農業用ロボット
農業用ロボット(のうぎょうようロボット)は、農業に従事するロボットのことを指す。
概要
[編集]1970年代に産業用ロボットが普及し始めた当時から既に農業用ロボットの概念は存在したが、規格化された部品を扱う産業用ロボットとは異なり、多種多様な作物を扱う農業用ロボットは当時はまだ屋外での使用にはハードルが高すぎて実用化の目処が立たなかった。その後、1980年代に入り、マイクロコンピュータの性能がムーアの法則に則り指数関数的に向上することで画像処理能力の向上が進み実現への道筋が見え始めたものの[1]、1990年代以降、遠隔操作式の無線操縦ヘリコプターの導入は進んだものの、自律型のロボットの導入は遅々として進んでいなかった。近年では深層学習によるパターンの識別などで性能が向上して作物の病気の判別や収穫時期に適した果実の収穫や高精度衛星測位や無人航空機との連携などで徐々に実用化されつつある[2][3][4]。以前は植物工場のように厳格に環境が管理された屋内での使用に限定されていたが、近年では屋外の露地栽培への適用も進みつつある[5]。農業は介護と並び、自動化の普及の余地のある分野の一つであり、少子高齢化により、農業への従事者が減りつつある中、人材不足を補うための切り札としても期待される[6][7]。
市場規模
[編集]ウィンターグリーン・リサーチ社は2020年までに農業ロボットの市場の規模が163億ドルに達すると予想した[8][9]。実際には2022年時点で81億8403万ドル[10]、2023年時点で134億5000万ドルであった[11]。2030年の市場規模予想は、データブリッジマーケットリサーチ社が835億6383万ドル[10]、360iリサーチ社が434億ドルとしている[11]。
日本国内の市場規模は、スフェリカルインサイト社の市場評価で2億4289万ドルであり、同社は2032年までに9億8873万ドルに達すると予想している[12]。
代表的な農業用ロボット
[編集]- 耕耘ロボット
- 防除ロボット
- 収穫ロボット
- 選果ロボット
代表的な農業用ロボットの企業
[編集]- ブルー・リバー・テクノロジーズ - コンピュータ・ビジョン技術を使用して生育し始めたレタスのかたち、間隔を認識して間引くロボットを開発[13]
- ハーヴェスト・オートメーション - 農場や温室内での鉢植えを運搬して設定した通りに並べるロボットを開発[13]
- アグロボット - いちごを収穫するロボットを開発[13]
- ジェイブリッジ・ロボティクス - 自律走行車システムの開発[13]
- ウォリー - 自走してワイン用のぶどうを収穫と同時に剪定もするロボットを開発[13]
- フューチャアグリ - 自律走行式のロボットを開発
脚注
[編集]- ^ 伊藤信孝、「海外における農業用ロボットの開発動向」 『農業機械学会誌』 1985年 47巻 2号 p.242-246, doi:10.11357/jsam1937.47.242
- ^ “農業の未来変える切り札ロボット、頭脳は5000円の「ラズパイ」だった!”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “フェルディナント・ヤマグチ氏、自動車評論家から農家に転身? クボタの農業IoT化の最前線に迫る。- 日経テクノロジーオンライン Special”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “農機のロボット化で日本の農業問題を解決したい”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “作物の危険を農家よりも早く察知するイスラエルの農業用ロボットシステム「Prospera」が話題に”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “農業ロボット元年、農業界と工業界が抱える本当の課題”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “「工業」の知見をどこまで引き込めるか”. 2017年3月15日閲覧。
- ^ “農業ロボット市場は、2020年までに163億ドル規模に”. Robonews.net. 2024年10月21日閲覧。
- ^ Frank Tobe (January 30, 2014). “Agricultural robot market anticipated to reach 16.3billion by 2020”. The Robot Report. WTWH Media LLC.. 2024年10月21日閲覧。
- ^ a b “世界の農業ロボット市場 – 2030 年までの業界動向と予測”. DataBridge. 2024年10月21日閲覧。
- ^ a b “農業用ロボット市場:タイプ別、用途別-2024-2030年の世界予測”. グローバルインフォメーション. 2024年10月21日閲覧。
- ^ “日本農業ロボット市場”. Spherical Insights. 2024年10月21日閲覧。
- ^ a b c d e “農業ロボットにはどんなものがあるか”. 2017年3月16日閲覧。
参考資料
[編集]- 唐橋需、「農業用ロボットへの期待」 『農業機械学会誌』 1995年 57巻 6号 p.145-150, doi:10.11357/jsam1937.57.6_145
- 飯田訓久、「農業用ロボットのための油圧マニピュレータとハンドの研究」 京都大学 博士論文 論農博第2122号 1997年, hdl:2433/78083
- 有馬誠一, 湯木正一, 山下淳, 加藤岳史、「イチゴ栽培におけるマルチオペレーションロボット : 収穫・防除ロボットの開発(農業用ロボット・メカトロニクス)」 『ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集』 2004巻 セッションID:2P2-L2-14, p.205-206, doi:10.1299/jsmermd.2004.205_4
- 「農業用ロボットの実用化に向けての先行研究」(PDF)。
- 菅野重樹, 三治信一朗. "農業ロボットの研究事例と普及への課題 (特集 農業用ロボットの現状と今後の展開)." ロボット 201 (2011): 1-7.
- 農業用ロボットの実用化に向けての先行研究
- 農業用ロボットについての世界の最新状況
- 「次世代農業ロボットの開発を目指して」(PDF)『近畿大学次世代基盤技術研究所報告』第1巻、2010年、51−56頁。
- 近藤直、門田充司、野口伸『農業ロボット I: 基礎と理論』コロナ社。ISBN 4339052159。
- 『農業ロボット II: 機構と事例』コロナ社、2006年6月。ISBN 4339052167。
- 『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来 2020年に激変する国土・GDP・生活』講談社。ISBN 9784062729796。
- 「農業用ロボット」(PDF)『ロボット』第177号、2007年7月。
- 「農業用ロボットの現状と今後の展開」(PDF)『ロボット』第201号、2011年7月。
- 「農作業の自動化、ロボット化」(PDF)『ロボット』第224号、2015年5月。
- (PDF)『ROBOCON Magazine』、オーム社、2016年11月。
- 『農業ビジネスマガジン “強い農業”を実現するための情報誌』第12巻、イカロス出版、2016WINTER、ISBN 9784802201230。
- 『農業ビジネスマガジン “強い農業”を実現するための情報誌』第16巻、イカロス出版、2017WINTER、ISBN 9784802202909。