ポータブル電源
ポータブル電源(ポータブルでんげん)とは、可搬型のバッテリーで外部電源により充電を行い、蓄電された電気を電気製品・機器に供給可能な電源装置である。略して「ポタ電」とも言う[1]。
概要
[編集]一般的にはスマートフォンの充電用外部電源として多用されているモバイルバッテリーの内蔵蓄電池を大容量化したもので、充電は家庭用電源やソーラーパネル等で行い、AC(100V~110V)電源出力に対応するなど多機能化したものを指す[2]。
特徴
[編集]モバイルバッテリーと比較し、数倍から数十倍ものバッテリー容量及び多機能化に伴ってその他の機能を搭載するため、それなりの大きさと重量があり持ち運びが可能な取手やキャリーがついている製品が一般的である。 屋外(野外)での電源確保の手段としても有用であり、可搬型発電機に替わりキャンプや車中泊、災害時の備えとして注目されている[3]。また、長時間使用できる大容量型も増え、災害対策用として自治体での採用も進んでいる[4]。
製品によって若干異なるが、電源供給用出力端子はUSB・DC12V・AC100V等を備え、付属品を使用することによってソーラーパネルを用いた充電等に対応するモデルも存在する。電源本体の出力許容範囲内で、車載用機器や一般家電製品が使用できるため本来電源が存在しない屋外や災害時等にも電源の確保が可能となる[5][6][7]。
一般家庭で使用されている電子レンジやヘアドライヤー等は消費電力が大きく、それらを動作させるには家庭用電源同様の1000W~1500W程度が必要とされ、商用電源が存在しない屋外での使用が難しい状況だった[8]が蓄電池性能や充電機能の技術進歩により、家庭用電源同様の定格1500W(100V15A)以上の出力が可能な機種も登場してきている。 それにより、キャンプや車中泊等のアウトドアに供する他にも災害対策としての保管や、発電機の利用や調理に伴う燃料を使わずに済む[9]というメリットがあるため高額にもかかわらず需要は伸びている[10][11]。
全般的に製品はOEM/ODMされる場合が多く、同じ製品が複数ブランドで展開される事もある。また、筐体デザインの違いのみで内部設計(仕様)が同じ商品も存在する。この分野では中国企業が先行しており「ブランド戦略」に注力し、コストパフォーマンスの高い魅力的な製品を多数展開している[要出典]。 注意すべき点を挙げると、内蔵電池の種類を明記していない機種もあり、その場合多くは電池特性や充放電回数などの記載がない事がある。購入の際には価格だけで決めず、内蔵電池の種類(リン酸鉄リチウム・三元系等)や充放電回数をメーカーがきちんと謳った商品を選択することが大事である。
利点
[編集]- 電源設備のない場所に手軽に大容量の電力を供給できる
- ランニングコストが低い
- 発電機と比較し、使用時の騒音が格段に小さい[12]
- 発電機と比較し運用/メンテナンスに関する手間が非常に少なくて済む[13]
- 車両内やテント内等の密室でも使用可能
- 常に安定した電力供給が可能なため、大電力が必要な機器の動作も行える[14]
- 充電方法が多岐に渉るため障害耐性が高く災害時の運用にも適している
- 防災用品としての適性が高い
欠点
[編集]- 発電機と比較して出力が低いため、使用できる機器/電力に制限が存在する[15]
- 製品によって出力される波形が異なるため、利用する電気製品には注意が必要[16]
- バッテリーを使用するという性質上、価格が高くなってしまう
- 低温に弱い[17]
- 長時間の連続運用には適していない
- 災害対策としての長期保存時やシーズン外等で運用を行わない場合でもメンテナンスや保管場所に注意が必要[18]
従来型の発電機との比較
[編集]上記の利点/欠点欄にも記載される通り、従来型発電機と比較すると騒音の少なさや室内利用が可能な点など取り回しが非常に良い点が多いが、電力の制限及び連続運用という面では2021年現在では大きな課題が残っている。ポータブル電源は本来は電力が存在する場所、もしくは事前の充電や付近に電力もしくは太陽光などのリソースが存在する場所での運用を主にすることに対し、発電機は屋外や工事現場等の電力が存在しないスペースで燃料を用いて長時間/大電力を供給することを目的としており、そもそもの目的からして異なるため容易に比較が行えるものではない。
内蔵畜電池の種類と特徴
[編集]安全性が高い順(エネルギー密度が低い順)
①リン酸鉄系
[編集]- 高安全性 - 結晶構造が強固で崩壊しにくく熱安定性が高く、発火や爆発を起こさない
- 低コスト - レアメタル未使用なのでコストを抑えられる
- 長寿命 - 充放電回数は2,000~4,000サイクルと耐久性に優れる
- 低自己放電 - 自己放電率が月1%程度と低く、長期間保管(震災等に備えられる)可能
- ×低エネルギー密度 - 定格電圧が3.2V程度とエネルギー密度が低く、大容量化すると重くなる
②リチウムイオン電池
[編集]- エネルギー密度が高い
- 重量が軽い
- 低温特性
- 公称電圧が高い
- 急速充放電が可能
③チタン酸系
[編集]④三元系(NMC)
[編集]⑤マンガン系
[編集]⑥ニッケル系
[編集]⑦コバルト系
[編集]主要なメーカーの製品に使われている電池の種類の変遷
[編集]無停電電源装置として
[編集]充電しつつ出力が可能、もしくはパススルー機能からの瞬時切り替えが搭載されたモデル[25]では無停電電源装置と同様の運用が可能となる[26]。
これらは高度な業務用向け製品程の信頼性は無いが、一般家庭や小規模オフィス等で防災も兼ねて普段より充電しながら利用することにより万一の停電時でも電子機器の急なシャットダウンを防ぎつつ、その後も復電まで大容量バッテリーとして運用可能なことから企業向け防災用品とともに普及が見られている[27]。
防災製品等推奨認証について
[編集]一般社団法人防災安全協会では、防災製品等推奨品審査会において災害時における必要性・安全性・機能性・利便性を評価基準とし厳正なる審査により安全性が高く災害時に有効に活用できるポータブル電源製品を数多く認定している[28][29][30]。
電気用品安全法について
[編集]計画的な運用や短期間の防災目的として評価が高いポータブル電源ではあるが、日本国内でも複数のモデルで発火事故や爆発事故が発生している[31][32]。ポータブル電源はモバイルバッテリーのような電気用品安全法(PSEマーク)による規制は存在しないため2021年現在では見た目ではその製品がどのような安全機能が搭載されているか等の判断は行えない。
国内販売ブランド
[編集]- メジャー(販売実績が高く、日本法人によるサポート体制が確立されているブランド)
- Anker|アンカー(アンカー・ジャパン 株式会社)
- BLUETTI|ブルーティ|MAXOAK|マックスオーク|PowerOak|パワーオーク(株式会社 ブルーティパワー)
- EcoFlow|エコフロー(EcoFlow Technology Japan 株式会社)
- Jackery|ジャクリ(株式会社 Jackery Japan)
- KENWOOD|ケンウッド / Jackery製
- JVC|ジェイブイシー / Jackery製
- Victor|ビクター
- PowerArQ|パワーアーク|SmartTap|スマートタップ(加島商事 株式会社)
- その他
- Aiper|アイパー(株式会社 アイパー・ジャパン)
- AlphaESS|アルファイーエスエス(Traibow|株式会社 トレイボウ)
- ALLPOWERS|オールパワーズ(ALLPOWERS 株式会社)
- ASAGAO|アサガオ(ASAGAO JAPAN 合同会社)
- AUKEY|オーキー(株式会社 美貴本)
- BALDR|バルドル(TOGO POWER 株式会社)
- BigBlue|ビッグブルー(Bigblue Tech 株式会社)
- BougeRV|ボージアールブイ(BougeRV Japan|ボージアールブイジャパン 株式会社)
- Coleman|コールマン / tama's|多摩電子工業コラボ
- EENOUR|イーノウ(株式会社 MK JAPAN)
- ELECAENTA|エレカンタ
- ELECOM|エレコム
- ENEPORTA|エネポルタ(株式会社 クマザキエイム)
- ENERBOX|エナーボックス(LACITA|ラチタ|株式会社 ポスタリテイト)
- Energy Station|エナジーステーション(Maxell|マクセル)
- EXHEART|エクスハート(ハート電機サービス 株式会社)
- GOODGOODS|グッドグッズ(株式会社 グッド・グッズ)
- LVYUAN|リョクエン(アコラデイジャパン 株式会社)
- MAXPOWER|マックスパワー(マックスパワー 株式会社)
- OUKITEL|オキテル・オウキテル
- Owltech|オウルテック
- PECRON|ペクロン
- PHOENIX|フェニックス(RENOGY JAPAN 株式会社)
- PowerZ Pro|パワーゼットプロ(MATECH|マテック)
- RAVPower|ラブパワー(株式会社 SUNVALLEY JAPAN)
- ROCKPALS|ロックパルス
- SANWA SUPPLY|サンワサプライ
- SUAOKI|スアオキ
- SuperBase|スーパーベース(ZENDURE|ゼンデュア・ジャパン 株式会社)
- tama's|多摩電子工業
- Taskarl|タスカル(新東京物産 株式会社)
- ToGoPOWER|トーゴーパワー(TOGO POWER 株式会社)
- VIGORPOOL|ヴィゴプール(株式会社 Vigorpool Japan)
- VOLTANK|ボルタンク(三菱重工メイキエンジン) / EcoFlow社製
- VTOMAN|ブイトーマン
- YAMAZEN|山善
脚注
[編集]- ^ “「ポタ電」はどういう意味?”. 2023年5月21日閲覧。
- ^ “ポータブル電源とは?”. Jackery. 2021年4月22日閲覧。
- ^ “【2020年版】ソロキャンプや車中泊にも持っていきたいポータブル電源おすすめ3選!選び方もご紹介!”. 株式会社ノジマ. 2021年4月22日閲覧。
- ^ “自治体との連携”. Anker. 2021年4月22日閲覧。
- ^ 家庭用電源100ボルトのコンセントを備える機種はインバータを内蔵し、直流電圧を交流電圧に変換して電力供給を行う。
- ^ “ポータブル電源ってなに?”. JVC. 2021年4月22日閲覧。
- ^ “21万6000mAhのバッテリー容量&最大11台同時出力可能なポータブル電源「Anker PowerHouse II 800」を使ってみた”. GIGAZINE. 2021年4月22日閲覧。
- ^ 発電機を用いたとしてもインバーターへの負荷や電圧変動が大きいため安定した動作は現実的ではない
- ^ 機種次第ではあるが電磁調理器や電気ポット、電子レンジなどの家電製品やポータブル電源やDC電源向けの専用調理器が利用可能
- ^ “キャンプと防災で需要増のポータブル電源 防水の「ラチタ」とは”. 日経クロストレンド. 2021年4月22日閲覧。
- ^ PowerBanks. “車中泊・キャンプでドライヤーを使いたい!”. arsenal. 2021年9月11日閲覧。
- ^ 発電機は一般的に70db~80db程度の騒音が発するが、ポータブル電源に関しては無音もしくは冷却FANの音のみとなる
- ^ 一般的に発電機は定期的な試運転の他にエンジンオイルの交換が必要となり、運用時にも移動する際には都度燃料の抜き取りが必要となるがポータブル電源は半年から1年程度の間に電池残量を確認/充電する程度で済み、当然ではあるが運用中の移動に関しても制限は無い
- ^ 当然ではあるが機種によって左右される
- ^ 高価格/大型製品になるにつれ上限は上昇するが、当然の如く取り回しは悪くなる。
- ^ “家電を壊す可能性も? ポータブル電源は「波形」に注意”. 音元出版. 2021年4月22日閲覧。
- ^ 製品差も存在するが、リチウムイオンバッテリーの性質として氷点下以下では性能が低下したり故障の原因になる
- ^ 一般的には3ヶ月~半年以内に充電残量の確認及び保管温度/湿度等に注意する必要がある
- ^ Goal Zero Escape 150 Portable Power Station https://www.goalzero.com/pages/history
- ^ Duracell Powerpack 600
- ^ Jackery Power Pro https://www.jackery.com/pages/about-us
- ^ Anker PowerHouse https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000016775.html
- ^ BLUETTI AC200P https://www.bluettipower.com/pages/about-us
- ^ Anker 521 Portable Power Station https://www.ankerjapan.com/blogs/news/321
- ^ https://www.ecoflow.com/jp/delta-pro-ultra
- ^ この点についても機種によって0ms~20ms程度と差が大きく、機能的には対応していたとしても非常時向けの機能であるとし、日常的な利用は推奨していないこともあるため注意が必要となる
- ^ “防災備蓄を可視化!オフィスの見える場所に置いて使う保管庫”. @Press. 2021年4月22日閲覧。
- ^ “消防防災製品等の推奨”. 一般財団法人日本消防設備安全センター. 2021年4月22日閲覧。
- ^ “ポータブル電源「BN-RB10-C/RB6-C」と、ポータブルソーラーパネル「BH-SP100-C」が「防災製品等推奨品」に認証”. JVC. 2021年4月22日閲覧。
- ^ “TogoPowerポータブル電源ADVANCE350/650、BALDR PIONEER330/500、やソーラーパネルADVANCE100W、一般社団法人防災安全協会の定める防災製品など推奨品認証を取得しました”. TOGOPOWER. 2021年9月9日閲覧。
- ^ “ポータブル電源「PS5B」の製品事故について”. 経済産業省. 2021年4月22日閲覧。
- ^ “消費生活用製品の重大製品事故:ポータブル電源(リチウムイオン)で火災等”. 消費者庁. 2021年4月22日閲覧。