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{{Expand English|Gengoroh Tagame|date=2021年5月}}
{{Infobox 漫画家
{{Infobox 漫画家
| 名前 = 田亀 源五郎
| 名前 = 田亀 源五郎
|ふりがな= たがめ げんごろう
| 画像 =Gengoroh Tagame Dedicace Paris 2015.JPG
| 別名義 = 城戸呉八、鬼頭大吾(小説発表時の名義<ref>{{cite web|和書|url=http://www.tagame.org/aboutme/profile.html|accessdate=2024-01-16|title=プロフィール|publisher=田亀源五郎|date=2014-06-13}}</ref>)
| 画像サイズ =
| 画像 = File:FIBD2017GengorohTagame-Portrait.jpg
| 脚注 =
|脚注=2017年[[アングレーム国際漫画祭]]において。
| 本名 =
|生年= {{生年月日と年齢|1964|02|03}}
| 国籍 = {{JPN}}
| 生地=[[神奈川県]][[鎌倉市]]
| 生年 = {{生年月日と年齢|1964|2|3}}
|代表作={{ubl|嬲り者|銀の花|日本のゲイ・エロティック・アート|[[弟の夫]]|[[僕らの色彩]]}}
| 生地 = {{JPN}}
|受賞 = [[文化庁メディア芸術祭]]マンガ部門優秀賞 (2015)、[[日本漫画家協会賞]] (2018)、[[アイズナー賞]]最優秀アジア作品賞 (2018)
| 没年 =
| 公式サイト= {{url|http://tagame.org/}}
| 没地 =
| 職業 = [[漫画]]
|ジャンル= [[ゲイ漫画]]
|職業=[[漫画家]]<br />ゲイ・エロティック・アーティスト
| 活動期間 = [[1982年]] - 現在
| ジャンル = [[ゲイ]][[漫画]]
| 代表作 = 『[[嬲り者]]』<br />『[[男女郎苦界草紙 銀の華]]』<br />『[[外道の家]]』<br/>『[[君よ知るや南の獄]]』<br />『[[弟の夫]]』
| 受賞 =2015年文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞 <br />2018年アイズナー賞最優秀アジア作品最優秀賞、日本漫画家協会賞優秀賞受賞<br />(弟の夫)
| 公式サイト = [http://www.tagame.org/ 田亀源五郎~Gay Erotic Art of Gengoroh TAGAME]
}}
}}


'''田亀 源五郎 '''(たがめ げんごろう、[[1964年]]([[昭和]]39年)[[2月3日]] - )は、[[日本]]の[[漫画家]]。自らを「[[ゲイ]][[エロティック]][[アーティスト]]」と名乗る
'''田亀 源五郎'''(たがめ げんごろう、[[1964年]][[2月3日]] - )は日本の[[漫画家]]、{{仮リンク|クィア芸術|en|Queer art|label=ゲイ・エロティック・アーティスト}}。[[SM (性風俗)|SM]][[性暴力]]、過剰な男性性を題材にしたゲイ・ポルノ作品で知られており、日本のゲイ漫画家の中で有数の作品数と影響力を持つ。日本国外でもアーティストとして高い


在学中に[[少年愛 (少女漫画) |少年愛]]雑誌や[[ゲイ雑誌]]に漫画や小説を寄稿し始めた。[[多摩美術大学]]を卒業後、グラフィックデザイナーや[[アートディレクター]]として働くかたわら漫画家として活動し、後に専業漫画家となった。1994年に単行本化された『嬲り者』はゲイ漫画の書籍として画期的な売り上げを記録した。1995年、ゲイ雑誌『[[G-men]]』の創刊に携わった。2014年の『[[弟の夫]]』を皮切りに[[LGBT]]を扱った一般向け漫画を描き始めた。同作は[[文化庁メディア芸術祭]]優秀賞、[[日本漫画家協会賞]]、[[アイズナー賞]]を授与されている。美術史に関する著作『日本のゲイ・エロティック・アート』もある。
== 略歴 ==
[[多摩美術大学]][[グラフィックデザイン]]科卒。アートディレクター、グラフィックデザイナーを経て、[[1986年]]から『[[さぶ (雑誌)|さぶ]]』にて[[ゲイ]][[漫画]]・[[小説]]の連載を始める。その後1994年から『[[Badi]]』や『[[薔薇族]]』でも作品を発表。『Badi』に関しては、2019年に休刊するまで{{要検証|date=2022年2月}}作品を発表している。


== 経歴 ==
[[1995年]]には『[[G-men (雑誌)|G-men]]』でも漫画・小説を発表し、62号まではカバーイラストも担当した。同誌には企画段階から携わったほか、小説の発表は「'''鬼頭大吾'''」名義で行っていた。なお、[[2006年]]には同誌から退いている。
=== 生い立ちと初期の活動 ===
1964年2月3日、[[鎌倉市]]で武士の家系に生まれる<ref name="Dicomanga"/><ref name="du9"/><ref name="400 culs"/><ref name="Hazlitt"/>。兄が一人いる。文化的な家庭で、子供のころから文学・美術やクラシック音楽に親しんでいた一方{{sfn|田亀|2017|pp=55-56, 77}}、ポップ・ミュージックや漫画は禁じられていた。ただし[[手塚治虫]]作品だけは文学的に優れているとして例外にされていた<ref name="Hazlitt"/>。田亀は床屋の待合室などでそれ以外の少年漫画に触れ、[[楳図かずお]]のホラー漫画や、性や暴力を扱った[[永井豪]]作品を好んだ<ref name="Hazlitt"/>。小学校に入る前から絵を描き始め、中学になると漫画を制作してクラスメートや教師に見せるようになった<ref name="Huffpo"/>。


10代中ごろ、同性愛という意識がないまま、映画『[[ソドムの市]]』や[[マルキ・ド・サド]]の小説作品を入り口にして[[BDSM]]に関心を持ち始めた{{sfn|田亀|2017|pp=61-62}}。「裸で縛られた男性」が出てくる映画(イタリアの『[[ヘラクレス (1958年の映画)|ヘラクレス]]』シリーズや、『[[猿の惑星 (映画)|猿の惑星]]』の[[チャールトン・ヘストン]]など)に魅力を感じていた<ref name="Vice"/>。その後[[ゲイ雑誌]]『[[さぶ (雑誌)|さぶ]]』と出会い、{{行内引用|存在すると思っていなかったものが存在したような気持ち}}というほど衝撃を受けた{{sfn|田亀|2017|p=63}}。しばらく自身のセクシュアリティに悩んでいたが、高校生になって男性に恋愛感情を持ったことで同性愛者を自覚した{{sfn|田亀|2017|pp=64-65}}。田亀は当時日本に流入し始めた海外のゲイカルチャーを追うようになり、広くアートやポップカルチャーに傾倒していった{{sfn|田亀|2017|pp=66-67}}。高校在学中の1982年、女性向けの耽美系[[少年愛 (少女漫画)|少年愛]]雑誌『[[JUNE (雑誌)|JUNE]]』にペンネームで漫画を投稿して掲載された<ref name="Hazlitt"/><ref name="Huffpo"/>。息子と父親の間の[[近親相姦]]と殺人を描く内容だった<ref name="JapaneseGayArt"/>。当時の青年漫画界で起きていた「[[エロ劇画誌|三流エロ劇画]][[ニューウェーブ (漫画)#三流劇画ムーブメント|ルネッサンス]]」と呼ばれる運動の中に同性愛を描く作家([[宮西計三]]や[[ひさうちみちお]])がおり、その影響を受けて描いたものである{{sfn|田亀|2014|p=115}}。田亀は後に「ゲイ・カルチャーではなくサブカル系の文脈」の作品だと言っており、自作リストには載せていない{{sfn|田亀|2017|p=88}}。
[[1950年代]]末から現代に至る日本の[[ゲイ・エロティック・アート]]の資料収集と歴史叙述にも精力的に取り組んでいる。日本国外のゲイメディアでも活動しており、[[フランス]]の出版社からは外国語版が出版されている。


両親は息子に東京大学に進んで銀行家になることを望んでいたが、田亀は[[多摩美術大学]]でグラフィックデザインを学ぶことに決めた<ref name="Hazlitt"/><ref name="Animeclick"/>。入学を機にして周囲にゲイをオープンにした<ref name="Vice"/>。在学中にさまざまなペンネームで『[[さぶ (雑誌)|さぶ]]』などのゲイ雑誌にエロティックな小説、イラストレーション、漫画を投稿した<ref name="du9"/>{{sfn|田亀|2017|p=97}}{{Efn2|ゲイ雑誌の『[[薔薇族]]』や『[[アドン (雑誌)|アドン]]』は漫画家に原稿料を払わず、また執筆者の同意を得ずに原稿を掲載することがあった。そのため田亀はこれらの雑誌に掲載された作品を自身の作品リストから外している<ref name="du9"/>{{sfn|田亀|2017|p=97}}。}}。ペンネームはやがて「田亀源五郎」に落ち着いた。「[[タガメ]]」と「[[ゲンゴロウ]]」はいずれも[[水生昆虫]]の名で、ほかのゲイ漫画家がよく使う「マッチョだったり、ロマンチックだったりする」ペンネームと差別化する意図があった<ref name="10men"/>。大学生の頃ヨーロッパに旅行し、ロンドンの書店で米国の[[レザーフェティシズム]]雑誌『{{仮リンク|ドラマー (雑誌)|en|Drummer (magazine)|label=ドラマー}}』と出会った<ref name="10men"/>。同誌には[[トム・オブ・フィンランド]]、{{仮リンク|レックス (画家)|en|Rex (artist)|label=レックス}}、{{仮リンク|ビル・ワード (画家)|en|Bill Ward (British artist)|label=ビル・ワード}}のような西洋アーティストによるホモエロティックなイラストレーションが掲載されており、田亀の「[[熊系]]」と呼ばれる作風に大きな影響を与えた<ref name="Vice"/><ref name="10men"/>。大学卒業後は商業グラフィックデザイナーや[[アートディレクター]]として生計を立てながら漫画や小説の創作を続けた<ref name="du9"/><ref name="Penguin"/>。
[[2015年]]、『[[弟の夫]]』で[[文化庁メディア芸術祭マンガ部門]]優秀賞受賞。


=== ゲイポルノ作家として ===
[[2018年]]7月、第30回[[アイズナー賞]]において、『弟の夫(My Brother's Husband)』が最優秀アジア作品(Best U.S. Edition of International Material - Asia)」最優秀賞を受賞<ref>{{Cite web|和書|url=http://animationbusiness.info/archives/5913|title=高橋留美子がアイズナー賞”コミックの殿堂“に、日本から5人目 「AKIRA」2部門受賞も|publisher=アニメーションビジネス・ジャーナル|date=2018-07-22|accessdate=2018-07-24}}</ref>。同年、同作で[[日本漫画家協会賞]]優秀賞受賞。
当時のゲイ雑誌に掲載される漫画は素朴な恋愛漫画やギャグ漫画が主だったが、田亀は本格的なポルノグラフィを描いた。編集部から内容について注文を受けることはなかった。筋肉質で髭を生やした男性のイメージやSMといった題材も田亀以前にはほとんど見られなかったものである{{sfn|田亀|2017|pp=106-107}}。掲載作の多くは単行本化されたが、初期の6冊は書籍を専門としないプロダクションから出版され、[[ゲイバー]]やゲイ専門店でしか流通しなかった<ref name="du9"/>。そんな中、『さぶ』誌に1991年から1993年にかけて連載された『嬲り者』の単行本 (1994) は同種の書籍として画期的な売れ行きを示した{{sfn|田亀|2017|p=111}}。同書のヒットは商業的な{{仮リンク|ゲイ漫画|en|Bara (genre)}}の端緒を開き{{sfn|Ishii|Kidd||Kolbeins|2014|p=39}}、このジャンルの文化的・芸術的価値を確立した{{sfn|Kolbeins|2013|p=272}}。全824ページ、3巻にわたる時代物の長編第2作『男女郎苦界草紙~銀の華』(1994) は、田亀を北米に紹介した{{仮リンク|グラハム・コルベインズ|en|Graham Kolbeins}}によって{{行内引用|ゲイ漫画の物語性の射程}}を単純なポルノから複雑な物語や美的要素にまで拡げたと評されている{{sfn|Kolbeins|2013|p=272}}。

1990年代には一般メディアで「[[日本における同性愛#ゲイ・ブーム|ゲイブーム]]」が起き、性的少数者がメディアに露出し始めた。ゲイ雑誌界においても『[[Badi]]』(1994) のようにゲイのライフスタイルや社会問題までを扱う新興誌が現れた{{sfn|若松|2018}}。1995年、田亀は『Badi』の編集に携わっていた二人の人物とともに『[[G-men (雑誌)|G-men]]』(誌名のGは源五郎が由来<ref name=fushimi20072>{{cite interview|url=https://www.pot.co.jp/fushimi/%e3%82%af%e3%82%a3%e3%82%a2%e3%83%bb%e3%82%b8%e3%83%a3%e3%83%91%e3%83%b3%e3%83%bb%e3%82%a6%e3%82%a7%e3%83%96%ef%bc%88qjw%ef%bc%89/qjr%e3%82%a4%e3%83%b3%e3%82%bf%e3%83%93%e3%83%a5%e3%83%bc-%e7%94%b0%e4%ba%80%e6%ba%90%e4%ba%94%e9%83%8e%e3%81%95%e3%82%93%e3%80%80%e3%81%9d%e3%81%ae%ef%bc%92.html|accessdate=2024-01-22|title=QJrインタビュー 田亀源五郎さん その2|publisher=ポット出版|date=2007-10-02|interviewer=伏見 憲明|subject=田亀源五郎}}</ref>)を立ち上げた{{sfn|Kolbeins|2013|p=272}}。[[美少年]]タイプが重んじられていたゲイ雑誌の現状を変えたいという考えから<ref name="du9"/><ref name="Vice"/>{{sfn|Kolbeins|2013|p=272}}、男らしい大柄な中年以上の男性を前面に出した雑誌だった<ref name="du9"/>。誌面では「ハードなセクシュアル・ファンタジー」とならんで[[ヒト免疫不全ウイルス|HIV]]/[[後天性免疫不全症候群|AIDS]]の知識や歴史・文化が扱われ、一種の文化的アクティヴィズムが志向されていた{{sfn|大島|2019|pp=89-90}}。同誌で田亀は表紙絵、漫画、小説を寄稿するほか企画・編集にも関わった{{sfn|田亀|2023|p=267}}。このころゲイ・エロティック・アートに専従するためグラフィックアートやイラストレーションの仕事からは手を引いた<ref name=fushimi20072/>。しかし『G-men』誌からは2006年に離脱することになる<ref>{{cite web|url=https://kaiin.hanmoto.com/bd/isbn/9784780802337|accessdate=2024-01-15|title=日本のゲイ・エロティック・アートVol.3 田亀 源五郎(編著) - ポット出版|publisher= 版元ドットコム}}</ref>。

2003年、1950年代から現在に至るまでのゲイアート史をまとめた『日本のゲイ・エロティック・アート』第1巻を出した。ほとんど注目されていなかった過去の作品や作家を掘り起こし、ゲイ文化史の流れを作る試みだった{{sfn|田亀|2017|pp=121-122}}。

=== 海外や一般メディアへの進出 ===
[[ファイル: Gengoroh Tagame Dedicace Paris 2015.JPG|サムネイル|パリの書店でサイン中の田亀源五郎(2015年)。]]
2000年代以降は{{仮リンク|オンライン海賊行為|en|Online piracy|label=海賊版}}や[[スキャンレーション]]を通じて海外でも作品が読まれ始めた{{sfn|Ishii|Kidd||Kolbeins|2014|p=42}}。2005年にフランスのH&O Editions社から出た ''Gunji'' が最初の公式翻訳となった。2009年にはパリで作品展が行われた<ref name="400 culs"/>。公式の英語版は、2012年にライアン・サンドと{{仮リンク|ミカエル・ドゥフォルジュ|en|Michael DeForge}}が発行したエロティックなアンソロジー ''Thickness'' に収録された短編 "Standing Ovation"{{翻訳|スタンディング・オベーション}} が最初だった<ref name="Hazlitt"/>。2013年に米国の出版社{{仮リンク|ピクチャーボックス|en|PictureBox}}から作品集 ''The Passion of Gengoroh Tagame'' が出た<ref name="Hazlitt"/>。ドイツのゲイ出版社 Bruno Gmünder Verlag も2014年から田亀作品の英訳を行っていた<ref name="Awl"/>。

2007年ごろ、ゲイ漫画の枠組みで可能な表現を追求した長篇『君よ知るや南の獄』および『外道の家』、ならびに[[ボーイズラブ]]系作品の集大成『ウィルトゥース』を相次いで完結させた。田亀によるとこれが作家として一つの区切りだった。そのとき一般青年誌からはじめてアプローチを受け、新しい分野への進出に意欲を持った{{sfn|田亀|2017|pp=17-20}}。編集部から依頼された自伝の執筆は作風にそぐわないため断り<ref name="Animeclick"/><ref name="HuffpoJP"/>、ゲイを題材とした異性愛者向けの作品を提案したが実現に至らなかった。2013年になって[[双葉社]]の編集者から再び一般向けの連載を持ちかけられた<ref name="Vice"/><ref name="Animeclick"/>。{{行内引用|性的ファンタジーを原動力にした作品とはちょっと異なる、現在の社会との接点を持たせた作品{{sfn|田亀|2017|pp=20-21}}}}に関心が移り始めていた田亀は、日本国内外で当時注目されていた結婚の平等([[同性結婚|同性婚]])の問題を取り上げ{{sfn|田亀|2017|pp=12-16}}、異性愛者の観点から[[日本におけるLGBTの権利|LGBTの権利]]を描く作品を提案した<ref name="Animeclick"/><ref name="Barnes"/>。『[[弟の夫]]』と題された作品は2014年から2017年にかけて[[青年漫画|青年誌]]『[[月刊アクション]]』に連載された<ref name="Vice"/>。同作は好評を博し、複数の賞を受けたほか、2018年に[[NHK]]によって実写ドラマが放映された<ref>{{cite web |last1=Ashcraft |first1=Bryan |title=Manga Confronting Homophobia In Japan Getting Live-Action TV Drama |url=https://kotaku.com/manga-confronting-homophobia-in-japan-getting-live-acti-1821008352 |website=Kotaku|access-date=2024-01-10|date=2017-12-05}}</ref>。

田亀は『弟の夫』以降もポルノグラフィックな作品を並行して描き続けており、全年齢向け作品とエロのバランスを取ることで「精神的な健康を保てる」と語っている<ref name="QUEERJAPAN"/>。一般向け長編の第2作『{{仮リンク|僕らの色彩|en|Our Colors}}』は2018年から2020年にかけて『月刊アクション』に掲載された<ref>{{cite web |last1=Pineda |first1=Antonio Rafael | title=Gengoroh Tagame's Bokura no Shikisai Manga Ends| url=https://www.animenewsnetwork.com/news/2020-05-25/gengoroh-tagame-bokura-no-shikisai-manga-ends/.159879 |website=Anime News Network |access-date=2024-01-10 |date=2020-05-25}}</ref>。

== 作風 ==
[[File:Gengoroh Tagame- Worlds of S&M.webm|thumb|upright=2|{{仮リンク|アン・イシイ|en|Anne Ishii}}とグラハム・コルベインズによる田亀のインタビュー。作品にSFやファンタジー、時代物の要素を取り入れることで{{行内引用|世界そのものをSMとして作ることができる}}と語っている。]]

自身の男性的で筋肉質の毛深いキャラクターを「[[熊系]]」と呼んでいる<ref name="Vice"/>。作品の多くはセックスに重点が置かれており{{sfn|Kolbeins|2013|p=271}}、ほとんどが[[ボンデージ|緊縛]]、[[ディシプリン (BDSM)|調教]]、[[レザーフェティシズム|レザー]]、[[SM (性風俗)|SM]]といった性的[[フェティシズム]]が含まれている{{sfn|Armour|2010|p=446}}。これらのテーマは[[サイエンス・フィクション|SF]]、[[ファンタジー]]、時代物のようなジャンルの[[シュルレアリスム|超現実的]]なシナリオによって増幅される{{sfn|Kolbeins|2013|p=270}}。田亀は自身の作品が少数の読者に向けたものだとして{{行内引用|現実世界の大多数は拷問セックスを楽しんだりしない。でも私はその人たちのために書いているわけじゃない}}と語っている{{sfn|Kolbeins|2013|p=270}}。ときには[[糞尿愛好症|糞尿愛好]]や生々しい暴力のように極度のフェティシズムを描くこともあるが、性的興奮を与えるためであって嫌悪感を抱かせるつもりではないとしている{{sfn|Lunsing|2006|loc=22}}。

田亀の作品は絵の美しさに加えて鋭い心理描写で注目された<ref name="10men"/>。男らしい男性を描くゲイポルノ漫画家はほかにも存在するが、日本のポップカルチャーを研究するウィリアム・アーマーは<ref>{{cite web|url=https://research.unsw.edu.au/people/dr-william-spencer-armour|accessdate=2024-01-13|title=Dr William Spencer Armour |publisher=University of New South Wales|date=2024-01-13}}</ref>、田亀の作品が{{行内引用|男性間の権力関係がエロティックになりうる}}ことに関心を向けている点で同種の作品から際立っていると述べた{{sfn|Armour|2010|p=446}}。アーマーは{{行内引用|田亀の作品はあるレベルでは露骨なポルノまんがだが、別のレベルでは、[[ホモソーシャル]]性が容易に同性愛に転換する感覚を {{interp|…}} 絵と言葉の中に深く織り込んでいる}}と書いている{{sfn|Armour|2010|p=443}}。田亀自身は{{行内引用|私が[[エロティカ]]で試みたのは、エロティカを芸術のレベルにまで高めることと、人間性を描き出すものとしての芸術の観点から考えることだ}}と述べている<ref name="Barnes"/>。

田亀の作品はゲイ向けエロティカとしては例外的に異性愛者や女性の読者が多い<ref name="ComicsReporter"/><ref name="Hairpin"/>。田亀は発表媒体の読者層によって作風を変えており、{{行内引用|ゲイ男性向けの雑誌に書くときは、主人公の行動と内面が主体になる。女性の読者もいると分かっているなら、{{interp|…}} 関係性とカップリングの方に関心が向けられる}}としている{{sfn|Ishii|Kidd||Kolbeins|2013|p=29}}。田亀の作品が多様な読者を引き付ける理由について、アン・イシイは{{行内引用|田亀の仕事はある部分で、もはやゲイについてではなく {{interp|…}} 欲望と、欲望の暗黒面について語っている。それは性のカテゴリには収まらないように思える}}と書いている<ref name="ComicsReporter"/>。ライターで[[ドラァグクイーン]]の[[エスムラルダ]]は田亀の論理性に注目し、{{行内引用|非常に官能的でありながら、冷静さも残している。絶妙なバランスで描かれている…}}のが多くの読者を惹きつける理由だと書いている{{sfn|田亀|2014|p=119}}。

田亀は日本と海外のアーティストから影響を受けたと述べており<ref name="400 culs"/>{{sfn|Armour|2010|p=446}}、[[ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ|カラヴァッジョ]]、[[ミケランジェロ]]<ref name="Animeclick"/>、[[マルキ・ド・サド]]<ref name="Hazlitt"/>、[[月岡芳年]]<ref name="400 culs"/>、{{仮リンク|三島剛|en|Go Mishima}}、{{仮リンク|船山三四|en|Sanshi Funayama}}、小田利美{{sfn|Kidd|2013|p=11}}、[[丸尾末広]]、[[花輪和一]]、[[平口広美]]<ref name="du9"/>、ビル・ワード<ref name="Vice"/>らの名を挙げている。子供のころ美術書で触れた{{仮リンク|ヘレニズム美術|en|Hellenistic art|label=ヘレニズム期}}から[[バロック]]までの[[ヌード|裸体美術]]からも大きな影響があった<ref name="Huffpo"/><ref name="Animeclick"/>。性的恥辱の描写には、裸体が尊ばれなかった日本の古典美術([[春画]]など)より、西洋{{仮リンク|キリスト教美術|en|Christian art}}に見られる裸体画(カラヴァッジョが描くキリストの磔刑など)からの影響が強いと述べている<ref name="Huffpo"/>。

== 主題と題材 ==
=== 超男性性 ===
田亀作品の多くは、発達した筋肉、濃い体毛、巨大なペニス{{sfn|Armour|2010|pp=446–447}}、大量の[[射精]]、[[マッチョ|マチズモ]]{{sfn|Armour|2010|p=447}}、過激で暴力的な性行為など、「{{仮リンク|超男性性|en|Hypermasculinity}}」と関係づけられる特徴を持つ男性を描いている{{sfn|Armour|2010|p=444}}{{sfn|White|2013|p=9}}。田亀自身は、周囲から男性的と見られている男性が実のところ{{行内引用|社会的な圧力に応えて}}{{行内引用|必要以上に男らしさを演じて}}おり、「社会規範上、男らしくないとされる行為を行うことで」その態度が崩れる様子に関心があると語っている<ref name="Lambda"/>。アーマーは超男性性をテーマとした田亀作品の例として、尊大で自己中心的な大学生がサディストの教授によって奴隷調教を受ける『PRIDE』や、[[戦後]]日本において売春婦の妻に養われていることを恥じている[[傷痍軍人]]が米兵によって男娼扱いされる『闇の中の軍鶏』を挙げている{{sfn|Armour|2010|p=446–448}}。

男らしい男性を描く作風は{{Efn2|英語圏で日本漫画のこのジャンルは「[[:en:Bara (genre)|bara]](薔薇)」と呼ばれるが、田亀自身は「薔薇」がゲイ男性を指す侮蔑語だったとして自作に使わないよう求めている{{sfn|Ishii|Kidd|Kolbeins|2014|p=40}}}}、[[トム・オブ・フィンランド]]のようなアーティストによる「マッチョな」ゲイアート運動にカテゴライズされる。この運動は1960年代前半に米国の[[モーターサイクル・ギャング|バイカー文化]]から生まれ、ゲイ男性が「男になりそこなった」「女性的なナルシスト」だというステレオタイプが克服される上で影響力が大きかった<ref name="Hazlitt"/>。田亀はトム・オブ・フィンランドを日本に紹介したこともあり、自身でも影響を受けている。ただし装丁家の{{仮リンク|チップ・キッド|en|Chip Kidd}}は田亀の作品を評して、トム・オブ・フィンランドの静的なイラストレーションとは対照的な生気と躍動感があるとしている<ref name="Hazlitt"/>{{sfn|Kidd|2013|p=11}}。

作家の{{仮リンク|エドマンド・ホワイト|en|Edmund White}}は、田亀が描く超男性の理想像が、日本の[[日本の近現代文学史#近代文学 (戦前の文学)|明治文学]]に見られる{{行内引用|武骨で、異性愛者として女性を喜ばせられるほど洗練されていないがために同性愛者であり、戦士であり、南方出身の田舎者であり、まともな社会には収まり切らない}}男性というキャラクター類型に近いと述べている{{sfn|White|2013|p=9}}。アーマーは田亀の作品が西洋のゲイコミックと比べて「弱弱しく男らしさを感じさせない」という[[アメリカ合衆国における東アジア人のステレオタイプ|東アジア人男性のステレオタイプ]]を破っている点で特徴的だとした。{{行内引用|田亀の男性の描き方は西洋のエロティックなゲイコミックにおける男性キャラクターの描写とあまり変わらないように見えるが {{interp|…}} 白人・西洋人としての観点からは、超男性的な日本人男性の描写は、多くの西洋ゲイ文化がアジア人男性に持っている、たくましいマッチョな白人男によって好きなようにファックされる細身でペニスが小さい女性的な弱者というステレオタイプを打破するものと見られる}}{{sfn|Armour|2010|pp=446–447}}

=== SMと性暴力 ===
SMと性暴力は田亀作品における性描写の多くに一貫して見られるテーマである{{sfn|Kidd|2013|p=9}}。ホワイトは{{行内引用|田亀源五郎の世界では自ら望んで挿入される男性は一人もいない}}と書いている{{sfn|White|2013|p=9}}。[[BDSM]]を中心的テーマとする作品には[[強姦|レイプ]]、[[獣姦]]、[[近親相姦]]、[[身体改造]]のような[[タブー]]な題材が取り入れられることが多い<ref name="Vice"/>。ただし、題材が過激であるにもかかわらず「[[エログロ]]」の文脈で論じられることはあまりない<ref name="Hazlitt"/>。田亀自身は「破滅の美」や「崩壊していく人物」を描く{{仮リンク|シェイクスピア悲劇|en|Shakespearean tragedy}}、{{仮リンク|ドイツのオペラ|en|Opera in German}}、[[昔話|日本民話]]からBDSM作品の着想を得ており、[[ゴア#一般名詞|ゴア]]や[[ホラー]]を描くのが本意ではないとしている<ref name="Hazlitt"/>。

BDSMを中心とした作品では、主人公がフェティッシュな性的関係を通じて自己を発見していく展開が多い{{sfn|Kolbeins|2013|p=271}}。社会的に優位な男性が性的被虐者として調教を受けたり<ref name="du9"/>、責任感や義務感を捨てて性に耽り始めるなど<ref name="400 culs"/>、男性的な登場人物が支配側から従属側に性的役割を替える作品が典型的である<ref name="Vice"/>。このテーマの作品には、[[性的奴隷|性奴隷]]とされた男性が自らそれを受け入れる「エンドレス・ゲーム」や<ref name="Lambda"/>、日本人の空手チャンピオンが米国の地下格闘競技に参加するが敗北するたびに[[男性への性暴力|凌辱]]を受ける「闘技場~アリーナ」がある{{sfn|White|2013|p=9}}{{sfn|Ishii|Kidd||Kolbeins|2013|p=111}}。コルベインはBDSMを自己発見の過程として描く田亀作品は{{行内引用|共感を呼ぶ人間ドラマの枠組み}}に収まると述べている{{sfn|Kolbeins|2013|p=271}}。アーマーは『PRIDE』がSM描写を通じて性的少数者に社会的制約から解放されるよう促す内容だと書いている{{sfn|Armour|2022|loc="Introduction"}}。

=== 伝統性 ===
歴史上の日本を舞台としたり、プロットや題材に[[日本の美学|日本的な美学]]が色濃く出ている作品が多い<ref name="Lambda"/>。日本において[[日本における同性愛|同性愛の伝統]]は古代から長く続いていたが、[[明治]]期 (1868-1912) に西洋化の過程で同性愛への寛容は失われ、それまで受容されていた同性愛表現が病気や犯罪と見なされるようになった<ref name="Hazlitt"/>。この伝統性と現代性の対立は、田亀のエロティックな漫画において、日本社会の[[家父長制]]的な性格や<ref name="Lambda"/>、不平等な封建制の象徴としての[[武士]]のような<ref name="400 culs"/>階層性の描写を通じて現れている。田亀は{{行内引用|ヒエラルキーが破綻する様子に引き付けられる}}と述べており、日本の伝統的ヒエラルキーについて以下のように語っている<ref name="Lambda"/>。

{{blockquote |1= ヒエラルキーからの転落は究極のSM行為だ。私は日本的な美と伝統という概念が魅力的だとは思わないが、フィクション要素としてなら、それらの信念が崩れ去るときに並々ならないエロスを感じる<ref name="Lambda"/>。}}

初期の長篇連載『男女郎苦界草紙~銀の華』は[[江戸時代]]を舞台とする時代物で、裕福な商人だった男が借金を負って性奴隷にされる物語である<ref name="Vice"/>。主人公は男性客から虐待と辱めを受けるにつれて自身の被虐性に気づいていく{{sfn|Lunsing|2006|loc=24}}。コルベインは同作が{{行内引用|日本社会の中で西洋の宗教的な罪や[[ソドミー]]といった概念に縛られずに男性同性愛が盛んに行われていた時代}}を描いているとした{{sfn|Kolbeins|2013|p=272}}。西洋から導入された性のタブーが届いていない前近代的な村落を取り上げた「田舎医者」では{{sfn|Ishii|Kidd||Kolbeins|2013|p=193}}、{{行内引用|昔の人は保守的で、現代人は解放されているという考えをひっくり返してみたかった}}と述べている<ref name="Huffpo"/>。

田亀の全年齢向け作品にも、現代日本社会の同性愛に対する姿勢という形で伝統のテーマが現れている<ref name="Vice"/>。『弟の夫』の主人公の弥一は死んだ弟の結婚相手から訪問を受け、自身がゲイに持っていた偏見と向き合うことを強いられる。弥一が最初に見せる[[ホモフォビア]]は、日本で大勢を占めている[[日本におけるLGBTの権利|LGBTの権利]]への保守的な意見を反映している<ref name="Awl"/><ref name="NPR"/>。田亀によると、寛容と受容へと向かう弥一の変化は、主人公が現実を受け入れるか、それとも自身の欲求と幸福を否定するかの選択に迫られるBDSM作品とテーマ的につながっている<ref name="Animeclick"/>。

=== ゲイ・アイデンティティとセクシュアリティ ===
クィア・スタディーズ研究者[[森山至貴]]森山によると、同性愛者が異性愛者に「認めてもらう」ためにゲイの性文化を押し隠す風潮がある中で、田亀の{{行内引用|エロティシズムに対する肯定と、ゲイのアイデンティティに対する肯定}}を堂々と結びつける姿勢は高く評価される<ref name=moriyama>{{cite web|url=https://wezz-y.com/archives/50721|accessdate=2024-01-15|title=ゲイが「エロ」にこだわることは、いつだって大事 田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(Pヴァイン)|publisher= wezzy|date=2017-11-15}}</ref>。田亀はゲイであることが{{行内引用|アイデンティティの核}}であり、創作や作品鑑賞においてセクシュアルな感覚を切り捨てることはできないと語っている<ref name=fushimi20072/>。ゲイ・エロティック・アートについては{{行内引用|欲望を突き詰めれば突き詰めるほど濃く、そしてユニークになっていく {{interp|…}} 邪念の入りこむ余地のない純粋な「アート」}}としている<ref name=fishimi20071>{{cite interview|url=https://www.pot.co.jp/fushimi/%E3%82%AF%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%96%EF%BC%88qjw%EF%BC%89/qjr%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC-%E7%94%B0%E4%BA%80%E6%BA%90%E4%BA%94%E9%83%8E%E3%81%95%E3%82%93%E3%80%80%E3%81%9D%E3%81%AE%EF%BC%91.html|accessdate=2024-01-22|title=QJrインタビュー 田亀源五郎さん その1|publisher= ポット出版|subject=田亀源五郎|date=2007-10-01|interviewer=伏見憲明}}</ref>。

[[ゲイ解放運動|ゲイリブ]]に関心を持っていたが、社会運動の方法論に相いれないものを感じ、ポルノグラフィを中心とする作品の発表を通じてゲイコミュニティや一般社会に貢献するという考えに至っている<ref name=fushimi20072/>。

== 受容と影響 ==
ゲイ漫画家のなかでも作品数と影響力では随一とされている<ref name="400 culs"/><ref name="Awl"/>{{sfn|Kolbeins|2013|p=271}}{{sfn|Lunsing|2006|loc=21}}。ゲイ漫画の英訳アンソロジー [[:en:Massive: Gay Erotic Manga and the Men Who Make It|''Massive: Gay Erotic Manga and the Men Who Make It'']] は田亀を{{行内引用|間違いなくゲイ漫画の発展に最大の功績がある}}と紹介しており{{sfn|Ishii|Kidd||Kolbeins|2014|p=39}}、編者の一人チップ・キッドは田亀の仕事を[[マルキ・ド・サド]]、[[ピエル・パオロ・パゾリーニ]]、[[三島由紀夫]]と同列に並べている{{sfn|Kidd|2013|p=11}}。ウィリアム・アーマーは田亀の{{行内引用|綿密な作風と物語の奥行}}がエロスのみならず{{行内引用|美的・認識論的な}}側面においても読者を揺さぶる力を持っており、[[コミックス・スタディーズ|アカデミックな研究]]が待たれると書いている{{sfn|Armour|2022|loc="Introduction"}}。

森山至貴は田亀を{{行内引用|日本のゲイ・カルチャーにとっての最重要人物の一人}}としている<ref name=moriyama/>。ゲイライターの[[サムソン高橋]]は田亀を評して、ゲイ漫画というジャンルが確立していないころから最前線で独自のテーマを追求してきた「巨匠」と呼び、併せて近年の『[[弟の夫]]』で[[LGBT]]の[[ノーマライゼーション]]に取り組んでいることを賞賛した<ref>{{cite web|url=https://life.letibee.com/samson-20160830/|accessdate=2024-01-15|title=サムソン高橋 毒書架 002~ゲイ漫画の巨匠 田亀源五郎「弟の夫」を読む|publisher=Letibee Life|date=2016-08-30}}</ref>。漫画評論家[[大西祥平 (ライター)|大西祥平]]は、学術的なゲイアート史の編纂などジャンルの地位向上のために活動する田亀を[[手塚治虫]]になぞらえている{{sfn|田亀|2023|loc=p. 273, 「解説『外道の家』」}}。

人類学者ウィム・ルンシングは、田亀が先鞭をつけた「[[熊系]]」の価値観が<ref name="du9"/>、東京の[[ゲイ・タウン]]である[[新宿二丁目]]に流行の変化を生んだとしている。『G-men』の創刊以降、ゲイ男性に人気があった細くてスマートなひげのないタイプに代わって{{行内引用|不精ひげ、あごひげ、口ひげがブームとなった。極度の短髪がもっともよく見られる髪型になり、筋肉ががっちりした体形(やがてぽっちゃり型や肥満体に発展)がファッショナブル}}と見なされはじめた{{sfn|Lunsing|2006|loc=21}}。田亀は『G-men』の起ち上げにより次世代のゲイ漫画家を養成する役割も果たしたとされている。同誌でキャリアを始めた漫画家には[[児雷也 (漫画家)|児雷也]]などがいる{{sfn|Ishii|Kidd||Kolbeins|2014|p=39}}。また過去のゲイ・アートを収集した『日本のゲイ・エロティック・アート』の出版は、日本のエロティックアート史に「ゲイ・アートの正典」を打ち立てたと評価されている<ref name="Hairpin"/>。

田亀の批判者にはゲイ・エロティック・アーティストの広瀬川進がいる。広瀬川は田亀のイラストレーションを{{行内引用|SM劇場に過ぎない}}と評し、漫画作品を{{行内引用|SM趣味の垂れ流し}}と呼んだ{{sfn|Lunsing|2006|loc=23}}。ルンシングも{{行内引用|田亀の作品はそれほど複雑巧緻というわけではなく、{{interp|広瀬川には}} 反駁しがたい}}としている{{sfn|Lunsing|2006|loc=23}}。

『弟の夫』を中心に複数の受賞がある。同作は2015年に第19回[[文化庁メディア芸術祭マンガ部門|文化庁メディア芸術祭]]優秀賞を<ref>{{cite web |last1=Hodgkins |first1=Crystalyn |title=Akiko Higashimura's Kakukaku Shikajika Manga Wins Media Arts Award |url=https://www.animenewsnetwork.com/news/2015-11-27/akiko-higashimura-kakukaku-shikajika-manga-wins-media-arts-award/.95848 |website=Anime News Network |access-date=2024-01-12|date=2015-11-27}}</ref>、2018年に[[日本漫画家協会賞]]優秀賞を受賞した<ref>{{cite web |last1=Sherman |first1=Jennifer |title=Daijiro Morohoshi's Manga Book Wins Japan Cartoonists Association Award |url=https://www.animenewsnetwork.com/news/2018-05-07/daijiro-morohoshi-manga-book-wins-japan-cartoonists-association-award/.131270 |website=Anime News Network |access-date=2024-01-12 |date=2018-05-07}}</ref>。国際的にも2018年に[[アイズナー賞]]をアジア作品の米国版部門で<ref>{{cite web |last1=Hodgkins |first1=Crystalyn |title=Gengoroh Tagame's My Brother's Husband Manga Wins Eisner Award |url=https://www.animenewsnetwork.com/news/2018-07-21/gengoroh-tagame-my-brother-husband-manga-wins-eisner-award/.134539 |website=Anime News Network |access-date=2024-01-12 |date=2018-07-21}}</ref>、ドイツのルドルフ・ダークス賞のアジア・シナリオ部門ベストアーティスト賞を受賞した<ref>{{cite web|url=https://music-book.jp/comic/news/news/365942|accessdate=2024-01-15|title=『弟の夫』の田亀源五郎がドイツの世界的マンガ賞「ルドルフ・ダークス賞」ベストアーティスト賞を受賞|publisher=music.jpニュース|date=2019-12-22}}</ref>。2019年に[[大英博物館]]で行われた大規模な日本漫画の展示 The Citi exhibition Manga でも同作が大きく取り上げられた<ref>{{cite web|url=https://mediag.bunka.go.jp/article/article-15688/|accessdate=2024-01-13|title=大英博物館でのマンガ展「The Citi exhibition Manga」レポート|publisher=メディア芸術カレントコンテンツ|date=2019-11-29}}</ref>。2022年には[[成人向け漫画|成人向け作品]]『外道の家』がフランスの文学賞{{仮リンク|サド賞|fr|Prix Sade}}[[バンド・デシネ]]/漫画部門を受賞した<ref>{{cite web|和書|url=https://www.tagame.org/jblog/?p=6662|accessdate=2024-01-16|title=『外道の家』フランス語版がサド賞を受賞|publisher= 田亀源五郎's Blog|date=2022-10-21}}</ref>。これらの国以外ではイタリア、スペイン、韓国、台湾、タイ、ブラジル、ベトナム、メキシコ、ポーランドで翻訳版が出版されている{{sfn|田亀|2023|pp=274-275}}。


== 作品リスト ==
== 作品リスト ==
=== 漫画作品 ===
以下は田亀自身が公開している雑誌掲載作品(連載・[[読み切り]])のリストである<ref>{{cite web |title=Complete List of Comics Works of Gengoroh Tagame |url=http://tagame.org/aboutme/list-e.html |website=Gay Erotic Art of Gengoroh Tagame |access-date=2024-01-12}}</ref><ref>{{cite web |title=田亀源五郎全マンガ作品リスト |url=http://tagame.org/aboutme/list.html |website=Gay Erotic Art of Gengoroh Tagame |access-date=2024-01-12}}</ref>。

{| class="wikitable plainrowheaders sortable"
|-
!scope="col"|年
!scope="col"|題名
!scope="col"|掲載誌
!scope="col"|単行本
!scope="col"|備考
|-
! rowspan="2" scope="row" |1987
|柔術教師
|[[さぶ (雑誌)|さぶ]] (1987/8)
|
|
|-
|淫虐浴場
|さぶ増刊(初秋号)
|
|
|-
! rowspan="3" scope="row" |1988
|調教師
|さぶ増刊(初冬号)
|
|
|-
|ラガー失墜
|さぶ (1988/2)
|
|
|-
|深夜営業
|さぶ増刊(初春号)
|
|
|-
! scope="row" |1989
|BOXER~栄光の代償
|さぶ増刊(初春号)
|
|
|-
! rowspan="4" scope="row" |1990
|敗将賦
|さぶ (1990/1)
|
|
|-
|軋む男
|さぶ (1990/2, 4-8)
|柔術教師
|
|-
|儀式
|さぶ (1990/3)
|
|
|-
|調教師~オーダーメイドされた男
|さぶ (1990/11)
|
|
|-
! rowspan="6" scope="row" |1991
|芦立頌
|さぶ (1991/2)
|
|
|-
|SM同好会~山荘合宿
|さぶ
|獲物
|
|-
|陰の軛
|さぶ (1991/3, 4)
|獲物
|
|-
|''THE DOKATA''
|さぶ (1991/7)
|柔術教師
|
|-
|白峯異聞
|さぶ
|獲物
|
|-
|プルガトリオ
|さぶ (1991/10)
|柔術教師
|
|-
! rowspan="4" scope="row" |1992
|一つ家異聞
|さぶ (1992/1, 2)
|柔術教師
|
|-
|嬲り者
|さぶ (1992/4-7, 12; 1993/3, 5-8, 10-12)
|嬲り者
|
|-
|俺の先生
|さぶ (1992/10, 11)
|柔術教師
|
|-
|衣川異聞
|さぶ (1992/12)
|禁断
|
|-
! rowspan="3" scope="row" |1994
|男女郎苦界草紙~銀の華
|[[Badi]] (1994/8–1998/2)
|男女郎苦界草紙~銀の華
|
|-
|谺
|さぶ (1994/4-5)
|獲物
|
|-
|柔術教師 リミックス版
|
|柔術教師
|
|-
! rowspan="2" scope="row" |1995
|獲物
|[[G-men (雑誌)|G-men]] (#1-4)
|獲物
|
|-
|闇の中の軍鶏
|G-men (#5-8)
|PRIDE第3巻
|
|-
! rowspan="2" scope="row" |1996
|沈黙の渚
|G-men (#9-11)
|獲物
|
|-
|PRIDE
|G-men (#12-47)
|PRIDE全3巻
|
|-
!scope="row"|1998
|山荘合宿後日譚
|
|獲物
|
|-
! rowspan="2" scope="row" |1999
|43階の情事
|Badi (1999/6, 8, 10)
|田舎医者/ポチ
|
|-
|猛き血潮~大日本帝國陸軍中尉、中里和馬の場合
|SM-Z(プレビュー号)
|禁断
|
|-
! rowspan="6" scope="row" |2000
|外道の家
|Badi (2000/12–2007/12)
|外道の家
|
|-
|猛き血潮~釧路大谷組小頭・坂田彦造の場合
|SM-Z (#1)
|禁断
|
|-
|瓜盗人
|SM-Z (#2)
|禁断
|
|-
|闘技場~アリーナ
|G-men (#51-55)
|禁断
|
|-
|ZENITH
|SM-Z (#3)
|禁断
|
|-
|「マゾ」
|G-men (#57, 58)
|髭と肉体
|
|-
! rowspan="2" scope="row" |2001
|NIGHTMARE
|SM-Z (#4)
|禁断
|
|-
|君よ知るや南の獄
|G-men (#63-123)
|君よ知るや南の獄
|
|-
! rowspan="2" scope="row" |2002
|KRANKE
|SM-Z (#5)
|禁断
|
|-
|軍次
|筋肉男 (#3)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
! rowspan="7" scope="row" |2003
|TRAP
|SM-Z (#6)
|PRIDE第1巻
|
|-
|傷痕(軍次2)
|筋肉男 (#4)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
|驟雨(軍次3)
|筋肉男 (#5)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
|火坑 1(軍次4)
|筋肉男 (#6)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
|メス豚の天国
|SoMe Bizzarre
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
|TRAP 2
|SM-Z (#7)
|PRIDE 第2巻
|
|-
|火坑 2(軍次5)
|筋肉男 (#7)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
! rowspan="7" scope="row" |2004
|天守に棲む鬼
|筋肉男 (#8)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
|Hairy Oracle
|筋肉男 (#9)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
|非國民
|SM-Z (#8)
|PRIDE第3巻
|
|-
|嗜虐の花園
|麗人ドラマチック (#1)
|
|
|-
|ずっと好きだと言えなくて
|筋肉男 (#10)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
|だるま憲兵
|SUPER SM-X (#1-2)
|禁断
|
|-
|大江山綺譚
|筋肉男 (#11)
|天守に棲む鬼/軍次
|
|-
! rowspan="2" scope="row" |2005
|雄心~ウィルトゥース
|激男 (#1, 3-5)
|ウィルトゥース
|
|-
|誰にも言えない
|SUPER SM-Z (#3)
|ウィルトゥース
|
|-
! rowspan="7" scope="row" |2007
|透き通るような黄金の瞳
|[[まんがグリム童話|ほんとうに怖い童話]] (2007/3)
|
|一般向け
|-
|雪原渺々
|肉体派 (#3)
|ウィルトゥース
|
|-
|神経性胃炎
|肉体派 (#6)
|ウィルトゥース
|
|-
|ぴこのなかみ
|[[三和出版|お尻倶楽部]] (2007/9)
|
|
|-
|落日~西太后と東太后
|ほんとうに怖い童話 (2007/11)
|
|一般向け
|-
|長夜寞々
|肉体派 (#7)
|髭と肉体
|
|-
|哀酷義勇軍
|Badi (2008/1–2)
|童地獄・父子地獄
|
|-
! rowspan="9" scope="row" |2008
|稚児
|肉体派 (#8)
|髭と肉体
|
|-
|傀儡廻
|Badi (2008/3)
|田舎医者/ポチ
|
|-
|ジゴロ
|Badi (2008/4)
|田舎医者/ポチ
|
|-
|告白
|Badi (2008/6, 7)
|童地獄・父子地獄
|
|-
|晒し台
|肉体派 (#9)
|髭と肉体
|
|-
|童地獄
|肉体派 (#8-10)
|童地獄・父子地獄
|
|-
|汗馬疾々
|肉体派 (#10)
|髭と肉体
|
|-
|ポチ
|Badi (2008/11, 12)
|田舎医者/ポチ
|
|-
|DISSOLVE~ディゾルブ~
|肉体派 (#11)
|髭と肉体
|
|-
! rowspan="9" scope="row" |2009
|父子地獄
|Badi (2009/1-6)
|童地獄・父子地獄
|
|-
|雨降りお月さん
|肉体派 (#12)
|髭と肉体
|
|-
|倅解体
|まんが このミステリーが面白い (2009/7)
|
|一般向け
|-
|''ECLOSION''
|肉体派 (#13)
|髭と肉体
|
|-
|''Der Fliegende Hollander''
|Badi (2009/8)
|童地獄・父子地獄
|
|-
|人畜無骸
|Badi (2009/9-11)
|肉人参/人畜無骸
|
|-
|おでんぐつぐつ
|肉体派 (#14)
|筋肉奇譚
|
|-
|''Lover Boy''
|Badi (2009/12–2010/1)
|田舎医者/ポチ
|
|-
|鬼祓え
|肉体派 (#15)
|筋肉奇譚
|
|-
! rowspan="8" scope="row" |2010
|スタンディング・オベーション
|Badi (2010/3)
|田舎医者/ポチ
|
|-
|恋とは何でしょう
|
|『筒井漫画瀆本ふたたび』
|原作: [[筒井康隆]]
|-
|転職
|肉体派 (#16)
|筋肉奇譚
|
|-
|田舎医者
|Badi (2010/4, 5, 7)
|田舎医者/ポチ
|
|-
|社畜哀歌
|Badi (2010/8)
|筋肉奇譚
|
|-
|長持の中
|Badi (2010/9–2011/2)
|冬の番屋/長持の中
|
|-
|クレタの牝牛
|肉体派 (#17)
|筋肉奇譚
|
|-
|MISSING ~ミッシング~
|肉体派 (#18)
|筋肉奇譚
|
|-
! rowspan="3" scope="row" |2011
|冬の番家
|Badi (2011/3-9)
|冬の番屋/長持の中
|
|-
|ACTINIA
|Badi (2011/10-12)
|冬の番屋/長持の中
|
|-
|モンスター・ハント・ショー
|肉体派ガチ! (#1)
|筋肉奇譚
|
|-
! rowspan="3" scope="row" |2012
|エンドレス・ゲーム
|Badi (2012/2–2013/2)
|エンドレス・ゲーム
|
|-
|END LINE
|肉体派ガチ! (#2)
|筋肉奇譚
|
|-
|お気に入り☆萌えブーム
|花恋 (2012/9)
|
|エッセイコミック
|-
! rowspan="3" scope="row" |2013
|転落の契約
|Badi (2013/4-7)
|エンドレス・ゲーム
|
|-
|不福耳
|ほんとうに怖い童話 (2013/9)
|
|原作: [[平山夢明]]
|-
|奴隷調教合宿
|Badi (2013/9-12; 2014/2-3, 5-7, 9-11; 2015/1-2)
|奴隷調教合宿
|
|-
! scope="row" |2014
|[[弟の夫]]
|[[月刊アクション]] (2014/11-12; 2015/1-5, 7-12; 2016/1, 4-10, 12; 2017/1, 3-7)
|弟の夫 全4巻
|一般向け
|-
! rowspan="2" scope="row" |2015
|金曜の夜は四つん這いで
|Badi (2015/6-7, 9)
|奴隷調教合宿
|
|-
|プラネット・ブロブディンナグ
|Badi (2015/11-12; 2016/2, 4, 6, 8, 10, 12)
|肉人参/人畜無骸
|
|-
! scope="row" |2016
|呪縛の性奴
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|[[同人誌]]
|-
! rowspan="3" scope="row" |2017
|肉人参
|Badi (2017/4, 6)
|肉人参/人畜無骸
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|[[漫画アクション]] (2017/5/2)
|ありがとう、うちを見つけてくれて 「この世界の片隅に」公式ファンブック
|エッセイコミック
|-
|じっちゃんの肉人参
|Badi (2017/9, 11)
|人参/人畜無骸
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|-
! rowspan="5" scope="row" |2018
|日輪の王
|Badi (2018/1, 4, 6)
|
|{{sdash}}
|-
|[[僕らの色彩]]
|月刊アクション (2018/5-2020/7)
|僕らの色彩 全3巻
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|-
|Bitch of the Jungle
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|同人作品
|-
|俺の夏休み
|Badi (2018/8)
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|-
|親友の親父に雌にされて
|Badi (2018/10, 12; 2019/2, 3)
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! rowspan="3" scope="row" |2019
|呪縛の性奴:呪的口肛調教録
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|同人誌
|-
|新・刑事もどき ゲイボーイ
|テヅコミ (#9, 10)
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|[[手塚治虫]]トリビュート作品<ref>{{cite web|url=https://news.nicovideo.jp/watch/nw5421806|accessdate=2024-01-15|title=テヅコミに田亀源五郎が描く「新・刑事もどき」、表紙は「ぬ~べ~」の岡野剛|publisher=ニコニコニュース|date=2019-06-05}}</ref>
|-
|飯縄権現顕現録
|Nippon Danji (#7)
|
|<ref>{{cite web|url=https://nippondanji.net/pages/nippondanji-magazine-no-7|accessdate=2024-01-11|title=NIPPONDANJI Magazine No.7 |publisher= NIPPONDANJI SHOP|date=2024-01-11}}</ref>
|-
! rowspan="3" scope="row" |2020
|密林勇者奴隷化計画 Bitch of the Jungle
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|同人誌
|-
|ベビードール 親友の親父に雌にされて それから
|[[Pixiv|PixivFANBOX]]
|
|同人作品
|-
|BSB/フットボール・コーチ
|PixivFANBOX
|
|同人作品
|-
! rowspan="4" scope="row" |2021
|コックサッカー 親友の親父に雌にされて3
|PixivFANBOX
|
|同人作品
|-
|軍曹
|PixivFANBOX
|
|同人作品
|-
|ウィークエンド 親友の親父に雌にされて(番外編)
|PixivFANBOX
|
|同人作品
|-
|BSB:警官〜クリス・コリンズの場合
|PixivFANBOX
|
|同人作品
|-
! rowspan="2" scope="row" |2022
|魚と水
|[[webアクション]]
|魚と水
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|-
|龍
|PixivFANBOX
|
|同人作品
|-
|}
=== 単行本(自費出版扱) ===
=== 単行本(自費出版扱) ===
* [[嬲り者]](発行所/Bプロダクト [[1994年]])
* [[嬲り者]](発行所/Bプロダクト [[1994年]])
75行目: 788行目:
* 魚と水(双葉社 2023年5月18日 ISBN 978-4575858433)
* 魚と水(双葉社 2023年5月18日 ISBN 978-4575858433)


===単行本(非漫画)===
=== 単行本(非漫画)===
* ゲイ・カルチャーの未来へ(Pヴァイン 2017年10月31日 ISBN 978-4-907276-86-7)
* ゲイ・カルチャーの未来へ(Pヴァイン 2017年10月31日 ISBN 978-4-907276-86-7)

=== 連載 ===
* [[弟の夫]]([[月刊アクション]]、[[2014年]]11月号 - [[2017年]]7月号、全4巻) ※一般誌デビュー作
* 僕らの色彩(月刊アクション、2018年5月号 - 2020年7月号、全3巻)
* 魚と水(webアクション、2022年10月14日 - 2023年4月14日、全1巻)
** 2022年5月27日に読み切り作品を掲載

=== 日本国外発売 ===
* [[Gunji]]([[H&O Editions]]、[[2005年]][[8月]] ISBN 2-84547-113-0)
* [[Arena (漫画)|Arena]](H&O Editions、[[2006年]][[6月]] ISBN 2-84547-137-8)
* [[Goku]](H&O Editions [[2009年]][[1月]]、ISBN 978-2-84547-147-4)
* [[The Passion of Gengoroh Tagame: Master of Gay Erotic Manga]]([[PictureBox]]、[[2013年]][[5月]] ISBN 978-0984589241)
* [[弟の夫|My Brother's Husband]](Pantheon、2017年5月2日 ISBN 978-1101871515) - [[アイズナー賞|The Will Eisner Comic Industry Award]]「最優秀アジア作品賞(Best U.S. Edition of International Material - Asia)」最優秀賞受賞作品

=== 日本国外発売の画集 ===
* [[The Art of Gengoroh Tagam]]((H&O Editions [[2007年]] ISBN 978-2-84547-128-3)


=== 編著 ===
=== 編著 ===
* 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.1 ゲイ雑誌創生期の作家たち(ポット出版 [[2003年]][[12月9日]] ISBN 978-4-939015-58-8)
* 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.1 ゲイ雑誌創生期の作家たち(ポット出版 2003年12月9日 ISBN 978-4-939015-58-8)
* 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.2 ゲイのファンタジーの時代的変遷(ポット出版 [[2006年]][[8月21日]] ISBN 978-4-939015-92-2)
* 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.2 ゲイのファンタジーの時代的変遷(ポット出版 2006年8月21日 ISBN 978-4-939015-92-2)
* 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.3 ゲイ雑誌の発展と多様化する作家たち(ポット出版 2018年12月12日 ISBN 978-4-7808-0233-7)
* 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.3 ゲイ雑誌の発展と多様化する作家たち(ポット出版 2018年12月12日 ISBN 978-4-7808-0233-7)


=== 同人誌 ===
=== 同人誌 ===
106行目: 803行目:
* 社長と部下(コミックマーケット96 2019年8月)※合同誌
* 社長と部下(コミックマーケット96 2019年8月)※合同誌
* 密林勇者奴隷化計画 Bitch of the Jungle(野郎フェス2020-ONLINE- 2020年5月)
* 密林勇者奴隷化計画 Bitch of the Jungle(野郎フェス2020-ONLINE- 2020年5月)

=== 英語版書籍 ===
*'''''The Passion of Gengoroh Tagame''''' (2013, Picturebox, {{ISBN|978-0984589241}})
:短編集。「闘技場~アリーナ」などを収録。
*'''''Massive: Gay Erotic Manga and the Men Who Make It''''' (2014, [[ファンタグラフィックス|Fantagraphics Books]], {{ISBN|978-1606997857}})
:日本人作家によるゲイ漫画のアンソロジー。『君よ知るや南の獄』(2001) の抜粋が収録されている。
*'''''Endless Game''''' (2013, Bruno Gmünder, {{ISBN|978-3867876414}})('''エンドレス・ゲーム''')
*'''''Gunji''''' (2014, Bruno Gmünder, {{ISBN|978-3867876759}})
:短編集。「軍次」シリーズほかを収録。
*'''''Fisherman’s Lodge''''' (2014, Bruno Gmünder, {{ISBN|978-3867877954}})
:短編集。「冬の番屋」などを収録。
*'''''The Contracts of the Fall''''' (2015, Bruno Gmünder, {{ISBN|978-3959850100}})
:短編集。「ポチ」などを収録。
*'''''Khoz, The Spellbound Slave''''' (2018, Bear’s Cave)('''呪縛の性奴''')
*'''''My Brother's Husband''''' (Pantheon)('''弟の夫''')
**vol. 1 (2017, {{ISBN|978-1101871515}})
**vol. 2 (2018, {{ISBN|978-1101871539}})
**omnibus (2020, {{ISBN|978-0375715181}})
*'''''Our Colors''''' (2022, Pantheon, {{ISBN|978-1524748562}})('''僕らの色彩''')
*'''''The Passion of Gengoroh Tagame, Vol. 2''''' (2022, Fantagraphics, {{ISBN|978-1683965282}})
:短編集。「奴隷調教合宿」など収録。


== 映像化作品 ==
== 映像化作品 ==
; テレビドラマ
; テレビドラマ
:* [[弟の夫#テレビドラマ|弟の夫]](2018年3月、[[NHK BSプレミアム]])
:* [[弟の夫#テレビドラマ|弟の夫]](2018年3月、[[NHK BSプレミアム]])

== 脚注 ==
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
{{Notelist2|2}}

=== 出典 ===
{{reflist|20em |refs=
<ref name="10men">{{cite journal |last1=Wise |first1=Louis |title=Life Drawing with Erotic Manga Artist Gengorah Tagame |journal=Ten Men |date=2019-12-07|accessdate=2024-01-10 |issue=10 |url=https://www.10magazine.com/arts/gengorah-tagame-manga-ten-men-louis-wise/}}</ref>

<ref name="400 culs">{{cite news|url=https://www.liberation.fr/debats/2009/04/29/le-sm-est-il-transgressif_1812118/|title=Les 400 culs: Le SM est-il transgressif?|last=Giard|first=Agnes|date=April 29, 2009|publisher=Libération|language=French|access-date=August 5, 2009}}</ref>

<ref name="Animeclick">{{cite web |title=Abbiamo incontrato alla manifestazione bolognese il maestro dei manga LGBT |url=https://www.animeclick.it/news/74591-nippop-2018-intervista-e-talk-show-con-gengoroh-tagame |website=AnimeClick |access-date=February 3, 2021 |language=Italian |date=June 22, 2018}}</ref>

<ref name="Awl">{{cite web |last1=Washington |first1=Bryan |title=The Radical Grace of Gengoroh Tagame |url=https://www.theawl.com/2017/07/the-radical-grace-of-gengoroh-tagame/ |website=The Awl |access-date=2024-01-10|date=2017-07-12}}</ref>

<ref name="Barnes">{{cite web |last1=Alverson |first1=Brigid |title=Openly Gay Manga Creator Gengoroh Tagame Talks Breaking Barriers with My Brother's Husband |url=https://www.barnesandnoble.com/blog/sci-fi-fantasy/openly-gay-manga-creator-gengoroh-tagame-talks-breaking-barriers-brothers-husband/ |website=Barnes & Noble |accessdate=2024-01-10|date=2017-06-29|archivedate=2021-12-07|archiveurl= https://web.archive.org/web/20211207131549/https://www.barnesandnoble.com/blog/sci-fi-fantasy/openly-gay-manga-creator-gengoroh-tagame-talks-breaking-barriers-brothers-husband/}}</ref>

<ref name="ComicsReporter">{{cite web |last1=Spurgeon |first1=Tom |title=CR Sunday Interview: Anne Ishii |url=https://www.comicsreporter.com/index.php/index/cr_sunday_interview_anne_ishii/ |website=The Comics Reporter |access-date=2024-01-12|date=2013-05-04}}</ref>

<ref name="Dicomanga">{{cite book | first= Christian| last=Marmonnier |page=524| editor=Nicolas Finet | title=Dicomanga: le dictionnaire encyclopédique de la bande dessinée japonaise | publisher=Fleurus | language=French | location=Paris | isbn=978-2-215-07931-6 | year=2008}}</ref>

<ref name="du9">{{cite web |last1=Guilbert |first1=Xavier |title=Tagame Gengoroh |url=https://www.du9.org/en/entretien/tagame-gengoroh-2/ |website=du9 |access-date=2024-01-10|date=2013-05-09}}</ref>

<ref name="Hairpin">{{cite web |last1=Randle |first1=Chris |title=Size Matters: An Interview With Anne Ishii |url=https://www.thehairpin.com/2014/12/size-matters-an-interview-with-anne-ishii/ |website=The Hairpin |access-date=2024-01-10|date=2014-12-31}}</ref>

<ref name="Hazlitt">{{cite web |last1=Randle |first1=Chris |title=The Erotic Antagonism of Gengoroh Tagame |url=https://hazlitt.net/longreads/erotic-antagonism-gengoroh-tagame |website=Hazlitt |access-date=2024-01-10 |date=2013-05-31|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180118204328/https://hazlitt.net/longreads/erotic-antagonism-gengoroh-tagame|archivedate=2018-01-18}}<!-- internet archive 版を参照のこと。2024年1月現在、オリジナルのurlは内容が変更されている--></ref>

<ref name="Huffpo">{{cite web |last1=Freeman |first1=Max |title=Gengoroh Tagame, the Master of Gay Erotic Manga |url=https://www.huffpost.com/entry/gengoroh-tagame-gay-erotic-manga_b_3332811? |website=HuffPost |access-date=2024-01-10|date=2013-05-28}}</ref>

<ref name="HuffpoJP">{{cite web |last1=Matsuoka |first1=Munetsugu |title=「マイク役を探すのは絶対無理だろうと思っていた」田亀源五郎さんとNHKプロデューサーが語る「弟の夫」ドラマ化の裏話 |url=https://www.huffingtonpost.jp/soushi-matsuoka/my-brothers-husband_a_23370493/ |website=HuffPost Japan |access-date=2024-01-10 |date=2018-02-26}}</ref>

<ref name="JapaneseGayArt">{{cite web |last1=Takagi |first1=Masahiko |title=Interview with Gengoroh Tagame |url=http://www.japanesegayart.com/?p=1503 |website=Japanese Gay Art |access-date=2024-01-10|date=2010-12-03|archiveurl=https://web.archive.org/web/20210122163634/http://www.japanesegayart.com/?p=1503|archivedate=2021-01-22}}</ref>

<ref name="Lambda">{{cite web |last1=Ishii |first1=Anne |title=Influential Manga Artist Gengoroh Tagame on Upending Traditional Japanese Culture |url=https://www.lambdaliterary.org/2018/12/gengoroh-tagame-anne-ishii-conversation/ |website=Lambda Literary |access-date=2024-01-12|date=2018-12-19}}</ref>

<ref name="NPR">{{cite web |last1=Weldon |first1=Glen |title=In 'My Brother's Husband Vol. 2,' Family Values (And The Value Of Family) |url=https://www.npr.org/2018/10/12/639601426/in-my-brothers-husband-vol-2-family-values-and-the-value-of-family |website=NPR |access-date=2024-01-10|date=2018-10-12}}</ref>

<ref name="Penguin">{{cite web |title=Gengoroh Tagame |url=https://www.penguinrandomhouse.com/authors/2141173/gengoroh-tagame/ |website=Penguin Random House |access-date=2024-01-10}}</ref>

<ref name="QUEERJAPAN">{{cite AV media|url=https://vimeo.com/220335208 |date=2017-06-05|title=Queer Japan: Gengoroh Tagame Clip |last=Kolbeins |first=Graham |medium=Video clip |work=Queer Japan |access-date=2024-01-10}}</ref>

<ref name="Vice">{{cite web |last1=Senju |first1=Kaz |title=Inside the Taboo-Filled Mind of Japan's Best BDSM Manga Artist |url=https://www.vice.com/en/article/yvxa5w/inside-the-taboo-filled-mind-of-japans-best-bdsm-manga-artist |website=Vice |access-date=2024-01-10|date=2016-03-06}}</ref>

}}


== 関連項目 ==
== 参考文献 ==
{{Refbegin|colwidth=40em}}
* [[さぶ (雑誌)|さぶ]]
*{{cite journal |last1=Armour |first1=William |title=Representations of the Masculine In Tagame Gengoroh's Ero SM Manga |journal=Asian Studies Review |date=2010 |volume=34 |issue=4 |pages=443–465 |url=https://www.academia.edu/383732 |publisher=Routledge|doi=10.1080/10357823.2010.527922|s2cid=145779170 }}
* [[薔薇族]]
*{{cite book|last1=Armour |first1=William |title=The LGBTQ+ Comics Studies Reader: Critical Openings, Future Directions|editor-last=Halsall|editor-first=Alison|editor2-last=Warren|editor2-first=Jonathan|chapter=An Exploration of the Birth of the Slave through Ero-pedagogy in Tagame Gengoroh's ''Pride''|publisher=Univ. Press of Mississippi|year=2022|ref={{sfnref|Armour|2022}}|url=https://books.google.co.jp/books?id=G_qGEAAAQBAJ&pg=PT135|accessdate=2024-01-22|isbn=978-1496841353 }}
* [[Badi]]
*{{cite book |editor1-last=Ishii |editor1-first=Anne |editor2-last=Kidd |editor2-first=Chip |editor3-last=Kolbeins |editor3-first=Graham |title=The Passion of Gengoroh Tagame: The Master of Gay Erotic Manga |date=2013 |publisher=PictureBox |isbn=978-0984589241}}
* [[G-men (雑誌)|G-men]]
**{{cite book |last1=Kidd |first1=Chip |title=The Passion of Gengoroh Tagame: The Master of Gay Erotic Manga |date=2013 |pages=10–11 |chapter=The Brutality of Desire, and Vice Versa}}
**{{cite book |last1=Kolbeins |first1=Graham |title=The Passion of Gengoroh Tagame: The Master of Gay Erotic Manga |date=2013 |pages=270–273 |chapter=Gengoroh Tagame's S&M Universe}}
**{{cite book |last1=White |first1=Edmund | title=The Passion of Gengoroh Tagame: The Master of Gay Erotic Manga |date=2013 |pages=8–9 |chapter=Introduction}}
*{{cite book |editor1-last= Ishii |editor1-first= Anne | editor2-last= Kidd |editor2-first= Chip |editor3-last= Kolbeins |editor3-first= Graham |title= Massive: Gay Erotic Manga and the Men Who Make It|publisher= Fantagraphics Books |date=2014 |chapter=Gengoroh Tagame |pages=39–43 |isbn=978-1606997857 }}
*{{cite journal |last1=Lunsing |first1=Wim |title=''Yaoi Ronsō'': Discussing Depictions of Male Homosexuality in Japanese Girls' Comics, Gay Comics and Gay Pornography |journal=Intersections: Gender, History and Culture in the Asian Context |date=2006 |issue=12 |url=http://intersections.anu.edu.au/issue12/lunsing.html|archiveurl=https://web.archive.org/web/20120219035842/http://intersections.anu.edu.au/issue12/lunsing.html|archivedate=2012-02-19|accessdate=2024-01-10}}
* {{Cite journal|和書|last=大島|first=岳 |date=2019 |title=ゲイ雑誌『G-men』にみるグラスルーツ・アクティヴィズム|journal=愛年報社会学論集|issue=32|volume=2019 |pages=84-95 |doi=10.5690/kantoh.2019.84 |ref={{sfnref|大島|2019}}}}
* {{cite journal|和書|journal=美術手帖|year=2014|volume=66|issue=1016|publisher=美術出版社|title=10人のマンガ家が語るインタビュー—田亀源五郎|last=田亀|first=源五郎|pages=114-119|ref={{sfnref|田亀|2014}}}}
* {{cite book|和書|last=田亀|first=源五郎|title=ゲイ・カルチャーの未来へ|publisher=Pヴァイン|year=2017|isbn=978-4-907276-86-7|ref={{sfnref|田亀|2017}}}}
* {{cite book|和書|last=田亀|first=源五郎|title=外道の家 上【復刻版】|publisher=ポット出版プラス|year=2023|isbn=978-4-86642-529-0|ref={{sfnref|田亀|2023}}}}
* {{Cite journal|和書|last=若松|first=孝司 |date=2018-03 |url=https://hdl.handle.net/10638/00007930 |title=LGBT今昔 : 1990年代ゲイ・ブーム再考 |journal=愛知淑徳大学論集. 交流文化学部篇 |ISSN=2186-0386 |publisher=愛知淑徳大学交流文化学部 |issue=8 |pages=115-127 |hdl=10638/00007930 |CRID=1050001202565368960 |ref={{sfnref|若松|2018}}}}
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
125行目: 893行目:
* [http://www.tagame.org/jblog/ 田亀源五郎's Blog]
* [http://www.tagame.org/jblog/ 田亀源五郎's Blog]
* {{Twitter|tagagen|田亀源五郎}}
* {{Twitter|tagagen|田亀源五郎}}
*[https://web.archive.org/web/20141014054852/http://tagame.blogzine.jp/tagameblog/ 旧公式ブログ] (via [[Internet Archive]])


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2024年1月23日 (火) 13:13時点における版

たがめ げんごろう
田亀 源五郎
2017年アングレーム国際漫画祭において。
2017年アングレーム国際漫画祭において。
別名義 城戸呉八、鬼頭大吾(小説発表時の名義[1]
生誕 (1964-02-03) 1964年2月3日(60歳)
神奈川県鎌倉市
職業 漫画家
ゲイ・エロティック・アーティスト
ジャンル ゲイ漫画
代表作
受賞 文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞 (2015)、日本漫画家協会賞 (2018)、アイズナー賞最優秀アジア作品賞 (2018)
公式サイト tagame.org
テンプレートを表示

田亀 源五郎(たがめ げんごろう、1964年2月3日 - )は日本人の漫画家ゲイ・エロティック・アーティスト英語版SM性暴力、過剰な男性性を題材にしたゲイ・ポルノ作品で知られており、日本のゲイ漫画家の中で有数の作品数と影響力を持つ。日本国外でもアーティストとして名高い。

在学中に少年愛雑誌やゲイ雑誌に漫画や小説を寄稿し始めた。多摩美術大学を卒業後、グラフィックデザイナーやアートディレクターとして働くかたわら漫画家として活動し、後に専業漫画家となった。1994年に単行本化された『嬲り者』はゲイ漫画の書籍として画期的な売り上げを記録した。1995年、ゲイ雑誌『G-men』の創刊に携わった。2014年の『弟の夫』を皮切りにLGBTを扱った一般向け漫画を描き始めた。同作は文化庁メディア芸術祭優秀賞、日本漫画家協会賞アイズナー賞を授与されている。美術史に関する著作『日本のゲイ・エロティック・アート』もある。

経歴

生い立ちと初期の活動

1964年2月3日、鎌倉市で武士の家系に生まれる[2][3][4][5]。兄が一人いる。文化的な家庭で、子供のころから文学・美術やクラシック音楽に親しんでいた一方[6]、ポップ・ミュージックや漫画は禁じられていた。ただし手塚治虫作品だけは文学的に優れているとして例外にされていた[5]。田亀は床屋の待合室などでそれ以外の少年漫画に触れ、楳図かずおのホラー漫画や、性や暴力を扱った永井豪作品を好んだ[5]。小学校に入る前から絵を描き始め、中学になると漫画を制作してクラスメートや教師に見せるようになった[7]

10代中ごろ、同性愛という意識がないまま、映画『ソドムの市』やマルキ・ド・サドの小説作品を入り口にしてBDSMに関心を持ち始めた[8]。「裸で縛られた男性」が出てくる映画(イタリアの『ヘラクレス』シリーズや、『猿の惑星』のチャールトン・ヘストンなど)に魅力を感じていた[9]。その後ゲイ雑誌さぶ』と出会い、存在すると思っていなかったものが存在したような気持ちというほど衝撃を受けた[10]。しばらく自身のセクシュアリティに悩んでいたが、高校生になって男性に恋愛感情を持ったことで同性愛者を自覚した[11]。田亀は当時日本に流入し始めた海外のゲイカルチャーを追うようになり、広くアートやポップカルチャーに傾倒していった[12]。高校在学中の1982年、女性向けの耽美系少年愛雑誌『JUNE』にペンネームで漫画を投稿して掲載された[5][7]。息子と父親の間の近親相姦と殺人を描く内容だった[13]。当時の青年漫画界で起きていた「三流エロ劇画ルネッサンス」と呼ばれる運動の中に同性愛を描く作家(宮西計三ひさうちみちお)がおり、その影響を受けて描いたものである[14]。田亀は後に「ゲイ・カルチャーではなくサブカル系の文脈」の作品だと言っており、自作リストには載せていない[15]

両親は息子に東京大学に進んで銀行家になることを望んでいたが、田亀は多摩美術大学でグラフィックデザインを学ぶことに決めた[5][16]。入学を機にして周囲にゲイをオープンにした[9]。在学中にさまざまなペンネームで『さぶ』などのゲイ雑誌にエロティックな小説、イラストレーション、漫画を投稿した[3][17][注 1]。ペンネームはやがて「田亀源五郎」に落ち着いた。「タガメ」と「ゲンゴロウ」はいずれも水生昆虫の名で、ほかのゲイ漫画家がよく使う「マッチョだったり、ロマンチックだったりする」ペンネームと差別化する意図があった[18]。大学生の頃ヨーロッパに旅行し、ロンドンの書店で米国のレザーフェティシズム雑誌『ドラマー英語版』と出会った[18]。同誌にはトム・オブ・フィンランドレックス英語版ビル・ワード英語版のような西洋アーティストによるホモエロティックなイラストレーションが掲載されており、田亀の「熊系」と呼ばれる作風に大きな影響を与えた[9][18]。大学卒業後は商業グラフィックデザイナーやアートディレクターとして生計を立てながら漫画や小説の創作を続けた[3][19]

ゲイポルノ作家として

当時のゲイ雑誌に掲載される漫画は素朴な恋愛漫画やギャグ漫画が主だったが、田亀は本格的なポルノグラフィを描いた。編集部から内容について注文を受けることはなかった。筋肉質で髭を生やした男性のイメージやSMといった題材も田亀以前にはほとんど見られなかったものである[20]。掲載作の多くは単行本化されたが、初期の6冊は書籍を専門としないプロダクションから出版され、ゲイバーやゲイ専門店でしか流通しなかった[3]。そんな中、『さぶ』誌に1991年から1993年にかけて連載された『嬲り者』の単行本 (1994) は同種の書籍として画期的な売れ行きを示した[21]。同書のヒットは商業的なゲイ漫画の端緒を開き[22]、このジャンルの文化的・芸術的価値を確立した[23]。全824ページ、3巻にわたる時代物の長編第2作『男女郎苦界草紙~銀の華』(1994) は、田亀を北米に紹介したグラハム・コルベインズ英語版によってゲイ漫画の物語性の射程を単純なポルノから複雑な物語や美的要素にまで拡げたと評されている[23]

1990年代には一般メディアで「ゲイブーム」が起き、性的少数者がメディアに露出し始めた。ゲイ雑誌界においても『Badi』(1994) のようにゲイのライフスタイルや社会問題までを扱う新興誌が現れた[24]。1995年、田亀は『Badi』の編集に携わっていた二人の人物とともに『G-men』(誌名のGは源五郎が由来[25])を立ち上げた[23]美少年タイプが重んじられていたゲイ雑誌の現状を変えたいという考えから[3][9][23]、男らしい大柄な中年以上の男性を前面に出した雑誌だった[3]。誌面では「ハードなセクシュアル・ファンタジー」とならんでHIV/AIDSの知識や歴史・文化が扱われ、一種の文化的アクティヴィズムが志向されていた[26]。同誌で田亀は表紙絵、漫画、小説を寄稿するほか企画・編集にも関わった[27]。このころゲイ・エロティック・アートに専従するためグラフィックアートやイラストレーションの仕事からは手を引いた[25]。しかし『G-men』誌からは2006年に離脱することになる[28]

2003年、1950年代から現在に至るまでのゲイアート史をまとめた『日本のゲイ・エロティック・アート』第1巻を出した。ほとんど注目されていなかった過去の作品や作家を掘り起こし、ゲイ文化史の流れを作る試みだった[29]

海外や一般メディアへの進出

パリの書店でサイン中の田亀源五郎(2015年)。

2000年代以降は海賊版英語版スキャンレーションを通じて海外でも作品が読まれ始めた[30]。2005年にフランスのH&O Editions社から出た Gunji が最初の公式翻訳となった。2009年にはパリで作品展が行われた[4]。公式の英語版は、2012年にライアン・サンドとミカエル・ドゥフォルジュ英語版が発行したエロティックなアンソロジー Thickness に収録された短編 "Standing Ovation"(→スタンディング・オベーション) が最初だった[5]。2013年に米国の出版社ピクチャーボックス英語版から作品集 The Passion of Gengoroh Tagame が出た[5]。ドイツのゲイ出版社 Bruno Gmünder Verlag も2014年から田亀作品の英訳を行っていた[31]

2007年ごろ、ゲイ漫画の枠組みで可能な表現を追求した長篇『君よ知るや南の獄』および『外道の家』、ならびにボーイズラブ系作品の集大成『ウィルトゥース』を相次いで完結させた。田亀によるとこれが作家として一つの区切りだった。そのとき一般青年誌からはじめてアプローチを受け、新しい分野への進出に意欲を持った[32]。編集部から依頼された自伝の執筆は作風にそぐわないため断り[16][33]、ゲイを題材とした異性愛者向けの作品を提案したが実現に至らなかった。2013年になって双葉社の編集者から再び一般向けの連載を持ちかけられた[9][16]性的ファンタジーを原動力にした作品とはちょっと異なる、現在の社会との接点を持たせた作品[34]に関心が移り始めていた田亀は、日本国内外で当時注目されていた結婚の平等(同性婚)の問題を取り上げ[35]、異性愛者の観点からLGBTの権利を描く作品を提案した[16][36]。『弟の夫』と題された作品は2014年から2017年にかけて青年誌月刊アクション』に連載された[9]。同作は好評を博し、複数の賞を受けたほか、2018年にNHKによって実写ドラマが放映された[37]

田亀は『弟の夫』以降もポルノグラフィックな作品を並行して描き続けており、全年齢向け作品とエロのバランスを取ることで「精神的な健康を保てる」と語っている[38]。一般向け長編の第2作『僕らの色彩英語版』は2018年から2020年にかけて『月刊アクション』に掲載された[39]

作風

アン・イシイ英語版とグラハム・コルベインズによる田亀のインタビュー。作品にSFやファンタジー、時代物の要素を取り入れることで世界そのものをSMとして作ることができると語っている。

自身の男性的で筋肉質の毛深いキャラクターを「熊系」と呼んでいる[9]。作品の多くはセックスに重点が置かれており[40]、ほとんどが緊縛調教レザーSMといった性的フェティシズムが含まれている[41]。これらのテーマはSFファンタジー、時代物のようなジャンルの超現実的なシナリオによって増幅される[42]。田亀は自身の作品が少数の読者に向けたものだとして現実世界の大多数は拷問セックスを楽しんだりしない。でも私はその人たちのために書いているわけじゃないと語っている[42]。ときには糞尿愛好や生々しい暴力のように極度のフェティシズムを描くこともあるが、性的興奮を与えるためであって嫌悪感を抱かせるつもりではないとしている[43]

田亀の作品は絵の美しさに加えて鋭い心理描写で注目された[18]。男らしい男性を描くゲイポルノ漫画家はほかにも存在するが、日本のポップカルチャーを研究するウィリアム・アーマーは[44]、田亀の作品が男性間の権力関係がエロティックになりうることに関心を向けている点で同種の作品から際立っていると述べた[41]。アーマーは田亀の作品はあるレベルでは露骨なポルノまんがだが、別のレベルでは、ホモソーシャル性が容易に同性愛に転換する感覚を [] 絵と言葉の中に深く織り込んでいると書いている[45]。田亀自身は私がエロティカで試みたのは、エロティカを芸術のレベルにまで高めることと、人間性を描き出すものとしての芸術の観点から考えることだと述べている[36]

田亀の作品はゲイ向けエロティカとしては例外的に異性愛者や女性の読者が多い[46][47]。田亀は発表媒体の読者層によって作風を変えており、ゲイ男性向けの雑誌に書くときは、主人公の行動と内面が主体になる。女性の読者もいると分かっているなら、[] 関係性とカップリングの方に関心が向けられるとしている[48]。田亀の作品が多様な読者を引き付ける理由について、アン・イシイは田亀の仕事はある部分で、もはやゲイについてではなく [] 欲望と、欲望の暗黒面について語っている。それは性のカテゴリには収まらないように思えると書いている[46]。ライターでドラァグクイーンエスムラルダは田亀の論理性に注目し、非常に官能的でありながら、冷静さも残している。絶妙なバランスで描かれている…のが多くの読者を惹きつける理由だと書いている[49]

田亀は日本と海外のアーティストから影響を受けたと述べており[4][41]カラヴァッジョミケランジェロ[16]マルキ・ド・サド[5]月岡芳年[4]三島剛英語版船山三四英語版、小田利美[50]丸尾末広花輪和一平口広美[3]、ビル・ワード[9]らの名を挙げている。子供のころ美術書で触れたヘレニズム期英語版からバロックまでの裸体美術からも大きな影響があった[7][16]。性的恥辱の描写には、裸体が尊ばれなかった日本の古典美術(春画など)より、西洋キリスト教美術に見られる裸体画(カラヴァッジョが描くキリストの磔刑など)からの影響が強いと述べている[7]

主題と題材

超男性性

田亀作品の多くは、発達した筋肉、濃い体毛、巨大なペニス[51]、大量の射精マチズモ[52]、過激で暴力的な性行為など、「超男性性英語版」と関係づけられる特徴を持つ男性を描いている[53][54]。田亀自身は、周囲から男性的と見られている男性が実のところ社会的な圧力に応えて必要以上に男らしさを演じており、「社会規範上、男らしくないとされる行為を行うことで」その態度が崩れる様子に関心があると語っている[55]。アーマーは超男性性をテーマとした田亀作品の例として、尊大で自己中心的な大学生がサディストの教授によって奴隷調教を受ける『PRIDE』や、戦後日本において売春婦の妻に養われていることを恥じている傷痍軍人が米兵によって男娼扱いされる『闇の中の軍鶏』を挙げている[56]

男らしい男性を描く作風は[注 2]トム・オブ・フィンランドのようなアーティストによる「マッチョな」ゲイアート運動にカテゴライズされる。この運動は1960年代前半に米国のバイカー文化から生まれ、ゲイ男性が「男になりそこなった」「女性的なナルシスト」だというステレオタイプが克服される上で影響力が大きかった[5]。田亀はトム・オブ・フィンランドを日本に紹介したこともあり、自身でも影響を受けている。ただし装丁家のチップ・キッド英語版は田亀の作品を評して、トム・オブ・フィンランドの静的なイラストレーションとは対照的な生気と躍動感があるとしている[5][50]

作家のエドマンド・ホワイトは、田亀が描く超男性の理想像が、日本の明治文学に見られる武骨で、異性愛者として女性を喜ばせられるほど洗練されていないがために同性愛者であり、戦士であり、南方出身の田舎者であり、まともな社会には収まり切らない男性というキャラクター類型に近いと述べている[54]。アーマーは田亀の作品が西洋のゲイコミックと比べて「弱弱しく男らしさを感じさせない」という東アジア人男性のステレオタイプを破っている点で特徴的だとした。田亀の男性の描き方は西洋のエロティックなゲイコミックにおける男性キャラクターの描写とあまり変わらないように見えるが [] 白人・西洋人としての観点からは、超男性的な日本人男性の描写は、多くの西洋ゲイ文化がアジア人男性に持っている、たくましいマッチョな白人男によって好きなようにファックされる細身でペニスが小さい女性的な弱者というステレオタイプを打破するものと見られる[51]

SMと性暴力

SMと性暴力は田亀作品における性描写の多くに一貫して見られるテーマである[58]。ホワイトは田亀源五郎の世界では自ら望んで挿入される男性は一人もいないと書いている[54]BDSMを中心的テーマとする作品にはレイプ獣姦近親相姦身体改造のようなタブーな題材が取り入れられることが多い[9]。ただし、題材が過激であるにもかかわらず「エログロ」の文脈で論じられることはあまりない[5]。田亀自身は「破滅の美」や「崩壊していく人物」を描くシェイクスピア悲劇英語版ドイツのオペラ英語版日本民話からBDSM作品の着想を得ており、ゴアホラーを描くのが本意ではないとしている[5]

BDSMを中心とした作品では、主人公がフェティッシュな性的関係を通じて自己を発見していく展開が多い[40]。社会的に優位な男性が性的被虐者として調教を受けたり[3]、責任感や義務感を捨てて性に耽り始めるなど[4]、男性的な登場人物が支配側から従属側に性的役割を替える作品が典型的である[9]。このテーマの作品には、性奴隷とされた男性が自らそれを受け入れる「エンドレス・ゲーム」や[55]、日本人の空手チャンピオンが米国の地下格闘競技に参加するが敗北するたびに凌辱を受ける「闘技場~アリーナ」がある[54][59]。コルベインはBDSMを自己発見の過程として描く田亀作品は共感を呼ぶ人間ドラマの枠組みに収まると述べている[40]。アーマーは『PRIDE』がSM描写を通じて性的少数者に社会的制約から解放されるよう促す内容だと書いている[60]

伝統性

歴史上の日本を舞台としたり、プロットや題材に日本的な美学が色濃く出ている作品が多い[55]。日本において同性愛の伝統は古代から長く続いていたが、明治期 (1868-1912) に西洋化の過程で同性愛への寛容は失われ、それまで受容されていた同性愛表現が病気や犯罪と見なされるようになった[5]。この伝統性と現代性の対立は、田亀のエロティックな漫画において、日本社会の家父長制的な性格や[55]、不平等な封建制の象徴としての武士のような[4]階層性の描写を通じて現れている。田亀はヒエラルキーが破綻する様子に引き付けられると述べており、日本の伝統的ヒエラルキーについて以下のように語っている[55]

ヒエラルキーからの転落は究極のSM行為だ。私は日本的な美と伝統という概念が魅力的だとは思わないが、フィクション要素としてなら、それらの信念が崩れ去るときに並々ならないエロスを感じる[55]

初期の長篇連載『男女郎苦界草紙~銀の華』は江戸時代を舞台とする時代物で、裕福な商人だった男が借金を負って性奴隷にされる物語である[9]。主人公は男性客から虐待と辱めを受けるにつれて自身の被虐性に気づいていく[61]。コルベインは同作が日本社会の中で西洋の宗教的な罪やソドミーといった概念に縛られずに男性同性愛が盛んに行われていた時代を描いているとした[23]。西洋から導入された性のタブーが届いていない前近代的な村落を取り上げた「田舎医者」では[62]昔の人は保守的で、現代人は解放されているという考えをひっくり返してみたかったと述べている[7]

田亀の全年齢向け作品にも、現代日本社会の同性愛に対する姿勢という形で伝統のテーマが現れている[9]。『弟の夫』の主人公の弥一は死んだ弟の結婚相手から訪問を受け、自身がゲイに持っていた偏見と向き合うことを強いられる。弥一が最初に見せるホモフォビアは、日本で大勢を占めているLGBTの権利への保守的な意見を反映している[31][63]。田亀によると、寛容と受容へと向かう弥一の変化は、主人公が現実を受け入れるか、それとも自身の欲求と幸福を否定するかの選択に迫られるBDSM作品とテーマ的につながっている[16]

ゲイ・アイデンティティとセクシュアリティ

クィア・スタディーズ研究者森山至貴森山によると、同性愛者が異性愛者に「認めてもらう」ためにゲイの性文化を押し隠す風潮がある中で、田亀のエロティシズムに対する肯定と、ゲイのアイデンティティに対する肯定を堂々と結びつける姿勢は高く評価される[64]。田亀はゲイであることがアイデンティティの核であり、創作や作品鑑賞においてセクシュアルな感覚を切り捨てることはできないと語っている[25]。ゲイ・エロティック・アートについては欲望を突き詰めれば突き詰めるほど濃く、そしてユニークになっていく [] 邪念の入りこむ余地のない純粋な「アート」としている[65]

ゲイリブに関心を持っていたが、社会運動の方法論に相いれないものを感じ、ポルノグラフィを中心とする作品の発表を通じてゲイコミュニティや一般社会に貢献するという考えに至っている[25]

受容と影響

ゲイ漫画家のなかでも作品数と影響力では随一とされている[4][31][40][66]。ゲイ漫画の英訳アンソロジー Massive: Gay Erotic Manga and the Men Who Make It は田亀を間違いなくゲイ漫画の発展に最大の功績があると紹介しており[22]、編者の一人チップ・キッドは田亀の仕事をマルキ・ド・サドピエル・パオロ・パゾリーニ三島由紀夫と同列に並べている[50]。ウィリアム・アーマーは田亀の綿密な作風と物語の奥行がエロスのみならず美的・認識論的な側面においても読者を揺さぶる力を持っており、アカデミックな研究が待たれると書いている[60]

森山至貴は田亀を日本のゲイ・カルチャーにとっての最重要人物の一人としている[64]。ゲイライターのサムソン高橋は田亀を評して、ゲイ漫画というジャンルが確立していないころから最前線で独自のテーマを追求してきた「巨匠」と呼び、併せて近年の『弟の夫』でLGBTノーマライゼーションに取り組んでいることを賞賛した[67]。漫画評論家大西祥平は、学術的なゲイアート史の編纂などジャンルの地位向上のために活動する田亀を手塚治虫になぞらえている[68]

人類学者ウィム・ルンシングは、田亀が先鞭をつけた「熊系」の価値観が[3]、東京のゲイ・タウンである新宿二丁目に流行の変化を生んだとしている。『G-men』の創刊以降、ゲイ男性に人気があった細くてスマートなひげのないタイプに代わって不精ひげ、あごひげ、口ひげがブームとなった。極度の短髪がもっともよく見られる髪型になり、筋肉ががっちりした体形(やがてぽっちゃり型や肥満体に発展)がファッショナブルと見なされはじめた[66]。田亀は『G-men』の起ち上げにより次世代のゲイ漫画家を養成する役割も果たしたとされている。同誌でキャリアを始めた漫画家には児雷也などがいる[22]。また過去のゲイ・アートを収集した『日本のゲイ・エロティック・アート』の出版は、日本のエロティックアート史に「ゲイ・アートの正典」を打ち立てたと評価されている[47]

田亀の批判者にはゲイ・エロティック・アーティストの広瀬川進がいる。広瀬川は田亀のイラストレーションをSM劇場に過ぎないと評し、漫画作品をSM趣味の垂れ流しと呼んだ[69]。ルンシングも田亀の作品はそれほど複雑巧緻というわけではなく、[広瀬川には] 反駁しがたいとしている[69]

『弟の夫』を中心に複数の受賞がある。同作は2015年に第19回文化庁メディア芸術祭優秀賞を[70]、2018年に日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した[71]。国際的にも2018年にアイズナー賞をアジア作品の米国版部門で[72]、ドイツのルドルフ・ダークス賞のアジア・シナリオ部門ベストアーティスト賞を受賞した[73]。2019年に大英博物館で行われた大規模な日本漫画の展示 The Citi exhibition Manga でも同作が大きく取り上げられた[74]。2022年には成人向け作品『外道の家』がフランスの文学賞サド賞フランス語版バンド・デシネ/漫画部門を受賞した[75]。これらの国以外ではイタリア、スペイン、韓国、台湾、タイ、ブラジル、ベトナム、メキシコ、ポーランドで翻訳版が出版されている[76]

作品リスト

漫画作品

以下は田亀自身が公開している雑誌掲載作品(連載・読み切り)のリストである[77][78]

題名 掲載誌 単行本 備考
1987 柔術教師 さぶ (1987/8)
淫虐浴場 さぶ増刊(初秋号)
1988 調教師 さぶ増刊(初冬号)
ラガー失墜 さぶ (1988/2)
深夜営業 さぶ増刊(初春号)
1989 BOXER~栄光の代償 さぶ増刊(初春号)
1990 敗将賦 さぶ (1990/1)
軋む男 さぶ (1990/2, 4-8) 柔術教師
儀式 さぶ (1990/3)
調教師~オーダーメイドされた男 さぶ (1990/11)
1991 芦立頌 さぶ (1991/2)
SM同好会~山荘合宿 さぶ 獲物
陰の軛 さぶ (1991/3, 4) 獲物
THE DOKATA さぶ (1991/7) 柔術教師
白峯異聞 さぶ 獲物
プルガトリオ さぶ (1991/10) 柔術教師
1992 一つ家異聞 さぶ (1992/1, 2) 柔術教師
嬲り者 さぶ (1992/4-7, 12; 1993/3, 5-8, 10-12) 嬲り者
俺の先生 さぶ (1992/10, 11) 柔術教師
衣川異聞 さぶ (1992/12) 禁断
1994 男女郎苦界草紙~銀の華 Badi (1994/8–1998/2) 男女郎苦界草紙~銀の華
さぶ (1994/4-5) 獲物
柔術教師 リミックス版 柔術教師
1995 獲物 G-men (#1-4) 獲物
闇の中の軍鶏 G-men (#5-8) PRIDE第3巻
1996 沈黙の渚 G-men (#9-11) 獲物
PRIDE G-men (#12-47) PRIDE全3巻
1998 山荘合宿後日譚 獲物
1999 43階の情事 Badi (1999/6, 8, 10) 田舎医者/ポチ
猛き血潮~大日本帝國陸軍中尉、中里和馬の場合 SM-Z(プレビュー号) 禁断
2000 外道の家 Badi (2000/12–2007/12) 外道の家
猛き血潮~釧路大谷組小頭・坂田彦造の場合 SM-Z (#1) 禁断
瓜盗人 SM-Z (#2) 禁断
闘技場~アリーナ G-men (#51-55) 禁断
ZENITH SM-Z (#3) 禁断
「マゾ」 G-men (#57, 58) 髭と肉体
2001 NIGHTMARE SM-Z (#4) 禁断
君よ知るや南の獄 G-men (#63-123) 君よ知るや南の獄
2002 KRANKE SM-Z (#5) 禁断
軍次 筋肉男 (#3) 天守に棲む鬼/軍次
2003 TRAP SM-Z (#6) PRIDE第1巻
傷痕(軍次2) 筋肉男 (#4) 天守に棲む鬼/軍次
驟雨(軍次3) 筋肉男 (#5) 天守に棲む鬼/軍次
火坑 1(軍次4) 筋肉男 (#6) 天守に棲む鬼/軍次
メス豚の天国 SoMe Bizzarre 天守に棲む鬼/軍次
TRAP 2 SM-Z (#7) PRIDE 第2巻
火坑 2(軍次5) 筋肉男 (#7) 天守に棲む鬼/軍次
2004 天守に棲む鬼 筋肉男 (#8) 天守に棲む鬼/軍次
Hairy Oracle 筋肉男 (#9) 天守に棲む鬼/軍次
非國民 SM-Z (#8) PRIDE第3巻
嗜虐の花園 麗人ドラマチック (#1)
ずっと好きだと言えなくて 筋肉男 (#10) 天守に棲む鬼/軍次
だるま憲兵 SUPER SM-X (#1-2) 禁断
大江山綺譚 筋肉男 (#11) 天守に棲む鬼/軍次
2005 雄心~ウィルトゥース 激男 (#1, 3-5) ウィルトゥース
誰にも言えない SUPER SM-Z (#3) ウィルトゥース
2007 透き通るような黄金の瞳 ほんとうに怖い童話 (2007/3) 一般向け
雪原渺々 肉体派 (#3) ウィルトゥース
神経性胃炎 肉体派 (#6) ウィルトゥース
ぴこのなかみ お尻倶楽部 (2007/9)
落日~西太后と東太后 ほんとうに怖い童話 (2007/11) 一般向け
長夜寞々 肉体派 (#7) 髭と肉体
哀酷義勇軍 Badi (2008/1–2) 童地獄・父子地獄
2008 稚児 肉体派 (#8) 髭と肉体
傀儡廻 Badi (2008/3) 田舎医者/ポチ
ジゴロ Badi (2008/4) 田舎医者/ポチ
告白 Badi (2008/6, 7) 童地獄・父子地獄
晒し台 肉体派 (#9) 髭と肉体
童地獄 肉体派 (#8-10) 童地獄・父子地獄
汗馬疾々 肉体派 (#10) 髭と肉体
ポチ Badi (2008/11, 12) 田舎医者/ポチ
DISSOLVE~ディゾルブ~ 肉体派 (#11) 髭と肉体
2009 父子地獄 Badi (2009/1-6) 童地獄・父子地獄
雨降りお月さん 肉体派 (#12) 髭と肉体
倅解体 まんが このミステリーが面白い (2009/7) 一般向け
ECLOSION 肉体派 (#13) 髭と肉体
Der Fliegende Hollander Badi (2009/8) 童地獄・父子地獄
人畜無骸 Badi (2009/9-11) 肉人参/人畜無骸
おでんぐつぐつ 肉体派 (#14) 筋肉奇譚
Lover Boy Badi (2009/12–2010/1) 田舎医者/ポチ
鬼祓え 肉体派 (#15) 筋肉奇譚
2010 スタンディング・オベーション Badi (2010/3) 田舎医者/ポチ
恋とは何でしょう 『筒井漫画瀆本ふたたび』 原作: 筒井康隆
転職 肉体派 (#16) 筋肉奇譚
田舎医者 Badi (2010/4, 5, 7) 田舎医者/ポチ
社畜哀歌 Badi (2010/8) 筋肉奇譚
長持の中 Badi (2010/9–2011/2) 冬の番屋/長持の中
クレタの牝牛 肉体派 (#17) 筋肉奇譚
MISSING ~ミッシング~ 肉体派 (#18) 筋肉奇譚
2011 冬の番家 Badi (2011/3-9) 冬の番屋/長持の中
ACTINIA Badi (2011/10-12) 冬の番屋/長持の中
モンスター・ハント・ショー 肉体派ガチ! (#1) 筋肉奇譚
2012 エンドレス・ゲーム Badi (2012/2–2013/2) エンドレス・ゲーム
END LINE 肉体派ガチ! (#2) 筋肉奇譚
お気に入り☆萌えブーム 花恋 (2012/9) エッセイコミック
2013 転落の契約 Badi (2013/4-7) エンドレス・ゲーム
不福耳 ほんとうに怖い童話 (2013/9) 原作: 平山夢明
奴隷調教合宿 Badi (2013/9-12; 2014/2-3, 5-7, 9-11; 2015/1-2) 奴隷調教合宿
2014 弟の夫 月刊アクション (2014/11-12; 2015/1-5, 7-12; 2016/1, 4-10, 12; 2017/1, 3-7) 弟の夫 全4巻 一般向け
2015 金曜の夜は四つん這いで Badi (2015/6-7, 9) 奴隷調教合宿
プラネット・ブロブディンナグ Badi (2015/11-12; 2016/2, 4, 6, 8, 10, 12) 肉人参/人畜無骸
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親友の親父に雌にされて Badi (2018/10, 12; 2019/2, 3)
2019 呪縛の性奴:呪的口肛調教録 同人誌
新・刑事もどき ゲイボーイ テヅコミ (#9, 10) 手塚治虫トリビュート作品[79]
飯縄権現顕現録 Nippon Danji (#7) [80]
2020 密林勇者奴隷化計画 Bitch of the Jungle 同人誌
ベビードール 親友の親父に雌にされて それから PixivFANBOX 同人作品
BSB/フットボール・コーチ PixivFANBOX 同人作品
2021 コックサッカー 親友の親父に雌にされて3 PixivFANBOX 同人作品
軍曹 PixivFANBOX 同人作品
ウィークエンド 親友の親父に雌にされて(番外編) PixivFANBOX 同人作品
BSB:警官〜クリス・コリンズの場合 PixivFANBOX 同人作品
2022 魚と水 webアクション 魚と水
PixivFANBOX 同人作品

単行本(自費出版扱)

  • 嬲り者(発行所/Bプロダクト 1994年
  • 柔術教師(発行所/Bプロダクト 1994年)
  • 獲物 (発行元/(有)ジープロジェクト 1998年
  • 男女郎苦界草紙 銀の華(上)(発行元/(有)ジープロジェクト 2001年
  • 男女郎苦界草紙 銀の華(中)(発行元/(有)ジープロジェクト 2001年)
  • 男女郎苦界草紙 銀の華(下)(発行元/(有)ジープロジェクト 2002年

単行本(一般販売)

単行本(非漫画)

編著

  • 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.1 ゲイ雑誌創生期の作家たち(ポット出版 2003年12月9日 ISBN 978-4-939015-58-8
  • 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.2 ゲイのファンタジーの時代的変遷(ポット出版 2006年8月21日 ISBN 978-4-939015-92-2
  • 日本のゲイ・エロティック・アート Vol.3 ゲイ雑誌の発展と多様化する作家たち(ポット出版 2018年12月12日 ISBN 978-4-7808-0233-7

同人誌

  • Dessins 田亀源五郎 スケッチ&下絵集(野郎フェス2015 2015年5月)
  • 呪縛の性奴(野郎フェス2016 2016年5月)
  • Bitch Of The Jungle(野郎フェス2018 2018年4月)
  • 呪縛の性奴~呪的口肛調教録(野郎フェス2019 2019年5月)
  • 社長と部下(コミックマーケット96 2019年8月)※合同誌
  • 密林勇者奴隷化計画 Bitch of the Jungle(野郎フェス2020-ONLINE- 2020年5月)

英語版書籍

  • The Passion of Gengoroh Tagame (2013, Picturebox, ISBN 978-0984589241)
短編集。「闘技場~アリーナ」などを収録。
日本人作家によるゲイ漫画のアンソロジー。『君よ知るや南の獄』(2001) の抜粋が収録されている。
短編集。「軍次」シリーズほかを収録。
短編集。「冬の番屋」などを収録。
短編集。「ポチ」などを収録。
短編集。「奴隷調教合宿」など収録。

映像化作品

テレビドラマ

脚注

注釈

  1. ^ ゲイ雑誌の『薔薇族』や『アドン』は漫画家に原稿料を払わず、また執筆者の同意を得ずに原稿を掲載することがあった。そのため田亀はこれらの雑誌に掲載された作品を自身の作品リストから外している[3][17]
  2. ^ 英語圏で日本漫画のこのジャンルは「bara(薔薇)」と呼ばれるが、田亀自身は「薔薇」がゲイ男性を指す侮蔑語だったとして自作に使わないよう求めている[57]

出典

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  3. ^ a b c d e f g h i j Tagame Gengoroh”. du9 (2013年5月9日). 2024年1月10日閲覧。
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  10. ^ 田亀 2017, p. 63.
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  15. ^ 田亀 2017, p. 88.
  16. ^ a b c d e f g Abbiamo incontrato alla manifestazione bolognese il maestro dei manga LGBT” (Italian). AnimeClick (June 22, 2018). February 3, 2021閲覧。
  17. ^ a b 田亀 2017, p. 97.
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  29. ^ 田亀 2017, pp. 121–122.
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  33. ^ 「マイク役を探すのは絶対無理だろうと思っていた」田亀源五郎さんとNHKプロデューサーが語る「弟の夫」ドラマ化の裏話”. HuffPost Japan (2018年2月26日). 2024年1月10日閲覧。
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  73. ^ 『弟の夫』の田亀源五郎がドイツの世界的マンガ賞「ルドルフ・ダークス賞」ベストアーティスト賞を受賞”. music.jpニュース (2019年12月22日). 2024年1月15日閲覧。
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  75. ^ 『外道の家』フランス語版がサド賞を受賞”. 田亀源五郎's Blog (2022年10月21日). 2024年1月16日閲覧。
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  77. ^ Complete List of Comics Works of Gengoroh Tagame”. Gay Erotic Art of Gengoroh Tagame. 2024年1月12日閲覧。
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  79. ^ テヅコミに田亀源五郎が描く「新・刑事もどき」、表紙は「ぬ~べ~」の岡野剛”. ニコニコニュース (2019年6月5日). 2024年1月15日閲覧。
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参考文献

外部リンク