三線軌条
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軌間の差異 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
軌間不連続点 · 三線軌条 · 改軌 · 台車交換 · 軌間可変 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
地域別 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
三線軌条(さんせんきじょう)とは、鉄道において軌間の異なる車両を運転するために、通常1対2本の軌条(レール)で敷設される線路について、片側のレールを共通として残り2本のレールをそれぞれの軌間に応じて敷設したもののこと。三線軌条は三線軌道[1]、三線軌[2]ともいう。
線路中心を合わせるために、軌条を共通とせずに4本敷設する四線軌条(しせんきじょう)とする場合もある。四線軌条は、軌間の差が小さすぎるため3本のレールの併設が困難なケースや、3種の軌間に対応するケース(Triple gauge=3階建て軌道)にも用いられる。
英語ではDual gauge(デュアルゲージ)と呼び、日本語でもデュアルゲージと称することもある[2]。
目的
[編集]鉄道はモノレールや新交通システムを除いて2本のレールを組み合わせており、この2本の幅(軌間)が異なる車両が相互に乗り入れることはできない[2]。軌間が異なる車両が相互に乗り入れる場合、台車を鉄道ごとに履き替える方法(ヨーロッパ・中国 - ロシア間の鉄道など)や、可変軌間式の台車を持つ車両を用いる方法(スペイン - フランス間の鉄道など)など、車両側で対応する方法もある[2]。これらの問題を線路側で対応するのが三線軌道(あるいは四線軌道)である[2]。
各軌間の線路中心がずれ、建築限界もそれにあわせて変わるため、ホーム[3]・架線[4]・信号機・ATS/ATC位置補正地上子等の保安装置の地上子の設置位置に注意が必要な点、分岐器(ポイント)の構造が複雑になる点、降雪地帯などでは並列する軌条の間に雪が詰まる[5]、レールの摩耗が不均衡になる、レールの取得や保守のコストが上がるなどの問題がある。
三線軌条の事例
[編集]オーストラリア
[編集]この節の加筆が望まれています。 |
オーストラリアは州ごとに主要軌間が異なっており、標準軌の州際軌条と、各州のローカルゲージの3線軌条が多く見られる。
パースなどの西オーストラリア州では、標準軌と狭軌、同じくクイーンズランド州も標準軌と狭軌、ビクトリア州では、標準軌と広軌の三線軌条が多く見られる。
スイス
[編集]スイスでは主に貨物列車の直通を目的に三線軌条もしくは四線軌条化がなされている。なお、輸送量の少ない区間ではロールボックもしくはロールワーゲンを使用して貨車を直通している。
- レーティッシュ鉄道:クール - ドマ/エムス
- レーティッシュ鉄道の列車=狭軌(1000 mm軌間、複線)
- スイス国鉄直通の貨物列車=標準軌(1435 mm軌間、複線のうち片側のみ)
- スイス国鉄のRe420形などの電気機関車が牽引する貨物列車が沿線のセメント工場などへ乗り入れる。レーティッシュ鉄道は電化方式交流11 kV・16.7 Hzであるが交流15 kV・16.7 Hz用のスイス国鉄機がそのまま乗り入れる。
- なお、レーティッシュ鉄道ではスイス国鉄との並行区間にあるラントクアルト駅およびウンターヴァッツ駅構内およびそこからの工場引込み線が三線軌条化されている。
- ツェントラル鉄道:ルツェルン駅構内 - クリーンス・マッテンホーフ駅付近、レスリマット信号場 - ホルヴ
- ツェントラル鉄道鉄道の列車=狭軌(1000 mm軌間、複線および単線)
- スイス国鉄直通の貨物列車=標準軌(1435 mm軌間、複線区間はそのうち片側のみ)
- クリーンス・マッテンホーフ駅付近 - レスリマット信号場間は四線軌条化されている。
- 古くはクリーンス・マッテンホーフ付近から1435 mm軌間のクリエンス-ルツェルン鉄道に接続していたが、ルツェルン付近のツェントラル鉄道の地下化により同鉄道が廃止となり、ルツェルンまでツェントラル鉄道が三線軌条化されている。沿線の工場への1435 mm用貨車の直通に使用される。
- ベルン-ゾロトゥルン地域交通:ツォリコフェン - ヴォルブラウフェン(1970年廃止)、ヴォルブラウフェン - ボリゲン、ボリゲン - ダイスヴィル(2000年廃止)、ニーダービップ - オーバービップ
- ベルン-ゾロトゥルン地域交通の列車=狭軌(1000 mm軌間)
- スイス国鉄直通の貨物列車=標準軌(1435 mm軌間)
- 沿線の工場等への標準軌用貨車による貨物列車を1000 mm軌間用のベルン-ゾロトゥルン地域交通の貨物電車もしくはディーゼル機関車が牽引している。これらの機体は1435 mm軌間の中心に合わせた位置に標準軌貨車用のねじ式連結器を装備している。
- BDWM交通:(廃止)ヴォーレン - ブレンガルテン・ウエスト
- BDWM交通の列車=狭軌(1000 mm軌間)
- スイス国鉄直通の貨物列車=標準軌(1435 mm軌間)
- ヴォーレン - ブレンガルテン・ウエスト間はもともと1435 mm軌間のスイス国鉄の路線だったが、ブレンガルテン・ウエスト - ディーティコン間を1000 mm軌間で開業したBDWM交通の前身であるブレンガルテン・ディーティコン鉄道にリースされて1000 mm軌間との三線軌条化され、旅客列車はブレンガルテン - ディーティコン間を直通している。貨物列車はBDWM交通が標準軌用の電車もしくはディーゼル機関車を保有して牽引していた。
- 貨物列車は2007年に廃止となり、標準軌の軌道は2011年より順次撤去されている。
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スイス、ベルン-ゾロトゥルン地域交通の1000 mm軌間用ディーゼル機関車、標準軌の軌道中心にあわせた連結器を装備する。
日本
[編集]日本での三線軌条および四線軌条は、1912年7月1日に、博多電気軌道(のちの西鉄福岡市内線、1435 mm)が貨物輸送を目的として、一部の区間に1067 mmの軌道を併設して貨物列車の運行を開始した事例があり[6]、この営業運行は次に述べる京都市内の例よりも早かった。京都市内の京都市電と京都電気鉄道の共用区間では、同年4月19日に京都市が内務省から三線軌条敷設の許可を受け、同年12月25日に三線軌条の最初の区間が営業を開始した。
翌1913年には東海道本線の膳所駅(当時は馬場駅) - 大津駅(後の浜大津駅)間で、東海道本線(貨物線)に大津電車軌道(現在の京阪電気鉄道石山坂本線)が乗り入れるため三線軌条となった。軌道ではない鉄道が関係するものはこれが最初である。
純粋な鉄道のみのものとしては1917年に横浜線の原町田駅 - 橋本駅間で、標準軌化の実地試験として使用されたのが始まりである(日本の改軌論争も参照)。
鉄道車両工場の構内で三線軌条となっているケースもある。例えば、JR東海浜松工場には狭軌・標準軌共用の三線軌条が多い。なお、ここでは営業線上以外のものは割愛する。
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三線軌条の乗越分岐器(箱根登山鉄道〈現:小田急箱根〉 風祭駅、どちらも三線で分岐、2006年廃止)
現存するもの
[編集]- 北海道旅客鉄道 北海道新幹線・海峡線:新中小国信号場 - 木古内駅 ※2016年(平成28年)3月26日共用開始。
- 東日本旅客鉄道 奥羽本線・秋田新幹線:神宮寺駅 - 峰吉川駅(複線の一方が狭軌と併用)[9][10]
- 小田急箱根 鉄道線:入生田駅 - 箱根湯本駅:入生田検車区出入庫車両(かつては小田原駅 - 箱根湯本駅の営業用だった)
- 京浜急行電鉄 逗子線:金沢八景駅 - 神武寺駅:総合車両製作所横浜事業所入出場車両(複線の一方が狭軌と併用)
- 京急線の車両 = 標準軌
- その他の車両 = 狭軌(1067 mm軌間・三六軌間)、使用中は線路閉鎖して列車の運行を止める必要がある
構想されているもの
[編集]- 北海道新幹線函館駅乗り入れ構想・北海道旅客鉄道函館本線[12]
- 函館駅1,2番のりば - 七飯駅の上り線
- 本線(通称・仁山回り)七飯駅 - 新函館北斗駅間にある函館新幹線総合車両所への北海道新幹線新在直通平面アプローチ線起点間
- 在来線の客車・気動車・電車・貨車・機関車 = 狭軌1,067 mm軌間
- 新幹線のミニ新幹線車両またはフル規格新幹線車両 = 標準軌1,435 mm軌間
- 構想提案者は函館市
かつて存在したもの
[編集]- 京都市電:四条西洞院 - 四条堀川など
- 西鉄福岡市内線:三角駅 - 博多築港駅
- 京阪石山坂本線・東海道本線・江若鉄道:膳所駅 - 浜大津駅(片側線のみ)
- 九州水力電気(のちの西鉄福岡市内線):今川橋駅 - 姪ノ浜駅
- 大阪電気軌道(現・近畿日本鉄道)吉野線:(旧)橿原神宮前駅 - 久米寺駅
- 大井川鉄道・千頭森林鉄道 :千頭駅 - 沢間駅
- 大井川鉄道 =1067 mm軌間・三六軌間
- 千頭森林鉄道 =762 mm軌間・二六軌間
- 日本の旅客供用した三線軌条では唯一の三六軌間と二六軌間。1936年に大井川鉄道側が改軌したために生じた。1968年に二六軌間の千頭森林鉄道が廃止されて消滅。
- 阪神電気鉄道 武庫川線:武庫大橋駅 - 洲先駅
- 川崎市電・京浜急行電鉄大師線:日本鋼管前駅 - 塩浜駅 - 小島新田駅 - 川崎大師駅
- 川崎市・京浜急行線車両 = 標準軌
- その他の車両=狭軌(1,067 mm軌間・三六軌間)
- 国鉄浜川崎駅からの川崎の工業地帯への貨物列車を運行するために、1946年(昭和21年)9月に浜川崎駅から日本鋼管の専用線を経由して東京急行電鉄(当時)大師線の桜本駅 - 入江崎駅間から大師線の下り線へ入り、ここから小島新田駅までの間を三線軌条として貨物列車を運転したのが始まりであり、その後三線軌条区間は川崎大師駅まで延長された。1948年(昭和23年)8月からは、日本鋼管構内の専用線に代えて浜川崎駅から川崎市電の日本鋼管前 - 浜町三丁目間から市電上り線に入り、桜本駅から大師線に入るルートに変更になった。
- 川崎市電区間である日本鋼管前駅 - 塩浜駅間は、その後、改良工事が行われて複線区間が上下線とも三線軌条となり、1954年(昭和29年)4月からは終日貨物列車の運行が開始され、浜川崎駅から各専用線への貨物列車が運転されるようになった。
- 国鉄の塩浜操車場(現・川崎貨物駅)建設のため、1964年(昭和39年)に京急の小島新田駅 - 塩浜駅と川崎市電の池上新田駅 - 塩浜駅が休止され、日本鋼管前駅 - 池上新田駅間は上り線を東海道本線貨物支線の一部に転用して単線化され、これらの区間の三線軌条は廃止された。
- 以後は大師線の三線軌条区間は分岐駅を川崎貨物駅に変更して、京急(味の素)のみに三線軌条が残存した。1997年(平成9年)の貨物列車の運行廃止まで大師線の終電 - 初電の深夜に川崎貨物駅 - 小島新田駅 - 味の素工場へ貨物列車が運行されていた。貨物廃止後は標準軌化。
- 箱根登山鉄道 鉄道線:小田原駅 - 入生田駅
- 名古屋市電下之一色線:下之一色駅 - 中郷駅
- 熊本市交通局(熊本市電)坪井線・熊本電気鉄道(熊本電鉄)上熊本倉庫線:上熊本駅前(坪井線)電停 - 本妙寺通電停(上り線のみ)
- 東日本旅客鉄道 山形線・山形新幹線:蔵王駅 - 山形駅(下り線のみ)
また営業運行ではないが、太平洋戦争中の1945年(昭和20年)4月に京成電鉄本線の京成上野駅 - 日暮里駅間の地下線が国(運輸省)に接収され、国鉄日暮里駅構内の側線につながる三線軌条を敷設した上で、空襲から守るために国電車両や寝台車を疎開させた事がある[14]。ただし戦時中の京成上野地下線の状況については様々な文献による記述がある。詳しくは京成上野駅を参照。
なお、後の1959年(昭和34年)に京成電鉄と新京成電鉄が1,372 mm(馬車軌間)から1,435 mm(標準軌)に改軌した工事期間中、駅や車両基地の構内に四線軌条に似たものが敷設されていたが、この2種類の軌間は差が小さすぎるために通常の三線あるいは四線軌条は物理的に成立困難である。外側のレールは標準軌で、内側のレールは馬車軌間より狭く、馬車軌間の車両が入線した際の脱線防止用ガードレールとして作用していた。この他、同社の津田沼第二工場とその出入庫ルートには、1,372 mm軌間と1,435 mm軌間の軌道中心を大きくずらした四線軌条(4本のレールに左端から1 - 4番の番号を付けると、1番と3番の間が1,372 mm軌間、2番と4番の間が1,435 mm軌間、というような敷設法)が存在した[15]。
国鉄時代の東静岡駅(現在の静岡貨物駅で旅客駅の東静岡駅とは別の駅)にも存在した。保線機材やレールを積み込む施設に採用され、国鉄分割民営化後も暫く存置されていた。
四線軌条の事例
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北朝鮮
[編集]ウクライナ
[編集]北朝鮮と同様にロシアンゲージと標準軌との軌間差が小さいため、貨物用にウクライナ側に四線式が敷設されている区間がある。 例:プシミシェル•リビウ間
オーストラリア
[編集]州際では標準軌で統一されているために標準軌以外の軌間を採用している州都までの鉄路で三線軌条区間が存在する。
スイス
[編集]- ツェントラル鉄道:クリーンス・マッテンホーフ駅付近 - レスリマット信号場
- ツェントラル鉄道鉄道の列車=狭軌(1000 mm軌間、複線)
- スイス国鉄直通の貨物列車=標準軌(1435 mm軌間、複線のうち片側のみ)
この区間の両側は三線軌条となっている。
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スイス、ツェントラル鉄道の三線軌条と四線軌条の接続箇所
日本
[編集]- 十勝鉄道 帯広部線:新帯広駅 - 工場前駅
脚注
[編集]- ^ 運輸安全委員会 (2014年4月25日). “鉄道事故調査報告書 東日本旅客鉄道株式会社 奥羽線 神宮寺駅〜刈和野駅間 列車脱線事故” (PDF). 2015年5月16日閲覧。p. 9(報告書p. 3) 脚注4。
- ^ a b c d e 井上孝司『配線略図で広がる鉄の世界 路線を読み解く&作る本』秀和システム、2009年、194頁
- ^ 例:箱根板橋駅は登山線車と小田急車で別ホームだった。
- ^ 北海道新幹線・海峡線(青函トンネル区間)はそれぞれの中心から92 mm偏倚している。
- ^ 青函トンネル区間は分岐器付近にスノーシェッドを設置している。
- ^ 西日本鉄道株式会社100年史編纂委員会(編)『西日本鉄道百年史』西日本鉄道、2008年、pp.18 - 20
- ^ 異電圧セクションの関係上、新中小国信号場在来線(津軽線)と木古内駅在来線(道南いさりび鉄道 道南いさりび鉄道線)構内も在来線用の電車・電気機関車の自走は不可能。
- ^ “【三線軌条】貨物と共用、初採用”. どうしんウェブ. (2014年6月25日). オリジナルの2015年3月19日時点におけるアーカイブ。 2015年10月15日閲覧。
- ^ 運輸安全委員会 (2014年4月25日). “鉄道事故調査報告書 東日本旅客鉄道株式会社 奥羽線 神宮寺駅〜刈和野駅間 列車脱線事故” (PDF). 2015年5月16日閲覧。p. 12(報告書p. 6) 図2。
- ^ “【三線軌条・2】共用レール、管理に神経”. どうしんウェブ. (2014年7月15日). オリジナルの2015年3月19日時点におけるアーカイブ。 2015年10月15日閲覧。
- ^ サステナビリティレポート2018 34頁 - JR東日本、2018年9月
- ^ "新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務 調査報告書【概要版】" 函館市 2024 p.p.22-23
- ^ 坪井線の3線軌道 - 参考資料
- ^ 種村直樹『地下鉄物語』日本交通公社、1977年、P75。
- ^ 石本祐吉「京成改軌の際に使用された4線軌道について」『鉄道ピクトリアル』635号、38-39頁、1997年(平成9年)
- ^ “ロシア外交官と家族、手押しトロッコで北朝鮮を出る”. BBC (2021年2月27日). 2021年2月27日閲覧。
関連項目
[編集]- 単複線(ガントレット) - 同じ軌間の線路を重ねて敷設するもの。
- 軌間可変車軸
- 80cm列車砲 - 列車砲本体がレール4本(四線軌条、正確には線路中心間距離が厳密に管理された複線)を必要とし、現地組み立て時には列車砲自身の走行する4本のレールに加え輸送用の貨車の走る通常の軌道、これらの6本のレールをはさんで1本ずつ敷設される組み立て用クレーンの走行するレールの計8本のレールを必要とした。
外部リンク
[編集]- 蒲蒲線、羽田空港乗り入れの方法 - 国鉄時代に考案された4線軌条を実現する方法の紹介