運動錯覚
概要
[編集]運動錯覚とは運動(英: motion)の錯覚(英: illusion)、つまり運動がその客観的状態と異なるかたちで認識された知覚である[3][1]。「静止画の図形が動いてみえる[4]」「点で触られた腕に何かが這ったような運動を感じる[5]」「固定された腕が動いたように感じる[1][2]」などは運動錯覚である。
特に運動視の錯覚である
仮現運動
[編集]直感的には仮現運動は「動きの幻影」である。様々な刺激(視覚刺激[4]、触覚刺激[10])から神経系が運動錯覚として見出した、実際には存在しない(あるいは実際と異なる)運動が仮現運動である[9][8]。「仮現運動の知覚 (apparent motion perception) が運動錯覚である」ともいえる[7]。実際運動と対比される。
実際運動
[編集]直感的には単なる「動き」である。ヒトを含む動物は進化の過程において運動知覚を獲得し、これにより実際運動を読み取れるようになった。そして仮現運動もまた知覚するようになった(原因・機序はいまだ未解明)。
分類
[編集]様々な運動錯覚が発見されている。その機序は未だ解明の途上にあるため、以下の分類は系統だった分類というよりは現象の一覧に近い。
ベータ運動
[編集]ファイ現象
[編集]ファイ現象は配置された複数の物体像のうち1つを一時的に非表示にしこれを隣に伝播することで見えない物体の仮現運動が知覚される運動錯覚である。
ベータ運動と異なり、ファイ現象では仮現運動する物体がハッキリとはみえない。動いているものがボヤケて認識されうまく見えず、「動いている」という印象のみが強く惹起される。あえて理由付けした言語化をするならば「背景と同じ色の物体が、像が置かれた軌道上を高速で動いている(なので一瞬一部の像が隠れている)」という見え方をする。
脚注
[編集]注釈
[編集]
出典
[編集]- ^ a b c "先行研究において Burke ら ... は,筋肉の腱に100 Hz 程度の振動刺激を加えると ... あたかも実際に動いているかのような運動錯覚が生じると報告している." p.386 より引用。神里. (2018). 振動刺激による運動錯覚が固有感覚機能に及ぼす影響. 理学療法科学 33(3), pp.385–388.
- ^ a b "リハビリや運動学習では ... この運動錯覚とは、筋肉の腱に70~100 Hzの振動刺激を与えると生じる錯覚である。この錯覚が生じると, 腕を動かしていないのに勝手に動いたと感じます。" 以下より引用。Cooperative Robotics Lab. (2021). Skill Assistance using Motion Illusion by EMG. 東京電機大学.
- ^ "「錯覚とは,与えられたる刺激の,実際と異なりて,知覚せらるる現象を云い・・・」これは 1911 年に大槻が述べている錯覚についての定義である" p.582 より引用。安藤英由樹. (2008). 力触覚における錯覚とその応用. 計測と制御, 47巻 7号 pp. 582-586.
- ^ a b c d "適当な距離の空間を取りながら光点などを順次点滅させていくと動いて見える錯覚をβ運動という." p.173 より引用。山野井陸. (2016). 跳躍性眼球運動および周辺視が仮現運動の知覚に与える影響に関する研究. 2016年 情報科学技術フォーラム, 7H, I-020.
- ^ "視覚と同様に,触覚においても,身体表面上 の 2 点に触刺激を適切な時間差で提示すると,その 2 点のあいだに,運動感覚を知覚することが知られている." 渡邊 2008, p. 3542 より引用。
- ^ a b "運動錯視とは静止しているにも関わらず動いて見える錯視である.... Motion illusion is one of visual illusions that evokes motion by a static image." 以下より引用。林. (2014). 網膜ON/OFF応答の焦点時刻が説明する残像回転錯視. 電子情報通信学会技術研究報告, vol. 113, no. 500, NC2013-93, pp. 31-36.
- ^ a b c "対象の運動が知覚される場合には,実空間内を対象が実際に移動して動いている場合の「実際運動の知覚」と,実際には運動していない対象があたかも運動して知覚される「仮現運動の知覚」 という 2 つの現象" p.856 より引用。今井, 章 (2014). “脳磁図を用いた仮現運動に対応する脳活動 -ベータ運動による検討-”. 電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌) 134 (6): 856–863. doi:10.1541/ieejeiss.134.856 .
- ^ a b "仮現運動とは実際には動いていないにもかかわらず、あたかも動いているように知覚される運動である。" p.12 より引用。植⽥. (2023). 事前予測が仮現運動知覚に及ぼす影響. 令和5年度 電気学会 第13回 学⽣研究発表会 発表概要.
- ^ a b "物理的に運動していないものが動いて見える錯覚を仮現運動という." p.321 より引用。柴田. (2017). 周辺視におけるβ運動の見え方に関する研究. FIT2017 - 第 16 回情報科学技術フォーラム, I-015, pp.321-322.
- ^ "腹と背に振動子を装着し,適切な時間差で振動させると,その 2 つの振動子のあいだに「腹部を通過する仮現運動」が生じる" 渡邊 2008, p. 3542 より引用。
- ^ "我々が普段体験する運動の知覚を生起させる視覚刺激は ... 実際運動と呼ばれる対象が時空間的に連続して変化している運動" p.96 より引用。吉澤. (2009). 運動の知覚 ― 運動視研究における二元論. 視覚の科学, 30巻, 3号, pp.96-101.
- ^ "ベータ運動は,視覚刺激を 2 つの異なる空間的位置に適当な時間間隔をおいて提示することで運動感が得られる現象である。"以下より引用。今井, 章 (2018). “ベータ運動観察時の脳磁界誘発反応―2次元的刺激と3次元的刺激の比較による検討―”. 日本心理学会大会発表論文集 82: 465. doi:10.4992/pacjpa.82.0_3EV-041 .
参考文献
[編集]- 久方, 瑠美 (2020). "特集:視覚心理物理学の最近の動向 運動知覚の基礎とその動向". 視覚の科学. 41 (4): 66–69.
- 渡邊, 淳司 (2008). "腹部通過仮現運動を利用した貫通感覚提示". 情報処理学会論文誌. 49 (10): 3542–3545.