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豊田2人刺殺事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
最高裁判所判例
事件名 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
事件番号 平成27(あ)1856
2016年(平成28年)12月19日
判例集 刑集 第70巻8号865頁
裁判要旨
被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後、訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合、裁判所は、刑訴法338条4号に準じて、判決で公訴を棄却することができる。
第一小法廷
裁判長 池上政幸
陪席裁判官 櫻井龍子大谷直人小池裕木澤克之
意見
多数意見 全会一致
意見 池上政幸
反対意見 なし
参照法条
刑訴法1条、刑訴法314条1項、刑訴法338条4号
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豊田2人刺殺事件(とよたふたりしさつじけん)とは1995年平成7年)5月3日日本愛知県豊田市越戸町で発生した殺人事件[1]

被告人統合失調症と認定されたため公判停止となり、17年後の2014年(平成26年)に公判が再開された[2]。第一審では公訴棄却の判断が示されたが[2]、控訴審では審理差し戻しの判決が言い渡されため、弁護側が上告したところ、最高裁判所は「被告人の訴訟能力に回復の見込みがない場合、検察の(公訴)取り消しの有無にかかわらず裁判所が裁判を打ち切ることができる」という判断を初めて示した[3][4]

概要

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1995年5月3日正午過ぎ、愛知県豊田市越戸町の神社「天満宮」の境内で[1]、無職の男性X(当時52歳・以下「加害者」または「被告人」)が男性A(当時66歳)と、彼の孫である男児B(当時1歳)の2人を刺殺し[5]、駆け付けた愛知県警察の警察官に現行犯逮捕された[1]。加害者Xは当初「朝起きたときからむしゃくしゃしていた」と話して容疑を認めていたが、意味不明な供述も多かった[1]。Xは20歳代のころに数年ほど精神病院に入院していた過去があった[6]

名古屋地方検察庁岡崎支部は4か月間の鑑定留置精神鑑定)の後、「加害者Xには刑事責任能力がある」として、Xを1995年9月に起訴した[1]名古屋地方裁判所岡崎支部で公判が7回開かれたが、被告人Xは1997年(平成9年)3月に統合失調症と鑑定されたため、同地裁支部は弁護側の「被告人Xは病気で訴訟能力がない」という主張を認めて公判停止を決定した[1]。被告人Xは公判停止後に医療施設に措置入院となったが、ほとんど会話が成立せず、介護が必要な状態なほど病状が悪化した[1]

2014年(平成26年)3月に名古屋地裁岡崎支部は17年ぶりに公判を再開する意向を示し、弁護側は公訴棄却を求めた一方、検察側は公判継続の意見書を提出した[2]。名古屋地裁岡崎支部(國井恒志裁判長)は同年3月20日に「慢性的な統合失調症で悪化しており、意思疎通能力がほぼ完全に失われて、回復の見込みが認められないのは明らか」「Xに半永久的に被告人の立場を強制することは、迅速な裁判を受ける権利を侵害している。検察官が起訴を取り消さない場合、公判を打ち切るのは裁判所の責務で、遺族に対する誠実な対応だ」として起訴手続きが違法で無効な場合の規定を準用し、公訴棄却の判決を言い渡した[2]

起訴後、被告人が訴訟能力を失った場合、 検察官が公訴の取り消しを申し立てるのが通例だが、検察官が取り消さない場合の法律上の規定はないことから、検察は裁判所の職権による公判打ち切りは不当だとして名古屋高等裁判所控訴した。名古屋高裁(石山容示裁判長)は2015年(平成27年)11月16日に「(刑事訴訟法の解釈では)検察側が公訴を取り消さないのに、裁判所が一方的に打ち切ることは基本的にはできない」「一審判決は刑訴法の解釈適用を誤り、不法に公訴を棄却した」として第一審判決を破棄し、審理を名古屋地裁岡崎支部に差し戻す判決を言い渡した[7]。弁護側は上告した。

2016年(平成28年)12月19日に最高裁判所第一小法廷池上政幸裁判長)は「形式的に裁判が継続しているに過ぎない状態を続けることを刑事訴訟法は予定していない。被告人Xに訴訟能力が回復する見込みがなければ、検察が起訴を取り消したかどうかに関わらず、裁判所は裁判を打ち切ることができる」との初判断を示し[3]、審理を続行させる判断をした二審判決を破棄自判して[8]、裁判を打ち切る公訴棄却とする一審判決が確定した[3][4]。被告人Xは73歳になっていた[3][4]

脚注

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  1. ^ a b c d e f g 17年ぶり審理で公訴棄却 名地裁支部、豊田2人刺殺」『中日新聞中日新聞社、2014年3月20日。オリジナルの2014年3月22日時点におけるアーカイブ。
  2. ^ a b c d 「17年ぶり再開公判:「症状回復ない」と地裁支部公訴棄却」『毎日新聞』2014年3月20日。
  3. ^ a b c d 「「訴訟能力回復見込みなければ裁判所が打ち切り可能」 精神疾患の被告の公判で最高裁が初判断」『産経新聞産業経済新聞社、2016年12月19日。
  4. ^ a b c 「愛知・2人殺害 最高裁「裁判所は裁判打ち切りできる」」『毎日新聞毎日新聞社、2016年12月19日。
  5. ^ 「17年ぶり公判再開へ 遺族「精神疾患でも責任を」」『朝日新聞朝日新聞社、2014年3月18日。
  6. ^ 「祖父と孫刺殺される/愛知・豊田」『読売新聞読売新聞社、1995年5月4日。
  7. ^ 「精神疾患で打ち切りの裁判、審理を地裁差し戻し」『読売新聞』読売新聞社、2015年11月16日。
  8. ^ 最高裁判所第一小法廷判決 2016年(平成28年)12月19日 刑集 第70巻8号865頁、平成27年(あ)第1856号、『殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件』「被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後訴訟能力の回復の見込みがないと判断される場合と公訴棄却の可否」、“被告人に訴訟能力がないために公判手続が停止された後,訴訟能力の回復の見込みがなく公判手続の再開の可能性がないと判断される場合,裁判所は,刑訴法338条4号に準じて,判決で公訴を棄却することができる。 (補足意見がある。)”。 - 判決内容:破棄自判 最高裁判所裁判官池上政幸(裁判長)・櫻井龍子大谷直人小池裕木澤克之

関連項目

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