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界 (分類学)

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(かい、: kingdom: regnum)は、生物分類リンネ式階級分類における階級の1つである。界の上に上界、下に亜界下界を置くことがある。界は基本的階級(必ず置かなければならない階級)の1つで、基本的階級のうち最上位に位置するが、近年では界の上のドメインを基本的階級とみなすことがある。

界は長らく、(基本的階級以外を含めても)最上位の階級で、動物界植物界の2つのみが認められてきた(二界説)。この考えは現在でも一般社会では広く通用している。しかし、19世紀末からさまざまな界が新設され、特に20世紀末以降は、界分類の再編が日常的に唱えられている。現在[いつ?]は10前後の界を置くことが多いが、分類の前提となる系統の段階で諸説あり、一致には遠い。

界の歴史

生物は古代から2つ(植物、動物)に分けられ、近代にはそれぞれが界とされたが、微生物の知見が高まってくると、三界、五界、八界に分ける説などが登場してきた。

博物学での三界

生物学博物学に属していた時代には、博物学では3つの「界」が認められていた。動物界(動くもの)・植物界(動かないが成長するもの)・鉱物(成長しないもの)である。リンネも3つの界を認めた。

界の変遷

二界説

生物学が博物学から独立してくると、生物学の対象となったのは、動物界植物界の2界となった。それぞれの界は、以前は class (類)に分けられていたが、のちに(動物については phylum、植物については division)に分けられるようになった。

生物

植物

動物

三界説

単細胞生物は、それが発見されたとき二つの界に割り振られた。運動性のものは動物としてプロトゾア(Protozoa 原生動物門)に分類され、藻類細菌類は植物とされた。しかし、多数の種が双方に属することになった。たとえばミドリムシ変形菌などである。また、顕微鏡が発明されたことなどにより二界説では説明が不十分であることが分かった。

1860年ジョン・ホッグは、動物とも植物ともとれる原始的な生物を Primigenumにまとめた。1866年エルンスト・ヘッケルはそのグループに原生生物(プロチスタ) Protista 界と命名し、動物界植物界原生生物界の三界とした。なお当初の原生生物は、真菌類なども含んでいた。1947年にハーバート・コープランドが名づけた Protoctista を使うこともある。しかし、これらの用語は比較的近年[いつ?]に至るまで一般に広まらなかった。

また後年、五界説が提唱されたあとで三界説が再提唱された。この場合、原核生物は原生生物に含まれる。

生物

植物

原生生物

動物

四界説

のちに、細菌の細胞構造が、他の生物と根本的に異なっていることが発見される。つまり細菌は原核生物であるのに対し、他の生物は真核生物である。このためハーバート・コープランドは細菌を分離した界に置いた。これらは当初は Mychota と言われたが、後にモネラ (Monera) や細菌 (Bacteria) と呼ばれ、現代は原核生物と呼ばれる。

なお、1937年エドゥアール・シャットンは、原核生物と真核生物の分類が根本的なものであるとして、生物を原核生物と真核生物のふたつの上界 (superkingdom) に分けた。この考えが、現在[いつ?]3ドメイン説に発展することとなる。

  生物 
原核生物

モネラ

真核生物

原生生物

植物

動物

五界説

五界説は、1969年、ロバート・ホイッタカーが提唱した分類法である。その分類は栄養生産の違いに基礎を置いている。多細胞の独立栄養生物(生産者)を植物(界)、多細胞の従属栄養生物(消費者)を動物(界)、多細胞の腐食栄養生物(分解者)を菌(界)とし、単細胞生物と単純な群体性の細胞の生物は、原生生物界・モネラ界に含まれた。

1980年代の分岐分類学の発展により、動物界・植物界・菌界の単系統性の再評価がなされた。1982年、リン・マーギュリスによって、それまでの植物からすべての高等藻類、菌類から粘菌類・卵菌類を原生生物界へと移す提案がなされた。ただしこの変更により、原生生物はますます雑多な生物の寄せ集めとなった。

五界説は一般的な標準となり、いくらかの修正を経て現在[いつ?]でも多くの論文に採用されている。またそれはより新しい界区分の基礎となった。

生物
原核生物

モネラ

真核生物

原生生物

菌界

植物

動物

六界説

1977年カール・ウーズは、rRNAの研究を基礎にして、原核生物を真正細菌界と古細菌界に分けた(1990年には真核生物と併せて3ドメイン説[1]を提唱している)。

1984年にはレイクらが、好熱古細菌と真核生物が互いに近縁なことを示し、好熱古細菌を古細菌から分離し、エオサイト界とした。

生物
原核生物

真正細菌

古細菌

真核生物

原生生物

菌界

植物

動物

八界説

五界説における原生生物というくくりは、植物、菌、動物ではない「その他」的なくくりであって、分類群としては非常に雑多であるという面がある。これに手をつけたのが、キャバリエ=スミス (1987) である。彼は、原生生物界をクロミスタ界、アーケゾア界、原生動物界に3分し、八界説を提唱した[2]。クロミスタ界はワカメなどの褐藻植物を含む黄色植物ハプト藻類、クリプト藻類などの藻類および、それらと近縁だが2次的に葉緑体を失った(とキャヴァリエ=スミスが考えた)生物である。アーケゾア界はミトコンドリアを持たない生物である。原生動物界は動物的単細胞由来のもののうち胚分割しない生物である。

この場合、真核生物は、動物界・菌界・原生動物界の3つの従属栄養生物群と、植物界(紅藻を含む)とクロミスタ界の2つの独立栄養生物群に分けられる。ただし、クロミスタ界には卵菌類やラビリンチュラのような従属栄養の生物群が含まれる。これらに加え、古細菌・真正細菌の2つの原核生物の界がある。しかし、この分類は一部の専門家以外には広く使われなかった。キャヴァリエ=スミスが仮定した進化史が必ずしも正しくなく、アーケゾア、クロミスタ、原生動物の単系統性が疑わしかったためである。実際、アーケゾアと原生動物は単系統ではなかった(クロミスタについては現在[いつ?]も結論は出ていない)。

生物
原核生物

真正細菌

古細菌

真核生物

クロミスタ

アーケゾア

原生動物

菌界

植物

動物

修正六界説

しばらくすると、ミトコンドリアを持たない生物はもともと持っていなかったものに加え、退化的にミトコンドリアを喪失したものもあることが指摘され、アーケゾア界というくくりに意義がなくなってくる。また、現在から見れば逆行であるが、真正細菌と古細菌の違いは本質的でないとの説も現れた。そのため、キャバリエ=スミス (1998) は、アーケゾアを原生動物に含め、真正細菌と古細菌を細菌に再統合した修正六界説 revised six-kingdom system を唱えた。

真正細菌と古細菌は分離したままの七界説などもあった。

生物
原核生物

細菌界 — ウニバクテリア亜界(単膜細菌)に古細菌門を含む

真核生物

原生動物

クロミスタ

植物

菌界

動物

リンネの二界説からキャバリエ=スミスの六界説までの変遷を下表にまとめる。

リンネ
1735年
二界説
ヘッケル
1866年
三界説
シャットン
1925年
二帝説
コープランド
1938年
四界説
ホイッタカー
1959年
五界説
ウーズ
1977年
六界説
ウーズ
1990年
3ドメイン説
キャバリエ=スミス
1993年
八界説
キャバリエ=スミス
1998年
修正六界説
  原生生物 原核生物 モネラ界 モネラ界 真正細菌 細菌 真正細菌 細菌
古細菌 古細菌(アーキア) 古細菌
真核生物 原生生物 原生生物 原生生物 真核生物 アーケゾア 原生動物
原生動物
クロミスタ クロミスタ
植物 植物 植物 植物 植物 植物 植物
菌界 菌界 菌界 菌界
動物 動物 動物 動物 動物 動物 動物

現在の界・界以上の分類

1990年、ウーズは、細菌・古細菌・真核生物を3つの基本的な系統とみなし、これらをドメイン (domain) に格上げしてBacteriaArchaeaEucarya と命名した。この3ドメイン説は議論をまき起こしたが、従来の2上界説(原核生物界と真核生物界)にかわって、界以上の分類法の標準となっている。この時、ウーズは16S rRNA系統解析に基づき古細菌をユーリ古細菌界とクレン古細菌界の2界に分割している。また、レイクらは、伸長因子の系統解析に基づき古細菌類は、より基礎的な古細菌界(=ユーリ古細菌)と、真核生物に近いエオサイト界に分かれるとした(エオサイト説)。

生物

細菌ドメイン

古細菌ドメイン

真核生物ドメイン

2005年国際原生生物学会は、真核生物の新しい分類を発表した。この分類にはリンネ式階級は使われていないが、従来の界に類似したグループとしてアメーボゾアオピストコンタ(動物と菌類など)、リザリアエクスカヴァータクロマルベオラータ(クロミスタなど)、アーケプラスティダ(植物)の6つのスーパーグループが置かれ、これが真核生物の分類の標準となった。階級を当てはめる場合、これらは界として扱われることがある。ただし、オピストコンタは従来の動物界と菌界を含んでいるので上界とすることが多く、単純に6界とは言えない。また、これらのいくつかには当時からすでに単系統性に疑問が持たれており、後に再編された分類体系が発表されている。

真核生物

エクスカバータ — 種々の鞭毛原虫類など

アメーボゾアアメーバ類の一部, 粘菌類など

オピストコンタ後生動物, 菌類, 襟鞭毛虫類など

リザリア有孔虫類, 放散虫類, ケルコゾアなど

クロムアルベオラータストラメノパイル, ハプト植物, クリプト植物, アルベオラータ

アーケプラスチダ陸上植物, 緑藻類, 紅藻類, 灰色藻

一方、古細菌もユーリ古細菌、クレン古細菌以外の系統が多数発見されたことで、単純に2系統とは言えなくなってきている。2014年にはそれが整理され、ユーリ古細菌界とプロテオ古細菌界の2界に分割する考え方が出てきた。

古細菌

ユーリ古細菌界 — ユーリ古細菌門やDPANN群など

プロテオ古細菌界クレン古細菌タウム古細菌など

注と出典

  1. ^ Woese CR, Kandler O, Wheelis ML (1990). “Towards a natural system of organisms: proposal for the domains Archaea, Bacteria, and Eucarya”. Proc Natl Acad Sci U S A 87 (12): 4576–9. PMID 2112744. 
  2. ^ Cavalier-Smith (1993), “Kingdom Protozoa and Its 18 Phyla”, Microbiological Reviews 57: 953-994, http://mmbr.asm.org/cgi/reprint/57/4/953 

関連項目