コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ビブリオテーケー (フォティオス)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『ビブリオテーケー』ラテン語刊本標題紙

ビブリオテーケー[1][2]: Βιβλιοθήκη)または『ビブリオテカ[3]: Bibliotheca)は、9世紀ビザンツ帝国フォティオスの著作。

ギリシア古典数百冊の解題書評からなる、読書録・図書目録のような書物。佚書の情報を多く含むため、西洋古典学の重要資料となっている。

日本語では『文庫[3]図書総覧[4]などとも呼ばれる。

題名

[編集]

文庫」を意味する『ビブリオテーケー』『ビブリオテカ』という題名は、16世紀のラテン語伝本が後付した題名である[5]14世紀のギリシア語伝本では『千巻書』(: Μυριόβιβλος)とも題された[5]

本来の題名は、『わたしが読んだ書物の目録と列挙。それらの書物について最愛の弟タラシオスが要約をもとめた。二七九巻[2]、または『私が読んだ書物の目録と列挙。それらの書物について私の最愛の弟タラシオスが要約を求めた。三百に二十と一欠ける[5]とされる。

成立背景

[編集]

フォティオスは、ビザンツの尚書局長官英語版などを務めた官僚知識人であり、コンスタンティノープル総主教を務めた聖人でもある[6]

本書の成立時期は、彼が総主教となる前の845年ごろ、アッバース朝バグダードに使節団員として派遣されたときである[7]。出発直前に書かれたとする説もあれば[5][3]、バグダードで書かれたとする説もある[7]

本書の序跋によれば、出発前に弟のタラシオス(Tarasios)が、これまで読んだ書物の紹介を書くようフォティオスに求めた[5]。そのため本書はタラシオスに宛てて書かれている[5][1]。執筆方法は、秘書を利用した口述筆記や読書ノートの転写だった[8]

当時の学問の課題は、ビザンツ暗黒時代英語版に忘れられた古典の発見と蒐集であり、本書はその課題に応じたものでもあった[8]。本書は10世紀の「マケドニア朝ルネサンス」の開幕を助け[9]、フォティオスの弟子のアレタス英語版の蒐書活動や[10]、善本の多産[9]百科事典スーダ』にその精神が継承された[9]

内容

[編集]

約280項目からなり、約200人の約380冊を紹介している[3]。項目の順番に規則はなく、聖俗・異教の書物を平等に紹介している[11]。分野や時代も様々だが[3]教会史を含む歴史書[12][7][3][11]第二次ソフィスト期の書物が特に多く[12]は少ない[11][7]聖書ホメロスプラトンなど、当時紹介するまでもなかった書物は載っていない[12][3]

項目によって紹介の形式が異なる[3][12]。基本的には「~を読んだ」というフレーズで始まり[12]、著者・巻数・目次・要約・抜粋・写本情報・文体批評アッティカ方言[11]イオニア方言[12]などについて)を載せる[12]。長短にも差があり、一行程度で終わる項目もあれば、数十ページに及ぶ項目もある[12][11]。本書にほぼ全編が抜粋されたおかげで伝わる書物もある[1]

ヘロドトス歴史』を、ギリシア史でなくペルシア帝国史として読んでおり[3][13]、当時のビザンツ人の東方中心的な帝国交替史観が窺える[13]

主な収録書一覧

[編集]

関連項目

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c 水地 2011, p. 347.
  2. ^ a b 國方 2014, p. 231.
  3. ^ a b c d e f g h i 中谷 2020, p. 156ff.
  4. ^ 秋山 2009, p. 3.
  5. ^ a b c d e f 井上 1993, p. 145.
  6. ^ 井上 1993, p. 144.
  7. ^ a b c d 大月 2017, p. 12f.
  8. ^ a b 井上 1993, p. 153.
  9. ^ a b c 井上 1993, p. 158ff.
  10. ^ レイノルズ & ウィルソン 1996, p. 103f.
  11. ^ a b c d e レイノルズ & ウィルソン 1996, p. 100f.
  12. ^ a b c d e f g h 井上 1993, p. 145f.
  13. ^ a b 井上 1993, p. 148f.

参考文献

[編集]
  • L.D.レイノルズ英語版 ; N.G.ウィルソン英語版 著、西村賀子 ; 吉武純夫 訳 ウィルソン『古典の継承者たち ギリシア・ラテン語テクストの伝承にみる文化史』国文社、1996年。ISBN 9784772004190 
  • 秋山学「ビザンティン世界における「知」の共同体的構造:「不断の宇宙論」としての典礼を基点に」『中世思想研究』第51号、中世哲学会、2009年。 NAID 40016884076http://hdl.handle.net/2241/119477 
  • 井上浩一 著「ビザンツ帝国における古典文化の復興 フォティオス『文庫』を中心に」、藤縄謙三 編『ギリシア文化の遺産』南窓社、1993年。ISBN 4816501142 
  • 大月康弘ギリシア古典の世界とコンスタンティノープル」『西洋社会科学古典資料講習会』、一橋大学社会科学古典資料センター、2017年。 NAID 40016884076https://chssl.lib.hit-u.ac.jp/images/2020/02/text_37.pdf 
  • 大月康弘 著「ギリシア古典とコンスタンティノポリス」、伊藤邦武山内志朗中島隆博納富信留 編『世界哲学史 3』筑摩書房〈ちくま新書〉、2020年。ISBN 978-4480072931 
  • 國方栄二 著「ダマスキオス」、水地宗明; 山口義久; 堀江聡 編『新プラトン主義を学ぶ人のために』世界思想社〈学ぶ人のために〉、2014年。ISBN 9784790716242 
  • 中谷功治『ビザンツ帝国 千年の興亡と皇帝たち』中央公論新社〈中公新書〉、2020年。ISBN 978-4-12-102595-1 
  • 水地宗明「解説」『イアンブリコス ピタゴラス的生き方』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2011年。ISBN 9784876981908