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イケマ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
イケマ
福島県会津地方 2009年7月
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: リンドウ目 Gentianales
: キョウチクトウ科 Apocynaceae
: イケマ属 Cynanchum
: イケマ C. caudatum
学名
Cynanchum caudatum (Miq.) Maxim. (1877)[1]
シノニム
和名
イケマ(牛皮消)

イケマ(生馬[5]・牛皮消、学名: Cynanchum caudatum)はキョウチクトウ科ガガイモ亜科イケマ属つる性多年草。別名、「ヤマコガメ」「コサ」ともよばれる[6]

名称

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本種の和名「イケマ」は、アイヌ語で「それの足」を意味する「イ・ケマ」に由来する。この場合の「それ」はカムイ(神)を婉曲に指した言葉である。

学名の Cynanchum (イケマ属)とは、「犬を殺すもの」という意味であり、イケマがもつ毒性によって犬を殺すことができるところから、この名前がついたという。

分布と生育環境

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日本では、北海道本州四国九州に分布し[5]、アジアでは、南千島中国に分布する。山地の谷川のわきや藪、湿り気のある山麓などに群生する[5]。日当たりのよい環境でよく育ち、山地の林や、土手、草原などでみられる[6]

特徴

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多年生草本[5]根茎は太く、横に這う[5]はつる性で数本が束生し、初夏に伸びて藪(やぶ)の他の草などに巻きついて這い登って葉を茂らせ、高さは2 - 5メートル (m) になる[5]。つるの巻き方向は、左から右巻き(S巻き)で、低木に巻き付いて寄りかかって成長する[6]

は長さ10センチメートル (cm) 前後のガガイモより長い葉柄をもっており、茎に対生する[5]葉身は長さ5 - 15 cm、幅4 - 10 cmの心形で先端は尾状に鋭く尖り、裏面は淡緑色で[5]葉脈が浮きだって目立つ。葉縁は全縁。

花期は7 - 8月[5]葉腋から長さ6 - 12 cmある葉柄より長い花柄の先に、径2 - 4 cmの散形花序をつけ、葉の上に多数の白色花が顔を出す[5]。小花柄は長さ1 - 2 cm、花冠(花弁)は(つぼみ)の状態は真ん丸であるが、5裂して開花すると星形となって、裂片は後部へ反り返る[5][7]。副花冠は白色で花弁の内側にあり、小さな花が多数集まって花序全体が球のように丸く咲く[7]

花が終わると、秋に径1 cm、長さ8 - 11 cmの、旧ガガイモ科特有の袋果(果実)を2つずつつける。袋果は、オクラのような紡錘形から角状披針形をしており、中には種子を多数つくる[5][7]。秋に袋果が割れ、白く長い種髪(毛束)をつけた長さ8ミリメートル (mm) ほどの種子がはじけ、風により散布される[7]

毒草であるが、昔から生薬として用いられ、アイヌたちにとっては護身用として大切にされた[6]

毒性

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全草、特に植物体を傷つけたときに出る白い汁(乳液)にシナンコトキシンなどを含み有毒である。地下には長く太い根茎があり、アルカロイドを含み毒性がある[6]。誤食した場合、軽症では嘔吐が、重症では痙攣が起こる事がある。

蝶のアサギマダラは、イケマの葉の裏側に産卵して、その幼虫が葉を食べて育つ。アサギマダラの幼虫は、鳥などの外敵から身を守るため、イケマの毒を体内に蓄積するといわれる[7]

利用・文化

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食用

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若葉や茎先の柔らかい葉を摘んで食用にする[5]。採取時期は5 - 6月ごろが適期とされる[5]。摘んだ葉は茹でて水にさらし、おひたし和え物汁の実天ぷら煮物などにする[5]。秋には、若い果実が天ぷらにして食べられる[5]。しかし、根は有毒のため食用にできない[5]

薬用

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漢方では、イケマの根を「午皮消根」というが、利尿、強壮、強心薬として、また、食中毒の解毒や腹痛、歯痛、風邪薬、回虫の駆除として使われていた[8]

アイヌとの関係

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アイヌは本種を古くから呪術用、薬用、食用に用いられていた。本種の根を乾燥させたものを細かく刻み、紐を通したものをネックレスのように首から下げるか、小片をマタンプシ鉢巻)に取り付けて魔よけとしたという。また、葬儀のとき、夜道の一人歩き、漁や旅のときにも身につけて、魔除けとして使われていた。

近縁種

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コイケマ(学名: Cynanchum wilfordii)との違いは、コイケマのほうがイケマよりも葉の基部に深い凹みがあり、花序柄がイケマより短いことで見分けがつく[7]。コイケマもイケマと同様に食用になる[5]

脚注

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  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cynanchum caudatum (Miq.) Maxim. イケマ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月7日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cynanchum maximoviczii Poped. イケマ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月7日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cynanchum ikema Ohwi イケマ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月7日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cynanchum boudieri H.Lév. et Vaniot subsp. caudatum (Miq.) P.T.Li, M.G.Gilbert et W.D.Stevens イケマ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年5月7日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 高橋秀男監修 2003, p. 156.
  6. ^ a b c d e 谷川栄子 2015, p. 26.
  7. ^ a b c d e f 谷川栄子 2015, p. 27.
  8. ^ 日本のハーブ事典 2012年 村上志緒 東京堂出版P31

参考文献

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  • 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本Ⅲ 』(1981)平凡社
  • 高橋秀男監修 田中つとむ・松原渓著『日本の山菜』学習研究社〈フィールドベスト図鑑13〉、2003年4月1日、156頁。ISBN 4-05-401881-5 
  • 谷川栄子『里山のつる性植物 観察の楽しみ』NHK出版、2015年6月20日、26-27頁。ISBN 978-4-14-040271-9