コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

「K-Pg境界」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
KamikazeBot (会話 | 投稿記録)
m r2.7.1) (ロボットによる 追加: it:Estinzione di massa del Cretaceo-Paleocene
m編集の要約なし
(4人の利用者による、間の15版が非表示)
1行目: 1行目:
'''K-T境界'''(ケイ・ティーきょうかい)とは地質年代区分の用語で、約6500万年前の[[中生代]]と[[新生代]]の境目に相当する。生命誕生以来何度か発生した[[大量絶滅]]のうち最新の事件[[恐竜]]を代表とする大型爬虫類やアンモナイトが絶滅した)が起きたことで有名。
'''K-T境界'''(ケイ・ティーきょうかい)とは地質年代区分の用語で、約6500万年前の[[中生代]]と[[新生代]]の境目に相当する。[[顕代]]において5回発生した[[大量絶滅]]のうち最新の事件[[恐竜]]を代表とする大型爬虫類やアンモナイトが絶滅したことで有名であるが、海洋のプランクトンや植物類にも多数の絶滅種があった。種のレベルで最大約75%の生物が絶滅した<ref>田近英一「地球環境46億年の大変動史」(2009) P170</ref>

K-T境界では、後述するように、メキシコの[[ユカタン半島]]付近に直径約10kmの巨大[[隕石]]が落下したことが知られている。この隕石落下は生物相変化をいっそう促進したと考えられるが、その影響の大きさについては諸説ある。


K-T境界では、後述するように、メキシコの[[ユカタン半島]]付近に直径約10kmの巨大[[隕石]]が落下したことが知られている。この隕石落下が、大量絶滅の引き金になったとされる。
[[File:Phanerozoic Biodiversity.svg|thumb|400px|顕生代の生物多様性(科レベル)の推移。横軸は年代を表し単位は百万年。灰色が大量絶滅を最初に示したセプコスキのデータ、緑色が"well-defined"データ、黄色の三角が5大絶滅事件。右端の6500万年前の谷が恐竜が絶滅したK-T境界]]
== 名称 ==
== 名称 ==
[[白亜紀]]と[[新生代]][[第三紀]]の境目に位置する。白亜紀は[[英語]]では Cretaceous だが、頭文字がCで始まる地質年代区分が多いため、[[ドイツ語]]の '''K'''reide からとった頭文字'''K'''が略号として用いられる。これと、英語で第三紀を意味する '''T'''ertiary の頭文字'''T'''とを組み合わせて'''K-T境界'''としている。ただし、現在は第三紀の語は正式な用語として使われておらず、[[古第三紀]]('''P'''aleogene)との境界であることから'''K-P境界'''の語が用いられる<ref>松井(2009)る。</ref>。
[[白亜紀]]と[[新生代]][[第三紀]]の境目に位置する。白亜紀は[[英語]]では Cretaceous だが、頭文字がCで始まる地質年代区分が多いため、[[ドイツ語]]の '''K'''reide からとった頭文字'''K'''が略号として用いられる。これと、英語で第三紀を意味する '''T'''ertiary の頭文字'''T'''とを組み合わせて'''K-T境界'''としている。ただし、現在は第三紀の語は正式な用語として使われておらず、[[古第三紀]]('''P'''aleogene)との境界であることから'''K-P境界'''<ref>松井「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009)前書き V頁</ref> または '''K/Pg境界'''<ref>「恐竜博2011」(2011) P120 おび P122</ref>と呼ばれている


== 大量絶滅 ==
== 大量絶滅 ==
中生代は大型爬虫類の時代であった。地上では[[恐竜]]が、空中では[[翼竜]]が海中では[[首長竜]]や[[魚竜]]などが繁栄していた。K-T境界を境にして、これらの大型爬虫類の全てが絶滅した。生き残ったのは、爬虫類の系統では比較的小型の[[カメ]]、[[ヘビ]]、[[トカゲ]]及び[[ワニ]]などに限られた。恐竜直系の子孫である[[鳥類]]も絶滅を免れている。海中では[[アンモナイト]]類をはじめとする海生生物の4割([[有孔虫]]では種97%以上との92%以上)が姿を消した。この時期に絶滅した生物種は、全体の70%ほどと見積もられている。これらの生物がいなくなった後、それらの生物が占めていたニッチは[[哺乳類]]と鳥類によって置き換わり、現在の[[生態系]]が形成された。陸上の[[植物相]]は、白亜紀中頃には既にジュラ紀末まで隆盛を誇った[[ソテツ]]類などの[[裸子植物]]に代わって、[[子植物]]を主体とするものに変わていた。K-T境界も被子植物主体植物相であることは変わらないものの、[[花粉]]分析の結果、K-T境界直後のシダ植物の一時的進出を挟んで、構成を大きく変化させていることが明らかになった。
中生代は大型爬虫類の時代であった。地上では[[恐竜]]が、空中では[[翼竜]]が海中では[[首長竜]]や[[魚竜]]などが繁栄していた。K-T境界を境にして、これらの大型爬虫類の全てが絶滅した。生き残ったのは、爬虫類の系統では比較的小型の[[カメ]]、[[ヘビ]]、[[トカゲ]]及び[[ワニ]]などに限られた。恐竜直系の子孫である[[鳥類]]も絶滅を免れている。海中では[[アンモナイト]]類をはじめとする海生生物の約16%科と47%属が姿を消した<ref>Douglas h. Erwin「大絶滅」(2009) P24 </ref>。これらの生物がいなくなった後、それらの生物が占めていたニッチは[[哺乳類]]と鳥類によって置き換わり、現在の[[生態系]]が形成された。陸上の[[植物相]]は、白亜紀には[[子植物]]が多様性化をとげいたが、[[子植物]]の針葉樹類比べれば数は少なかった<ref>リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P239 </ref>。K-T境界後の[[花粉]]分析の結果、K-T境界直後のシダ植物の一時的進出を挟んで、構成を大きく変化させていることが明らかになった。
===水中での状況===

[[File:KT boundary 054.jpg|thumb|right|カナダ、アルバータ州の[[w:Drumheller]]近郊でのK-T境界の明瞭な地層]]

海中ではプランクトン類が大打撃を受け、それらを捕食していたアンモナイト類などの中型生物が多数絶滅し、中型生物を捕食する大型生物のほとんどが絶滅した。
*[[魚竜]]は白亜紀が終わる前に既に絶滅し、[[首長竜]]も減少していたが、K-T境界で完全に絶滅した。
*少数の種を除くほとんど全部の[[有孔虫]]類が消滅、[[円石藻]]類の85%が絶滅した。
*[[アンモナイト]]が絶滅、二枚貝類、[[腕足類]]、[[コケムシ]]類の多くの種が絶滅。
*全ての[[モササウルス]]類、淡水サメ類が絶滅。
*[[珪藻類]]、魚類は被害は比較的少なかった。
白亜紀の名の元は、当事の海洋に多数生息していた有孔虫類の炭酸カルシウムの殻が堆積したチョーク(白亜)である<ref>池貝仙之ら 「地球生物学」 (2004) P129</ref>。海洋でのK-T境界を記録した地層では、有孔虫類が激減したため境界をはさんだ上下でプランクトンの種類が全く変化しており、その違い(有孔虫の化石の有無や地層の色の違い)が肉眼でも確認できる。<ref>ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」(1997) P63</ref>

===陸上での状況===
陸上では恐竜が全滅し、他の生物にも広範な影響があった。
*[[翼竜]]は白亜紀の終わりには数を減らしていたが、K-T境界で絶滅。
*[[鳥類]]を除くすべての[[竜盤類]]と、[[鳥盤類]]が絶滅(現在 鳥類は竜盤類の中の小型[[獣脚類]]から派生したとされている<ref>リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P229-230 </ref>。)
*[[哺乳類]]の種の35%が消滅。特に中型犬以上の大きさの種はすべて絶滅した可能性が高い<ref>「恐竜博2011」 P120</ref>。
*北アメリカの植物種の79%が絶滅。
*鳥類は多様性を維持していた<ref group="注釈">鳥類もK-T境界で大きな影響を受けたという説も提出されている(ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」(1997) P30、元の論文は Feduccia, A., 1995, Explosive evolution in Tertiary birds and mammals: Science, v.267, p.637-638. )</ref>。ワニ類・カメ類・昆虫類も影響が少なかった。
<ref>以上の水中・陸上の絶滅状況は リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P240-242 より</ref>
K-T境界直後の陸上植物の特徴としてシダ類の異常な繁茂があげられる。[[地質時代]]の広範囲な植生状況を調べる手段として、堆積物中の花粉や胞子の化石を調べる方法がある。北アメリカにおける化石の研究では、白亜紀の花粉・胞子の化石中のシダ胞子の比率は約25%だったのが、K-T境界直後では96-99%がシダ胞子となっている<ref>西田治文「植物のたどってきた道」(1998) P198-199</ref>。シダ類は噴火による溶岩や火山灰によってすべての植物が消滅した荒地に最初に繁茂することが確認されているが<ref group="注釈">たとえば1980年の[[セント・ヘレンズ山]]の噴火後の荒地の回復時にも、まずシダ類が繁茂した(田近英一「地球環境46億年の大変動史」(2009) P183)</ref>、K-T境界事件の直後に広がった荒地をシダ類が覆ったと想定されている。この顕著な現象は「シダスパイク」[[w:Fern spike|Fern spike]]と呼ばれ、K-T境界直後のプランクトンがいなくなった海中で堆積した複数の地層からも見つかっている。このことは広範囲にわたる地上の植生の荒廃と海洋の絶滅が同時に生起したことを意味する<ref>リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P242 </ref>。

シダ類の優占した期間は短く、次に河畔林などを作る(荒地に適性のある)被子植物が繁茂し始めたが植物多様性の回復は遅れ、最終的に白亜紀レベルの多様性まで回復したのは約150万年後であった<ref>西田治分「植物のたどってきた道」 (1998) P199 </ref>。


'''白亜紀最後の[[マストリヒシアン]]に生息していた生物の復元想像図'''
<Gallery>
File:Triceratops BW.jpg|[[トリケラトプス]]、白亜紀最後の北米に生息していた、体長9m
File:DPAG 2008 Tyrannosaurus.jpg|[[ティラノサウルス]]、最大の肉食恐竜、白亜紀末まで生存、体長11-13m
File:Goronyasaurus1DB.jpg|巨大な海生トカゲ[[モササウルス]]の一種[[w:Goronyosaurus]]、体長7m
File:Quetzalcoatlus07.jpg|翼長11mに達した翼竜[[ケツァルコアトルス]]、翼竜として最大であった。
File:Sketch pachycephalosaurus2.jpg|石頭恐竜とも呼ばれる[[パキケファロサウルス]]、体長8m
</Gallery>


== 大絶滅の原因をめぐる議論 ==
== 地球気候の変化 ==
地質学の分野では、19世紀以来[[チャールズ・ライエル]]が提唱した「過去に起こったことは現在観察されている過程と同じだろう」と想定する[[斉一説]]が基本とされてきた。この考え方に基づけば、「天変地異を原因とする生物の大量絶滅」は地質学者の間で考慮されることはなかった<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P29</ref>。下記の「隕石説」が提起されるまで恐竜絶滅の原因として、「夜間も活発に活動する哺乳類の台頭によって、恐竜の卵が食べつくされた」、「あまりに巨大化した恐竜は、種としての寿命が尽きた」、「白亜紀末期に出現した被子植物に対応できなかった」等の説があったが、いずれも客観的な証拠が欠けていた。<ref group="注釈">「哺乳類の台頭」説では、恐竜の絶滅の前に哺乳類の化石が増えなければならないが、その事実はない。「種としての寿命」説では体長1m程度の敏捷な恐竜も同時に絶滅している点を説明できない。「被子植物原因」説に対しては、被子植物がK-T境界の数千万年前から繁茂していた事と矛盾。(松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P26-28)</ref>
中生代を通じて地球の気候は温暖であった。当時の爬虫類の分布から想定して、平均気温は現在より10~15℃程度高かったと考えられる。原因として大気中の[[二酸化炭素]]の濃度が現在よりも高く、[[温室効果]]が大きかった事があげられる。中生代は[[火山活動]]が比較的活発で、[[火山ガス]]によって二酸化炭素が大量に大気中へ供給された。中生代の二酸化炭素濃度は現在(0.03%)の10倍以上あったと推定されている。中生代に繁栄した恐竜を代表とする生物種は、この高温に適応した生物であった。しかし白亜紀末期には気温が徐々に低下し始めていたため、隕石落下前の地層から発見される化石では、大型恐竜やアンモナイト類の種の数が減少していた。


== 高濃度のイリジウム:隕石説と火山説 ==
===巨大隕石衝突の登場===
[[File:K-T-boundary.JPG|thumb|right|アメリカワイオミング州で採取されたK-T境界を含む岩石。中央の白い粘土層は上下の白亜紀・新生代第三紀に比べて千倍のイリジウムを含んでいる]]
[[File:K-T-boundary.JPG|thumb|right|アメリカワイオミング州で採取されたK-T境界を含む岩石。中央の白い粘土層は上下の白亜紀・新生代第三紀に比べて千倍のイリジウムを含んでいる]]
[[1980年]]、地質学者[[ウォルター・アルヴァレズ]](Walter Alvarez、一般にはアルバレスとも)とその父でノーベル賞受賞者でもある物理学者[[ルイス・アルヴァレズ]](Luis Alvarez)、K-T境界における大量絶滅の主原因を隕石とする論文を発表した<ref>{{Cite journal|last=Alvarez|first=L.W.|authorlink=ルイス・アルヴァレズ|coauthors=Alvarez,W., et al.|year=1980|title=Extraterrestrial Cause for the Cretaceous-Tertiary Extinction|journal=Science|volume=208|issue=4448|pages=1095-1108|doi=10.1126/science.208.4448.1095}}
[[1980年]]、アメリカ[[カリフォルニア大学]]の地質学者[[ウォルター・アルヴァレズ]](Walter Alvarez、一般にはアルバレスとも)とその父でノーベル賞受賞者でもある物理学者[[ルイス・アルヴァレズ]](Luis Alvarez)および同大学放射線研究所核科学研究室の研究員2名が、K-T境界における大量絶滅の主原因を「'''隕石'''」とする論文を発表した<ref>{{Cite journal|last=Alvarez|first=L.W.|authorlink=ルイス・アルヴァレズ|coauthors=Alvarez,W., et al.|year=1980|title=Extraterrestrial Cause for the Cretaceous-Tertiary Extinction|journal=Science|volume=208|issue=4448|pages=1095-1108|doi=10.1126/science.208.4448.1095}}
</ref>。
</ref>。アルヴァレズ父子はイタリアの[[グッビオ|グビオ]]に産するK-T境界の薄い粘土層を分析し、他の地層と比べ30~450倍ものきわめて高濃度の'''[[イリジウム]]'''を検出した。イリジウムは、地表では極めて希少な元素である反面、隕石には多く含まれること、デンマークに産出する同様の粘土層からも同じ結果を得たことで、イリジウムの濃集は局地的な現象ではなく地球規模の現象の結果であると予測されることから、彼らはその起源を隕石に求めた。


アルヴァレズ父子はイタリアの[[グッビオ|グビオ]]に産するK-T境界の薄い粘土層を、彼らの研究室にしかなかった「微量元素分析器」を使って分析し、他の地層と比べ20~160倍ものきわめて高濃度の'''[[イリジウム]]'''を検出した<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) p34</ref>。イリジウムは、地表では極めて希少な元素である反面、隕石には多く含まれること、デンマークに産出する同様の粘土層からも同じ結果を得たことで、イリジウムの濃集は局地的な現象ではなく地球規模の現象の結果であると予測されることから、彼らはその起源を隕石に求めた。またこの論文では「巨大隕石の落下によって発生した大量の塵が地上に届く太陽光線を激減させ、陸上や海面の植物の光合成が不可能となって、食物連鎖が完全に崩壊した結果大量絶滅をもたらした」とした<ref group="注釈">ルイス・アルヴァレズは、空気中に大量に塵が混入した場合の基礎データとして、1883年の[[クラカタウ|クラカトア火山]]の噴火のデータを使用した。(ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」(1997) P118)</ref>。衝突直後の昼間の地上の明るさは満月の夜の10%まで低下し、この状況が数ヶ月から数年続くと推定した<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) p37</ref>。
この論文は、地質学者の激しい抵抗で迎えられた<ref>[[斉一説]]に真っ向から反する仮説と捉えられたのである。(パウエル、2001年)</ref>。反論のなかで最も有力だったものが、イリジウムの起源を火山活動に求めた火山説である。地表では希少なイリジウムも、地下深部には多く存在する。それが当時起こっていた活発な火山活動([[デカントラップ]])により地表に放出されたとするのが火山説であり、隕石説に反対する多くの地質学者がこの説を支持した。


この論文は、地質学者の激しい抵抗で迎えられた<ref group="注釈">[[斉一説]]に真っ向から反する仮説と捉えられたのである。(川上紳一ら「最新地球史がよくわかる本」(2006) P33-38)</ref>。しかしこの論文の仮説は検証による議論が可能であり、世界各地で調査された大量のデータとともに賛成・反対の多くの議論が巻き起こった。反論のなかで最も有力だったものが、イリジウムの起源を火山活動に求めた火山説である。地表では希少なイリジウムも地下深部には多く存在する。それが当時起こっていた活発な火山活動(インドのデカン高原を作った面積100万平方km<ref>安藤雅孝・早川由紀夫・平原和朗「新版地学教育講座②地震と火山」 (1996) P142 東海大学出版会 ISBN4-486-01302-6 </ref>に広がる洪水玄武岩[[デカントラップ]])により地表に放出されたとするのが「'''火山説'''」であり、隕石説に反対する多くの地質学者がこの説を支持した<ref>川上紳一ら「最新地球史がよくわかる本」(2006) P33-38)</ref>。巨大な洪水玄武岩の噴火は、K-T境界より規模の大きな大絶滅であった[[P-T境界]]事件の原因と推定されており、生物界に大きな影響を及ぼすと考えられる<ref group="注釈">P-T境界事件の原因とされるシベリア洪水玄武岩は推定700万平方kmに広がる(Douglas H. Erwin「大絶滅」 (2009) P202) 。詳細は[[P-T境界]]を参照</ref>。
以来、およそ10年にわたって、隕石説と火山説の間で展開された論争は、[[1991年]]に、[[ユカタン半島]]において白亜期末に形成されたと見られるクレーター跡が発見されるに至って、隕石説に軍配が上がる形で決着した。


== 巨大隕石落下の証拠 ==
=== 巨大隕石落下の証拠 ===
[[ファイル:Chicxulub radar topography.jpg|thumb|right|K-T境界:チクシュルーブ・クレータ(Chicxulub Crater)]]
[[ファイル:Chicxulub radar topography.jpg|thumb|right|K-T境界:チクシュルーブ・クレータ(Chicxulub Crater)]]


白亜紀と第三紀を境する、[[イリジウム]]に富む薄い粘土層アやデマークだけでなく、アメリカや日本等世界各地に分布ている特に北アメリカでは、'''イリジウム濃縮層'''とそれよりや厚い粘土層の2層が観察され、衝突の結果形成されたクレーターが付近に存在すると考えられてきた。
アルヴァレズ論文ではイタリアとデンマークの[[イリジウム]]に富む薄い粘土層が分析されたが、論文発表の直前にニュージーランドのK-T境界層でもイリジウムの濃集が確認された。引き続き同様のイリジウム濃集層がスペイアメリカ各地・中部太平洋・南大西洋の海成堆積岩層<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P35</ref>や地上で堆積た泥岩層から確認された<ref>ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」(1997) P123-125</ref>K-T境界層の厚さは、ヨーロッパでは約1cmであったが、北アメリカのカリブ海周辺やメキシコ湾岸では厚さが1mを超える上構造成分異なる2層が観察され、衝突の結果形成されたクレーターが付近に存在すると考えられた<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P6</ref>


粘土層中には、高熱で地表の岩石が融解して飛び散ったことを示すガラス質の岩石[[テクタイト]]スフェルール、高温高圧下で変成した衝撃変成[[石英]](Shocked Quartz)、[[ダイヤモンド]]も発見されており、これらはすべて、衝突時の衝撃により形成されたと考えられている。また粘土中には多量のすすが含まれ、これは衝突時の高熱により地上の植生等が大規模な火災を起こした証拠と考えられている
K-T境界の粘土層中には、高熱で地表の岩石が融解して飛び散ったことを示すガラス質の岩石[[テクタイト]]とそれが風化してできたスフェルール、高温高圧下で変成した[[衝撃石英]]も発見されており、これらはすべて、隕石衝突時の衝撃により形成されたと考えられている<ref group="注釈">テクタイト、スフェルール、衝撃石英は火山の噴火でも形成され。しかしK-T境界で見つかる衝撃石英は火山噴火で作られたものと異なり、より強い衝撃を受けた痕跡が残っていた(ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」 (1997) P148-150 </ref>。また粘土中には当事の全陸上生物量の約6分の一が燃えたと推定される多量のすすが含まれ、これは衝突時の高熱により地上の植生等が大規模な火災を起こした証拠と考えられた<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」((2002) P173</ref>


[[1980年]]の論文の時点で、落下したと考えられる隕石の大きさ直径10km程度)は計されていが、落下したことの最も確実な証拠であるクレーターの場所つい先述通り北アメリカ近辺にあるらしいという以外明らかではなった。
[[1980年]]の論文で全世界に撒き散らされたイリジウムの量やK-T境界層の厚さを元に落下した隕石の大きさを計算し 直径10プラスマイナス4km程度出し<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」 (2002) P37 </ref>。しかし 落下したことの最も確実な証拠であるクレーターは当時発見されなかった。調査が進む連れて、K-T境界層厚さから北アメリカ近辺に落下したらしいという点と、カリブ海周辺およびメキシコ湾周辺のK-T境界層津波による堆積物が多く見つかることから、落下地点この近くにあると推定されるようになった<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P51</ref>


[[1991年]]、巨大隕石による衝突クレーターと見なされる「ユカタン半島北部に存在する直径約170kmの円形の磁気異常と重力異常構造」がヒルデブランドらによって''発見''された<ref> Hildebrand, A. R,. Penfield, G. T., Kring, D. A,. Pilkington, M., Camargo Z., A., Jacobsen, S. B., and Boynton, W. V., 1991 Chicxulub crater: a possible Cretaceous/Tertiary boundary impact crater on the Yucatan Peninsula, Mexico: Georogy. v.19, p867-871</ref> 。この環状構造は石油開発関連の調査から導かれたもので、一部の関係者は把握していたが 1991年まで広く知られることはなかった。1975年には「古い火山中央部と見られる環状構造」、1981年には「噴出物を伴う衝撃孔」と報告されていたが、K-T境界と関連付けた報告ではなく大きな注目を受けなかった。これらの報告に使われたデータは「メキシコ石油開発公団」([[ペメックス]])が石油探査のために行った調査によるものであった<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) p51</ref>。ヒルデブランドらがペメックスが採取していたボーリングサンプルを再調査したところ、クレーターの形成年代がK-T境界と一致すること、含まれる岩石成分が周囲に飛び散ったテクタイトと一致することが判明し<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P50</ref>、「K-T境界で落下した巨大隕石によるクレーター」であると確認した。
[[1991年]]、ユカタン半島北部に存在する円形の磁気異常と重力異常構造が再発見され<ref>石油地質学者はこの構造を1980年より以前に知っていた。(パウエル、2001年)</ref>、その後の調査の結果、求めるクレーター跡であると認められた。


K-T境界では、上記のように直径約10kmの巨大隕石が落下した。落下地点は現在の[[メキシコ]][[ユカタン半島]]の北西端チクシュルーブで、落下により直径100km以上<ref>その後の研究で直径は250kmと見積もられている。(パウエル、2001年)</ref>、深さ15~25kmの[[チクシュルーブ・クレーター]]が形成されたことが確認された(写真参照)。
落下地点は現在の[[メキシコ]][[ユカタン半島]]の北西端チクシュルーブで、落下により直径約200km・深さ15~25kmの[[チクシュルーブ・クレーター]]が形成された(写真参照)。(クレーターの直径についてはその後1995年に直径約300kmと言う説も発表されたが<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P10</ref>、現地での地震探査の結果2009年の時点では「直径200km」が妥当とされている。<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009)P20)</ref>)。また、落下地点は当時石灰岩層を有する浅海域だったと推定され、隕石落下により高さ300mに達する巨大な[[津波]]が北アメリカ大陸の沿岸に押し寄せたと推定される<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009)P73</ref>


火山説については 1999年にフランスの地質学者クロード・アレグレールらが、白亜紀末に該当するデカン洪水溶岩の年代について「6660万年前、誤差プラスマイナス30万年」と推定した。この年代値はイリジウムの濃集した堆積層よりも明らかに古く、隕石衝突に先行して噴火が起こったとしている<ref>リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」(2007) P248</ref>。また火山由来のイリジウムの場合は同時にニッケルとクロムの濃度増加を伴うが、K-T境界層からはイリジウム以外の元素の濃集は確認されていない<ref>リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」(2007) P242</ref>。
また、落下地点は当時浅海域だったと推定され、[[キューバ]]では隕石落下による巨大[[津波]]を示す堆積物も見つかっている<ref>松井(2009)による。</ref>。


== 地球環境に与えた影響 ==
== 想定されるシナリオ ==
中生代を通じて地球の気候は温暖であった。当時の爬虫類の分布から想定して、平均気温は現在より10~15℃程度高かったと考えられる。原因として大気中の[[二酸化炭素]]の濃度が現在よりも高く、[[温室効果]]が大きかった事があげられる。中生代は[[火山活動]]が比較的活発で、[[火山ガス]]によって二酸化炭素が大量に大気中へ供給された。中生代の二酸化炭素濃度は現在(0.03%)の10倍以上あったと推定されている<ref>平山廉「最新恐竜学」(1999) P87</ref>。中生代に繁栄した恐竜を代表とする生物種は、この高温に適応した生物であった。しかし白亜紀末期には気温が徐々に低下し始めており、隕石落下前の地層から発見される化石では、大型恐竜やアンモナイト類の種の数が減少していた。それでもまだ現在より温暖で、南極・北極ともに氷河は形成されていなかった<ref group="注釈">現在につながる氷河時代の始まりは、更に寒冷化が進んだ約3400万年前とされる(田近英一「地球環境46億年の大変動史」(2009) P137)</ref>。K-T境界では、この温暖な時代の浅海に巨大隕石が落下した。
大量絶滅の主原因は、巨大隕石の落下による環境急変とする説が広く知られているが、その他に[[大陸]]の移動による[[気候変動]]、植物相の変化による動物の餌の不足、などいくつかの説があり、まだ結論は出ていない。


===隕石衝突のエネルギー量===
大量絶滅の原因が巨大隕石の落下であった場合に想定されるシナリオは次のようなものである。
隕石の衝突では、隕石の持つ運動エネルギーが衝突時に解放される。運動エネルギーは隕石の質量に比例し、速度の二乗に比例する。隕石の落下速度は、隕石の軌道が地球軌道とどのように交わるかで大きく変化するが、少なくとも15km/秒、時には50km/秒を超える<ref group="注釈">地球の公転速度が約秒速30km/秒なので、地球と反対向きに回っている天体と衝突すると両者の速度差は30km/秒以上になる。またすべての隕石について、公転速度差に加えて地球の[[宇宙速度|脱出速度]]約11km/秒が加算されるので、地上には最低でも15km/秒の速度で落下する。(松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P158-160)</ref>。これを時速に換算すると5.4万km/時で、最も遅い隕石でもその落下速度は(空気との摩擦による減速を考慮しなければ)ジェット旅客機の巡航速度(約900km/時)の60倍に相当する。隕石が小さい場合、大気との摩擦熱で地上に落ちるまでに燃え尽きてしまうが、もう少し大きいと大気との摩擦で減速されながら落下し地上に隕石として残る。直径50m以上の大きさで鉄隕石のように硬いものだと摩擦による減速の影響は少ないまま地上に激突する。この場合は隕石の持つ運動エネルギーが大きいため隕石本体は地面にもぐりこみながら、激しい衝撃により爆発する<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P156-157)</ref>。そのため隕石衝突のエネルギーを比較するには、核爆弾と同様に爆発のエネルギー(具体的には代表的な火薬である[[トリニトロトルエン|TNT]]の重量[[TNT換算]])で表記する<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P85</ref>。
<!-- 復活するかもしれないのでコメントアウト:直径10kmの巨大隕石が海域に落下した結果、下記状況が起こったと考えられる。 -->
* 隕石本体は衝撃による発熱で気化蒸発し、塵となって大気中に広がった。
* 落下海域では巨大津波が発生し、津波は全世界の海岸を襲った。
* 落下地点の岩盤は高熱により融解し周囲に飛び散った。落下の衝撃により周辺の岩盤が破壊され巨大な[[クレーター]]が生成した。クレーターの形成時に大量の岩屑が空中に舞い上がった。
* 大気は塵によって不透明となり日光が地表に届かなくなって、地表が[[地球寒冷化|寒冷化]]した。
* 大気中に舞い上がった岩石中に含まれていた硫黄分が[[酸性雨]]を降らせた。
* 環境の激変に適応できなかった多数の生物が死滅した。
<!--ノートの指摘により、一旦コメントアウト:特に気温の低下により衰退傾向にあった生物種が一気に絶滅した。-->


チクシュルーブ・クレーターを形成した衝突エネルギーは、TNT換算3×10<sup>8</sup>~10<sup>9</sup>メガトンと計算されているが<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P163)</ref>、この量は[[冷戦時代]]にアメリカとソ連が持っていた核弾頭すべての爆発エネルギー10<sup>4</sup>メガトン<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P86)</ref>の1万倍以上に相当する。
=== 顕生代の内訳のグラフ ===

===隕石衝突時の状況===
[[File:Meteor.jpg|thumb|right|トランジェントクレーターの形状  [[バリンジャー・クレーター]]約5万年前のアメリカ・アリゾナ州に落下した直径数十mの隕鉄によるクレーター、直径1.2-1.5km  小規模なクレーターなのでトランジェントクレーターの形状が残っている<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P94</ref>]]
宇宙から落下してくる隕石は、大気圏で表面温度が1万度近くまで熱せられる<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P164)</ref>。高速の隕石は高度11000mより下の[[対流圏]]を1秒以下で通り過ぎるので、非常に大きな衝撃波を伴う。地上に衝突した直径10kmの隕石は地殻に数十kmもぐりこみながら運動エネルギーを開放して爆発する<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P16</ref>。

隕石爆発のエネルギーで衝突地点周辺の石灰岩を含む地殻が蒸発や飛散によって消失し、深さ40km<ref>ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」 (1997) P21 </ref>、半径70-80kmのおわん型のクレーター(トランジェントクレーター)ができる<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P94</ref>。このときクレーターの部分とその周辺の海水も同時に蒸発・飛散して無くなっている<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P71</ref>。爆発の衝撃による爆風が北アメリカ大陸を襲い、マグニチュード10程度の大地震が起こる<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002)P166</ref>。トランジェントクレーターの底には溶解したが蒸発・飛散せずに残った岩石がのこっており、やがて再凝結する。クレーター中心部は地下深部の高温の岩石が凸状に盛り上がってきて中央部が高くなる<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P95</ref>。地下深くでは中心部の盛り上がりに対応して周辺部は低下し、地表ではトランジェントクレーターのおわん型の壁が崩落して外側に広がってゆく。これらの地殻変動によってトランジェントクレーター周辺の地殻は波うち同心円状の構造が形成され(トランジェントクレーターの形状は消えてしまう)、更に大きなクレーター構造となって残る<ref>ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」 (1997) P24 </ref>。

浅海に空いた巨大なクレーターに向かって海水が押し寄せるため、周辺海域では巨大な引き波が起こる。押し寄せる海水はクレーターが一杯になっても止まらず、巨大な海水の盛り上がりを作った後、押し波となって周辺へ流れ出し全世界へ広がる。衝突地点に近い北アメリカ沿岸では300mの高さの津波となって押し寄せた<ref>松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P71-73 津波の第一波が引き波であることが確認された </ref>。

地面に衝突して爆発した隕石は全量が飛散し、衝突地点の岩石も衝撃のエネルギーで蒸発・溶解・粉砕される。トランジェントクレーターでは、隕石質量の約2倍に相当する岩石が蒸発(ガス化)し、隕石質量の約15倍の融解した岩石と、隕石質量の約300倍に達する粉砕された岩石が飛び散る。蒸発した岩石には[[石灰岩]](CaCO<sub>3</sub>)や[[石膏]](CaSO<sub>4</sub>)が含まれており、これが大気中で分解して大量の[[二酸化炭素]](CO<sub>2</sub>)と[[二酸化硫黄]](SO<sub>2</sub>)が発生したと考えられる。融解した岩石は空中で冷えて凝固しガラス状のマイクロテクタイトになる。衝突地点から吹き上がった高温の噴出物は、クレーター周辺に落下して森林に火事を起こさせ、大量の煤を発生させる<ref group="注釈">ユカタン半島一帯は石油産地であり、石油の燃焼による煤の生成も想定される。最近の''K-T境界の煤に関する研究''では煤には石油や石炭からのものが含まれており、全地球的な大火は想定しなくてよいという説も発表された(松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P116-117</ref>。衝突地点から放出された大量の塵や大規模火災による煤は空中に舞い上がり、太陽光が地上へ到達するのを妨げた。<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002)P169-170</ref>。

===隕石衝突後の状況===
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤は、比較的大きなサイズのものは対流圏(高度約11000mまで)まで上昇し数ヶ月後には地上に落下するが、1000分の1mm以下の小さなサイズのものはその上の[[成層圏]]や[[中間圏]]まで上昇し、数年から10年間とどまる。これらは太陽光線に対して不透明であり、隕石落下の直後には地上に届く太陽光の量を通常の100万分の一以下に減少させる。この極端な暗闇は煤や塵が地上に落下するまで数ヶ月続くが、その期間気温が著しく低下し、光不足で植物は光合成ができなくなった<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P172-173 </ref>。北アメリカのK-T境界に相当する地層のハスやスイレンの化石から、隕石は6月頃に落下したこと(ジューン・インパクト)、落下直後には植物が凍結したことが分かった<ref>西田治分「植物のたどってきた道」(1998) P197-198</ref>。またK-T境界直後の海洋においても植物プランクトンの光合成が一時停止したことが判明している。<ref>田近英一「地球環境46億年の大変動史」 (2009) P178-181 </ref>。

大気中に放出された二酸化硫黄は空中で酸化し硫酸となって酸性雨として地表に落下したり、一部は硫酸エアロゾルとなって空中にとどまった。さらに高温の隕石や飛散物質が空気中の[[窒素]]を酸化させて[[窒素酸化物]]を生成し酸性雨を更に悪化させたことも想定されている。サイズの大きな煤や塵は数ヶ月で落下するが、1000分の1mm以下の非常に小さな煤や塵はさらに長い期間空中に滞留して太陽光の地上への到達を減少させた。硫酸エアロゾルも地表に届く太陽光線を減少させる物質であり、これらの微粒子の影響による寒冷化は約10年間続いたと推定される。これらの隕石衝突による地上の暗黒化・寒冷化を「'''衝突の冬'''」と呼ぶ。<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P175-180 </ref>。

寒冷化の影響がなくなった後、蒸発した石灰岩から放出された大量の二酸化炭素による温暖化が数十万年続いた可能性が指摘されている<ref>松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P175-180 </ref>。

以上のように巨大隕石の衝突は衝突地点での破滅的な状況のみならず、数ヶ月以上続く地球全体における光合成の停止や低温、その後も続いた環境の激変を生起させた結果、多くの生物種が滅びる原因となった<ref>リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P246-247 </ref>。

==「衝突の冬」から派生した「核の冬」理論==
[[File:Operation Upshot-Knothole - Badger 001.jpg|thumb|right|1953年に行われたアメリカの地上核実験の写真、強烈な爆風が塵を空中に舞い上げる]]
アルヴァレスらの論文を読んだアメリカの天文学者[[カール・セーガン]]は、「隕石衝突の爆発によって舞い上がった塵が地表の暗黒化と寒冷化を起こすのであれば、核戦争による核爆発でも同様のことが起こるのではないか」と言う点に着目して研究を開始した。いわゆる[[核の冬]]理論である。この理論は世界的な反響を呼び、[[国際科学会議|国際学術連合]]環境科学委員会の主導で1985年から2年間、30カ国300人の科学者を動員して検討が行われた。その検討結果では、[[冷戦]]下でアメリカやソ連が保有していた核弾頭全部(TNT換算10<sup>4</sup>メガトン相当)が爆発した場合、爆発で舞い上がった塵や大規模火災で生成された煤の影響で地上に到達する太陽光の著しい減少と厳しい寒冷化が起こるとされた。
*地上に届く太陽光は爆発の20日後で正常時の20%以下、60日経っても正常時の60%。
*北半球中緯度地方の夏至の気温は平均で10-20℃低下。局所的には35℃ほど低下。
*オゾン層は壊滅的に破壊される。
*農業はほぼ全滅
ここで計算の元となった全核弾頭の爆発エネルギーは、K-T境界で落下した隕石の持つエネルギー(TNT換算10<sup>8</sup>メガトン以上)の約1万分の1である<ref>この節は、松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」 (2002) P55-58 より</ref>。

== 顕生代の内訳のグラフ ==
''地質時代区分表は[[地質時代]]を参照。''
''地質時代区分表は[[地質時代]]を参照。''
* 上段:左から、[[古生代]]、[[中生代]]、[[新生代]]を示している。
* 上段:左から、[[古生代]]、[[中生代]]、[[新生代]]を示している。
103行目: 159行目:


</table>
</table>
== 注釈 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references group="注釈"/>


== 脚注 ==
== 脚注 ==
{{reflist}}
{{reflist|2}}


== 参考図書 ==
== 参考図書 ==
* {{Cite book|和書|author=リチャード ミュラー|translator=手塚治虫|year=1987|title=恐竜はネメシスを見たか|publisher=集英社|id=ISBN 4087730824}}
* {{Cite book|和書|author=ウォルター・アルヴァレズ(Walter Alvarez)|year=1997|title=絶滅のクレーター - T・レックス最後の日|publisher=新評論|id=ISBN 4794803338}}
* {{Cite book|和書|author=ウォルター・アルヴァレズ(Walter Alvarez)|year=1997|title=絶滅のクレーター - T・レックス最後の日|publisher=新評論|id=ISBN 4794803338}}
* {{Cite book|和書|author=西田治分|year=1998|title=植物のたどってきた道|publisher=NHKブックス|id=ISBN 978-4-14-001819-4}}
* {{Cite book|和書|author=平山廉|year=1999|title=最新恐竜学|publisher=平凡社新書|id=ISBN 4582850111}}
* {{Cite book|和書|author=平山廉|year=1999|title=最新恐竜学|publisher=平凡社新書|id=ISBN 4582850111}}
* {{Cite book|和書|author=リチャード ミュラー|translator=手塚治虫|year=1987|title=恐竜はネメシスを見たか|publisher=集英社|id=ISBN 4087730824}}
* {{Cite book|和書|author=ジェームズ・ローレンス・パウエル|translator=寺嶋英志・瀬戸口烈司|title=白亜紀に夜がくる-恐竜の絶滅と現代地質学|year=2001|publisher=青土社|id=ISBN 4791759079}}
* {{Cite book|和書|author=ジェームズ・ローレンス・パウエル|translator=寺嶋英志・瀬戸口烈司|title=白亜紀に夜がくる-恐竜の絶滅と現代地質学|year=2001|publisher=青土社|id=ISBN 4791759079}}
* {{Cite book|和書|author=|松井孝典|year=2002|title=絶滅恐竜からのメッセージ 地球大異変と人間圏|publisher=ワック株式会社|id=ISBN 978-4-89831-507-1}}
* {{Cite book|和書|author=|池貝仙之・北里洋|year=2004|title=地球生物学 地球と生命の進化|publisher=東京大学出版会|id=ISBN 978-4-13-062711-5}}
* {{Cite book|和書|author=ピーター・ダグラス・ウォード|translator=瀬戸口烈司・原田憲一・大野照文|title=生きた化石と大量絶滅-メトセラの軌跡|year=2005|publisher=青土社|id=ISBN 4791761839}}
* {{Cite book|和書|author=ピーター・ダグラス・ウォード|translator=瀬戸口烈司・原田憲一・大野照文|title=生きた化石と大量絶滅-メトセラの軌跡|year=2005|publisher=青土社|id=ISBN 4791761839}}
* {{Cite book|和書|author=川上紳一・東条文治|title=最新 地球史がよくわかる本|year=2006|publisher=秀和システム|id=ISBN 4-7980-1260-2}}
* {{Cite book|和書|author=リチャード・サウスウッド|translator=垂水雄二|title=生命進化の物語|year=2007|publisher=八坂書房|id=ISBN 978-4-89694-887-5}}
* {{Cite book|和書|author=松井孝典|title=新版 再現! 巨大隕石衝突-6500万年前の謎を解く|year=2009|publisher=岩波書店|id=ISBN 978-4000074957}}
* {{Cite book|和書|author=松井孝典|title=新版 再現! 巨大隕石衝突-6500万年前の謎を解く|year=2009|publisher=岩波書店|id=ISBN 978-4000074957}}
* {{Cite book|和書|author=Douglas H. Erwin|translator=大野照文・沼波信・一田昌宏|title=大絶滅|year=2009|publisher=共立出版|id=ISBN 978-4-329-05685-5}}

* {{Cite book|和書|author=田近英一|title=地球環境46億年の大変動史|year=2009|publisher=化学同人|id=ISBN 978-4-7598-1324-1}}
* {{Cite book|和書|author=真鍋誠 他|title=恐竜博2011|year=2011|publisher=朝日新聞社}}
== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commons|Category:K/T Event}}
{{Commons|Category:K/T Event}}

2011年11月7日 (月) 23:15時点における版

K-T境界(ケイ・ティーきょうかい)とは地質年代区分の用語で、約6500万年前の中生代新生代の境目に相当する。顕生代において5回発生した大量絶滅のうち最新の事件。恐竜を代表とする大型爬虫類やアンモナイトが絶滅したことで有名であるが、海洋のプランクトンや植物類にも多数の絶滅種があった。種のレベルで最大約75%の生物が絶滅した[1]

K-T境界では、後述するように、メキシコのユカタン半島付近に直径約10kmの巨大隕石が落下したことが知られている。この隕石落下が、大量絶滅の引き金になったとされる。

顕生代の生物多様性(科レベル)の推移。横軸は年代を表し単位は百万年。灰色が大量絶滅を最初に示したセプコスキのデータ、緑色が"well-defined"データ、黄色の三角が5大絶滅事件。右端の6500万年前の谷が恐竜が絶滅したK-T境界

名称

白亜紀新生代第三紀の境目に位置する。白亜紀は英語では Cretaceous だが、頭文字がCで始まる地質年代区分が多いため、ドイツ語Kreide からとった頭文字Kが略号として用いられる。これと、英語で第三紀を意味する Tertiary の頭文字Tとを組み合わせてK-T境界としている。ただし、現在は第三紀の語は正式な用語として使われておらず、古第三紀Paleogene)との境界であることからK-P境界[2] または K/Pg境界[3]と呼ばれている。

大量絶滅

中生代は大型爬虫類の時代であった。地上では恐竜が、空中では翼竜が海中では首長竜魚竜などが繁栄していた。K-T境界を境にして、これらの大型爬虫類の全てが絶滅した。生き残ったのは、爬虫類の系統では比較的小型のカメヘビトカゲ及びワニなどに限られた。恐竜直系の子孫である鳥類も絶滅を免れている。海中ではアンモナイト類をはじめとする海生生物の約16%の科と47%の属が姿を消した[4]。これらの生物がいなくなった後、それらの生物が占めていたニッチは哺乳類と鳥類によって置き換わり、現在の生態系が形成された。陸上の植物相は、白亜紀末には被子植物が多様性化をとげていたが、裸子植物の針葉樹類に比べれば数は少なかった[5]。K-T境界前後の花粉分析の結果、K-T境界直後のシダ植物の一時的進出を挟んで、構成を大きく変化させていることが明らかになった。

水中での状況

カナダ、アルバータ州のw:Drumheller近郊でのK-T境界の明瞭な地層

海中ではプランクトン類が大打撃を受け、それらを捕食していたアンモナイト類などの中型生物が多数絶滅し、中型生物を捕食する大型生物のほとんどが絶滅した。

白亜紀の名の元は、当事の海洋に多数生息していた有孔虫類の炭酸カルシウムの殻が堆積したチョーク(白亜)である[6]。海洋でのK-T境界を記録した地層では、有孔虫類が激減したため境界をはさんだ上下でプランクトンの種類が全く変化しており、その違い(有孔虫の化石の有無や地層の色の違い)が肉眼でも確認できる。[7]

陸上での状況

陸上では恐竜が全滅し、他の生物にも広範な影響があった。

  • 翼竜は白亜紀の終わりには数を減らしていたが、K-T境界で絶滅。
  • 鳥類を除くすべての竜盤類と、鳥盤類が絶滅(現在 鳥類は竜盤類の中の小型獣脚類から派生したとされている[8]。)
  • 哺乳類の種の35%が消滅。特に中型犬以上の大きさの種はすべて絶滅した可能性が高い[9]
  • 北アメリカの植物種の79%が絶滅。
  • 鳥類は多様性を維持していた[注釈 1]。ワニ類・カメ類・昆虫類も影響が少なかった。

[10] K-T境界直後の陸上植物の特徴としてシダ類の異常な繁茂があげられる。地質時代の広範囲な植生状況を調べる手段として、堆積物中の花粉や胞子の化石を調べる方法がある。北アメリカにおける化石の研究では、白亜紀の花粉・胞子の化石中のシダ胞子の比率は約25%だったのが、K-T境界直後では96-99%がシダ胞子となっている[11]。シダ類は噴火による溶岩や火山灰によってすべての植物が消滅した荒地に最初に繁茂することが確認されているが[注釈 2]、K-T境界事件の直後に広がった荒地をシダ類が覆ったと想定されている。この顕著な現象は「シダスパイク」Fern spikeと呼ばれ、K-T境界直後のプランクトンがいなくなった海中で堆積した複数の地層からも見つかっている。このことは広範囲にわたる地上の植生の荒廃と海洋の絶滅が同時に生起したことを意味する[12]

シダ類の優占した期間は短く、次に河畔林などを作る(荒地に適性のある)被子植物が繁茂し始めたが植物多様性の回復は遅れ、最終的に白亜紀レベルの多様性まで回復したのは約150万年後であった[13]


白亜紀最後のマストリヒシアンに生息していた生物の復元想像図

大絶滅の原因をめぐる議論

地質学の分野では、19世紀以来チャールズ・ライエルが提唱した「過去に起こったことは現在観察されている過程と同じだろう」と想定する斉一説が基本とされてきた。この考え方に基づけば、「天変地異を原因とする生物の大量絶滅」は地質学者の間で考慮されることはなかった[14]。下記の「隕石説」が提起されるまで恐竜絶滅の原因として、「夜間も活発に活動する哺乳類の台頭によって、恐竜の卵が食べつくされた」、「あまりに巨大化した恐竜は、種としての寿命が尽きた」、「白亜紀末期に出現した被子植物に対応できなかった」等の説があったが、いずれも客観的な証拠が欠けていた。[注釈 3]

巨大隕石衝突説の登場

アメリカワイオミング州で採取されたK-T境界を含む岩石。中央の白い粘土層は上下の白亜紀・新生代第三紀に比べて千倍のイリジウムを含んでいる

1980年、アメリカカリフォルニア大学の地質学者ウォルター・アルヴァレズ(Walter Alvarez、一般にはアルバレスとも)とその父でノーベル賞受賞者でもある物理学者ルイス・アルヴァレズ(Luis Alvarez)および同大学放射線研究所核科学研究室の研究員2名が、K-T境界における大量絶滅の主原因を「隕石」とする論文を発表した[15]

アルヴァレズ父子はイタリアのグビオに産するK-T境界の薄い粘土層を、彼らの研究室にしかなかった「微量元素分析器」を使って分析し、他の地層と比べ20~160倍ものきわめて高濃度のイリジウムを検出した[16]。イリジウムは、地表では極めて希少な元素である反面、隕石には多く含まれること、デンマークに産出する同様の粘土層からも同じ結果を得たことで、イリジウムの濃集は局地的な現象ではなく地球規模の現象の結果であると予測されることから、彼らはその起源を隕石に求めた。またこの論文では「巨大隕石の落下によって発生した大量の塵が地上に届く太陽光線を激減させ、陸上や海面の植物の光合成が不可能となって、食物連鎖が完全に崩壊した結果大量絶滅をもたらした」とした[注釈 4]。衝突直後の昼間の地上の明るさは満月の夜の10%まで低下し、この状況が数ヶ月から数年続くと推定した[17]

この論文は、地質学者の激しい抵抗で迎えられた[注釈 5]。しかしこの論文の仮説は検証による議論が可能であり、世界各地で調査された大量のデータとともに賛成・反対の多くの議論が巻き起こった。反論のなかで最も有力だったものが、イリジウムの起源を火山活動に求めた火山説である。地表では希少なイリジウムも地下深部には多く存在する。それが当時起こっていた活発な火山活動(インドのデカン高原を作った面積100万平方km[18]に広がる洪水玄武岩デカントラップ)により地表に放出されたとするのが「火山説」であり、隕石説に反対する多くの地質学者がこの説を支持した[19]。巨大な洪水玄武岩の噴火は、K-T境界より規模の大きな大絶滅であったP-T境界事件の原因と推定されており、生物界に大きな影響を及ぼすと考えられる[注釈 6]

巨大隕石落下の証拠

K-T境界:チクシュルーブ・クレータ(Chicxulub Crater)

アルヴァレズ論文では、イタリアとデンマークのイリジウムに富む薄い粘土層が分析されたが、論文発表の直前にニュージーランドのK-T境界層でもイリジウムの濃集が確認された。引き続き同様のイリジウム濃集層がスペイン・アメリカ各地・中部太平洋・南大西洋の海成堆積岩層[20]や地上で堆積した泥岩層から確認された[21]。K-T境界層の厚さは、ヨーロッパでは約1cmであったが、北アメリカのカリブ海周辺やメキシコ湾岸では厚さが1mを超える上、構造や成分の異なる2層が観察され、衝突の結果形成されたクレーターが付近に存在すると考えられた[22]

K-T境界の粘土層中には、高熱で地表の岩石が融解して飛び散ったことを示すガラス質の岩石テクタイトとそれが風化してできたスフェルール、高温高圧下で変成した衝撃石英も発見されており、これらはすべて、隕石衝突時の衝撃により形成されたと考えられている[注釈 7]。また粘土中には当事の全陸上生物量の約6分の一が燃えたと推定される多量のすすが含まれ、これは衝突時の高熱により地上の植生等が大規模な火災を起こした証拠と考えられた[23]

1980年の論文では、全世界に撒き散らされたイリジウムの量やK-T境界層の厚さを元に落下した隕石の大きさを計算し 直径10プラスマイナス4km程度と算出した[24]。しかし 落下したことの最も確実な証拠であるクレーターは当時発見されなかった。調査が進むに連れて、K-T境界層の厚さから北アメリカ近辺に落下したらしいという点と、カリブ海周辺およびメキシコ湾周辺のK-T境界層で津波による堆積物が多く見つかることから、落下地点はこの近くにあると推定されるようになった[25]

1991年、巨大隕石による衝突クレーターと見なされる「ユカタン半島北部に存在する直径約170kmの円形の磁気異常と重力異常構造」がヒルデブランドらによって発見された[26] 。この環状構造は石油開発関連の調査から導かれたもので、一部の関係者は把握していたが 1991年まで広く知られることはなかった。1975年には「古い火山中央部と見られる環状構造」、1981年には「噴出物を伴う衝撃孔」と報告されていたが、K-T境界と関連付けた報告ではなく大きな注目を受けなかった。これらの報告に使われたデータは「メキシコ石油開発公団」(ペメックス)が石油探査のために行った調査によるものであった[27]。ヒルデブランドらがペメックスが採取していたボーリングサンプルを再調査したところ、クレーターの形成年代がK-T境界と一致すること、含まれる岩石成分が周囲に飛び散ったテクタイトと一致することが判明し[28]、「K-T境界で落下した巨大隕石によるクレーター」であると確認した。

落下地点は現在のメキシコユカタン半島の北西端チクシュルーブで、落下により直径約200km・深さ15~25kmのチクシュルーブ・クレーターが形成された(写真参照)。(クレーターの直径についてはその後1995年に直径約300kmと言う説も発表されたが[29]、現地での地震探査の結果2009年の時点では「直径200km」が妥当とされている。[30])。また、落下地点は当時石灰岩層を有する浅海域だったと推定され、隕石落下により高さ300mに達する巨大な津波が北アメリカ大陸の沿岸に押し寄せたと推定される[31]

火山説については 1999年にフランスの地質学者クロード・アレグレールらが、白亜紀末に該当するデカン洪水溶岩の年代について「6660万年前、誤差プラスマイナス30万年」と推定した。この年代値はイリジウムの濃集した堆積層よりも明らかに古く、隕石衝突に先行して噴火が起こったとしている[32]。また火山由来のイリジウムの場合は同時にニッケルとクロムの濃度増加を伴うが、K-T境界層からはイリジウム以外の元素の濃集は確認されていない[33]

地球環境に与えた影響

中生代を通じて地球の気候は温暖であった。当時の爬虫類の分布から想定して、平均気温は現在より10~15℃程度高かったと考えられる。原因として大気中の二酸化炭素の濃度が現在よりも高く、温室効果が大きかった事があげられる。中生代は火山活動が比較的活発で、火山ガスによって二酸化炭素が大量に大気中へ供給された。中生代の二酸化炭素濃度は現在(0.03%)の10倍以上あったと推定されている[34]。中生代に繁栄した恐竜を代表とする生物種は、この高温に適応した生物であった。しかし白亜紀末期には気温が徐々に低下し始めており、隕石落下前の地層から発見される化石では、大型恐竜やアンモナイト類の種の数が減少していた。それでもまだ現在より温暖で、南極・北極ともに氷河は形成されていなかった[注釈 8]。K-T境界では、この温暖な時代の浅海に巨大隕石が落下した。

隕石衝突のエネルギー量

隕石の衝突では、隕石の持つ運動エネルギーが衝突時に解放される。運動エネルギーは隕石の質量に比例し、速度の二乗に比例する。隕石の落下速度は、隕石の軌道が地球軌道とどのように交わるかで大きく変化するが、少なくとも15km/秒、時には50km/秒を超える[注釈 9]。これを時速に換算すると5.4万km/時で、最も遅い隕石でもその落下速度は(空気との摩擦による減速を考慮しなければ)ジェット旅客機の巡航速度(約900km/時)の60倍に相当する。隕石が小さい場合、大気との摩擦熱で地上に落ちるまでに燃え尽きてしまうが、もう少し大きいと大気との摩擦で減速されながら落下し地上に隕石として残る。直径50m以上の大きさで鉄隕石のように硬いものだと摩擦による減速の影響は少ないまま地上に激突する。この場合は隕石の持つ運動エネルギーが大きいため隕石本体は地面にもぐりこみながら、激しい衝撃により爆発する[35]。そのため隕石衝突のエネルギーを比較するには、核爆弾と同様に爆発のエネルギー(具体的には代表的な火薬であるTNTの重量TNT換算)で表記する[36]

チクシュルーブ・クレーターを形成した衝突エネルギーは、TNT換算3×108~109メガトンと計算されているが[37]、この量は冷戦時代にアメリカとソ連が持っていた核弾頭すべての爆発エネルギー104メガトン[38]の1万倍以上に相当する。

隕石衝突時の状況

トランジェントクレーターの形状  バリンジャー・クレーター約5万年前のアメリカ・アリゾナ州に落下した直径数十mの隕鉄によるクレーター、直径1.2-1.5km  小規模なクレーターなのでトランジェントクレーターの形状が残っている[39]

宇宙から落下してくる隕石は、大気圏で表面温度が1万度近くまで熱せられる[40]。高速の隕石は高度11000mより下の対流圏を1秒以下で通り過ぎるので、非常に大きな衝撃波を伴う。地上に衝突した直径10kmの隕石は地殻に数十kmもぐりこみながら運動エネルギーを開放して爆発する[41]

隕石爆発のエネルギーで衝突地点周辺の石灰岩を含む地殻が蒸発や飛散によって消失し、深さ40km[42]、半径70-80kmのおわん型のクレーター(トランジェントクレーター)ができる[43]。このときクレーターの部分とその周辺の海水も同時に蒸発・飛散して無くなっている[44]。爆発の衝撃による爆風が北アメリカ大陸を襲い、マグニチュード10程度の大地震が起こる[45]。トランジェントクレーターの底には溶解したが蒸発・飛散せずに残った岩石がのこっており、やがて再凝結する。クレーター中心部は地下深部の高温の岩石が凸状に盛り上がってきて中央部が高くなる[46]。地下深くでは中心部の盛り上がりに対応して周辺部は低下し、地表ではトランジェントクレーターのおわん型の壁が崩落して外側に広がってゆく。これらの地殻変動によってトランジェントクレーター周辺の地殻は波うち同心円状の構造が形成され(トランジェントクレーターの形状は消えてしまう)、更に大きなクレーター構造となって残る[47]

浅海に空いた巨大なクレーターに向かって海水が押し寄せるため、周辺海域では巨大な引き波が起こる。押し寄せる海水はクレーターが一杯になっても止まらず、巨大な海水の盛り上がりを作った後、押し波となって周辺へ流れ出し全世界へ広がる。衝突地点に近い北アメリカ沿岸では300mの高さの津波となって押し寄せた[48]

地面に衝突して爆発した隕石は全量が飛散し、衝突地点の岩石も衝撃のエネルギーで蒸発・溶解・粉砕される。トランジェントクレーターでは、隕石質量の約2倍に相当する岩石が蒸発(ガス化)し、隕石質量の約15倍の融解した岩石と、隕石質量の約300倍に達する粉砕された岩石が飛び散る。蒸発した岩石には石灰岩(CaCO3)や石膏(CaSO4)が含まれており、これが大気中で分解して大量の二酸化炭素(CO2)と二酸化硫黄(SO2)が発生したと考えられる。融解した岩石は空中で冷えて凝固しガラス状のマイクロテクタイトになる。衝突地点から吹き上がった高温の噴出物は、クレーター周辺に落下して森林に火事を起こさせ、大量の煤を発生させる[注釈 10]。衝突地点から放出された大量の塵や大規模火災による煤は空中に舞い上がり、太陽光が地上へ到達するのを妨げた。[49]

隕石衝突後の状況

隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤は、比較的大きなサイズのものは対流圏(高度約11000mまで)まで上昇し数ヶ月後には地上に落下するが、1000分の1mm以下の小さなサイズのものはその上の成層圏中間圏まで上昇し、数年から10年間とどまる。これらは太陽光線に対して不透明であり、隕石落下の直後には地上に届く太陽光の量を通常の100万分の一以下に減少させる。この極端な暗闇は煤や塵が地上に落下するまで数ヶ月続くが、その期間気温が著しく低下し、光不足で植物は光合成ができなくなった[50]。北アメリカのK-T境界に相当する地層のハスやスイレンの化石から、隕石は6月頃に落下したこと(ジューン・インパクト)、落下直後には植物が凍結したことが分かった[51]。またK-T境界直後の海洋においても植物プランクトンの光合成が一時停止したことが判明している。[52]

大気中に放出された二酸化硫黄は空中で酸化し硫酸となって酸性雨として地表に落下したり、一部は硫酸エアロゾルとなって空中にとどまった。さらに高温の隕石や飛散物質が空気中の窒素を酸化させて窒素酸化物を生成し酸性雨を更に悪化させたことも想定されている。サイズの大きな煤や塵は数ヶ月で落下するが、1000分の1mm以下の非常に小さな煤や塵はさらに長い期間空中に滞留して太陽光の地上への到達を減少させた。硫酸エアロゾルも地表に届く太陽光線を減少させる物質であり、これらの微粒子の影響による寒冷化は約10年間続いたと推定される。これらの隕石衝突による地上の暗黒化・寒冷化を「衝突の冬」と呼ぶ。[53]

寒冷化の影響がなくなった後、蒸発した石灰岩から放出された大量の二酸化炭素による温暖化が数十万年続いた可能性が指摘されている[54]

以上のように巨大隕石の衝突は衝突地点での破滅的な状況のみならず、数ヶ月以上続く地球全体における光合成の停止や低温、その後も続いた環境の激変を生起させた結果、多くの生物種が滅びる原因となった[55]

「衝突の冬」から派生した「核の冬」理論

1953年に行われたアメリカの地上核実験の写真、強烈な爆風が塵を空中に舞い上げる

アルヴァレスらの論文を読んだアメリカの天文学者カール・セーガンは、「隕石衝突の爆発によって舞い上がった塵が地表の暗黒化と寒冷化を起こすのであれば、核戦争による核爆発でも同様のことが起こるのではないか」と言う点に着目して研究を開始した。いわゆる核の冬理論である。この理論は世界的な反響を呼び、国際学術連合環境科学委員会の主導で1985年から2年間、30カ国300人の科学者を動員して検討が行われた。その検討結果では、冷戦下でアメリカやソ連が保有していた核弾頭全部(TNT換算104メガトン相当)が爆発した場合、爆発で舞い上がった塵や大規模火災で生成された煤の影響で地上に到達する太陽光の著しい減少と厳しい寒冷化が起こるとされた。

  • 地上に届く太陽光は爆発の20日後で正常時の20%以下、60日経っても正常時の60%。
  • 北半球中緯度地方の夏至の気温は平均で10-20℃低下。局所的には35℃ほど低下。
  • オゾン層は壊滅的に破壊される。
  • 農業はほぼ全滅

ここで計算の元となった全核弾頭の爆発エネルギーは、K-T境界で落下した隕石の持つエネルギー(TNT換算108メガトン以上)の約1万分の1である[56]

顕生代の内訳のグラフ

地質時代区分表は地質時代を参照。

古生代 中生代 新生代




























(P)




(T)









(K)




(T)




. P-T境界 . K-T境界 .

注釈

  1. ^ 鳥類もK-T境界で大きな影響を受けたという説も提出されている(ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」(1997) P30、元の論文は Feduccia, A., 1995, Explosive evolution in Tertiary birds and mammals: Science, v.267, p.637-638. )
  2. ^ たとえば1980年のセント・ヘレンズ山の噴火後の荒地の回復時にも、まずシダ類が繁茂した(田近英一「地球環境46億年の大変動史」(2009) P183)
  3. ^ 「哺乳類の台頭」説では、恐竜の絶滅の前に哺乳類の化石が増えなければならないが、その事実はない。「種としての寿命」説では体長1m程度の敏捷な恐竜も同時に絶滅している点を説明できない。「被子植物原因」説に対しては、被子植物がK-T境界の数千万年前から繁茂していた事と矛盾。(松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P26-28)
  4. ^ ルイス・アルヴァレズは、空気中に大量に塵が混入した場合の基礎データとして、1883年のクラカトア火山の噴火のデータを使用した。(ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」(1997) P118)
  5. ^ 斉一説に真っ向から反する仮説と捉えられたのである。(川上紳一ら「最新地球史がよくわかる本」(2006) P33-38)
  6. ^ P-T境界事件の原因とされるシベリア洪水玄武岩は推定700万平方kmに広がる(Douglas H. Erwin「大絶滅」 (2009) P202) 。詳細はP-T境界を参照
  7. ^ テクタイト、スフェルール、衝撃石英は火山の噴火でも形成される。しかしK-T境界で見つかる衝撃石英は火山噴火で作られたものと異なり、より強い衝撃を受けた痕跡が残っていた(ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」 (1997) P148-150
  8. ^ 現在につながる氷河時代の始まりは、更に寒冷化が進んだ約3400万年前とされる(田近英一「地球環境46億年の大変動史」(2009) P137)
  9. ^ 地球の公転速度が約秒速30km/秒なので、地球と反対向きに回っている天体と衝突すると両者の速度差は30km/秒以上になる。またすべての隕石について、公転速度差に加えて地球の脱出速度約11km/秒が加算されるので、地上には最低でも15km/秒の速度で落下する。(松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P158-160)
  10. ^ ユカタン半島一帯は石油産地であり、石油の燃焼による煤の生成も想定される。最近のK-T境界の煤に関する研究では煤には石油や石炭からのものが含まれており、全地球的な大火は想定しなくてよいという説も発表された(松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P116-117

脚注

  1. ^ 田近英一「地球環境46億年の大変動史」(2009) P170
  2. ^ 松井「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009)前書き V頁
  3. ^ 「恐竜博2011」(2011) P120 および P122
  4. ^ Douglas h. Erwin「大絶滅」(2009) P24 
  5. ^ リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P239
  6. ^ 池貝仙之ら 「地球生物学」 (2004) P129
  7. ^ ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」(1997) P63
  8. ^ リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P229-230 
  9. ^ 「恐竜博2011」 P120
  10. ^ 以上の水中・陸上の絶滅状況は リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P240-242 より
  11. ^ 西田治文「植物のたどってきた道」(1998) P198-199
  12. ^ リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P242
  13. ^ 西田治分「植物のたどってきた道」 (1998) P199
  14. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P29
  15. ^ Alvarez, L.W.; Alvarez,W., et al. (1980). “Extraterrestrial Cause for the Cretaceous-Tertiary Extinction”. Science 208 (4448): 1095-1108. doi:10.1126/science.208.4448.1095. 
  16. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) p34
  17. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) p37
  18. ^ 安藤雅孝・早川由紀夫・平原和朗「新版地学教育講座②地震と火山」 (1996) P142 東海大学出版会 ISBN4-486-01302-6
  19. ^ 川上紳一ら「最新地球史がよくわかる本」(2006) P33-38)
  20. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P35
  21. ^ ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」(1997) P123-125
  22. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P6
  23. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」((2002) P173
  24. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」 (2002) P37
  25. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P51
  26. ^ Hildebrand, A. R,. Penfield, G. T., Kring, D. A,. Pilkington, M., Camargo Z., A., Jacobsen, S. B., and Boynton, W. V., 1991 Chicxulub crater: a possible Cretaceous/Tertiary boundary impact crater on the Yucatan Peninsula, Mexico: Georogy. v.19, p867-871
  27. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) p51
  28. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P50
  29. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P10
  30. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009)P20)
  31. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009)P73
  32. ^ リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」(2007) P248
  33. ^ リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」(2007) P242
  34. ^ 平山廉「最新恐竜学」(1999) P87
  35. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P156-157)
  36. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P85
  37. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P163)
  38. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P86)
  39. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P94
  40. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P164)
  41. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P16
  42. ^ ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」 (1997) P21
  43. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P94
  44. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P71
  45. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002)P166
  46. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P95
  47. ^ ウォルター・アルヴァレズ「絶滅のクレーター」 (1997) P24
  48. ^ 松井孝典「新版 再現!巨大隕石衝突」(2009) P71-73 津波の第一波が引き波であることが確認された 
  49. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002)P169-170
  50. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P172-173 
  51. ^ 西田治分「植物のたどってきた道」(1998) P197-198
  52. ^ 田近英一「地球環境46億年の大変動史」 (2009) P178-181
  53. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P175-180
  54. ^ 松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」(2002) P175-180
  55. ^ リチャード・サウスウッド「生命進化の物語」 (2007) P246-247
  56. ^ この節は、松井孝典「絶滅恐竜からのメッセージ」 (2002) P55-58 より

参考図書

  • リチャード ミュラー 著、手塚治虫 訳『恐竜はネメシスを見たか』集英社、1987年。ISBN 4087730824 
  • ウォルター・アルヴァレズ(Walter Alvarez)『絶滅のクレーター - T・レックス最後の日』新評論、1997年。ISBN 4794803338 
  • 西田治分『植物のたどってきた道』NHKブックス、1998年。ISBN 978-4-14-001819-4 
  • 平山廉『最新恐竜学』平凡社新書、1999年。ISBN 4582850111 
  • ジェームズ・ローレンス・パウエル 著、寺嶋英志・瀬戸口烈司 訳『白亜紀に夜がくる-恐竜の絶滅と現代地質学』青土社、2001年。ISBN 4791759079 
  • 『絶滅恐竜からのメッセージ 地球大異変と人間圏』ワック株式会社、2002年。ISBN 978-4-89831-507-1 
  • 『地球生物学 地球と生命の進化』東京大学出版会、2004年。ISBN 978-4-13-062711-5 
  • ピーター・ダグラス・ウォード 著、瀬戸口烈司・原田憲一・大野照文 訳『生きた化石と大量絶滅-メトセラの軌跡』青土社、2005年。ISBN 4791761839 
  • 川上紳一・東条文治『最新 地球史がよくわかる本』秀和システム、2006年。ISBN 4-7980-1260-2 
  • リチャード・サウスウッド 著、垂水雄二 訳『生命進化の物語』八坂書房、2007年。ISBN 978-4-89694-887-5 
  • 松井孝典『新版 再現! 巨大隕石衝突-6500万年前の謎を解く』岩波書店、2009年。ISBN 978-4000074957 
  • Douglas H. Erwin 著、大野照文・沼波信・一田昌宏 訳『大絶滅』共立出版、2009年。ISBN 978-4-329-05685-5 
  • 田近英一『地球環境46億年の大変動史』化学同人、2009年。ISBN 978-4-7598-1324-1 
  • 真鍋誠 他『恐竜博2011』朝日新聞社、2011年。 

関連項目

Template:Link FA Template:Link FA Template:Link FA Template:Link FA Template:Link FA