カーマデーヴァ
カーマデーヴァ(Kāmadeva, 梵: कामदेव)は、ヒンドゥー教における愛の神である。カーマは元来「愛」の意で、マンマタ、カンダルパ、マーラなどとも呼ばれる。
ダルマ(正義)とシュラッダー(信仰)の息子だが、ブラフマーの息子とする説もある。ラティ(快楽)、プリーティ(喜び)を妃とし、ヴァサンタ(春)を親友とする。美男子であり、オウムに乗り、海獣マカラを旗標とし、サトウキビの弓と、5本の花の矢を持つ。ギリシア神話のエロース(クピードー)に相当し、妃のラティや親友ヴァサンタを伴って相手に近づき、その矢で射られた者は恋情を引き起こされる。苦行者の邪魔をすることもあり、それが原因でシヴァ神に焼き殺された。
神話
[編集]『クマーラ・サンバヴァ』
[編集]神々がターラカという悪魔に悩まされていたとき、ターラカを倒せるのはシヴァ神とパールヴァティーの子(軍神スカンダのこと)とされていたが、苦行に没頭していたシヴァはパールヴァティーに全く興味がなかった。そこでシヴァの関心をパールヴァティーに向けさせようとして、神々はシヴァのもとにカーマを派遣した。瞑想するシヴァはカーマの矢によって一瞬心を乱されたが、すぐに原因を悟り、怒って第三の眼から炎を発しカーマを灰にしてしまった。カーマのアナンガ(身体無き者)という別名はこれに由来するとされる。悲しむラティに天から声が聞こえてきて、シヴァがパールヴァティーを受け入れるとき、シヴァはカーマに肉体を返すだろうと予言をする(カーリダーサ『クマーラ・サンバヴァ』)。
『バーガヴァタ・プラーナ』
[編集]『バーガヴァタ・プラーナ』によれば、後にカーマはクリシュナとルクミニーの子プラデュムナとして再生する。悪魔シャンバラはプラデュムナに殺されるという予言のために、赤子をさらって海に捨てると、赤子は魚に喰われるが、漁師がその魚を捕らえてシャンバラに献じ、料理人がその腹を割くと赤子は無事であった。そこでシャンバラはそれとは知らずに給仕女(あるいは妻)マーヤーヴァティーに渡すと、彼女はその子を育てたが、マーヤーヴァティーは実はカーマの前世の妃ラティであり、かくして二人は再会を果たした。やがてプラデュムナは長じて悪魔シャンバラを殺し、マーヤーヴァティーをともなってクリシュナのもとに凱旋した。
カーマ神の別名
[編集]カーマの別名マーラは仏陀の修行の邪魔をした障害の魔王の名としても知られる。
- アナンガ(Anaṅga) - 身体無き者。通俗語源解釈。
- マーラ(Māra) - 破壊者。
- アビルーパ(Abhirūpa) - 美しい姿をした者。
- マナシジャ(Manasija) - 心に生じる者。
- アサマバーナ(Asamabāṇa) - 奇数の矢を持つ者。5本の矢を持つことから。
- シュリンガーラヨーニ(Śṛṅgārayoni) - 愛の根源。
- プシュパダヌス(Puṣpadhanus)- 矢を弓で飾る者。
など。
カーマ神の供養
[編集]カーマを供養する祭は、春のチャイトラ月(3月中旬~4月中旬)に行われる。