マダラチビコメツキ
マダラチビコメツキ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Drasterius agnatus (Candèze, 1873) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
|
マダラチビコメツキ[2](学名: Drasterius agnatus (Candèze, 1873))とは、コメツキムシ科サビキコリ亜科の甲虫の一種である。
種小名 agnatus はラテン語で〈後に生まれた〉などを意味する[3]。
分類
[編集]マダラチビコメツキは1873年、ベルギーの昆虫学者エルネスト・カンデーズにより Aeolus agnatus として新種記載されたが、これはジョージ・ルイスが1869年から1871年にかけて日本で採取した標本に基づくものであった[4]。その後はヒラタチビコメツキ属[5](Heteroderes)[6]、ナンヨウチビコメツキ属[7](Monocrepidius)[8]あるいは Conoderus 属[9]、Aeoloderma 属[10]、ミナミチビコメツキ属[11](Prodrasterius)[12]といったように様々な属への分類変更が試みられ、2007年にオーストリアの Peter Carl Cate により Drasterius 属の種とされた[13]。
特徴
[編集]成虫は体長が4.5ミリメートル前後で橙黄色であり、頭・前胸背中央の縦紋、小盾板、上翅の前後紋や後胸は黒褐色-暗褐色である[2]。ただし背面の色彩[14]や翅鞘上の斑紋には変異が見られ、殆ど消失している個体も存在する[15]。頭胸部は大きいが上翅よりもやや短い[14]。頭胸背には密に点刻があり、短毛を伴う[2]。上翅は点刻を含む条溝を伴い、間室は細点刻や黄色毛を密に有する[2]。
類似種・属
[編集]マダラチビコメツキと一般外形的に類似する種としてスジマダラチビコメツキ(Aeoloderma brachmana (Candèze, 1859))が存在するが、マダラチビコメツキは前胸背板の点刻が円形で揃って深く刻まれ、後角に明瞭な隆起線が見られる[16]。Aeoloderma 属は#分類で触れた通りかつてマダラチビコメツキが置かれていた属であるが、この属の種はマダラチビコメツキとは対照的に、前胸背板の後角に隆起線が全く存在しないことが特徴の一つである[15][17]。マダラチビコメツキとスジマダラコメツキはほかに雌交尾器の形態にも著しい相違が存在する[16]。その一方で、雄の交尾器の外形は両種ともよく似たものである[16]。
またマダラチビコメツキは記載当初に置かれた Aeolus 属にも一見すると類似しているが、両者の雄交尾器は基本的な形態に差異が見られる[16]。
生態
[編集]畑や荒地によく見られる[14]。幼虫は主に雑草下の砂土壌中に棲息する[18]。
分布
[編集]日本(本州、四国、九州、トカラ列島、奄美大島、伊是名島[2])、韓国、北朝鮮、極東ロシア(沿海地方[19])、中国(遼寧省、江西省、湖北省、甘粛省)に分布する[20]。
人間とのかかわり
[編集]幼虫は農作物の新芽や根茎を食害するとされ[2]、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の飼料作物害虫目録にもマメ科牧草やイネ科牧草(オーチャードグラス)の害虫として名が挙げられている[21]。
諸言語における呼称
[編集]- 中国語: 角斑贫脊叩甲[22] (拼音: jiǎo bān pín jǐ kòu jiǎ)
- ロシア語: щелкун пестрый[19] (ščelkun pjóstryj)〈まだら模様のコメツキムシ〉
Drasterius 属
[編集]Drasterius 属は1829年にヨハン・フリードリヒ・エッシュショルツにより新設された属で、2007年6月30日までの時点で旧北区産に限れば13種の存在が把握されていた[23]。マダラチビコメツキを除く種には以下のようなものがある。
- Drasterius aegyptiacus Buysson, 1905 - サウジアラビア、イエメン、エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコに分布[20]。
- Drasterius atricapillus (Germar, 1824) - 中国(新疆ウイグル自治区)、中央アジア、コーカサス地方、イラン、トルコ、ロシア(南ロシア、中央ロシア)に分布し、記載当初は Elater 属であった[20]。
- Drasterius bimaculatus (P. Rossi, 1790)(シノニム: Elater bimaculatus P. Rossi, 1790)- ヨーロッパ、北アフリカ、アジア(中東および中央アジア)に分布[20]。
- Drasterius brahminus Candèze, 1859 - 日本(琉球諸島)、中国南部、インド(ウッタル・プラデーシュ州)、「ヒマラヤ」、パキスタンに分布し、東洋区にも跨る[20]。
- Drasterius candezei (Fleutiaux, 1918) - 中国(広東省)や東洋区(ベトナム[タイプ産地][24])に分布し、記載当初は Prodrasterius 属であった[20]。
- Drasterius collaris Candèze, 1859
- Drasterius csorbai Platia & Gudenzi, 1997 - パキスタンに分布[25]。
- Drasterius figuratus (Germar, 1844) - 中央アジア、南ロシア、コーカサス地方、中東[26]。記載当初は Cryptohypnus 属で、かつては Aeoloides 属であった[27]。
- Drasterius makrisi Preiss & Platia, 2003 - キプロスに分布[25]。
- Drasterius okinawensis Ôhira, 2000 - 日本に分布[25]。
- Drasterius omanensis Platia, 2017 - 2017年にオマーン産の新種として記載[26]。
- Drasterius prosternalis Candèze, 1878(ウィキスピーシーズ) - タイプ産地は「ヒマラヤ」で[28]、沖縄にも分布し、東洋区にも跨る[25]。
- Drasterius sabatinellii Platia, 2015 - 2015年にパキスタンのイスラマバード産の新種として記載[29]。
- Drasterius schatzmayri Binaghi, 1941 - エジプトのシナイ半島に分布[25]。
- Drasterius sulcatulus Candèze, 1859 - ネパール、インド(ウッタル・プラデーシュ州[25])、スリランカ、パキスタン、アフガニスタン、オマーン、アラブ首長国連邦に分布[25]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ Miwa (1929) は種小名を男性形である agnatus、Dolin (1978) や 江 & 王 (1999) は女性形である agnata としているが、2019年に Aeoloderma は中性であるとする見解が示されており[1]、ここではこれに従い中性形とする。
出典
[編集]- ^ Kundrata, R.; Kubaczkova, M.; Prosvirov, A.S.; Douglas, H.B.; Fojtikova, A.; Costa, C.; Bousquet, Y.; Alonso-Zarazaga, M.A. et al. (2019). “World catalogue of the genus-group names in Elateridae (Insecta, Coleoptera). Part I: Agrypninae, Campyloxeninae, Hemiopinae, Lissominae, Oestodinae, Parablacinae, Physodactylinae, Pityobiinae, Subprotelaterinae, Tetralobinae”. ZooKeys 839: 110 of 83–154. doi:10.3897/zookeys.839.33279.
- ^ a b c d e f 鈴木 & 大平 (2007).
- ^ 平嶋, 義宏 (2007). 生物学名辞典. 東京大学出版会. p. 322
- ^ Candèze, E. (1873). “Insectes recueillis, au Japon par M. G. Lewis, pendant les années 1869–1871. — Élatérides”. Mémoires de la Société Royale des Sciences de Liège sér. 2, 5: 8 of 1–32 .
- ^ 大平 (1994:224).
- ^ Candèze, E. (1891). Catalogue méthodique des élatérides connus en 1890. Liège: H. Vaillant-Carmanne. doi:10.5962/bhl.title.47119 .
- ^ 大平 (1994:225).
- ^ Schwarz, O. (1906). “Fam. Elateridae”. In Wytsman, P.. Genera Insectorum, Coleoptera. Bruxelles: P. Wytsman. p. 100
- ^ Schenkling, S. (1925). “Elateridae I. Pars 80”. Coleopterorum Catalogus. Berlin: W. Junk. p. 109
- ^ Miwa (1929).
- ^ 大平 (1994:218).
- ^ 横山, 桐郎 (1930). 日本の甲蟲. 西ヶ原刊行会. p. 84
- ^ Cate, P.C. (2007a). “New acts and comments. Elateridae”. In I. Löbl & A. Smetana. Catalogue of Palaearctic Coleoptera, Volume 4. Elateroidea – Derodontoidea – Lymexyloidea – Cleroidea - Cucujoidea. Stenstrup, Denmark: Apollo Books. p. 44 of 33–46. doi:10.1163/9789004260894_003. ISBN 87-88757-67-6
- ^ a b c 大平 & 鈴木 (1985).
- ^ a b 大平 (1970).
- ^ a b c d 大平 (1994:221).
- ^ 大平 (1994:226).
- ^ 大平, 仁夫 (1962). “日本産コメツキムシ科幼虫の棲息場所と若干の食性について”. ニュー・エントモロジスト 11 (3): 12 of 11–16 .
- ^ a b Dolin (1978).
- ^ a b c d e f g h Cate (2007b:105).
- ^ “畜産草地研究所:飼料作物害虫目録:コメツキムシ科 Elateridae”. 農研機構. 2024年11月22日閲覧。
- ^ 江 & 王 (1999).
- ^ Cate (2007b:105–106).
- ^ Fleutiaux, E. (1918). “Nouvelles contributions à la faune de l’Indo-Chine Française [Coleoptera Serricornia”] (フランス語). Annales de la Société Entomologique de France 87: 213 of 175–278 .
- ^ a b c d e f g Cate (2007b:106).
- ^ a b Platia & Konvička (2024).
- ^ Cate (2007b:103–104).
- ^ Candèze, E. 1878. Élatérides nouveaux. Comptes-Rendus des Séances de la Société Entomologique de Belgique, (separate), 54 pp. Annales de la Société Entomologique de Belgique, p. cxxxv.
- ^ Platia, G. (2015). “New species and records of Elateridae from North Pakistan, mostly collected by Guido Sabatinelli in 2011–2012 (Coleoptera)”. Arquivos Entomolóxicos 13: 15 of 3–52 .
参考文献
[編集]- 英語
- Miwa, Y. (1929). “The elaterid-fauna of Loo-Choo”. Transactions of the Natural History Society of Formosa 19 (103): 341 & 344 of 339–351 .
- Cate, P.C. (2007b). “Elateridae”. In I. Löbl & A. Smetana. Catalogue of Palearctic Coleoptera. Vol. 4: Elateroidea, Derodontoidea, Bostrichoidea, Lymexyloidea, Cleroidea and Cucujoidea. Stenstrup, Denmark: Apollo Books. pp. 89–209. doi:10.1163/9789004260894. ISBN 87-88757-67-6
- Platia, G.; Konvička, O. (2024). “Description of three new species of click beetles (Coleoptera: Elateridae) with an updated catalogue of Elateridae from the Sultanate of Oman”. Faunitaxys 12 (47): 7 of 1–11. doi:10.57800/faunitaxys-12(47).
- 日本語
- 大平, 仁夫 (1970). “日本のコメツキムシ (III)”. 昆虫と自然 5 (2): 28 of 28–33.
- 大平仁夫、鈴木亙「コメツキムシ科」 黒澤良彦、久松定成、佐々治寛之 編著『原色日本甲虫図鑑 (III)』太洋社、1985年、58頁。ISBN 978-4-586-30070-9
- 大平, 仁夫 (1994). “日本産チビコメツキ亜科の属・種について”. 越佐昆虫同好会特別報告 (2): 217–234.
- 鈴木亙、大平仁夫「コメツキムシ科」 森本桂 監修『新訂 原色昆虫大圖鑑 第II巻 (甲虫篇)』北隆館、2007年、187頁。ISBN 978-4-8326-0826-9
- ロシア語
- Dolin, V.G. (1978). Определитель личинок жуков-щелкунов фауны СССР [ソビエト連邦動物相のコメツキムシ幼虫図鑑]. Kiev: Urozhay. p. 48 - 'Aeoloderma agnata' として掲載。
- 中国語
- 江, 世宏; 王, 書永 (1999). 中国经济叩甲图志. 北京: 中国農業出版社. p. 62. ISBN 7-109-06021-7 - 'Aeoloderma agnata' として掲載。