月18日閲覧</ref><ref name="jmayougo">「[http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kousui.html 天気予報等で用いる用語 降水]」</ref>。
=== 大きさ ===
{| class="wikitable"
[[温帯]]地方の雨の水滴の大きさは、通常0.1 - 3[[ミリメートル|mm]]程度である。0.1mm以下の雨粒は雲の中の[[上昇気流]]によって落ちなかったり、落下中に[[蒸発]]してしまい、消えてしまうことがある。3mm程度以上の大きさの雨粒は途中で分解してしまうことが多い。そのため、熱帯地方の雨の水滴の大きさは、小さい雨が少なく温帯よりも大きいものの、3mmを大きく超えるような雨は降らない。
|-
|colspan="2"| 分類 ||| 1時間雨量 || イメージ || 周囲の様子や影響
|-
!style="border-bottom:hidden"|
! 小雨
|colspan="3"| (数時間続いても1mm未満の雨)
|-
!colspan="2"| 弱い雨
| 3mm未満 ||colspan="2"|―
|-
!colspan="2"| やや強い雨
| 10mm以上20mm未満 || ザーザーと降る || 雨の音で話し[[声]]が良く聞き取れない。地面一面に[[水たまり]]ができる。
|-
!colspan="2"| 強い雨
| 20mm以上30mm未満 || 土砂降り || [[傘]]をさしていても濡れる。車の[[ワイパー]]を速くしても前が見づらい。側溝や[[下水]]、小さな[[川]]があふれ、小規模の[[崖崩れ]]が始まる。
|-
!colspan="2"| 激しい雨
| 30mm以上50mm未満 || バケツをひっくり返したように降る || 道路が川のようになる。車のスピードが速いと[[ブレーキ]]が効かなくなる([[ハイドロプレーニング現象]])。山崩れ・崖崩れが起きやすくなり、危険な場所では避難の準備が必要。都市では下水管から雨水があふれる。
|-
!colspan="2"| 非常に激しい雨
| 50mm以上80mm未満 || 滝のように降る。ゴーゴーと降り続く || 傘は全く役に立たなくなる。水しぶきであたり一面が白っぽくなり、視界が悪くなる。車の運転は危険とされる。多くの災害が発生する。都市部では[[地下室]]や地下街に雨水が流れ込む場合がある。[[マンホール]]から水が噴出する。[[土石流]]が起こりやすい。
|-
!colspan="2"| 猛烈な雨
| 80mm以上 || 息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感じる || 雨による大規模な災害の発生するおそれが強く、厳重な警戒が必要。
|}


また、災害の恐れのあるような雨を「大雨」<ref name="jmayougo"/>、その程度が激しいものを「豪雨」と言う。
=== 形状 ===
[[ファイル:Raindrops_sizes.svg|thumb|雨粒の形状]]


=== 世界の気候と雨 ===
雨粒が空気中を落下するときの形は、雨粒が小さい場合は球の形をしているといわれている。雨粒が大きいときは、落下するときに空気に触れる下の面がやや平らになり、下が平らになった球の形をするとされている([http://www.ems.psu.edu/~fraser/Bad/BadRain.html 参考])。
世界では地域によって、雨の降り方は全くと言っていいほど異なる。極端な例では、1分間に30mmあるいは1日に1,500mmもの豪雨が降る地域がある一方、1年に1mmも雨が降らない地域も存在する<ref name="GMEN-ame"/><ref>[[#RSC|武田]]、p139-140, 142-153</ref>。おおまかな傾向として、高緯度地域よりも低緯度緯度の方が雨が多く、また大陸では内陸部よりも沿岸部の方が雨が多く、気温の高さや水の供給源からの近さが影響を与えている<ref>[[#NPEN|日本大百科全書]]、礒野謙治「雨量の分布」</ref>。しかし、緯度と雨量は単純に対応しているわけではない。地球を南北に見ると雨量の多い地域は2つあり、1つは暖気が上昇し続ける[[赤道]]付近の[[熱帯]]、もう1つは寒気と暖気がせめぎ合う中緯度の[[温帯]]・[[亜寒帯]]である<ref name="RSC-142">[[#RSC|武田]]、p142-153</ref>。


世界の年間降水量(雪を含む)を平均すると、陸上では約850mm、海洋では約1250mm、地表平均では約1100mmと推定されている。古い資料では世界平均で800mm程度とされていることがあるが、新しい調査で海洋のデータが判明したことで値は上方修正されている<ref>『キーワード 気象の事典』初版、p247、朝倉書店、2002年。ISBN 4-254-16115-8</ref><ref name="GMEN-ame"/>。
雨粒の落下速度は、雨粒の大きさによって変わる。小さい粒は[[空気抵抗]]によって遅くなるが、大きな粒はおおよそ毎秒9m程度である。また、落下時は、空気の抵抗によって雨粒は平らな[[饅頭|まんじゅう]]の形になる。涙滴と思われていたのは、木の葉の先から露が落ちるときや、[[窓ガラス]]を伝う水滴が涙形をしているためである。[[1951年]]に[[北海道大学]]の[[孫野長治]]博士が空中を落下する雨粒の写真[[撮影]]に成功し、「まんじゅう形」を世界で初めて確認した。


[[熱帯雨林気候]]を呈する赤道付近では、[[貿易風]]が収束する[[熱帯収束帯]]で積乱雲が発達しやすく、対流性の強い雨が毎日のように降る。[[温帯湿潤気候]]・[[亜寒帯湿潤気候]]を呈する中緯度では、[[亜寒帯低圧帯]]に沿い前線や低気圧の活動が活発であり、層状性の雲から広く雨や雪が降る一方、寒暖差が大きいため対流性の雨も降る。特に[[亜熱帯]]や[[温帯]]の地域では、1時間雨量の最大値は熱帯とほぼ変わらない<ref name="RSC-142"/>。
雨粒の大きさと粒の数の関係は、[[1947年]]に、マーシャルとパルマーが1ページの論文の中で、「マーシャル・パルマーの粒径分布」として表せる、ということが発表された。実際には、全ての場合に適用できる訳ではないが、おおよそ[[指数関数]]的な分布になっている。


一方、熱帯と温帯に挟まれた[[乾燥帯]]の地域は[[亜熱帯高気圧]]に覆われ気流が発散し、雲ができにくいため雨が少ない。ただし、この緯度にあってもアジア・アフリカ・北米・南米の大陸東岸では海洋性の高気圧からの南寄り(北半球の場合。南半球では北寄り)の辺縁流や[[暖流]]の影響で湿潤となり、年間を通して雨が多い[[温暖湿潤気候]]となる<ref name="RSC-142"/>。
=== 日本の気象通報の区分 ===
[[ファイル:Japanese Weather symbol (Rain).svg|thumb|80px|雨の[[天気記号]]]]


これらの気圧帯は[[季節]]変化に伴い南北に移動する。これにより、季節により雨量が著しく変化する地域がある。乾燥帯寄りの熱帯に位置する[[サバナ気候]]や[[熱帯モンスーン気候]]の地域では、[[雨季]]と[[乾季]]が明瞭に現れ、年間雨量の9割が雨季に集中する。一方、ヨーロッパの地中海沿いは夏に高圧帯、冬に低圧帯に入るため冬に雨が多く夏に乾燥する[[地中海性気候]]となる<ref name="RSC-142"/>。
日本式の[[気象通報]]においては、水滴の大きさが[[直径]]0.5mm以上の場合を「雨」と呼ぶ。これよりも小さい場合は「'''[[霧雨]]'''」と呼び、天気記号も異なる。その他、時間雨量に換算して15mm以上の強度で雨が降る場合は「[[雨強し]]」、一過性の雨の場合は「[[にわか雨]]」に分類され、それぞれ天気記号が異なる。


{{Main2|降水量の極値|降水量}}
== 強さと雨量 ==
{{Main|降水量}}


=== 災害 ===
雨の強さは、単位面積に降った雨が溜まった深さで表す。通常は時間雨量(1時間あたりに溜まった深さ)をmm単位で表記するが、短時間の降雨の強さを表すために10分間雨量などを用いることもある。
雨量は季節や[[年]]により変動し、少な過ぎても多過ぎても災害となりうる。大雨による災害には、家屋の流失や田畑の冠水をもたらす[[洪水]]、[[地すべり]]、[[崖崩れ]]などがある。少雨による災害には、[[水不足]]や[[旱魃]]などがある<ref name="GMEN-ame"/>。


== 雨の性質 ==
[[気象庁]]では、時間雨量によって次のように分類している。
[[File:Morvich.jpg|thumb|虹]]
* 弱い雨 - 3mm未満
[[File:Raindrops_sizes.svg|thumb|雨粒の形状]]
* やや強い雨 - 10mm以上20mm未満 (1時間に10mmとは1平方mに10リットル溜まることに相当する。)
{{Listen|filename=Rain.ogg|title=Rain|description=雨音のサンプル|format=[[Ogg]]}}
* 強い雨 - 20mm以上30mm未満
=== 雨粒 ===
* 激しい雨 - 30mm以上50mm未満
落下する雨の水滴を'''雨粒'''(あまつぶ)といい、''雨滴''(うてき)ともいう。雨水が軒などから落ちるのは''雨垂れ''(あまだれ)、雨だれが落ちて打ち当るところを''雨垂落''(あまだれおち)という。なお、雨によるものではないが、濃霧の時、森林の中で霧の微小な水滴が枝葉につき、大粒の水滴となって雨のように降り落ちる現象を''樹雨''(きさめ、きあめ)という。
* 非常に激しい雨 - 50mm以上80mm未満
* 猛烈な雨 - 80mm以上


雨粒の温度は、概ね気温より冷たい傾向にあるが、落下してくる大気の気温や湿度に左右される。地表においては、おおよそ[[湿球温度]]に近い温度になると考えられている<ref>[[#RSC|武田]]、p8-9</ref>。
* 小雨 - 数時間続いても1mm未満(分類上は弱い雨に含まれる)
* 大雨 - 大雨[[注意報]]の基準雨量以上の雨(地域によって基準値は異なる)


雨粒は太陽光を反射分光し、[[虹]]を作ることがある。
なお、[[降水]]が雨のみの場合は雨量と言い、雪や霰などの雨以外による降水も含めた場合は[[降水量]]と言う。

=== 雨粒の大きさと形状 ===
雨粒の大きさは、通常は直径1[[ミリメートル|mm]]前後で、概ね直径0.2 - 6mmの範囲内にある。小さなものほど落下速度が小さく、特に直径0.5mm未満の雨粒が一様に降る状態の雨を'''[[霧雨]]'''(きりさめ)といい、ほとんど浮遊しているように見えるとされる。一方、直径6mmを超えるような大きな雨粒は分裂しやすく観測されにくい<ref name="WHC-77-82">[[#WHC|荒木]]、p77-82</ref><ref name="hpc-61">[[#hpc|気象観測の手引き]]、p61</ref>。

雨が降ってくるとき、雨粒の密度は、1m<sup>3</sup>あたり10個 - 1,000個程度である<ref>[[#WHC|荒木]]、p78-79</ref><ref>[[#RSC|武田]]、p24-25</ref>。雨粒の大きさと密度の関係は、「マーシャル・パルマーの粒径分布」として表せる(マーシャルおよびパルマー、1947年)。実際には全ての場合に適用できる訳ではないが、大きな粒ほど密度が低い、おおよそ[[指数関数]]的な分布になっている<ref>[[#RSC|武田]]、p14-15</ref>。

雨粒の落下速度は、雨粒の大きさにほぼ比例する。相当半径<ref group="注">大きな雨粒は変形するため、それを球形に換算した半径のこと。</ref>0.1mm(直径0.2mm)では[[終端速度]]70cm/s、0.5mm(直径1cm)では4m/s、1mm(直径2mm)では6.5m/sである。2mm(直径4mm)では9m/sに達するがこれより大きくなっても速度はほとんど変わらず、約9m/sが最大値である<ref name="WHC-77-82"/>。

雨粒が空気中を落下するとき、雨粒が半径1mm(直径2mm)より小さい場合は、[[表面張力]]のためにほぼ球形をしている。これより大きくなると、表面張力が小さくなる代わりに[[空気抵抗]]が増し、雨粒の底面が平らな[[饅頭|まんじゅう]]のような形状となるうえ、落下時に振動し始めて不安定となり、分裂しやすくなる。大きくなるほど壊れやすいため、実際に地上で観測されている雨粒は、最大でも直径8mm程度までである<ref>[[#GME|小倉]]、p86, 89</ref><ref name="WHC-77-82"/>。

雨がしばしば涙滴形で描かれているのは、木の葉の先から露が落ちるときや、[[窓ガラス]]を伝う水滴が涙形をしているためである。[[1951年]]に[[北海道大学]]の[[孫野長治]]博士が空中を落下する雨粒の写真[[撮影]]に成功し、「まんじゅう形」を世界で初めて確認した。

=== 雨水の化学成分 ===
雨水は大部分が水であるが、微量の不純物を含んでいる。不純物の量は、雨水1リットル中に数mg - 数十mgのオーダーである。不純物の濃度は、雨の降り始めに濃い傾向があり、降り続くに従い、また雨量が増えるに従い薄くなっていく。また、季節や場所により大きく変動し、工業地帯では濃度が高い<ref name="GMEN-ame"/>。

不純物の成分は[[煤]]などの[[燃焼]]由来の[[有機物]]、[[硫黄酸化物]]([[硫酸]])、[[窒素酸化物]]、[[塩素]]、[[ナトリウム]]、[[土壌]]由来の成分などで、[[重金属]]類が含まれることもある<ref name="WEN-ame"/><ref name="CEN-154">[[#CEN|地球と宇宙の化学事典]]、p154</ref>。これらは雲が発生する際(レインアウト)、あるいは雨となって地上に落ちてくる際(ウォッシュアウト)、周囲の空気から取り込まれる。降水量の多い日本では、大気中から地表への沈着物質の6 - 7割が雨による湿性沈着だと考えられている<ref name="CEN-154"/>。

また核実験の後などには、雨水中に放射性物質が含まれることがある<ref name="WEN-ame"/>。

雨水中の水を構成する[[水素]]や[[酸素]]の[[放射性同位体|同位体比]]は、海水に比べるとやや軽い同位体の比率が高く、大気中の水蒸気と比べるとやや重い同位体の比率が高い。また、気温が低いほど、緯度が低いほど、標高が高いほど、海岸から離れるほど、それぞれ同位体比は低くなる<ref>[[#CEN|地球と宇宙の化学事典]]、p149</ref>。

雨自体に臭いはないが、雷により産生される[[オゾン]]、湿度が上昇することによって粘土から出される[[ペトリコール]]や、土壌中の[[細菌]]が出す[[ゲオスミン]]が雨が降るときの臭いの元だと言われている<ref> Daisy Yuhas. "[http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=storm-scents-smell-rain Storm Scents: You Can Smell Oncoming Rain]", ''Scientific American'', 2012-07-18, 2015年4月20日閲覧</ref>。

通常でも雨水は大気中の[[二酸化炭素]]を吸収するため、pH([[水素イオン指数]])は6前後とやや[[酸性]]を示す。雨が硫黄酸化物や窒素酸化物などを大気中から取り込み、強い酸性を示すものもある。一方、土壌や燃焼に由来する[[アンモニウム]]や[[カルシウム]]成分を取り込み、pHが中和されることもある。[[中華人民共和国|中国]]東部では、石炭資源が豊富なためその利用により硫黄酸化物が大量に排出されると同時に土壌から[[黄砂]]などに由来するアンモニウムやカルシウムが排出され、汚染のポテンシャル自体が高い割に酸性雨の被害は顕著ではない。大気中の二酸化炭素濃度を考慮した平衡状態がpH5.6であることから、この値以下のものを[[酸性雨]]と呼ぶが、pH5.0以下とする定義もある<ref name="CEN-154"/>。

=== 特異な雨 ===
[[ファイル:Singapourfish.jpg|thumb|魚の雨を描いた絵、シンガポール]]
通常とは違い、異物を含んだ雨、色の付いた雨が降ることがあり、俗に''怪雨''(かいう)と呼ばれる<ref name="WEN-ame"/>。

[[黄砂]]などの[[土壌]]由来の成分([[砂]]や[[泥]])や[[火山灰]]を含み、黄色や赤色を呈する雨が降ることがあり、''泥雨''(でいう)と呼ばれる。また赤色の場合は''血雨''(けつう)とも呼ばれる。工業地帯の煤煙を含んだ雨は''黒雨''(こくう)と呼ばれる<ref name="WEN-ame"/><ref name="NPEN-mezu">[[#NPEN|日本大百科全書]]、礒野謙治「珍しい雨」</ref>。

特殊な例として、雨と一緒に[[魚]]や[[カエル]]、[[穀物]]、木の実が降るような現象が世界各地で報告されており<ref name="NPEN-mezu"/>、"'''fa'''lls '''fro'''m '''t'''he '''skies'''"の[[アクロニム|頭字語]]で[[ファフロツキーズ]]と呼ばれる。

[[核攻撃]]や[[核実験]]が行われた場所では、[[放射性降下物]]を含む[[黒い雨]]が降った例がある。[[1945年]]8月15日、[[広島市への原子爆弾投下]]の後、高レベルの[[放射能]]を持つ黒い雨が降った。この雨は触れただけで[[放射線障害]]の原因となり、二次[[被曝]]を引き起こした。核爆発により放出される大量の熱やその後の市街地の火災が上昇気流を起こし、大量の粉塵が混じったことで黒色を呈した。[[長崎市への原子爆弾投下]]後においても、黒い雨が降っている<ref>「原爆の記録 [http://www.city.nagasaki.lg.jp/peace/japanese/record/black.html 黒い灰・黒い雨]」、長崎市、2015年4月19日閲覧</ref>。

== 気象通報・天気図 ==
[[ファイル:Japanese Weather symbol (Rain).svg|thumb|80px|雨の[[天気記号]]]]
ラジオ[[気象通報]]や新聞に掲載される[[地上天気図#日本式天気図|日本式天気図]]における天気分類では、直径0.5mm以上の水滴が降る場合を「雨」と呼び、直径0.5mm未満の水滴が一様に降るものは「霧雨」として区別する<ref name="hpc-61"/>。また、時間雨量に換算して15mm以上の強度で雨が降る場合は「[[雨強し]]」、対流性の雲(積雲、積乱雲)から降る雨の場合は「[[にわか雨]]」に分類され、それぞれ天気記号が異なる<ref>宮澤清冶『最新天気図と気象の本-天気図を見るとき読むとき書くとき』、国際地学協会、1991年。ISBN 978-4771810068</ref>。

世界の定点気象観測で用いる[[地上実況気象通報式|SYNOP]]では、時間雨量3mm未満を弱い雨、3mm以上15mm未満を並の雨、15mm以上を強い雨として、強度を3区分する。[[航空]]気象の[[定時飛行場実況気象通報式|MATER]]では、雨はRA、しゅう雨はSHRAで表される。


== 観測 ==
== 観測 ==
[[ファイル:Hurricane Rita Lake Charles radar.gif|thumb|180px|[[ハリケーン・リタ]]のレーダー画像。赤いところほど雨が強い]]
[[ファイル:Hurricane Rita Lake Charles radar.gif|thumb|180px|[[ハリケーン・リタ]]のレーダー画像。赤いところほど雨が強い]]
雨の観測は主に[[雨量計]]や[[気象レーダー]]により行われる。雨量計は地点ごとの正確な雨量が分かるが、雨量は地域により大きく偏ることがあり雨量計だけでは雨の全体像を把握できない。一方、気象レーダーは面的に雨の強さの分布が分かるが、雨粒の大きさを測定できないため実際の雨量と大きな誤差が出てしまう。防災面では、両者の欠点を補うため雨量計やレーダーの情報を組み合わせて[[コンピューター]]処理した上で活用する<ref name="WEN-ame"/><ref name="RSC-16">[[#RSC|武田]]、p16-20</ref>。
雨量の観測は[[雨量計]]、ある地点での雨の有無は観測者の[[目視]]・体感や[[感雨計]]、広域的な雨の分布は[[レーダー]]が適している。


日本の場合、防災を目的に[[気象庁]]の[[アメダス]]雨量計が国内約1,300か所に設置されている<ref>「[http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/amedas/kaisetsu.html 地域気象観測システム(アメダス)]」気象庁、2015年4月18日閲覧</ref>。また気象庁の気象レーダーは20か所に設置され、国内ほぼ全域をカバーしている<ref>「[http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/radar/kaisetsu.html 気象レーダー]」気象庁、2015年4月18日閲覧</ref>。このほか[[国土交通省]]、[[都道府県]]、[[鉄道会社]]、[[電力会社]]などが、独自の雨量計やレーダーなどを保有している<ref name="RSC-16"/>。
=== レーダーによる観測 ===
降雨状況、あるいは降雨強度を知ることは、[[天気予報|気象予報]]や[[災害]]対策に重要である。そこで、レーダーを使い、レーダーからの反射状況を見て、降雨状況を観測することが行われている。気象観測用のレーダーは特に[[気象レーダー]]と呼ばれることが多い。


雨の観測の歴史は古く、最古のものとしては[[紀元前4世紀]]、[[マウリヤ朝]]時代の古代[[インド]]で行われた観測記録が[[カウティリヤ]]の著書に記されている。[[15世紀]]、[[李氏朝鮮]]では[[世宗 (朝鮮王)|世宗]]が銅製の計器を用いて観測を行わせたとされる。中国でも15世紀に観測が行われた。[[ヨーロッパ]]では、17世紀に雨量計が考案され、[[ロバート・フック]]が行った観測記録などが残っている。日本では、18世紀初めに[[徳川吉宗]]が雨量を観測させたとされるが、記録自体は残っていない<ref name="GMEN-ame"/><ref name="NPEN-kouu">[[#NPEN|日本大百科全書]]、礒野謙治「降雨の記録」</ref>。
雨の観測には、[[マイクロ波]]のうち特に[[センチメートル波]](SHF)と呼ばれる波長の[[電波]]が適している。


連続した雨量の観測記録の中でもっとも古く信頼できるものは、[[イギリス]]・[[ロンドン]]郊外の[[キュー_(ロンドン)|キュー]]におけるもので、[[1697年]]からの記録がある。このデータは、[[気候変動]]を論じる上で、降水量の長期変動を示す資料として引用されている。また日本では、[[1875年]][[6月1日]]([[気象記念日]])に当時[[東京気象台]]で雨量の観測が始まった<ref name="NPEN-kouu"/>。
レーダーを使う場合、広い地域の降雨状況を観測することができる。個々の雨粒は、その直径の6乗に比例して電波を反射する。このことを利用して、降雨状況を調べている。強い雨には大きな雨粒が多いので、反射が強いと言うことは、大きな雨粒が多い、と言うことができる。ただし、反射強度と降雨強度は比例する訳ではなく、レーダーの観測状況から正確に降雨強度を求められないという問題がある。


=== 気象レーダー ===
一方雲の粒は雨粒に比べるとかなり小さい。そのため、直径の6乗に比例する反射強度にはほとんど影響しない。雲の状況を見るときには、雨の状況を見るときよりも波長の短い電波([[ミリ波]]=EHF)を用いる必要がある。
気象レーダーは、[[波長]]5 - 10cmの[[電波]]([[マイクロ波]])を放射して雨粒からの反射を検知し、半径およそ300 - 500kmの領域内の降雨分布を調べるものである。レーダー電波の反射強度は、雨粒の直径の6乗と大気中の個数(密度)の積で表される。同程度の雨量でも雨粒の大きさが異なるために誤差が生じることがあり、レーダーのみで正確な雨量は求められない<ref name="WEN-ame"/><ref name="RSC-16"/><ref name="NPEN-kansoku">[[#NPEN|日本大百科全書]]、礒野謙治「雨の観測と予報」</ref>。


さらに、雨粒以外のものによって雨と誤解される状況が存在する。たとえば昆虫などの小動物空気の乱れなどが挙げられるこのような、雨でない観測結果エンジェルエコーと呼ぶ。
なお、雪が融けて雨に変わりつつあるとき、電波が屈折してしまうためその高度のレーダー反射は強くなる。これをブライトバンドという。さらに、雨粒以外のもの、えば鳥昆虫などの小動物空気の乱れなどで異常な観測結果られることがあり、このようなものをエンジェルエコーと呼ぶ<ref name="RSC-16"/>


== 自然環境 ==
=== 気象衛星 ===
実用投入されている[[気象衛星]]は[[赤外線]]により雲の観測を行うもので、雨の直接観測は行っていない<ref name="NPEN-kansoku"/>。衛星による雨の直接観測が可能となったのは[[1990年代]]であり、[[熱帯降雨観測衛星]](TRMM)は熱帯の雨の観測を行った。その後、国際的な協力により複数の衛星による[[全球降水観測計画]](GPM)が展開されている。
生物にとって雨は、生存に必要不可欠なな水、しかも飲用に適した[[淡水]]を供給するという重要な役割をもつ。地上に生息する生物の多くは、雨が集まってできた水辺、地面にしみ込んだ後湧き出す[[泉]]やそれらが合流してできる[[川]]から生存に必要な水を摂取する。人間においても同様であり、[[海水淡水化]]施設を利用している一部を除けば、世界の水道水はほぼ雨に由来する淡水を利用している。


== 水循環と水資源 ==
また、雨が地形に及ぼす作用は大きい。雨水が直接地形を削る[[浸食]]作用もある。[[降水量]]やその季節的な偏りは、[[植生]]を大きく左右する。
[[File:Marennes 17 Bidons eaux pluviales La Cayenne 2014.jpg|thumb|200px|[[樋 (建築)|雨どい]]と雨水タンク、フランスにて]]
地球の[[水循環]]の中で、雲あるいは水蒸気として大気中に含まれる水は約13×10<sup>15</sup>kg、また年間の降水総量は重量にして約400×10<sup>15</sup>kg、高さにして平均800mmと見積もられており、約10日間で入れ替わることに相当する。なお、降水のうち陸地に降るのは4分の1で、残りの4分の3は海洋に降っている。ただし、陸域では降った雨のうち速やかに地表を流れるのは1割で、残りの9割は一旦地下に浸透して[[地下水]]に転じ、数か月から数百年をかけてゆっくりと湧出する<ref>[[#CEN|地球と宇宙の化学事典]]、p151, p155</ref>。


=== 自然環境 ===
また、例えば雨で地面が濡れると地中から[[ミミズ]]が這い出てきて、それを狙って[[鳥類|鳥]]が低空飛行するという風に、生物には雨が降るとき特有の生態も多々ある。
生物にとって雨は、生存に必要不可欠な水、しかも飲用に適した[[淡水]]を供給するという重要な役割をもつ。地上に生息する生物の多くは、雨が集まってできた水辺、地面にしみ込んだ後湧き出す[[泉]]やそれらが合流してできる[[川]]から生存に必要な水を摂取する。人間においても同様であり、[[海水淡水化]]施設を利用している一部を除けば、世界の水道水はほぼ雨に由来する淡水を利用している。


また、雨が[[地形]]に及ぼす作用は大きい。雨水が地形を削る[[浸食]]作用や、[[土壌]]に浸透することで土質を変化させる作用がある。[[植生]]も雨に左右され、雨の多い地域では[[森林]]が発達し、農業生産が盛んである<ref>[[#NPEN|日本大百科全書]]、礒野謙治「雨と人間」</ref>。
=== 雨水の化学成分 ===

雨水は大部分が水であるが、微量の[[有機物]]、[[無機物]]、特に[[重金属]]類を含んでいる。これらは雲が発生する際、あるいは雨となって地上に落ちてくる際に、周囲の空気や土壌から集めてくる。雨自体に臭いはないが、[[オゾン]]、湿度が上昇することによって粘土から出される[[ペトリコール]]や、土壌中の[[細菌]]が出す[[ゲオスミン]]が雨が降るときの臭いの元だと言われている。
また、例えば雨で地面が濡れると地中から[[ミミズ]]が這い出てきて、それを狙って[[鳥類|鳥]]が低空飛行するという風に、生物には雨が降るとき特有の生態も多々ある。


=== 雨水の利用 ===
通常でも雨水は大気中の[[二酸化炭素]]を吸収するため、pH([[水素イオン指数]])は6前後とやや[[酸性]]を示す。雨が[[二酸化硫黄|亜硫酸ガス]]などを大気中から取り込み、強い酸性を示すものもある。日本では目安として、 pHが5.6以下のものを[[酸性雨]]と呼ぶ。
人類は、[[工業用水]]や[[農業用水]]、[[飲料水]]の利用、[[水力発電]]など、産業や生活を通じて雨水を源とする水資源を利用している<ref name="GMEN-ame"/>。


== 水資源 ==
[[水力発電]]は雨水や雪解け水に由来する水の[[重力]]落下によって生じる[[運動エネルギー]]を[[電気]]として利用するものであり、海水の[[蒸発]]・雲の生成(凝結・凝固)・降雨といった自然のプロセスを復元力とした[[再生可能エネルギー]]である。
[[水力発電]]は雨水や雪解け水に由来する水の[[重力]]落下によって生じる[[運動エネルギー]]を[[電気]]として利用するものであり、海水の[[蒸発]]・雲の生成(凝結・凝固)・降雨といった自然のプロセスを復元力とした[[再生可能エネルギー]]である。


また、庭先などで雨水を利用するための製品としてレインタンクが市販されている。
また雨水の直接利用として、庭先などで雨水を貯留し利用する[[天水桶|雨水タンク]]などもある。

=== 人工降雨 ===
雲の凝結や雲粒の成長を促して雨を増やす科学的な[[人工降雨]]は、1940年代に初めて試みられた。[[ドライアイス]]や[[ヨウ化銀]]を氷晶核とする方法が広く用いられ、条件の整った雲であれば一定の成果が得られることが報告されている。しかし、[[1971年]]にアメリカが[[ベトナム戦争]]において雨を増加させて補給を寸断させる作戦を計画したことを契機に、悪影響の側面が議論されることとなった。[[1976年]]には[[環境改変技術の軍事的使用その他の敵対的使用の禁止に関する条約|環境改変兵器禁止条約]]が採択(1978年発効)され、敵対国への気象改変技術の使用は禁止されている<ref>[[#NPEN|日本大百科全書]]、礒野謙治「人工増雨」</ref>。

== 文化・生活 ==
[[ファイル:Hiroshige Atake sous une averse soudaine.jpg|200px|thumb|歌川広重『名所江戸百景』]]
雨の概念や雨に対する考え方は、その土地の気候によって様々なものがある。[[イギリス]]、[[ドイツ]]、[[フランス]]など[[西洋]]の温暖な地域([[西岸海洋性気候]]の地域)では「雨」を悲しいイメージで捉える傾向が強く、いくつかの[[童謡]]にもそれが表現されている。

一方、雨が少ない[[アフリカ]]や[[中東]]、[[中央アジア]]の乾燥地帯などでは、雨が楽しいイメージ、喜ばしいものとして捉えられることが多く、雨が歓迎される。

=== 民俗 ===
古来より人は、恵みをもたらす半面災厄をもたらす雨を、崇拝すると同時に畏怖していたと考えられる。端的な例として、[[ノアの洪水]]のみならず、世界の破壊や創造をもたらす[[洪水神話]]は世界各地に存在する。洪水神話は、雨の破壊性と創造性の2つの面を象徴していると考えられる<ref name="WEN-ameI">[[#WEN|世界大百科事典]]、飯島吉晴、吉田敦彦『雨』p475-476</ref><ref name="NPEN-minzoku">[[#NPEN|日本大百科全書]]、竹内利美「雨の民俗」、板橋作美「世界の伝承と俗信」</ref>。

また、世界の多くの神話や伝承において雨は、至高神、天神、雷神の活動の結果としてもたらされると解釈されている。[[メソポタミア]]神話の天候神[[アダド]]、[[ヒッタイト]]の天候神[[テシュブ]]、[[フェニキア]]の嵐の神[[バアル]]は天候を支配し雨や洪水を司るとされ、神の怒りが洪水や干ばつの原因だとして恐れられた。[[ギリシア神話]]では、全能の神[[ゼウス]]が雷を武器として他の巨人や神々と戦う際に雨が降るとされた。[[インド神話]]では、王[[インドラ]]が雷神でもあり、悪竜ブルトラを退治することで川に水を取り戻し、田畑を干ばつから救ったとされる。[[日本神話]]では、[[スサノオ]]が[[ヤマタノオロチ]]を倒した際にその尾から出た[[天叢雲剣]]が雲を司る[[三種の神器|神器]]とされる。スサノオが[[高千穂峰]]に降りた[[天孫降臨]]の際には、雨と風がもたらされたと伝えられる<ref name="WEN-ameI"/><ref name="NPEN-minzoku"/>。

さらに、天を[[天空神|父]]、大地を[[地母神|母]]とし、両者の交わりによって雨が降り大地に実りがもたらされるという、天父地母の信仰も広く見られる<ref name="WEN-ameI"/>。

水辺に生息する[[カエル]]や[[ヘビ]]などの動物はしばしば、水神や水神の化身や家来とされたり、雨とかかわりの深いものとされている。ヨーロッパでは、ある種の[[鳥]]や[[昆虫]]の活動を雨の前触れとする伝承が広く見られる<ref name="NPEN-minzoku"/>。

雨と関わりの深い農耕や[[牧畜]]を行う民族・部族では「[[雨乞い]]」の習俗が存在する。雨への依存が大きいアフリカの農民や牧畜民では、雨乞いを行う雨乞師の社会的地位が高いという特徴がある。雨乞いの儀式には広く水や煙、鉦などが用いられるが、これは水が雨、煙が雲、鉦が[[雷鳴]]を象徴する[[類感呪術]]であると考えられている。一部では、特徴的な形状の自然物を「雨石」や「雨の葉」などの神聖な事物として祀る習俗もある<ref name="NPEN-minzoku"/><ref name="WEN-ameI">[[#WEN|世界大百科事典]]、伊藤幹治『雨乞い』p436-437</ref>。これに対し、長雨の終息を祈る「日乞い」の習俗も存在するが、雨乞いほど多くはない<ref name="GMEN-ame"/>。

日本では、雨はそれ自体神格化されず、[[水神]]や龍神が司るものとされる。そして、神の出現の際には、神威の現れとして雨が降るとされる。これに通じるものとして、[[七夕]]などの[[節日]]や[[神社]]の[[祭礼]]の日には雨が降るという伝承も各地に伝わっている。[[田植え]]を終える目安とされる[[半夏生]]の日に降る雨を半夏雨と言い、田の神が天に昇るときの雨だとされている。また、歴史的に[[水田稲作]]が盛んであることから農民は雨に強い関心を抱いており、[[正月]]や[[節分]]における天気占いや雨乞いの儀礼が各地で行われてきた<ref name="GMEN-ame"/><ref name="NPEN-minzoku"/><ref name="WEN-ameI"/>。

一方、大雨による洪水や山崩れを蛇身と化した水神のしわざだとする伝説や、激しい[[夕立]]や竜巻を龍神の昇天だとする伝承がある。そのほか、雨の夜には[[人魂]]や[[幽霊]]が現れやすいともされている<ref name="WEN-ameI"/>。

雨は文化的モチーフにもなっている。[[季節]]を感じさせるものとして[[四季]]それぞれの雨に対する感性が大きく異なり、古来より雨は多くの文学や芸術のモチーフに叙情的に描かれ、江戸時代の浮世絵版画においては[[歌川広重]]が交差する線の表現など多様な雨の表現を開拓している。[[行友李風]]作の[[戯曲]]の中で[[月形半平太]]が、三条の宿を出る際に言った「春雨じゃ、濡れて参ろう」のせりふは春の雨に対する{{独自研究範囲|date=2015年5月5日 (火) 03:38 (UTC)|日本人の感性をあらわすものとしてよく知られる。}}

=== 雨による活動の制約 ===
雨により、人間の活動が制限されることもある。雨の日に外出するときには、[[傘]]や[[レインコート]]などの[[雨具]]を持参し身に付ける。野外で予定されていた行事が、雨天で中止になったり変更される例はよく見られる。ただし、「少雨決行」のように弱い雨の場合には雨天に関わらず行事が行われる場合がある。

なお、[[類人猿]]においてもこのようなことがあり、雨の日は活動が制約される。彼らは雨よけのために木の枝などを集めて[[傘]]や[[屋根]]のようなものを作ることが知られている。


== 様々な表現 ==
== 様々な表現 ==
{{出典の明記|date=2011-11|section=1}}
{{出典の明記|date=2011-11|section=1}}
日本は雨が多く四季の変化に富み、雨に関する語彙、雨の異名が豊富であるとされる<ref name="WEN-ameI"/><ref name="NPEN-minzoku"/>。

; 雨の強さや降り方による表現
; 雨の強さや降り方による表現
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![[霧雨]]
![[霧雨]]
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|あまり強くない雨が広範囲に一様に降るさま。俄雨に対し、しとしと降り続く雨で、勢いが急に変化するのは稀。
|あまり強くない雨が広範囲に一様に降るさま。俄雨に対し、しとしと降り続く雨で、勢いが急に変化するのは稀。
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![[村雨]]
!村雨
|降りだしてすぐに止む雨。群雨、業雨などとも書く。
|降りだしてすぐに止む雨。群雨、業雨などとも書く。
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; 季節による表現
; 季節による表現
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![[春雨]](はるさめ)
!春雨(はるさめ)
|春にあまり強くなくしとしとと降る雨。<br>地雨性のしっとりとした菜種梅雨の頃の雨を指す。桜の花が咲くころは、花を散らせるので「花散らしの雨」とも呼ばれる。
|春にあまり強くなくしとしとと降る雨。<br>地雨性のしっとりとした菜種梅雨の頃の雨を指す。桜の花が咲くころは、花を散らせるので「花散らしの雨」とも呼ばれる。
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;その他の区分からの表現
;その他の区分からの表現
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!私雨(わたくしあめ)
!私雨(わたくしあめ)
|ある限られた土地だけに降る雨。転じて個人の利得の意もある。
|ある限られた土地だけに降る雨。転じて個人の利得の意もある。
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比較的新しい雨に関する言葉も生まれている。明確な定義はないものの、微妙に異なった意味で使用されている。
比較的新しい雨に関する言葉も生まれている。明確な定義はないものの、微妙に異なった意味で使用されている。
{| class="wikitable"
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![[集中豪雨]]
![[集中豪雨]]
|限られた場所に集中的に降る激しい雨(一般的な認識)。警報基準を超えるような局地的な大雨(気象庁の定義)。局地的豪雨。局地豪雨。
|限られた場所に集中的に降る激しい雨(一般的な認識)。警報基準を超えるような局地的な大雨(気象庁の定義)。局地的豪雨。局地豪雨。
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== 特異な雨 ==
== 地球以外の雨 ==
[[金星]]では、表面を覆う厚い[[硫酸]]の雲から硫酸の雨が降っている。しかし、地表が400℃を超える高温であるため、途中で蒸発してしまい地表には届かない<ref>「[http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/venus.html 金星]」、宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター、2015年4月20日閲覧</ref>。
[[ファイル:Singapourfish.jpg|thumb|right|魚の雨を描いた絵、シンガポール]]
水だけが降ってくる、あるいは透明な色をしている通常の雨とは違い、さまざまなものが雨と一緒に降ったり、色がついた雨が降ることがある。


[[土星]]の衛星の[[タイタン (衛星)|タイタン]]では、-170℃の冷たい地表に[[メタン]]や[[エタン]]で構成される雨が降っており、川や湖のような地形も形成されていることが観測されている<ref>「[http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/saturn_satellite.html 土星の衛星]」、宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター、2015年4月20日閲覧</ref>。
突風を伴った嵐の場合は、[[土壌]]の成分を含んで茶色がかった雨が降ることがある。また、[[黄砂]]などの大気中の浮遊粒子([[エアロゾル]]など)を含んだ[[黄色]]がかった雨、[[赤]]みがかかった雨、[[砂]]や[[泥]]を含んだ雨が降ることもある。これらは時々起こる珍しい現象である。


== 脚注 ==
これ以外に特殊な例として、[[ファフロツキーズ]]と呼ばれる、ほとんど報告されないような珍しい雨もある。例えば、雨と一緒に[[魚]]や[[カエル]]が降るような現象が世界各地で報告されている。特に動物の雨は「[[:en:Raining animals|レイニング・アニマルス]]」とも呼ばれる。
=== 注釈 ===

{{Reflist|group=注}}
また、核爆発に伴う雨の例もある。[[1945年]]8月15日には、[[広島市]]で[[原子爆弾]]投下の後、高レベルの[[放射能]]を持つ[[放射性降下物]]を含む[[黒い雨]]が降った。この雨は触れただけで[[放射線障害]]の原因となり、二次[[被曝]]を引き起こした。核爆発では、大量の熱が放出されるため強い上昇気流が起こって雨粒が成長するとともに、雨に大量の放射性物質(粉塵)が混じり、雨自体も強い放射能を有することになる。これは[[長崎市]]の原爆投下後や、他の核実験の後においても確認されている。なお、この場合で雨が黒くなるのは粉塵に拠るものであり、放射線の作用で色が変化する訳ではない。
=== 出典 ===

{{Reflist|2}}
== 文化・生活 ==
== 参考文献 ==
[[ファイル:Hiroshige Atake sous une averse soudaine.jpg|200px|thumb|歌川広重『名所江戸百景』]]
* {{Anchors|GME}}小倉義光 『一般気象学』 [[東京大学出版会]]、1999年、第2版。ISBN 4-13-062706-6
雨の概念や雨に対する考え方は、その土地の気候によって様々なものがある。[[イギリス]]、[[ドイツ]]、[[フランス]]など[[西洋]]の温暖な地域([[西岸海洋性気候]]の地域)では「雨」を悲しいイメージで捉える傾向が強く、いくつかの[[童謡]]にもそれが表現されている。
* {{Anchors|NMB}}岩槻秀明 『最新気象学のキホンがよ〜くわかる本』第2版、秀和システム、2012年 ISBN 978-4-7980-3511-6

* {{Anchors|WHC}}荒木健太郎 『雲の中では何が起こっているのか』第2版、ベレ出版、2014年 ISBN 978-4-86064-397-3
一方、雨が少ない[[アフリカ]]や[[中東]]、[[中央アジア]]の乾燥地帯などでは、雨が楽しいイメージ、喜ばしいものとして捉えられることが多く、雨が歓迎される。
* {{Anchors|hpc}}気象庁「[http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/hpc.html 気象観測の手引き]」、平成10年(1998年)9月

* {{Anchors|WEN}}『世界大百科事典』2007年改訂新版、1巻、平凡社、2007年9月 ISBN 978-4-582-03400-4
日本は温暖湿潤気候に属し国土における山地の割合が多いため雨が多く、また生業においても歴史的に[[水田稲作]]や[[林業]]をはじめとする山の生業に広く依存している。一方で大雨は河川を増水させ[[洪水]]被害を及ぼすなど厄災を及ぼすことも多く、治山・治水が行われてきた。
* {{Anchors|GMEN}}『グランド現代大百科事典』1990年改訂新版、1巻、学習研究社、1990年5月 ISBN 4-05-150076-4

* {{Anchors|NPEN}}『日本大百科全書(ニッポニカ)』の項目「[https://kotobank.jp/word/%E9%9B%A8-27399 雨]」、小学館([[コトバンク]]、2015年4月17日閲覧)
また、雨が少ない時期や乏水地域で[[雨乞い]]習俗が存在し、これは[[山の神]]と関係した民俗であることが多い。その他、雨は文化的モチーフにもなり、西洋と同じく雨に対する悲しいイメージもある。同時に、[[季節]]を感じさせるものとして[[四季]]それぞれの雨に対する感性が大きく異なり、古来より雨は多くの文学や芸術のモチーフに叙情的に描かれ、江戸時代の浮世絵版画においては[[歌川広重]]が交差する線の表現など多様な雨の表現を開拓している。
* {{Anchors|CEN}}日本地球化学会・編『地球と宇宙の化学事典』初版、朝倉書店、2012年 ISBN 978-4-254-16057-4

* {{Anchors|RSC}}武田喬男『雨の科学 -雲をつかむ話』、成山堂書店、2005年 ISBN 4-425-55141-9
[[行友李風]]作の[[戯曲]]の中で[[月形半平太]]が、三条の宿を出る際に言った「春雨じゃ、濡れて参ろう」のせりふは春の雨に対する日本人の感性をあらわすものとしてよく知られる。

===雨による活動の制約===
雨により、人間の活動が制限されることもある。野外で予定されていた行事が、雨天で中止になったり変更される例はよく見られる。ただし、「少雨決行」のように弱い雨の場合には雨天に関わらず行事が行われる場合がある。

なお、[[類人猿]]においてもこのようなことがあり、雨の日は活動が制約される。彼らは雨よけのために木の枝などを集めて[[傘]]や[[屋根]]のようなものを作ることが知られている。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{sisterlinks|wikiquote=雨|commons=category:Rain}}
{{sisterlinks|wikiquote=雨|commons=Rain|commonscat=Rain}}
* [[気象]]
* [[気象]]
* [[降水確率]]
* [[降水確率]]
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* [[雲]]
* [[雲]]
* [[雨具]]
* [[雨具]]
* [[傘]]
* [[合羽]]
* [[レインコート]]
* [[酸性雨]]
* [[酸性雨]]
* [[流星雨]]
* [[流星雨]]
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://www.jma-net.go.jp/ishigaki/school/kis_home.htm 気象の教室 降水について] - 石垣島地方気象台
* [http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/3d/Rain.ogg 雨音]
* [http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kousui.html 予報用語・降水] - 気象庁
* [http://x51.org/x/04/08/2501.php いかにして「魚の雨」は降るか]
* [http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kousui.html 予報用語・降水(気象庁)]


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2015年5月28日 (木) 14:34時点における版

降雨
車の窓ガラスに付いた雨粒

(あめ)とは、大気からが落下する現象で、降水現象および天気の一種[1][2]。また、落下する水滴そのもの(雨粒)のこと[3]。大気に含まれる水蒸気が源であり、冷却されて凝結した微小な水滴がを形成、雲の中で水滴が成長し、やがて重力により落下してくるものである。ただし、成長の過程で一旦凍結氷晶を経て再び融解するものもある[4]。地球上の水循環を構成する最大の淡水供給源で、生態系に多岐にわたり関与するほか、農業水力発電などを通して人類の生活にも関与している[3][5]

雨の形成

水循環
アスファルト上に降り水紋を作る雨
移動する雨雲と雨筋

水蒸気から雲へ

地球の大気(空気)は、場所により量が異なるが、水蒸気を含んでいる。この水蒸気は、海洋の表面、地面からの蒸発、植物からの蒸散などを通して供給されるものである[6]

空気中の水蒸気の量を表す身近な指標として相対湿度があり、通常は単に湿度と呼ぶ。相対湿度とは、空気がある温度気温)であるときに含むことができる水蒸気の最大量(飽和水蒸気量)を100%とし、実際に含まれている量を最大量に対する割合で表したものである。例えば、気温25・相対湿度50%の空気には、1m3(=1000リットル)あたり11.4gの水蒸気が含まれる[7]

空気の相対湿度が増して100%に達することを飽和という。空気は、何らかの要因によって冷やされることで飽和する。飽和した空気では、水蒸気が凝結して微小な水滴を形成する。これがである[6]

先の例に挙げた、25℃・相対湿度50%の空気1m3を考える。この空気には11.4gの水蒸気が含まれる。これを10℃まで冷却すると、10℃の飽和水蒸気量は9.3g/m3なので、11.4 - 9.3 = 2.1g分が凝結し水滴となることが分かる[7]

空気を冷却して飽和させるプロセスは、主に断熱膨張による冷却である。断熱膨張とは、上空へいくほど気圧が低いため、空気が持ち上げられて気圧が下がると膨張し、同時に冷却されることを言う。大気の対流気団同士の衝突(前線)などの大気の大規模な運動、また気流が山にぶつかったりするような物理的障害によって起こる。このほかには、例えば暖かい空気が冷たい海面に触れたり、空気が熱放射として宇宙に向かって赤外線を放射したり(冬の晴れた夜間に起こる放射冷却としてよく知られている)、降雨時の雨粒が蒸発の際に潜熱を奪い周りの空気を冷やしたりするプロセスがある[8]

凝結・暖かい雨

空気中での水滴の凝結は実際には、凝結核を介して行われる。球の形をする水滴には表面張力が働くが、水滴が小さいほど表面張力が強く核生成が安定しない。ある実験によれば、ほこりのない非常に清浄な空気中では、0℃のとき相対湿度が100%を超過(過飽和)してさらに430%まで達しなければ、水滴は自発的に形成されない。対して、通常の大気のように凝結核がある空気中では、エアロゾル粒子の働きにより凝結が助けられるため、相対湿度は概ね101%を上回ることがない。雲の凝結核として働く主なエアロゾル粒子には、燃焼ガスや火山ガスに由来する0.1-1µm硫酸塩粒子、海のしぶきに由来する数µmの海塩粒子や、土壌由来の粒子、有機エアロゾルなどがある[9][10][11]

雲ができたての時の水滴(雲粒)の大きさは、半径1 - 20µm(0.001 - 0.02mm)程度である。これに対し、雨粒の平均的な大きさは半径1,000µm(1mm)である。なお、雲の中には1m3あたり1000万 - 数百億個の雲粒が存在する。半径1 - 10µm程度の初期の段階では、雲粒の表面にさらに水蒸気が凝結していくことにより通常でも数分ほどで10µm程度の大きさに成長する(凝結過程)。しかし、凝結による成長は粒径が大きくなるほど遅くなる。雲粒の平均を半径10µmだとして、半径100倍の1,000µmに成長するためには、体積にして100万倍、これを雲の中の平均的な水蒸気量の下で凝結だけで行うと約2週間かかると試算され、現実とはかけ離れている。実際には、10 - 30µm程度に達すると水滴同士の衝突により成長する(併合過程)。衝突併合による成長は粒径が大きいほど速いため、この段階では加速的に成長が進む。なお、海洋の積雲では、吸湿性の海塩粒子が豊富な事から大きな粒子がすぐに生成され、雲ができ始めてから20 - 30分程度で雨が降り出すことも珍しくない[12][13][14]

上記のように、一貫して液体のまま雨として降るプロセスを「暖かい雨」という。これに対し、途中で凍結して氷晶になり、再び融解して降るプロセスを「冷たい雨」という。日本で降る雨は、およそ8割が「冷たい雨」のプロセスによるものだと言われている[15]

氷晶・冷たい雨

気温が0℃を下回る冷たい空気の環境下で起こる。単体氷晶の形成としては、水蒸気が凝結核を介して凝結した水滴がさらに凍結核の働きにより凍結し氷晶となるパターンと、水蒸気が昇華核を介して昇華し直接氷晶を形成するパターン、さらに、氷晶同士の衝突などで生じる二次氷晶がある[16]

空気中では、気温が0℃を少し下回ったくらいでは水滴の凍結が始まらないことが多い。0℃以下で凍らない状態を過冷却と言う。凍結核は、水滴に衝突することによる衝撃や、水滴に溶け出すことによる化学的効果などを通して、概ね-30℃以上の環境下で凍結を促す。-30℃以下の環境では、昇華による氷晶の形成が起こる。また、-40℃以下の環境では、凍結核がない場合でも純水の均質核生成により水滴が凍結する[16]

雲の中で一部の水滴が凍って氷晶になり始めると、周囲に存在する過冷却の水滴は蒸発して氷晶の表面に昇華するため、急速に成長する。例えば直径10µmの氷晶は、同じ大きさの水滴に比べて10倍の速度で成長する。氷晶は成長過程で分化し、結晶が集まった雪片になるものと、主に積乱雲の中で生じるが丸みを帯びた氷の粒()になるものに分かれる[16][17]

雪片や霰が落下する途中で、0℃より高い空気の層に達すると融け始め、完全に融けると液体の雨粒となる。融けきれない場合はとなる。雪は落下途中で昇華(気化)しながら昇華熱を放出するため、2 - 3℃程度では雪の形状を保ったまま降ることがある。雪になるか雨になるか、あるいは雪と雨が混合するになるかは、気温と相対湿度により決まる[16][17]雪#雪・霙・雨の境目、雪の目安も参照)。

またごく稀に、冷たい雨の成立する環境下で上空に0℃以上の逆転層が存在する時、落下中は液体(過冷却)であるものの着地時に凍結して氷の層(雨氷)を形成する、着氷性の雨というものも存在する[18]

雲から雨へ

寒冷前線(左)と温暖前線(右)による雨の模式図

なお、雲の段階で水滴が落ちてこないのは、落下速度が遅いからである。半径1 - 10µmのオーダーの水滴の終端速度は1cm/sに満たないが、雲の中ではこれを優に上回る速度の上昇気流が普通に存在するため、浮かんでいるように見える。一方、水滴が半径1mm(直径2mm)のときの終端速度は7m/sに達し、上昇気流を振り切って落下する。短い場合、特に海洋上で発生する積雲の場合、雲ができ始めてから最短15 - 20分程度で雨が降り出す場合がある。また熱帯地方の「暖かい雨」の場合も、30分 - 1時間程度で雨が降り出す。ただ、これらより長く滞留して降る雨も少なくない[19][20]

主に雨を降らせる雲は、10種分類において層雲乱層雲積乱雲に分類される雲である。層雲は地上に近いところにでき、弱く変化の少ない雨を降らせることが多い。乱層雲は灰色を呈し風により変化に富む形状をする雲で、雨を降らせる代表的な雲である。積乱雲は上空高くもくもくと盛り上がる雲で、乱層雲よりも激しく変化の大きい雨を降らせ、しばしば雷や雹を伴う[21]

雨雲の下端(雲底)の高さは実にさまざまだが平均的には約500m - 2,000m程度で、多くの雨粒はこの距離を落下してくる。周囲の空気が乾燥していると、雨は落下する途中で蒸発してしまう。このときには、雲の下に筋状の雨跡を見ることができ、これを降水条や尾流雲と呼ぶ[22]

雨の降り方

降水型

雨は、雲を生じさせる要因によりいくつかの降水型に分類できる[5]

  • 対流性降雨 - 不安定成層をした大気において生じる対流性の雲から降る雨[5]
  • 地形性降雨 - 山のような地形の起伏により気流が強制的に上昇させられて生じる雲から降る雨[5]
  • 前線性降雨 - 温暖前線寒冷前線の前線面で気流が上昇して生じる雲から降る雨。温暖前線は広い地域にしとしとと降り、寒冷前線は局地的に強く降る、という傾向がある[3]
  • 低気圧性降雨(収束性降雨) - 台風低気圧のもとで下層の空気が集まり収束して生じる雲から降る雨[5][3]

雨の強さ

雨の強さ、一定時間に降る雨の量を雨量(うりょう)と言う。雨量は、雨量計と呼ばれる直径20cmの円筒形の器具で測定し、その深さをミリメートル(mm)で表現する。通常用いるのは1時間の雨量(時間雨量)だが、短時間の降雨の強さを表すために10分間雨量などを用いることもある。なお、雪や霰などの雨以外による降水も含めた場合は降水量と言う[5]

気象庁では、雨の強さの表現を時間雨量により次のように分類している[23][24]

分類 1時間雨量 イメージ 周囲の様子や影響
小雨 (数時間続いても1mm未満の雨)
弱い雨 3mm未満
やや強い雨 10mm以上20mm未満 ザーザーと降る 雨の音で話しが良く聞き取れない。地面一面に水たまりができる。
強い雨 20mm以上30mm未満 土砂降り をさしていても濡れる。車のワイパーを速くしても前が見づらい。側溝や下水、小さながあふれ、小規模の崖崩れが始まる。
激しい雨 30mm以上50mm未満 バケツをひっくり返したように降る 道路が川のようになる。車のスピードが速いとブレーキが効かなくなる(ハイドロプレーニング現象)。山崩れ・崖崩れが起きやすくなり、危険な場所では避難の準備が必要。都市では下水管から雨水があふれる。
非常に激しい雨 50mm以上80mm未満 滝のように降る。ゴーゴーと降り続く 傘は全く役に立たなくなる。水しぶきであたり一面が白っぽくなり、視界が悪くなる。車の運転は危険とされる。多くの災害が発生する。都市部では地下室や地下街に雨水が流れ込む場合がある。マンホールから水が噴出する。土石流が起こりやすい。
猛烈な雨 80mm以上 息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感じる 雨による大規模な災害の発生するおそれが強く、厳重な警戒が必要。

また、災害の恐れのあるような雨を「大雨」[24]、その程度が激しいものを「豪雨」と言う。

世界の気候と雨

世界では地域によって、雨の降り方は全くと言っていいほど異なる。極端な例では、1分間に30mmあるいは1日に1,500mmもの豪雨が降る地域がある一方、1年に1mmも雨が降らない地域も存在する[3][25]。おおまかな傾向として、高緯度地域よりも低緯度緯度の方が雨が多く、また大陸では内陸部よりも沿岸部の方が雨が多く、気温の高さや水の供給源からの近さが影響を与えている[26]。しかし、緯度と雨量は単純に対応しているわけではない。地球を南北に見ると雨量の多い地域は2つあり、1つは暖気が上昇し続ける赤道付近の熱帯、もう1つは寒気と暖気がせめぎ合う中緯度の温帯亜寒帯である[27]

世界の年間降水量(雪を含む)を平均すると、陸上では約850mm、海洋では約1250mm、地表平均では約1100mmと推定されている。古い資料では世界平均で800mm程度とされていることがあるが、新しい調査で海洋のデータが判明したことで値は上方修正されている[28][3]

熱帯雨林気候を呈する赤道付近では、貿易風が収束する熱帯収束帯で積乱雲が発達しやすく、対流性の強い雨が毎日のように降る。温帯湿潤気候亜寒帯湿潤気候を呈する中緯度では、亜寒帯低圧帯に沿い前線や低気圧の活動が活発であり、層状性の雲から広く雨や雪が降る一方、寒暖差が大きいため対流性の雨も降る。特に亜熱帯温帯の地域では、1時間雨量の最大値は熱帯とほぼ変わらない[27]

一方、熱帯と温帯に挟まれた乾燥帯の地域は亜熱帯高気圧に覆われ気流が発散し、雲ができにくいため雨が少ない。ただし、この緯度にあってもアジア・アフリカ・北米・南米の大陸東岸では海洋性の高気圧からの南寄り(北半球の場合。南半球では北寄り)の辺縁流や暖流の影響で湿潤となり、年間を通して雨が多い温暖湿潤気候となる[27]

これらの気圧帯は季節変化に伴い南北に移動する。これにより、季節により雨量が著しく変化する地域がある。乾燥帯寄りの熱帯に位置するサバナ気候熱帯モンスーン気候の地域では、雨季乾季が明瞭に現れ、年間雨量の9割が雨季に集中する。一方、ヨーロッパの地中海沿いは夏に高圧帯、冬に低圧帯に入るため冬に雨が多く夏に乾燥する地中海性気候となる[27]

災害

雨量は季節やにより変動し、少な過ぎても多過ぎても災害となりうる。大雨による災害には、家屋の流失や田畑の冠水をもたらす洪水地すべり崖崩れなどがある。少雨による災害には、水不足旱魃などがある[3]

雨の性質

雨粒の形状

雨粒

落下する雨の水滴を雨粒(あまつぶ)といい、雨滴(うてき)ともいう。雨水が軒などから落ちるのは雨垂れ(あまだれ)、雨だれが落ちて打ち当るところを雨垂落(あまだれおち)という。なお、雨によるものではないが、濃霧の時、森林の中で霧の微小な水滴が枝葉につき、大粒の水滴となって雨のように降り落ちる現象を樹雨(きさめ、きあめ)という。

雨粒の温度は、概ね気温より冷たい傾向にあるが、落下してくる大気の気温や湿度に左右される。地表においては、おおよそ湿球温度に近い温度になると考えられている[29]

雨粒は太陽光を反射分光し、を作ることがある。

雨粒の大きさと形状

雨粒の大きさは、通常は直径1mm前後で、概ね直径0.2 - 6mmの範囲内にある。小さなものほど落下速度が小さく、特に直径0.5mm未満の雨粒が一様に降る状態の雨を霧雨(きりさめ)といい、ほとんど浮遊しているように見えるとされる。一方、直径6mmを超えるような大きな雨粒は分裂しやすく観測されにくい[30][31]

雨が降ってくるとき、雨粒の密度は、1m3あたり10個 - 1,000個程度である[32][33]。雨粒の大きさと密度の関係は、「マーシャル・パルマーの粒径分布」として表せる(マーシャルおよびパルマー、1947年)。実際には全ての場合に適用できる訳ではないが、大きな粒ほど密度が低い、おおよそ指数関数的な分布になっている[34]

雨粒の落下速度は、雨粒の大きさにほぼ比例する。相当半径[注 1]0.1mm(直径0.2mm)では終端速度70cm/s、0.5mm(直径1cm)では4m/s、1mm(直径2mm)では6.5m/sである。2mm(直径4mm)では9m/sに達するがこれより大きくなっても速度はほとんど変わらず、約9m/sが最大値である[30]

雨粒が空気中を落下するとき、雨粒が半径1mm(直径2mm)より小さい場合は、表面張力のためにほぼ球形をしている。これより大きくなると、表面張力が小さくなる代わりに空気抵抗が増し、雨粒の底面が平らなまんじゅうのような形状となるうえ、落下時に振動し始めて不安定となり、分裂しやすくなる。大きくなるほど壊れやすいため、実際に地上で観測されている雨粒は、最大でも直径8mm程度までである[35][30]

雨がしばしば涙滴形で描かれているのは、木の葉の先から露が落ちるときや、窓ガラスを伝う水滴が涙形をしているためである。1951年北海道大学孫野長治博士が空中を落下する雨粒の写真撮影に成功し、「まんじゅう形」を世界で初めて確認した。

雨水の化学成分

雨水は大部分が水であるが、微量の不純物を含んでいる。不純物の量は、雨水1リットル中に数mg - 数十mgのオーダーである。不純物の濃度は、雨の降り始めに濃い傾向があり、降り続くに従い、また雨量が増えるに従い薄くなっていく。また、季節や場所により大きく変動し、工業地帯では濃度が高い[3]

不純物の成分はなどの燃焼由来の有機物硫黄酸化物硫酸)、窒素酸化物塩素ナトリウム土壌由来の成分などで、重金属類が含まれることもある[5][36]。これらは雲が発生する際(レインアウト)、あるいは雨となって地上に落ちてくる際(ウォッシュアウト)、周囲の空気から取り込まれる。降水量の多い日本では、大気中から地表への沈着物質の6 - 7割が雨による湿性沈着だと考えられている[36]

また核実験の後などには、雨水中に放射性物質が含まれることがある[5]

雨水中の水を構成する水素酸素同位体比は、海水に比べるとやや軽い同位体の比率が高く、大気中の水蒸気と比べるとやや重い同位体の比率が高い。また、気温が低いほど、緯度が低いほど、標高が高いほど、海岸から離れるほど、それぞれ同位体比は低くなる[37]

雨自体に臭いはないが、雷により産生されるオゾン、湿度が上昇することによって粘土から出されるペトリコールや、土壌中の細菌が出すゲオスミンが雨が降るときの臭いの元だと言われている[38]

通常でも雨水は大気中の二酸化炭素を吸収するため、pH(水素イオン指数)は6前後とやや酸性を示す。雨が硫黄酸化物や窒素酸化物などを大気中から取り込み、強い酸性を示すものもある。一方、土壌や燃焼に由来するアンモニウムカルシウム成分を取り込み、pHが中和されることもある。中国東部では、石炭資源が豊富なためその利用により硫黄酸化物が大量に排出されると同時に土壌から黄砂などに由来するアンモニウムやカルシウムが排出され、汚染のポテンシャル自体が高い割に酸性雨の被害は顕著ではない。大気中の二酸化炭素濃度を考慮した平衡状態がpH5.6であることから、この値以下のものを酸性雨と呼ぶが、pH5.0以下とする定義もある[36]

特異な雨

魚の雨を描いた絵、シンガポール

通常とは違い、異物を含んだ雨、色の付いた雨が降ることがあり、俗に怪雨(かいう)と呼ばれる[5]

黄砂などの土壌由来の成分()や火山灰を含み、黄色や赤色を呈する雨が降ることがあり、泥雨(でいう)と呼ばれる。また赤色の場合は血雨(けつう)とも呼ばれる。工業地帯の煤煙を含んだ雨は黒雨(こくう)と呼ばれる[5][39]

特殊な例として、雨と一緒にカエル穀物、木の実が降るような現象が世界各地で報告されており[39]、"falls from the skies"の頭字語ファフロツキーズと呼ばれる。

核攻撃核実験が行われた場所では、放射性降下物を含む黒い雨が降った例がある。1945年8月15日、広島市への原子爆弾投下の後、高レベルの放射能を持つ黒い雨が降った。この雨は触れただけで放射線障害の原因となり、二次被曝を引き起こした。核爆発により放出される大量の熱やその後の市街地の火災が上昇気流を起こし、大量の粉塵が混じったことで黒色を呈した。長崎市への原子爆弾投下後においても、黒い雨が降っている[40]

気象通報・天気図

雨の天気記号

ラジオ気象通報や新聞に掲載される日本式天気図における天気分類では、直径0.5mm以上の水滴が降る場合を「雨」と呼び、直径0.5mm未満の水滴が一様に降るものは「霧雨」として区別する[31]。また、時間雨量に換算して15mm以上の強度で雨が降る場合は「雨強し」、対流性の雲(積雲、積乱雲)から降る雨の場合は「にわか雨」に分類され、それぞれ天気記号が異なる[41]

世界の定点気象観測で用いるSYNOPでは、時間雨量3mm未満を弱い雨、3mm以上15mm未満を並の雨、15mm以上を強い雨として、強度を3区分する。航空気象のMATERでは、雨はRA、しゅう雨はSHRAで表される。

観測

ハリケーン・リタのレーダー画像。赤いところほど雨が強い

雨の観測は主に雨量計気象レーダーにより行われる。雨量計は地点ごとの正確な雨量が分かるが、雨量は地域により大きく偏ることがあり雨量計だけでは雨の全体像を把握できない。一方、気象レーダーは面的に雨の強さの分布が分かるが、雨粒の大きさを測定できないため実際の雨量と大きな誤差が出てしまう。防災面では、両者の欠点を補うため雨量計やレーダーの情報を組み合わせてコンピューター処理した上で活用する[5][42]

日本の場合、防災を目的に気象庁アメダス雨量計が国内約1,300か所に設置されている[43]。また気象庁の気象レーダーは20か所に設置され、国内ほぼ全域をカバーしている[44]。このほか国土交通省都道府県鉄道会社電力会社などが、独自の雨量計やレーダーなどを保有している[42]

雨の観測の歴史は古く、最古のものとしては紀元前4世紀マウリヤ朝時代の古代インドで行われた観測記録がカウティリヤの著書に記されている。15世紀李氏朝鮮では世宗が銅製の計器を用いて観測を行わせたとされる。中国でも15世紀に観測が行われた。ヨーロッパでは、17世紀に雨量計が考案され、ロバート・フックが行った観測記録などが残っている。日本では、18世紀初めに徳川吉宗が雨量を観測させたとされるが、記録自体は残っていない[3][45]

連続した雨量の観測記録の中でもっとも古く信頼できるものは、イギリスロンドン郊外のキューにおけるもので、1697年からの記録がある。このデータは、気候変動を論じる上で、降水量の長期変動を示す資料として引用されている。また日本では、1875年6月1日気象記念日)に当時東京気象台で雨量の観測が始まった[45]

気象レーダー

気象レーダーは、波長5 - 10cmの電波マイクロ波)を放射して雨粒からの反射を検知し、半径およそ300 - 500kmの領域内の降雨分布を調べるものである。レーダー電波の反射強度は、雨粒の直径の6乗と大気中の個数(密度)の積で表される。同程度の雨量でも雨粒の大きさが異なるために誤差が生じることがあり、レーダーのみで正確な雨量は求められない[5][42][46]

なお、雪が融けて雨に変わりつつあるとき、電波が屈折してしまうためその高度のレーダー反射は強くなる。これをブライトバンドという。さらに、雨粒以外のもの、例えば鳥や昆虫などの小動物、空気の乱れなどで異常な観測結果がみられることがあり、このようなものをエンジェルエコーと呼ぶ[42]

気象衛星

実用投入されている気象衛星赤外線により雲の観測を行うもので、雨の直接観測は行っていない[46]。衛星による雨の直接観測が可能となったのは1990年代であり、熱帯降雨観測衛星(TRMM)は熱帯の雨の観測を行った。その後、国際的な協力により複数の衛星による全球降水観測計画(GPM)が展開されている。

水循環と水資源

雨どいと雨水タンク、フランスにて

地球の水循環の中で、雲あるいは水蒸気として大気中に含まれる水は約13×1015kg、また年間の降水総量は重量にして約400×1015kg、高さにして平均800mmと見積もられており、約10日間で入れ替わることに相当する。なお、降水のうち陸地に降るのは4分の1で、残りの4分の3は海洋に降っている。ただし、陸域では降った雨のうち速やかに地表を流れるのは1割で、残りの9割は一旦地下に浸透して地下水に転じ、数か月から数百年をかけてゆっくりと湧出する[47]

自然環境

生物にとって雨は、生存に必要不可欠な水、しかも飲用に適した淡水を供給するという重要な役割をもつ。地上に生息する生物の多くは、雨が集まってできた水辺、地面にしみ込んだ後湧き出すやそれらが合流してできるから生存に必要な水を摂取する。人間においても同様であり、海水淡水化施設を利用している一部を除けば、世界の水道水はほぼ雨に由来する淡水を利用している。

また、雨が地形に及ぼす作用は大きい。雨水が地形を削る浸食作用や、土壌に浸透することで土質を変化させる作用がある。植生も雨に左右され、雨の多い地域では森林が発達し、農業生産が盛んである[48]

また、例えば雨で地面が濡れると地中からミミズが這い出てきて、それを狙ってが低空飛行するという風に、生物には雨が降るとき特有の生態も多々ある。

雨水の利用

人類は、工業用水農業用水飲料水の利用、水力発電など、産業や生活を通じて雨水を源とする水資源を利用している[3]

水力発電は雨水や雪解け水に由来する水の重力落下によって生じる運動エネルギー電気として利用するものであり、海水の蒸発・雲の生成(凝結・凝固)・降雨といった自然のプロセスを復元力とした再生可能エネルギーである。

また雨水の直接利用として、庭先などで雨水を貯留し利用する雨水タンクなどもある。

人工降雨

雲の凝結や雲粒の成長を促して雨を増やす科学的な人工降雨は、1940年代に初めて試みられた。ドライアイスヨウ化銀を氷晶核とする方法が広く用いられ、条件の整った雲であれば一定の成果が得られることが報告されている。しかし、1971年にアメリカがベトナム戦争において雨を増加させて補給を寸断させる作戦を計画したことを契機に、悪影響の側面が議論されることとなった。1976年には環境改変兵器禁止条約が採択(1978年発効)され、敵対国への気象改変技術の使用は禁止されている[49]

文化・生活

歌川広重『名所江戸百景』

雨の概念や雨に対する考え方は、その土地の気候によって様々なものがある。イギリスドイツフランスなど西洋の温暖な地域(西岸海洋性気候の地域)では「雨」を悲しいイメージで捉える傾向が強く、いくつかの童謡にもそれが表現されている。

一方、雨が少ないアフリカ中東中央アジアの乾燥地帯などでは、雨が楽しいイメージ、喜ばしいものとして捉えられることが多く、雨が歓迎される。

民俗

古来より人は、恵みをもたらす半面災厄をもたらす雨を、崇拝すると同時に畏怖していたと考えられる。端的な例として、ノアの洪水のみならず、世界の破壊や創造をもたらす洪水神話は世界各地に存在する。洪水神話は、雨の破壊性と創造性の2つの面を象徴していると考えられる[50][51]

また、世界の多くの神話や伝承において雨は、至高神、天神、雷神の活動の結果としてもたらされると解釈されている。メソポタミア神話の天候神アダドヒッタイトの天候神テシュブフェニキアの嵐の神バアルは天候を支配し雨や洪水を司るとされ、神の怒りが洪水や干ばつの原因だとして恐れられた。ギリシア神話では、全能の神ゼウスが雷を武器として他の巨人や神々と戦う際に雨が降るとされた。インド神話では、王インドラが雷神でもあり、悪竜ブルトラを退治することで川に水を取り戻し、田畑を干ばつから救ったとされる。日本神話では、スサノオヤマタノオロチを倒した際にその尾から出た天叢雲剣が雲を司る神器とされる。スサノオが高千穂峰に降りた天孫降臨の際には、雨と風がもたらされたと伝えられる[50][51]

さらに、天を、大地をとし、両者の交わりによって雨が降り大地に実りがもたらされるという、天父地母の信仰も広く見られる[50]

水辺に生息するカエルヘビなどの動物はしばしば、水神や水神の化身や家来とされたり、雨とかかわりの深いものとされている。ヨーロッパでは、ある種の昆虫の活動を雨の前触れとする伝承が広く見られる[51]

雨と関わりの深い農耕や牧畜を行う民族・部族では「雨乞い」の習俗が存在する。雨への依存が大きいアフリカの農民や牧畜民では、雨乞いを行う雨乞師の社会的地位が高いという特徴がある。雨乞いの儀式には広く水や煙、鉦などが用いられるが、これは水が雨、煙が雲、鉦が雷鳴を象徴する類感呪術であると考えられている。一部では、特徴的な形状の自然物を「雨石」や「雨の葉」などの神聖な事物として祀る習俗もある[51][50]。これに対し、長雨の終息を祈る「日乞い」の習俗も存在するが、雨乞いほど多くはない[3]

日本では、雨はそれ自体神格化されず、水神や龍神が司るものとされる。そして、神の出現の際には、神威の現れとして雨が降るとされる。これに通じるものとして、七夕などの節日神社祭礼の日には雨が降るという伝承も各地に伝わっている。田植えを終える目安とされる半夏生の日に降る雨を半夏雨と言い、田の神が天に昇るときの雨だとされている。また、歴史的に水田稲作が盛んであることから農民は雨に強い関心を抱いており、正月節分における天気占いや雨乞いの儀礼が各地で行われてきた[3][51][50]

一方、大雨による洪水や山崩れを蛇身と化した水神のしわざだとする伝説や、激しい夕立や竜巻を龍神の昇天だとする伝承がある。そのほか、雨の夜には人魂幽霊が現れやすいともされている[50]

雨は文化的モチーフにもなっている。季節を感じさせるものとして四季それぞれの雨に対する感性が大きく異なり、古来より雨は多くの文学や芸術のモチーフに叙情的に描かれ、江戸時代の浮世絵版画においては歌川広重が交差する線の表現など多様な雨の表現を開拓している。行友李風作の戯曲の中で月形半平太が、三条の宿を出る際に言った「春雨じゃ、濡れて参ろう」のせりふは春の雨に対する日本人の感性をあらわすものとしてよく知られる。[独自研究?]

雨による活動の制約

雨により、人間の活動が制限されることもある。雨の日に外出するときには、レインコートなどの雨具を持参し身に付ける。野外で予定されていた行事が、雨天で中止になったり変更される例はよく見られる。ただし、「少雨決行」のように弱い雨の場合には雨天に関わらず行事が行われる場合がある。

なお、類人猿においてもこのようなことがあり、雨の日は活動が制約される。彼らは雨よけのために木の枝などを集めて屋根のようなものを作ることが知られている。

様々な表現

日本は雨が多く四季の変化に富み、雨に関する語彙、雨の異名が豊富であるとされる[50][51]

雨の強さや降り方による表現
霧雨 霧のように細かい雨。雨粒の大きさが0.5mm未満の雨(気象庁の定義)。
小糠雨(糠雨) 糠のように非常に細かい雨粒が、音を立てずに静かに降るさま。
細雨 あまり強くない雨がしとしとと降り続くさま。
小雨 弱い雨。あまり粒の大きくない雨が、それほど長くない時間降って止む雨。
微雨 急に降り出すが、あまり強くなくすぐに止み、濡れてもすぐ乾く程度の雨。
時雨(しぐれ) あまり強くないが降ったり止んだりする雨。
特に晩秋から初冬にかけての、晴れていたかと思うとサアーッと降り、傘をさす間もなく青空が戻ってくるような通り雨を指す。
俄雨(にわかあめ) 降りだしてすぐに止む雨。降ったり止んだり、強さの変化が激しい雨。夏に降る俄雨は夕立、狐の嫁入り、天照雨などと呼ばれる。
肘かさ雨驟雨(しゅうう)と同義。
地雨 あまり強くない雨が広範囲に一様に降るさま。俄雨に対し、しとしと降り続く雨で、勢いが急に変化するのは稀。
村雨 降りだしてすぐに止む雨。群雨、業雨などとも書く。
村時雨(むらしぐれ) ひとしきり強く降っては通り過ぎて行く雨。降り方によって片時雨横時雨、時間によって朝時雨夕時雨小夜時雨と分ける。
片時雨 ひとところに降る村時雨。地雨性の村時雨。
横時雨 横殴りに降る村時雨。
涙雨 涙のようにほんの少しだけ降る雨。また、悲しいときや嬉しいときなど、感情の変化を映した雨。
天気雨 晴れているにもかかわらず降る雨。
通り雨 雨雲がすぐ通り過ぎてしまい、降りだしてすぐに止む雨。
スコール 短時間に猛烈な雨が降るさま。熱帯地方で雨を伴ってやってくる突然の強風に由来する。
大雨 大量に降る雨(一般的な認識)。大雨注意報基準以上の雨(気象庁の定義)。
豪雨 大量に降る激しい雨(一般的な認識)。著しい災害が発生した顕著な大雨現象(気象庁の定義)。
雷雨 雷を伴った雨。普通は短時間に激しく雨が降る場合が多い。
風雨 風を伴った雨。
長雨 数日以上降り続くような、まとまった雨。
季節による表現
春雨(はるさめ) 春にあまり強くなくしとしとと降る雨。
地雨性のしっとりとした菜種梅雨の頃の雨を指す。桜の花が咲くころは、花を散らせるので「花散らしの雨」とも呼ばれる。
菜種梅雨 3月から4月ごろにみられる、しとしとと降り続く雨。
菜の花が咲くころの雨。特に三月下旬かる四月にかけて、関東から西の地方で天気がぐずつく時期を指す。
五月雨(さみだれ) かつては梅雨の事を指した。現在は5月に降るまとまった雨を指すこともある。
また、五月雨に対して、この梅雨の晴れ間を五月晴れというが、5月の爽やかな晴天をさすことがある。
走り梅雨 梅雨入り前の、雨続きの天候。
梅雨(ばいう、つゆ) 地域差があるが5月 - 7月にかけて、しとしとと長く降り続く雨。
暴れ梅雨 梅雨の終盤に降る、まとまった激しい雨。「荒梅雨」とも言う。
送り梅雨 梅雨の終わりに降る、雷を伴うような雨。
帰り梅雨 梅雨明けと思っていたところに再びやってくる長雨。「返り梅雨」、「戻り梅雨」ともいう。
緑雨 新緑のころに降る雨。翠雨の一種。
麦雨 麦の熟する頃に降る雨。翠雨の一種。
夕立 夏によく見られる突然の雷雨。あるいは単に夏の俄雨を指す。午後、特に夕方前後に降ることが多い。白雨(はくう)ともいう。
狐の嫁入り 夕立の、特に日が照っているのに降る雨をさす。天照雨(さばえ)などともいう。
秋雨(あきさめ) 秋に降る、しとしとと降る雨。特に9月から10月にかけての長雨をさす。秋雨前線によって起こり、台風シーズンの特徴。秋霖(しゅうりん)。
秋時雨 秋の終わりに降る時雨。
秋入梅 秋雨。秋雨の入り。
液雨 冬の初めの時雨。立冬から小雪のころの時雨。
寒九の雨 寒に入って(小寒を寒の入りという)9日目の雨。豊年の兆しとされる。
寒の雨(かんのあめ) 寒の内(大寒から節分まで)に降る雨。
山茶花梅雨 11月から12月ごろにみられる、しとしとと降り続く雨。山茶花が咲くころの雨。
氷雨 冬に降る冷たい雨。のことを指すこともある。
淫雨 梅雨のようにしとしとと長く降り続き、なかなか止まない雨。
その他の区分からの表現
私雨(わたくしあめ) ある限られた土地だけに降る雨。転じて個人の利得の意もある。
外待雨(ほまちあめ) 局地的な、限られた人だけを潤す雨。
翠雨(すいう) 青葉に降りかかる雨。時期によって緑雨麦雨、草木を潤す雨という視点で甘雨瑞雨と区別する。
甘雨(かんう) 草木を潤す雨。翠雨の一種。
瑞雨(ずいう) 穀物の成長を助ける雨。翠雨の一種。
慈雨 恵みの雨。少雨や干ばつのときに大地を潤す待望の雨。

比較的新しい雨に関する言葉も生まれている。明確な定義はないものの、微妙に異なった意味で使用されている。

集中豪雨 限られた場所に集中的に降る激しい雨(一般的な認識)。警報基準を超えるような局地的な大雨(気象庁の定義)。局地的豪雨。局地豪雨。
ゲリラ雨・ゲリラ豪雨 限られた場所に短い時間集中的に降る、突然の激しい雨。
短時間強雨 短い時間に集中的に降る強い雨。
ゲリラ雷雨 雷を伴ったゲリラ雨・ゲリラ雷雨。

地球以外の雨

金星では、表面を覆う厚い硫酸の雲から硫酸の雨が降っている。しかし、地表が400℃を超える高温であるため、途中で蒸発してしまい地表には届かない[52]

土星の衛星のタイタンでは、-170℃の冷たい地表にメタンエタンで構成される雨が降っており、川や湖のような地形も形成されていることが観測されている[53]

脚注

注釈

  1. ^ 大きな雨粒は変形するため、それを球形に換算した半径のこと。

出典

  1. ^ 岩槻、p216
  2. ^ 気象観測の手引き、p61
  3. ^ a b c d e f g h i j k l グランド現代大百科事典、大田正次『雨』p412-413
  4. ^ 荒木、p42-43
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 世界大百科事典、内田英治『雨』p475-476
  6. ^ a b 荒木、p75-77
  7. ^ a b 岩槻、p112, p118-120
  8. ^ Robert Fovell (2004年). “Approaches to saturation” (pdf). University of California in Los Angelese. 2015年4月7日閲覧。
  9. ^ 岩槻、p180-184
  10. ^ 小倉、p78-88
  11. ^ 荒木、p116-128
  12. ^ 小倉、p81, p85-92
  13. ^ 荒木、p77-82, p128-129
  14. ^ 武田、p31-34
  15. ^ 小倉、p87-88, 98
  16. ^ a b c d 荒木、p132-148
  17. ^ a b 小倉、p92-99
  18. ^ 気象観測の手引き、p61
  19. ^ 小倉、p86, 89
  20. ^ 荒木、p77-82, 129-131
  21. ^ 荒木、p23-38
  22. ^ 荒木、p103-104
  23. ^ 雨の強さと降り方 平成12年8月作成、平成14年1月一部改正」気象庁、2015年4月18日閲覧
  24. ^ a b 天気予報等で用いる用語 降水
  25. ^ 武田、p139-140, 142-153
  26. ^ 日本大百科全書、礒野謙治「雨量の分布」
  27. ^ a b c d 武田、p142-153
  28. ^ 『キーワード 気象の事典』初版、p247、朝倉書店、2002年。ISBN 4-254-16115-8
  29. ^ 武田、p8-9
  30. ^ a b c 荒木、p77-82
  31. ^ a b 気象観測の手引き、p61
  32. ^ 荒木、p78-79
  33. ^ 武田、p24-25
  34. ^ 武田、p14-15
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  36. ^ a b c 地球と宇宙の化学事典、p154
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  39. ^ a b 日本大百科全書、礒野謙治「珍しい雨」
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  50. ^ a b c d e f g 世界大百科事典、飯島吉晴、吉田敦彦『雨』p475-476 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "WEN-ameI"が異なる内容で複数回定義されています
  51. ^ a b c d e f 日本大百科全書、竹内利美「雨の民俗」、板橋作美「世界の伝承と俗信」
  52. ^ 金星」、宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター、2015年4月20日閲覧
  53. ^ 土星の衛星」、宇宙航空研究開発機構 宇宙情報センター、2015年4月20日閲覧

参考文献

関連項目

外部リンク