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{{表記揺れ案内|表記1=イノストランケビア<ref name=日経>{{Cite web|和書|title=新種化石を定説覆す場所で発見、絶滅逃れようと大移動か |website=日経ナショナルジオグラフィック |publisher=[[日経ナショナルジオグラフィック社]] |accessdate=2024-09-13 |date=2023-06-06 |url=https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/23/060500281/ |author=RILEY BLACK}}</ref>|表記2=イノストランケヴィア<ref name=土屋2018>{{Cite book|和書|title=[[リアルサイズ古生物図鑑]] 古生代編 |pages=202-203 |date=2018-08-04 |others=[[群馬県立自然史博物館]] 監修 |author=[[土屋健 (サイエンスライター)|土屋健]] |publisher=[[技術評論社]] |isbn=978-4-7741-9913-9}}</ref>}} |
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{{生物分類表 |
{{生物分類表 |
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|色 = 動物界 |
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|名称 = イノストランケビア |
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| fossil_range = {{Fossil range|259|251.9|ref=<ref name=Kukhtinovetal2008/><ref name=K23>{{cite journal|last1=Kammerer|first1=Christian F.|last2=Viglietti|first2=Pia A.|last3=Butler|first3=Elize|last4=Botha|first4=Jennifer|title=Rapid turnover of top predators in African terrestrial faunas around the Permian-Triassic mass extinction|year=2022|journal=[[Current Biology]]|volume=33|issue=11|pages=2283–2290|doi=10.1016/j.cub.2023.04.007|s2cid=258835757|pmid=37220743}}</ref>}} |
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|画像キャプション = イノストランケビアの復元 |
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| 属 = '''イノストランケビア属'''<br>''[[w:Inostrancevia|Inostrancevia]]'' |
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| 下位分類名 = [[種 (分類学)|種]] |
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| 下位分類 = |
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* ''I. alexandri'' Amalitsky |
* ''I. alexandri'' {{AUY|Amalitsky|1922}} |
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* ''I. latifrons'' Pravoslavlev |
* ''I. latifrons'' {{AUY|Pravoslavlev|1927}} |
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* ''I. uralensis'' Tatarinov |
* ''I. uralensis'' {{AUY|Tatarinov|1974}} |
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* ''I. africana'' Kammerer et al. |
* ''I. africana'' {{AUY|Kammerer ''et al.''|2023}} |
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'''イノストランケビア'''(学名:'''''Inostrancevia''''')は、後期[[ペルム紀]]の[[パンゲア大陸]]に生息した、[[獣弓類]][[ゴルゴノプス亜目]]に属する[[絶滅]]した四足歩行性の[[単弓類]]の[[属 (分類学)|属]]<ref name=土屋2018/>。種によって全長3.5メートルと推定されるように、ゴルゴノプス亜目の中でも最大級の体サイズを持つグループであり、当時の生態系における[[頂点捕食者]]であったと目されている<ref name=土屋2018/>。体は比較的細く、発達した左右の[[犬歯]]と左右それぞれ4本の[[門歯]]を特徴とする<ref name=日経/>。現在の[[ロシア連邦]]から''I. alexandri''をはじめとする種の[[化石]]が産出することが知られていたが<ref name=土屋2018/>、[[南アフリカ共和国]]からも2023年に新種''I. africana''が報告され、パンゲア大陸に広く分布していたこと、また[[ルビジェア亜科]]や[[テロケファルス類]]との間で頂点捕食者の[[生態的地位]]が目まぐるしく変化したことが示唆される<ref name=日経/>。 |
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'''イノストランケビア'''([[ラテン語]]:''{{lang|la|Inostrancevia}}'')は、[[古生代]][[ペルム紀]]後期 (約2億6,000万 ~ 約2億5,400万年前)に生息していた[[単弓類]]の絶滅した[[属 (分類学)|属]]。単弓綱 - [[獣弓類|獣弓目]] - [[ゴルゴノプス亜目]]。旧[[ソビエト連邦|ソ連]]の地質学者[[アレクサンドル・イノストランツェフ]]に敬意を表しての命名である。 |
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== 研究史 == |
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=== 認識されている種 === |
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全長約3.5メートル、頭骨長は60センチメートル<ref>{{cite book |last=Prothero |first=Donald R. |title=Vertebrate Evolution: From Origins to Dinosaurs and Beyond |date=18 April 2022 |publisher=CRC Press |isbn=978-0-36-747316-7 |location=Boca Raton |language=en |chapter=20. Synapsids: The Origin of Mammals |doi=10.1201/9781003128205-4 |author-link=Donald Prothero |s2cid=246318785}}</ref>。大型種の多いゴルゴノプス亜目の中でも最大級となる。種 ''I.alexandri'' の、[[肋骨]]および[[脊柱]]の一部を除いた、ほぼ完全な骨格が知られている。 |
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1890年代、ロシアの古生物学者{{仮リンク|ウラジーミル・プロホロビッチ・アマリツキー|en|Vladimir Prokhorovich Amalitskii}}が[[ヨーロッパロシア]]の[[アルハンゲリスク州]][[北ドヴィナ川]]で上部ペルム系の淡水域の堆積物を発見した。PIN 2005として知られるこの産地は{{仮リンク|土手 (地理)|label=土手|en|Bank (geography)}}の[[崖]]に[[砂岩]]から構成されたレンズ状の[[露頭]]が分布する小川であり、部分的に保存の良い体化石を多数保存している<ref name="Amalitzky1922">{{cite journal |last=Amalitzky |first=V. |year=1922 |title=Diagnoses of the new forms of vertebrates and plants from the Upper Permian on North Dvina |url=https://www.biodiversitylibrary.org/item/151415#page/341/mode/1up |journal=Bulletin de l'Académie des Sciences de Russie |volume=16 |issue=6 |pages=329–340}}</ref>。後期ペルム紀のこの種類の動物相は従来[[南アフリカ共和国]]と[[インド]]のみで知られていたものであり、19世紀後半と20世紀前半における[[古生物学]]上の最も重大な発見の1つと考えられている{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|page=4}}。現場の予察的な調査の後、アマリツキーは妻{{ill|アンナ・ペトロヴナ・アマリツカヤ|ru|Амалицкая, Анна Петровна}}と体系的な調査を実施した<ref name="Amalitzky1922"/>。最初の発掘は1899年に開始され{{sfn|Gebauer|2007|p=9}}、発見された化石は[[ポーランド]]の[[ワルシャワ]]に輸送されてプレパレーションされた{{sfn|Lankester|1905|p=214-215}}。発掘は[[第一次世界大戦]]開戦により調査が中断される1914年まで継続された{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|page=5}}。現場で発見された化石はその後[[ロシア科学アカデミー]]の地質・鉱物学博物館へ移された。一覧化された全ての化石がプレパレーションを完了したわけでなく、新たな発見のため100トンを上回る[[コンクリーション]]が博物館により約束された<ref name="Amalitzky1922"/>。 |
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[[File:Inostrancevia.jpg|thumb|left|''I. alexandri''のレクトライプ標本PIN 2005/1578]] |
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アマリツキーは1917年に死去したが、彼は大型[[ゴルゴノプス亜目|ゴルゴノプス類]]の完全な骨格標本PIN 1758 と PIN 2005/1578の2標本を生前に同定していた{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}<ref name="Paleofile"/>{{sfn|Gebauer|2007|p=229}}。同定の後、アマリツキーは2標本を完全な新属新種に分類し、''Inostranzevia alexandri''を命名した。2標本のうちPIN 2005/1578がレクトタイプ標本と見なされている{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}<ref name="Paleofile"/>{{sfn|Gebauer|2007|p=229}}。この分類群が正式に記載されたのは死後の1922年のことであったが<ref name="Amalitzky1922"/>、この名称の使用は20世紀初頭の科学文献に遡るものであり、著明な例では[[フリードリヒ・フォン・ヒューネ]]や[[レイ・ランケスター]]の出版物に見られる{{sfn|von Huene|1902|p=36}}{{sfn|Lankester|1905|p=221}}{{sfn|Hutchinson|1910|p=Plate XI}}<ref name="Greenfield2023">{{cite web |last=Greenfield |first=Tyler |date=2023-12-26 |title=Who named ''Inostrancevia''? |url=https://incertaesedisblog.wordpress.com/2023/12/26/who-named-inostrancevia/ |website=Incertae Sedis |accessdate=2024-09-13}}</ref>。本属の最初の命名に関する分類体系的問題は後に研究の主題として取り扱われることが期待されている<ref name="Greenfield2023"/>。属名とタイプ種の種小名の語源は本分類群における既知の最初の記載で公開されていないが、この動物のフルネームはアマリツキーの師の1人であった<ref name="Bibliography">{{cite journal |last1=Jagt-Yazykova |first1=Elena A. |last2=Racki |first2=Grzegorz |year=2017 |title=Vladimir P. Amalitsky and Dmitry N. Sobolev – late nineteenth/ early twentieth century pioneers of modern concepts of palaeobiogeography, biosphere evolution and mass extinctions |journal=[[Episodes (journal)|Episodes]] |volume=40 |issue=3 |pages=189–199 |doi=10.18814/EPIIUGS/2017/V40I3/017022 |s2cid=133685968 |doi-access=free}}</ref>著明な地質学者{{仮リンク|アレクサンドル・イノストランツェフ|ru|Иностранцев, Александр Александрович}}へ敬意を表しての命名である<ref name="Paleofile">{{cite web|title=''Inostrancevia''|url=http://www.paleofile.com/Theriodontia/Inostrancevia.asp|website=Paleofile |accessdate=2024-09-14}}</ref>。アマリツキーの論文は北ドヴィナ川で発見された全ての化石について記載したものであり、イノストランケビア自体を記載してはおらず、当該ゴルゴノプス類のさらなる研究を今後のテーマにすることに言及している<ref name="Amalitzky1922"/>。 |
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アマリツキーの共同研究者であった{{仮リンク|Pavel A. Pravoslavlev|ru|Православлев, Павел Александрович}}は1927年に本属の正式な最初の記載の[[モノグラフ]]を出版した。このときPravoslavlevは、''I. alexandri''の記載時点で既に言及されていたものの<ref name="Amalitzky1922"/>正式に命名されていなかった追加の種を複数命名し、また既知の''I. alexandri''の2標本の形態学的特徴を詳細に修正した<ref name="Pravoslavlev1927">{{cite book |last=Pravoslavlev |first=P. A. |title=Gorgonopsidae from the North Dvina expedition of V. P. Amalitzki |publisher=Akademii Nauk SSSR |year=1927 |volume=3 |pages=1–117 |language=ru}}</ref>。命名された全ての種のうち唯一''I. latifrons''は、[[ヴラジーミル州]]Zavrazhyeから産出した非常に不完全な骨格と[[アルハンゲリスク州]]で発見された頭骨に基づき、本属の中で明確に異なる種として認識された{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}。種小名''latifrons''は[[ラテン語]]で「広い」を意味する''latus''と「前頭部」を意味する''frōns''に由来し、その大きさと''I. alexandri''よりも頭蓋骨が頑強であることを反映している。Pravoslavlevはまた"''Inostranzevia''"の綴りを"''Inostrancevia''"に訂正した<ref name="Pravoslavlev1927"/>{{efn|1=後者の名前は既にWilliston (1925)が使用していたが<ref name=" Williston1925"/>、この綴りが定着したのはPravoslavlevによる訂正以降であった<ref name="Kammerer2018"/>。}}。これ以降"''Inostrancevia''"の綴りが普遍的に用いられており、また[[国際動物命名規約]]の条33.3.1によればこの綴りが維持されなければならない<ref name="Kammerer2018">{{cite journal |last1=Kammerer |first1=Christian F. |last2=Masyutin |first2=Vladimir |name-list-style=amp |date=2018 |title=Gorgonopsian therapsids (''Nochnitsa'' gen. nov. and ''Viatkogorgon'') from the Permian Kotelnich locality of Russia |journal=[[PeerJ]] |volume=6 |pages=e4954 |doi=10.7717/peerj.4954 |pmc=5995105 |pmid=29900078 |doi-access=free}}</ref>。なおPravoslavlevによる研究はイノストランケビアの研究史において重要であるが、より近年の研究では、本属の生物学的な理解を拡大するために本属の骨格の解剖学的特徴の再調査が求められている<ref name="Ivakhnenko2008b"/>。 |
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高く幅の狭い[[頭骨]]を持ち、[[鼻孔]]は高い位置にある。その特徴から、[[ワニ]]などの様に半水性であったとの説もある。また、[[犬歯]]は10cmを超えるサーベル状の[[牙]]となっている。これは、皮骨性の装甲及び分厚い皮膚を持つ[[パレイアサウルス科|パレイアサウルス類]]を捕食する為に使われたといわれる。同時代の[[ロシア]]には、[[スクトサウルス]]が生息しており、これを襲ったとされる。 |
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Tatarinov (1974)はイノストランケビア属の第3の種である''I. uralensis''を命名した。ホロタイプ標本PIN 2896/1は既知の2種よりも小型の個体に由来する部分的な頭骨であり、[[オレンブルク州]]のBlumental-3で発見された左{{仮リンク|基後頭骨|en|basioccipital}}から構成される。種小名''uralensis''はホロタイプ標本が発見された[[ウラル川]]に由来する<ref name="Paleofile"/><ref name="Kammerer2018"/>{{sfn|Tatarinov|1974|p=96-99}}。化石の保存部位が乏しいことからTatarinovは本種が大型のゴルゴノプス類の別属に属する可能性にも触れているが、それを裏付ける根拠は無い{{sfn|Tatarinov|1974|p=99}}。 |
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この動物の四肢は、[[盤竜類]]や初期獣弓類などそれ以前の捕食者よりも直立に近づき、爬行姿勢に比べて効率的に歩行出来た。また、尾もより短くなっている。この事から彼らは、当時としては極めて洗練された、活動的な捕食者であったと思われる。 |
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第4の種''I. africana''は[[南アフリカ共和国]]に分布する[[カルー超層群]]のNooitgedacht農場で産出した、Nthaopa NtheriとJohn Nyaphuliにより2010年から2011年にかけて発見された2個の標本が知られている。ホロタイプ標本NMQR 4000とパラタイプ標本NMQR 3707は、約2億5400万年前から約2億5190万年前にあたる{{仮リンク|バルフォア層|en|Balfour Formation}}の''Daptocephalus'' Assemblage Zoneで記録されている<ref name=K23/>。2標本はNooitgedachtで発見された化石を列挙する論文の章で2014年に言及された<ref>{{Citation |last1=Botha-Brink |first1=Jennifer |title=Early Evolutionary History of the Synapsida |date=2014 |pages=289–304 |editor-last=Kammerer |editor-first=Christian F. |series=Vertebrate Paleobiology and Paleoanthropology |chapter=Vertebrate Paleontology of Nooitgedacht 68: A ''Lystrosaurus maccaigi''-rich Permo-Triassic Boundary Locality in South Africa |chapter-url=https://nasmus.co.za/wp-content/uploads/2019/01/Botha-Brink-et-al.-2014.Early-Evolutionary-History-of-the-Synapsida.pdf |publisher=[[Springer Netherlands]] |doi=10.1007/978-94-007-6841-3_17 |isbn=978-94-007-6840-6 |s2cid=82860920 |last2=Huttenlocker |first2=Adam K. |last3=Modesto |first3=Sean P. |editor2-last=Angielczyk |editor2-first=Kenneth D. |editor3-last=Fröbisch |editor3-first=Jörg}}</ref>。本標本はKammerer ''et al.'' (2023)で記載され、従来ロシアでしか化石の発見されていなかったイノストランケビア属に分類された。本標本はロシア産の種との間に差異が認められたため、種小名に発見地の[[アフリカ大陸]]の名を冠して新たに設立された種''I. africana''に分類された。Kammerer ''et al.'' (2023)はこの発見に関して主に層序学的な重要性に焦点を当てており、新たな化石の解剖学的な紹介が僅かである。詳細な解剖学的研究は今後のテーマとなる<ref name=K23/>。 |
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ファイル:Inostrancevia.jpg|イノストランケビア骨格。 |
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ファイル:Inostranc lati2DB.jpg|[[スクトサウルス]]を襲うイノストランケビア。 |
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ファイル:Inostrancevia 4DB.jpg|[[パレイアサウルス]]を襲うイノストランケビア。 |
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ファイル:Inostrancevia latifrons scale.png|サイズ比較図 |
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</gallery> |
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=== かつて分類された種とシノニム === |
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==分布== |
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1927年の[[モノグラフ]]において、Pravoslavlevはイノストランケビア属に追加の2種''I. parva''と''I. proclivis''を記載・命名した<ref name="Pravoslavlev1927"/>。1940年に[[イワン・エフレーモフ]]はこの分類に疑義を呈し、''I. parva''のホロタイプ標本を別種でなく本属の幼体と見るべきであるとした<ref name="Kammerer2018"/><ref name="Efremov1940">{{Cite journal |last=Yefremov |first=Ivan |author-link=Ivan Yefremov |year=1940 |title=On the composition of the Severodvinian Permian Fauna from the excavation of V. P. Amalitzky. |journal=Academy of Sciences of the Union of Soviet Socialist Republics |volume=26 |pages=893–896}}</ref>。1953年にBoris Pavlovich Vyuschkovはイノストランケビアとして命名された種の再評価を行い、''I. parva''をPravoslavlevにちなむ名を持つ新属{{snamei||Pravoslavlevia}}属に再分類した<ref name="Vyushkov1953">{{cite journal |last=Vyushkov |first=Boris P. |year=1953 |title=On gorgonopsians from the Severodvinian Fauna |journal=Doklady Akademii Nauk SSSR |language=ru |volume=91 |pages=397–400}}</ref>。''Pravoslavlevia''属は独立属かつ有効な属となり、またイノストランケビアとの近縁な属である{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}<ref name="Kammerer2018"/><ref name="Bendel2018">{{cite journal |last1=Bendel |first1=Eva-Maria |last2=Kammerer |first2=Christian F. |last3=Kardjilov |first3=Nikolay |last4=Fernandez |first4=Vincent |last5=Fröbisch |first5=Jörg |date=2018 |title=Cranial anatomy of the gorgonopsian ''Cynariops robustus'' based on CT-reconstruction |journal=[[PLOS ONE]] |volume=13 |issue=11 |pages=e0207367 |doi=10.1371/journal.pone.0207367 |pmc=6261584 |pmid=30485338 |doi-access=free|bibcode=2018PLoSO..1307367B }}</ref><ref name=Kammerer2022/>。またVyuschkov (1953)は''I. proclivis''を''I. alexandri''のジュニアシノニムとしたが、そもそもタイプ標本の保存が不完全であるという指摘も行った<ref name="Vyushkov1953"/>。この分類群はTatarinov (1974)による属の改訂で''I. alexandri''と同種とされた{{sfn|Tatarinov|1974|p=89}}。 |
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[[ヨーロッパ・ロシア]]などに生息、[[アフリカ]]からも種が知られる<ref>{{Cite journal|last=Kammerer|first=Christian F.|last2=Viglietti|first2=Pia A.|last3=Butler|first3=Elize|last4=Botha|first4=Jennifer|date=2023-06|title=Rapid turnover of top predators in African terrestrial faunas around the Permian-Triassic mass extinction|url=https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.04.007|journal=Current Biology|volume=33|issue=11|pages=2283–2290.e3|doi=10.1016/j.cub.2023.04.007|issn=0960-9822}}</ref>。[[北ドヴィナ川]]流域より[[化石]]が産出している。 |
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Pravoslavlev (1927)はゴルゴノプス類の別属''Amalitzkia''を命名し、''A. vladimiri''と''A. annae''の2種を含めた。これらは''I. alexandri''の最初の標本を研究したウラジーミルとアンナへの献名である<ref name="Pravoslavlev1927"/>。Vjuschkov (1953)は本属''Amalitzkia''をイノストランケビア属のシノニムであるとし、''A. vladimiri''を''I. vladimiri''へ改名した<ref name="Vyushkov1953"/>。さらに本種はその後の後続研究で''I. latifrons''のジュニアシノニムとされた{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}{{sfn|Tatarinov|1974|p=93}}。またPravoslavlev (1927)による''A. annae''の記載が現実的であるにも拘わらず<ref name="Pravoslavlev1927"/>Vjuschkov (1953)は何らかの理由で''A. annae''を[[疑問名]]とした<ref name="Vyushkov1953"/>。その後、Tatarinov (1974)により''A. annae''は''A. vladimiri''と同様に''I. latifrons''のジュニアシノニムとされた{{sfn|Tatarinov|1974|p=93}}。 |
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==関連項目== |
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* [[ゴルゴノプス亜目]] |
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* [[ゴルゴノプス]] - ゴルゴノプス亜目の代表的な[[属 (分類学)|属]]。 |
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* [[スクトサウルス]] - 同時代のロシアに生息した大型草食動物。[[パレイアサウルス科]]。厚い装甲板で身体を覆っていた。 |
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* [[絶滅動物一覧]] |
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Ivakhnenko (2003)は[[ヴォログダ州]]のKlimovo-1で発見された大型の[[犬歯]]と部分的な[[神経頭蓋]]に基づいてロシア産ゴルゴノプス類の新属{{snamei||Leogorgon}}を設立し、新種''Leogorgon klimovensis''を命名した。Ivakhnenko (2003)はこの分類群を[[ルビジェア亜科]]に分類したが、ルビジェア亜科は現在のアフリカのみから化石が発見されていたグループであったため、本種はアフリカ大陸以外に生息したルビジェア亜科で最初に知られた種となった<ref name="Ivakhnenko2003"/>。しかしIvakhnenko (2008)は解剖学的情報が不足していることから''Leogorgon''がルビジェア亜科でなく{{sname||Phthinosuchidae}}の仲間である可能性を指摘した<ref name="Ivakhnenko2008b"/>。Kammerer (2016)は''Leogorgon''の犬歯をイノストランケビアのものと同様としつつ、神経頭蓋が[[ディキノドン類]]に類似することを指摘し、Ivakhnenkoによる分類を否定した。それ以降、''Leogorgon''はその化石の一部がイノストランケビアに由来する可能性のある[[疑問名]]の属とされている<ref name="Kammerer2016"/>。 |
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==参考文献== |
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* {{Cite book|和書 |
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異なる系統に属する他の種がイノストランケビア属に分類されることもあった。例えば、Efremov (1940)は当時疑問視されていた状態のゴルゴノプス類を''I. progressus''{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}に分類したが、Bystrow (1955)により[[サウロクトヌス]]属に再分類された{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}<ref name="Kammerer2018"/><ref name="Bystrow1955">{{Cite journal |last=Bystrow |first=A. P. |year=1955 |title=A gorgonopsian from the Upper Permian beds of the Volga |journal=Voprosy Paleontologii |volume=2 |pages=7–18}}</ref>{{sfn|Tatarinov|1974|p=62}}。1950年代に[[ウラジーミル州]]で発見された大型の[[上顎骨]]もイノストランケビア属に分類されていたが、1997年に[[テロケファルス類]]に再分類され、2008年に{{snamei||Megawhaitsia}}のホロタイプ標本に指定された<ref name="Ivakhnenko2008">{{cite journal |last1=Ivakhnenko |first1=M. F. |year=2008 |title=The First Whaitsiid (Therocephalia, Theromorpha) |journal=Paleontological Journal |volume=42 |issue=4 |pages=409–413 |doi=10.1134/S0031030108040102 |s2cid=140547244}}</ref>。 |
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|author=金子隆一|authorlink=金子隆一 (サイエンスライター) |
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|title = 哺乳類型爬虫類 : ヒトの知られざる祖先 |
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== 特徴 == |
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|year = 1998 |
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[[File:Inostrancevia latifrons scale.png|thumb|''I. latifrons''と[[ヒト]]との大きさ比較]] |
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|publisher = [[朝日新聞社]] |
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イノストランケビアは頑強な形態を持つゴルゴノプス類であり、[[スペイン]]の古生物学者Mauricio Antónは本属を「[[リカエノプス]]のスケールアップバージョン」と説明した{{Sfn|Antón|2013|p=79-81}}。後期ペルム紀で最も象徴的な動物の1つであるイノストランケビアはゴルゴノプス類の中で特に大型であり、これに比肩する体サイズの属は南アフリカの[[ルビジェア]]のみである<ref name=Kammerer2018/>{{Sfn|Antón|2013|p=79-81}}。ゴルゴノプス類は頑強な骨格を持つが、[[獣弓類]]としては四肢が長く、[[肘]]が外側に向いている差異があれどもある程度[[イヌ]]に似た姿勢を取っていた{{Sfn|Antón|2013|p=79-81}}。ゴルゴノプス類のような非[[哺乳形類]]型獣弓類が体毛に被覆されていたか否かは不明である<ref name="Hair">{{cite journal |last1=Benoit |first1=Julien |last2=Manger |first2=Paul R. |last3=Rubidge |first3=Bruce S. |date=2016 |title=Palaeoneurological clues to the evolution of defining mammalian soft tissue traits |journal=[[Scientific Reports]] |volume=6 |issue=1 |pages=25604 |bibcode=2016NatSR...625604B |doi=10.1038/srep25604 |pmc=4860582 |pmid=27157809}}</ref>。 |
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|series = 朝日選書 |
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|isbn = 4-02-259709-7 |
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''I. alexandri''の標本PIN 2005/1578とPIN 1758は同定された中で最大かつ最も完全なゴルゴノプス類の標本である。両標本は全長約3メートルに達し{{Sfn|Antón|2013|p=79-81}}、頭蓋骨長が50センチメートルを超過する<ref name="Amalitzky1922"/>。しかし、より断片的な化石のみから知られている''I. latifrons''の推定体サイズはこれを上回っており、頭蓋骨長が60センチメートルに達し、全長約3.5メートル、体重約300キログラムと推定されている<ref>{{cite book |last=Prothero |first=Donald R. |title=Vertebrate Evolution: From Origins to Dinosaurs and Beyond |date=18 April 2022 |publisher=CRC Press |isbn=978-0-36-747316-7 |location=Boca Raton |language=en |chapter=20. Synapsids: The Origin of Mammals |doi=10.1201/9781003128205-4 |author-link=Donald Prothero |s2cid=246318785}}</ref>。''I. uralensis''の体サイズは化石が非常に不完全であるため不明であるが、''I. latifrons''よりも小型と見られる{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}。''I. africana''はホロタイプ標本NMQR 4000が頭蓋骨長44.2センチメートル、[[上腕骨]]長30.2センチメートル、パラタイプ標本NMQR 3707が頭蓋骨長48.1センチメートル、上腕骨長29.2センチメートルに達する<ref name=K23/>。 |
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|pages = |
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=== 頭骨 === |
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* {{Cite book|和書 |
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[[File:Палеонтологический музей Орлова (20221008144501).jpg|thumb|left|''I. alexandri''頭骨の近接写真]] |
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|author=實吉達郎|authorlink=實吉達郎 |
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イノストランケビアの頭蓋骨の全体的な形状は他のゴルゴノプス類のものと類似しているが<ref name="Amalitzky1922"/>、アフリカ大陸に生息したグループから区別される多数の差異が存在する<ref name="Kammerer2018"/>。頭骨は幅広で、吻部が上昇して長く伸び、[[眼窩]]が比較的小さく、頭蓋骨のアーチが薄い{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}<ref name="Ivakhnenko2008b"/>{{Sfn|Antón|2013|p=79-81}}。{{仮リンク|頭頂眼|label=頭頂孔|en|Parietal eye|preserve=1}}が[[頭頂骨]]の後縁付近に位置しており、長く伸びた空洞状の痕跡の中央部に発達した突起上に存在する<ref name="Amalitzky1922"/>。矢状縫合は複雑に湾曲している。<!--[[口蓋骨]]の腹側面は滑らかであり、口蓋歯あるいは口蓋結節が存在した痕跡を欠く。--><!--後の記述と整合しないためコメントアウト-->{{snamei||Viatkogorgon}}と同様に、[[方形骨]]は最上部の縁が肥厚している<ref name="Ivakhnenko2008b"/>。 |
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|title = サーベルタイガーとマンモスはどっちが強かったか : 古代猛獣たちのサイエンス |
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|year = 1990 |
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ロシア産の3種はそれぞれに特筆すべき特徴がある。''I. alexandri''は[[後頭骨|後頭部]]が比較的狭く、[[側頭窓]]が幅広かつ丸みを帯びており、{{仮リンク|翼状骨|en|pterygoid bone}}の横側の凸縁が歯を伴う。''I. latifrons''は吻部が比較的低くかつ幅広であり、頭頂部がより大型で、歯の本数が少なく、口蓋結節が発達しない。''I. uralensis''は側頭窓がスロット状で横方向に伸びている{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=93-94}}。 |
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|publisher = [[PHP研究所]] |
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[[File:Inostrancevia_alexandri_teeth.JPG|thumb|''I. alexandri''(上)と''[[レオゴルゴン|Leogorgon klimovensis]]''(下)の[[犬歯]]]] |
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|series = |
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イノストランケビアの顎は強力に発達しており、歯は獲物を確保してその[[皮膚]]を引き裂くことが可能であった。また歯は[[歯尖]]を欠いており、[[門歯]]・[[犬歯]]・{{仮リンク|後犬歯|en|cheek teeth}}{{efn|1=アマリツキーにより[[大臼歯]]とされていたが<ref name="Amalitzky1922"/>、{{仮リンク|後犬歯|en|cheek teeth}}に改められた<ref name="Bendel2018"/>。}}に区分される。歯はいずれも大なり小なり横方向に圧縮されており、また細かい鋸歯を前縁と後縁に持つ。口が閉じた際には、上顎の犬歯が[[歯骨]]の外側に位置し、下端に届く<ref name="Amalitzky1922"/>。イノストランケビアの犬歯の長さは12 - 15センチメートルに達しており、非[[哺乳類]]型[[獣弓類]]において最大であり<ref name="Ivakhnenko2008b">{{cite journal |last=Ivakhnenko |first=Mikhail F. |year=2008 |title=Cranial morphology and evolution of Permian Dinomorpha (Eotherapsida) of eastern Europe |journal=[[Paleontological Journal]] |volume=42 |issue=9 |pages=859–995 |doi=10.1134/S0031030108090013 |bibcode=2008PalJ...42..859I |s2cid=85114195}}</ref>、唯一{{仮リンク|アノモドン類|en|Anomodontia}}の{{snamei||Tiarajudens}}が同様の大きさの犬歯を持つのみである<ref name="Cisnerosetal2011">{{cite journal |last1=Cisneros |first1=Juan Carlos |last2=Abdala |first2=Fernando |last3=Rubidge |first3=Bruce S. |last4=Dentzien-Dias |first4=Paula Camboim |last5=de Oliveira Bueno |first5=Ana |year=2011 |title=Dental occlusion in a 260-million-year-old therapsid with saber canines from the Permian of Brazil |url=https://www.researchgate.net/publication/50850837 |journal=[[Science Magazine|Science]] |volume=331 |issue=6024 |pages=1603–1605 |bibcode=2011Sci...331.1603C |doi=10.1126/science.1200305 |pmid=21436452 |s2cid=8178585}}</ref>。上顎と下顎でこれらの犬歯はほぼ大きさが等しく、僅かにカーブしている<ref name="Ivakhnenko2008b"/>。門歯は非常に頑強である。後犬歯は上顎に存在し、その歯槽の縁が僅かに上側に向いている。対称的に、下顎には後犬歯が完全に存在しない。歯の生え変わりの際には若い歯が古い歯の[[歯根]]で成長し、徐々にそれらを置換した<ref name="Amalitzky1922"/>。犬歯のカプセルは非常に大型で、個体成長の様々な段階で置換用の犬歯のカプセルが最大3カプセル保持されている<ref name="Ivakhnenko2008b"/>。 |
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|isbn = 4569527388 |
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|pages = |
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=== 体骨格 === |
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イノストランケビアの骨格は四肢が特に頑強である<ref name="Pravoslavlev1927"/><ref name="Gorgonops2023">{{cite journal |last1=Bendel |first1=Eva-Maria |last2=Kammerer |first2=Christian F. |last3=Smith |first3=Roger M. H. |last4=Fröbisch |first4=Jörg |date=2023 |title=The postcranial anatomy of ''Gorgonops torvus'' (Synapsida, Gorgonopsia) from the late Permian of South Africa |journal=[[PeerJ]] |volume=11 |pages=e15378 |doi=10.7717/peerj.15378 |pmc=10332358 |pmid=37434869 |doi-access=free}}</ref>。末節骨は鋭利な三角形状であった<ref name="Amalitzky1922"/><ref name="Pravoslavlev1927"/><ref name="Ivakhnenko2008b"/>。イノストランケビアの体骨格はゴルゴノプス類の中で最も[[固有派生形質|固有派生的]]である。イノストランケビアは[[肩甲骨]]が他の既知のゴルゴノプス類と異なり板状のブレードが拡大しており、また[[脛骨]]が特にその関節の縁で稜や厚みが発達している<ref name="Gorgonops2023"/>。イノストランケビアの肩甲骨のブレードは極めて大型であり<ref name="Pravoslavlev1927"/><ref name="Kammerer2018"/><ref name="SigogneauRussell1989"/>、その形態はおそらく将来的に古生物学的機能に関する研究対象になると目されている<ref name="Gorgonops2023"/>。 |
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*MELBOURNE MUSEUM(HP)「Dinosaur Walk」〜Inostrancevia |
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== 分類体系 == |
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1922年に出版された原記載から、イノストランケビアのはゴルゴノプス科のタイプ属[[ゴルゴノプス]]との解剖学的比較を経て、ただちにゴルゴノプス科に分類された<ref name="Amalitzky1922"/><ref name=" Williston1925">{{cite book|first1=Samuel W.|last1=Williston|first2=William K.|last2=Gregory|title=The osteology of the reptiles|publisher=[[Harvard University Press]]|location=[[Cambridge, Massachusetts|Cambridge]]|year=1925|page=242|url=https://www.biodiversitylibrary.org/item/29114#page/260/mode/1up}}</ref>。その後、ロシアから報告されたゴルゴノプス類はほぼ存在しなかったが、1953年に命名された''Pravoslavlevia''の同定により分類に新たなターニングポイントが生まれた。Tatarinov (1974)がイノストランケビアをタイプ属とするイノストランケビア科に2属を分類し、Sigogneau-Russell (1989)も同様の分類をしたが、このときイノストランケビア科はゴルゴノプス科の下位分類群としてイノストランケビア亜科に変更された<ref name="SigogneauRussell1989">{{cite book |last1=Sigogneau-Russell |first1=Denise |title=Theriodontia I: Phthinosuchia, Biarmosuchia, Eotitanosuchia, Gorgonopsia |publisher=Gustav Fischer Verlag |year=1989 |isbn=978-3437304873 |editor-last=Wellnhofer |editor-first=Peter |series=Encyclopedia of Paleoherpetology |volume=17 B/I |location=Stuttgart |author-link=Denise Sigogneau-Russell}}</ref>。Ivakhnenko (2002)はロシア産ゴルゴノプス類の再評価を行い、イノストランケビア科を再設立し、この分類群をルビジェア科およびPhtinosuchidaeとともにルビジェア上科に分類した<ref name="Ivakhnenko">{{cite journal |last=Ivakhnenko |first=Mikhail F. |date=2002 |title=Taxonomy of East European Gorgonopia (Therapsida) |journal=[[Paleontological Journal]] |volume=36 |issue=3 |pages=283–292 |issn=0031-0301}}</ref>。その1年後にIvakhnenko (2003)はイノストランケビアをイノストランケビア科に分類しながら、その科をイノストランケビアしか含まない[[単型 (分類学)|単型]]とした<ref name="Ivakhnenko2003">{{Cite journal |author=Ivakhnenko |first=Mikhail F. |date=2003 |title=Eotherapsids from the East European placket (Late Permian) |journal=[[Paleontological Journal]] |volume=37 |issue=S4 |pages=339–465}}</ref>。Gebauer (2007)は後頭骨と犬歯の観察に基づいてイノストランケビアを頑強なアフリカ系統のゴルゴノプス類を構成する[[ルビジェア亜科]]の姉妹群とした{{sfn|Gebauer|2007|p=232-232}}。Kammerer (2016)はGebauerの分析を不十分と批判し、彼女の分析で使用された特徴の多くが個体差あるいは個体発生を経た差異で変動しうる頭蓋骨の比率に基づいていることを指摘した<ref name=Kammerer2016>{{Cite journal|last=Kammerer |first=Christian F. |year=2016 |title=Systematics of the Rubidgeinae (Therapsida: Gorgonopsia) |journal=[[PeerJ]] |language=en| volume=4 |pages=e1608 |doi=10.7717/peerj.1608 |pmid=26823998 |issn=2167-8359 |pmc=4730894|doi-access=free}}</ref>。 |
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Kammerer and Masyutin (2018)は、[[ノクニッツァ]]の記載に際してロシアの分類群とアフリカの分類群が2つの異なる分岐群に分けられるべきであると提唱した。基盤的な分類群を除くロシアの属の関係は頭蓋骨の特徴に基づいて支持されており、具体的には翼状骨と[[鋤骨]]との密接な接触があることが挙げられる。従来的にイノストランケビアはアフリカ産のゴルゴノプス類との類縁関係が検証されていたため、イノストランケビアとその他のロシア産ゴルゴノプス類との類縁関係が認識されたのは初めてのことであった<ref name=Kammerer2018/>。Kammerer and Masyutin (2018)により提唱された分類はその後のゴルゴノプス類の系統学的研究の基礎になっており<ref name=Bendel2018/><ref name="Kammerer2022">{{cite journal |last1=Kammerer |first1=Christian F. |last2=Rubidge |first2=Bruce S. |year=2022 |title=The earliest gorgonopsians from the Karoo Basin of South Africa |journal=[[Journal of African Earth Sciences]] |volume=194 |pages=104631 |bibcode=2022JAfES.19404631K |doi=10.1016/j.jafrearsci.2022.104631 |s2cid=249977414}}</ref>、以前の分類と同様に''Pravoslavlevia''はイノストランケビアの姉妹群に配置されている<ref name=Kammerer2018/><ref name=Bendel2018/><ref name=Kammerer2022/>。 |
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[[File:Inostrancevia africana.jpg|thumb|right|''I. africana''の復元図]] |
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以下の[[クラドグラム]]はKammerer and Rubidge (2022)に基づきゴルゴノプス類におけるイノストランケビアの系統的位置を示す<ref name=Kammerer2022/>。 |
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{{clade|style=font-size:100%;line-height:85% |
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|label1 = [[ゴルゴノプス亜目]] |
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|1={{clade |
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|1=''[[ノクニッツァ|Nochnitsa]]'' |
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|2={{clade |
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|1={{snamei||Viatkogorgon}} |
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|2={{clade |
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|label1=ロシアの分岐群 |
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|1={{clade |
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|1={{snamei||Suchogorgon}} |
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|2={{clade |
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|1=''[[サウロクトヌス|Sauroctonus]]'' |
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|2={{clade |
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|1={{snamei||Pravoslavlevia}} |
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|2='''''Inostrancevia''''' }} }} }} |
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|label2=アフリカの分岐群 |
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|2={{clade |
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|1=''[[:en:Phorcys dubei|Phorcys]]'' |
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|2={{snamei||Eriphostoma}} |
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|3=''[[ゴルゴノプス|Gorgonops]]'' |
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|4={{clade |
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|1 ={{snamei||Cynariops}} |
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|2={{clade |
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|1=''[[リカエノプス|Lycaenops]]'' |
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|2={{clade |
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|1={{snamei||Smilesaurus}} |
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|2={{snamei||Arctops}} }} |
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|3={{clade |
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|1={{snamei||Arctognathus}} |
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|2=[[ルビジェア亜科]] }} }} }} }} }} }} }} }} |
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== 進化と絶滅 == |
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ゴルゴノプス類は動物食性の獣弓類における主要なグループを構成しており、その最古の例は中期ペルム紀({{仮リンク|グアダルピアン世|en|Guadalupian}})の化石記録として南アフリカ共和国に出現している。この時代における本分岐群の大多数の種は非常に小型であり、当時の生態系は頑強な骨格を持つ大型獣弓類である[[ディノケファルス類]]が支配的であった<ref>{{cite journal |last1=Day |first1=Michael O. |last2=Ramezani |first2=Jahandar |last3=Bowring |first3=Samuel A. |last4=Sadler |first4=Peter M. |last5=Erwin |first5=Douglas H. |last6=Abdala |first6=Fernando |last7=Rubidge |first7=Bruce S. |year=2015 |title=When and how did the terrestrial mid-Permian mass extinction occur? Evidence from the tetrapod record of the Karoo Basin, South Africa |journal=Proceedings of the Royal Society B |volume=282 |issue=1811 |page=20150834 |doi=10.1098/rspb.2015.0834 |pmc=4528552 |pmid=26156768 |doi-access=free}}</ref>。ただし、''[[:en:Phorcys dubei|Phorcys]]''のようないくつかの属は既に比較的大型化しており、[[カルー超層群]]の特定の地層で[[頂点捕食者]]の地位を占めていたとされる<ref name="Kammerer2022"/>。ゴルゴノプス類は真の[[哺乳類]]や[[恐竜]]が出現する以前に長大な犬歯を発達させた最初の捕食動物のグループであり、この特徴は後に[[ネコ科]]や[[ニムラブス科]]や[[ティラコスミルス科]]といった異なる肉食哺乳類のグループで独立して進化することになる{{Sfn|Antón|2013|p=7-22}}。 |
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地理的には、ゴルゴノプス類は主に現在でいう[[アフリカ大陸]]と[[ヨーロッパロシア]]に分布していたが<ref name="Kammerer2018"/>、中間的な標本が[[中華人民共和国]]北西部の[[トルファン盆地]]で発見され<ref>{{cite journal |last1=Jun |first1=Liu |last2=Wan |first2=Yiang |year=2022 |title=A gorgonopsian from the Wutonggou Formation (Changhsingian, Permian) of Turpan Basin, Xinjiang, China |journal=Palaeoworld |volume=31 |issue=3 |pages=383–388 |doi=10.1016/j.palwor.2022.04.004}}</ref>、[[インド]]中央部に分布するKundaram層からもゴルゴノプス類の可能性のある断片的な標本が報告されている<ref>{{cite journal |last1=Ray |first1=Sanghamitra |last2=Bandyopadhyay |first2=Saswati |year=2003 |title=Late Permian vertebrate community of the Pranhita–Godavari valley, India |journal=[[Journal of Asian Earth Sciences]] |volume=21 |issue=6 |page=643 |bibcode=2003JAESc..21..643R |doi=10.1016/S1367-9120(02)00050-0 |s2cid=140601673}}</ref>。{{仮リンク|キャピタニアン期の大量絶滅事変|en|Capitanian mass extinction event}}の後、ゴルゴノプス類は大型ディノケファルス類が退いて空白となった生態的地位を優占し、大型化を遂げて頂点捕食者となった。アフリカでは[[ルビジェア亜科]]<ref name="Kammerer2016"/>、ロシアではイノストランケビアがそのような地位を占めた<ref name="Kammerer2018"/><ref name=Bendel2018/><ref name="Tverdokhlebovetal2005"/>。イノストランケビアと共存した同時代のゴルゴノプス類はより小型であった<ref name="sokolki"/>{{sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|p=93-109}}。 |
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イノストランケビアを含むゴルゴノプス類は、[[シベリア・トラップ]]に起源を持つ大規模火成活動を主因とする[[P-T境界|ペルム紀末の大量絶滅]]において、{{仮リンク|ローピンジアン世|en|Lopingian}}後期([[チャンシンジアン]]期)に姿を消した。発生した噴火は重大な気候変動をもたらし、イノストランケビアの生存に不利な環境を形成して絶滅に繋がった。陸上生態系の生態的地位は[[主竜類]]を中心とする[[竜弓類]]や、絶滅事変を生き延びた数少ない獣弓類である[[哺乳形類]]に継承された<ref name="Benton2018">{{cite journal |last=Benton |first=Michael J. |author-link=Michael Benton |year=2018 |title=Hyperthermal-driven mass extinctions: killing models during the Permian–Triassic mass extinction |journal=[[Philosophical Transactions of the Royal Society A]] |volume=376 |issue=2130 |bibcode=2018RSPTA.37670076B |doi=10.1098/rsta.2017.0076 |pmc=6127390 |pmid=30177561 |doi-access=free}}</ref>。しかし、ロシアのゴルゴノプス類には絶滅事変直前の時点で既に姿を消したものもおり、その空位となった地位は短期間の間大型テロケファルス類が占めることとなった<ref name="Ivakhnenko2008"/>。 |
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Kammerer ''et al.'' (2023)はアフリカの各地でゴルゴノプス類のルビジェア類が絶滅したことから、イノストランケビアがロシアから移動して限られた時代においてアフリカの頂点捕食者の地位を占めたと主張した。[[リストロサウルス]]のようなディキノドン類はペルム紀の次の時代である[[三畳紀]]まで生き延びているため、彼らがこの時代のイノストランケビアの餌食になったと見られている<ref name="K23"/>。しかし、2024年には[[タンザニア]]のローピンジアン世最初期の地層からイノストランケビアの単離した左[[前上顎骨]]が報告されており、イノストランケビアがKammerer ''et al.'' (2023)の見解よりも早い時代にアフリカにも分布していたことになる。そしてローピンジアン世前期のイノストランケビアは、{{仮リンク|ディノゴルゴン|en|Dinogorgon}}や[[ルビジェア]]といった大型ルビジェア類と共存していたことが示唆される<ref name="Brant&Sidor2024">{{cite journal |last1=Brant |first1=Anna J. |last2=Sidor |first2=Christian A. |year=2023 |title=Earliest evidence of ''Inostrancevia'' in the southern hemisphere: new data from the Usili Formation of Tanzania |journal=[[Journal of Vertebrate Paleontology]] |volume=43|issue=4 |at=e2313622 |doi=10.1080/02724634.2024.2313622 }}</ref>。 |
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== 生態 == |
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[[File:Inostrancevia 4DB.jpg|thumb|right|[[スクトサウルス]]を攻撃する''I. alexandri''の復元図]] |
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イノストランケビアや他のゴルゴノプス類のもっとも有名な特徴は、サーベル状に発達した上顎と下顎の犬歯である。これらの動物がどのようにこの歯を利用していたかは議論がある。Lautenschlager ''et al.'' (2020)は3次元解析により、イノストランケビアのような長い犬歯を持つ捕食動物の[[咬合力]]を算定し<ref name="InoBite">{{cite journal |last1=Lautenschlager |first1=Stephan |last2=Figueirido |first2=Borja |last3=Cashmore |first3=Daniel D. |last4=Bendel |first4=Eva-Maria |last5=Stubbs |first5=Thomas L. |year=2020 |title=Morphological convergence obscures functional diversity in sabre-toothed carnivores |journal=[[Proceedings of the Royal Society B]] |volume=287 |issue=1935 |pages=1–10 |doi=10.1098/rspb.2020.1818 |issn=1471-2954 |pmc=7542828 |pmid=32993469 |doi-access=free}}</ref>、彼らが[[収斂進化]]を遂げているにも拘わらずその犬歯を用いた殺害技術が多様であったことを示した。同様の体格である[[ルビジェア]]の咬合力は715ニュートンと算出されており、これは骨を噛み砕くには不十分であったものの、ゴルゴノプス類が犬歯の発達した他の捕食動物よりも強力な咬合力を持ったことを明らかにしている<ref>{{cite journal |last1=Benoit |first1=Julien |last2=Browning |first2=Claire |last3=Norton |first3=Luke A. |year=2021 |title=The First Healed Bite Mark and Embedded Tooth in the Snout of a Middle Permian Gorgonopsian (Synapsida: Therapsida) |journal=[[Frontiers Media|Frontiers in Ecology and Evolution]] |volume=6 |page=699298 |doi=10.3389/fevo.2021.699298 |s2cid=235487002 |doi-access=free}}</ref>。また本研究では、イノストランケビアの顎に大型の間隙の存在が示唆されており、これによりサーベルタイガーである[[スミロドン]]の仮説的な殺害方法と類似する致命的な咬合を可能としたことが示唆された<ref name="InoBite"/>。 |
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== 古環境 == |
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=== ヨーロッパロシア === |
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[[File:Inostranc lati2DB.jpg|thumb|left|スクトサウルスを追う''I. latifrons''の復元図]] |
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イノストランケビアが生息していた後期ペルム紀において、{{仮リンク|南ウラル|en|Southern Ural}}は[[北緯28度線|北緯28度]]から[[北緯34度線|北緯34度]]に位置しており、河川堆積物が優勢であった<ref name="enviro"/>。特にイノストランケビアが産出した層準であるSalarevo層は季節的な[[半乾燥気候]]から[[乾燥気候]]であり、浅い湖が定期的に氾濫していた<ref name="arid">{{cite journal |last1=Yakimenko |first1=E. Yu. |last2=Targul'yan |first2=V. O. |last3=Chumakov |first3=N. M. |last4=Arefev |first4=M. P. |last5=Inozemtsev |first5=S. A. |year=2000 |title=Paleosols in Upper Permian sedimentary rocks, Sukhona River (Severnaya Dvina basin) |journal=Lithology and Mineral Resources |volume=35 |issue=2000 |pages=331–344 |doi=10.1007/BF02782689 |bibcode=2000LitMR..35..331Y |s2cid=140148404}}</ref>。当時のヨーロッパロシアの古植物相は[[シダ種子類]]の{{sname||Peltaspermales}}である''Tatarina''やその近縁属が優占しており、[[イチョウ門]](Ginkgophyta)や[[球果植物]]が次いで繁栄していた。一方で[[シダ類]]は比較的珍しく、[[トクサ類|トクサ門]](Sphenophyta)は局所的にしか生育していなかった<ref name="enviro">{{cite journal |last1=Bernardi |first1=Massimo |last2=Petti |first2=Fabio Massimo |last3=Kustatscher |first3=Evelyn |last4=Franz |first4=Matthias |last5=Hartkopf-Fröder |first5=Christoph |last6=Labandeira |first6=Conrad C. |last7=Wappler |first7=Torsten |last8=Van Konijnenburg-Van Cittert |first8=Johanna H. A. |last9=Peecook |first9=Brandon R. |last10=Angielczyk |first10=Kenneth D. |year=2017 |title=Late Permian (Lopingian) terrestrial ecosystems: A global comparison with new data from the low-latitude Bletterbach Biota |journal=Earth-Science Reviews |volume=175 |pages=18–43 |bibcode=2017ESRv..175...18B |doi=10.1016/j.earscirev.2017.10.002 |issn=0012-8252 |s2cid=134260553 |doi-access=free|url=https://dspace.library.uu.nl/bitstream/handle/1874/357232/Permian.pdf?sequence=1&isAllowed=y }}</ref>。沿岸域には[[塩生植物]]や{{仮リンク|湿生植物|en|hygrophyte}}、また高標高や旱魃に対する耐性の高い球果植物が生育した<ref name="Salarevskian2004">{{cite journal |last1=Yakimenko |first1=Elena |last2=Inozemtsev |first2=Svyatoslav |last3=Naugolnykh |first3=Sergey |year=2004 |title=Upper Permian paleosols (Salarevskian Formation) in the central part of the Russian Platform: Paleoecology and paleoenvironment |url=https://biblioteca.org.ar/libros/91157.pdf |journal=Revista Mexicana de Ciencias Geológicas |volume=21 |issue=1 |pages=110–119 |s2cid=59417568}}.</ref>。 |
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イノストランケビアの化石産地は陸棲生物と浅水域の淡水棲生物の化石記録が豊富である。具体的には[[貝虫]]<ref name="Kukhtinovetal2008">{{cite journal |last1=Kukhtinov |first1=D. A. |last2=Lozovsky |first2=V. R. |last3=Afonin |first3=S. A. |last4=Voronkova |first4=E. A. |year=2008 |title=Non-marine ostracods of the Permian-Triassic transition from sections of the East European platform |url=https://www.researchgate.net/publication/259177897 |journal=Bollettino della Società Geologica Italiana |volume=127 |issue=3 |pages=717–726}}</ref>、[[魚類]]、{{snamei||Chroniosuchus}}や{{snamei||Kotlassia}}のような[[爬虫形類]]、[[分椎目]]の{{仮リンク|ドヴィノサウルス|en|Dvinosaurus}}、[[パレイアサウルス類]]の[[スクトサウルス]]、[[ディキノドン類]]の{{仮リンク|ヴィヴィアクソサウルス|en|Vivaxosaurus}}、[[キノドン類]]の[[ドヴィニア]]が含まれる<ref name="Tverdokhlebovetal2005">{{cite journal |last1=Tverdokhlebov |first1=Valentin P. |last2=Tverdokhlebova |first2=Galina I. |last3=Minikh |first3=Alla V. |last4=Surkov |first4=Mikhail V. |last5=Benton |first5=Michael J. |author-link5=Michael Benton |year=2005 |title=Upper Permian vertebrates and their sedimentological context in the South Urals, Russia |url=https://doc.rero.ch/record/13611/files/PAL_E874.pdf |journal=Earth-Science Reviews |volume=69 |issue=1–2 |pages=27–77 |doi=10.1016/j.earscirev.2004.07.003 |bibcode=2005ESRv...69...27T |s2cid=85512435}}</ref><ref name="sokolki">{{cite journal |last=Golubev |first=Valeriy K. |year=2000 |title=The faunal assemblages of Permian terrestrial vertebrates from Eastern Europe |url=https://www.researchgate.net/publication/260425567 |journal=Paleontological Journal |volume=34 |issue=2 |pages=211–224}}</ref><ref name="Salarevskian2004"/>{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|pages=113-114}}。イノストランケビアは当時の環境における[[頂点捕食者]]であり、上述した[[四肢動物]]の大半を捕食対象に取ることが可能であった{{sfn|Lankester|1905|p=221}}<ref name="Tverdokhlebovetal2005"/><ref name="sokolki"/>。イノストランケビアと共存していたより小型の捕食動物として、近縁なゴルゴノプス類の''Pravoslavlevia''や、[[テロケファルス類]]の{{snamei||Annatherapsidus}}がいた<ref name="sokolki"/>{{Sfn|Benton|Shishkin|Unwin|Kurochkin|2000|p=93-109}}。 |
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=== 南アフリカ === |
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化石記録によれば、''I. africana''が産出した[[化石帯]]である[[:en:Daptocephalus Assemblage Zone|''Daptocephalus'' Assemblage Zone]]は、水捌けの良い[[氾濫原]]であったとされる。当時は[[P-T境界|ペルム紀末の大量絶滅]]直前にあたり、{{仮リンク|バルフォア層|en|Balfour Formation}}のより古い地層よりも生物の多様化が進んでいない<ref name="K23"/><ref name="Vigliettietal2018">{{cite journal |last1=Viglietti |first1=Pia A. |last2=Smith |first2=Roger M. H. |last3=Rubidge |first3=Bruce S. |year=2018 |title=Changing palaeoenvironments and tetrapod populations in the ''Daptocephalus'' Assemblage Zone (Karoo Basin, South Africa) indicate early onset of the Permo-Triassic mass extinction |journal=Journal of African Earth Sciences |volume=138 |pages=102–111 |doi=10.1016/j.jafrearsci.2017.11.010 |bibcode=2018JAfES.138..102V |s2cid=134279628}}</ref>。 |
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カルー盆地の他の地層と同様に、''Daptocephalus'' Assemblage Zone上部ではディキノドン類が最も普遍的に見られる動物である。最も豊富なディキノドン類の中には、化石帯の語源となった{{仮リンク|ダプトケファルス|en|Daptocephalus}}や[[ディイクトドン]]および[[リストロサウルス]]がいる。テロケファルス類はほぼ産出しておらず、[[モスコリヌス]]と{{仮リンク|テリオグナトゥス|en|Theriognathus}}のみが報告されている。キノドン類の[[プロキノスクス]]の存在も報告されている<ref name="Vigliettietal2016">{{cite journal |last1=Viglietti |first1=Pia A. |last2=Smith |first2=Roger M. H. |last3=Angielczyk |first3=Kenneth D. |last4=Kammerer |first4=Christian F. |last5=Fröbisch |first5=Jörg |last6=Rubidge |first6=Bruce S. |year=2016 |title=The ''Daptocephalus'' Assemblage Zone (Lopingian), South Africa: A proposed biostratigraphy based on a new compilation of stratigraphic ranges |journal=Journal of African Earth Sciences |volume=113 |pages=153–164 |bibcode=2016JAfES.113..153V |doi=10.1016/j.jafrearsci.2015.10.011 |s2cid=128991282}}</ref>。ゴルゴノプス類の{{snamei||Arctognathus}}と{{snamei||Cyonosaurus}}はカルー盆地の広い時間分布に照らせば存在するはずであるが、公式な化石は未発見である。ロシアにおける化石記録と同様に、''I. africana''は当該地域における主要な捕食動物であり、同時代のディキノドン類を捕食していた可能性が高い<ref name="K23"/>。 |
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== 注釈 == |
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== 出典 == |
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=== 参考文献 === |
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*{{Cite book|language=de|last=von Huene|first=Friedrich|author-link=フリードリヒ・フォン・ヒューネ|year=1902|title=Übersicht Über die Reptilien der Trias|trans-title=Review of the Reptilia of the Triassic|series=Geologische und Paläontologische Abhandlungen|publisher=Gustav Fischer Verlag|location=[[Jena]]|volume=6|pages=84|oclc=17965468|url=http://paleoglot.org/files/Huene_1902a.pdf|archive-url=https://web.archive.org/web/20220606184820/http://paleoglot.org/files/Huene_1902a.pdf|archive-date=2022-06-06|ref=harv}} |
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*{{cite book |last=Hutchinson |first=Henry Neville |title=Extinct Monsters and Creatures of Other Days: A Popular Account of Some of the Larger Forms of Ancient Animal Life |publisher=[[Chapman & Hall]] |year=1910 |series=[[Museum of Comparative Zoology]] |location=[[London]] |page=105-124 |chapter=Anomalous Reptiles |chapter-url=https://www.biodiversitylibrary.org/item/48937#page/163/mode/1up |url=https://www.biodiversitylibrary.org/item/48937#page/5/mode/1up |doi=10.5962/bhl.title.40362 |oclc=1405542196 |doi-access=free |s2cid=191313118|ref=harv}} |
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*{{Cite book |last=Tatarinov |first=Leonid P. |url=https://www.geokniga.org/books/10332 |title=Териодонты СССР |publisher=Trudy Paleontologicheskogo Instituta, Akademiya Nauk SSSR |year=1974 |volume=143 |pages=1–226 |language=ru |trans-title=Theriodonts of the USSR |ref=harv}} |
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*{{cite book|first1=Michael J.|last1=Benton|author-link=マイケル・ベントン|first2=Mikhail A.|last2=Shishkin|first3=David M.|last3=Unwin|first4=Evgenii N.|last4=Kurochkin|title=The age of dinosaurs in Russia and Mongolia|publisher=[[Cambridge University Press]]|location=[[Cambridge]]|year=2000|isbn=978-0-521-55476-3|url=https://books.google.com/books?id=NzVGpo3M998C|ref=harv}} |
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*{{cite thesis|first=Eva V. I.|last=Gebauer|year=2007|title=Phylogeny and Evolution of the Gorgonopsia with a Special Reference to the Skull and Skeleton of GPIT/RE/7113|publisher=Eberhard-Karls University of Tübingen|type=PhD|url=https://publikationen.uni-tuebingen.de/xmlui/handle/10900/49062|archive-date=2012-07-22|archive-url=https://web.archive.org/web/20120722014133/http://tobias-lib.uni-tuebingen.de/volltexte/2007/2935/pdf/Eva_Gebauer.pdf}} |
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*{{cite book|last=Antón|first=Mauricio|year=2013|title=Sabertooth|publisher=[[Indiana University Press]]|location=[[Bloomington, Indiana]]|isbn=978-0-253-01042-1|oclc=857070029|url=https://archive.org/details/Sabertooth/mode/2up|ref=harv}} |
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== 外部リンク == |
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* [https://www.city.sano.lg.jp/sp/kuzuukasekikan/1/fossillist/10817.html イノストランケビア/佐野市] - [[葛生化石館]] |
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[[Category:1922年に記載された化石分類群]] |
2024年12月16日 (月) 07:58時点における最新版
イノストランケビア | ||||||||||||||||||||||||||||||
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イノストランケビアの復元骨格
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地質時代 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ペルム紀ローピンジアン世 | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Inostrancevia Amalitsky, 1922 | ||||||||||||||||||||||||||||||
種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
イノストランケビア(学名:Inostrancevia)は、後期ペルム紀のパンゲア大陸に生息した、獣弓類ゴルゴノプス亜目に属する絶滅した四足歩行性の単弓類の属[2]。種によって全長3.5メートルと推定されるように、ゴルゴノプス亜目の中でも最大級の体サイズを持つグループであり、当時の生態系における頂点捕食者であったと目されている[2]。体は比較的細く、発達した左右の犬歯と左右それぞれ4本の門歯を特徴とする[1]。現在のロシア連邦からI. alexandriをはじめとする種の化石が産出することが知られていたが[2]、南アフリカ共和国からも2023年に新種I. africanaが報告され、パンゲア大陸に広く分布していたこと、またルビジェア亜科やテロケファルス類との間で頂点捕食者の生態的地位が目まぐるしく変化したことが示唆される[1]。
研究史
[編集]認識されている種
[編集]1890年代、ロシアの古生物学者ウラジーミル・プロホロビッチ・アマリツキーがヨーロッパロシアのアルハンゲリスク州北ドヴィナ川で上部ペルム系の淡水域の堆積物を発見した。PIN 2005として知られるこの産地は土手の崖に砂岩から構成されたレンズ状の露頭が分布する小川であり、部分的に保存の良い体化石を多数保存している[5]。後期ペルム紀のこの種類の動物相は従来南アフリカ共和国とインドのみで知られていたものであり、19世紀後半と20世紀前半における古生物学上の最も重大な発見の1つと考えられている[6]。現場の予察的な調査の後、アマリツキーは妻アンナ・ペトロヴナ・アマリツカヤと体系的な調査を実施した[5]。最初の発掘は1899年に開始され[7]、発見された化石はポーランドのワルシャワに輸送されてプレパレーションされた[8]。発掘は第一次世界大戦開戦により調査が中断される1914年まで継続された[9]。現場で発見された化石はその後ロシア科学アカデミーの地質・鉱物学博物館へ移された。一覧化された全ての化石がプレパレーションを完了したわけでなく、新たな発見のため100トンを上回るコンクリーションが博物館により約束された[5]。
アマリツキーは1917年に死去したが、彼は大型ゴルゴノプス類の完全な骨格標本PIN 1758 と PIN 2005/1578の2標本を生前に同定していた[10][11][12]。同定の後、アマリツキーは2標本を完全な新属新種に分類し、Inostranzevia alexandriを命名した。2標本のうちPIN 2005/1578がレクトタイプ標本と見なされている[10][11][12]。この分類群が正式に記載されたのは死後の1922年のことであったが[5]、この名称の使用は20世紀初頭の科学文献に遡るものであり、著明な例ではフリードリヒ・フォン・ヒューネやレイ・ランケスターの出版物に見られる[13][14][15][16]。本属の最初の命名に関する分類体系的問題は後に研究の主題として取り扱われることが期待されている[16]。属名とタイプ種の種小名の語源は本分類群における既知の最初の記載で公開されていないが、この動物のフルネームはアマリツキーの師の1人であった[17]著明な地質学者アレクサンドル・イノストランツェフへ敬意を表しての命名である[11]。アマリツキーの論文は北ドヴィナ川で発見された全ての化石について記載したものであり、イノストランケビア自体を記載してはおらず、当該ゴルゴノプス類のさらなる研究を今後のテーマにすることに言及している[5]。
アマリツキーの共同研究者であったPavel A. Pravoslavlevは1927年に本属の正式な最初の記載のモノグラフを出版した。このときPravoslavlevは、I. alexandriの記載時点で既に言及されていたものの[5]正式に命名されていなかった追加の種を複数命名し、また既知のI. alexandriの2標本の形態学的特徴を詳細に修正した[18]。命名された全ての種のうち唯一I. latifronsは、ヴラジーミル州Zavrazhyeから産出した非常に不完全な骨格とアルハンゲリスク州で発見された頭骨に基づき、本属の中で明確に異なる種として認識された[10]。種小名latifronsはラテン語で「広い」を意味するlatusと「前頭部」を意味するfrōnsに由来し、その大きさとI. alexandriよりも頭蓋骨が頑強であることを反映している。Pravoslavlevはまた"Inostranzevia"の綴りを"Inostrancevia"に訂正した[18][注釈 1]。これ以降"Inostrancevia"の綴りが普遍的に用いられており、また国際動物命名規約の条33.3.1によればこの綴りが維持されなければならない[20]。なおPravoslavlevによる研究はイノストランケビアの研究史において重要であるが、より近年の研究では、本属の生物学的な理解を拡大するために本属の骨格の解剖学的特徴の再調査が求められている[21]。
Tatarinov (1974)はイノストランケビア属の第3の種であるI. uralensisを命名した。ホロタイプ標本PIN 2896/1は既知の2種よりも小型の個体に由来する部分的な頭骨であり、オレンブルク州のBlumental-3で発見された左基後頭骨から構成される。種小名uralensisはホロタイプ標本が発見されたウラル川に由来する[11][20][22]。化石の保存部位が乏しいことからTatarinovは本種が大型のゴルゴノプス類の別属に属する可能性にも触れているが、それを裏付ける根拠は無い[23]。
第4の種I. africanaは南アフリカ共和国に分布するカルー超層群のNooitgedacht農場で産出した、Nthaopa NtheriとJohn Nyaphuliにより2010年から2011年にかけて発見された2個の標本が知られている。ホロタイプ標本NMQR 4000とパラタイプ標本NMQR 3707は、約2億5400万年前から約2億5190万年前にあたるバルフォア層のDaptocephalus Assemblage Zoneで記録されている[4]。2標本はNooitgedachtで発見された化石を列挙する論文の章で2014年に言及された[24]。本標本はKammerer et al. (2023)で記載され、従来ロシアでしか化石の発見されていなかったイノストランケビア属に分類された。本標本はロシア産の種との間に差異が認められたため、種小名に発見地のアフリカ大陸の名を冠して新たに設立された種I. africanaに分類された。Kammerer et al. (2023)はこの発見に関して主に層序学的な重要性に焦点を当てており、新たな化石の解剖学的な紹介が僅かである。詳細な解剖学的研究は今後のテーマとなる[4]。
かつて分類された種とシノニム
[編集]1927年のモノグラフにおいて、Pravoslavlevはイノストランケビア属に追加の2種I. parvaとI. proclivisを記載・命名した[18]。1940年にイワン・エフレーモフはこの分類に疑義を呈し、I. parvaのホロタイプ標本を別種でなく本属の幼体と見るべきであるとした[20][25]。1953年にBoris Pavlovich Vyuschkovはイノストランケビアとして命名された種の再評価を行い、I. parvaをPravoslavlevにちなむ名を持つ新属Pravoslavlevia属に再分類した[26]。Pravoslavlevia属は独立属かつ有効な属となり、またイノストランケビアとの近縁な属である[10][20][27][28]。またVyuschkov (1953)はI. proclivisをI. alexandriのジュニアシノニムとしたが、そもそもタイプ標本の保存が不完全であるという指摘も行った[26]。この分類群はTatarinov (1974)による属の改訂でI. alexandriと同種とされた[29]。
Pravoslavlev (1927)はゴルゴノプス類の別属Amalitzkiaを命名し、A. vladimiriとA. annaeの2種を含めた。これらはI. alexandriの最初の標本を研究したウラジーミルとアンナへの献名である[18]。Vjuschkov (1953)は本属Amalitzkiaをイノストランケビア属のシノニムであるとし、A. vladimiriをI. vladimiriへ改名した[26]。さらに本種はその後の後続研究でI. latifronsのジュニアシノニムとされた[10][30]。またPravoslavlev (1927)によるA. annaeの記載が現実的であるにも拘わらず[18]Vjuschkov (1953)は何らかの理由でA. annaeを疑問名とした[26]。その後、Tatarinov (1974)によりA. annaeはA. vladimiriと同様にI. latifronsのジュニアシノニムとされた[30]。
Ivakhnenko (2003)はヴォログダ州のKlimovo-1で発見された大型の犬歯と部分的な神経頭蓋に基づいてロシア産ゴルゴノプス類の新属Leogorgonを設立し、新種Leogorgon klimovensisを命名した。Ivakhnenko (2003)はこの分類群をルビジェア亜科に分類したが、ルビジェア亜科は現在のアフリカのみから化石が発見されていたグループであったため、本種はアフリカ大陸以外に生息したルビジェア亜科で最初に知られた種となった[31]。しかしIvakhnenko (2008)は解剖学的情報が不足していることからLeogorgonがルビジェア亜科でなくPhthinosuchidaeの仲間である可能性を指摘した[21]。Kammerer (2016)はLeogorgonの犬歯をイノストランケビアのものと同様としつつ、神経頭蓋がディキノドン類に類似することを指摘し、Ivakhnenkoによる分類を否定した。それ以降、Leogorgonはその化石の一部がイノストランケビアに由来する可能性のある疑問名の属とされている[32]。
異なる系統に属する他の種がイノストランケビア属に分類されることもあった。例えば、Efremov (1940)は当時疑問視されていた状態のゴルゴノプス類をI. progressus[10]に分類したが、Bystrow (1955)によりサウロクトヌス属に再分類された[10][20][33][34]。1950年代にウラジーミル州で発見された大型の上顎骨もイノストランケビア属に分類されていたが、1997年にテロケファルス類に再分類され、2008年にMegawhaitsiaのホロタイプ標本に指定された[35]。
特徴
[編集]イノストランケビアは頑強な形態を持つゴルゴノプス類であり、スペインの古生物学者Mauricio Antónは本属を「リカエノプスのスケールアップバージョン」と説明した[36]。後期ペルム紀で最も象徴的な動物の1つであるイノストランケビアはゴルゴノプス類の中で特に大型であり、これに比肩する体サイズの属は南アフリカのルビジェアのみである[20][36]。ゴルゴノプス類は頑強な骨格を持つが、獣弓類としては四肢が長く、肘が外側に向いている差異があれどもある程度イヌに似た姿勢を取っていた[36]。ゴルゴノプス類のような非哺乳形類型獣弓類が体毛に被覆されていたか否かは不明である[37]。
I. alexandriの標本PIN 2005/1578とPIN 1758は同定された中で最大かつ最も完全なゴルゴノプス類の標本である。両標本は全長約3メートルに達し[36]、頭蓋骨長が50センチメートルを超過する[5]。しかし、より断片的な化石のみから知られているI. latifronsの推定体サイズはこれを上回っており、頭蓋骨長が60センチメートルに達し、全長約3.5メートル、体重約300キログラムと推定されている[38]。I. uralensisの体サイズは化石が非常に不完全であるため不明であるが、I. latifronsよりも小型と見られる[10]。I. africanaはホロタイプ標本NMQR 4000が頭蓋骨長44.2センチメートル、上腕骨長30.2センチメートル、パラタイプ標本NMQR 3707が頭蓋骨長48.1センチメートル、上腕骨長29.2センチメートルに達する[4]。
頭骨
[編集]イノストランケビアの頭蓋骨の全体的な形状は他のゴルゴノプス類のものと類似しているが[5]、アフリカ大陸に生息したグループから区別される多数の差異が存在する[20]。頭骨は幅広で、吻部が上昇して長く伸び、眼窩が比較的小さく、頭蓋骨のアーチが薄い[10][21][36]。頭頂孔が頭頂骨の後縁付近に位置しており、長く伸びた空洞状の痕跡の中央部に発達した突起上に存在する[5]。矢状縫合は複雑に湾曲している。Viatkogorgonと同様に、方形骨は最上部の縁が肥厚している[21]。
ロシア産の3種はそれぞれに特筆すべき特徴がある。I. alexandriは後頭部が比較的狭く、側頭窓が幅広かつ丸みを帯びており、翼状骨の横側の凸縁が歯を伴う。I. latifronsは吻部が比較的低くかつ幅広であり、頭頂部がより大型で、歯の本数が少なく、口蓋結節が発達しない。I. uralensisは側頭窓がスロット状で横方向に伸びている[10]。
イノストランケビアの顎は強力に発達しており、歯は獲物を確保してその皮膚を引き裂くことが可能であった。また歯は歯尖を欠いており、門歯・犬歯・後犬歯[注釈 2]に区分される。歯はいずれも大なり小なり横方向に圧縮されており、また細かい鋸歯を前縁と後縁に持つ。口が閉じた際には、上顎の犬歯が歯骨の外側に位置し、下端に届く[5]。イノストランケビアの犬歯の長さは12 - 15センチメートルに達しており、非哺乳類型獣弓類において最大であり[21]、唯一アノモドン類のTiarajudensが同様の大きさの犬歯を持つのみである[39]。上顎と下顎でこれらの犬歯はほぼ大きさが等しく、僅かにカーブしている[21]。門歯は非常に頑強である。後犬歯は上顎に存在し、その歯槽の縁が僅かに上側に向いている。対称的に、下顎には後犬歯が完全に存在しない。歯の生え変わりの際には若い歯が古い歯の歯根で成長し、徐々にそれらを置換した[5]。犬歯のカプセルは非常に大型で、個体成長の様々な段階で置換用の犬歯のカプセルが最大3カプセル保持されている[21]。
体骨格
[編集]イノストランケビアの骨格は四肢が特に頑強である[18][40]。末節骨は鋭利な三角形状であった[5][18][21]。イノストランケビアの体骨格はゴルゴノプス類の中で最も固有派生的である。イノストランケビアは肩甲骨が他の既知のゴルゴノプス類と異なり板状のブレードが拡大しており、また脛骨が特にその関節の縁で稜や厚みが発達している[40]。イノストランケビアの肩甲骨のブレードは極めて大型であり[18][20][41]、その形態はおそらく将来的に古生物学的機能に関する研究対象になると目されている[40]。
分類体系
[編集]1922年に出版された原記載から、イノストランケビアのはゴルゴノプス科のタイプ属ゴルゴノプスとの解剖学的比較を経て、ただちにゴルゴノプス科に分類された[5][19]。その後、ロシアから報告されたゴルゴノプス類はほぼ存在しなかったが、1953年に命名されたPravoslavleviaの同定により分類に新たなターニングポイントが生まれた。Tatarinov (1974)がイノストランケビアをタイプ属とするイノストランケビア科に2属を分類し、Sigogneau-Russell (1989)も同様の分類をしたが、このときイノストランケビア科はゴルゴノプス科の下位分類群としてイノストランケビア亜科に変更された[41]。Ivakhnenko (2002)はロシア産ゴルゴノプス類の再評価を行い、イノストランケビア科を再設立し、この分類群をルビジェア科およびPhtinosuchidaeとともにルビジェア上科に分類した[42]。その1年後にIvakhnenko (2003)はイノストランケビアをイノストランケビア科に分類しながら、その科をイノストランケビアしか含まない単型とした[31]。Gebauer (2007)は後頭骨と犬歯の観察に基づいてイノストランケビアを頑強なアフリカ系統のゴルゴノプス類を構成するルビジェア亜科の姉妹群とした[43]。Kammerer (2016)はGebauerの分析を不十分と批判し、彼女の分析で使用された特徴の多くが個体差あるいは個体発生を経た差異で変動しうる頭蓋骨の比率に基づいていることを指摘した[32]。
Kammerer and Masyutin (2018)は、ノクニッツァの記載に際してロシアの分類群とアフリカの分類群が2つの異なる分岐群に分けられるべきであると提唱した。基盤的な分類群を除くロシアの属の関係は頭蓋骨の特徴に基づいて支持されており、具体的には翼状骨と鋤骨との密接な接触があることが挙げられる。従来的にイノストランケビアはアフリカ産のゴルゴノプス類との類縁関係が検証されていたため、イノストランケビアとその他のロシア産ゴルゴノプス類との類縁関係が認識されたのは初めてのことであった[20]。Kammerer and Masyutin (2018)により提唱された分類はその後のゴルゴノプス類の系統学的研究の基礎になっており[27][28]、以前の分類と同様にPravoslavleviaはイノストランケビアの姉妹群に配置されている[20][27][28]。
以下のクラドグラムはKammerer and Rubidge (2022)に基づきゴルゴノプス類におけるイノストランケビアの系統的位置を示す[28]。
ゴルゴノプス亜目 |
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進化と絶滅
[編集]ゴルゴノプス類は動物食性の獣弓類における主要なグループを構成しており、その最古の例は中期ペルム紀(グアダルピアン世)の化石記録として南アフリカ共和国に出現している。この時代における本分岐群の大多数の種は非常に小型であり、当時の生態系は頑強な骨格を持つ大型獣弓類であるディノケファルス類が支配的であった[44]。ただし、Phorcysのようないくつかの属は既に比較的大型化しており、カルー超層群の特定の地層で頂点捕食者の地位を占めていたとされる[28]。ゴルゴノプス類は真の哺乳類や恐竜が出現する以前に長大な犬歯を発達させた最初の捕食動物のグループであり、この特徴は後にネコ科やニムラブス科やティラコスミルス科といった異なる肉食哺乳類のグループで独立して進化することになる[45]。
地理的には、ゴルゴノプス類は主に現在でいうアフリカ大陸とヨーロッパロシアに分布していたが[20]、中間的な標本が中華人民共和国北西部のトルファン盆地で発見され[46]、インド中央部に分布するKundaram層からもゴルゴノプス類の可能性のある断片的な標本が報告されている[47]。キャピタニアン期の大量絶滅事変の後、ゴルゴノプス類は大型ディノケファルス類が退いて空白となった生態的地位を優占し、大型化を遂げて頂点捕食者となった。アフリカではルビジェア亜科[32]、ロシアではイノストランケビアがそのような地位を占めた[20][27][48]。イノストランケビアと共存した同時代のゴルゴノプス類はより小型であった[49][50]。
イノストランケビアを含むゴルゴノプス類は、シベリア・トラップに起源を持つ大規模火成活動を主因とするペルム紀末の大量絶滅において、ローピンジアン世後期(チャンシンジアン期)に姿を消した。発生した噴火は重大な気候変動をもたらし、イノストランケビアの生存に不利な環境を形成して絶滅に繋がった。陸上生態系の生態的地位は主竜類を中心とする竜弓類や、絶滅事変を生き延びた数少ない獣弓類である哺乳形類に継承された[51]。しかし、ロシアのゴルゴノプス類には絶滅事変直前の時点で既に姿を消したものもおり、その空位となった地位は短期間の間大型テロケファルス類が占めることとなった[35]。
Kammerer et al. (2023)はアフリカの各地でゴルゴノプス類のルビジェア類が絶滅したことから、イノストランケビアがロシアから移動して限られた時代においてアフリカの頂点捕食者の地位を占めたと主張した。リストロサウルスのようなディキノドン類はペルム紀の次の時代である三畳紀まで生き延びているため、彼らがこの時代のイノストランケビアの餌食になったと見られている[4]。しかし、2024年にはタンザニアのローピンジアン世最初期の地層からイノストランケビアの単離した左前上顎骨が報告されており、イノストランケビアがKammerer et al. (2023)の見解よりも早い時代にアフリカにも分布していたことになる。そしてローピンジアン世前期のイノストランケビアは、ディノゴルゴンやルビジェアといった大型ルビジェア類と共存していたことが示唆される[52]。
生態
[編集]イノストランケビアや他のゴルゴノプス類のもっとも有名な特徴は、サーベル状に発達した上顎と下顎の犬歯である。これらの動物がどのようにこの歯を利用していたかは議論がある。Lautenschlager et al. (2020)は3次元解析により、イノストランケビアのような長い犬歯を持つ捕食動物の咬合力を算定し[53]、彼らが収斂進化を遂げているにも拘わらずその犬歯を用いた殺害技術が多様であったことを示した。同様の体格であるルビジェアの咬合力は715ニュートンと算出されており、これは骨を噛み砕くには不十分であったものの、ゴルゴノプス類が犬歯の発達した他の捕食動物よりも強力な咬合力を持ったことを明らかにしている[54]。また本研究では、イノストランケビアの顎に大型の間隙の存在が示唆されており、これによりサーベルタイガーであるスミロドンの仮説的な殺害方法と類似する致命的な咬合を可能としたことが示唆された[53]。
古環境
[編集]ヨーロッパロシア
[編集]イノストランケビアが生息していた後期ペルム紀において、南ウラルは北緯28度から北緯34度に位置しており、河川堆積物が優勢であった[55]。特にイノストランケビアが産出した層準であるSalarevo層は季節的な半乾燥気候から乾燥気候であり、浅い湖が定期的に氾濫していた[56]。当時のヨーロッパロシアの古植物相はシダ種子類のPeltaspermalesであるTatarinaやその近縁属が優占しており、イチョウ門(Ginkgophyta)や球果植物が次いで繁栄していた。一方でシダ類は比較的珍しく、トクサ門(Sphenophyta)は局所的にしか生育していなかった[55]。沿岸域には塩生植物や湿生植物、また高標高や旱魃に対する耐性の高い球果植物が生育した[57]。
イノストランケビアの化石産地は陸棲生物と浅水域の淡水棲生物の化石記録が豊富である。具体的には貝虫[3]、魚類、ChroniosuchusやKotlassiaのような爬虫形類、分椎目のドヴィノサウルス、パレイアサウルス類のスクトサウルス、ディキノドン類のヴィヴィアクソサウルス、キノドン類のドヴィニアが含まれる[48][49][57][58]。イノストランケビアは当時の環境における頂点捕食者であり、上述した四肢動物の大半を捕食対象に取ることが可能であった[14][48][49]。イノストランケビアと共存していたより小型の捕食動物として、近縁なゴルゴノプス類のPravoslavleviaや、テロケファルス類のAnnatherapsidusがいた[49][50]。
南アフリカ
[編集]化石記録によれば、I. africanaが産出した化石帯であるDaptocephalus Assemblage Zoneは、水捌けの良い氾濫原であったとされる。当時はペルム紀末の大量絶滅直前にあたり、バルフォア層のより古い地層よりも生物の多様化が進んでいない[4][59]。
カルー盆地の他の地層と同様に、Daptocephalus Assemblage Zone上部ではディキノドン類が最も普遍的に見られる動物である。最も豊富なディキノドン類の中には、化石帯の語源となったダプトケファルスやディイクトドンおよびリストロサウルスがいる。テロケファルス類はほぼ産出しておらず、モスコリヌスとテリオグナトゥスのみが報告されている。キノドン類のプロキノスクスの存在も報告されている[60]。ゴルゴノプス類のArctognathusとCyonosaurusはカルー盆地の広い時間分布に照らせば存在するはずであるが、公式な化石は未発見である。ロシアにおける化石記録と同様に、I. africanaは当該地域における主要な捕食動物であり、同時代のディキノドン類を捕食していた可能性が高い[4]。
注釈
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