コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

百億の昼と千億の夜

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

百億の昼と千億の夜』(ひゃくおくのひるとせんおくのよる)は、光瀬龍SF小説。当初の仮題は『百億の昼、千億の夜』であった[1]。『S-Fマガジン』に1965年(昭和40年)12月号から1966年(昭和41年)8月号まで連載された。日本SFの中でも壮大なスケールを持つ作品として知られる。「」をテーマにし、終末観救済など、宗教哲学的色彩も濃い。

1967年(昭和42年)に早川書房より日本SFシリーズとして単行本化。1973年(昭和48年)に文庫化。その後、角川文庫からも刊行された。1993年(平成5年)のハヤカワ文庫版の改版の際に数行加筆された[2]。その後、2010年(平成22年)4月に萩尾望都の表紙画による新装版がハヤカワ文庫JAの1000番目として刊行された[3]

萩尾望都によって漫画化されている(後述#漫画を参照)。

あらすじ

[編集]

ギリシャ哲学者プラトンアトランティス王国の文書を求め、旅に出る。旅先のエルカシアでプラトンは太陽のような灯り(タウブ)、高度な調味料を使った食材、グラウス(ガラス)と、今までに見たことのない高度な技術を持った文明に出会う。プラトンは、エルカシアの宗主にアトランティスがなぜ滅んだのかを尋ねる。宗主は「その問いはあなた自身で見つけることになる」との謎の言葉を残す。プラトンはその地で横になり、目が覚めると自分がアトランティスの司政官オリオナエであることを自覚する。

オリオナエは、国王アトラス7世、先王ポセイドニス5世から、王国のアトランタ地方への移動を強く求められていたことに苦しんでいた。しかし、2人は惑星開発委員会の要請に基づくものであるとして強く移動を迫る。王国は移動を試みるものの失敗し、大惨事に襲われて王国の繁栄は一夜にして崩壊する。プラトンは再び目を醒ます。体調を取り戻したプラトンは西北の地 TOVATSUE へ向かうという。これが時を超えた遥かな旅の始まりとなった。

シッタータ(釈迦)釈迦国太子であったが、世の無常を感じて出家し、トバツ市にて梵天王から破滅の相を聞かされる。疑問を抱いた彼は阿修羅王と会うことを決意する。

一方、ナザレのイエスゴルゴダの奇蹟の後、大天使ミカエルにより地球の惑星管理員に任命される。

超越者である“シ”の命を受けたという惑星開発委員会の真意とは何であろうか。弥勒の救済計画とは何か。様々な謎が彼らの前に立ちはだかる。

登場人物

[編集]
オリオナエ
主人公の一人。ギリシャ哲学者プラトンがモデル。ギリシャの哲学者プラトンとして生き、そのように名乗ってきたが、その実はアトランティスの司政官オリオナエであった。目醒めて以降の彼は、オリオナエであり、プラトンでもある。
長い期間を生きた後、トーキョー・シティー(東京がモデル)でシッタータと阿修羅王に出会う。

阿修羅王(あしゅらおう)

主人公の一人。仏教におけるかつての仏敵である守護神・阿修羅がモデル。本作では少女に設定されている。4億年の永きに亘って帝釈天の軍と戦いを続けている。
漫画版において、阿修羅王はヴィジュアル面の主人公で、ヒロイン的でもある位置付けにあり、表紙等で主役を譲らないキャラクターとなっている。
シッタータ
主人公の一人。仏教の開祖・釈迦がモデル。釈迦国のカピラ城で命をも顧みずに出家し、梵天王と面会する。
ナザレのイエス
キリスト教の開祖イエス(ナザレのイエス)がモデル。プラトン、阿修羅王、シッタータの3名と敵対する。粗野な人物。
イスカリオテのユダ
キリスト教における十二使徒の1人ユダ(イスカリオテのユダ)がモデル。漫画版では、一時期暗示から解き放たれた後、3人と行動を共にするという設定。
アトラス王家
都市アトランティス(アトランティスがモデル)の恵み深き支配者達。のちに同都市を滅ぼす。
ポセイドニス5世
漫画版ではポセイドン
梵天王(ぼんてんおう)
仏教の梵天がモデル。兜率天(兜率天がモデル)の首都であるトバツ市を本拠とする。
帝釈天(たいしゃくてん)
仏教の帝釈天。トバツ市を本拠とする。阿修羅王と永劫の時を戦い続ける天上軍の総指揮官。
弥勒(みろく)
弥勒菩薩がモデル。56億7000万年後の救世主。イエスの前に顕現した大天使ミカエルやアトラス王家の神々と同じく人格のないヴィジョンである。
転輪王(てんりんおう)
転輪聖王がモデル。この世界の外にあって生成を得ること1兆年の余といい、何人たりともその姿を見た者はいない。
ナザレのイエスを陰から操る黒幕であり、阿修羅王らにとっての真の宿敵。その正体は謎につつまれている。

評論

[編集]
  • 宮野由梨香「阿修羅王はなぜ少女か 光瀬龍『百億の昼と千億の夜』の構造」
    SFマガジン』2008年5月号掲載。第3回日本SF評論賞受賞作。早川文庫(旧版)にあった「あとがきにかえて」を足がかりにして、この作品と光瀬自身の人生とのかかわりについて論じている。

漫画

[編集]

萩尾望都によって『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて、1977年(昭和52年)第34号[4][5]から1978年(昭和53年)第2号[6]まで漫画版の作品が連載された[注 1][注 2][注 3]。チャンピオンコミックス全2巻、萩尾望都作品集全2巻、愛蔵版全1巻、文庫版(旧)全2巻、文庫版(新)全1巻、完全版全1巻。

漫画版においては設定が多少異なっている。イスカリオテのユダは原作では天文学者である。漫画版ではイエスの弟子でイエスの恐ろしさゆえにイエスを告発した後、記憶を失わされ、ゼン・ゼンシティの首相として市の住人の生物情報を暗号化して管理しているところをシッタータらに助けられ、惑星開発委員会の最終目的地入り口を示す「アスタータ50」への案内人の役割を果たす[注 4]。阿修羅王は、りりしい中性的美少女として描かれている[注 5]

書籍

[編集]

小説

[編集]
  • 『百億の昼と千億の夜』 早川書房 日本SFシリーズ 1967年 全国書誌番号:67012706
  • 『百億の昼と千億の夜』 早川書房 ハヤカワ文庫JA 1973年 ISBN 978-4150300067
  • 『百億の昼と千億の夜』 角川書店 角川文庫 1980年10月 ISBN 978-4041395059
  • 『百億の昼と千億の夜』 角川書店 角川文庫 リバイバルコレクション エンタテインメントベスト20 1996年12月
  • 『百億の昼と千億の夜』 早川書房 ハヤカワ文庫JA 2010年 ISBN 978-4150310004 解説は押井守、表紙イラストは萩尾望都。

漫画

[編集]

その他

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 『別冊新評 SF - 新鋭7人特集号』[7](新評社、1977年)での手塚治虫との対談「SFマンガについて語ろう」で、本作を取り上げた原因を手塚から聞かれた萩尾は、「それはたまたま『(週刊少年)チャンピオン』の編集部に光瀬さんのファンがいて、(中略)『百億の昼と千億の夜』がよかったという話をしましたら、もし描くんだったら光瀬さんに頼んであげますよってわけです。」と語っている。
  2. ^ 光瀬龍は萩尾による漫画版について「原作が私自身のものだから、たいへん語りにくいのだが、実際、よくやったものだと思う。(中略)萩尾さんは萩尾さんのやりかたで原作を完全にわがものにし、乗り越えたと思う。」と記している[8]
  3. ^ 1977年から1978年にかけては加藤唯史作画による『ロン先生の虫眼鏡』も『週刊少年チャンピオン』に連載されており、光瀬原作の作品が2作同時に掲載されることになった。
  4. ^ 『別冊新評 SF - 新鋭7人特集号』[7](新評社、1977年)での手塚治虫との対談「SFマンガについて語ろう」で、萩尾は「あの話は、イエス・キリストがずいぶん悪人になってるでしょう。でも私イエスがわりと好きなんで、すごく困ったんです。で、しょうがないから、イエスを悪人にして、ユダを生かそうと思ってるんです。」と語っている。
  5. ^ ダ・ヴィンチ』1999年11月号[9]での夢枕獏とのスペシャル対談で萩尾は、「(電話での打ち合わせで光瀬龍が)「ああ、そうそう、阿修羅王は……」と最後に言いだしたので、あれ何か注文かな、と思ったら、「男でしたっけ、女でしたっけ」と(笑)。光瀬さん自身も私が描いたような中性的なイメージで考えておられたのではないでしょうか。」と語っている。

出典

[編集]
  1. ^ 『S-Fマガジン』1965年11月号 (1965).
  2. ^ 光瀬龍「あとがき」『百億の昼と千億の夜』ハヤカワ文庫、1993年7月31日30刷、439頁
  3. ^ 宮野由梨香 (2010年7月7日). “東京SF大全34『百億の昼と千億の夜』”. TOKON10実行委員会公式ブログ. 2022年7月9日閲覧。
  4. ^ 『週刊少年チャンピオン』第34号、1977年8月15日号 (1977).
  5. ^ 1977年”. 週チャンマニアクス. 2020年6月21日閲覧。
  6. ^ 1978年”. 週チャンマニアクス. 2020年6月21日閲覧。
  7. ^ a b 『別冊新評 SF‐新鋭7人特集号』 (1977).
  8. ^ 萩尾望都『萩尾望都の世界─テレビランド増刊イラストアルバム 6』 1978, p. 70, 「孤独と情念の子・萩尾望都(光瀬龍)」
  9. ^ 『ダ・ヴィンチ』No.67、1999年11月号 (1999).

参考文献

[編集]
ムック
雑誌

外部リンク

[編集]