キューピッド (クラナッハの絵画)
英語: Cupid ドイツ語: Amor | |
作者 | ルーカス・クラナッハ (父) |
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製作年 | 1515年ごろ、または1530年ごろ |
種類 | 菩提樹板上に油彩 |
寸法 | 81 cm × 36 cm (32 in × 14 in) |
所蔵 | 美術史美術館、ウィーン |
『キューピッド』(独: Amor、英: Cupid)は、ドイツ・ルネサンス期の画家ルーカス・クラナッハ (父) が1515年ごろ[1]、または1530年ごろに[2]菩提樹板の上に油彩で制作した絵画である。画家は「ヴィーナスとキューピッド」を題材とした、少しずつ異なるヴァリエーションを繰り返し描いた[1]が、本作も元来はそうした作品の1つであったものの断片で、ギリシア神話の愛の神キューピッドを表している[1]。作品は1663年にアンブラス城のコレクションに記録されており[2]、現在はウィーンの美術史美術館に所蔵されている[1][2]。
作品
[編集]キューピッドは、ヴィーナスとマルスの息子とされる[1]。古代ギリシアではエロスと呼ばれ、偉大な愛の神として崇められたが、ヘレニズム期から古代ローマ期以降は「愛欲の神」として矮小化され、その姿も青年から少年へ、そして幼児へと変貌する[3]。彼の矢に一たび射られると、人は分別を失い、恋心の赴くままに行動してしまうとされる[1][3]。
クラナッハは、1509年にアルプス以北で最初のヴィーナスの等身大の裸体像『ヴィーナスとキューピッド』 (エルミタージュ美術館) を描いて以降、数十年にわたり同一主題の絵画を様々に描いた。それらの作品の多くで、キューピッドは総じてはしゃいだ姿を見せているが、本作のキューピッドは比較的おとなしく、エルミタージュ美術館の所蔵作を想起させる[1]。
画面のキューピッドは弓矢をつがえながら、身体を捻って肩越しに振り返り、鑑賞者を見ている[1][2]。羽のある彼の翼は、入念な筆致で生き生きと描かれている[1]。画面右端には、裸体のヴィーナスの脚のごく一部分が微かに見えている[1][2]。切断されているこの絵画本来の姿は、それを複製にした17世紀のキャンバス画 (ヴァイマール、古典期財団蔵) に見て取れる。その複製で、ヴィーナスはチョーカーのような黄金の首飾りと透明といってよい薄いヴェールを纏い、鑑賞者のほうを見つめている[1]。
なお、ヴァイマールの複製が失われた本作を忠実に模写したものであれば、本作の失われた部分には「キューピッドの放つ矢に用心されよ」という道徳的な警句を含む銘文が記されていたはずである[1]。
同主題作
[編集]-
『ヴィーナスとキューピッド』、エルミタージュ美術館、1509年
脚注
[編集]参考文献
[編集]- 『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行 ISBN 978-4-906908-18-9
- 岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行 ISBN 978-4-8163-5133-4