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「ヒートアイランド」の版間の差分

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{{Otheruses|ヒートアイランドと呼ばれる現象|その他のヒートアイランド|ヒートアイランド (曖昧さ回避)}}
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'''ヒートアイランド'''(urban heat island:UHI、heat island)とは、'''[[都市]]'''部の[[気温]]がその周辺の'''[[郊外]]'''部に比べて異常な'''[[気温|高温]]'''を示す現象<ref>[http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/himr_faq/01/qa.html 気象庁公式ホムページ ヒートアイランド現象とはどのようなものですか?]</ref>。高温により自然環境が影響を受け住民の[[生活]]や[[健康]]にも影響を及ぼすことから、近年問題視されている。対策を行わければ、人口の集中がある場所は例外く起こ現象で、都市の規模が大きほどヒートアイランド影響も大き傾向にある。
'''ヒートアイランド'''(urban heat island:UHI、heat island)とは、'''[[都市]]'''部の[[気温]]がその周辺の'''[[郊外]]'''部に比べて'''[[気温|高温]]'''を示す現象。住民の[[健康]]や[[生活]]、自然[[環境]]への影響、例えば夏季は[[熱中症]]の増加や[[不快指数|不快さ]]の増大、冬季は[[感染症]]を媒介する生物の[[越冬]]が可能になる事などが挙げられ、問題視されている。[[都市化]]が進むほど、ヒートアイランドも強まり、高温の長時間化や高温域の拡大が起こる<ref group="参" name="jmaqa-1">[[#jmaqa|気象庁 「ヒトアイランド現象に関する知識」]] Q1:ヒートアイランド現象とはどのようなものですか?</ref>。ただ、[[東京]]のような巨大都市限ったのでは、人口数千人から数万人と規模小さな都市も小規模がら発生す。また都市の[[地勢]]や[[気候]]の違が高温化度合いに差異を生み、郊外部にも高温化を波及させることがある<ref group="参" name="envrep14-2">[[#envrep14|環境省、2001年]]、&sect;2(3-14頁)</ref><ref name="Sakakibara03"/>
[[画像:HeatIsland_Kanto_ytkm.png|thumb|300px|right|都市の規模からして[[東京]]は、世界有数のヒートアイランドの例と言える。上のグラフは[[関東地方]]の 9月の平均気温の変動を示す。<small>東京の気温は1930年頃に横浜を、その後は千葉県南部にある勝浦をも上回り、1980年代からは[[地球温暖化]]の[[気温#平均気温|進行]]による急上昇も顕著になる。また南から北へと風が流れる夏場の関東では、最大の熱排出源である東京より北方での気温上昇が大きく現れている。また、このグラフから、勝浦が最も気温の上昇が小さいことがわかる。</small>]]
特に冬場や夜間の気温上昇が著しく、[[東京]]では1920年代は年間70日程度観測されていた[[冬日]]が年間数日程度に激減し、[[熱帯夜]]の日数は3倍以上に増加している。ちなみに東京での熱帯夜は、観測史上最も暑い夏になった[[2010年の猛暑 (日本)|2010年]]が最多で56日、次いで2011年と2012年が49日を数え、平年の27.8日を大きく上回っている。真夏日に関しても2010年が最も多く、71日に達した(平年は48.5日)。一方で冬日は、[[寒冬]]になった2006年、2012年でさえそれぞれ、9日と6日にしかならなかった。記録的な[[暖冬]]になった1989年、1993年、2004年、2009年は1日も観測されなかった。


[[画像:HeatIsland_Kanto_ytkm.png|thumb|300px|right|[[東京]]は世界的にも速くヒートアイランドが進行している<ref group="参" name="jmaqa-9"/>。上のグラフは[[関東地方]]の 9月の平均気温の変動を示す。<br/>東京の気温は1930年頃に横浜を、その後は千葉県南部にある勝浦をも上回り、1980年代からは[[地球温暖化]]の[[気温#平均気温|進行]]による急上昇も顕著になる。また南から北へと風が流れる夏場の関東では、最大の熱排出源である東京より北方での気温上昇が大きく現れている。また、このグラフから、勝浦が最も気温の上昇が小さいことがわかる。]]
== 概要 ==
「ヒートアイランド」という語は英語からきており、直訳すると「熱の島」であるが、これは気温分布を描いたとき、等温線が都市を中心にして閉じ、ちょうど都市部が周辺から浮いた[[島]]のように見えることに由来する。[[日本語]]に訳す場合は'''都市高温化'''とされる


== ヒートアイランドの進行と研究 ==
従来より[[気候学]]においては、高温・乾燥傾向で独特の風系を有するような都市特有の気候を[[都市気候]]と呼んでおり、これを研究する[[都市気候学]]や[[都市環境学]]などの学術分野がある。それらの中でも、ヒートアイランドは主要なテーマとされる現象の1つである。
「ヒートアイランド」という語は英語からきており、直訳すると「熱の島」であるが、これは気温分布を描いたとき、等温線が都市を中心にして閉じ、ちょうど都市部が周辺から浮いた[[島]]のように見えることに由来する<ref group="参" name="jmaqa-1"/>。[[日本語]]に訳す場合は'''都市高温化'''とされる。


都市は、郊外に比べて高温・乾燥で独特の風系を有する傾向にある。こうした都市特有の気候を[[気候学]]においては[[都市気候]]と呼び、これを研究する[[都市気候学]]や[[都市環境学]]などの学術分野がある。それらの中でも、ヒートアイランドは主要なテーマとされる現象の1つである。
「都市の気温が郊外に比べて上昇している」ことが初めて発見されたのは、[[1850年代]]の[[ロンドン]]とされている。イギリスの科学者・気象研究者であった[[リューク・ハワード]]([[:en:Luke Howard|Luke Howard]])は、当時[[産業革命]]により著しく発達していたロンドンの気温が、周辺地域よりも高くなってきていることを発見した。これ以降、欧米を中心に世界各地の大都市で気温上昇が観測されるようになり、やがて"Urban Heat Island"と呼ばれるようになった。日本でもヒートアイランドという言葉が使われるようになり、[[1970年代]]に大きく報道されてから知られるようになった<ref>[http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-18-t996-38.pdf ヒートアイランド現象の解明に当たって建築・都市環境学からの提言] 2003年7月15日、日本学術会議 社会環境工学研究連絡委員会 ヒートアイランド現象専門委員会</ref><ref>[http://www.lij.jp/html/koen/record/120/siryou01.pdf 都心のヒートアイランド現象について] 2006年7月13日、独立行政法人建築研究所 足永靖信</ref>。


「都市の気温が郊外に比べて上昇している」ことが初めて発見されたのは、[[1850年代]]の[[ロンドン]]とされている。[[イギリス]]の科学者・気象研究者であった[[リューク・ハワード]]([[:en:Luke Howard|Luke Howard]])は、当時[[産業革命]]により著しく発達していたロンドンの気温が、周辺地域よりも高くなってきていることを発見した。これ以降、欧米を中心に世界各地の大都市で気温上昇が観測されるようになり、やがて"Urban Heat Island"と呼ばれるようになった<ref name="scj03">日本学術会議 社会環境工学研究連絡委員会 ヒートアイランド現象専門委員会「{{PDFLink|[http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-18-t996-38.pdf ヒートアイランド現象の解明に当たって建築・都市環境学からの提言]}}」、2003年7月15日</ref><ref name="Ashinaga06">足永靖信「{{PDFLink|[http://www.lij.jp/html/koen/record/120/siryou01.pdf 都心のヒートアイランド現象について]}}」、独立行政法人建築研究所、2006年7月13日</ref>。
この異常な温度上昇の主な原因は、端的には[[都市化]]に伴う環境の変化である。もともと[[土]]や[[植物]]で覆われていた[[原野]]や[[田畑]]を開発して[[住宅地]]や[[商業地]]、[[工業地]]にすると、建物が建てられ、地面が舗装された上、生活や生産に使われた熱が大量に放出され、構造物はその熱の発散を妨げることになる。熱容量の大きなコンクリートやアスファルト及び地面の中にも熱は伝導して蓄積される。 夏になると日照時間が増えて、地面や地下に熱が蓄積され始める。 夜中になっても気温が下がらないケース([[熱帯夜]])のほとんどがこのアスファルトやコンクリートからの輻射熱が原因である。焼け石と同じでそれは夜になっても熱の放射を止める事はない。都市ではこれが数十km四方を超える広範囲で高密度に現れ、結果的に気候の変化をもたらすのである。


日本では、初期の研究として福井・和田(1941)による[[東京市]](当時)郊外と都心の観測報告があり、現在の[[練馬区]]にあたる郊外と都心とで5℃の気温差があったという。その後1950年代から1960年代にかけて、気温分布など都市特有の気候を研究する論文が幾つか発表されている<ref name="Mikami06">三上岳彦 「都市ヒートアイランド研究の最新動向―東京の事例を中心に―」、『E-journal GEO』1巻2号、79-88頁、2006年 {{JOI|JST.JSTAGE/ejgeo/1.79}}</ref><ref>三上岳彦、大和広明、広域METROS研究会 「広域 METROS による首都圏の高密度気温観測とその事例解析」、『地学雑誌』120号、317-324頁、2011年 {{JOI|JST.JSTAGE/jgeography/120.317}}</ref>。ただし、ヒートアイランドという言葉が一般に知られるようになったのは、大きく報道された[[1970年代]]からである<ref name="scj03"/><ref name="Ashinaga06"/>。
[[海]]や[[川]]の沿岸部に[[高層建築物]]が林立することで、[[風]]の流れを遮って都市部の高温化に拍車をかけていることも分かって来ている。また、海岸部の都市でヒートアイランドが起きると、内陸の都市化していない地域にも高温化が及ぶ場合もある。


ヒートアイランドは現在世界中の都市で観測されており<ref group="参" name="jmaqa-9"/><ref name="Akbari05"/>、日本でも最大規模のヒートアイランドが起こっている東京をはじめとして、その深刻化が問題となっている。特に、今後は[[アジア]]の都市での深刻化が懸念されている<ref name="Mikami06"/>。
ヒートアイランドの緩和策としては、緑地を増加させたり、不用な排熱を減らしたりといった対策が行われる。


== ヒートアイランドの観測と評価 ==
== 観測と評価 ==
=== 観測・評価の方法 ===
{| class="wikitable" align="right" style="font-size:small; width:30em"
{| class="wikitable" style="font-size:small; width:20em; float:right"
|+ 1931~2010年の日本の主要都市の気温上昇<br />(100年あたり換算)
|+ ヒートアイランドの進行を示す資料の例(1)<br/>30℃以上の推定年間延べ時間の変化<ref group="参" name="envrep14-2"/>
|- style="background-color:#aaaaff"
|都市 ||1980年 ||2000年
|-
||[[仙台市|仙台]] ||31時間 ||90時間
|-
||[[東京都|東京]] ||168時間 ||357時間
|-
||[[名古屋市|名古屋]] ||227時間 ||434時間
|}
ヒートアイランドは厳密には、「都市が無かった場合に推定される気温よりも実際の気温が高い状態」である<ref group="参" name="jmaqa-1"/>。調べ方には、[[気象官署|気象台]]や[[アメダス]]などでの定点[[気象観測]]のデータをもとにした統計と、[[数値予報モデル]]による推定の2通りがある<ref group="参" name="jmaqa-9">[[#jmaqa|気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」]] Q9:ヒートアイランド現象の調査はどのようにするのですか?</ref>。

ふつう、都市化の前後を含めた長期のデータにより、都市部と郊外部の気温変化を比較することで、ヒートアイランドの進行状況をみる。平均気温、月平均の最高および最低気温のほか、[[夏日]]、[[真夏日]]、[[猛暑日]]、[[熱帯夜]]、[[冬日]]などの日数の変化も、間接的に気温の変化を表すデータであり有効とされている<ref group="参" name="jmaqa-3">[[#jmaqa|気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」]] Q3:都市化で猛暑日や熱帯夜は増えているのですか?</ref><ref name="tokyoe-1"/>。

一方、定量的な指標ではないが、[[初雪]]、[[初霜]]、[[初氷]]、雪日数といった[[季節現象]]、桜の開花、紅葉、セミの初鳴きといった[[生物季節観測|生物季節]]の変化もヒートアイランドの影響を知る手がかりとして用いられることがある。

定点気象観測より小さい間隔の観測として、近年広く用いられているのが[[リモートセンシング]]である。センサーを搭載した人工衛星により都市とその周辺部の表面温度などを観測するもので、低コストで効果的にデータを得ることが可能である。

=== 実際の例 ===
{| class="wikitable" style="font-size:small; width:30em; float:right"
|+ ヒートアイランドの進行を示す資料の例(2)<br/>日本の主要都市と周辺都市の気温上昇<br />(単位[[セルシウス度|℃]]、1931~2010年の値を100年あたりに換算)<ref group="参" name="jmaqa-2"/>
|-
|colspan="7"|[[File:UrbanHeatIsland Japan major cities 1931-2010.png|350px|center]]
|- style="background-color:#aaaaff"
|- style="background-color:#aaaaff"
|rowspan="2"|
|rowspan="2"|
30行目: 51行目:
||[[札幌市|札幌]] ||3.5 ||1.4 ||6.1 ||1.2 ||-0.3 ||2.8
||[[札幌市|札幌]] ||3.5 ||1.4 ||6.1 ||1.2 ||-0.3 ||2.8
|-
|-
||[[東京都|東京]] ||4.6 ||2.5 ||6.0 ||1.7 ||0.8 ||2.5
||東京 ||4.6 ||2.5 ||6.0 ||1.7 ||0.8 ||2.5
|-
|-
||[[名古屋市|名古屋]] ||3.7 ||2.1 ||4.6 ||2.4 ||0.9 ||3.3
||名古屋 ||3.7 ||2.1 ||4.6 ||2.4 ||0.9 ||3.3
|-
|-
||[[大阪市|大阪]] ||3.9 ||3.6 ||4.2 ||2.5 ||2.4 ||3.7
||[[大阪市|大阪]] ||3.9 ||3.6 ||4.2 ||2.5 ||2.4 ||3.7
40行目: 61行目:
||※ ||2.3 ||1.9 ||2.4 ||0.9 ||0.4 ||1.3
||※ ||2.3 ||1.9 ||2.4 ||0.9 ||0.4 ||1.3
|-
|-
|colspan="7"|※:都市化の影響が小さい網走、寿都、根室、石巻、山形、水戸、銚子、伏木、長野、飯田、彦根、境、浜田、宮崎、多度津、名瀬、石垣島の17地点平均値
|colspan="7"|
*単位:[[セルシウス度|°C]]
*※:都市化の影響が小さい網走、寿都、根室、石巻、山形、水戸、銚子、伏木、長野、飯田、彦根、境、浜田、宮崎、多度津、名瀬、石垣島の17地点平均値
*出典:[http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/himr_faq/02/qa.html 気象庁] 2011
|}
|}
[[ニューヨーク]]、[[パリ]]、[[ベルリン]]など世界各地の都市で世界平均気温よりも大きな割合での気温上昇、つまりヒートアイランドを示す気温上昇が観測されている。なお、ニューヨークやパリは100年あたり約2℃、ベルリンは同約2.5℃であるのに対して、東京は同約3℃であり、世界的にも速いペースで上昇している<ref group="参" name="jmaqa-9">[[#jmaqa|気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」]] Q6:ヒートアイランド現象は外国の都市でも起きているのですか?</ref>。なお別の研究によれば、[[サンフランシスコ]]、[[ボルティモア]]、[[上海]]は10年あたり0.2℉(約0.11℃)、[[ワシントンDC]]は同0.4℉(約0.22℃)、東京は同0.6℉(約0.33℃)であるが、[[ロサンゼルス]]や[[サンディエゴ]]では同0.8℉(約0.44℃)と更にペースが速い<ref name="Akbari05">Hashem Akbari, et al."[http://escholarship.org/uc/item/20j676c9#page-3 Cool Colored Roofs to Save Energy and Improve Air Quality]", Lawrence Berkeley National Laboratory, 2005年8月23日, 3頁</ref>。
[[File:Newyork heat island.jpg|thumb|200px|right|[[ニューヨーク]]の気温(上)と緑地(下)の分布。土地利用や地形と気温が密接に関わっていることが分かる。]]
ヒートアイランドの様子を、高精度で定量的に評価できるのは、[[気象官署]]や[[アメダス]]での定点[[気象観測]]のデータをもとにした統計である。ただし、観測点の密度が粗いため、ヒートアイランドの様子を面的に捉えるには不足がある。現在のところ、ヒートアイランドの程度や状況を把握するのに最も広く用いられているのが、[[リモートセンシング]]である。センサーを搭載した人工衛星により都市とその周辺部の表面温度などを観測するもので、低コストで効果的にデータを得ることが可能である。


なお、平均値を示した右表とは異なる年間最大値ではあるが、北アメリカや日本の研究報告では人口数千人から数万人程度の都市・集落でも郊外との気温差は最大時で2~7℃ほどあるとされている<ref name="Sakakibara03"/><ref>榊原保志「{{PDFLink|[http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/1999/1999_09_0567.pdf 長野県小布施町におけるヒートアイランド強度と郊外の土地被覆との関係]}}」、日本気象学会、『天気』46巻9号、567-575頁、1999年9月</ref>。
ふつう、都市化の前後を含めた長期のデータにより、都市部と郊外部の気温変化を比較することで、ヒートアイランドの進行状況をみる。平均気温、月平均の最高および最低気温のほか、夏日、真夏日、猛暑日、熱帯夜、冬日などの日数の変化も、間接的に気温の変化を表すデータであり有効とされている。


研究初期、Chandler(1967)は規模の異なる2都市での観測から都市の規模よりも建物の密度の方が重要な因子であるとしたが、Oke(1973)は別の観測から都市の人口とヒートアイランドの強度は対数比例の関係にあるとし、Chandlerの説を覆した。後の複数の研究でも、きれいな対数比例にならないとする研究もあるものの、多くは都市の人口規模がヒートアイランドの強度と関係していることを示している<ref name="Sakakibara03">榊原保志、北原祐一「{{PDFLink|[http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2003/2003_08_0625.pdf 日本の諸都市における人口とヒートアイランド強度の関係]}}」、日本気象学会、『天気』50巻8号、625-633頁、2003年8月</ref>。
一方、定量的な指標ではないが、[[初雪]]、[[初霜]]、[[初氷]]、雪日数といった[[季節現象]]、桜の開花、紅葉、セミの初鳴きといった[[生物季節観測|生物季節]]の変化もヒートアイランドの影響を知る手がかりとして用いられることがある。


ただし、[[地球温暖化]]によるものと見られる熱帯夜の増加や30℃以上の時間数などの高温化の傾向は郊外でも観測されており、高温化は都市に限った問題ではない<ref group="参" name="envrep14-2"/><ref>環境省「[http://www.env.go.jp/air/life/heat_island/manual_01.html ヒートアイランド対策マニュアル ~最新状況と適応策等の対策普及に向けて~]」、&sect;1-1-5(16頁)</ref>。
右の表の通り、日本では札幌・東京・名古屋・大阪・福岡などの主要都市で軒並み、郊外に比べて顕著な気温の上昇を観測している。夏の暑さが厳しくなることから夏の最高気温が高くなるイメージがもたれやすいが、観測値では夏の最高気温は1~2℃の上昇にとどまる。札幌市のようにはっきりとした上昇が見られない地域でさえある。一方で夏の最低気温は2~4℃上昇しており、夜間の涼しさの方が弱くなる。つまり、真夏日よりも熱帯夜の方が増加が激しくなる。またどの都市でも、夏季よりも冬季のほうが差が大きく現れ、特に高緯度の寒冷地では顕著である。[[札幌市|札幌]]や[[旭川市|旭川]]、[[帯広市|帯広]]などの[[北海道]]の内陸の主要都市部がその代表的な例であり、厳冬期の朝、郊外との気温差が10度前後になることも珍しくない。


なお、[[ヒートアイランド#地球温暖化との関係|後述]]のように、各地のヒートアイランドが地球全体の気温に与える影響は僅かであることが分かっている。
また、内陸や[[盆地]]にある都市は[[海陸風]]等の大きな循環を受けにくく元来より高温になりやすいが、[[気圧配置]]等によって周辺都市の影響を受けて高温が増幅されることがある。[[熊谷市]]、[[前橋市]]、[[岐阜市]]では右表と同じ統計において夏の最高気温の上昇幅が2~3℃であり、東京や名古屋よりも大きい。熊谷市や岐阜県[[多治見市]]は日本の観測史上最高気温を記録した(ただ、最高気温を記録した2007年8月16日の高温は[[フェーン現象]]による影響が大きく、ヒートアイランドの寄与は1℃程度と解析されている)都市であり、その顕著な例である。<ref>[http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/himr_faq/02/qa.html 都市の気温上昇はどれくらいですか?], [http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/himr_faq/05/qa.html 記録的な暑さもヒートアイランド現象の影響ですか?] 気象庁、2011年8月6日閲覧。</ref>


ここからは主に日本の例を解説する。観測データを基にした気象庁の調査では、[[東京を中心とする地域の定義一覧|東京を中心とする都市圏]]と内陸側の都市([[前橋市|前橋]]・[[熊谷市|熊谷]]など)、[[京阪神]]、[[名古屋市|名古屋]]と内陸側の都市([[岐阜市|岐阜]]など)、[[札幌市|札幌]]、[[仙台市|仙台]]、[[福岡市|福岡]]が顕著な例として挙げられている。右表がその値であるが、主要都市は軒並み郊外に比べて顕著な気温の上昇を観測している<ref group="参" name="jmaqa-2">[[#jmaqa|気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」]] Q2:都市の気温上昇はどれくらいですか?</ref>。
海岸沿いの都市の場合、海陸風が昼間は海からの涼しい風を受け、夜間は陸の暖かい風を海に逃がす働きをするはずだが、高層ビル群があるとそれが妨げられるため、ビル群の裏に位置するエリアが高温になりやすい。また、都市がなければ海風が到達するはずである場所も、途中で加熱されて上昇してしまうので、海風が届かなくなり、最高気温が上昇しやすくなると考えられる。関東地方北部などがこれに当てはまる。反対に、大都市よりも海側にある場所は、海風が強められる(海上と陸地の気温差が大きいほど海風は強く吹きやすい)ので、最高気温が上がりにくくなるとの指摘もある。


留意すべき点として、気温の上がり方は夏や昼間よりも夜間や冬場の方が著しいことが挙げられる。顕著な影響として熱中症の増加がみられることから夏の最高気温が高くなるイメージがもたれやすいが、それとは逆の傾向である。右表では夏の最高気温は1~2℃の上昇にとどまる一方で、夏の最低気温は2~4℃上昇しており、夜間の涼しさの方が弱くなる。つまり、真夏日よりも熱帯夜の方が増加が激しくなる。またどの都市でも、夏季よりも冬季のほうが差が大きく現れ、特に高緯度の寒冷地では顕著である<ref group="参" name="jmaqa-2"/>。
また、都市内にある[[公園]]や緑地は気温の上昇幅が小さい冷気だまり、いわゆる「クールアイランド」になることも分かっている。例えば[[皇居]]では夏の平均気温が周辺よりも約2℃低いという観測結果が発表されている<ref>[http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=7564 皇居におけるクールアイランド効果の観測結果について] 環境省、2006年</ref>。


例えば、[[東京]]では1920年代は年間70日程度観測されていた[[冬日]]が2000年代には年間数日程度に激減し、同じく[[熱帯夜]]の日数は3倍以上に増加している。ちなみに東京での熱帯夜は、観測史上最も暑い夏になった[[2010年の猛暑 (日本)|2010年]]が最多で56日、次いで2011年と2012年が49日を数え、平年の27.8日を大きく上回っている。真夏日に関しても2010年が最も多く、71日に達した(平年は48.5日)。一方で冬日は、[[寒冬]]になった2006年、2012年でさえそれぞれ、9日と6日にしかならなかった。記録的な[[暖冬]]になった1989年、1993年、2004年、2009年は1日も観測されなかった。冬季の気温差が大きい例としては[[札幌市|札幌]]、[[旭川市|旭川]]、[[帯広市|帯広]]などの[[北海道]]の内陸の主要都市が挙げられ、厳冬期の朝に郊外との気温差が10度前後になることも珍しくない。
また、ヒートアイランドにより世界各地の都市で気温上昇が起こっている<ref>[http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/himr_faq/06/qa.html ヒートアイランド現象は外国の都市でも起きているのですか?] 気象庁、2011年8月6日閲覧。</ref>が、それらが地球全体の気温に与える影響は僅かであることがわかっている([[ヒートアイランド#地球温暖化との関係|後の節]]を参照)。

<!--同時期・異なる地点の比較は、地形の影響との区別が難しいためコメントアウト。有意性を示す資料が必要。
また、風上にある都市のヒートアイランドの影響を受けて、周辺の郊外部や遠い内陸部に高温化が及ぶことがある。典型的な例として、[[海陸風]]が内陸に及ぶ[[関東平野]]や[[濃尾平野]]が挙げられる。右表にもある通り熊谷市、前橋市、岐阜市では夏の最高気温が2~3℃上昇しており、上昇幅は東京や名古屋と同程度あるいは上回っている。なお、熊谷市や岐阜県[[多治見市]]では2007年8月16日に日本の観測史上最高気温を記録したが、このときは[[フェーン現象]]による影響が大きく、ヒートアイランドの寄与は熊谷市で1℃程度と解析されている。一方で、冬は都市部の方が気温の上昇幅が大きく<ref group="参" name="jmaqa-2"/><ref group="参">[[#jmaqa|気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」]] Q5:記録的な暑さもヒートアイランド現象の影響ですか?</ref>、夏は南東・冬は北西と向きが変わる[[季節風]]の影響があると考えられる。
{{Weather box

|location = アメダス・江戸川臨海{{Coord|35|38.3|N|139|51.8|E|type:landmark_region:JP-13|name=アメダス江戸川臨海観測所}}(1981年 - 2010年)
このほか、都市内にある[[公園]]や緑地は気温の上昇幅が小さい冷気だまり、いわゆる「クールアイランド」になることも分かっている。例えば[[皇居]]では夏の平均気温が周辺よりも約2℃低いという観測結果が発表されている<ref>「[http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=7564 皇居におけるクールアイランド効果の観測結果について]」、環境省 報道発表資料、2006年10月6日付</ref>。
|metric first = Y
|single line = Y
|Jan mean C= 5.7
|Feb mean C= 6.1
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|source = [[気象庁]]<ref>[http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_amd_ym.php?prec_no=44&block_no=0370&year=&month=&day=&view= 平年値(年・月ごとの値)江戸川臨海] 2013年1月24日閲覧 </ref>
}}


{{Weather box
|location = アメダス・東京 {{Coord|35|41.4|N|139|45.6|E|type:landmark_region:JP-13|name=アメダス練馬観測所}}(1981年 - 2010年)
|metric first = Y
|single line = Y
|Jan mean C= 6.1
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|source 1 = 気象庁<ref>[http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=44&block_no=47662&year=&month=&day=&view= 平年値(年・月ごとの値)東京] 2013年1月24日閲覧 </ref>
}}
-->
== 影響 ==
== 影響 ==
ヒートアイランドにより発生するさまざまな影響を以下に挙げる。
ヒートアイランドの主な影響を以下に挙げる。
; 夏季の高温による人体への影響
* 平均気温が上昇することで、[[寒波]]のリスクが減少する一方、[[熱波]]のリスクは増加する。
:; [[熱中症]]の危険性増大
* 夏季の[[冷房]]への[[電力]]需要の増加。空調排熱が増加することでヒートアイランドに拍車を掛ける面もある。
:: 真夏日・夏日・熱帯夜の日数が増加するほど、熱中症による[[救急搬送]]者数や[[死亡]]者数は増加する。一例として東京都内の熱中症による年間救急搬送者数は、1980年代後半は150人前後だったものが1990年代後半に300人前後に倍増、2000年代には500人以上を推移し、年によっては1,000人以上になっている。なお、年齢別では[[子供]]や[[高齢者]]が多い傾向にあり、高齢者は室内で熱中症となり救急搬送される例も少なくない<ref group="参" name="envrep14-3">[[#envrep14|環境省、2001年]]、&sect;3(15-21頁)</ref><ref name="tokyoe-1">「[http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/other/countermeasure/phenomenon/index.html 暑くなる東京]」、東京都環境局、2013年7月28日閲覧</ref>。ただし、こうした影響のインパクトは都市の緯度によって異なる。アメリカでは、ニューヨークや[[シカゴ]]など高緯度の都市では高温と死亡率に有意な相関が認められる一方、[[マイアミ]]など低緯度の都市では相関性が低いという報告がある<ref>{{cite journal|url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1241712/|title=Changing heat-related mortality in the United States|author=Robert E. Davis, Paul C. Knappenberger, Patrick J. Michaels, and Wendy M. Novicoff|journal=Environmental Health Perspectives |volume=111 |issue=14 |date=2003-11 |pages=1712–1718 |pmid=14594620|pmc=1241712}}</ref>。
* 夏季を中心として、ヒートアイランドによる高温や気流の変化が[[大気汚染]]、[[光化学オキシダント]](光化学スモッグ)の増加に拍車をかける(光化学スモッグは気温が 高く、日射が強いほど発生しやすい)。
:; 不快感の増大
* 大気の循環の変化。[[集中豪雨]]などの[[局地現象]]の変化。
:: 環境省の2009年の調査によれば、夜間の気温(最低気温)が高くなるほど寝ている途中で目覚める人が多くなる傾向にあり、[[睡眠]]の質を悪化させたり冷房使用の増大を招いたりといった影響が考えられる<ref group="参" name="envgl24-1-3">[[#envgl24|環境省、2013年]]、&sect;1.3(15-27頁)</ref>。
* 気温の上昇による[[生物]]・[[農業]]への影響。越冬[[害虫]]の増加、冬の低温にさらされる必要のある[[農作物]]や夏季の高温に弱い農作物へのダメージ。
; エネルギー消費の増加
* 気温の上昇による[[水資源]]の需要増加、蒸発量増加による資源量減少。
: 夏季は気温が高くなるほど、[[冷房]]を中心とした[[電力]]需要が増加する。2002年時点のデータによると、[[東京電力]]管内では夏季(梅雨明けから9月初めまで)の気温が1℃上昇すると電力需要は約166万kwh増加する(この値を「気温感応度」という)とされ、これをピーク追従に適した[[火力発電]]とすれば[[二酸化炭素]]排出量が593トン増加、この規模の発電設備を増設すると[[石油]]火力発電では3,000億円以上のコストになるという。なお、先のデータは14時頃のものだが気温感応度は時間帯により変化し、例えば東京23区では20時頃が最も気温感応度が高く14時頃の1.5倍ほどある一方、3-8時頃は14時ごろの半分程度になるというデータがある。また、冷房は屋外への排熱を伴うため、ヒートアイランドに拍車を掛ける面もある<ref group="参" name="envrep14-3"/>。なお、冷房普及に伴い、年間を通してみた電力需要の中で夏季のピークは年々先鋭化(夏季と春季・秋季の差が拡大)する傾向にある<ref group="参" name="envrep14-4"/>。
* 夏季の高温による人体への影響。[[熱中症]]の危険性増大、不快感の増大など。
: なお、冬季は気温が高くなるほど、[[暖房]]需要が減少する。いくつかの研究報告によれば、気温上昇がエネルギーの年間消費量を減少させる都市もあれば増加させる都市もある。特に緯度が高い寒冷な都市ほど暖房需要の比率が高いため減少傾向が強まるほか、小さなスケールでは建物の用途による差も大きい。一般的には、冷房よりも暖房の方がエネルギー消費量は大きい一方で、都心部には気温上昇に対するエネルギー消費増加率が高い商業地や業務建物が多いため、都心部に限ると気温上昇はエネルギー消費を増加させる傾向にある。こうした研究はヒートアイランドよりも規模が大きな地球温暖化を念頭に置いたものが多い点に留意する必要がある。全域で気温が1℃上昇したと仮定して行われた大阪府における研究では、大阪市内では冬季の暖房用[[都市ガス|ガス]]・[[灯油]]使用に伴う消費エネルギー減少量よりも夏季の冷房用電力使用に伴う消費エネルギー増加量の方が多い一方、大阪市以外の府内では冬季の暖房用消費エネルギー減少量の方が多く、府全体では減少量の方が多いという結果が得られている<ref group="参">[[#envrep22|環境省、2010年]]、&sect;1-2(12-14頁)</ref>。
* 以上の諸影響による社会的な影響。健康被害による経済損失、電力需要増加によるエネルギー負担の増加。
[[File:Heat island circulation.png|thumb|right|200px|ヒートアイランドによる気温逆転層のため、都市では大気汚染物質がこのように滞留する]]
; [[大気汚染]]への影響
: 夏季は都市内部から[[光化学オキシダント]]や[[粒子状物質]]が排出・生成されて大気汚染が発生するが、ヒートアイランドは昼夜交代に伴う[[海陸風]]の移動を遅くし、風が弱い場所や風が収束する場所を作り出して空気を滞留させ、これらの汚染を悪化させる。都市の風下にあたる内陸部ではこの影響で周辺の郊外に比べて光化学オキシダントの濃度が高い傾向にある。また冬季も都市内部から大気汚染が発生するが、ヒートアイランドは夜間生じる気温[[逆転層]]の下に[[大気境界層|都市混合層]]を作り出し、[[ドーム]]状の混合層の中で空気を滞留させ、同じく汚染を悪化させる<ref group="参" name="envrep14-3"/><ref group="参" name="envgl24-1-3"/>。
; [[生物]]への影響
:; [[生物季節観測|生物季節]]の変化
:: 桜の開花の早期化など。1989年大阪市での[[ソメイヨシノ]]の開花時期調査では、気温が低かったことによる影響もあるが、市街中心部と大阪湾沿岸で1週間もの差が生じたという例がある<ref group="参" name="envrep14-3"/>。ただし、高温化により必ずしも開花などが早まるわけではなく、冬に一定期間低温に曝される必要がある植物では、高温化が一定以上進むと逆に遅くなったり開花しなくなったりするものもある。[[落葉樹]]に多い傾向があり、サクラや[[ナシ]]などで高温化により開花が遅くなったという報告がある<ref group="参" name="envgl24-1-3"/>。
:; 越冬[[害虫]]の増加
:: ヒートアイランドによる「[[亜熱帯]]化」が病原菌などを媒介する生物の生息北限を北上させることが懸念されている。[[マラリア]]を媒介する[[ハマダラカ]]などが挙げられる。このほか、緩和策に関する問題として、[[水]]を用いた冷却が多用された場合に暖かい排水が河川や海に流れ込んで水温を上昇させ、水中の[[生態系]]に影響を与えることも懸念されている<ref group="参" name="envrep14-3"/>。
:; 水棲生物への影響
:: 日本では報告が無いが、アメリカでは浸透性が低く高温になった舗装道路に雨が降り、これが排水され川の水が高温となって水棲生物に悪影響をもたらすことが報告されている。アイオワ州[[シーダーラピッズ]]では2001年8月に雨により小川の水温が1時間に10度以上上昇し、魚が死んでしまった例がある<ref>{{cite book|url=http://books.google.com/books?id=BMVR37-8Jh0C&pg=PA686&lpg=PA686&dq=satellite+temperature+urban+heat+island+book#v=onepage&q=satellite%20temperature%20urban%20heat%20island%20book&f=false|author=Paul A. Tipler and Gene Mosca|title=Physics for Scientists and Engineers|page=686|year=2007|publisher=Macmillan|isbn=978-1-4292-0124-7|accessdate=2011-01-14}}</ref><ref>{{cite web|title=Urban Climate – Climate Study and UHI|url=http://www.epa.gov/hiri/about/index.htm|publisher=United States Environmental Protection Agency|date=2009-02-09|accessdate=2009-06-18}}</ref>。
; [[集中豪雨]]などの変化
: ヒートアイランドの領域と重なるように風の収束帯が観測されていて、これが積乱雲を発達させる要因の1つとなって都市に雷雨をもたらすメカニズムがあることが報告されている<ref group="参" name="envrep14-3"/>。大気汚染に伴う[[大気エアロゾル粒子]]の滞留や<ref group="参" name="envrep14-3"/>、水平の風が高層建築物にぶつかって生じる上昇気流も、積乱雲を発達させる要因とする研究がある。東京の観測開始以来約120年間の降水量を分析した気象研究所と東京管区気象台の研究によれば、夏の夕方(6-8月の17-23時)の降水量は100年当たり50%の割合で増加しているのに対して他の季節や時間帯では30%未満の増加にとどまっているほか、1980-2010年頃野30年間では夏の夕方に限って東京都心は周辺地域よりも30%以上降水量が多いのに対して他の季節や時間帯では大きな差が無いなど、ヒートアイランドが東京都心で集中豪雨を増加させている可能性があるという<ref group="参" name="envgl24-1-3"/>。
; [[水資源]]
: 気温の上昇による需要増加。東京では、最高気温が1℃上昇すると年平均で0.7%、夏に限ると1%、水道使用量が増加するというデータがある<ref group="参">[[#envrep21|環境省、2009年]]、&sect;2(51-60頁)</ref>。
; その他
: 夏の午後を中心として、東京都心を囲む[[東京都道311号環状八号線|環状八号線]]に沿って「環八雲」と呼ばれる[[積雲]]の列ができる事が知られている。環八雲の生成には、ヒートアイランドによる都市での上昇気流も寄与しているという報告がある<ref>糸賀勝美、甲斐憲次「{{PDFLink|[http://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/report-news/1994/1994taiki-soon4.pdf 環八雲の発生条件に関する気候学的研究]}}」、日本気象学会 、『1995年春季大会講演予稿集』D-304(27-34頁)、1995年</ref>。

ヒートアイランドの悪影響に関する認識として、日本では暑熱化、特に夏の気温上昇による影響が大きいものと認識されている。一方、ヨーロッパの内陸の都市では、夏の高温よりも冬を中心とした大気汚染の悪化が大きいものとして認識されている。これは、日本の大都市の多くは海岸沿いにあって風が入りやすく大気汚染物質の拡散条件が良いのに対し、ヨーロッパなど大陸部の内陸にある都市は風が比較的弱く、冬はそれが顕著になるためである<ref group="参" name="Yamamoto05-31"/><ref name="Ichinose01">一ノ瀬俊明「[http://www.nies.go.jp/kanko/news/19/19-4/19-4-05.html 都市計画のための気候解析]」、国立環境研究所、『国立環境研究所ニュース』19巻6号、2001年2月</ref>。


== 原因 ==
== 原因 ==
[[File:Newyork heat island.jpg|thumb|200px|right|[[ランドサット]]衛星の赤外線センサによる2002年8月14日の[[ニューヨーク]]の気温(上)と緑地(下)の分布。紫色が濃いほど気温は低く、緑色が濃いほど緑被率が高い。土地利用や地形と気温が密接に関わっていることが分かる。]]
ヒートアイランド現象の原因とされるものを挙げる。
[[File:Atlanta thermal.jpg|thumb|right|200px|[[アトランタ]]中心部の地表温度を示すリモートセンシング画像。この日の最高気温は27℃だったが、地表温度は最高で48℃に達している。]]
* 耕地や緑地・水辺の造成、埋め立て、舗装による、[[降雨]]の地面への浸透量減少、土中の保水力低下、ひいては[[蒸発]]・[[蒸散]]量の減少。
端的には[[都市化]]に伴う環境の変化が要因であるが、その中でも、地表の被覆の人工物化、人工排熱の増加、都市の高密度化の3つが大きなものとして挙げられる<ref group="参" name="envrep14-4">[[#envrep14|環境省、2001年]]、&sect;4(23-39頁)</ref><ref group="参" name="envgl24-1-2">[[#envgl24|環境省、2013年]]、&sect;1.2(4-14頁)</ref>。
* 舗装の[[アスファルト]]や建築物の[[コンクリート]]による、光反射率の低下、熱吸収率の増加。
* 人工排熱。産業活動における工場、[[オフィスビル]]の[[情報機器]]、家庭の[[空調設備]]、[[自動車]]などによる人工排熱など。
* 建築物群による、都市[[キャノピー層]]の風の流れの変化(滞留)。
* 高層建築物群や沿岸の埋め立てによる、[[海風]]・[[川風]]の遮蔽。


都市[[気候モデル]]によるシミュレーションでは、土地利用の変化建築物の効果による寄与が大きな割合を占める一方、排熱による効果は局所的なものに限られると推定されている。
関東地方における要因別のヒートアイランドへの寄与度を推定した気象庁の都市[[気候モデル]]によるシミュレーションでは、土地利用の変化が+2℃程度、建築物の効果が+1℃程度とそれぞれ大きな割合を占める一方、排熱による効果は無視できるほど小さくはないが局所的なものに限られるという<ref group="参">[[#jmaqa|気象庁 「ヒートアイランド現象に関す知識」]] Q10:ヒートアイランド現象を緩和する方法はありますか?</ref>


=== 地表の被覆の人工物化 ===
ヒートアイランドが進めば進むほど、冷房需要が増加し、それが排熱の増加を招いてヒートアイランドをさらに促進するという悪循環も指摘されている<ref>http://www.city.kawasaki.jp/e-news/info1130/file24.pdf</ref>。
もともと[[土]]や[[植物]]で覆われていたところに[[建物]]ができたり道路などとして[[舗装]]されたりすると、熱特性が変わってしまう。土や植物は[[蒸発]]・[[蒸散]]([[蒸発散]])を通して[[潜熱]]として熱を放出する(熱の一部が[[水]]の状態変化に使われるため温度変化が緩やかになる)ため日射による加熱を抑える働きがあるが、人工物化によりこれが失われる。また、人工物化により[[光]]の[[拡散反射|乱反射]]が増加する一方[[反射率]]が低下し、対流に伴う[[顕熱]]輸送([[熱伝達]])や[[赤外線]]の放射([[熱放射]])を通して大気を暖める。特に、[[アスファルト]]や[[コンクリート]]は[[比熱容量]]が大きいため、昼間に熱を蓄えて夜間に放出することで夜の気温上昇を招く。また、大気汚染に伴う大気エアロゾル粒子も熱の移動に関係していると考えられている<ref group="参" name="envrep14-4"/><ref group="参" name="envgl24-1-2"/>。

人工物化で注目される点がいくつかある。
* 多くの都市では、都市化により[[農地]](耕地など)や[[森林|樹林地]]・[[草地]]が開発されて減少する。一方で公園が整備されたり、都市内に保存的に緑地が設けられたりする。これにより、緑地率の数字自体は大きく低下しないように見える事があるが、公園内には舗装や人工物があったり低木が多かったり緑地の「ボリューム」が小さいものもあり、ヒートアイランドを考える上では考慮が必要である<ref group="参" name="envrep14-4"/>。
* 建築物の材質変化の影響も指摘されている。日本では、建築物に占める[[木造]]の割合が低下しているのに対して、熱容量が大きい[[鉄筋コンクリート|RC造]]など非木造の割合が上昇している<ref group="参" name="envrep14-4"/>。
* 河川護岸のコンクリート化、建物敷地内の不透水化も気温を上昇させる<ref group="参" name="envrep14-4"/>。

なお、アスファルト上やビルの壁面に近いところに人が立っている場合、それらから受ける[[放射熱]](輻射熱)により、体感温度は実際の気温よりも高く感じられる事があると考えられている<ref group="参">[[#jmaqa|気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」]] Q7:ヒートアイランド現象の原因は何ですか?</ref>。

[[東京23区]]の500mメッシュのデータ(東京都市計画GIS、2002年)では、区域のほとんどが人工被覆80%以上であり、その中で[[荒川]]流域、[[新宿御苑]]、[[明治神宮]]、[[上野公園]]、[[皇居]]などが人工被覆の低い地域となっている。また名古屋市のデータ(名古屋市環境保全局、1996年)では、湾岸部から[[北区 (名古屋市)|北区]]まで中心部はほぼ人工被覆75%以上が連続している<ref group="参" name="envrep14-4"/>。

=== 排熱の増加 ===
排熱源としては、[[排気]]による直接放出や冷却水を通した間接放出など工業生産に関係するもののほか、[[自動車]]、[[空調機器]]、[[照明器具]]、[[情報機器]]などが挙げられる。工業関係は1点から大量に放出される「点源」、自動車は線状に分布する「線源」、空調などはばらばらに分布する「面源」と呼ばれる。[[省エネルギー]]化により個々の排熱量は削減される傾向にある一方、人口増加、産業の発展、機器の普及が全体の排熱量を押し上げているという問題がある<ref group="参" name="envrep14-4"/>。

東京23区の人工排熱のデータ(環境省推計、2002年)では、1日のうちでは早朝が最小、昼に最多となり夜の22時頃にも昼の半分程度の排熱があると見られる。昼には、日射の4分の1に相当する250W/m<sup>2</sup>以上の区域が大手町から霞ヶ関付近、渋谷、新宿、池袋の各地に分布している。また名古屋市のデータ(名古屋市環境保全局、1996年)では、[[中区 (名古屋市)|中区]]や[[東区 (名古屋市)|東区]]の中心市街地や[[港区 (名古屋市)|港区]]東部の工業地帯に排熱の多い地域が分布している<ref group="参" name="envrep14-4"/>。

=== 都市の高密度化と気象の影響 ===
建物の高密度化や高層化が進むと、地上から空を見上げた時の空の割合(天空率)が低下し、夜間の[[放射冷却]]が弱まって気温の低下が緩やかになる。例えば環境省の2013年の推定によると、各都市の建物の高さは東京23区や大阪市で50年間で約3倍、名古屋市や福岡市で同2倍ほどになっている<ref group="参" name="envgl24-1-2"/>。

ただし、人工物や排熱の分布がそのまま気温に反映されるわけではなく、ヒートアイランドの分布にはより大きなスケールの気象が影響を及ぼす。例えば、海陸風の働きによる暖められた大気の運搬、地形や河川の配置によりできる「風の道」に沿う冷たい大気の運搬などの要因がある<ref group="参" name="envrep14-4"/>。

東京付近とその北方に広がる関東平野では、元来他の地域よりも広範囲に海風が及ぶとされるが、人工被覆や排熱の多い東京都心を通過した風が東京の北方に熱を滞留させることが指摘され、実際に高温が観測される傾向がある。名古屋とその北方に広がる濃尾平野では、他の地域よりも海風が弱い傾向があり、風下の多治見市や岐阜市などが高温となる傾向がある<ref group="参" name="envrep14-4"/>。

[[中層建築物]]や[[高層建築物]]が地上付近の風通しを阻害して、熱の拡散や建物内の換気を弱める場合があると考えられていて、[[東京湾]]岸の高層ビル群は俗に「東京ウォール」などと呼ばれる場合がある<ref group="参">[[#Yamamoto05|山本、2005年]]、27-28頁</ref>。例えば、国土技術政策総合研究所が[[地球シミュレータ]]を用いて行ったシミュレーションでは、[[汐留]]の高層ビル群がある場合とない場合では風下の[[新橋]]付近の風通しが異なるという結果が出ている<ref group="参" name="envgl24-1-2"/>。


== 緩和策 ==
== 緩和策 ==
[[画像:Shiyakusyo mae Station in Kagoshima.jpg|thumb|250px|路面電車の軌道敷に芝生を敷き詰めた例([[鹿児島市交通局|鹿児島市電]])]]
[[画像:Shiyakusyo mae Station in Kagoshima.jpg|thumb|250px|路面電車の軌道敷に芝生を敷き詰めた例([[鹿児島市交通局|鹿児島市電]])]]
太陽光の吸収を減らす、排熱を減らす、冷却効果を高めるといったことを目的に緩和策がられている。
太陽光の吸収を減らす、排熱を減らす、冷却効果を高めるといったことを目的に緩和策がられる。以下のように分類できる<ref group="参" name="Yamamoto05-25">[[#Yamamoto05|山本、2005年]]、25-26頁</ref>
* [[緑化]]<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>
* 道路や空き地、建築物表面の[[緑化]]。
**近年は[[屋上緑化]][[屋上庭園]][[緑のカーテン|壁面緑化緑のカーテン)]]の採用も多い。[[東京都]]や[[兵庫県]]においては条例によって一定の条件下で屋上の緑化が義務付けられている。また多くの都市で助成金が出る。
** [[建築物]]の緑化([[屋上緑化]][[屋上庭園]][[壁面緑化]]=緑のカーテン)<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。[[東京都]]や[[兵庫県]]においては条例によって一定の条件下で屋上の緑化が義務付けられている。また多くの都市で助成金が出る。
** [[街路樹]]などによる[[道路]]の緑化<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。
** 路面電車では、軌道敷に芝生を敷き詰めるという方策を採るケースもあり、「緑化軌道」や「芝生軌道」とも呼ばれている。この方策により、軌道敷内では車道部と比較して10度以上低い温度となるという実証試験の結果が報告されている[http://www.pref.kochi.lg.jp/~douro/kidou/kouka_kanri.pdf]。
** 住宅敷地内の緑化<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。
* 高光反射率素材・塗料の採用。
** 公園の保全や整備<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。
* 水辺の整備、湿地や湖沼などの保護や拡張。
** [[路面電車]]の[[軌道敷]]の[[芝生]]等による緑化。[[鹿児島市]]や[[高知市]]で実証実験が行われ、軌道敷内の気温が最大10℃程度低下したと報告されている<ref>「既成市街地における水と緑のネットワークの保全・再生・創出のための施策カタログ(案)H20.3版 {{PDFLink|[http://www.mlit.go.jp/crd/daisei/mizumidori/101_road-green.pdf &sect;3-1 道路緑]}}」、17-18頁、国土交通省 都市・地域整備局、2008年3月</ref>「緑化軌道」「芝生軌道」とも呼ばれている。
* [[清流復活事業]]で河川の流れを復活させる。
* 建築物の断熱化による室内環境の快適化。建築方式としては[[内断熱]]と[[外断熱]]がある<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。[[躯体]]への断熱材設置や遮熱塗装のほか、[[複層ガラス|高断熱ガラス]]の設置などがある。
* [[透水性舗装]]・[[保水性舗装]]・[[遮熱性舗装]]の採用。
* 建築物外部の保水化。潜熱冷却を用いる保水性素材の採用など<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。
* 「風の道」の確保。水上や郊外から涼しい空気が都心に流れやすいようにする。[[シュトゥットガルト]]の事例や[[ベルリン]]のポツダマープラッツ周辺[[再開発]]に伴う事例が有名。
* 建築物外部・構造物表面の[[反射率]]対策。外壁、屋根、構造物表面などの淡色化、高反射性素材の採用など<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。
* 散水、[[打ち水]]。
** アメリカでは都市の高温化の原因として「屋根の暗色化」を強調する向きもあり、屋根の色を淡色に変えたり反射率の高い素材にしたりする「[[:en:Reflective surfaces (geoengineering)|cool roof]](クールルーフ)」が推奨されている<ref>{{cite web|title=Comprehensive Cool Roof Guide from the Vinyl Roofing Division of the Chemical Fabrics and Film Association |url=http://vinylroofs.org/resources/coof-roofing-codes-programs-standards/index.html|accessdate=2013-08-16}}</ref>。
* [[ドライミスト]]などの新たな冷却機器の設置。
* 道路舗装の対策。[[透水性舗装]]・[[保水性舗装]]・[[遮熱性舗装]]の採用など<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。
* 自動車・航空機などの輸送機器、建築物(空調・給湯)からの人工排熱の抑制、冷却。
* 排熱の抑制
** 排熱の大きいところでは、[[コジェネレーション]]や[[コンバインドサイクル発電]]導入による効果が期待できる。
** [[情報機器|OA機器]]や[[家電機器]]の高効率化<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>
** 交通・輸送分野では[[公共交通機関]]への移行および[[モーダルシフト]]などがある。
** [[空調設備]]や[[熱源設備]]の高効率化、メンテナンス<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。[[地域冷暖房]]などもある。
** 産業・家庭分野では少排熱型製品への転換、[[省エネルギー]]などがある。
** 河川水・海水・地下水の利用<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>、地中熱の利用
* 排熱の利用<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。[[コジェネレーション]]や[[コンバインドサイクル発電]]など。
* [[太陽熱]]・[[太陽光]]の利用<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。
* 交通・輸送対策。[[モビリティ・マネジメント|交通マネジメント]]、[[低公害車|エコカー]]の採用<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>、[[公共交通機関]]への移行や[[モーダルシフト]]など。
* 水辺の整備。暗渠の開渠化([[清流復活事業]])など<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。
* 建築物の配置や土地利用の改善。水上や郊外から涼しい空気が都心に流れやすいようにする「風の道」や「水の道」の確保<ref group="参">[[#Yamamoto05|山本、2005年]]、25-28,30-32頁</ref>。[[フライブルク]]<ref group="参" name="Yamamoto05-31">[[#Yamamoto05|山本、2005年]]、31頁</ref>、[[シュトゥットガルト]]<ref name="Ichinose93">一ノ瀬俊明「{{PDFLink|[http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/1993/1993_09_0691.pdf シュトゥットガルトにおける「風の道」 : 都市計画で都市気候を制御する試み]}}」、日本気象学会、『天気 40巻9号、691-693頁、1993年9月</ref>や、[[ベルリン]]のポツダマープラッツ周辺[[再開発]]に伴う事例が有名。
** シュトゥットガルトの事例では、都市計画の段階から気象・気候の専門家を交えて計画を策定し、市街が[[ネッカー川]]を底部とする盆地に位置していることを利用して、冷気源になる郊外の[[丘陵]]地帯の緑地を保全するとともに、そこと都心をつなぐ風の道をつくるために、公園などの配置をコントロールし建物の高さや間隔を制限している<ref name="Ichinose93"/>。
* 散水
** [[打ち水]]。局所的には数℃の気温低下の効果が得られるが、通常の散水量で都市全体で行ったとしても、ヒートアイランドを緩和するために必要な冷却水量には到底及ばず、効果を得ることは難しいという研究報告がある<ref>平野勇二郎、一ノ瀬俊明、井村秀文、白木洋平「{{PDFLink|[http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00028/2009/53-0052.pdf 打ち水によるヒートアイランド緩和効果のシミュレーション評価]}}」、土木学会『水工学論文集』53巻、307-312頁、2009年2月</ref>。
** [[ミスト散布]]([[ドライミスト]]等)<ref group="参">[[#envrep22|環境省、2010年]]、&sect;2(23-29頁)</ref>。
* [[省エネルギー]]、[[資源]]の有効利用。エネルギーの[[カスケード利用]]、[[循環型社会]]など<ref group="参" name="Yamamoto05-25"/>。


「風の道」や「水の道」においてしばしば引き合いに出されるドイツのフライブルク、シュトゥットガルトなどの事例は、日本とは少し事情が異なる。ヨーロッパの内陸都市では、沿岸よりも風が弱く、特に冬を中心に都市を覆う大気汚染物質の"ドーム"が発達し、これによる大気汚染がヒートアイランドの一番の悪影響とされている。夏の暑さはふつう日本よりも穏やかなため、夏の高温化による影響は日本ほど強くは認識されておらず、2003年の熱波<small>([[:en:2003 European heat wave|英語版]])</small>のような猛暑は例外的なものと捉えられているという。そのため、「風の道」の構築にあたっては風通しを良くして汚染物質を拡散させることを重点に置き、冷却効果は副次的なものとされている<ref group="参" name="Yamamoto05-31"/><ref name="Ichinose01"/><ref name="Ichinose93"/>。
ヒートアイランド現象が都市化と密接に関わっているだけに、本格的な対策には[[都市計画]]を巻き込んだ様々な視点からの見直しが必要となる。大きな効果を挙げられるような緑化・水辺の整備・『風の道』の確保、また根本的な対策として郊外への人口分散による都心の過密解消などを行うとなると、事業規模や費用が大きくなり、弊害も大きいため、合意形成や費用分担も難しくなる。そのため、建て替えや再開発等の機会を利用してコストを抑えて行われることが多い(例:[[東京駅]][[八重洲]]口再開発による[[丸の内]]への『風の道』復活)。


ヒートアイランド現象は都市化と密接に関わっており、都市の中でポツポツと散発的な対策を行うだけでは抜本的対策にはならないと言われていて、効果的な対策には[[都市計画]]を巻き込んだ様々な視点からの見直しが必要となる。日本では、2005年に政府がヒートアイランドや地球温暖化対策とまちづくりを一体的に考えるモデル地域13地域を選定し、各地域で計画を進めている<ref group="参">[[#Yamamoto05|山本、2005年]]、28頁</ref>。主なものとして、[[大崎駅]]西口再開発<ref>「{{PDFLink|[http://www.env.go.jp/policy/assess/4-1report/file/h21_01d.pdf 大崎駅西口地区の「大崎の森」によるヒートアイランド現象抑制効果の分析]}}」環境省、2013年7月28日閲覧</ref>、[[東京駅]][[八重洲]]口再開発([[丸の内]]への「風の道」復活)などがある。ただしこのような大規模な事業は費用が大きく弊害も大きいため、合意形成や費用分担も難しく、建て替えや再開発等の機会を利用して行われることが多い。
また、多くの緩和策は[[地球温暖化への対策#緩和策|地球温暖化の緩和策]]とも共通し、ヒートアイランド対策が地球温暖化対策として(逆もまた同じ)効果を発揮することもある。


こうした対策を補助するものとして[[都市環境気候図]]がある。これは、都市における気温、気流、土地利用、排熱、人口などの分布を一般的な気候図よりも詳細な街区レベルで示したもので、これを元にヒートアイランドの様相を分析し、どのような対策が有効なのかを推定することができる<ref group="参">[[#envrep24|環境省、2013年]]、技術資料1 冒頭文(101頁)</ref>。
== 地球環境への影響 ==
長年の間、ヒートアイランド現象は、都市部とその風下に当たる狭い地域にしか、影響を与えないと考えられていた。しかし、都市部の熱を考慮した、コンピュータシミュレーションにより、都市部の熱は遠く離れた田舎の気温を上昇させる可能性があることがわかった<ref>[http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130129001# ナショナルジオグラフィックニュース 都市部の熱、北半球の気温に影響]</ref>。カリフォルニア大学のスクリップス海洋研究所が作成した大気モデルによって、大都市の熱が遠く離れた田舎の気温を最大で1℃上げている可能性が示された。北半球にある、86の主要な大都市圏の面積はは地表全体の1.27%にしかならないが、1年に消費されるエネルギーは、6.7テラ[[ワット]]に達し、世界全体の42%にもなる。都市部の熱が地球全体の環境に及ぼしている影響は大きいとされる。


建築物の建造や[[設備管理|管理]]における環境影響評価の指標として日本には「[[CASBEE]]」という制度があるが、これを拡張してヒートアイランドに特化させたものとして「CASBEE-HI(ヒートアイランド)」という制度がある。敷地内における熱環境や緑化、敷地外に影響を与える反射や排熱、風通し、日陰の形成などを総合的に数値化して評価するもの<ref>「[http://www.ibec.or.jp/CASBEE/cas_hi.htm CASBEE-HI(ヒートアイランド)の概要]」、建築環境・省エネルギー機構、2013年8月12日閲覧</ref>。アメリカの「[[:en:Leadership in Energy and Environmental Design|LEED]]」や「[[:en:Green Globes|Green Globes]]」などもヒートアイランド対策を組み込んでいる<ref>{{cite web|title=LEED 2009 for New Construction and Major Renovations Rating System|publisher=US Green Building Council|date=November 2008|url=http://www.usgbc.org/ShowFile.aspx?DocumentID=5546|accessdate=2010-08-17}}</ref><ref>{{cite web|title=Green Globes|url=http://vinylroofs.org/resources/coof-roofing-codes-programs-standards/voluntary-green-building-programs/index.html|accessdate=2011-07-27}}</ref>。
これまで、多くの研究者は気候変動の人為的な要因は温室効果ガスの増加しかないと考えていた。しかし一部の地域の温暖化は、コンピュータによる予測を上回っており、つじつまが合わなかった。同研究所の気象学者ガン・チャン(Guang Zhang)は、都市部の熱が気温を押し上げていると推測した。大都市の熱によって暖められた空気は、対流圏上層に達し、[[ジェット気流]]や[[偏西風]]の一部を乱す。これによって、冷たい空気の流れがさえぎられて、低緯度から暖気が入り込みやすくなり、北欧や北アメリカ北部などで気温が上昇する。大都市が少ないシベリアとカナダ北部が、もっとも大きな影響を受けているという。カナダ北部はアメリカにある大都市の熱によって気温が0.8-1.0℃も上昇していることがわかった。同様に、シベリアは日本や中国などにある都市の熱によって、気温が上昇している可能性がある。


また、多くの緩和策は[[地球温暖化への対策#緩和策|地球温暖化の緩和策]]とも共通し、ヒートアイランド対策が地球温暖化対策として(逆もまた同じ)効果を発揮することもある<ref group="参">[[#envrep22|環境省、2010年]]、&sect;2(32-33頁)</ref>。
==地球温暖化との関係==


== 遠隔地への影響 ==
都市の一部はその周囲より数度高温になることがあるため、[[スプロール現象|都市が広がった]]効果が[[地球温暖化|全地球的な気温の上昇]]と誤解されているのではないかという懸念がなされてきた。実際は、「ヒートアイランド」は重要な局所的な効果であるが、[[過去の気温変化|気温の記録]]に見られる傾向を歪めているという証拠はない。例えば、都市部と田園部の傾向は非常に似ている[http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/052.htm#2221]。
一般的に、ヒートアイランドの影響が及ぶのは都市とその周辺に限られると考えられていた。しかし、都市から数千km離れた地域で気温を上昇させる可能性があるという研究もある。[[カリフォルニア大学]] [[スクリップス海洋研究所]]のガン・チャン(Guang Zhang)らのチームが[[アメリカ大気研究センター]]のデータをもとに作成した大気モデルでのシミュレーションでは、[[北半球]]の主要都市からの熱により[[カナダ]]北部や[[シベリア]]で0.8-1℃程度気温が上昇するという結果が出ている。北半球の86大都市圏は地球表面の1.27%の面積でありながら世界全体の42%に相当する6.7T[[ワット|W]]のエネルギーを消費していることから、同チームは世界の一部地域で見られる地球温暖化予測モデルの推定を上回るペースでの高温化の原因ではないかとする見解を発表している<ref>[http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130129001# ナショナルジオグラフィックニュース 都市部の熱、北半球の気温に影響]</ref>。


== 地球温暖化との関係 ==
IPCCの第3次レポート(2001)には次のように書かれている。
産業革命以降の全地球的な気温の上昇、いわゆる[[地球温暖化]]が問題となっているが、ヒートアイランドに伴う都心部の高温化が、都市が広がることによって全地球的な気温の上昇として誤解されているのではないか、という議論も過去なされたことがある。実際には、ヒートアイランドは狭い範囲の気温に対しては影響力は大きいものの、[[過去の気温変化|全地球的な地上気温(全球平均気温)の変化傾向]]を歪めるほどの影響力はないとされている。例えば、都市と郊外の気温の変化傾向は非常に似ている<ref name="ipcctarwg1-2-2">「IPCC Third Assessment Report - Climate Change 2001 Working Group I: The Scientific Basis [http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/052.htm#2221 &sect;2-2]」www.grida.no、2013年8月12日閲覧</ref>。


[[IPCC第3次評価報告書]](2001年)には次のように書かれている。
:<blockquote>しかし、ヒートアイランドの効果がもっとも顕著であるのは北半球の陸地であるが、そこでは対流圏低部の温度と地表の空気の温度の間には有意な差はない。実際、北アメリカの地表の空気は10年に0.27度で気温が上昇しているが、対流圏低部の温度の上昇はこれよりわずかに大きい10年に0.28度の速さであり、この違いは統計的に有意でない<ref>[http://www.grida.no/climate/ipcc_tar/wg1/052.htm#2221 grida.no]</ref>。

<blockquote>しかし、ヒートアイランドの効果がもっとも顕著であるのは北半球の陸地であるが、そこでは対流圏下部(高度2km付近)の気温と地上気温の間には有意な差はない。例えば、北アメリカの地上気温は10年あたり0.27℃の割合で上昇しているが、対流圏下部の気温もこれよりわずかに大きい10年あたり0.28℃の割合で上昇しており、この違いは統計的に有意でない<ref name="ipcctarwg1-2-2"/>。
</blockquote>
</blockquote>


すべての都市部がその周りの田園部に比べて温暖化しているわけではないことにも注意する必要がある。例えば、ハンセンら(JGR, 2001)は、気温の記録を均一化するために、世界中の都市部にある観測所の傾向をその周りの田園部にある観測所にあわせて修正した。これらの修正のうち42%は都市部の傾向を温暖な方に修正した。つまり、42%の観測所では、都市はその田園部より暖かいのではなく、涼しいのであった。この理由のひつは、都市は不均一また観測所は都市の中でもクールアイランド』が起こっている場所(例えば公園)に置かれていることが多いである。
すべての都市部がその周りの郊外部に比べて温暖化しているわけではないことにも注意する必要がある。例えば、ハンセンら(JGR, 2001)は世界中の都市部にある観測所を調べ、そのうち42%は周郊外部より涼しい傾向を示しと報告している。この理由として、都市は[[スプロール現象|スプロール化]](不均一な拡大)する場合がることや、観測所は都市の中でも公園のような「クールアイランドに置かれている場合が多いことが挙げ<ref>{{cite journal|author=J. Hansen, R. Ruedy, M. Sato, M. Imhoff, W. Lawrence, D. Easterling, T. Peterson, and T. Karl|year=2001|title=A closer look at United States and global surface temperature change|journal=Journal of Geophysical Research|volume=106|pages=239–247|doi=10.1029/2001JD000354|bibcode=2001JGR...10623947H}}</ref>


Peterson(2003)によると、ヒートアイランドの効果は誇張されて伝わっており、この研究では「一般的に受け入れられた考えに反して、平均気温には、統計的に有意な都市化の効果はない」がわかった。この研究は人工衛星によって夜間の都市部の照を検出し、さらにもっと詳細に時系列を均一化することによって得られ(時系列のデータは、たとえば都市部の周りの田園部の観測所の傾向を都市部対し暖かいほうに(つまりその部分都市部に比べて涼しかった)修正してあった)。論文が言うようにこの結論認められるなら「部分的には都市にそのまま[[in situ|設置されている観測点]]からも寄与がある地球の平均気温の時系列デタがどようにして都市の温暖化に汚染されずにのか、という謎解く」必要がある。主な結論、微小だったり局所的ったりする影響がヒートアイランドの中程度のスケールの影響を圧倒しているということである。街の多くの場所は田園部の観測点より暖かが、気象の観測公園のようクールアイランド』で行われてるこが多い
Peterson(2003)、ヒートアイランドの効果は誇張されて伝わっており、「一般的に受け入れられた考えに反して、全球平均気温には、統計的に有意な都市化の効果はない」と報告している。これを説明するたには、「全球平均気温が、都市の中に[[in situ|そのまま設置されている]]観測点からも寄与があるにもかかわらず、なぜヒトアイランド影響を受けないのか証明する必要がある。この研究人工衛星によて夜間の照明から都市部を検出し地形の影響などを均一化することで得られものだが、Petersonはこれに対し、メソスケールであるヒートアイランドの効果よりも、マイクロスケールあるいは局所的効果、つまり「クールアイランド」の効果の方が圧倒的に大きいと指摘した<ref name="Peterson">{{cite journal|url=http://www.ncdc.noaa.gov/oa/wmo/ccl/rural-urban.pdf|author=T. C. Peterson|year=2003|title=Assessment of Urban Versus Rural In Situ Surface Temperatures in the Contiguous United States: No Difference Found|journal=Journal of Climate|volume=16|pages=2941–2959 | doi = 10.1175/1520-0442(2003)016<2941:AOUVRI>2.0.CO;2|bibcode = 2003JCli...16.2941P|issue=18 }}</ref>


[[地球温暖化に対する懐疑論|地球温暖化の懐疑論者]]がしばしばとる見方として、陸上における地表気温の上昇の大部分は、観測所が都市部に設置されているために起こっているというものがある<ref>Richard Black.(2004年11月18日) "[http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/4021197.stm Climate change sceptics 'wrong']", BBC news, 2013年8月12日閲覧</ref>。しかし、この見方は主に商業出版でみられるもので、査読を受けた科学論文でこの見方をとっている論文はない<ref>{{cite web | url=http://www.brook.edu/views/op-ed/fellows/sandalow20050128.pdf | title=Michael Crichton and Global Warming | format=pdf | publisher=[[Brookings Institution]] | first=David B. | last=Sandalow | date=2005-01-28 | accessdate=2007年7月6日}}</ref>。
2004年11月の [[ネイチャー|Nature]] と2006年の [[:en:Journal of Climate|Journal of Climate]] に出版された David Parker の研究では、静かな夜に測定された気温と風のある夜に測定された気温を比較することによって、ヒートアイランドの理論を確かめようと試みた。もしヒートアイランドの理論が正しいなら、風は都市や測定機器から過剰な熱を奪うので、測定器は静かな夜のほうが風のある夜より高い温度を記録するはずである。しかし、静かな夜と風のある夜では違いはなかった。著者は次のように言う。''「我々は、地球的には、陸地の気温は風のない夜と風のある夜で同じ程度に上昇してることを示した。これは観測された全体的な温暖化は都市化の結果ではないことを示している。」''<ref>{{Citation | title=Large-scale warming is not urban | first=David E. | last=Parker | year=2004 | journal=[[Nature (journal)|Nature]] | pages=290-290 | volume=432 | url=http://www.cru.uea.ac.uk/cru/projects/soap/pubs/papers/jones_Nature2004.pdf | issue=7015 | doi=10.1038/432290a | accessdate=2007年8月2日}}</ref><ref>{{cite web | title=Climate change sceptics 'wrong' | url=http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4021197.stm | first=Richard | last=Black | publisher=[[BBC News]] | date=2004-11-18 | accessdate=2007年8月2日 }}</ref>


2004年11月の[[ネイチャー|Nature]]と2006年の[[:en:Journal of Climate|Journal of Climate]]に掲載されたDavid Parkerの研究では、風のない夜と風のある夜に測定された気温を比較することによって、ヒートアイランドの理論を確かめようと試みた。もしヒートアイランドの理論が正しいなら、風は都市や測定機器から熱を多く奪うため、風のない夜のほうが風のある夜より高い温度を記録するはずである。しかし、静かな夜と風のある夜では違いはなかった。Parkerは、「全球的には、陸地の気温は風のない夜においても風のある夜においても同じ程度に上昇していることを示した。これは、観測された全球的な温暖化(地球温暖化)は都市化の結果ではないことを示している。」と述べている<ref>{{Citation | title=Large-scale warming is not urban | first=David E. | last=Parker | year=2004 | journal=[[Nature (journal)|Nature]] | pages=290-290 | volume=432 | url=http://www.cru.uea.ac.uk/cru/projects/soap/pubs/papers/jones_Nature2004.pdf | issue=7015 | doi=10.1038/432290a | accessdate=2007年8月2日}}</ref><ref>{{cite web | title=Climate change sceptics 'wrong' | url=http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/4021197.stm | first=Richard | last=Black | publisher=[[BBC News]] | date=2004-11-18 | accessdate=2007年8月2日 }}</ref>。
しかし、[[:en:Roger A. Pielke|Roger A. Pielke]] は、Parkerの2004年の論文には「結論に深刻な問題がある」[http://climatesci.colorado.edu/2005/12/22/106/]と主張した。Geophysical Research Letters に出版された Pielke の研究では、''「もし夜の境界層の熱の流れが時によって変わるなら、地表の層に弱い風があるときの気温の傾向は高さの関数になり、風が強いときと弱いときでは同じ気温の傾向は起こらない。」''という[http://climatesci.colorado.edu/publications/pdf/R-302.pdf]。


[[IPCC第4次評価報告書]](2007年)では次のように書かれている。
[[地球温暖化]]の懐疑論者がしばしばとる別の見方は、陸地に置かれた温度計で見られる気温の上昇の大部分は、都市化による上昇と、都市部に配置された観測所のせいであるということである[http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/4021197.stm][http://www.surfacestations.org]。しかし、これらの見方は主に'''商業出版'''で提示されており、'''査読を受けた科学論文でこの見方をとっている論文はない'''<ref>{{cite web | url=http://www.brook.edu/views/op-ed/fellows/sandalow20050128.pdf | title=Michael Crichton and Global Warming | publisher=[[Brookings Institution]] | first=David B. | last=Sandalow | date=2005-01-28 | accessdate=2007年7月6日}}</ref>。

[[IPCC第4次評価報告書]](2007年、P.244)では次のように書かれている。
<blockquote>
<blockquote>
半球的や全球的なスケールで観測を行った研究によれば、都市に関係した気温の傾向は、気温の時系列に見られる10年程度やそれ以上の時間スケールでの傾向より小さい程度である(例えば、Jones et al., 1990 や Peterson et al., 1999)。この結果は、部分的には、データからはっきりと都市化に関係した温暖化の傾向がある少数(1%未満)の観測所を除いたことによっている。世界の約270の観測点の中で、夜の最低気温の上昇傾向は、1950年から2000年の間、もっとも大きく都市の温暖化の影響を受けやすい時間帯である風のない夜でも特に強められてはいない、ということをParker(2004, 2006)は注意しだから、問題になっている全球的な陸地の温暖化傾向が都市化した場所の増加に大きく影響されている可能性は非常に低い(Parker, 2006)。(中略)よって、この評価では、都市の温暖化の不確実性の程度は第3次報告書と同じように計上する。すなわち、1900年以降、陸上では10年0.006度であり、海洋ではヒートアイランドはゼロなので、全体では10年に0.002度である。
半球的や全球的なスケールで観測を行った研究によれば、都市に関係した気温の傾向は、気温の時系列に見られる10年程度やそれ以上の時間スケールでの傾向より小さい程度である(例えば、Jones et al., 1990 や Peterson et al., 1999)。この結果は、部分的には、データからはっきりと都市化に関係した温暖化の傾向がある少数(1%未満)の観測所を除いたことによっている。Parker(2004, 2006)の報告では、世界の約270の観測点の中で、夜の最低気温の上昇傾向は、1950年から2000年の間、もっとも大きく都市の温暖化の影響を受けやすい時間帯である風のない夜でも特に強められてはいない、という点に留意しているそのため、問題になっているような、全球平均気温の温暖化傾向が都市化した場所の増加に大きく影響されている可能性は非常に低い(Parker, 2006)。(中略)よって、この評価では、都市の温暖化の不確実性の程度は第3次報告書と同じように計上する。すなわち、1900年以降、陸上では10年あたり0.006度であり、海洋ではヒートアイランドはゼロなので、全体では10年に0.002度である<ref>{{cite web|url=http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg1/ar4-wg1-chapter3.pdf|page=244|year=2007|title=IPCC Fourth Assessment Report - Chapter 3 - Observations: Surface and Atmospheric Climate Change|author=Kevin E. Trenberth, Philip D. Jones, Peter Ambenje, Roxana Bojariu, David Easterling, Albert Klein Tank, David Parker, Fatemeh Rahimzadeh, James A. Renwick, Matilde Rusticucci, Brian Soden, and Panmao Zhai|publisher=Intergovernmental Panel on Climate Change|accessdate=2009年6月27日}}</ref>
</blockquote>
</blockquote>


その後2011年10月にスタンフォード大学らが報告した結果においても、ヒートアイランドの影響量は産業革命以降に観測されている温暖化の2~4%程度に過ぎないと見積もられている<ref>[http://www.sciencedaily.com/releases/2011/10/111020025802.htm Urban 'Heat Island' Effect Is a Small Part of Global Warming; White Roofs Don't Reduce It, Researchers Find, Science Daily, Oct. 20, 2011](解説記事)、[http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JCLI-D-11-00032.1 Mark Z. Jacobson, John E. Ten Hoeve. Effects of Urban Surfaces and White Roofs on Global and Regional Climate. Journal of Climate, 2011, 111010073447000, DOI:10.1175/JCLI-D-11-00032.1](原論文)</ref> 。
その後2011年10月にスタンフォード大学のJacobsonらが報告した結果においても、ヒートアイランドの影響量は産業革命以降に観測されている温暖化の2~4%程度に過ぎないと見積もられている<ref>[http://www.sciencedaily.com/releases/2011/10/111020025802.htm Urban 'Heat Island' Effect Is a Small Part of Global Warming; White Roofs Don't Reduce It, Researchers Find, Science Daily, Oct. 20, 2011](解説記事)、[http://journals.ametsoc.org/doi/abs/10.1175/JCLI-D-11-00032.1 Mark Z. Jacobson, John E. Ten Hoeve. Effects of Urban Surfaces and White Roofs on Global and Regional Climate. Journal of Climate, 2011, 111010073447000, DOI:10.1175/JCLI-D-11-00032.1](原論文)</ref> 。

== 脚注 ==
=== 個別出典 ===
{{Reflist}}

=== 参考文献から参照 ===
{{Reflist|group=参|3}}


==参考資料==
== 参考文献 ==
*{{Anchors|jmaqa}}気象庁 「[http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/himr_faq/index.html ヒートアイランド現象に関する知識]」
<references/>
*{{Anchors|envrep14}}環境省 平成12年度環境省請負業務報告書 「[http://www.env.go.jp/air/report/h14-01/index.html 平成12年度ヒートアイランド現象の実態解析と対策のあり方について 報告書(増補版)]」、2001年3月
*{{Anchors|envrep21}}環境省 「[http://www.env.go.jp/air/report/h21-06/ ヒートアイランド現象による環境影響等に関する調査業務]」、2009年2月
*{{Anchors|envrep22}}環境省 「[http://www.env.go.jp/air/report/h22-05/index.html ヒートアイランド現象による環境影響等に関する調査業務]」、2010年3月
*{{Anchors|envgl24}}環境省 「[http://www.env.go.jp/air/life/heat_island/guideline/h24.html 平成24年度版 ヒートアイランド対策ガイドライン 改訂版]」、2013年3月
*{{Anchors|Yamamoto05}}山本桂香 「[http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/1640 都市におけるヒートアイランド現象の緩和対策]」、科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター、『科学技術動向』2005年9月号(54号)、21-34頁、2005年


==関連項目==
== 関連項目 ==
*[[]]
* [[熱帯夜]]
*[[気温]]
* [[熱中症]]
*[[気]]
* [[都市]]
*[[気象学]]
* [[汚染]]
* [[緑地]]、[[緑化]]、[[屋上緑化]]、[[壁面緑化]]
*[[熱帯夜]]
*[[熱中症]]
*[[都市気候]]
*[[大気汚染]]
*[[地球温暖化]]、[[温室効果]]、[[砂漠化]]
*[[緑地]]、[[緑化]]、[[屋上緑化]]、[[壁面緑化]]
*[[大丸有]]
*[[イルミネーション]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
;詳しい解説や研究機関のページ
*[http://www.uchimizu.jp/top.html 打ち水大作戦]
*[http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/heat/ 東京都のヒートアイランド対策]
* 環境省 [http://www.env.go.jp/air/life/heat_island/ ヒートアイランド対策]
*[http://www.epcc.pref.osaka.jp/ondanka/heat_i/ 大阪府のヒートアイランド対策]
* 気象庁 [http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/index_himr.html ヒートアイランド]
*[http://www.heat-island.jp/ 日本ヒートアイランド学会]
* 東京都環境局 [http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/other/countermeasure/ 東京都のヒートアイランド対策]
* 大阪府 [http://www.pref.osaka.jp/chikyukankyo/jigyotoppage/heat_i.html ヒートアイランド対策]
*{{EoE|Heat_island|Heat island}}
*[http://www.hilife.or.jp/bbseminar/sustainable/sustainable.php#part6 日本の環境首都コンテスト 関東地域交流会 2006] 群馬県館林市のヒートアイランド対策が先進事例として紹介されている。
* [http://www.heat-island.jp/ 日本ヒートアイランド学会]
* 日本気象学会 [http://www.metsoc.jp/tenki/result.php?keyword=%E3%83%92%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89&page_max=30&sort=DESC 『天気』内 ヒートアイランド関連記事検索結果]
* {{EoE|Heat_island|Heat island}}
;ヒートアイランドに関する活動
* 打ち水大作戦本部 [http://www.uchimizu.jp/top.html 打ち水大作戦]
* 建築環境・省エネルギー機構 [http://www.ibec.or.jp/CASBEE/cas_hi.htm CASBEE-HI]
* [http://www.globalcoolcities.org Global Cool Cities Alliance]


{{地球温暖化}}
{{地球温暖化}}

2013年8月16日 (金) 11:20時点における版

ヒートアイランド(urban heat island:UHI、heat island)とは、都市部の気温がその周辺の郊外部に比べて高温を示す現象。住民の健康生活、自然環境への影響、例えば夏季は熱中症の増加や不快さの増大、冬季は感染症を媒介する生物の越冬が可能になる事などが挙げられ、問題視されている。都市化が進むほど、ヒートアイランドも強まり、高温の長時間化や高温域の拡大が起こる[参 1]。ただ、東京のような巨大都市に限ったものではなく、人口数千人から数万人と規模の小さな都市でも小規模ながら発生する。また、各都市の地勢気候の違いが高温化の度合いに差異を生み、郊外部にも高温化を波及させることがある[参 2][1]

東京は世界的にも速くヒートアイランドが進行している[参 3]。上のグラフは関東地方の 9月の平均気温の変動を示す。
東京の気温は1930年頃に横浜を、その後は千葉県南部にある勝浦をも上回り、1980年代からは地球温暖化進行による急上昇も顕著になる。また南から北へと風が流れる夏場の関東では、最大の熱排出源である東京より北方での気温上昇が大きく現れている。また、このグラフから、勝浦が最も気温の上昇が小さいことがわかる。

ヒートアイランドの進行と研究

「ヒートアイランド」という語は英語からきており、直訳すると「熱の島」であるが、これは気温分布を描いたとき、等温線が都市を中心にして閉じ、ちょうど都市部が周辺から浮いたのように見えることに由来する[参 1]日本語に訳す場合は都市高温化とされる。

都市は、郊外に比べて高温・乾燥で独特の風系を有する傾向にある。こうした都市特有の気候を気候学においては都市気候と呼び、これを研究する都市気候学都市環境学などの学術分野がある。それらの中でも、ヒートアイランドは主要なテーマとされる現象の1つである。

「都市の気温が郊外に比べて上昇している」ことが初めて発見されたのは、1850年代ロンドンとされている。イギリスの科学者・気象研究者であったリューク・ハワード(Luke Howard)は、当時産業革命により著しく発達していたロンドンの気温が、周辺地域よりも高くなってきていることを発見した。これ以降、欧米を中心に世界各地の大都市で気温上昇が観測されるようになり、やがて"Urban Heat Island"と呼ばれるようになった[2][3]

日本では、初期の研究として福井・和田(1941)による東京市(当時)郊外と都心の観測報告があり、現在の練馬区にあたる郊外と都心とで5℃の気温差があったという。その後1950年代から1960年代にかけて、気温分布など都市特有の気候を研究する論文が幾つか発表されている[4][5]。ただし、ヒートアイランドという言葉が一般に知られるようになったのは、大きく報道された1970年代からである[2][3]

ヒートアイランドは現在世界中の都市で観測されており[参 3][6]、日本でも最大規模のヒートアイランドが起こっている東京をはじめとして、その深刻化が問題となっている。特に、今後はアジアの都市での深刻化が懸念されている[4]

観測と評価

観測・評価の方法

ヒートアイランドの進行を示す資料の例(1)
30℃以上の推定年間延べ時間の変化[参 2]
都市 1980年 2000年
仙台 31時間 90時間
東京 168時間 357時間
名古屋 227時間 434時間

ヒートアイランドは厳密には、「都市が無かった場合に推定される気温よりも実際の気温が高い状態」である[参 1]。調べ方には、気象台アメダスなどでの定点気象観測のデータをもとにした統計と、数値予報モデルによる推定の2通りがある[参 3]

ふつう、都市化の前後を含めた長期のデータにより、都市部と郊外部の気温変化を比較することで、ヒートアイランドの進行状況をみる。平均気温、月平均の最高および最低気温のほか、夏日真夏日猛暑日熱帯夜冬日などの日数の変化も、間接的に気温の変化を表すデータであり有効とされている[参 4][7]

一方、定量的な指標ではないが、初雪初霜初氷、雪日数といった季節現象、桜の開花、紅葉、セミの初鳴きといった生物季節の変化もヒートアイランドの影響を知る手がかりとして用いられることがある。

定点気象観測より小さい間隔の観測として、近年広く用いられているのがリモートセンシングである。センサーを搭載した人工衛星により都市とその周辺部の表面温度などを観測するもので、低コストで効果的にデータを得ることが可能である。

実際の例

ヒートアイランドの進行を示す資料の例(2)
日本の主要都市と周辺都市の気温上昇
(単位、1931~2010年の値を100年あたりに換算)[参 5]
冬(2月) 夏(8月)
平均 最高 最低 平均 最高 最低
札幌 3.5 1.4 6.1 1.2 -0.3 2.8
東京 4.6 2.5 6.0 1.7 0.8 2.5
名古屋 3.7 2.1 4.6 2.4 0.9 3.3
大阪 3.9 3.6 4.2 2.5 2.4 3.7
福岡 4.0 3.0 5.6 2.4 1.4 3.8
2.3 1.9 2.4 0.9 0.4 1.3
※:都市化の影響が小さい網走、寿都、根室、石巻、山形、水戸、銚子、伏木、長野、飯田、彦根、境、浜田、宮崎、多度津、名瀬、石垣島の17地点平均値

ニューヨークパリベルリンなど世界各地の都市で世界平均気温よりも大きな割合での気温上昇、つまりヒートアイランドを示す気温上昇が観測されている。なお、ニューヨークやパリは100年あたり約2℃、ベルリンは同約2.5℃であるのに対して、東京は同約3℃であり、世界的にも速いペースで上昇している[参 3]。なお別の研究によれば、サンフランシスコボルティモア上海は10年あたり0.2℉(約0.11℃)、ワシントンDCは同0.4℉(約0.22℃)、東京は同0.6℉(約0.33℃)であるが、ロサンゼルスサンディエゴでは同0.8℉(約0.44℃)と更にペースが速い[6]

なお、平均値を示した右表とは異なる年間最大値ではあるが、北アメリカや日本の研究報告では人口数千人から数万人程度の都市・集落でも郊外との気温差は最大時で2~7℃ほどあるとされている[1][8]

研究初期、Chandler(1967)は規模の異なる2都市での観測から都市の規模よりも建物の密度の方が重要な因子であるとしたが、Oke(1973)は別の観測から都市の人口とヒートアイランドの強度は対数比例の関係にあるとし、Chandlerの説を覆した。後の複数の研究でも、きれいな対数比例にならないとする研究もあるものの、多くは都市の人口規模がヒートアイランドの強度と関係していることを示している[1]

ただし、地球温暖化によるものと見られる熱帯夜の増加や30℃以上の時間数などの高温化の傾向は郊外でも観測されており、高温化は都市に限った問題ではない[参 2][9]

なお、後述のように、各地のヒートアイランドが地球全体の気温に与える影響は僅かであることが分かっている。

ここからは主に日本の例を解説する。観測データを基にした気象庁の調査では、東京を中心とする都市圏と内陸側の都市(前橋熊谷など)、京阪神名古屋と内陸側の都市(岐阜など)、札幌仙台福岡が顕著な例として挙げられている。右表がその値であるが、主要都市は軒並み郊外に比べて顕著な気温の上昇を観測している[参 5]

留意すべき点として、気温の上がり方は夏や昼間よりも夜間や冬場の方が著しいことが挙げられる。顕著な影響として熱中症の増加がみられることから夏の最高気温が高くなるイメージがもたれやすいが、それとは逆の傾向である。右表では夏の最高気温は1~2℃の上昇にとどまる一方で、夏の最低気温は2~4℃上昇しており、夜間の涼しさの方が弱くなる。つまり、真夏日よりも熱帯夜の方が増加が激しくなる。またどの都市でも、夏季よりも冬季のほうが差が大きく現れ、特に高緯度の寒冷地では顕著である[参 5]

例えば、東京では1920年代は年間70日程度観測されていた冬日が2000年代には年間数日程度に激減し、同じく熱帯夜の日数は3倍以上に増加している。ちなみに東京での熱帯夜は、観測史上最も暑い夏になった2010年が最多で56日、次いで2011年と2012年が49日を数え、平年の27.8日を大きく上回っている。真夏日に関しても2010年が最も多く、71日に達した(平年は48.5日)。一方で冬日は、寒冬になった2006年、2012年でさえそれぞれ、9日と6日にしかならなかった。記録的な暖冬になった1989年、1993年、2004年、2009年は1日も観測されなかった。冬季の気温差が大きい例としては札幌旭川帯広などの北海道の内陸の主要都市が挙げられ、厳冬期の朝に郊外との気温差が10度前後になることも珍しくない。

また、風上にある都市のヒートアイランドの影響を受けて、周辺の郊外部や遠い内陸部に高温化が及ぶことがある。典型的な例として、海陸風が内陸に及ぶ関東平野濃尾平野が挙げられる。右表にもある通り熊谷市、前橋市、岐阜市では夏の最高気温が2~3℃上昇しており、上昇幅は東京や名古屋と同程度あるいは上回っている。なお、熊谷市や岐阜県多治見市では2007年8月16日に日本の観測史上最高気温を記録したが、このときはフェーン現象による影響が大きく、ヒートアイランドの寄与は熊谷市で1℃程度と解析されている。一方で、冬は都市部の方が気温の上昇幅が大きく[参 5][参 6]、夏は南東・冬は北西と向きが変わる季節風の影響があると考えられる。

このほか、都市内にある公園や緑地は気温の上昇幅が小さい冷気だまり、いわゆる「クールアイランド」になることも分かっている。例えば皇居では夏の平均気温が周辺よりも約2℃低いという観測結果が発表されている[10]

影響

ヒートアイランドの主な影響を以下に挙げる。

夏季の高温による人体への影響
熱中症の危険性増大
真夏日・夏日・熱帯夜の日数が増加するほど、熱中症による救急搬送者数や死亡者数は増加する。一例として東京都内の熱中症による年間救急搬送者数は、1980年代後半は150人前後だったものが1990年代後半に300人前後に倍増、2000年代には500人以上を推移し、年によっては1,000人以上になっている。なお、年齢別では子供高齢者が多い傾向にあり、高齢者は室内で熱中症となり救急搬送される例も少なくない[参 7][7]。ただし、こうした影響のインパクトは都市の緯度によって異なる。アメリカでは、ニューヨークやシカゴなど高緯度の都市では高温と死亡率に有意な相関が認められる一方、マイアミなど低緯度の都市では相関性が低いという報告がある[11]
不快感の増大
環境省の2009年の調査によれば、夜間の気温(最低気温)が高くなるほど寝ている途中で目覚める人が多くなる傾向にあり、睡眠の質を悪化させたり冷房使用の増大を招いたりといった影響が考えられる[参 8]
エネルギー消費の増加
夏季は気温が高くなるほど、冷房を中心とした電力需要が増加する。2002年時点のデータによると、東京電力管内では夏季(梅雨明けから9月初めまで)の気温が1℃上昇すると電力需要は約166万kwh増加する(この値を「気温感応度」という)とされ、これをピーク追従に適した火力発電とすれば二酸化炭素排出量が593トン増加、この規模の発電設備を増設すると石油火力発電では3,000億円以上のコストになるという。なお、先のデータは14時頃のものだが気温感応度は時間帯により変化し、例えば東京23区では20時頃が最も気温感応度が高く14時頃の1.5倍ほどある一方、3-8時頃は14時ごろの半分程度になるというデータがある。また、冷房は屋外への排熱を伴うため、ヒートアイランドに拍車を掛ける面もある[参 7]。なお、冷房普及に伴い、年間を通してみた電力需要の中で夏季のピークは年々先鋭化(夏季と春季・秋季の差が拡大)する傾向にある[参 9]
なお、冬季は気温が高くなるほど、暖房需要が減少する。いくつかの研究報告によれば、気温上昇がエネルギーの年間消費量を減少させる都市もあれば増加させる都市もある。特に緯度が高い寒冷な都市ほど暖房需要の比率が高いため減少傾向が強まるほか、小さなスケールでは建物の用途による差も大きい。一般的には、冷房よりも暖房の方がエネルギー消費量は大きい一方で、都心部には気温上昇に対するエネルギー消費増加率が高い商業地や業務建物が多いため、都心部に限ると気温上昇はエネルギー消費を増加させる傾向にある。こうした研究はヒートアイランドよりも規模が大きな地球温暖化を念頭に置いたものが多い点に留意する必要がある。全域で気温が1℃上昇したと仮定して行われた大阪府における研究では、大阪市内では冬季の暖房用ガス灯油使用に伴う消費エネルギー減少量よりも夏季の冷房用電力使用に伴う消費エネルギー増加量の方が多い一方、大阪市以外の府内では冬季の暖房用消費エネルギー減少量の方が多く、府全体では減少量の方が多いという結果が得られている[参 10]
ヒートアイランドによる気温逆転層のため、都市では大気汚染物質がこのように滞留する
大気汚染への影響
夏季は都市内部から光化学オキシダント粒子状物質が排出・生成されて大気汚染が発生するが、ヒートアイランドは昼夜交代に伴う海陸風の移動を遅くし、風が弱い場所や風が収束する場所を作り出して空気を滞留させ、これらの汚染を悪化させる。都市の風下にあたる内陸部ではこの影響で周辺の郊外に比べて光化学オキシダントの濃度が高い傾向にある。また冬季も都市内部から大気汚染が発生するが、ヒートアイランドは夜間生じる気温逆転層の下に都市混合層を作り出し、ドーム状の混合層の中で空気を滞留させ、同じく汚染を悪化させる[参 7][参 8]
生物への影響
生物季節の変化
桜の開花の早期化など。1989年大阪市でのソメイヨシノの開花時期調査では、気温が低かったことによる影響もあるが、市街中心部と大阪湾沿岸で1週間もの差が生じたという例がある[参 7]。ただし、高温化により必ずしも開花などが早まるわけではなく、冬に一定期間低温に曝される必要がある植物では、高温化が一定以上進むと逆に遅くなったり開花しなくなったりするものもある。落葉樹に多い傾向があり、サクラやナシなどで高温化により開花が遅くなったという報告がある[参 8]
越冬害虫の増加
ヒートアイランドによる「亜熱帯化」が病原菌などを媒介する生物の生息北限を北上させることが懸念されている。マラリアを媒介するハマダラカなどが挙げられる。このほか、緩和策に関する問題として、を用いた冷却が多用された場合に暖かい排水が河川や海に流れ込んで水温を上昇させ、水中の生態系に影響を与えることも懸念されている[参 7]
水棲生物への影響
日本では報告が無いが、アメリカでは浸透性が低く高温になった舗装道路に雨が降り、これが排水され川の水が高温となって水棲生物に悪影響をもたらすことが報告されている。アイオワ州シーダーラピッズでは2001年8月に雨により小川の水温が1時間に10度以上上昇し、魚が死んでしまった例がある[12][13]
集中豪雨などの変化
ヒートアイランドの領域と重なるように風の収束帯が観測されていて、これが積乱雲を発達させる要因の1つとなって都市に雷雨をもたらすメカニズムがあることが報告されている[参 7]。大気汚染に伴う大気エアロゾル粒子の滞留や[参 7]、水平の風が高層建築物にぶつかって生じる上昇気流も、積乱雲を発達させる要因とする研究がある。東京の観測開始以来約120年間の降水量を分析した気象研究所と東京管区気象台の研究によれば、夏の夕方(6-8月の17-23時)の降水量は100年当たり50%の割合で増加しているのに対して他の季節や時間帯では30%未満の増加にとどまっているほか、1980-2010年頃野30年間では夏の夕方に限って東京都心は周辺地域よりも30%以上降水量が多いのに対して他の季節や時間帯では大きな差が無いなど、ヒートアイランドが東京都心で集中豪雨を増加させている可能性があるという[参 8]
水資源
気温の上昇による需要増加。東京では、最高気温が1℃上昇すると年平均で0.7%、夏に限ると1%、水道使用量が増加するというデータがある[参 11]
その他
夏の午後を中心として、東京都心を囲む環状八号線に沿って「環八雲」と呼ばれる積雲の列ができる事が知られている。環八雲の生成には、ヒートアイランドによる都市での上昇気流も寄与しているという報告がある[14]

ヒートアイランドの悪影響に関する認識として、日本では暑熱化、特に夏の気温上昇による影響が大きいものと認識されている。一方、ヨーロッパの内陸の都市では、夏の高温よりも冬を中心とした大気汚染の悪化が大きいものとして認識されている。これは、日本の大都市の多くは海岸沿いにあって風が入りやすく大気汚染物質の拡散条件が良いのに対し、ヨーロッパなど大陸部の内陸にある都市は風が比較的弱く、冬はそれが顕著になるためである[参 12][15]

原因

ランドサット衛星の赤外線センサによる2002年8月14日のニューヨークの気温(上)と緑地(下)の分布。紫色が濃いほど気温は低く、緑色が濃いほど緑被率が高い。土地利用や地形と気温が密接に関わっていることが分かる。
アトランタ中心部の地表温度を示すリモートセンシング画像。この日の最高気温は27℃だったが、地表温度は最高で48℃に達している。

端的には都市化に伴う環境の変化が要因であるが、その中でも、地表の被覆の人工物化、人工排熱の増加、都市の高密度化の3つが大きなものとして挙げられる[参 9][参 13]

関東地方における要因別のヒートアイランドへの寄与度を推定した気象庁の都市気候モデルによるシミュレーションでは、土地利用の変化が+2℃程度、建築物の効果が+1℃程度とそれぞれ大きな割合を占める一方、排熱による効果は無視できるほど小さくはないが局所的なものに限られるという[参 14]

地表の被覆の人工物化

もともと植物で覆われていたところに建物ができたり道路などとして舗装されたりすると、熱特性が変わってしまう。土や植物は蒸発蒸散蒸発散)を通して潜熱として熱を放出する(熱の一部がの状態変化に使われるため温度変化が緩やかになる)ため日射による加熱を抑える働きがあるが、人工物化によりこれが失われる。また、人工物化により乱反射が増加する一方反射率が低下し、対流に伴う顕熱輸送(熱伝達)や赤外線の放射(熱放射)を通して大気を暖める。特に、アスファルトコンクリート比熱容量が大きいため、昼間に熱を蓄えて夜間に放出することで夜の気温上昇を招く。また、大気汚染に伴う大気エアロゾル粒子も熱の移動に関係していると考えられている[参 9][参 13]

人工物化で注目される点がいくつかある。

  • 多くの都市では、都市化により農地(耕地など)や樹林地草地が開発されて減少する。一方で公園が整備されたり、都市内に保存的に緑地が設けられたりする。これにより、緑地率の数字自体は大きく低下しないように見える事があるが、公園内には舗装や人工物があったり低木が多かったり緑地の「ボリューム」が小さいものもあり、ヒートアイランドを考える上では考慮が必要である[参 9]
  • 建築物の材質変化の影響も指摘されている。日本では、建築物に占める木造の割合が低下しているのに対して、熱容量が大きいRC造など非木造の割合が上昇している[参 9]
  • 河川護岸のコンクリート化、建物敷地内の不透水化も気温を上昇させる[参 9]

なお、アスファルト上やビルの壁面に近いところに人が立っている場合、それらから受ける放射熱(輻射熱)により、体感温度は実際の気温よりも高く感じられる事があると考えられている[参 15]

東京23区の500mメッシュのデータ(東京都市計画GIS、2002年)では、区域のほとんどが人工被覆80%以上であり、その中で荒川流域、新宿御苑明治神宮上野公園皇居などが人工被覆の低い地域となっている。また名古屋市のデータ(名古屋市環境保全局、1996年)では、湾岸部から北区まで中心部はほぼ人工被覆75%以上が連続している[参 9]

排熱の増加

排熱源としては、排気による直接放出や冷却水を通した間接放出など工業生産に関係するもののほか、自動車空調機器照明器具情報機器などが挙げられる。工業関係は1点から大量に放出される「点源」、自動車は線状に分布する「線源」、空調などはばらばらに分布する「面源」と呼ばれる。省エネルギー化により個々の排熱量は削減される傾向にある一方、人口増加、産業の発展、機器の普及が全体の排熱量を押し上げているという問題がある[参 9]

東京23区の人工排熱のデータ(環境省推計、2002年)では、1日のうちでは早朝が最小、昼に最多となり夜の22時頃にも昼の半分程度の排熱があると見られる。昼には、日射の4分の1に相当する250W/m2以上の区域が大手町から霞ヶ関付近、渋谷、新宿、池袋の各地に分布している。また名古屋市のデータ(名古屋市環境保全局、1996年)では、中区東区の中心市街地や港区東部の工業地帯に排熱の多い地域が分布している[参 9]

都市の高密度化と気象の影響

建物の高密度化や高層化が進むと、地上から空を見上げた時の空の割合(天空率)が低下し、夜間の放射冷却が弱まって気温の低下が緩やかになる。例えば環境省の2013年の推定によると、各都市の建物の高さは東京23区や大阪市で50年間で約3倍、名古屋市や福岡市で同2倍ほどになっている[参 13]

ただし、人工物や排熱の分布がそのまま気温に反映されるわけではなく、ヒートアイランドの分布にはより大きなスケールの気象が影響を及ぼす。例えば、海陸風の働きによる暖められた大気の運搬、地形や河川の配置によりできる「風の道」に沿う冷たい大気の運搬などの要因がある[参 9]

東京付近とその北方に広がる関東平野では、元来他の地域よりも広範囲に海風が及ぶとされるが、人工被覆や排熱の多い東京都心を通過した風が東京の北方に熱を滞留させることが指摘され、実際に高温が観測される傾向がある。名古屋とその北方に広がる濃尾平野では、他の地域よりも海風が弱い傾向があり、風下の多治見市や岐阜市などが高温となる傾向がある[参 9]

中層建築物高層建築物が地上付近の風通しを阻害して、熱の拡散や建物内の換気を弱める場合があると考えられていて、東京湾岸の高層ビル群は俗に「東京ウォール」などと呼ばれる場合がある[参 16]。例えば、国土技術政策総合研究所が地球シミュレータを用いて行ったシミュレーションでは、汐留の高層ビル群がある場合とない場合では風下の新橋付近の風通しが異なるという結果が出ている[参 13]

緩和策

路面電車の軌道敷に芝生を敷き詰めた例(鹿児島市電

太陽光の吸収を減らす、排熱を減らす、冷却効果を高めるといったことを目的に緩和策が採られる。以下のように分類できる[参 17]

「風の道」や「水の道」においてしばしば引き合いに出されるドイツのフライブルク、シュトゥットガルトなどの事例は、日本とは少し事情が異なる。ヨーロッパの内陸都市では、沿岸よりも風が弱く、特に冬を中心に都市を覆う大気汚染物質の"ドーム"が発達し、これによる大気汚染がヒートアイランドの一番の悪影響とされている。夏の暑さはふつう日本よりも穏やかなため、夏の高温化による影響は日本ほど強くは認識されておらず、2003年の熱波(英語版)のような猛暑は例外的なものと捉えられているという。そのため、「風の道」の構築にあたっては風通しを良くして汚染物質を拡散させることを重点に置き、冷却効果は副次的なものとされている[参 12][15][18]

ヒートアイランド現象は都市化と密接に関わっており、都市の中でポツポツと散発的な対策を行うだけでは抜本的対策にはならないと言われていて、効果的な対策には都市計画を巻き込んだ様々な視点からの見直しが必要となる。日本では、2005年に政府がヒートアイランドや地球温暖化対策とまちづくりを一体的に考えるモデル地域13地域を選定し、各地域で計画を進めている[参 20]。主なものとして、大崎駅西口再開発[20]東京駅八重洲口再開発(丸の内への「風の道」復活)などがある。ただしこのような大規模な事業は費用が大きく弊害も大きいため、合意形成や費用分担も難しく、建て替えや再開発等の機会を利用して行われることが多い。

こうした対策を補助するものとして都市環境気候図がある。これは、都市における気温、気流、土地利用、排熱、人口などの分布を一般的な気候図よりも詳細な街区レベルで示したもので、これを元にヒートアイランドの様相を分析し、どのような対策が有効なのかを推定することができる[参 21]

建築物の建造や管理における環境影響評価の指標として日本には「CASBEE」という制度があるが、これを拡張してヒートアイランドに特化させたものとして「CASBEE-HI(ヒートアイランド)」という制度がある。敷地内における熱環境や緑化、敷地外に影響を与える反射や排熱、風通し、日陰の形成などを総合的に数値化して評価するもの[21]。アメリカの「LEED」や「Green Globes」などもヒートアイランド対策を組み込んでいる[22][23]

また、多くの緩和策は地球温暖化の緩和策とも共通し、ヒートアイランド対策が地球温暖化対策として(逆もまた同じ)効果を発揮することもある[参 22]

遠隔地への影響

一般的に、ヒートアイランドの影響が及ぶのは都市とその周辺に限られると考えられていた。しかし、都市から数千km離れた地域で気温を上昇させる可能性があるという研究もある。カリフォルニア大学 スクリップス海洋研究所のガン・チャン(Guang Zhang)らのチームがアメリカ大気研究センターのデータをもとに作成した大気モデルでのシミュレーションでは、北半球の主要都市からの熱によりカナダ北部やシベリアで0.8-1℃程度気温が上昇するという結果が出ている。北半球の86大都市圏は地球表面の1.27%の面積でありながら世界全体の42%に相当する6.7TWのエネルギーを消費していることから、同チームは世界の一部地域で見られる地球温暖化予測モデルの推定を上回るペースでの高温化の原因ではないかとする見解を発表している[24]

地球温暖化との関係

産業革命以降の全地球的な気温の上昇、いわゆる地球温暖化が問題となっているが、ヒートアイランドに伴う都心部の高温化が、都市が広がることによって全地球的な気温の上昇として誤解されているのではないか、という議論も過去なされたことがある。実際には、ヒートアイランドは狭い範囲の気温に対しては影響力は大きいものの、全地球的な地上気温(全球平均気温)の変化傾向を歪めるほどの影響力はないとされている。例えば、都市と郊外の気温の変化傾向は非常に似ている[25]

IPCC第3次評価報告書(2001年)には次のように書かれている。

しかし、ヒートアイランドの効果がもっとも顕著であるのは北半球の陸地であるが、そこでは対流圏下部(高度2km付近)の気温と地上気温の間には有意な差はない。例えば、北アメリカの地上気温は10年あたり0.27℃の割合で上昇しているが、対流圏下部の気温もこれよりわずかに大きい10年あたり0.28℃の割合で上昇しており、この違いは統計的に有意でない[25]

すべての都市部がその周りの郊外部に比べて温暖化しているわけではないことにも注意する必要がある。例えば、ハンセンら(JGR, 2001)は世界中の都市部にある観測所を調べ、そのうち42%は周辺の郊外部より涼しい傾向を示したと報告している。この理由として、都市はスプロール化(不均一な拡大)する場合があることや、観測所は都市の中でも公園のような「クールアイランド」に置かれている場合が多いことが挙げられる[26]

Peterson(2003)は、ヒートアイランドの効果は誇張されて伝わっており、「一般的に受け入れられた考えに反して、全球平均気温には、統計的に有意な都市化の効果はない」と報告している。これを説明するためには、「全球平均気温が、都市の中にそのまま設置されている観測点からも寄与があるにもかかわらず、なぜヒートアイランドの影響を受けないのか」を証明する必要がある。この研究は人工衛星によって夜間の照明から都市部を検出し地形の影響などを均一化することで得られたものだが、Petersonはこれに対し、メソスケールであるヒートアイランドの効果よりも、マイクロスケールあるいは局所的な効果、つまり「クールアイランド」の効果の方が圧倒的に大きいと指摘した[27]

地球温暖化の懐疑論者がしばしばとる見方として、陸上における地表気温の上昇の大部分は、観測所が都市部に設置されているために起こっているというものがある[28]。しかし、この見方は主に商業出版でみられるもので、査読を受けた科学論文でこの見方をとっている論文はない[29]

2004年11月のNatureと2006年のJournal of Climateに掲載されたDavid Parkerの研究では、風のない夜と風のある夜に測定された気温を比較することによって、ヒートアイランドの理論を確かめようと試みた。もしヒートアイランドの理論が正しいなら、風は都市や測定機器から熱を多く奪うため、風のない夜のほうが風のある夜より高い温度を記録するはずである。しかし、静かな夜と風のある夜では違いはなかった。Parkerは、「全球的には、陸地の気温は風のない夜においても風のある夜においても同じ程度に上昇していることを示した。これは、観測された全球的な温暖化(地球温暖化)は都市化の結果ではないことを示している。」と述べている[30][31]

IPCC第4次評価報告書(2007年)では次のように書かれている。

半球的や全球的なスケールで観測を行った研究によれば、都市に関係した気温の傾向は、気温の時系列に見られる10年程度やそれ以上の時間スケールでの傾向より小さい程度である(例えば、Jones et al., 1990 や Peterson et al., 1999)。この結果は、部分的には、データからはっきりと都市化に関係した温暖化の傾向がある少数(1%未満)の観測所を除いたことによっている。Parker(2004, 2006)の報告では、世界の約270の観測点の中で、夜の最低気温の上昇傾向は、1950年から2000年の間、もっとも大きく都市の温暖化の影響を受けやすい時間帯である風のない夜でも特に強められてはいない、という点に留意している。そのため、問題になっているような、全球平均気温の温暖化傾向が都市化した場所の増加に大きく影響されている可能性は、非常に低い(Parker, 2006)。(中略)よって、この評価では、都市の温暖化の不確実性の程度は第3次報告書と同じように計上する。すなわち、1900年以降、陸上では10年あたり0.006度であり、海洋ではヒートアイランドはゼロなので、全体では10年に0.002度である[32]

その後、2011年10月にスタンフォード大学のJacobsonらが報告した結果においても、ヒートアイランドの影響量は産業革命以降に観測されている温暖化の2~4%程度に過ぎないと見積もられている[33]

脚注

個別出典

  1. ^ a b c 榊原保志、北原祐一「日本の諸都市における人口とヒートアイランド強度の関係 (PDF) 」、日本気象学会、『天気』50巻8号、625-633頁、2003年8月
  2. ^ a b 日本学術会議 社会環境工学研究連絡委員会 ヒートアイランド現象専門委員会「ヒートアイランド現象の解明に当たって建築・都市環境学からの提言 (PDF) 」、2003年7月15日
  3. ^ a b 足永靖信「都心のヒートアイランド現象について (PDF) 」、独立行政法人建築研究所、2006年7月13日
  4. ^ a b 三上岳彦 「都市ヒートアイランド研究の最新動向―東京の事例を中心に―」、『E-journal GEO』1巻2号、79-88頁、2006年 JOI:JST.JSTAGE/ejgeo/1.79
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参考文献から参照

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  4. ^ 気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」 Q3:都市化で猛暑日や熱帯夜は増えているのですか?
  5. ^ a b c d 気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」 Q2:都市の気温上昇はどれくらいですか?
  6. ^ 気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」 Q5:記録的な暑さもヒートアイランド現象の影響ですか?
  7. ^ a b c d e f g 環境省、2001年、§3(15-21頁)
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  14. ^ 気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」 Q10:ヒートアイランド現象を緩和する方法はありますか?
  15. ^ 気象庁 「ヒートアイランド現象に関する知識」 Q7:ヒートアイランド現象の原因は何ですか?
  16. ^ 山本、2005年、27-28頁
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  18. ^ 山本、2005年、25-28,30-32頁
  19. ^ 環境省、2010年、§2(23-29頁)
  20. ^ 山本、2005年、28頁
  21. ^ 環境省、2013年、技術資料1 冒頭文(101頁)
  22. ^ 環境省、2010年、§2(32-33頁)

参考文献

関連項目

外部リンク

詳しい解説や研究機関のページ
ヒートアイランドに関する活動

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