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{{Genetics sidebar}}[[ファイル:Phylogenetic Tree of Life-ja.png|thumb|生物は共通祖先から進化し、多様化してきた。]]
'''進化'''(しんか、{{lang-en-short|evolution}})は、{{要出典範囲|[[生物]]の[[形質|遺伝的形質]]が世代を経る中で変化していく現象のことである。
'''進化'''(しんか、{{lang-la|evolutio}}, {{lang-en|evolution}})は、[[生物]]の[[形質]]が[[世代]]を経る中で変化していく現象のことである<ref name="ridley4">Ridley(2004) p.4</ref><ref name="futuyma2">Futuyma(2005) p.2</ref>。
生物は不変のものではなく、長大な年月の間に次第に変化して現生の複雑で多様な生物が生じたと考えられている。種類の多様化と、環境への適応による形態・機能・行動などの変化がみられる。}}この変化は、必ずしも進歩とは限らない。


{{For2|進化論の歴史や社会・宗教との関わり|進化論|生物進化を研究する科学分野|進化生物学|進化を意味する英単語の関する諸項目|エボリューション}}
==概説==
{{Wiktionary|進化}}
この場合の生物の[[単位]]は、実質的な[[繁殖]]集団([[メンデル集団]])であり、[[種 (分類学)|種]]ではない<ref>河田 雅圭 『進化論の見方』(紀伊国屋書店、1989年8月。ISBN 4-314-00524-6)</ref>ともされる。
== 定義 ==
[[File:Stages in the evolution of the eye.png|thumb|right|300px|[[眼の進化]]]]
生物[[個体群]]の性質が、世代を経るにつれて変化する現象である<ref name="futuyma2"/><ref name="ridley4"/>。また、その背景にある遺伝的変化を重視し、個体群内の[[遺伝子頻度]]の変化として定義されることもある<ref name="iwanami">『岩波生物学辞典』</ref><ref name="sober">ソーバー(2009) pp.7-8</ref>。この定義により、[[成長]]や[[変態]]のような[[個体]]の発生上の変化は進化に含まれない<ref name="ridley4"/><ref name="futuyma2"/>。


またのレベルで生じる累積的変化を進化となすかについては意見が分かれている<ref>岩波『生物学辞典』p.676</ref>ともされる。種あるそれより高次レベルの変化だけを進化と見す意見などもあると<ref>岩波『生物学辞典』p.676</ref>。また進学では団内の遺伝子頻度の変化を進化と呼ぶことある<ref>岩波『生物学辞典』p.676</ref>という。さらに文化的伝達によ累積的変化進化に含め場合もある<ref>岩波『生物学辞典』p.676</ref>という
狭義に[[種 (分類学)|種]]以上のレベルで変化のみを進化となすともあるが、一般的ではない<ref name="iwanami"/>。逆に、[[文的]]達による累積的変化や生物群集の変化をも広く進化と呼ぶことある<ref name="iwanami"/>。日常表現して単な変化」の同義語として使われることも多く、[[恒星]]や[[政治体制]]が「進化」表現されということもあるが、これは生物学でいう進化とは異なる<ref name="sober"/>。


進化過程である[[器官]]が単純化したり、縮小したりすることを[[退化]]という<ref name="iwanami"/>が、これもあくまで進化の一つである。退化は進化の対義語ではない。
[[遺伝]]現象は、生物において子が親と同じ形質を持つことを証明したが、にもかかわらず長期的視野では生物はその形質を次第に変えてゆくものと考えられている。たとえば[[ヒト]]は[[類人猿]]的動物からいくつかの中間段階を経て現在の姿になったと考えられている。このような変化を進化と言う。


== 進化の証拠 ==
進化によって生物は[[生物多様性|多様化]]し、現在に見られる複雑な生き物は初期の単純な生命体から生じたと考える。進化は、[[チャールズ・ダーウィン]]など複数の博物学者が[[動物]]や[[植物]]の[[分類学]]的な洞察から導きだした[[仮説]]から始まった。進化は[[実証]]しづらい現象である。だが、現在の[[自然科学]]ではこの説を裏付ける証拠が、[[形態学]]、[[遺伝学]]、[[比較発生学]]、[[分子生物学]]などさまざまな分野から提出されており、進化はほぼ確実に起こってきたことである、と生物学者・科学者からは認められている。
生物は不変ではなく、[[共通祖先]]から長大な年月の間に次第に変化して現生の複雑で多様な生物が生じたということが、膨大な証拠から分かっている<ref name="coyne">コイン(2010)</ref><ref name="dawkins">ドーキンス(2009)</ref>。


進化論は、[[チャールズ・ダーウィン]]ら複数の[[博物学者]]が[[動物]]や[[植物]]の[[分類学]]的な洞察から導きだした[[仮説]]から始まった。現在の[[自然科学]]ではこの説を裏付ける[[証拠]]が、[[形態学 (生物学)|形態学]]・[[遺伝学]]・[[比較発生学]]・[[分子生物学]]など様々な分野から提出されており、「進化はほぼ確実に起こってきた事実である」と生物学者・科学者からは認められている<ref name="coyne"/><ref name="dawkins"/><ref>Futuyma(2005) p.2</ref>。
進化論の歴史・進化論と[[宗教]]などについての詳細は、[[進化論]]の項目を参照のこと。


== 進化の根拠 ==
=== 古生物学 ===
進化をはっきりと示す[[化石]]証拠はダーウィンの時代には乏しかったが、現在では豊富に存在する。まず全体的なパターンとして、単純で祖先的と思われる生物は古い[[地層]]からも発見されるが、複雑で現生種に似た生物は新しい地層からしか見つからない<ref>コイン(2010) pp.66-71</ref>。
進化が実際にあった事柄であるとの判断は、[[生物学]]のさまざまな分野から得られた知見によるものである。


化石証拠の豊富な生物については、化石を年代順に並べることで、特定の[[系統学|系統]]の進化を復元することもできる。[[プランクトン]]は死骸が古いものから順に連続的に[[堆積]]していくため、このような研究が容易であり、[[有孔虫]]や[[放散虫]]、[[珪藻]]の形態が徐々に進化し、時には[[種分化]]する過程が確認できる<ref>Ridley(2004) p.64</ref><ref name="coyne72">コイン(2010) pp.72-78</ref>。プランクトン以外にも、[[三葉虫]]の尾節の数の進化を示す一連の化石などがある<ref name="coyne72"/>。
=== 比較解剖学から ===
==== 収斂 ====
[[比較解剖学]]は、主として[[動物]]において、体の内部構造を把握し、それをさまざまな種の間で比較しながら、外見だけではわからないような、その構造の意味を説き明かしてきた。


====ミッシング・リンク====
その結果、根本的に全く内部構造の異なる器官が、外見が表面上よく似たものになることがあり、しかもそれが同じ機能を果たすケースがあることを見つけた([[脊椎動物]]の目と[[イカ]]など[[軟体動物]]の目など)。{{要出典範囲|このような[[相同|相似器官]]が見つかったことで、ほとんどの場合において、一つの機能を実現するのには何通りもの解決法があることが示され、生命にとって普遍的な特性がすべて必要であるという説は信じがたくなった}}。{{要出典範囲|このことはまた、ある特定の機能を果たすためには、本来異なった部位であっても、同じ目的にあわせると、どうしても外見上の類似を生ずるのだろう、と言うこともできる}}。このように見たとき、この現象を'''[[収斂進化|収斂]]'''という。
[[ファイル:Tiktaalik roseae life restor.jpg|thumb|right|250px|魚類と両生類の特徴を併せ持つ[[ティクターリク]]の復元画]]
進化を否定する[[創造論]]者は、[[分類群]]間の中間的な特徴を示す化石が得られないことを指して「[[ミッシングリンク|ミッシング・リンク]]」と呼んでいる。しかし、分類群間の移行段階と考えられる化石は既に一部得られている<ref name="coyne78">コイン(2010) pp.78-81</ref><ref>ドーキンス(2009) Ch.6</ref>。


分類群の起源となった種そのものを見つけるのは確かに困難だが、その近縁種の化石があれば、進化過程を解明するのに充分である<ref name="coyne78"/>。たとえば[[爬虫類]]と[[鳥類]]の特徴を併せ持つ化石には有名な[[始祖鳥]]に加えて、多数の[[羽毛恐竜]]がある<ref>コイン(2010) pp.87-98</ref><ref>Chiappe(2009)</ref>。[[クジラ]]の進化過程は、時折水に入る陸生[[哺乳類]]であった[[インドヒウス]]に始まり、徐々に水中生活に適応していく一連の化石から明らかになっている<ref>コイン(2010) pp.98-105</ref><ref>Thewissen et al.(2009)</ref>。
==== 適応放散 ====
さらにまた、同じような内部構造の器官が、まったく異なる機能を実現している例([[相同|相同器官]])も明らかになった。[[脊椎動物]]の四肢は、相同器官の好例である。たとえば{{要出典範囲|脊椎動物の二つの種の前足を比較したとき、基本的に共通の構造が明確に認められ、その構造がそれらの生物種が分岐する前の共通の祖先に存在して、そこからその両者のような外見的違いが派生したことを強く示唆するのである}}とされる。具体的に見れば、われわれ[[ヒト]]の前足は手と呼ばれ、全体に長く、指は長くてよく曲がり、ものを掴める。[[イヌ]]の前足は指が短く、全体に丸まり、[[肉球]]がある。[[クジラ]]のそれは見かけ上は指がなく、どう見ても魚のヒレにしか見えない。ところが、それぞれを骨格で比較すれば、肩の骨からつながった骨の配置は、指の形や数に違いがあるとしても、全体としては共通している。それを解釈する方法として、共通の祖先がいて、そこから生活の違いに応じて[[適応]]し、その使い方の違いによって変化していったのだと見る訳である。なお、このように共通祖先がさまざまな環境への対応として、多様な姿に変化した現象を'''[[適応放散]]'''と呼ぶ。


現在の[[魚類]]と[[両生類]]をつなぐ移行化石としては[[エウステノプテロン]]、[[パンデリクチス]]、[[アカンソステガ]]、[[イクチオステガ]]などが知られていたが、さらにパンデリクチスよりも両生類に近く、アカンソステガよりも魚類に近い[[ティクターリク]]が[[2006年]]に発表された<ref>ドーキンス(2009) pp.230-261</ref><ref>シュービン(2008) Ch.2</ref>。[[無脊椎動物]]では、祖先的な[[ハチ]]の特徴と、より新しく進化した[[アリ]]の特徴を併せ持つ[[アケボノアリ]]などの例がある<ref>コイン(2010) pp.106-107</ref>。
=== 発生から ===
生物は単独の生殖細胞から発生の過程を通じて成体の体になる。特に動物の体は複雑で、その発生の過程もそれなりに複雑である。それに関する研究からも進化の証拠とされる事例が多い。


移行化石は次々と発見されており、たとえば[[2009年]]には、[[鰭脚類]]([[アシカ]]や[[アザラシ]])と陸上[[食肉類]]との中間的な特徴を示す化石<ref>Rybczynski et al.(2009)</ref>や、[[真猿類]]の祖先に近縁だと考えられる[[ダーウィニウス]]の化石<ref>Franzen et al.(2009)</ref>が報告されている<ref>ドーキンス(2009) p.266, pp.275-276</ref>。[[人類]]が他の[[類人猿]]に似た祖先から進化してくる過程を示す化石も見つかっている<ref>コイン(2010) Ch.8</ref><ref>ドーキンス(2009) Ch.7</ref>。
たとえば発生の過程では、より高次の分類群の形質がまず現れ、次第に低次の群の特徴が形成される。たとえばヒトの発生ではまず脊索が形成され、四肢が形成され、その後にほ乳類に共通する形質が出現する。尾がなくなるのはその後である。その結果として、脊椎動物の各群の発生を見ると、遡れば次第に似た形質の胚が見られ、縁が遠くなるほど、より遡らなければ似た形が見られない。


逆に、[[創造論]]を証明するにはミッシングリンクの存在を指摘するだけでは不十分で、カンブリア紀の地層からウサギの化石がわんさと発掘される必要があるだろう、とするのが[[リチャード・ドーキンス]]の考えである。
また、発生の早い段階に、それ以降には決してみられない構造が出現する例がある。ヒトでもごく早い時期に[[鰓裂]]が出来て、その後すぐなくなる。また、成体の[[腎臓]]が形成される前に、より体の前方に前腎が形成される。前腎は無顎類では生涯機能するが、それ以外の類では成体では消滅する。


=== 生物地理学から ===
このようなことを総合すると、下等な群から高等な群が生まれてきた歴史があり、発生の過程はこれをたどるように行われる、という推察が成立する。これは[[ヘッケル]]の[[反復説]]が有名であるが、それに先行する[[比較発生学]]の歴史の中では、メッケルや[[フォン・ベーア]]など複数の学者がほぼこれに近い内容について言及している。
生物の分布がいかにして成立してきたかを探る分野である[[生物地理学]]は、進化を支持する強力な証拠をもたらす。進化生物学者の{{仮リンク|ジェリー・コイン|label=コイン|en|Jerry Coyne}}によれば、創造論者は生物地理学上の証拠に反論することができないため、無視を決め込んでいるという<ref>コイン(2010) p.164</ref>。


[[火山活動]]などによる[[海底]]の隆起によってできた、[[大陸]]と繋がったことのない[[島]]を海洋島と呼ぶ。[[ガラパゴス諸島]]や[[ハワイ諸島]]、[[小笠原諸島]]といった海洋島の在来生物相には[[海]]を渡れない両生類、[[コウモリ]]を除く哺乳類、純[[淡水魚]]がほとんど、あるいは全く含まれないのが普通である。それに対して大陸と繋がった歴史のある島には、哺乳類や両生類が普通に分布している。しかも島に棲む生物は、ほとんどの場合最も近い大陸の生物と近縁である。このようなパターンでは、生物が[[地球]]の歴史の中でその分布を広げながら進化してきたと考えない限り理解できない<ref>コイン(2010) pp.181-197</ref><ref>Futuyma(2005) p.119</ref>。


地域が違うと、似たような生息環境であっても異なる生物が分布することがあり、これも進化の証拠となる。同じ[[砂漠]]でも[[新世界]]には[[サボテン科]]、[[旧世界]]には[[キョウチクトウ科]]や[[トウダイグサ科]]の乾燥に適応した植物が生息している<ref>コイン(2010) pp.168-169</ref><ref>Futuyma(2005) p.118</ref>。
=== 分布と分類から ===
地球上の様々な地域では、ほぼ同じものが見られる場合もあるが、それぞれに異なった生物が見られる。これは[[生物地理学]]の分野である。その立場からは、そのような地域ごとの差がどのように生じたのか、という問いかけを生むことになる。興味深いのは、それぞれが全く異なっていることはまれで、大抵は類似しているが異なる、という形が見られることである。また、これを生物個々から見れば、分布の狭いものや広いものがあることがわかる。それらは[[分類学]]の材料を提供するものであるが、たとえば[[クマ]]の仲間はアフリカを除く世界中に分布し、それぞれに様々な種に分かれるが、概して高緯度のものほど体が大きい([[ベルクマンの法則]])。そのような知見は、生物が分布を拡大しながら、その姿を変えた可能性を示唆する。先に述べた適応放散や収斂もこの分野でより生き生きと観察できる。


ダーウィンの時代には知られていなかったが、地球の歴史上、大陸は長い時間をかけて移動し、離合集散を繰り返してきた([[大陸移動説]])。生物の分布のなかには、かつて繋がっていた大陸に共通祖先がいて、大陸の分裂に伴って系統が分岐したと考えることでうまく説明できるものも多くある。たとえば[[シクリッド科]]の淡水魚や[[走鳥類]]の分布は、かつての[[ゴンドワナ大陸]]が複数の大陸に分裂した過程で分岐してきたことで成立したと考えられる<ref>Futuyma(2005) pp.126-128</ref>。
さらに、孤島の生物には独特のものが見られる場合があるが、それが全くよそとかけ離れたものであるわけではなく、近い大陸にいるものから大きく変化したものと考えた方が無難である。さらに近隣の島がある場合、島ごとに少しずつ違いが見られる場合がある。[[アルフレッド・ラッセル・ウォレス|ウォーレス]]は[[スンダ列島]]の生物に、[[チャールズ・ダーウィン|ダーウィン]]は[[ガラパゴス諸島]]の生物に重大な示唆を受けたようだと言われる。
* 島と大陸にみられる近縁種を説明するとき、ウォーレスが[[陸橋 (生物地理)|陸橋]]などによる大陸との接続を強調していたのに対して、ダーウィンは偶発的な移住を強調し、大陸接続説を嫌っていた。ダーウィンが他界する一年前(1880年)に出版された『島の生物』でも、接続説と移住説について激しく論争している<ref>アルフレッド・R. ウォーレス (著), Alfred Russel Wallace (原著), 新妻 昭夫 (翻訳) 『マレー諸島—オランウータンと極楽鳥の土地〈下〉』 (ちくま学芸文庫、1993年8月。ISBN 4-480-08092-9)</ref>。
* 結局、ウォーレスのフィールドであるスンダ列島は氷河期に[[ユーラシア大陸]]や[[サフル大陸]]([[オーストラリア大陸]]+[[ニューギニア島]])と接続した歴史を持つ[[島嶼生物学|大陸島]]であり、ダーウィンのフィールドであるガラパゴス諸島は大陸と接続したことのない[[島嶼生物学|海洋島]]だったので、それぞれ自分のフィールドにおいては自説が正しかったことになる。


[[輪状種]]の存在も、生物がわずかな変化を累積して連続的に進化してきたことの傍証となる。輪状種とは、ある場所では互いに交配せず、別種として区別できる生物が、実は多数の中間型によって連続している場合を指す<ref>パターソン(2001) pp.8-11</ref>。[[ヨーロッパ]]北西部では[[セグロカモメ]]と[[ニシセグロカモメ]]が互いに交配せず別種であると識別できるが、そこから東に向かい、北極の周りを一周してヨーロッパに戻ると、ニシセグロカモメが次第に変化してセグロカモメにいたる一連の[[亜種]]が観察でき、明瞭な種の区別はない。
=== 古生物学に関わる事柄 ===
進化の直接的な証拠に最も近いのは、[[化石]]記録によるものであろうともされる。西洋では、化石は当初は古生物の遺物とは考えられず、岩石中に[[自然]]の、あるいは[[超自然]]の働きで生じるものと見なされた。生物と見なされた後、その研究には、[[比較解剖学]]もかなりの役割を演じている。調べるにつれ、現在生息していない生物であることがわかると、その解釈が問題になった。
地学研究の立場からは、化石は距離の離れた地域間での年代比較の唯一の手がかりとなった。時代によって違う化石が出るという知識から、同じ化石が出れば、同じ時代に属するという判断ができる([[地層同定の法則]])。いわゆる[[示準化石]]であるが、当時は地質年代を知る唯一の手がかりであった。信頼できる年代判定は、[[放射性同位体]]が利用できるまでは不可能であった。


=== 比較解剖学から ===
それはともかく、時代によって出る化石が異なることを説明するには、神 (あるいは、人間よりも先に高度に進化した生物) が何度も介在したとは仮定せずに、生物が時間経過のなかで変化した、つまり進化があった、と考える方が合理的であるとされる。具体的に、進化の実在を示すと見られる化石の例をあげる。
==== 相似と相同 ====
進化の証拠は化石だけではなく、現生生物の形態を比較することからも得られている。たとえば[[四肢動物|陸上脊椎動物]]は外見上非常に多様であり、コウモリや鳥のように飛翔するものまで含まれる。それにもかかわらず、すべて基本的には同一の[[骨格]]を持ち、配置を比較することで[[相同]](進化的な由来を同じくする)な[[骨]]を特定することができる。このことは、陸上脊椎動物が単一の共通祖先を持ち、祖先の形態を変化させながら多様化してきたことを示している<ref name="endo">遠藤(2006)</ref><ref>ドーキンス(2009) pp.409-422</ref>。それぞれの種が独立に誕生したとしたら、鳥の[[翼]]と哺乳類の前脚のように全く機能の異なるものを、基本的に同一の骨格の変形のみで作る必然性はない。


機能が異なっていても由来と基本的構造を同じくする相同とは逆に、由来や構造の異なる器官が同一の機能を果たし、類似した形態を持つことを[[相似 (生物学)|相似]]という。たとえばコウモリと鳥、[[翼竜]]はどれも前肢が翼となっているが、翼を支持する骨は大きく異なっている<ref>遠藤(2006) pp.109-117</ref>。鳥は[[羽毛]]によって翼の面積を大きくしており、[[掌]]や[[指]]の骨の多くは癒合して数を減らしているのに対し、コウモリは掌と指の骨を非常に長く発達させて、その間に[[膜]]を張ることで翼を構成している。その一方で、翼竜の翼は極端に長く伸びた[[薬指]]1本で支持されている。これは、翼を持たなかった共通祖先から、翼を持つ系統がそれぞれ別個に進化してきた([[収斂進化]])と考えれば合理的に理解できる。
* 進化の過程を、時間による変化を追ってたどれるように見えるものがある。たとえば[[ウマ]]の化石は、現在の大型で指が1本だけしかないものから、犬より小さく、4本指の先祖まで、その間を埋める化石がいろいろと出ている。
* 現在ははっきりと区別できる分類群の、[[中間型]]と思われる化石もある。有名な[[始祖鳥]]は、羽根の跡が残っていなければ、小型恐竜としか思えない骨格でありながら、全身が羽根で覆われ、鳥の特徴を示している(異論はあるが)。


==== 痕跡 ====
[[化石]]は、さまざまな系統が、いつ発達したかを推定するのに重要である。初期の化石による証拠は、生物が硬化した体の部分、たとえば殻・[[骨]]・[[歯]]などを発達させるより前の時代にはまれであるが、古い時代の[[微化石]]や、古い化石化した生痕、それに若干の軟体性の生物化石が存在する。化石化という現象がむしろまれな出来事であり、掘り当てられるためには通常は化石になる生物に硬化した部分があって、しかもその死体が堆積している最中の砂泥のそばになければならない。したがって、化石からは、生物の進化に関するごくわずかな、偏った情報しか得られない。
[[File:Phalarocorax harrisiDI09P10CA.jpg|thumb|[[ガラパゴスコバネウ]]は飛べないが、痕跡的な翼を持つ。]]
進化がもともとの形態を改変して進んできたのだとしたら、生物には祖先の形態の名残が見られるはずである。実際に[[痕跡器官|痕跡]]の例は枚挙に暇がなく、[[飛べない鳥]]の持つ痕跡的な翼、[[洞窟]]に住む{{仮リンク|ホラアナサンショウウオ|en|Western grotto salamander}}の痕跡的な[[眼]]、[[ヒト]]の[[虫垂]]などが挙げられる<ref name="coyne112">コイン(2010) pp.112-128</ref><ref>ドーキンス(2009) pp.481-483, pp.490-493</ref>。このような現象は、退化と言われ、進化の一側面をなすと考えられる。これらの器官は必ずしも何の機能も持たないわけではないが、本来の機能を果たしていた祖先からの進化を考えない限り、その存在を説明することはできない<ref name="coyne112"/>。


同様の証拠は[[解剖学]]のみならず、[[遺伝子]]の研究からも得られている。分子生物学の研究により、生物の[[ゲノム]]には多数の[[偽遺伝子]]が含まれることが明らかになった。偽遺伝子とは、機能を持つ遺伝子と配列が似ているにもかかわらず、その機能を失っている[[塩基配列]]のことである<ref name="iwanami"/>。偽遺伝子は、かつて機能していた遺伝子が、環境の変化などによって不要になり、機能を失わせる[[突然変異]]が[[自然選択]]によって排除されなくなったことで生じると考えられている。一例として、[[嗅覚受容体]]の遺伝子が挙げられる。多くの哺乳類は[[嗅覚]]に強く依存した生活をしているため、多数の嗅覚[[受容体]]遺伝子を持つ。しかし[[視覚]]への依存が強く嗅覚の重要性が低い[[霊長類]]や、水中生活によって嗅覚が必要なくなった[[イルカ]]類では、嗅覚受容体遺伝子の多くが偽遺伝子として存在している。これは、霊長類やイルカ類が、より嗅覚に依存する生活をしていた祖先から進化したことを強く示唆している<ref>コイン(2010) pp.133-136</ref>。
* 共通祖先C(化石あるいは仮想されたもの)から分岐した生物Aや生物Bの持つ様々な形質のうちで、共通祖先Cが持っていた形質を原始的(祖先)形質、C→A,あるいはC→Bの進化の過程で獲得した形質を進化的(派生的)形質ということがある<ref>八杉 竜一ら  『岩波生物学辞典 』(岩波書店、1996年3月。ISBN 978-4000800877)</ref>。例えば、オナガルザル科の大臼歯が植物を剪断することに特化した二稜歯であることを進化的(派生的)形質、ヒト上科のY5型大臼歯は原始的(祖先)形質と表現する。これはエジプトのファイユーム盆地で発見された原始狭鼻猿類(狭鼻猿類の共通祖先だと考えられている)の化石の大臼歯の特徴がヒト上科の方に似ていることを根拠としている<ref>國松 豊. ヒト科の出現—中新世におけるヒト上科の展開—. 地学雑誌 111(6): 798-815.</ref>。


==== 不合理な形態 ====
* 原始的(祖先)形質を多く保持する生物を「原始的」、進化的(派生的)形質を多く保持する生物を「進化的」と表現する場合があり、さらに、前者を「下等」、後者を「高等」とする場合がある。例えば、[[陸上植物]]を「高等植物」と表現する。しかし、これは陸上植物が藻類に対して派生的形質の多いことを表しているのであって進化の序列を示しているわけではなく、現存する生物がすべて進化の最新の段階にあることには変わりはない。
進化は既存の形態を徐々に変化させて進んでいくこともあり、一から設計しなおすようなことは起こらない<ref>遠藤(2006) pp.47-48</ref>。その結果として機能的に不合理な形態に進化してしまうことがある。極端な例は[[反回神経]]である。これは[[喉頭]]と[[脳]]をつなぐ[[神経]]であり、[[サメ]]ではその間を最短に近い経路で結んでいる。しかし、脊椎動物の進化過程で[[胸]]や[[顎]]の構造が変化するなかで、哺乳類では、この神経は喉頭から[[心臓]]の辺りまで下り、その後また上昇して脳にいたるという明らかな遠回りをするようになった。その結果、直線で結べば数[[センチメートル]]でよいはずの神経が、ヒトでは10センチメートル程度、[[キリン]]では数[[メートル]]に及ぶ長さになっている<ref>ドーキンス(2009) pp.501-507</ref>。同様に哺乳類の[[輸精管]]は、[[精巣]]と[[ペニス]]を最短距離で結ぶためはなく、[[尿管]]の上まで迂回するように伸びている。これは、哺乳類の進化過程で体内にあった精巣が下に下りてきたときに生じた不合理であると考えられる<ref>ウィリアムズ(1998) pp.232-236</ref><ref>ドーキンス(2009) pp.507-508</ref>。同様の不合理な形態は、人体にも数多く見られる<ref>遠藤(2006) Ch.4</ref><ref>ドーキンス(2009) p.508</ref>。


=== 系統分類学から ===
:また、ある生物が原始的か進化的かは注目する形質による相対的なものである。例えば、現生[[硬骨魚綱|硬骨魚類]]の[[魚類#鰾(ひょう)|鰾]]と四足動物の[[肺]]は、どちらも[[デボン紀]]の[[条鰭綱|条鰭類]]である[[ケイロレピス|パレオニスクス類]]などの原始的な肺から進化したと考えられている<ref>坂本 一男 『29 鰾——硬骨魚類の進化の舞台と鰾』 動く大地とその生物(大場秀章・西野嘉章 編  東京大学総合研究資料館)</ref>。この場合、鰾と肺のどちらが原始的かをいうことはできない。鰾は浮力調節に、肺は空気呼吸に、各々特化しており、どちらも祖先生物の形質を保持していないからである。
生物分類学の祖とされる[[カール・フォン・リンネ|リンネ]]はダーウィンより前の時代に生きた創造論者だったが、入れ子状の階層的な分類体系を構築した。生物が共通祖先から分岐を繰り返して多様化してきたものだと考えれば、入れ子の各階層は一つの分岐点を反映するものとして解釈できる。そのため、形態に加えて[[DNA]]の塩基配列を含むさまざまな特徴が、例外はあるもののかなり一致した入れ子状の分類体系を支持するという事実は、共通祖先からの進化によって説明できる<ref>コイン(2010) pp.38-41</ref><ref>Ridley(2004) pp.61-63</ref>。


近年ではDNAの比較に基づく[[系統樹|系統推定]]が盛んに行われている。このとき、複数の遺伝子をそれぞれ解析すると、細部は異なるにせよおおまかに一致した系統樹を支持することが多い。もし生物がそれぞれ別個に起源していたとしたら、異なる遺伝子が同じ傾向を示すと考える理由はないだろう<ref>ドーキンス(2009) pp.455-457</ref>。
* 化石生物の形質を多く保持している現生生物のことを[[生きている化石]]と呼ぶ場合がある。生きている化石は化石からはわからない情報のよりどころとして重視される。例えば、現生の[[シーラカンス]]''Latimeria chalumnae''は化石種の再現に重要な情報を与えてくれる。しかし、「生きている化石は進化が止まった生物である」という認識は誤りである。化石種のシーラカンスは120種にも多様化しているし、現生種と化石種の形態的な違いも進化の結果である<ref>坂本 一男 『28 シーラカンスの化石』 動く大地とその生物(大場秀章・西野嘉章 編  東京大学総合研究資料館)</ref>。


=== 発生生物学から ===
科学者の中には、[[地球]]が約46億歳だと推測している人も多い。地表が冷えた後比較的早い段階に、[[単細胞生物]]は現れたとも考えられている。10億年の内に、細胞呼吸の発展に必要な条件を提供して、[[酸素]]の[[光合成]]が発生し、地球の大気を急進的に変えた。次の20億年の間に基礎的な細胞のプロセスが全て発展した。その時に恐らく最初の[[ウイルス]]が姿を現したとする人もいる。今から10億年前に単純な多細胞の[[植物]]・[[動物]]が海に現れたともされる。最初の動物の出現のすぐ後の、[[カンブリア紀の爆発]]と呼ばれる期間は、現代の全動物の体制(門)のほとんどが見つかっている。約5億年前に、植物と菌類は地上に進出し、すぐに節足動物や他の動物が続いて、地上の生態系の発展につながった。
[[多細胞生物]]は一[[細胞]]の[[卵]]から[[胚発生]]の過程を経て体を形成していく。この過程にも、進化の証拠が多く見られる。


有名なのは、[[ドイツ帝国|ドイツ]]の[[生物学]]者[[エルンスト・ヘッケル]]の唱えた[[反復説]]である。ヘッケルは、「個体発生は系統発生を繰り返す」と言われるように、生物は胚発生の過程でその祖先の形態を繰り返すと主張した。現在では、この説は必ずしも成り立たないものとされているが、それでも発生過程に進化の痕跡を見て取れるのは確かである<ref name="coyne139">コイン(2010) pp.139-151</ref><ref>倉谷(2005)</ref>。たとえば脊椎動物の[[胚]]はすべて魚のような形態をしており、哺乳類のように成体では[[鰓]]を持たないものの胚も[[鰓弓]]を持つ<ref name="coyne139"/>。
=== 生命の起源にかかわって ===
すべての生物が共通の祖先を持つとする説の一つの証拠として、誰も生物の[[自然発生説|自然発生]]という現象を確認できなかったことにある。{{要出典範囲|これは、生命の起源は非生命から生じるとしてもそれは非常に稀な現象であるか、あるいは現在の地球の環境とはかけ離れた何らかの条件のそろった環境がその発生には必要であることを示している}}とも考えられている。


=== 観察された進化 ===
[[ファイル:Phylogenetic Tree of Life-ja.png|thumb|450px|3ドメイン説に基いた系統樹の1例。この図では扇の中心部分が共通祖先にあたり、ここから様々な生物が派生して現生生物(扇の弧部分)に進化したことを示している]]
[[File:Geospiza fortis1.jpg|thumb|ガラパゴスフィンチの進化は長期の野外調査により観察されている。]]
多くの生物学者は、現在の地球上の[[生命]]はある一つの生命から[[分岐]]したものであると考えている。その根拠には多くのものがあるが、その一つは、現在の生物は共通の[[遺伝コード]]を用いているというものである。大部分の科学者は、現存する全ての生物が共通の祖先を共有すること、その祖先が最も基本的な細胞のプロセスをすでに発達させていたということを意味する、と解釈するが、生物の3つの[[ドメイン (分類学)|ドメイン]]([[古細菌]]、[[真正細菌]]、[[真核生物]])の関係、[[ウイルス]]の起点、[[生命の起源]]に関しては科学的な合意がない。
{{See also|家畜化|人為選択}}


以上の証拠は過去の進化過程を明らかにするものだが、現在進んでいる進化が観察されたこともある<ref>Ridley(2004) pp.45-47</ref>。古典的な例は[[オオシモフリエダシャクの進化|オオシモフリエダシャク]]の[[工業暗化]]である。この[[ガ]]には白色型と黒色型がいるが、[[工業]]の発展に伴う[[煤煙]]で[[樹木]]表面が黒く汚れた結果、[[捕食者]]である鳥から姿を隠しやすい黒色型のガが急激に頻度を増した<ref>Majerus(2009)</ref>。次いで有名なのは[[ガラパゴスフィンチ]]の事例で、[[グラント夫妻]]らの30年以上にわたる長期の調査により、環境変動に伴う自然淘汰が[[嘴]]の進化を引き起こしたことが確認されている<ref>ワイナー(1995)</ref><ref>Grant & Grant(2002)</ref>。[[病原菌]]や[[害虫]]に[[抗生物質]]や[[殺虫剤]]で対処しようとすると、急速に薬剤抵抗性が進化することもよく知られている<ref>ワイナー(1995) Ch.18</ref>。
複数の起源を持つとする説もあるが、遺伝コードを中心とする共通点の重要さや、共通点の多さから見て、[[共通祖先|共通の祖先]]から派生したとされる説が強く支持されている。この[[共通祖先]]という概念は生物進化を逆行することによって生まれた『全生物の祖先型生命』である。一方、生命の起源から共通祖先までの[[原始生命体]]の進化は[[生命の起源|化学進化説]]の範疇である。この最も初期の生物の歴史をはっきりさせようとする試みは、一般に高分子(特にRNA)や複合的システムの振る舞いに注目しておこなわれる。


==== 実験進化 ====
[[生物]]の初期発生に関する情報には、[[地質学]]および惑星学の分野からの情報が含まれる。これらの科学からは、地球の歴史や、生物によってもたらされた変化に関する情報が得られる。初期の地球に関する直接的な情報のほとんどは、長い時間の間の[[地学]]的現象によって破壊されてしまっている。
[[ロシア]]の神経細胞学者である{{仮リンク|リュドミラ・トルート|label=リュドミラ・ニコラエブナ・トルット|en|Lyudmila Trut}}と[[ロシア科学アカデミー]]の[[遺伝学者]]、[[ドミトリ・ベリャーエフ]]は共同研究で[[キツネ]]の[[人為選択]]による馴致化実験を行った<ref>{{Cite web|和書|url=http://siberiandream.net/topic/pet.html|title=動物好きな研究者の夢 -- 40年の研究からペットギツネが誕生|accessdate={{?}}}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://jp.rbth.com/articles/2012/03/07/14178.html|title=実験飼育場で遊ぶキツネ|accessdate={{?}}}}</ref>。100頭あまりのキツネを掛け合わせ、もっとも人間になつく個体を選択して配合を繰り返すことで、わずか40世代でイヌのようにしっぽを振り、人間になつく個体を生み出すことに成功した。同時に、耳が丸くなるなど飼い犬のような形質を発現することも観察された<ref>{{Cite web|和書|url=http://www4.nhk.or.jp/dramatic/x/2014-12-14/31/28686/|title=地球ドラマチック「不自然な“進化”~今 動物に何が!?~」|accessdate={{?}}}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://nationalgeographic.jp/nng/magazine/1103/feature01/|title=特集:野生動物 ペットへの道|accessdate={{?}}}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://www.tokyoprogress.co.jp/report2.html|title=ロシア科学アカデミーシベリア支部 細胞学・遺伝学研究所の「キツネの家畜化研究」|accessdate={{?}}}}</ref>。これはなつきやすさという性質が、(自然、あるいは人為的に)選択されうることを示している。
また、新陳代謝のプロセスは化石には残らないので、基礎的な細胞内でのプロセスについての進化の研究は、大部分が現存する生物の比較によってなされてきた。いくつもの系統が、それぞれ異なる進化の段階で分岐したので、ある代謝過程がいつ現れたかを、共通の祖先からの子孫を比較することによって決定することが可能であると考えられている。しかし、上述の[[コドン|遺伝コード]]に加え細胞構造など一部の特性は、現存する全ての生物に共通しているため、進化の最初期に起きたと思われるこれらの発展を比較生物学によって完全にはっきりさせることはできない。


人為的に進化を引き起こす研究も行われている。エンドラーは[[グッピー]]を異なる環境に移動させることによって、[[雄]]の体色が捕食者と[[雌]]による[[性淘汰#配偶者選択|配偶者選択]]に応じて進化することを明らかにした<ref>ワイナー(1995) pp.119-126</ref><ref>ドーキンス(2009) pp.216-224</ref>。レンスキーらは[[大腸菌]]の長期培養実験によって、代謝能力の進化を観察している<ref>ドーキンス(2009) pp.194-216</ref><ref name="lenski">Blount et al.(2008)</ref>。また[[人為淘汰]]による進化は、[[農業]]における[[品種改良]]に応用されている<ref>Ridley(2004) p.47</ref>。植物では、[[倍数性|倍数化]]による種分化(後述)を実験的に再現することにも成功している<ref>Ridley(2004) pp.53-54</ref>。
== 進化の実体 ==
{{要出典範囲|進化の実体とは、[[繁殖]]集団([[メンデル集団]])内の遺伝子頻度の変化である}}とされるようになった。その原因は[[突然変異]]([[突然変異説]])と自然選択([[自然選択説]])や[[遺伝的浮動]]([[中立進化説]])であると考えられている。{{要出典範囲|その結果、形態に関係する遺伝子頻度が変化すれば、集団中の個体の形態が変化し、'''形態的種'''の形成として観測される}}のだとされる。同様に、[[生殖的隔離]]に関係する遺伝子が変化すれば、'''生物学的種'''の形成([[種分化]])として観測される。


== 進化のしくみ ==
{{要出典範囲|生態学的種や行動種の形成は、集団中の遺伝子頻度の変化の結果である}}とされるようになった。({{要出典範囲|ただし、[[文化]]の継承が行われないと仮定する}})。つまり、これらの種の形成は、進化に付随して起こる多様化現象の一つの側面である。かつては種を進化の単位とみなし、{{要出典範囲|[[種分化]]を進化の本質}}とみなす考えもあったが、現在では主流ではない。
現在、進化を説明する理論として最も支持されているのは[[ネオダーウィニズム|進化の総合説]]と呼ばれるものであり、[[チャールズ・ダーウィン|ダーウィン]]と[[アルフレッド・ラッセル・ウォレス|ウォーレス]]の[[自然選択説]]と、[[グレゴール・ヨハン・メンデル|メンデル]]の遺伝子の理論、[[集団遺伝学]]の理論や[[木村資生]]の[[中立進化説]]を統合したものである。この総合説によれば、突然変異によって生じた遺伝子の[[変異]]はランダムでない[[自然選択説|自然選択]]と、確率的に起こる[[遺伝的浮動]]によって個体群中に固定し、新しい形質の出現や種分化などの進化現象を引き起こすと考えられる。


=== 遺伝的変異 ===
突然変異と自然選択のどちらがより進化を支配しているのかやそれらの[[::en:Weight function|重み]]について、明らかではない。例えば、[[主竜類]]と[[鳥類]]は分子生物学的な共通点以外に中間の形質のある化石資料が見つかる。一方で[[カメ目]]における甲羅の獲得や[[側頭窓]]の消失、脊椎動物の始祖とみなされる[[ナメクジウオ]]以前の進化における脳や脊椎・視力の獲得過程、[[ヤツメウナギ]]には無い顎を魚類がどのように獲得したか、などは脊椎動物の進化を理解する上で非常に重要である。分子生物学的な研究により、これらの特徴の発生を促す遺伝子が特定されつつある一方で、これらの重要な形質は進化系統上突然現れており、中間的性質を持つ生物が現生種の中にも化石資料の中にも認められていない。<ref>{{Cite journal
ある形質について変異が全くなければ、その形質は進化しない。変異があっても、その変異が次世代に伝わる傾向がなければ(すなわち、[[遺伝]]しなければ)進化は起こらない。
|last=Nagashima
|first=Hiroshi
|coauthors=Shigehiro Kuraku, Katsuhisa Uchida, Yoshie Kawashima Ohya, Yuichi Narita and Shigeru Kuratani
|year=2007
|month=May
|title=On the carapacial ridge in turtle embryos: its developmental origin, function and the chelonian body plan
|journal=Development
|issue=134
|pages=2219-2226
|doi=10.1242
|url=http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/134/12/2219
}}</ref>
<ref>
「カメはどのようにして甲羅を獲得したのか」 『理研CDB-科学ニュース』 2008年9月26日 (金) 19:43 UTC、URL: http://www.cdb.riken.go.jp/jp/04_news/articles/pdf/070611_carapace_approved.pdf
</ref><ref>
Sister Group Relationship of Turtles to the Bird-Crocodilian Clade Revealed by Nuclear DNA–Coded Proteins
,Naoyuki Iwabe et al, Molecular Biology and Evolution vol. 22 no. 4 © Society for Molecular Biology and Evolution 2004; all rights reserved.
<!--introductionを参照してください-->
</ref>
<ref>The amphioxus genome and the evolution of the chordate karyotype
Nicholas H. Putnam et al, Nature 453, 1064-1071 (19 June 2008) | doi:10.1038/nature06967; Received 8 March 2008; Accepted 4 April 2008
<!--introductionを参照してください-->
</ref>
<ref>
Evolutionary biology: Lamprey Hox genes and the evolution of jaws
Yoko Takio et al, Nature 429, (20 May 2004) | doi:10.1038/nature02616
<!--introductionを参照してください-->
</ref>
<ref>
『脊椎動物の脳の進化プロセス ヤツメウナギ分子発生学からのヒント』, 村上安則、倉谷滋, 「蛋白質 核酸 酵素」 2005 50(7):876-885
<!--直接の言及はないが、よいレビューになっている-->
</ref>
<ref>
『発顎の進化とボディプラン ー誘導的相互作用と形態学の示唆するものー』,重谷安代、倉谷滋, 「細胞工学」 2001 20(8):1128-1136
<!--直接の言及はないが、よいレビューになっている-->
</ref>


[[ファイル:ADN static.png|thumb|right|DNAの配列に突然変異が生じることで、新たな形質が出現する]]
{{main|カメ目#進化|無顎類}}
遺伝において親から子に受け渡されるのは遺伝子であり、その実体は[[デオキシリボ核酸|DNA]]の塩基配列情報である。DNAは[[細胞分裂]]に際して複製されるが、その過程でエラー、すなわち突然変異が起こることがある。これによって生じる個体差が遺伝的変異である。さらには、突然変異によって生じた遺伝子が[[有性生殖]]や[[接合 (生物)|接合]]によって[[遺伝的組換え|組み換え]]られることによっても、新しい遺伝的変異が生じる<ref>Ridley(2004) pp.87-88</ref>。


DNA配列上には現れないが[[遺伝子発現]]の変化による遺伝形質の変化についても、研究が進められている。塩基配列の変化を伴わない遺伝子の制御は[[エピジェネティクス]]と呼ばれ、[[DNAメチル化|DNAのメチル化]]による遺伝子発現抑制や[[ヒストン]]の化学修飾による遺伝子発現変化などがある<ref>佐々木(2005)</ref>。しかしこの様な化学修飾は[[細胞分化]]に大きな役割を持ち、化学修飾が多世代を超えて長期間維持されることはないため、進化の原動力になるか疑問である。ただゲノムには狭義の遺伝子([[コーディング領域]])のみでなく遺伝子の制御領域([[プロモーター]]や[[シスエレメント]])があり、遺伝子の制御領域の突然変異が進化の原動力になる事がある<ref>Jiménez-Delgado S et al (2009)</ref>。
<!-- コメントアウトします。意味がとりにくいのと、把握が怪しいので。たとえばナメクジウオ派脊椎動物ではないし、目もありません。どこか出典に基づいていただけるとありがたそう。-->
<!--コメントアウト解除します。意味が分かりやすいように修正してください。ナメクジウオは脊椎動物ではないですが、脊椎動物はナメクジウオと共通祖先から分岐したと考えられています。ナメクジウオは目がありませんが、受光器官があります。これを視力とみなしたのですが、適切な用語があれば修正をおねがいします-->


一般的に、突然変異は「ランダム」に起こると言われる。これは、環境に応じて適応的な変異がより生じやすくなるというようなことはない{{Refnest|group="注釈"|寒いからといって、[[毛皮]]を厚くする突然変異が暑い場所よりも生じやすくなることはないなど。}}という意味であり、あらゆる意味でランダムというわけではないということに注意する必要がある<ref>ドーキンス(2004a) pp.482-485, 493-494</ref><ref>Ridley(2004) p.88-89</ref><ref>Futuyma(2005) pp.178-179</ref>。[[ジャン=バティスト・ラマルク|ラマルク]]は、より多く使われた器官が発達し、その発達が次世代に遺伝することで適応的な遺伝的変異が生じるとした([[用不用説]])が、この説は誤りであることがわかっている<ref>ドーキンス(2004a) pp.452-453</ref>。突然変異はこのような説を否定する意味においてのみ「ランダム」である。実際には突然変異はあらゆる意味で「ランダム」とは言えず、たとえば[[放射線]]や[[発癌性]]物質によって誘発される。
== 進化のしくみ ==
現在、進化を説明する理論として最も支持されているのは[[ネオダーウィニズム|進化の総合説]]と呼ばれるもので、[[チャールズ・ダーウィン|ダーウィン]]と[[アルフレッド・ラッセル・ウォレス|ウォーレス]]の[[自然選択説]]と、[[グレゴール・ヨハン・メンデル|メンデル]]の[[遺伝子]]の理論、[[ユーゴー・ド・フリース|ド・フリース]]の[[突然変異説]]、[[集団遺伝学]]の理論や[[木村資生]]の[[中立進化説]]、エルンスト・マイアらの[[生態学]]を統合したものである。この総合説によれば、[[突然変異]]によって生じた遺伝子の変異は方向性のある[[自然選択説|自然選択]]と、[[遺伝的浮動]]や生態的イベント(地理的隔離など)のようなランダムな出来事によって集団中に固定し、新しい形質の出現や[[種分化]]などの進化現象を引き起こすと考えられる。また、種分化による各集団の[[遺伝的隔離]]はそれらの[[遺伝子プール]]の多様性の拡大をもたらす。


突然変異は発生の過程を変化させることによって[[表現型]]を変化させるため、変化の範囲には限りがある<ref>ドーキンス(2004a) pp.491-493</ref>。この制約がどの程度実際の進化に影響するかについては議論がある<ref>ルース(2008) Ch.11</ref>。
== 新しい形質の出現 ==
=== 遺伝子 ===
[[Image: ADN static.png |thumb|right|DNAの配列に突然変異が生じることで、新たな形質が出現する]]
生物が変化するとき、どこかの時点で新しい形質が出現しなければならない。これまでに遺伝学者が、どのようにして新たな形質が現れるのか、またどのようにしてその形質が後の世代に残っていくのか研究してきた。ダーウィンの時代には、まだ遺伝に関する詳細な解明はなされていなかった。しかし現在では、子孫に伝わるような形質の根拠は、'''[[遺伝子]]'''と呼ばれる、粒子性をもつ、不変の実体にたどり着く。そしてその遺伝子とは、実際は[[デオキシリボ核酸|DNA]]に書込まれた情報であることも現在では分かっている。DNAの変化は[[突然変異]]をもたらす。その影響は形質(表現形)の変化となって現れる。また、個々のDNAの突然変異については、それによる形質(表現形)の変化はほとんどなかったとしても、それらの組み換えによって新たな形質が発生することもある。組み換えは、有性生殖の場合は対応する性の細胞の融合によって、バクテリアの場合は接合と[[形質転換]]などの遺伝物質の移動によって起きる。


この他に、他の生物が持つ遺伝子が他生物に取り込まれることでその遺伝子を獲得することがある([[遺伝子の水平伝播]])。
DNA配列上には現れないが通常のDNA複製に影響を与えるような遺伝性の変化についても、研究が進められている。この変化は遺伝情報の変化を一切伴わなかったり、変化そのものが可逆であったりする。このような変化は、[[エピジェネティクス|エピジェネティク]]な遺伝と呼ばれ、対応する現象としては、DNAの[[メチル化反応]]、[[プリオン]]、structural inheritance などがある。このような機構が環境からの刺激に対する応答として、それに適応するような変化をもたらしうるのかどうかについては研究が継続されている。ダーウィンの確立した進化の枠組みでは、環境からの刺激と遺伝するような変化の発生の間の関係について言及することは避けられていたが、もしこのようなことが実際に起きているとすれば、ダーウィンの進化の枠組みから外れたものとなるだろう。


=== 自己組織化 ===
=== 遺伝子の頻度変化 ===
遺伝的変異が生じても、その変異(あるいはその変異のもととなる対立遺伝子)を持つ個体が子孫を残さなければ、その変異は個体群から消失する。しかし一部の変異は頻度を増して個体群内に定着(固定)し、個体群の特徴を変化させることになる。
上記のようなメカニズムに加えて、新たな遺伝的形質が[[物理]]・[[化学]]的な性質である[[自己組織化]]からもたらされるものもあると考えられている。ここで言う自己組織化というのは、ゲノム中には直接コードされていないようなものである一方、様々の生体システムに広く存在するだろうと常に期待されるようなものである。


対立遺伝子頻度は、以下の2つの過程によって変化する<ref>コイン(2010) pp.46-47</ref>。
[[スチュアート・カウフマン]]はこの観点に基づいて、自然選択はシステムの特別なクラスのみを選択し、その中には「order for free(自由への秩序)」を得るシステムが偶然に含まれていると説明した。ここで言う「order for free」とは、生物の進化の過程に普遍的に存在するとされた仮定の法則である。この説を補強し得るいくつかのメカニズム(遺伝子制御ネットワーク、自己触媒集合、RNAの配列-構造解析)が、進化に適用可能な実際的な理論の一部として慎重に組み入れられてきた。しかし、{{要出典範囲|カウフマンの描くシステムの全体像にはいまだ議論の余地が残されている}}ともいう。
* 自然選択
* 遺伝的浮動


==== 自然選択 ====
== 形質の固定と消失 ==
[[ファイル:Mutation and selection diagram.svg|thumb|250px|right|自然選択の模式図。図中では色の濃い個体ほど有利とされている。突然変異が様々な形質をもたらすが、そのうち生存に好ましくない変異が消滅し、残った個体が次世代に子孫を残す。この繰り返しによって、個体群が進化していく。]]
集団内で起きる形質の固定と消失は、集団内である特徴が多く見られるようになる一方で、別のある特徴が見られなくなっていくという状況を意味する。形質の固定と消失に対しては、2つのプロセスが寄与していると一般的に考えられている。
一部の遺伝的変異はそれを持つ生物個体の[[適応度]](生存と繁殖)に影響する。その多くは適応度を低下させるため、それを持つ個体は子孫を残せず、変異は消失する(負の自然選択)。しかし、中には適応度を高める突然変異もある。たとえばレンスキーらは大腸菌の長期培養実験のなかで、[[クエン酸]]塩を利用できるようになる突然変異が稀に生じるのを観察した<ref name="lenski"/>。


適応度を高める対立遺伝子は、それを持つ個体が持たない個体よりも平均して多くの子孫を残すため、個体群内で頻度を増す。この過程を正の自然選択という。正の自然選択によって、生物個体群は世代を経るにつれてより適応的な形質を持つように進化していく。自然選択は、適応進化を説明できる唯一の機構である<ref>ドーキンス(2004a) p.454</ref>。
{{要出典範囲|その過程とは、以下の2つである}}とされる。
* [[自然選択]]
* [[遺伝的浮動]]


[[File:Cepaea nemoralis-Nl2.jpg|thumb|モリマイマイの殻の色彩には大きな変異がある。]]
=== 自然選択 ===
自然選択において有利になる形質は環境条件によって異なる。{{仮リンク|モリマイマイ|en|Cepaea nemoralis}}(ヨーロッパに生息する[[カタツムリ]]の一種)の殻の色彩は変異が大きく、個体群によって色と模様が異なる。これは、生息環境によって捕食者の目を逃れるのに適した色、体温調節に適した色が異なるため、自然選択によって個体群ごとに異なる色彩が進化したのだと考えられる<ref name="patterson96">パターソン(2001) pp.96-99</ref>。形質の適応度がその頻度によって決まることもある。たとえば、もし捕食者が多数派の模様を[[学習]]し、まれなタイプの模様はあまり食べないということがあれば、ある模様の適応度がその頻度が少ないときに高くなる。このような自然選択を[[頻度依存選択]]と呼ぶ<ref name="patterson96"/>。
[[Image: Mutation and selection diagram.svg |thumb|250px|right|突然変異と自然選択のダイアグラム。変異がさまざまな形質をもたらし、生存に好ましくない変異が消滅し、[[再生産]]と変異が生じ ... 再生産が繰り返されている。]]
現在の[[進化論]]では、生物の進化は主として[[自然選択]]の結果であるとしている。以下に非常に簡単にではあるが、要約を示す。


広義には自然選択に含まれるが、[[性選択]]も適応度に影響する。性選択は、配偶者をめぐる同性間の競争や、異性による配偶者の選り好みによって起こる選択のことをいう。たとえば{{仮リンク|コクホウジャク|en|Long-tailed widowbird}}という[[鳥]]では、長い[[尾羽]]を持つ雄が雌に好まれるため、そのような雄の適応度は高くなる<ref>Andersson(1982)</ref>。
自然選択説は、以下の3つの原理に基づいている。


自然選択は個体あるいは遺伝子を単位として考えられることが多いが、かつては個体の集まったグループを単位とした自然選択([[群選択]]あるいは集団選択)が重視されていた。かつてのような粗雑な群選択理論は今では否定されているが、グループを含む複数の階層での選択を考慮する[[群選択|複数レベル選択説]]が提唱されており、その重要性について議論になっている<ref>松本(2010)</ref>。
# [[生物]]の種内には変異があり、それらは[[遺伝]]する。
# 親は、生き残れる数よりたくさんの子を産む。
# 生き残った子供は、好適な形質を伝えたものである。
<!--
* 生物の子供は親から遺伝子を継承する。この遺伝子は個人ごとに異なった特徴をコードしている。子供は遺伝的に両親から50%ずつのDNAを継承している。[[遺伝子型]]がどのような組み合わせで継承されたかにより、表現型がさまざまな目に見える形で現れるだろう。遺伝子型とは、基本的に遺伝子がコードしているものであり、表現型とは固体で発現している何か(特徴)である。茶色い瞳の両親から青い瞳の表現型の子供が生まれてくることがあるのは、両親が瞳の色の遺伝子についてみたときに、両親ともがヘテロ接合であったからだろう。このようなケースは少々複雑な遺伝の仕組みによるものではあるが、やさしく言えば、「子は親に似る」ということである。
* 生物は与えられた状況下において、その形質によって生殖上の(性的な)成功度にちがいがある。やさしく言えば、動物(植物)は良いものほど生き残りやすく子を作りやすい。
* それ故に、時が経てば、その環境により良く適応した形質を持つ生物がその環境内では多勢を占めるようになる傾向があり、逆にあまり適応できなかったものはその環境から消え去っていくであろうということである。
-->


[[File:Allele-frequency.png|thumb|遺伝的浮動による遺伝子頻度変化の[[シミュレーション]]。個体数の少ない集団(上、10個体)では、個体数の多い場合(下、100個体)よりも浮動による変化が大きい。]]
[[自然選択]]はまた、生物が長い時間を越えて生き残っていくのに役立つ仕組みを提供している。環境は常に変化し続けているので、後続の世代が適応を続けることで、生存と繁殖することが可能になる。さもなければ、その生物が適応していた[[ニッチ|生態学的地位]]が消滅するのにあわせて、その種も絶滅することになるだろう。それゆえに生物は種として進化することで、長い時間のなかを生き延びることができるのである。進化論において自然選択が中心的役割を果たすことになったのは、野外での[[生態学]]の研究によってもたらされたものである。
==== 遺伝的浮動 ====
遺伝的変異の中には、適応度に全く、あるいはごくわずかしか影響しないものも多い。その場合には、遺伝子頻度はランダムに、確率的に変動することになる。また適応度に影響する場合でも、確率的な変動の影響は受ける。このランダムな遺伝子頻度の変化を遺伝的浮動という<ref>Futuyma(2005) p.226</ref>。遺伝的浮動はとくに数の少ない個体群において重要である。そのため、少数の個体が新しい生息地に移住して定着した場合に遺伝子頻度が大きく変化することがあり、これを[[創始者効果]]という<ref>Futuyma(2005) pp.231-232</ref>。


木村資生は、遺伝子レベルの進化においては遺伝的浮動が重要であると指摘した([[分子進化の中立説]])<ref name="kimura">木村(1988) pp.54-55</ref>。分子進化の中立説は、塩基配列のデータをよく説明できる。表現型レベルでも、適応度上中立な変化であれば遺伝的浮動によって進化することはありうるが、実際にはほとんどないと考えられている<ref name="futuyma236">Futuyma(2005) p.236</ref>{{Refnest|group="注釈"|ただし、表現型と分子のそれぞれにおいて、浮動と選択がどの程度重要かについては議論がある。斎藤(2008)は表現型の進化も浮動によって起こる可能性を指摘しているが、逆にオール(2009)は分子進化も相当部分が選択によると主張している。}}
=== 遺伝的浮動 ===
[[遺伝的浮動]]とは、集団内における選択圧とは無関係な遺伝子の頻度の変化のことである。親の世代の遺伝子の分布を維持するのに十分な数の子孫を作れないような、そういった小規模な交配集団においては、この現象は特に重要である。このような世代間での遺伝子頻度の変動は、ときには集団内からのそれら遺伝子の消失を招く。
このため、集団が2つに分離されたとき、最初のこれら集団の遺伝子頻度は同じであるが、やがて遺伝子頻度のランダムな変動、すなわち「浮動」によりこれらの集団は異なる遺伝子のセットを持った集団へと変化していく(つまり、片方の集団からある遺伝子は消失してしまったが、もう片方の集団には残っているような状態)。火山の噴火や隕石の衝突といった、ごくまれにしか起きないような現象は、平時の選択圧とは違った方法で遺伝子頻度を変化させることで、遺伝的浮動に影響を与えてきたかもしれない。


== 小進化と大進化 ==
== 進化の速度 ==
=== 形態の進化 ===
現在の総合説では、進化とは集団中の遺伝子頻度の変化であり、それが積み重なって[[種分化]]が起きるとみる。したがって、遺伝子頻度の変化を追うことが重視される。しかし、進化の説明において、個体群内の遺伝子頻度の変化やそれによる形質の変化を「小進化」と呼び、新しい「種」や「属」が生じたり絶滅したりするプロセスを「大進化」と呼んで区別する場合がある。これは小進化のプロセスでは、新しい「種」の形成などの大規模な進化を説明できないと考える人がいるからである<ref>河田 雅圭 『はじめての進化論 』(講談社、1990年1月。ISBN 978-4061489837)</ref>。
化石が多く見つかっている系統の進化速度は、より新しい化石と古い化石の形態を比較することで調べることができる。量的な形態進化の速度は、100万年あたり[[ネイピア数]]倍(約2.7倍)の変化を1ダーウィンとして定義する<ref>Ridley(2004) p.591</ref>。離散的な形態の進化については、いくつかの形質状態を定義して、その変化の回数を数えることで計測できる<ref name="ridley606">Ridley(2004) pp.606-607</ref>。分類群の数を利用した進化速度の定義もあり、ある期間におけるある系統がいくつの種(あるいは[[属 (分類学)|属]]などより高次の分類群)に分けられるかによって進化速度を測定する。たとえば、[[ウマ]]類の系統は現生のものを除くと、5000万年の間に8属を経過してきたため、約625万年あたり1属の進化速度で進化してきたと計算できる<ref>シンプソン(1977) pp.102-103</ref>。


進化速度は系統によって大きく異なり、進化速度が非常に遅いために祖先の化石種とほとんど変わらない形態を持つものを[[生きている化石]]と呼ぶ。ただし、同じ系統でも進化速度は一定ではない。たとえば[[ハイギョ]]類は生きている化石として有名であり、確かに[[中生代]]以降の進化速度はかなり遅いが、[[古生代]]においてはむしろ急速に進化していた<ref name="ridley606"/>。また、すべての形質の進化速度が同じ傾向を示すわけでもない。ヒトの系統が脳の大きさに関して他の霊長類、たとえば[[アイアイ]]に比べて急速な進化を遂げてきたのは明らかだが、同時にアイアイの[[歯]]はヒトの歯よりも初期霊長類と比べて違いが大きく、歯の形態に関してはアイアイのほうが進化速度が速かったと考えられる<ref>シンプソン(1977) p.104</ref>。


形態の進化速度に関わる[[断続平衡説]]については、種分化との関連で後ほど取り上げる。
===小進化===
小進化は、数世代の間に現れるような[[個体群]]内の遺伝子頻度の小規模変化のことである。これらの変化は、[[自然選択]]以外にも、[[突然変異]]、[[遺伝的浮動]]などのいくつものプロセスが原因で生じうるものである。


=== 分子進化 ===
[[集団遺伝学]]は、小進化の過程の研究のために数学的構造を供給する生物学の一分野である。
分子レベルの進化速度は、単位時間(あるいは世代数)あたりの塩基置換数として計測できる。分子進化の中立説によれば、世代あたりの塩基置換速度は中立な突然変異率によって決まるため、突然変異率が一定ならば一定の速度で進化すると予測される。この予測は、塩基配列の比較から系統が分岐した年代を推定する[[分子時計]]の根拠となっている<ref name="futuyma236"/><ref>パターソン(2001) p.110-111</ref>。


わずかな塩基配列の変化で機能が損なわれるような遺伝子は、中立な突然変異が少ないため、進化速度が遅くなる<ref>Futuyma(2005) pp.236-237</ref><ref>パターソン(2001) p.117</ref>。逆に、もはやその役目を果たさない偽遺伝子ではほとんどの突然変異が中立になるため、進化速度が非常に速い。たとえば、地中に棲息し眼が退化した{{仮リンク|シリアヒメメクラネズミ|en|Middle East blind mole-rat}}では、レンズを作る[[タンパク質]]をコードする遺伝子が偽遺伝子化し、急速に進化している<ref>Hendriks et al.(1987)</ref>。
===大進化===
大進化とは、長期間にわたる遺伝子頻度の大規模な変化であり、通常その結果、種分化や新種への進化をもたらす。小進化の過程が観測可能であるのに対して、大進化は[[化石記録]]や、現存している生物の形質、遺伝子の情報(DNA)から推論するしかないと考えられていたため、小進化のプロセスでは大進化を説明できないと考える人がいた。


==大進化==
しかし、シロアシネズミ<ref>Mark L. McKnight. Mitochondrial DNA Phylogeography of Perognathus amplus and Perognathus longimembris (Rodentia: Heteromyidae): A Possible Mammalian Ring Species. Evolution, Vol. 49, No. 5: 816-826.</ref>やヤナギムシクイ<ref>Irwin, Darren E., Staffan Bensch, Jessica H. Irwin and Trevor D. Price. 2005. Speciation by distance in a ring species. Science 307: 414-416. </ref>などの[[輪状種]]の研究や、''Nasonia''属のハチ<ref>Seth R. Bordenstein, F. Patrick O'Hara and John H. Werren. Wolbachia-induced incompatibility precedes other hybrid incompatibilities in Nasonia.Nature 409: 707-710</ref>や''Euhadra''属のカタツムリ<ref>Ueshima R., and T. Asami. single-gene speciation by left-right reversal. Nature 425: 679.</ref>の種分化のメカニズムの解明、''Culex''属の蚊<ref>Byrne, K. and R. A. Nichols, 1999. Culex pipiens in London Underground tunnels: differentiation between surface and subterranean populations. Heredity 82: 7-15</ref>における種分化の観察事例、ショウジョウバエの人工的な種分化の研究<ref>Dobzhansky, Th., and O. Pavlovsky. An experimentally created incipient species of Drosophila. Nature 230: 289-292.</ref>などから、種分化のプロセスも小進化の延長として理解されるようになった。もちろん、種分化に関わる[[生殖的隔離]]機構の解明は重要なテーマであり、「自然選択によって[[生殖的隔離]]は進化するのか?」「同所的種分化は起こりうるか?」などについては今日でも議論がある<ref>河田 雅圭 『種分化機構の解明と生物多様性進化 』 日本進化学会ニュース, Vol. 3, No. 2-3: 14-18.(日本進化学会、ISSN 1347-5029)</ref><ref>Marta Barluenga, Kai N. St嗟ting, Walter Salzburger, Moritz Muschick and Axel Meyer. Sympatric speciation in Nicaraguan crater lake cichlid fish. Nature 439: 719-723.</ref><ref>Vincent Savolainen, Marie-Charlotte Anstett, Christian Lexer, Ian Hutton, James J. Clarkson, Maria V. Norup, Martyn P. Powell, David Springate, Nicolas Salamin,William J. Baker. Sympatric speciation in palms on an oceanic island. Nature advance online publication; published online 8 February 2006 | doi:10.1038/nature04566</ref>。
種内で起こる形質の変化を小進化というのに対し、新しい種や、種より高次の分類群の起源や[[絶滅]]のプロセスを大進化という。このような区別がなされるのは、大進化を小進化の積み重ねで説明できるかどうかについて議論があるためである<ref name="kawata">河田(1990) pp.114-115</ref>。しかし一般的には、大進化も小進化の延長として理解できると考えられている<ref name="kawata"/>。


=== 形態の長期的安定と断続平衡説 ===
=== 種分化 ===
{{Main|種分化}}
[[Image: Punctuated-equilibrium.svg |thumb|right|断続平衡説(下)と漸進的進化(上)の対比]]
1種が2種以上に分岐し、新しい種が形成されることを種分化という。種の定義は多数あるが、進化生物学においては「相互に交配可能な生物の集団」として定義されることが多い(生物学的種概念)。したがって種分化は、集団間に[[生殖隔離]]が生じることを意味する<ref>Ridley(2004) p.381</ref>。
地層中の化石の出現パターンを調べると、基本的な形態はあまり変化しないで安定な状態にあり、新しい形態をもつ化石は、ある地層に突如として現れ、その後長い年月の間、形態はふたたび安定して、あまり変化しないという傾向がある。古生物学者の[[ナイルズ・エルドリッジ|エルドリッジ]]と[[スティーヴン・ジェイ・グールド|グールド]]は、このような現象を[[断続平衡説|断続平衡現象]]と呼んだ。基本的な形態の変化をもたらすような進化を大進化と呼び、小進化の過程では説明できないと考える人もいる。特に、体制が異なるほどの上位分類群の分化が、自然選択説で説明できるかどうかについては、疑問視する声も存在する。


前述したセグロカモメの事例のほか、[[エシュショルツサンショウウオ]]<ref>Moritz et al.(2002)</ref>などで知られる輪状種の存在は、わずかな進化の累積が種分化を引き起こすことを示している<ref>Ridley(2004) pp.50-53</ref>。
[[断続平衡説]]を提唱した頃(1970年代始め)の[[スティーヴン・ジェイ・グールド|グールド]]は化石の形態が急激に変わるようにみえるのは、新しい種ができるときにのみ生物は急速に形態が変わり、その変化がすんでしまうと後は形態的安定が保たれるからだと考えていた。しかし、化石記録にみられる種とは[[種 (分類学)|形態的種]]であり、[[種 (分類学)|生物学的種]]や遺伝子交流集団と一致しているとみなす根拠はなく、[[断続平衡説]]は種分化の理論として適切なものとはいいがたい。形態の長期的安定化自体は重要な進化現象である可能性があるが、これは種が変化しないというよりも、特定の形態が長期間変化しないということある。実際、「形態的には区別できないが生殖的に隔離された集団([[同胞種]])」は広く見つかっており<ref>Gilbert Van Stappen. 4.1. Introduction, biology and ecology of ''Artemia''. Manual on the Production & Use of Live Food for Aquaculture (Fisheries Technical Papers No. 361). (Lavens, P; Sorgeloos, P. (eds.). Food & Agriculture Organization of the UN. Rome. 1997. 304 pages. ISBN 978-9251039342)</ref><ref>刑部 正博・坂神 泰輔 『B116 ミカンハダニ同胞種間のリボゾームDNA制限酵素断片長多型(種分化など)』 日本応用動物昆虫学会大会講演要旨, 1992. No.36, p. 90.</ref><ref>Tigga Kingston, Marcia C. Lara, Gareth Jones, Zubaid Akbar, Thomas H. Kunz, Christopher and J. Schneider. Acoustic divergence in two cryptic Hipposideros species: a role for social selection? - Proc. R. Soc. B. Royal Society Publishing. Volume 268, Number 1474/July 7, 2001. 1381-1386.</ref>、ウスグロショウジョウバエの同胞種''Drosophila pseudoobscura''と''D. persimilis''では、種分化を促進する同系交配を支配する遺伝子の一つが同定されている<ref>Ort築-Barrientos D, Noor MA. Evidence for a one-allele assortative mating locus. Science; 310(5753):1467.</ref>。つまり、形態が変化しなくても種は形成される可能性があるということである。


一度に種分化が起こる事例も報告されている。たとえばカタツムリの殻の巻きは単一の遺伝子によって決定されているが、この遺伝子に突然変異が起こって右巻きになると、巻きの違う個体同士は交尾できないことが多いため、生殖隔離が成立する<ref>Ueshima & Asami(2003)</ref><ref>Hoso et al.(2010)</ref>。植物では、倍数体(全ゲノムが倍化した個体)が、もとの種と生殖できなくなることによる種分化がかなり頻繁に起こっていると考えられている<ref>コイン(2010) pp.321-326</ref>。
形態の長期的安定化現象について、[[ジョン・メイナード=スミス|メイナード・スミス]]などの集団遺伝学者は安定化選択説で、グールドらは発生的制約説で、[[エルンスト・マイヤー]]は「個体群サイズが大きいことによる進化の停滞」で説明した<ref>N. Suno-uchi, F. Sasaki, S. Chiba and M. Kawata. Morphological stasis and phylogenetic relationships in Tadpole shrimps, ''Triops'' (Crustacea: Notostracea). Biological Journal of Linean Society.61: 439-457.</ref>。


==== 断続平衡説 ====
[[化石記録]]が利用できる生物群は、実際には動物界と植物界だけである。[[植物界]]の各門の分化は、[[古生代]]の[[シルル紀]]から[[中生代]]にかけてゆっくりと起こっており、その経過は比較的はっきりしているし、そこに見られる形態の変化は適応的に見える。
{{Main|断続平衡説}}
しかし、[[動物界]]の場合、すべての動物門が古生代[[カンブリア紀]]の初頭にはすでに出現している可能性が指摘され、[[カンブリア爆発]]と呼ばれている。もちろん、[[アンドリュー・パーカー]]が言うように多くの門が同時期に一斉に硬組織を獲得した結果、化石記録として出現するようになっただけもしれない。しかし、動物門の進化がいつどのような形で起きたのかについて分かっていないのも事実である。
[[File:Punctuated-equilibrium.svg|thumb|right|漸進的進化(上)と断続平衡説(下)の対比。縦軸は下から上への時間の流れを、横軸は[[形態学 (生物学)|形態]]の類似の程度を表現している]]
地層中の化石の出現パターンを調べると、基本的な形態はあまり変化しないで安定な状態にあり、新しい形態をもつ化石は、ある地層に突然現れ、その後長い年月の間、形態はふたたび安定して、あまり変化しないという傾向がある{{Refnest|group="注釈"|ただし、古生物学でいう「突然」とは数万年程度の時間を指す。}}。古生物学者の[[ナイルズ・エルドリッジ|エルドリッジ]]と[[スティーヴン・ジェイ・グールド|グールド]]は、このような現象を[[断続平衡説|断続平衡現象]]と呼んだ<ref>河田(1990) pp.124-125</ref>。エルドリッジらは、進化は種分化のときにのみ急激に起こり、その他の期間は停滞すると主張した。


断続平衡説は種分化の重要な側面を捉えているという評価もある<ref>ステルレルニー(2004) pp.98-99</ref>一方で、批判も多い。たとえば断続平衡説は生物学的種概念に基づく種分化の理論を援用しているが、化石種は交配可能性ではなく形態に基づいて分類されているため、化石種と生物学的種は必ずしも一致しない<ref>河田(1990) pp.127-128</ref>。実際に形態の変化を定量的に追跡できる事例についてみると、断続平衡的な進化を示す系統もあるが、一方で連続的に進化している系統もある<ref>Ridley(2004) pp.605-606</ref>。また、断続平衡説は主流の進化理論に矛盾すると言われたこともあるが、実際には一般的な進化理論の範疇で理解できるものである<ref>ステルレルニー(2004) p.98</ref><ref>Ridley(2004) pp.600-601</ref><ref>ドーキンス(2004a) p.402</ref>。
== 進化に関する誤った理解 ==
進化という概念は、日常生活でも頻繁に使用されるためか、誤った形で理解されている事が多い。よく見られるものは、次の三点である。ひとつは進化が目的を持っておこなわれている、という誤解。もうひとつは人間という種が進化の最終ゴールである、また、だから人間になれなかった他の生物よりもわれわれは立派な存在である、といったタイプの誤解。そして最後のひとつは、進化と進歩を混同している誤解。この三つである<ref>[[長谷川寿一]]・[[長谷川眞理子]]『進化と人間行動』([[東京大学出版会]]、2000年4月。ISBN 4-13-012032-8)</ref>。


; 進化に目的があという誤解
== 進化に関する誤解 ==
進化という概念は、日常生活でも頻繁に使用されるためか、誤解されていることが多い。よく見られる誤解について以下に述べる。
:テレビ番組などでは、(進化仮説の[[用不用説]]を引用して)「高いところの葉っぱを食べる'''ために'''、キリンは首が長くなりました」とか、「これは生き残る'''ための戦略'''だったのです」といった表現のしかたがごく一般的である。このような表現においては、比喩としての進化の自律性ばかりが強調され、そもそも偶然性・予測不可能性なしには存在し得ない自然の本質というものがすっぽりと見落とされてしまっている。いっぽう、たとえば以下のように表現すれば、ことの経緯をより正確に表現できるであろう。
::「首の長いキリンの方が(短いほかのキリンより)多数の子孫を残せたため、結果として首の長いキリンばかりになりました」
: もっとも、適応は結果的に合目的に近い形で構造や行動を発達させる可能性もある。したがって、たとえば「太陽が東から昇り」と書く人は未だに[[天動説]]を信じている、というわけではないのと同様に、「—のために進化した」という言い回しを使う場合はあり得る。また、自然選択説も万能ではない可能性もある。 従って、1.適応できなかった種は、淘汰される(自然選択説)、2.合目的に近い形で構造や行動を発達させることで適応する(獲得形質の遺伝性)、といった現象を総合的に考慮して、例えば「—の方向に進化した」などが、より適切な表現となる。


;進化に目的があるという誤解
; 人間は進化の頂点にいるという誤解: 人間中心主義にしばしば援用される誤用であるが、進化はハシゴのような一本道ではなく、木の枝のように多方に伸びていくもので、人間はその枝の一部である([[系統樹]]を参照)。個々の種はそれぞれ異なった環境に'''適応'''してきたのであり、現在ある種もすべてそれなりに'''模索'''した結果といえるのである。また適応の過程に終わりというものはない。
:「高い所の葉を食べるために、キリンの首は伸びた」といった表現はよく使われる。しかし、首が伸びるという突然変異は目的とは関係なく起こり、それに自然選択が働いたにすぎない<ref>長谷川・長谷川(2000) pp.36-37</ref>。もっとも、無目的な突然変異と自然選択によって、あたかも目的を持って作られたかのような器官が生み出されるのも確かである。[[リチャード・ドーキンス|ドーキンス]]はこのことを「盲目の時計職人」という比喩で表現した<ref>ドーキンス(2004a) p.46</ref>。
: ただし遺伝子は子孫に伝わるのみならず、[[遺伝子の水平伝播|水平伝播]]するので、とくにバクテリアやアーキアなどの「系統樹」は、単純な枝分かれでなく網状に絡み合ったイメージの方が適切であると考えられている 。


;進化は進歩であるという誤解
; 進化は進歩であるという誤解<ref>「進化≠進歩」という点について手短に解説した講義ビデオが公開されている。[[東京大学]]の[[オープンコースウェア]]より。[[佐倉統]] [http://ocw.u-tokyo.ac.jp/wp-content/uploads/movies/iii_03/sakura-20031015-5.ram (ビデオ)東京大学講義 "進化生態情報学" 「第二回第五部 進化≠進歩、社会進化論」] 全18分07秒、要[[リアルプレイヤー]]、2003年10月15日録画、[http://ocw.u-tokyo.ac.jp/courselist/319.html?teachcat=1 講義シラバス]</ref>
:地中で生活するモグラの目が退化していることも進化の結果であるように、進化は必ずしも器官の発達や複雑化をもたらすわけではなく、また知能を発達させるとも限らない<ref>長谷川・長谷川(2000) pp.39-40</ref>。まして、ヒトが進化の頂点であり、進化はヒトを目指して進むなどと考えるべきではない<ref>長谷川・長谷川(2000) p.38</ref>。ヒトは他の現生生物と同じく、各々の環境に適応し、枝分かれしながら進む進化[[系統樹]]の末端の枝の一つにすぎない。ただしこれは進歩を複雑化やヒト化として定義した場合の話であり、定義によっては何らかの「進歩」(適応の向上、[[進化可能性]]の増大など)を進化に見出すことは可能だとする考えもある<ref>ステルレルニー(2004) pp.140-143</ref><ref name="dc">ドーキンス(2004b)</ref>。
: 進化(英:evolution)とは狭義には「時間の経過に伴う生物集団中における遺伝子頻度の変化」であって、進歩(英:progress)という概念とはまったく別のものである。地中で生活するモグラの目が退化していることも進化の結果であり、クジラの手足が退化していることも進化の結果である。また人間に尻尾がないのも進化の結果である。


:この誤解は、進化({{lang-en|evolution}})という語にその一因があるかもしれない。英語の「{{lang|en|evolution}}」という語はラテン語の「{{lang|la|evolvere}}」(展開する)に由来し、[[発生学]]においては[[前成説]]の発生過程を意味する語であったほか、日常語としては進歩({{lang|en|progress}})と強く結びついて使われる。そのためダーウィンはこの語をほとんど使わず、変化を伴う由来({{lang|en|descent with modification}})という表現を好んだ<ref name="esd">グールド(1984)</ref>。{{lang|en|evolution}} という語が生物進化の意味で使われるようになったのは[[ハーバート・スペンサー|スペンサー]]の影響である。このことは日本語の「進化」とも関連している。明治初期の日本ではダーウィンよりもスペンサーの影響が大きかったため、{{lang|en|evolution}} は万物の進歩を意味するスペンサーの用語として「進化」と訳されたが、これが現在にも続く、進化は進歩であるという誤解を招いている<ref>松永(2009) pp.51-52</ref>。
: しかし、「進化」を意味する"evolution"はラテン語の"evolvere"(展開する)に由来し、単純なものから複雑なものへの順序だった展開という意味を含んでおり、日常語としては"progress"(進歩)という概念と強く結びついていた。さらに発生学の専門用語としては、[[前成説]](=展開説、[[胚発生|前成説と後成説]]を参照)を指す用語として使われていた。[[エラズマス・ダーウィン]]はこの前成説のプロセスを指す"evolution"を系統発生のプロセスを指す語に援用したが、「進歩」も「前成説」も「進化」とは相容れないものであったので、[[チャールズ・ダーウィン]]は「[[種の起源]]」(初版)の中では"evolution"という語を使うことを避け、"descent with modification"(変化を伴う由来)という語を使っていた。その後、[[ハーバート・スペンサー]]らの宣伝によって、「進化」を意味する語として"evolution"が定着したが、この語が「進化=進歩」という誤解を産むタネになってしまった<ref>スティーヴン・ジェイ グールド (著), Stephen Jay Gould (原著), 浦本 昌紀 (翻訳), 寺田 鴻 (翻訳)  『ダーウィン以来—進化論への招待』(早川書房、1995年9月。ISBN 978-4150501969)</ref>。


;「チンパンジーはいずれヒトに進化するのか」「ヒトがチンパンジーから進化したなら、なぜチンパンジーがまだいるのか」という疑問
=== その他の誤解 ===
[[Image: Ape skeletons.png |thumb|right|250px|ヒトと類人猿は、共通の祖先から進化した]]
[[ファイル:Ape skeletons.png|thumb|right|250px|ヒトと他の類人猿は、共通の祖先から進化した]]
:ヒトはチンパンジーと共通祖先を持ち、ヒトもチンパンジーもそこから独自の進化を遂げてきたにすぎないため、この疑問は的外れである<ref name="hasegawa">長谷川・長谷川(2000) pp.40-43</ref><ref name="at">ドーキンス(2006) pp.159-160</ref><ref name="watanabe">渡辺(2010) p.68</ref>。ヒトは数百万年前に、[[チンパンジー]](および[[ボノボ]])との共通祖先から分岐したと推定されている。この共通祖先はたまたまヒトよりはチンパンジーに似ていたと思われるが、それはヒトの系統がより多くの変化を遂げた結果にすぎず、共通祖先はチンパンジーともヒトとも異なる類人猿であった<ref name="at"/>。
; 退化は進化の対義語である: 一般的な用語としては、退化が進化の対義語であると位置づけられることがあるが、科学的には退化は進化の一側面であり、対義語ではない。詳しくは[[退化]]の項を参照されたい。
:この誤解は、生物は下等なものから高等なものまで一列に配列され、進化はその序列の中で梯子を登るように進むという、より深い誤解を反映したものである<ref name="hasegawa"/>。実際には、進化は分岐を繰り返しながら進むものであり、現生の生物はどれも等しく系統樹の末端に位置づけられる。


== 生物学以外での「進化」概念 ==
; なぜヒトはサルから進化したのに、サルがまだいるのか?: ヒトはサルから進化したのではなく、サル([[類人猿]])との[[共通祖先]]から分化した。その共通祖先はサルに似ていた、或いは現生種とは異なるサルであると考えられるが、それはヒトの方が強い選択圧を受け、形質が大きく変わったのに対し、他のサルは生息環境が安定していて強い選択圧を受けなかった、あるいは、ヒトとは異なる方向への淘汰圧を受けたからである。全ての(サルに似た)共通祖先が一斉に人間に変化したと言うイメージは誤りである。また、ヒト以外の現生のサルも、ヒトが進化する期間にそれぞれ進化しており、ヒトの先祖と思われるサルは現生には存在しない。サルからヒトになったのではなく、ある種のサルが進化によって'''チンパンジーというサル'''や'''ヒトというサル'''に分化したのであって、現時点でもヒトはサルである。
「進化」という概念は、ダーウィン以来の進化生物学の成功により有力となったが、生物学の影響を受けて、あるいはそれとは独立に「進化」という概念は、さまざまな学問分野において重要な役割を果たしている。たとえば、「[[進化経済学]]」<ref name="JAFEE">『進化経済学ハンドブック』「概説」1.「経済における進化」</ref>「進化経営学」「[[進化心理学]]」「[[進化的計算]]」などは前者の例、「宇宙の進化」<ref name="Kaifu">海部・吉岡(2011)</ref>は後者の例である。


生物学の影響を受け、「進化」概念を研究・分析の中核に据えるとき、進化生物学の進化概念をどの程度忠実に移植するかについての議論は多い<ref name="JAFEE"/>。進化経済学では、意図せざる進化と共に、意図された進化が重要であるとされることが多い<ref name="Ziman">Ziman(2000), I. Evolutionary thinking</ref>。
== 関連項目 ==
*[[適応]]
*[[ティンバーゲンの4つのなぜ]]
*[[発達]]
*[[退化]]
*[[ミッシングリンク]]
*[[進化論]]
*[[進化生物学]]
*[[イノベーション]] - 技術革新を俗に「進化」ということがある。
*[[ポケットモンスター (架空の生物)|ポケットモンスター]] - ポケモンの「進化」は生物学でいう「[[変態]]」に相当し、生物学的な進化とは全く別のものである。
*[[ミーム]]
*[[生命の起原および進化学会]]


== 出典 ==
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|group="注釈"}}
{{reflist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|3}}

== 参考文献 ==
<div style="font-size:90%">
* {{Cite journal|last=Andersson|first=Malte|title=Female choice selects for extreme tail length in a widowbird|journal=[[ネイチャー|Nature]]|volume=299|issue=5886|pages=818-820|year=1982|doi=10.1038/299818a0}}
* {{Cite journal|last1=Blount|first1=Zachary D.|last2=Borland|first2=Christina Z.|last3=Lenski|first3=Richard E.|authorlink3=:en:Richard Lenski|title=Historical contingency and the evolution of a key innovation in an experimental population of ''Escherichia coli''|journal=[[米国科学アカデミー紀要|Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America]]|volume=105|issue=23|pages=7899-7906|year=2008|doi=10.1073/pnas.0803151105|PMID=18524956 }}
* {{Cite journal|last=Chiappe|first=Luis M.|title=Downsized dinosaurs:the evolutionary transition to modern birds|journal=Evolution:Education and Outreach|volume=2|issue=2|pages=248-256|year=2009|doi=10.1007/s12052-009-0133-4 }}
* {{Cite book|和書|last=コイン|first=ジェリー・A |authorlink=:en:Jerry Coyne|title=進化のなぜを解明する|translator=塩原通緒|year=2010|origyear=2009|publisher=[[日経BP|日経BP社]]|isbn=9784822284206}}
* {{Cite book|和書|last=ドーキンス|first=リチャード|title=[[盲目の時計職人]]|date=2004年a|origyear=1986|publisher=[[早川書房]]|authorlink=リチャード・ドーキンス|translator=中嶋康裕・遠藤彰・遠藤知二・[[疋田努]]|others=[[日高敏隆]]監修|isbn=4152085576}}
* {{Cite book|和書|last=ドーキンス|first=リチャード|chapter=人間至上主義と進化的な進歩|title={{仮リンク|悪魔に仕える牧師|en|A Devil's Chaplain}}|date=2004年b|origyear=2003|pages=363-382|translator=垂水雄二|publisher=早川書房|isbn=4152085657}}
* {{Cite book|和書|last=ドーキンス|first=リチャード|title={{仮リンク|祖先の物語|en|The Ancestor's Tale}}|volume=上|translator=垂水雄二|publisher=[[小学館]]|year=2006|origyear=2004|isbn=4093562113}}
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* {{Cite book|和書|last=ウィリアムズ|first=ジョージ・C|authorlink=ジョージ・クリストファー・ウィリアムズ|title=生物はなぜ進化するのか|translator=長谷川眞理子|year=1998|origyear=1997|publisher=草思社|isbn=479420809X|series=サイエンス・マスターズ9}}
* 「進化」「偽遺伝子」「退化」{{Cite book|和書|chapter=退行的進化|title=岩波生物学辞典|edition=第4版、CD-ROM版|editor1-first=龍一|editor1-last=八杉|editor1-link=八杉龍一|editor2-first=治男|editor2-last=小関|editor2-link=小関治男|editor3-first=雅樹|editor3-last=古谷|editor4-first=敏隆編集|editor4-last=日高|year=1998|publisher=岩波書店}}
* {{Cite book|last=Ziman|first=John|year=2003|title=Technological Innovation as an Evolutionary Process|publisher=Cambridge Uninversity Press|isbn=9780521542173}}
</div>

== 関連項目 ==
* [[ティンバーゲンの4つのなぜ]]
* [[ミーム]]
* [[思弁進化]](思弁生物学) - 架空の生物の進化について。
** {{ill2|カミナルキュール|en|Caminalcules}} - 生物の進化などを説明するために作られた架空の生物群。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* [http://jvsc.jst.go.jp/earth/sinka/index.html 〈進化〉って何だろう?|JSTバーチャル科学館]
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生物は共通祖先から進化し、多様化してきた。

進化(しんか、ラテン語: evolutio, 英語: evolution)は、生物形質世代を経る中で変化していく現象のことである[1][2]

定義

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眼の進化

生物個体群の性質が、世代を経るにつれて変化する現象である[2][1]。また、その背景にある遺伝的変化を重視し、個体群内の遺伝子頻度の変化として定義されることもある[3][4]。この定義により、成長変態のような個体の発生上の変化は進化に含まれない[1][2]

狭義に、以上のレベルでの変化のみを進化とみなすこともあるが、一般的ではない[3]。逆に、文化的伝達による累積的変化や生物群集の変化をも広く進化と呼ぶこともある[3]。日常表現としては単なる「変化」の同義語として使われることも多く、恒星政治体制が「進化」表現されるということもあるが、これは生物学でいう進化とは異なる[4]

進化過程である器官が単純化したり、縮小したりすることを退化という[3]が、これもあくまで進化の一つである。退化は進化の対義語ではない。

進化の証拠

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生物は不変ではなく、共通祖先から長大な年月の間に次第に変化して現生の複雑で多様な生物が生じたということが、膨大な証拠から分かっている[5][6]

進化論は、チャールズ・ダーウィンら複数の博物学者動物植物分類学的な洞察から導きだした仮説から始まった。現在の自然科学ではこの説を裏付ける証拠が、形態学遺伝学比較発生学分子生物学など様々な分野から提出されており、「進化はほぼ確実に起こってきた事実である」と生物学者・科学者からは認められている[5][6][7]

古生物学

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進化をはっきりと示す化石証拠はダーウィンの時代には乏しかったが、現在では豊富に存在する。まず全体的なパターンとして、単純で祖先的と思われる生物は古い地層からも発見されるが、複雑で現生種に似た生物は新しい地層からしか見つからない[8]

化石証拠の豊富な生物については、化石を年代順に並べることで、特定の系統の進化を復元することもできる。プランクトンは死骸が古いものから順に連続的に堆積していくため、このような研究が容易であり、有孔虫放散虫珪藻の形態が徐々に進化し、時には種分化する過程が確認できる[9][10]。プランクトン以外にも、三葉虫の尾節の数の進化を示す一連の化石などがある[10]

ミッシング・リンク

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魚類と両生類の特徴を併せ持つティクターリクの復元画

進化を否定する創造論者は、分類群間の中間的な特徴を示す化石が得られないことを指して「ミッシング・リンク」と呼んでいる。しかし、分類群間の移行段階と考えられる化石は既に一部得られている[11][12]

分類群の起源となった種そのものを見つけるのは確かに困難だが、その近縁種の化石があれば、進化過程を解明するのに充分である[11]。たとえば爬虫類鳥類の特徴を併せ持つ化石には有名な始祖鳥に加えて、多数の羽毛恐竜がある[13][14]クジラの進化過程は、時折水に入る陸生哺乳類であったインドヒウスに始まり、徐々に水中生活に適応していく一連の化石から明らかになっている[15][16]

現在の魚類両生類をつなぐ移行化石としてはエウステノプテロンパンデリクチスアカンソステガイクチオステガなどが知られていたが、さらにパンデリクチスよりも両生類に近く、アカンソステガよりも魚類に近いティクターリク2006年に発表された[17][18]無脊椎動物では、祖先的なハチの特徴と、より新しく進化したアリの特徴を併せ持つアケボノアリなどの例がある[19]

移行化石は次々と発見されており、たとえば2009年には、鰭脚類アシカアザラシ)と陸上食肉類との中間的な特徴を示す化石[20]や、真猿類の祖先に近縁だと考えられるダーウィニウスの化石[21]が報告されている[22]人類が他の類人猿に似た祖先から進化してくる過程を示す化石も見つかっている[23][24]

逆に、創造論を証明するにはミッシングリンクの存在を指摘するだけでは不十分で、カンブリア紀の地層からウサギの化石がわんさと発掘される必要があるだろう、とするのがリチャード・ドーキンスの考えである。

生物地理学から

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生物の分布がいかにして成立してきたかを探る分野である生物地理学は、進化を支持する強力な証拠をもたらす。進化生物学者のコイン英語版によれば、創造論者は生物地理学上の証拠に反論することができないため、無視を決め込んでいるという[25]

火山活動などによる海底の隆起によってできた、大陸と繋がったことのないを海洋島と呼ぶ。ガラパゴス諸島ハワイ諸島小笠原諸島といった海洋島の在来生物相にはを渡れない両生類、コウモリを除く哺乳類、純淡水魚がほとんど、あるいは全く含まれないのが普通である。それに対して大陸と繋がった歴史のある島には、哺乳類や両生類が普通に分布している。しかも島に棲む生物は、ほとんどの場合最も近い大陸の生物と近縁である。このようなパターンでは、生物が地球の歴史の中でその分布を広げながら進化してきたと考えない限り理解できない[26][27]

地域が違うと、似たような生息環境であっても異なる生物が分布することがあり、これも進化の証拠となる。同じ砂漠でも新世界にはサボテン科旧世界にはキョウチクトウ科トウダイグサ科の乾燥に適応した植物が生息している[28][29]

ダーウィンの時代には知られていなかったが、地球の歴史上、大陸は長い時間をかけて移動し、離合集散を繰り返してきた(大陸移動説)。生物の分布のなかには、かつて繋がっていた大陸に共通祖先がいて、大陸の分裂に伴って系統が分岐したと考えることでうまく説明できるものも多くある。たとえばシクリッド科の淡水魚や走鳥類の分布は、かつてのゴンドワナ大陸が複数の大陸に分裂した過程で分岐してきたことで成立したと考えられる[30]

輪状種の存在も、生物がわずかな変化を累積して連続的に進化してきたことの傍証となる。輪状種とは、ある場所では互いに交配せず、別種として区別できる生物が、実は多数の中間型によって連続している場合を指す[31]ヨーロッパ北西部ではセグロカモメニシセグロカモメが互いに交配せず別種であると識別できるが、そこから東に向かい、北極の周りを一周してヨーロッパに戻ると、ニシセグロカモメが次第に変化してセグロカモメにいたる一連の亜種が観察でき、明瞭な種の区別はない。

比較解剖学から

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相似と相同

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進化の証拠は化石だけではなく、現生生物の形態を比較することからも得られている。たとえば陸上脊椎動物は外見上非常に多様であり、コウモリや鳥のように飛翔するものまで含まれる。それにもかかわらず、すべて基本的には同一の骨格を持ち、配置を比較することで相同(進化的な由来を同じくする)なを特定することができる。このことは、陸上脊椎動物が単一の共通祖先を持ち、祖先の形態を変化させながら多様化してきたことを示している[32][33]。それぞれの種が独立に誕生したとしたら、鳥のと哺乳類の前脚のように全く機能の異なるものを、基本的に同一の骨格の変形のみで作る必然性はない。

機能が異なっていても由来と基本的構造を同じくする相同とは逆に、由来や構造の異なる器官が同一の機能を果たし、類似した形態を持つことを相似という。たとえばコウモリと鳥、翼竜はどれも前肢が翼となっているが、翼を支持する骨は大きく異なっている[34]。鳥は羽毛によって翼の面積を大きくしており、の骨の多くは癒合して数を減らしているのに対し、コウモリは掌と指の骨を非常に長く発達させて、その間にを張ることで翼を構成している。その一方で、翼竜の翼は極端に長く伸びた薬指1本で支持されている。これは、翼を持たなかった共通祖先から、翼を持つ系統がそれぞれ別個に進化してきた(収斂進化)と考えれば合理的に理解できる。

痕跡

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ガラパゴスコバネウは飛べないが、痕跡的な翼を持つ。

進化がもともとの形態を改変して進んできたのだとしたら、生物には祖先の形態の名残が見られるはずである。実際に痕跡の例は枚挙に暇がなく、飛べない鳥の持つ痕跡的な翼、洞窟に住むホラアナサンショウウオ英語版の痕跡的なヒト虫垂などが挙げられる[35][36]。このような現象は、退化と言われ、進化の一側面をなすと考えられる。これらの器官は必ずしも何の機能も持たないわけではないが、本来の機能を果たしていた祖先からの進化を考えない限り、その存在を説明することはできない[35]

同様の証拠は解剖学のみならず、遺伝子の研究からも得られている。分子生物学の研究により、生物のゲノムには多数の偽遺伝子が含まれることが明らかになった。偽遺伝子とは、機能を持つ遺伝子と配列が似ているにもかかわらず、その機能を失っている塩基配列のことである[3]。偽遺伝子は、かつて機能していた遺伝子が、環境の変化などによって不要になり、機能を失わせる突然変異自然選択によって排除されなくなったことで生じると考えられている。一例として、嗅覚受容体の遺伝子が挙げられる。多くの哺乳類は嗅覚に強く依存した生活をしているため、多数の嗅覚受容体遺伝子を持つ。しかし視覚への依存が強く嗅覚の重要性が低い霊長類や、水中生活によって嗅覚が必要なくなったイルカ類では、嗅覚受容体遺伝子の多くが偽遺伝子として存在している。これは、霊長類やイルカ類が、より嗅覚に依存する生活をしていた祖先から進化したことを強く示唆している[37]

不合理な形態

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進化は既存の形態を徐々に変化させて進んでいくこともあり、一から設計しなおすようなことは起こらない[38]。その結果として機能的に不合理な形態に進化してしまうことがある。極端な例は反回神経である。これは喉頭をつなぐ神経であり、サメではその間を最短に近い経路で結んでいる。しかし、脊椎動物の進化過程での構造が変化するなかで、哺乳類では、この神経は喉頭から心臓の辺りまで下り、その後また上昇して脳にいたるという明らかな遠回りをするようになった。その結果、直線で結べば数センチメートルでよいはずの神経が、ヒトでは10センチメートル程度、キリンでは数メートルに及ぶ長さになっている[39]。同様に哺乳類の輸精管は、精巣ペニスを最短距離で結ぶためはなく、尿管の上まで迂回するように伸びている。これは、哺乳類の進化過程で体内にあった精巣が下に下りてきたときに生じた不合理であると考えられる[40][41]。同様の不合理な形態は、人体にも数多く見られる[42][43]

系統分類学から

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生物分類学の祖とされるリンネはダーウィンより前の時代に生きた創造論者だったが、入れ子状の階層的な分類体系を構築した。生物が共通祖先から分岐を繰り返して多様化してきたものだと考えれば、入れ子の各階層は一つの分岐点を反映するものとして解釈できる。そのため、形態に加えてDNAの塩基配列を含むさまざまな特徴が、例外はあるもののかなり一致した入れ子状の分類体系を支持するという事実は、共通祖先からの進化によって説明できる[44][45]

近年ではDNAの比較に基づく系統推定が盛んに行われている。このとき、複数の遺伝子をそれぞれ解析すると、細部は異なるにせよおおまかに一致した系統樹を支持することが多い。もし生物がそれぞれ別個に起源していたとしたら、異なる遺伝子が同じ傾向を示すと考える理由はないだろう[46]

発生生物学から

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多細胞生物は一細胞から胚発生の過程を経て体を形成していく。この過程にも、進化の証拠が多く見られる。

有名なのは、ドイツ生物学エルンスト・ヘッケルの唱えた反復説である。ヘッケルは、「個体発生は系統発生を繰り返す」と言われるように、生物は胚発生の過程でその祖先の形態を繰り返すと主張した。現在では、この説は必ずしも成り立たないものとされているが、それでも発生過程に進化の痕跡を見て取れるのは確かである[47][48]。たとえば脊椎動物のはすべて魚のような形態をしており、哺乳類のように成体ではを持たないものの胚も鰓弓を持つ[47]

観察された進化

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ガラパゴスフィンチの進化は長期の野外調査により観察されている。

以上の証拠は過去の進化過程を明らかにするものだが、現在進んでいる進化が観察されたこともある[49]。古典的な例はオオシモフリエダシャク工業暗化である。このには白色型と黒色型がいるが、工業の発展に伴う煤煙樹木表面が黒く汚れた結果、捕食者である鳥から姿を隠しやすい黒色型のガが急激に頻度を増した[50]。次いで有名なのはガラパゴスフィンチの事例で、グラント夫妻らの30年以上にわたる長期の調査により、環境変動に伴う自然淘汰がの進化を引き起こしたことが確認されている[51][52]病原菌害虫抗生物質殺虫剤で対処しようとすると、急速に薬剤抵抗性が進化することもよく知られている[53]

実験進化

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ロシアの神経細胞学者であるリュドミラ・ニコラエブナ・トルット英語版ロシア科学アカデミー遺伝学者ドミトリ・ベリャーエフは共同研究でキツネ人為選択による馴致化実験を行った[54][55]。100頭あまりのキツネを掛け合わせ、もっとも人間になつく個体を選択して配合を繰り返すことで、わずか40世代でイヌのようにしっぽを振り、人間になつく個体を生み出すことに成功した。同時に、耳が丸くなるなど飼い犬のような形質を発現することも観察された[56][57][58]。これはなつきやすさという性質が、(自然、あるいは人為的に)選択されうることを示している。

人為的に進化を引き起こす研究も行われている。エンドラーはグッピーを異なる環境に移動させることによって、の体色が捕食者とによる配偶者選択に応じて進化することを明らかにした[59][60]。レンスキーらは大腸菌の長期培養実験によって、代謝能力の進化を観察している[61][62]。また人為淘汰による進化は、農業における品種改良に応用されている[63]。植物では、倍数化による種分化(後述)を実験的に再現することにも成功している[64]

進化のしくみ

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現在、進化を説明する理論として最も支持されているのは進化の総合説と呼ばれるものであり、ダーウィンウォーレス自然選択説と、メンデルの遺伝子の理論、集団遺伝学の理論や木村資生中立進化説を統合したものである。この総合説によれば、突然変異によって生じた遺伝子の変異はランダムでない自然選択と、確率的に起こる遺伝的浮動によって個体群中に固定し、新しい形質の出現や種分化などの進化現象を引き起こすと考えられる。

遺伝的変異

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ある形質について変異が全くなければ、その形質は進化しない。変異があっても、その変異が次世代に伝わる傾向がなければ(すなわち、遺伝しなければ)進化は起こらない。

DNAの配列に突然変異が生じることで、新たな形質が出現する

遺伝において親から子に受け渡されるのは遺伝子であり、その実体はDNAの塩基配列情報である。DNAは細胞分裂に際して複製されるが、その過程でエラー、すなわち突然変異が起こることがある。これによって生じる個体差が遺伝的変異である。さらには、突然変異によって生じた遺伝子が有性生殖接合によって組み換えられることによっても、新しい遺伝的変異が生じる[65]

DNA配列上には現れないが遺伝子発現の変化による遺伝形質の変化についても、研究が進められている。塩基配列の変化を伴わない遺伝子の制御はエピジェネティクスと呼ばれ、DNAのメチル化による遺伝子発現抑制やヒストンの化学修飾による遺伝子発現変化などがある[66]。しかしこの様な化学修飾は細胞分化に大きな役割を持ち、化学修飾が多世代を超えて長期間維持されることはないため、進化の原動力になるか疑問である。ただゲノムには狭義の遺伝子(コーディング領域)のみでなく遺伝子の制御領域(プロモーターシスエレメント)があり、遺伝子の制御領域の突然変異が進化の原動力になる事がある[67]

一般的に、突然変異は「ランダム」に起こると言われる。これは、環境に応じて適応的な変異がより生じやすくなるというようなことはない[注釈 1]という意味であり、あらゆる意味でランダムというわけではないということに注意する必要がある[68][69][70]ラマルクは、より多く使われた器官が発達し、その発達が次世代に遺伝することで適応的な遺伝的変異が生じるとした(用不用説)が、この説は誤りであることがわかっている[71]。突然変異はこのような説を否定する意味においてのみ「ランダム」である。実際には突然変異はあらゆる意味で「ランダム」とは言えず、たとえば放射線発癌性物質によって誘発される。

突然変異は発生の過程を変化させることによって表現型を変化させるため、変化の範囲には限りがある[72]。この制約がどの程度実際の進化に影響するかについては議論がある[73]

この他に、他の生物が持つ遺伝子が他生物に取り込まれることでその遺伝子を獲得することがある(遺伝子の水平伝播)。

遺伝子の頻度変化

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遺伝的変異が生じても、その変異(あるいはその変異のもととなる対立遺伝子)を持つ個体が子孫を残さなければ、その変異は個体群から消失する。しかし一部の変異は頻度を増して個体群内に定着(固定)し、個体群の特徴を変化させることになる。

対立遺伝子頻度は、以下の2つの過程によって変化する[74]

  • 自然選択
  • 遺伝的浮動

自然選択

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自然選択の模式図。図中では色の濃い個体ほど有利とされている。突然変異が様々な形質をもたらすが、そのうち生存に好ましくない変異が消滅し、残った個体が次世代に子孫を残す。この繰り返しによって、個体群が進化していく。

一部の遺伝的変異はそれを持つ生物個体の適応度(生存と繁殖)に影響する。その多くは適応度を低下させるため、それを持つ個体は子孫を残せず、変異は消失する(負の自然選択)。しかし、中には適応度を高める突然変異もある。たとえばレンスキーらは大腸菌の長期培養実験のなかで、クエン酸塩を利用できるようになる突然変異が稀に生じるのを観察した[62]

適応度を高める対立遺伝子は、それを持つ個体が持たない個体よりも平均して多くの子孫を残すため、個体群内で頻度を増す。この過程を正の自然選択という。正の自然選択によって、生物個体群は世代を経るにつれてより適応的な形質を持つように進化していく。自然選択は、適応進化を説明できる唯一の機構である[75]

モリマイマイの殻の色彩には大きな変異がある。

自然選択において有利になる形質は環境条件によって異なる。モリマイマイ英語版(ヨーロッパに生息するカタツムリの一種)の殻の色彩は変異が大きく、個体群によって色と模様が異なる。これは、生息環境によって捕食者の目を逃れるのに適した色、体温調節に適した色が異なるため、自然選択によって個体群ごとに異なる色彩が進化したのだと考えられる[76]。形質の適応度がその頻度によって決まることもある。たとえば、もし捕食者が多数派の模様を学習し、まれなタイプの模様はあまり食べないということがあれば、ある模様の適応度がその頻度が少ないときに高くなる。このような自然選択を頻度依存選択と呼ぶ[76]

広義には自然選択に含まれるが、性選択も適応度に影響する。性選択は、配偶者をめぐる同性間の競争や、異性による配偶者の選り好みによって起こる選択のことをいう。たとえばコクホウジャク英語版というでは、長い尾羽を持つ雄が雌に好まれるため、そのような雄の適応度は高くなる[77]

自然選択は個体あるいは遺伝子を単位として考えられることが多いが、かつては個体の集まったグループを単位とした自然選択(群選択あるいは集団選択)が重視されていた。かつてのような粗雑な群選択理論は今では否定されているが、グループを含む複数の階層での選択を考慮する複数レベル選択説が提唱されており、その重要性について議論になっている[78]

遺伝的浮動による遺伝子頻度変化のシミュレーション。個体数の少ない集団(上、10個体)では、個体数の多い場合(下、100個体)よりも浮動による変化が大きい。

遺伝的浮動

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遺伝的変異の中には、適応度に全く、あるいはごくわずかしか影響しないものも多い。その場合には、遺伝子頻度はランダムに、確率的に変動することになる。また適応度に影響する場合でも、確率的な変動の影響は受ける。このランダムな遺伝子頻度の変化を遺伝的浮動という[79]。遺伝的浮動はとくに数の少ない個体群において重要である。そのため、少数の個体が新しい生息地に移住して定着した場合に遺伝子頻度が大きく変化することがあり、これを創始者効果という[80]

木村資生は、遺伝子レベルの進化においては遺伝的浮動が重要であると指摘した(分子進化の中立説[81]。分子進化の中立説は、塩基配列のデータをよく説明できる。表現型レベルでも、適応度上中立な変化であれば遺伝的浮動によって進化することはありうるが、実際にはほとんどないと考えられている[82][注釈 2]

進化の速度

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形態の進化

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化石が多く見つかっている系統の進化速度は、より新しい化石と古い化石の形態を比較することで調べることができる。量的な形態進化の速度は、100万年あたりネイピア数倍(約2.7倍)の変化を1ダーウィンとして定義する[83]。離散的な形態の進化については、いくつかの形質状態を定義して、その変化の回数を数えることで計測できる[84]。分類群の数を利用した進化速度の定義もあり、ある期間におけるある系統がいくつの種(あるいはなどより高次の分類群)に分けられるかによって進化速度を測定する。たとえば、ウマ類の系統は現生のものを除くと、5000万年の間に8属を経過してきたため、約625万年あたり1属の進化速度で進化してきたと計算できる[85]

進化速度は系統によって大きく異なり、進化速度が非常に遅いために祖先の化石種とほとんど変わらない形態を持つものを生きている化石と呼ぶ。ただし、同じ系統でも進化速度は一定ではない。たとえばハイギョ類は生きている化石として有名であり、確かに中生代以降の進化速度はかなり遅いが、古生代においてはむしろ急速に進化していた[84]。また、すべての形質の進化速度が同じ傾向を示すわけでもない。ヒトの系統が脳の大きさに関して他の霊長類、たとえばアイアイに比べて急速な進化を遂げてきたのは明らかだが、同時にアイアイのはヒトの歯よりも初期霊長類と比べて違いが大きく、歯の形態に関してはアイアイのほうが進化速度が速かったと考えられる[86]

形態の進化速度に関わる断続平衡説については、種分化との関連で後ほど取り上げる。

分子進化

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分子レベルの進化速度は、単位時間(あるいは世代数)あたりの塩基置換数として計測できる。分子進化の中立説によれば、世代あたりの塩基置換速度は中立な突然変異率によって決まるため、突然変異率が一定ならば一定の速度で進化すると予測される。この予測は、塩基配列の比較から系統が分岐した年代を推定する分子時計の根拠となっている[82][87]

わずかな塩基配列の変化で機能が損なわれるような遺伝子は、中立な突然変異が少ないため、進化速度が遅くなる[88][89]。逆に、もはやその役目を果たさない偽遺伝子ではほとんどの突然変異が中立になるため、進化速度が非常に速い。たとえば、地中に棲息し眼が退化したシリアヒメメクラネズミ英語版では、レンズを作るタンパク質をコードする遺伝子が偽遺伝子化し、急速に進化している[90]

大進化

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種内で起こる形質の変化を小進化というのに対し、新しい種や、種より高次の分類群の起源や絶滅のプロセスを大進化という。このような区別がなされるのは、大進化を小進化の積み重ねで説明できるかどうかについて議論があるためである[91]。しかし一般的には、大進化も小進化の延長として理解できると考えられている[91]

種分化

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1種が2種以上に分岐し、新しい種が形成されることを種分化という。種の定義は多数あるが、進化生物学においては「相互に交配可能な生物の集団」として定義されることが多い(生物学的種概念)。したがって種分化は、集団間に生殖隔離が生じることを意味する[92]

前述したセグロカモメの事例のほか、エシュショルツサンショウウオ[93]などで知られる輪状種の存在は、わずかな進化の累積が種分化を引き起こすことを示している[94]

一度に種分化が起こる事例も報告されている。たとえばカタツムリの殻の巻きは単一の遺伝子によって決定されているが、この遺伝子に突然変異が起こって右巻きになると、巻きの違う個体同士は交尾できないことが多いため、生殖隔離が成立する[95][96]。植物では、倍数体(全ゲノムが倍化した個体)が、もとの種と生殖できなくなることによる種分化がかなり頻繁に起こっていると考えられている[97]

断続平衡説

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漸進的進化(上)と断続平衡説(下)の対比。縦軸は下から上への時間の流れを、横軸は形態の類似の程度を表現している

地層中の化石の出現パターンを調べると、基本的な形態はあまり変化しないで安定な状態にあり、新しい形態をもつ化石は、ある地層に突然現れ、その後長い年月の間、形態はふたたび安定して、あまり変化しないという傾向がある[注釈 3]。古生物学者のエルドリッジグールドは、このような現象を断続平衡現象と呼んだ[98]。エルドリッジらは、進化は種分化のときにのみ急激に起こり、その他の期間は停滞すると主張した。

断続平衡説は種分化の重要な側面を捉えているという評価もある[99]一方で、批判も多い。たとえば断続平衡説は生物学的種概念に基づく種分化の理論を援用しているが、化石種は交配可能性ではなく形態に基づいて分類されているため、化石種と生物学的種は必ずしも一致しない[100]。実際に形態の変化を定量的に追跡できる事例についてみると、断続平衡的な進化を示す系統もあるが、一方で連続的に進化している系統もある[101]。また、断続平衡説は主流の進化理論に矛盾すると言われたこともあるが、実際には一般的な進化理論の範疇で理解できるものである[102][103][104]

進化に関する誤解

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進化という概念は、日常生活でも頻繁に使用されるためか、誤解されていることが多い。よく見られる誤解について以下に述べる。

進化に目的があるという誤解
「高い所の葉を食べるために、キリンの首は伸びた」といった表現はよく使われる。しかし、首が伸びるという突然変異は目的とは関係なく起こり、それに自然選択が働いたにすぎない[105]。もっとも、無目的な突然変異と自然選択によって、あたかも目的を持って作られたかのような器官が生み出されるのも確かである。ドーキンスはこのことを「盲目の時計職人」という比喩で表現した[106]
進化は進歩であるという誤解
地中で生活するモグラの目が退化していることも進化の結果であるように、進化は必ずしも器官の発達や複雑化をもたらすわけではなく、また知能を発達させるとも限らない[107]。まして、ヒトが進化の頂点であり、進化はヒトを目指して進むなどと考えるべきではない[108]。ヒトは他の現生生物と同じく、各々の環境に適応し、枝分かれしながら進む進化系統樹の末端の枝の一つにすぎない。ただしこれは進歩を複雑化やヒト化として定義した場合の話であり、定義によっては何らかの「進歩」(適応の向上、進化可能性の増大など)を進化に見出すことは可能だとする考えもある[109][110]
この誤解は、進化(英語: evolution)という語にその一因があるかもしれない。英語の「evolution」という語はラテン語の「evolvere」(展開する)に由来し、発生学においては前成説の発生過程を意味する語であったほか、日常語としては進歩(progress)と強く結びついて使われる。そのためダーウィンはこの語をほとんど使わず、変化を伴う由来(descent with modification)という表現を好んだ[111]evolution という語が生物進化の意味で使われるようになったのはスペンサーの影響である。このことは日本語の「進化」とも関連している。明治初期の日本ではダーウィンよりもスペンサーの影響が大きかったため、evolution は万物の進歩を意味するスペンサーの用語として「進化」と訳されたが、これが現在にも続く、進化は進歩であるという誤解を招いている[112]
「チンパンジーはいずれヒトに進化するのか」「ヒトがチンパンジーから進化したなら、なぜチンパンジーがまだいるのか」という疑問
ヒトと他の類人猿は、共通の祖先から進化した
ヒトはチンパンジーと共通祖先を持ち、ヒトもチンパンジーもそこから独自の進化を遂げてきたにすぎないため、この疑問は的外れである[113][114][115]。ヒトは数百万年前に、チンパンジー(およびボノボ)との共通祖先から分岐したと推定されている。この共通祖先はたまたまヒトよりはチンパンジーに似ていたと思われるが、それはヒトの系統がより多くの変化を遂げた結果にすぎず、共通祖先はチンパンジーともヒトとも異なる類人猿であった[114]
この誤解は、生物は下等なものから高等なものまで一列に配列され、進化はその序列の中で梯子を登るように進むという、より深い誤解を反映したものである[113]。実際には、進化は分岐を繰り返しながら進むものであり、現生の生物はどれも等しく系統樹の末端に位置づけられる。

生物学以外での「進化」概念

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「進化」という概念は、ダーウィン以来の進化生物学の成功により有力となったが、生物学の影響を受けて、あるいはそれとは独立に「進化」という概念は、さまざまな学問分野において重要な役割を果たしている。たとえば、「進化経済学[116]「進化経営学」「進化心理学」「進化的計算」などは前者の例、「宇宙の進化」[117]は後者の例である。

生物学の影響を受け、「進化」概念を研究・分析の中核に据えるとき、進化生物学の進化概念をどの程度忠実に移植するかについての議論は多い[116]。進化経済学では、意図せざる進化と共に、意図された進化が重要であるとされることが多い[118]

脚注

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注釈

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  1. ^ 寒いからといって、毛皮を厚くする突然変異が暑い場所よりも生じやすくなることはないなど。
  2. ^ ただし、表現型と分子のそれぞれにおいて、浮動と選択がどの程度重要かについては議論がある。斎藤(2008)は表現型の進化も浮動によって起こる可能性を指摘しているが、逆にオール(2009)は分子進化も相当部分が選択によると主張している。
  3. ^ ただし、古生物学でいう「突然」とは数万年程度の時間を指す。

出典

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参考文献

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関連項目

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外部リンク

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