コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

専門職学位

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

専門職学位(せんもんしょくがくい、: Professional degree)とは、日本においては、専門職短期大学もしくは専門職大学を卒業した者、専門職大学の前期課程を修了した者、または大学院の専門職学位課程(専門職大学院)を修了した者に授与される学位である。特に、専門職大学院が授与する専門職学位は、通常の大学院の課程で研究業績に対して授与される「修士」と同等とされる。

なお、学位規則第5条の2(専門職大学院の課程を修了した者に対し授与する学位)では「法第百四条第三項に規定する文部科学大臣の定める学位は、次の表の上欄に掲げる区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げるとおりとし、これらは専門職学位とする。」と規定し、表には修士(専門職)、法務博士(専門職)、教職修士(専門職)を列記している。従って、専門職短期大学若しくは専門職大学を卒業した者、専門職大学の前期課程を修了した者が授与される学位については、法的には「専門職学位」ではない。

日本の称号・学位の分類
分類 区分 授与を行う標準的な課程
称号 準学士 高等専門学校の本科
高度専門士 専修学校の専門課程(専門学校)のうち、
4年制の学科
専門士 専修学校の専門課程(専門学校)のうち、
2〜3年制の学科
学位 (下記以外) 博士 大学院の博士課程[注 1]
特定の省庁大学校の課程[注 2]
修士 大学院の修士課程[注 3]
特定の省庁大学校の課程[注 4]
学士 大学学部[注 5]
短期大学[注 6]専攻科[注 7]
高等専門学校の専攻科[注 7]
特定の省庁大学校の課程[注 8]
短期大学士 短期大学[注 6]の本科[注 9]
専門職学位 修士(専門職)[注 10]
(○○修士(専門職))
大学院の専門職学位課程
専門職大学院
(法科・教職以外)
法務博士(専門職)[注 10] 法科大学院
教職修士(専門職)[注 10] 教職大学院
学士
(専門職)
○○学士(専門職) 専門職大学
学士(○○専門職) 大学の学部の専門職学科
短期大学士
(専門職)
○○短期大学士(専門職) 専門職大学の前期課程
専門職短期大学
短期大学士(○○専門職) 短期大学の専門職学科

日本

[編集]

日本では、学位令発足以来、学位といえば、アカデミックな学位をさした。専門職学位は学校教育法第67条、第68条の2において「文部科学大臣の定める学位」として規定され、更に学位規則第5条の2において、この「文部科学大臣の定める学位」を専門職学位と称している。

大学院における専門職学位は、「博士」という語をその名称に含むものがあるが、通常の大学院の課程で研究業績に対して授与される「修士」と同等[要出典]とされる。専門職大学院の標準修業年数は、法務博士(専門職)のみ3年(ただし、既修コースは1年次分を修得済みとして2年に短縮される)、それ以外は2年である。

2017年に学校教育法が改正(平成29年5月31日法律41号)、2019年に施行された。学校教育法第83条の2では専門職大学が、同第108条4項では専門職短期大学が新たに規定された。専門職短期大学の修業年数は短期大学と同様に2または3年、専門職大学の修業年数は大学と同様に4年以上である。学校教育法87条の2の規定により、専門職大学の課程は、前期課程1年もしくは2年、後期課程2年以上に区分することができる。専門職短期大学もしくは専門職大学を卒業した者、または専門職大学の前期課程を修了した者には、文部科学大臣の定める学位が授与される(学校教育法第104条第2項及び第6項)。文部科学大臣の定める学位は学位規則に規定されており、専門職短期大学を卒業又は専門職大学の前期課程を修了した者の学位は「短期大学士(専門職)」とし(第5条の5)、専門職大学を卒業した者の学位は「学士(専門職)」とされている(第2条の2)。なお、専門職大学は、学校教育法第87条第2項に規定される課程(医学歯学薬学獣医学)を設置することができない(同第83条の2第2項)。

学位規則上の種類

[編集]
専門職学位の種類(学位規則第5条の2、第2条の2、第5条の5)
区分 学位
専門職大学院の課程(次項以下の課程を除く。)を修了した者に授与する学位 修士(専門職)
法科大学院の課程を修了した者に授与する学位 法務博士(専門職)
教職大学院の課程を修了した者に授与する学位 教職修士(専門職)
専門職大学を卒業した者に授与する学位 学士(専門職)
専門職大学の前期課程を修了した者に授与する学位
専門職短期大学を卒業した者に授与する学位
短期大学士(専門職)

専門職学位の名称

[編集]

学位規則上、法務博士及び教職修士以外の修士相当の専門職学位は、単に「修士(専門職)」とのみ規定されているが、各大学の学位規程等により、専攻分野を冠した形で「○○修士(専門職)」という名称で授与されている。主に次のものなどがある。

その他の専門職学位も同様に、「短期大学士(専門職)」「学士(専門職)」とのみ規定されているが、専門職短期大学・専門職大学が授与するものについては「○○短期大学士(専門職)」「○○学士(専門職)」、通常の短期大学・大学(学部)に設置された専門職学科が授与するものについては「短期大学士(○○専門職)」「学士(○○専門職)」という名称を用いる。なお、文部科学事務次官通知(平成29年9月21日付29文科高第542号文部科学事務次官通知)の留意事項として、専門職短期大学士及び専門職学士の表記においては、「○○」の部分は学問分野ではなく職業・産業分野の名称を用いることを基本とするよう求めている。参考として次のものを挙げる。

  • 農林業学士(専門職)
  • 作業療法学士(専門職)
  • 学士(経営専門職)

しかしながら、「○○」の部分が職業・産業分野の名称でないものや、「○○」の部分と「学士」の「学」の部分とで一つの学問分野名を形成しているものが存在する。参考として次のものを挙げる。

  • 情報学士(専門職)
  • 情報工学士(専門職)

専門職学位の意義

[編集]

大学院の専門職学位課程、いわゆる専門職大学院は社会経済の各分野において指導的役割を果たす、高度専門職業人を養成することを目的として設立されたものであり、専門職学位とはその職業人たる最低限の素養を認定する意義を有している。具体的な専門職大学院としては海外のロースクールに倣って創設された法科大学院が代表的であるが、その他の専門職大学院には公共政策大学院会計大学院などがあり、その他ではビジネス・スクールが多い。今後は法曹育成を行う法科の他、政治家行政官NPONGOのリーダー、ジャーナリストなどの方面に人材を供給する公共政策の他、企業戦略、ファイナンス、会計、助産師、学校教育つまり教員養成、大学経営、医療経営、社会福祉、医療系、工業系、原子力系、情報技術系、心理系、環境系、健康科学系、デザイン系、アニメーションをはじめメディアコンテンツなどの分野など徐々に高度専門教育の裾野が広がりつつあり、専門職学位の種類も増えていくことが予想される。

特に高齢化社会の進展する中で生涯学習の時代に突入した21世紀の教育環境は社会に出た後もキャリアアップを目的として再び教育を受けようとする人口が増え、社会人大学院夜間大学院が脚光を浴びてきておりキャリア教育の重要性が高まっている。実践的なスキル修得や専門的教育を施す機関として社会人大学院の中でも有力な受け入れ先である専門職大学院には取得する学位の代表的なものとしてMBA、MOT、MPH、MPAMPMなどがある。

取得できる学位の中で最も代表的なのは、ビジネスマンのステータスであるMBAであるが、新しく出来た専門職大学院の中では「経営管理修士(専門職)」または「経営学修士(専門職)」として置かれている場合が多い。MBAの上位には通常DBAの学位もあるが、専門職大学院の制度が未発達段階にあることとニーズの関係から専門職大学院の学位としては未だ置かれていない。その他、企業戦略やファイナンス大学院、会計大学院で授与する学位も、和文表記では個々の専攻領域だが、英文表記としてはMBAとして一律化しているのも特徴である。MOT(MBA in Technology Management)の学位も日本では「技術経営管理学修士(専門職)」などの名称で置いている。その他、法政大学のようにMBITという学位を置く大学もあるが、これはMaster of Business information technologyといい、「情報技術修士(専門職)」という和文表記が主に用いられている。

専門職大学院の前身である専門大学院制度の下で成立した公衆衛生大学院では疫病の治療予防の研究を目的とした人材育成がなされ、当該大学院修了者にはMPH(Master of Public Health、和文表記: 公衆衛生修士号)の学位を授与している。またDPH(Doctor of Public Health、和文表記: 公衆衛生博士号)やPh.D.(Doctor of Philosophy、和文表記: 学術博士)を授与する大学院もある。また、次に代表的なものは公共経営大学院の学位である。これらの大学院で取得できる学位にはMPAやMPMという学位などがある。MPA(Master of Public Administration)とMPM(Master of Public Management)を公共経営学修士と訳し、日本では早稲田大学公共経営研究科という公共政策大学院を設置し、「公共経営修士(専門職)」の学位をMPMとして授与している。MPPはMaster of Public Policyの略で日本では「公共政策学修士(専門職)」としている

なお、専門職学位は、大学の教授となることのできる資格の要件の一つでもある[注 11]。また、准教授講師助教となることのできる資格の要件の一つでもある[注 12]。これらに加えて、専修学校専門課程教員資格でもある[注 13]。それゆえに今後、専門職技能を有する教員を大学や専修学校で確保する上でも専門職学位を有する高度専門職業人の活躍が期待されるところである。

その他

[編集]

教育職員免許状で、専修免許状を「別表第一[注 14]」で授与申請する場合の基礎資格は、原則、「修士の学位を有する」ことが条件となり、「教科又は教職に関する科目[注 15]」24単位以上の修得により、すでに所有する一種免許状を基礎免許状として授与されるが、専門職大学院の授与する「専門職学位」を「修士の学位」と同等とみなし、「修士の学位」の部分を当該「専門職学位」に置き換えて授与申請することが可能である。

アメリカ合衆国

[編集]

米国では、研究学位と職業学位に分けられ、学術的な研究に従事する研究者と実務に携わる専門家双方に別個の教育・学位の授与がなされてきた。その代表例がロー・スクールメディカル・スクールなどである。

職業学位の種類としては、以下のように実に多彩な職業学位が設置され、多彩な専門教育のプログラムを有している。

職業学位の目的および種類

フランス

[編集]

フランスでは職業学士、 技術大学ディプロマフランス語版(DUT)、上級技術者免状(BTS)などが設定されている。

ドイツ

[編集]

ドイツではマイスター資格制度が存在し、これはEQFレベル6であり学士号レベルと同等とされている。

デンマーク

[編集]

デンマークでは専門職学士号が存在し、これはEQFレベル6であり学士号レベルと同等とされている[1]

フィンランド

[編集]

フィンランドでは、ポリテク学士号(Polytechnic Bachelor Degree)、ポリテク修士号(Polytechnic Master Degree)が設定されている[2]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 前期2年の課程を除く
  2. ^ 大学改革支援・学位授与機構より、大学院の博士課程に相当する教育を行なうと認められたもの
  3. ^ 前期2年の課程を含む
  4. ^ 大学改革支援・学位授与機構より、大学院の修士課程に相当する教育を行なうと認められたもの
  5. ^ 専門職大学を除く。また学部に置かれる学科のうち、専門職学科を除く
  6. ^ a b 専門職短期大学を除く
  7. ^ a b 大学改革支援・学位授与機構より、大学の学部を卒業した者と同等以上の学力を有すると認められた者
  8. ^ 大学改革支援・学位授与機構より、大学の学部に相当する教育を行なうと認められたもの
  9. ^ 専門職学科を除く
  10. ^ a b c 学位規則(昭和28年文部省令第9号) 第5条の2
  11. ^ 専門職学位を有し、当該専門職学位の専攻分野に関する実務上の業績を有する者であって、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者というのが一つの要件。大学設置基準14条3号。
  12. ^ 専門職学位を有する者であって、大学における教育を担当するにふさわしい教育上の能力を有すると認められる者というのが一つの要件。大学設置基準15条3号、16条1号及び16条の2第2号。
  13. ^ 文部科学省の定める大学設置基準第14条に「学位規則(昭和28年文部省令第9号)第5条の2に規定する専門職学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、当該専門職学位の専攻分野に関する実務上の業績を有する者」とある。また専修学校教員資格については同じく文部科学省の専修学校設置基準第18条に「その担当する教育に関し、専門的な知識、技術、技能等を有するもので次の各号に該当するもの」とあり、その条件の5にて「修士の学位又は専門職学位を有する者」と定められている。
  14. ^ 養護教諭免許状に規定される「別表第二」、栄養教諭免許状に規定される「別表第二の二」についても同様。
  15. ^ ただし、特別支援学校教諭専修免許状については「特別支援教育に関する科目」、養護教諭専修免許状の場合は「養護又は教職に関する科目」、栄養教諭専修免許状の場合は「栄養に関わる教育又は教職に関する科目」となる。いずれも、24単位以上となる。

出典

[編集]
  1. ^ Denmark - European inventory on NQF 2014 (Report). CEDEFOP. 2014.
  2. ^ Developing Highly Skilled Workers - Review of Finland (PDF) (Report). OECD. 2004.

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]