DMF13系エンジン (2代)
DMF13系エンジン(2代)は、日本国有鉄道(国鉄)・JRグループ・民鉄(私鉄)・第三セクター鉄道などの気動車に広く搭載されるディーゼルエンジンである。
概要
[編集]元は新潟鐵工所(現・IHI原動機)が開発した船舶用高速エンジンであったものを鉄道車両用に設計変更したものであり、設計・開発に関わるコストが抑えられている。また、基本設計が旧いDMH17系に対してはもちろん、キハ40系等で採用されたDMF15系と比べても、小型軽量で高出力、冷間時の始動性にも優れたものとなっている。
日本国内向け気動車用エンジンの技術が停滞している間に、燃料直接噴射などディーゼルエンジン自体の技術は著しく向上しており、また国鉄改革の機運も本エンジンの採用を後押しした。国鉄が初採用した直噴式エンジンであり、民鉄向けの6L13AS・6L13HSエンジンは本系列エンジンと同型である。その後、気動車用エンジンの主流の一つとして、カミンズ製NTA855系またはN14-R系[注釈 1](DMF14HZ系)やコマツ製SA6D125系(DMF11HZ系)など[注釈 2]とともに、さまざまな気動車に搭載されている。
2017年(平成29年)4月現在、この系列のエンジンでもっとも高出力で使われているのは、北海道旅客鉄道(JR北海道)のキハ261系気動車に搭載されているN-DMF13HZHとN-DMF13HZJ、キハ183系機器更新車に搭載されているN-DMF13HZKで、共にインタークーラーを装備し460 psを発揮する。 JR北海道の気動車に搭載されているものは、細かな仕様の違いにより末尾のアルファベットが決められており、メーカーとJR北海道では形式呼称と仕様が異なる場合がある。
開発経緯
[編集]1983年(昭和58年)、日本国有鉄道(国鉄)はローカル線用気動車の置き換えを図るべく、大柄で頑丈な車体に低出力かつ旧弊な副燃焼室式のDMF15系エンジンを搭載したことで鈍重との不評を買ったキハ40系の経験を踏まえ、新形気動車キハ37形を試作の目的で新造した。その際、省エネルギー・高効率化を目指して採用されたのが、船舶用の直列6気筒縦形(直立シリンダー形)直噴式ディーゼルエンジンを車載用に改設計した[注釈 3]新潟鐵工所製6L13ASエンジンである。
このエンジンは国鉄への制式採用に際し、当時の国鉄のエンジン形式命名ルールに従って「ディーゼル原動機、6気筒、排気量13リットル、過給器装備」から「DMF13S」の呼称を与えられた。
初の搭載車となったキハ37形は国鉄の投資抑制と、就役直後に始まった地方交通線の相次ぐ廃止・転換により、僅か5両の製造で終わったが、この時期は第三セクター鉄道用気動車の草創期と重なり、これと同形のエンジンはメーカー形式6L13ASとして、三陸鉄道36-100形・36-200形、神岡鉄道KM-100形・KM-150形、鹿島臨海鉄道6000形・7000形で採用された。
さらにその後、縦形から横形(水平シリンダー形)のDMF13HS[注釈 4]に改設計され、分割民営化直前に製作された各形式に採用された。その後もインタークーラーの付加や噴射ポンプの電気制御化、排気量の若干の増積[注釈 5]、電子制御装置の付加、燃焼室の改良や排気対策などが繰り返され、JRグループ[注釈 6]の新造車に限らず、民鉄・第三セクター鉄道用の車両にも用いられている。
諸元
[編集]- 水冷直列6気筒OHV4ストロークターボチャージャー付きディーゼルエンジン
- 「H」は横形(水平シリンダー形)[注釈 7]、「S」は過給器付き[注釈 8]、「Z」はインタークーラー(中間冷却器)付きを表す。以降、改良順に「A」から区別記号が付記される。
- 「-G」が付く形式はサービス電源[注釈 9]用で、組み合わされる発電機は、DM82形が180 kVA、DM93形が210 kVA。
- 組み合わされる液体変速機は、主要なものを掲載
メーカーによる呼称 | DMF13S | DMF13HS | DMF13HS-G | DMF13Z | DMF13HZ | DMF13HZ-G | DMF13HZA | DMF13HZB | N-DMF13HZB |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
方式 | 直噴式 | 直噴式 | 直噴式 | 直噴式 | 直噴式 | 直噴式 | 直噴式 | 直噴式 | 直噴式 |
シリンダ形状 | 縦形直列 | 横形直列 | 横形直列 | 縦形直列 | 横形直列 | 横形直列 | 横形直列 | 横形直列 | 横形直列 |
シリンダ数 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 |
シリンダ径×行程 (mm) | 130×160 | 130×160 | 130×160 | 130×160 | 130×160 | 130×160 | 132.9×160 | 132.9×160 | 132.9×160 |
過給方式 | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー | ターボチャージャー |
インタークーラーの装備 | なし | なし | なし | あり | あり | あり | あり | あり | あり |
排気量 (l) | 12.7 | 12.7 | 12.7 | 12.7 | 12.7 | 12.7 | 13.3 | 13.3 | 13.3 |
連続定格出力 (PS / rpm) | 210 / 2000 | 250 / 2000 | 230 / 1800 | 330 / 2000 | 330 / 2000 | 300 / 1800 | 450 / 2000 (460 / 2100) |
530 / 2000 | 460 / 2100 |
組み合わされる液体変速機 | DF115 TC2 |
DF115 TC2 DW13 新潟TACNコンバーター |
- | DW13A DW14 新潟TACNコンバーター |
- | DW14 N-DW16 N-DW40 R-DW4 |
- | - | |
組み合わされる発電機 | - | - | DM82 | - | - | DM93 | - | - | - |
全長 (mm) | 1574 | 1432 | 1635 | 1432 | 1432 | 1432 | - | ||
全幅 (mm) | 956 | 1374 | 1010 | 1374 | 1416 | 1416 | - | ||
全高 (mm) | 1009 | 723 | 1290 | 723 | 742 | 742 | - | ||
重量 (kg) | 1350 | 1280 | 1390 | 1310 | 1410 | 1450 | - |
主な搭載車種
[編集]国鉄→JRグループ
[編集]- DMF13S
- 国鉄キハ37形気動車(←全車両廃車に伴い形式消滅、 水島臨海鉄道に移籍)
- DMF13HS
- JR九州キハ31形気動車(←全車両廃車に伴い形式消滅)
- JR四国キハ32形気動車
- JR西日本キハ33形気動車(←全車両廃車に伴い形式消滅)
- JR東日本キハ38形気動車(←全車両廃車に伴い形式消滅、水島臨海鉄道に移籍)
- JR四国・北海道キハ54形気動車
- JR北海道キハ130形気動車(←全車両廃車に伴い形式消滅)
- JR北海道キハ141系気動車
- JR北海道キハ183系気動車
- JR九州キハ183系気動車
- JR四国・九州キハ185系気動車
- DMF13HZ
- JR北海道キハ183系気動車(550番台)
- JR東日本キハ100系気動車
- JR九州キハ125形気動車
- JR北海道キハ40形気動車(改造によりDMF15系から換装)
- DMF13HZA
- JR九州キハ72系気動車
- JR東日本キハ110系気動車
- JR九州キハ200系気動車
- JR九州キハ66系気動車(←DML30系から換装※既に引退済み)
- JR九州キハ40系気動車(←DMF15系から換装)
- DMF13HZB
- JR北海道キハ40形気動車(改造によりDMF15系から換装)
- DMF13HZC
- JR北海道キハ183系気動車200番台(420ps/2,000rpm)
- ノースレインボーエクスプレス(420ps/2,000rpm)
- DMF13HZD
- JR北海道キハ143形気動車(N-DMF13HZD)
- JR北海道キハ40形気動車(改造によりDMF15系から換装)
- DMF13HZE
- JR北海道キハ201系気動車(N-DMF13HZE)
- DMF13HZF
- JR北海道キハ160形気動車
- DMF13HZG
- DMF13HZH
- JR北海道キハ261系気動車(基本番台)(N-DMF13HZH:460 ps/2,100 rpmに改良)
- JR北海道キハ261系気動車(1000番台)(N-DMF13HZJ:N-DMF13HZHを、排気ガス低減対策のため燃焼室の構造を変更。460 ps/2,100 rpmに改良)
- DMF13HZI
- JR北海道キハ40形気動車(改造によりDMF15系から換装)
- DMF13HZK
- JR北海道キハ183系気動車(N-DMF13HZK:←機器更新車。460 ps/2,100 rpmに改良)
- DMF13Z-G
- JR東日本・北海道マニ24形500番台
私鉄・第三セクター鉄道
[編集]私鉄
[編集]- DMF13HZ
- 津軽鉄道津軽21形気動車
- 関東鉄道キハ2000形気動車
- 関東鉄道キハ2100形気動車
- 関東鉄道キハ2200形気動車
- 関東鉄道キハ2300形気動車
- 関東鉄道キハ2400形気動車
- 島原鉄道キハ2500・2550形気動車
第三セクター鉄道
[編集]- DMF13S
- 鹿島臨海鉄道6000形気動車
- DMF13HS
- 三陸鉄道36-300形気動車(←2006年ミャンマー国鉄売却に伴い形式消滅)
- 三陸鉄道36-400形気動車(←2004年、2006年各車両廃車に伴い形式消滅)
- 北海道ちほく高原鉄道CR70・75形気動車(←2006年廃線に伴い廃車)
- 山形鉄道YR-880形気動車
- 若桜鉄道WT2500形気動車
- 土佐くろしお鉄道TKT-8000形気動車(TKT-8001 - 8005)
- 阿佐海岸鉄道ASA-100形・ASA-200形気動車
- 高千穂鉄道TR-100・TR-200形気動車
- 高千穂鉄道TR-300形気動車
- くま川鉄道KT100・KT200形気動車
- くま川鉄道KT31形気動車(←JR九州キハ31形気動車キハ31 20)
- DMF13HZ
- 三陸鉄道36-100形気動車
- 三陸鉄道36-200形気動車
- 三陸鉄道36-700形気動車
- 三陸鉄道36-R形気動車(←元三陸鉄道36-600形気動車)
- 三陸鉄道36-Z形気動車
- 三陸鉄道36-500形気動車(←2009年廃車に伴い形式消滅)
- 三陸鉄道36-1100形気動車(←2009年36-1106はミャンマー国鉄に売却・2013年度残る全車両廃車に伴い形式消滅)
- 三陸鉄道36-1200形気動車(←2009年ミャンマー国鉄売却に伴い形式消滅)
- 三陸鉄道36-2100形気動車(←2016年引退・新潟トランシスへ輸送され車籍抹消に伴い形式消滅)
- 由利高原鉄道YR-1500形気動車(←由利高原鉄道YR-1000形気動車)
- 由利高原鉄道YR-2000形気動車
- ひたちなか海浜鉄道キハ3710・37100形気動車(←旧茨城交通キハ3710・37100形気動車)
- 鹿島臨海鉄道8000形気動車
- 若桜鉄道WT3000形気動車(←若桜鉄道WT2500形気動車)
- 若桜鉄道WT3300形気動車
- 錦川鉄道NT3000形気動車
- 水島臨海鉄道MRT300形気動車
- 土佐くろしお鉄道TKT-8000形気動車(TKT-8011、8012、8021)
- 高千穂鉄道TR-400形気動車
- 肥薩おれんじ鉄道HSOR-100・150形気動車
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 数字は排気量を表しており、前者はヤード・ポンド法による立方インチ、後者はメートル法によるリットルである。
- ^ ほかに新潟鐵工所DMF18HZ形やコマツSA6D140系(DMF15HZ系)もある。
- ^ 開発コストや採用時期の問題もあって最低限の手直しにとどめられたため、国鉄気動車用としてはDMH17C以来久々の縦形エンジンとなった。
- ^ 新潟鐵工所での形式は6L13HS。のちメーカー製品としての名称も国鉄式のDMF13HSに改称。
- ^ ストローク160mmはそのままに、シリンダー径を132.9mmに拡大し、総排気量13.3Lに増積したDMF13HZAシリーズとその改良版。
- ^ カミンズ製のエンジンを標準採用したJR東海を除く。JR東日本もキハE130系以降の気動車では一部を除きコマツ製エンジンに採用が移行したためキハ100系・キハ110系以外に新造車の採用例がない。同じく西日本旅客鉄道と四国旅客鉄道も会社発足後の新形式ではコマツ製エンジンに採用が移行したため、本エンジンの採用は西日本がキハ33およびキハ37、四国がキハ185系の増備車のみにとどまっている。なお、JR西日本のキハ37が平成21年に、キハ33が平成22年にそれぞれ全車引退したため、同社からDMF13原動機搭載車が消滅した
- ^ Holizontal の頭文字。
- ^ Super Charged の頭文字。過給器全般を Super Charger と呼ぶが、DMF31S形以降はターボチャージャーのみが採用されている。
- ^ generatorの頭文字。室内照明や冷暖房など、接客設備用の電源。電力の周波数が変化しないよう一定回転数で使われる。
出典
[編集]関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 株式会社IHI原動機
- 新潟原動機株式会社 (リンク切れ)