カルタ遊び
『カルタ遊び』(仏: Jeu de Cartes)は、イーゴリ・ストラヴィンスキーが作曲した全3場からなるバレエ音楽。『カード遊び』や『カード・ゲーム』(英: Card Game)とも訳され、「3回勝負のバレエ」というサブタイトルが付けられている。作曲者の「新古典主義時代」に属する作品である。
1937年の初演後、同年にショット社より出版されている。
作曲の経緯と初演
[編集]このバレエ音楽はアメリカン・バレエ団[1]の支配人フェリックス・ウォーバーグ(Felix M. Warburg, ドイツ出身の銀行家)、およびリンカン・カースティンとジョージ・バランシンの依頼により作曲されたものである。ストラヴィンスキーは、1929年にセルゲイ・ディアギレフの死没に伴いバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)が解散して以降、しばらくバレエ音楽の作曲から距離を置いていたが、先の依頼により再びバレエというジャンルに向き合うことになる。作曲は1936年6月に着手、オーケストラの総譜とピアノ譜の2種を同年12月6日に完成させた。
なお、台本は当初作曲者とジャン・コクトーによる共作が持ち上がっていたが、コクトーがこれを断ったため、息子スリマの友人ニキタ・マライエフ[2]との共作になった。
1937年4月27日、作曲者の指揮とジョージ・バランシンの振り付けによるアメリカン・バレエ団によってニューヨークのメトロポリタン歌劇場で行われた。
楽器編成
[編集]- 木管楽器:フルート(2番はピッコロ持ち替え)2、オーボエ(2番はイングリュッシュホルン持ち替え)2、クラリネット2、ファゴット2
- 金管楽器:ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ
- その他:ティンパニ3個、大太鼓、弦5部
演奏時間
[編集]約22分(各ラウンド約5分、9分、8分)
構成
[編集]全体は3つの部分に分けられ、それらを通してトランプのポーカーをしている様子が描かれている。ダンサーはそれぞれトランプの模様をした衣装を着けて進められていく。ジョーカーやパスの踊りなども加わり、全体を一層多彩にして行き、最後にはディーラーの手が現われ、全てのカードを持ち去られる。また音楽(第3ラウンド)はレオ・ドリーブの『コッペリア』やロッシーニの『セビリアの理髪師』序曲、ヨハン・シュトラウスのワルツ、ベートーヴェンなどの作品がパロディ風に扱われている。
第1ラウンド(Première donne)
[編集]- 序奏(Introduction) - アラ・ブレーヴェ(2分の2拍子)
- パ・ダクシオン(Pas d'action) - メノ・モッソ
- ジョーカーの踊り(Dance of the Joker) - ストリンジェンド(Stringendo)[3]、4分の2拍子。
- ワルツ(Waltz) - トランクィッロ
第2ラウンド(Deuxième donne)
[編集]- 序奏(Introduction) - アラ・ブレーヴェ
- ハートとスペードの行進曲(March) - 4分の4拍子
- クィーンの5つのヴァリアシオンとコーダ(Variation - Coda)
- 行進曲(Reprise of March)
- 一同の踊り(Ensemble) - コン・モート
第3ラウンド(Troisième donne)
[編集]- 序奏(Introduction) - アラ・ブレーヴェ
- ワルツ(Waltz) - 4分の3拍子
- スペードとハートの戦い(Battle between Spades and Hearts) - プレスト、2分の2拍子
- 結尾/ハートの勝利(Final Dance - Coda) - テンポ・デル・プリンチピオ
録音
[編集]ストラヴィンスキー自身の指揮、クリーヴランド管弦楽団による1964年の録音がある。ただしこれが最初のものではなく、それ以前の1952年にヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、フィルハーモニア管弦楽団(EMI)による録音が存在する。
脚注
[編集]- ^ 現在のニューヨーク・シティ・バレエ団の前身。メトロポリタン歌劇場の専属バレエ団であった。またアメリカン・バレエ・シアターとは異なる団体である。
- ^ 『作曲家別名曲解説ライブラリー25 ストラヴィンスキー』 p.71
- ^ 「ストリンジェンド」とはイタリア語で「次第に速く」を意味する。
参考資料
[編集]- 『作曲家別名曲解説ライブラリー25 ストラヴィンスキー』 音楽之友社,1995年
- 『ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ、カルタ遊び』(ゲオルク・ショルティ指揮、CSO)解説書、デッカ・レコード