AG-600 (航空機)
AG-600
AG-600は、中華人民共和国の中国航空工業集団傘下の中航通用飛機が開発した多用途飛行艇である。愛称は「鯤竜」(こんりゅう、簡体字中国語: 鲲龙)[注 1]。
なお、AG-600は「水陸両用機」であり、本格的なランディング・ギアを装備している。
概要
[編集]2008年に北京で開かれた『中国航空工業成果展覧会』において、『2009年度からの研究項目』との出展名で展示されたパネルにて発表された機体で、1970年代中盤に開発されて中国海軍で運用されている水轟五型(SH-5)多用途飛行艇の後継として開発されている大型飛行艇である。
海洋における救難以外にも、改造により空中消火、海洋調査などへの対応も可能[2]。
救難機としては最大で12時間の滞空、航続距離は4,500km[3]、2m以上の波に対応した着水能力を有し、最大50名を収容可能である[2]。また屋外治療設備等の大型救急機材の搭載も可能とされる。
空中消火機としての能力は、水上を滑走しながら20秒以内に12トンの水を機内のタンクに給水可能[2]。
機体部品の95%を国産でまかなうとされる[3]がエンジンはイーウチェンコ設計局のライセンス生産である。
開発状況
[編集]2009年1月には、中国の大手銀行10行が、中国航空工業集団公司に対して今後10年間で合計1,760億人民元の融資を行うと発表しており、JL-600の開発はこの融資を受けて開始される新型航空機開発計画の最初の一つとなる予定で、2009年2月に中国航空工業集団公司が発表したところによれば、珠海市に新たに建設される航空機の設計・組立工場において、総額30億人民元を投じ、4年内にJL-600の初飛行を実現させる計画である。同年9月5日には珠海市において中国航空工業集団公司よりJL-600の開発計画の開始が正式に発表された。この発表会ではJL-600は大型の消火/救助用水陸両用航空機とされ、最大離水重量60t級の機体であり、世界最大の水陸両用航空機となるとの解説がなされた機体の完成予想模型が展示されていた。
2011年には2015年に初飛行予定と発表され、同時に「最大離陸・離水重量53,500kg、実用航続距離5,000km」とのスペックが公表された[4]。
2014年7月には設計作業が完了してプロトタイプの製作が開始され、2015年後半の初飛行を目指していると発表された[5]。
2015年7月17日にはプロトタイプの最終組み立てが開始し、2015年年末の前に終了され、2016年前半に初飛行予定と発表された[6]。
2016年7月23日、中国広東省の珠海市AVIC工場内にて飛行試験(プロトタイプ)機が約7年の制作期間を経て完成公開された[7]。同年12月30日、初号機が試験飛行センターに引渡された[8]。
2017年12月24日、陸上での初飛行に成功し[9]、中国中央電視台で生中継が行われた。
2018年8月30日、珠海金湾空港から離陸し、湖南省などの空域を経由して湖北省荊門市の荊門漳河空港までの飛行に成功し、水上でのテストに移行すると発表した[10]。同年10月20日、荊門漳河空港で水上での試験飛行に成功した[11]。
2020年7月26日、青島近郊で、洋上での初の離水飛行に成功した[12][13]。
2022年5月31日、全長38.8m、最大離陸重量60tで、二重隙間フラップなどの新構造を採用した消火・救難型の3号機[14]が、珠海金湾空港を10時55分に離陸、約20分間飛行し、11時15分に問題なく着陸[15]。
配備・運用
[編集]AG-600は公安部が洋上哨戒と漁業監視に、交通部が海上救難に、林業部が消防任務にそれぞれ導入する計画を進めており、海軍も老朽化の進むSH-5の後継として海上救難型の導入を計画しているとされている。航続距離は当初の発表よりも減少した4,500kmとなったが、南シナ海で中国が開発を進める全ての人工島へアクセス可能であり[16]、人員や物資の輸送に活用されることが示唆されている。[17]。
2015年4月には既に17機を受注したと発表された[18]。
この他にも海洋での環境調査や保護活動に活用されると報道されている[3]。
輸出
[編集]開発当初から海外への輸出を想定しており、売り込みが図られている。
マレーシアやニュージーランドなど多くの島を持つ国が関心を表明している[19]。
仕様
[編集]出典: AerospaceTechnology.com, Popular Science, Flight Global, Guo and militaryfactory.com[20][21][22][23][24]
諸元
- 定員: 50名
- 全長: 37.0m
- 全高: 12.1m
- 翼幅: 38.8m
- 空虚重量: 32,000kg
- 最大離陸重量: 53,500kg
- 動力: WJ-6 ターボプロップエンジン、3,805 kW (5,103 hp) × 4
性能
- 最大速度: 570km/h
- 航続距離: (4,500km)
- 実用上昇限度: 10,500m
- 離陸滑走距離: 1,500m(水上)/1,800m(陸上)
- 運用可能最大波高:2.8m
搭載消火用水:12t[14]
注釈
[編集]脚注
[編集]- ^ 開発進む中国の水陸両用機「AG600」 日本のUS-2超え世界最大、東方新報、2020年8月1日
- ^ a b c “中国の水陸両用の神器、AG600が初飛行へ”. SciencePortal China. (2017年3月15日). オリジナルの2018年7月29日時点におけるアーカイブ。
- ^ a b c “中国 水陸両用機を独自開発か 試験飛行を生中継”. NHKニュース. (2017年12月24日)
- ^ 新華網 (2011年7月27日). “全球最大水陆两栖飞机在珠海试制” (中国語). 2014年7月28日閲覧。
- ^ World China Times (2014年7月28日). “World's largest amphibious aircraft starts production in China” (英語). 2014年7月29日閲覧。
- ^ “国产AG600大型水陆两栖飞机开始总装 明年首飞” (中国語). 中華網 (2015年7月17日). 2015年7月17日閲覧。
- ^ “中国、世界最大の水陸両用機を製造”. AFP BB NEWS. (2016年7月24日)
- ^ “国产大型水陆两栖飞机AG600交付试飞中心” (中国語). 中華網. (2017年1月6日)
- ^ “国产大型两栖飞机AG600陆上首飞成功” (中国語). 観察者網. (2017年12月24日)
- ^ “中国製造の水陸両用機、水上飛行テストへ”. AFP BB NEWS. (2018年8月30日)
- ^ “国产大型水陆两栖飞机AG600水上首飞成功” (中国語). 中国新聞網. (2018年10月20日)
- ^ “国产大型水陆两栖飞机“鲲龙”AG600海上首飞成功” (中国語). 観察者網. (2020年7月26日)
- ^ 井上孝司「航空最新ニュース・海外軍事航空 AG600が海上で初めての離水」『航空ファン』通巻814号(2020年10月号)文林堂 P.116
- ^ a b 井上孝司「航空最新ニュース・海外民間航空 AG600飛行艇 大幅に改修された3号機が進空」『航空ファン』通巻836号(2022年8月号)文林堂 P.116
- ^ “海自US-2よりビッグ! 世界最大級の消火・救難飛行艇AG600「クンロン」初飛行 中国”. 乗り物ニュース. (2022年6月1日)
- ^ “世界最大の水陸両用機が初飛行”. AFPBB. (2017年12月24日)
- ^ “中国、世界最大の水陸両用機を開発…南シナ海配備の可能性”. 中央日報. (2018年9月10日)
- ^ “我蛟龙600水陆两栖飞机明年首飞 或可用于南海维权” (中国語). 人民網. (2015年4月28日)
- ^ “China starts assembly of world's largest amphibious aircraft” (英語). 人民網. (2015年7月20日)
- ^ “World’s largest amphibious aircraft goes into production”. AerospaceTechnology.com. (28 July 2014) 29 July 2014閲覧。
- ^ Lin, Jeffrey; Singer, P.W. (29 July 2014). “China is Building the World's Largest Sea Plane”. Popular Science 29 July 2014閲覧。
- ^ “China TA-600 amphibian eyes first flight in 2015 - 8/5/2014”. Flight Global. 2014年8月21日閲覧。
- ^ “AVIC TA-600 / AG-600 - Flying Boat / Maritime Patrol / Search and Rescue - History, Specs and Pictures - Military Aircraft”. militaryfactory.com. 26 March 2015閲覧。
- ^ “AG600机头交付 我国成当今世界最大水上飞机制造国” (Chinese). 光明网. 18 March 2015閲覧。