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「音名と階名」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
音名と階名について概説: 日本でも固定ド唱法や一般の人達の間で音名にイタリア語を用いることは多いので修正。
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(相違点なし)

2023年5月1日 (月) 05:35時点における版

音名・階名表記(おんめい・かいめいひょうき)

このページは西洋音楽における音の高さの書き表し方、および国ごとに異なるその言い表し方の一覧である。前者では音度・音名・階名について、後者では日・米英・独・伊・仏式について述べる。

音名と階名について概説

音名表記の一例(ドイツ式)

音名(おんめい)は音の高さを調やスケールとは分離して表す。階名に比べより「絶対的」な表現といえる。異なるオクターヴに属する同じ音には同じ音名が与えられる→ピッチクラス。すなわち、ちょうど1オクターヴ異なる音は同じ名前で呼ばれる。ただし、後述のように、音名は楽譜の書き方に依存する部分がある。同じ高さの音が楽譜の書き方によっては異なる音名となる場合がある(異名同音)。日本では音名にイタリア語(do re miのソルミゼーション)、日本語(イ、ロ、ハ、などの片仮名)の他、ドイツ語英語ラテン文字アルファベット)が多く用いられる。7つの幹音(かんおん、楽譜上、を付けずに書き表せる音)には独立した名前が与えられる。そして、派生音(はせいおん、の付く音)には、幹音の音名にを表す言葉を付け加える。また、オクターヴを示す言葉を添える場合もある。

明治日本の音楽シーンでは、西洋伝来の音名表記(ABC・・・)・階名表記(数字譜。123・・・=ドレミ・・・)だけでなく、日本や中国の伝統的な音名・階名表記も平行して行われていた。大塚寅蔵『明清楽独まなび』(京都:十字屋楽器部発行、明治42年11月発行)に載せる「和漢洋十二音律対照表」

階名(かいめい)は、「主音に選ばれた音に対する相対的な高さ」を表す。日本では階名には一般にイタリア語を用いる。長調では主音は常にDo、短調の場合は主音はLaまたはDoである。また、数字(ローマ数字)を用いることもあるが、この場合、主音は常に i である。階名で歌うことを階名唱法と呼び、これはまた、ドの音高が音名に即して移動するので移動ド唱法とも呼ばれる。数字による階名唱法は"do re mi"が音名として定着したイタリアやフランスなどで行われる他[1]、日本では明治期に「ヒフミ唱法」と呼ばれるものがあった。これに対して、音名で歌うことを音名唱法、イタリア語音名を用いる場合は固定ド唱法などと呼ばれる。音楽教育において移動ドと固定ドのどちらが有利であるかという議論は古くからあり、決着を見ることがない。

各国の音名表記

日本式表記
嬰(えい)ハ 嬰ニ 嬰ホ 嬰ヘ 嬰ト 嬰イ 嬰ロ
重嬰(じゅうえい)ハ 重嬰ニ 重嬰ホ 重嬰ヘ 重嬰ト 重嬰イ 重嬰ロ
変(へん)ハ 変ニ 変ホ 変ヘ 変ト 変イ 変ロ
重変(じゅうへん)ハ 重変ニ 重変ホ 重変ヘ 重変ト 重変イ 重変ロ
式表記 C (スィー) D (ディー) E (イー) F (エフ) G (ジー) A (エイ) B (ビー)
C sharp D sharp E sharp F sharp G sharp A sharp B sharp
C double sharp D double sharp E double sharp F double sharp G double sharp A double sharp B double sharp
C flat D flat E flat F flat G flat A flat B flat
C double flat D double flat E double flat F double flat G double flat A double flat B double flat
ドイツ式表記 C (ツェー[注 1]) D (デー) E (エー) F (エフ) G (ゲー) A (アー) H (ハー)
Cis (ツィス) Dis (ディス) Eis (エイス[注 2]) Fis (フィス) Gis (ギス) Ais (アイス[注 3]) His (ヒス)
Cisis[注 4] Disis Eisis[注 5] Fisis Gisis Aisis[注 6] Hisis
Ces (ツェス) Des (デス) Es (エス) Fes (フェス) Ges (ゲス) As (アス) B (ベー)
Ceses[注 7] Deses Eses[注 8] Feses Geses Asas[注 9]/Ases[注 10] Heses/BB/Bes
イタリア式表記 Do (ド) Re (レ) Mi (ミ) Fa (ファ) Sol (ソ[注 11]) La (ラ) Si (シ[注 12])
Do diesis Re diesis Mi diesis Fa diesis Sol diesis La diesis Si diesis
Do doppio diesis Re doppio diesis Mi doppio diesis Fa doppio diesis Sol doppio diesis La doppio diesis Si doppio diesis
Do bemolle Re bemolle Mi bemolle Fa bemolle Sol bemolle La bemolle Si bemolle
Do doppio bemolle Re doppio bemolle Mi doppio bemolle Fa doppio bemolle Sol doppio bemolle La doppio bemolle Si doppio bemolle
フランス式表記 Ut (Do) Mi Fa Sol La Si
Ut(Do) dièse Ré dièse Mi dièse Fa dièse Sol dièse La dièse Si dièse
Ut(Do) double dièse Ré double dièse Mi double dièse Fa double dièse Sol double dièse La double dièse Si double dièse
Ut(Do) bémol Ré bémol Mi bémol Fa bémol Sol bémol La bémol Si bémol
Ut(Do) double bémol Ré double bémol Mi double bémol Fa double bémol Sol double bémol La double bémol Si double bémol
スペイン式表記 Do Re Mi Fa Sol La Si
Do sostenido Re sostenido Mi sostenido Fa sostenido Sol sostenido La sostenido Si sostenido
Do sostenido doble Re sostenido doble Mi sostenido doble Fa sostenido doble Sol sostenido doble La sostenido doble Si sostenido doble
Do bemol Re bemol Mi bemol Fa bemol Sol bemol La bemol Si bemol
Do bemol doble Re bemol doble Mi bemol doble Fa bemol doble Sol bemol doble La bemol doble Si bemol doble
中国式表記 C D E F G A B
升C 升D 升E 升F 升G 升A 升B
重升C 重升D 重升E 重升F 重升G 重升A 重升B
降C 降D 降E 降F 降G 降A 降B
重降C 重降D 重降E 重降F 重降G 重降A 重降B
十二律(中国)式表記 黄鐘 (こうしょう) 太簇 (たいそう) 姑洗 (こせん) 仲呂 (ちゅうりょ) 林鐘 (りんしょう) 南呂 (なんりょ) 応鐘 (おうしょう)
大呂 (たいりょ) 夾鐘 (きょうしょう) 仲呂 蕤賓 (すいひん) 夷則 (いそく) 無射 (ぶえき) 黄鐘
太簇 姑洗 蕤賓 林鐘 南呂 応鐘 大呂
応鐘 大呂 夾鐘 姑洗 蕤賓 夷則 無射
無射 黄鐘 太簇 夾鐘 仲呂 林鐘 南呂
十二律(日本)式表記 神仙 (しんせん) 壱越 (いちこつ) 平調 (ひょうじょう) 勝絶 (しょうぜつ) 双調 (そうじょう) 黄鐘 (おうしき) 盤渉 (ばんしき)
上無 (かみむ) 断金 (たんぎん) 勝絶 下無 (しもむ) 鳧鐘 (ふしょう) 鸞鏡 (らんけい) 神仙
壱越 平調 下無 双調 黄鐘 盤渉 上無
盤渉 上無 断金 平調 下無 鳧鐘 鸞鏡
鸞鏡 神仙 壱越 断金 勝絶 双調 黄鐘
(参考)音度 i ii iii iv v vi vii
1 2 3 4 5 6 7
  • 日本では一般に階名は「イタリア式幹音+英・米式変化記号接尾語」(「Do sharp」、等)で表現することが多い。
  • 音楽理論では音度に変化記号を付けて表し、また調号は前につける。(例)I、V、など
  • ポピュラーでは音度コードではローマ数字、スケールではアラビア数字で表すことが多い。
  • 日本での音名クラシックではドイツ式、ポピュラーではアメリカ式、学校教育や放送では日本式が主に使われる。

その他の音名表記

上記の他にも、さまざまな音名体系が研究者や教員によって考案されてきた。

アカサ式音名唱

音楽心理学者の矢田部達郎は「サタナハマアカ」というア段の音を基本音名(イタリア式のドレミファソラシに相当)とし、それぞれの嬰音と変音にはイ段とオ段にずらした音名をあて、同様に上下の四分音もそれぞれエ段とウ段にずらして表す、という合理的な音名表の試案を発表し[2]、当時の学界で一定の支持を得た。

半音
四半音
基本音階
四半音
半音

(矢田部達郎著『言葉と心:心理学の諸問題』(盈科舎、1944年)の図表をもとに再構成。矢田部は四分音を「四半音」と表記している。)

拡張イロハ式音名唱(日本音名唱法)

第二次大戦末期の1945年6月末、文部省が全国の国民学校に通達した新音名採択実施通牒では、幹音は「ハニホヘトイロ」のままで、それぞれの嬰音には「パナマサタヤラ」、変音には「ポノモソドヨル」、重嬰音には「ペネメセテエレ」、重変音には「プヌムスツユリ」という音名をあてはめ、これを授業で教えるよう義務付けたが、終戦前後の混乱もあって普及しなかった[3]

重嬰音 エ段にそろえる
嬰音 ア段にそろえる
幹音
変音 オ段にそろえる(ルを除く)
重変音 ウ段にそろえる(リを除く)

ドレミ式固定音名唱

戦後、佐藤吉五郎や岡本俊夫らは「ドレミ式固定音名唱」(「固定ドで使われる音名」を参照)を推奨し、固定ドの音名「ドレミファソラシ」を幹音として、それぞれの嬰音に「デリマフィサヤテ」、変音に「ダルモフォセロチ」という音名をあて、これを学校教育で実践したが[4]、繁雑にすぎるという批判も受けた[5]

ドレミ式固定音名唱(佐藤吉五郎)
嬰音 フィ
幹音 ファ
変音 フォ

西塚智光はこれを整理し、「ドデレリミファフィソサラチシ」という12音名・階名による教育を実践した。

嬰音 フィ
幹音 ファ
変音

日本の伝統音楽・和楽器における楽器別の音名

日本の伝統音楽においては、十二律による音名の他、三味線音楽で用いる「○本」という呼び名や、尺八の「ロツレチハ」という呼び名、雅楽の楽器における音の呼び名など、楽器別の音名に準ずるものが用いられる場合もある。

国際式音名 日本十二律 三味線(義太夫) 三味線(その他) 尺八(琴古流・一尺八寸)[注 13] 尺八(都山流・一尺八寸)[注 13][注 14] [注 15] 篳篥[注 16][注 17] 龍笛[注 18][注 19]
C4 神仙 十一本 四本 乙 ロ大 乙 (ロ)メ
C#4 上無 十二本 五本 乙 ロメ 乙 (ロ)
D4 壱越 一本 六本 乙 ロ 乙 ロ
Eb4 断金 二本 七本 乙 ツメ 乙 (ツ)
E4 平調 三本 八本 乙 ツ中 乙 ツメ
F4 勝絶 四本 九本 乙 ツ・レメ 乙 ツ・(レ)メ
F#4 下無 五本 十本 乙 レ中 乙 (レ)
G4 双調 六本 十一本 乙 レ 乙 レ
Ab4 鳧鐘 七本 十二本 乙 チメ・ウ 乙 (チ)・ウ
A4 黄鐘 八本 一本 乙 チ 乙 チ
Bb4 鸞鏡 九本 二本 乙 リメ 乙 (ハ)
B4 盤渉 十本 三本 乙 リ中 乙 ハメ
C5 神仙 十一本 四本 乙 リ 乙 ハ
C#5 上無 十二本 五本 乙 イメ・甲 ロメ 乙 (ヒ)・甲 (ロ) (ム)[注 20] (口)[注 20]
D5 壱越 一本 六本 乙 イ・甲 ロ 乙 ヒ・甲 ロ
Eb5 断金 二本 七本 甲 ツメ 甲 (ツ) (毛:伝来当初)[注 21]   (ン)[注 20]
E5 平調 三本 八本 甲 ツ中 甲 ツメ
F5 勝絶 四本 九本 甲 ツ・レメ 甲 ツ・(レ)メ (毛:現代音楽等[注 21]/卜[注 22] [注 23]
F#5 下無 五本 十本 甲 レ中 甲 (レ) [注 23]
G5 双調 六本 十一本 甲 レ 甲 レ
Ab5 鳧鐘 七本 十二本 甲 チメ・ウ 甲 (チ)・ウ
A5 黄鐘 八本 一本 甲 チ 甲 チ
Bb5 鸞鏡 九本 二本 甲 ヒメ 甲 (ハ) (也:現代音楽等[注 21]/斗[注 22]
B5 盤渉 十本 三本 甲 ヒ中 甲 ハメ
C6 神仙 十一本 四本 甲 ヒ 甲 ハ [注 23]
C#6 上無 十二本 五本 甲 イメ 甲 (ヒ) [注 23]
D6 壱越 一本 六本 甲 イ・ ハ五 甲 ヒ・ ピ
Eb6 断金 二本 七本 ハ三 (ン)[注 20]
E6 平調 三本 八本 ハ四
F6 勝絶 四本 九本 大甲 ツ 大甲 ツ [注 23]
F#6 下無 五本 十本 大甲 レ中 大甲 (レ) [注 23]
G6 双調 六本 十一本 大甲 レ 大甲 レ (也:伝来当初)[注 21]
Ab6 鳧鐘 七本 十二本 大甲 チメ 大甲 (チ)
A6 黄鐘 八本 一本 大甲 チ 大甲 チ
Bb6 鸞鏡 九本 二本 大甲 ヒメ 大甲 (ハ)
B6 盤渉 十本 三本 大甲 ヒ中 大甲 ハメ
C7 神仙 十一本 四本 大甲 ヒ 大甲 ハ [注 23]
C#7 上無 十二本 五本 大甲 イメ 大甲 (ヒ) [注 23]
D7 壱越 一本 六本 大甲 ハ五 大甲 ピ
Eb7 断金 二本 七本 大甲 ハ三 大甲 タ
E7 平調 三本 八本 大甲 ハ四 大甲 四

各国の階名表記

ソルフェージュにおいては、日本では一般的にイタリア式音名をそのまま階名としても利用する(移動ド[注 24]。英語圏においては、イタリア式音名を基礎としつつ、母音をiに、は母音をeに変えて発音する(Reの場合は元々母音がeなのではaに変化する)ことが行われる。Do、Mi、Fa、Tiについては伝統的に使用される階名は無いが、佐藤賢太郎は発展的にこれらにも階名を割り当てている[6][7]

日本の教育音楽においては1970年ごろ、西塚智光 (1939-) は、1つの音には1つの音名があるべきとして、イタリア式音名を元に「ド デ レ リ ミ ファ フィ ソ サ ラ チ シ」という音名を提唱した。これにより、異名同音がなくなる。小学生メロディをドレミで歌うときや、リコーダー等の楽器を演奏するときに、同じ音なのに異なる音名を用いて、歌い間違えたり指使いが混乱するのを避ける効果がある。西塚は、自身の担当する音楽の授業でこの方式の音名を指導し、雑誌「教育音楽 小学版」(音楽之友社)で発表した。これらの階名・音名は移動ド・固定ドともに用いられる(次の図を参照)

音度記号 英階名 佐藤式 西塚式 日階名 ピッチクラス
I - De - 11
I Do Do Do 0
I Di Di De 1
II Ra Ra 1
II Re Re Re 2
II Ri Ri Ri 3
III Me Me 3
III Mi Mi Mi 4
III - Ma - 5
IV - Fe - ファ 4
IV Fa Fa Fa 5
IV Fi Fi Fi 6
V Se Se 6
V Sol So So 7
V Si Si Sa 8
VI Le Le 8
VI La La La 9
VI Li Li Chi 10
VII Te Te 10
VII Ti Ti Si 11
VII - To - 0

『20世紀の作曲』ヴァルター・ギーゼラー著音楽之友社刊には、12半音階の音名としてdo ro re te mi fa ra sol tu la bi si が提唱されたという記述がある。

「ドレミファソラシ」の問題点

聖ヨハネ賛歌のラテン語歌詞に起源をもつドレミ唱法(ドレミファソラシ)は、ソルフェージュの上で非合理的であるという欠点が次のように二つある。

子音の重複:sol(ソ)とsi(シ)がともにsで始まるため、頭文字での略式表記が不便である。そのため英語ではsiをtiとする。これにより、ドレミファソラシの頭文字だけをdrmfsltと略して書くことが可能になる。

母音の偏り:「ドレミファソラシ」はa(ア)e(エ)i(イ)o(オ)の母音は使うが、u(ウ)は使わない。ドイツでは16世紀以降これが問題となり、ボビザ法(Bobisation)やヘビザ法(Bebisation)、ダメニ法(Damenisation)などが提唱された[8]

今は使われなくなった階名表記

東アジアの「正楽」における「宮商角徴羽」

東アジアの宮廷音楽や文人音楽などの「正楽」においては、中国起源の「宮(きゅう)、商(しょう)、 角(かく)、 徴(ち)、 羽(う)」の五つの階名が用いられた(「五声」の項目を参照)。「宮商角徴羽」はそれぞれ西洋の音階の「ドレミソラ」にあたる。

「宮商角徴羽」の階名に、「変徴」と「変宮」の二つの変音を加えた階名を「七声」と言う。

半音に関る呼称のうち、「嬰」は♯、「変」は♭にあたる。

それ以外の呼び方については、時代や地域によってかなり出入りがある。例えば「閏」は、本来は「変」と同じく「♭」の意味だが、時代によっては重変音(♭♭)の意味で使われることもある。「清」は本来は「嬰」と同じく♯の意味だが、時代によっては別の意味で使われたこともある。

五声
七声 変徴 変宮
その他 嬰宮

変商

嬰商

変角

嬰角

清角

変徴

閏徴

嬰徴

変羽

嬰羽

清羽

(閏)

変宮

閏宮

対応する西洋の音階 ファ ファ♯

東アジアの「俗楽」における工尺譜

東アジアの「俗楽」(民間の通俗的な音楽)の階名表記では、中国起源の「工尺譜」による階名表記が用いられていた。これは西洋音階の「ソラシドレミファソラシド」にあたる階名を、それぞれ漢字で「合四一上尺工凡六五乙」と表記し、さらに1オクターヴ高い音についてはそれぞれの漢字の左横にニンベンを書き添えるものだった。
日本でも、西洋音楽の知識が普及する明治中期ごろまでは、明清楽や日本の俗楽の文字譜の表記法として、民間ではこの工尺譜が用いられていた。[9]

日本語での読み(唐音) ホー スイ イー ジャン チヱ コン ハン リウ ウー イー
対応する西洋の音階 ファ

(ファ♯)

その後、工尺譜は西洋伝来の数字譜や五線譜に取って代われたが、今でも中国の伝統音楽では調を表す専門用語として、工尺譜の階名が使われる(例えば「D調」を「小工調」、「C調」を「尺字調」と呼ぶ、など)。また、日本の雅楽の文字譜や、三線の文字譜「工工四」も、工尺譜の影響を受けている。

学校教育のヒフミ唱法

西洋式の「ドレミ唱法」が普及するまでのつなぎとして、明治11年から明治30年代の末まで学校教育で使われた和風の階名である。

明治8年(1875年)、伊沢修二はアメリカに渡って師範学校に留学し、翌年、ルーサー・ホワイティング・メーソンから直接「ドレミ唱法」のレッスンを受けた。伊沢は、DO RE MI FA SOL LA SIという当時の日本人の生活と何のつながりもない階名が、日本人にはなじまないであろうことに気付いた。伊沢はメーソンと相談した結果、日本語で12345678を表す「ヒー、フー、ミー、ヨー、イー、ムー、ナー、ヤー」を日本語の階名に転用することを決意した。明治11年に帰国した伊沢は、文部省に「唱歌法取調書」という報告書を提出し、その中で「ヒフミ唱法」を提唱した。以後、日本の学校教育では、明治30年代まで「ヒフミ唱法」が採用された。一方、音楽の専門家を養成するための東京音楽学校では、明治28年(1895年)、当時助教授だった小山作之助の提案により、「ヒフミ唱法」を廃止して、西洋式の「ドレミ唱法」を採用した。明治40年代以降は、小学校などの初等教育でも「ドレミ唱法」に置き換わった。当時の「ドレミ唱法」は「移動ド唱法」であった。[8]

ヒフミ唱法の名残は、「ヨナ抜き音階」などの語に見られる。また坪井栄の小説『二十四の瞳』中にて、昭和初期の音楽教育における世代ギャップも描かれており、明治期の音楽教育を受けてヒフミ唱法しかできない男性教師が、ドレミ唱法になじんだ生徒たちに笑われる場面がある。

オクターヴ表記

音名は、異なるオクターヴの音も同じに呼ぶので、それらを区別する必要がある場合がある。しかし、オクターヴ表記には定まったものがない。共通するのは、ハから上に1オクターヴ(厳密には重変ハから半音15個上の重嬰ロ)ごとに区切ることである。オクターブの違いを表す数字はピアノの最低音を1または0とするかピアノ中央を1とするかどちらかが多い。

日本でよく使われる呼び方は次の通りである。第1列はMIDIノートナンバー、第3列から第5列は各言語におけるヘルムホルツ式ピッチ表記法、最後列は国際式(国際ピッチ表記法、科学的ピッチ表記法)英語: Scientific pitch notation[10]である。

MIDI 音の範囲 日本語式 英語式 独語式 国際式
(MIDIの範囲外) 中央ハの6オクターヴ上から半音11個上のロまで 七点ハ - 七点ロ c7 - b7 c7 - h7 C10 - B10
120 - [注 25] 中央ハの5オクターヴ上から半音11個上のロまで 六点ハ - 六点ロ c6 - b6 c6 - h6 C9 - B9
108 - 119 中央ハの4オクターヴ上から半音11個上のロまで 五点ハ - 五点ロ c5 - b5 c5 - h5 C8 - B8
96 - 107 中央ハの3オクターヴ上から半音11個上のロまで 四点ハ - 四点ロ c4 - b4 c4 - h4 C7 - B7
84 - 95 中央ハの2オクターヴ上から半音11個上のロまで 三点ハ - 三点ロ c3 - b3 c3 - h3 C6 - B6
72 - 83 中央ハの1オクターヴ上から半音11個上のロまで 二点ハ - 二点ロ c2 - b2 c2 - h2 C5 - B5
60 - 71 中央ハから半音11個上のロまで 一点ハ - 一点ロ c1 - b1 c1 - h1 C4 - B4
48 - 59 中央ハの1オクターヴ下から半音11個上のロまで (片仮名)ハ - ロ c - b c - h C3 - B3
36 - 47 中央ハの2オクターヴ下から半音11個上のロまで (平仮名)は - ろ C - B C - H C2 - B2
24 - 35 中央ハの3オクターヴ下から半音11個上のロまで 下一点は - 下一点ろ C1 - B1 C1 - H1 C1 - B1
12 - 23 中央ハの4オクターヴ下から半音11個上のロまで 下二点は - 下二点ろ C2 - B2 C2 - H2 C0 - B0
0 - 11 中央ハの5オクターヴ下から半音11個上のロまで 下三点は - 下三点ろ C3 - B3 C3 - H3 C-1 - B-1
(MIDIの範囲外)[注 26] 中央ハの6オクターヴ下から半音11個上のロまで 下四点は - 下四点ろ C4 - B4 C4 - H4 C-2 - B-2

上記の表と五線譜やピアノの鍵盤との対応関係は下記の画像のようになる。

こういった表記法ではロやハに変化記号を付ける場合はその付け方によって異名同音でも違うオクターヴとみなされる。例:一点ロ(B4) = 二点変ハ(C5)、一点嬰ロ(B4) = 二点ハ(C5)(これらの音高が完全一致するのは平均律のとき)

日本語式では、片仮名の「ヘ」と、平仮名の「へ」を区別しにくいという問題が生じている。このこともあってか、現在では、日本でも日本語式より国際式の方が一般的に使われている。 国際式は中央ハをC4としているが、実際には、中央ハをC3、C4、C5のどれにするか各社により違う。

脚注

注釈

  1. ^ ドイツ語の発音は[ʦeː]だが、日本ではあえて「チェー」と発音する学派もある。
  2. ^ ドイツ語発音: [eːɪs]
  3. ^ ドイツ語の発音は[aːɪs]だが、日本の慣習的な発音は「アイス」。
  4. ^ ドイツ語発音: [ʦɪsʔɪs]
  5. ^ ドイツ語発音: [eːɪsʔɪs]
  6. ^ ドイツ語発音: [aːɪsʔɪs]
  7. ^ ドイツ語発音: [ʦɛsʔɛs]
  8. ^ ドイツ語発音: [ɛsʔɛs]
  9. ^ ドイツ語発音: [asʔas]
  10. ^ ドイツ語発音: [asʔɛs]
  11. ^ 本来の発音は「ソル」
  12. ^ イタリア語の発音は[si]であり、日本でも音楽高校・音楽大学などの専門の教育現場では「スィ」という発音が用いられる。
  13. ^ a b ここに掲げた呼び名は正確には音名というより運指名で、代表的なもののみ示した。実際には他にも特殊な運指やその名前がある。正律で一寸短くなるごとに同じ運指で出る音が半音上がる。
  14. ^ 都山流のカッコ付きの文字は、実際の楽譜では小文字で書かれる。
  15. ^ (廃絶楽器)は笙(表示音高)より1オクターブ低い。
  16. ^ ここに掲げた音程は正律で、実際には塩梅によって音程が細かく変動したり、半音~全音以上変動したりすることがある。
  17. ^ 大篳篥(廃絶楽器)は現行の篳篥(小篳篥、表示音高)より完全4度低い。
  18. ^ ここに掲げた音程の他、指孔半開によって鳧鐘や鸞鏡等の音も出せる。
  19. ^ 神楽笛は龍笛(表示音高)より全音低く、高麗笛は龍笛(表示音高)より全音高い。神楽笛と高麗笛の両者には「ン」がない。
  20. ^ a b c d 楽器の構造上は出すことができるが、実際の楽曲(少なくとも現行の古典曲)では用いられない。
  21. ^ a b c d 笙の也・毛については、伝来当初は也はG6、毛はD#5として簧が付けられていたが、現行の笙では通常簧が付けられておらず無音の管となっている。ただし現代音楽等では也をA#5、毛をF5として簧を付けた特別仕様の笙が使われることもある。
  22. ^ a b 笙についての古い文献には、現行の笙にはない譜字として卜・斗について記述されていることがある。日本の笙の元となったあるいは音律的に非常に近い関係にある、中国の唐時代や宋時代の笙では、19管の笙や、「義管笙」といって、17管の他に2本差し替え用の特別な竹を持つものが存在したようであり、前者の17管笙より2本多い分や、後者の差し替え用の竹が卜・斗であったとされる。正倉院に3個残されている笙はいずれも17管であるが、その竹の中にも差し替え用(義管)の卜・斗と見られるものがある。
  23. ^ a b c d e f g h 龍笛の五の音程については、吹き方による音の調整で大体F-F#の範囲を上下し、丅の音程についても同様にC-C#の範囲を上下する。
  24. ^ 日本では、明治初期には階名を数字譜にちなんで「ヒフミヨイムナ」と呼んでいた。例えば「ヨナ抜き音階」という呼称は当時のなごりである。文化デジタルライブラリー (舞台芸術教材で学ぶ > 日本の伝統音楽 > 歌唱編)https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc8/nattoku/nippon/rroin/index.html (2015-6-2閲覧)
  25. ^ 六点ロはMIDIの範囲外である。MIDIのノートナンバーの最高音は六点ト(127)である。
  26. ^ 下四点嬰ろ(0)・下四点重嬰ろ(1)はMIDIの範囲内である。

出典

  1. ^ 最相葉月著『絶対音感』小学館、1998年、159頁。ISBN 4-09-379217-8
  2. ^ 矢田部達郎著『言葉と心 : 心理学の諸問題』(盈科舎、1944年)
  3. ^ コンサーティーナ入門(4)西塚式音名表記法「ドデレリ」
  4. ^ 『音楽教育研究』No50、1970年6月号、音楽之友社
  5. ^ 古田庄平 「我が国の音楽教育における読譜の歴史的な変遷について[Ⅴ] ―<固定ド>と<移動ド>の音感と唱法の問題を根底に―」(長崎大学教育学部教科教育学研究報告, 16, pp.29-38; 1991 )
  6. ^ 佐藤式ソルフェージュ音節システムの説明 - 英語式音節の記述有(作曲家佐藤賢太郎の公式サイトより)
  7. ^ Shearer, Aaron (1990). Learning the Classical Guitar, Part 2: Reading and Memorizing Music. Pacific, MO: Mel Bay. p. 209. ISBN 978-0-87166-855-4. https://books.google.co.jp/books?id=gzI7056gnZ4C&pg=PA209&redir_esc=y&hl=ja 
  8. ^ a b 井上武士「日本における唱法の変遷」、『音楽教育研究』6/'70(1970年6月号)
  9. ^ 工尺譜の読み方について(明清楽資料庫)
  10. ^ ファイル:NoteNamesFrequenciesAndMidiNumbers.svg - Internationalの和訳

関連項目