「閘門」の版間の差分
Luckas-bot (会話 | 投稿記録) m ロボットによる 追加: hi:जलपाश |
|||
(49人の利用者による、間の68版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
{{複数の問題 |
|||
[[Image:Lock-2.jpg|thumb|right|upright|[[イングランド]]にある閘門]] |
|||
| 脚注の不足 = 2022年2月 |
|||
[[Image:Canal-lock.jpg|thumb|right|[[オランダ]]、[[北東ポルダー]]にある閘門]] |
|||
| 独自研究 = 2022年1月 |
|||
[[Image:Grave canal lock.jpg|thumb|right|オランダ、[[:en:Grave, Netherlands|Grave]]にある閘門と[[水門]]の複合施設]] |
|||
}} |
|||
[[Image:Carlb-trentsevern-lock-01.jpg|right|thumb|[[カナダ]]、[[オンタリオ州]]にあるトレント-セバーン水路([[:en:Trent-Severn Waterway|Trent-Severn Waterway]])第一閘門]] |
|||
[[ファイル:Lock-2.jpg|thumb|right|upright|[[イングランド]]にある閘門]] |
|||
'''閘門'''(こうもん)は、水位の異なる[[川|河川]]や[[運河]]、[[水路]]の間で[[船]]を上下させるための装置である。閘門の特徴は、固定された閘室(前後を仕切った空間)の水位を変えられることで、これに対してケーソンロック([[:en:Caisson lock|Caisson lock]])、[[船舶昇降機|ボートリフト]]、運河用のインクライン([[:en:Canal inclined plane|Canal inclined plane]])などでは閘室自体を上下させる。 |
|||
[[ファイル:Canal-lock.jpg|thumb|right|[[オランダ]]、[[北東ポルダー]]にある閘門]] |
|||
[[ファイル:Grave canal lock.jpg|thumb|right|オランダ、[[:en:Grave, North Brabant|Grave]]にある閘門と[[水門]]の複合施設]] |
|||
[[ファイル:Carlb-trentsevern-lock-01.jpg|right|thumb|[[カナダ]]、[[オンタリオ州]]にあるトレント-セバーン水路([[:en:Trent-Severn Waterway|Trent-Severn Waterway]])第一閘門]] |
|||
'''閘門'''(こうもん、{{lang-en|Lock}})は、水位の異なる水面をもつ[[川|河川]]や[[運河]]、[[水路]]に設けられる[[船]]を通航させるための施設<ref name="mlit2" />。異なる水位間に水位が変化しうる一区画を設けて区画内の船を上下できるようにした設備を水閘<ref name="kakai172" />、水閘を区画するための界壁を閘門という場合もある<ref name="kakai210">{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 210}}</ref>。 |
|||
== 水閘と閘門 == |
|||
閘門は、川をより航行しやすくしたり、平坦でない土地に運河を建設したりするために用いられる。 |
|||
上下の異なる水位間を船が航進する方法の一つが水閘で、水閘は異なる水位間に水位が変化しうる一区画を設け、その中に船舶を進めて水を出し入れすることで一方の水位に合わせて上下するようにした設備をいう<ref name="kakai172" />。水閘は両側壁と閘底からなる<ref>{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 179}}</ref>。この水閘を区画するための界壁を閘門という<ref name="kakai210" />。 |
|||
== |
=== 水閘の種類 === |
||
==== 有室閘 ==== |
|||
河川では、急流や[[ダム]]、[[堰]]などの河川の水位が大きく変化する障壁を迂回して船が航行可能なようにするために閘門が用いられる。 |
|||
上下2つの異なる水位間に閘室と呼ばれる区画を備え、閘室の前後に隔壁となる閘門の類を有し、閘室内の水位を上下させて外側の水位と等しくすることができる水閘を有室閘という<ref name="kakai173">{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 173}}</ref>。 |
|||
==== 船渠単閘 ==== |
|||
大規模な河川航行用の改修では、堰と閘門が組み合わせて用いられる。河川が浅くなっている箇所に堰を設けて深さを増し、堰によって生じる段差か、堰を迂回する人工的な水路の終端に閘門を設置する。このような方法で改修された河川はしばしば水路と呼ばれる。 |
|||
[[船渠]]に使用される水閘の一種で、船渠外の水位が船渠内の水位よりも高い場合には閘門を開放して自由に船が出入りできるようになっているが、その他の場合には船渠内の水位を保つために閘門を閉鎖しておくもの<ref name="kakai173" />。有室閘の前室に相当するもののみで、閘室と後室が欠けている構造で、船の出入りが頻繁でない船渠の場合に用いられる<ref name="kakai173" />。一対の閘門で高低の水位を隔離するものを単床閘(単閘)といい、船渠内の水位を保つための船渠単閘も単床閘(単閘)だが、水位が内高外低のときは閉鎖し、外高内低のときは開放しておく<ref name="kakai174" />。 |
|||
航行可能な河川で最下流にある閘門は、潮の干満のある区間とない区間を隔てている。しばしば、河口部に直接河口堰を建設することで川に干満が生じないようにされることがある。 |
|||
==== 潮閘 ==== |
|||
さらに進んだ河川航行では、より多くの閘門が必要とされる。 |
|||
[[堤防]]の[[樋門]]と同じく外側に向かってのみ閉鎖できるもので、稀に高水位となるときのみ閉鎖され、その他のときは常時開放しておくものを保障閘または潮閘という<ref name="kakai173" />。外海の高潮を遮断するための潮閘も、一対の閘門で高低の水位を隔離する単床閘(単閘)で、水位が外高内低のときは閉鎖し、内高外低のときは開放しておく<ref name="kakai174" />。 |
|||
* 川が遠回りしているところをバイパスする水路を建設した場合、上流側の接続点に[[洪水]]対策の閘門が造られることがある。 |
|||
* 水路が長くなるほど水位の差が大きくなるため、さらにいくつかの閘門が必要とされることがある。このような水路は実質的には運河となる。 |
|||
== |
==== 二重有室閘 ==== |
||
有室閘の両端に二対の閘門を備えているもので、高水位がいずれかにあっても差し支えなく自在に通行できるようにしたものを二重有室閘という<ref name="kakai173" />。 |
|||
初期の運河で平坦な場所を通っていたものは、丘や窪地があるとそれを避けて迂回して通っていた。技術者が克服できると考える地形が野心的になるにつれて、建設コストや通航時間の点で不利な迂回なしに水位の差を克服するために閘門が普及した。後に建設技術が改善されると、長い[[トンネル]]や掘割、用水路、築堤やさらにインクライン、ボートリフトなどの機械的な装置を建設して、障壁を直接的に横断しようとするようになった。しかしながら、閘門はこれらの方式の補完として建設され続け、現代的な運河においても本質的な要素となっている。 |
|||
==== 階閘 ==== |
|||
== 基本的な建設と運用 == |
|||
落差が大きい場合に水閘を連続して階段状に配置したもので、上の水閘の後部閘門が下の水門の前部閘門となっているものを階段水閘または階閘という<ref name="kakai173" />。 |
|||
[[Image:Canallock.png|framed|一般的な運河の閘門の平面図と側面図。運河のその他の部分と、上流側・下流側それぞれのマイターゲートで閘室が仕切られている。下流側の水位が低くなっている時に上流側から掛かる水圧に耐えるために、ゲートが閉じるとお互いに約18度の角度をなして、ほぼアーチ状になるようになっている。]] |
|||
全ての閘門には3つの要素がある。 |
|||
* '''閘室'''(こうしつ): 運河の上流側と下流側をつなぎ、1隻あるいはそれ以上の船を収容するために十分な大きさがある。閘室の位置は固定されているが、その中の水位は変えられるようになっている。 |
|||
* '''[[水門]]''': 2枚に分割された扉でできていることが多く、閘室の両端にある。船が閘室に出入りする際に水門が開けられ、閉じられると防水構造となる。 |
|||
* '''閘門装置''': 閘室に必要に応じて水を入れたり抜いたりする装置。通常は単純なバルブで、伝統的には[[ラック・アンド・ピニオン]]の機構により手動で上げ下げされるパネルであった。大きな閘門では[[ポンプ]]を用いることもある。 |
|||
==== 並行閘 ==== |
|||
閘門の基本的な運用はとても単純である。下流へ向かって航行している船が、既に満水状態の閘門にたどり着いた場合には以下の通りである。 |
|||
水閘を並べて設置する場合を並行閘といい、[[パナマ運河]]も並行式の水閘である<ref name="kakai174">{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 174}}</ref>。 |
|||
* 入口の水門を開けて船が入る。 |
|||
* 入口の水門を閉じる。 |
|||
* バルブが開けられて、閘室の水が抜かれ、船の位置が下がる。 |
|||
* 出口の水門を開けて船が出る。 |
|||
==== その他の水閘 ==== |
|||
備考 |
|||
その他特殊な形状の水閘に、扇状閘や釜状閘、水槽に船を浮かべて昇降する槽閘がある<ref name="kakai174" />。 |
|||
* 船がたどり着いた時点で閘室に水が入っていなかった場合、水が満たされるまで5分から10分程度待つ必要がある。 |
|||
* 上流へ向かって航行している船に対しては、この逆の操作となる。異なるバルブを開けて上流側からの水を閘室に流し込むことで水位を上昇させる。 |
|||
* 一連の操作は、閘門の大きさと船が到達した時点での閘門の状態に依存するが、10分から20分程度掛かる。 |
|||
* 閘門に船が差し掛かる時にちょうど対向してくる船に出会うことは、その船が閘門から出てきた直後で、閘門の水位が自分にとって適当な側になっていて5分から10分程度の待ち時間が短縮されることを意味するので歓迎される。ただし階段状に閘門が連なっている場合にはこの限りではなく、同じ方向に一群の船が連続していく方が所要時間が短い。 |
|||
=== 基本的な構成 === |
|||
[[Image:Canal-sequence.jpg|thumb|center|800px|<span style="text-decoration:underline;">閘門の運用</span><br />1-3. 空の状態の閘門に船が入る<br />4. 下流の水門と弁が閉じられ、上流側の弁が開けられて閘門に水が入り始める<br />5. 閘門が水で満たされて船が上流側の水位まで持ち上げられる]] |
|||
単に水閘というときは有室閘をいう<ref>{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 175}}</ref>。有室閘には3つの要素がある。 |
|||
; 閘室 |
|||
: 閘室は船を収容して水位を上下させる部分で、運河の上流側と下流側をつなぎ、1隻あるいはそれ以上の船を収容するために十分な大きさがある。 |
|||
; 閘門扉 |
|||
: 閘門扉は閘室の両端に設置されて、運河区と閘室を区分する[[水門]]の一種である。2枚に分割された扉でできていることが多い。船が閘室に出入りする際に閘門扉が開けられ、閉じられると防水構造となる。閘門扉が設置されている部分を扉室と呼ぶ。 |
|||
; 給排水装置 |
|||
: 閘室に必要に応じて水を入れたり出したりする装置。上流側と閘室、閘室と下流を結んで水を出し入れする構造で、扉([[バルブ]])が設置されており自由に水の流れを制御できるようになっている。扉は伝統的には[[ラック・アンド・ピニオン]]の機構により手動で上げ下げされるパネルであった。大きな閘門では[[ポンプ]]を用いることもある。ただし、基本的に上流側から下流側へ水を流すだけで運用できるので、必ずしも動力による揚水は必要ではない。 |
|||
== |
=== 動作原理 === |
||
[[ファイル:Canallock ja.png|right|一般的な運河の閘門の平面図と側面図。上流側・下流側にそれぞれ設置されたマイターゲートにより、運河のその他の部分と閘室が仕切られている。下流側の水位が低くなっている時に上流側から掛かる水圧に耐えるために、どちらのゲートも上流側に山形になるようにある角を成して扉が接するように構成されている。]] |
|||
単純のため、この節では閘室の両端に水門を備え、係員が手動で動かす巻き上げ機により[[ラック・アンド・ピニオン]]の原理で動作する弁を備えた、基本的な方式の閘門について説明する。この方式の閘門は世界中で使われているが、ここで示す用語は[[イングランド]]の運河においで使われているものである。後の節でその派生形を説明する。 |
|||
下流から上流へ向かって船を航行させる場合には、以下のような手順を採る<ref>『河川工学』pp.294 - 296</ref>。 |
|||
# 閘室内の水位が下流側と同じになっていない場合は、閘室と下流側をつなぐ給排水装置の扉を開いて、閘室内の水を下流側へ排出し、水位を下流側と同じにする。 |
|||
# 下流側の閘門扉を開いて船を閘室に入れ、閘門扉を閉じる。 |
|||
# 上流側と閘室をつなぐ給排水装置の扉を開いて、上流側から閘室に水を流し込み、水位を上流側と同じにする。 |
|||
# 上流側の閘門扉を開いて船を出す。 |
|||
上流から下流へ向かって船を航行させる場合は、この逆の手順を採る。どちらの向きに航行するときでも、閘室内の水位を上流側に合わせるときは水を上流側から閘室内に注ぎ込み、閘室内の水位を下流側に合わせるときは水を閘室内から下流側に排出する。したがって常に水は高いほうから低いほうに流れるので、動力による揚水の必要はなく、給排水装置の扉を開閉するだけでよい。 |
|||
※訳注: 閘門を利用した運河水運は現代の日本ではあまり一般的ではないため、これらの用語について正確な日本語が判明しない、あるいは存在しないものがあります。ここでは訳が判らなかったものについて原文の英単語をカナ表記したものを示し、一部に参考訳を鍵カッコ内に付記してありますが、参考訳が正しいとは限りません。 |
|||
通常の閘門における水の給排水速度は、水位にして1 - 3 [[センチメートル|cm]]/[[秒]]程度に設計され、それより速いと船の動揺の問題が起きる<ref>『水門・樋門・閘門の設計』p.171</ref>。一般的な閘門では、閘門扉を開きまたは閉鎖するためには0.5分程度、船が閘門に入るためには6分程度、閘門から出るためには5分程度、給排水には5分程度、その他に9分程度かかり、合計すると1隻の船が通過するために26分程度となる。これは閘門扉の形状や給排水装置の能力、周辺の水路の設計などにも依存する<ref>『ロック(閘門)』pp.14 - 15</ref>。また、下流側から船が来たのに閘室内の水位が上流側になっている場合は、まず水位を低下させる必要があるので、その分の待ち時間も増えることになる。このことを考えると、上下の船が交互に閘門を通航するのが最も効率が良くなる。 |
|||
=== ライズ === |
|||
ライズ(rise、「水位差」)は、閘門によって実現される水位の差のことである。イングランドの運河にある閘門の中でもっともライズが大きいのは、ケネット・アンド・エイボン運河([[:en:Kennet and Avon Canal|Kennet and Avon Canal]])にあるバス閘門([[:en:Bath Locks|Bath Locks]])<ref>{{cite web | title=Second Lock | work=Images of England | url=http://www.imagesofengland.org.uk/search/details.aspx?id=442716 | accessdate=2006-09-04}}</ref><ref>{{cite book |last=Allsop |first=Niall |title=The Kennet & Avon Canal |year=1987 |publisher=Millstream Book |location=Bath |id=ISBN 0-948975-15-6 }}</ref>と、ロッチデール運河([[:en:Rochdale Canal|Rochdale Canal]])にあるトゥエル・レーン閘門([[:en:Tuel Lane Lock|Tuel Lane Lock]])で、およそ20[[フィート]]ある。文献により正確な高さに差があるため、どちらがより大きなものであるかを保証することはできない。どちらの閘門も2つの閘門の組み合わせとなっており、交差する道路の変化に応じて運河が修理された時に組み合わされたものである。もっとも水位差の大きい建設された当初のままのイングランドの閘門はトレント・アンド・マージー運河([[:en:Trent and Mersey Canal|Trent and Mersey Canal]])にあるエトルリア・トップ閘門(Etruria Top Lock)か、オックスフォード運河([[:en:Oxford Canal|Oxford Canal]])にあるサマートン・ディープ閘門(Somerton Deep Lock)であると考えられ、どちらも14フィートほどの水位差がある。こちらについても文献により差があり、特にエトルリア閘門は地盤沈下に対処するために次第に深くなってきているため、どちらがより高低差が大きいかを確定することはできない。イングランドにおける典型的な高低差は7から12フィート程度で、それより低い閘門も見かけられる。 |
|||
{| style="width:1px;; border:1px solid #999;margin:0 auto;" |
|||
=== パウンド === |
|||
|+ '''閘門の動作原理''' |
|||
2つの閘門間の運河の水平な部分をパウンド(pound、「囲い」)という。一方川ではこれに対応した言葉はリーチ(reach、「流れ」)という。閘門により船は上流側のパウンドと下側側のパウンドの間を移動する。 |
|||
! style="white-space:nowrap" colspan="2"|水位の高い方への移動: |
|||
|| |
|||
! style="white-space:nowrap" colspan="2"|水位の低い方への移動: |
|||
|- |
|||
|valign="top" align="right" nowrap|1–2. |
|||
|valign="top"|閘室へ入船 |
|||
|rowspan="7"|[[File:Pound lock sequence.svg|180px]] |
|||
|valign="top" align="right" nowrap|8–9. |
|||
|valign="top"|閘室へ入船 |
|||
|- |
|||
|| |
|||
|| |
|||
|| |
|||
|| |
|||
|- |
|||
|| |
|||
|| |
|||
|| |
|||
|| |
|||
|- |
|||
|valign="top" align="right"|3. |
|||
|valign="top" nowrap|下の閘門扉を閉める |
|||
|valign="top" align="right"|10. |
|||
|valign="top" nowrap|上の閘門扉を閉める |
|||
|- |
|||
|valign="top" align="right" nowrap|4–5. |
|||
|valign="top"|上側から水を入れて閘室の水位を上げて合わせる |
|||
|valign="top" align="right" nowrap|11–12. |
|||
|valign="top"|低い方へ水を出して閘室の水位を下げて合わせる |
|||
|- |
|||
|valign="top" align="right"|6. |
|||
|valign="top"|上の閘門扉を開ける |
|||
|valign="top" align="right"|13. |
|||
|valign="top"|下の閘門扉を開ける |
|||
|- |
|||
|valign="top" align="right"|7. |
|||
|valign="top"|船が閘室から出る |
|||
|valign="top" align="right"|14. |
|||
|valign="top"|船が閘室から出る |
|||
|} |
|||
[[ファイル:Canal-sequence.jpg|thumb|center|800px|<span style="text-decoration:underline;">閘門の運用</span><br />1-3. 空の状態の閘室に船が入る<br />4. 下流の閘門扉と給排水装置の扉が閉じられ、上流側の給排水装置の扉が開けられて閘室に水が入り始める<br />5. 閘室が水で満たされて船が上流側の水位まで持ち上げられる]] |
|||
== 水閘の構造 == |
|||
簡単のため、この節では閘室の両端に閘門扉を備えた、基本的な方式の閘門について説明する。後の節でその派生形を説明する。 |
|||
[[ファイル:Water_transport_lock_horizontal_and_sectional_drawing.png|center|400px]] |
|||
図に一般的な閘門の平面図および断面図を示す。図のAとCが扉室と呼ばれる部分で、Bが閘室と呼ばれる部分である。この例では扉室にはそれぞれマイターゲートが備えられている。この図では左側が上流となっており、このため左側に山形になるように扉が組み合わせられている。これは水圧が扉を押し付けて閉じられるようになっているからである。Aの方を前扉室あるいは上流扉室、Cの方を後扉室あるいは下流扉室と呼ぶ<ref name = "river_eng_pp294-296">『河川工学』pp.294 - 296</ref><ref name = "lock_p2">『ロック(閘門)』p.2</ref><ref>『水門・樋門・閘門の設計』p.157</ref>。 |
|||
閘門扉が閉じられたときに、水密を保ち扉を支えるために、底から飛び出している図中cの部分を閘門閾と呼ぶ。また前扉室と閘室の間の底にdで示す段差があり、この部分を階壁と呼ぶ。閘門扉が開いたときにこれを収めるeで示す壁の窪みを戸袋と呼ぶ。hで示した上流側と下流側の水位差を閘程あるいは揚程と呼ぶ<ref name = "river_eng_pp294-296" /><ref name = "lock_p2" />。この閘門の有効長は、aからbまでの距離で与えられる<ref>『河川工学』p.298</ref>。また有効深さは水面から閘門閾までの深さで決定され、これを閾深と呼ぶ<ref name = "river_eng_pp294-296" />。 |
|||
=== 閘室 === |
=== 閘室 === |
||
'''閘室'''(こうしつ)は閘門の主要部分で、船を収容して閘室内の水位を上下させるようにできている。石や[[煉瓦]]、[[鋼鉄]]、[[コンクリート]]などで造られた防水構造の囲いで、両端が閘門扉によって運河区から区切られている。 |
|||
閘室(chamber)は閘門の主要部分である。石や[[煉瓦]]、[[鋼鉄]]、[[コンクリート]]などで造られた防水構造の囲いで、両端が水門によってパウンドから区切られている。閘室の大きさは、運河の設計で想定された最大の船舶の大きさに少しの動きの余裕を考えたものになっていることが多く、また時には一度に多くの船を通せるようにするためそれより大きく造られていることもある。上流側と同じ水位にある時にフル(full、「満水」)といい、下流側と同じ水位にある時にエンプティ(empty、「空水」)という。保守作業などのために閘室から完全に水が抜かれている状態もエンプティという可能性があるが、この状態に対する混乱を招かない表現はドレインド(drained)である。 |
|||
閘室の大きさは、運河の設計で想定された最大の船舶の大きさに少しの動きの余裕を考えたものになっていることが多く、また時には一度に多くの船を通せるようにするためそれより大きく造られていることもある。通航する船に対して閘室有効長は運河用で3 - 10 [[メートル|m]]程度、河川用で4 - 10 m程度、閘室有効幅は運河用で0.2 - 1.5 m、河川用で0.3 - 1.5 m程度、深さは運河用で0.2 - 1.0 m程度、河川用で0.3 - 1.0 m程度の余裕をみる。また閘門上に[[橋]]を通したり、閘門扉を引揚扉にする場合などは、最高水位に対して4 - 4.5 m程度の余裕を持った高さに設置する。閘室内では船はとてもゆっくり進行するので、深さの余裕は運河区に比べて少なくてもよい。閘室の建設費用に最も影響するのは深さで、それに比べると長さや幅は大きく取りやすい。しかしむやみに大きな閘室にすると、1回の船の通航で消費する水の量が多くなるという問題がある<ref>『ロック(閘門)』pp.13 - 14</ref>。 |
|||
閘室の側面は側壁と呼ばれ、[[擁壁]]と同様の構造になっている。垂直な側壁を建設すると用地を節約でき、また1回の通航で消費する水を少なくできるが、圧力や重量に耐える頑丈な構造にする必要がある。傾斜した側壁にすると構造は簡単になるが、用地を多く必要とし1回の通航で消費する水が増加する<ref>『ロック(閘門)』pp.43 - 45</ref>。側壁には船の衝突に備えて[[防舷材]]を設置することがある。また船を陸上から引いて移動させることがあるので、[[曳舟道]]として側壁に段をつけることがある。これが特に大きくなると、[[パナマ運河]]のように[[パナマ運河#船舶の牽引|機関車による牽引]]となる。他に側壁には閘室内の船舶との連絡などのために[[梯子]]か[[階段]]が設置される<ref>『ロック(閘門)』pp.125 - 127</ref>。 |
|||
==== 階壁 ==== |
|||
[[ファイル:Canal Saint-Denis-Ecluse N°1-Le petit bief.JPG|thumb|upright|[[フランス]]、[[パリ]]の[[:fr:Canal Saint-Denis|Canal Saint-Denis]]にあるPont de Flandre閘門で露出した階壁]] |
|||
前扉室の内側下部から閘室内へ狭く水平な張り出しが出ており、この部分の壁を'''階壁'''(かいへき)と呼ぶ。階壁は前扉室の底の部分が閘室側に露出しているものである(右の写真を参照)。船の端をこの張り出しに乗り上げさせることは、閘室内の水を抜く時に起きる危険の1つであるので、張り出しの先端の位置が白い線で閘門の脇に描かれている。張り出しの先端部分はカーブを描いていて、中央部分より両端部分が前へ張り出している。閘室の有効長はこの部分から、後扉室の閘門扉の可動範囲までとなる。 |
|||
=== 扉室 === |
|||
'''扉室'''(ひしつ)は、閘門扉を設置して開閉させる土台になる部分である。閘門扉としてマイターゲートを使用するものでは、扉室の底にある閘門閾とゲートの回転部分を支える側壁の部分に強い力が働くので、それを考慮した頑丈な構造とする必要がある。引揚扉を使用する場合は、この部分に門形の塔を立ててゲートを上下させる機構を構成する。この重量を支えるために基礎を強固にする必要がある。また給排水のための暗渠とそれを操作するゲートが設置されることもある<ref>『ロック(閘門)』pp.56 - 59</ref>。 |
|||
=== 閘門扉 === |
|||
'''閘門扉'''(こうもんぴ)は上流区と下流区から閘室を仕切る防水構造の扉である。閘門の材質には木製や鋼製などがある<ref name="kakai210" />。 |
|||
また、閘門の構造には斜接門扉と特殊門扉があり、後者には単旋門扉、起伏門扉、滑動門扉、回旋浮函、自在浮函、昂上門扉、没入門扉、象眼門扉、跳開門扉などがある<ref>{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| pages = 210-211}}</ref>。 |
|||
* 斜接門扉 - 門扉の一端に垂直な軸があり、これを中心に扉が回転し、両門扉は中心の水閘軸で縦に斜接する<ref name="kakai211">{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 173}}</ref>。「水閘の構造」の図参照。斜接門扉には扉の両面が直線のもの、扉の上水位側がわずかに孤形で下水位側が直線のもの、扉の両面が孤形のものがある<ref name="kakai211" />。 |
|||
* 単旋門扉 - 斜接門扉の扉が一方にのみあるもので、応力の分布や開閉装置の構造が簡明である<ref name="kakai211" />。ただし幅の広い水閘の場合には工費が高くなる<ref name="kakai211" />。 |
|||
* 起伏門扉 - 下端に軸があり起伏して開閉するもので、応力の分布がわかりやすく、閘程が小さいものであれば工費も少なくできる<ref name="kakai211" />。ただし床部に窪みが必要なため泥土が沈殿すると除去が容易でない<ref name="kakai211" />。 |
|||
* 滑動門扉(滑扉) - 側壁内に扉袋を設け、扉を引き入れたり引き出したりして開閉する<ref name="kakai211" />。 |
|||
* 回旋浮函 - 単旋門扉と同じく縦に軸があり回転するが、全体が門扉ではなく浮函になっている<ref name="kakai211" />。水閘に用いられる浮函は、側壁または渠底に付けた溝または戸当たりに接続して沈めることで水密にしている<ref>{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 207}}</ref>。 |
|||
* 自在浮函 - 自在に動かせるようにした浮函<ref name="kakai211" />。 |
|||
* 昂上門扉 - 上方に上げることができるようにした門扉だが、帆船が通航するような場所では不適当とされる<ref>{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 211-212}}</ref>。 |
|||
* 没入門扉 - 水中に没入する形式の門扉<ref name="kakai213">{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 213}}</ref>。 |
|||
* 象限門扉 - 単葉門扉の真中に縦軸があり回転する形式の門扉<ref name="kakai213" />。門扉の真中に軸があって左右両翼が回転して開閉するため開閉する幅は閘幅の半分である<ref name="kakai213" />。 |
|||
* 跳開門扉 - [[跳ね橋]](跳開橋)のように地平軸のある門扉<ref name="kakai213" />。 |
|||
最も一般的に用いられるのはマイターゲート(mitre gate、斜接扉または合掌扉) と呼ばれ、[[イタリア]]のPhilippe Marie Viscontiによって[[1440年]]に発明されたものである<ref>{{cite book|author=L.T.C. Rolt|title=From Sea to Sea|publisher=Euromapping, Seyssinet, France|date=1973/1994}}</ref>。マイターゲートは垂直方向に回転軸があり、閉じると両側の扉が上流方向に対して山形に角度が付いた状態で合わさり、わずかな水位差でも水圧によって閘門扉がきっちりと閉じられるようになっている。これにより、隙間から水が漏れてくることを防ぎ、また水位差が付いている時に閘門扉が開いてしまうことも防げるようになっている。閘室が上流区と同じ水位になっていないときは上流側の閘門扉は完全に閉じられ、閘室が下流区と同じ水位になっていないときはなっていない時は下流側の閘門扉は完全に閉じられている。つまり通常の運用では、閘室の両側を同時に開けることはできない。 |
|||
マイターゲートは構造が簡単であるため閘門扉として最も広く用いられてきた形式であるが、閘程が大きくなると水密を完全に実現できないこと、扉室に扉の回転軸の圧力がかかること、常に水中にある可動部が存在して保守に手間が掛かること、土砂が堆積すると開閉が不完全になること、地盤の不等沈下に弱いこと、給排水時間が長くかかることなどの数々の欠点もある。また潮汐があるなどで水位の高い側が逆転することがあると、マイターゲートは開いてしまって用を成さなくなるので、反対方向を向けたマイターゲートも設置しなければならなくなり建設費用が高くつく<ref>『ロック(閘門)』pp.93 - 94</ref>。 |
|||
閘門扉として引揚扉(スライドゲートまたはローラーゲート)を用いることもある。引揚扉は扉を垂直に上に持ち上げて開ける構造で、持ち上げるために扉室には門形の塔が建設されている。複数枚の板を組み合わせて扉を構成することもあり、これは塔の高さを低く抑えるために用いられる。引揚扉を利用すると、扉室の長さを短くすることができて、これにより水も節約することができる。マイターゲートより水密を保ちやすく、またマイターゲートのように回転軸に掛かる力が扉室に働かないので側壁の構造を単純にできる。潮汐があっても1枚の扉で済む。さらに扉を完全に水上に引き揚げることができるので、点検や保守を楽にできるといった利点がある。一方引き揚げ用の塔を建設する費用がかかり、また扉を引き揚げる高さが船の高さを制約するという欠点がある<ref>『河川工学』p.320</ref>。 |
|||
[[ファイル:LgRadialGatefigc4-6.jpg|thumb|right|テンターゲートの構造図]] |
|||
テンターゲート(ラジアルゲート、セクターゲート、扇形扉)は回転軸が水平方向にあり、円弧状の扉を回転させて開閉するもので、構造が簡単で丈夫であり、応力的に安定であるといった利点があるが、閘門扉としては水面からのクリアランスを確保しづらいため用いられる例は少ない<ref>『ロック(閘門)』pp.120 - 121</ref>。シャッターゲート(フラップゲート)は扉室の床に水平方向に回転軸があり、開いているときは床に扉体が寝かされており、閉じるときにこれを引き起こす構造のもので、側壁に大きな力が掛からないという利点があるが、回転部分が常に水中にあって補修が困難で、また船が竿をさして通航するときはこれによってゲートが損傷してしまう危険が大きいという問題がある<ref>『ロック(閘門)』pp.122 - 123</ref>。浮戸は大きな1枚の扉を水に浮かせて移動させる構造のもので、扉室の脇に大きな戸袋を造ってそこに引き込むことで開ける。戸袋のために扉室が大きくなる欠点があるが、[[ドック]]や大型の海洋運河の閘門などで採用されることがある<ref>『ロック(閘門)』pp.123 - 124</ref>。回転セクターゲートという、垂直に回転軸があって横に回転して水路を仕切る閘門扉もあり、イングランドでは、リッブル・リンク ([[:en:Ribble Link|Ribble Link]]) の海側の閘門と、ライムハウス・ベースン ([[:en:Limehouse Basin|Limehouse Basin]]) の[[テムズ川]]へ通じる閘門で使われている。かなり巨大なものとしては[[ロッテルダム]]の洪水防止用のものがある。 |
|||
上流・下流の閘門扉の種類が違っていることもある。マイターゲートの閘門扉のうち一方だけが引揚扉に置き換えられることもある。例えばサルターヘッブル閘門 (Salterhebble Locks) では、最下流側の閘門の下流側の閘門扉のバランスビームの動作する空間が、[[橋]]の拡幅によって制限されることになったため引揚扉に置き換えられた。ニーン川 ([[:en:River Nene|River Nene]]) では、多くの閘門がこの配置となっており、洪水の時には上流側のマイターゲートを開け、下流側の引揚扉も開けた状態にして、閘室がオーバーフロー対策の水門として機能するようにしている。 |
|||
==== 開閉装置 ==== |
|||
[[ファイル:JesusGreenLock-Cambridge.jpg|thumbnail|前扉室の閘門扉、開閉桿と給排水用扉の巻き上げ装置が見えている]] |
|||
'''開閉装置'''(かいへいそうち)は、閘門扉を開閉する装置である。古くから人力によりマイターゲートの開閉が行われてきた。近年では電力や蒸気力、水力などの駆動装置によるものが一般的で、特に電力を利用したものが多い。動力駆動装置があるものでも、予備として人力で開閉できるようになっていることが一般的である。マイターゲートの開閉には、ゲートの上部に'''開閉桿'''(かいへいかん)という棒を取り付けて、これに鎖を巻き取る装置や歯車を使って回転させる装置などを組み合わせて、人力または動力によってこれを駆動するようになっている。引揚扉の場合は上からワイヤーで扉を吊るしており、これを巻き上げ、巻き降ろして開閉する。扉の重量を相殺する[[カウンターウェイト]]が反対側についていて、少ない力で動作できるようにされていることが一般的である<ref>『ロック(閘門)』pp.110, 111, 118 - 120</ref>。 |
|||
人力でマイターゲートを開閉する場所では、バランスビームが取り付けられている場合がある。これは[[曳舟道]]の上を通り陸側から伸びている長い腕である。重い閘門扉を開閉するための[[てこ]]となるだけでなく、閘門扉を簡単に開閉できるように閘門扉の重量の釣り合いを取っている。 |
|||
{{-}} |
|||
=== 給排水装置 === |
|||
給排水装置は、上流区から閘室に、あるいは閘室から下流区に水を流すための装置である。 |
|||
閘門扉に穴が開けられていて、この部分に別の扉をつけて開閉できるようにすることで水を給排水する構造のものは、構造が単純であり古くから利用されてきた。しかし閘室内に流れ込む水が船を動揺させる問題がある。また閘門扉の構造上、一定以上の大きさの穴を開けることができないので、給排水に時間が掛かる<ref>『ロック(閘門)』p.71</ref>。ただし、後述する暗渠を設けることによって構造物の強度問題が発生することを避けるために、新しい大型の閘門において水勢を弱める機構を取り付けて採用される例がある。しかし水流が渦をなすことになるため、閘門扉や閘室の底の強度を確保しなければならない。水勢を弱める機構と組み合わせるときは、引揚扉については上下流両方に採用することがあるが、マイターゲートについては下流側のみに採用するのが普通である<ref>『ロック(閘門)』pp.84 - 86</ref>。 |
|||
現代の閘門で一般的に広く使用されているのは'''閘渠'''(こうきょ)を利用した方式である。これは扉室と閘室の側面または底面に[[溝渠#暗渠|暗渠]]を設置して、その途中に給排水用扉を設けて開閉し給排水するものである。閘室内の暗渠の口は、給水時にも排水時にも兼用する設計が普通である。船の動揺を抑えるために、閘室の側面に多数分散させて閘渠の口を設けることで、水の勢いを分散させるように設計することもある。閘室の底にも閘渠の口を配置するとさらに勢いを抑えることができるが、工事が複雑になり工費が高くつくという問題がある<ref>『河川工学』pp.300 - 303</ref>。閘渠の断面は一般に矩形かその上部をアーチ状にしたものとなっている<ref>『閘門(ロック)』p.72</ref>。 |
|||
閘門扉として引揚扉を用いた閘門では、引揚扉をわずかに開けることで給排水するものがある。この場合水の勢いを弱める設備が必要とされる。閘渠を用いないため、側壁の構造を単純にできる<ref>『河川工学』pp.332 - 334</ref>。 |
|||
=== シル === |
|||
[[Image:Canal Saint-Denis-Ecluse N°1-Le petit bief.JPG|thumb|upright|[[フランス]]、[[パリ]]の[[:fr:Canal Saint-Denis|Canal Saint-Denis]]にあるPont de Flandre閘門で露出したシル]] |
|||
上流側水門の内側下部から閘室内へ狭く水平な張り出しが出ており、シル(cill)と呼ばれている。シルは上流側のパウンドの底の部分が閘室側に露出しているものである(右の写真を参照)。船の端をこの張り出しに乗り上げさせることは、閘室内の水を抜く時に起きる危険の1つであるので、張り出しの先端の位置が白い線で閘門の脇に描かれている。張り出しの先端部分はカーブを描いていて、中央部分より両端部分が前へ張り出している。 |
|||
水の流入・流出は通常重力式であるが、とても大きな閘門ではポンプを使ってスピードアップしていることもある。 |
|||
=== 水門 === |
|||
水門(gate)は、上流側・下流側のパウンドから閘室を仕切る防水の扉である。単独の扉かあるいは1対の扉が、閘室の両端にそれぞれ備えられている。かつては[[カシ]]や[[ニレ]]などの木材で造られていたが、近年は[[鋼鉄]]製が多い。もっと一般的な配置はマイターゲート(mitre gate)と呼ばれ、[[イタリア]]のPhilippe Marie Viscontiによって[[1440年]]に発明されたものである<ref>{{cite book|author=L.T.C. Rolt|title=From Sea to Sea|publisher=Euromapping, Seyssinet, France|date=1973/1994}}</ref>。マイターゲートは閉じると両側の扉が上流方向に対して山形に角度が付いた状態で合わさり、わずかな水位差でも水圧によって水門がきっちりと閉じられるようになっている。これにより、隙間から水が漏れてくることを防ぎ、また水位差が付いている時に水門が開いてしまうことも防げるようになっている。閘室が完全にフルになっていない時は上流側の水門は完全に閉じられ、閘室が完全にエンプティになっていない時は下流側の水門は完全に閉じられている。つまり通常の運用では、閘室の両側を同時に開けることはできない。下流側の水門は上流側の水門より全体の高さが大きくなっている。これは上流側は上流のパウンドを仕切るだけの高さがあればよいのに対して、下流側は閘室を仕切るだけの高さが必要だからである。上流側の水門は上流側の運河の深さにバランスビームと巻き上げ機構などの分の高さがあればよいが、下流側の水門は上流側の水門の高さに加えて、その閘門で生じる水位差の分の高さが必要である。 |
|||
=== |
==== 給排水用扉 ==== |
||
閘門扉の給排水口あるいは閘渠には、給排水を制御するための扉が付けられている。この扉には引揚扉やテンターゲート、回転ゲートなどが一般に用いられる<ref>『ロック(閘門)p.72』</ref>。 |
|||
[[Image:JesusGreenLock-Cambridge.jpg|thumbnail|閘門上流側の水門、バランスビームとパドル巻き上げ装置が見えている]] |
|||
<!-- 具体的事例の分析について要出典 --> |
|||
バランスビーム(balance beam、「釣り合い梁」)は、[[曳舟道]]の上を通り陸側から伸びている長い腕である。重い水門を開閉するための[[てこ]]となるだけでなく、水門を簡単に開閉できるように水門の重量の釣り合いを取っている。 |
|||
<!-- |
|||
この扉のことを英語ではパドル (paddle) という。また、閘門扉に設けられたものをゲートパドル (gate paddle)、閘渠に設けられたものをグラウンドパドル (ground paddle) という。2つのゲートパドル、2つのグラウンドパドルを上流・下流双方の閘門扉に、最大で8つのパドルが1つの閘門に設置されることがあるが、普通はそれより少ない。[[1970年代]]から長い間[[イギリス]]の水路では、2つのグラウンドパドルがあれば上流側閘門扉にゲートパドルを備えないことが方針となっていた。これは安全上の問題からで、上流へ進む船が不注意に開けられたゲートパドルから入ってきた水によって水浸しになってしまうことがあるからである。しかしこれにより閘門の運用は遅くなり、あちこちで渋滞を招いて不満が起きていた。[[1990年代]]後半からこの方針は緩和されたが、一般的であるとはいえない。 |
|||
--> |
|||
=== |
==== 巻き上げ装置 ==== |
||
<!-- 具体的事例の分析について要出典 --> |
|||
パドル(paddle)は、閘室に水を出し入れする単純なバルブである。パドルはスライドする木材、あるいは近年はプラスチックのパネルで、閘室に上流のパウンドから水を流し込み、あるいは閘室から下流のパウンドに水を流し出すときに持ち上げられる。ゲートパドル(gate paddle)は水門下部にある穴を単純に塞いでいるのに対して、より洗練されたグラウンドパドル(ground paddle)は地下の[[溝渠#暗渠|暗渠]]を塞いでいる。2つのゲートパドル、2つのグラウンドパドルを上流・下流双方の水門に、最大で8つのパドルが1つの閘門に設置されることがあるが、普通はそれより少ない。[[1970年代]]から長い間[[イギリス]]の水路では、2つのグラウンドパドルがあれば上流側水門にゲートパドルを備えないことが方針となっていた。これは安全上の問題からで、上流へ進む船が不注意に開けられたゲートパドルから入ってきた水によって水浸しになってしまうことがあるからである。しかしこれにより閘門の運用は遅くなり、あちこちで渋滞を招いて不満が起きていた。[[1990年代]]後半からこの方針は緩和されたが、一般的であるとはいえない。 |
|||
<!-- |
|||
[[ファイル:ZSchützmechanik.jpg|thumb|[[オーストリア]]、ヴィエナー・ノイシュテッター運河 ([[:de:Wiener Neustädter Kanal|Wiener Neustädter Kanal]]) で200年使われているパドル巻き上げ装置]] |
|||
[[ファイル:BCN water conservation lock.jpg|right|thumb|upright|バーミンガム・カナル・ナビゲーションズ ([[:en:Birmingham Canal Navigations|Birmingham Canal Navigations]]) の鍵付きの巻き上げ装置]] |
|||
巻き上げ装置 (winding gear / paddle gear) は、パドルを持ち上げたり下げたりするための機構である。大きな閘門では動力による巻き上げ装置があり、これに人力による機構を予備として備えている。小さな閘門では人力によるのが主である。 |
|||
イギリスの運河網においては手動による装置が多い。巻き上げ装置の筐体から四角い断面の棒が外に顔を出している。これがピニオンの軸であり、パドルの上側に取り付けられた歯型の棒(ラック)と組み合わせられている。閘門を操作するために船から上陸した要員が携帯している四角い受け口のウィンドラスをこの軸に取り付けて回転させる。これにより歯車が回転しパドルが持ち上げられる。ツメをラックに差し込むことで、パドルが持ち上がっている時に不意に落としてしまうことを防ぎ、またウィンドラスを外している間も持ち上げたままにしておいて、要員が同時に他のパドルを操作できるようになっている。ただし船が閘門から出た後もパドルを上げたままにしておくことは失礼で、水の無駄遣いである。パドルを下げるためにはツメを外して、ウィンドラスにより巻き戻して降ろされる。ツメを外していきなりパドルを落とすことは、機構を壊してしまう恐れがある。巻き上げ装置は普通[[鋳鉄]]でできており、高いところから落とすと粉砕されたりひびが入ったりする。バーミンガム・カナル・ナビゲーションズのように、いたずらによる水の浪費が問題となっている場所では、巻き上げ機構にいたずら防止の[[鍵]] (vandal-proof locks) (近年は当局がより聞こえのよいと考える「水保全装置」 (water conservation devices) の名で呼ばれる)が取り付けられ、パドルを操作する前に鍵を開ける必要がある。この鍵は公式には「水保全鍵」 (water conservation keys) と呼ばれるが、船乗りからはしばしばその形からT-keysと呼ばれ、また最初に備えられたリーズ・アンド・リバプール運河 ([[:en:Leeds and Liverpool Canal|Leeds and Liverpool Canal]]) の鍵の形が[[手錠]]に似ていたことから「手錠鍵」 (handcuff keys) とも呼ばれる。一方、手動で動かすパドルの中には、ハンドルが常時取り付けられているため取り外し可能なハンドル(ウィンドラス)が必要ないものもある。 |
|||
=== 巻き上げ装置 === |
|||
--> |
|||
[[Image:ZSchützmechanik.jpg|thumb|[[オーストリア]]、ヴィエナー・ノイシュテッター運河([[:de:Wiener Neustädter Kanal|Wiener Neustädter Kanal]])で200年使われているパドル巻き上げ装置]] |
|||
リーズ・アンド・リバプール運河では、異なる種類の巻き上げ装置が多数ある。パドルの上部に取り付けられた、ねじを通された棒を水平で大きな蝶ネジを回すことによって開けるようになっているものがある。他には長い木製の棒を持ち上げて、閘渠を塞いでいる木板を操作するようになっているものもある。これはジャック・クラフス (jack cloughs) と呼ばれている。下流側の閘門扉のパドルには、一般的な垂直に持ち上げるものではなく、水平なラチェットによって木板を横にスライドさせるものもあった。これらの多くの特異なパドルは次第に「近代化」されて、稀なものになってきている。コールダー・アンド・ヘッブルナビゲーション ([[:en:Calder and Hebble Navigation|Calder and Hebble Navigation]]) では、コールダー・アンド・ヘッブル・ハンドスパイクと称する長さ3フィートほどの棒を、地面の高さに水平の軸を持った穴付き歯車に繰り返し挿し込んでは回すことでパドルを操作するようになっているものがある<ref>http://www.penninewaterways.co.uk/calder/handspike.htm</ref>。モンゴメリー運河 ([[:en:Montgomery Canal|Montgomery Canal]]) の一部分では、底のパドルが側面パドルの位置で操作できるようになっている。閘門扉の脇を迂回して閘渠が閘室内に通じているのではなく、運河の底に埋められた閘渠を通じて水が流れるようになっている。このパドルは水平にスライドする。 |
|||
[[Image:BCN water conservation lock.jpg|right|thumb|upright|バーミンガム・カナル・ナビゲーションズ([[:en:Birmingham Canal Navigations|Birmingham Canal Navigations]])の鍵付きの巻き上げ装置]] |
|||
{{-}} |
|||
巻き上げ装置(winding gear / paddle gear)は、パドルを持ち上げたり下げたりするための機構である。普通は、巻き上げ機の筐体から四角い断面の棒が外に顔を出している。これがピニオンの軸であり、パドルの上側に取り付けられた歯型の棒(ラック)と組み合わせられている。船の陸上側の要員が携帯している四角い受け口のウィンドラスをこの軸に取り付けて回転させる。これにより歯車が回転しパドルが持ち上げられる。ツメをラックに差し込むことで、パドルが持ち上がっている時に不意に落としてしまうことを防ぎ、またウィンドラスを外している間も持ち上げたままにしておいて、要員が同時に他のパドルを操作できるようになっている。ただし船が閘門から出た後もパドルを上げたままにしておくことは失礼で、水の無駄遣いである。パドルを下げるためにはツメを外して、ウィンドラスによって降ろされる。ツメを外していきなりパドルを落とすことは、機構を壊してしまう恐れがある。巻き上げ装置は普通[[鋳鉄]]でできており、高いところから落とすと粉砕されたりひびが入ったりする。バーミンガム・カナル・ナビゲーションズのように、いたずらによる水の浪費が問題となっている場所では、巻き上げ機構にいたずら防止の[[鍵]](vandal-proof locks)(近年は当局がより聞こえのよいと考える「水保全装置」(water conservation devices)の名で呼ばれる)が取り付けられ、パドルを操作する前に鍵を開ける必要がある。この鍵は公式には「水保全鍵」(water conservation keys)と呼ばれるが、船乗りからはしばしばその形からT-keysと呼ばれ、また最初に備えられたリーズ・アンド・リバプール運河([[:en:Leeds and Liverpool Canal|Leeds and Liverpool Canal]])の鍵の形が[[手錠]]に似ていたことから「手錠鍵」(handcuff keys)とも呼ばれる。 |
|||
<!-- 具体的事例の分析について要出典 --> |
|||
=== 油圧式巻き上げ装置 === |
|||
<!-- |
|||
[[1980年代]]からイギリスの水路では油圧式の巻き上げ装置を、特に操作が重い下流側の水門に導入し始めた。直径1フィートほどの金属[[シリンダー]]がバランスビームの上に取り付けられ、小さな油圧ポンプによって動作する。表面から軸が出ており、通常のようにウィンドラスによって操作し、実際のパドルへは小さなパイプによって力が伝達される。このシステムは広く取り付けられ、運河によってはとても一般的なものとなった。しかし2つの重大な欠点が明らかとなった。まず従来の装置に比べて設置・保守に多大な費用が掛かることと、壊れやすいこと、特にいたずらをする人がパイプを切断するということを覚えてしまってからはよく壊れるようになったことである。さらに悪いことに安全上の問題もあり、パドルを一旦上げると、緊急事態でも急に降ろすことはできず通常通りに下げなければならず時間が掛かることである。これらの問題により1990年代後半に油圧式装置廃止の方針となったが、水門の装置を取り替える必要がでるまで置き換えられないため、今でも多くの装置が残っている。装置の取り替えは20年に1度くらい行われる。 |
|||
===== 油圧式巻き上げ装置 ===== |
|||
[[1980年代]]からイギリスの水路では油圧式の巻き上げ装置を、特に操作が重い下流側の巻き上げ装置に導入し始めた。直径1[[フィート]]ほどの金属[[シリンダー]]がバランスビームの上に取り付けられ、小さな油圧ポンプによって動作する。表面から軸が出ており、通常のようにウィンドラスによって操作し、実際のパドルへは小さなパイプによって力が伝達される。このシステムは広く取り付けられ、運河によってはとても一般的なものとなった。しかし2つの重大な欠点が明らかとなった。まず従来の装置に比べて設置・保守に多大な費用が掛かることと、壊れやすいこと、特にいたずらをする人がパイプを切断するということを覚えてしまってからはよく壊れるようになったことである。さらに悪いことに安全上の問題もあり、パドルを一旦上げると、緊急事態でも急に降ろすことはできず通常通りに下げなければならず時間が掛かることである。これらの問題により1990年代後半に油圧式装置廃止の方針となったが、巻き上げ装置を取り替える必要がでるまで置き換えられないため、今でも多くの装置が残っている。装置の取り替えは20年に1度くらい行われる。 |
|||
=== ウィンドラス === |
===== ウィンドラス ===== |
||
ウィンドラス |
ウィンドラス (windlass) は、閘門のパドルを開閉するために用いられる、取り外し可能な[[クランク (機械要素)|クランク]]ハンドルのことである。巻き上げ機構自体のことを指す用語ではない。 |
||
もっとも単純なウィンドラスは、半[[インチ]]ほどの直径の円形断面で2フィートほどの長さの鉄棒でできていて、L字形を成すために一部分が曲げられている。短い部分はハンドルと呼ばれ、長い部分はアームと呼ばれる。アームの端に、巻き上げ機から出ている軸にちょう |
以下はイギリスの運河におけるウィンドラスについて説明する。もっとも単純なウィンドラスは、半[[インチ]]ほどの直径の円形断面で2フィートほどの長さの鉄棒でできていて、L字形を成すために一部分が曲げられている。短い部分はハンドルと呼ばれ、長い部分はアームと呼ばれる。アームの端に、巻き上げ機から出ている軸にちょうどはまるサイズの方形のソケットが[[溶接]]されている。 |
||
; ソケット |
; ソケット |
||
: 伝統的には、ウィンドラスには1つのソケットがあり、特定の運河用に設計されていた。巻き上げ機の軸のサイズが異なるようないくつもの運河を通じる船の運航をする場合には、いくつも異なったウィンドラスを携行する必要があった。現代のウィンドラスには通常2つのソケットが付いている。小さな方はブリティッシュ・ウォーターウェイズ |
: 伝統的には、ウィンドラスには1つのソケットがあり、特定の運河用に設計されていた。巻き上げ機の軸のサイズが異なるようないくつもの運河を通じる船の運航をする場合には、いくつも異なったウィンドラスを携行する必要があった。現代のウィンドラスには通常2つのソケットが付いている。小さな方はブリティッシュ・ウォーターウェイズ ([[:en:British Waterways|British Waterways]]) 標準の軸サイズのもので、1990年代初頭にはほぼ普及した。大きい方は軸サイズを変更できなかったナプトン・ジャンクション (Napton Junction) 以北のグランド・ユニオン運河 ([[:en:Grand Union Canal|Grand Union Canal]]) 用のものである。 |
||
; ハンドル |
; ハンドル |
||
: ハンドルは両手で握るために十分な長さを持ち、パドルを上げ下げするために十分なてこの作用を得られるだけのソケットからの距離を持っている。初心者の船乗りがやわらかい手で握って、荒い鉄のハンドルとの摩擦で手を傷めないように、自由に回転できるスリーブが取り付けられていることもある。 |
: ハンドルは両手で握るために十分な長さを持ち、パドルを上げ下げするために十分なてこの作用を得られるだけのソケットからの距離を持っている。初心者の船乗りがやわらかい手で握って、荒い鉄のハンドルとの摩擦で手を傷めないように、自由に回転できるスリーブが取り付けられていることもある。 |
||
89行目: | 203行目: | ||
: 長いタイプのウィンドラスでは、よくてこの作用を効かせて固いパドルを動かせるようにソケットとハンドルが遠く離されている。あまりにアームが長すぎると、回転させる時に一番下側にハンドルが来た時に、こぶしをバランスビームに打ち付けて擦りむく恐れがある。現代のよくできたウィンドラスでは長さを調節できるアームが備えられていることもある。 |
: 長いタイプのウィンドラスでは、よくてこの作用を効かせて固いパドルを動かせるようにソケットとハンドルが遠く離されている。あまりにアームが長すぎると、回転させる時に一番下側にハンドルが来た時に、こぶしをバランスビームに打ち付けて擦りむく恐れがある。現代のよくできたウィンドラスでは長さを調節できるアームが備えられていることもある。 |
||
; 材質 |
; 材質 |
||
: 初期のウィンドラスは、[[鍛冶屋]]により1つ1つ鋳鉄の切れ端から手作業で作られていた。より後の時代には鉄や[[青銅]]の[[鋳造]]、[[鍛造]]、さらに溶接などで作られている。船乗りの中には、自分用のウィンドラスを[[クロム]][[めっき]]するなどして使いやすくし、錆を防いでいる人もいた。今日ではウィンドラスは滅多にめっきされることはなく、代わりに[[アルミニウム]]を材料にすることが普通である。アルミニウムは滑らかでさびにくい表面を持ち、同じように長持ちして手を傷めないという特徴を持つ上に、とても軽い。このようなウィンドラスの中の1種、ダントン・ダブル |
: 初期のウィンドラスは、[[鍛冶屋]]により1つ1つ鋳鉄の切れ端から手作業で作られていた。より後の時代には鉄や[[青銅]]の[[鋳造]]、[[鍛造]]、さらに溶接などで作られている。船乗りの中には、自分用のウィンドラスを[[クロム]][[めっき]]するなどして使いやすくし、錆を防いでいる人もいた。今日ではウィンドラスは滅多にめっきされることはなく、代わりに[[アルミニウム]]を材料にすることが普通である。アルミニウムは滑らかでさびにくい表面を持ち、同じように長持ちして手を傷めないという特徴を持つ上に、とても軽い。このようなウィンドラスの中の1種、ダントン・ダブル (Dunton Double) はソケットを1つだけ持っているが、うまくテーパーを付けて作られているため異なるサイズの軸を回すことができる。 |
||
--> |
|||
=== その他の関連施設 === |
|||
閘門の側壁には、船が係留するために必要な設備があるほか、防衝材をつけて側壁への衝突を防いでいる<ref>{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 207-208}}</ref>。 |
|||
閘門を利用する船舶に合図するために、扉室付近に信号装置を取り付けることがある。また現在の水位を示すための量水標が取り付けられていることもある。夜間にも船舶を通航させるときは、照明設備が設置される<ref>『閘門(ロック)』p.127</ref>。 |
|||
=== ターニング・ア・ロック === |
|||
英語でターニング・ア・ロック(turning a lock、「閘門を回す」)とは、フルの閘門をエンプティにする、あるいはエンプティの閘門をフルにするということを指す。 |
|||
== 閘門の種類 == |
|||
=== ロック・ムーアリング === |
|||
=== 各部の配置による分類 === |
|||
ロック・ムーアリング(lock mooring、「閘門繋留」)は、上流へ向かう船が閘門に進入する時によく使われる方法である。船が水門のところに来た時に片側のよどみに向けて船を進め、閘門内の水の量が減少するにつれて水流により船がよどみから水門の正面へと押し出される。これにより、水門の正面に船を正確に誘導する苦労をしなくて済むようになる。 |
|||
閘門は各部の配置によって、単扉室閘門、複扉室閘門、複式閘門、階段式閘門、並列閘門に分類することができる<ref name="mlit2">{{Cite web|和書|url=https://www.mlit.go.jp/common/001012825.pdf|title=省令(用語の定義)|publisher=国土交通省 |accessdate=2022-02-28|page=906}}</ref>。 |
|||
== |
==== 単扉室閘門 ==== |
||
'''単扉室閘門'''(たんぴしつこうもん)は、扉室が閘室の片側に1個あるのみで、閘室内部が[[ドック]]になっているものである<ref name = "design_pp149-150">『水門・樋門・閘門の設計』pp.149 - 150</ref>。水位差のある水路間を航行する目的ではなく、海や河口付近の[[港]]に設けられ、[[潮汐]]による水位差の影響を受けずに船の貨物扱いなどを行えるようにするものである。 |
|||
言葉は変化しているため上述した内容で全ての閘門を説明できているわけではない。 |
|||
==== 複扉室閘門 ==== |
|||
* 狭小運河における1枚扉(閘門幅 約7フィート/2.1メートル) |
|||
'''複扉室閘門'''(ふくひしつこうもん)は、単扉室閘門に対して言う言葉で、閘室の両側に1つずつの扉室を持つ通常の閘門を指す<ref name = "design_pp149-150" />。 |
|||
** ボスリー運河(Bosley)、マックルスフィールド運河([[:en:Macclesfield Canal|Macclesfield Canal]])のように、閘室両端に2枚扉を備えている運河もあるが、これは少ない。 |
|||
** ほとんどのイングランドの狭小運河では、上流側の水門は1枚扉になっている。1枚扉の方が建設費が安く、1枚のみ動かせばよいので操作も速い。 |
|||
** バーミンガム・カナル・ナビゲーションズのようにさらに節約し、下流側の水門も1枚扉にしているところがある。これは速く通過できるが、下流側の扉は上流側の扉より高さが大きいためより重くなり、また下流側の扉は閘室内側へ開くため、2枚扉ならば扉の開く範囲を狭くできるのに対して1枚扉は大きく開き、その分閘室を長く造らなくてはならない。 |
|||
* 鋼鉄製の扉、鋼鉄製の扉やバランスビームは近年よく用いられている一方、木製のものもそれが適切な場所にはよく用いられている |
|||
** スイングゲート(swinging gates): かなり大きな鋼鉄製の扉を用いた閘門でも、250年前の小さな閘門の設計と同じようにスイングゲートを使うことができる。イングランドの運河では、鋼鉄製の扉は防水性をよくするために合わせ目のところに木材を使っている。 |
|||
** スライドゲート(sliding gates): 高さの低い閘門の中にはスライド式の水門を使っている([[キール運河]]を参照)。 |
|||
** ギロチンゲート(guillotine gates): 垂直に動く鋼鉄製の水門を備えている閘門もある。[[イースト・アングリア]]の河川水運で特に一般的である。スイングゲートの水門のうち一方だけがギロチンゲートに置き換えられることもある。例えばサルターヘッブル閘門(Salterhebble Locks)では、最下流側の閘門の下流側の水門のバランスビームの動作する空間が、[[橋]]の拡幅によって制限されることになったためギロチンゲートに置き換えられた。ニーン川([[:en:River Nene|River Nene]])では、多くの閘門がこの配置となっており、洪水の時には上流側のマイターゲートを開け、下流側のギロチンゲートも開けた状態にして、閘室がオーバーフロー対策の水門として機能するようにする。 |
|||
** 垂直回転式ゲート(vertically-rotating gates): 開けた時には運河の底に横倒しになり、持ち上げて閉じる水門(ロンドン洪水堰 London Flood Barrierなど) |
|||
** 回転セクターゲート(rotating-sector gates): 古典的なスイングゲートによく似た動きをするが、水門は扇形をしている。閘門の壁から回転してせり出してきて閘室中央で合わさって閉じる。イングランドにおける例は、リッブル・リンク([[:en:Ribble Link|Ribble Link]])の海側の閘門と、ライムハウス・ベースン([[:en:Limehouse Basin|Limehouse Basin]])の[[テムズ川]]へ通じる閘門である。かなり巨大なものとしては[[ロッテルダム]]の洪水防止用のものがある。 |
|||
* 巻き上げ装置の代替 |
|||
** 手動で動かすパドルの中には、ハンドルが常時取り付けられているため取り外し可能なハンドル(ウィンドラス)が必要ないものもある。 |
|||
** リーズ・アンド・リバプール運河では、異なる種類の巻き上げ装置が多数ある。パドルの上部に取り付けられた、ねじを通された棒を水平で大きな蝶ネジを回すことによって開けるようになっているものがある。他には長い木製の棒を持ち上げて、暗渠を塞いでいる木板を操作するようになっているものもある。これはジャック・クラフス(jack cloughs)と呼ばれている。下流側の水門のパドルには、一般的な垂直に持ち上げるものではなく、水平なラチェットによって木板を横にスライドさせるものもあった。これらの多くの特異なパドルは次第に「近代化」されて、稀なものになってきている。 |
|||
** コールダー・アンド・ヘッブルナビゲーション([[:en:Calder and Hebble Navigation|Calder and Hebble Navigation]])では、コールダー・アンド・ヘッブル・ハンドスパイク(長さ4インチ中2インチが硬い木でできている)という棒を地面の高さの溝付き歯車に繰り返し挿し込み、下に押し出すことで水平な軸に沿って歯車を回転させることでパドルを操作するようになっているものがある。 |
|||
** モンゴメリー運河([[:en:Montgomery Canal|Montgomery Canal]])の一部分では、底のパドルが側面パドルの位置で操作できるようになっている。水門の脇を迂回して暗渠が閘室内に通じているのではなく、運河の底に埋められた暗渠を通じて水が流れるようになっている。このパドルは水平にスライドする。 |
|||
* 閘門管理者: 閘門によっては、専門の閘門管理者によって操作されるか監督されている。これは商用の水路に顕著で、またあるいは閘門が大きかったり複雑な機能を備えていたりして、通常のレジャー目的の利用者がうまく操作することができないようなものもそうである。例えば、テムズ・アバブ・テディントン(Thames above Teddington)はほぼレジャー目的の水路であるが、閘門には通常人が配置されている。近年になってようやく船乗りは管理者がいない時に油圧式装置を限定的ながら操作することが許されるようになった。 |
|||
* 動力操作: 特に大きな現代の運河、海洋を航行するような大型の船が通過するようなものでは、水門とパドルは人手で操作するにはあまりに大きいため、油圧式または電気式の装置で操作される。小さな運河でも電気で操作するものがあり、閘門管理者が常駐しているような閘門は特にそうである。テムズ川のオックスフォードでは、全ての閘門に人が配置され動力操作である。動力操作式の閘門でも、水の流入・流出は通常重力式であるが、とても大きな閘門ではポンプを使ってスピードアップしていることもある。 |
|||
* 魚道: 川に堰を建設することは魚や船の通航を阻害する。[[マス]]や[[サケ]]などの魚は産卵のために遡上するので、[[魚道]]を設置してこれらを阻害しないようにする。 |
|||
== |
==== 複式閘門 ==== |
||
[[ファイル:Canal Nieuwpoort-Duinkerke tidal lock Veurne 20030621-002.jpg|thumbnail|right|200px|ベルギー・[[:en:Veurne|Veurne]]のNieuwpoort - Duinkerke運河にある、潮汐のある閘門の閘室の一端にある複式閘門扉]] |
|||
=== フライト・ロック === |
|||
'''複式閘門'''(ふくしきこうもん)は、海の潮汐や水位が変わることがある川に運河が合流するなどにより、閘門の両側での水位差が逆転することがある場所に設けられる閘門である。閘門扉として多く用いられるマイターゲートは水位の高い側に向けて設置する必要があり、水位が逆転すると扉が開いてしまい用を成さなくなる。そのため反対側を向けたマイターゲートも設置しなければならない。通常と水位差が逆になったときに船の通航を中止するならば、どちらか一方の扉室に逆向きのマイターゲートを追加して備えればよい。水位差が逆になったときも船の通航を続けたいときには、両方の扉室に2対のマイターゲートを必要とすることになる。このとき、外側の扉室を外扉室、内側の扉室を内扉室と呼ぶ。閘門扉として引揚扉を使用する場合は扉を増やす必要はないが、双方向から水圧がかかることに備えた設計をする必要がある<ref name = "design_pp149-150" /><ref name = "river_eng_p296">『河川工学』p.296</ref>。 |
|||
[[Image:Badgernet Bratch Locks.jpg|thumb|left|スタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河([[:en:Staffordshire and Worcestershire Canal|Staffordshire and Worcestershire Canal]])のブラッチ(Bratch)のフライト・ロック]] |
|||
{{-}} |
|||
[[Image:Caen Hill Locks.jpg|thumb|ケネット・アンド・エイボン運河のカン・ヒル閘門([[:en:Caen Hill locks|Caen Hill locks]])の16連閘門]] |
|||
フライト・ロック(flight lock、「連続閘門」)は、同一のグループとみなされるくらい十分近接して配置された一連の閘門のことである。多くの点から、フライト・ロックは同じ数の閘門が広く散在しているよりも好まれている。閘門を操作する人を上陸させ、再び拾い上げる手間が1回で済むこと、何度も繰り返し船旅を閘門に遮られるよりは、1回でまとめて閘門操作の作業を済ませてしまえること、閘門管理者が常駐していることがあり、船に乗っている人を助けられること、また水の供給が少なくポンプで汲み上げて「リサイクル」しているところでは、1つのポンプで一番下から一番上まで汲み上げられること、などである。フライト・ロックの必要性は純粋に地形によって判断されるが、掘割や築堤によって高度の変化する位置をずらすことにより、意図的に複数の閘門をフライト・ロックにまとめてしまうことがある。デバイジズ([[:en:Devizes|Devizes]])のカン・ヒル閘門([[:en:Caen Hill locks|Caen Hill locks]])がその例である。 |
|||
==== 並列閘門 ==== |
|||
フライト・ロックはステアケース・ロックと混同してはならない。フライト・ロックでは、各閘門はそれぞれ上流側水門と下流側水門を備えており、各閘門間に短いがパウンドがある。各閘門は、通常のやり方で操作される。 |
|||
'''並列閘門'''(へいれつこうもん)または'''双閘'''(そうこう)は、2つの閘門を横に並べて建設したものである。船の通航量が多くて1つでは捌ききれない場合などに設置される。閘室の側壁を共用にすることで建設費を抑えることができる<ref name = "design_pp149-150" /><ref name = "river_eng_p296" />。並列化することで、混雑時の待機時間を短くしたり、自分にとって都合のよい状態になっている閘室を見つけやすかったりする。また2つの閘門を異なる大きさで建設することで、小さな船を通航させるために大きすぎる閘門を使って水を無駄遣いすることを避けることもできる。 |
|||
<!-- 具体的事例の分析について要出典 --> |
|||
<!-- |
|||
また並列になっている閘室をもう一方の閘室に対して節水装置として使用することができるものもある。節水装置として使える並列閘門は、英語ではtwinned lockという言葉が普通使われる。この方式はイングランドではもう長く使われていないが、オックスフォード運河のヒルモートン (Hillmorton) に使われなくなった巻き上げ装置がみられる。 |
|||
並列閘門はトレント・アンド・マージー運河のヘアカッスルトンネル ([[:en:Harecastle Tunnel|Harecastle Tunnel]]) 以北にいくつか例がある。かつて有名であった、[[ニューヨーク州]][[ロックポート (ニューヨーク州)|ロックポート]] の階段形閘門も並列閘門であった。5段の対になった閘門で、ナイアガラ・エスカープメント ([[:en:Niagara Escarpment|Niagara Escarpment]]) の60フィート (18 m) の斜面を東行・西行の船を上下させており、19世紀の技術上の偉業である。ロックポートでは今日では2つの大きな鋼鉄製の閘門になっていて、旧階段形閘門の半分は排水路として使われており、閘門扉を取り外された状態ではあるが見ることができる。 |
|||
=== ステアケース・ロック === |
|||
[[Image:Bingley Five Rise Locks 1.JPG|thumb|left|ビングリー([[:en:Bingley Five Rise Locks|Bingley]])の5段閘門]] |
|||
とてもきつい勾配を登る必要がある時には、ステアケース・ロック(staircase lock、「階段閘門」)が用いられる。ステアケース・ロックには2種類ある。「本当の」(real)ステアケース・ロックは、フライト・ロックを圧縮して中間のパウンドがなくなり、上流側の水門が1つ上の段の閘門の下流側の水門を兼ねているものとみなすことができる。しかしながら、ステアケース・ロックとフライト・ロックという言葉を互換なものとして使うのは誤りである。中間のパウンドがなくなったことにより、ステアケース・ロックを操作するのはフライト・ロックを操作するのと全く違うやり方になるためである。ステアケース・ロックは、1つの閘門に中間段階があると考えた方がよい。一番上流側の水門は通常の水門で、中間の水門は全て最下流の水門と同じ高さになっている。中間のパウンドがないため、閘室に水を流し入れるためには1つ上流側の閘室から水を流し出すしかない。また閘室の水を流し出すためには1つ下流側の閘室に水を流し込むしかない。それゆえ、船が登り始める前には一番下の閘室以外は全てフルの状態にしておく必要があり、また降り始める前には一番上の閘室以外は全てエンプティの状態にしておく必要がある。 |
|||
英語で並列閘門を表すpaired lockという言葉は、2段の階段形閘門という意味で使われることもある。チェスターフィールド運河 ([[:en:Chesterfield Canal|Chesterfield Canal]]) のターナー・ウッド・ダブル閘門 (Turner Wood Double Locks) の例がある。同じ運河にはソープ・ロー・トレブル閘門(Thorpe Low Treble locks、trebleは「3段の」という意味)もある。また2段のフライト・ロックを指すこともある。コールダー・アンド・ヘッブルナビゲーションのソーンヒル・ダブル閘門 (Thornhill Double Locks) の例がある。また初心者はイングランドの運河にある14フィート幅の閘門をダブル・ロックと呼ぶことがあり、これはおそらく狭い幅の閘門の2倍の幅があって[[ナロウボート]]を2隻同時に同一方向に運航させることができるからである。これはより適切にはブロード・ロック(広幅閘門)と呼ばれる。 |
|||
「外見上の」(apparent)ステアケース・ロックでは、各閘室は隣の閘室と水門を兼用している(スタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河のブラッチ閘門は例外)が、水は直接閘室から下流の閘室へ流れ込まず、サイド・パウンドに流れ込む。これにより、使用する前に一連の閘門が全てフルになっているかエンプティになっているかを保証しておく必要はない。 |
|||
--> |
|||
<!-- 資料上の分類にない記述のため要出典 --> |
|||
<!-- |
|||
==== フライト・ロック ==== |
|||
[[ファイル:Badgernet Bratch Locks.jpg|thumb|left|スタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河 ([[:en:Staffordshire and Worcestershire Canal|Staffordshire and Worcestershire Canal]]) のブラッチ (Bratch) のフライト・ロック]] |
|||
[[ファイル:Caen Hill Locks.jpg|thumb|ケネット・アンド・エイボン運河のカン・ヒル閘門 ([[:en:Caen Hill locks|Caen Hill locks]]) の16連閘門]] |
|||
'''フライト・ロック'''(flight lock、「連続閘門」)は、同一のグループとみなされるくらい十分近接して配置された一連の閘門のことである。多くの点から、フライト・ロックは同じ数の閘門が広く散在しているよりも好まれている。閘門を操作する人を上陸させ、再び拾い上げる手間が1回で済むこと、何度も繰り返し船旅を閘門に遮られるよりは、1回でまとめて閘門操作の作業を済ませてしまえること、閘門管理者が常駐していることがあり、船に乗っている人を助けられること、また水の供給が少なくポンプで汲み上げて「リサイクル」しているところでは、1つのポンプで一番下から一番上まで汲み上げられること、などである。フライト・ロックの必要性は純粋に地形によって判断されるが、掘割や築堤によって高度の変化する位置をずらすことにより、意図的に複数の閘門をフライト・ロックにまとめてしまうことがある。デバイジズ ([[:en:Devizes|Devizes]]) のカン・ヒル閘門 ([[:en:Caen Hill locks|Caen Hill locks]]) がその例である。 |
|||
フライト・ロックは階段形閘門と混同してはならない。フライト・ロックでは、各閘門はそれぞれ上流側閘門扉と下流側閘門扉を備えており、各閘門間に短いが運河区がある。各閘門は、通常のやり方で操作される。 |
|||
イングランドにおける有名な「本当の」ステアケース・ロックにはビングリー([[:en:Bingley Five Rise Locks|Bingley Five Rise Locks]])のものがある。2段のステアケース・ロックはより一般に見られる。ドリッフィールドナビゲーション([[:en:Driffield Navigation|Driffield Navigation]])のスネークホルム閘門([[:en:Snakeholme Lock|Snakeholme Lock]])、ストランチオン・ヒル閘門([[:en:Struncheon Hill Lock|Struncheon Hill Lock]])では、下流側の水位が低くすぎて下流側水門を通過する時に水門の底が支えて船の航行を妨げたため、下流側に閘室を付け足してステアケース・ロックに改造された。[[中華人民共和国|中国]]で近年完成した[[三峡ダム]]には2つの5段のステアケース・ロックがあり3000トン以下の船を通すことができる。「外見上」のステアケース・ロックの例としては、グランド・ユニオン運河のレスター支線(Leicester Branch)にある、フォクストン閘門([[:en:Foxton Locks|Foxton Locks]])とワトフォード閘門([[:en:Watford Locks|Watford Locks]])などがある。 |
|||
{{-}} |
|||
--> |
|||
==== 階段形閘門 ==== |
|||
中間のパウンドがないことにより、「本当の」ステアケース・ロックは、同じ高低差のフライト・ロックに比べて船を運ぶためにより多くの水を消費する。「外見上の」ステアケース・ロックはこの問題がなく、この設計が考案された主な理由となっている。 |
|||
[[ファイル:Bingley Five Rise Locks 1.JPG|thumb|left|[[リーズ・リヴァプール運河]]のビングリーの 5 段の階段形閘門 ([[:en:Bingley Five Rise Locks]]) ]] |
|||
'''階段形閘門'''(かいだんがたこうもん)は、大きな閘程を実現するために複数の閘門を直列に並べて、上流側の閘門の後扉室が下流側の閘門の前扉室を兼ねるようにしたものである<ref name = "design_pp149-150" /><ref name = "river_eng_p296" />。 |
|||
<!-- 資料上の分類にない記述のため要出典 --> |
|||
[[Image:Thorpe Top Treble instructions.jpg|thumb|left|チェスターフィールド運河([[:en:Chesterfield Canal|Chesterfield Canal]])にある下り方向に3段のステアケース・ロックを使う方法の説明]] |
|||
<!-- |
|||
ステアケース・ロックの操作はフライト・ロックに比べて複雑である。経験のない人にとってはステアケース・ロックの操作は難しくみえる。単に優柔不断で操作できないといった問題を除けば、主な難点は、下流側の閘室が受け入れることができる以上の水を流し込んで溢れさせたり下流に大波を起こしてしまったり、逆に上流側の中間閘室を完全に空にしてしまったり(これは緊急時にはステアケース・ロックを[[乾ドック]]の代わりに使うことができるということを示しているが)というところにある。こうした事故を防ぐために、最初の閘室以外の全ての閘室を下る時には空に、上る時には一杯にしておくことが大事である。 |
|||
単純に複数の閘門を並べたものは前述したフライト・ロックであり、中間の運河区がなくなり扉室を上下流の閘門で兼用にしているものだけが階段形閘門である。 |
|||
階段形閘門には2種類ある。「本当の」階段形閘門は、フライト・ロックを圧縮して中間の運河区がなくなり、上流側の閘門扉が1つ上の段の閘門の下流側の閘門扉を兼ねているものとみなすことができる。しかしながら、階段形閘門とフライト・ロックは等価なものではない。中間の運河区がなくなったことにより、階段形閘門とフライト・ロックの操作方法はまったく違うやり方になるためである。階段形閘門は、1つの閘門に中間段階があると考えた方がよい。一番上流側の閘門扉は通常の閘門扉で、中間の閘門扉は全て最下流の閘門扉と同じ高さになっている。中間の運河区がないため、閘室に水を流し入れるためには1つ上流側の閘室から水を流し出すしかない。また閘室の水を流し出すためには1つ下流側の閘室に水を流し込むしかない。それゆえ、船が登り始める前には一番下の閘室以外はすべて水位を高い状態にしておく必要があり、また降り始める前には一番上の閘室以外はすべて水位を低い状態にしておく必要がある。 |
|||
単独の閘門やフライト・ロックと比べて、ステアケース・ロックの使い方で大きな違いは、船を通過させるもっともよい順番にある。単独の閘門や、中間の水域で船の行き違いができるようなフライト・ロックでは、双方向の船が交互に通るのが明らかに最良である。一方ステアケース・ロックでは、同じ方向に続けて船を進める方が効率的である。こうした理由もあって、グリンドリー・ブルック(Grindley Brook)、フォクストン、ワトフォード、ブラッチなどのステアケース・ロックは少なくとも主なクルージングシーズンには閘門管理者に管理されており、多くの船を一度に上げ、続いて多くの船を一度に下げるという規則を適用している。 |
|||
{{国際化|[[イギリス]]|section=1|date=2019-6}} |
|||
「外見上の」階段形閘門でも、各閘室は隣の閘室と閘門扉を兼用している(スタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河のブラッチ閘門は例外)が、水は直接閘室から下流の閘室へ流れ込まず、脇に設けられた池に流れ込む。これにより、使用する前に一連の閘室の水位をどちらかの状態にしておく必要はない。 |
|||
イングランドにおける有名な「本当の」階段形閘門にはビングリー ([[:en:Bingley Five Rise Locks|Bingley Five Rise Locks]]) のものがある。2段の階段形閘門はより一般に見られる。ドリッフィールドナビゲーション ([[:en:Driffield Navigation|Driffield Navigation]]) のスネークホルム閘門 ([[:en:Snakeholme Lock|Snakeholme Lock]]) 、ストランチオン・ヒル閘門 ([[:en:Struncheon Hill Lock|Struncheon Hill Lock]]) では、下流側の水位が低すぎて後扉室を通過する時に扉室の底が支えて船の航行を妨げたため、下流側に閘室を付け足して階段形閘門に改造された。[[中華人民共和国|中国]]で近年完成した[[三峡ダム]]には2つの5段の階段形閘門があり3,000トン以下の船を通すことができる。「外見上」の階段形閘門の例としては、グランド・ユニオン運河のレスター支線 (Leicester Branch) にある、フォクストン閘門 ([[:en:Foxton Locks|Foxton Locks]]) とワトフォード閘門 ([[:en:Watford Locks|Watford Locks]]) などがある。 |
|||
フライト・ロックと同様に、広い運河ではステアケース・ロックに複数の船を同時に入れることができる。しかし水を無駄にせずこれをうまく管理するには経験が必要である。イングランドの運河では、閘室が2つ以上あるステアケース・ロックには普通人が配置されている。ビングリー閘門で5段閘門と3段閘門の両方の面倒をみている管理人は、問題となる事件を20年以上にわたって特に発生させることなく船を迅速に、効率的に運航させている。このようなエキスパートになると、対向する船を同時に中間まで進めてお互いに行き違いをさせたり、ピーク時には全ての閘室に同一方向へ向かう船を入れたりと、船を[[サーカス]]のように運航させることができる。 |
|||
中間の運河区がないことにより、「本当の」階段形閘門は、同じ高低差のフライト・ロックに比べて船を運ぶためにより多くの水を消費する。「外見上の」階段形閘門はこの問題がなく、この設計が考案された主な理由となっている。 |
|||
=== 対になった閘門 === |
|||
閘門を横に並べて建設することがある。これはdoubling、pairing、twinningなどと呼ばれる。トレント・アンド・マージー運河のヘアカッスルトンネル([[:en:Harecastle Tunnel|Harecastle Tunnel]])以北にいくつか例がある。二重化することでスピード面で利点がある。混雑時の待機時間を短くしたり、自分にとって都合のよい状態になっている閘室を見つけやすかったりする。また水の節約をすることもできる。2つの閘門で異なるサイズにすることで、小さな船を動かすために大きな閘門を使わなくて済むようにしたり、お互いの閘室をもう一方の水節約用のサイド・パウンドとして使ったりできる。後者ではtwinnedという言葉が普通使われ、閘門の操作を協調させてある閘室から吐き出した水を他の閘室を満たすために使うことにより水の節約を図ることができることを表している。この方式はイングランドではもう長く使われていないが、オックスフォード運河のヒルモートン(Hillmorton)に使われなくなった巻き上げ装置がみられる。 |
|||
[[ファイル:Thorpe Top Treble instructions.jpg|thumb|left|チェスターフィールド運河にある下り方向に3段の階段形閘門を使う方法の説明]] |
|||
かつて有名であった、[[ニューヨーク州]]ロックポート([[:en:Lockport (city), New York|Lockport]])のステアケース・ロックも対になった閘門であった。5段の対になった閘門で、ナイアガラ・エスカープメント([[:en:Niagara Escarpment|Niagara Escarpment]])の60フィート(18メートル)の斜面を東行・西行の船を上下させており、19世紀の技術上の偉業である。ロックポートでは今日では2つの大きな鋼鉄製の閘門になっているが、旧階段閘門の半分は排水路として使われており、水門扉を取り外された状態ではあるが見ることができる。 |
|||
階段形閘門の操作はフライト・ロックに比べて複雑である。経験のない人にとっては階段形閘門の操作は難しくみえる。単に優柔不断で操作できないといった問題を除けば、主な難点は、下流側の閘室が受け入れることができる以上の水を流し込んで溢れさせたり下流に大波を起こしてしまったり、逆に上流側の中間閘室を完全に空にしてしまったり(これは緊急時には階段形閘門を[[乾ドック]]の代わりに使うことができるということを示しているが)というところにある。こうした事故を防ぐために、最初の閘室以外の全ての閘室を下る時には空に、上る時には一杯にしておくことが大事である。 |
|||
単独の閘門やフライト・ロックと比べて、階段形閘門の使い方で大きな違いは、船を通過させるもっともよい順番にある。単独の閘門や、中間の水域で船の行き違いができるようなフライト・ロックでは、双方向の船が交互に通るのが明らかに最良である。一方階段形閘門では、同じ方向に続けて船を進める方が効率的である。こうした理由もあって、グリンドリー・ブルック (Grindley Brook)、フォクストン、ワトフォード、ブラッチなどの階段形閘門は少なくとも主なクルージングシーズンには閘門管理者に管理されており、多くの船を一度に上げ、続いて多くの船を一度に下げるという規則を適用している。 |
|||
この言葉は、2段のステアケース・ロックという意味で使われることもある。チェスターフィールド運河のターナー・ウッド・ダブル閘門(Turner Wood Double Locks)の例がある。同じ運河にはソープ・ロー・トレブル閘門(Thorpe Low Treble locks、trebleは「3段の」という意味)もある。また2段のフライト・ロックを指すこともある。コールダー・アンド・ヘッブルナビゲーションのソーンヒル・ダブル閘門(Thornhill Double Locks)の例がある。また初心者はイングランドの運河にある14フィート幅の閘門をダブル・ロックと呼ぶことがあり、これはおそらく狭い幅の閘門の2倍の幅があって[[ナロウボート]]を2隻同時に同一方向に運航させることができるからである。これはより適切にはブロード・ロック(広幅閘門)と呼ばれる。 |
|||
フライト・ロックと同様に、広い運河では階段形閘門に複数の船を同時に入れることができる。しかし水を無駄にせずこれをうまく管理するには経験が必要である。イングランドの運河では、閘室が2つ以上ある階段形閘門には普通人が配置されている。ビングリー閘門で5段閘門と3段閘門の両方の面倒をみている管理人は、問題となる事件を20年以上にわたって特に発生させることなく船を迅速に、効率的に運航させている。このようなエキスパートになると、対向する船を同時に中間まで進めてお互いに行き違いをさせたり、ピーク時にはすべての閘室に同一方向へ向かう船を入れたりと、船を[[サーカス]]のように運航させることができる。 |
|||
=== ストップ・ロック === |
|||
{{-}} |
|||
[[Image:Lifford Lane Guillotine Stop Lock west.jpg|right|thumb|[[バーミンガム]]、キングス・ノートン([[:en:Kings Norton|Kings Norton]])にある、ストラットフォード=アポン=エイボン運河([[:en:Stratford-upon-Avon Canal|Stratford-upon-Avon Canal]])とウースター・アンド・バーミンガム運河([[:en:Worcester and Birmingham Canal|Worcester and Birmingham Canal]])の接続点にあるリフォード・レーンギロチンゲート]] |
|||
--> |
|||
ストップ・ロック(stop lock、「遮断閘門」)は、2つの異なる互いに競合する運河の交点に建設されて、水が流出してしまうのを防ぐ、とても小さな落差の閘門である。 |
|||
=== 設置場所による分類 === |
|||
イギリスの運河システムが競争的だった時代には、既に存在する運河会社はしばしば新しい隣接運河が接続することを拒否した。このために[[バーミンガム]]のウースター・バー(Worcester Bar)では、ほんの1フィートしか離れていないのに競合運河の船へ貨物を積み替えなければならなかった。 |
|||
閘門には河川等の運河に設ける閘門と港湾に設ける閘門がある<ref name="mlit2" />。内地運河と海船運河を問わず運河に付属する水閘を運河閘、河川の堰に設けるものを河閘、潮汐の影響を免れるために設けるものを海閘ということもある<ref name="kakai172">{{Cite book|和書|title= 河海工学 第5編 (渠工) | author = 君島八郎 | year = 1944 | edition = 改版 | publisher = 丸善| page = 172}}</ref>。 |
|||
==== ストップ・ロック ==== |
|||
既存の運河会社が接続に利点を見出したり、新設の運河会社が設立認可の法案に接続を必須とする条項を押し込むことに成功したりして、運河が接続されることになると、既存の会社は水源を守り、あるいは場合によっては拡張しようと考え始める。通常、交点では新しい側の運河は既存の運河より高い位置になるように指定された。新旧運河の水位差がわずか数インチであっても、ストップ・ロックと呼ばれる閘門が必要とされた。なぜなら、新しい運河から既存運河へ水が流れ出し続けるのを防ぐ必要があるからである。この閘門は新設の会社の管理下に置かれ、当然ながら新設運河側が上流になっている。これにより新しい運河の水源を守るが、しかしながら必然的に船が通航するたびに既存の運河会社に閘門1杯分の水を差し出すことになる。水が過剰な時には当然ながら既存運河に対して水を連続的に流したままにする。 |
|||
[[ファイル:Lifford Lane Guillotine Stop Lock west.jpg|right|thumb|[[バーミンガム]]、キングス・ノートン ([[:en:Kings Norton|Kings Norton]]) にある、ストラットフォード=アポン=エイボン運河 ([[:en:Stratford-upon-Avon Canal|Stratford-upon-Avon Canal]]) とウースター・アンド・バーミンガム運河 ([[:en:Worcester and Birmingham Canal|Worcester and Birmingham Canal]]) の接続点にあるリフォード・レーンギロチンゲート]] |
|||
'''ストップ・ロック'''(stop lock、「遮断閘門」)は、2つの異なる互いに競合する運河の交点に建設されて、水が流出してしまうのを防ぐ、とても小さな落差の閘門である。 |
|||
イギリスの運河網が競争的だった時代には、既に存在する運河会社は新しい隣接運河が接続することを拒否することがよくあった。このために[[バーミンガム]]のウースター・バー (Worcester Bar) では、ほんの1フィートしか離れていないのに競合運河の船へ貨物を積み替えなければならなかった。 |
|||
状況が変化するために常に新設運河の水位が高いことが保証できない場合には、既存会社も同じようにストップ・ロックを、独自の管理下で自分の運河側が上流になるような向きで建設し、新設運河の水位が下がった時には閉鎖するようになっていた。これにより、互いに異なる向きになっている閘門が連続して現れることになる。マックルスフィールド運河の南端が先に存在していたトレント・アンド・マージー運河のホール・グリーン支線([[:en:Hall Green Branch|Hall Green Branch]])に合流するキッズグラブ([[:en:Kidsgrove|Kidsgrove]])近郊のホール・グリーン(Hall Green)に例がある。ストラットフォード=アポン=エイボン運河([[:en:Stratford-upon-Avon Canal|Stratford-upon-Avon Canal]])とウースター・アンド・バーミンガム運河([[:en:Worcester and Birmingham Canal|Worcester and Birmingham Canal]])の間のキングス・ノートン接続点(Kings Norton Junction)の4つの水門を持つストップ・ロックは、どちらの水位が高くても水を遮断するギロチンロックの組み合わせに[[1914年]]に置き換えられた。これらのゲートは[[国有化]]に伴って常時開けた状態にされている<ref>''Birmingham's Canals'', Ray Shill, 1999, 2002, ISBN 0-7509-2077-7</ref>。 |
|||
既存の運河会社が新しい運河との接続に利点を見出したり、新設の運河会社が設立認可の法案に接続を必須とする条項を押し込むことに成功したりして、運河が接続されることになると、既存の会社は水源を守り、あるいは場合によっては拡張しようと考え始める。通常、交点では新しい側の運河は既存の運河より高い位置になるように指定された。新旧運河の水位差がわずか数インチであっても、ストップ・ロックと呼ばれる閘門が必要とされた。なぜなら、新しい運河から既存運河へ水が流れ出し続けるのを防ぐ必要があるからである。この閘門は新設の会社の管理下に置かれ、当然ながら新設運河側が上流になっている。これにより新しい運河の水源を守るが、しかしながら必然的に船が通航するたびに既存の運河会社に閘門1杯分の水を差し出すことになる。水が過剰な時には当然ながら既存運河に対して水を連続的に流したままにする。 |
|||
[[1948年]]の国有化後、多くのストップ・ロックは撤去されたり、単独の水門に改造されたりした。ホール・グリーンのストップ・ロックは残ったが、単独の閘門となった。トレント・アンド・マージー運河の頂点にある水路の水位が、ヘアカッスルトンネルの水面上の高さを改善するために下げられて、マックルスフィールド運河より常に低いことが保証されたため、余分の閘門は撤去された。ホール・グリーン支線は現在ではマックルスフィールド運河の延長であると考えられるようになっており、トレント・アンド・マージー運河とヘアカッスルトンネルの北側出口のすぐ近くにあるハーディングス・ウッド接続点([[:en:Hardings Wood Junction|Hardings Wood Junction]])で合流する。 |
|||
水位が変化するために常に新設運河の水位が高いことが保証できない場合には、既存会社も同じようにストップ・ロックを、独自の管理下で自分の運河側が上流になるような向きで建設し、新設運河の水位が下がった時には閉鎖するようになっていた。これにより、互いに異なる向きになっている閘門が連続して現れることになる。マックルスフィールド運河の南端が、先に存在していたトレント・アンド・マージー運河のホール・グリーン支線 ([[:en:Hall Green Branch|Hall Green Branch]]) に合流するキッズグラブ ([[:en:Kidsgrove|Kidsgrove]]) 近郊のホール・グリーン (Hall Green) に例がある。ストラットフォード=アポン=エイボン運河 ([[:en:Stratford-upon-Avon Canal|Stratford-upon-Avon Canal]]) とウースター・アンド・バーミンガム運河 ([[:en:Worcester and Birmingham Canal|Worcester and Birmingham Canal]]) の間のキングス・ノートン接続点 (Kings Norton Junction) の4つの閘門扉を持つストップ・ロックは、どちらの水位が高くても水を遮断するギロチンロックの組み合わせに[[1914年]]に置き換えられた。これらのゲートは[[国有化]]に伴って常時開けた状態にされている<ref>''Birmingham's Canals'', Ray Shill, 1999, 2002, ISBN 0-7509-2077-7</ref>。 |
|||
新しい運河の側が高く、というルールは鉄則ではないことは注意しなければならない。例えば、[[1835年]]に建設されたバーミンガム・アンド・リバプール運河(Birmingham and Liverpool canal)(現在はシュロップシャー・ユニオン運河([[:en:Shropshire Union Canal|Shropshire Union Canal]])の一部)が、[[1772年]]に建設されたスタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河に合流するとても浅いオーサーリー合流点([[:en:Autherley Junction|Autherley Junction]])などがある。水路に関するニコルソン・ガイドによれば、シュロップシャー・ユニオン運河側から来る船は、より古いスタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河に入る時に閘門を上る方向に通過するので、新しい運河であるシュロップシャー・ユニオン運河の方が船を通過させるたびに閘門1杯分ずつの水を受け取ることになる。しかしながら、両方の水門を同時に開けることもできるくらい水位差はとても小さいので、得られる水はとても少量である。 |
|||
[[1948年]]の国有化後、多くのストップ・ロックは撤去されたり、単独の閘門扉に改造されたりした。ホール・グリーンのストップ・ロックは残ったが、単独の閘門となった。トレント・アンド・マージー運河の頂点にある水路の水位が、ヘアカッスルトンネルの水面上の高さを改善するために下げられて、マックルスフィールド運河より常に低いことが保証されたため、余分の閘門は撤去された。ホール・グリーン支線は現在ではマックルスフィールド運河の延長であると考えられるようになっており、トレント・アンド・マージー運河とヘアカッスルトンネルの北側出口のすぐ近くにあるハーディングス・ウッド接続点 ([[:en:Hardings Wood Junction|Hardings Wood Junction]]) で合流する。 |
|||
=== ドロップ・ロック === |
|||
ドロップ・ロック(drop lock、「降下閘門」)は、高さの低い橋のような障害物の下を船が通過する間だけ運河の短い区間の水位を下げておくような目的で使われる。使われていなかった運河を修復する際に、運河が使われなくなってから建設された構造物を取り除いたり持ち上げたりすることが不可能であったり高価であったりして、かつ運河の経路変更が不可能なような場合には、ドロップ・ロックを使うことに議論の余地がある。 |
|||
新しい運河の側が高く、というルールは鉄則ではないことは注意しなければならない。例えば、[[1835年]]に建設されたバーミンガム・アンド・リバプール運河(Birmingham and Liverpool canal、現在はシュロップシャー・ユニオン運河 ([[:en:Shropshire Union Canal|Shropshire Union Canal]]) の一部)が、[[1772年]]に建設されたスタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河に合流するとても浅いオーサーリー合流点 ([[:en:Autherley Junction|Autherley Junction]]) などがある。水路に関するニコルソン・ガイドによれば、シュロップシャー・ユニオン運河側から来る船は、より古いスタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河に入る時に閘門を上る方向に通過するので、新しい運河であるシュロップシャー・ユニオン運河の方が船を通過させるたびに閘門1杯分ずつの水を受け取ることになる。しかしながら、両方の閘門扉を同時に開けることもできるくらい水位差はとても小さいので、得られる水はとても少量である。 |
|||
ドロップ・ロックは2つの通常型閘門を、排水池側を下にして配置したものか、あるいは1つの長い排水池を備えた閘室を持った閘門で構成されている。正式には後者の方がドロップ・ロックである。ドロップ・ロックの両端は同じ水位なので、この閘門の中の水を抜くためには閘室内から水をより下流の川や運河へ流しだしてしまう他ない。あるいはより水の消費を少なくするためには、汲み上げて元の運河に戻す必要がある。2つの閘門を持った方式では、バイパス排水管を造って遮られている区間を迂回して水を流し、より下流の閘門に水を供給できるようにする必要がある。単一閘門タイプでは、閘門内を水で満たして、使わない間は水門を開けたままにしておくことでこれを実現できる<ref>{{cite web|url=http://www.gentles.info/link/Drop_Lock/Drop_Lock.htm|title=Dalmuir Drop Lock| accessdate =2007-10-22 }}</ref>。 |
|||
{{-}} |
|||
==== ドロップ・ロック ==== |
|||
多くの場合でドロップ・ロックの考えが提唱されてきたが、世界で唯一実際に建設されたドロップ・ロックは[[スコットランド]]のフォース・アンド・クライト運河([[:en:Forth and Clyde Canal|Forth and Clyde Canal]])のダルムア(Dalmuir)にあるものである<ref>{{cite web|url=http://www.voltimum.co.uk/news/496/infopro/Mitsubishi-helps-breath-new-life-into-important-canal-routes-.html|title=Mitsubishi helps breath new life into important canal routes|author=voltimum| accessdate =2007-10-23}}</ref>。この単独閘門タイプのドロップ・ロックは運河の修復に際して、交通量の多い道路にあった[[跳ね橋]]が頻繁に使われて交通を妨害するという批判に応えて、跳ね橋を固定橋に取り替えることを可能にするために導入された。閘門の排水はポンプで行うことができるが、かなりの電気を使うので、水の供給量が十分な時は近くの川に水を流しだすことで排水している。[http://www.gentles.info/link/Drop_Lock/Drop_Lock.htm このページ]でドロップ・ロックの操作の様子の一連の写真を見ることができる。同じようなものが、ドロイトウィッチ運河([[:en:Droitwich Canal|Droitwich Canal]])の一部区間の復旧に際して建設される予定である。 |
|||
ドロップ・ロック(drop lock、「降下閘門」)は、高さの低い橋のような障害物の下を船が通過する間だけ運河の短い区間の水位を下げておくような目的で使われる。使われていなかった運河を修復する際に、運河が使われなくなってから建設された構造物を取り除いたり持ち上げたりすることが不可能であったり高くついたりして、かつ運河の経路変更が不可能なような場合には、ドロップ・ロックを使うことに検討の余地がある。 |
|||
ドロップ・ロックは2つの通常型閘門を、排水池側を下にして配置したものか、あるいは1つの長い排水池を備えた閘室を持った閘門で構成されている。正式には後者の方がドロップ・ロックである。ドロップ・ロックの両端は同じ水位なので、この閘門の中の水を抜くためには閘室内から水をより下流の川や運河へ流しだしてしまう他ない。あるいはより水の消費を少なくするためには、汲み上げて元の運河に戻す必要がある。2つの閘門を持った方式では、バイパス排水管を造って遮られている区間を迂回して水を流し、より下流の閘門に水を供給できるようにする必要がある。単一閘門タイプでは、閘門内を水で満たして、使わない間は閘門扉を開けたままにしておくことでこれを実現できる<ref>{{cite web|url=http://www.gentles.info/link/Drop_Lock/Drop_Lock.htm|title=Dalmuir Drop Lock| accessdate =2007-10-22 }}</ref>。 |
|||
=== フラッド・ロック === |
|||
フラッド・ロック(flood lock、「洪水閘門」)は、川に接続された水路を洪水から守るためのものである。通常、川から運河が分岐する地点に建設される。通常の川の水位では、水門は常に開けた状態になっており、運河の水位は川の水位と共に上下する。 |
|||
多くの場所でドロップ・ロックの考えが提唱されてきたが、世界で唯一実際に建設されたドロップ・ロックは[[スコットランド]]のフォース・アンド・クライト運河 ([[:en:Forth and Clyde Canal|Forth and Clyde Canal]]) のダルムア (Dalmuir) にあるものである<ref>{{cite web|url=http://www.voltimum.co.uk/news/496/infopro/Mitsubishi-helps-breath-new-life-into-important-canal-routes-.html|title=Mitsubishi helps breath new life into important canal routes|author=voltimum| accessdate =2007-10-23}}</ref>。この単独閘門タイプのドロップ・ロックは運河の修復に際して、交通量の多い道路にあった[[跳ね橋]]が頻繁に使われて交通を妨害するという批判に応えて、跳ね橋を固定橋に取り替えることを可能にするために導入された。閘門の排水はポンプで行うことができるが、かなりの電気を使うので、水の供給量が十分な時は近くの川に水を流しだすことで排水している。[http://www.gentles.info/link/Drop_Lock/Drop_Lock.htm このページ]でドロップ・ロックの操作の様子の一連の写真を見ることができる。同じようなものが、ドロイトウィッチ運河 ([[:en:Droitwich Canal|Droitwich Canal]]) の一部区間の復旧に際して建設される予定である。 |
|||
運河の安全上の限界を超えて川の水位が上昇すると、川の水位が下がるまで水門が閉鎖されて閘門となる。これは通常の閘門であるので、水位差があっても運河から洪水になっている川へ(あまり賢明なことではないが)船を乗り出すことができ、また逆に洪水になっている川から運河へ船を避難させることもできる。 |
|||
==== フラッド・ロック ==== |
|||
運河が同じ川の2箇所をつないでいる航行用水路である場合には、フラッド・ロックは運河の上流側に設置され、下流側には通常の閘門が設置される。 |
|||
フラッド・ロック(flood lock、「洪水閘門」)は、川に接続された水路を洪水から守るためのものである。通常、川から運河が分岐する地点に建設される。通常の川の水位では、閘門扉は常に開けた状態になっており、運河の水位は川の水位と共に上下する。 |
|||
運河の安全上の限界を超えて川の水位が上昇すると、川の水位が下がるまで閘門扉が閉鎖されて閘門となる。これは通常の閘門であるので、水位差があっても運河から洪水になっている川へ(あまり賢明なことではないが)船を乗り出すことができ、また逆に洪水になっている川から運河へ船を避難させることもできる。 |
|||
単なるフラッド・ゲートとして使われているフラッド・ロックは、修理しなければ機能しなくなっていることが多い。実際の商業目的に使われていない水路のように、洪水が起きている川に船を出し入れするような目的に費用を投じる必要がない水路では、外側の水門だけが洪水に際して閉鎖されることが多く、その場合内側の水門はすぐに保守されなくなって動作しなくなる。例としてはコールダー・アンド・ヘッブル・ナビゲーションがあり、ボート・ガイドにはフラッド・ロックと記載されているが、単に洪水を防ぐ目的にのみ使われており、洪水が起きている時に船を出し入れするために使うことはできない。 |
|||
運河が同じ川の2箇所をつないでいる航行用水路である場合には、フラッド・ロックは運河の上流側に設置され、下流側には通常の閘門が設置される。 |
|||
=== フラッド・ゲート === |
|||
[[Image:Canal Schoten-Dessel stop lock Ravels 20040813-004.jpg|thumbnail|left|200px|[[ベルギー]]、Schoten-Dessel運河にある双方向フラッド・ゲート]] |
|||
フラッド・ゲート(flood gate、「洪水水門」)、あるいはストップ・ゲート(stop gate)は、フラッド・ロックより安価な同等物である。1つの水門だけがあり、川の水位が高くなると閉鎖されて船の通航はできなくなる。これは[[フランス]]の内陸水路では一般的である。フラッド・ゲートは長い運河を複数の区間に分割する目的に使われたり、あるいは堤防が決壊した時に運河の水位より低い周辺地域に浸水することを防ぐために使われたりする。長い築堤や高架水路の両端によく見られる。こうした水門は、バランスビームを備えてなく運河の水位よりちょっと高い程度なので、しばしば見落とされる。 |
|||
単なるフラッド・ゲートとして使われているフラッド・ロックは、修理しなければ機能しなくなっていることが多い。実際の商業目的に使われていない水路のように、洪水が起きている川に船を出し入れするような目的に費用を投じる必要がない水路では、外側の閘門扉だけが洪水に際して閉鎖されることが多く、その場合内側の閘門扉はすぐに保守されなくなって動作しなくなる。例としてはコールダー・アンド・ヘッブル・ナビゲーションがあり、ボート・ガイドにはフラッド・ロックと記載されているが、単に洪水を防ぐ目的にのみ使われており、洪水が起きている時に船を出し入れするために使うことはできない。 |
|||
=== 双方向閘門・水門 === |
|||
[[Image:Canal Nieuwpoort-Duinkerke tidal lock Veurne 20030621-002.jpg|thumbnail|right|200px|ベルギー・[[:en:Veurne|Veurne]]のNieuwpoort - Duinkerke運河にある、潮汐のある閘門の閘室の一端にある双方向水門]] |
|||
閘門の一方側が海の潮汐により水位が変わるような場合、あるいは水位が変わることがある川に運河が合流するような場合、水位の変わる側が通常は下流側でも、上流側より水位が高くなることがありえる。この場合、上流側に向けて造られた水門は機能を失って開いてしまう。閘門から正しくない方向に水が流れてしまうことを防ぐために、通常とは逆方向に向けて造られた水門が必要となる。そのような状況下でも船の運航を続けたい場合には、閘室の両側に両方向に向けた水門を設置する必要がある。閘室の両側に互いに反対を向いた水門を設置するのが通常の方法であるが、代わりに連続した異なる向きの閘門を設置する方法もある。しかしこれは1つ余計な閘室が必要になる。航海を続けることが必要がない、あるいはできない場合には、双方向水門は1つだけ設置すればよい。 |
|||
=== |
==== フラッド・ゲート ==== |
||
[[ファイル:Canal Schoten-Dessel stop lock Ravels 20040813-004.jpg|thumbnail|left|200px|[[ベルギー]]、Schoten-Dessel運河にある双方向フラッド・ゲート]] |
|||
[[Image:Bude haven.JPG|thumb|[[コーンウォール]]、ブード([[:en:Bude|Bude]])にあるシー・ロック]] |
|||
フラッド・ゲート(flood gate、「洪水閘門扉」)、あるいはストップ・ゲート (stop gate) は、フラッド・ロックより安価な同等物である。1つの閘門扉だけがあり、川の水位が高くなると閉鎖されて船の通航はできなくなる。これは[[フランス]]の内陸水路では一般的である。フラッド・ゲートは長い運河を複数の区間に分割する目的に使われたり、あるいは堤防が決壊した時に運河の水位より低い周辺地域に浸水することを防ぐために使われたりする。長い築堤や高架水路の両端によく見られる。こうした閘門扉は、開閉棹を備えておらず運河の水位よりちょっと高い程度なので、しばしば見落とされる。 |
|||
{{-}} |
|||
==== シー・ロック ==== |
|||
[[ファイル:Bude haven.JPG|thumb|[[コーンウォール]]、ブード ([[:en:Bude|Bude]]) にあるシー・ロック]] |
|||
運河や川を直接入り江や浜と接続しているのがシー・ロック(sea lock、「海洋閘門」)である。シー・ロックは全て潮汐がある。 |
運河や川を直接入り江や浜と接続しているのがシー・ロック(sea lock、「海洋閘門」)である。シー・ロックは全て潮汐がある。 |
||
=== |
==== タイダル・ロック ==== |
||
タイダル・ロック(tidal lock、「潮汐閘門」)は、潮汐のある水域とない水域を結ぶ閘門である。これには、潮汐のある川とない川の間のもの、潮汐のある川と運河の間のもの、シー・ロックなどがある。しかしながら、普通はこの言葉は潮汐の状態によって運用に影響があるような閘門のことを特に指す。例としては、 |
|||
* 運河と川が合流する地点で、川の方が常に水位が低い場合。必要とされるのは通常の閘門で、運河側を上流とする。潮が満ちていて船が下流側の |
* 運河と川が合流する地点で、川の方が常に水位が低い場合。必要とされるのは通常の閘門で、運河側を上流とする。潮が満ちていて船が下流側の閘門扉を通過できる時は通常通り運用される。潮が引いて閘門が使えなくなると、閘門扉は閉鎖されて運河に水を留める逆向きのフラッド・ゲートになる。この配置はシー・ロックでも使われる(例: ブード運河 ([[:en:Bude Canal|Bude Canal]]))。 |
||
* 通常は運河より水位が低い川に運河が合流するが、満潮の時や雨の後など、川の方が水位が高くなることがある場合。 |
* 通常は運河より水位が低い川に運河が合流するが、満潮の時や雨の後など、川の方が水位が高くなることがある場合。閘門扉のうち1つは双方向に機能するように建設される。運河より川の方が水位が高くなると、通常の閘門扉は開いてしまうが、追加した閘門扉が閉鎖されて運河を守り、また川との航行は停止される。機能的にはフラッド・ゲートである。 |
||
* 上と同様であるが、川の方が水位が高い時であっても航行できるもの。閘門は両端の |
* 上と同様であるが、川の方が水位が高い時であっても航行できるもの。閘門は両端の閘門扉とも双方向に設計されており、川の水位が通常のどの段階にあっても船を通すことができる。川の水位が非常に高く、あるいは低くなって航行に不適切な時は、閘門扉が閉鎖されて航行は停止される。 |
||
== 運河に設ける閘門 == |
|||
{{出典の明記|date=2022年2月|section=1}} |
|||
世界最大の運河閘門は、[[ベルギー]]、[[アントウェルペン]]にあるBerendrecht閘門である。全長500メートル(1,640フィート)、幅68メートル(223フィート)、水位差13.5メートル、4つのスライド式水門を備えている。閘門のサイズは、設計上の運用水位差の違いを考慮せずに比較することはできない。例えば、[[ローヌ川]]の[[:en:Bollène|Bollène]]閘門は最低23メートルの水位差があり、[[アゼルバイジャン]]の[[オスケメン]]閘門は42メートルの水位差がある。閘門の総水量は長さ×幅×水位差で計算される。ステアケース・ロックはなされる有効な仕事に対して必要とされる総水量を削減するために用いられる。有効な仕事は、船の重量と持ち上げられる高さに関係している。船が下がる時には、消費された水が失った[[位置エネルギー]]が考慮される。閘門の代替物としては、[[アンダートン船舶昇降機]]([[:en:Anderton Boat Lift|Anderton Boat Lift]])や、ベルギーのStrépy-Thieu boat liftなどでは、水の消費を主要なエネルギー源としては用いず、[[電動機]]によって駆動されて水の消費を最小限にするように設計されている。 |
|||
=== 閘程 === |
|||
'''閘程'''(こうてい)あるいは'''揚程'''(ようてい)は、閘門によって実現される水位の差のことである。イングランドの運河にある閘門の中でもっとも揚程が大きいのは、ケネット・アンド・エイボン運河 ([[:en:Kennet and Avon Canal|Kennet and Avon Canal]]) にあるバス閘門 ([[:en:Bath Locks|Bath Locks]])<ref>{{cite web | title=Second Lock | work=Images of England | url=http://www.imagesofengland.org.uk/search/details.aspx?id=442716 | accessdate=2006-09-04}}</ref><ref>{{cite book |last=Allsop |first=Niall |title=The Kennet & Avon Canal |year=1987 |publisher=Millstream Book |location=Bath |id=ISBN 0-948975-15-6 }}</ref> と、ロッチデール運河 ([[:en:Rochdale Canal|Rochdale Canal]]) にあるトゥエル・レーン閘門 ([[:en:Tuel Lane Lock|Tuel Lane Lock]]) で、およそ20フィートある。文献により正確な高さに差があるため、どちらがより大きなものであるかを保証することはできない。どちらの閘門も2つの閘門の組み合わせとなっており、交差する道路の変化に応じて運河が修理された時に組み合わされたものである。もっとも閘程の大きい建設された当初のままのイングランドの閘門はトレント・アンド・マージー運河 ([[:en:Trent and Mersey Canal|Trent and Mersey Canal]]) にあるエトルリア・トップ閘門 (Etruria Top Lock) か、オックスフォード運河 ([[:en:Oxford Canal|Oxford Canal]]) にあるサマートン・ディープ閘門 (Somerton Deep Lock) であると考えられ、どちらも14フィートほどの閘程がある。こちらについても文献により差があり、特にエトルリア閘門は地盤沈下に対処するために次第に深くなってきているため、どちらがより閘程が大きいかを確定することはできない。イングランドにおける典型的な閘程は7から12フィート程度で、それより低い閘門も見かけられる。 |
|||
==== 運河区 ==== |
|||
[[ミシシッピ川]]にある29の閘門は、典型的には600フィート(180メートル)の長さで、一方[[タグボート]]と[[艀]]の組み合わせは、15隻の艀と1隻のタグボートで全長1,200フィート(360メートル)にもなる。この場合、一部の艀を切り離して閘門に入れて、閘門の弁を部分的に開けることで水流を作り出して動力のない艀を閘門から押し出し、後から閘門を通過してくるタグボートと艀の組み合わせと再結合するという手順で通過する。1時間半ほど通過に時間が掛かる。 |
|||
2つの閘門間の運河の水平な部分を運河区という。また、ある閘門にとってそこから上流側にある運河区を上流運河区あるいは単に上流区、上区といい、下流側にある運河区を下流運河区あるいは単に下流区、下区という。閘門により船は上流運河区と下流運河区の間を移動する。 |
|||
==== 水位 ==== |
|||
==== ハイラム・M・チッテンデン閘門 ==== |
|||
英語においては、閘室が上流側と同じ水位にある時にフル (full) といい、下流側と同じ水位にある時にエンプティ (empty) という。保守作業などのために閘室から完全に水が抜かれている状態もエンプティという可能性があるが、この状態に対する混乱を招かない表現はドレインド (drained) である。 |
|||
2004年11月、ハイラム・M・チッテンデン閘門([[:en:Hiram M. Chittenden Locks|Hiram M. Chittenden Locks]])の1つが、下に示した写真のように保守のために完全に空にされた。これは閘門の底の不透明な水のない状態で閘門の仕組みを見るよい機会となった。参考として、一番左の写真は、タグボートと砂や砂利を載せた艀が水門の開くのを待っている、運用中の閘門を示している。この写真の左下には、水門が開いた時に扉の収まる窪みが側壁に見られる。 |
|||
==== ターニング・ア・ロック ==== |
|||
この閘門には3組の水門があり、閘門の両端に1つずつと中央に1つあり、閘門の長さ全部を必要としない時は中央のものを使うことで水を節約することができる。左から2番目の写真には底を歩いている人が映っており、この閘門の巨大さが分かる。水門の写真には、底の両側に沿って給排水管の口が一列に並んでいるのが見える。閘門に重力によって流れ込み、流れ出す水はこの給排水管を通っている。閘門を満たし、あるいは空にするためには15分ほど掛かる。 |
|||
英語でターニング・ア・ロック(turning a lock、「閘門を回す」)とは、フルの閘門をエンプティにする、あるいはエンプティの閘門をフルにするということを指す。 |
|||
==== ロック・ムーアリング ==== |
|||
ロック・ムーアリング(lock mooring、「閘門繋留」)は、上流へ向かう船が閘門に進入する時によく使われる方法である。船が閘門扉のところに来た時に片側のよどみに向けて船を進め、閘門内の水の量が減少するにつれて水流により船がよどみから閘門扉の正面へと押し出される。これにより、閘門扉の正面に船を正確に誘導する苦労をしなくて済むようになる。 |
|||
=== 水利用 === |
|||
閘門を使うことの主な問題は、1回の満水-空水のサイクルを繰り返すごとに、閘室1杯分の水(何万[[ガロン]]から何十万ガロンにもなる)が下流に放流されることである。簡単に言えば、ちょうど船に適した大きさの閘門を持つ運河で、船が最上流部から最下流部へ航行する際には、その船旅に閘室1杯分の水を伴っていることになる。反対方向へ航行する船もまた、閘室1杯分の水を上流側から下流側へ移動させる。運河が干上がってしまうのを防ぐためには、水が下流に放流されていく速度で常に水を運河最上流部へ補給できることを何らかの手段で保証しなくてはならない。これは当然ながら、河川水運に比べると[[分水界]]を越える人工的な運河により大きな問題となる。 |
|||
==== 設計 ==== |
|||
運河を計画する際には、設計者は最高地点に大きな[[ため池|貯水池]]か、異なる水源から水を導く人工水路、湧き水や川ができるだけくるように試みる。 |
|||
==== 汲み上げ ==== |
|||
水の消費量に見合う自然の水補給量が得られないことが明らかな場合や、予想外の干ばつに備えるために、設計者は水を上流部へ汲み上げられるように計画することがある。当然ながらこうした対策は、設計の失敗が明らかになったり、予想以上の交通量の増加があったり、雨が不足したりといった場合に後から取られる事もある。より小規模には、このような汲み上げがある特定の場所で行われる。ケネット・アンド・エイボン運河では水を常にリサイクルしている閘門がある。 |
|||
==== 節水装置 ==== |
|||
[[ファイル:Side pond Atherstone Locks.jpg|thumb|left|コヴェントリー運河 ([[:en:Coventry Canal|Coventry Canal]]) のエイサーストーン ([[:en:Atherstone|Atherstone]]) にある使われなくなった節水装置の池]] |
|||
{{Double image aside|right|Water-saving lock downwards.svg|200|Water saving lock up.svg|200|節水装置の概念(左)船が閘門を下る場合(右)船が閘門を上る場合}} |
|||
水を節約する単純な方法としては、閘門の数を増やすことが挙げられる。しかし閘門ごとに船と閘門の操作が必要なため、通過に要する時間が増える。これに代えて採られる方法が、閘門の上流区と下流区の中間に節水装置(節水池、節水槽)と呼ばれるため池を造ることである。このため池は、船が下流に向かう時に吐き出される水を蓄え、次に船が上流へ向かう時に閘室へ吐き出す。これにより1回の充排水サイクルで水が下流へ放流される量を減らすことができる。 |
|||
右の図では節水装置の水の流れを示している。この閘門には節水装置のため池が3つあり、上からA、B、Cとなっている。船が上流から下流へ向かう場合、これらのため池は空の状態である。閘室に船が入り、閘室内の水を下流へ流すときに、まず図の1の部分の水をAに流し込み、水位が下がってくると次に2の部分の水をBへ、さらに3の部分の水をCへ流す。最後の4と5の部分は下流区へ放流する。この後下流から上流へ向かう船が来たときには、Cのため池の水をまず閘室内に流し、続いてBの水を、そしてAの水を流し込む。最後の1と2の部分にだけ上流区からの水を入れる。これによってこの例では、1回のサイクルで必要とされる水を5分の2に減少させることができる。この過程でも常に水は上から下へ重力にしたがって流れるのみで、揚水は必要としていない。池の形状は浅くて広いことが望ましいため、英語ではbasin(浅い池、水盤)と呼ばれる。 |
|||
[[File:New Panama Canal.jpg|thumb|400px|[[パナマ運河]]アグア・クララ閘門。中央左寄りの池が節水槽。]] |
|||
例を挙げると、1919年から1928年に掛けて[[ドイツ]]、[[ハノーファー]]に建設されたヒンデンブルク閘門 (Hindenburg-lock) では、全長225メートルの2つの閘室を持ち、1回の充排水サイクルで42,000立方メートルの水を消費する。10個のため池を持つ節水装置を使うことにより、10,500立方メートルの消費量で済むようになる。2016年竣工の[[パナマ運河]]新閘門では、節水装置により約6割の水が再利用され、一隻通過時の消費水量の7%が節約される<ref>山田孝嗣 [https://www.phaj.or.jp/distribution/lib/world_watching/Europe/198.pdf 運用を開始したパナマ運河の新たな閘門] World Watching 198,日本港湾協会(2016年11月)</ref><ref>[https://micanaldepanama.com/expansion/documents/environmental-impact-study/ Environmental Impact Study] Category III Environmental Impact Study PanamaCanal Expansion – Third Set of Locks Project, URS Holdings, Inc., 3.1.5.3.2 Water saving basins (2007年7月) </ref>。 |
|||
イングランドの運河では、このため池はサイド・パウンド (side pound) と呼ばれ、これを操作する装置はしばしば赤く塗られている。これが有名な言葉、「赤の後に白を使えば大丈夫、白の後に赤を使うとあなたは死ぬ」 (Red before white, you're alright; white before red, you're dead) の元になっている。ただしこの言葉にある「死ぬ」ということは、機構自体の本質的な問題を指しているのではなく、(水を浪費してしまうことで)閘門管理者の怒りを招くということを指している。中間の運河区が短いフライト・ロックの中には、運河区が空になってしまわないように保証するため池とするために、脇に運河区を延長してあるものがある。この拡張された中間運河区は、しばしばサイド・パウンドと混同される。 |
|||
=== 非常に大規模な閘門 === |
|||
世界最大の運河閘門は、[[ベルギー]]、[[アントウェルペン]]にあるBerendrecht閘門である。全長500メートル(1,640フィート)、幅68メートル(223フィート)、閘程13.5メートル、4つの引揚式閘門扉を備えている。閘門のサイズは、設計上の運用閘程の違いを考慮せずに比較することはできない。例えば、[[ローヌ川]]の[[:en:Bollène|Bollène]]閘門は最低23メートルの閘程があり、[[アゼルバイジャン]]の[[オスケメン]]閘門は42メートルの閘程がある。閘門の総水量は長さ×幅×閘程で計算される。階段形閘門はなされる有効な仕事に対して必要とされる総水量を削減するために用いられる。有効な仕事は、船の重量と持ち上げられる高さに関係している。船が下がる時には、消費された水が失った[[位置エネルギー]]が考慮される。閘門の代替物としては、[[アンダートン船舶昇降機]] ([[:en:Anderton Boat Lift|Anderton Boat Lift]]) や、ベルギーのStrépy-Thieu boat liftなどでは、水の消費を主要なエネルギー源としては用いず、[[電動機]]によって駆動されて水の消費を最小限にするように設計されている。 |
|||
[[ミシシッピ川]]にある29の閘門は、典型的には600フィート(180メートル)の長さで、一方[[タグボート]]と[[艀]]の組み合わせは、15隻の艀と1隻のタグボートで全長1,200フィート(360メートル)にもなる。この場合、一部の艀を切り離して閘門に入れて、閘門の弁を部分的に開けることで水流を作り出して動力のない艀を閘門から押し出し、後から閘門を通過してくるタグボートと艀の組み合わせと再結合するという手順で通過する。通過に1時間半ほどの時間が掛かる。 |
|||
=== ハイラム・M・チッテンデン閘門 === |
|||
2004年11月、ハイラム・M・チッテンデン閘門([[:en:Hiram M. Chittenden Locks|Hiram M. Chittenden Locks]])の1つが、下に示した写真のように保守のために完全に空にされた。これは閘門の底の不透明な水のない状態で閘門の仕組みを見るよい機会となった。参考として、一番左の写真は、タグボートと砂や砂利を載せた艀が閘門扉の開くのを待っている、運用中の閘門を示している。この写真の左下には、閘門扉が開いた時に扉の収まる窪みが側壁に見られる。 |
|||
この閘門には3組の閘門扉があり、閘門の両端に1つずつと中央に1つあり、閘門の長さ全部を必要としない時は中央のものを使うことで水を節約することができる。左から2番目の写真には底を歩いている人が映っており、この閘門の巨大さが分かる。閘門扉の写真には、底の両側に沿って閘渠の口が一列に並んでいるのが見える。閘門に重力によって流れ込み、流れ出す水はこの給排水管を通っている。閘門を満たし、あるいは空にするためには15分ほど掛かる。 |
|||
<gallery> |
<gallery> |
||
ファイル:Hiram M. Chittenden Locks-3.JPG|タグボートと艀が通航中の満水状態のハイラム・M・チッテンデン閘門 |
|||
ファイル:Locks-1.jpg|保守のために空にされた閘門、下流側の閘門扉 |
|||
ファイル:Locks-3.jpg|保守のために空にされた閘門、中央の閘門扉 |
|||
ファイル:Locks-2.jpg|保守のために空にされた閘門、上流側の閘門扉 |
|||
</gallery> |
</gallery> |
||
=== 閘門の大きさによる船型の名前 === |
|||
== 歴史と開発 == |
|||
閘門により通航可能な船の最大サイズが制約されるため、重要な運河が標準的な船型の名前となっている。 |
|||
* [[パナマックス]] - [[パナマ運河]]を通航可能な最大の船型 |
|||
* [[シーウェイマックス]] - [[セントローレンス海路]]を通航可能な最大の船型 |
|||
== 中国の閘門 == |
|||
[[ファイル:TGDModelShipLocks.jpg|thumb|right|三峡ダムの模型、5段の閘門が真ん中にあり、左側に船舶用エレベーターがある]] |
|||
中国の[[長江]]にある[[三峡ダム]]では、2つの5段階段形閘門があり、10,000トンの船が通行できる。これに加えて1回の動作で3,000トンの船を昇降させることのできる船舶用[[エレベーター]]が2016年7月より稼働している。 |
|||
== 日本の閘門 == |
|||
[[File:Arakawa_lockgate_Japan_1.JPG|thumb|荒川ロックゲート(手前が荒川、奥が旧中川)]] |
|||
日本にも数多くの閘門が存在し、いまも稼働している。明治から戦前に完成した閘門は、[[重要文化財]]や[[産業遺産]]などに指定されているものも多い。 |
|||
*[[石井閘門]] - [[宮城県]][[石巻市]]。[[北上川]]にある閘門。1880年(明治13年)に完成した、日本初の西洋式の本格的な閘門。現在日本国内で稼動する閘門の中では最古のものであり、国の重要文化財に指定されている。 |
|||
*[[脇谷洗堰|脇谷閘門]] - 宮城県石巻市。1931年12月竣工。[[北上川]]本川と旧北上川間の船の通行のために、[[脇谷洗堰]]に併設された。 |
|||
*[[関宿水門|関宿水閘門]] - [[茨城県]][[五霞町]]。1927年(昭和2年)に完成。[[利根川]]と[[江戸川]]分派点付近の江戸川の流頭部にあり、江戸川の流量を制御するための水門も併設されている。2003年(平成15年)に[[土木学会選奨土木遺産]]に選定。 |
|||
*[[見沼通船堀]] - [[埼玉県]][[さいたま市]]。[[見沼代用水]]と[[芝川 (埼玉県)|芝川]]とを結ぶ{{要出典範囲|date=2021年11月|世界的に見ても最古級の}}閘門式運河である。1731年([[享保]]16年)に作られた。昭和初期以降から使用されておらず、現在はさいたま市緑区にその復元された遺構が残る。1982年(昭和57年)、国の[[史跡]]に指定された。 |
|||
2基の水門(Flash Gate) が対峙しているが閘門式とは言えない。閘門式は Gate に取り付けられた Paddle と呼ばれる小窓または配管で上下の閘室または水域の水位を等しくした後 Gate を開けて船が次の水域に出る。水位が等しいので労力(動力)は小さくて済む。見沼通船堀は、水位の調整をせず20人もの人力で流れに逆らって曳き上げる(または下ろす)方式で、閘門式で求められる大きな特徴(両水域の水位が等しいので流れに逆らわない)を満足していない。 |
|||
*[[荒川ロックゲート]] - [[東京都]][[江戸川区]][[小松川 (江戸川区)|小松川]]。東京都を流れる[[荒川 (関東)|荒川]]と[[旧中川]]を結ぶ。大震災時などの災害時に水上交通が有効であることから改めて水路が見直されることになり、2005年10月に供用開始された比較的新しい閘門。 |
|||
*[[扇橋閘門]] - 東京都[[江東区]][[猿江]]一丁目。1976年(昭和51年)完成。[[小名木川]]に設置されている。 |
|||
*[[中島閘門]] - [[富山県]][[富山市]]。[[1934年]](昭和9年)8月完成。[[富山駅]]北側付近から[[富山湾]]の河口まで南北に続く、[[富岩運河|富岩(ふがん)運河]]中流にあるパナマ運河式閘門。現在も運用されており、観光船が運行し往来できる(冬季運休)。国の重要文化財に指定されている。 |
|||
*[[牛島閘門]] - 富山県富山市。中島閘門と同時着工し1934年(昭和9年)8月に同時完成。富岩運河最上流部(南端)の[[富岩運河環水公園]](旧 [[泊地|船溜まり]])内にあり、並行する[[いたち川 (富山市)|いたち川]]とを結ぶ現在も運用可能なパナマ運河式閘門。国の[[登録有形文化財]]に登録されている。 |
|||
*[[倉安川吉井水門]] - [[岡山県]][[岡山市]]。[[吉井川]]と[[倉安川]]とを結んでいた。吉井川側に「一の水門」、倉安川側に「二の水門」。その間に側壁で囲まれる「高瀬廻し」と呼ばれる長径約40mの楕円形の船溜まりを設け、2基の水門で吉井川と倉安川の水位を調節した。水門の上に設置された「鳥居巻き」と呼ばれるローラーが水門を上下する(いわゆる「ギロチン式」)。ギロチン式なので Paddle は必要ない。二の水門の横には番所小屋があり、[[高瀬舟]]の監視や通行料の徴収を行っていた。堅牢かつ緻密に積み上げられた[[花崗岩]]の護岸、ギロチンの綱を導く溝が穿かれた石柱など、当時の土建および石工技術の粋が駆使されている。1680年の築造は、英国運河の最初の成功例[[Bridgewater Canal]]の1761年より80年も古く、世界最古級の閘門式運河ということができる。現存するのは二の水門とその上の鳥居巻き小屋、および水をたたえた高瀬廻しのみだが、340年経った今でも痛みは目立たない。吉井川側の一の水門は洪水対策で無粋な堤防に完全に埋め込まれているのが残念である。県指定史跡に指定されている。 |
|||
*[[松重閘門]] - [[愛知県]][[名古屋市]][[中川区]]。[[堀川 (名古屋市)|堀川]]と[[中川運河]]とを結んでいた。1968年に閉鎖され、現在は閘門としては使用されていない。名古屋市の[[有形文化財]]、1993年(平成5年)には名古屋市の都市景観重要建築物等に指定されている。 |
|||
*[[船頭平閘門]] - [[愛知県]][[愛西市]][[立田町 (愛西市)|立田町]]福原。[[木曽川]]と[[長良川]]の間をつなぐ。[[1899年]](明治32年)に着工、[[1902年]](明治35年)に完成した。[[1994年]](平成6年)にはそれまでの手動から電動への近代化・改修工事が行われた。[[2000年]](平成12年)5月には明治期に建設されて現在でも使用されている貴重な閘門であるということで重要文化財に指定された。冬季を除き、木曽川上流の葛木港より観光船が運航。一般には無料での往来解放がされている。 |
|||
*[[伏見港|三栖閘門]] - [[京都府]][[京都市]][[伏見区]]。[[淀川|宇治川]]と[[濠川]]を結ぶ[[伏見港]]に1929年(昭和4年)に建設された。いまは遺構が三栖閘門資料館として開放されている。 |
|||
*[[毛馬水門|毛馬閘門]] -[[大阪府]][[大阪市]][[北区 (大阪市)|北区]]。[[淀川]]と[[旧淀川]](大川)を隔てる閘門。明治40年(1907年)8月に完成した旧第一閘門は1976年(昭和51年)まで使用され、現在は重要文化財に指定されている。 |
|||
*[[尼崎閘門|尼崎閘門(尼ロック)]] - [[兵庫県]][[尼崎市]]西海岸町地先。日本初のパナマ運河式。物流機能としての[[尼崎運河|運河]]を今なお支える船舶の重要な玄関口となっている。 |
|||
*[[下関漁港|下関漁港閘門]] - [[山口県]][[下関市]]の本土と[[彦島]]を隔てる[[関門海峡|小門海峡]](関門海峡小瀬戸)にあるパナマ運河式水門。1936年の設置以来、現在も稼動中。 |
|||
*[[三池港|三池港閘門]] - [[福岡県]][[大牟田市]]。1908年(明治41年) 完成。2008年[[機械遺産]]に指定。2015年[[世界文化遺産]]に認定された[[明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業]]構成資産の1つ。 |
|||
== 歴史と発展 == |
|||
{{出典の明記|date=2022年2月|section=1}} |
|||
=== ダムと堰 === |
=== ダムと堰 === |
||
古代には、河川交通が一般的であったが、河川にはもっとも小さな船でもなければ運ぶことが困難なほど浅い場所がしばしばあった。古代の人々は、[[ダム]]を建設して川の水位を上げることで、より大きな船を運航できるようになることを発見した。ダムの背後の水は、ダムの上を水がこぼれ落ちて堰になるところまで深くなる。そして大きな船を運航できるくらい水深が深くなる。このダム構造物は川に沿って、十分な水深が確保できるまで繰り返し造られた。 |
古代には、河川交通が一般的であったが、河川にはもっとも小さな船でもなければ運ぶことが困難なほど浅い場所がしばしばあった。古代の人々は、[[ダム]]を建設して川の水位を上げることで、より大きな船を運航できるようになることを発見した。ダムの背後の水は、ダムの上を水がこぼれ落ちて堰になるところまで深くなる。そして大きな船を運航できるくらい水深が深くなる。このダム構造物は川に沿って、十分な水深が確保できるまで繰り返し造られた。 |
||
223行目: | 413行目: | ||
しかしながら、これは船を水の段差を越えてどうやって移動させるかという問題を生み出した。初期にはフラッシュ・ロック([[:en:Flash lock|Flash lock]])という粗雑なやり方でこれに対処した。フラッシュ・ロックはダムに小さな裂け目を作り、それを素早く開けたり閉めたりするものである。イングランドのテムズ川では、裂け目に垂直な柱を立てて、これに裂け目を塞ぐ板を置いていた。 |
しかしながら、これは船を水の段差を越えてどうやって移動させるかという問題を生み出した。初期にはフラッシュ・ロック([[:en:Flash lock|Flash lock]])という粗雑なやり方でこれに対処した。フラッシュ・ロックはダムに小さな裂け目を作り、それを素早く開けたり閉めたりするものである。イングランドのテムズ川では、裂け目に垂直な柱を立てて、これに裂け目を塞ぐ板を置いていた。 |
||
裂け目が開けられると、水がどっと流れ出し、下る方向の船が水流によって引き出され、逆に上る方向の船は人が引っ張ったりウィンチを使ったりして流れに逆らって上った。船が通過すると裂け目はすぐに塞がれた。 |
裂け目が開けられると、水がどっと流れ出し、下る方向の船が水流によって引き出され、逆に上る方向の船は人が引っ張ったりウィンチを使ったりして流れに逆らって上った。船が通過すると裂け目はすぐに塞がれた。これは、奔流を作り出して岸に乗り上げている船を離岸させるためにも使われ、その名前の由来となった。 |
||
この仕組みは特に古代の中国でよく使われ、世界中の他の多くの地域でも見られた。しかしこの方法は危険で、多くの船が奔流によって沈んでしまった。この方法では必然的に堰の上流の水位の低下をもたらすために、水流に頼っていた製粉業者にとっては不評であった。これは法的にも物理的にも、川の流れを船の航行に使いたい側と製粉に使いたい側とで紛争を引き起こし、水が不足すると河川航行は停止されることになった。中国やイングランドでは、主としてこの紛争が原因で、少ない水の消費で航行ができるパウンド・ロックが適用されることになった。 |
この仕組みは特に古代の中国でよく使われ、世界中の他の多くの地域でも見られた。しかしこの方法は危険で、多くの船が奔流によって沈んでしまった。この方法では必然的に堰の上流の水位の低下をもたらすために、水流に頼っていた製粉業者にとっては不評であった。これは法的にも物理的にも、川の流れを船の航行に使いたい側と製粉に使いたい側とで紛争を引き起こし、水が不足すると河川航行は停止されることになった。中国やイングランドでは、主としてこの紛争が原因で、少ない水の消費で航行ができるパウンド・ロックが適用されることになった。 |
||
=== ストーンチ === |
=== ストーンチ === |
||
より洗練された装置は、ストーンチ |
より洗練された装置は、ストーンチ (staunch) とかウォーター・ゲート (water gate) と呼ばれるもので、水門かマイター・ゲートの対でできていて、川の水位が低い時は閉鎖して水圧により閉めたままにしておくことができ、水位が低い時でも上流の浅い場所で船を浮かせることができるようにする。しかしながら、船が通過する時には上流側の水は排水管など何らかの補助装置により前もって抜く必要がある。製粉用の堰が通過すべき障害である時にはこの方法は用いられなかった。 |
||
=== パウンド・ロック === |
=== パウンド・ロック === |
||
[[ |
[[ファイル:Replica sluis in Botterbeek P3260262.JPG|thumb|[[オランダ]]の[[:nl:Lankheet|Lankheet]]ウォーター・パークに作られた、初期のパウンド・ロックの模型]] |
||
ストーンチの自然な拡張は、上流側に水門を追加して、船が通過する時にそこだけ空にすれば済むようにすることである。この方式の閘門はパウンド・ロックと呼ばれ、古代の中国や[[中世]]のヨーロッパ、間接的な証拠によれば[[ローマ帝国]]でも使われていた可能性がある<ref>Frank Gardner Moore "Three Canal Projects, Roman and Byzantine." ''American Journal of Archaeology'', 54, (1950), 97-111 (99)</ref>。言葉の変化について注意すれば、イギリスの運河では、閘門の間の運河の区間のことをパウンドと呼ぶ。 |
ストーンチの自然な拡張は、上流側に水門を追加して、船が通過する時にそこだけ空にすれば済むようにすることである。この方式の閘門はパウンド・ロックと呼ばれ、古代の中国や[[中世]]のヨーロッパ、間接的な証拠によれば[[ローマ帝国]]でも使われていた可能性がある<ref>Frank Gardner Moore "Three Canal Projects, Roman and Byzantine." ''American Journal of Archaeology'', 54, (1950), 97-111 (99)</ref>。言葉の変化について注意すれば、イギリスの運河では、閘門の間の運河の区間のことをパウンドと呼ぶ。 |
||
== 水 |
== 異なる水位の航進方法 == |
||
上下の異なる水位間を船が航進する方法には、水閘のほかに、船と水を入れた槽ごと昇降させることで異なる水位を接続させる昇降槽や、傾斜した軌道を使って船を運ぶ斜路もある<ref name="kakai172" />。斜路を使った船の移動は本来は川船の曳き上げや曳き下ろしに用いられた方法であり、海船が修繕のために用いる船架と同じ理屈のものである<ref name="kakai172" />。 |
|||
閘門を使うことの主な問題は、1回の満水-空水のサイクルを繰り返すごとに、閘室1杯分の水(何万[[ガロン]]から何十万ガロンにもなる)が下流に放流されることである。簡単に言えば、ちょうど船に適した大きさの閘門を持つ運河で、船が最上流部から最下流部へ航行する際には、その船旅に閘室1杯分の水を伴っていることになる。反対方向へ航行する船もまた、閘室1杯分の水を上流側から下流側へ移動させる。運河が干上がってしまうのを防ぐためには、水が下流に放流されていく速度で常に水を運河最上流部へ補給できることを何らかの手段で保証しなくてはならない。これは当然ながら、河川水運に比べると[[分水界]]を越える人工的な運河により大きな問題となる。 |
|||
=== 設計 === |
|||
運河を計画する際には、設計者は最高地点に大きな[[ため池|貯水池]]か、異なる水源から水を導く人工水路、湧き水や川ができるだけくるように試みる。 |
|||
=== 汲み上げ === |
|||
水の消費量に見合う自然の水補給量が得られないことが明らかな場合や、予想外の干ばつに備えるために、設計者は水を上流部へ汲み上げられるように計画することがある。当然ながらこうした対策は、設計の失敗が明らかになったり、予想以上の交通量の増加があったり、雨が不足したりといった場合に後から取られる事もある。より小規模には、このような汲み上げがある特定の場所で行われる。ケネット・アンド・エイボン運河では水を常にリサイクルしている閘門がある。 |
|||
=== 水節約用ため池 === |
|||
[[Image:Side pond Atherstone Locks.jpg|thumb|left|コヴェントリー運河([[:en:Coventry Canal|Coventry Canal]])のエイサーストーン([[:en:Atherstone|Atherstone]])にある使われなくなった脇池]] |
|||
水を節約する方法として採られる方法が、閘門の上流側と下流側の中間にため池を造ることである。このため池は、船が下流に向かう時に吐き出される水を蓄え、次に船が上流へ向かう時に閘室へ吐き出す。これにより1回の充排水サイクルで水が下流へ放流される量を減らすことができる。一般的にこのため池はセービング・ベースン(saving basin)と呼ばれる。例えば、1919年から1928年に掛けて[[ドイツ]]、[[ハノーファー]]に建設されたヒンデンブルク閘門(Hindenburg-lock)では、全長225メートルの2つの閘室を持ち、1回の充排水サイクルで42,000立方メートルの水を消費する。10個のセービング・ベースンを使うことにより、10,500立方メートルの消費量で済むようになる。 |
|||
イングランドの運河では、このため池はサイド・パウンド(side pound)と呼ばれ、これを操作する装置はしばしば赤く塗られている。これが有名な言葉、「赤の後に白を使えば大丈夫、白の後に赤を使うとあなたは死ぬ」(Red before white, you're alright; white before red, you're dead)の元になっている。ただしこの言葉にある「死ぬ」ということは、機構自体の本質的な問題を指しているのではなく、(水を浪費してしまうことで)閘門管理者の怒りを招くということを指している。中間のパウンドが短いフライト・ロックの中には、パウンドが空になってしまわないように保証するため池とするために、脇にパウンドを延長してあるものがある。この拡張された中間パウンドは、しばしばサイド・パウンドと混同される。 |
|||
== 代替物 == |
|||
上述した、迂回・掘割・高架などの静的な方法だけでなく、巧妙な動的な解決方法もたくさんある。多くはボート・リフトやインクラインといった装置の派生形である。これらは建設にも運用にもより多額の費用が掛かるが、高速で水の消費が少ない。 |
|||
=== インクライン === |
=== インクライン === |
||
[[ファイル:Big_chute_acansino.jpg|thumb|right|カナダ、オンタリオ州のトレント-セバーン水路にあるビッグ・チュート引き上げ船台([[:en:Big Chute Marine Railway|Big Chute Marine Railway]])]] |
|||
[[桶]]や[[箱]]のような構造物に水を入れてそこに艀を浮かべ、[[軌条|レール]]に構造物を載せて坂を上下し水路と水路を結ぶのがインクライン(inclined plane)である。構造物に水を入れていない方式のものは後述する。 |
|||
インクラインは斜路を使って船を昇降するための装置で車輪付きの台車を使ってレール上を運ぶドライ方式と水を入れたタンクに船を浮かべてレール上を運ぶウェット方式がある<ref name="nagano" />。 |
|||
初期のインクラインは台車を用いるドライ方式だった<ref name="nagano" />。台車は引き上げ船台 (marine railway、[[:en:Patent slip|patent slip]])という。 |
|||
箱に水を入れている場合、[[アルキメデスの原理]]により、艀の重さに関わらず、そして艀を載せていなくて水だけで一杯になっている場合でも、常に箱全体の重さは同じになることが保証される。これにより、錘を取り付けたりもう1つの箱を使ったりして[[カウンターウェイト]]にすることが容易である。動力は蒸気力、水圧、あるいは上から下ろすカウンターウェイト側の箱に上の水路から余分に水を入れるといった手段による。 |
|||
紀元前1000年頃の古代中国には人力あるいは家畜で引っ張って小舟を引き上げる装置が存在した<ref name="nagano">{{Cite journal |和書|author= 長野正孝 |title=西ヨーロッパにおける運河のリフトとインクラインの変遷について |journal=土木史研究 |volume=13 |year=1993|url=http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00044/1993/13-0017.pdf }}</ref>。17世紀にはヨーロッパで車輪付きの台車を使った装置が提案されるようになった<ref name="nagano" />。19世紀初頭、運河を航行する船は馬によって曳かれる木造の艀(はしけ)だったため石造の斜路を簡単に移動でき、動力はさらに水力や蒸気機関も使われるようになった<ref name="nagano" />。しかし、初期のドライ方式のインクラインは、19世紀後半になるとイギリスでの鉄道の発展による運河時代の終焉で発展がみられなくなり、蒸気船の大型化で運搬も困難となっていたが、水を張ったタンクに船を入れて台車で運ぶウェット方式が使われるようになった<ref name="nagano" />。 |
|||
イギリスには現在稼動しているインクラインは存在しないが、グランド・ユニオン運河のレスター支線の[[レスターシャー]]にある、フォクストン閘門に残存物がある。このインクラインはフライト・ロックに置き換えられたが、これを復元する計画がある。 |
|||
=== 引き上げ船台 === |
|||
[[Image:Big_chute_acansino.jpg|thumb|right|カナダ、オンタリオ州のトレント-セバーン水路にあるビッグ・チュート引き上げ船台([[:en:Big Chute Marine Railway|Big Chute Marine Railway]])]] |
|||
引き上げ船台(marine railway、[[:en:Patent slip|patent slip]])は、レールに沿って船を坂を越えて上げ下ろしするという点でインクラインとよく似ている。しかし、引き上げ船台では水を入れた箱ではなく、水のない台枠などに船を載せて運ぶ。保守作業のために水から船を引き上げるために用いるものと同じ原理である。 |
|||
使う時には、水の中に沈められている輸送用台枠に船が進入する。船体下のスリングを使って船が台枠に固定され、台枠がケーブルで引っ張られて水から出て坂を上っていく。坂の頂点では、上流側の水路に台枠が下ろされ、船が解放される。船は水に浮かんでいないので、アルキメデスの原理は適用されず、台枠上の重量は変化して、カウンターウェイトを利用することはより難しくなる。 |
|||
カナダ、オンタリオ州のトレント-セバーン水路にあるビッグ・チュート引き上げ船台([[:en:Big Chute Marine Railway|Big Chute Marine Railway]])のように、従来方式のフライト・ロックが計画されていた場所に、引き上げ船台が一時的な手段として建設されたことがある。ビッグ・チュートやその他のいくつかの場合、閘門は結局建設されず、引き上げ船台が恒久的に使われ続けている。 |
|||
日本の[[琵琶湖疏水]]で、蹴上および伏見のインクラインで採用されたのは、こちらの形式である。蹴上の設備は一部が形態保存されている。 |
|||
=== ボート・リフト === |
=== ボート・リフト === |
||
世界で最初の回転式[[船舶昇降機|ボート・リフト]] |
世界で最初の回転式[[船舶昇降機|ボート・リフト]] ([[:en:Boat lift|boat lift]]) である、[[ファルカーク・ホイール]]は、ユニオン運河とフォース・アンド・クライド運河 ([[:en:Forth and Clyde Canal|Forth and Clyde Canal]]) を修復する上で最重要項目となった。劇的な「ホイール」は、かつて双方の運河を結び1930年に埋め戻されたフライト・ロックを代替する21世紀の解決策を示した。フォールカーク・ホイールは、新しい閘門を設計するコンペで勝った設計であった。もともとの階段形閘門で運航されていた時に比べ、ホイールを使った船旅では100フィートの高さをわずか数分で移動できるようになった。 |
||
ビクトリア朝時代に世界で最初に建設された垂直ボート・リフトである、トレント・アンド・マージー運河と[[チェシャー]]のウィーバー川 |
ビクトリア朝時代に世界で最初に建設された垂直ボート・リフトである、トレント・アンド・マージー運河と[[チェシャー]]のウィーバー川 ([[:en:River Weaver|River Weaver]]) を結ぶ、[[アンダートン船舶昇降機|アンダートンボート・リフト]]は、近年修理されている。世界で一番高いボート・リフトであるベルギーのStrépy-Thieu boat liftは、1,350トンの船を73.15メートル上げ下げする。 |
||
=== ケーソン・ロック === |
=== ケーソン・ロック === |
||
{{出典の明記|date=2022年2月|section=1}} |
|||
[[Image:Caisson lockenglish.svg|thumb|300px|right|ケーソン・ロックの運用]] |
|||
[[ファイル:Caisson lockenglish.svg|thumb|right|ケーソン・ロックの運用]] |
|||
1800年頃、イングランドのサマーセット・コール運河([[:en:Somerset Coal Canal|Somerset Coal Canal]])にケーソン・ロック([[:en:Caisson lock|Caisson lock]])を使うことが、ロバート・ウェルドン(Robert Weldon)によって提案された。この水中リフトは、閘室の長さが80フィート、深さが60フィートで、中に艀を運べる大きさの完全に密封された木製の箱が収められていた。この箱がプールの中を60フィート(18.2メートル)上下する。避けられない水漏れを除けば、閘室内から水が出て行くことはなく、運用することによる水の消費はない。その代わりに、船は箱に進入してドアを閉めて密封し、箱自体が水中を上下する。閘室の底に箱が到達した時、箱は60フィートの水の底にあり、およそ3気圧の水圧が掛かることになる。この閘門の1つはプリンス・リージェント([[摂政]]、後の[[ジョージ4世 (イギリス王)|ジョージ4世]])に披露するために建設されたが、多くの技術的な問題があり、サマーセット・コール運河に実際に用いられることはなかった<ref>{{cite web | title=The Somerset Coal Canal | work=Bath Royal Literary and Scientific Institution | url=http://www.brlsi.org/proceed03/transport200201.htm | accessdate=2006-10-06}}</ref><ref>{{cite web | title=History of the Caisson Lock On the Somersetshire Coal Canal | work=The Somersetshire Coal Canal (Society) | url=http://rtjhomepages.users.btopenworld.com/caishist.html | accessdate=2006-10-06}}</ref>。しかしながら、1817年頃、リージェンツ運河([[:en:Regent's Canal|Regents Canal]])の、ロンドンの北のこんにちカムデン閘門([[:en:Camden Lock|Camden Lock]])のある位置にこのケーソン・ロックが建設された。ここでも水の補給問題が動機となった。サマーセットの例に比べれば水位差はずっと小さかったものの、このシステムは間もなく通常方式の閘門に置き換えられた<ref>Faulkner, Alan (2005): ''The Regent’s Canal: London’s Hidden Waterway''. Waterways World Ltd. ISBN 1-870002-59-8.</ref>。商業的に成功したケーソン・ロックは今までのところ存在していない。 |
|||
1800年頃、イングランドのサマーセット・コール運河 ([[:en:Somerset Coal Canal|Somerset Coal Canal]]) にケーソン・ロック ([[:en:Caisson lock|Caisson lock]]) を使うことが、ロバート・ウェルドン(Robert Weldon)によって提案された。この水中リフトは、閘室の長さが80フィート、深さが60フィートで、中に艀を運べる大きさの完全に密封された木製の箱が収められていた。この箱がプールの中を60フィート(18.2メートル)上下する。避けられない水漏れを除けば、閘室内から水が出て行くことはなく、運用することによる水の消費はない。その代わりに、船は箱に進入してドアを閉めて密封し、箱自体が水中を上下する。閘室の底に箱が到達した時、箱は60フィートの水の底にあり、およそ3気圧の水圧が掛かることになる。この閘門の1つはプリンス・リージェント([[摂政]]、後の[[ジョージ4世 (イギリス王)|ジョージ4世]])に披露するために建設されたが、多くの技術的な問題があり、サマーセット・コール運河に実際に用いられることはなかった<ref>{{cite web | title=The Somerset Coal Canal | work=Bath Royal Literary and Scientific Institution | url=http://www.brlsi.org/proceed03/transport200201.htm | accessdate=2006-10-06}}</ref><ref>{{cite web | title=History of the Caisson Lock On the Somersetshire Coal Canal | work=The Somersetshire Coal Canal (Society) | url=http://rtjhomepages.users.btopenworld.com/caishist.html | accessdate=2006-10-06}}</ref>。しかしながら、1817年頃、リージェンツ運河 ([[:en:Regent's Canal|Regents Canal]]) の、ロンドンの北のこんにちカムデン閘門 ([[:en:Camden Lock|Camden Lock]]) のある位置にこのケーソン・ロックが建設された。ここでも水の補給問題が動機となった。サマーセットの例に比べれば水位差はずっと小さかったものの、このシステムは間もなく通常方式の閘門に置き換えられた<ref>Faulkner, Alan (2005): ''The Regent’s Canal: London’s Hidden Waterway''. Waterways World Ltd. ISBN 1-870002-59-8.</ref>。商業的に成功したケーソン・ロックは今までのところ存在していない。 |
|||
{{-}} |
|||
=== ダイアゴナル・ロック === |
=== ダイアゴナル・ロック === |
||
{{出典の明記|date=2022年2月|section=1}} |
|||
この新しいダイアゴナル・ロック(diagonal lock、「対角閘門」)という閘門の設計は、まだどの水路にも設置されていない。この提案は、運ぼうとする船に合わせられた大きさの強化コンクリートで造られた長いチューブを傾斜に沿って上流側と下流側を結ぶように建設する。チューブの下流側には強力な防水ドアを備え、上流側にはチューブの奥側の壁から船の長さ分だけ離れた位置に通常の水門を備えている。船の上下はチューブに上流側から水を流し込み、あるいは流しだすことで行われる。船は、ガイド用のチューブの形に合わせられた浮きや[[ポンツーン]]と一緒に水の表面に浮いており、チューブの表面からの距離を保って浮くようになっている。メインのチューブから配管されているサイド・パウンドが協力して水を節約する仕組みになっている。従来のフライト・ロックやステアケース・ロックを置き換えることで、かなりの時間節約となることが期待されている。信頼性に疑問のあるケーソン・ロックの設計と比べて、水中に潜るケーソンの中に船を入れて運ばないというところが違っている。 |
|||
この新しいダイアゴナル・ロック(diagonal lock、「対角閘門」)という閘門の設計は、まだどの水路にも設置されていない。この提案は、運ぼうとする船に合わせられた大きさのコンクリートで造られた長いチューブを傾斜に沿って上流側と下流側を結ぶように建設する。チューブの下流側には強力な防水ドアを備え、上流側にはチューブの奥側の壁から船の長さ分だけ離れた位置に通常の水門を備えている。船の上下はチューブに上流側から水を流し込み、あるいは流しだすことで行われる。船は、ガイド用のチューブの形に合わせられた浮きや[[ポンツーン]]と一緒に水の表面に浮いており、チューブの表面からの距離を保って浮くようになっている。メインのチューブから配管されているサイド・パウンドが協力して水を節約する仕組みになっている。従来のフライト・ロックや階段形閘門を置き換えることで、かなりの時間節約となることが期待されている。信頼性に疑問のあるケーソン・ロックの設計と比べて、水中に潜るケーソンの中に船を入れて運ばないというところが違っている。 |
|||
ダイアゴナル・ロック・アドバイザリー・グループ |
ダイアゴナル・ロック・アドバイザリー・グループ (Diagonal Lock Advisory Group) がイギリスにおいて、新しい水路や従来の運河の修復の両方で、この新しい仕組みを設置できる場所をいくつかイギリスで発見している<ref>{{Citation | last = Fogarty | first = Terry | author-link = | last2 = | first2 = | author2-link = | title = Diagonal Lock How It Works | date = | year = 2008 | url = http://www.diagonallock.org/about.htm | accessdate = 2008-06-18}}</ref>。ランカスター運河 ([[:en:Lancaster Canal|Lancaster Canal]]) のケンダル ([[:en:Kendal|Kendal]]) への修復や、グランド・ユニオン運河のベドフォード ([[:en:Bedford|Bedford]]) とミルトン・キーンズ ([[:en:Milton Keynes|Milton Keynes]]) の間の新しく提案されている支線などで計画が検討されている。 |
||
| last = Fogarty |
|||
| first = Terry |
|||
| author-link = |
|||
| last2 = |
|||
| first2 = |
|||
| author2-link = |
|||
| title = Diagonal Lock How It Works |
|||
| date = |
|||
| year = 2008 |
|||
| url = http://www.diagonallock.org/about.htm |
|||
| accessdate = 2008-06-18}}</ref>。ランカスター運河([[:en:Lancaster Canal|Lancaster Canal]])のケンダル([[:en:Kendal|Kendal]])への修復や、グランド・ユニオン運河のベドフォード([[:en:Bedford|Bedford]])とミルトン・キーンズ([[:en:Milton Keynes|Milton Keynes]])の間の新しく提案されている支線などで計画が検討されている。 |
|||
=== 組み合わせのシステム - 三峡ダム === |
|||
[[Image:TGDModelShipLocks.jpg|thumb|right|250px|三峡ダムの模型、5段の閘門が真ん中にあり、左側に船舶用エレベーターがある]] |
|||
中国の[[長江]]にある三峡ダムでは、2つの5段階段式閘門がある。これに加えて1回の動作で3000トンの船を垂直に動かすことのできる船舶用[[エレベーター]]が計画されている。 |
|||
== 閘門の大きさによる船型の名前 == |
|||
閘門により通航可能な船の最大サイズが制約されるため、重要な運河が標準的な船型の名前となっている。 |
|||
* [[パナマックス]] — [[パナマ運河]]を通航可能な最大の船型 |
|||
* [[シーウェイマックス]] — [[セントローレンス海路]]を通航可能な最大の船型 |
|||
== 脚注 == |
== 脚注 == |
||
{{脚注ヘルプ}} |
{{脚注ヘルプ}} |
||
{{ |
{{Reflist|2}} |
||
== 参考文献 == |
|||
* {{Cite book | 和書 | title = ロック(閘門) | author = 福田秀夫 | date = 1956-08-10 | edition = 再版 | publisher = 共立出版 | series 土木技術双書}} |
|||
* {{Cite book | 和書 | title = 水門・樋門・閘門の設計 | author = 西畑勇夫 | date=1963-08-30 | publisher = オーム社 | series = 土木構造物設計シリーズ}} |
|||
* {{Cite book | 和書 | title = 河川工学 | author = 福田次吉 | date=1931-12-17 | publisher = 常磐書房 | series = 高等土木工学 | pages = pp.294 - 334 | url = http://library.jsce.or.jp/Image_DB/s_book/jsce100/pdf/02631/02631_16.pdf | format = PDF}} |
|||
== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
||
{{ |
{{Commonscat|Canal locks}} |
||
* [[運河]] |
* [[運河]] |
||
* [[閘門橋]] |
|||
== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
||
* [http://www.penninewaterways.co.uk/locks.htm Deepest Canal Locks in England] {{en icon}} |
* [http://www.penninewaterways.co.uk/locks.htm Deepest Canal Locks in England] {{en icon}} |
||
* |
* {{Wayback|url=http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Forest/2940/lock.html |title=ロックの操作 |date=20010820184353}} — イギリスの運河の船旅に関するページで閘門の操作を説明しているページ {{ja icon}} |
||
{{Normdaten}} |
|||
{{DEFAULTSORT:こうもん}} |
|||
{{デフォルトソート:こうもん}} |
|||
[[Category:運河]] |
[[Category:運河]] |
||
[[Category:水門|*]] |
|||
[[an:Inclusa]] |
|||
[[ar:هويس]] |
|||
[[ca:Resclosa]] |
|||
[[cs:Zdymadlo]] |
|||
[[da:Sluse]] |
|||
[[de:Schleuse]] |
|||
[[en:Lock (water transport)]] |
|||
[[eo:Kluzo]] |
|||
[[es:Esclusa]] |
|||
[[et:Lüüs]] |
|||
[[fa:سد سلولی]] |
|||
[[fi:Sulku]] |
|||
[[fr:Écluse]] |
|||
[[fy:Skutslûs]] |
|||
[[he:תא שיט]] |
|||
[[hi:जलपाश]] |
|||
[[id:Lock]] |
|||
[[it:Chiusa (ingegneria)]] |
|||
[[la:Cataracta]] |
|||
[[lb:Schëffsschleis]] |
|||
[[lt:Šliuzas]] |
|||
[[nds:Slüüs]] |
|||
[[nl:Schutsluis]] |
|||
[[no:Sluse]] |
|||
[[pl:Śluza wodna]] |
|||
[[pt:Eclusa]] |
|||
[[ro:Ecluză]] |
|||
[[ru:Шлюз (гидротехническое сооружение)]] |
|||
[[simple:Lock (water transport)]] |
|||
[[sv:Sluss]] |
|||
[[uk:Шлюз (гідротехніка)]] |
|||
[[zh:船閘]] |
2024年12月4日 (水) 00:41時点における最新版
閘門(こうもん、英語: Lock)は、水位の異なる水面をもつ河川や運河、水路に設けられる船を通航させるための施設[1]。異なる水位間に水位が変化しうる一区画を設けて区画内の船を上下できるようにした設備を水閘[2]、水閘を区画するための界壁を閘門という場合もある[3]。
水閘と閘門
[編集]上下の異なる水位間を船が航進する方法の一つが水閘で、水閘は異なる水位間に水位が変化しうる一区画を設け、その中に船舶を進めて水を出し入れすることで一方の水位に合わせて上下するようにした設備をいう[2]。水閘は両側壁と閘底からなる[4]。この水閘を区画するための界壁を閘門という[3]。
水閘の種類
[編集]有室閘
[編集]上下2つの異なる水位間に閘室と呼ばれる区画を備え、閘室の前後に隔壁となる閘門の類を有し、閘室内の水位を上下させて外側の水位と等しくすることができる水閘を有室閘という[5]。
船渠単閘
[編集]船渠に使用される水閘の一種で、船渠外の水位が船渠内の水位よりも高い場合には閘門を開放して自由に船が出入りできるようになっているが、その他の場合には船渠内の水位を保つために閘門を閉鎖しておくもの[5]。有室閘の前室に相当するもののみで、閘室と後室が欠けている構造で、船の出入りが頻繁でない船渠の場合に用いられる[5]。一対の閘門で高低の水位を隔離するものを単床閘(単閘)といい、船渠内の水位を保つための船渠単閘も単床閘(単閘)だが、水位が内高外低のときは閉鎖し、外高内低のときは開放しておく[6]。
潮閘
[編集]堤防の樋門と同じく外側に向かってのみ閉鎖できるもので、稀に高水位となるときのみ閉鎖され、その他のときは常時開放しておくものを保障閘または潮閘という[5]。外海の高潮を遮断するための潮閘も、一対の閘門で高低の水位を隔離する単床閘(単閘)で、水位が外高内低のときは閉鎖し、内高外低のときは開放しておく[6]。
二重有室閘
[編集]有室閘の両端に二対の閘門を備えているもので、高水位がいずれかにあっても差し支えなく自在に通行できるようにしたものを二重有室閘という[5]。
階閘
[編集]落差が大きい場合に水閘を連続して階段状に配置したもので、上の水閘の後部閘門が下の水門の前部閘門となっているものを階段水閘または階閘という[5]。
並行閘
[編集]水閘を並べて設置する場合を並行閘といい、パナマ運河も並行式の水閘である[6]。
その他の水閘
[編集]その他特殊な形状の水閘に、扇状閘や釜状閘、水槽に船を浮かべて昇降する槽閘がある[6]。
基本的な構成
[編集]単に水閘というときは有室閘をいう[7]。有室閘には3つの要素がある。
- 閘室
- 閘室は船を収容して水位を上下させる部分で、運河の上流側と下流側をつなぎ、1隻あるいはそれ以上の船を収容するために十分な大きさがある。
- 閘門扉
- 閘門扉は閘室の両端に設置されて、運河区と閘室を区分する水門の一種である。2枚に分割された扉でできていることが多い。船が閘室に出入りする際に閘門扉が開けられ、閉じられると防水構造となる。閘門扉が設置されている部分を扉室と呼ぶ。
- 給排水装置
- 閘室に必要に応じて水を入れたり出したりする装置。上流側と閘室、閘室と下流を結んで水を出し入れする構造で、扉(バルブ)が設置されており自由に水の流れを制御できるようになっている。扉は伝統的にはラック・アンド・ピニオンの機構により手動で上げ下げされるパネルであった。大きな閘門ではポンプを用いることもある。ただし、基本的に上流側から下流側へ水を流すだけで運用できるので、必ずしも動力による揚水は必要ではない。
動作原理
[編集]下流から上流へ向かって船を航行させる場合には、以下のような手順を採る[8]。
- 閘室内の水位が下流側と同じになっていない場合は、閘室と下流側をつなぐ給排水装置の扉を開いて、閘室内の水を下流側へ排出し、水位を下流側と同じにする。
- 下流側の閘門扉を開いて船を閘室に入れ、閘門扉を閉じる。
- 上流側と閘室をつなぐ給排水装置の扉を開いて、上流側から閘室に水を流し込み、水位を上流側と同じにする。
- 上流側の閘門扉を開いて船を出す。
上流から下流へ向かって船を航行させる場合は、この逆の手順を採る。どちらの向きに航行するときでも、閘室内の水位を上流側に合わせるときは水を上流側から閘室内に注ぎ込み、閘室内の水位を下流側に合わせるときは水を閘室内から下流側に排出する。したがって常に水は高いほうから低いほうに流れるので、動力による揚水の必要はなく、給排水装置の扉を開閉するだけでよい。
通常の閘門における水の給排水速度は、水位にして1 - 3 cm/秒程度に設計され、それより速いと船の動揺の問題が起きる[9]。一般的な閘門では、閘門扉を開きまたは閉鎖するためには0.5分程度、船が閘門に入るためには6分程度、閘門から出るためには5分程度、給排水には5分程度、その他に9分程度かかり、合計すると1隻の船が通過するために26分程度となる。これは閘門扉の形状や給排水装置の能力、周辺の水路の設計などにも依存する[10]。また、下流側から船が来たのに閘室内の水位が上流側になっている場合は、まず水位を低下させる必要があるので、その分の待ち時間も増えることになる。このことを考えると、上下の船が交互に閘門を通航するのが最も効率が良くなる。
水位の高い方への移動: | 水位の低い方への移動: | |||
---|---|---|---|---|
1–2. | 閘室へ入船 | 8–9. | 閘室へ入船 | |
3. | 下の閘門扉を閉める | 10. | 上の閘門扉を閉める | |
4–5. | 上側から水を入れて閘室の水位を上げて合わせる | 11–12. | 低い方へ水を出して閘室の水位を下げて合わせる | |
6. | 上の閘門扉を開ける | 13. | 下の閘門扉を開ける | |
7. | 船が閘室から出る | 14. | 船が閘室から出る |
水閘の構造
[編集]簡単のため、この節では閘室の両端に閘門扉を備えた、基本的な方式の閘門について説明する。後の節でその派生形を説明する。
図に一般的な閘門の平面図および断面図を示す。図のAとCが扉室と呼ばれる部分で、Bが閘室と呼ばれる部分である。この例では扉室にはそれぞれマイターゲートが備えられている。この図では左側が上流となっており、このため左側に山形になるように扉が組み合わせられている。これは水圧が扉を押し付けて閉じられるようになっているからである。Aの方を前扉室あるいは上流扉室、Cの方を後扉室あるいは下流扉室と呼ぶ[11][12][13]。
閘門扉が閉じられたときに、水密を保ち扉を支えるために、底から飛び出している図中cの部分を閘門閾と呼ぶ。また前扉室と閘室の間の底にdで示す段差があり、この部分を階壁と呼ぶ。閘門扉が開いたときにこれを収めるeで示す壁の窪みを戸袋と呼ぶ。hで示した上流側と下流側の水位差を閘程あるいは揚程と呼ぶ[11][12]。この閘門の有効長は、aからbまでの距離で与えられる[14]。また有効深さは水面から閘門閾までの深さで決定され、これを閾深と呼ぶ[11]。
閘室
[編集]閘室(こうしつ)は閘門の主要部分で、船を収容して閘室内の水位を上下させるようにできている。石や煉瓦、鋼鉄、コンクリートなどで造られた防水構造の囲いで、両端が閘門扉によって運河区から区切られている。
閘室の大きさは、運河の設計で想定された最大の船舶の大きさに少しの動きの余裕を考えたものになっていることが多く、また時には一度に多くの船を通せるようにするためそれより大きく造られていることもある。通航する船に対して閘室有効長は運河用で3 - 10 m程度、河川用で4 - 10 m程度、閘室有効幅は運河用で0.2 - 1.5 m、河川用で0.3 - 1.5 m程度、深さは運河用で0.2 - 1.0 m程度、河川用で0.3 - 1.0 m程度の余裕をみる。また閘門上に橋を通したり、閘門扉を引揚扉にする場合などは、最高水位に対して4 - 4.5 m程度の余裕を持った高さに設置する。閘室内では船はとてもゆっくり進行するので、深さの余裕は運河区に比べて少なくてもよい。閘室の建設費用に最も影響するのは深さで、それに比べると長さや幅は大きく取りやすい。しかしむやみに大きな閘室にすると、1回の船の通航で消費する水の量が多くなるという問題がある[15]。
閘室の側面は側壁と呼ばれ、擁壁と同様の構造になっている。垂直な側壁を建設すると用地を節約でき、また1回の通航で消費する水を少なくできるが、圧力や重量に耐える頑丈な構造にする必要がある。傾斜した側壁にすると構造は簡単になるが、用地を多く必要とし1回の通航で消費する水が増加する[16]。側壁には船の衝突に備えて防舷材を設置することがある。また船を陸上から引いて移動させることがあるので、曳舟道として側壁に段をつけることがある。これが特に大きくなると、パナマ運河のように機関車による牽引となる。他に側壁には閘室内の船舶との連絡などのために梯子か階段が設置される[17]。
階壁
[編集]前扉室の内側下部から閘室内へ狭く水平な張り出しが出ており、この部分の壁を階壁(かいへき)と呼ぶ。階壁は前扉室の底の部分が閘室側に露出しているものである(右の写真を参照)。船の端をこの張り出しに乗り上げさせることは、閘室内の水を抜く時に起きる危険の1つであるので、張り出しの先端の位置が白い線で閘門の脇に描かれている。張り出しの先端部分はカーブを描いていて、中央部分より両端部分が前へ張り出している。閘室の有効長はこの部分から、後扉室の閘門扉の可動範囲までとなる。
扉室
[編集]扉室(ひしつ)は、閘門扉を設置して開閉させる土台になる部分である。閘門扉としてマイターゲートを使用するものでは、扉室の底にある閘門閾とゲートの回転部分を支える側壁の部分に強い力が働くので、それを考慮した頑丈な構造とする必要がある。引揚扉を使用する場合は、この部分に門形の塔を立ててゲートを上下させる機構を構成する。この重量を支えるために基礎を強固にする必要がある。また給排水のための暗渠とそれを操作するゲートが設置されることもある[18]。
閘門扉
[編集]閘門扉(こうもんぴ)は上流区と下流区から閘室を仕切る防水構造の扉である。閘門の材質には木製や鋼製などがある[3]。
また、閘門の構造には斜接門扉と特殊門扉があり、後者には単旋門扉、起伏門扉、滑動門扉、回旋浮函、自在浮函、昂上門扉、没入門扉、象眼門扉、跳開門扉などがある[19]。
- 斜接門扉 - 門扉の一端に垂直な軸があり、これを中心に扉が回転し、両門扉は中心の水閘軸で縦に斜接する[20]。「水閘の構造」の図参照。斜接門扉には扉の両面が直線のもの、扉の上水位側がわずかに孤形で下水位側が直線のもの、扉の両面が孤形のものがある[20]。
- 単旋門扉 - 斜接門扉の扉が一方にのみあるもので、応力の分布や開閉装置の構造が簡明である[20]。ただし幅の広い水閘の場合には工費が高くなる[20]。
- 起伏門扉 - 下端に軸があり起伏して開閉するもので、応力の分布がわかりやすく、閘程が小さいものであれば工費も少なくできる[20]。ただし床部に窪みが必要なため泥土が沈殿すると除去が容易でない[20]。
- 滑動門扉(滑扉) - 側壁内に扉袋を設け、扉を引き入れたり引き出したりして開閉する[20]。
- 回旋浮函 - 単旋門扉と同じく縦に軸があり回転するが、全体が門扉ではなく浮函になっている[20]。水閘に用いられる浮函は、側壁または渠底に付けた溝または戸当たりに接続して沈めることで水密にしている[21]。
- 自在浮函 - 自在に動かせるようにした浮函[20]。
- 昂上門扉 - 上方に上げることができるようにした門扉だが、帆船が通航するような場所では不適当とされる[22]。
- 没入門扉 - 水中に没入する形式の門扉[23]。
- 象限門扉 - 単葉門扉の真中に縦軸があり回転する形式の門扉[23]。門扉の真中に軸があって左右両翼が回転して開閉するため開閉する幅は閘幅の半分である[23]。
- 跳開門扉 - 跳ね橋(跳開橋)のように地平軸のある門扉[23]。
最も一般的に用いられるのはマイターゲート(mitre gate、斜接扉または合掌扉) と呼ばれ、イタリアのPhilippe Marie Viscontiによって1440年に発明されたものである[24]。マイターゲートは垂直方向に回転軸があり、閉じると両側の扉が上流方向に対して山形に角度が付いた状態で合わさり、わずかな水位差でも水圧によって閘門扉がきっちりと閉じられるようになっている。これにより、隙間から水が漏れてくることを防ぎ、また水位差が付いている時に閘門扉が開いてしまうことも防げるようになっている。閘室が上流区と同じ水位になっていないときは上流側の閘門扉は完全に閉じられ、閘室が下流区と同じ水位になっていないときはなっていない時は下流側の閘門扉は完全に閉じられている。つまり通常の運用では、閘室の両側を同時に開けることはできない。
マイターゲートは構造が簡単であるため閘門扉として最も広く用いられてきた形式であるが、閘程が大きくなると水密を完全に実現できないこと、扉室に扉の回転軸の圧力がかかること、常に水中にある可動部が存在して保守に手間が掛かること、土砂が堆積すると開閉が不完全になること、地盤の不等沈下に弱いこと、給排水時間が長くかかることなどの数々の欠点もある。また潮汐があるなどで水位の高い側が逆転することがあると、マイターゲートは開いてしまって用を成さなくなるので、反対方向を向けたマイターゲートも設置しなければならなくなり建設費用が高くつく[25]。
閘門扉として引揚扉(スライドゲートまたはローラーゲート)を用いることもある。引揚扉は扉を垂直に上に持ち上げて開ける構造で、持ち上げるために扉室には門形の塔が建設されている。複数枚の板を組み合わせて扉を構成することもあり、これは塔の高さを低く抑えるために用いられる。引揚扉を利用すると、扉室の長さを短くすることができて、これにより水も節約することができる。マイターゲートより水密を保ちやすく、またマイターゲートのように回転軸に掛かる力が扉室に働かないので側壁の構造を単純にできる。潮汐があっても1枚の扉で済む。さらに扉を完全に水上に引き揚げることができるので、点検や保守を楽にできるといった利点がある。一方引き揚げ用の塔を建設する費用がかかり、また扉を引き揚げる高さが船の高さを制約するという欠点がある[26]。
テンターゲート(ラジアルゲート、セクターゲート、扇形扉)は回転軸が水平方向にあり、円弧状の扉を回転させて開閉するもので、構造が簡単で丈夫であり、応力的に安定であるといった利点があるが、閘門扉としては水面からのクリアランスを確保しづらいため用いられる例は少ない[27]。シャッターゲート(フラップゲート)は扉室の床に水平方向に回転軸があり、開いているときは床に扉体が寝かされており、閉じるときにこれを引き起こす構造のもので、側壁に大きな力が掛からないという利点があるが、回転部分が常に水中にあって補修が困難で、また船が竿をさして通航するときはこれによってゲートが損傷してしまう危険が大きいという問題がある[28]。浮戸は大きな1枚の扉を水に浮かせて移動させる構造のもので、扉室の脇に大きな戸袋を造ってそこに引き込むことで開ける。戸袋のために扉室が大きくなる欠点があるが、ドックや大型の海洋運河の閘門などで採用されることがある[29]。回転セクターゲートという、垂直に回転軸があって横に回転して水路を仕切る閘門扉もあり、イングランドでは、リッブル・リンク (Ribble Link) の海側の閘門と、ライムハウス・ベースン (Limehouse Basin) のテムズ川へ通じる閘門で使われている。かなり巨大なものとしてはロッテルダムの洪水防止用のものがある。
上流・下流の閘門扉の種類が違っていることもある。マイターゲートの閘門扉のうち一方だけが引揚扉に置き換えられることもある。例えばサルターヘッブル閘門 (Salterhebble Locks) では、最下流側の閘門の下流側の閘門扉のバランスビームの動作する空間が、橋の拡幅によって制限されることになったため引揚扉に置き換えられた。ニーン川 (River Nene) では、多くの閘門がこの配置となっており、洪水の時には上流側のマイターゲートを開け、下流側の引揚扉も開けた状態にして、閘室がオーバーフロー対策の水門として機能するようにしている。
開閉装置
[編集]開閉装置(かいへいそうち)は、閘門扉を開閉する装置である。古くから人力によりマイターゲートの開閉が行われてきた。近年では電力や蒸気力、水力などの駆動装置によるものが一般的で、特に電力を利用したものが多い。動力駆動装置があるものでも、予備として人力で開閉できるようになっていることが一般的である。マイターゲートの開閉には、ゲートの上部に開閉桿(かいへいかん)という棒を取り付けて、これに鎖を巻き取る装置や歯車を使って回転させる装置などを組み合わせて、人力または動力によってこれを駆動するようになっている。引揚扉の場合は上からワイヤーで扉を吊るしており、これを巻き上げ、巻き降ろして開閉する。扉の重量を相殺するカウンターウェイトが反対側についていて、少ない力で動作できるようにされていることが一般的である[30]。
人力でマイターゲートを開閉する場所では、バランスビームが取り付けられている場合がある。これは曳舟道の上を通り陸側から伸びている長い腕である。重い閘門扉を開閉するためのてことなるだけでなく、閘門扉を簡単に開閉できるように閘門扉の重量の釣り合いを取っている。
給排水装置
[編集]給排水装置は、上流区から閘室に、あるいは閘室から下流区に水を流すための装置である。
閘門扉に穴が開けられていて、この部分に別の扉をつけて開閉できるようにすることで水を給排水する構造のものは、構造が単純であり古くから利用されてきた。しかし閘室内に流れ込む水が船を動揺させる問題がある。また閘門扉の構造上、一定以上の大きさの穴を開けることができないので、給排水に時間が掛かる[31]。ただし、後述する暗渠を設けることによって構造物の強度問題が発生することを避けるために、新しい大型の閘門において水勢を弱める機構を取り付けて採用される例がある。しかし水流が渦をなすことになるため、閘門扉や閘室の底の強度を確保しなければならない。水勢を弱める機構と組み合わせるときは、引揚扉については上下流両方に採用することがあるが、マイターゲートについては下流側のみに採用するのが普通である[32]。
現代の閘門で一般的に広く使用されているのは閘渠(こうきょ)を利用した方式である。これは扉室と閘室の側面または底面に暗渠を設置して、その途中に給排水用扉を設けて開閉し給排水するものである。閘室内の暗渠の口は、給水時にも排水時にも兼用する設計が普通である。船の動揺を抑えるために、閘室の側面に多数分散させて閘渠の口を設けることで、水の勢いを分散させるように設計することもある。閘室の底にも閘渠の口を配置するとさらに勢いを抑えることができるが、工事が複雑になり工費が高くつくという問題がある[33]。閘渠の断面は一般に矩形かその上部をアーチ状にしたものとなっている[34]。
閘門扉として引揚扉を用いた閘門では、引揚扉をわずかに開けることで給排水するものがある。この場合水の勢いを弱める設備が必要とされる。閘渠を用いないため、側壁の構造を単純にできる[35]。
水の流入・流出は通常重力式であるが、とても大きな閘門ではポンプを使ってスピードアップしていることもある。
給排水用扉
[編集]閘門扉の給排水口あるいは閘渠には、給排水を制御するための扉が付けられている。この扉には引揚扉やテンターゲート、回転ゲートなどが一般に用いられる[36]。
巻き上げ装置
[編集]リーズ・アンド・リバプール運河では、異なる種類の巻き上げ装置が多数ある。パドルの上部に取り付けられた、ねじを通された棒を水平で大きな蝶ネジを回すことによって開けるようになっているものがある。他には長い木製の棒を持ち上げて、閘渠を塞いでいる木板を操作するようになっているものもある。これはジャック・クラフス (jack cloughs) と呼ばれている。下流側の閘門扉のパドルには、一般的な垂直に持ち上げるものではなく、水平なラチェットによって木板を横にスライドさせるものもあった。これらの多くの特異なパドルは次第に「近代化」されて、稀なものになってきている。コールダー・アンド・ヘッブルナビゲーション (Calder and Hebble Navigation) では、コールダー・アンド・ヘッブル・ハンドスパイクと称する長さ3フィートほどの棒を、地面の高さに水平の軸を持った穴付き歯車に繰り返し挿し込んでは回すことでパドルを操作するようになっているものがある[37]。モンゴメリー運河 (Montgomery Canal) の一部分では、底のパドルが側面パドルの位置で操作できるようになっている。閘門扉の脇を迂回して閘渠が閘室内に通じているのではなく、運河の底に埋められた閘渠を通じて水が流れるようになっている。このパドルは水平にスライドする。
その他の関連施設
[編集]閘門の側壁には、船が係留するために必要な設備があるほか、防衝材をつけて側壁への衝突を防いでいる[38]。
閘門を利用する船舶に合図するために、扉室付近に信号装置を取り付けることがある。また現在の水位を示すための量水標が取り付けられていることもある。夜間にも船舶を通航させるときは、照明設備が設置される[39]。
閘門の種類
[編集]各部の配置による分類
[編集]閘門は各部の配置によって、単扉室閘門、複扉室閘門、複式閘門、階段式閘門、並列閘門に分類することができる[1]。
単扉室閘門
[編集]単扉室閘門(たんぴしつこうもん)は、扉室が閘室の片側に1個あるのみで、閘室内部がドックになっているものである[40]。水位差のある水路間を航行する目的ではなく、海や河口付近の港に設けられ、潮汐による水位差の影響を受けずに船の貨物扱いなどを行えるようにするものである。
複扉室閘門
[編集]複扉室閘門(ふくひしつこうもん)は、単扉室閘門に対して言う言葉で、閘室の両側に1つずつの扉室を持つ通常の閘門を指す[40]。
複式閘門
[編集]複式閘門(ふくしきこうもん)は、海の潮汐や水位が変わることがある川に運河が合流するなどにより、閘門の両側での水位差が逆転することがある場所に設けられる閘門である。閘門扉として多く用いられるマイターゲートは水位の高い側に向けて設置する必要があり、水位が逆転すると扉が開いてしまい用を成さなくなる。そのため反対側を向けたマイターゲートも設置しなければならない。通常と水位差が逆になったときに船の通航を中止するならば、どちらか一方の扉室に逆向きのマイターゲートを追加して備えればよい。水位差が逆になったときも船の通航を続けたいときには、両方の扉室に2対のマイターゲートを必要とすることになる。このとき、外側の扉室を外扉室、内側の扉室を内扉室と呼ぶ。閘門扉として引揚扉を使用する場合は扉を増やす必要はないが、双方向から水圧がかかることに備えた設計をする必要がある[40][41]。
並列閘門
[編集]並列閘門(へいれつこうもん)または双閘(そうこう)は、2つの閘門を横に並べて建設したものである。船の通航量が多くて1つでは捌ききれない場合などに設置される。閘室の側壁を共用にすることで建設費を抑えることができる[40][41]。並列化することで、混雑時の待機時間を短くしたり、自分にとって都合のよい状態になっている閘室を見つけやすかったりする。また2つの閘門を異なる大きさで建設することで、小さな船を通航させるために大きすぎる閘門を使って水を無駄遣いすることを避けることもできる。
階段形閘門
[編集]階段形閘門(かいだんがたこうもん)は、大きな閘程を実現するために複数の閘門を直列に並べて、上流側の閘門の後扉室が下流側の閘門の前扉室を兼ねるようにしたものである[40][41]。
設置場所による分類
[編集]閘門には河川等の運河に設ける閘門と港湾に設ける閘門がある[1]。内地運河と海船運河を問わず運河に付属する水閘を運河閘、河川の堰に設けるものを河閘、潮汐の影響を免れるために設けるものを海閘ということもある[2]。
ストップ・ロック
[編集]ストップ・ロック(stop lock、「遮断閘門」)は、2つの異なる互いに競合する運河の交点に建設されて、水が流出してしまうのを防ぐ、とても小さな落差の閘門である。
イギリスの運河網が競争的だった時代には、既に存在する運河会社は新しい隣接運河が接続することを拒否することがよくあった。このためにバーミンガムのウースター・バー (Worcester Bar) では、ほんの1フィートしか離れていないのに競合運河の船へ貨物を積み替えなければならなかった。
既存の運河会社が新しい運河との接続に利点を見出したり、新設の運河会社が設立認可の法案に接続を必須とする条項を押し込むことに成功したりして、運河が接続されることになると、既存の会社は水源を守り、あるいは場合によっては拡張しようと考え始める。通常、交点では新しい側の運河は既存の運河より高い位置になるように指定された。新旧運河の水位差がわずか数インチであっても、ストップ・ロックと呼ばれる閘門が必要とされた。なぜなら、新しい運河から既存運河へ水が流れ出し続けるのを防ぐ必要があるからである。この閘門は新設の会社の管理下に置かれ、当然ながら新設運河側が上流になっている。これにより新しい運河の水源を守るが、しかしながら必然的に船が通航するたびに既存の運河会社に閘門1杯分の水を差し出すことになる。水が過剰な時には当然ながら既存運河に対して水を連続的に流したままにする。
水位が変化するために常に新設運河の水位が高いことが保証できない場合には、既存会社も同じようにストップ・ロックを、独自の管理下で自分の運河側が上流になるような向きで建設し、新設運河の水位が下がった時には閉鎖するようになっていた。これにより、互いに異なる向きになっている閘門が連続して現れることになる。マックルスフィールド運河の南端が、先に存在していたトレント・アンド・マージー運河のホール・グリーン支線 (Hall Green Branch) に合流するキッズグラブ (Kidsgrove) 近郊のホール・グリーン (Hall Green) に例がある。ストラットフォード=アポン=エイボン運河 (Stratford-upon-Avon Canal) とウースター・アンド・バーミンガム運河 (Worcester and Birmingham Canal) の間のキングス・ノートン接続点 (Kings Norton Junction) の4つの閘門扉を持つストップ・ロックは、どちらの水位が高くても水を遮断するギロチンロックの組み合わせに1914年に置き換えられた。これらのゲートは国有化に伴って常時開けた状態にされている[42]。
1948年の国有化後、多くのストップ・ロックは撤去されたり、単独の閘門扉に改造されたりした。ホール・グリーンのストップ・ロックは残ったが、単独の閘門となった。トレント・アンド・マージー運河の頂点にある水路の水位が、ヘアカッスルトンネルの水面上の高さを改善するために下げられて、マックルスフィールド運河より常に低いことが保証されたため、余分の閘門は撤去された。ホール・グリーン支線は現在ではマックルスフィールド運河の延長であると考えられるようになっており、トレント・アンド・マージー運河とヘアカッスルトンネルの北側出口のすぐ近くにあるハーディングス・ウッド接続点 (Hardings Wood Junction) で合流する。
新しい運河の側が高く、というルールは鉄則ではないことは注意しなければならない。例えば、1835年に建設されたバーミンガム・アンド・リバプール運河(Birmingham and Liverpool canal、現在はシュロップシャー・ユニオン運河 (Shropshire Union Canal) の一部)が、1772年に建設されたスタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河に合流するとても浅いオーサーリー合流点 (Autherley Junction) などがある。水路に関するニコルソン・ガイドによれば、シュロップシャー・ユニオン運河側から来る船は、より古いスタッフォードシャー・アンド・ウーセスターシャー運河に入る時に閘門を上る方向に通過するので、新しい運河であるシュロップシャー・ユニオン運河の方が船を通過させるたびに閘門1杯分ずつの水を受け取ることになる。しかしながら、両方の閘門扉を同時に開けることもできるくらい水位差はとても小さいので、得られる水はとても少量である。
ドロップ・ロック
[編集]ドロップ・ロック(drop lock、「降下閘門」)は、高さの低い橋のような障害物の下を船が通過する間だけ運河の短い区間の水位を下げておくような目的で使われる。使われていなかった運河を修復する際に、運河が使われなくなってから建設された構造物を取り除いたり持ち上げたりすることが不可能であったり高くついたりして、かつ運河の経路変更が不可能なような場合には、ドロップ・ロックを使うことに検討の余地がある。
ドロップ・ロックは2つの通常型閘門を、排水池側を下にして配置したものか、あるいは1つの長い排水池を備えた閘室を持った閘門で構成されている。正式には後者の方がドロップ・ロックである。ドロップ・ロックの両端は同じ水位なので、この閘門の中の水を抜くためには閘室内から水をより下流の川や運河へ流しだしてしまう他ない。あるいはより水の消費を少なくするためには、汲み上げて元の運河に戻す必要がある。2つの閘門を持った方式では、バイパス排水管を造って遮られている区間を迂回して水を流し、より下流の閘門に水を供給できるようにする必要がある。単一閘門タイプでは、閘門内を水で満たして、使わない間は閘門扉を開けたままにしておくことでこれを実現できる[43]。
多くの場所でドロップ・ロックの考えが提唱されてきたが、世界で唯一実際に建設されたドロップ・ロックはスコットランドのフォース・アンド・クライト運河 (Forth and Clyde Canal) のダルムア (Dalmuir) にあるものである[44]。この単独閘門タイプのドロップ・ロックは運河の修復に際して、交通量の多い道路にあった跳ね橋が頻繁に使われて交通を妨害するという批判に応えて、跳ね橋を固定橋に取り替えることを可能にするために導入された。閘門の排水はポンプで行うことができるが、かなりの電気を使うので、水の供給量が十分な時は近くの川に水を流しだすことで排水している。このページでドロップ・ロックの操作の様子の一連の写真を見ることができる。同じようなものが、ドロイトウィッチ運河 (Droitwich Canal) の一部区間の復旧に際して建設される予定である。
フラッド・ロック
[編集]フラッド・ロック(flood lock、「洪水閘門」)は、川に接続された水路を洪水から守るためのものである。通常、川から運河が分岐する地点に建設される。通常の川の水位では、閘門扉は常に開けた状態になっており、運河の水位は川の水位と共に上下する。
運河の安全上の限界を超えて川の水位が上昇すると、川の水位が下がるまで閘門扉が閉鎖されて閘門となる。これは通常の閘門であるので、水位差があっても運河から洪水になっている川へ(あまり賢明なことではないが)船を乗り出すことができ、また逆に洪水になっている川から運河へ船を避難させることもできる。
運河が同じ川の2箇所をつないでいる航行用水路である場合には、フラッド・ロックは運河の上流側に設置され、下流側には通常の閘門が設置される。
単なるフラッド・ゲートとして使われているフラッド・ロックは、修理しなければ機能しなくなっていることが多い。実際の商業目的に使われていない水路のように、洪水が起きている川に船を出し入れするような目的に費用を投じる必要がない水路では、外側の閘門扉だけが洪水に際して閉鎖されることが多く、その場合内側の閘門扉はすぐに保守されなくなって動作しなくなる。例としてはコールダー・アンド・ヘッブル・ナビゲーションがあり、ボート・ガイドにはフラッド・ロックと記載されているが、単に洪水を防ぐ目的にのみ使われており、洪水が起きている時に船を出し入れするために使うことはできない。
フラッド・ゲート
[編集]フラッド・ゲート(flood gate、「洪水閘門扉」)、あるいはストップ・ゲート (stop gate) は、フラッド・ロックより安価な同等物である。1つの閘門扉だけがあり、川の水位が高くなると閉鎖されて船の通航はできなくなる。これはフランスの内陸水路では一般的である。フラッド・ゲートは長い運河を複数の区間に分割する目的に使われたり、あるいは堤防が決壊した時に運河の水位より低い周辺地域に浸水することを防ぐために使われたりする。長い築堤や高架水路の両端によく見られる。こうした閘門扉は、開閉棹を備えておらず運河の水位よりちょっと高い程度なので、しばしば見落とされる。
シー・ロック
[編集]運河や川を直接入り江や浜と接続しているのがシー・ロック(sea lock、「海洋閘門」)である。シー・ロックは全て潮汐がある。
タイダル・ロック
[編集]タイダル・ロック(tidal lock、「潮汐閘門」)は、潮汐のある水域とない水域を結ぶ閘門である。これには、潮汐のある川とない川の間のもの、潮汐のある川と運河の間のもの、シー・ロックなどがある。しかしながら、普通はこの言葉は潮汐の状態によって運用に影響があるような閘門のことを特に指す。例としては、
- 運河と川が合流する地点で、川の方が常に水位が低い場合。必要とされるのは通常の閘門で、運河側を上流とする。潮が満ちていて船が下流側の閘門扉を通過できる時は通常通り運用される。潮が引いて閘門が使えなくなると、閘門扉は閉鎖されて運河に水を留める逆向きのフラッド・ゲートになる。この配置はシー・ロックでも使われる(例: ブード運河 (Bude Canal))。
- 通常は運河より水位が低い川に運河が合流するが、満潮の時や雨の後など、川の方が水位が高くなることがある場合。閘門扉のうち1つは双方向に機能するように建設される。運河より川の方が水位が高くなると、通常の閘門扉は開いてしまうが、追加した閘門扉が閉鎖されて運河を守り、また川との航行は停止される。機能的にはフラッド・ゲートである。
- 上と同様であるが、川の方が水位が高い時であっても航行できるもの。閘門は両端の閘門扉とも双方向に設計されており、川の水位が通常のどの段階にあっても船を通すことができる。川の水位が非常に高く、あるいは低くなって航行に不適切な時は、閘門扉が閉鎖されて航行は停止される。
運河に設ける閘門
[編集]閘程
[編集]閘程(こうてい)あるいは揚程(ようてい)は、閘門によって実現される水位の差のことである。イングランドの運河にある閘門の中でもっとも揚程が大きいのは、ケネット・アンド・エイボン運河 (Kennet and Avon Canal) にあるバス閘門 (Bath Locks)[45][46] と、ロッチデール運河 (Rochdale Canal) にあるトゥエル・レーン閘門 (Tuel Lane Lock) で、およそ20フィートある。文献により正確な高さに差があるため、どちらがより大きなものであるかを保証することはできない。どちらの閘門も2つの閘門の組み合わせとなっており、交差する道路の変化に応じて運河が修理された時に組み合わされたものである。もっとも閘程の大きい建設された当初のままのイングランドの閘門はトレント・アンド・マージー運河 (Trent and Mersey Canal) にあるエトルリア・トップ閘門 (Etruria Top Lock) か、オックスフォード運河 (Oxford Canal) にあるサマートン・ディープ閘門 (Somerton Deep Lock) であると考えられ、どちらも14フィートほどの閘程がある。こちらについても文献により差があり、特にエトルリア閘門は地盤沈下に対処するために次第に深くなってきているため、どちらがより閘程が大きいかを確定することはできない。イングランドにおける典型的な閘程は7から12フィート程度で、それより低い閘門も見かけられる。
運河区
[編集]2つの閘門間の運河の水平な部分を運河区という。また、ある閘門にとってそこから上流側にある運河区を上流運河区あるいは単に上流区、上区といい、下流側にある運河区を下流運河区あるいは単に下流区、下区という。閘門により船は上流運河区と下流運河区の間を移動する。
水位
[編集]英語においては、閘室が上流側と同じ水位にある時にフル (full) といい、下流側と同じ水位にある時にエンプティ (empty) という。保守作業などのために閘室から完全に水が抜かれている状態もエンプティという可能性があるが、この状態に対する混乱を招かない表現はドレインド (drained) である。
ターニング・ア・ロック
[編集]英語でターニング・ア・ロック(turning a lock、「閘門を回す」)とは、フルの閘門をエンプティにする、あるいはエンプティの閘門をフルにするということを指す。
ロック・ムーアリング
[編集]ロック・ムーアリング(lock mooring、「閘門繋留」)は、上流へ向かう船が閘門に進入する時によく使われる方法である。船が閘門扉のところに来た時に片側のよどみに向けて船を進め、閘門内の水の量が減少するにつれて水流により船がよどみから閘門扉の正面へと押し出される。これにより、閘門扉の正面に船を正確に誘導する苦労をしなくて済むようになる。
水利用
[編集]閘門を使うことの主な問題は、1回の満水-空水のサイクルを繰り返すごとに、閘室1杯分の水(何万ガロンから何十万ガロンにもなる)が下流に放流されることである。簡単に言えば、ちょうど船に適した大きさの閘門を持つ運河で、船が最上流部から最下流部へ航行する際には、その船旅に閘室1杯分の水を伴っていることになる。反対方向へ航行する船もまた、閘室1杯分の水を上流側から下流側へ移動させる。運河が干上がってしまうのを防ぐためには、水が下流に放流されていく速度で常に水を運河最上流部へ補給できることを何らかの手段で保証しなくてはならない。これは当然ながら、河川水運に比べると分水界を越える人工的な運河により大きな問題となる。
設計
[編集]運河を計画する際には、設計者は最高地点に大きな貯水池か、異なる水源から水を導く人工水路、湧き水や川ができるだけくるように試みる。
汲み上げ
[編集]水の消費量に見合う自然の水補給量が得られないことが明らかな場合や、予想外の干ばつに備えるために、設計者は水を上流部へ汲み上げられるように計画することがある。当然ながらこうした対策は、設計の失敗が明らかになったり、予想以上の交通量の増加があったり、雨が不足したりといった場合に後から取られる事もある。より小規模には、このような汲み上げがある特定の場所で行われる。ケネット・アンド・エイボン運河では水を常にリサイクルしている閘門がある。
節水装置
[編集]水を節約する単純な方法としては、閘門の数を増やすことが挙げられる。しかし閘門ごとに船と閘門の操作が必要なため、通過に要する時間が増える。これに代えて採られる方法が、閘門の上流区と下流区の中間に節水装置(節水池、節水槽)と呼ばれるため池を造ることである。このため池は、船が下流に向かう時に吐き出される水を蓄え、次に船が上流へ向かう時に閘室へ吐き出す。これにより1回の充排水サイクルで水が下流へ放流される量を減らすことができる。
右の図では節水装置の水の流れを示している。この閘門には節水装置のため池が3つあり、上からA、B、Cとなっている。船が上流から下流へ向かう場合、これらのため池は空の状態である。閘室に船が入り、閘室内の水を下流へ流すときに、まず図の1の部分の水をAに流し込み、水位が下がってくると次に2の部分の水をBへ、さらに3の部分の水をCへ流す。最後の4と5の部分は下流区へ放流する。この後下流から上流へ向かう船が来たときには、Cのため池の水をまず閘室内に流し、続いてBの水を、そしてAの水を流し込む。最後の1と2の部分にだけ上流区からの水を入れる。これによってこの例では、1回のサイクルで必要とされる水を5分の2に減少させることができる。この過程でも常に水は上から下へ重力にしたがって流れるのみで、揚水は必要としていない。池の形状は浅くて広いことが望ましいため、英語ではbasin(浅い池、水盤)と呼ばれる。
例を挙げると、1919年から1928年に掛けてドイツ、ハノーファーに建設されたヒンデンブルク閘門 (Hindenburg-lock) では、全長225メートルの2つの閘室を持ち、1回の充排水サイクルで42,000立方メートルの水を消費する。10個のため池を持つ節水装置を使うことにより、10,500立方メートルの消費量で済むようになる。2016年竣工のパナマ運河新閘門では、節水装置により約6割の水が再利用され、一隻通過時の消費水量の7%が節約される[47][48]。
イングランドの運河では、このため池はサイド・パウンド (side pound) と呼ばれ、これを操作する装置はしばしば赤く塗られている。これが有名な言葉、「赤の後に白を使えば大丈夫、白の後に赤を使うとあなたは死ぬ」 (Red before white, you're alright; white before red, you're dead) の元になっている。ただしこの言葉にある「死ぬ」ということは、機構自体の本質的な問題を指しているのではなく、(水を浪費してしまうことで)閘門管理者の怒りを招くということを指している。中間の運河区が短いフライト・ロックの中には、運河区が空になってしまわないように保証するため池とするために、脇に運河区を延長してあるものがある。この拡張された中間運河区は、しばしばサイド・パウンドと混同される。
非常に大規模な閘門
[編集]世界最大の運河閘門は、ベルギー、アントウェルペンにあるBerendrecht閘門である。全長500メートル(1,640フィート)、幅68メートル(223フィート)、閘程13.5メートル、4つの引揚式閘門扉を備えている。閘門のサイズは、設計上の運用閘程の違いを考慮せずに比較することはできない。例えば、ローヌ川のBollène閘門は最低23メートルの閘程があり、アゼルバイジャンのオスケメン閘門は42メートルの閘程がある。閘門の総水量は長さ×幅×閘程で計算される。階段形閘門はなされる有効な仕事に対して必要とされる総水量を削減するために用いられる。有効な仕事は、船の重量と持ち上げられる高さに関係している。船が下がる時には、消費された水が失った位置エネルギーが考慮される。閘門の代替物としては、アンダートン船舶昇降機 (Anderton Boat Lift) や、ベルギーのStrépy-Thieu boat liftなどでは、水の消費を主要なエネルギー源としては用いず、電動機によって駆動されて水の消費を最小限にするように設計されている。
ミシシッピ川にある29の閘門は、典型的には600フィート(180メートル)の長さで、一方タグボートと艀の組み合わせは、15隻の艀と1隻のタグボートで全長1,200フィート(360メートル)にもなる。この場合、一部の艀を切り離して閘門に入れて、閘門の弁を部分的に開けることで水流を作り出して動力のない艀を閘門から押し出し、後から閘門を通過してくるタグボートと艀の組み合わせと再結合するという手順で通過する。通過に1時間半ほどの時間が掛かる。
ハイラム・M・チッテンデン閘門
[編集]2004年11月、ハイラム・M・チッテンデン閘門(Hiram M. Chittenden Locks)の1つが、下に示した写真のように保守のために完全に空にされた。これは閘門の底の不透明な水のない状態で閘門の仕組みを見るよい機会となった。参考として、一番左の写真は、タグボートと砂や砂利を載せた艀が閘門扉の開くのを待っている、運用中の閘門を示している。この写真の左下には、閘門扉が開いた時に扉の収まる窪みが側壁に見られる。
この閘門には3組の閘門扉があり、閘門の両端に1つずつと中央に1つあり、閘門の長さ全部を必要としない時は中央のものを使うことで水を節約することができる。左から2番目の写真には底を歩いている人が映っており、この閘門の巨大さが分かる。閘門扉の写真には、底の両側に沿って閘渠の口が一列に並んでいるのが見える。閘門に重力によって流れ込み、流れ出す水はこの給排水管を通っている。閘門を満たし、あるいは空にするためには15分ほど掛かる。
-
タグボートと艀が通航中の満水状態のハイラム・M・チッテンデン閘門
-
保守のために空にされた閘門、下流側の閘門扉
-
保守のために空にされた閘門、中央の閘門扉
-
保守のために空にされた閘門、上流側の閘門扉
閘門の大きさによる船型の名前
[編集]閘門により通航可能な船の最大サイズが制約されるため、重要な運河が標準的な船型の名前となっている。
- パナマックス - パナマ運河を通航可能な最大の船型
- シーウェイマックス - セントローレンス海路を通航可能な最大の船型
中国の閘門
[編集]中国の長江にある三峡ダムでは、2つの5段階段形閘門があり、10,000トンの船が通行できる。これに加えて1回の動作で3,000トンの船を昇降させることのできる船舶用エレベーターが2016年7月より稼働している。
日本の閘門
[編集]日本にも数多くの閘門が存在し、いまも稼働している。明治から戦前に完成した閘門は、重要文化財や産業遺産などに指定されているものも多い。
- 石井閘門 - 宮城県石巻市。北上川にある閘門。1880年(明治13年)に完成した、日本初の西洋式の本格的な閘門。現在日本国内で稼動する閘門の中では最古のものであり、国の重要文化財に指定されている。
- 脇谷閘門 - 宮城県石巻市。1931年12月竣工。北上川本川と旧北上川間の船の通行のために、脇谷洗堰に併設された。
- 関宿水閘門 - 茨城県五霞町。1927年(昭和2年)に完成。利根川と江戸川分派点付近の江戸川の流頭部にあり、江戸川の流量を制御するための水門も併設されている。2003年(平成15年)に土木学会選奨土木遺産に選定。
- 見沼通船堀 - 埼玉県さいたま市。見沼代用水と芝川とを結ぶ世界的に見ても最古級の[要出典]閘門式運河である。1731年(享保16年)に作られた。昭和初期以降から使用されておらず、現在はさいたま市緑区にその復元された遺構が残る。1982年(昭和57年)、国の史跡に指定された。
2基の水門(Flash Gate) が対峙しているが閘門式とは言えない。閘門式は Gate に取り付けられた Paddle と呼ばれる小窓または配管で上下の閘室または水域の水位を等しくした後 Gate を開けて船が次の水域に出る。水位が等しいので労力(動力)は小さくて済む。見沼通船堀は、水位の調整をせず20人もの人力で流れに逆らって曳き上げる(または下ろす)方式で、閘門式で求められる大きな特徴(両水域の水位が等しいので流れに逆らわない)を満足していない。
- 荒川ロックゲート - 東京都江戸川区小松川。東京都を流れる荒川と旧中川を結ぶ。大震災時などの災害時に水上交通が有効であることから改めて水路が見直されることになり、2005年10月に供用開始された比較的新しい閘門。
- 扇橋閘門 - 東京都江東区猿江一丁目。1976年(昭和51年)完成。小名木川に設置されている。
- 中島閘門 - 富山県富山市。1934年(昭和9年)8月完成。富山駅北側付近から富山湾の河口まで南北に続く、富岩(ふがん)運河中流にあるパナマ運河式閘門。現在も運用されており、観光船が運行し往来できる(冬季運休)。国の重要文化財に指定されている。
- 牛島閘門 - 富山県富山市。中島閘門と同時着工し1934年(昭和9年)8月に同時完成。富岩運河最上流部(南端)の富岩運河環水公園(旧 船溜まり)内にあり、並行するいたち川とを結ぶ現在も運用可能なパナマ運河式閘門。国の登録有形文化財に登録されている。
- 倉安川吉井水門 - 岡山県岡山市。吉井川と倉安川とを結んでいた。吉井川側に「一の水門」、倉安川側に「二の水門」。その間に側壁で囲まれる「高瀬廻し」と呼ばれる長径約40mの楕円形の船溜まりを設け、2基の水門で吉井川と倉安川の水位を調節した。水門の上に設置された「鳥居巻き」と呼ばれるローラーが水門を上下する(いわゆる「ギロチン式」)。ギロチン式なので Paddle は必要ない。二の水門の横には番所小屋があり、高瀬舟の監視や通行料の徴収を行っていた。堅牢かつ緻密に積み上げられた花崗岩の護岸、ギロチンの綱を導く溝が穿かれた石柱など、当時の土建および石工技術の粋が駆使されている。1680年の築造は、英国運河の最初の成功例Bridgewater Canalの1761年より80年も古く、世界最古級の閘門式運河ということができる。現存するのは二の水門とその上の鳥居巻き小屋、および水をたたえた高瀬廻しのみだが、340年経った今でも痛みは目立たない。吉井川側の一の水門は洪水対策で無粋な堤防に完全に埋め込まれているのが残念である。県指定史跡に指定されている。
- 松重閘門 - 愛知県名古屋市中川区。堀川と中川運河とを結んでいた。1968年に閉鎖され、現在は閘門としては使用されていない。名古屋市の有形文化財、1993年(平成5年)には名古屋市の都市景観重要建築物等に指定されている。
- 船頭平閘門 - 愛知県愛西市立田町福原。木曽川と長良川の間をつなぐ。1899年(明治32年)に着工、1902年(明治35年)に完成した。1994年(平成6年)にはそれまでの手動から電動への近代化・改修工事が行われた。2000年(平成12年)5月には明治期に建設されて現在でも使用されている貴重な閘門であるということで重要文化財に指定された。冬季を除き、木曽川上流の葛木港より観光船が運航。一般には無料での往来解放がされている。
- 三栖閘門 - 京都府京都市伏見区。宇治川と濠川を結ぶ伏見港に1929年(昭和4年)に建設された。いまは遺構が三栖閘門資料館として開放されている。
- 毛馬閘門 -大阪府大阪市北区。淀川と旧淀川(大川)を隔てる閘門。明治40年(1907年)8月に完成した旧第一閘門は1976年(昭和51年)まで使用され、現在は重要文化財に指定されている。
- 尼崎閘門(尼ロック) - 兵庫県尼崎市西海岸町地先。日本初のパナマ運河式。物流機能としての運河を今なお支える船舶の重要な玄関口となっている。
- 下関漁港閘門 - 山口県下関市の本土と彦島を隔てる小門海峡(関門海峡小瀬戸)にあるパナマ運河式水門。1936年の設置以来、現在も稼動中。
- 三池港閘門 - 福岡県大牟田市。1908年(明治41年) 完成。2008年機械遺産に指定。2015年世界文化遺産に認定された明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業構成資産の1つ。
歴史と発展
[編集]ダムと堰
[編集]古代には、河川交通が一般的であったが、河川にはもっとも小さな船でもなければ運ぶことが困難なほど浅い場所がしばしばあった。古代の人々は、ダムを建設して川の水位を上げることで、より大きな船を運航できるようになることを発見した。ダムの背後の水は、ダムの上を水がこぼれ落ちて堰になるところまで深くなる。そして大きな船を運航できるくらい水深が深くなる。このダム構造物は川に沿って、十分な水深が確保できるまで繰り返し造られた。
フラッシュ・ロック
[編集]しかしながら、これは船を水の段差を越えてどうやって移動させるかという問題を生み出した。初期にはフラッシュ・ロック(Flash lock)という粗雑なやり方でこれに対処した。フラッシュ・ロックはダムに小さな裂け目を作り、それを素早く開けたり閉めたりするものである。イングランドのテムズ川では、裂け目に垂直な柱を立てて、これに裂け目を塞ぐ板を置いていた。
裂け目が開けられると、水がどっと流れ出し、下る方向の船が水流によって引き出され、逆に上る方向の船は人が引っ張ったりウィンチを使ったりして流れに逆らって上った。船が通過すると裂け目はすぐに塞がれた。これは、奔流を作り出して岸に乗り上げている船を離岸させるためにも使われ、その名前の由来となった。
この仕組みは特に古代の中国でよく使われ、世界中の他の多くの地域でも見られた。しかしこの方法は危険で、多くの船が奔流によって沈んでしまった。この方法では必然的に堰の上流の水位の低下をもたらすために、水流に頼っていた製粉業者にとっては不評であった。これは法的にも物理的にも、川の流れを船の航行に使いたい側と製粉に使いたい側とで紛争を引き起こし、水が不足すると河川航行は停止されることになった。中国やイングランドでは、主としてこの紛争が原因で、少ない水の消費で航行ができるパウンド・ロックが適用されることになった。
ストーンチ
[編集]より洗練された装置は、ストーンチ (staunch) とかウォーター・ゲート (water gate) と呼ばれるもので、水門かマイター・ゲートの対でできていて、川の水位が低い時は閉鎖して水圧により閉めたままにしておくことができ、水位が低い時でも上流の浅い場所で船を浮かせることができるようにする。しかしながら、船が通過する時には上流側の水は排水管など何らかの補助装置により前もって抜く必要がある。製粉用の堰が通過すべき障害である時にはこの方法は用いられなかった。
パウンド・ロック
[編集]ストーンチの自然な拡張は、上流側に水門を追加して、船が通過する時にそこだけ空にすれば済むようにすることである。この方式の閘門はパウンド・ロックと呼ばれ、古代の中国や中世のヨーロッパ、間接的な証拠によればローマ帝国でも使われていた可能性がある[49]。言葉の変化について注意すれば、イギリスの運河では、閘門の間の運河の区間のことをパウンドと呼ぶ。
異なる水位の航進方法
[編集]上下の異なる水位間を船が航進する方法には、水閘のほかに、船と水を入れた槽ごと昇降させることで異なる水位を接続させる昇降槽や、傾斜した軌道を使って船を運ぶ斜路もある[2]。斜路を使った船の移動は本来は川船の曳き上げや曳き下ろしに用いられた方法であり、海船が修繕のために用いる船架と同じ理屈のものである[2]。
インクライン
[編集]インクラインは斜路を使って船を昇降するための装置で車輪付きの台車を使ってレール上を運ぶドライ方式と水を入れたタンクに船を浮かべてレール上を運ぶウェット方式がある[50]。
初期のインクラインは台車を用いるドライ方式だった[50]。台車は引き上げ船台 (marine railway、patent slip)という。
紀元前1000年頃の古代中国には人力あるいは家畜で引っ張って小舟を引き上げる装置が存在した[50]。17世紀にはヨーロッパで車輪付きの台車を使った装置が提案されるようになった[50]。19世紀初頭、運河を航行する船は馬によって曳かれる木造の艀(はしけ)だったため石造の斜路を簡単に移動でき、動力はさらに水力や蒸気機関も使われるようになった[50]。しかし、初期のドライ方式のインクラインは、19世紀後半になるとイギリスでの鉄道の発展による運河時代の終焉で発展がみられなくなり、蒸気船の大型化で運搬も困難となっていたが、水を張ったタンクに船を入れて台車で運ぶウェット方式が使われるようになった[50]。
ボート・リフト
[編集]世界で最初の回転式ボート・リフト (boat lift) である、ファルカーク・ホイールは、ユニオン運河とフォース・アンド・クライド運河 (Forth and Clyde Canal) を修復する上で最重要項目となった。劇的な「ホイール」は、かつて双方の運河を結び1930年に埋め戻されたフライト・ロックを代替する21世紀の解決策を示した。フォールカーク・ホイールは、新しい閘門を設計するコンペで勝った設計であった。もともとの階段形閘門で運航されていた時に比べ、ホイールを使った船旅では100フィートの高さをわずか数分で移動できるようになった。
ビクトリア朝時代に世界で最初に建設された垂直ボート・リフトである、トレント・アンド・マージー運河とチェシャーのウィーバー川 (River Weaver) を結ぶ、アンダートンボート・リフトは、近年修理されている。世界で一番高いボート・リフトであるベルギーのStrépy-Thieu boat liftは、1,350トンの船を73.15メートル上げ下げする。
ケーソン・ロック
[編集]1800年頃、イングランドのサマーセット・コール運河 (Somerset Coal Canal) にケーソン・ロック (Caisson lock) を使うことが、ロバート・ウェルドン(Robert Weldon)によって提案された。この水中リフトは、閘室の長さが80フィート、深さが60フィートで、中に艀を運べる大きさの完全に密封された木製の箱が収められていた。この箱がプールの中を60フィート(18.2メートル)上下する。避けられない水漏れを除けば、閘室内から水が出て行くことはなく、運用することによる水の消費はない。その代わりに、船は箱に進入してドアを閉めて密封し、箱自体が水中を上下する。閘室の底に箱が到達した時、箱は60フィートの水の底にあり、およそ3気圧の水圧が掛かることになる。この閘門の1つはプリンス・リージェント(摂政、後のジョージ4世)に披露するために建設されたが、多くの技術的な問題があり、サマーセット・コール運河に実際に用いられることはなかった[51][52]。しかしながら、1817年頃、リージェンツ運河 (Regents Canal) の、ロンドンの北のこんにちカムデン閘門 (Camden Lock) のある位置にこのケーソン・ロックが建設された。ここでも水の補給問題が動機となった。サマーセットの例に比べれば水位差はずっと小さかったものの、このシステムは間もなく通常方式の閘門に置き換えられた[53]。商業的に成功したケーソン・ロックは今までのところ存在していない。
ダイアゴナル・ロック
[編集]この新しいダイアゴナル・ロック(diagonal lock、「対角閘門」)という閘門の設計は、まだどの水路にも設置されていない。この提案は、運ぼうとする船に合わせられた大きさのコンクリートで造られた長いチューブを傾斜に沿って上流側と下流側を結ぶように建設する。チューブの下流側には強力な防水ドアを備え、上流側にはチューブの奥側の壁から船の長さ分だけ離れた位置に通常の水門を備えている。船の上下はチューブに上流側から水を流し込み、あるいは流しだすことで行われる。船は、ガイド用のチューブの形に合わせられた浮きやポンツーンと一緒に水の表面に浮いており、チューブの表面からの距離を保って浮くようになっている。メインのチューブから配管されているサイド・パウンドが協力して水を節約する仕組みになっている。従来のフライト・ロックや階段形閘門を置き換えることで、かなりの時間節約となることが期待されている。信頼性に疑問のあるケーソン・ロックの設計と比べて、水中に潜るケーソンの中に船を入れて運ばないというところが違っている。
ダイアゴナル・ロック・アドバイザリー・グループ (Diagonal Lock Advisory Group) がイギリスにおいて、新しい水路や従来の運河の修復の両方で、この新しい仕組みを設置できる場所をいくつかイギリスで発見している[54]。ランカスター運河 (Lancaster Canal) のケンダル (Kendal) への修復や、グランド・ユニオン運河のベドフォード (Bedford) とミルトン・キーンズ (Milton Keynes) の間の新しく提案されている支線などで計画が検討されている。
脚注
[編集]- ^ a b c “省令(用語の定義)”. 国土交通省. p. 906. 2022年2月28日閲覧。
- ^ a b c d e 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、172頁。
- ^ a b c 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、210頁。
- ^ 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、179頁。
- ^ a b c d e f 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、173頁。
- ^ a b c d 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、174頁。
- ^ 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、175頁。
- ^ 『河川工学』pp.294 - 296
- ^ 『水門・樋門・閘門の設計』p.171
- ^ 『ロック(閘門)』pp.14 - 15
- ^ a b c 『河川工学』pp.294 - 296
- ^ a b 『ロック(閘門)』p.2
- ^ 『水門・樋門・閘門の設計』p.157
- ^ 『河川工学』p.298
- ^ 『ロック(閘門)』pp.13 - 14
- ^ 『ロック(閘門)』pp.43 - 45
- ^ 『ロック(閘門)』pp.125 - 127
- ^ 『ロック(閘門)』pp.56 - 59
- ^ 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、210-211頁。
- ^ a b c d e f g h i 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、173頁。
- ^ 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、207頁。
- ^ 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、211-212頁。
- ^ a b c d 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、213頁。
- ^ L.T.C. Rolt (1973/1994). From Sea to Sea. Euromapping, Seyssinet, France
- ^ 『ロック(閘門)』pp.93 - 94
- ^ 『河川工学』p.320
- ^ 『ロック(閘門)』pp.120 - 121
- ^ 『ロック(閘門)』pp.122 - 123
- ^ 『ロック(閘門)』pp.123 - 124
- ^ 『ロック(閘門)』pp.110, 111, 118 - 120
- ^ 『ロック(閘門)』p.71
- ^ 『ロック(閘門)』pp.84 - 86
- ^ 『河川工学』pp.300 - 303
- ^ 『閘門(ロック)』p.72
- ^ 『河川工学』pp.332 - 334
- ^ 『ロック(閘門)p.72』
- ^ http://www.penninewaterways.co.uk/calder/handspike.htm
- ^ 君島八郎『河海工学 第5編 (渠工)』(改版)丸善、1944年、207-208頁。
- ^ 『閘門(ロック)』p.127
- ^ a b c d e 『水門・樋門・閘門の設計』pp.149 - 150
- ^ a b c 『河川工学』p.296
- ^ Birmingham's Canals, Ray Shill, 1999, 2002, ISBN 0-7509-2077-7
- ^ “Dalmuir Drop Lock”. 2007年10月22日閲覧。
- ^ voltimum. “Mitsubishi helps breath new life into important canal routes”. 2007年10月23日閲覧。
- ^ “Second Lock”. Images of England. 2006年9月4日閲覧。
- ^ Allsop, Niall (1987). The Kennet & Avon Canal. Bath: Millstream Book. ISBN 0-948975-15-6
- ^ 山田孝嗣 運用を開始したパナマ運河の新たな閘門 World Watching 198,日本港湾協会(2016年11月)
- ^ Environmental Impact Study Category III Environmental Impact Study PanamaCanal Expansion – Third Set of Locks Project, URS Holdings, Inc., 3.1.5.3.2 Water saving basins (2007年7月)
- ^ Frank Gardner Moore "Three Canal Projects, Roman and Byzantine." American Journal of Archaeology, 54, (1950), 97-111 (99)
- ^ a b c d e f 長野正孝「西ヨーロッパにおける運河のリフトとインクラインの変遷について」『土木史研究』第13巻、1993年。
- ^ “The Somerset Coal Canal”. Bath Royal Literary and Scientific Institution. 2006年10月6日閲覧。
- ^ “History of the Caisson Lock On the Somersetshire Coal Canal”. The Somersetshire Coal Canal (Society). 2006年10月6日閲覧。
- ^ Faulkner, Alan (2005): The Regent’s Canal: London’s Hidden Waterway. Waterways World Ltd. ISBN 1-870002-59-8.
- ^ Fogarty, Terry (2008), Diagonal Lock How It Works 2008年6月18日閲覧。
参考文献
[編集]- 福田秀夫『ロック(閘門)』(再版)共立出版、1956年8月10日。
- 西畑勇夫『水門・樋門・閘門の設計』オーム社〈土木構造物設計シリーズ〉、1963年8月30日。
- 福田次吉『河川工学』(PDF)常磐書房〈高等土木工学〉、1931年12月17日、pp.294 - 334頁 。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- Deepest Canal Locks in England
- ロックの操作 - ウェイバックマシン(2001年8月20日アーカイブ分) — イギリスの運河の船旅に関するページで閘門の操作を説明しているページ