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中国語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Chi (ISO 639)から転送)
中国語
中文、汉语/漢語、华语/華語
ㄓㄨㄥˉㄨㄣˊ、ㄏㄢˋㄩˇ、ㄏㄨㄚˊㄩˇ
Zhōngwén, Hànyǔ, Huáyǔ
[ʈ͡ʂʊŋ˥ wən˨˥], [xän˥˩ ɥy˨˩˦], [xu̯ä˨˥ ɥy˨˩˦]
話される国 中華人民共和国中華民国シンガポールマレーシアインドネシアタイなど
および世界の華僑居住区
地域 東アジア東南アジア
話者数 13億以上(中華人民共和国台湾のみならず、シンガポール共和国でも使われる)
言語系統
表記体系 漢字簡体字繁体字)、注音符号拼音中国語の点字小児経
公的地位
公用語

中華人民共和国の旗 中華人民共和国

中華民国の旗 中華民国
シンガポールの旗 シンガポール
国際連合の旗 国際連合
統制機関 中華人民共和国の旗 中華人民共和国教育部
香港の旗 香港政府公務局英語版中国語版
マカオの旗 マカオ教育青年局英語版中国語版
中華民国の旗 中華民国教育部
マレーシアの旗 マレーシア華語標準化委員会英語版中国語版マレー語版
シンガポールの旗 標準華語委員会英語版中国語版
言語コード
ISO 639-1 zh
ISO 639-2 chi (B)
zho (T)
ISO 639-3 zhoマクロランゲージ
個別コード:
cdo — 閩東語
cjy — 晋語
cmn — 官話
cpx — 莆仙語
czh — 徽語
czo — 閩中語
gan — 贛語
hak — 客家語
hsn — 湘語
lzh — 漢文
mnp — 閩北語
nan — 閩南語
wuu — 呉語
yue — 粤語
cnp — 桂北平話
csp — 桂南平話
中国語の使用状況
  中国語を母語・公用語とする地域
  中国語話者が500万人を超える国家
  中国語話者が100万人を超える国家
  中国語話者が50万人を超える国家
  中国語話者が10万人を超える国家
  主な中国語話者の集住地
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漢字文化圏における各言語の読み書きの違い

中国語(ちゅうごくご、: 中文、汉语/漢語、华语/華語注音: ㄓㄨㄥˉㄨㄣˊ、ㄏㄢˋㄩˇ、ㄏㄨㄚˊㄩˇ拼音: Zhōngwén, Hànyǔ, Huáyǔ)は、シナ・チベット語族に属する言語中華人民共和国中華民国台湾)・シンガポール公用語であるほか、世界各国に住む華僑華人の間でも使用されている。

各方言を含む中国語母語とする人は約13億9000万人[1]第二言語としても約2億人が使用しているといわれており、世界最大の母語話者人口を有する。また、国際連合における公用語の一つでもある[2]

言語名

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中華人民共和国では、主に中文と呼ぶ。

中国は多民族国家かつ多言語国家であり、少数民族の言語も「中国の言語」と言えなくもないことから、それらと区別するために漢語漢族の言語)と呼ぶことがあり、学術的な用語としてもよく使われる。他に現地では華語中国話などとも呼ばれる。

中国語の内、標準語である標準中国語には中華人民共和国普通話中華民国国語台湾国語シンガポールマレーシアなどの華語がある(詳細は#歴史および各項目を参照)。

日本語でただ「中国語」と言った場合、普通話を指すことが多い[3]。また、普通話を俗に「北京語」と呼ぶことがあるが、日本の標準語と東京方言の関係と同様に、普通話と北京官話は必ずしも同一のものではない[4]

なお、一般的に、中国語では、文字のある言語をといい(例:ドイツ語德文)、明確に定めた文字のない言語、方言あるいは口語・会話のことを指すときにはという(例:上海話)。は前述の両方に使われる(例:德語(ドイツ語)、閩南語)。

特徴

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中国語の特徴といえば「漢文からの簡潔さ」ということである。

簡潔さの例として、まず中国語では時制が省略される。ゆえに現在未来過去かは読者の判断にゆだねられる。またと句、と語の間の関係が、条件結果であるとき、順接であるとき、逆接であるとき、いずれも概ね語順によってのみ示され、これも読者の判断にまかされる。ゆえに中国語の文法は簡単であるが、常識によって理解されるという特徴がある。さらに助字(而・之・於・者・焉の類)も省略される。中国語には助字を添加してもしなくても文章が成立するという性質がある。よってこれを日本語に訓読する場合は、「てにをは」を添加する必要がある。

一方、中国語はリズムに敏感なのような性質を常に保持し、そのリズムの基礎は四字句が中心になっていることが多い。こうしたリズムの組成のために助字がしばしば作用する。助字は、あってもなくてもよい語であるという性質を利用して、簡潔とは逆行するが、助字を添加することによってリズムを完成させ、文章を完成させる。よってこのようなリズムの充足のために添えられた助字は、はっきりした意味を追求しにくいことがよくある。またこの四字句などは、しばしば対句的な修辞となる。つまり同じ文法的条件の語を同じ場所におく、繰り返しのリズムである。この対句は中国語の性質から成立しやすいものであり、その萌芽が『老子』をはじめとする古代の文章にしばしば見える。これがやがて律詩を生み、唐から宋までの中世の美文・四六駢儷文を生んだ[5]

歴史

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古代漢語

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言語政策
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  • の全国統一で言語が各地に伝播した。
文字
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  • 漢字の原形とされる甲骨文字1899年に発見)が使われており、簡単な文章が記録されている。
音韻
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  • 声母(頭子音)に複子音 sl-, pl-, kl-(例: 「監」*klam) などが存在した。
  • 韻母の尾子音は豊富だった(例:「二」 *gnis)。
文法
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  • 語順はタイ語的なSVO型だった。(例: 吳 敗 越 於夫椒 「呉は夫椒で越を破った。」 S-V-O-Adv ⇔ 現代語: 吳軍 在夫椒 把越軍 打敗了。 Or 吳軍 在夫椒 打敗了 越軍 S-Adv-O-V)[7]
    • この頃の文献としては、諸子百家にまつわる書が残っている。
  • 文法的に重要な役割を果たしていた接辞不変化詞による修飾語の形成があったが、後期になると衰え始めた。

中期漢語

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文字
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  • 漢字の字体が統一され、規範的な字書が作られた[9]。また、科挙試験によって、発音、字体、文法など、規範的な言語の使用が促進された。
文法
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語彙
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  • 2音節の熟語が発達した[8]
文化
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近代漢語

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古官話代、代、代)[8]

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言語政策
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  • 都のあった北京の言葉を中心にした言語が全国に広まり始めた。この言語は「正音」と呼ばれていたが、官吏が主に使用したことから明代以降「官話」の呼び名が定着するようになった[10]
音韻
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  • 元代には唐宋以来の漢音を使っていたと考えられている[11][12]
  • 明代、北方方言を中心に「児化音」が現れた。これはアルタイ諸語からの影響でなく、北方方言自らの音韻変化である。
文法・語彙
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  • 語彙面、文法面で、文語と口語の差が広がった。代から代には、口語による白話小説が広く書かれるようになった。
  • 元代と清代には北方語を中心に、アルタイ諸語から幾つか語彙を吸収したことがあった。ちなみに介詞"把"は代に既にあった。例:白居易の『戯醉客』には「莫把杭州刺史欺」。
  • 元代口語では文末助詞の「有」が多用された。

現代漢語

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1895年日清戦争後に、西欧の事物・概念を表す語を中心に和製漢語の中国語への流入がはじまり、1898年梁啓超横浜市で『清議報』を発刊したことによってそれが本格化した[15]1905年中国同盟会結成頃から、優秀な学生が日本の早稲田大学などへ留学し、既に日本語化され定着した「和製漢語」などの西洋概念に触れ、日本の国語の影響を強く受けた。この新漢語の大量流入は1919年ごろまでに最盛期を迎え、その後も第二次世界大戦終了までは徐々に数量を減じながらも継続していた[16]

一方、清朝末期になると中国でも標準語制定の動きが高まり、1904年には初等・中等教育において官話学習が義務化された[17]。このころまでは「官話」という言葉は将来制定されるべき「標準語」との意味も含んでいたが、1910年には標準語という意味で「國語」という呼称が用いられるようになり[18]、以後官話は北京を中心とした方言を、國語は標準語を指すようになった。台湾ではその名が今でも受け継がれている。1911年には清国政府によって標準語としての國語統一を目指す法案が決定された[19]

同年起こった辛亥革命によってこの動きは一時中断したものの、新たに成立した中華民国政府は中国語の統一を重視し、國語統一の動きは引き続き進められた[20]。中華民国における「國語」制定においてはまず発音の統一が重視されたが、この発音については北京方言を用いるか、各地の方言を折衷した新しい発音を用いるかの論争が起こり、最終的に1924年に北京方言を主に用いることと定められた[21]

1917年には、陳独秀の発行する雑誌『新青年』誌上において、胡適を中心として書き言葉を「文語体」(文言文) から「口語体」へ変えようとする動き(白話運動)が広がり、文学革命が起こった[22]魯迅の『阿Q正伝』などがこの運動の中で生み出された。1919年(民国8年)、北京大学教授の銭玄同は、雑誌に寄稿して文字改革を訴えて漢字の廃止を主張し、新文化運動の中心人物となった。

第二次世界大戦後、1949年中国大陸に成立した中国共産党による中華人民共和国においても、標準語の制定と言語統一は引き続き追求された。ただし発音的には「國語」がすでに確立され、中華民国統治期にすでに全国に普及していたため、基本的にこれを踏襲する姿勢を取った。ただし「國語」は日本語からの借用語であったため、「普通話」と名を改めることとした[23]。これに対し、台湾へと逃れた中華民国政府は引き続き「國語」という用語を使用し続けた[24]

清朝末期から中華民国期にかけて、語法面で英語の影響を受けて出現した新たな中国語の言い回しも数多くあり、これは「欧化語法現象」と呼ばれている。

中華人民共和国政府は発音の面では中華民国政府の政策を踏襲したが、文字の面では大規模な改革に踏み切り、正書法として従来の漢字を簡略化した簡体字1956年に採用された。また、言語の統制機関として1954年に中国文字改革委員会が設置され、1985年には国家語言文字工作委員会と改称された[25]

標準語

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中国では文章語は古代より統一されていたが、口語は各地方ごとに異なり、同じく漢字の発音も各方言ごとに異なっていた。この状況の解消を目指し、20世紀初頭から中盤にかけて北方語の発音・語彙と近代口語小説の文法を基に「普通話」(pǔtōnghuà)が作られた。日本では「標準語」に当てはまる。人民の意思疎通を容易にするため、中国では中央政府の標準語政策により積極的に普通話の使用が推進され、教育放送で取り入れられ、標準語共通語とされている。一般的に、全人口の8割程度が普通話を理解するといわれ、方言話者の若い世代は普通話とのバイリンガルとなっていることが多い。2017年には、中国国民のおよそ80%が普通話を使用することができ[26]2000年の53%から大幅に増加したことが報じられた[27]

台湾においても、日本の敗戦後に施政権を握った中華民国政府が「国語」(guóyǔ)(「普通話」とほぼ同一で相互理解は可能だが音声と語彙に差異がある)による義務教育を行っている[28]

シンガポールマレーシアなどの東南アジアの地域では、普通話や中華民国国語に似ている標準中国語が一般的に「華語」(huáyǔ)と呼ぶ。

方言

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中国語方言の分布

2012年における中国で話される言語別の人口割合[29](下位にさらに細かい方言がある)

  閩語 (6.2%)
  呉語 (6.1%)
  晋語 (5.2%)
  粤語 (4.9%)
  贛語 (4.0%)
  客家語 (3.5%)
  湘語 (3.0%)
  徽語 (0.3%)
  広西平話, その他 (0.6%)

中国には多くの方言がある。例えば、北京語北方語の一つ)と広州語(広東語・粤語の一つ)と上海語(東部に分布する呉語の一つ)では発音、語彙ともに大きく異なるだけでなく、文法にも違いがあり、普通話しか話せない者は、広東語などの方言を聞いてもほとんど理解できないため、別の言語とする見方もある。しかし、文章語は共通しており書かれた文の読解は容易であるため、中国ではテレビで放送されるドラマや映画、アニメなどに字幕を付けることが多い[30]。また各地方語はあくまでも中国語群には属していて対応関係が明確であるため、普通話を標準語として上位に置き、各地方語は方言と呼ばれることが一般的である[31][注釈 1]

方言区分は議論のあるところであり、いくつに分けるか学者によって異なっている。2分類では、湖南省以東では長江が南北の等語線とほぼ等しく(南通鎮江などは例外)、これより北と西の内陸部が「北方語」(および晋語)、これより南が南方諸方言地域に分類することができる (Encyclopædia Britannica, Inc., 2004)。

諸方言は中国祖語をもとに、タイ諸語などの南方諸語やモンゴル語満洲語など北のアルタイ諸語の発音、語彙、文法など特徴を取り込みながら分化したと考えられている。特徴として、声調を持ち、孤立語で、単音節言語であることが挙げられる (Columbia University Press, 2004) が、現代北方語普通話を含む)は代以降、かなりの程度アルタイ化したため必ずしも孤立語的、単音節的ではない。

七大方言

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  1. 北方語官話方言)
    1. 華北東北方言(北京官話東北官話冀魯官話膠遼官話)- 北京天津黒竜江省吉林省遼寧省河北省河南省山東省内蒙古の一部。
    2. 西北方言(中原官話蘭銀官話) - 陝西省甘粛省山西省の全域と青海省寧夏内蒙古の一部、及び中央アジアのドンガン人居住区。
    3. 西南方言(西南官話) - 四川省雲南省貴州省湖北省の大部分、広西省西北部、湖南省西北部。
    4. 江淮方言(江淮官話南京官話) - 安徽省江蘇省長江以北の地域(ただし、徐州蚌埠は除く)、江蘇省鎮江以西から江西省九江以東にいたるまでの長江南岸地域。
  2. 呉語上海語蘇州語など。)
  3. 粤語広東語
  4. 贛語南昌語など。客家語と近い。)
  5. 湘語長沙語など)
  6. 閩語
    1. 閩北語
    2. 閩東語
    3. 閩南語台湾語
    4. 閩中語
    5. 莆仙語
  7. 客家語

十大方言

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以下の方言は独立した大方言区とすべきとの議論がある。オーストラリア人文アカデミーと中国社会科学院がまとめた『中国言語地図集』はこの立場で編纂されている。

  1. 晋語 - 七大方言では北方語に属する。
  2. 徽語 - 七大方言では呉語に属する。
  3. 平話(広西平話) - 七大方言では粤語に属する。

Ethnologue は、漢語を14に分類している (SIL International, 2004)。キルギスドンガン語は、キリル文字を用いて表記し、ロシア語キルギス語などからの借用語が多く、使用国も異なるため、独立言語とし、平話を除いた九方言にドンガン語を加えたものである。この場合、閩語閩北語閩東語閩南語閩中語莆仙語の五つの言語に分けられる。

その他、分類が定まっていない小方言群がある。

音韻

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声調

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中国語は声調言語である。音節の音の高低の違いが子音母音と同じように意味を区別している。これを声調(トーン、tone)という[32]。例えば、「普通話」には {ma} という形態素は軽声も含めて19個もある(松岡、2001)。しかし陰平声陽平声上声去声の四つの声調[32]軽声があるので、実際には5種の異なる形態素に分けられる。

  • 陰平声(第一声) - ; お母さん)- 高く平ら。
  • 陽平声(第二声) - ; 麻)- 上がり調子。
  • 上声(第三声) - ; 馬)- 低く抑える。
  • 去声(第四声) - ; 罵る)- 急激に下がる。
  • 軽声 - (ma; 疑問の語気助詞)- 抑揚はなく、高さは前の声調により変わる。

表記

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中国語の共通文字体系である漢字の歴史は古い。漢字は中国独自の文字で、ラテン文字などのアルファベットと異なり、音節文字であり表意文字である。漢字は大量かつ複雑な容姿をした部品を用い、かつ不規則な読み方をし、異体字や類義の字も多いため、習得に長期間を要し、経済的にも効率が悪いといった趣旨の否定的な評価から、文字の簡略化やラテン文字への移行を求める動きが民国期以降盛んとなり、簡体字や拼音表記の開発へとつながっていった[33]。実際に朝鮮民主主義人民共和国ベトナムでは漢字を廃止した[34]

上記の動きに伴い、中国大陸中華人民共和国では1956年に、字画が少なく読みや構成にも統一性を高めた簡体字が正式採用された[35]。簡体字は、中国全土で使用されることが中央政府によって義務化され、シンガポールも中国語(華語)の表記に採用した。これに対して、中華民国(台湾)、香港マカオでは、基本的に簡体字以前の字体を維持した繁体字(正体字)が使われている[36]

中国語には簡体字と繁体字があり、これら2つは同じ漢字でも表記が異なる。繁体字・簡体字は、それぞれの文化圏での政治的・技術史的な経緯から、コンピュータ処理においては全く互換性のない別の文字コード文字セット体系(簡体字圏=GB 2312、繁体字圏=Big5)が使用されてきた。簡体字には複数の繁体字を1字にまとめて整理した形をとったものがある(多対一)ことから、逆に簡体字から繁体字に変換する場合(一対多の使い分けが必要)、「头发(頭髪)」を「頭發」、「干杯(乾杯)」を「幹杯」とする類の誤変換が中国大陸のウェブサイトの繁体字版ページなどによく見られる。

中国語のローマ字表記には19世紀以来Wade-Giles方式が伝統的に使われてきて、今でも台湾の道路標識、英字新聞に出る個人名称などに使われている[37]。次いで中華民国期の1913年には注音符号と呼ばれる発音記号が開発され、広く普及した。中華民国政府が統治する台湾では、今でも注音符号を用いて漢字の読みを示すのが一般的である[38]。中華人民共和国は1956年漢語拼音方案という新しいローマ字表記法を制定した[39]。この拼音は、1977年国連の第3回地名標準化会議で中国の地名のローマ字表記法として、1982年にはISOで中国語のローマ字表記法として採用された。また、拼音は、外国人(特に欧米人)による中国語学習や小学生の漢字学習の助けにもなっている。2009年には台湾でも漢語拼音も採用している。

文法

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語形変化活用)が生じず、語順が意味を解釈する際の重要な決め手となる孤立語である[40]。孤立的な特徴をもつ言語としては他にベトナム語などがある。基本語順はSVO型である[41]。しかし、現代北方語や文語では「」や「」、「」による目的格表示などがあり、SOV型の文を作ることができる。加えて、前置詞(介詞)の種類が増加しており、文法的な性質が膠着語に近づいている。

  • 標準語の文法:我去图书馆看书。/ 我去圖書館看書。Wǒ qù túshūguǎn kàn shū. (図書館へ行って本を読む。)

現代語では、日本語のように動詞の前後や文末に助詞・助動詞が来る。例えばは動詞につくとアスペクト(完了)を表し、文末につくとモダリティを表す。


中国語には時制を表す文法カテゴリーが存在しない。一方でアスペクトは存在し、動詞に「」(完了)「过/過」(経験)「着/著」(進行)をつけることによって表される。

  • 昨天我了电影院。/ 昨天我了電影院。(昨日、映画館へ行った。)

また、 による語形変化がないのが孤立語の特徴である。したがって、中国語でも名詞形容詞に格の変化は生じない。格は語順によって示される。

1人称単数の人称代名詞」 (wŏ)

  • 去过中国。/ 去過中國。主格;私は中国に行ったことがある。)
    • 上海語:到中国去过个。/ 到中國去過個。ngo to Tsoncué chicoughé.
  • 我妈妈让学习。/ 我媽媽讓學習。目的格;母は私に勉強させる。)
    • 上海語:我个妈妈让学习。/ 我個媽媽讓學習。ngoghé mama gnian ngo ghózí.
    • 英語が同じ語順: My mom made me study.

語彙

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中国語には格変化がなく、また西洋の言語に見られるような性・数の区別を持たない。また、中国語は基本的に単音節言語であるが、現代語は複音節の語彙が増えている[42]。中国語の表記に使う漢字は一音節に一文字が用いられる。

  • jiā; 家)
  • zǒu; 歩く)
  • ; 大きい)

連綿語借用語といった、単音節では意味を持たない語がある。

  • 彷徨pánghuáng; さまよう、ためらう)
  • 玻璃bōli; ガラス

中国語の多くのは単音節であるため、たとえ声調で区別をしても、必然的に全く同音の多義語同音異義語が多くなる。このため、特に北方語において、「目」→「眼睛」、「耳」→「耳朵」、「鼻」→「鼻子」などのように複音節化して意味を明確にしている(橋本、1981)。

また、同じような意味の単音節の形態素を並べて、2音節の単語(日本語で言う熟語)を形成することがある。例えば、動詞学/學」(学ぶ)は拼音で (xué) と表記されるが、この同音異義語は5通り(学、穴、噱、踅、泶)以上あり、「学ぶ」という意味をはっきりさせるために2音節の語にして「学习/學習」 (xuéxí) とすることもできる。中国語では単音節の形態素を二つ以上並べて2音節の語を構成する方法として次のようなものが挙げられる[43]

中国語の単語の構造
形式 説明
等位型(1) 2つの形態素の意味が互いに同じか近いもの。 道路衣服学习/學習孤独/孤獨
等位型(2) 2つの形態素の意味が相反するもの。 开关/開關天地轻重/輕重
等位型(3) 2つの形態素の意味が互いに関係のあるもの。 手足江山口舌
修飾・限定型 意味上、前の形態素が後ろの形態素を修飾・限定しているもの。 黑板象牙高级/高級
主述型 意味上、前の形態素が主語であり、後ろの形態素が述語であるもの。 年轻/年輕地震国营/國營
動目型 意味上、前の形態素がある述語であり、後ろの形態素がその目的語であるもの。 关心/關心卫生/衛生刺眼
補足型 意味上、前の形態素が述語動詞であり、後ろの形態素がその動作・行為の結果や方向を表すもの。 改善接近超出
重ね型 同一の形態素を重ねたもの。 姐姐爸爸娃娃
付加型 語幹となる形態素に、接辞を付加したもの。
  1. 語幹に接頭辞を付加したもの
  2. 語幹に接尾辞を付加したもの
  3. 語幹に接中辞を付加したもの
  1. 老虎
  2. 桌子
  3. 糊里糊涂/糊裡糊塗

脚注

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注釈

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  1. ^ 日本語における本土方言(内地語)と、琉球方言琉球語)の関係に似ている。

出典

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  1. ^ 「The world’s languages, in 7 maps and charts」ワシントン・ポスト 2015年4月23日 2020年6月28日閲覧
  2. ^ 「加盟国と公用語」国際連合広報センター 2020年6月28日閲覧
  3. ^ 東外大言語モジュール|中国語”. www.coelang.tufs.ac.jp. 2020年9月7日閲覧。
  4. ^ 北京語は標準語ではありません|中国留学ゼミナール 大学選びの秘訣”. liuxue998.com. 2020年9月7日閲覧。
  5. ^ 吉川幸次郎『漢文の話』(筑摩書房、新版1971年(初版1962年))pp. 32–74, 177
  6. ^ 「中国語学概論 改訂版」p13-14 王占華・一木達彦・苞山武義編著 駿河台出版社 2004年4月10日初版発行
  7. ^ (橋本、1978)
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  10. ^ 「近現代中国における言語政策 文字改革を中心に」p21 藤井(宮西)久美子 三元社 2003年2月28日初版第1刷発行
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  17. ^ 「近現代中国における言語政策 文字改革を中心に」p41 藤井(宮西)久美子 三元社 2003年2月28日初版第1刷発行
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  20. ^ 「近現代中国における言語政策 文字改革を中心に」p42 藤井(宮西)久美子 三元社 2003年2月28日初版第1刷発行
  21. ^ 「近現代中国における言語政策 文字改革を中心に」p120 藤井(宮西)久美子 三元社 2003年2月28日初版第1刷発行
  22. ^ 「近現代中国における言語政策 文字改革を中心に」p45 藤井(宮西)久美子 三元社 2003年2月28日初版第1刷発行
  23. ^ 「近現代中国における言語政策 文字改革を中心に」p123 藤井(宮西)久美子 三元社 2003年2月28日初版第1刷発行
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  25. ^ 「近現代中国における言語政策 文字改革を中心に」p127 藤井(宮西)久美子 三元社 2003年2月28日初版第1刷発行
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  32. ^ a b 「中国語の歴史 ことばの変遷・探究の歩み」(あじあブックス) p8 大島正二 大修館書店 2011年7月20日初版第1刷
  33. ^ 「中国語の歴史 ことばの変遷・探究の歩み」(あじあブックス) p15-18 大島正二 大修館書店 2011年7月20日初版第1刷
  34. ^ 「近くて遠い中国語」p127 阿辻哲次 中央公論新社 2007年1月25日発行
  35. ^ 「中国語の歴史 ことばの変遷・探究の歩み」(あじあブックス) p17 大島正二 大修館書店 2011年7月20日初版第1刷
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  42. ^ 「中国語の歴史 ことばの変遷・探究の歩み」(あじあブックス) p10-11 大島正二 大修館書店 2011年7月20日初版第1刷
  43. ^ 「現代中国語総説」 p174-176 北京大学中国語言文学系現代漢語教研室編 松岡榮志・古川裕監訳 三省堂 2004年6月10日第1刷

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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