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ペルーダ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヴリュ。フランス語で発行されたパンフレット(1889年)より
— A. Raouleau 画[3]

ペルーダスペイン語: la Peluda)、ヴリュフランス語: la velue、「毛むくじゃら」の意)は[注 1]フランス北部サルト県に伝わる怪物中世盛期後期頃、ユイヌ川英語版沿いに住みラ・フェルテ=ベルナール英語版市など一帯を荒らしたと伝わる。

蛇頭蛇尾で、丸い胴体に緑色の長い体毛が生え、なかには有毒の刺がいくつもまぎれていた。洪水をおこし(または口から火焔を吹くことで)作物を枯らして飢饉を及ぼし、家畜や人間を食らい、獣も人も尾で打ち殺した。ついに、アニェル(「子羊」)と呼ばれる淑徳の乙女を餌食にしようとしたところ、その婚約者の剣で急所の尾を裂かれ退治された。

概要

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「ラ・フェルテ=ベルナールの毛むくじゃら獣」などとも紹介されるが[4][5][注 1]ユイヌ英語版河岸に棲み、ラ・フェルテ=ベルナール英語版の市街にまで出現した;これは中世盛期[6]あるいは中世後期15世紀のことと伝えられる[3]

名称と文献

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フランスではヴリュ「毛むくじゃら」と民衆によって命名されたが[8][注 2]ホルヘ・ルイス・ボルヘス著『幻獣辞典』(1957年)では「ペルーダ」とスペイン語訳した名で記載されている[5]。ボルヘス著書の英訳では「シャギー・ビースト」[5]、または「ヘアリー・ビースト」と意訳されている[10]

古くはサルト県で発行された「ヴリュ」 のパンフレット(1889年)に、説明文が残されている[3][注 3]

ボルヘス『幻獣辞典』の記述は、作家クロード・ロワが文章を寄せた写真集(1952年)[11]の記載に詳細まで酷似する。先例のパンフレットとも、おおまかにおいて合致する内容である。ロワより後に執筆された地元の学究コルドニエ=デトリーの論文(1954年)もあるが[6]、これも逸脱した内容ではない。

外見

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フランスの資料によれば、蛇(あるいは竜)のような頭と尾を持ち、牡牛ほどの大きさで、体形は卵型、緑色の長い毛で覆われ、その合間から、刺されば致死性の(猛毒の)鋭い棘が突出」し[3][12][注 4][注 5]、亀のような横幅のある足をしていた[7]

同族の仲間として タラスクというタラスコン市やボーケール市に名高い幻獣が挙げられると、コルドニエ=デトリーは意見している[7]。他にも、これらをひっくるめて「ドラゴン」の一種に指定する解説が見られる[15][16]

逸話

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民間伝承によれば、ヴリュはノアの箱舟には乗船させられなかったものの、大洪水を生き残ったのだという[7][5]

後世になると、中世フランスのユイヌ川英語版の岸辺に住み、近辺の村落を荒らし、ラ・フェルテ=ベルナール英語版市街までにも襲来して、同市の防壁など役にたたなかったという。竜蛇のような尻尾を振り回せば、人間も動物も打ち殺せた。(羊用の)囲い英語版、すなわち牧柵内を襲っては、中の家畜(羊[11])をことごとく食らってしまう[注 6][7][5]

追い立てられると、ヴリュはユイヌ川に入り、これを氾濫させて洪水をおこし、作物に甚大な被害がもたらされて飢饉がおきた[19]。ボルヘスは、怪物が火焔を発して作物を枯死させたとしているが[5]、これは「火焔放射の口で作物に火をつける」というロワの描写と一致する[11]

人間も襲い食い殺し、特に児童や若い女性を狙うのだった。だが、町きっての淑女(その名も「子羊」を意味するアニェル)を捕え食おうとしたところ、娘の婚約者がやってきて剣で尾を切り裂き、そこが弱点だったことからヴリュは即死した[20][5]。怪物が倒された場所はイヴレ=レヴェックの橋だと伝わっている[20]。この勝利は、のち長らくラ・フェルテ=ベルナールやコネレ英語版の町で祝され[21]、 民衆は怪物をはく製にしたか[21]エンバーミング(防腐処理保存)したと伝えられている[5][22]

図像学

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ヴリュの描画が、前述の1889年発行の救済パンフレットの表紙にあしらえられている[3]。邦書では例えば『幻想世界 幻獣事典』(インプレス、2016年)のペルーダ(画・前田隆)を掲載[23]

テラコッタ製の塑像(推定17~18世紀の作)が「ヴリュ」像としてテュフェ英語版市の修道院に安置されている。ラ・シャペル=サン=レミ英語版市へつづく道路わきの溝で発見されたものという[24][25]。テュフェの広場にはヴリュ噴水が2007年に設置されている[注 7][25][26]

大衆文化

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"Baldik"は、ヴリュがふたたびペルシュ・エメロード特区に出現という設定のゲーム・アプリで、ラ・フェルテ=ベルナール観光局が配布したと報道されている[27]

スクウェア社の「クロノ・トリガー」のラスボスである「ラヴォス」が、ペルーダに似ていると指摘される[28]

関連項目

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外部リンク

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  • Velue”. A Book of Creatures (19 January 2019). 2020年10月24日閲覧。

注釈

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  1. ^ a b 英訳では"Shaggy beast"と訳す。
  2. ^ 仏日辞典によれば velu"(ヴリュ)「毛むくじゃら」の女性形[9]
  3. ^ 冠水被害者の援助のために販売された債券的なパンフレット。
  4. ^ ボルヘスでは「丸っこい体」[5]。ボルヘスの原文"cubierto de un pelaje verde" では長い毛とされないが、英訳ではされている。
  5. ^ ボルヘスでは「その毛皮は毒針で武装さており、その傷は致命傷である"という大意のの言い回しになっているが、いささか不明瞭である。ジョイス・ハーグリーヴス著『ベスティアリ』では、特にヤマアラシの棘を指す「棘(クイル)」という表現を使っており[13]、これが体毛にまぎれているというあたりが原典に近い。キャロル・ローズの巨人・怪物事典では、先端が毒針の触手のような器官との解釈をしている[14]毒針は飛ばせるとの記載もあるらしい[要出典]
  6. ^ フランス語原文の"bergerie"は、「羊小屋、羊の群れ」などの訳もあてられるが[17]、仏英辞典には"sheepfold (羊の囲い)"とみえる[18]。ボルヘスは los establos (馬小屋)としている。
  7. ^ サン・ピエールとサン・ポール教会に接する広場。フィリップ・マシュレ(Philippe Macheret)作・レジ・デュデRégis Dudé 助作の塑像から鋳造されたブロンズ像。

脚注

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  1. ^ Catalogue de la bibliothèque de la Ville du Mans: Ouvrages relatifs à la Province du Maine ou composés par des auteurs Manceaux, 2e partie, Le Mans: A. Drouin, (1892), p. 27, https://books.google.com/books?id=c9U7AQAAMAAJ&pg=PA27 
  2. ^ La Velue”. Action culturelle.. Animaux en Sarthe. Archives, Départment de la Sarthe. 2020年10月23日閲覧。
  3. ^ a b c d e La Velue, Légende sarthoise, Le Mans: E. Lebrault, (1889), http://archives.sarthe.fr/a/306/la-velue/ 。"1889 3 p. in -8º(1883年刊行、3頁、八つ折本)とカタログに見える[1]。表紙の画像、およびテキストの抜粋が、サルト県の資料館サイトに公開されている[2]:« [son] corps avait la forme d’un œuf énorme […] recouvert de longs poils verts au milieu desquels émergeaient des pointes acérées dont la piqûre était mortelle ». Au XVe siècle, elle terrifiait les alentours de La Ferté-Bernard..
  4. ^ Roy & Strand (1952) "La Velue de la Ferté-Bernard", p. 25
  5. ^ a b c d e f g h i Borges & Guerrero (1978) "La Peluda de la Ferte-Bernard" p. 162; Giovanni tr. (1969) "The Shaggy Beast of La Ferté-Bernard", p. 203。柳瀬訳(1974年)『幻獣事典』(「ペルーダ」の項)
  6. ^ a b Cordonnier-Détrie (1954), pp. 218–227, "§ La Velue, monstre de la Vallée de l'Huisne".
  7. ^ a b c d e Cordonnier-Détrie (1954), p. 218.
  8. ^ 原文では「恐慌をきたした人口によって色彩ゆたかな'ラ・ヴリュ'という洗礼名を受けた(baptisé par les populations affolées du nom pittoresque de “ la velue )」とある[7]
  9. ^ 『Le Dico』 1993年(「velu, e」の項)
  10. ^ Borges, Jorge Luis; Guerrero, Margarita (2005). “The Hairy Beast of La Ferté-Bernard”. Book of Imaginary Beings. Andrew Hurley (trans.); Peter Sis (illustr.). New York: Viking. p. 97. ISBN 9780670891801. https://books.google.com/books?id=bn4NAAAAYAAJ&ferte 
  11. ^ a b c Roy & Strand (1952), p. 25: "Grosse comme un bœuf,.. la Velue faisait tout le mal possible. Un mal inimaginable. Elle mangeait les moutons, au besoin croquait la bergère pardessus le marché, et son chaperon rouge en guise de dessert, elle mettait le feu aux moissons avec sa gueule lance-flamme, faisait déborder les rivières en se baignant"
  12. ^ Cordonnier-Détrie (1954), p. 218: "il était recouvert de longs poils verts au milieu desquels émergeaient des pointes acérées dont la piqûre était mortelle".
  13. ^ Hargreaves, Joyce (1990). “La velue”. Hargreaves New Illustrated Bestiary. Glastonbury: Gothic Image Publications. p. 217. ISBN 9780906362129. https://books.google.com/books?id=GKrACS_n86wC&pg=PA217 
  14. ^ Rose, Carol (2001). “La velue”. Giants, Monsters and Dragons. Oxford: W. W. Norton & Company. p. 217. ISBN 9780393322118. https://books.google.com/books?id=GKrACS_n86wC&pg=PA217 
  15. ^ Vadé, Yves (1992). Le Prince et le dragon. Editions L'Harmattan. p. 10. ISBN 9782296220874. https://books.google.com/books?id=g67gyBnxWikC&pg=PA10 
  16. ^ Ronecker, Jean Paul (2004) Le Dragon. Puiseaux: Pardès.De Palmas Jauze (2010), p. 23に拠る。
  17. ^ 『Le Dico』 (1993年)(「bergerie」の項)
  18. ^ Collot, Alexander G. (1875) A New and Improved Standard French and English and English and French Dictionary s. v. "bergerie. "sf. sheepfold, pen")
  19. ^ Cordonnier-Détrie (1954), pp. 218–219.
  20. ^ a b Cordonnier-Détrie (1954), p. 220.
  21. ^ a b Cordonnier-Détrie (1954), p. 220: "Pendant bien longtemps on célébra l'anniversaire de cette victoire inésperée dans toute la contrée de La Ferté-Bernard et de Connerré . On avait empaillé la Velue, dit la tradition".
  22. ^ Ronecker, Jean-Paul (2006). Sites mystérieux et légendes de nos régions françaises. Trajectoire. p. 317. ISBN 978-2841973965. https://books.google.com/books?id=FJEiAQAAIAAJ&q=velue 
  23. ^ 『[[#[幻想世界_幻獣事典|幻想世界 幻獣事典]]』(「ペルーダ」の項)
  24. ^ “Tuffé”. Le patrimoine des communes de la Sarthe. Paris: Éditions Flohic. (2001). p. 217. ISBN 978-2842341060. https://books.google.com/books?id=fu9nAAAAMAAJ&dq=%22La+Velue%22 
  25. ^ a b Pays d’art et d’histoire du Perche Sarthois, Raconte-moi le Pays du Perche Sarthois, p. 17, http://www.perche-sarthois.fr/content/download/280/1657/file/Actions+Educatives_Web+.pdf 
  26. ^ Pays d’art et d’histoire du Perche Sarthois, Parcours-découverte: Tuffé Val de la Chéronne, p. 11, https://docplayer.fr/190072572-Pays-d-art-et-d-histoire-du-perche-sarthois-parcours-decouverte-tuffe-val-de-la-cheronne-bourg-de-tuffe.html 
  27. ^ “La Ferté-Bernard. Retour de la Velue : combattez-la avec l’application Baludik”. La Ouest. (8 September 2020). https://www.ouest-france.fr/pays-de-la-loire/la-ferte-bernard-72400/la-ferte-bernard-retour-de-la-velue-combattez-la-avec-l-application-baludik-fd15d9b4-bc60-11ea-9467-29faa87d2703 
  28. ^ González, Mariela (2015), Más allá del Tiempo: Chrono Trigger · Chrono Cross. Héroes de Papel.

参考文献

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