シラスナガイ属
シラスナガイ属 | |||||||||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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シラスナガイ属(シラスナガイぞく、Limopsis)は、フネガイ目Arcoidaシラスナガイ科Limopsidaeに分類されるタマキガイに似た小型の二枚貝である[2]。世界中の海の水深百メートルよりも深い砂底に生息する[5]。
分布
[編集]本属は起源がジュラ紀にさかのぼり、南極近海をふくむ世界中の水深百メートルから漸深帯にかけての砂底に分布する。なお熱帯インド-西太平洋産は比較的少ない[5]。
分類
[編集]シラスナガイ属Limopsisと近縁のフネガイ目の分岐図と種の一例を要約して下に示す[6][7]。
フネガイ目 |
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種類
[編集](現生種)
- Limopsis aurita (Brocchi, 1814) 北大西洋産[10]。
- Limopsis (Nipponolimopsis) azumana Yokoyama, 1910 マルシラスナガイ。貝殻はよくふくらみ、後腹縁方向へ伸びる[11]。
- Limopsis belcheri (A. Adams & Reeve, 1850 喜望峰沖産[9]。
- Limopsis crenata A. Adams, 1863 ナミジワシラスナガイ。
- Limopsis forskalii A. Adams, 1863[11]
- Limopsis japonica A. Adams, 1863 シラスナガイ。
- Limopsis jousseaumi (Mabbille & Rochebrune, 1889 チリ沖、2.4cm[12]。
- Limopsis oblonga A. Adams, 1860 宮崎県や神奈川県の更新世の地層[13][14]。= Limopsis crenata
- Limopsis oliveri Amano & Lutaenko, 2004 択捉島沖、50-220m, 0.9cm[15]。
- Limopsis nipponica Yokoyama, 1922 マメシラスナガイ。
- Limopsis tajimae J. B. Sowerby III, 1914 オオシラスナガイ。駿河湾の海底に密生[16]。
- Limopsis sulcata Verrill & Bush, 1898 北米大西洋沖。
(化石種)
- †Limopsis hokkaidoensis Amano & Lutaenko, 2004 北海道の後期鮮新世の地層, 2.7cm[15]。
- †Limopsis parva Harder, 1913 北大西洋の漸新世地層[10]
- †Limopsis satoi Amano & Lutaenko, 2004 秋田県の前期更新世の地層, 1.5cm[15]。
- †Limopsis tokaiensis Yokoyama, 1910 神奈川県更新統上総層群[17]など。
近年シラスナガイ科の属や亜属は、現生種はすべてLimopsis属にまとめられ、その他には漸新世化石種のCosmetopsis Rovereto, 1898†(背縁が直線的、輪脈>放射脈、腹縁に刻みあり)が含まれる[3][10]。
種名\特徴 | 殻形 | 大きさ | 腹縁の刻み | 表面 | 鉸歯 | 海域・生滅 | 出典 |
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シラスナガイ | 対称的 | 小さめ | ない | 細放射脈 | 湾曲 | 日本・現生 | [8] |
ナミジワシラスナ | 斜め | 小さめ | あり | 輪脈と放射脈 | 少し曲 | 日本・現生 | [8] |
オオシラスナガイ | 斜め | 大きい | ない | 輪脈と腹縁に放射脈 | 少し曲 | 日本・現生 | [8] |
トウカイシラスナガイ† | 斜め楕円 | 大きい | ない | 輪脈と腹縁に放射脈 | 少し曲 | 日本・化石 | [17] |
L. tajimae | 斜め | 大きい | ない | 輪脈と腹縁に放射脈 | 曲がる | 日本・現生 | [16][9] |
L. belcheri | 斜め | 大きい | あり | 輪脈と放射脈 | 少し曲 | 南アフリカ・現生 | [9] |
貝殻
[編集]大型の種で殻長2~3cm、小型の種は約1cm。形はタマキガイのように前後に対称的で丸いもののほかに、腹側後方に向かって斜めに伸びた形の種が多い。表面には放射脈にそって毛が生える[8]。内面腹縁部に細かいギザギザの刻みが有る種と無い種がある[9]。鉸歯はタマキガイと似た多歯式で、ゆるやかに湾曲して並ぶ種が多い[18][19]。靭帯は単純靭帯である点が他のフネガイ目と異なり、歯板の中央に小さい三角形の靭帯窩が付け根としてある。貝殻の材質である炭酸カルシウム(Aragonite)の繊維状の微細結晶が鉸歯のある1点を中心に同心円状に成長する点が、シラスナガイの特徴である[11]。
生態
[編集]水深数百メートルの泥砂底に密集して生息する。水管を持たないので、貝殻は水平かやや斜めにして、泥底の下に少しもぐって海水をろ過して摂餌する[16]。前方の閉殻筋はとても小さくて殻頂の近く。後方は大きくて後端の近くにある[9]。
特徴\属名 | シラスナガイ属 | タマキガイ属 |
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殻形 | 後腹側斜めに伸びた種が多く殻長3cm未満 | 前後にほぼ対照的で殻長10cm以下 |
閉殻筋 | 前後非対称。前は殻頂近傍で小さい | 前後対称的 |
靭帯と靭帯面 | 単純靭帯、鉸歯列中央に小さい三角形 | 重複靭帯、殻頂に広い多重二等辺三角形 |
生息水深 | 10-2000m | 3-40m |
関連事項
[編集]脚注
[編集]出典
[編集]- ^ “Limopsis”. fossilworks. 2022年11月6日閲覧。
- ^ a b c d 佐々木猛智 2010, p. 27.
- ^ a b “Limopsidae Dall 1895”. WoRMS. 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b “Limopsis Sasso 1827”. WoRMS. 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b “Limopsis Sasso 1827”. gbif. 2022年11月12日閲覧。
- ^ Combosch et al., 2017
- ^ Audino etal.(2020).
- ^ a b c d e f 改訂新版.世界文化生物大図鑑.
- ^ a b c d e f 延原尊美 2022.
- ^ a b c Janssen 2015
- ^ a b c 真野勝友 1971.
- ^ NMR Limopsidae
- ^ 吉田 1982
- ^ 棚部一成 1990.
- ^ a b c 天野 2004
- ^ a b c 近藤康生 1989.
- ^ a b 蟹江ら 2009
- ^ 改訂新版.世界文化生物大図鑑, p. 18-19.
- ^ 佐々木猛智 2010, p. 141.
参考文献
[編集]- 大塚彌之助「日本産シラスナガヒ屬各種の檢索上の特徴 2 つ 3 つ」『ヴヰナス』第9巻第1号、日本貝類学会、1939年、50-52頁、doi:10.18941/venusomsj.9.1_50。
- 真野勝友「現生および化石Limopsidaeの鉸歯部構造について : 古生物」『日本地質学会学術大会講演要旨』地学関係5学会連合学術大会(1971福岡)、1971年、97頁、doi:10.14863/geosocabst.1971.0_97。
- 吉田俊秀「化石ナミジワシラスナガイ Crenulilimopsis oblonga (A. Adams) の相対成長」『貝類学雑誌』第41巻第3号、日本貝類学会、1982年、227-232頁、doi:10.18941/venusjjm.41.3_227。
- 近藤康生「ボックスコアラーによる漸深海帯二枚貝オオシラスナガイ Limopsis tajimae の生態観察および同種の化石産状との比較」『貝類学雑誌』第48巻第1号、日本貝類学会、1989年、27-39頁、doi:10.18941/venusjjm.48.1_27。
- 棚部一成「909. 中部更新世 Limopsis 属二枚貝 2 種の初期生活史 / 909. EARLY LIFE HISTORY OF TWO MIDDLE PLEISTOCENE SPECIES OF LIMOPSIS (ARCOIDA : BIVALVIA)」『日本古生物学會報告・紀事 新編』第1990巻第160号、日本古生物学会、1990年、631-640頁、doi:10.14825/prpsj1951.1990.160_631。
- 松隈明彦、奥谷喬司 ら「貝類」、世界文化社、2004年、ISBN 4418049045、全国書誌番号:20617488。
- AMANO, K. (2004). “New fossil and Recent Limopsis (Bivalvia) from the northwestern Pacific” (PDF). Veliger 47: 13-20 .
- 『三浦半島北東部, 横須賀市夏島の更新統上総層群野島層より産出した大型化石』 (PDF) 蟹江康光・倉持卓司・柴田健一郎, 2009, 横須賀市博研報(自然)(56): 25-27
- 佐々木猛智『貝類学』東京大学出版会〈Natural history〉、2010年。全国書誌番号:21846371 。
- “Kritische Übersicht der oligozänen Limopsidae des Nordseebeckens (Mollusca: Bivalvia)“ Ronald Janssen, Geologica Saxonica - Journal of Central European Geology, vol. 61 (1): 7-33, 2015
- David J. Combosch; Timothy M. Collins; Emily A. Glover; Daniel L. Graf; Elizabeth M. Harper; John M. Healy; Gisele Y. Kawauchi; Sarah Lemer; Erin McIntyre; Ellen E. Strong; John D. Taylor; John D. Zardus; Paula M. Mikkelsen; Gonzalo Giribet; Rudiger Bieler (2017). “A family-level Tree of Life for bivalves based on a Sanger-sequencing approach”. Molecular Phylogenetics and Evolution 107: 191-208. doi:10.1016/j.ympev.2016.11.003. ISSN 1055-7903 .
- Audino, Jorge Alves; Serb, Jeanne Marie; Marian, Jose Eduardo Amoroso Rodriguez (2020). “Hard to get, easy to lose: Evolution of mantle photoreceptor organs in bivalves (Bivalvia, Pteriomorphia)”. Evolution 74 (9): 2105-2120. doi:10.1111/evo.14050 .(要購読契約)
- 延原尊美「シラスナガイ科二枚貝Limopsis belcheriの分類学的再検討」『Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)』第80巻第3-4号、日本貝類学会、2022年、67-76頁、doi:10.18941/venus.80.3-4_67。