フロネシス
フロネシス(希: φρόνησις, phronesis, プロネーシス)とは、古代ギリシア哲学、特にプラトン・アリストテレスによる哲学的な概念であり、知的・賢明に思考・判断・実践できる能力を指す。知慮、思慮、賢慮、知恵などと訳される。
概説
[編集]プラトンは『国家』第4巻において、このプロネーシス(知慮)を、アンドレイア(勇気)、ソープロシュネー(節制)、ディカイオシュネー(正義)と共に、国家にも個人にも共通して求められる徳性として言及しており、これが後世において枢要徳(四元徳)と呼ばれるようになった。
アリストテレスは『ニコマコス倫理学』第6巻[1]の「知的な徳性(卓越性)」の説明の第7章において、「学知(エピステーメー)と直知(ヌース)を備えた根源的・相対的な知」である「Σοφια ソフィア(智慧)」と対比させる形で、「実践的・相対的・個別的な知」である「Φρόνησις フロネシス(知慮)」を説明している。
アリストテレスは、「倫理的(実践的)な徳性(卓越性)」に関して、「中庸」(メソテース[2])を守ることが大事であると説く。中庸とは、実践的・相対的な徳性に関して、極端に走らず「適度」を維持する態度のことであり、勇敢(臆病と蛮勇)、節制(快楽と苦痛)、寛厚と豪華(財貨について)、矜持(名誉について)、温和(怒りについて)、親愛と真実(正直)と機知(交際について)等を指している。そして中庸を守る徳性をプロネシスであるとする。
日本
[編集]2006年頃から野中郁次郎がフロネシスの重要性を提唱し続けている。科学的知識と実践的知識を融合して、創造的な行動をする能力を指している。「個別具体的な場面のなかで、全体の善のために、意思決定し行動すべき最善の振る舞い方を見出す能力」[3]である。深い倫理観[注 1]、歴史観、社会観、政治観、美的感覚に基づく判断・行動である。そのため個人と社会の成熟が必要とされている。
- 野中郁次郎は、2011-2012年に福島原発事故独立検証委員会委員として活動したときに、首相官邸[注 2]と東京電力の福島原発事故への対応を検証し、「失敗の本質」で28年前に指摘した日本軍の失敗の原因である「フロネシスの欠如」を目の当たりにしたとしている。2006年12月に黒川清[注 3]が首相官邸[注 4]で野中の論文[4]を引用したにもかかわらず、そのまま引きずっているからである。
- 野中は、「フロネティック・リーダー」が日本を再生させると考えている。
- 彼らの持つべき能力として、野中は次の6点を挙げる。
- 善い目的を作る
- 場をタイムリーに作る
- ありのままの現実を直観する
- 直観の本質を物語る
- 物語を実現する政治力
- 実践知を組織化する
脚注・出典
[編集]脚注
[編集]- ^ 全体の善のための倫理があってこその実践的な知であると考える。
- ^ 菅直人首相、枝野幸男官房長官
- ^ 当時内閣特別顧問。2011-12年に国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会委員長
- ^ 首相は安倍晋三。話をした場である「イノベーション25」プロジェクト担当大臣は高市早苗。
出典
[編集]- ^ 高田三郎訳『ニコマコス倫理学』(岩波書店、1971年)
- ^ Mesotes,英語ではGolden Mean。
- ^ 黒川顧問からのメッセージ・第4回「イノベーティブな人」の条件、「フロネシス(Phronesis)」とはなにか?2006/12/11 首相官邸・イノベーション25
- ^ イノベーター育成- 知識創造人材を育てる-
参考文献
[編集]- 「失敗の本質 戦場のリーダーシップ編」 野中郁次郎ほか、2012年、ダイヤモンド社(ISBN 4478021554)
- 「失敗の本質」野中郁次郎他、ダイヤモンド社 1984年(ISBN 4478370133)、中公文庫 1991年(ISBN 978-4122018334)
- 「フロネシスとしての戦略」2007年3月、本田財団レポート No.119
- イノベーター育成- 知識創造人材を育てる-
- 『言語学序説』ソシュール著、山内貴美男訳、勁草書房 1971年 Sausure, Ferdinand de, 1909, Cours de linguistique generale, ed. par Godel. Geneve: R. Geneve.
- 「フロネシス」 三菱総合研究所
- 『「知的機動力」生かす経営を 現場の構想力が重要 実践知のリーダーを育てよ』(日本経済の羅針盤(下))「経済教室」 2013/8/15 日本経済新聞 朝刊