田舎の婚礼の交響曲
交響曲《田舎の婚礼》(ドイツ語: Ländliche Hochzeit)作品26は、カール・ゴルトマルクが1875年に作曲した作品であり[1]、通し番号は付けられていないが、2つあるうちの最初の交響曲である。翌年には名高い《ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調》が作曲されており、どちらの作品もゴルトマルクの脂の乗り切った時期の所産である。なお、題名の訳については、《田舎の結婚式》《村の婚礼》《村の結婚式》などの例があり、作品そのものを《田舎の婚礼の交響曲》《村の結婚式の交響曲》などと呼ぶ場合もある。以下においては《田舎の婚礼の交響曲》とする。
初演と評価
[編集]1876年3月5日にハンス・リヒターの指揮によってウィーンで初演された[2]。ゴルトマルクの散歩仲間だったヨハネス・ブラームスは、「あれは君の今までの仕事の中で最高の曲だよ。単純明快で申し分なく、ユーピテルの頭から出てきたミネルウァのように、いきなり完成された姿で出来上がったんだからね[3]」とゴルトマルクに語ったという(ブラームスの《交響曲 第1番 ハ短調》が初演されるのは同年11月のことである)。アメリカ初演は翌年1月13日にセオドア・トマスの指揮により、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団によって行われた[3]。
《田舎の婚礼の交響曲》は、トマス・ビーチャム卿[4]やレナード・バーンスタイン[5]のような大指揮者も好んで取り上げており、このほかに録音した指揮者に、モーリス・アブラヴァネルやアンドレ・プレヴィン、ヨンダーニ・バット、スティーヴン・ガンゼンハウザー、ヘスス・ロペス=コボスがいる。
楽器編成
[編集]フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、トライアングル、シンバル、弦楽五部。
構成
[編集]本作は、交響曲の標準的な構成に従ってはおらず、「組曲」と名付けられてもおかしくはなかった。通常の4楽章構成ではなく5楽章というのは、ベートーヴェンの《「田園」交響曲》やベルリオーズの《幻想交響曲》、シューマンの《「ライン」交響曲》に同じである[6]。ゴルトマルクは曲に特定の標題を付けてはいないが、楽章ごとに、農村の結婚式の情景を示唆するような題名を付けている。愉悦感とユーモアという、いかにも中欧らしい魅力に満ち溢れた作品である。
第1楽章「婚礼の行進」
[編集]第1楽章は「婚礼の行進(Hochzeitsmarsch)」と題されており、行進曲調の主題に13の変奏が続く。変奏曲は交響曲によく利用されるが、第1楽章に登場するというのはきわめて異例である。各変奏では、速度や拍子、リズム、音色、テクスチュア、雰囲気、調性、和声が絶え間なく変化しており、ゴルトマルクの職人芸が発揮されている[3]。
- 主題:チェロとコントラバスが呈示する。讃美歌『神の御子は今宵しも』に似た旋律が奏でられる。
- 第1変奏:ホルン、クラリネット、フルートによる演奏
- 第2変奏「ポコ・アニマート」:ヴァイオリンを導入
- 第3変奏:オーケストラ全奏
- 第4変奏「アンダンテ・コン・モート」、変ロ短調:ヴァイオリン
- 第5変奏「アレグレット」: コントラバス、ファゴット、ホルン
- 第6変奏「アレグロ・ヴィヴァーチェ」:ホルン、ファゴット、フルート、ヴァイオリン
- 第7変奏:短調。
- 第8変奏「アレグロ・スケルツァンド」:弦楽合奏と高音の木管楽器
- 第9変奏:短調。コントラバス、ヴァイオリン、フルート
- 第10変奏「モルト・ヴィヴァーチェ」。ヴァイオリン。それ以外の弦楽器はピチカート奏法による。
- 第11変奏「アンダンテ・コン・モト」:ヴァイオリン、オーボエ、クラリネット
- 第12変奏「モデラート」:独自の旋律による新しい主題。オーボエ、ファゴット、ヴィオラ、2人のヴァイオリン独奏による。
- 第13変奏:短いファンファーレの後に、独自の主題が演奏される。オーケストラ全奏で盛り上がった後、やがてひっそりと終結する[7]。
第2楽章「婚礼の唄」
[編集]新郎新婦の唄(Brautlied)。文字通りの歌謡楽章である。
第3楽章「セレナーデ」
[編集]開始とともに2つのオーボエが主題を奏で、やがて弦楽合奏がそれを敷衍する[7]。オーボエとクラリネット、ファゴット、チェロによってバグパイプの音色の模倣が行われる。
第4楽章「庭園にて」
[編集]「庭園にて(Im Garten)」は、2つめの抒情的な緩徐楽章である。中間部で変ホ短調に転調する。
第5楽章「舞踊」
[編集]「ダンス」と呼ばれる終楽章は、ソナタ形式で作曲された唯一の楽章である。フーガに始まる[8]。「庭園にて」の主題がつかのま回想された後、舞曲が戻ってきて大賑わいのうちに終結を迎える。
註
[編集]- ^ David Ewen: Music for the Millions – The Encyclopedia of Musical Masterpieces
- ^ The Free Dictionary
- ^ a b c Joseph Braunstein, notes to Abravanel recording
- ^ classical.source.com
- ^ Harriet Cunningham, review of Sydney Symphony performance, Sydney Morning Herald, 17 March 2008
- ^ Michael Talbot, The Finale in Western Instrumental Music
- ^ a b Anne Shaw Faulkner, What We Hear in Music
- ^ Raymond Tuttle, Notes to Decca recording