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キブシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
キフジから転送)
キブシ
キブシ(山梨県山中湖村・2007年4月)
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: クロッソソマ目 Crossosomatales
: キブシ科 Stachyuraceae
: キブシ属 Stachyurus
: キブシ S. praecox
学名
標準: Stachyurus praecox Siebold et Zucc. (1836)[1]

標準: Stachyurus praecox Siebold et Zucc. f. rotundifolius (Tuyama) Tuyama ex H.Hara (1954) [2]

シノニム
和名
キブシ(木五倍子)、
キフジ[1]、エノシマキブシ[1]
ナンバンキブシ[1]
ハチジョウキブシ[1]、マルバキブシ[2]

キブシ(木倍子[8]・木五倍子[9]学名: Stachyurus praecox または Stachyurus praecox f. rotundifolius)は、キブシ科キブシ属に属する雌雄異株落葉低木。山地に生える。別名、キフジコメブシ[10]ともいう。和名は果実をヌルデの虫えいでつくる五倍子(ふし)の代用品として、黒色の染料(お歯黒)に用いたことから名付けられている[11][9]。また、花穂がフジの花に似ていることから「藤」となり、転訛したという説もある[10]。庭木や花材などに使われる。

分布と生育環境

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日本固有種で、北海道西南部(渡島半島)、本州四国九州[9]小笠原[要出典]に分布する。山地や丘陵、低地の明るい場所にふつうに生える[11][8][9]。先駆植物的な木本で、荒れ地にもよく出現する。生育環境は幅広く、海岸線から内陸の川沿いまで見られる。

特徴

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落葉広葉樹低木[11]、樹高は3 - 5メートル (m) になる[9]。成長が早く、一年で2 mくらいは伸びる。樹皮は褐色から暗褐色で、若木は紫褐色で皮目が多く、生長すると皮目が筋状になる[9][12]。一年枝は、明褐色で無毛、稜がありややねじれる[12]

花期は早春(3 - 4月)[11][9]雌雄異株[9]。葉が芽吹く前に淡黄色の総状花序に、スズランの花をクリーム色にしたような可憐な花を密に垂れ下げてつける[9][10]。長さ4 - 10センチメートル (cm) になる花序は前年枝の葉腋から出て垂れ下がり、それに一面にがつくので、まだ花の少ない時期だけによく目立つ[9]。花には長さ0.5ミリメートル (mm) の短い花柄があり、花は長さ7 - 9 mmの鐘形になり、雌花雄花よりもやや小さい[9]萼片は4個で内側の2個は大きく花弁状、花弁は4個[9]で花時にも開出せず直立する。雄花は淡黄色、雌花はやや緑色を帯びる。雌花、雄花とも雄蕊は8個、雌蕊は1個あるが、雌花の雄蕊は小さく退化している。

には長さ1 - 3 cmの葉柄があり、互生する[9]葉身は長さ5 - 13 cm、幅3 - 5 cm、長楕円形から卵状楕円形で[11][9]、先端は鋭形または鋭尖形、基部は円形、切形または浅心形になり、葉縁には鋸歯がある。葉は大小変異が多く[8]、形にも変異があり、サクラのような形から、より細くて先細りになった葉までさまざまなものがある[10]。秋には葉の色が、クリーム色から黄色、赤色、赤褐色に変化させて紅葉するが、色が濁る傾向が強い[8][10]

果期は6 - 7月[9]果実は径8 mm前後になる広楕円形で[9]、緑色から熟すと黄褐色になる[11]。紅葉のころには、雌株には茶色になりかけた果実を見ることができる[10]

葉が散ったあとには、来春花が開くための小さな花芽ができている[10]。冬芽は鱗芽で、芽鱗2 - 6枚に包まれる[12]側芽が枝に互生し、葉芽は広卵形で枝と同色である[12]。花芽は穂になって垂れるのが特徴で、枝に多数つく[12]。葉痕の両側に托葉痕があり、維管束痕が3個ある[12]

下位分類

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葉や果実の形や大きさに変異が多く、多くの変種品種がある。花がやや大きいものにハチジョウキブシがある[9]

  • ニシキキブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. f. bicolor Sakata
  • フクリンキブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. f. marginatus Hiyama -栽培種。
  • コバノキブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. f. microphyllus (Nakai) H.Hara -本州の東海地方に分布する、葉が小型のもの。
  • マルバキブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. f. rotundifolius (Tuyama) Tuyama ex H.Hara -九州に分布する、葉が卵形の傾向のもの。
  • ケキブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. leucotrichus Hayashi -本州の東北地方の日本海側、北陸地方に分布する。日本海側の多雪地帯にのみ産する地方型で、葉の裏面の脈上や脈沿いに白色の軟毛が密生する。
  • ハチジョウキブシ(エノシマキブシ) Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. matsuzakii (Nakai) Makino ex H.Hara -本州の関東地方南部、東海地方、伊豆諸島に分布する。海岸近くに生え、枝が太く花序と葉が長く、果実も大きい。
  • ヒメキブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. parviflorus Makino ex H.Hara -本州、四国、九州に稀に産する。葉がコバノキブシより小型のもの。
  • ナンバンキブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. lancifolius (Koidz.) H.Hara -本州の山口県、四国の南岸、九州、奄美大島、徳之島に分布する。ハチジョウキブシに似、葉は3角形で厚く、果実は大型になる。
  • ナガバキブシ Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. macrocarpus (Koidz.) Tuyama ex H.Ohba (シノニム Stachyurus macrocarpus Koidz.) -小笠原に分布する。ハチジョウキブシより葉が厚く、果実はナンバンキブシくらいに大型になる。絶滅危惧IA類(CR)。
    • ハザクラキブシ (シノニム Stachyurus macrocarpus Koidz. var. prunifolius Tuyama) -小笠原に稀に生育する。ナガバキブシと比べ、葉は薄く長楕円形になる。絶滅危惧IA類(CR)。

利用

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植栽として、庭木公園樹にして植えられる[11]。また花材などにも使われる[11]

脚注

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  1. ^ a b c d e 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Stachyurus praecox Siebold et Zucc. キブシ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Stachyurus praecox Siebold et Zucc. f. rotundifolius (Tuyama) Tuyama ex H.Hara キブシ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Stachyurus lancifolius Koidz. キブシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. ovalifolius (Nakai) Ohba, comb. nud. キブシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. matsuzakii (Nakai) Makino ex H.Hara キブシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Stachyurus praecox Siebold et Zucc. var. lancifolius (Koidz.) H.Hara キブシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  7. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Stachyurus matsuzakii Nakai キブシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
  8. ^ a b c d 林将之 2008, p. 65.
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 46.
  10. ^ a b c d e f g 亀田龍吉 2014, p. 23.
  11. ^ a b c d e f g h 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 42.
  12. ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 122

参考文献

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  • 亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年10月5日。ISBN 978-4-418-14424-2 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、122頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂 ベストフィールド図鑑〉、2009年8月4日、46頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日。ISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、43頁。ISBN 4-522-21557-6 

外部リンク

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