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第三者認証

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

第三者認証 (:Third-party certification:英語版) は、任意の規格に対し、その認証を取得しようとする当事者に、第三者の認証機関(英:certification body[注釈 1])が認証を与える制度。指定された審査機関が認証を行うことにより、認証の公平性、信頼性を担保している。主として、利害関係者の信用を得るため用いられる。

左からSGS、ビューローベリタス、テュフズードの「ISO 9001」認証マーク。それぞれの企業ロゴに「ISO 9001」の表記がされている。 左からSGS、ビューローベリタス、テュフズードの「ISO 9001」認証マーク。それぞれの企業ロゴに「ISO 9001」の表記がされている。 左からSGS、ビューローベリタス、テュフズードの「ISO 9001」認証マーク。それぞれの企業ロゴに「ISO 9001」の表記がされている。
左からSGS、ビューローベリタス、テュフズードの「ISO 9001」認証マーク。それぞれの企業ロゴに「ISO 9001」の表記がされている。

概要

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第三者認証とは、当事者が自ら確認する第一者認証(自己認証)と、エンドユーザーが確認する第二者認証(購買検査等)とは異なり、利害関係の無い第三者認証機関による認証である。このことから、当事者への高い信頼が得られない場合でも、その信頼を補填できるというメリットを持っている[2]

例えば、開発途上国が貨物を輸入する際に行われる船積み前検査(PSI)は、自国で行うべき通関等の行政手続きを、第三者認証機関が船積み前に行い、認証をすることにより、その認証を信頼して輸入手続きを簡略化可能にしている[2][3]

また、アメリカの食品輸入では、アメリカ食品医薬品局(FDA)に認定された第三者認証機関による監査を受け、適合が認められれば、アメリカ国内への食品の輸入の迅速化が可能となっている[注釈 2]

日本国内においては、乳児用ベッドライター等、第三者認証により、必要な品質を確保していることが確認できなければ、販売することができない製品も存在する[注釈 3]

試験、検査、認証市場の変遷

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1850年イギリスのダーリントンで発生した蒸気機関車の爆発事故。高圧ボイラーの事故は大きな被害となることも多かった。

試験、検査、認証(英:Testing, inspection and certification: 英語版)(TIC) の市場は、19世紀中期、産業革命後のヨーロッパで、蒸気機関に使用される「高圧蒸気ボイラー」による危険な事故が多発し、その抑止のため、周期的な点検により、老朽化等の危険な状態を検査するための専門機関が設置されたことに端を発し、船舶貨物自動車等の検査・認証へと発展していった[7]

拡大の転機は、1985年欧州諸共同体(EC)において、「ニューアプローチ指令」が採択され、技術的要件の規格がEN規格に統一されたことである。その後、CEマーク認証の義務付けへ発展するにつれ、第三者認証の必要性がさらに高まり、ヨーロッパでの認証機関の競争が促進されていくことになった[8][9]。全世界的には、貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)が1995年に発効したことにより、国際貿易において国際規格への適合が必須となったことで、市場規模はさらに拡大している[8]

2020年現在、TIC市場での売り上げは、スイスに本社を置くSGS、フランスに本社を置くビューローベリタス、イギリスに本社を置くインターテックの大手3社が合計で市場シェアの25%を占めていることを始め[10]、先行して発展したヨーロッパ企業が上位を占めている[8][11][注釈 4]

市場調査会社の予測によれば、2020年現在には2,042億ドルであった市場規模が、2025年には2,400億ドルを超えて増進すると見込まれており[注釈 5]、これには、自由貿易における認証需要の高まりのみならず、新型コロナウイルス感染症の流行による、人工呼吸器個人用防護具(PPE)、N-95マスク等の医療機器の認証の増加も理由として挙げている[10][12]

認証機関

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認証機関の認定規格

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国際規格は全世界で同一の規格を利用しており、各国にその適合を認証するための認証機関が存在するが、その認証に差異が生まれないよう、国際的なルールが定められている。

国際標準化機構(ISO)では、マネジメントシステム認証においては、国際認定フォーラム(IAF)の国際相互承認協定(MLA)、試験・検査所の認証においては、国際試験所認定会議(ILAC)の相互承認協定(MRA)の取り決めによって、相互評価され、各認定機関の認定の同等性を承認している[13][14]。これらの協定に属する認定機関が各国・地域における認証機関を「マネジメントシステム認証機関の認定(ISO/IEC 17021)」等の認証機関を認定する規格により、評価することで、国際的な公平性、信頼性を担保している[15]

また、日本産業規格(JIS)においても、JISマーク等の認証マークを表示するには、産業標準化法により、各産業を管轄する主務大臣の登録を受けた者による認証を義務としており[16]、その認証の基準としては、ISOと同様に認証機関を認定する規格を利用している[17]

認証の公平性への懸念

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各認証機関の公平性を担保するルール形成が行われる一方、あくまでも第三者認証機関は民間企業であり、認証に差をつけることで、認証市場における利益追求が行われる可能性も論じられ、そこから発生する問題点が指摘されている。それは、フォーラム・ショッピングと呼ばれる手法であり、認証機関の差を利用し、より好ましい評価や、より緩い審査をする認証機関を探し、認証を取得する方法である[18]

認証機関が広く分布するヨーロッパでは、2000年代には問題として認識されており[18]2012年のイギリス下院科学技術委員会では、英国規格協会(BSI)は、「より多くの包括的な臨床データを求めた際に、BSIへの申請を取り下げ、追加の臨床データを用いずに、別の認証機関で良い結果を得ている事例」に過去5年間で7回遭遇したと、その懸念を訴えた[19][20]

主な認証規格

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国際規格

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日本国内

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主な認証機関

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SGS スイス --1878年に穀物出荷検査所として創業[50]
ビューローベリタス フランス --1828年に船級協会として創業[51]
Dekraドイツ語版英語版 ドイツ --1925年に自動車検査協会として創業[52]
テュフズード ドイツ --1866年に蒸気ボイラー検査協会として創業[53]
テュフ・ラインランド ドイツ --1872年に蒸気ボイラー監視協会として創業[54]
DNV GLグループ ノルウェー --1864年に船級協会として創業[55]
インターテック イギリス --1885年に海上貨物検査所として創業[56]
ユーロフィン ルクセンブルク --1987年に食品分析試験所として創業[57][58]
Applus+英語版 スペイン --1971年に応用自動車研究所として創業[59]
ロイド・レジスター イギリス --1760年に船級協会として創業[60]
ALSリミテッド英語版 オーストラリア --1863年に化学企業として創業[61]
UL LLC アメリカ --1894年に火災保険業者電気局として創業[62]
ソコテックフランス語版 フランス --1953年に建築検査機関として創業[63]
コテクナ スイス --1974年に中東地域への検査機関として創業[64]

脚注

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注釈

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  1. ^ 欧州連合(EU)では、CEマーキング等の認証を行うことを認定した機関を区別してnotified body(英語版)と呼称している[1]
  2. ^ 2018年1月より開始された任意適格輸入業者プログラム(VQIP)により、FDAの認める第三者認証による適合を受け、申請を行うことで、アメリカの食品輸入時の検査が簡略化される[4][5]
  3. ^ a b 消費生活用製品安全法(第12条第1項)により、乳幼児用ベッド、携帯用レーザー応用装置、浴槽用温水循環器、ライターの4点は特別特定製品として、第三者認証の菱形PSCマークの表示が義務付けられている[6]
  4. ^ Mordor Intelligenceのレポートでは3社が売り上げの高い大手として挙げられているが、規模としてはSGS、ビューローベリタスの2社が圧倒的に大きい[2][8]
  5. ^ Mordor Intelligenceの調査では2,772.5億ドル、Markets and Marketsの調査では2,437億ドルと予想されている[10][12]
  6. ^ 電気用品安全法(第9条)の規定により、電気温水器、電気マッサージ器、自動販売機、直流電源装置等は、特定電気用品として、第三者認証の菱形PSEマークの表示が義務付けられている[46]

出典

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  1. ^ European Commission. “Notified bodies” (英語). 2020年12月4日閲覧。
  2. ^ a b c 江藤学 (2012年9月). “欧州 認証機関を上手に使うには” (PDF). ジェトロセンサー. 独立行政法人日本貿易振興機構 (JETRO). 2020年11月6日閲覧。
  3. ^ 経済産業省『総論 WTO協定の概要』(PDF)(レポート)2019年2月https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/fukosei_boeki/report_2019/pdf/2019_02_00.pdf2020年11月6日閲覧 
  4. ^ U.S.Food and Drug Administration (FDA) (2017年12月29日). “Outlining the Benefits of the Voluntary Qualified Importer Program” (英語). 2020年11月19日閲覧。
  5. ^ U.S.Food and Drug Administration (FDA) (2018年1月30日). “FDA Takes Important New Steps to Strengthen Oversight of Food Imports” (英語). 2020年11月19日閲覧。
  6. ^ 産業保安グループ 製品安全課 (2019年8月23日). “消費生活用製品安全法の概要”. 消費生活用製品安全法 (METI/経済産業省). 経済産業省. 2020年11月6日閲覧。
  7. ^ CEOC International (現TIC Council) (2011年). “Anniversary Book - 50 Years of Public Safety” (英語). 2020年11月19日閲覧。
  8. ^ a b c d 経済産業省 産業技術環境局『新たな基準認証の在り方について』(PDF)(レポート)2017年5月https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kijun_ninsho/pdf/001_03_00.pdf2020年11月9日閲覧 
  9. ^ 独立行政法人日本貿易振興機構 (JETRO) (2018年10月). “CEマーキングの概要:EU”. 2020年11月9日閲覧。
  10. ^ a b c Mordor Intelligence. “Testing, Inspection, and Certification Market” (英語). 2020年11月10日閲覧。
  11. ^ デトロイトトーマツコンサルティング合同会社 (15 March 2019). 平成30年度工業標準化推進事業委託費 ルール形成戦略における試験・認証機関の海外展開及びメーカー企業との分業体制に関する調査 (PDF) (Report). 経済産業省. 2020年11月9日閲覧
  12. ^ a b Markets and Markets. “Testing, Inspection and Certification Market by Service, Application” (英語). 2020年11月10日閲覧。
  13. ^ 公益財団法人日本適合性認定協会 (JAB). “IAF・APAC・MLA”. 2020年11月6日閲覧。
  14. ^ 独立行政法人製品評価技術基盤機構 (nite) (2019年6月27日). “ILAC相互承認取決(MRA: Mutual Recognition Arrangement)”. 2020年11月6日閲覧。
  15. ^ 公益財団法人日本適合性認定協会 (JAB). “マネジメントシステム認証機関の認定(ISO/IEC 17021)”. 2020年11月6日閲覧。
  16. ^ 産業標準化法”. e-gov (2019年7月1日). 2020年11月6日閲覧。
  17. ^ 経済産業省 産業技術環境局 認証企画室. “JISマーク制度について”. 2020年11月6日閲覧。
  18. ^ a b David Hanson (2005-02-24) (英語). CE Marking, Product Standards and World Trade. United Kingdom: Edward Elgar Publishing Ltd. p. 91. ISBN 1843767732. https://books.google.co.jp/books?id=-q1lCsnJL1oC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false 2020年12月9日閲覧。 
  19. ^ Great Britain: Parliament: House of Commons: Science and Technology Committee (2012-10-17) (英語). Regulation of Medical Implants in the EU and UK: Fifth Report of Session 2012-13. 1. The Stationery Office. p. 23. ISBN 0215049748. https://books.google.co.jp/books?id=_S0rWtdjw0kC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false 2020年12月9日閲覧。 
  20. ^ Great Britain: Parliament: House of Commons: European Scrutiny Committee (2013-02-15) (英語). Thirty-second Report of Session 2012-13: Documents considered by the Committee on 13 February 2013. United Kingdom: The Stationery Office. p. 18. ISBN 0215054490. https://books.google.co.jp/books?id=Qz9YAzq4TWcC&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false 2020年12月9日閲覧。 
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  23. ^ a b c d 日本産業標準調査会(JISC). “その他の主なマネジメントシステム規格”. 2020年12月2日閲覧。
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関連項目

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外部リンク

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