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「秒」の版間の差分

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{{Otheruses|[[時間]]の単位|角度の単位|秒 (角度)}}
{{Otheruses|[[時間]]の単位|角度の単位|秒 (角度)}}
{{単位
|名称=秒
|読み=びょう
|画像=[[ファイル:Atomicclock.jpg|250px|原子時計]]<br>原子時計
|フランス語=seconde
|英語=second
|スペイン語=segundo
|記号=s (sec, sec. などではない)
|単位系=SI
|種類=[[SI基本単位|基本単位]]
|物理量=[[時間]]
|定義=秒(記号は s)は、時間のSI単位であり、セシウム周波数 ∆''ν''{{sub|Cs}}、すなわち、セシウム133原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位 Hz(s{{sup|-1}} に等しい)で表したときに、その数値を{{val|9192631770}} と定めることによって定義される
|由来=[[平均太陽日]]([[LOD]])の1/{{val|86400}}
}}
'''秒'''(びょう、{{lang-en-short|second}}, {{lang-fr-short|seconde}} 、記号 '''s''')は、[[国際単位系]] (SI) における[[時間]]の[[単位]]である。他の[[量]]とは関係せず完全に独立して与えられる7つの[[SI基本単位]]の一つである{{Sfn|BIPM|2006a}}<ref name=Ube-k>{{Cite web|和書|url=http://www.ube-k.ac.jp/~oki/class/IE/pre/sec1_note.pdf|format=PDF|title=計測工学 ‐第1回(測定と単位系)‐pp. 1–2‐平成20年4月10日|author=沖俊任|publisher=[[宇部工業高等専門学校]]|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>。秒の単位記号は、「s」であり、「sec」などとしてはならない([[秒#表記]])。


「秒」は、歴史的には[[地球の自転]]の周期の長さ、すなわち「一日の長さ」([[LOD]]<ref>{{lang-en-short|length of day}}</ref>)を基に[[定義]]されていた<ref>{{cite book|title=Splitting the second: the story of atomic time|first1=Tony|last1=Jones|publisher=Institute of Physics Pub|date=2000年|isbn=0750306408|url=https://books.google.be/books?id=krZBQbnHTY0C}}</ref>。すなわち、LODを24分割した[[太陽時]]を60分割して「[[分]]」、さらにこれを60分割して「秒」が決められ、結果として[[LOD]]の{{val|86400}}分の1が「秒」と定義されてきた。しかしながら、19世紀から20世紀にかけての[[天文学]]的観測から、LODには10{{sup-|8}}程度の変動があることが判明し<ref name=Wada34>[[#和田2002|和田 (2002)、第2章 長さ、時間、質量の単位の歴史、pp. 34–35、3.時間の単位:地球から原子へ]]</ref>、時間の定義にはそぐわないと判断された。そのため、地球の[[公転周期]]に基づく定義を経て、1967年に、原子核が持つ普遍的な現象を利用した[[原子時計#セシウム原子時計|セシウム原子時計]]が秒の定義として採用された。
{{単位|名称=秒(びょう)|記号=s|単位系=[[国際単位系]](基本単位)|物理量=[[時間]]|定義=セシウム133の原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の9 192 631 770倍に等しい時間|由来=[[平均太陽日]]の1/86,400|画像=[[ファイル:Atomicclock.jpg|250px|原子時計]]<br/>原子時計}}


なお、1秒は偶然にも[[人間]]の標準的な[[心拍数|心臓拍動]]の間隔に近い<ref name=Wada34 />。
'''秒'''(second, 記号:s)は[[時間]]の[[物理単位|単位]]である。[[国際単位系]](SI)の7つの[[SI基本単位|基本単位]]のうちの一つであり、時間の基本となる単位となっている。


== 定義 ==
秒は歴史的には1[[分]]の60分の1、1[[日]]の86,400分の1の時間として定められたものであるが(1日=24[[時間 (単位)|時間]]、1時間=60[[分]])、より正確な値にするために何度か定義が改められ、現在の定義は、
「秒」は、[[2019年]]5月以降、以下のように定義されている。
:[[セシウム|セシウム133]](<sup>133</sup>Cs)の原子の[[基底状態]]の2つの[[超微細構造|超微細準位]]の間の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍に等しい時間
([[計量単位令]]による。括弧内は編者注)となっている。


{{Quotation|秒(記号は s)は、時間の SI 単位であり、[[セシウム]]周波数 ''∆&nu;''{{sub|Cs}}、すなわち、セシウム 133 原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位 Hz(s{{sup-|1}} に等しい)で表したときに、その数値を {{val|9192631770}} と定めることによって定義される<ref>[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/SI_9th_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88_r.pdf#page=16 国際単位系(SI)第 9 版(2019)] p.99、産業技術総合研究所、計量標準総合センター、2020年3月</ref><ref group="注">国際単位系における正式の言語はフランス語である。ここでの定義は英語及びこれを日本語に翻訳したものである。正式な本文の確認が必要な場合又は文章の解釈に疑義がある場合はフランス語版を確認する必要がある。</ref>。
SIにおける秒の記号は"s"を用いる。(ただし英語での略語である"sec"を使用する人が多く見られる。)日本語の文章中では記号を用いずに「秒」と書かれることが多い。
}}

この定義を受けて、日本の[[計量法]]においては「セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の{{val|9192631770}}倍に等しい時間」(計量単位令別表第一第3項)と定義されている{{sfn|平成4年政令第367号|1992|loc=第2条、別表第1の時間 秒の項}}。

== 表記 ==
=== 単位記号 ===
秒の単位記号は、[[小文字]]・[[立体活字|立体]]の「s」である<ref>{{Cite web|和書|url=https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=404M50000400080#91 |title=計量単位規則(平成四年通商産業省令第八十号)別表第二(第2条関係)時間、「秒」の欄 |accessdate=2019-12-23}}</ref>。しばしば「sec」や「sec.」と書かれることがあるが、これらの表記は[[国際単位系]]および日本の[[計量法]]では認められておらず、誤りである<ref>[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/pamphlet/si/SIdata202004.pdf 国際単位系(SI)は世界共通のルールです(PDF)] 2ページの右下の「誤りやすい単位記号の例」として「50 sec (正しくは→50 s)」と例示されている。</ref><ref>[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/SI_9th_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88_r.pdf 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版] p.116、産業技術総合研究所、計量標準総合センター、「単位の記号や名称の省略語を使ってはならない。例えば、sec は使わず、s または秒のいずれかとする。(中略)SI 単位および単位全般について、本文書で前述した正式な記号を使わなければならない。これによって、量の値に関する曖昧さや誤解が回避される。」</ref>。

=== 漢字表記 ===
漢字「秒」の本来の意味は、小麦や稲などの穂先の堅い毛すなわち{{読み仮名|芒|のぎ}}のことである。そこから、わずかなもの、微細なものの意味となった<ref name=Saijo3-4 />。『{{lang|zh|孫子算経}}』では、小数の位取りに「{{lang|zh|秒}}」を用い、「[[毛 (数)|{{lang|zh|毛}}]]({{lang|zh|毫}})」の10分の1(すなわち0.0001、1万分の1)を「{{lang|zh|秒}}」としている<ref>[http://zh.wikisource.org/zh/%E5%AD%AB%E5%AD%90%E7%AE%97%E7%B6%93 {{lang|zh|維基文庫}}「{{lang|zh|孫子算經}}」]</ref>。[[宋 (王朝)|宋]]時代にこの秒は「[[糸 (数)|{{lang|zh|糸}}]]」に置き替えられた。[[明]]時代に西洋の[[時法]]が伝わったとき、わずかな時間である「{{lang|en|second}}」に「{{lang|zh|秒}}」の字が宛てられた。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
{{see also|時計の歴史}}
=== 地球の自転周期に基づく秒 ===
=== 機械時計成立以前の秒 ===
英語の"[[second]]"は、元々"second minute"(第2の分)と呼んでいたことによる。それに対して分のことは"prime minute"と呼んでいた。すなわち、1時間に対する第1の分割、第2の分割という意味である。1時間を60等分したのは、[[六十進記数法|六十進法]]を使用していた[[バビロニア]]人によるものと考えられている。1日を24時間に分割するのは、それより以前にエジプト人によって始められたことであった。これにより、1秒は[[平均太陽日]]の86,400分の1となった。
古代の[[古代バビロニア|バビロニア]]そして[[古代中国|中国]]では、1日を12等分する時間を設け、これを[[日時計]]による観測で確認をしていた<ref name=Saijo3-3>[[#西條2009|西條 (2009)、3講.秒 pp. 23–24、3.時間測定の始まり]]</ref>。また、少なくとも紀元前2000年頃には[[エジプト]]では1日を[[昼]]と[[夜]]に分け、それぞれを12の時間単位で区切っていた<ref name=Saijo3-3 />。これは[[不定時法]]と呼ばれ、[[季節]]による昼や夜の長さ変動から、それら時間単位の実際の長さは一定していなかった。[[古代ギリシア]]の[[ヒッパルコス]](紀元前150年前後)と[[古代ローマ]]の[[クラウディオス・プトレマイオス]](150年前後)は、それぞれ1日を[[六十進法]]で細分し、平均化された1時間(1日の24分割)や、1時間の単純な[[分数]](1/4や2/3など)そして時間の度合い(現代の「分」にも通じる1日の360分割)などを用いたが、これらは現代の分や秒とは異なっていた<ref>{{cite book|title=Ptolemey's Almagest|first1=G. J.|last1=Toomer|publisher=[[プリンストン大学]]出版局|location=Princeton、[[ニュージャージー州]][[プリンストン (ニュージャージー州)|プリンストン]]|date=1998年|pages=6–7, 23, 211–216}}</ref>。

六十進法の定義によって分けられる1日は 1/60のn乗の時間区分を設けていくことになるが、300年頃のバビロニアでは少なくとも(1/60){{sup|6}}までの分割(2マイクロ秒よりも短い)を行っていた。ただし、そのようなごく短い時間単位を基準に用いていた訳ではなく、例えば1年という[[時間]]を細分単位で表すような場合には1日の60分割単位を基礎としていた。バビロニアでは1日を360分割した she という単位(現代の4分に相当する時間)、これをさらに72分割した helek という単位(現代の10/3秒に相当する時間、ユダヤ暦の「ヘレク」と同じ)を使っていた<ref>{{cite journal|author=O Neugebauer|date=1949年|title=The astronomy of Maimonides and its sources|journal=[[ヘブライ・ユニオン・カレッジ]]・アニューアル|volume=22|pages=321–360|doi=|id=}}</ref>。彼らはこれらの単位時間を正確に測定を行う手段は持っていなかったが、計算で、例えば1[[朔望月]]の平均時間を六十進法で29;31,50,8,20日(≒{{val|29.5305941358|u=日}})という値を得ていた。この計算方法はヒッパルコスとプトレマイオスが使っていた方法である。この「ヘレク」は1080分の1時間であり<ref>{{cite book|author=O Neugebauer|date=1975年|title=A history of ancient mathematical astronomy|publisher=[[シュプリンガー・サイエンス・アンド・ビジネス・メディア|シュプリンガー・フェアラーク]]|isbn=038706995X}}</ref>。[[ユダヤ暦]]では、平均月を29日と12時間793{{仮リンク|ヘレク|en|helek}}(=29日と12.734時間)とする。

西暦1000年、[[ペルシア人]]の学者[[アブー・ライハーン・アル・ビールーニー]]は、[[新月]]となる週に、[[日曜日]]の[[正午]]を基準点とした「日、時、分、秒」さらに秒より細かな2段階の区分を施した<ref>{{cite book|author=アブー・ライハーン・アル・ビールーニー|date=1879年|title=The chronology of ancient nations: an English version of the Arabic text of the Athâr-ul-Bâkiya of Albîrûnî, or "Vestiges of the Past"|url=https://books.google.co.jp/books?id=pFIEAAAAIAAJ&pg=PA148&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q=|pages=147-149|others=Sachau C Edward}}</ref>。1267年には[[ロジャー・ベーコン]]が、[[満月]]日の正午を基準に「時({{lang|ang|horae}})、分({{lang|ang|minuta}})、秒({{lang|ang|secunda}})」さらに細かな {{lang|ang|tertia}} と {{lang|ang|quarta}} へ分けた<ref>{{cite book|author=ロジャー・ベーコン|date=2000年|origyear=1928年|title=The Opus Majus of Roger Bacon|publisher=[[ペンシルベニア大学]]出版局|page=table facing page 231|isbn=9781855068568|nopp=true|others=BR Belle}}</ref>。「秒」を60分の1に細分する用語{{lang|ang|tertia}}は、英語では{{lang|en|third}}となり、現代の[[ポーランド語]]「{{lang|pl|tercja}}」や[[トルコ語]]「{{lang|tr|salise}}」に残っているが、通常は小数点以下2桁で示される。またこの{{lang|en|third}}に相当する漢字の単位名称は現代ではまず用いられないが、中国・日本の西洋時法伝来以降の古文献では「微」が用いられた。{{lang|ang|tertia}}の下の{{lang|ang|quarta}}は英語では{{lang|en|fourth}}となり、中国・日本の古文献における漢字名称としては「繊」が用いられた。それより下の六十進法による分割単位も存在するが、それについては[[六十進法#単位]]を参照のこと。

現代英語の「{{lang|en|second}}」は、元々「第二の分」「次の分」を意味する「{{lang|en|second minute}}」と呼んでいたことを由来とする<ref name=Saijo3-4>[[#西條2009|西條 (2009)、3講.秒 pp. 24–26、4.「秒」の起源と制定‐天文時から原子時へ‐]]</ref>。それに対して分のことは「第一の分」を意味する「{{lang|en|prime minute}}」と呼んでいた。すなわち、1[[時間 (単位)|時間]]に対する第1の分割、第2の分割という意味である。

=== 秒表示を持つ機械時計 ===
[[時計]]が秒単位を表示するようになった初期の例は、16世紀後半に現れる。1560–1570年の[[フレマースドルフ・コレクション]]<ref>{{lang-en-short|Fremersdorf collection}}</ref>には、秒針を持つ[[ねじ]]式時計がある<ref>[[#Landes1983|Landes (1983), pp. 417–418.]]</ref><ref>{{cite book|title=Clocks & watches|first1=Johann|last1=Willsberger|publisher=Dial Press|location=New York|date=1975年|chapter=full page color photo: 4th caption page, 3rd photo thereafter (neither pages nor photos are numbered)|pages=}}</ref>。同じ頃、{{仮リンク|タキ・アルジン|en|Taqi al-Din Muhammad ibn Ma'ruf}}は5秒刻みの表示をする時計を製作した<ref>[https://books.google.co.jp/books?id=raKRY3KQspsC&pg=PA934&redir_esc=y&hl=ja Taqi al-Din]</ref><ref>[http://muslimheritage.com/topics/default.cfm?ArticleID=947 The astronomical clock of Taqi al-Din: Virtual reconstruction].</ref>。1579年には[[ヨスト・ビュルギ]]が[[ヴィルヘルム5世 (ヘッセン=カッセル方伯)|ヴィルヘルム5世]]の依頼を受け、秒を示す時計を作った<ref>[[#Landes1983|Landes (1983), p105]]</ref>。1581年には[[ティコ・ブラーエ]]が[[天文台]]の時計を改修した際に[[分]]と秒の表示を加え、1587年に彼は、この時計は4秒の狂いしか生じなかったと述べた<ref name=Landes>[[#Landes1983|Landes (1983), p104]] </ref>。

秒表示の正確性は、[[振り子時計]]が発明され、日時計による見かけ時間の表示から平均時を表すことができるようになって向上した。特に1670年にビル・クレメント(William Clement)が[[クリスティアーン・ホイヘンス]]の時計に{{仮リンク|秒振り子|en|seconds pendulum}}を加えた事が顕著に貢献した<ref>{{cite journal|author=J Chappell|date=2002|title=The Long Case Clock: The Science and Engineering that Goes Into a Grandfather Clock|url=http://illumin.usc.edu/article.php?articleID=64&page=1|journal=Illumin|volume=1|issue=0|pages=2|doi=}}</ref>。{{仮リンク|ロングケース・クロック|en|longcase clock}}の秒振り子は一往復で2秒を示し、片方からもう一方へ振れる際に鳴る機械音が1秒毎の時間を刻んだ。そして、精密時計の[[文字盤]]には1分間で一周する秒針が加えられるようになった。


日本の法令では、[[1951年]](昭和26年)に制定された[[s:計量法 (昭和二十六年)|計量法]]で、時間の[[計量単位]]として秒が定められ、「秒は、[[太陽時|平均太陽日]]の{{gaps|1/86|400}}とし、東京天文台が秒として決定する時間で[[現示]]する」とされた<ref>{{Citation|和書|year=1951|date=1951-06-07|title=[[s:計量法 (昭和二十六年)|計量法]](公布時)(昭和26年法律第207号)|at=第3条第3号|id={{NDLJP|2963871}}、[https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/01019510607207.htm 衆議院-制定法律] }}</ref>。当時の東京天文台(現[[国立天文台]])では、[[天文台#子午儀・子午環|子午儀]]による[[恒星]]の観測で時を測定し、測定結果を[[外挿]]して標準時計であるリーフラー[[振り子時計]]<ref>{{Cite web |和書 |url=https://www.kahaku.go.jp/exhibitions/vm/past_parmanent/rikou/clock/riefler.html |title=リーフラー天文時計 |trans-title= |accessdate=2024-07-11 |author=国立科学博物館 |authorlink=国立科学博物館 |coauthors= |date=2008 |year=2008 |format=html |website=国立科学博物館 |work=理工電子資料館 |publisher=国立科学博物館 |page= |pages= |quote= |language=ja |archiveurl= |archivedate= |url-status= |url-status-date= |doi= |hdl= |ref=harv}}</ref>の歩度を調整して保時していたといわれる<ref>{{Cite journal|和書|author=中桐正夫|date=2009-01-28|year=2009|title=昭和26年の東京天文台見学の栞|journal=アーカイブ室新聞|issue=123|page=3|publisher=[[国立天文台]]|location=東京都[[三鷹市]]|url=https://prc.nao.ac.jp/prc_arc/arc_news/arc_news123.pdf|format=PDF|accessdate=2013-12-29}}</ref>。
ただし、地球の自転周期は24時間(1日の長さ)ではなく、23.9345時間であることに注意されたい。これは、地球が太陽の周りを365.25636日周期で公転しているため、太陽に向かう角度が、1日あたり0.0657時間(= 24/365.25636)ずつずれていくからである。このため、さまざまな[[暦]]では[[閏]]によって誤差を修正している。


=== 地球の公転周期に基づく秒 ===
=== 地球の公転周期に基づく秒 ===
歴史的には地球の[[自転周期]]すなわち一日の長さ([[LOD]])は一定だと考えられていた。ところが、[[クォーツ時計]]の精度が向上すると、LODには[[潮汐力]]<ref name=NICT>{{Cite web|和書|url=http://www2.nict.go.jp/w/w114/afs/One-Second.html|title=1秒の定義|author=|publisher=独立行政法人情報通信研究機構|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://rikanet2.jst.go.jp/contents/cp0320a/contents/chishiki/answer06/index.html|title=宇宙・天文まめ知識 地球の自転速度は一定か?|author=|publisher=財団法人科学技術振興機構|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>や季節変動<ref name=K.Kodama>{{Cite web|和書|url=http://www.math.kobe-u.ac.jp/~kodama/tips-measure.html|title=単位、秒|author=K.KODAMA|publisher=[[神戸大学]]理学部数学科|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>による1ミリ秒から2ミリ秒程度の変動、すなわち10{{sup-|8}}日程度の変動があることが分かってきた<ref>[http://hpiers.obspm.fr/eop-pc/] Excess of the LOD 過去の約1年間のLODの揺れ</ref>。このため、LODを元にした定義では、精度上の問題があることが判明した。
しかし、地球の[[自転周期]]は一定でなく、平均太陽日を元にした定義では秒が正確に定義できないことがわかった。そこで、[[1954年]]の第10回[[国際度量衡総会]](CGPM)での決議に基づき、[[1956年]]の[[国際度量衡委員会]](CIPM)において、「[[1900年]]の年初に近い時で、太陽の幾何学([[章動]]と[[光行差]]の影響を除いた)平均[[黄経]]が 279度41分48.04秒 なる時刻を基点として測り、この時刻を[[暦表時]]1900年[[1月0日]]<!-- 0日は誤記ではない -->の12時(日本時間で1899年12月31日21時)と定義する。[[暦表時]]秒とはこの時刻から1[[太陽年]]の 1/31,556,925.9747」と定義が改められた。このときに使用したのは、18世紀から19世紀までの天文観測に基づいて1900年以降の太陽の運動を示す方程式を記述した「[[サイモン・ニューカム|ニューカム]]による太陽の見かけの([[光行差]]を考慮した)平均[[黄経]]」であった。この定義は1960年の第11回国際度量衡総会で批准された。1900年というのは、これが平均太陽日が86,400秒になる時代であるという意味ではない。単に時間を決めるための基準点としてきりの良い日附が選ばれただけである。暦表時とは、ニュートン力学に基づき地球の公転周期を元にして定めた時刻である。

LODの変化には、[[海流]]や[[大気]]の循環、さらに地球の[[核 (天体)|核]]の流動なども影響を及ぼしている。また、[[地震]]の発生も潮汐力による変動の1000分の1程度のわずかの自転周期の変動を起こす<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.sci.hokudai.ac.jp/science/science/H17_02/tibutu/sumatra.htm|title=スマトラ沖地震と地球|author=日置幸介|publisher=[[北海道大学]]理学研究科・地球惑星科学専攻・宇宙測地学研究室|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>。

なお、LODが数年間の期間内に徐々に長くなっている(又は、地球の自転が遅くなっている)ことが閏秒が設けられている理由であるということが広範に信じられているきらいがあるが、これは、誤解である。詳細は[[閏秒#閏秒挿入の理由についての間違った理解|閏秒挿入の理由についての間違った理解]]、[[地球の自転]]を参照のこと。

このLODの不安定性を受けて、1954年の第10回[[国際度量衡総会]](CGPM)での決議に基づき、1956年の[[国際度量衡委員会]](CIPM)において、秒の定義を地球自転よりも変動が少ない公転に求め<ref name=NICT />、「1900年の年初に近い時で、太陽の[[幾何学]]([[章動]]と[[光行差]]の影響を除いた)平均[[黄経]]が 279[[度 (角度)|度]]41[[分 (角度)|分]]48.04[[秒 (角度)|秒]] となる[[時刻]]を基点として測り、この時刻を[[暦表時]]1900年[[1月0日]]の12時([[日本標準時]]で1899年12月31日21時)と定義する。暦表秒はこの時刻から1[[太陽年]]の {{gaps|1/31|556|925.9747}}」と改められた<ref name=Saijo3-4 />。日本の法令では、1958年(昭和33年)に改正された[[s:計量法 (昭和三十三年)|計量法]]で、「秒は、[[1899年|明治32年]][[12月31日]]午後9時における地球の公転の平均角速度に基いて算定した1太陽年の{{gaps|1/31|556|925.9747}}として[[国立天文台|東京天文台]]が現示する」とされた<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/02819580415061.htm|title=計量法の一部を改正する法律(昭和33年法律第61号)|accessdate=2013-12-29|date=1958-04-15|year=1958|format=html|work=衆議院-制定法律|publisher=[[衆議院]]|language=日本語}}第3条第3号</ref>。当時の東京天文台では、[[写真天頂筒]](PZT)で時の計測を行い水晶時計で保時していたといわれる<ref>{{Cite journal|和書|author=飯島重孝|date=1955-05|year=1955|title=保時と報時|journal=天文月報|volume=48|issue=05|pages=67-70|publisher=[[日本天文学会]]|location=東京都[[三鷹市]]|issn=0374-2466|naid=40018111534|id={{NCID|AN00154555}}|url=https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1955/pdf/195505.pdf|format=PDF|accessdate=2014-01-24}}</ref>。[[暦表時]]とは、[[ニュートン力学]]に基づき地球の[[公転周期]]を元にして定めた時刻である。このときに使用されたのは、18世紀から19世紀までの天文観測に基づいて1900年以降の太陽の運動を示す[[方程式]]を記述した「[[サイモン・ニューカム|ニューカム]]による太陽の見かけの([[光行差]]を考慮した)平均[[黄経]]」であった<ref name="USNO">{{cite web|title=Leap Seconds|publisher=Time Service Department, [[アメリカ海軍天文台]]|url=http://tycho.usno.navy.mil/leapsec.html|accessdate=2006-12-31}}</ref>。この定義は1960年の第11回国際度量衡総会 (CGPM) で批准された{{Sfn|BIPM|2006b|pp=23,50,60|loc=§2.1.1.3、付録1}}。1900年というのは、この年における平均太陽日が{{val|86400}}秒になるという意味ではなく、単に時間を決めるための基準点としてきりの良い日付が選ばれたに過ぎない。そのため、基準値をもう一度[[測定]]しようとしても1900年に遡って行うことは不可能であり、再現性に課題を抱えていた<ref name=K.Kodama />。


=== 原子時計による秒 ===
=== 原子時計による秒 ===
新たな定義は、[[アルカリ金属]]である[[セシウム]]を用いた[[原子時計]]によるものである<ref name=Saijo3-4 />。セシウムは天然では[[原子量]]133の[[元素]]のみが存在し、かつその[[沸点]]は671℃と低く、他の元素に比べて使いやすいために、原子時計に採用されていた<ref name=Saijo3-4 />。そのため、観測によってのみしか決定できない地球の公転よりも、実験室で求めることが可能な原子時計を直接用いて秒の定義を決めることが効率的と考えられた<ref name=Saijo3-4 />。これには、[[量子力学]]の原理から、すべての{{sup|133}}Cs原子には個別の差が存在しないため、原理的に同一の定義が可能という特色もある<ref>{{Cite web|和書|title=基礎物理学 2007年度|author=木口勝義|publisher=[[近畿大学]]理工学総合研究所|url=http://www.rist.kindai.ac.jp/~kiguchi/h19/buturi-1/chap1.pdf|format=PDF|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>。
[[原子時計]]が開発されたことにより、観測によってしか決定できない地球の公転よりも、実験室で求めることのできる原子時計を秒の定義に使うことが決定された。


[[1955年]]6月に[[イギリス]]の[[イギリス国立物理学研究所|国立物理学研究所]] (NPL) がセシウム原子時計を実用化すると、いくつかの[[国家]]は原子時計を導入し、時系の運用に使用し始めた<ref>{{Cite web|和書|title=タイムスタンプ局に対するUTCトレーサビリティ保証のTA技術要件に関する検討 中間報告|publisher=TA認定基準の国際整合化に向けた検討WG 財団法人日本データ通信境界|url=http://www.dekyo.or.jp/tb/linkdocument/data/ta.pdf|format=PDF|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>。まず、原子時計には[[誤差]]の徹底的な洗い出しと対策が施され<ref name=Major>{{Cite book|和書|author=F.G.マジョール|translator=盛永篤郎|title=量子の鼓動:原子時計の原理と応用|publisher=シュプリンガー・ジャパン|date=2006|edition=|pages=207|isbn=9784431712060|url=https://books.google.co.jp/books?id=C6jG-aq_RtIC&pg=PR3&lpg=PR3&dq=%22%E5%8E%9F%E5%AD%90%E6%99%82%E8%A8%88%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%22&source=bl&ots=RB9sRBCa8k&sig=chN5yA10US3hrP9Zbmd90FhTtpk&hl=ja#v=onepage&q=%22%E5%8E%9F%E5%AD%90%E6%99%82%E8%A8%88%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%22&f=false }}</ref>、そして[[アメリカ海軍天文台]] (USNO) の{{仮リンク|ウィリアム・マーコウィッツ|en|William Markowitz}}と[[イギリス国立物理学研究所]](NPL)の{{仮リンク|ルイ・エッセン|en|Louis Essen}}によってセシウム原子の超微細遷移周波数と暦表秒との関係が求められた<ref name="USNO"/><ref name=mark58>{{cite journal|author=W Markowitz, RG Hall, L Essen, JVL Parry|date=1958|url=http://www.leapsecond.com/history/1958-PhysRev-v1-n3-Markowitz-Hall-Essen-Parry.pdf|title=Frequency of cesium in terms of ephemeris time|journal=[[Physical Review Letters]]|volume=1|issue=|pages=105–107|doi=10.1103/PhysRevLett.1.105}}</ref>。マーコウィッツとエッセンは、3年間の共同研究を経て1秒が{{val|9192631770}}周期だという数値を得た。これは、1951年にマーコウィッツが発明した[[天体|星]]と月の動きを同時に追える月観測用[[カメラ]]をUSNOが2台、[[大西洋]]を挟んで<ref name=Sciam>{{cite web|title=How does one arrive at the exact number of cycles of radiation a cesium-133 atom makes in order to define one second? (The Story of Atomic Time)|author=Tony Jones|publisher=Scientific American|url=http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=how-does-one-arrive-at-th|language=英語|date=2002-12-16|accessdate=2010-11-13}}</ref>並列で設置し、月による[[星食]]から、高精度の[[暦表時]]を確認することで得られた<ref name=Final>{{cite web|title=Final Answers Measurements & Units|author=Gérard P. Michon|publisher=numericana.com|url=http://www.numericana.com/answer/units.htm|language=英語|accessdate=2010-11-13}}</ref>。また、この観測でNPLは、アメリカ内陸部[[コロラド州]]の{{仮リンク|米国標準電波局|en|WWV (radio station)|label=標準電波局}}[[短波放送]]による[[識別信号]]を使い、2台の原子時計の比較調整を行った<ref name=Sciam /><ref name=Final />。
その数年後、アメリカ海軍観測所(USNO)の2人の天文学者とイギリス国立物理学研究所の2人の天文学者が、セシウム原子の超微細遷移周波数と暦表秒との間の関係を求めた。<!-- この一文、よーわからん。 Using a common-view measurement method based on the received signals from [[radio station]] [[WWV]], they determined the orbital motion of the [[Moon]] about the Earth, from which the apparent motion of the Sun could be inferred, in terms of time as measured by an atomic clock. -->その結果、[[1967年]]の第13回国際度量衡総会において、現在の原子時によるSIの秒の定義が決定された。


1956年に[[国際度量衡委員会]] (CIPM) の下部機関として設置された、「秒の定義に関する諮問委員会 (CCDS、現CCTF)」第1回会議で、エッセンはセシウム原子時計と天文時系の比較結果を報告し、セシウム原子周波数標準を秒の原器にするよう強く主張した。しかしその会議では、メートルの定義をメートル原器からクリプトン原子波長に置き換えた前例と同じように、10年間ぐらいは各種周波数標準と比較研究する必要があると結論された<ref>{{Cite journal|和書|author=宮地政司|authorlink=宮地政司|date=1958|year=1958|title=秒の定義に関する諮問委員会|url=https://doi.org/10.11499/sicejl1951.8.189|journal=計測|volume=8|issue=4|pages=189-190|publisher=[[計測自動制御学会]]|location=東京都|issn=1883-8154|doi=10.11499/sicejl1951.8.189 }}{{オープンアクセス}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author=宮地政司|authorlink=宮地政司|date=1974|year=1974|title=日本測地学会20周年紀念特別講演 時と測地―測地衛星と月レーザ観測のすすめ―|journal=測地学会誌|volume=20|issue=1-2|page=102|publisher=日本測地学会|location=東京都|issn=2185-517X|doi=10.11366/sokuchi1954.20.100|id={{JOI|JST.Journalarchive/sokuchi1954/20.100}} }}{{オープンアクセス}}</ref>。
基底状態は[[磁場]]0の状態で定義される。このようにして定められる秒は暦表秒に等しい。


その後、1964年には、第12回[[国際度量衡総会]] (CGPM) で高度の時間計測のために原子的標準に到達する緊急性を認め、CGPM決議5による委任に基づいてCIPMで時間の物理学的測定のために暫定的に用いるべき原子又は分子に基づく周波数標準の指定を行った{{Sfn|BIPMb|2006|pp=50, 63–64|loc=付録1}}。そして、40カ国の代表が参加した1967年の第13回CGPMにおいて、セシウム原子時計によるSIの秒の定義が決定された<ref>[http://www2.nict.go.jp/aeri/sts/afs/One-Second.html 1秒の定義] NICT 情報通信研究機構</ref><ref name=Major />。日本の法令では、1972年(昭和47年)に改正された[[s:計量法 (昭和四十七年)|計量法]]で、「秒は、セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の{{val|9192631770}}倍に等しい時間として現示する」とされ、秒を東京天文台が現示する定めがなくなり、どの機関が現示するのかは明示されなくなった<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/02819580415061.htm|title=計量法の一部を改正する法律(昭和47年法律第27号)|accessdate=2013-12-29|date=1972-05-09|year=1972|format=html|work=衆議院-制定法律|publisher=[[衆議院]]|language=日本語}}第3条第3号</ref>。さらに、1992年(平成4年)に[[s:計量法 (昭和六十一年)|旧計量法]]が全部改訂され、新たな[[計量法]]の規定に基づく[[s:計量単位令|計量単位令]]により、秒は定義だけが示され、国の機関が秒を現示する定めはなくなった{{sfn|平成4年法律第51号|1992|loc=第3条}}{{sfn|平成4年政令第367号|1992|loc=第2条、別表第1の時間 秒の項}}。1997年の[[国際度量衡局]] (BIPM) の会議では「秒の定義は0 [[ケルビン|K]]の下で静止した状態にあるセシウム原子に基準を置いている」という声明が出された<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.nmij.jp/library/units/time/|title=時間|author=|publisher=独立行政法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>。しかし現実には、[[絶対零度]]、止まった原子、そして外部からの[[電磁波]]等を全く排除した状態を作り出すことは事実上不可能であり、この理想状況との差異を評価して補正を加えなければならない。これを自動で行う機器の例には、一次周波数標準器がある<ref name=NICT />。日本では、法令で秒を現示する指定がない状態が継続していたが、2003年(平成15年)に、秒の現示に代わって時間(秒)の逆数で表される周波数について、周波数標準器が[[経済産業大臣]]から特定標準器{{sfn|平成4年法律第51号|1992|loc=第134条}}として指定された<ref>{{Cite journal|和書|author=森川容雄|date=2003-03|year=2003|title=日本の時間・周波数標準制度の変遷 (時間・周波数標準特集) -- (時間・周波数標準の基礎)|journal=通信総合研究所季報|volume=Vol.49|issue=Nos.1/2 2003年3・6月号|pages=30-31|at=§4.4.2|publisher=[[通信総合研究所]]|location=東京都[[小金井市]]|issn=0914-9279|naid=40006212876|id={{NCID|AN10098304}}|url=https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/kihou-vol49no1.2/02-04.pdf|format=PDF|accessdate=2013-12-29}}</ref>。なお、国家標準(特定標準器)には、[[独立行政法人]][[情報通信研究機構]](NICT)と独立行政法人[[産業技術総合研究所]]計量標準総合センター(NMIJ)の周波数標準器(原子時計)が指定されている<ref>{{Cite web|和書|url=https://jjy.nict.go.jp/QandA/FAQ/time_qa.html#q11|title=標準時・周波数標準のQ&amp;A 周波数と時刻に関するQ&amp;A - Q 時間の国家標準|accessdate=2014-01-05|author=情報通信研究機構|authorlink=情報通信研究機構|date=2005|year=2005|format=html|work=標準時・周波数標準のQ&A|publisher=情報通信研究機構|language=日本語}}</ref>。
秒の定義について、1997年の[[国際度量衡局]](BIPM)の会議で「この定義は0[[ケルビン]](K)の下で静止した状態にあるセシウム原子に基準を置いている」という声明が出された。
<!-- In practice, this means that high-precision realizations of the second should compensate for the effects of ambient radiation to try to extrapolate to the value of the second as defined above. -->


この補則は SI 秒の定義が、[[黒体輻射]]により[[摂動]]を受けないセシウム原子に基づいていることを明確にしている。すなわち、周囲環境が[[熱力学的温度]]で0 K である。
== 名称 ==

「秒」という漢字の元々の意味は、[[小麦]]や[[稲]]などの[[芒]](のぎ。穂先の堅い毛)のことである。そこから、わずかなもの、微細なものの意味となった。『孫子算経』では、小数の位取りに「秒」を用い、[[毛 (数)|毛]]の10分の1(すなわち0.0001、1万分の1)を秒としている。[[宋 (王朝)|宋]]代にこの秒は[[糸 (数)|糸]]に置き替えられた。[[明]]代に西洋の[[時法]]が伝わったとき、わずかな時間であるsecondに秒の字が宛てられた。
=== 新しい定義への模索 ===
もっと精度の高い定義として、現行のマイクロ波による定義から光に基づく定義に変更する研究が進んでいる。その候補としては光格子時計などが研究されており、[[国際度量衡局]]は、「秒の二次表現」(秒の新しい定義の候補)として、9種類<ref>[https://www.nmij.jp/public/report/bulletin/BOM/Vol9/4/V9N4P471.pdf 光格子時計の研究開発状況と応用に関する調査研究] 小林拓実、『産総研計量標準報告』 Vol.9, No.4、表1 p.474、2018年6月(この表では、8種類のみを掲載している)</ref>を採択している<ref>安田正美、”単位は進化する 究極の精度をめざして”、p.144、「「新たな秒の定義の候補に挙がっている時計は世界で9種類あり、」、DOJIN選書078、株式会社化学同人、2018年8月20日第1版第1刷、ISBN 978-4-7598-1678-5 </ref>。光格子時計としては、[[原子時計#ストロンチウム光格子時計|ストロンチウム格子時計]]と[[原子時計#イッテルビウム光格子時計|イッテルビウム格子時計]]<ref>[https://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/2012/nr20121101/nr20121101.html イッテルビウム光格子時計が新しい秒の定義の候補に] -秒の高精度化に貢献する次世代原子時計-、産総研、2012年11月01日</ref>の2つがある。

これの研究の進展により、10{{sup-|18}}程度の精度を持つ時計が実現されようとしており<ref> [https://www.nmij.jp/public/report/bulletin/BOM/Vol9/4/V9N4P471.pdf 光格子時計の研究開発状況と応用に関する調査研究] 小林拓実、産総研計量標準報告 Vol.9, No.4、p.477、2018年6月</ref>、これをもとに、2026年(第28回[[国際度量衡総会]]が開催)か2030年(第29回[[国際度量衡総会]]が開催)を目途に、新しい秒の定義が採択される見込みである<ref name="名前なし-1">[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/3_SI_%E7%A7%92.pdf 時間の単位「秒」についての基礎解説と最新動向] 洪鋒雷・安田正美、7.3 秒の再定義ロードマップ、p.33、2019年2月</ref><ref>安田正美、”単位は進化する 究極の精度をめざして”、p.143、「2026年頃に再定義があると見込まれています。」、DOJIN選書078、株式会社化学同人、2018年8月20日第1版第1刷、ISBN 978-4-7598-1678-5</ref><ref>[https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2018/pr20180921/pr20180921.html 長期間運転可能なイッテルビウム光格子時計の開発] -新しい「秒」の定義の有力候補の一つとして、国際的な標準時の精度向上に期待-、産総研、2018年09月21日 </ref><ref name=sicejl.55.1103>臼田孝, 藤井賢一, 保坂一元、[https://doi.org/10.11499/sicejl.55.1103 単位諮問委員会(CCU)報告]」 『計測と制御』 2016年 55巻 12号 p.1103-1108, {{doi|10.11499/sicejl.55.1103}}</ref><ref>[https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1681-7575/ab0013/pdf The revision of the SI—the result of three decades of progress in metrology] Michael Stock,et al、"8. The second"、 p.10、Metrologia 56 (2019) 022001 (14pp)、Published 22 February 2019</ref>。

定義採択の条件としては、次の5つが挙げられている<ref name=sicejl.55.1103 /><ref>[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/3_SI_%E7%A7%92.pdf 時間の単位「秒」についての基礎解説と最新動向] 洪鋒雷・安田正美、7.2 秒の再定義に向けたマイルストーン、pp.32-33、2019年2月</ref>。
# ~10{{sup-|18}} の相対不確かさの光時計が3つ以上出現すること。
# 3つ以上の異なる研究所において~10{{sup-|18}} の相対不確かさで,光時計の同等性を確認できること。
# 原子泉方式セシウム1次周波数標準器との比較において,{{val|3|e=-16}} 以下の相対不確かさで,周波数が決定できること。
# 異なる光時計の周波数比が2つ以上の研究機関で {{val|5|e=-18}} 以下の相対不確かさで測定されること。そして,このような周波数比の測定の実績が5つ以上になること。
# 国際原子時 (TAI) への定期的な貢献が可能になること。

=== 定義の変遷 ===
{|class="wikitable"
|+ 秒の定義と不確かさの変遷
! 年
! 定義内容
! 相対的な不確かさ
|-
|‐
|平均太陽日(LOD)の1/{{val|86400}} (=1/(24*60*60) )<ref name=K.Kodama />
|{{10^|-8}}<ref name=Hosokawa>{{cite journal|和書|url=https://doi.org/10.11316/peu.14.3_125|title=秒の定義のこれまでとこれから‐単位の定義変遷から見えるもの‐|author=細川瑞彦|publisher=日本物理学会構|journal =大学の物理教育|doi=10.11316/peu.14.3_125|date=2008|volume=14|issue=3|page=125-129|accessdate=2019-5-28}}</ref>
|-
|1960年
|1900年1月0日12時から1太陽年の1/{{val|31556925.9747}}<ref name=K.Kodama /><br>(1956年CGPM)
|{{10^|-10}}<ref name=Hosokawa />
|-
|1967年
|2つの基底状態セシウム133超微細準位間の遷移に対応する<br>放射周期の{{val|9192631770}}倍に等しい時間(第13回CGPM)
|{{10^|-10}}<ref name=Kuga>{{Cite web|和書|url=http://photon.c.u-tokyo.ac.jp/~kuga/ss/100806OpenCampus/100805OpenCampus_web.pdf|format=PDF|title=細かい話で恐縮ですが|author=久我隆弘|pages=4-5|publisher=[[東京大学]]大学院総合文化研究科|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>
|-
|1997年
|0 Kにおける静止したセシウム原子の時計<br>(1997年CIPM)
|{{10^|-12}}<ref name=Kuga />
|-
|(参考)
|可視光領域の遷移を利用する原子時計など
|{{10^|-14}}<ref name=Kuga /> – {{10^|-16}}<ref name=Hosokawa />
|-
|2026年に提案し2030年に採択の見込み<ref>[https://www.bipm.org/documents/20126/66742098/Draft-Resolutions-2022.pdf/2e8e53df-7a14-3fc8-8a04-42dd47df1a04 Draft Resolutions – 27th meeting of the CGPM] Draft Resolution E, p.25, 2021年12月</ref><ref name="名前なし-1"/>
|光格子時計
|{{10^|-18}}<ref name=sicejl.55.1103 />
|}


== 倍量・分量単位 ==
== 倍量・分量単位 ==
{|class=infobox
秒の倍量単位は、定義上は[[キロ]]秒、[[メガ]]秒などもありうるが、通常は[[分]]・[[時間 (単位)|時間]]・[[日]]・[[週]]・[[月 (暦)|月]]・[[年]]・[[世紀]]・[[ミレニアム|千年紀]]などの慣用の単位が使われるため、[[SI接頭辞|接頭辞]]つきの単位はほとんど用いられない。参考までに、これらの慣用の単位を秒だけで表すと以下のようになる。
|-
* 1分 = 60 s
|{{SI multiples
* 1時間 = 60分 = 3 600 s = 3.6 ks
|symbol=s
* 1日(平均太陽日) = 24時間 = 86 400 s = 86.4 ks
|unit=秒
* 1週 = 7日 = 604 800 s = 604.8 ks
|note=よく使われる単位を太字で示す
* 1月 = 30日(31日の月もある) = 2 592 000 s = 2.592 Ms
|m=|mc=|n=
* 1年(暦表年) = 365日(366日の年もある) = 31 536 000 s = 31.536 Ms
}}
* 1世紀 = 100年 = 36 524日(24回[[閏日]]があるものとする) = 3 155 673 600 s = 約 3.1557 Gs
|}
* 1千年紀 = 1000年 = 365 243日(243回閏日があるものとする) = 31 556 955 200 s = 約 31.557 Gs

他の多くの[[SI単位]]と同様、[[物理単位#倍量単位・分量単位|倍量単位・分量単位]]として[[SI接頭語]]を秒に付けることができる<ref>[https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/SI_9th_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88_r.pdf 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版] p.112、産業技術総合研究所、計量標準総合センター </ref>。秒の倍量単位は、規定上は[[キロ]]秒、[[メガ]]秒などもありうるが、通常は、[[非SI単位]]である[[分]]・[[時間_(単位)|時]]・[[日]]・[[週]]・[[月_(暦)|月]]・[[年]]・[[世紀]]などの慣用の単位が使われるため、[[SI接頭語]]つきの単位はほとんど用いられない。

* 1 min(分)= 60 s
* 1 h(時)= 60 min = {{val|3600|u=s}} = {{val|3.6|u=ks}}
* 1 d(日)= 24 h = {{val|86400|u=s}} = {{val|86.4|u=ks}}
上記の3つの単位は、国際単位系(SI)の公式文書<ref> [https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/SI_9th_%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E%E7%89%88_r.pdf 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版] [[産業技術総合研究所]]、計量標準総合センター、p.114、表8、2020年4月</ref>に記載がある「[[SI単位]]と併用できる[[非SI単位]]」である([[SI併用単位#SI併用単位]])。
なお、平均太陽日([[LOD]])は観測によって決まるものであり、単位としての日(d)(= 正確に {{val|86400|u=s}})とは、ずれがあることに注意(詳細は、[[地球の自転]]、[[閏秒]]を参照)。

以下の単位は、[[国際単位系]](SI)では定義されていない。年と世紀は、天文学では通常、[[ユリウス年]]と[[ユリウス年#ユリウス世紀|ユリウス世紀]]を用いる。定義は[[国際天文学連合]]による<ref>[http://www.iau.org/science/publications/proceedings_rules/units/ {{lang|en|Table 5. Non-SI units that are recognised for use in astronomny.}}](国際天文学連合)</ref>。
* 週 = 7日 = {{val|604800|u=s}} = {{val|604.8|u=ks}}
* 月 = 28日、29日、30日、又は31日
* ユリウス年 (単位:a)= 365.25日 = {{val|31557600|u=s}} = {{val|31.5576|u=Ms}}
* ユリウス世紀(単位:T)= 100 ユリウス年 = 36 525日 = {{val|3155760000|u=s}} = {{val|3.15576|u=Gs}}

逆に1秒は慣用の単位では以下のように表される(全て、6桁目を四捨五入している)。
逆に1秒は慣用の単位では以下のように表される(全て、6桁目を四捨五入している)。
* 1秒 = 1.6667 × 10<sup>-2</sup> 分
*1秒 = {{val|1.6667|e=-2|u=min}}
* 1秒 = 2.7778 × 10<sup>-4</sup> 時間
*1秒 = {{val|2.7778|e=-4|u=h}}
* 1秒 = 1.1574 × 10<sup>-5</sup> 日
*1秒 = {{val|1.1574|e=-5|u=d}}
* 1秒 = 1.6534 × 10<sup>-6</sup>
*1秒 = {{val|1.6534|e=-6}}

* 1秒 = 3.8580 × 10<sup>-7</sup> 月
* 1秒 = 3.1710 × 10<sup>-8</sup>
*1秒 = {{val|3.1688|e=-8}} ユリウス
* 1秒 = 3.1689 × 10<sup>-10</sup> 世紀
*1秒 = {{val|3.1688|e=-10}} ユリウス世紀
* 1秒 = 3.1689 × 10<sup>-11</sup> 千年紀


分量単位には以下のものがある。
分量単位には以下のものがある。
{|class=wikitable
*'''ミリ秒'''(ms)は1,000分の1秒に等しい。ミリ秒は、[[音声学]]で[[音素]]の期間を測るためによく使われる。また、一般的な[[ストップウオッチ]]における最小の単位でもある
!nowrap|分量単位
*'''マイクロ秒'''(µs)は100万分の1(10<sup>-6</sup>)秒に等しい。マイクロ秒は、原子の反応や化学反応のような、通常わずかな時間で起こるような現象の時間の計測によく用いられる。
!nowrap|記号
*'''ナノ秒'''(ns)は、10<sup>-9</sup>秒に等しい。
!nowrap|時間
**ナノ秒が日常生活に登場することはまずない。技術的な場面では、[[コンピュータ]]、[[電気通信]]、パルス[[レーザー]]といくつかの電子機器でよく使われる単位である。
!備考
**1ナノ秒の間に光は真空中を 299.792458 mm(これは[[メートル]]の定義値に基づく正確な値である)進む。しかし、真空以外の空間中ではそれよりも遅くなり、それは[[屈折率]]''n''(1以上)によって示される。空気(''n'' = 1.000292)中では光は1ナノ秒間に約 298.9 mm 進むが、水(''n'' = 1.33)の中では約 225.4 mm になる。
|-
*'''ピコ秒'''(ps)は、10<sup>-12</sup>秒に等しい。
|nowrap|'''ミリ秒'''
*'''フェムト秒'''(fs)は、10<sup>-15</sup>秒に等しい。
|nowrap|ms
**[[可視光]]の波は、およそ1フェムト秒の周期で振動する。
|nowrap|10{{sup-|3}}秒<br>1000分の1秒
*'''アト秒'''(as)は、10<sup>-18</sup>秒に等しい。
|
**現在、計測することのできる最も短い時間(2004年2月現在)は100アト秒である。[http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/3486160.stm (BBCニュース)]
* [[音声学]]で[[音素]]の期間を測るためによく使われる。また、一般的な[[ストップウオッチ]]における最小の単位でもある
*'''ゼプト秒'''(zs)は、10<sup>-21</sup>秒に等しい。
|-
*'''ヨクト秒'''(ys)は、10<sup>-24</sup>秒に等しい。
|nowrap|'''マイクロ秒'''
|nowrap|&mu;s
|nowrap|10{{sup-|6}}秒<br>100万分の1秒
|
* 原子の反応や[[化学反応]]のような、通常わずかな時間で起こるような現象の時間の計測によく用いられる。
|-
|nowrap|'''[[ナノ秒]]'''
|nowrap|ns
|nowrap|10{{sup-|9}}秒<br>10億分の1秒
|
* 日常生活に登場することはまずない。技術的な場面では、[[コンピュータ]]、[[電気通信]]、パルス[[レーザー]]といくつかの電子機器でよく使われる単位である。
* 光は1ナノ秒間に真空中を正確に {{val|299.792458|u=mm}} 進む。しかし、真空以外の空間中ではそれよりも遅くなり、それは[[屈折率]] ''n''(1以上)によって示される。[[空気]] (''n'' = {{val|1.000292}}) 中では光は1ナノ秒間に約 298.9 mm 進むが、[[水]] (''n'' = 1.33) の中では約 225.4 mm になる。
|-
|nowrap|'''ピコ秒'''
|nowrap|ps
|nowrap|10{{sup-|12}}秒<br>1兆分の1秒
|
|-
|nowrap|'''フェムト秒'''
|nowrap|fs
|nowrap|10{{sup-|15}}秒<br>1000兆分の1秒
|
* [[可視光]]領域の[[波長]]をもつ[[電磁波]]は、[[電場]]と[[磁場]]がおよそ1フェムト秒の周期で振動しながら空間を伝播していく。
|-
|nowrap|'''アト秒'''
|nowrap|as
|nowrap|10{{sup-|18}}秒<br>100京分の1秒
|
*現在、計測することのできる最も短い時間(2004年2月現在)は100アト秒である<ref>[http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/3486160.stm {{lang|en|Shortest time interval measured}}](英国放送協会、ニュース)</ref>。
|-
|nowrap|'''ゼプト秒'''
|nowrap|zs
|nowrap|10{{sup-|21}}秒<br>10垓分の1秒
|
|-
|nowrap|'''ヨクト秒'''
|nowrap|ys
|nowrap|10{{sup-|24}}秒<br>1𥝱分の1秒
|
|-
|nowrap|'''ロント秒'''
|nowrap|rs
|nowrap|10{{sup-|27}}秒<br>1000𥝱分の1秒
|-
|nowrap|'''クエクト秒'''
|nowrap|qs
|nowrap|10{{sup-|30}}秒<br>100穣分の1秒
|}


== 国際原子時と閏秒 ==
== 関連項目 ==
{{main|国際原子時|協定世界時|閏秒}}
*[[閏秒]]
原子時計で定義された秒を基礎に置いた[[時刻]]、正確には世界中にある300台以上の原子時計が算出する平均によって決められる時系があり、これを[[国際原子時]] (TAI) と呼び、[[1958年]][[1月1日]]0時に[[世界時]] (UT) に合わせて開始している<ref name=Jstpro>{{Cite web|和書|url=https://jjy.nict.go.jp/mission/page1.html|title=研究業務内容・標準時 国際原子時・協定世界時とうるう秒|author=|publisher=独立行政法人情報通信研究機構 日本標準時プロジェクト|language=日本語|accessdate=2010-11-13}}</ref>。ところで、[[地球の自転]]に基づく世界時 (UT) は、地球の自転の[[角速度]]の変動により、国際原子時 (TAI) との間にズレが生じる<ref group="注">「地球の自転が遅くなっている」といった表現がこの説明において文献でもしばしば見られる。しかし、地球と月との相互作用によって、月が「[[潮汐加速]]」され地球の自転が「潮汐減速」されている、という現象は事実ではあるが相当に長期的な現象で、短期的と言えるこれまでの人類による観測において見られる変動はそれよりもずっと大きく、潮汐減速はその主な要因ではない。たとえばNICTによる解説([https://jjy.nict.go.jp/mission/page1.html 国際原子時・協定世界時とうるう秒])から以下に引用するが、「地球の自転が遅くなっているため」といったようには説明していない。 ■協定世界時(UTC )とうるう秒調整、「'''地球の自転速度は、[[潮汐摩擦]]などの影響によって変化する'''ため、世界時(UT)と協定世界時(UTC)との間には差が生じます。そこで、協定世界時 (UTC) に1秒を挿入・削除して世界時UT1との差が0.9秒以上にならないように調整しています。」</ref>。日常生活に使用される時刻の基礎である[[協定世界時]] (UTC) は1972年以後、原子時計に基づく国際原子時 (TAI) と全く同じ歩度(秒間隔)を維持しながら、[[正午]]近くに[[太陽]]が[[正中]]に来るように時刻を設定するため、協定世界時 (UTC) と世界時の UT1 との差が0.9秒を超えないようにする、[[閏秒]]調整を行っている<ref name=Jstpro />。
*[[協定世界時]]
*[[周期]]
*[[時間の比較]]


1961年から1971年までは標準周波数の[[オフセット]]と時刻のステップ調整で世界時の UT2 に近似していた(旧協定世界時)。1972年からはこのステップ調整は廃止されることになり、代わりに協定世界時 (UTC) と国際原子時 (TAI) との差を整数秒となるように調整することとなった。この制度変更を受けて1972年1月1日0時の協定世界時 (UTC) と国際原子時 (TAI) との差が正確に10秒(協定世界時 (UTC) が国際原子時 (TAI) から10秒遅れ)となるように調整(特別調整という)された。同時に、それ以降の協定世界時 (UTC) と国際原子時 (TAI)との歩度を調整する方法は、[[閏秒]]を適宜加えるか除くやり方に改められた(詳細は、[[閏秒]]の項を参照)。
== 外部リンク ==
*[http://www.bipm.fr/en/si/si_brochure/chapter2/2-1/second.html Official BIPM definition of the second]


1972年以降の閏秒の調整は、すべて閏秒1秒を加える操作であって、2017年までにこれが27回実施された。結果、特別調整(10秒)を加えると協定世界時と国際原子時との差異は2017年段階で37秒となっている<ref name=Jstpro/>。
{{DEFAULTSORT:ひよう}}

==固有時と座標時==
[[一般相対性理論]]によれば、狂いのない理想的な時計であっても、それが刻む[[時刻]]は、その時計が過去に、どのような[[重力場]]のなかをどのような運動をしたか、によって変わってくる。このような時刻を「[[固有時]]」と呼ぶ。これに対して、共通の基準となる目盛りのついた[[時間]]と[[空間]]を「[[基準系|基準座標系]]」と呼び、このうちの時間座標を「[[座標時]]」と呼ぶことがある<ref>{{Cite journal|和書|author=藤本眞克 |authorlink=藤本眞克 |date=1992-06-10 |year=1992 |title=時刻の基準と比較 |url=https://doi.org/10.11470/oubutsu1932.61.592|journal=応用物理 |volume=61 |issue=6 |page=593 |pages=592-595 |at=§2.3 |publisher=[[応用物理学会]] |location=[[東京都]] |issn=2188-2290 |doi=10.11470/oubutsu1932.61.592 |naid=10006628860 |id={{NCID|AN00026679}} |accessdate=2014-03-29 |ref=harv}}{{オープンアクセス}}</ref>。[[地球]]上の時計の固有時は、主に[[太陽]]、地球自体、[[月]]、諸[[惑星]]の重力ポテンシャルの影響下にあるものと考えてよい。時計のある場所が、これらの[[天体]]に対して位置を変えるので、このポテンシャルの影響は一定量と変化量の合成となる。この変化量の最大のものは太陽のポテンシャルの変化によるもので、地球軌道が[[楕円]]であるため太陽からの距離が年周変化することで生じ、地球上の時計が一斉に全振幅 {{val|6.6|e=-10}} の年周変化をすることになる。これを時計面でみると秒の長さの変化が積算されるので、全振幅 {{val|3.3|ul=ms}} の年周変化を示すことになる。なお、変化とは、一切の重力ポテンシャルの影響から全く離れた場所の座標時に比較して測られる量を言う。また、地球ポテンシャルの影響として、時計の置かれている場所の[[標高]]([[ジオイド]]からの高さ)の違いに対応して、{{val|1|ul=km}}当たり{{val|1.1|e=-13}}の歩度差が生じる<ref>{{Cite journal|和書|author=虎尾正久 |date=1967-12-10 |year=1967 |title=秒の定義の問題 (I) |url=https://doi.org/10.20805/tokeieafj.44.0_40|journal=日本時計学会誌 |issue=44 |pages=40-45 |at=§2|publisher=日本時計学会 |location=東京都 |issn=0029-0416 |doi=10.20805/tokeieafj.44.0_40|id={{NCID|AN00195723}} |accessdate=2014-02-11 |ref=harv}}{{オープンアクセス}}</ref>。

[[1967年]]に[[国際度量衡委員会]] (CIPM) の下部機関である秒の定義に関する諮問委員会 (CCDS、現CCTF)で、原子標準による秒の再定義が具体的に提案され始めると、[[時間]]、[[周波数]]分野での相対性論効果の取扱いについて、国際的かつ公式に討議されるようになる。この時の議論では、例えば日本の代表からは「セシウム遷移観測にあたり、特定の場所の指定を行えば、秒の定義はその場所の固有時になる」、「観測対象が適当な大きさの実験室内に限られた物理測定では固有時の採用で必要かつ十分であるが、対象が実験室外にある場合は一般相対論の補正を必要とする」、「地球上又はその近傍にある[[原子時計]]は、天体に由来する引力ポテンシャルの影響を受ける」、また、「遠隔の原子時計の相互比較のために必要欠くべからざる補正は現在直ちに用いられる形では準備されていないと思われる」などの意見があった{{Sfn|佐分利義和|1983|p=62|loc=§5}}。

このような国際的討議の結果、秒の定義には特定の場所は指定しないことになった。これは、物理法則を求めるための実験室内の一般計測では、その場所の固有時を用いれば必要かつ十分であるということを基礎としたもので、必要があれば相対性理論による補正を行えばよいという考え方である。
しかし、セシウム原子の遷移周波数で定めた秒間隔を積算する原子時や周波数標準について、各国の標準研究所間で相互比較をしたり、世界的な統一基準を確立しようとすると固有時のみの考え方では不十分となり、座標時的な概念の導入が必要となる{{Sfn|佐分利義和|1983|p=62|loc=§5}}。

このため、[[国際原子時]] (TAI) について、[[1980年]]に秒の定義に関する諮問委員会(CCDS、現CCTF)第9回会合では国際原子時 (TAI) は座標時なのか、[[基準系]]、座標変換に必要なモデルなどについて議論された。その結果「TAI は、回転するジオイド上で実現される SI の秒を目盛りの単位とした, 地心座標系で定義される座標時の目盛りである」と声明を発表している{{Sfn|BIPM|2006b|p=68|loc=付録1}}。また、「現状では、一般相対性理論の一次補正(地球の重力ポテンシャルの差、速度の差および[[地球の自転]]に対する補正)を行うことによってジオイド近傍のいかなる固定点あるいは移動点にも十分な精度で TAI を拡大することができる」とされる{{Sfn|佐分利義和|1983|p=62|loc=§5}}。

== 符号位置 ==
{| class="wikitable" style="text-align:center;"
!記号!![[Unicode]]!![[JIS X 0213]]!![[文字参照]]!!名称
{{CharCode|13232|33B0|-|ピコ秒}}
{{CharCode|13233|33B1|-|ナノ秒}}
{{CharCode|13234|33B2|-|マイクロ秒}}
{{CharCode|13235|33B3|-|ミリ秒}}
|}

[[Unicode]]には、秒の分量単位を表す上記の文字が収録されている。これらは[[CJK互換用文字]]であり、既存の文字コードに対する後方互換性のために収録されているものであるので、使用は推奨されない<ref>{{cite web|url=https://www.unicode.org/charts/PDF/U3300.pdf|title=CJK Compatibility|accessdate=2016-02-21|date=2015}}</ref><ref>{{cite web|publisher=The Unicode Consortium|title=The Unicode Standard, Version 8.0.0|location=Mountain View, CA|date=2015|isbn=978-1-936213-10-8|url=http://www.unicode.org/versions/Unicode8.0.0|accessdate=2016-02-21}}</ref>。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注 ===
<references group="注"/>

=== 出典 ===
{{reflist|25em}}

==参考文献==
* 安田正美、”単位は進化する 究極の精度をめざして”、DOJIN選書078、株式会社化学同人、2018年8月20日第1版第1刷、ISBN 978-4-7598-1678-5
* 安田正美、"1秒って誰が決めるの? 日時計から光格子時計まで"、筑摩書房、2014年6月10日 初版第一刷、ISBN 978-4-480-68918-4
* {{Cite journal|和書|author=佐分利義和 |date=1983-02 |year=1983 |title=周波数・時間計測における相対論効果 (周波数・時間標準特集号) -- (周波数と時間の計測) |journal=電波研究所季報 |volume=29 |issue=149 |pages=55-63 |publisher=電気通信振興会 |location=[[東京都]] |issn=0033-801X |naid=40002561713 |id={{NCID|AN00154260}} |url= https://www.nict.go.jp/publication/kiho/29/149/Kiho_Vol29_SI_No149_index.pdf |format=pdf |accessdate=2014-02-11|ref=harv}}
*{{Cite book|和書|author=西條敏美|date=2009|title=単位の成り立ち|publisher=[[恒星社厚生閣]]|edition=第1刷|isbn=978-4-7699-1099-2|ref=西條2009}}
*{{cite book|title=Revolution in time|first1=David S.|last1=Landes|publisher=[[ハーバード大学]]出版局|location=Cambridge, Massachusetts|date=1983年|ref=Landes1983}}
*{{Cite book|和書|author=和田純夫|coauthors=大上雅史、根本和昭|date=2002|title=単位がわかると物理がわかる|publisher=ベレ出版|edition=初刷|isbn=4-86064-013-6|url=https://books.google.co.jp/books?id=T0vVzb2FmlYC&printsec=frontcover&dq=%E5%8D%98%E4%BD%8D%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E3%81%A8%E7%89%A9%E7%90%86%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B&source=bl&ots=A8IzbvnlLj&sig=hFRut3bONHtfEj0-1ZQZJ2yFQfo&hl=ja#v=onepage&q&f=false|ref=和田2002}}
*{{Cite web|url=http://www.bipm.org/fr/si/si_brochure/chapter2/2-1/second.html|title=BIPM - seconde|accessdate=2014-02-02|author=BIPM|authorlink=国際度量衡局|date=2006-03|year=2006a|format=html|work=BIPM - Brochure sur le SI (8{{sup|e}} éd.)|publisher=国際度量衡局|language=[[フランス語]]|ref=harv}}
*{{Citation|和書|author=BIPM|author-link=国際度量衡局|year=2006b|date=2006-06|others=訳・監修 (独)[[産業技術総合研究所]] 計量標準総合センター|title=国際文書第8版 (2006) 国際単位系(SI) 日本語版|edition=8|place=[[茨城県]][[つくば市]]|publisher=(独)産業技術総合研究所 計量標準総合センター|id=原書コード:ISBN 92-822-2213-6|url=https://web.archive.org/web/20191008102417/https://unit.aist.go.jp/nmij/library/units/si/R8/SI8J.pdf|format=pdf|accessdate=2014-01-30|ref=harv}}
*{{Citation|和書|year=1992|date=1992-05-20|title=[[計量法]](平成4年法律第51号)|ref={{sfnRef|平成4年法律第51号|1992}} }} [https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=404AC0000000051 e-Gov法令検索]
*{{Citation|和書|year=1992|date=1992-11-18|title=[[s:計量単位令|計量単位令]](平成4年政令第367号)|ref={{sfnRef|平成4年政令第367号|1992}} }} [https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=404CO0000000357 e-Gov法令検索]

==関連項目==
* [[時間の比較]]
* [[毎秒]]

==外部リンク==
{{sisterlinks|commons=second}}
* [https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2003/pr20030609/pr20030609.html 2000万年に1秒と狂わない高精度原子時計を開発](独立行政法人産業技術総合研究所 プレスリリース2003年6月9日)
* {{Kotobank}}


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[[hu:Másodperc]]
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[[lv:Sekunde]]
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[[pl:Sekunda]]
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[[pt:Segundo]]
[[qu:Sikundu]]
[[ro:Secundă]]
[[ru:Секунда]]
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[[sco:Seicont]]
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[[sk:Sekunda]]
[[sl:Sekunda]]
[[sq:Sekonda]]
[[sr:Секунд]]
[[sv:Sekund]]
[[sw:Sekunde]]
[[szl:Sekůnda]]
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[[tr:Saniye]]
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[[vi:Giây]]
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[[wo:Saa]]
[[yi:סעקונדע]]
[[zh:秒]]
[[zh-yue:秒 (時間)]]

2024年11月17日 (日) 21:09時点における最新版

びょう

seconde
second
原子時計
原子時計
記号 s (sec, sec. などではない)
国際単位系 (SI)
種類 基本単位
時間
定義 秒(記号は s)は、時間のSI単位であり、セシウム周波数 ∆νCs、すなわち、セシウム133原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位 Hz(s-1 に等しい)で表したときに、その数値を9192631770 と定めることによって定義される
由来 平均太陽日LOD)の1/86400
テンプレートを表示

(びょう、: second, : seconde 、記号 s)は、国際単位系 (SI) における時間単位である。他のとは関係せず完全に独立して与えられる7つのSI基本単位の一つである[1][2]。秒の単位記号は、「s」であり、「sec」などとしてはならない(秒#表記)。

「秒」は、歴史的には地球の自転の周期の長さ、すなわち「一日の長さ」(LOD[3])を基に定義されていた[4]。すなわち、LODを24分割した太陽時を60分割して「」、さらにこれを60分割して「秒」が決められ、結果としてLOD86400分の1が「秒」と定義されてきた。しかしながら、19世紀から20世紀にかけての天文学的観測から、LODには10−8程度の変動があることが判明し[5]、時間の定義にはそぐわないと判断された。そのため、地球の公転周期に基づく定義を経て、1967年に、原子核が持つ普遍的な現象を利用したセシウム原子時計が秒の定義として採用された。

なお、1秒は偶然にも人間の標準的な心臓拍動の間隔に近い[5]

定義

[編集]

「秒」は、2019年5月以降、以下のように定義されている。

秒(記号は s)は、時間の SI 単位であり、セシウム周波数 ∆νCs、すなわち、セシウム 133 原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位 Hz(s−1 に等しい)で表したときに、その数値を 9192631770 と定めることによって定義される[6][注 1]

この定義を受けて、日本の計量法においては「セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の9192631770倍に等しい時間」(計量単位令別表第一第3項)と定義されている[7]

表記

[編集]

単位記号

[編集]

秒の単位記号は、小文字立体の「s」である[8]。しばしば「sec」や「sec.」と書かれることがあるが、これらの表記は国際単位系および日本の計量法では認められておらず、誤りである[9][10]

漢字表記

[編集]

漢字「秒」の本来の意味は、小麦や稲などの穂先の堅い毛すなわちのぎのことである。そこから、わずかなもの、微細なものの意味となった[11]。『孫子算経』では、小数の位取りに「」を用い、「)」の10分の1(すなわち0.0001、1万分の1)を「」としている[12]時代にこの秒は「」に置き替えられた。時代に西洋の時法が伝わったとき、わずかな時間である「second」に「」の字が宛てられた。

歴史

[編集]

機械時計成立以前の秒

[編集]

古代のバビロニアそして中国では、1日を12等分する時間を設け、これを日時計による観測で確認をしていた[13]。また、少なくとも紀元前2000年頃にはエジプトでは1日をに分け、それぞれを12の時間単位で区切っていた[13]。これは不定時法と呼ばれ、季節による昼や夜の長さ変動から、それら時間単位の実際の長さは一定していなかった。古代ギリシアヒッパルコス(紀元前150年前後)と古代ローマクラウディオス・プトレマイオス(150年前後)は、それぞれ1日を六十進法で細分し、平均化された1時間(1日の24分割)や、1時間の単純な分数(1/4や2/3など)そして時間の度合い(現代の「分」にも通じる1日の360分割)などを用いたが、これらは現代の分や秒とは異なっていた[14]

六十進法の定義によって分けられる1日は 1/60のn乗の時間区分を設けていくことになるが、300年頃のバビロニアでは少なくとも(1/60)6までの分割(2マイクロ秒よりも短い)を行っていた。ただし、そのようなごく短い時間単位を基準に用いていた訳ではなく、例えば1年という時間を細分単位で表すような場合には1日の60分割単位を基礎としていた。バビロニアでは1日を360分割した she という単位(現代の4分に相当する時間)、これをさらに72分割した helek という単位(現代の10/3秒に相当する時間、ユダヤ暦の「ヘレク」と同じ)を使っていた[15]。彼らはこれらの単位時間を正確に測定を行う手段は持っていなかったが、計算で、例えば1朔望月の平均時間を六十進法で29;31,50,8,20日(≒29.5305941358 日)という値を得ていた。この計算方法はヒッパルコスとプトレマイオスが使っていた方法である。この「ヘレク」は1080分の1時間であり[16]ユダヤ暦では、平均月を29日と12時間793ヘレク英語版(=29日と12.734時間)とする。

西暦1000年、ペルシア人の学者アブー・ライハーン・アル・ビールーニーは、新月となる週に、日曜日正午を基準点とした「日、時、分、秒」さらに秒より細かな2段階の区分を施した[17]。1267年にはロジャー・ベーコンが、満月日の正午を基準に「時(horae)、分(minuta)、秒(secunda)」さらに細かな tertiaquarta へ分けた[18]。「秒」を60分の1に細分する用語tertiaは、英語ではthirdとなり、現代のポーランド語tercja」やトルコ語salise」に残っているが、通常は小数点以下2桁で示される。またこのthirdに相当する漢字の単位名称は現代ではまず用いられないが、中国・日本の西洋時法伝来以降の古文献では「微」が用いられた。tertiaの下のquartaは英語ではfourthとなり、中国・日本の古文献における漢字名称としては「繊」が用いられた。それより下の六十進法による分割単位も存在するが、それについては六十進法#単位を参照のこと。

現代英語の「second」は、元々「第二の分」「次の分」を意味する「second minute」と呼んでいたことを由来とする[11]。それに対して分のことは「第一の分」を意味する「prime minute」と呼んでいた。すなわち、1時間に対する第1の分割、第2の分割という意味である。

秒表示を持つ機械時計

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時計が秒単位を表示するようになった初期の例は、16世紀後半に現れる。1560–1570年のフレマースドルフ・コレクション[19]には、秒針を持つねじ式時計がある[20][21]。同じ頃、タキ・アルジン英語版は5秒刻みの表示をする時計を製作した[22][23]。1579年にはヨスト・ビュルギヴィルヘルム5世の依頼を受け、秒を示す時計を作った[24]。1581年にはティコ・ブラーエ天文台の時計を改修した際にと秒の表示を加え、1587年に彼は、この時計は4秒の狂いしか生じなかったと述べた[25]

秒表示の正確性は、振り子時計が発明され、日時計による見かけ時間の表示から平均時を表すことができるようになって向上した。特に1670年にビル・クレメント(William Clement)がクリスティアーン・ホイヘンスの時計に秒振り子英語版を加えた事が顕著に貢献した[26]ロングケース・クロック英語版の秒振り子は一往復で2秒を示し、片方からもう一方へ振れる際に鳴る機械音が1秒毎の時間を刻んだ。そして、精密時計の文字盤には1分間で一周する秒針が加えられるようになった。

日本の法令では、1951年(昭和26年)に制定された計量法で、時間の計量単位として秒が定められ、「秒は、平均太陽日1/86400とし、東京天文台が秒として決定する時間で現示する」とされた[27]。当時の東京天文台(現国立天文台)では、子午儀による恒星の観測で時を測定し、測定結果を外挿して標準時計であるリーフラー振り子時計[28]の歩度を調整して保時していたといわれる[29]

地球の公転周期に基づく秒

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歴史的には地球の自転周期すなわち一日の長さ(LOD)は一定だと考えられていた。ところが、クォーツ時計の精度が向上すると、LODには潮汐力[30][31]や季節変動[32]による1ミリ秒から2ミリ秒程度の変動、すなわち10−8日程度の変動があることが分かってきた[33]。このため、LODを元にした定義では、精度上の問題があることが判明した。

LODの変化には、海流大気の循環、さらに地球のの流動なども影響を及ぼしている。また、地震の発生も潮汐力による変動の1000分の1程度のわずかの自転周期の変動を起こす[34]

なお、LODが数年間の期間内に徐々に長くなっている(又は、地球の自転が遅くなっている)ことが閏秒が設けられている理由であるということが広範に信じられているきらいがあるが、これは、誤解である。詳細は閏秒挿入の理由についての間違った理解地球の自転を参照のこと。

このLODの不安定性を受けて、1954年の第10回国際度量衡総会(CGPM)での決議に基づき、1956年の国際度量衡委員会(CIPM)において、秒の定義を地球自転よりも変動が少ない公転に求め[30]、「1900年の年初に近い時で、太陽の幾何学章動光行差の影響を除いた)平均黄経が 2794148.04 となる時刻を基点として測り、この時刻を暦表時1900年1月0日の12時(日本標準時で1899年12月31日21時)と定義する。暦表秒はこの時刻から1太陽年1/31556925.9747」と改められた[11]。日本の法令では、1958年(昭和33年)に改正された計量法で、「秒は、明治32年12月31日午後9時における地球の公転の平均角速度に基いて算定した1太陽年の1/31556925.9747として東京天文台が現示する」とされた[35]。当時の東京天文台では、写真天頂筒(PZT)で時の計測を行い水晶時計で保時していたといわれる[36]暦表時とは、ニュートン力学に基づき地球の公転周期を元にして定めた時刻である。このときに使用されたのは、18世紀から19世紀までの天文観測に基づいて1900年以降の太陽の運動を示す方程式を記述した「ニューカムによる太陽の見かけの(光行差を考慮した)平均黄経」であった[37]。この定義は1960年の第11回国際度量衡総会 (CGPM) で批准された[38]。1900年というのは、この年における平均太陽日が86400秒になるという意味ではなく、単に時間を決めるための基準点としてきりの良い日付が選ばれたに過ぎない。そのため、基準値をもう一度測定しようとしても1900年に遡って行うことは不可能であり、再現性に課題を抱えていた[32]

原子時計による秒

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新たな定義は、アルカリ金属であるセシウムを用いた原子時計によるものである[11]。セシウムは天然では原子量133の元素のみが存在し、かつその沸点は671℃と低く、他の元素に比べて使いやすいために、原子時計に採用されていた[11]。そのため、観測によってのみしか決定できない地球の公転よりも、実験室で求めることが可能な原子時計を直接用いて秒の定義を決めることが効率的と考えられた[11]。これには、量子力学の原理から、すべての133Cs原子には個別の差が存在しないため、原理的に同一の定義が可能という特色もある[39]

1955年6月にイギリス国立物理学研究所 (NPL) がセシウム原子時計を実用化すると、いくつかの国家は原子時計を導入し、時系の運用に使用し始めた[40]。まず、原子時計には誤差の徹底的な洗い出しと対策が施され[41]、そしてアメリカ海軍天文台 (USNO) のウィリアム・マーコウィッツ英語版イギリス国立物理学研究所(NPL)のルイ・エッセン英語版によってセシウム原子の超微細遷移周波数と暦表秒との関係が求められた[37][42]。マーコウィッツとエッセンは、3年間の共同研究を経て1秒が9192631770周期だという数値を得た。これは、1951年にマーコウィッツが発明したと月の動きを同時に追える月観測用カメラをUSNOが2台、大西洋を挟んで[43]並列で設置し、月による星食から、高精度の暦表時を確認することで得られた[44]。また、この観測でNPLは、アメリカ内陸部コロラド州標準電波局英語版短波放送による識別信号を使い、2台の原子時計の比較調整を行った[43][44]

1956年に国際度量衡委員会 (CIPM) の下部機関として設置された、「秒の定義に関する諮問委員会 (CCDS、現CCTF)」第1回会議で、エッセンはセシウム原子時計と天文時系の比較結果を報告し、セシウム原子周波数標準を秒の原器にするよう強く主張した。しかしその会議では、メートルの定義をメートル原器からクリプトン原子波長に置き換えた前例と同じように、10年間ぐらいは各種周波数標準と比較研究する必要があると結論された[45][46]

その後、1964年には、第12回国際度量衡総会 (CGPM) で高度の時間計測のために原子的標準に到達する緊急性を認め、CGPM決議5による委任に基づいてCIPMで時間の物理学的測定のために暫定的に用いるべき原子又は分子に基づく周波数標準の指定を行った[47]。そして、40カ国の代表が参加した1967年の第13回CGPMにおいて、セシウム原子時計によるSIの秒の定義が決定された[48][41]。日本の法令では、1972年(昭和47年)に改正された計量法で、「秒は、セシウム133の原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の9192631770倍に等しい時間として現示する」とされ、秒を東京天文台が現示する定めがなくなり、どの機関が現示するのかは明示されなくなった[49]。さらに、1992年(平成4年)に旧計量法が全部改訂され、新たな計量法の規定に基づく計量単位令により、秒は定義だけが示され、国の機関が秒を現示する定めはなくなった[50][7]。1997年の国際度量衡局 (BIPM) の会議では「秒の定義は0 Kの下で静止した状態にあるセシウム原子に基準を置いている」という声明が出された[51]。しかし現実には、絶対零度、止まった原子、そして外部からの電磁波等を全く排除した状態を作り出すことは事実上不可能であり、この理想状況との差異を評価して補正を加えなければならない。これを自動で行う機器の例には、一次周波数標準器がある[30]。日本では、法令で秒を現示する指定がない状態が継続していたが、2003年(平成15年)に、秒の現示に代わって時間(秒)の逆数で表される周波数について、周波数標準器が経済産業大臣から特定標準器[52]として指定された[53]。なお、国家標準(特定標準器)には、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)と独立行政法人産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ)の周波数標準器(原子時計)が指定されている[54]

この補則は SI 秒の定義が、黒体輻射により摂動を受けないセシウム原子に基づいていることを明確にしている。すなわち、周囲環境が熱力学的温度で0 K である。

新しい定義への模索

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もっと精度の高い定義として、現行のマイクロ波による定義から光に基づく定義に変更する研究が進んでいる。その候補としては光格子時計などが研究されており、国際度量衡局は、「秒の二次表現」(秒の新しい定義の候補)として、9種類[55]を採択している[56]。光格子時計としては、ストロンチウム格子時計イッテルビウム格子時計[57]の2つがある。

これの研究の進展により、10−18程度の精度を持つ時計が実現されようとしており[58]、これをもとに、2026年(第28回国際度量衡総会が開催)か2030年(第29回国際度量衡総会が開催)を目途に、新しい秒の定義が採択される見込みである[59][60][61][62][63]

定義採択の条件としては、次の5つが挙げられている[62][64]

  1. ~10−18 の相対不確かさの光時計が3つ以上出現すること。
  2. 3つ以上の異なる研究所において~10−18 の相対不確かさで,光時計の同等性を確認できること。
  3. 原子泉方式セシウム1次周波数標準器との比較において,3×10−16 以下の相対不確かさで,周波数が決定できること。
  4. 異なる光時計の周波数比が2つ以上の研究機関で 5×10−18 以下の相対不確かさで測定されること。そして,このような周波数比の測定の実績が5つ以上になること。
  5. 国際原子時 (TAI) への定期的な貢献が可能になること。

定義の変遷

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秒の定義と不確かさの変遷
定義内容 相対的な不確かさ
平均太陽日(LOD)の1/86400 (=1/(24*60*60) )[32] 10−8[65]
1960年 1900年1月0日12時から1太陽年の1/31556925.9747[32]
(1956年CGPM)
10−10[65]
1967年 2つの基底状態セシウム133超微細準位間の遷移に対応する
放射周期の9192631770倍に等しい時間(第13回CGPM)
10−10[66]
1997年 0 Kにおける静止したセシウム原子の時計
(1997年CIPM)
10−12[66]
(参考) 可視光領域の遷移を利用する原子時計など 10−14[66] – 10−16[65]
2026年に提案し2030年に採択の見込み[67][59] 光格子時計 10−18[62]

倍量・分量単位

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秒 (s) の倍量・分量単位
分量 倍量
記号 名称 記号 名称
10−1 s ds デシ秒 101 s das デカ秒
10−2 s cs センチ秒 102 s hs ヘクト秒
10−3 s ms ミリ秒 103 s ks キロ秒
10−6 s µs マイクロ秒 106 s Ms メガ秒
10−9 s ns ナノ秒 109 s Gs ギガ秒
10−12 s ps ピコ秒 1012 s Ts テラ秒
10−15 s fs フェムト秒 1015 s Ps ペタ秒
10−18 s as アト秒 1018 s Es エクサ秒
10−21 s zs ゼプト秒 1021 s Zs ゼタ秒
10−24 s ys ヨクト秒 1024 s Ys ヨタ秒
10−27 s rs ロント秒 1027 s Rs ロナ秒
10−30 s qs クエクト秒 1030 s Qs クエタ秒
よく使われる単位を太字で示す

他の多くのSI単位と同様、倍量単位・分量単位としてSI接頭語を秒に付けることができる[68]。秒の倍量単位は、規定上はキロ秒、メガ秒などもありうるが、通常は、非SI単位である世紀などの慣用の単位が使われるため、SI接頭語つきの単位はほとんど用いられない。

  • 1 min(分)= 60 s
  • 1 h(時)= 60 min = 3600 s = 3.6 ks
  • 1 d(日)= 24 h = 86400 s = 86.4 ks

上記の3つの単位は、国際単位系(SI)の公式文書[69]に記載がある「SI単位と併用できる非SI単位」である(SI併用単位#SI併用単位)。 なお、平均太陽日(LOD)は観測によって決まるものであり、単位としての日(d)(= 正確に 86400 s)とは、ずれがあることに注意(詳細は、地球の自転閏秒を参照)。

以下の単位は、国際単位系(SI)では定義されていない。年と世紀は、天文学では通常、ユリウス年ユリウス世紀を用いる。定義は国際天文学連合による[70]

  • 週 = 7日 = 604800 s = 604.8 ks
  • 月 = 28日、29日、30日、又は31日
  • ユリウス年 (単位:a)= 365.25日 = 31557600 s = 31.5576 Ms
  • ユリウス世紀(単位:T)= 100 ユリウス年 = 36 525日 = 3155760000 s = 3.15576 Gs

逆に1秒は慣用の単位では以下のように表される(全て、6桁目を四捨五入している)。

  • 1秒 = 1.6667×10−2 min
  • 1秒 = 2.7778×10−4 h
  • 1秒 = 1.1574×10−5 d
  • 1秒 = 1.6534×10−6
  • 1秒 = 3.1688×10−8 ユリウス年
  • 1秒 = 3.1688×10−10 ユリウス世紀

分量単位には以下のものがある。

分量単位 記号 時間 備考
ミリ秒 ms 10−3
1000分の1秒
マイクロ秒 μs 10−6
100万分の1秒
  • 原子の反応や化学反応のような、通常わずかな時間で起こるような現象の時間の計測によく用いられる。
ナノ秒 ns 10−9
10億分の1秒
  • 日常生活に登場することはまずない。技術的な場面では、コンピュータ電気通信、パルスレーザーといくつかの電子機器でよく使われる単位である。
  • 光は1ナノ秒間に真空中を正確に 299.792458 mm 進む。しかし、真空以外の空間中ではそれよりも遅くなり、それは屈折率 n(1以上)によって示される。空気 (n = 1.000292) 中では光は1ナノ秒間に約 298.9 mm 進むが、 (n = 1.33) の中では約 225.4 mm になる。
ピコ秒 ps 10−12
1兆分の1秒
フェムト秒 fs 10−15
1000兆分の1秒
アト秒 as 10−18
100京分の1秒
  • 現在、計測することのできる最も短い時間(2004年2月現在)は100アト秒である[71]
ゼプト秒 zs 10−21
10垓分の1秒
ヨクト秒 ys 10−24
1𥝱分の1秒
ロント秒 rs 10−27
1000𥝱分の1秒
クエクト秒 qs 10−30
100穣分の1秒

国際原子時と閏秒

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原子時計で定義された秒を基礎に置いた時刻、正確には世界中にある300台以上の原子時計が算出する平均によって決められる時系があり、これを国際原子時 (TAI) と呼び、1958年1月1日0時に世界時 (UT) に合わせて開始している[72]。ところで、地球の自転に基づく世界時 (UT) は、地球の自転の角速度の変動により、国際原子時 (TAI) との間にズレが生じる[注 2]。日常生活に使用される時刻の基礎である協定世界時 (UTC) は1972年以後、原子時計に基づく国際原子時 (TAI) と全く同じ歩度(秒間隔)を維持しながら、正午近くに太陽正中に来るように時刻を設定するため、協定世界時 (UTC) と世界時の UT1 との差が0.9秒を超えないようにする、閏秒調整を行っている[72]

1961年から1971年までは標準周波数のオフセットと時刻のステップ調整で世界時の UT2 に近似していた(旧協定世界時)。1972年からはこのステップ調整は廃止されることになり、代わりに協定世界時 (UTC) と国際原子時 (TAI) との差を整数秒となるように調整することとなった。この制度変更を受けて1972年1月1日0時の協定世界時 (UTC) と国際原子時 (TAI) との差が正確に10秒(協定世界時 (UTC) が国際原子時 (TAI) から10秒遅れ)となるように調整(特別調整という)された。同時に、それ以降の協定世界時 (UTC) と国際原子時 (TAI)との歩度を調整する方法は、閏秒を適宜加えるか除くやり方に改められた(詳細は、閏秒の項を参照)。

1972年以降の閏秒の調整は、すべて閏秒1秒を加える操作であって、2017年までにこれが27回実施された。結果、特別調整(10秒)を加えると協定世界時と国際原子時との差異は2017年段階で37秒となっている[72]

固有時と座標時

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一般相対性理論によれば、狂いのない理想的な時計であっても、それが刻む時刻は、その時計が過去に、どのような重力場のなかをどのような運動をしたか、によって変わってくる。このような時刻を「固有時」と呼ぶ。これに対して、共通の基準となる目盛りのついた時間空間を「基準座標系」と呼び、このうちの時間座標を「座標時」と呼ぶことがある[73]地球上の時計の固有時は、主に太陽、地球自体、、諸惑星の重力ポテンシャルの影響下にあるものと考えてよい。時計のある場所が、これらの天体に対して位置を変えるので、このポテンシャルの影響は一定量と変化量の合成となる。この変化量の最大のものは太陽のポテンシャルの変化によるもので、地球軌道が楕円であるため太陽からの距離が年周変化することで生じ、地球上の時計が一斉に全振幅 6.6×10−10 の年周変化をすることになる。これを時計面でみると秒の長さの変化が積算されるので、全振幅 3.3 ms の年周変化を示すことになる。なお、変化とは、一切の重力ポテンシャルの影響から全く離れた場所の座標時に比較して測られる量を言う。また、地球ポテンシャルの影響として、時計の置かれている場所の標高ジオイドからの高さ)の違いに対応して、km当たり1.1×10−13の歩度差が生じる[74]

1967年国際度量衡委員会 (CIPM) の下部機関である秒の定義に関する諮問委員会 (CCDS、現CCTF)で、原子標準による秒の再定義が具体的に提案され始めると、時間周波数分野での相対性論効果の取扱いについて、国際的かつ公式に討議されるようになる。この時の議論では、例えば日本の代表からは「セシウム遷移観測にあたり、特定の場所の指定を行えば、秒の定義はその場所の固有時になる」、「観測対象が適当な大きさの実験室内に限られた物理測定では固有時の採用で必要かつ十分であるが、対象が実験室外にある場合は一般相対論の補正を必要とする」、「地球上又はその近傍にある原子時計は、天体に由来する引力ポテンシャルの影響を受ける」、また、「遠隔の原子時計の相互比較のために必要欠くべからざる補正は現在直ちに用いられる形では準備されていないと思われる」などの意見があった[75]

このような国際的討議の結果、秒の定義には特定の場所は指定しないことになった。これは、物理法則を求めるための実験室内の一般計測では、その場所の固有時を用いれば必要かつ十分であるということを基礎としたもので、必要があれば相対性理論による補正を行えばよいという考え方である。 しかし、セシウム原子の遷移周波数で定めた秒間隔を積算する原子時や周波数標準について、各国の標準研究所間で相互比較をしたり、世界的な統一基準を確立しようとすると固有時のみの考え方では不十分となり、座標時的な概念の導入が必要となる[75]

このため、国際原子時 (TAI) について、1980年に秒の定義に関する諮問委員会(CCDS、現CCTF)第9回会合では国際原子時 (TAI) は座標時なのか、基準系、座標変換に必要なモデルなどについて議論された。その結果「TAI は、回転するジオイド上で実現される SI の秒を目盛りの単位とした, 地心座標系で定義される座標時の目盛りである」と声明を発表している[76]。また、「現状では、一般相対性理論の一次補正(地球の重力ポテンシャルの差、速度の差および地球の自転に対する補正)を行うことによってジオイド近傍のいかなる固定点あるいは移動点にも十分な精度で TAI を拡大することができる」とされる[75]

符号位置

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記号 Unicode JIS X 0213 文字参照 名称
U+33B0 - &#x33B0;
&#13232;
ピコ秒
U+33B1 - &#x33B1;
&#13233;
ナノ秒
U+33B2 - &#x33B2;
&#13234;
マイクロ秒
U+33B3 - &#x33B3;
&#13235;
ミリ秒

Unicodeには、秒の分量単位を表す上記の文字が収録されている。これらはCJK互換用文字であり、既存の文字コードに対する後方互換性のために収録されているものであるので、使用は推奨されない[77][78]

脚注

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  1. ^ 国際単位系における正式の言語はフランス語である。ここでの定義は英語及びこれを日本語に翻訳したものである。正式な本文の確認が必要な場合又は文章の解釈に疑義がある場合はフランス語版を確認する必要がある。
  2. ^ 「地球の自転が遅くなっている」といった表現がこの説明において文献でもしばしば見られる。しかし、地球と月との相互作用によって、月が「潮汐加速」され地球の自転が「潮汐減速」されている、という現象は事実ではあるが相当に長期的な現象で、短期的と言えるこれまでの人類による観測において見られる変動はそれよりもずっと大きく、潮汐減速はその主な要因ではない。たとえばNICTによる解説(国際原子時・協定世界時とうるう秒)から以下に引用するが、「地球の自転が遅くなっているため」といったようには説明していない。 ■協定世界時(UTC )とうるう秒調整、「地球の自転速度は、潮汐摩擦などの影響によって変化するため、世界時(UT)と協定世界時(UTC)との間には差が生じます。そこで、協定世界時 (UTC) に1秒を挿入・削除して世界時UT1との差が0.9秒以上にならないように調整しています。」

出典

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  9. ^ 国際単位系(SI)は世界共通のルールです(PDF) 2ページの右下の「誤りやすい単位記号の例」として「50 sec (正しくは→50 s)」と例示されている。
  10. ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版 p.116、産業技術総合研究所、計量標準総合センター、「単位の記号や名称の省略語を使ってはならない。例えば、sec は使わず、s または秒のいずれかとする。(中略)SI 単位および単位全般について、本文書で前述した正式な記号を使わなければならない。これによって、量の値に関する曖昧さや誤解が回避される。」
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参考文献

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関連項目

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外部リンク

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