胡粉
胡粉(ごふん)は白色顔料のひとつ。現在では貝殻から作られる、炭酸カルシウムを主成分とする顔料を指す。また、淡い色に混色するための具材(ぐざい)として「具」とも呼ばれる(例:具墨)。 かつて中国の西方を意味する胡(こ)から伝えられたことから、胡粉と呼ばれる。日本画や日本人形、木工品等の絵付けに用いられる。
歴史
[編集]用語「胡粉」は鉛白と貝粉の双方の使用例が古くからある。すなわち、天平六年(734年)『正倉院塵芥文書』巻26の「造仏所作物帳」の石灰の記述には「胡粉下塗料」とあり、天平勝宝四年(752年)の東大寺大仏開眼会に合わせて作られた伎楽面の白色には牡蠣殻や別の貝殻を使用している成瀬正和(2009)[全文 1]。 承平年間(931年-938年)編纂の倭名類聚抄巻十三「圖繪具」に「張華(232年-300年)『博物誌』云燒錫成胡粉」[全文 2]とあるように錫を焼いて作る鉛白(塩基性炭酸鉛)を指している。 12世紀の《後撰和歌集断簡(胡粉地切)伝寂蓮筆》では貝殻を焼いて作った、との解説がある[全文 3]。 また、明宋応星撰の『天工開物』(1637年)では韶粉(しょうふん)「每鉛百斤,溶化,削成薄片(中略)此物古因辰、韶諸郡專造,古曰韶粉(俗誤朝粉)」とあり[全文 4]、現在の中国甘粛省涇川縣 、 広東省の韶関市製造「鉛粉」を指した。また、1763年、平賀国倫編の『物類品隲巻一』の「粉錫」を要約すると、「白粉、胡粉とも言い、方書(ほうがき:方法の書、処方箋)では白粉、画には蛤粉を用い、『芥子園画伝』には昔の人は蛤粉を用い、近世漢画には白粉を用いる」とあり、[全文 5]従って、従来「牡蠣や蛤等の貝を焼いた胡粉は室町時代以降」との説は誤りであることが判明している。
材料
[編集]以下、ここでは貝粉の胡粉を説明する。 白色度の高いものにはハマグリが用いられるが、加工のし易さからカキ、ホタテの貝殻も用いられる。それぞれの貝は食用になるものと同様だが、各地からより白色度の高い貝が探し求められている。
製法
[編集]上述のように「貝を焼く」とあるが、現在の製法は異なる。貝殻を天日に晒し、数ヶ月~何十年もかけて風化させる。結果的にハマグリなど、硬い貝殻は期間が長くなる。晒した貝殻を粉砕、水で溶き、粘土状になったものを板の上に延ばして更に晒して造られる。
脚注
[編集]全文
[編集]- ^ 成瀬正和. “正倉院伎楽面に用いられた貝殻由来炭酸カルシウム顔料”. "2018-12-25閲覧。正倉院紀要.31,p.69-70,2009所収
- ^ “倭名類聚抄巻十三”. "2018-12-30閲覧。(NDLID:2544222,コマ14)
- ^ 国立文化財機構. “国立文化財機構年報”. "2018-12-30閲覧。「国立文化財機構年報 : 平成20年度自己点検報告書」p.22
- ^ 宋応星. “天工開物3巻[7]”. "2018-12-30閲覧。(国会デジタルコレクション2556161コマ25)
- ^ 平賀国倫: “物類品隲 6巻”. 2018年12月30日閲覧。(NDLID:2555265,コマ30)