コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

利用者:Merliborn/sandbox/オイラーの三体問題


物理学天文学においてオイラーの三体問題とは、空間内に固定された2つの質点による重力場での粒子のふるまいを解くことである。この問題は1760年にこの問題についての議論を出版したレオンハルト・オイラーの名を冠している。この問題、およびその拡張に関する重要な貢献はラグランジュリウヴィルラプラスヤコビルヴェリエハミルトンポアンカレおよびバーコフによって行われた[1]

オイラーの問題は粒子が重力以外の逆二乗則に従う場合、例えばクーロン力によって記述される静電場のような場合にも適用される。2つの原子核による静電場を運動する1つの電子のエネルギー準位の半古典的な近似を用いることで、オイラー問題の古典的な解は化学結合の理解に応用することができる。この応用は、ヴォルフガング・パウリが彼の博士論文において、水素分子イオン H+
2
について調べたものが最初である[2][3]。これらのエネルギー準位はアインシュタイン-ブリルアン-ケラー量子化を用いて妥当な精度で計算が可能である[4]。より最近では、量子力学によって説明されたものとして、固有値(エネルギー)の解析的解が得られており、それはランベルトのW関数の一般化である。

3次元の場合における完全な解は、ワイエルシュトラスの楕円関数を用いて表現できる[5]。より簡易的には、ルンゲ・クッタ法のような数値計算の方法によっても解くことができる。運動する粒子の全力学的エネルギーは保存するが、運動量および角運動量については、2つの中心からの力が外部からの合力とトルクをもたらすため、保存しない。それにも関わらず、粒子は極限の例において角運動量、あるいはラプラス-ルンゲ-レンツベクトルに関連した第二の保存量を持つ。

オイラーの三体問題は二中心問題オイラー・ヤコビ問題二中心ケプラー問題とも呼ばれる。また、線形項や逆三乗項を付加したり、力の中心を5個まで増やすなど、様々な一般化の変種が知られている。これらの一般化の特別な例には、ダルブーの問題[6]が含まれている。

概要

[編集]

3つの質点ないし粒子が各2点間で相互作用を持っているとき、その3体についての運動方程式を解く問題を三体問題という。古典的な例としては重力相互作用を持った3つの質点の場合であり、これは可積分でないことが知られている(ポアンカレの定理)。

オイラーの三体問題は、2つの固定された質点(あるいは力の中心)が存在して、それらが万有引力クーロンの法則のような逆二乗則に従って減衰するような中心力が働いているとき、その影響下にある粒子の運動を記述できるかというものである。具体的な例としては、水素分子イオン H+
2
のように2つの原子核による電場の中を動く電子の運動がある。ただしここで、2つの逆二乗力の強さは必ずしも同じである必要はなく、例えば水素化ヘリウムイオン HeH+
のように異なる電荷を持っていてもよい。

3体のうち2体が固定されているため、系の自由度は平面であれば2となる。粒子のデカルト座標(x, y) 、2体とのそれぞれの距離を r1r2、質量に比例する定数を μ1μ2 で表すと、エネルギーと記述される[7]

オイラーの三体問題において、2つある力の中心は固定されているものとされる。厳密にいえば、この過程は H+
2
のような例において正しくないが、このとき陽子は電子に比べてはるかに小さい加速度しか受けない。一方で、オイラーの三体問題は2つの恒星系の周りを公転する惑星の運行に適用することはできない。これは、少なくとも一方の恒星には惑星にかかるそれと同程度の加速度が掛かるためである。

歴史

[編集]

この問題は1760年に、これが厳密解を持つことを示したレオンハルト・オイラーによって初めて考えられた[8]ジョゼフ=ルイ・ラグランジュは中心力が線形であるときと逆二乗であるときという一般化の双方を解いた[9]カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビは一般の3次元の問題を2次元に減らすことで、2つの固定された中心を通る軸の周りでの粒子の回転について問題を分離できることを示した[10]

2008年、アイルランドの数学者Diarmuid Ó Mathúnaは『Integrable Systems in Celestial Mechanics』(直訳: 天体力学における可積分系) において、平面上の2中心のものと3次元のものの双方に対して閉形式による解を与えている[11]

保存量

[編集]

この問題に置いて、エネルギー保存されている、すなわち保存量である。位置エネルギーは粒子の位置を r、粒子と中心との距離をそれぞれ r1r2、力の強さを表す係数を μ1μ2 でそれぞれ表すと、

で表現される。総エネルギー量 E はこの位置エネルギーと粒子の運動エネルギーの和であり、粒子の質量 m運動量 p を用いて

と表される。

粒子の運動量および角運動量は、2つの中心からの力が外力のように働き、その合力とトルクを受けるため保存されない。それにも関わらず、オイラーの三体問題は第二の保存量

を持っている。ここで 2a は2つの中心間の距離、θ1θ2 は2つの中心を結ぶ直線と、それぞれの中心と粒子を結ぶ直線のなす角である。この第二の保存量はエドマンド・テイラー・ホイッテーカーによって、彼の解析力学の書籍において明らかにされ[12]、クールソン (Charles Coulsonとジョセフ (fr:Anthony Josephが1967年にn次元の場合に一般化した[13]。クールソンとジョセフの形式において、保存量は次のような形で表される。

この保存量は2つの中心点を一点に収束させた (a → 0) ときの極限が全角運動量 |L|2 になり、また片方の点を無限遠に離したときの極限はラプラス-ルンゲ-レンツベクトル A に比例している。

量子力学におけるオイラー問題

[編集]

量子力学における三体問題の特別なケースとして水素分子イオン H+
2
が存在する。三体のうち2つは水素原子核であり、残りの1つは高速で動く電子である。原子核 (陽子) は電子の1800倍以上重いため、固定された中心とみなしてよい。このとき、シュレディンガー方程式は扁長回転楕円体座標英語: Prolate spheroidal coordinatesにおいて分離し、エネルギー固有値と分離定数によって結びつけられた2つの常微分方程式へと分解できることが知られている[14]が、その解は基底集合の級数展開を必要とした。

しかし、実験数学によって、エネルギー固有値はランベルトのW関数の一般化であることが判明している。原子核が固定されている水素分子イオンモデルは数式処理システム上で計算を行うことができる。解が陰関数であるという事実はそのことを明らかにしている。理論物理学の成功の1つは、それが単に数学的処理に適しているということではなく、解析的な解、できれば閉形式の解が分離されるまで、関連する代数方程式を記号的に操作できることにある。特殊な三体問題のこの種の解は、量子的な三体あるいは多体問題の解析的な解としてどのようなものがありうるかという可能性を示している。

一般化

[編集]

オイラーの三体問題の可解な一般化についての厳密な解析は、アダム・ヒルテバイテル (Adam Hiltebeitel) によって1911年に行われた[15]。もっとも単純な一般化は、2つあった中心の間に、線形のフック力のみが働く第三の中心点を加えることである。次の一般化は、線形に働く力に逆四乗則を加えることである。第三の一般化は、力の中心が虚軸上に存在して、線形および逆4乗力がはたらき、さらに虚軸との距離の3乗に反比例する力が虚軸と平行に働く場合である。

オリジナルのオイラー問題の解は扁長回転楕円体のなす重力場における粒子の運動の近似となっている。扁平回転楕円体のなす重力場での粒子の運動に近似できる解は、2つの力の中心を虚軸上に置くことで得られる。扁平な回転楕円体の解は、多くの天体が扁平な回転楕円体に近似できるため、天文学的には(扁長なものよりは)より重要である。

一般相対性理論における扁平な回転体に類推される例として、カー・ブラックホール (カー解も参照) がある[16]。この天体の周囲での測地線は、カーター定数英語版として知られる第4の不変量(エネルギー、角運動量、4元運動量に加えて)が存在することから可積分であることが知られている。オイラーの扁平三体問題はカー・ブラックホールと慣性モーメントを共有し、それはカー・ブラックホールをカー・シルト座標で表したときに最も明らかとなる。

線形フック項を加えた扁平例は、カー-ド・ジッター・ブラックホールに対応する。フックの法則の意味で、宇宙定数項は原点からの距離に対して線形であり、カー-ド・ジッター時空もまたモーメントの2乗の次元を持つカーター型の定数を許すことになる[17]

数学的な解

[編集]

オリジナル

[編集]

当初の問題設定において、粒子にかかる力の中心は空間内に固定されたものと仮定される。この点をx軸上の ±a で示される2点と置く。運動する粒子も同様に、2つの中心を含む平面内を運動しているものと仮定される。このとき、粒子が位置 (x, y) にあるときのポテンシャルエネルギー V(x, y) は次の式によって与えられる。

ただし比例定数の μ1μ2 は正でも負でもよいものとする。

引力の2つの中心は楕円の焦点として考えられる。片方の中心が存在しなかった場合、粒子はケプラー問題の解として、残った中心を焦点とする楕円軌道を描く。従って、ボンネの定理英語版から、2つの中心を焦点とする楕円軌道はオイラー問題の解となる。

以下によって楕円座標を導入する。

このとき、ポテンシャルエネルギーは次のように表示される。

また、運動エネルギーは次のようになる。

これはリウヴィル力学系英語: Liouville dynamical systemの式となる。関数 YW を以下で定義する。

リウヴィル力学系の一般解[18]を用いると、次の式を得る。

パラメータ u を次の式で導入する。

パラメトリックな解として次の表示を得る。

これらは楕円積分であるため、座標 ξηu楕円関数として表現できる。

関連項目

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ Murray, Carl D.; Dermott, Stanley F. (2000) (英語). Solar System Dynamics. Cambridge University Press. Chapter 3. doi:10.1017/CBO9781139174817. ISBN 978-0-521-57597-3. https://books.google.com/books?id=aU6vcy5L8GAC&q=%22restricted+three-body+problem%22&pg=PA63 2023年11月19日閲覧。 
  2. ^ Strand, Michael P.; Reinhardta, William P. (1979). “Semiclassical quantization of the low lying electronic states of H+
    2
    ”. Journal of Chemical Physics 70 (8): 3812–3827. Bibcode1979JChPh..70.3812S. doi:10.1063/1.437932.
     
  3. ^ Pauli, Wolfgang (1922). “Über das Modell des Wasserstoffmolekülions” (ドイツ語). Annalen der Physik 68 (11): 177–240. Bibcode1922AnP...373..177P. doi:10.1002/andp.19223731102. 
  4. ^ Knudson, Stephen K. (2006). “The Old Quantum Theory for H+
    2
    : Some Chemical Implications”. Journal of Chemical Education 83 (3): 464–472. Bibcode2006JChEd..83..464K. doi:10.1021/ed083p464.
     
  5. ^ Biscani, Francesco; Izzo, Dario (2015). “A complete and explicit solution to the three-dimensional problem of two fixed centres”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 455 (4): 3480–3493. arXiv:1510.07959. doi:10.1093/mnras/stv2512. 
  6. ^ Darboux, Gaston (1901). "Sur un problème de mécanique". Archives néerlandaises des sciences exactes et naturelles. serie 2 (フランス語). 6: 371–376. LCCN 23013931. OCLC 1482117. Biodiversity Heritage Libraryより。
  7. ^ Krishnaswami & Senapati 2019, p. 98, (17)
  8. ^ Euler, Leonhard (1764). "De motu corporis ad duo centra virium fixa attracti". Novi commentarii Academiae Scientiarum Imperialis Petropolitanae (ラテン語). 10: 207–242. LCCN 0800408990. OCLC 32560413. Eneström index: E301. Biodiversity Heritage Libraryより2023年11月21日閲覧
    Euler, Leonhard (1765). "De motu corporis ad duo centra virium fixa attracti". Novi commentarii Academiae Scientiarum Imperialis Petropolitanae (ラテン語). 11: 152–184. LCCN 0800408990. OCLC 32560413. Eneström index: E328. Biodiversity Heritage Libraryより2023年11月21日閲覧
    Euler, Leonhard (1767). "Probleme. Un corps étant attiré en raison réciproque quarrée des distances vers deux points fixes donnés trouver les cas où la courbe décrite par ce corps sera algébrique". Mémoires de l'académie des sciences de Berlin (フランス語). 16: 228–249. Eneström index: E337. The Euler Archiveより2023年11月21日閲覧
  9. ^ Lagrange, Joseph-Louis (1769). “Recherches sur le mouvement d'un corps qui est attiré vers deux centres fixes”. Miscellanea Taurinesia. 4. L'imprimerie Royale. (no.2) 188–215  (全集:2巻 pp. 67–121)
    Lagrange, Joseph-Louis (1811/15). Mécanique analytique. 2. Paris: Courcier.. Sect. Ⅶ, Chap. Ⅲ, pp. 108–121  (全集:12巻 pp.101–114)
  10. ^ Jacobi, C. G. J. (1884) (ドイツ語). Vorlesungen über Dynamik. Berlin, G. Reimer. pp. 221–231 
  11. ^ Diarmuid Ó Mathúna (2008-08-12). Integrable Systems in Celestial Mechanics. Progress in Mathematical Physics. Birkhäuser. doi:10.1007/978-0-8176-4595-3. ISBN 978-0-8176-4096-5. ISSN 1544-9998 
  12. ^ Whittaker, E. T. (1988). A Treatise on the Analytical Dynamics of Particles and Rigid Bodies. Cambridge University Press. doi:10.1017/CBO9780511608797. ISBN 0-521-35883-3. OCLC 629676472 
  13. ^ Coulson, C. A.; Joseph, A. (1967). “A Constant of Motion for the Two-Centre Kepler Problem”. International Journal of Quantum Chemistry 1 (4): 337–447. Bibcode1967IJQC....1..337C. doi:10.1002/qua.560010405. 
  14. ^ Arfken, George B.; Weber, Hans J.; Harris, Frank E. (2012) (英語). Mathematical Methods for Physicists. Elsevier. doi:10.1016/C2009-0-30629-7. ISBN 978-0-12-384654-9 
  15. ^ Hiltebeitel, Adam Miller (1911). “On the Problem of Two Fixed Centres and Certain of Its Generalizations”. American Journal of Mathematics 33 (1/4): 337–362. doi:10.2307/2369997. ISSN 0002-9327. https://www.jstor.org/stable/2369997. 
  16. ^ Will, Clifford M. (2009). “Carter-like Constants of the Motion in Newtonian Gravity and Electrodynamics”. Physical Review Letters (American Physical Society) 102 (6). doi:10.1103/PhysRevLett.102.061101. 
  17. ^ Markakis, Charalampos (7 2014). “Constants of motion in stationary axisymmetric gravitational fields”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 441 (4): 2974–2985. arXiv:1202.5228. doi:10.1093/mnras/stu715. 
  18. ^ Liouville (1849). “Mémoire sur l'intégration des équations différentielles du mouvement d'un nombre quelconque de points matériels”. Journal de Mathématiques Pures et Appliquées (serie 1) 14: 257–299. http://www.numdam.org/item/JMPA_1849_1_14__257_0/ 2023年11月25日閲覧。. 

出典

[編集]

参考文献

[編集]

[[Category:軌道]]