永田晋治
永田 晋治 | |
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生誕 | 日本 |
居住 | 日本 |
国籍 | 日本 |
研究分野 | 生物有機化学、昆虫 |
研究機関 | 東京大学 |
出身校 | 東京大学農学部 |
主な受賞歴 | 農芸化学会奨励賞 |
プロジェクト:人物伝 |
永田 晋治(ながた しんじ)は東京大学教授。新領域創成科学研究科先端生命科学専攻所属。英語の論文ではShinji Nagataと表記されている。
概要
[編集]東京大学農学部農芸化学科の院生時代、永田は生物有機化学研究室(鈴木昭憲教授、長澤寛道教授)に在籍し、分子生命工学研究室[1](依田幸司教授)にも出入りした。昆虫の脱皮変態を促す前胸腺刺激ホルモン(PTTH)の糖鎖構造を決定した後、発現クローニング法によるPTTH受容体の同定を試みた。PTTHは、その構造決定に関して、複数の研究者が学士院賞や文化功労者を受賞し、講書始でも取り上げられるなどした、由緒あるホルモンである[2]。受容体の同定には至らなかったが、1998年3月に博士号を取得した[3]。
博士号取得直後の1999年頃に、後にGHITMと呼ばれる膜タンパク質が受容体として同定されたということになった[4]。このことは約3億円の重点領域研究費の報告書における主要成果となった[5]。永田はその直後に米国に留学した。帰国後は片岡宏誌が主催する新領域創成科学研究科の分子認識化学研究室に博士研究員として参加し、2001年には日本農芸化学会[6]や内藤カンファレンス[7]においてGHITMをPTTHの受容体として学会発表した。内藤カンファレンスでは表彰され、永田は賞金を受領した。また、GHITMをPTTHの受容体としたことに関して、1999年8月から約4億円の大型研究費が交付された[8]。この大型研究費は1999年4月に分子認識化学研究室の助教授に着任したばかりの東原和成の嗅覚研究の立ち上げに間接的に大きく貢献した[9]。また、当時制度が開始されたばかりの学振SPDを分子認識化学研究室が受け入れることにもつながった[10]。なお、現在ではPTTHの受容体は2009年に報告されたTorso[11]とされており、GHITMは細胞外膜ではなくミトコンドリア内膜に局在するタンパク質であることがわかっている。
永田は2002年に長澤寛道が主催する農学部生物有機化学研究室の助教に就任した。就任後はそれまでの研究から離れ、昆虫の摂食行動や甲殻類のホルモン受容体に関する研究を行った。すなわち、永田は2年程度でGHITMの研究を終えた。一方、新領域の分子認識化学研究室では永田に因って始まったGHITMの研究がその後も10年近く続き、多くのポスドクや学生が少なくない影響を受けることになる[10][12][13]。
永田は、2011年に、カイコに注射すると限られた濃度範囲でカイコが頭部をより振るように見えるタンパク質HemaPを摂食行動誘発因子と解釈し、その解釈をJBC誌に筆頭著者として論文発表した[14]。この論文などの注射実験により、永田は日本農芸化学会の奨励賞[15]と日本比較内分泌学会の最優秀賞[16]を同時期に受賞した。また、永田の下でHemaPの精製に関わった学生は、博士号取得直後に加藤茂明研の元スタッフが主催する群馬大学の研究室の助教に2011年11月に栄転した[17]。なお、2012年の年始頃に、加藤茂明研の長年に渡る大規模な研究不正事件がインターネット上で発覚した。永田は2012年3月の日本農芸化学会において、後に懲戒解雇相当の処分を受ける加藤茂明研のスタッフと二人でシンポジウムを主催したが[18]、加藤茂明研の研究不正に永田は関与していない。
遡ること2007年の年末に、ある東京大学教授が、学生やスタッフに対する長年に渡る暴力やいじめによって諭旨解雇相当の処分を受けたことが報道された[19]。2009年に、その教授の抜けた穴に、大きな成果をあげていた東原和成が異動した。永田は、東原和成の抜けた穴を埋める形で2012年12月に新領域創成科学研究科の准教授に栄転した[20]。つまり、永田は、GHITMの発表によって少なくない影響を与えた分子認識化学研究室に10年ぶりに復帰した。10年の間に片岡宏誌はPTTHの受容体探索とは異なる研究で成果を上げており、その当時も主催者として大型研究費を獲得していた[21]。
栄転後の永田はフタホシコオロギを用いた研究やイオン輸送ペプチド受容体の研究を行った。イオン輸送ペプチド受容体の同定においては、片岡宏誌が2008年に発表したカイコのGPCRのリソースを利用した[22]。7年間の間に指導した7人の学生が先端生命科学専攻内の論文賞を受賞した[23][24][25]。2021年に教授に昇進し、2023年度からは先端生命科学専攻の専攻長を務めている[26]。
2024年4月、配下の岩崎渉の研究室のホームページが突然閉鎖され、先端生命科学専攻のホームページからも岩崎渉の名前が突然消えた[27]。この閉鎖については報道されているが、その理由は全く公表されていない。
経歴
[編集]- 1993年3月 東京大学農学部農芸化学科卒業
- 1997年4月 日本学術振興会特別研究員
- 1998年3月 東京大学大学院農学系研究科応用生命化学博士課程修了(博士(農学))
- 1999年4月 アメリカ合衆国ネバダ州立大学博士研究員
- 2000年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科リサーチ・アソシエイト(分子認識化学研究室)
- 2002年5月 東京大学大学院農学生命科学系研究科応用生命化学専攻助教(生物有機化学研究室)
- 2012年12月 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻准教授(分子認識化学研究室)
- 2021年11月 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻教授(分子認識化学研究室)
出典
[編集]- ^ “分子生命工学雑誌会”. 2024年8月22日閲覧。
- ^ “『かつて絵描きだった』石崎 宏矩”. サイエンティスト・ライブラリー | JT生命誌研究館. 2024年7月24日閲覧。
- ^ 永田, 晋治「カイコ前胸腺刺激ホルモンの糖鎖構造と受容体に関する研究」1998年3月30日。
- ^ “KAKEN — 研究課題をさがす | 1999 年度 実績報告書 (KAKENHI-PROJECT-08276101)”. kaken.nii.ac.jp. 2024年8月21日閲覧。
- ^ “科学研究費補助金 特定領域研究(A) 昆虫の変態・休眠の分子機構 課題番号: 08276103 平成8-11年度 研究成果報告書”. 名古屋大学. pp. 15-19. 2024年8月22日閲覧。
- ^ “大会講演要旨”. 日本農芸化学会誌 75 (sup): 245. (2001). doi:10.1271/nogeikagaku1924.75.sup_243 .
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令和2年度 修士論文特別奨励賞 伊藤 麦穂 フタホシコオロギにおけるクチクラ炭化水素の構造観察とその生合成関連因子の機能解析
令和1年度 修士論文特別奨励賞 岡 咲幸 フタホシコオロギにおける交尾で変化する栄養分選好性行動と産卵行動の内分泌制御
平成29年度 修士論文特別奨励賞 吉國 大稀 (分子認識化学分野) フタホシコオロギの捕食行動を決定する同種認識物質の探索
平成27年度 修士論文特別奨励賞 福村 圭介(分子認識化学分野) フタホシコオロギにおける脂質代謝系に依存した栄養分選好性行動の分子機構
平成26年度 修士論文特別奨励賞 塚本 悠介(分子認識化学分野) フタホシコオロギにおける交尾後の摂食行動変化とその内分泌制御機構の解明” - ^ “IB賞(最優秀修士論文賞) | 先端生命科学専攻 東京大学大学院新領域創成科学研究科”. www.ib.k.u-tokyo.ac.jp. 2024年8月24日閲覧。 “
平成30年度 IB賞 久保 健一(分子認識化学分野) フタホシコオロギにおける内分泌系を介した細菌感染後の摂食行動変化の制御機構
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