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鎮痛薬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
痛み止めから転送)

鎮痛薬(ちんつうやく、: Analgesic)とは、痛みに対する鎮痛作用を有する医薬品の総称。口語で痛み止め感覚をなくす麻酔薬とは区別される。

鎮痛薬は、中枢神経系末梢神経に対し様々な機序で作用する。鎮痛薬の主なものに、アセトアミノフェン国際一般名 パラセタモール)や、サリチル酸アセチルサリチル酸(商品名 アスピリン)、イブプロフェンロキソプロフェンのような非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、モルヒネトラマドールのようなオピオイドが含まれる。

鎮痛薬は痛みの種類によって選択され、神経因性疼痛では、三環系抗うつ薬抗てんかん薬など、鎮痛薬に分類されていないものが使用されることがある。セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)として知られるデュロキセチン(サインバルタ)は、疼痛の適応が承認されている。

用語

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鎮痛薬を意味する英語 analgesic は、ギリシャ語で「〜無しで」を意味する an- と、「痛み」を意味する -algia の合成語である。あるいは、英語圏では口語的に痛み止め(painkiller)と呼ばれる。

主な鎮痛薬

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アセトアミノフェンとNSAIDs系薬剤

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アセトアミノフェンの正確な作用機序は分かっていない。しかし、中枢神経に働きかけているということはうかがえる。アセチルサリチル酸など非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) は、シクロオキシゲナーゼの作用を阻害し、炎症のメディエーターであるプロスタグランジンの生成量を減少させる。アセトアミノフェンとオピオイドとは対照的に、この作用が痛み、更には炎症を抑える。

アセトアミノフェンは、低頻度で低用量であれば安全とみなされるが、そうでない場合、致命的な肝機能障害を引き起こす可能性がある。

NSAIDsには、ジクロフェナクロキソプロフェンフェルビナクフルルビプロフェンも挙げられる。NSAIDsは、消化性潰瘍腎不全アレルギー反応、また高用量で耳鳴りを引き起こすことがある。また、血小板の機能にも影響を与えるので出血の危険性が増す可能性がある。ウイルス性疾患にかかった16歳以下の子どもに対するNSAIDsの使用は、ライ症候群を引き起こすことがある。

COX-2抑制剤

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COX-2阻害剤はNSAIDから派生している。1990年代以降注目を集めた。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼという酵素の、少なくとも2つのアイソザイムを阻害することが分かっており、それはCOX-1・COX-2である。研究によって、NSAIDsの副作用のほとんどはCOX-1を遮断することによって起きており、COX-2は炎症作用にかかわっていることがわかった。NSAIDsは、一般的にCOX-1とCOX-2の両方の働きを阻害する。このためCOX-2のみを選択的に阻害する薬剤を創れば、胃痛などの副作用のない優れた消炎鎮痛薬になると考えられた。

セレコキシブロフェコキシブ[注釈 1]など、これに分類される薬品は、NSAIDsと等しい鎮痛効果を持ちながら消化管の出血が起こりにくいとされ、ベストセラーとなった。しかしながらロフェコキシブは発売後のデータ分析によって、消化管出血は起こりにくいものの心疾患の確率が上昇することがわかり、2004年9月、発売元のメルク社はロフェコキシブは市場から回収を余儀なくされた[1]。これがロフェコキシブのみのことなのか、それともCOX-2阻害剤全体に共通する副作用であるのかについて、現在議論されている最中である。

オピオイド

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モルヒネは典型的なオピオイドであり、ほかに様々な薬物(コデインオキシコドンヒドロコドンペチジン)は全て、脳のオピオイド受容体に同じように影響を及ぼす。ブプレノルフィンは、オピオイド受容体の部分的作動薬英語版であると考えられ、またトラマドールセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持つ。オピオイドの投与は、錯乱、呼吸抑制、ミオクローヌス縮瞳を引き起こすことがあるため、その服用量は制限されるべきである。

オピオイドは、効果的な鎮痛効果をもたらすが、一方で不快な副作用をもたらす可能性がある。モルヒネの投与の開始時には、三人に一人には、吐き気や嘔吐の症状が現れる。一般的に制吐剤を用いる。掻痒症(かゆみ)が生じた場合には、別のオピオイドに変更する場合がある。便秘は、オピオイドの投与を受けた患者のほぼ全てに起こる症状である。便秘に対しては、ラクツロース・マクロゴール含有剤・co-danthramer などの薬剤が一様に用いられる。

依存や耐性の危険性や不快な副作用があるため、これらが少ないオピオイドの研究が行われている[2]。服用量を減らす場合には、離脱症状が起こらないように配慮する必要がある。

特異的な薬剤

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慢性的もしくは神経因性疼痛による痛みをもつ患者においては、他の薬剤が鎮痛作用を持ちうる。三環系抗うつ剤、特にアミトリプチリンは、中枢神経に起因する痛みを改善することが分かってきている。カルバマゼピンガバペンチン、またプレガバリンの正確な機序は、明確になっていない。しかし、これら抗てんかん薬は、神経因性疼痛を改善するのにいくらか効果がある。

剤型と用途

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併用

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鎮痛薬はよく併用される。例えば、処方箋の不要な一般医薬品に、アセトアミノフェンとコデインの併用はよくみられる。鎮痛薬の組み合わせは、プソイドエフェドリンのような血管収縮剤と合わせて、腫れ物の治療に用いたり、抗ヒスタミン剤と合わせてアレルギー患者の治療に用いられる。

アセトアミノフェン・アスピリン・イブプロフェン・ナプロキセンなどのNSAIDsは、弱〜中オピエート(ヒドロコドンまで)との併用によって、複数部位に作用し有益な相乗作用を示すが、一部の組み合わせは単剤で用いられるよりも効果がない。また薬物相互作用による重大な副作用につながることがある。

局所か全身か

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局所の鎮痛薬は、一般的には全身性の副作用を避けるために推奨される。例えば、関節の痛みに対してはイブプロフェンかジクロフェナク含有ジェルが用いられる。また、カプサイシンも局部に用いられる。ステロイドは、より長期間の鎮痛のために、関節に注射される場合もある。リドカインは、口腔内の傷の痛みの鎮痛・医学的な治療・歯科治療のための局所麻酔に用いられる。

大麻製剤

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テトラヒドロカンナビノール (THC) や他のカンナビノイドには、大麻に由来するかあるいは合成によって作られ、鎮痛作用がある。アメリカ大陸やヨーロッパでは利用できる箇所が増えているが、それ以外の国家では違法薬物とみなされる。

テトラヒドロカンナビノールの明らかな作用の一つは、慢性的な痛みによってオピオイドの投与を受けている患者に対する制吐作用である。マリノール製剤・経口直腸ハッシュオイルの蒸気吸入は、喫煙によって大麻を吸入するよりも効果的であり、これは多くの医師が大麻の喫煙を止めるように助言を行うことと同じ理由である。

その他

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その他の向精神薬にはNMDA受容体拮抗薬であるケタミンや、クロニジン、α2-アドレナリン受容体拮抗薬であるメキシレチン、その他の局所麻酔類似物がある。

非定型鎮痛薬の補助や増強

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オルフェナドリン・シクロベンザプリン・スコポラミンアトロピンなど、第一世代の抗うつ薬抗コリン薬抗てんかん薬は、オピオイドのような、主に働く鎮痛薬の作用を増強するために多く用いられる。この併用には、副交感神経系に働きかけて神経障害に起因する疼痛の改善・他の鎮痛薬の作用が調整できるなどの利点がある。

デキストロメトルファンは、オピオイドに対する耐性の形成を遅らせて、NMDA受容体に作用することによって更なる鎮痛効果をもたらすことが知られている。メサドンとケトベミドンと、おそらくピリトラミドのような幾つかの鎮痛薬の組み合わせは固有のNMDA作用をもたらす。

医薬品副作用を改善し、更なる利点をもたらす薬剤も多くある。例えば、オルフェナドリンを含む抗ヒスタミン剤は、強い鎮痛薬によって引き起こされるヒスタミンの放出を抑える。メチルフェニデートカフェインエフェドリンアンフェタミンメタンフェタミンデキストロアンフェタミンコカインなどの精神刺激薬は、極度の鎮静作用を抑え、抗うつ薬と同様、痛みに苦しむ患者の気分を高揚させうる。

依存

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連用により薬物乱用頭痛を引き起こすことがある。

近年のアメリカでは、オキシコドンやヒドロコドンなど、オキシコドン・アセトアミノフェン(パラセタモール)の配合剤であるパーコセット (Percocet) とは対照的な、単一成分の処方薬による依存患者が増えている。単体のヒドロコドンは、ヨーロッパの幾つかの国で錠剤の医薬品として入手ができるのみである。依存をもたらすどころか、これら多くのコデインを含むアセトアミノフェン・ジヒドロコデイン・ヒドロコドン・オキシコドンなどアメリカで用いられる薬品は、服用する者に深刻な肝障害の危険性を負わせる。冷水や冷媒によって抽出されるオピオイドは薬物乱用者・自己投薬者・合法的な薬の所持者に、これら問題が発生する可能性を減らす。アメリカで販売されているほとんどのヒドロコドン・コデイン・ジヒドロコデインを含む咳止めシロップは、過剰摂取の危険性をはらんでいる。

鎮痛補助薬

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鎮痛薬の効果を強化、副作用の軽減など鎮痛薬を補助する薬剤で、抗うつ薬や抗てんかん薬など本来の役割とは違う薬剤が処方される[3]

参考文献

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脚注

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注釈

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  1. ^ Rofecoxib. 日本未承認。

出典

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  1. ^ "Up to 140,000 heart attacks linked to Vioxx". New Scientist. 25 January 2005. 2023年12月17日閲覧
  2. ^ 新しいオピオイド鎮痛薬の開発 - 和歌山県立医科大学医学部薬理学講座
  3. ^ 「痛みの治療なのに抗うつ薬を処方された!」と駆け込んできた患者 「鎮痛補助薬」の使い方 出版:読売新聞社yomiDr.(ヨミドクター)著:森本昌宏

関連項目

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外部リンク

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