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{{電磁気学}} |
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[[物理学]]において、'''磁性'''(じせい、[[英語|英]]:magnetism)とは、[[物質]]が他の物質に対して[[引力と斥力|引力や斥力]]を及ぼす[[性質]]の一つである。'''磁気'''(じき)ともいう。 |
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[[物理学]]において、'''磁性'''(じせい、[[英語|英]]:magnetism)とは、[[物質]]が原子あるいは原子よりも小さいレベルで[[磁場]]に反応する性質であり、他の物質に対して[[引力と斥力|引力や斥力]]を及ぼす[[性質]]の一つである。'''磁気'''(じき)ともいう。 |
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== 概要 == |
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容易に分かるほど強い磁性を示す物質として、[[鉄]]やある種の[[鋼]]、[[磁鉄鉱]](天然磁石)や[[磁硫鉄鉱]]といった[[鉱物]]などがよく知られている。全ての物質は[[磁場]]によって多かれ少なかれ影響を受けるが、ほとんどの場合、その影響は特別な装置を使わなければ検出できないほど小さい。 |
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例えば、磁性の中でも最もよく知られている[[強磁性]]の場合、強磁性物質は自ら持続的な[[磁場]]を生み出す。しかしながら、あらゆる物質は程度の差こそあれ、磁場によって何らかの影響を受ける。磁場に引き付けられる物質もあれば([[常磁性]])、磁場に反発する物質もある([[反磁性]])。磁場と複雑な関係を有する物質もある。磁場の影響が無視できる物質は非磁性 (non-magnetic) 物質と呼ばれる。例えば、[[銅]]、[[アルミニウム]]、[[気体]]、[[合成樹脂]]などが含まれる。容易に分かるほど強い磁性を示す物質として、[[鉄]]やある種の[[鋼]]、[[磁鉄鉱]](天然磁石)や[[磁硫鉄鉱]]といった[[鉱物]]などがよく知られている。全ての物質は[[磁場]]によって多かれ少なかれ影響を受けるが、ほとんどの場合、その影響は特別な装置を使わなければ検出できないほど小さい。 |
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ある物質の磁性状態(または相)は温度(あるいは圧力や周囲の磁場)に依存するため、1つの物質であっても温度などの条件によって様々な磁性を示すことがある。 |
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'''[[磁力]]'''は[[電荷]]の運動によって引き起こされる基本的な[[力]]である。磁力を支配する源や場の振る舞いは[[マクスウェル方程式]]で記述される([[ビオ・サバールの法則]]も参照のこと)。よって磁性は電荷を持つ[[粒子]]が[[運動]]をすればいつでも現れる。磁性は[[電流]]の中の[[電子]]の運動によって発生して[[電磁気]]と呼ばれたり、電子の[[量子力学]]的な軌道運動や[[スピン角運動量|スピン]]によって生じ、[[永久磁石]]の力の源となったりする(電子は[[太陽]]を周る[[惑星]]のような軌道運動を行なっているわけではないが、「実効的な電子の速度」は存在する)。 |
'''[[磁力]]'''は[[電荷]]の運動によって引き起こされる基本的な[[力]]である。磁力を支配する源や場の振る舞いは[[マクスウェル方程式]]で記述される([[ビオ・サバールの法則]]も参照のこと)。よって磁性は電荷を持つ[[粒子]]が[[運動]]をすればいつでも現れる。磁性は[[電流]]の中の[[電子]]の運動によって発生して[[電磁気]]と呼ばれたり、電子の[[量子力学]]的な軌道運動や[[スピン角運動量|スピン]]によって生じ、[[永久磁石]]の力の源となったりする(電子は[[太陽]]を周る[[惑星]]のような軌道運動を行なっているわけではないが、「実効的な電子の速度」は存在する)。 |
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== 歴史 == |
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== 磁場中の荷電粒子 == |
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[[アリストテレス]]によれば、世界最古の磁性に関する科学的議論をしたのは[[タレス]](紀元前625年-545年)だという<ref>{{cite web |url= http://galileoandeinstein.physics.virginia.edu/more_stuff/E&M_Hist.html|title= Historical Beginnings of Theories of Electricity and Magnetism|accessdate=2008-04-02 |last= Fowler|first= Michael|year= 1997}}</ref>。同じころ古代[[インド]]では[[アーユルヴェーダ|医師]][[ススルタ]]が磁石を手術に利用している<ref>{{Cite journal|title=Early Evolution of Power Engineering|first=Hugh P.|last=Vowles|journal=Isis|volume=17|issue=2|year=1932|publisher=[[シカゴ大学出版局|University of Chicago Press]]|pages=412–420 [419–20]|doi=10.1086/346662}}</ref>。 |
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磁場 B の中を運動する荷電粒子は、以下の[[外積]]で表される力 F([[ローレンツ力]])を受ける。 |
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古代[[中国]]では、紀元前4世紀の『[[鬼谷子]]』に「磁石は鉄をひきつける」という磁性に関する記述がある<ref>Li Shu-hua, “Origine de la Boussole 11. Aimant et Boussole,” ''Isis'', Vol. 45, No. 2. (Jul., 1954), p.175</ref>。紀元20年から100年の間に書かれた『[[論衡]]』には「磁石が針をひきつける」という記述がある<ref>Li Shu-hua, “Origine de la Boussole 11. Aimant et Boussole,” ''Isis'', Vol. 45, No. 2. (Jul., 1954), p.176</ref>。11世紀[[中国]]の科学者[[沈括]] (1031–1095) は『夢渓筆談』で[[方位磁針]]について記述している。 |
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::<math>\vec F = q \vec v \times \vec B</math> |
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:ここで、 |
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:<math>q\,</math> は粒子の電荷 |
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:<math>\vec v \,</math> は粒子の速度ベクトル |
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:<math>\vec B \,</math> は磁場 |
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1187年、[[アレクサンダー・ネッカム]]はヨーロッパで初めて方位磁針とその航海への応用を記述した。1269年、[[ペトルス・ペレグリヌス]]が書いた『磁気書簡』(''Epistola de magnete'') は、磁石の性質について記した現存する最古の論文である。1282年、イスラムの物理学者で天文学者、地理学者のアル=アシュラフが磁石と方位磁針の性質について記述している<ref>{{Cite journal|title=Two Early Arabic Sources On The Magnetic Compass|first=Petra G.|last=Schmidl|journal=Journal of Arabic and Islamic Studies|year=1996-1997|volume=1|pages=81–132}}</ref>。 |
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この力は外積なので、粒子の速度と磁場の両方に対して垂直な方向に働く。このため、磁力は粒子の運動の方向だけを変え、速さは変えない。 |
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1600年、[[ウィリアム・ギルバート (物理学者)|ウィリアム・ギルバート]]が ''[[:en:De Magnete|De Magnete, Magneticisque Corporibus, et de Magno Magnete Tellure]]''(磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理)を出版。その中で地球をモデル化した [[:en:terrella|terrella]] を使った様々な実験結果を示している。そういった実験により、彼は地球自体が磁性を持っていて、それによって[[地磁気]]が発生して方位磁針が北を指すのだと結論付けた。それまで、方位磁針を引き付けているのは北極星([[ポラリス (恒星)|ポラリス]])だという説や北極にある巨大な磁石でできた島だという説が信じられていた。 |
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== 磁気双極子 == |
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通常、磁場は[[磁気双極子|双極子]]場として現れ、[[S極]]と[[N極]]を持つ。「S極」「N極」という用語は磁石を[[方位磁石]]として使っていたことに由来している(方位磁石は地球の磁場と相互作用し、地球上での北 (North) と南 (South) を指し示す)。 |
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[[電気]]と磁気の関係の解明は1819年、コペンハーゲン大学の教授だった[[ハンス・クリスティアン・エルステッド]]が電流によって方位磁針が影響を受けることを発見したのが始まりである。その後、[[アンドレ=マリ・アンペール]]、[[カール・フリードリヒ・ガウス]]、[[マイケル・ファラデー]]といった人々が実験を行い、電気と磁気の関係をさらに明らかにしていった。[[ジェームズ・クラーク・マクスウェル]]はそれまでの知見を[[マクスウェルの方程式]]にまとめ、電気と磁気と[[光学]]を一分野にまとめた[[電磁気学]]を生み出すことになった。1905年、[[アルベルト・アインシュタイン|アインシュタイン]]はそこから[[特殊相対性理論]]を生み出した<ref name="Moving">[http://www.fourmilab.ch/etexts/einstein/specrel/www/ A. Einstein: "On the Electrodynamics of Moving Bodies"], June 30, 1905.</ref>。 |
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磁場は[[エネルギー]]を蓄える。物理系は普通、エネルギーが最小となる配置で安定となる。そのため、[[磁気双極子]]を磁場の中に置くと、磁場と反対の方向に自らの磁極を向けようとし、これによって正味の磁場の強さをできるだけ打ち消して磁場に蓄えられるエネルギーを小さくしようとする。例えば、2つの同じ棒磁石を重ねると普通、互いのN極とS極がくっついて正味の磁場が打ち消されるようになり、同じ方向に重ねようとする力には逆らおうとする。2つの棒磁石を同じ方向で重ねるために使われたエネルギーは重なった2本の磁石が作る磁場に蓄えられ、その強さは1本の磁石の2倍になる。(これが、方位磁石として使われる磁石が地球磁場と作用して北と南を向く理由である。) |
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電磁気学は21世紀になっても発展し続け、より根本的な理論である[[ゲージ理論]]、[[量子電磁力学]]、[[電弱相互作用]]理論などに組み込まれ、最終的に[[標準模型]]を生み出した。 |
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== 磁気単極子 == |
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通常の経験に反して、いくつかの理論物理学のモデルでは'''[[磁気単極子]]'''(モノポール)の存在を予言している。[[1931年]]に[[ポール・ディラック]]は、電気と磁気にはある種の対称性があるため、[[量子論]]によって単独の正あるいは負の電荷の存在が予言されるのと同様に、孤立したS極あるいはN極の磁極も存在するはずだ、と述べた。しかし実際には、荷電粒子は[[陽子]]と[[電子]]のように個々の電荷として容易に孤立して存在できるが、SとNの磁極はばらばらには現れない。ディラックは量子論を用いて、もしも磁気単極子が存在するならば、なぜ観測される[[素粒子]]が電子の電荷の整数倍の電荷しか持たないのか、という理由を説明できることを示した。なお、[[クォーク]]は分数電荷を持つが、自由粒子としては観測されない。 |
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== 磁性の源 == |
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現代の素粒子論では、電荷の量子化は非可換[[ゲージ]][[対称性]]の自発的破れによって実現されるとされている。現在のある種の[[大統一理論]]で予言されているモノポールはディラックによって考えられた元々のモノポールとは異なることに注意する必要がある。今日考えられているモノポールはかつての素粒子としてのモノポールとは異なり、[[ソリトン]]、すなわち局所的に集まったエネルギーの「束」である。こういったモノポールが仮にも存在するとすれば、[[宇宙論]]の観測結果と矛盾することになる。宇宙論の分野でこのモノポール問題を解決する理論として考えられたのが、現在有力とされている[[宇宙のインフレーション|インフレーション]]のアイデアである。 |
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{{See also|磁気モーメント}} |
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磁性と[[角運動量]]には密接な関係があり、[[微視的]]には「磁化による回転」を示す[[アインシュタイン・ド=ハース効果]]と、その逆の「回転による磁化」を示す[[バーネット効果]]がある<ref name=Graham>{{cite book |title=Introduction to Magnetic Materials |author=B. D. Cullity, C. D. Graham |url= http://books.google.com/?id=ixAe4qIGEmwC&pg=PA103 |page=103 |isbn=0471477419 |year=2008 |publisher=Wiley-IEEE |edition=2}}</ref>。 |
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原子およびそれよりさらに小さいスケールでは、この関係は磁気モーメントと角運動量の比、すなわち[[磁気回転比]]で表される。 |
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== 原子の磁気双極子 == |
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物体が磁性を持つ物理的原因は、電流の場合とは異なり、[[原子]]に生じる磁気双極子である。原子スケールでの磁気双極子、あるいは[[磁気モーメント]]は、電子の2種類の運動によって生じる。1番目は[[原子核]]の周りを回る電子の軌道運動である。これは電流のループと見なすことができ、原子の軸方向に軌道磁気モーメントを生じる。2番目の、もっとずっと強い磁気モーメントの源は、[[スピン角運動量|スピン]]と呼ばれる量子力学的な性質である。これはスピン磁気モーメントと呼ばれる(ただし現代の量子力学の理論では、電子が実際に物理的に自転したり原子核の周りを軌道運動したりするとされているわけではない)。 |
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磁性の源泉は2種類ある。 |
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* [[電流]]または移動する[[電荷]]によって磁場が形成される([[マクスウェルの方程式]]) |
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* 多くの[[素粒子]]はゼロでない「真性」(または「スピン」)磁気モーメントを持つ。それぞれの粒子に[[質量]]と[[電荷]]があるように、ゼロでない磁気モーメントを持つことがある。 |
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物体が磁性を持つ物理的原因は、電流の場合とは異なり、[[原子]]に生じる磁気双極子である。原子スケールでの磁気双極子、あるいは[[磁気モーメント]]は、電子の2種類の運動によって生じる。1番目は[[原子核]]の周りを回る電子の軌道運動である。これは電流のループと見なすことができ、原子の軸方向に軌道磁気モーメントを生じる。2番目の、もっとずっと強い磁気モーメントの源は、[[スピン角運動量|スピン]]と呼ばれる量子力学的な性質である。これはスピン磁気モーメントと呼ばれる(ただし現代の量子力学の理論では、電子が実際に物理的に自転したり原子核の周りを軌道運動したりするとされているわけではない)。なお原子核にも磁気モーメントは存在するが、一般に電子のそれの数千分の1の強さしかなく、物質の磁性にはほとんど影響しない。[[核磁気共鳴]] (NMR) や[[核磁気共鳴画像法]] (MRI) はその原子核の磁気モーメントを利用している。 |
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原子の全体的な磁気モーメントは、個々の電子の磁気モーメントの総和になる。磁気双極子は互いに反発して正味のエネルギーを小さくしようとするため、軌道運動においてもスピン磁気モーメントにおいても、いくつかの電子のペアが持つ反対向きの磁気モーメントは互いに打ち消しあう。このため、[[電子殻]]や副殻が完全に満たされている原子では磁気モーメントは通常は完全に打ち消される。磁気モーメントを持つのは電子殻が部分的に満たされている原子だけであり、その強さは不対電子の数で決まる。 |
原子の全体的な磁気モーメントは、個々の電子の磁気モーメントの総和になる。磁気双極子は互いに反発して正味のエネルギーを小さくしようとするため、軌道運動においてもスピン磁気モーメントにおいても、いくつかの電子のペアが持つ反対向きの磁気モーメントは互いに打ち消しあう。このため、[[電子殻]]や副殻が完全に満たされている原子では磁気モーメントは通常は完全に打ち消される。磁気モーメントを持つのは電子殻が部分的に満たされている原子だけであり、その強さは不対電子の数で決まる。 |
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そのため、様々な[[元素]]ごとの電子配置の違いが原子の磁気モーメントの性質や強さを決めており、また様々な物質の磁気的な特性の違いをも決めている。様々な物質で以下のようないくつかの形態の磁気的な振る舞いが見られる。 |
そのため、様々な[[元素]]ごとの[[電子配置]]の違いが原子の磁気モーメントの性質や強さを決めており、また様々な物質の磁気的な特性の違いをも決めている。また、温度によっても磁気的特性は変化する(高温では無作為な[[気体分子運動論|分子の運動]]によって電子が一定方向にそろって運動し続けるのが困難になる)。様々な物質で以下のようないくつかの形態の磁気的な振る舞いが見られる。 |
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== 様々な磁性 == |
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=== 反磁性 === |
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{{Main|反磁性}} |
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**[[分子磁石]] |
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反磁性はあらゆる物質に存在し、磁場に反発する傾向を示す。しかし、[[常磁性]](外部の磁場を強化する傾向)のある物質では常磁性が支配的になる<ref name=Westbrook>{{cite book |title=MRI (Magnetic Resonance Imaging) in practice |author=Catherine Westbrook, Carolyn Kaut, Carolyn Kaut-Roth |isbn=0632042052 |url= http://books.google.com/?id=Qq1SHDtS2G8C&pg=PA217 |page=217 |edition=2|publisher=Wiley-Blackwell |year=1998}}</ref>。したがって、あらゆる物質が反磁性を持つにも関わらず、反磁性的現象は反磁性しか持たない物質でしか観測されない。反磁性物質では電子は必ず対になっており、電子のスピン磁気モーメントは常に相殺されて巨視的効果を全く引き起こさない。その場合、磁化は電子の軌道運動から生じ、[[古典物理学|古典的]]には次のように理解できる。 |
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*[[強磁性]] |
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**[[反強磁性]] |
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**[[フェリ磁性]] |
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**[[メタ磁性]] |
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*[[スピングラス]] |
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*[[超常磁性]] |
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物質を磁場に置くと、原子核の周囲を回っている電子は原子核との間の[[クーロン力]]に加えて磁場による[[ローレンツ力]]を受けることになる。電子の運動の方向によって、[[向心力]]が強まって電子が原子核に引き寄せられたり、逆に引き離されたりする。このため、磁場と逆向きの軌道磁気モーメントを持つ電子の磁気モーメントは強くなり、磁場と同じ方向の軌道磁気モーメントを持つ電子の磁気モーメントは弱められる([[レンツの法則]])。結果として、物質全体では磁場とは逆向きの磁気モーメントが生じる。 |
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</blockquote> |
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なお、この解説は一種の[[ヒューリスティクス]]であって、真の理解のためには[[量子力学]]を持ち出す必要がある。 |
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あらゆる物質でこのような電子軌道の変化が起きるが、常磁性や強磁性の物質では対になっていない電子の効果が相対的に大きいため、反磁性的現象は観測できない。 |
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=== 常磁性 === |
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{{Main|常磁性}} |
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常磁性の物質には対になっていない電子があり、[[原子軌道]]または[[分子軌道]]に1つしか電子が存在しない。[[パウリの排他原理]]により、1つの軌道を共有する2つの電子は真性(スピン)磁気モーメントが逆向きになっていて、その磁気モーメントによる磁場は相殺される。対になっていない電子では磁気モーメントの向きは自由である。外部から磁場が印加されるとそれらの磁気モーメントは印加された磁場の向きにそろう傾向があり、それによって全体の磁気が強まる。 |
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=== 強磁性 === |
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{{Main|強磁性}} |
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強磁性体も常磁性体と同様に対でない電子を持つ。したがって、磁場に置かれたときにそれらの磁気モーメントが一定方向にそろう性質を持つが、同時にエネルギー状態を低く保とうとしてそれぞれの磁気モーメントが互いに揃おうとする傾向がある。そのため、磁場を除いても物質内の電子が同じ向きを維持し続け、磁石となる。 |
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強磁性物質にはそれぞれ[[キュリー温度]]またはキュリー点と呼ばれる温度があり、それより高温の状態では強磁性を失う。これは、高温によって原子や分子が乱雑に運動するため、強磁性を発揮するために必要な向きの一致が保てなくなるためである。 |
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[[磁石]]などにも使われる強磁性物質としては、[[ニッケル]]、[[鉄]]、[[コバルト]]、[[ガドリニウム]]、およびそれらの[[合金]]がある。 |
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==== 磁区 ==== |
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[[ファイル:Ferromag Matl Sketch.JPG|right|thumb|150px|強磁性体の磁区]] |
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[[強磁性]]物質では個々の原子が持つ磁気モーメントによって、原子が小さな永久磁石のような振る舞いをする。そのため、互いに磁石のように引き付けあって整列し、磁気モーメントが揃った区域を形成する。これを[[磁区]] (magnetic domain) と呼ぶ。[[磁気力顕微鏡]]を使うとこの微小な磁区を観察できる。 |
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[[ファイル:Ferromag Matl Magnetized.JPG|left|thumb|180px|磁石が磁区に及ぼす影響]] |
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1つの磁区が大きくなりすぎると不安定になり、逆向きの2つの磁区に分裂する。すると右図のようになり、隣接する磁区がより強固に引き付け合うことになる。 |
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強磁性体を磁場に置くと、左図のように磁区が成長して磁場の方向に揃うようになる。外部磁場を取り除くいても、磁区の状態が元に戻らないこともある。そのため強磁性物質は磁化され、[[永久磁石]]となる。 |
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十分強力に[[磁化]]されると、1つの磁区が支配的となって飽和磁化状態となる。磁化された強磁性物質を熱して[[キュリー温度]]を超えると、分子が揺り動かされて磁区を形成できなくなり、強磁性は失われる。 |
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=== 反強磁性 === |
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[[ファイル:Antiferromagnetic ordering.svg|thumb|反強磁性の磁気モーメントの配列]] |
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{{Main|反強磁性}} |
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反強磁性は強磁性とは異なり、隣接する原子の真性磁気モーメントが互いに反対向き(反平行)になる傾向がある。原子が整列している場合、隣接する原子同士で磁気モーメントは常に反平行となり、反強磁性を示す。反強磁性体は全体として磁気モーメントが相殺されているため、磁場を発生しない。反強磁性は他の磁性に比較するとあまり見られず、主に非常に低い温度で観測される。温度を変化させると反強磁性体は反磁性および[[フェリ磁性]]を示す。 |
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一部の物質では隣接する電子が反平行となるが、それぞれの対はばらばらな向きを向いている。このような物質を「[[スピングラス]]」と呼ぶ。これは[[フラストレーション (磁性体)|フラストレーション]]が生じている例である。 |
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=== フェリ磁性 === |
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[[ファイル:Ferrimagnetic ordering.svg|thumb|フェリ磁性の磁気モーメントの配列]] |
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{{Main|フェリ磁性}} |
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強磁性体と同様、フェリ磁性体も磁場のない状態で磁化された状態を保持する。しかし反強磁性体と同様、隣接する電子のスピンは反平行となっている。一見すると矛盾する特性を兼ね備えているのは、最適な幾何学的配置において一方向の磁気モーメントが逆方向の磁気モーメントより大きいためである。 |
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天然に産する[[磁鉄鉱]]は元々は強磁性体だとみなされていたが、[[ルイ・ネール]]がフェリ磁性体であることを発見した。 |
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=== 超常磁性 === |
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{{Main|超常磁性}} |
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強磁性体あるいはフェリ磁性体が十分小さいとき、[[ブラウン運動]]に左右される単一の磁気スピンのように振る舞う。磁場を印加した場合の反応は定性的には常磁性体と類似しているが、定量的にはもっと大きい。 |
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=== 電磁石 === |
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[[ファイル:Electromagnet.gif|thumb|right|電磁石に電流を流すと磁場を発生し、クリップを引き付ける。電源を切ると磁場もなくなりクリップは離れる。]] |
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{{Main|電磁石}} |
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電磁石は[[電流]]を流すことで磁性を発揮する[[磁石]]の一種である。電流を切ると磁場も消失する。 |
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=== その他の磁性 === |
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* [[分子磁石]] |
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* [[メタ磁性]] |
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* [[スピングラス]] |
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[[マグネター]]と呼ばれる非常に強い磁場を持つ星も存在すると考えられている。 |
[[マグネター]]と呼ばれる非常に強い磁場を持つ星も存在すると考えられている。 |
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== 磁性 |
== 磁性・電気と特殊相対性 == |
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アインシュタインの[[特殊相対性理論]]の帰結として、電気と磁気は根本的に相互に関連していると理解されている。電気を伴わない磁気や磁気を伴わない電気は、[[ローレンツ力]]が速度に依存する点から特殊相対性理論と整合しない。しかし、電気と磁気を両方考慮する[[電磁気学]]の理論は特殊相対性理論に完全に整合している<ref name="Moving" /><ref>{{cite book|last = Griffiths|first = David J.|author-link=デイヴィッド・グリフィス |title = Introduction to Electrodynamics|edition = 3rd|publisher = Prentice Hall|year = 1998|isbn = 0-13-805326-X|oclc = 40251748}}, chapter 12</ref>。従って、ある観察者から見て完全に電気に見える現象は、別の観察者から見れば完全に磁気に見える可能性があり、電気と磁気は系に依存した相対的なものである。つまり、特殊相対性理論では電気と磁気は1つとなり、分けて考えることができない。 |
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== 磁場と力 == |
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[[ファイル:Magnet0873.png|thumb|棒磁石の上に紙を置き、その上に砂鉄を撒くと、磁力線が目に見えるようになる。]] |
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{{Main|磁場}} |
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磁気現象は磁場によってもたらされる。電流または磁気双極子は磁場を生み出し、その磁場内にある他の粒子に磁力が与えられる。 |
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マクスウェルの方程式(定常電流の場合は[[ビオ・サバールの法則]]に単純化される)は、そういった力を生み出す場の起源とその振る舞いを説明する。[[電荷]]を持つ粒子が[[運動 (物理学)|運動]]すると(例えば、電子の運動によって[[電流]]が流れる場合や原子核の周りを電子が軌道を描いて回る場合)、磁力が観測される。そして、その源泉は量子力学的[[スピン角運動量|スピン]]から生じる真性[[磁気双極子]]である。 |
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荷電粒子が電流として運動したり原子内で運動する、あるいは真性磁気双極子によって磁場が生まれると、磁力も生じる。次の式は運動する荷電粒子についてのものである。 |
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[[磁場]] B の中を運動する荷電粒子は、以下の[[外積]]([[クロス積]])で表される力 F([[ローレンツ力]])を受ける<ref>{{Cite book |first = John David |last = Jackson |author-link= |title = Classical electrodynamics |edition = 3rd|location = New York |publisher = Wiley | year = 1999 |isbn = 0-471-30932-X |postscript = <!--None-->}}</ref>。 |
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: <math>\vec F = q \vec v \times \vec B</math> |
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ここで、 |
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* <math>q\,</math> は粒子の電荷 |
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* <math>\vec v \,</math> は粒子の[[速度]][[空間ベクトル|ベクトル]] |
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* <math>\vec B \,</math> は磁場 |
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この力は外積なので、粒子の速度と磁場の両方に対して[[垂直]]な方向に働く。このため[[仕事 (物理学)|仕事]]はなされず、磁力は粒子の運動の方向だけを変え、速さは変えない。その力の大きさは次の式で表される。 |
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: <math>F=qvB\sin\theta\,</math> |
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ここで、<math>\theta</math>は '''v''' と '''B''' の間の角度である。 |
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移動する荷電粒子と磁場の方向から力のかかる方向を知るには[[フレミング右手の法則]]を応用すればよい。'''v''' を[[人差し指]]、'''B''' を[[中指]]で表せば、力 '''F''' の方向は[[親指]]で表される。 |
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== 磁気双極子 == |
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{{Main|磁気双極子}} |
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通常、磁場は[[磁気双極子|双極子]]場として現れ、[[S極]]と[[N極]]を持つ。「S極」「N極」という用語は磁石を[[方位磁石]]として使っていたことに由来している(方位磁石は地球の磁場すなわち[[地磁気]]と相互作用し、地球上での北 (North) と南 (South) を指し示す)。 |
|||
磁場は[[エネルギー]]を蓄える。物理系は普通、エネルギーが最小となる配置で安定となる。そのため、[[磁気双極子]]を磁場の中に置くと、磁場と反対の方向に自らの磁極を向けようとし、これによって正味の磁場の強さをできるだけ打ち消して磁場に蓄えられるエネルギーを小さくしようとする。例えば、2つの同じ棒磁石を重ねると普通、互いのN極とS極がくっついて正味の磁場が打ち消されるようになり、同じ方向に重ねようとする力には逆らおうとする。2つの棒磁石を同じ方向で重ねるために使われたエネルギーは重なった2本の磁石が作る磁場に蓄えられ、その強さは1本の磁石の2倍になる。(これが、方位磁石として使われる磁石が地球磁場と作用して北と南を向く理由である。) |
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=== 磁気単極子 === |
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{{Main|磁気単極子}} |
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棒磁石が強磁性を持っているのは、棒全体に電子が均一に分布しているからであり、棒を半分に切ってもそれぞれの断片が小さい棒磁石になる。いすれにしても磁石にはN極とS極があり、磁石を切断してもN極とS極を分離することはできない。[[磁気単極子]]というものが実在するなら、全く新たな磁気効果を生じるだろう。それはN極またはS極がもう一方と対ではなく単独で存在するものを指す。1931年以降2010年現在まで磁気単極子の体系的な探索が行われてきたが、未だに発見されておらず、実在しないと見られている<ref>{{cite journal |last=Milton |first=Kimball A. |title=Theoretical and experimental status of magnetic monopoles |journal=Reports on Progress in Physics |volume=69 |issue=6 |month=June |year=2006 |pages=1637–1711 |doi=10.1088/0034-4885/69/6/R02 |url= http://arxiv.org/abs/hep-ex/0602040}} - Milton はいくつかの決定的でない事象に言及し (p.60)、「磁気単極子が存在したという証拠は全く残っていない」と結論している (p.3)。</ref>。 |
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通常の経験に反して、いくつかの理論物理学のモデルでは'''[[磁気単極子]]'''(モノポール)の存在を予言している。[[1931年]]に[[ポール・ディラック]]は、電気と磁気にはある種の[[対称性]]があるため、[[量子電磁力学|量子論]]によって単独の正あるいは負の[[電荷]]の存在が予言されるのと同様に、孤立したS極あるいはN極の磁極も存在するはずだ、と述べた。しかし実際には、荷電粒子は[[陽子]]と[[電子]]のように個々の電荷として容易に孤立して存在できるが、SとNの磁極はばらばらには現れない。ディラックは量子論を用いて、もしも磁気単極子が存在するならば、なぜ観測される[[基本粒子|素粒子]]が電子の電荷の整数倍の電荷しか持たないのか、という理由を説明できることを示した。なお、[[クォーク]]は分数電荷を持つが、自由粒子としては観測されない。 |
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現代の素粒子論では、電荷の量子化は非可換[[ゲージ]][[対称性]]の自発的破れによって実現されるとされている。現在のある種の[[大統一理論]]で予言されているモノポールはディラックによって考えられた元々のモノポールとは異なることに注意する必要がある。今日考えられているモノポールはかつての素粒子としてのモノポールとは異なり、[[ソリトン]]、すなわち局所的に集まったエネルギーの「束」である。こういったモノポールが仮にも存在するとすれば、[[宇宙論]]の観測結果と矛盾することになる。宇宙論の分野でこのモノポール問題を解決する理論として考えられたのが、現在有力とされている[[宇宙のインフレーション|インフレーション]]のアイデアである<ref>{{cite book |first=Alan|last=Guth|authorlink=アラン・グース|title=The Inflationary Universe: The Quest for a New Theory of Cosmic Origins|isbn=0-201-32840-2|publisher=Perseus|year=1997 |oclc=38941224}}.</ref>。 |
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== 電磁気に関する単位 == |
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*[[ガウス]] – 磁場([[磁束密度]])の[[CGS単位系|CGS]][[物理単位|単位]]。 |
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* ガンマ (γ) – 地磁気の磁束密度の単位。1ガンマは1ナノテスラに等しい。 |
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== 生物と磁性 == |
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一部の[[生物]]は磁場を知覚でき、これを[[磁覚]] ([[:en:magnetoception|magnetoception]]) と呼ぶ。[[医学]]的治療に磁場を使う [[:en:Magnetobiology|Magnetobiology]] もある。また、生物が磁場を生み出す現象を [[:en:biomagnetism|biomagnetism]] と呼ぶ。 |
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== 脚注・出典 == |
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== 参考文献 == |
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* {{cite book | author=Furlani, Edward P. | title=Permanent Magnet and Electromechanical Devices: Materials, Analysis and Applications | publisher=Academic Press | year=2001 | isbn=0-12-269951-3 | oclc=162129430}} |
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* {{cite book | author=Griffiths, David J.|title=Introduction to Electrodynamics (3rd ed.)| publisher=Prentice Hall |year=1998 |isbn=0-13-805326-X | oclc=40251748}} |
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* {{cite book | author=Kronmüller, Helmut.|title=Handbook of Magnetism and Advanced Magnetic Materials, 5 Volume Set| publisher=John Wiley & Sons|year=2007 |isbn=978-0-470-02217-7 | oclc=124165851}} |
|||
* {{cite book | author=Tipler, Paul | title=Physics for Scientists and Engineers: Electricity, Magnetism, Light, and Elementary Modern Physics (5th ed.) | publisher=W. H. Freeman | year=2004 | isbn=0-7167-0810-8 | oclc=51095685}} |
|||
* {{cite book | author=David K. Cheng | title=Field and Wave Electromagnetics | publisher=Addison-Wesley Publishing Company, Inc. | year=1992 | isbn=0-201-12819-5 }} |
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== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
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{{Commonscat|Magnetism}} |
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* [[電磁気学]] - [[静電気学]] - [[レンツの法則]] |
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* [[磁石]] |
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* [[磁気モーメント]] - [[磁化]] - [[保磁力]] |
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* [[磁性体]] |
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* [[磁性体]] - [[磁石]] - [[電磁石]] - [[プラスチック磁石]] - [[ネオジム磁石]] - [[希土類磁石]] |
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* [[電磁気学]] |
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* [[磁鉄鉱]] |
* [[磁鉄鉱]] - [[磁硫鉄鉱]] |
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* [[磁気軸受]] - [[センサ]] - [[マグネチックスターラー]] |
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* [[磁硫鉄鉱]] |
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* [[マグネター]] |
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* [[断熱消磁]] |
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== 外部リンク == |
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<!-- 英語版ウィキペディアの“Magnetism”(07:34, 10 Jan 2005)を参考に加筆。磁石の性質については「磁石」に詳細な説明があるので省きました。 --> |
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* [http://sciencecastle.com/sc/index.php/scienceexperiments/search?p=0&t=a&v=mr&c=0&cl=1 Magnetism Experiments] |
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* [http://www.lightandmatter.com/html_books/0sn/ch11/ch11.html Electromagnetism] - a chapter from an online textbook |
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* [http://edu.blogs.com/edublogs/2009/04/magnetism-explained-beautifully.html Jacob Bogatin about Magnetism] |
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* [http://www.youtube.com/watch?v=wMFPe-DwULM Video: The physicist Richard Feynman answers the question, Why do bar magnets attract or repel each other?] |
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* [http://www.antiquebooks.net/readpage.html#gilbert On the Magnet, 1600] ウィリアム・ギルバートの著作のオンライン版。全文検索可能。 |
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2010年11月18日 (木) 03:08時点における版
物理学において、磁性(じせい、英:magnetism)とは、物質が原子あるいは原子よりも小さいレベルで磁場に反応する性質であり、他の物質に対して引力や斥力を及ぼす性質の一つである。磁気(じき)ともいう。
概要
例えば、磁性の中でも最もよく知られている強磁性の場合、強磁性物質は自ら持続的な磁場を生み出す。しかしながら、あらゆる物質は程度の差こそあれ、磁場によって何らかの影響を受ける。磁場に引き付けられる物質もあれば(常磁性)、磁場に反発する物質もある(反磁性)。磁場と複雑な関係を有する物質もある。磁場の影響が無視できる物質は非磁性 (non-magnetic) 物質と呼ばれる。例えば、銅、アルミニウム、気体、合成樹脂などが含まれる。容易に分かるほど強い磁性を示す物質として、鉄やある種の鋼、磁鉄鉱(天然磁石)や磁硫鉄鉱といった鉱物などがよく知られている。全ての物質は磁場によって多かれ少なかれ影響を受けるが、ほとんどの場合、その影響は特別な装置を使わなければ検出できないほど小さい。
ある物質の磁性状態(または相)は温度(あるいは圧力や周囲の磁場)に依存するため、1つの物質であっても温度などの条件によって様々な磁性を示すことがある。
磁力は電荷の運動によって引き起こされる基本的な力である。磁力を支配する源や場の振る舞いはマクスウェル方程式で記述される(ビオ・サバールの法則も参照のこと)。よって磁性は電荷を持つ粒子が運動をすればいつでも現れる。磁性は電流の中の電子の運動によって発生して電磁気と呼ばれたり、電子の量子力学的な軌道運動やスピンによって生じ、永久磁石の力の源となったりする(電子は太陽を周る惑星のような軌道運動を行なっているわけではないが、「実効的な電子の速度」は存在する)。
歴史
アリストテレスによれば、世界最古の磁性に関する科学的議論をしたのはタレス(紀元前625年-545年)だという[1]。同じころ古代インドでは医師ススルタが磁石を手術に利用している[2]。
古代中国では、紀元前4世紀の『鬼谷子』に「磁石は鉄をひきつける」という磁性に関する記述がある[3]。紀元20年から100年の間に書かれた『論衡』には「磁石が針をひきつける」という記述がある[4]。11世紀中国の科学者沈括 (1031–1095) は『夢渓筆談』で方位磁針について記述している。
1187年、アレクサンダー・ネッカムはヨーロッパで初めて方位磁針とその航海への応用を記述した。1269年、ペトルス・ペレグリヌスが書いた『磁気書簡』(Epistola de magnete) は、磁石の性質について記した現存する最古の論文である。1282年、イスラムの物理学者で天文学者、地理学者のアル=アシュラフが磁石と方位磁針の性質について記述している[5]。
1600年、ウィリアム・ギルバートが De Magnete, Magneticisque Corporibus, et de Magno Magnete Tellure(磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理)を出版。その中で地球をモデル化した terrella を使った様々な実験結果を示している。そういった実験により、彼は地球自体が磁性を持っていて、それによって地磁気が発生して方位磁針が北を指すのだと結論付けた。それまで、方位磁針を引き付けているのは北極星(ポラリス)だという説や北極にある巨大な磁石でできた島だという説が信じられていた。
電気と磁気の関係の解明は1819年、コペンハーゲン大学の教授だったハンス・クリスティアン・エルステッドが電流によって方位磁針が影響を受けることを発見したのが始まりである。その後、アンドレ=マリ・アンペール、カール・フリードリヒ・ガウス、マイケル・ファラデーといった人々が実験を行い、電気と磁気の関係をさらに明らかにしていった。ジェームズ・クラーク・マクスウェルはそれまでの知見をマクスウェルの方程式にまとめ、電気と磁気と光学を一分野にまとめた電磁気学を生み出すことになった。1905年、アインシュタインはそこから特殊相対性理論を生み出した[6]。
電磁気学は21世紀になっても発展し続け、より根本的な理論であるゲージ理論、量子電磁力学、電弱相互作用理論などに組み込まれ、最終的に標準模型を生み出した。
磁性の源
磁性と角運動量には密接な関係があり、微視的には「磁化による回転」を示すアインシュタイン・ド=ハース効果と、その逆の「回転による磁化」を示すバーネット効果がある[7]。
原子およびそれよりさらに小さいスケールでは、この関係は磁気モーメントと角運動量の比、すなわち磁気回転比で表される。
磁性の源泉は2種類ある。
- 電流または移動する電荷によって磁場が形成される(マクスウェルの方程式)
- 多くの素粒子はゼロでない「真性」(または「スピン」)磁気モーメントを持つ。それぞれの粒子に質量と電荷があるように、ゼロでない磁気モーメントを持つことがある。
物体が磁性を持つ物理的原因は、電流の場合とは異なり、原子に生じる磁気双極子である。原子スケールでの磁気双極子、あるいは磁気モーメントは、電子の2種類の運動によって生じる。1番目は原子核の周りを回る電子の軌道運動である。これは電流のループと見なすことができ、原子の軸方向に軌道磁気モーメントを生じる。2番目の、もっとずっと強い磁気モーメントの源は、スピンと呼ばれる量子力学的な性質である。これはスピン磁気モーメントと呼ばれる(ただし現代の量子力学の理論では、電子が実際に物理的に自転したり原子核の周りを軌道運動したりするとされているわけではない)。なお原子核にも磁気モーメントは存在するが、一般に電子のそれの数千分の1の強さしかなく、物質の磁性にはほとんど影響しない。核磁気共鳴 (NMR) や核磁気共鳴画像法 (MRI) はその原子核の磁気モーメントを利用している。
原子の全体的な磁気モーメントは、個々の電子の磁気モーメントの総和になる。磁気双極子は互いに反発して正味のエネルギーを小さくしようとするため、軌道運動においてもスピン磁気モーメントにおいても、いくつかの電子のペアが持つ反対向きの磁気モーメントは互いに打ち消しあう。このため、電子殻や副殻が完全に満たされている原子では磁気モーメントは通常は完全に打ち消される。磁気モーメントを持つのは電子殻が部分的に満たされている原子だけであり、その強さは不対電子の数で決まる。
そのため、様々な元素ごとの電子配置の違いが原子の磁気モーメントの性質や強さを決めており、また様々な物質の磁気的な特性の違いをも決めている。また、温度によっても磁気的特性は変化する(高温では無作為な分子の運動によって電子が一定方向にそろって運動し続けるのが困難になる)。様々な物質で以下のようないくつかの形態の磁気的な振る舞いが見られる。
様々な磁性
反磁性
反磁性はあらゆる物質に存在し、磁場に反発する傾向を示す。しかし、常磁性(外部の磁場を強化する傾向)のある物質では常磁性が支配的になる[8]。したがって、あらゆる物質が反磁性を持つにも関わらず、反磁性的現象は反磁性しか持たない物質でしか観測されない。反磁性物質では電子は必ず対になっており、電子のスピン磁気モーメントは常に相殺されて巨視的効果を全く引き起こさない。その場合、磁化は電子の軌道運動から生じ、古典的には次のように理解できる。
物質を磁場に置くと、原子核の周囲を回っている電子は原子核との間のクーロン力に加えて磁場によるローレンツ力を受けることになる。電子の運動の方向によって、向心力が強まって電子が原子核に引き寄せられたり、逆に引き離されたりする。このため、磁場と逆向きの軌道磁気モーメントを持つ電子の磁気モーメントは強くなり、磁場と同じ方向の軌道磁気モーメントを持つ電子の磁気モーメントは弱められる(レンツの法則)。結果として、物質全体では磁場とは逆向きの磁気モーメントが生じる。
なお、この解説は一種のヒューリスティクスであって、真の理解のためには量子力学を持ち出す必要がある。
あらゆる物質でこのような電子軌道の変化が起きるが、常磁性や強磁性の物質では対になっていない電子の効果が相対的に大きいため、反磁性的現象は観測できない。
常磁性
常磁性の物質には対になっていない電子があり、原子軌道または分子軌道に1つしか電子が存在しない。パウリの排他原理により、1つの軌道を共有する2つの電子は真性(スピン)磁気モーメントが逆向きになっていて、その磁気モーメントによる磁場は相殺される。対になっていない電子では磁気モーメントの向きは自由である。外部から磁場が印加されるとそれらの磁気モーメントは印加された磁場の向きにそろう傾向があり、それによって全体の磁気が強まる。
強磁性
強磁性体も常磁性体と同様に対でない電子を持つ。したがって、磁場に置かれたときにそれらの磁気モーメントが一定方向にそろう性質を持つが、同時にエネルギー状態を低く保とうとしてそれぞれの磁気モーメントが互いに揃おうとする傾向がある。そのため、磁場を除いても物質内の電子が同じ向きを維持し続け、磁石となる。
強磁性物質にはそれぞれキュリー温度またはキュリー点と呼ばれる温度があり、それより高温の状態では強磁性を失う。これは、高温によって原子や分子が乱雑に運動するため、強磁性を発揮するために必要な向きの一致が保てなくなるためである。
磁石などにも使われる強磁性物質としては、ニッケル、鉄、コバルト、ガドリニウム、およびそれらの合金がある。
磁区
強磁性物質では個々の原子が持つ磁気モーメントによって、原子が小さな永久磁石のような振る舞いをする。そのため、互いに磁石のように引き付けあって整列し、磁気モーメントが揃った区域を形成する。これを磁区 (magnetic domain) と呼ぶ。磁気力顕微鏡を使うとこの微小な磁区を観察できる。
1つの磁区が大きくなりすぎると不安定になり、逆向きの2つの磁区に分裂する。すると右図のようになり、隣接する磁区がより強固に引き付け合うことになる。
強磁性体を磁場に置くと、左図のように磁区が成長して磁場の方向に揃うようになる。外部磁場を取り除くいても、磁区の状態が元に戻らないこともある。そのため強磁性物質は磁化され、永久磁石となる。
十分強力に磁化されると、1つの磁区が支配的となって飽和磁化状態となる。磁化された強磁性物質を熱してキュリー温度を超えると、分子が揺り動かされて磁区を形成できなくなり、強磁性は失われる。
反強磁性
反強磁性は強磁性とは異なり、隣接する原子の真性磁気モーメントが互いに反対向き(反平行)になる傾向がある。原子が整列している場合、隣接する原子同士で磁気モーメントは常に反平行となり、反強磁性を示す。反強磁性体は全体として磁気モーメントが相殺されているため、磁場を発生しない。反強磁性は他の磁性に比較するとあまり見られず、主に非常に低い温度で観測される。温度を変化させると反強磁性体は反磁性およびフェリ磁性を示す。
一部の物質では隣接する電子が反平行となるが、それぞれの対はばらばらな向きを向いている。このような物質を「スピングラス」と呼ぶ。これはフラストレーションが生じている例である。
フェリ磁性
強磁性体と同様、フェリ磁性体も磁場のない状態で磁化された状態を保持する。しかし反強磁性体と同様、隣接する電子のスピンは反平行となっている。一見すると矛盾する特性を兼ね備えているのは、最適な幾何学的配置において一方向の磁気モーメントが逆方向の磁気モーメントより大きいためである。
天然に産する磁鉄鉱は元々は強磁性体だとみなされていたが、ルイ・ネールがフェリ磁性体であることを発見した。
超常磁性
強磁性体あるいはフェリ磁性体が十分小さいとき、ブラウン運動に左右される単一の磁気スピンのように振る舞う。磁場を印加した場合の反応は定性的には常磁性体と類似しているが、定量的にはもっと大きい。
電磁石
電磁石は電流を流すことで磁性を発揮する磁石の一種である。電流を切ると磁場も消失する。
その他の磁性
マグネターと呼ばれる非常に強い磁場を持つ星も存在すると考えられている。
磁性・電気と特殊相対性
アインシュタインの特殊相対性理論の帰結として、電気と磁気は根本的に相互に関連していると理解されている。電気を伴わない磁気や磁気を伴わない電気は、ローレンツ力が速度に依存する点から特殊相対性理論と整合しない。しかし、電気と磁気を両方考慮する電磁気学の理論は特殊相対性理論に完全に整合している[6][9]。従って、ある観察者から見て完全に電気に見える現象は、別の観察者から見れば完全に磁気に見える可能性があり、電気と磁気は系に依存した相対的なものである。つまり、特殊相対性理論では電気と磁気は1つとなり、分けて考えることができない。
磁場と力
磁気現象は磁場によってもたらされる。電流または磁気双極子は磁場を生み出し、その磁場内にある他の粒子に磁力が与えられる。
マクスウェルの方程式(定常電流の場合はビオ・サバールの法則に単純化される)は、そういった力を生み出す場の起源とその振る舞いを説明する。電荷を持つ粒子が運動すると(例えば、電子の運動によって電流が流れる場合や原子核の周りを電子が軌道を描いて回る場合)、磁力が観測される。そして、その源泉は量子力学的スピンから生じる真性磁気双極子である。
荷電粒子が電流として運動したり原子内で運動する、あるいは真性磁気双極子によって磁場が生まれると、磁力も生じる。次の式は運動する荷電粒子についてのものである。
磁場 B の中を運動する荷電粒子は、以下の外積(クロス積)で表される力 F(ローレンツ力)を受ける[10]。
ここで、
この力は外積なので、粒子の速度と磁場の両方に対して垂直な方向に働く。このため仕事はなされず、磁力は粒子の運動の方向だけを変え、速さは変えない。その力の大きさは次の式で表される。
ここで、は v と B の間の角度である。
移動する荷電粒子と磁場の方向から力のかかる方向を知るにはフレミング右手の法則を応用すればよい。v を人差し指、B を中指で表せば、力 F の方向は親指で表される。
磁気双極子
通常、磁場は双極子場として現れ、S極とN極を持つ。「S極」「N極」という用語は磁石を方位磁石として使っていたことに由来している(方位磁石は地球の磁場すなわち地磁気と相互作用し、地球上での北 (North) と南 (South) を指し示す)。
磁場はエネルギーを蓄える。物理系は普通、エネルギーが最小となる配置で安定となる。そのため、磁気双極子を磁場の中に置くと、磁場と反対の方向に自らの磁極を向けようとし、これによって正味の磁場の強さをできるだけ打ち消して磁場に蓄えられるエネルギーを小さくしようとする。例えば、2つの同じ棒磁石を重ねると普通、互いのN極とS極がくっついて正味の磁場が打ち消されるようになり、同じ方向に重ねようとする力には逆らおうとする。2つの棒磁石を同じ方向で重ねるために使われたエネルギーは重なった2本の磁石が作る磁場に蓄えられ、その強さは1本の磁石の2倍になる。(これが、方位磁石として使われる磁石が地球磁場と作用して北と南を向く理由である。)
磁気単極子
棒磁石が強磁性を持っているのは、棒全体に電子が均一に分布しているからであり、棒を半分に切ってもそれぞれの断片が小さい棒磁石になる。いすれにしても磁石にはN極とS極があり、磁石を切断してもN極とS極を分離することはできない。磁気単極子というものが実在するなら、全く新たな磁気効果を生じるだろう。それはN極またはS極がもう一方と対ではなく単独で存在するものを指す。1931年以降2010年現在まで磁気単極子の体系的な探索が行われてきたが、未だに発見されておらず、実在しないと見られている[11]。
通常の経験に反して、いくつかの理論物理学のモデルでは磁気単極子(モノポール)の存在を予言している。1931年にポール・ディラックは、電気と磁気にはある種の対称性があるため、量子論によって単独の正あるいは負の電荷の存在が予言されるのと同様に、孤立したS極あるいはN極の磁極も存在するはずだ、と述べた。しかし実際には、荷電粒子は陽子と電子のように個々の電荷として容易に孤立して存在できるが、SとNの磁極はばらばらには現れない。ディラックは量子論を用いて、もしも磁気単極子が存在するならば、なぜ観測される素粒子が電子の電荷の整数倍の電荷しか持たないのか、という理由を説明できることを示した。なお、クォークは分数電荷を持つが、自由粒子としては観測されない。
現代の素粒子論では、電荷の量子化は非可換ゲージ対称性の自発的破れによって実現されるとされている。現在のある種の大統一理論で予言されているモノポールはディラックによって考えられた元々のモノポールとは異なることに注意する必要がある。今日考えられているモノポールはかつての素粒子としてのモノポールとは異なり、ソリトン、すなわち局所的に集まったエネルギーの「束」である。こういったモノポールが仮にも存在するとすれば、宇宙論の観測結果と矛盾することになる。宇宙論の分野でこのモノポール問題を解決する理論として考えられたのが、現在有力とされているインフレーションのアイデアである[12]。
電磁気に関する単位
磁性に関わるSI単位系
名称 | 記号 | 次元 | 組立 | 物理量 |
---|---|---|---|---|
アンペア(SI基本単位) | A | I | A | 電流 |
クーロン | C | T I | A·s | 電荷(電気量) |
ボルト | V | L2 T−3 M I−1 | J/C = kg·m2·s−3·A−1 | 電圧・電位 |
オーム | Ω | L2 T−3 M I−2 | V/A = kg·m2·s−3·A−2 | 電気抵抗・インピーダンス・リアクタンス |
オーム・メートル | Ω·m | L3 T−3 M I−2 | kg·m3·s−3·A−2 | 電気抵抗率 |
ワット | W | L2 T−3 M | V·A = kg·m2·s−3 | 電力・放射束 |
ファラド | F | L−2 T4 M−1 I2 | C/V = kg−1·m−2·A2·s4 | 静電容量 |
ファラド毎メートル | F/m | L−3 T4 I2 M−1 | kg−1·m−3·A2·s4 | 誘電率 |
毎ファラド(ダラフ) | F−1 | L2 T−4 M I−2 | V/C = kg1·m2·A−2·s−4 | エラスタンス |
ボルト毎メートル | V/m | L T−3 M I−1 | kg·m·s−3·A−1 | 電場(電界)の強さ |
クーロン毎平方メートル | C/m2 | L−2 T I | C/m2= m−2·A·s | 電束密度 |
ジーメンス | S | L−2 T3 M−1 I2 | Ω−1 = kg−1·m−2·s3·A2 | コンダクタンス・アドミタンス・サセプタンス |
ジーメンス毎メートル | S/m | L−3 T3 M−1 I2 | kg−1·m−3·s3·A2 | 電気伝導率(電気伝導度・導電率) |
ウェーバ | Wb | L2 T−2 M I−1 | V·s = J/A = kg·m2·s−2·A−1 | 磁束 |
テスラ | T | T−2 M I−1 | Wb/m2 = kg·s−2·A−1 | 磁束密度 |
アンペア回数 | A | I | A | 起磁力 |
アンペア毎メートル | A/m | L−1 I | m−1·A | 磁場(磁界)の強さ |
アンペア毎ウェーバ | A/Wb | L−2 T2 M−1 I2 | kg−1·m−2·s2·A2 | 磁気抵抗(リラクタンス、英: reluctance) |
ヘンリー | H | L2 T−2 M I−2 | Wb/A = V·s/A = kg·m2·s−2·A−2 | インダクタンス・パーミアンス |
ヘンリー毎メートル | H/m | L T−2 M I−2 | kg·m·s−2·A−2 | 透磁率 |
その他の単位
- ガウス – 磁場(磁束密度)のCGS単位。
- エルステッド – 磁場の強さのCGS単位。
- マクスウェル – 磁束のCGS単位。
- ガンマ (γ) – 地磁気の磁束密度の単位。1ガンマは1ナノテスラに等しい。
- μ0 – 真空の透磁率を表す記号(4π×10−7 N/AT2)
生物と磁性
一部の生物は磁場を知覚でき、これを磁覚 (magnetoception) と呼ぶ。医学的治療に磁場を使う Magnetobiology もある。また、生物が磁場を生み出す現象を biomagnetism と呼ぶ。
脚注・出典
- ^ Fowler, Michael (1997年). “Historical Beginnings of Theories of Electricity and Magnetism”. 2008年4月2日閲覧。
- ^ Vowles, Hugh P. (1932). “Early Evolution of Power Engineering”. Isis (University of Chicago Press) 17 (2): 412–420 [419–20]. doi:10.1086/346662.
- ^ Li Shu-hua, “Origine de la Boussole 11. Aimant et Boussole,” Isis, Vol. 45, No. 2. (Jul., 1954), p.175
- ^ Li Shu-hua, “Origine de la Boussole 11. Aimant et Boussole,” Isis, Vol. 45, No. 2. (Jul., 1954), p.176
- ^ Schmidl, Petra G. (1996-1997). “Two Early Arabic Sources On The Magnetic Compass”. Journal of Arabic and Islamic Studies 1: 81–132.
- ^ a b A. Einstein: "On the Electrodynamics of Moving Bodies", June 30, 1905.
- ^ B. D. Cullity, C. D. Graham (2008). Introduction to Magnetic Materials (2 ed.). Wiley-IEEE. p. 103. ISBN 0471477419
- ^ Catherine Westbrook, Carolyn Kaut, Carolyn Kaut-Roth (1998). MRI (Magnetic Resonance Imaging) in practice (2 ed.). Wiley-Blackwell. p. 217. ISBN 0632042052
- ^ Griffiths, David J. (1998). Introduction to Electrodynamics (3rd ed.). Prentice Hall. ISBN 0-13-805326-X. OCLC 40251748, chapter 12
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- ^ Guth, Alan (1997). The Inflationary Universe: The Quest for a New Theory of Cosmic Origins. Perseus. ISBN 0-201-32840-2. OCLC 38941224.
参考文献
- Furlani, Edward P. (2001). Permanent Magnet and Electromechanical Devices: Materials, Analysis and Applications. Academic Press. ISBN 0-12-269951-3. OCLC 162129430
- Griffiths, David J. (1998). Introduction to Electrodynamics (3rd ed.). Prentice Hall. ISBN 0-13-805326-X. OCLC 40251748
- Kronmüller, Helmut. (2007). Handbook of Magnetism and Advanced Magnetic Materials, 5 Volume Set. John Wiley & Sons. ISBN 978-0-470-02217-7. OCLC 124165851
- Tipler, Paul (2004). Physics for Scientists and Engineers: Electricity, Magnetism, Light, and Elementary Modern Physics (5th ed.). W. H. Freeman. ISBN 0-7167-0810-8. OCLC 51095685
- David K. Cheng (1992). Field and Wave Electromagnetics. Addison-Wesley Publishing Company, Inc.. ISBN 0-201-12819-5
関連項目
- 電磁気学 - 静電気学 - レンツの法則
- 磁気モーメント - 磁化 - 保磁力
- 磁性体 - 磁石 - 電磁石 - プラスチック磁石 - ネオジム磁石 - 希土類磁石
- 磁鉄鉱 - 磁硫鉄鉱
- 磁気軸受 - センサ - マグネチックスターラー
- マグネター
- 断熱消磁
外部リンク
- Magnetism Experiments
- Electromagnetism - a chapter from an online textbook
- Jacob Bogatin about Magnetism
- Video: The physicist Richard Feynman answers the question, Why do bar magnets attract or repel each other?
- On the Magnet, 1600 ウィリアム・ギルバートの著作のオンライン版。全文検索可能。