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イヌシデ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
イヌシデ
イヌシデの樹形
分類クロンキスト体系
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : マンサク亜綱 Hamamelidae
: ブナ目 Fagales
: カバノキ科 Betulaceae
: クマシデ属 Carpinus
: イヌシデ C. tschonoskii
学名
Carpinus tschonoskii Maxim. (1881)[1]
シノニム
和名
イヌシデ、シロシデ、ソネ[1]
品種

イヌシデ(犬四手[4]学名Carpinus tschonoskii)は、カバノキ科クマシデ属落葉高木。山野に生える。別名はシロシデ[4]ソロ[注 1]ソネ[1]

形態

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落葉広葉樹の高木で、高さ15 - 20メートル (m)[5]樹皮は灰色でなめらかであり、縦に濃灰色の筋ができ、老木になると筋の部分が凹凸になる[6]。一年枝は毛が密生するが、毛がないこともある[6]の側脈の間に白い毛が多くあり、秋には葉が黄色く紅葉する</ref>。紅葉は、多少赤褐色がかるものもあるが遠目にはほとんど黄色に色づく[4]。葉が散って地上に落ちると、葉はすぐに丸まる[4]

花期は4 - 5月ごろ[6]。雌雄異花で花序は穂状で下垂する。 風によって花粉を飛ばす風媒花であり、種子も風を利用した種子散布に適応した羽根形の構造となっている[7]。紅葉するころには、果実も完熟する[4]果苞はあまり切れ込まない[6]

冬芽は長楕円形に鱗芽で、茶褐色をしており、芽鱗の数はアカシデよりも少ない[6]側芽は枝に伏してつき、互生する[6]

類似種

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近縁種にアカシデクマシデがある。アカシデは新芽と紅葉の葉が赤くなり、イヌシデはアカシデほどの芽吹きの時の赤みはないため、全体の色合いで判別できる[6]。また、アカシデよりも樹皮の縦筋が明瞭に出る[6]。クマシデは葉の脈が倍以上あることからイヌシデと区別することができる。アカシデは花も赤いのに対して、イヌシデは黄色っぽい傾向がある[4]

生態

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しばしば沢沿いに出現する樹種として知られる。同じような環境に生えるサワグルミと比べるとサワグルミの方が礫質土壌で根を伸ばす能力が高い[8]。先駆種的性格や水辺を好む性質から土砂の移動による攪乱が起こる場所にはしばしば生えており、特に地すべり災害の指標となることがある[9]。シデ類は滑った物体(移動体)の緩斜面の湧水付近などに多い[10]。なお、滑って形成された急斜面(滑落崖)に特徴的に出現するとされる種にフサザクラEuptelea polyandra)がある[11]

乾燥への耐性は中程度であり、シラカンバよりは耐性を示す[12]

都市部では窒素およびマンガンの濃度が高まるために落葉落枝の分解に影響がある[13]

イヌシデにはフシダニの一種が虫こぶ(ゴール)を形成する。蛾の幼虫は一般に草食であるが、エダシャク(シャクガ科)の幼虫は葉ではなく、このゴールを中のフシダニごと捕食する者があるという[14]

シデ類はモミAbies firma、マツ科)、ツガコナラQuercus serrata、ブナ科)、イヌブナFagus japonica、ブナ科)などと共に冷温帯と暖温帯の間にある中間温帯(間帯などの他の呼び名もある)の構成種の一つとされる。ゆえにこれらの樹種と混生することがしばしばみられる[15][16][17][18]。ただし、中間温帯についてはそれを認めるかどうかも含めて研究者の間でも見解が分かれる考え方である[19]

現在の西日本は常緑樹林が発達しているが、約7000年前にあった鬼界カルデラの大噴火とそれに伴う鬼界アカホヤ火山灰の降灰がある前は、モミ、ケヤキやイヌシデを主体とした落葉広葉樹林が広がっていたことが遺跡の調査などから推定されている[20]

分布

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内陸の冷温帯と暖温帯の中間である中間温帯林の構成種であり[7]本州岩手県新潟県以南)、四国九州の山野に自生する[4][6]雑木林で普通に見られる[4]。基本的に陽樹だが、稚樹や幼樹には一定の耐陰性がある[7]

人間との関係

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新緑や紅葉が美しいことから、庭園木や盆栽に利用される[4]。かつてはシイタケほだ木、薪炭材として利用され[4]、巨木になると樹形が美しいことから地域の境界を示す境界木として植えられる事もあった[7]

シデ類やブナの小さく折りたたまれた葉を大きく展開する様が「折り紙の数学」の一種として研究されたことがある[21]

10世紀ごろの東北地方の窯跡からイヌシデ近縁種の痕跡が発見されており、燃料として利用されていた。現代の陶磁器生産用の薪窯ではアカマツなどのマツ類を主に燃料に使うが、この当時は広葉樹薪の利用が盛んであったとみられる[22]

象徴

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著名なイヌシデ

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  • 大朝のテングシデ群落広島県北広島町) - 枝垂れるイヌシデで珍しい変種扱いされているものの群生地。国の天然記念物(2000年9月指定)[23]

名称

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和名の由来は、花穂の垂れ下がる様子が注連縄(しめなわ)などに使われる紙垂(しで)に似ていることから<。近縁種のアカシデと区別するため、耐寒性に劣ることから「イヌ」(劣るの意)をつけている[4]。学名の種小名 tschonoskii須川長之助献名されたもの。中国名は、昌化鵝耳櫪[1]

脚注

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注釈

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  1. ^ アカシデクマシデも共に、ソロとよばれる[4]

出典

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  1. ^ a b c d 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Carpinus tschonoskii Maxim. イヌシデ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月28日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Carpinus fauriei Nakai イヌシデ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月28日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Carpinus tschonoskii Maxim. f. pendula Hayashi シダレイヌシデ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月8日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 亀田龍吉 2014, p. 72.
  5. ^ 林弥栄 (1969) 有用樹木図説(林木編). 誠文堂新光社, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000001136796(デジタルコレクション有)
  6. ^ a b c d e f g h i 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 134
  7. ^ a b c d 渡辺一夫 『イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか:樹木の個性と生き残り戦略』 築地書館 2009 ISBN 9784806713937 pp.132-138.
  8. ^ 井藤宏香, 竹内朱美, 伊藤哲, 中尾登志雄 (2008) 渓畔域の土壌基質に対するサワグルミ実生の根系の形態の変化—アカシデおよびイヌシデとの比較—. 日本森林学会誌 90(3), p.145-150. doi:10.4005/jjfs.90.145
  9. ^ 稲垣秀輝, 小坂英輝, 平田夏実, 草加速太, 稲田敏昭 (2004) 四国御荷鉾地すべりの多様な生態系. 日本地すべり学会誌 41(3), p.245-254. doi:10.3313/jls.41.3_245
  10. ^ 高岡貞夫 (2013) 地すべりが植生に与える影響 : 特に長期的な視点からの研究の意義について. 植生学会誌 30(2), p.133-144. doi:10.15031/vegsci.30.133
  11. ^ 菊池多賀夫 (2002) 地すべり地における植生とその立地条件. 地すべり 39(3), p.338-342. doi:10.3313/jls1964.39.3_338
  12. ^ 田中(小田)あゆみ, 小笠真由美, 田中憲蔵, 福田健二 (2019) 落葉広葉樹3種における乾燥ストレス耐性と光阻害感受性の関係. 樹木医学研究 19(1), p.29-36. doi:10.18938/treeforesthealth.19.1_29
  13. ^ 人見拓哉, 稲見安希子, 高橋輝昌 (2019) 山地域と都市域におけるイヌシデ(Carpinus tschonoskii Maxim.)のマンガンを含む元素組成と枝葉の分解特性の比較. 日本緑化工学会誌 45(1), p.15-20. doi:10.7211/jjsrt.45.15
  14. ^ 山崎一夫, 杉浦真治 (2002) フシダニのゴールを攻撃する2種のシャクガ. 蝶と蛾 53(3), p.150-152. doi:10.18984/lepid.53.3_150
  15. ^ 吉岡邦二 (1952) 東北地方森林の群落学的研究 : 第2報 仙台市附近ブナ林地帯の森林. 植物生態学会報 2(2), p.69-75. doi:10.18960/bse.2.2_69
  16. ^ 古田京太郎 (1965) 九州中北部低由地帯の森林植生. 日本林学会誌 47(9), p.313-325. doi:10.11519/jjfs1953.47.9_313
  17. ^ 大久保悟, 加藤和弘 (1995) 分断された二次林の内部における植生の空間分布と遷移管理に関する研究. ランドスケープ研究 59(5), p.97-100. doi:10.5632/jila.59.5_97
  18. ^ 鈴木伸一 (2001) 日本におけるコナラ林の群落体系. 植生学会誌 18(2), p.61-74. doi:10.15031/vegsci.18.61
  19. ^ 中静透 (2003) 冷温帯林の背腹性と中間温帯論. 植生史研究11(2), pp. 39 - 43. doi:10.34596/hisbot.11.2_39
  20. ^ 能城修一, 南木睦彦, 鈴木三男, 千種浩, 丸山潔 (2014) 大阪湾北岸の縄文時代早期および中~晩期の森林植生と イチイガシの出現時期. 植生史研究 22(2), p.57-67. doi:10.34596/hisbot.22.2_57
  21. ^ 小林秀敏, 臺丸谷政志, Julian F.V. VINCENT (1998) 波板状に折り畳まれた植物の葉の展開様式. 日本機械学会論文集 A編 64(628), p.3089-3094. doi:10.1299/kikaia.64.3089
  22. ^ 小林克也, 北野博司 (2013) 山形県高畠町高安窯跡群にみる古代窯業における燃料材選択と森林利用. 植生史研究 22(1), p.13-21. doi:10.34596/hisbot.22.1_13
  23. ^ 文化遺産オンライン > 大朝のテングシデ群落 2024年12月10日閲覧

参考文献

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関連項目

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