著作権法 (アメリカ合衆国)
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アメリカ合衆国の著作権法 (英語: Copyright law of the United States、以下「米国著作権法」) は、文芸・映像・音楽・美術・ソフトウェアなどの著作物や、その著作者などの権利を保護するアメリカ合衆国の法律である。米国民の創作した著作物だけでなく、米国内に流通する外国著作物や、世界のインターネット上に広く普及するデジタル著作物にも米国著作権法は適用されうる。
1970年代以降、著作物の中でも特にメディア・エンターテイメントやITといった米国の主力産業が世界的に興隆しており、2017年時点での狭義の米国の著作権市場は1兆3000億米ドルに達し[註 1]、米国GDP全体の6.85%を占める巨大産業を形成している[註 2]。このような社会的・技術的な変化を受け、米国著作権法は頻繁に改正されているものの、十分に追いついていない。また世界的に見ても、米国著作権法は主流から外れ、他の先進国よりも著作権保護の水準が低い状況が長らく続いており、国内外から批判の声が上がっている[2][3][4][5][註 3]。
さらに、米国内では著作権侵害を巡る訴訟も多く発生していて、2008年からの10年間に毎年3000件前後が新たに提訴されている[6][7][註 4]。これら訴訟の原告側には米国外の企業や個人も含まれていることから、国際政治上の問題としても注視され[註 5]、著作権に関する国際条約を通じて、米国と他国の著作権法の足並みを揃える動きも長年の課題となっている。
このような文脈も踏まえながら、本項では合衆国法典第17編 (17 U.S.C.) に1947年から収録されている[8]連邦法としての著作権法を中心に解説する。著作権法改正の歴史や、著作権に関連する個別の訴訟についても概観するが、詳細については「米国著作権法の歴史」と「米国著作権法の判例一覧」にそれぞれ解説を譲る。
米国著作権法の国際比較
米国著作権法が国際的な主流と異なる理由は、そのルーツにある。1887年発効のベルヌ条約が、今なお基本条約として世界的に機能しているが、条約の原加盟国であるフランスやドイツなどの各国は「大陸法」を採用していることから、ベルヌ条約の内容も大陸法をベースにしている。一方の米国は「英米法」であり、根本的な発想が異なる。一般的に大陸法は、法律の条文 (立法府による成文法) を明文化して法を守る運用なのに対し、英米法で法律の解釈 (司法府による判例法) に重きを置いている。そのため条文だけを見ると、米国著作権法の権利保護は不十分であり、ベルヌ条約の方針に完全には適合していない。
他国との相違点
日本を含む他の先進国との相違点は、以下の通りである。
大陸法の国 | 米国 | |
---|---|---|
著作者本人の権利 (狭義の著作権) | ||
(著作者の財布を守る権利) |
著作財産権||
(著作者の心を守る権利) |
著作者人格権限定的 | |
著作隣接者の権利 |
- 著作権の保護対象が狭い
- 国際条約を通じた国際社会との連帯が不十分
- 立法府の権限が複雑
- 著作物の利用に関する例外規定が充実している
- 著作権侵害に当たらないフェアユース (公正利用) の基準が著作権法上で定められ、司法判断で広く活用されている
- 著作権侵害におけるインターネット関連事業者への免責が、いち早く明文化されている (通称: ノーティス・アンド・テイクダウン手続、DMCA通告)
- 権利侵害の判断は司法に大きく委ねられている
- フェアユースの抽象的な法的基準を、裁判所がケースバイケースで考慮し、著作権侵害の有無を判定
- 著作権法と相反する、あるいは補完関係にある他分野の法律を交えた、総合的な司法判断が下されている (特に特許法、商標法、独占禁止法、表現の自由を謳った憲法修正1条など)
国際条約の加盟状況
条約名 | 概要 | 著作権 | 著作 隣接権 |
条約の効力状況 | 加盟国数 | 米国の対応状況 |
---|---|---|---|---|---|---|
法的意義が継続している条約 | ||||||
ベルヌ条約 | 狭義の著作権 (著作者本人の権利) に関する基本条約 | 1886年採択、1887年発効 その後4回改正[15] |
世界187か国[10] | 1世紀後の1988年に加入し、1989年3月1日から施行[10][註 9] | ||
ローマ条約 | 著作隣接権の基本条約 | 1961年採択、1964年発効[16] | 世界93か国[17] | [17] | ||
レコード保護条約 | 著作隣接権の一つである原盤権に関する条約 | 1971年採択、1973年発効[18] | 世界80か国[19] | 1973年に批准し、1974年3月10日から施行[19] | ||
TRIPS協定 | 偽ブランドや海賊版の取締強化を目的とする「ベルヌ・プラス方式」。違反時には世界貿易機関 (WTO) に提訴可能 | 部分的 | 部分的 | 1994年採択、1995年発効[20] | 世界164か国 (WTOの全加盟国)[21][註 10] | 1995年1月1日から施行[21] |
WIPO著作権条約 | デジタル著作物への対応強化を目的とし、「ベルヌ条約の2階部分」と呼ばれる | 1996年採択、2002年発効[22] | 世界102か国[23] | 1997年署名、1999年批准、2002年3月6日から施行[23] | ||
WIPO実演・レコード条約 | ローマ条約と類似 | 1996年採択、2002年発効[24] | 世界102か国[25] | 1997年署名、1999年批准、2002年5月20日より施行[25] | ||
法的意義を終えた条約 | ||||||
ブエノスアイレス条約 | 万国著作権条約の前身 | 1910年採択[註 11] | 米国およびラテンアメリカ諸国の計18か国が批准[註 11] | 1910年に原加盟国として署名[註 11] | ||
万国著作権条約 | ベルヌ条約の代替で権利保護の水準は低い | 1952年採択、同年発効 その後1回改正[28] |
世界100か国 | 1952年に原加盟国として署名[29] |
著作権マーク「©」は21世紀に入ってからも多くの著作物上に見られるが、これは米国などのベルヌ条約批准が遅れた国々への対応のなごりである。日本を含む大陸法の国々では、著作物が創作された時点で自動で著作権保護がされる「無方式主義」を採用しているが、米国などの英米法の国々では、創作された著作物を政府当局に登録する手続きを経て初めて権利保護される「方式主義」が長年採られてきた。その結果、日本の美術品やフランスの小説などを米国で販売する際にも、外国著作権者がアメリカ合衆国著作権局 (略称: USCO) に著作物を登録する必要が出てきた。この手続を回避するため、万国著作権条約に加盟している国の著作物は、「©」を付していればUSCOに未登録でも法的に保護されると定めた。もっとも、これら方式主義の国々が最終的にベルヌ条約を批准して、無方式主義に転換したため、今日においては「©」の表示は法的に何ら意味はなくなっている[30]。
国内業界への政治的な配慮
- レコード業界
米国がローマ条約は加盟せず、レコード条約にのみ加盟したのは、著作隣接権の保護対象の違いである。著作隣接権とは著作者本人ではなく、著作物の流通に寄与する者 (著作隣接者) の権利であるが、ローマ条約では実演家、レコード製作者、放送事業者を包含している。しかし、レコード条約では実演家と放送事業者は除外されている。この理由は、1960年代頃からのレコード業界からの政治的圧力により、レコード製作者の権利は守る必要が出てきたが、著作隣接者すべての権利を守るとなると、ハリウッド映画業界が俳優 (実演家) に追加で利用料を払わなければならなくなるためである。そこでレコード業界とハリウッド映画業界の双方に配慮するため、米国においては著作隣接権は引き続き認めないが、レコード製作者のみは著作隣接者ではなく著作者とみなし、著作者本人の権利 (狭義の著作権) で保護することにしたのである[31]。
- IT業界
レコード業界と並んで米国の主力産業であるコンピュータ・プログラムも、政治的配慮が見られる。一般的には産業に関するアイディアは産業財産権 (特許権や商標権などの総称) で守り、アイディアの文化的な「表現」は著作権で守るという、アイディア・表現二分論がとられている。しかしソフトウェアやゲームなどは、例外的に著作権法の下で保護されている。これは今日では世界的な共通の慣行であるが、もともとは米国から他国への強力な働きかけによるものであった。これにより、特許を取得していないコンピュータ・プログラムであっても、著作権で保護されるようになった[註 12][32][33][34]。
現行法の詳細解説
※本節における「現行」とは、特記のない限り2019年2月現在の合衆国法典第17編 (米国著作権法) [35]に基づき記述している[註 13]。
※米国著作権法は特にデジタル著作物に関連する法改正が頻繁に発生しており、1998年10月28日から2014年12月4日の約16年間を例にとると、この期間に可決・制定された著作権の改正立法は計20本以上に上る[37]。条文の最新は合衆国法典の公式ウェブサイトを参照すること。
合衆国法典第17編の全体構成
合衆国法典第17編は章 (Chapter) の名称とその内容に一部不一致が起こっており、章の下の条 (Section) レベルで参照しないと、全体構成が把握できないため注意が必要である。これは米国著作権法の改正が頻繁に起こり、その度に権利保護の対象となる著作物が増え、例外や罰則などが追加で規定されてきたためである[註 14]。
章 | 章名 | 条 |
---|---|---|
第1章 | 著作権の対象および範囲 (Subject matter and scope of copyright) | 第101~122条 |
第2章 | 著作権の帰属および移転 (Copyright ownership and transfer) | 第201~205条 |
第3章 | 著作権の保護期間 (Duration of Copyright) | 第301~305条 |
第4章 | 著作権表示、納付および登録 (Copyright notice, deposit and registration) | 第401~412条 |
第5章 | 著作権侵害および救済 (Copyright infringement and remedies) | 第501~513条 |
第6章 | 輸入および輸出 (Importation and Exportation) | 第601~603条 |
第7章 | 著作権局 (Copyright office) | 第701~710条 |
第8章 | 著作権使用料審判官による手続 (Proceeding by copyright royalty judges) | 第801~805条 |
第9章 | 半導体チップ製品に対する保護 (Protection of semiconductor chip products) | 第901~914条 |
第10章 | デジタル音声録音装置および媒体 (Digital audio recording devices and media) | 第1003~1010条 |
第11章 | 録音物および音楽ビデオ (Sound recordings and music videos) | 第1101条 |
第12章 | 著作権保護および管理システム (Copyright protection and management systems) | 第1201~1205条 |
第13章 | 創作的なデザインの保護 (Protection of original designs) | 第1301~1332条 |
第14章 | -- (Unauthorized use of pre-1972 sound recordings) | 第1401条 |
著作物の利用者の観点では、著作権者に無断で利用しても著作権侵害に当たらないケースとして、フェアユース (公正利用、第107条) が知られている。しかしフェアユースは原則論に留まっており、著作物の種別や条件に応じた個別規定は複数の条にまたがっている点に留意が必要である。
著作権の対象と範囲
- 著作物の類型
米国著作権法が定める著作物とは (1)「言語著作物」、(2)「音楽著作物」(これに伴う歌詞を含む)、(3)「演劇著作物」(これに伴う音楽を含む)、(4)「無言劇および舞踊の著作物」、(5)「絵画、図形および彫刻の著作物」、(6)「映画およびその他の視聴覚著作物」、(7)「録音物」、(8)「建築著作物」の8種に分類されているが、例示でありこれらに限らないと記されている (第102条)。
また、原著作物を活用した「編集著作物」と「二次的著作物」も法の保護の対象となる。編集著作物とは、既存の素材またはデータを選択し、整理しまたは配列し、これらを収集し編成して作られた著作物である。二次的著作物とは、原著作物を用いて、翻訳、編曲、脚色、映画化、改訂するなどして創作された作品を指す (第102条)。これらの編集ないし二次的著作物と、その素材となった原著作物の著作権は別個に存在する (第103条)。
著作物の定義に関し、米国著作権法が他の先進国と異なる点が「固定」(fixed) である。つまり、印刷物や録音・録画など何らかの媒体に記録されている必要があり (第102条)、固定されていない生の著作物は法的保護の対象外となってしまう。例えば、日米の大学間でインターネットを使って合同授業が行われており、それがライブ配信されていたとすると、その授業内容は米国側では著作権保護されない[38]。
- 著作物の発表の定義
著作物の流通の観点からは、「既発表」(published) と「未発表」(unpublished) に分類され、著作権の保護範囲が異なる[註 15]。「発表」(publication, publish) の定義とは (第101条)、「著作物を複製 (copy) またはレコード収録 (phonerecord) し、一般に頒布すること」であり、「販売その他手段による所有権の移転、レンタル、リースや貸与」が頒布の具体的手段として挙げられている。そして「更なる頒布、実演または展示を目的として、複製またはレコード収録した著作物を特定の団体組織に提供することを発表と呼ぶ」としている。注意点として、「著作物を公に実演したり展示する行為そのものは、ここでの発表には含まれない」とされる[註 16]。
著作物の多くがインターネットを介して流通している現代社会において、発表の境界線をどのように解すべきか、いくつかのアプローチがとられている。全米の著作権関連団体・企業などが参加する米国著作権連盟 (The Copyright Alliance) によると、公衆向けに流通・販売・展示する目的で、著作物が複製またはレコード収録された最初の日が、既発表と未発表の境目だとされる。既発表の著作物の場合、発表日を起点として著作権の保護期間が計算される[39]。
また米国メディア写真家協会 (ASMP) は、写真のデジタル画像をウェブサイトにアップロードした場合、発表に相当するのかについて回答を寄せている[40]。同協会によると、
- 顧客に依頼されて撮影した写真をデジタルデータの形式で納品した場合、「複製またはレコード収録した著作物を特定の団体組織に提供」に該当するため、発表と見なされる可能性がある
- 写真家個人が運用するウェブサイトにデジタル画像を掲載した場合、そのサイトが一般からアクセス可能な状態であれば発表と見なされ、またそのウェブサイト自体が写真だけでなく文章やイラストなどの著作物で構成されているため、ウェブサイト全体が著作権保護の対象となるだろう
と解説している。ただし個別ケースの判断においてはUSCOのCircular (手引書) を参照するよう推奨している。Circular 66では、ウェブサイトおよびそのコンテンツに関する著作権登録について記述されている[41]。
- 国際的な著作物への米国著作権法の適用範囲
著作物や著作者の国際化の観点からは、既発表と未発表著作物で対応が異なる (第104条)。未発表著作物の場合、著作者の国籍や現在居住地は不問で著作権の保護対象になる。一方の既発表著作物は、以下6要件のいずれか1つ以上に該当すれば、米国著作権法が適用されうる。
- 発表初日の段階で、著作者の一人以上が「米国籍あるいは米国住民」、「条約加盟国の国民、住民、あるいは加盟国の政府機関などの主権者」、「無国籍者 (現在居住地は問わない)」のいずれかに該当する場合
- 米国内で最初に発表されたか、あるいは発表初日の段階で条約加盟済の国で発表された場合
- 音声レコーディングのうち、条約加盟国内で最初に録音完了したもの
- 絵画、図形または彫刻作品のうち、ビルなどの建造物に組み込まれている場合、あるいは建築著作物のうち、米国ないし条約加盟国内のビルなどの建造物に組み込まれている場合
- 最初の発表者が国際連合もしくは国際連合の専門機関、または米州機構 (OAS) の場合
- 一定の条件下で、米国大統領の布告 (proclamation) によって保護すると指定された著作物
- 著作者の有する排他的権利
著作者が有する諸権利を日本の著作権法ではまとめて「支分権」と呼んでいるが、米国著作権法では「排他的な権利」(exclusive rights) という強い表現が使われているのが特徴である。具体的に排他的権利とは (1)「著作物のコピーまたはレコード複製」、(2)「二次的著作物の作成」、(3)「販売、所有権の移転、貸与による頒布」、(4)「著作物を使った実演」、(5)「著作物を使った展示」、(6)「録音物の場合、デジタル音声送信による実演」の6点だと定義されている (第106条)。換言すると、複製や頒布などを著作者の許諾なしに第三者が行うと著作権侵害になることを意味する (第501条)。
さらに1990年制定の法改正 (Visual Artists Rights Act of 1990、略称: VARA) により、いわゆる著作者人格権が付け加わった (第106A条)。ただし日本の著作権法と異なり、著作者人格権が認められるのは視覚芸術著作物 (visual arts) に限定されている。米国著作権法における視覚芸術著作物とは、絵画・素描・版画・彫刻・展示目的の現像写真の5種類に限られている。さらにこれら5種類のうち、複製が200点以下であり、シリアルナンバーと著者の署名が刻まれているものに限定し、著作者人格権が認められる (第101条)。つまり、容易に大量複製や翻案化できるもの、あるいは大衆向け商業目的の著作物には著作者人格権が認められない。著作者人格権が認められないケースとして、ポスター、地図・地球儀、海図、技術図面、図表、模型、応用美術、映画などの動画、書籍、雑誌、新聞、定期刊行物、データベース、電子情報サービス、電子出版物、商品、広告宣伝・説明、パッケージなどの包装・容器、職務著作物が挙げられている (第101条)。
著作者と第三者の権利関係
- 著作者と著作権者の相違点
個人・団体を問わず著作権を有する者を「著作権者」と呼ぶが、米国著作権法では著作権が誰に帰属するのかを大きく3つに分けて定義している (第201条)。第一に、著作物の著作者 (最初の作成者) が著作権者だとする「原始的帰属」 (Initial ownership) という基本的な考え方である。第二に、雇用主の命により業務の一環で従業員が著作物を作成した場合は、著作者である従業員個人ではなく雇用主が著作権者だとする「職務著作」 (Works made for hire、またはWorks for hire) の考え方である。第三に、個々の著作物を寄せ集めて作成・編纂された「集合著作物」である。複数の楽曲を収録した音楽アルバムや、複数のジャーナリストが寄稿して発行される雑誌などが集合著作物に該当する。集合著作物の著作権と、それを構成する個々の著作物の著作権は別個に存在する。
- 第三者への著作権の移転
第106条で定められた排他的権利 (支分権) は、譲渡や独占ライセンス許諾、抵当設定、相続などによって著作者から第三者に移転 (transfer) することができる (第201条 (d))。著作権の移転が効力を発揮するには、著作権者あるいはその代理人による署名付きの書面作成が必須となる (第204条)。この譲渡証書は任意でUSCOに登録することもできる (第205条)。
移転は支分権全てである必要はなく、その一部のみ移転させることが可能である。例えば、小説の作者が小説出版権 (原著作物の頒布権) を出版A社に売却し、小説の映画化権 (二次的著作物の作成権) を映画配給B社に売却するといったように、諸権利をバラバラに分解する行為も移転と定義される。また、独占ライセンスの許諾に有効期限を設定したり、その独占をある地域に限定するといった、時空を特定することも可能である (第201条)。ただし、米国著作権法上の移転の定義には、非独占ライセンス許諾は含まれない (第101条)。また移転の対象に第106A条は含まれないことから、著作者が死去すると著作者人格権は第三者に継承できないと解される (第201条)。
- 複製された著作物の所有者の権利
米国著作権法の定める著作権者とは、著作物の排他的権利を有している者であって、排他的権利を行使して作成された実物の所有者 (購入者) とは分けて捉えられている (第202条)。所有者とは例えば、出版された書籍や音楽ダウンロードサービスで楽曲を購入した消費者である。仮に小説を執筆した著作者がその小説を出版販売したとしても、小説の購入者が所有しているのは小説という実物の商品のみであって、小説の著作権まで購入したわけではないという意味である。
複製された著作物の所有者は、著作権者の許諾なしで自由に所有物を売却処分することができる (これを「消尽論」という)。ただし、録音物またはその録音物に含まれる音楽著作、あるいはコンピュータ・プログラムのコピー所有者が処分する際には、一部の例外を除き、著作権者の許諾が必要になる。また所有者は、著作物のコピーまたはレコード複製を使って、その場で一般の観衆向けに展示することができる。展示が許されるのは所有者であり、著作権者から著作物を貸与された場合は適用外となる (第109条)。
著作権保護の例外と制約
米国著作権法では、権利の強い排他性を第106条と第106A条で述べ、第107条以降でその排他性を緩和する諸々の例外と制約事項が付け加えられる条文の構造となっている。
著作権で保護されない著作物はパブリック・ドメイン (公有) とみなされ、その内訳は著作権が「元来発生しない」性質の著作物と、著作権は発生したが後に「消滅した」著作物に大きく分けられる。これらパブリック・ドメインに帰す著作物を第三者が利用しても、上述の排他的権利を侵害したことにはならない。
また著作物そのものはパブリック・ドメインに帰しておらず保護期間内であるものの、一定の条件を満たしていれば著作者に無断で利用しても著作権侵害とはならない。その代表例がフェア・ユース (公正利用) である。
- パブリック・ドメインの著作物
合衆国法典上、元来権利が発生しない著作物としては合衆国政府の著作物が挙げられる (第105条)。ただし、州政府などの地方自治体の著作物については、合衆国法典の規定の範囲外であり、各自治体で別途定められている。例えばオレゴン州やジョージア州などでは、注釈付きの州法法令集は著作権保護の対象内だとしている[註 17]。
著作権保護が消滅してパブリック・ドメインに帰す著作物には、著作権の保護期間切れなどがある。保護期間の詳細は#著作権の保護期間で後述する。
- フェアユース (総論)
フェアユースの利用シーンとしては「批評、解説、ニュース報道、教育、研究または調査」が例示されており、また最終的には「使用の目的」(非営利の教育など)、「著作物の内容」、「量・質の両側面から著作物が使用された割合」、「使用によって著作物の市場価値にどの程度影響を及ぼすか」などを考慮して総合して判断される。条文ではincludingやsuch asといった表現が使われていることから、これら利用シーンや考慮点はあくまで例示である点に留意が必要である (第107条)[註 18]。
- 保護制限の個別規定
第107条のフェアユースとは別に、特定条件下で著作権者の排他的権利に制限がかかり、利用が緩和・促進されている条項が複数ある (第108条~122条)。例えば、図書館や文書資料館による複製は公共の利益目的であり、著作権侵害に該当しないとされている (第108条)。またコンピュータ・プログラムにも著作権が認められるが、そのプログラムのコピー所有者が著作者に無断で新たにコピーまたは翻案物 (adaptation) を作成する場合、一定の条件を満たしていれば著作権侵害とならない。その条件とは、コンピュータ・プログラムを内蔵した機械・端末を生産する目的であり、それ以外に転用されないこと、あるいは保存目的で更なるコピーまたは翻案物を作成し、所有者が所有権を喪失した時点で廃棄することの2点である (第117条)。
著作権の保護要件
著作権の保護期間
原則は著作者の没後70年間が保護期間となる。しかし著作権の保護期間は数回の法改正により延伸していることから、現行法においては著作物の発表日が1978年1月1日 (1976年制定の著作権改正法の発効日) を境にして保護期間が異なるほか、様々な条件分岐が発生している。未発表または米国内で初めて発表された著作物 (但し録音物および建築物を除く) を例にとると、保護期間は以下となる[44]。
発表日 | 著作権表示あり | 著作権 表示なし | |
---|---|---|---|
更新手続あり | 更新手続なし | ||
1923年以前 | PD | PD | PD |
1924年1月1日 - 1963年12月31日 | 発95 | PD | PD |
1964年1月1日 - 1977年12月31日 | 発95 | 発95 | 発95 |
発表日[註 22] | 創作日 | 実名著作物 | 実名著作物以外 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
著作権 表示あり |
著作権表示なし | 著作権 表示あり |
著作権表示なし | ||||
事後登録 あり |
事後登録 なし |
事後登録 あり |
事後登録 なし | ||||
1978年1月1日 - 1989年2月28日 |
1977年以前 | 旧法 or 2047末 |
没70 | PD | 旧法 or 2047末 |
発95 or 創120 |
PD |
1978年以降 | 没70 | 没70 | PD | 発95 or 創120 |
発95 or 創120 |
PD | |
1989年3月1日 - 2002年12月31日 |
1977年以前 | 旧法 or 2047末 |
旧法 or 2047末 |
旧法 or 2047末 |
旧法 or 2047末 |
旧法 or 2047末 |
旧法 or 2047末 |
1978年以降 | 没70 | 没70 | 没70 | 発95 or 創120 |
発95 or 創120 |
発95 or 創120 | |
2003年以降 | 1977年以前 | 没70 | 没70 | 没70 | 発95 or 創120 |
発95 or 創120 |
発95 or 創120 |
1978年以降 | 没70 | 没70 | 没70 | 発95 or 創120 |
発95 or 創120 |
発95 or 創120 | |
未発表 | 不問 | 没70 | 没70 | 没70 | 創120 | 創120 | 創120 |
- 凡例
凡例 | 解説 |
---|---|
没70 | 著作者の没後70年間 |
発95 or 創120 | 発表から95年間、あるいは創作から120年間のいずれか短い方 (職務著作、変名著作、無名著作、著作者の死亡日不明など、実名著作で定めた「没後70年間」を適用できないため) |
発95 | 発表から95年間 |
創120 | 創作から120年間 |
旧法 or 2047末 | 旧法で規定の保護期間満了まで、あるいは2047年12月31日までのいずれか長い方 |
PD | 保護期間が消滅し、パブリック・ドメインに帰す |
1978年1月1日以降に創作された著作物に対しては、米国著作権法では一般的に著作者の没後70年までとされる。著作者が複数人いる場合は、最も生存の長かった者を基準とする。ただし、職務著作・無名著作 (著作者不明)・変名著作 (ペンネームや芸名などを使った創作)・著作者の没年不明の場合は、創作日から120年あるいは発表から95年のいずれか短い年数が適用される (第302条)。
1978年1月1日より前 (1977年12月31日以前) に創作された著作物の保護は、既発表と未発表で保護期間が異なる。未発表かつパブリック・ドメインにも帰していない場合は、上述の第302条と同期間が適用される。ただし、この未発表著作物が1978年1月1日~2002年12月31日の間に発表された場合は、2047年12月31日まで著作権の保護が認められる (第303条)。また、1978年1月1日より前に頒布していても、レコードに関しては既発表とは見なされない例外が設けられている (第303条)。
1978年1月1日より前に創作された既発表著作物のうち、1978年1月1日時点で最初の保護期間中の場合は、28年間が認められる。また最初の保護期間が満了した後、一定の条件を満たせばさらに67年間更新延長できる (第304条)[註 23]。
ただし、著作者の生死に関わらず、1923年12月31日以前に創作 (楽曲の場合は1922年12月31日以前に作曲) された著作物は、保護期間が消滅してパブリック・ドメインと見なされる[44]。
- 保護期間の計算方法
米国著作権法の場合、保護期間の満了日は暦年の最終日までとされる (第305条)。例えば1980年代に創作され、著作者が1990年9月1日に死去した場合、著作権の保護期間は死後70年のため2060年であり、その暦年の最終日である2060年12月31日が満了日となる。日本の著作権法でも死後70年で満了の場合、死去日の翌年から起算して70年間のため、満了日は必ず暦年の最終日 (12月31日) に到来する[45]。したがって米国と日本の満了日の計算方法は実質的に同じである。
著作権保護の手続
1976年の著作権改正法(Copyright Act of 1976) が施行された1978年1月以降、USCOへの著作物の登録がなくとも著作権保護が与えられることとなった (第409条)。しかし著作権侵害などで民事訴訟を起こす際には、USCOへの登録が必要となる (第411条)。登録申請にあたり、著作者名・住所、(無名または変名著作物の場合は) 著作者の国籍または住所、創作年と発表日・発表国などを著作権者は記入する必要がある (第409条)。これは無名・変名・職務著作物や、最初の発表国が米国内であるか否かによって、著作権保護期間のカウント方法が異なるためである。USCO局長は提出された登録申請に基づき、著作権法が定める著作物でないと判断した場合は無効の判断を下し、許可されたもののみ登録証明書を発行する (第410条)。裏を返すと、著作権法の保護対象をUSCO局長が線引きしており、司法に対する越権行為ではないかとの懸念もあり、この「登録」の定義を巡って争われた裁判も数件存在する (著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)の「ニューヨーク・タイムズ他対タシーニ裁判」、「リード・エルゼビア対マッチニック裁判」、「フォース・エステート対Wall-Street.com裁判」も参照)。
1988年のベルヌ条約履行法(Berne Convention Implementation Act of 1988) の成立により、米国でも1989年から無方式主義が採用された結果、著作権保護の観点からは著作権マーク「©」 (マルC、Copyrightの意) または「℗」(マルP、レコードのPhonogramの意) や著作者名、発表年の表示は必須ではなくなった (第401条)。
USCOへの納付は引き続き原則必要となっており、発表から3か月以内に行わなければならない。納付はコピー2部 (レコードの場合は発表に付属していた印刷物などの付属資料も) が求められている。ただし元々コピーが4部以下しか作成されていない著作物 (1点ものの絵画など) や、シリアルナンバーを付した限定リリース品などは納付の義務が免除されている。納付を怠った場合、著作物1点あたり250ドル以下の罰金が科される (第407条)。
著作権侵害と救済
民事訴訟
侵害された被害者 (著作権者) は、請求権が発生してから3年以内であれば民事訴訟を起こすことが可能である (第507条)。裁判は長期化することもあるため、短期的な救済として差止命令、差押や処分を被害者は裁判所に請求し、さらなる侵害を食い止めることができる。差止命令とは侵害者の行為を止めさせる裁判所命令であり、合衆国全域で効力を発揮する。換言すると、差止命令の法的強制力は米国外には及ばないことを意味する。差止命令の法的根拠と手続については、合衆国法典第28編 (各種訴訟法) の第1498条 (特許権および著作権) に定められている。また、著作物を違法に複製している場合などは、その複製物を差押するだけでなく、複製のために用いられる版木やテープといった手段も廃棄処分できる。
金銭的な補償として、被害者は現実損害賠償あるいは法定損害賠償を選択できる。現実損害賠償の場合、被害者が被った現実損害の額と、著作権侵害者が得た利益の総額で算出される。被害者は侵害者の総収入のみ立証責任がある。総収入のうち、著作権侵害以外から得た収入などがある場合は、侵害者側の申告で初めて控除され、現実損害賠償額が最終決定される。
一方、法定損害賠償を選択した場合、著作物1点あたり、原則は750ドル以上3万ドル未満で裁判所が賠償金額を決定する。原著作物を用いて作成された編集著作物や二次的著作物も著作権侵害を被った場合、著作物1点あたりの賠償単価が上乗せされることはあるが、「著作物1点」がダブルカウントされるわけではない。また、著作権侵害が故意だと認められた場合は、賠償単価の上限が3万ドル未満から15万ドル未満まで増額される。逆に侵害者が知らずに侵害していた場合は、賠償単価の下限が750ドル以上から200ドル以上まで減額される[註 24]。
損害賠償に加えて、民事訴訟に要した費用も請求できる。具体的には提訴に要する諸手続の費用の他、雇用した弁護士への報酬支払額も補填の対象となる。
インターネット関連事業者への免責
著作権侵害がインターネットを介して行われた場合、その通信環境を提供したインターネットサービスプロバイダー (ISP) またはオンラインサービスプロバイダー (OSP)、あるいは検索エンジンなどのデータキャッシング事業者各社は、一定の条件下で損害賠償を免責される (第512条)。この免責条件は1998年制定・施行のデジタルミレニアム著作権法によって加えられ、いわゆるセーフハーバー条項とされる[註 25]。ISPやOSPに適用される免責条件を例に取ると、以下の5要件全てを満たしている必要がある。
- 著作権侵害のデジタルデータがISPやOSP以外の第三者によって送信されたこと
- 送信・転送・接続・データの蓄積が自動的に行われていること
- データの受信相手をISPやOSPが指定していないこと (ただし相手からの返信で自動送信したケースは「指定」に含まれない)
- 受信者以外の第三者がアクセス可能な方法でシステム上に侵害データを保存していないこと (受信者が未受信のままサーバー上のメールボックスに保存されている分には問題ない)
- 送信の際にデジタルデータをISPやOSPが改変していないこと
また同512条では、いわゆる「ノーティス・アンド・テイクダウン」手続についても規定している。これは著作権者の許可なく著作物が第三者によってウェブサイトに掲載されたと通知 (notice) を受けた場合、そのウェブサイトの運営者が速やかに削除 (takedown) すれば損害賠償などを免責されるという仕組みである。運営者が免責される要件や要点は以下の通りである[47]。
- ウェブサイトの運営者は、著作権者が侵害を通知できる連絡先を常に掲示しておかなければならない。
- 著作権者から削除要請の通知を受けた時点で、実際に著作権侵害かをウェブサイト運営者自身で調査・判断する必要はなく削除できる。
- 削除した後、運営者はその情報を無断掲載した本人に対し、削除済の通告をしなければならない。
- 無断掲載者から反対通知 (著作権侵害ではないとの反論) がなければ、たとえ著作権侵害に当たらない内容だったとしても削除されたままで問題ない。
- 無断掲載者から反対通知が届いた場合、ウェブサイトの運営者はその反対通知の写しを著作権者にも提供しなければならない。
- 反対通知の写しを受領した著作権者が10~14営業日以内に提訴しない限り、ウェブサイトの運営者は削除済の内容を復活させる。
- ただし、ウェブサイトの運営者が著作権侵害の事実を明確に知りえた場合は、著作権者からの削除申請通知がなくても、削除などの適切な対応をとらなければならない。
米国のノーティス・アンド・テイクダウン手続は、ウェブサイトの運営者に対して「『とりあえず削除』のインセンティブを高めてしまうのではないか」との懸念が呈されており、日本においても2011年総務省主催の専門家ワーキンググループ会合にて、日本に同様の法制度を導入することへの慎重論が展開された[47][48]。また、米国のオンラインニュースTechCrunchでは「史上最高に馬鹿げた著作権侵害のDMCA通告」と題して批判している[49]。当手続の濫用が問われた例として、著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)の「イコールズ・スリー対ジューキン・メディア裁判」も参照。
刑事手続
被害者による民事訴訟以外に、警察や検察が刑事事件として手続を執る場合がある。著作権侵害罪として刑法上で扱われるのは、(1) 故意で商業的あるいは私的利益を目的とした場合、(2) 過去180日以内に総額1000ドル超の市場価値を有する複製または頒布を行った場合、(3) 商業的な目的でインターネット上で著作物を頒布した場合の3条件のいずれかに該当する場合である。
総額2500ドル超の市場価格を有し、10点以上を複製または頒布した場合を例にとると、初犯は懲役5年以下または25万ドル以下の罰金 (あるいはその両方) に処せられる[50]。同条件で再犯の場合は懲役10年以下または25万ドル以下の罰金 (あるいはその両方) に引き上げられ、さらに常習犯の場合は刑が重くなる。一方、軽犯罪の場合は懲役1年以下または10万ドル以下の罰金に軽減される。また、デジタルミレニアム著作権法施行による改正により、技術的保護手段の回避禁止が盛り込まれた。その結果、コピーコントロールやアクセスコントロールを回避・解除して著作権を侵害した場合は、初犯でも懲役5年以下または50万ドル以下の罰金 (あるいはその両方)、再犯の場合は懲役10年以下または100万ドル (あるいはその両方) に処される[50]。
これらの懲役・罰金に加え、合衆国法典第18編 (刑法および刑事訴訟法) の第2323条 で定められた方法に従って、没収・破棄・返還を行うことができる。また他者を欺く目的で偽りの著作権表示を行ったり、そのような欺罔的な表示の複製品を頒布・輸入したり、著作権表示自体を除去したり、偽りの著作権登録申請を行った場合は、それぞれ2500ドル以下の罰金に処せられる。
侵害が発生してから5年以内であれば検察による刑事訴訟の着手は可能で、その手続の詳細は合衆国法典第18編の第2319条 (著作権侵害) に定められている。
なお、日本を含む環太平洋パートナーシップ協定 (TPP11) 締結各国は[51]、2018年12月に発効した同協定に基づいて著作権侵害の「非親告罪化」のための国内法手続を進めている[52]。親告罪とは、被害者本人あるいは法で定めた者 (法定代理人、親族など) からの告訴がない限り、刑事訴訟に至らない犯罪を指す。これを非親告罪化することはすなわち、著作権者以外の告訴によっても検察は刑事訴訟に踏み切れることになる。しかし米国はTPP交渉から途中離脱したため、非親告罪化を合衆国法典上で明文化する必要はなくなった。ただし合衆国法典では元々、著作権侵害罪が親告罪だとも明文化されていない。
法改正の歴史
米国内法の主な改正点
米国の著作権法は、世界初の本格的な著作権の制定法とも言われる英国のアン法の流れを汲み[53]、独自の米国連邦法としては初めて1790年に著作権法 (Copyright Act of 1790) が制定された[註 26]。その後、時代の変遷に合わせて多くの改正が重ねられているが、主な改正点は以下の通りである[註 27][註 28]。
- 1790年の著作権制定法 (Copyright Act of 1790) - 初の米国連邦法。著作権保護期間を14年 + 更新延長14年に設定
- 1891年の国際著作権改正法 (International Copyright Act of 1891) - 米国外の著作物を対象とした米国内での権利保護規定
- 1909年の著作権改正法 (Copyright Act of 1909) - 著作権保護期間を28年 + 更新延長28年に改正
- 1976年の著作権改正法 (Copyright Act of 1976) - 20世紀最大の改正。著作権保護期間を75年または著作者の死後から50年に改正。未発表の著作も保護対象化
- 1988年のベルヌ条約履行法 (Berne Convention Implementation Act of 1988) - 国際条約に合わせた米国内の著作権法改正 (無方式主義の採用など)
- ソニー・ボノ著作権延長法 (Copyright Term Extension ActまたはSonny Bono Act) - 1998年制定。著作権保護期間を出版から95年または創作から120年、または著作者の没後70年に改正
- デジタルミレニアム著作権法 (Digital Millennium Copyright ActまたはDMCA) - 1998年制定。WIPO著作権条約に則して、デジタル著作物に関する著作権侵害の罰則と免責を明確化
国際化とデジタル化への対応
1790年の米国著作権法では、その権利保護の対象は米国籍の著作者であり、米国内に流通する著作物に限定されていた[54]。米国内では米国外の著作物が盛んに無断で複製され、その著作者に印税やライセンス料が入らない事態が発生していたことから、1800年から1860年代までは海賊版出版時代 (The Great Age of Piracy) と呼ばれていた。1870年代後半から大手出版社らが国際著作権保護支持に転じ、1891年に国際著作権改正法が成立した[55]。なお、同時期の1887年にはベルヌ条約が発効している。
20世紀最大の改正と言われるのが、1976年制定・1978年施行の改正法である。これにより国際水準からの遅れを取り戻し、1988年にベルヌ条約批准に至っている。
インターネットの普及に呼応する形で、国際社会がデジタル著作物の法的保護に取り組み始めたが、米国ではいち早く1998年にデジタルミレニアム著作権法 (DMCA) を成立させ、デジタル著作物に関する罰則と免責条件が明文化している。しかし著作権侵害が不明瞭でも「とりあえず削除」のインセンティブをインターネット事業者に与えうるとして批判は根強い。DMCA成立以降もデジタル著作物に関連する法案は連邦議会に多数提出されているが、大幅な改正法案は全て廃案となっている[56]。
司法判断
米国著作権法には多くの判例が存在するが、その一部を紹介する。
法的に保護される著作物の範囲を巡って争われたのが、1990年最高裁判決の「ファイスト出版対ルーラル電話サービス裁判」である。これは電話帳に掲載された番号を無断で転載した事件であるが、単なるデータの配列だけの電話帳が、そもそも著作物と言えるのかが問われた。この判決により、アイディア・表現二分論 (著作者の創作性・オリジナリティに基づく表現を保護するのが著作権だとする考え方) が明示され、額の汗の法理 (著作物の内容や特性の如何に関わらず、著作者の労力の賜物である著作物を保護しようとする考え方) は否定されることとなった[57]。
フェアユース関連で注目された大規模裁判が、「全米作家協会他対Google裁判」である。Googleブックスが著作者に無断・無償で書籍をデジタルスキャンして、インターネット上に公開する行為が著作権侵害かが問われた。当初は当事者間で和解交渉が進められていたが、和解によって逆にGoogleの電子書籍市場における独占が強まる恐れがあり、反トラスト法 (独占禁止法) への抵触が指摘された。さらにGoogleブックスのスキャンした書籍が世界各地におよんでいたことから、諸外国の政府からも批判を受け、一時は外交・国際司法の問題も孕んでいた。裁判所も当初は著作権侵害を認めていたが一転し、最終的にGoogleのフェアユースを認める判決で11年後の2016年に終結した[58]。
また、「Oracle対Google裁判」もフェアユースの動向を探るうえで注目されている。企業買収により、OracleがJava APIの権利を獲得したが、Java APIがGoogle製のモバイル用OSであるAndroidに利用されており、OracleがGoogleを提訴している[59][60]。Oracleは特許権と著作権侵害あわせて88億米ドル (約1兆円) の損害賠償を求めている。二審では原告Oracle有利の判示が出ているが[59][60]、Googleは2019年1月、二度目の最高裁への上告受理申立て (certiorari) を行っている[61]。
消尽論関連では、2013年最高裁判決の「カートサン対ワイリー裁判」が知られている。タイ人留学生が、米国とタイで販売される同一の教科書の価格差に着目し、タイから逆輸入してオークションサイトのeBayで転売した事件である[62]。2013年、二審の判決を覆す形で、最高裁はカートサン無罪の判決を下した。この判決により、米国の著作物が米国外で複製印刷・販売され、再び米国内に逆輸入した際にも、米国著作権法 第109条が定める消尽論が適用されることが判示された[56]。
米国内での保護水準が低いとされる著作者人格権に関しては、勝訴のレアケースとして「モンティ・パイソン対ABC裁判」が挙げられる[63]。イギリスを代表するコメディ・グループによるテレビ番組『空飛ぶモンティ・パイソン』(英国BBCにて放送) が、米国ABCでも放送された際に一部内容が改変されたことから、原著作物の同一性保持権侵害が問われた裁判である。二審は1976年、編集カットによってモンティ・パイソンのブランドが毀損するとして原告勝訴の判決を下した[64][65]。なお、著作者人格権は狭義の視覚芸術著作物に限定する形で、1989年に米国著作権法上で明文化されている。仮にこの改正以降に提訴していた場合、著作者人格権はテレビ番組には適用不可と判断され、敗訴していた可能性も指摘されている[65]。
著作権管理サービス
著作権者 (創作者) が排他的な権利を有したままでは著作物の社会利用の妨げになることから、著作権者と利用者を仲介する機能が求められる。この仲介を公的に果たしているのがアメリカ合衆国著作権局 (略称: USCO) であり、米国著作権法によってその役割が規定されている。主な業務は著作物の収集と登録、権利移転 (名義書き換え) である。これにより、誰がどの著作物の権利を有しているのかが可視化できる。著作権は財産の一部であることから、土地・建物のように自由に著作権を相続・売却・貸与できるため、移転の処理件数は多く発生している。
また、民間の仲介機能としては著作権管理団体の存在が大きい。
合衆国著作権局
USCOはアメリカ議会図書館の一部局であり、議会図書館は連邦議会 (つまり立法府) の一組織である[註 29]。これは元々、議会図書館が世の中の著作物を広く収集し、新たな法律の作成・改正の際の調査分析に役立てるために存在しているからである[66]。著作権者の名義登録が不要になった現在でも、著作物の納付が義務付けられているのはこのためである。2018年度の実績報告によると[註 30]、議会や行政機関および一般からの議会図書館に対する問い合わせ件数は100万件を超える。また同年度のUSCOによる著作物の登録処理件数は56万件超、著作権者の移転処理件数は2万件超、著作物の登録申請のうち、96%は電子申請システム経由で提出されている。登録料収入は年3800万ドルに達している[67][66]。
ベルヌ条約の批准に伴い、無方式主義を米国も採用するようになったことから[68]、著作権保護の観点ではUSCOへの著作物の登録は必須ではなくなった[註 31]。その反動で、著作物を利用したくとも許諾を求める相手が不明な著作物 (orphan works、直訳は孤児著作物) が増加し、著作物の社会利用が妨げられるジレンマを抱えるようになった[69]。
さらにUSCOの責務は単なる管理業務に留まらず、著作権法のあり方に関して連邦議会に提言する立場にある[67]。特に20世紀最大と言われる1978年の改正法は、USCO局長だったバーバラ・リンガーが立役者と言われ、草案作成から議会へのロビイング、そして可決まで21年を費やしたとされる[70][71]。
またデジタルミレニアム著作権法 (DMCA) に基づき、ノーティス・アンド・テイクダウン手続がインターネット事業者の免責として定められているが、その通報先と通報窓口担当者をUSCOのデータベースに電子登録する仕組みを2016年12月より導入した[72]。このようにUSCOは著作権者と利用者の利害調整として広範な役割を果たしている。
著作権管理団体
著作権管理団体は著作権者に代わって著作物の利用ライセンスを販売したり、ライセンス料を徴収・分配する集中管理・決済機能を果たしており、音楽や映画、出版など業界別に複数の団体が米国に存在する[56]。単にUSCOに登録しただけでは、著作権者と利用者はN対Nの関係のままであり、利用許諾や利用料の徴収業務が多数発生して煩雑化してしまう。そこで、著作権管理団体が著作権者および著作隣接権者の窓口を担うことで、これが1対Nの関係となり、効率性が増す[73][74]。ただし、著作権管理団体は巨額のライセンス権を取り扱うことから、司法省の監督の元で反トラスト法 (米国の独占禁止法) の規制が一部掛かっている[56]。
インターネットの普及に伴い、この構図が1対Nから1対1の関係にシフトする傾向が生まれた。つまり、権利者側の窓口が著作権管理団体なのに対し、利用者側の窓口をインターネットサービス事業者や携帯電話などの通信事業者が務める構図である[73]。音楽業界を例にとると、Amazon MusicやSpotifyなどが著作権利用料込みで一般ユーザに課金し、それを一括して著作権管理団体に支払うマネーフローである。これらインターネットサービス事業者の市場における存在感が増すにつれ、著作権者や著作権管理団体との利害衝突も発生している。これに関しては米国よりも欧州連合 (EU) が先行しており、2019年4月可決・同年7月施行の「デジタル単一市場における著作権に関する指令」に基づき、EU加盟国は国内法を整備する義務を負い、権利者サイドとインターネットサービス事業者サイドの利害調整と単一化を目指している[75]。
関連項目
- 著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)
- 著作権 - 世界各国共通の法的概念を解説
- 著作権法 - 日本の著作権法に特化した詳細解説
- 著作権法 (欧州連合) - すべてのEU加盟国に義務付けられている著作権法改正のEU指令概説
註釈
- ^ 著作物の創作、複製、販売、実演などに直接関与する業界を「狭義」の著作権市場とした場合の米国年間市場規模。
- ^ さらに周辺産業を加えた広義の著作権市場では、2.2兆米ドル (対GDP比11.59%) に達する[1]
- ^ もっとも、コモンローを採用する米国では法律文面上 (成文法上) ではなく、判例で柔軟に保護を与えていることから、実質的に著作権の保護水準が低いかは検証の余地がある。著作権法の判例一覧 (アメリカ合衆国)も参照のこと。
- ^ アダルト映画製作Malibu Mediaの1社だけで2012年から2016年の間に計5000件以上提訴していることから、この5年間の総件数の上振れ特殊要因となっているが、「年平均3000件前後」の数値からはMalibu Mediaの特殊要因は除している。
- ^ 例として、全米作家協会他対Google裁判が挙げられる。Googleブックスによる書籍のデジタルスキャンが世界的に行われていた結果、当裁判にはフランスやドイツ当局からも意見書が提出されている。
- ^ 欧州連合 (EU) からは条約違反であると指摘されている[9]。
- ^ 日米で比較すると、日本国憲法第41条~第64条が「国会」に関する記述であるが、主に国会の運営方法について定められており、国会が有する権限 (なすべき役割) として著作権あるいはその上位概念の知的財産権保護という文言は登場しない[12]。
- ^ もっとも、連邦議会への法案提出は他国と比較して容易であるため、著作権法に限らず全体的に廃案が多い。1973年1月~2019年1月の会期を通算すると、著作権法を含むすべての法案および両院合同決議 (Joint resolution) の可決率合計は1割前後である[13]
- ^ 一部は条約の水準を満たしておらず他国から条約違反が指摘されている。
- ^ WTOに加盟すると自動的にTRIPS協定の順守義務を負う。
- ^ a b c 1910年当初の署名国はアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、キューバ、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、ハイチ、ホンジュラス、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、アメリカ合衆国、ウルグアイ、ベネズエラの20か国である[26]。その後国内での批准をキューバ、エルサルバドルとベネズエラの3か国が行わず、署名時には参画していなかったボリビアが後に批准したため、ブエノスアイレス条約の加盟国は計18か国となっている[27]。
- ^ 著作物の利用者は、著作物を知覚してアイディアを学ぶことは許されており、著作権侵害にはならない。しかしコンピュータ・プログラムの場合、端末にプログラムをインストールする (またはインストールされたサーバーにアクセスする) ことでしか知覚できない。このインストールの行為が、著作権法上の複製権 (著作権者が他者に無断でコピーされない権利) に該当することから、コンピュータ・プログラムも著作権で保護されるという法的ロジックになっている。
- ^ 条文内の専門用語は、合衆国著作権局 (USCO) による定義解説に準拠する[36]。各種用語の日本語訳は、公益社団法人著作権情報センターの表記を一部参照しつつ[37]、日本国著作権法で多用される一般的な著作権用語に一部置き換えている。
- ^ 例えば20世紀に入ってから世に登場した半導体チップ製品は、その著作権について第9章にまとめて追記されている。その一方で、衛星放送によるテレビ番組の遠隔二次放送に関しては、第1章の第119条に規定されている。この第119条には章名に呼応した著作権保護の範囲だけでなく、著作権侵害発生時の救済手段、放送コンテンツの使用許諾の手続やUSCOへの支払明細書の送付方法など、他章に横断する委細が記述されている。
- ^ publishは「発表」や「公表」以外に「発行」の日本語訳が充てられることがあるが、いずれにしても紙で印刷された著作物に限定されない。
- ^ 原文は"Publication" is the distribution of copies or phonorecords of a work to the public by sale or other transfer of ownership, or by rental, lease, or lending. The offering to distribute copies or phonorecords to a group of persons for purposes of further distribution, public performance, or public display, constitutes publication. A public performance or display of a work does not of itself constitute publication.である。
- ^ 州法法令集の著作権を巡っては、ジョージア州対マラムッド裁判などが起こっている。2015年7月、ジョージア州はPublic.Resource.Orgの創設者でありオープンコンテンツ推進の活動家でもあるカール・マラムッドを相手取り、著作権侵害でアトランタの連邦裁判所に提訴した。訴状によると、注釈付きのジョージア州法をマラムッド自身のウェブサイトに掲載した著作権侵害は「テロ行為」(terrorism) だとジョージア州は糾弾しているものの、両者の主張は対立している[42][43]。
- ^ 用語の定義が記された第101条において、"The terms "including" and "such as" are illustrative and not limitative." (includingやsuch asといった表現はイメージの例示であり、例以外を排除するものではない) と記されている。
- ^ 旧法では未発表の著作物、および既発表でも著作権表示や延長更新手続を怠った著作物は、著作権法の保護対象外であった。
- ^ a b 下表の解説対象は未発表または米国内で初めて発表された著作物 (但し録音物および建築物を除く) に限る。
- ^ 1976年制定の改正法が1978年1月1日より施行され、未発表著作物も保護対象となった他、著作権表示や登録などの手続が保護要件から外されたほか、著作権保護期間が全般的に延伸した。またソニー・ボノ著作権延長法によりさらに期間が延伸し、下表の状況に至る。
- ^ Copyright Act of 1976 (1976年制定の改正法) が1978年1月1日より施行、Berne Convention Implementation Act of 1988 (1988年制定のベルヌ条約履行法) が1989年3月1日より施行。
- ^ ここでの「最初の保護期間」であるが、1976年制定の著作権改正法以前は、保護期間が28年 + 更新延長28年の2段階方式に設定されており、「最初」は前者を指している。最初の保護期間が満了した時点で著作者が生存していれば、更新延長が可能であった。
- ^ 「侵害者が知らずに」の例として、第107条のフェアユースが挙げられている。侵害者は自らの行為がフェアユースだと信じていて、かつその侵害者が非営利の教育機関、図書館、資料館、あるいは公共放送事業者であった場合、減額される。
- ^ 法学におけるセーフハーバー (safe harbor、安全な港) とは、ある一定条件下での行為であれば違法ではないとする例外規定のことである。例えば土地の所有者に対して、土地面積を計測して報告する義務を課す州法が新たに成立したとする。後に報告された面積が実態と乖離していたら、罰金を科すのを原則とする。ただしこの乖離が計測器の不備や外部委託業者の不手際で生じた場合、土地所有者に対する罰金は免ぜられる。このような免責をセーフハーバー条項と呼ぶ[46]。
- ^ 1790年以前も一部の州では州法レベルで著作権を成文化していた。
- ^ "Act of 西暦年"となっているがこれらは法律の制定年であり、施行年ではない。例えばCopyright Act of 1976は1976年に連邦議会で可決されて制定されたものの、施行は1978年1月1日である。
- ^ 「1976年制定の著作権法 (Copyright Act of 1976) が現行法である」との記述が一部見受けられるが、これは誤りである。1790年の初回立法以外はほぼ部分修正・加筆の改訂法であり、1976年制定の改正法もその後一部が上書きされている。米国連邦法は、まず連邦議会に法案 (Bill) が提出され、可決・承認されると制定法 (Act) になり、現行法に修正・加筆がなされて更新されるプロセスを経る。したがって、著作権法の現行法全量は主に合衆国法典第17編のことを指し、Copyright Act of 1976など初回立法以外のActには改正の差分しか含まれていない。
- ^ 日本の類似機能としては、文化庁著作権課 (前身は文部省文化局) がこれに該当するが、文化庁著作権課が行政府の一機能であるのに対し、USCOは組織定義上は立法府の一機関という差異がある。
- ^ 米国政府のfiscal yearは2017年10月~2018年9月を指す。
- ^ ただし著作権侵害などで訴訟を起こす際には、米国籍の著作者あるいは米国で発表された著作物に限り、USCOへの著作物の事前登録が必要となる[68]。
出典
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- 文化庁『著作権法入門 2007』社団法人 著作権情報センター (CRIC)、2007年。ISBN 978-4-88526-057-5。
外部リンク
- フェアユース関連判例検索データベース (英語) - USCO公式運営で著作物のジャンル別検索が可能
- 著作物検索データベース (英語) - USCO登録済著作物のオンライン検索
- 米国著作権法の詳細手引書『Circulars』 (英語) - USCO発行
- 米国著作権法の用語定義 (英語) - USCO発行のよくある質問 (FAQ)