「アラン・ムーア」の版間の差分
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{{other people|作家|ドラマー|アラン・ムーア (ドラマー)}} |
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{{Infobox |
{{Infobox writer |
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| name = アラン・ムーア |
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| caption |
| caption = アラン・ムーア(2008年) |
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| pseudonym = {{hlist|Curt Vile|Jill de Ray|The Original Writer{{Efn2|The Original Writer{{翻訳|原著者}}は、著作権の所在が争われている過去作が再版される際に、自身の名を載せることを拒んで用いた筆名である<ref>{{Cite web|url=http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/why-alan-moore-has-become-650954|title=Why Alan Moore Has Become Marvel's 'Original Writer'|last=McMillan|first=Graeme|website=The Hollywood Reporter|publisher= The Hollywood Reporter |date=2013-10-25|archiveurl=https://web.archive.org/web/20170810092627/http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/why-alan-moore-has-become-650954|archivedate=2017-08-10|accessdate= 2022-02-18}}</ref>。}}|Translucia Baboon}}{{Efn2| Translucia Baboon は1980年代に音楽活動を行ったときのステージ名である{{sfn|Parkin|2013|p=389}}。デイヴィッド・J([[ゴシック・ロック]]バンド、[[バウハウス (バンド)|バウハウス]]のメンバー)らと結成した The Sinister Ducks というバンドからは1983年にシングルがリリースされている{{Sfn|Parkin|2013|p=132}}。そのほか、Brilburn Logue の名で作詞を手掛けたこともある{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 2125/2302}}。}} |
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| birth_date = {{生年月日と年齢|1953|11|18}} |
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| period = [[1970年代]] - |
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| birth_date = {{生年月日と年齢|1953|11|18}} |
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| birth_place = {{GBR}}<br/>{{ENG}} [[ノーサンプトン]] |
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| occupation = [[漫画原作者]]・[[小説家]]・[[脚本家]] |
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| occupation = [[漫画原作者]]、[[漫画家]]、[[小説家]]<br />音楽家、魔術師、神秘家 |
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| period = |
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| genre |
| genre = SF、一般フィクション、ノンフィクション、スーパーヒーロー、ホラー |
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| notableworks = {{Unbulleted list |[[Vフォー・ヴェンデッタ]]|[[スワンプシング]]|[[ウォッチメン]]|[[フロム・ヘル]]|[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]|[[プロメテア]]<ref>{{cite web|url=https://www.britannica.com/biography/Alan-Moore|accessdate=2023-11-09|title=Alan Moore|last=Ray|first=Michael|publisher= Britannica|archivedate=2023-08-26|archiveurl=https://web.archive.org/web/20230826023447/https://www.britannica.com/biography/Alan-Moore}}</ref>}} |
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| spouse = {{Plainlist| |
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| notable_works = 『[[ウォッチメン]]』 |
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* フィリス・ムーア |
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| awards = |
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* [[メリンダ・ゲビー]](2007 - ) |
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| debut_works = |
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| children = {{Plainlist| |
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'''アラン・ムーア'''(Alan Moore、[[1953年]][[11月18日]] - )は[[イギリス]]出身の[[漫画原作者|漫画家]]・漫画原作者。代表作に『[[ウォッチメン]]』『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』『[[フロム・ヘル]]』などがある。小説の執筆や、舞台でのパフォーマンス活動も行っている。 |
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* [[リーア・ムーア]] |
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* アンバー・ムーア |
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'''アラン・ムーア'''({{Lang-en-short|Alan Moore}}、[[1953年]][[11月18日]] - )は、主に[[スクリプト (アメリカンコミック)|コミック原作]]で知られる[[イングランド人]]作家。子供向けのメディアと見なされていた1980年代の[[アメリカン・コミックス|米国コミック]]に文学性を持ち込み、文化的な地位を向上させたことで知られる{{sfn|Gray|2017|loc=No.199}}<ref>{{cite web|url=https://www.bbc.com/culture/article/20160809-watchmen-the-moment-comic-books-grew-up|accessdate=2022-03-04|title=Watchmen: The moment comic books grew up|publisher=BBC |website=BBC.com|date=2022-03-04|archivedate=2021-04-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20210419202545/https://www.bbc.com/culture/article/20160809-watchmen-the-moment-comic-books-grew-up }}</ref>{{sfn|Wandler|2022}}。代表作『[[ウォッチメン]]』は[[スーパーヒーロー]]・ジャンルの再解釈と洗練された語りによって後世に多大な影響を与えた。 |
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== 概要 == |
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1970年代後半に[[イギリス|英国]]の[[地下出版|アンダーグラウンド出版物]]で[[1960年代のカウンターカルチャー|カウンターカルチャー]]色の強いコミックを描き始めた。[[漫画原作者|原作者]]に転向して [[:en:2000 AD (comics)|''2000 AD'']] や [[:en:Warrior (comics)|''Warrior'']] などの[[サイエンス・フィクション|SF]]コミック誌に寄稿するようになると、スーパーヒーロー・コミックを現代的に再定義する『[[マーベルマン/ミラクルマン|マーベルマン]]』(1982年)や政治[[スリラー]]『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』(1982年)で名を上げた。1983年に米国の大手出版社[[DCコミックス]]に起用され、『[[スワンプシング|ザ・サガ・オブ・スワンプシング]]』誌を皮切りに[[スーパーマン (架空の人物)|スーパーマン]]のようなメジャーなキャラクターを手掛けてスター作家となり、米国コミックが英国的な感覚を取り入れて発展する流れを作り出した。コミック史に残る成功を収めたオリジナル作品『ウォッチメン』(1986年)や『[[バットマン: キリングジョーク]]』(1988年)はヒーローの内面描写や社会的な観点を導入してジャンル全体の行方に影響を与えた。 |
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子供向けでつまらないものとして退けられがちなアメリカンコミックの世界に、成熟した文学的な感覚を持ち込んだ功績により評価されている。ムーアの実験は、文学からの影響や成人向けのテーマ、挑戦的な題材などの作品内容にとどまらず、独特な効果の採用や、文字と絵の異なる組み合わせなどの表現形式にまで及ぶ。ムーアの作品は、[[ウィリアム・S・バロウズ]]、[[トマス・ピンチョン]]、[[イアン・シンクレア]]などの文学者や、ニューウェーブSF作家の[[マイケル・ムアコック]]、ホラー作家の[[クライヴ・バーカー]]、映像作家の[[ニコラス・ローグ]]など、幅広いジャンルからの影響を受けている。コミックに成人向けのテーマを持ち込んだ先駆的作品『The Adventures of Luther Arkwright(ルーサー・アークライトの冒険)』で知られるイギリスの漫画家[[ブライアン・タルボット]]は、間違いなくムーアの作品に最も大きな影響を与えている。 |
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1980年代末からは『ウォッチメン』の著作権を獲得できなかったことなどが理由でDC社を離脱し{{sfn|Khoury|2003|p=123}}、スーパーヒーロー・ジャンルを中心とするメインストリーム・コミック界{{Efn2|「メインストリーム・コミック」とは、歴史的に[[アメリカン・コミックス|コミックブック]]出版の主流を占めてきたスーパーヒーロー・ジャンルとその周辺のファンタジーや冒険ものを意味する{{sfn|Ayres|2021|p=215}}。}}にも背を向けて、自己出版や小出版社での活動を中心にし始めた。歴史と社会の総体を描いた『[[フロム・ヘル]]』(1989年)や、[[児童文学]]と[[ポルノグラフィ]]を組み合わせた ''[[:en:Lost Girls (graphic novel)|Lost Girls]]''(1991年)はアート志向の野心作だった。その後、新興のスーパーヒーロー系出版社[[イメージ・コミック|イメージ・コミックス]]を経て{{仮リンク|アメリカズ・ベスト・コミックス|en|America's Best Comics}}という出版レーベルを立ち上げ、[[ヴィクトリア朝文学]]から登場人物を借りた『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』(1999年)や、[[神秘学]]による精神の解放を描いた『[[プロメテア]]』(1999年)など{{sfn|Ayres|2021|p=145}}、創作や集合的想像力をテーマとする作品を残した{{sfn|Ayres|2021|p=115}}。キャリア後半にはコミック業界やファンダムに対して批判的な姿勢を強めていき、2019年にコミック原作を引退した。小説家としては2016年の長編 [[:en:Jerusalem (Moore novel)|''Jerusalem'']] など新作の発表を続けている。 |
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ムーアは、「{{仮リンク|儀式魔術|label=儀式魔術師|en|Ceremonial magic}}でもあり、[[古代ローマ]]の蛇神{{仮リンク|グリュコーン|en|Glycon}}を崇拝している」と主張している。 |
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ムーアはポップカルチャーで引用されることが多く{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 117–126, 181/2302}}{{Sfn|Carter|2011}}、文芸家や映像作家への影響も大きいことで知られている<ref name=guardianwhy/><ref name=guardiangoodbye>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2019/jul/18/goodbye-alan-moore-the-king-of-comics-bows-out|accessdate=2022-02-02|title=Goodbye, Alan Moore: the king of comics bows out|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2019-07-18|archivedate=2022-02-16 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220216094955/https://www.theguardian.com/books/2019/jul/18/goodbye-alan-moore-the-king-of-comics-bows-out }}</ref>。奇人としても有名である<ref>{{cite web|url=https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/comics/article/31998-catching-up-with-alan-moore.html|accessdate=2022-03-03|title=Catching Up with Alan Moore|date=2005-11-08|publisher= PWxyz|website=Publishers Weekly|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220514030211/https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/comics/article/31998-catching-up-with-alan-moore.html |archivedate=2022-05-14}}</ref>。[[オカルト|神秘主義者]]<ref name="Babcock">{{Cite journal|last=Babcock|first=Jay|date=May 2003|title=Magic is Afoot: A Conversation with Alan Moore about the Arts and the Occult|url=http://www.arthurmag.com/2007/05/10/1815/#more-1815|journal=Arthur Magazine|issue=4|accessdate=2022-02-05}}</ref>、{{仮リンク|儀式魔術|en|Ceremonial magic|label=儀式魔術師}}、[[アナキズム|アナキスト]]<ref name="Heidi, pt1">{{Cite web|url=http://www.comicon.com/thebeat/2006/03/a_for_alan_pt_1_the_alan_moore.html|last=MacDonald|first=Heidi|title=A for Alan, Pt. 1: The Alan Moore interview|date=2005-11-01|website=The Beat|publisher=Mile High Comics/Comicon.com|accessdate=2022-02-18|archiveurl=https://web.archive.org/web/20060505034142/http://www.comicon.com/thebeat/2006/03/a_for_alan_pt_1_the_alan_moore.html|archivedate=2006-05-05}}</ref>でもあり、作品の多くでこれらのテーマを扱っている。神秘学関連の[[アバンギャルド|前衛的]]な[[スポークン・ワード]]公演を行うこともある。自作のハリウッド映画化には否定的だが、その意思に反して『フロム・ヘル』(2001年)、『[[リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い|リーグ・オブ・レジェンド]]』(2003年)、『[[Vフォー・ヴェンデッタ (映画)|Vフォー・ヴェンデッタ]]』(2005年)、『[[ウォッチメン (映画)|ウォッチメン]]』(2009年)などが公開されるに至っている。 |
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ムーアの作品は、これまで数多く映画化、ドラマ化されているが、ムーアはすべての作品において一切の協力を拒んでおり、原作者としてクレジットされる事すら拒否している。例えば『ウォッチメン』は、映画版とドラマ版が作られているが、いずれも作画を担当したデイヴ・ギボンズのみが原作者として表記されている。 |
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== 来歴 == |
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=== 生い立ち === |
=== 生い立ち: 1953年-1978年 === |
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[[ファイル:Northampton_town_centre_-_geograph.org.uk_-_1411176.jpg|左|サムネイル|ムーアは[[ノーサンプトン]](写真)の貧しい地区で生まれ育ち、高校をドロップアウトした。<br/>{{行内引用|{{interp|20歳前後のころ}} ずっと自分は特別なんだ、重要な人間なんだと思っていた。… 自分の状況がどれほどひどいか分かっていなかった。とにかくなんとしても社会に報復するという考えがあった}}{{Sfn|Parkin|2013|p=9}}]] |
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[[1953年]][[11月18日]]、[[イングランド]]地方[[イースト・ミッドランズ]][[ノーサンプトンシャー]][[ノーサンプトン]]にて、[[醸造所]]の労働者アーネスト・ムーアの子として生まれ、[[労働者階級]]が多数を占める街で生まれ育った。ノーサンプトンの中でも特に貧しい土地として知られていたこの故郷をムーアは深く愛し、その土地に住む人々との繋がりを大切にしているとインタビューで答えている。子供時代から[[図書館]]で様々な本を読み耽り、独学で幅広い知識や雑学を身に付けるなど読書や知識収集を好んだ。またコミックや小説などの創作にも興味を示し、[[1960年代]]には既に雑誌の読者欄へ絵や文章を投稿する日々を送っていた。 |
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1953年11月18日、[[ノーサンプトン]]に生まれる<ref name=britishcouncil>{{cite web|url=https://literature.britishcouncil.org/writer/alan-moore|accessdate=2022-01-12 |
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|title=Alan Moore |website=British Council Literature|publisher=British Council|date=2021-11-18|archivedate= 2022-01-11|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220111165536/https://literature.britishcouncil.org/writer/alan-moore }}</ref>。共に暮らす家族は醸造所に勤める父アーネストと印刷労働者の母シルヴィア、弟、そして迷信深いが威厳ある{{行内引用|ヴィクトリア朝風の女家長{{sfn|Moore|1990a|p=58}}}}こと母方の祖母だった{{sfn|Parkin|2013|p=23}}。[[労働者階級]]の一家は17世紀以前から代々当地に住んでいた{{Sfn|Khoury|2003|pp=11–13}}。[[フレスコ画]]を生業にしていた父方の曾祖父は放蕩家で{{Sfn|Khoury|2003|p=21}}、パブで[[カリカチュア]]を描いて支払いの代わりにしていたという<ref name=guardianinterview/>。しかしムーアの両親の代には芸術や文学とは無縁だった{{Sfn|Moore|1990a|p=59}}。 |
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ムーアの生家は屋外便所の古い建物だったが、電気が通っているだけ恵まれている方だった{{sfn|Parkin|2013|p=22}}。ノーサンプトンの「バロウズ{{Efn2|[[Wikt:en:borough|The Boroughs]]、現在は Spring Boroughs{{sfn|Parkin|2013|p=22}}。}}」地区は英国でも有数の貧困地域で{{sfn|Parkin|2013|p=8}}、識字率が低く公共サービスも乏しかったがその住民とコミュニティには愛着を持った{{Sfn|Khoury|2003|pp=13–16}}。幼いムーアは金銭的な豊かさより優先すべきものがあると教えられた<ref name=guardianinterview/>。[[コミックス・スタディーズ]]研究者ジャクソン・エアーズは<ref>{{Cite web|url=https://imagetextjournal.com/notes-on-contributors-2/|title=Notes on Contributors|website=ImageTexT|publisher=the Department of English, the University of Florida|accessdate=2022-07-11|archivedate= 2022-06-25|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220625134235/https://imagetextjournal.com/about/}}</ref>、ムーアは労働者階級の育ちを通じて[[共同体主義]]、個人の対等、自主自律の感覚をバランスよく身に着けたと書いている{{sfn|Ayres|2021|p=11}}。 |
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一方、正規教育については[[小学校]]の時点までは優等生として好成績を修め、[[:en:Eleven plus exam|Eleven plus exam]]([[初等教育]]修了試験の一種)を経て[[グラマースクール]]に進む許可を得た。しかし奔放なムーアは反抗的な生徒として教師から敵視される存在になり、17歳の時に学内での[[LSD (薬物)|LSD]]密売で放校処分となった。この件についてムーアは「麻薬の売人としてはセンスがなかった」と冗談交じりに回想している。因みにLSDについては人に勧める気はないと断った上で「素晴らしい体験だった」と発言している。 |
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5歳で読むことを覚え、地元の図書館に通った{{sfn|Parkin|2013|p=25}}。高度な教育を受けなかった両親も息子には読書を勧めた{{sfn|Khoury|2003|p=16}}。ムーアは[[サイエンス・フィクション|SF]]、魔術、[[ファンタジー]]、[[神話]]や[[伝説]]のように現実から離れたジャンルを好んでいた{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|p=27}}。初等学校に入学するころコミックを読み始めた{{Sfn|Khoury|2003|p=31}}。[[:en:The Topper (comics)|''The Topper'']] や [[:en:The Beezer|''The Beezer'']] のような英国の週刊コミック誌を手始めに、やがて貨物船の[[バラスト|底荷]]として米国から流れてくる『[[フラッシュ (DCコミックス)|フラッシュ]]』『[[バットマン|ディテクティヴ・コミックス]]』『[[ファンタスティック・フォー]]』などを漁るようになった{{sfn|Parkin|2013|p=19}}。労働者階級の現実から一歩も出ない英国コミック誌に比べて{{Sfn|Sandifer|2019|p=126}}、米国のヒーローコミックに描かれる大都市は未来世界のように見えた<ref name=allreviewsyanashita/>{{sfn|Parkin|2013|p=12}}。数年のうちにヒーローの活躍よりも作品の仕掛けや作者の意図に興味を持ち始め{{sfn|Sandifer|2019|p=514}}、自身でもコミックを描き始めると友人に回覧して小銭を集めては子供支援団体に募金した<ref name=guardianinterview/>{{sfn|Parkin|2013|p=26}}。 |
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===初期の活動=== |
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放校後から数年は清掃会社の掃除夫や革製品工場の職人、ガス会社の作業員など様々な職を転々としていたが、1971年に付き合っていた恋人と一度目の[[結婚]]してから徐々に[[風刺漫画]]家としても活動する様になった。作曲家[[クルト・ヴァイル]]の名をもじったカート・ヴァイルの筆名を用いて、音楽雑誌[[ニュー・ミュージカル・エクスプレス|NME]]などに幾つかの[[アンダーグラウンド・コミック]]風の[[一コマ漫画]]を発表した。ノーザンツ・ポスト紙では、[[ジル・ド・レイ]]の筆名で漫画『Maxwell the Magic Cat(魔法の猫マクスウェル)』を1986年まで週刊連載した。 |
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初等学校時代、学力と体格に優れたムーアは自己肯定感にあふれ{{行内引用|ちょっとした神様気取り}}だった。中等教育に進むにあたって{{仮リンク|イレブンプラス (試験)|en|Eleven-plus|label=イレブンプラス}}試験に合格し、大学進学者向けの上位校([[グラマースクール]])への入学資格を得た{{sfn|Parkin|2013|p=26}}。そこで初めて教育の高い[[中流階級]]と出会い、首席の優等生から最底辺になったことを知って衝撃を受けた{{sfn|Parkin|2013|pp=27–28}}。やがて学校を嫌うようになり、勉強にも興味を持てず、公教育には子供に{{行内引用|時間順守、服従、退屈への順応}}を教え込む{{行内引用|隠されたカリキュラム}}があると考えるようになった{{Sfn|Khoury|2003|pp=17–18}}。 |
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作画家としては生計を立てられないと見極めを付けたムーアは、原作に専念することを決意し、[[マーベル・コミック|マーベル]]UKの『2000AD』誌と『ウォリアー』誌に漫画原作を投稿した。作画のアラン・デイヴィスと組んだ『Captain Britain([[キャプテン・ブリテン]])』は人気を博し、 ムーアが手掛けた『D.R. and Quinch(D・Rとクィンチ)』や『The Ballad of Halo Jones(ヘイロー・ジョーンズのバラード)』は『2000AD』誌の看板漫画となった。しかし、作者の権利が軽んじられていたことに不満を募らせたムーアは、『Halo Jones』を未完のままにして、1986年に『2000AD』誌を去った。この後のムーアは、複数の出版社を転々と渡り歩くことになる。 |
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1960年代後半から黎明期のコミック[[ファンジン]]で詩やエッセイ、イラストレーションを発表し始め、ファン活動を通じて後の共作者の多くと知り合った<ref name=britishcouncil/>{{sfn|Parkin|2013|p=32}}<ref name=quietus2010>{{cite web|url=https://thequietus.com/articles/04603-alan-moore-interview-unearthing-2 |accessdate=2022-02-08|publisher= The Quietus|title= Hipster Priest: A Quietus Interview With Alan Moore|date=2010-07-13<!--Wayback Machine でアーカイブ化に失敗-->}}</ref>{{Efn2|このころ知り合った中には、{{仮リンク|ケヴィン・オニール|en|Kevin O'Neill (comics)}}(『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』)、{{仮リンク|デイヴィッド・ロイド|en|David Lloyd (comics)}}(『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』)、{{仮リンク|ブライアン・ボランド|en|Brian Bolland}}(『[[バットマン: キリングジョーク]]』)、{{仮リンク|デイヴ・ギボンズ|en|Dave Gibbons}}(『[[ウォッチメン]]』)がいる{{sfn|Parkin|2013|p=31}}。}}。その中でも{{仮リンク|スティーヴ・ムーア (漫画家)|en|Steve Moore (comics)|label=スティーヴ・ムーア}}(血縁なし)からは、後のコミック界入りや魔術への入門で大いに影響を受けることになる{{sfn|Parkin|2013|p=29}}。当時の英国ファンダムは[[ヒッピー|ヒッピー文化]]色が強く、ムーアの人格形成には[[1960年代のカウンターカルチャー]]が深く根差された{{sfn|Parkin|2013|p=32}}。ムーアは学校でも詩の同人誌 ''Embryo''{{翻訳|胚、萌芽}}を出したが{{sfn|Parkin|2013|p=33}}{{Sfn|Khoury|2003|pp=33–34}}、「[[マザーファッカー]]」という言葉を載せたことが元で校長から発禁にされた{{sfn|Parkin|2013|p=34}}。 |
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この時期のムーアの『ウォリアー』誌に掲載された主要作品としては、1950年代の[[スーパーヒーロー]]を革新的な方法で復活させた『マーヴェルマン』(北米では版権問題により、『ミラクルマン』と改題された)、近未来の英国[[ファシスト政権]]と戦う無政府主義のテロリストを描く『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』、[[吸血鬼]]と[[人狼]]の一家が登場するコメディ『The Bojeffries Saga(ボージェフリーズ・サーガ)』が挙げられる。 |
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1971年、[[ティモシー・リアリー]]の思想に影響を受けて校内で幻覚剤[[LSD (薬物)|LSD]]を売買したことでグラマースクールを放校された{{sfn|Khoury|2003|p=18}}{{sfn|Parkin|2013|p=38}}{{Sfn|Berlatsky|2014|p=711}}。校長は近隣の学校に通達を出し、ムーアが{{行内引用|在校生の風紀に悪影響を与える}}から入学させないように伝えたという{{Sfn|Khoury|2003|p=18}}<ref name=bbcroots>{{Cite news|url=http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/7307303.stm|title=Comic legend keeps true to roots|last=Rigby|first=Nic|newspaper=BBC News|date=2008-03-21|accessdate=2022-02-05|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090311235237/http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/7307303.stm|archivedate=2009-03-11}}</ref>。型にはまらない息子の個性を認めていた両親もこれには落胆した。ムーアは両親が亡くなる1990年代までドロップアウトした理由を公には語らなかった{{sfn|Parkin|2013|pp=33, 38}}。 |
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=== メインストリーム業界における活躍 === |
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[[Image:Alan Moore.jpg|thumb|right|アラン・ムーア(2006年)]] |
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ムーアのイギリスでの活動に注目した[[DCコミックス]]の編集者レン・ウィーンは、1983年にDCの低迷タイトルの一作であった『[[スワンプシング]]』の原作者としてムーアを起用した。ムーアは、基本的な設定を大きく変更し、ホラーとファンタジーの形式によって社会や環境問題を描く実験的なストーリーを描き、たちまち人気作品となる。 |
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{{Quote|quote=LSDは素晴らしい経験だった。人に勧めるつもりはないが、私には … 現実が確定したものではないという考えを叩きこんでくれた。いつも見ている現実は一つの確かな現実だが、それがすべてではない。ほかのものが同じくらい確かな意味を持つような別の視点が存在する。そう知ることで私は根底から変わった。|source=アラン・ムーア(2003年){{Sfn|Khoury|2003|pp=19–20}}}} |
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『スワンプシング』を成功させたムーアは、DCから引き続き、さまざまな作品を任される。これらの仕事には[[グリーンアロー]]やオメガマン、『ヴィジランテ』における二編、さらに[[バットマン]]や[[スーパーマン]]の原作が含まれていた。中でも、スーパーマンの最終章として描かれた『[[スーパーマン: ザ・ラスト・エピソード]]』と、悪役ジョーカーのキャラクターを掘り下げ後の作品に大きな影響を与えた『[[バットマン: キリングジョーク]]』は傑作として知られる。 |
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それから数年はトイレ清掃や{{仮リンク|皮なめし|en|Tanning (leather)|label=皮革工場}}の仕事をしながら実家で暮らした<ref name=heraldscotland>{{Cite web|url=http://www.heraldscotland.com/news/13207942.Graphic_Content__from_the_archive___Alan_Moore/|title=Graphic Content: from the archive - Alan Moore|publisher=HeraldScotland|accessdate=2022-01-11|date=2015-03-30|archivedate= 2022-01-11|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220111170521/https://www.heraldscotland.com/opinion/13207942.graphic-content-archive---alan-moore/}}</ref>。学校の友人とは縁が切れ、社会への怒りを抱えていた{{Sfn|Khoury|2003|pp=20–21}}。このころは ''Embryo'' を通じて加入した{{仮リンク|アーツ・ラボ|en|Arts Lab|label=ノーサンプトン・アーツ・ラボ}}の活動が数少ない他人との交流の機会だった{{sfn|Parkin|2013|p=42}}。アーツ・ラボは実験的・反体制的な芸術運動で、ジャンルの異なる芸術家の協同を趣旨の一つとしていた{{sfn|Gray|2017|loc=No. 440}}{{sfn|Parkin|2013|pp=42–44}}。ノーサンプトンのグループはせいぜい数十人の無名の集まりにすぎなかったが、ムーアはそこで作詞や劇作、演技に目を開かれた{{sfn|Parkin|2013|pp=42–45}}{{Sfn|Moore|1990a|p=62}}。特に[[ポエトリーリーディング|詩の朗読]]には自身でも才能を感じた{{sfn|Parkin|2013|p=45}}。これらの経験は後の執筆や公演活動の基礎となった{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 1866/2461}}{{sfn|Parkin|2013|pp=44–45}}。 |
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1986年、代表作である『[[ウォッチメン]]』の連載を開始(作画はデイヴ・ギボンズ)、翌1987年にグラフィックノベルとして一冊にまとめられると、ムーアの名声は揺るぎないものとなった。スーパーヒーローが実在するもうひとつのアメリカ現代史を構築し、核戦争の影に怯える冷戦下の世界での探偵劇が描かれる。『ウォッチメン』に登場するスーパーヒーローはいずれも極めて人間的であり、物語は複数の視点から複雑に描かれている。宿命論や自由意志、倫理観といった、それまでのメインストリーム・コミックにおいて重要視されていなかった哲学的な問題に取り組んでいる。 |
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1970年代にもヒーローコミックは読み続けていたが、瑣末な設定にこだわるコミックファン一般とは距離を置くようになった{{Sfn|Moore|1984|p=78}}。当時の作品の中では[[ジャック・カービー]]の「{{仮リンク|フォースワールド|en|Fourth World (comics)}}」や[[フランク・ミラー]]期の『[[デアデビル]]』に引きつけられた{{sfn|Parkin|2013|pp=54–55}}{{sfn|Moore|1990a|pp=65–66}}。それ以上に熱中したのはユーモア誌『[[MAD (雑誌)|MAD]]』や{{sfn|Moore|1990a|p=65}}、[[アート・スピーゲルマン]]と{{仮リンク|ビル・グリフィス|en|Bill Griffith}}による前衛的な [[:en:Arcade (comics magazine)|''Arcade: The Comics Revue'']] 誌だった。後のエッセイでは同誌を{{行内引用|[[アンダーグラウンド・コミックス]]というそもそもの思想のほとんど完璧な到達点}}と呼んでいる{{sfn|Parkin|2013|pp=55–56}}。 |
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同時期の[[フランク・ミラー]]の『[[バットマン: ダークナイト・リターンズ]]』や[[アート・スピーゲルマン]]の『[[マウス (オルタナティヴ・コミック)|マウス]]』、[[ギルバート・ヘルナンデス]]の『[[ラブ・アンド・ロケッツ]]』と並び、『ウォッチメン』は1980年代後半を代表する大人向けのアメリカン・コミックの一冊となり、ムーアはたちまちコミック業界における有名人となった。この注目を嫌ったムーアはファンダム活動を避けるようになり、コミックコンベンションにも長らく参加していない。 |
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1973年ごろに芸術関係の集まりを通じて出会ったフィリス・ディクソンと結婚してアパートに移り、{{仮リンク|ガス委員会|en|Gas board}}の下請け会社で事務仕事をした{{sfn|Parkin|2013|p=48}}{{Sfn|Khoury|2003|p=46}}。しかし仕事に満足できず、芸術的な活動で生計を立てたいと考えた{{Sfn|Khoury|2003|pp=34–35}}。1974年から翌年にかけてローカル紙 ''Anon'' にアマチュアとして[[コミックストリップ]]{{efn2|新聞漫画。形式は横一列に並べたコマ割りを基本とする{{sfn|Gavaler|2019|p=289}}。}} ''Anon E. Mouse''{{翻訳|アノニーマウス}}を描いたが、掲載紙の穏健な政治志向に合わず5回で終わった{{sfn|Parkin|2013|p=49}}。1977年の秋にフィリスが妊娠すると、赤ん坊の顔を見てしまえば決心が鈍ると考えてすぐに勤めを辞め、週42.50ポンドの{{仮リンク|求職者手当 (イギリス)|en|Jobseeker's Allowance|label=失業給付}}に頼りながらコミック作家を目指して本格的に活動を始めた{{Sfn|Sandifer|2019|p=94}}。 |
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また、『ウォッチメン』は、『スワンプシング』以来のムーアとDCとの確執を更に広げた点でも特筆される。DCはこのシリーズに登場するスマイリーバッジ・セットの限定版を販売したが、このセットはタイアップ商品ではなく景品であると主張し、ムーアとギボンズに対しロイヤリティを支払わなかった。これがきっかけでDCへの不信感をつのらせたムーアは当時進められていた企画『トワイライト・オブ・スーパーヒーローズ』を放棄し、以後DCとは仕事をしないと宣言するに至る。 |
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=== 漫画家としての活動初期: 1978年-1983年 === |
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英国時代の代表作である『マーヴェルマン』はアメリカでは[[イクリプス・コミック]]より(マーベル・コミックからの商標権侵害に対する苦情により)『ミラクルマン』と改題されて再版された。出版社に対するムーアや作画家らの著作権の主張にも関わらず、ムーアのストーリーは終了させられ、『ミラクルマン』のキャラクターは新たな原作者の[[ニール・ゲイマン]]と作画家のマーク・バッキンガムに引き継がれた。『ミラクルマン』のキャラクターに対する法的な所有権は不明確なものとなり、長きにわたって再販されない幻の作品となっていた。21世紀になってようやく再販されたが、ムーアは単行本に自身の名前を出すのを拒否した。 |
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1978年2月、アーツ・ラボの人脈を通じて[[オックスフォード]]のアングラ隔週刊紙 ''Back Street Bugle'' に ''St. Pancras Panda''{{翻訳|パンダの[[セント・パンクラス駅|セント・パンクラス]]{{Efn2|「[[くまのパディントン]]」のパロディ{{sfn|Parkin|2011|loc=No.202/2302}}。}}}}を無償で寄稿し{{Sfn|Parkin|2013|p=62}}、翌年3月まで描き続けた{{Sfn|Parkin|2013|p=66}}。『MAD』誌に影響を受けた1回10–15コマのギャグ漫画だった{{Sfn|Parkin|2013|p=62}}。初めて対価を得たのは、1978年10月に音楽週刊誌『[[ニュー・ミュージカル・エクスプレス|NME]]』に掲載された[[エルヴィス・コステロ]]のイラストレーションだった{{Sfn|Parkin|2013|pp=62–63}}。翌年、ヒッピー文化の影響が強い音楽雑誌 ''Dark Star'' に友人の原作者スティーヴ・ムーアと組んだ連作を寄稿した{{sfn|Parkin|2013|p=64}}。失業給付を受給しながら収入を得ていることを明るみに出したくなかったため{{Sfn|Sandifer|2019|p=94}}、作曲家[[クルト・ヴァイル]]をもじった Curt Vile{{翻訳|「不愛想で下品な」}}という筆名を使っていた{{Sfn|Berlatsky|2014|p=711}}。 |
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''Dark Star'' とほぼ同時に発行数25万部の音楽週刊誌 [[:en:Sounds (magazine)|''Sounds'']] で{{行内引用|[[レイモンド・チャンドラー|チャンドラー]]を気取った口調の}}探偵が「ロックンロールの死」を調査する[[アート・スピーゲルマン|スピーゲルマン]]風の作品 ''Roscoe Moscow''(1979年–1980年)が連載された{{sfn|Parkin|2013|pp=64–65, 68}}<ref>{{cite web|url=http://sequart.org/magazine/8752/alan-moore-roscoe-moscow/|accessdate=2022-01-10|title=Alan Moore’s Roscoe Moscow|publisher= Sequart Organization|date=2008-08-13|first=Andrew|last=Edwards|archivedate=2021-03-01 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20210301110130/http://sequart.org/magazine/8752/alan-moore-roscoe-moscow/}}</ref>。同誌では Curt Vile として音楽評やインタビュー記事の執筆も行った{{Sfn|Parkin|2013|p=65}}。''Roscoe Moscow'' が終わるとSFパロディ ''The Stars My Degradation''{{翻訳|わが落ち行くは星の群{{Efn2|タイトルはSF小説 ''The Stars My Destination''{{small|(邦題: [[わが赴くは星の群]])}}の引用{{Sfn|Berlatsky|2014|p=711}}。}}}}(1980年–1983年)が後を引き継いだ{{Sfn|Parkin|2013|pp=64, 68–69}}{{sfn|Parkin|2011|loc=No.207-212/2302}}。基本的にムーアが一人で描いていたが、連載の終盤は多忙になったためスティーヴ・ムーアに原作を任せた{{sfn|Parkin|2013|p=132}}。この時期の作品は英国[[アンダーグラウンド・コミック]]の伝統に沿っており、労働者階級の卑俗な視点から権威や良識に対抗するというものだったが{{sfn|Gray|2017|loc=No. 448}}、''Sounds'' 連載作には後の作品にも通じる[[メタフィクション|自己言及性]]や凝ったコマ割りがすでに見て取れる{{sfn|Ayres|2021|p=26}}{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|loc="Introduction", No. 57/5874}}。 |
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ムーアとデヴィッド・ロイドはDCにおいて『Vフォー・ヴェンデッタ』の連載を再開し、『Vフォー・ヴェンデッタ』はフルカラーのグラフィックノベルとして出版された。しかし、DCがコミックにも年齢制限を設けるとした事に対し、ムーアは[[フランク・ミラー]]や[[ハワード・チェイキン]]と共に争い、『Vフォー・ヴェンデッタ』を完結させた後にDCでの仕事を打ち切った。 |
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1979年から地方紙 [[:en:Northampton Herald & Post|''Northants Post'']] で[[コミックストリップ]] ''[[:en:Maxwell the Magic Cat|Maxwell the Magic Cat]]''{{翻訳|魔法の猫マクスウェル}}を描き始めた(筆名 Jill de Ray){{sfn|Parkin|2013|p=187}}{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 212–216/2302}}。「子供向けに」という編集者の注文に応じたシンプルな絵柄の5コマ漫画だが、政治的テーマや、コマ漫画の構造をネタにした実験的なユーモアが紛れ込むことがあった{{Sfn|Sandifer|2019|p=126}}{{sfn|Parkin|2013|p=67}}。この作品はムーアにとって地元の気楽な仕事であり、原作者として大成した後の1986年まで連載を続けていた{{Sfn|Khoury|2003|p=61}}。 |
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=== インディペンデントでの活動 === |
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この後のムーアは、イクリプス・コミックから出版された[[中央情報局|CIA]]による諜報活動の歴史を描いた作品『Brought to Light』(作画/ビル・シェンキェウィッツ)や、ムーア自身により新設された出版社マッド・ラブから出版された、反同性愛法への抗議運動であるアンソロジー『AARGH (Artists Against Rampant Government Homophobia)』などの様々な作品を手掛けた。 |
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これらの活動を通して、自身の作画の才能に見切りをつけて原作に専念すべきだと考えるようになった。画力不足を[[点描]]で補っていたため原稿を量産できなかったことも大きかった{{Sfn|Sandifer|2019|pp=95–97}}。原作[[スクリプト (アメリカンコミック)|スクリプト]](脚本)の書き方はスティーヴ・ムーアから教わった{{sfn|Parkin|2013|pp=60–61}}。執筆先としてシニカルなSFで人気があった [[:en:2000 AD (comics)|''2000 AD'']] 誌{{sfn|Parkin|2013|p=58}}{{Efn2|当時の週間販売部数は12万部だった{{sfn|Parkin|2013|p=102}}。}}に狙いを定め、人気連載「{{仮リンク|ジャッジ・ドレッド (コミック)|en|Judge Dredd|label=ジャッジ・ドレッド}}」のスクリプトを書いて投稿した。同作はオリジナルの原作者{{仮リンク|ジョン・ワグナー|en|John Wagner}}が書いていた時期で、新人の原稿は求められていなかったが、副編集長<!--sub-editor-->{{仮リンク|アラン・グラント|en|Alan Grant (writer)}}は投稿作に将来性を見て取った{{Sfn|Sandifer|2019|p=213}}。ムーアはグラントに示唆されて投稿を続け、定期的に[[読み切り]]が掲載されるようになった{{sfn|Parkin|2013|pp=61, 71}}。同誌の [[:en:Tharg's Future Shocks|''Future Shocks'']] はひねりを利かせたSF短編が掲載される連載枠で{{sfn|Moore & Sobel|2016|p=19}}、多くのコミック作家が修業時代に携わったことで名高く{{sfn|Ayres|2021|p=28}}、ムーアも後に{{行内引用|ストーリーの組み立て方を学ぶにはこの上ない教育だった}}と回想している{{Sfn|Baker|2005|pp=21–22}}。 |
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漫画家による自費出版の提唱者である[[デイヴ・シム]]の主張に影響され、ムーアはマッド・ラブを通して、[[カオス理論]]や[[ブノワ・マンデルブロ]]の数学的アイデアから着想を得た『Big Numbers』全12章に取りかかった。作画家のビル・シェンキェウィッツは参考写真に大きく依存した画風を用い、第3章はそのぞんざいな作画によりムーアと共同出版社であるツンドラから没にされた。シェンキェウィッツの元アシスタントのアル・コロンビアが彼に代わって第3章を完成させたが、第4章は未だ保留されたままである。現時点(2006年7月)において、『Big Numbers』は最初の2章が出版されたのみであり、シリーズは中断されている。 |
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=== 英国コミック界での活動、''2000 AD'' と ''Warrior'' : 1980年–1986年 === |
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ムーアは[[スティーブン・R・ビセット]]編集によるホラー・アンソロジー『Taboo』にも二編の連載作品を寄稿した。1880年代の世界の縮図として[[切り裂きジャック]]事件を描いた作品である『[[フロム・ヘル]]』は、エディ・キャンベルによる煤けたペンとインクの画風で描かれ、完結までに10年を要し、『Taboo』廃刊後も二つの出版社で連載された後に、エディ・キャンベル・コミックからグラフィック・ノベルとして一冊にまとめられた。 |
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ムーアは1980年から1986年まで英国コミックの原作を書き続けた{{Sfn|Khoury|2003|p=57}}。それらはギャグからシリアスまで幅広かったが一貫した作家性を感じさせ、同時代の原作者の中ですぐに頭角を現した{{sfn|Parkin|2013|p=142}}。英国でコミックブック文化が成熟していく時期であり{{sfn|Ayres|2021|p=17}}、伝記作家{{仮リンク|ランス・パーキン|en|Lance Parkin}}は{{行内引用|英国のコミックシーンはかつてないほど盤石になり、読者が歳を重ねても卒業していかないのは明らかだった。コミックはもはや小さい男の子だけのものではなく、ティーンも … 読むようになっていた}}と書いている{{sfn|Parkin|2011|loc=No.268/2302}}。 |
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{{仮リンク|マーベルUK|en|Marvel UK}}では1980年から翌年にかけて『{{仮リンク|ドクター・フー・マガジン|en|Doctor Who Magazine|label=ドクター・フー・ウィークリー}}』や『スターウォーズ・ウィークリー』に短編をいくつか書いた。それらのシリーズに関心がなかったため、内容は自己流だった{{sfn|Ayres|2021|pp=27–28}}。やがて『{{仮リンク|ザ・マイティ・ワールド・オブ・マーベル|en|The Mighty World of Marvel|label=マーベル・スーパーヒーローズ}}』誌の連載「[[キャプテン・ブリテン]]」を任され(1982年)、前任者デイヴ・ソープが始めたストーリーを完結させた<ref name=rereadcb2>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/01/09/the-great-alan-moore-reread-captain-britain-part-2/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: Captain Britain, Part 2|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2012-01-09|archivedate=2021-12-10 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20211210030157/https://www.tor.com/2012/01/09/the-great-alan-moore-reread-captain-britain-part-2/}}</ref>{{Efn2|ソープとムーアがこの作品で導入した並行宇宙「{{仮リンク|アース616|en|Earth-616}}」は後に[[マーベル・ユニバース]]公式の作品世界となった<ref name=rereadcb2/>。}}。 |
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=== メインストリームへの帰還 === |
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数年間にわたるメインストリーム外部での活動の後に、ムーアは再び[[イメージ・コミック]]他の出版社でのスーパーヒーロー・コミック業界に舞い戻った。ムーアはかつて彼自身がアメリカン・コミック業界に及ぼした影響が、有害なものであったと感じていた。ムーアの模倣者の多くは、彼の作品の革新的な着想ではなく、暴力性と残虐性のみを模倣していた。スーパーヒーロー・ジャンルでのイノセンスの放擲に対する反論として、ムーアは作画家のスティーブン・R・ビセットやリック・ヴェイチ、ジョン・トートレーベンと共に、マーベル・コミックの初期作品のパスティーシュであるシリーズ『1963』を発表した。 |
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[[ファイル:Guy_Fawkes_portrait.jpg|サムネイル|[[ガイ・フォークス]]は『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』の主人公「V」の外見的・思想的モデルとなった。]] |
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『[[スパイダーマン]]』『[[ドクター・ストレンジ]]』『[[アイアンマン]]』『[[ファンタスティック・フォー]]』『[[アベンジャーズ (マーベル・コミック)|アヴェンジャーズ]]』の初期作品を題材に、ムーアはこれらのコミックを当時のスタイルで、当時の性差別問題や資本主義礼賛を含めて、90年代の読者に紹介した。このシリーズには大規模な広告ページも含まれており、マーヴェルの大袈裟な編集コラムや[[スタン・リー]]の方針を風刺していた。 |
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''2000 AD'' とマーベルUKの編集に関わっていた{{仮リンク|デズ・スキン|en|Dez Skinn}}が1982年に創刊した月刊誌 [[:en:Warrior (comics)|''Warrior'']] は{{sfn|Parkin|2013|pp=79, 95}}、原稿料が低い代わりに執筆者と作品の著作権を共有したり(他誌では著作権買い切りが一般的だった){{sfn|Parkin|2013|pp=80–81, 160}}、作家の書きたいものを書かせる方針を取っていた{{sfn|Parkin|2013|p=158}}{{Efn2|ただしムーアは差別語(黒人を指す「チョコレート」)や性的な言葉(「[[童貞]]」や「[[月経|生理]]」)を使わないようにという要求も創作の自由への侵害と見なしたため、デズ・スキンと論争を起こした{{sfn|Parkin|2013|p=158}}。}}。ランス・パーキンによるとムーアが原作者として本領を発揮するようになったのは ''Warrior'' 誌からである{{sfn|Parkin|2011|loc=No.331–294/2302}}。ムーアが創刊号で始めた二つの連載はテーマと形式の両面で革新的なものだった{{sfn|Ayres|2021|p=13}}。『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』{{Efn2|作画デイヴィッド・ロイド。}}は近未来の英国に舞台を取った[[ディストピア]]・スリラーで、[[アナキズム|アナキスト]]の主人公は[[ガイ・フォークス]]の装束をまとい、テロによって政府を打倒しようとする。当時の英国首相[[マーガレット・サッチャー]]に対するムーアの失望を反映した作品で<ref name="Heidi, pt1"/>、ムーアの文学志向が現れた最初の作品でもあった{{sfn|Murray|2018|p=221}}。もう一つの連載『[[マーベルマン/ミラクルマン|マーベルマン]]』{{Efn2|作画{{仮リンク|ギャリー・リーチ|en|Garry Leach}}、{{仮リンク|アラン・デイヴィス (漫画家)|en|Alan Davis|label=アラン・デイヴィス}}ほか{{sfn|Ayres|2021|p=36}}。}}は英国で1954年から1963年にかけて刊行されていた同題作品の[[リブート (作品展開)|リブート]]で、オリジナル版は米国の『[[キャプテン・マーベル (DCコミックス)|キャプテン・マーベル]]』を焼き直しただけのヒーロー物だった{{sfn|Parkin|2011|loc=No.331–335/2302}}。原作を依頼されたムーアは{{行内引用|[[キッチュ]]な子供向けのキャラクターを1982年の現実世界に置く}}ことを決め、科学と進歩への牧歌的な信頼から生まれた主人公を核テロと直面させた{{Sfn|Parkin|2011|loc=No.335–340/2302}}。この作品に込められた[[リアリズム]]、ジャンル[[脱構築]]、詩的なナレーションといった手法は後世のスーパーヒーロー・ジャンルに巨大な影響を与えることになる<ref>{{cite web|url=https://www.tor.com/2011/10/31/the-great-alan-moore-reread-marvelman-miracleman-part-1/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: ''Marvelman/Miracleman'', Part 1 |website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2011-10-31|archivedate= 2022-02-08|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220208151820/https://www.tor.com/2011/10/31/the-great-alan-moore-reread-marvelman-miracleman-part-1/ }}</ref>。遅れて始まった3つ目の連載 ''The Bojeffries Saga''{{翻訳|ボージェフリー家のサガ}}{{Efn2|作画{{仮リンク|スティーヴ・パークハウス|en|Steve Parkhouse}}。}}はイングランドの労働者階級として暮らす[[吸血鬼]]や[[狼男]]の一家が主人公のコメディで、ムーア自身の子供時代が投影されている{{sfn|Parkin|2011|loc=No.437–440/2302}}{{sfn|Parkin|2013|p=97}}。視覚的[[ギャグ]]を連発する『MAD』の作風から離れて性格喜劇を狙った作品である{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|p=34}}。これら3作には共通してゴシックでダークな感覚や、ジャンルやメディアの越境といった要素が現れていた{{sfn|Murray|2018|p=221}}。 |
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ムーアは1980年から1983年まで ''2000 AD'' 誌の短編を仕事の主軸の一つにしていたが{{Sfn|Sandifer|2019|p=195}}、同誌から連載を任されたのはかなり遅かった{{sfn|Sandifer|2019|p=748}}。最初の企画は映画『[[E.T.]]』を模倣しろというものだった。ムーアは反発心から実際の映画を見ることなく原作を書いたと語っている{{sfn|Moore|1986|p=44}}。出来上がった [[:en:Skizz|''Skizz'']](1983年){{Efn2|作画{{仮リンク|ジム・ベイキー|en|Jim Baikie}}。}}は不時着した異星人が地球人の少女に助けられる物語だが、[[脱工業化社会|ポスト工業化時代]]の失業問題と社会的混乱が背景にされていた{{sfn|Ayres|2021|p=29}}。続く ''[[:en:D.R. & Quinch|D.R. & Quinch]]''{{翻訳|D.R.とクインチ}}(1983年){{Efn2|作画アラン・デイヴィス。}}は、米国のユーモア誌『{{仮リンク|ナショナル・ランプーン|en|National Lampoon}}』の人気キャラクター「O.C.とスティッグス」にヒントを得た宇宙人の不良少年コンビを主人公にしたギャグ作品だった<ref name=rereaddrquinch>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/05/07/the-great-alan-moore-reread-dr-a-quinch/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: ''D. R. & Quinch''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan |date=2012-05-07|archivedate= 2022-02-13|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015041/https://www.tor.com/2012/05/07/the-great-alan-moore-reread-dr-a-quinch/}}</ref>。[[:en:The Ballad of Halo Jones|''The Ballad of Halo Jones'']]{{翻訳|ヘイロー・ジョーンズの[[バラッド]]}}(1984年){{Efn2|作画{{仮リンク|イアン・ギブソン (漫画家)|en|Ian Gibson (comics)|label=イアン・ギブソン}}。}}は一般に ''2000 AD'' 誌で連載した作品のベストとみられており{{Sfn|Ayres|2021|p=33}}、自身でも{{行内引用|もっとも上手くいった作品}}と述べている{{Sfn|Khoury|2003|p=58}}。同誌で主流だったバイオレンスSFの形式を反転させて、社会福祉が後退した未来世界に生きる{{行内引用|特に勇敢でも賢くも強くもない{{sfn|Parkin|2013|p=9}}}}失業者の女性を主人公にしていた{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 476–493/2302}}{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 707/2461}}。英国の社会状況を反映した物語は若者の共感を集めた{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 478–480, 490–502/2302}}。 |
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『1963』は、主人公達が1990年代にタイムトラベルし、典型的なイメージ・コミックの残忍で暴力的なキャラクターと邂逅するエピソードで終わる筈であった。『1963』のスーパーヒーロー達は、彼らの後継者達の有り様に衝撃を受け、4色印刷からグレイ・シェーディングへの表現形式の変化すらが批判の対象となる。このエピソードはイメージ・コミックと作家チームとの対立のため、実現しなかった。 |
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ムーアは英国コミック界で成功を収めながら、[[アメリカン・コミックスにおけるクリエイターの権利|クリエイターの権利]]が守られていないことに不満を募らせていた{{Sfn|Bishop|2007|pp=105–106}}。1986年には ''2000 AD'' が作品の著作権を保持していたことに対してほかのクリエイターと共に抗議し、寄稿を止めた。全9部の構想だった ''The Ballad of Halo Jones'' は第3部までで未完に終わった<ref name=rereadhalo>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/04/09/the-great-alan-moore-reread-the-ballad-of-halo-jones/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: ''The Ballad of Halo Jones''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan |date=2012-04-09|archivedate=2022-02-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015046/https://www.tor.com/2012/04/09/the-great-alan-moore-reread-the-ballad-of-halo-jones/}}</ref>{{Sfn|Bishop|2007|pp=110–111}}。ムーアは主義主張をはっきり口にする人物で、特に著作権の帰属や創作上の制約については強硬であったため、その後もキャリアを通じて数多くの出版社と絶縁することになる<ref name="Heidi, pt1"/><ref name="Heidi, pt2">{{Cite web|url=http://www.comicon.com/thebeat/2006/03/a_for_alan_pt_2_the_further_ad.html|last=MacDonald|first=Heidi|title=A for Alan, Pt. 2: The further adventures of Alan Moore|date=2005-11-01|website=The Beat|publisher=Mile High Comics/Comicon.com|accessdate=2022-02-18|archiveurl=https://web.archive.org/web/20060419040811/http://www.comicon.com/thebeat/2006/03/a_for_alan_pt_2_the_further_ad.html|archivedate=2006-04-19}}</ref>{{sfn|Parkin|2013|p=159}}。 |
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『1963』に続き、ムーアは[[ジム・リー]]の『WildC.A.T.s』やロブ・ライフェルドの『[[:en:Supreme (comics)|シュプリーム]]』『[[ヤングブラッド]]』『[[グローリー (漫画)|グローリー]]』などの原作を手掛けた。ムーアの手により、『シュプリーム』は、1940年代のモート・ワイジンガー時代の『[[スーパーマン]]』コミックスへの、ポスト・モダン的なオマージュ作品となった。 |
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=== 米国進出とDCコミックス: 1983年–1988年 === |
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[[ファイル: NYCC 2014 - Swamp Thing & Poison Ivy (15488238596) (cropped).jpg|左|サムネイル|150px|[[スワンプシング]](2014年の[[コスプレ]])。沼に落ちて怪物となった男の物語はムーアによって根底から覆された<ref>{{cite web|url=http://sequart.org/magazine/11990/%e2%80%9cthe-anatomy-lesson%e2%80%9d-alan-moores-swamp-thing-issue-21/|accessdate=2022-05-21|title=“The Anatomy Lesson”: Alan Moore’s Swamp Thing, Issue #21|first=Andrew |last=Edwards |publisher= Sequart Organization|date=2012-07-11|archiveurl= https://web.archive.org/web/20200630155624/http://sequart.org/magazine/11990/%E2%80%9Cthe-anatomy-lesson%E2%80%9D-alan-moores-swamp-thing-issue-21/ |archivedate=2020-06-30}}</ref>。]] |
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『WildC.A.T.s』の原作を手掛けた後に、ムーアはリーの企業であるワイルドストームのためのABC(アメリカズ・ベスト・コミックス)の出版ラインを創設した。しかしながら、出版が始まる前にリーがワイルドストームをDCに売却したために、ムーアは不本意ながらも再びDCの傘下で働かざるを得なくなった。ABCでの作品としては、 |
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1983年、米国のメジャー出版社[[DCコミックス]]の編集者{{仮リンク|レン・ウィーン|en|Len Wein}}は ''2000 AD'' 誌のムーア作品に注目し{{sfn|Ayres|2021|p=13}}<ref name="WeinDaddy">{{Cite journal|last=Ho|first=Richard|date=November 2004|title=Who's Your Daddy??|journal=Wizard|issue=140|pages=68–74}}</ref>、『[[スワンプシング|ザ・サガ・オブ・スワンプシング]]』の原作に起用した。原稿料は英国時代の4–5倍になった{{sfn|Parkin|2013|p=155}}。これ以降ムーアは英国での仕事を整理しながら米国に軸足を移していく{{sfn|Sandifer|2019|pp=196, 658, 774}}。 |
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ムーアは作画家{{仮リンク|スティーヴン・R・ビセット|en|Stephen R. Bissette}}、{{仮リンク|リック・ヴィーチ|en|Rick Veitch}}、{{仮リンク|ジョン・タトルベン|en|John Totleben}}らとともに、古臭く不人気なモンスター物だった『スワンプシング』の再創造を行った{{Sfn|Manning|2010|p=206|ps=, "Writer Alan Moore was creating a whole new paradigm ... Jumping on board ''The Saga of the Swamp Thing'' with issue No. 20, Moore wasted no time in showcasing his impressive scripting abilities. Moore, with help from artists Stephen R. Bissette and Rick Veitch had overhauled Swamp Thing's origin by issue #21."}}。植物の意識を描くなど表現様式の実験が行われたほか{{sfn|Murray|2018|p=224}}、環境問題のような社会的テーマや、性交・月経といったタブー破りの題材が取り入れられた{{sfn|Carpenter|2016|pp=54, 59–60}}。ムーアは同誌を第20号(1983年9月)から第64号(1987年6月)まで4年近く書き続け{{sfn|Sandifer|2019|p=787}}、月間発行部数を1万7千部から10万部以上に伸ばした{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 604/2302}}。この成功を見たDC社は英国から積極的に新人原作者を起用するようになった({{仮リンク|グラント・モリソン|en|Grant Morrison}}や[[ニール・ゲイマン]]など){{sfn|Ayres|2021|p=19}}。伝統的なスーパーヒーロー物が中心だった米国と異なり、英国のコミック文化は[[アンチヒーロー]]や[[ブラックジョーク|ブラックコメディ]]、暴力性や反権威が持ち味だった{{sfn|Parkin|2013|pp=187–188}}。研究者グレッグ・カーペンターによると当時の米国コミックはファン出身の書き手がマニアックなストーリーを再生産する停滞期であり{{sfn|Carpenter|2016|p=12}}、新しい感覚の流入(ブリティッシュ・インヴェイジョン{{翻訳|英国の侵攻}}と呼ばれた)は影響が大きかった{{sfn|Carpenter|2016|pp=6–7}}。これが米国で「文学的」コミックを生み出した流れの一つである{{sfn|Ayres|2021|p=215}}{{sfn|小田切|2007|p=173}}{{Efn2|ほかには1978年に [[ア・コントラクト・ウィズ・ゴッド|''A Contract with God'']] を描いた[[ウィル・アイズナー]]の流れがある{{sfn|小田切|2007|pp=173–174}}。}}。 |
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*『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』(作画/ケヴィン・オニール) - [[アラン・クォーターメイン]]や[[ブラム・ストーカー|ジキル博士とハイド氏、透明人間、ブラム・ストーカー]]の『[[ドラキュラ]]』に登場するヴィルヘルミナ・マリーなど、[[ヴィクトリア朝]]の娯楽小説の登場人物を集合させたパロディ作品。 |
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*『[[トム・ストロング]]』(作画/クリス・スプラウス他) - [[ドック・サヴェジ]]や[[ターザン]]などのスーパーマン以前のスーパーヒーローが題材。 |
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*『[[トップ10]]』([[:en:Top 10 (comics)]])(作画/ジーン・ハおよびザンダー・キャノン)- 超能力者ばかりが住む都市を舞台にした警察物。 |
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*『[[プロメテア]]』(作画/J・H・ウィリアムズ三世)ムーアのオカルティズムへの知識を総動員したファンタジー |
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*『Tomorrow Stories』 |
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この時点でのムーアは幼少期の思い出と結びついたDC作品と関われることに高揚していた{{sfn|Moore|1984|p=85}}。1985年の春からDC社のほかの二線級シリーズに携わり始め、『{{仮リンク|ヴィジランテ (DCコミックス)|en|Vigilante (comics)|label=ヴィジランテ}}』誌には児童虐待を扱った前後編を書いた(第17–18号、1985年){{sfn|Carpenter|2016|p=55}}{{sfn|Parkin|2011|loc=No.595/2302}}。『[[グリーンランタン]]』シリーズでは、この時期にムーアが導入したアイディアが後の世代によって『[[シネストロ・コァ・ウォー]]』(2007年)や『{{仮リンク|ブラッケスト・ナイト|en|Blackest Night}}』(2009年)のような大型ストーリーに発展させられることになる{{sfn|Parkin|2011|loc=No.592–595/2302}}<ref>{{cite web|url=https://www.cbr.com/dc-ways-blackest-night-aged-well-poorly/|accessdate=2022-02-03|title=DC: 5 Ways Blackest Night Aged Well (& 5 Ways It Didn't)|publisher=www.CBR.com|website=CBR.com|date=2020-07-02|archivedate=2022-01-15 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220115013749/https://www.cbr.com/dc-ways-blackest-night-aged-well-poorly/}}</ref>。やがて編集部からの評価が高まり、1985年の「{{仮リンク|他に何を望もう|en|For the Man Who Has Everything}}」{{Efn2|作画デイヴ・ギボンズ。}}でDC最大のスーパーヒーローの一人である[[スーパーマン (架空の人物)|スーパーマン]]を書く機会を与えられた{{sfn|Carpenter|2016|pp=55–57}}。続いて1986年に大ベテランの作画家{{仮リンク|カート・スワン|en|Curt Swan}}と共作した「[[何がマン・オブ・トゥモローに起こったか?]]」は、『[[クライシス・オン・インフィニット・アース]]』で[[DCユニバース|DCの作中世界]]が全面的にリニューアルされるにあたって、旧バージョンのスーパーマンのフィナーレとして企画された記念碑的作品だった{{sfn|Carpenter|2016|p=459}}<ref>{{Harvnb|Manning|2010|p=220}}, "In 'Whatever Happened to the Man of Tomorrow?', a two-part story written by Alan Moore and illustrated by Curt Swan, the adventures of the Silver Age Superman came to a dramatic close."</ref>。同作は時代遅れとなったスーパーヒーローへの懐古的な賛歌であり、心に残る名作として何度も再刊されることになる{{sfn|Sandifer|2019|p=518}}{{Sfn|Teiwes|2010}}。評論誌『{{仮リンク|コミックス・ジャーナル|en|The Comics Journal}}』は当時ムーアを{{行内引用|今もっとも売れているわけではないとしても、間違いなくもっとも尊敬されている原作者}}と呼んだ{{sfn|Moore|1986|p=38}}。 |
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=== インディペンデントへの復帰 === |
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アメリカズ・ベスト・コミックで企画していた多くの作品が終了すると、DCが自分の作品に干渉していることに不満を募らせていたムーアは、再度コミックスのメインストリームから手を引くことを決意した。 |
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1986年に刊行開始され、翌年に単行本化された全12号のオリジナルシリーズ『[[ウォッチメン]]』{{Efn2|作画デイヴ・ギボンズ。}}はムーアの名声を不動のものとした{{sfn|Parkin|2013|p=183}}。同作は優れたヒーローコミックであると同時に[[核戦争]]の前兆に包まれた[[冷戦]]時代のミステリであり{{sfn|Carpenter|2016|p=67}}、スーパーヒーローの存在を踏まえた[[歴史改変SF]]でもあった{{sfn|Harris-Fain|2018|p=500}}。この作品は一般にスーパーヒーローという概念に対する[[ポストモダン]]な[[脱構築]]を行ったと見られており{{sfn|Gibson|2011|p=490}}、[[漫画評論|コミック史研究者]]{{仮リンク|レス・ダニエルズ|en|Les Daniels}}は{{行内引用|このジャンルが基本的な前提としてきたものに疑問を投げかけた}}と書いている{{sfn|Daniels|1995|p=196}}。構成や表現様式の洗練も際立っており<ref name=avclubprimer>{{cite web|url=https://www.avclub.com/primer-alan-moore-1798214170|date=2008-03-06|title=Primer: Alan Moore|accessdate=2022-02-19|publisher=G/O Media|website=The A.V. Club|archivedate=2022-02-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220219134252/https://www.avclub.com/primer-alan-moore-1798214170}}</ref>、グレッグ・カーペンターによると当時のムーアが持つ技法の粋が集められている{{sfn|Carpenter|2016|p=65}}。『ウォッチメン』はコミックの域を超えて読書界やアカデミズムから大きな注目を浴びた{{sfn|Parkin|2013|pp=183, 205}}。SFの[[ヒューゴー賞]]を最初に受賞したコミック作品でもある<ref name=hugo2008>{{Cite web|url=http://www.thehugoawards.org/?page_id=11|title=The Hugo Awards: Ask a Question|date=2008-02-23|website=The Hugo Awards|accessdate=2022-02-03|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090228150704/http://www.thehugoawards.org/?page_id=11|archivedate=2009-02-28}}</ref>。広くムーアの最高傑作とみられており、あらゆるコミックの中で最高の名作と呼ばれることもある<ref name=csm>{{cite web|url=https://www.csmonitor.com/Books/chapter-and-verse/2012/0201/Watchmen-prequels-provoke-debate-in-comic-book-community|accessdate=2022-03-04|title='Watchmen' prequels provoke debate in comic book community|publisher=The Christian Science Monitor|date=2012-02-01|archivedate= 2021-02-25|archiveurl= https://web.archive.org/web/20210225215225/https://www.csmonitor.com/Books/chapter-and-verse/2012/0201/Watchmen-prequels-provoke-debate-in-comic-book-community}}</ref>。時代の近い『[[バットマン: ダークナイト・リターンズ]]』([[フランク・ミラー]])、『[[マウス――アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語|マウス]]』([[アート・スピーゲルマン]])と並んで、1980年代後半の米国コミックが大人向けの内容に移行する流れの一端でもあった<ref>{{Harvnb|Manning|2010|p=220}}, "The story itself was a masterful example of comic book storytelling at its finest ... Filled with symbolism, foreshadowing, and ahead-of-its-time characterization thanks to adult themes and sophisticated plotting, ''Watchmen'' elevated the superhero comic book into the realms of true modern literature."</ref>。 |
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後にムーアの二人目の妻となった[[メリンダ・ゲビー]]作画の『Lost Girls』は、『[[不思議の国のアリス]]』『[[ピーターパン]]』『[[オズの魔法使い]]』を性的に解釈し直したエロティックなシリーズで、2006年に単行本が発売された。同年、ムーアはポルノの歴史を辿る記事を発表し、社会の活力と成功は性的な問題に対する寛容さに関係していると主張した。 |
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ムーアは『ウォッチメン』によって[[ポップアイコン]]になりかけ{{sfn|Hasted|1996|p=107}}、1987年にはドキュメンタリー番組 ''Monsters, Maniacs and Moore'' の主役となった{{sfn|Parkin|2013|pp=207–208}}。しかしやがて個人崇拝を嫌ったムーアは[[ファンダム|ファン]]との関りを減らすようになり、[[コミコン|コンベンション]]への参加も止めた{{sfn|Moore|1990a|p=89}}。 |
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2010年から2021年にかけてミニシリーズ『[[ネオノミコン]]』を発表。H.P.ラヴクラフトの世界を舞台としている。 |
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1988年、作画家ブライアン・ボランドの誘いを受けて『[[バットマン: キリングジョーク]]』を共作し{{sfn|Carpenter|2016|p=164}}、[[バットマン (架空の人物)|バットマン]]と宿敵[[ジョーカー (バットマン)|ジョーカー]]をトラウマに憑りつかれた表裏一体の存在として描いた{{Sfn|Sommers|2012|loc=No. 584/3275}}。フランク・ミラーの『ダークナイト・リターンズ』や『[[バットマン: イヤーワン|イヤーワン]]』と並んでバットマンのキャラクターを再定義した重要作品であり{{sfn|Greenberger & Manning|2009|p=38|ps=, "Offering keen insight into both the minds of the Joker and Batman, this special is considered by most Batman fans to be the definitive Joker story of all time."}}{{Sfn|Manning|2010|p=233|ps=, "Crafted with meticulous detail and brilliantly expressive art, ''Batman: The Killing Joke'' was one of the most powerful and disturbing stories in the history of Gotham City."}}、[[ティム・バートン]]や[[クリストファー・ノーラン]]による映画版にも影響を与えている{{Sfn|Sommers|2012|loc=No. 584/3275}}{{sfn|Doise|2015}}。しかしムーア自身の評価は低く{{sfn|Khoury|2003|p=123}}、ランス・パーキンは{{行内引用|風刺や … 脱構築の強い衝動もなく、バイオレンスと[[ペシミズム]]だけを{{sfn|Parkin|2013|p=240}}}}扱った作品だと書いている。 |
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2015年、デジタルコミックのアプリ用にインタラクティブ・コミック『Big Nemo』を発表。ウィンザー・マッケイの『リトル・ニモ』のディストピア的な続編である。 |
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これらのシニカルな作品は、同時代のコミック界からはジャンルに暗い現実を突きつける[[リヴィジョニズム]]として受け取られた{{sfn|Ayres|2021|p=195}}。その影響は大きく、ヒーローコミック全体が「グリム・アンド・グリッティ{{翻訳|暗く、ざらっとした}}」と呼ばれる方向性に流れることになった。しかしそれらは多くが「バイオレンス、セックス、神経症」というムーアの表層的な部分だけを模倣したものだった{{sfn|Ayres|2021|pp=196–197}}。ムーアは『ウォッチメン』がきっかけとなってジャンルの可能性を広げる作品が出てくることを期待していたが、同工の亜流作ばかりで失望させられたと述べている{{sfn|Ayres|2021|pp=195–196}}。1986年には独立系出版社[[ファンタグラフィックス]]のチャリティ誌に書いた短編 ''In Pictopia'' によって{{sfn|Moore & Sobel|2016|pp=36–37}}、流行に乗って過去のクリエイターの営為を改変するメジャー出版社を批判した{{sfn|Moore & Sobel|2016|pp=40–41}}。同年の後半には未来の荒廃したDCユニバースを舞台にした ''[[:en:Twilight of the Superheroes|Twilight of the Superheroes]]''{{翻訳|スーパーヒーローの黄昏}}という大型クロスオーバーシリーズの構想を立てたが、それが実現するより先にDC社と関係を絶つことになった{{sfn|Parkin|2013|p=211}}{{Efn2|ムーアがDCに提出した ''Twilight'' 企画書は関係者の間で広く知られており{{sfn|Parkin|2011|loc=No.713–720/2302}}、2020年の作品集 ''DC Through the 80s: The End of Eras'' に全文が収録されている<ref>{{Cite web|last=Johnston|first=Rich|date=2020-08-14|title=DC Comics to Publish Alan Moore's Twilight of the Superheroes|url=https://bleedingcool.com/comics/dc-comics-to-publish-alan-moores-twilight-of-the-superheroes/|accessdate=2022-02-05|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool|archivedate=2022-01-11 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220111165537/https://bleedingcool.com/comics/dc-comics-to-publish-alan-moores-twilight-of-the-superheroes/}}</ref><ref>{{Cite web|last=Johnston|first=Rich|date=2020-08-14|title=DC Comics November 2020 Solicitations – A Little On The Thin Side?|url=https://bleedingcool.com/comics/dc-comics-november-2020-solicitations-a-little-on-the-thin-side/| accessdate=2022-02-05|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool|archivedate=2022-01-11 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220111165542/https://bleedingcool.com/comics/dc-comics-november-2020-solicitations-a-little-on-the-thin-side/ }}</ref>。}}。 |
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2016年、ムーアは『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』の完結篇を最後に、漫画の執筆からは引退すると宣言した。 |
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==== DCとの決裂 ==== |
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2020年、映画『The Show』を製作。ムーアは、脚本・音楽のほか俳優としても出演している。 |
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DCコミックスで活動していた5年あまりの間に、ムーアは影響力の強い作品を次々に発表して名声を築き上げた{{sfn|Parkin|2013|p=3}}。『ウォッチメン』の成功はムーアを生活の不安から解放し、生涯にわたる創作上の自由をもたらした{{sfn|Sandifer|2019|p=785}}。その一方でDCとの関係はいくつかの問題を巡って徐々に悪化していった<ref name="vendettavendetta">{{Cite web|url=https://www.nytimes.com/2006/03/12/movies/12itzk.html?_r=2&oref=slogin&pagewanted=all&oref=slogin|title=The Vendetta Behind ''V for Vendetta''|last=Itzkoff|first=Dave|date= 2006-03-12|website=The New York Times| publisher=The New York Times Company|archiveurl=https://web.archive.org/web/20140403235535/http://www.nytimes.com/2006/03/12/movies/12itzk.html?_r=3&oref=slogin&pagewanted=all&oref=slogin&|archivedate=2014-04-03|accessdate=2022-02-05}}</ref>。完結した自作の続編やスピンオフを別の作家に書かせるような販売策はムーアの信条にそぐわなかった{{Sfn|Parkin|2013|pp=223, 229–230, 232}}{{Efn2|ムーア自身の回想によると、当時のDC社長[[ジェネット・カーン]]が「ムーアがDCへの寄稿を続けるなら『ウォッチメン』スピンオフの出版計画は取りやめる」と言ったのを自身への脅しと受け取り、非常な悪感情を持ったという{{sfn|Parkin|2013|pp=227–228}}。}}。1987年にDC社が映画のような[[映画のレイティングシステム|年齢レイティング制]]とガイドラインを導入しようとすると{{Efn2|コミック取次業者の間でレイティングを求める動きが生じたのは、ムーアが『ミラクルマン』第9号(1985年)で出産を克明に描写したのが一因だった{{sfn|Ayres|2021|p=199}}。グレッグ・カーペンターによるとDCの対応は「[[テレビ伝道師]][[ジェリー・ファルウェル]]の影響のもとで[[ロナルド・レーガン|レーガン政権]]が取った表現規制施策」を踏まえていた{{sfn|Carpenter|2016|loc=No. 237}}。DCは最終的にクリエイターからの反対を受けて、読者の年齢に合わせて作品内容を自主規制するのではなく、特に暴力的・性的な号にだけ「For Mature Readers{{翻訳|成人読者向け}}」のラベルを表示することにした{{sfn|Parkin|2013|p=232}}。}}、ムーアはフランク・ミラーらとともに反対の論陣を張った{{sfn|Moore|1987|loc=Ed. Note}}。レイティングは「子供向け」作品を毒にも薬にもならないものにし、「成人向け」作品をセックスと暴力頼りの低質なものにするというのがムーアの考えだった{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 742–744/2302}}。クリエイターらの抗議は受け入れられず、それがDC離脱の直接的な理由となった<ref name="vendettavendetta"/>{{sfn|Moore & Sobel|2016|p=63}}。DCに移籍して刊行されていた『Vフォー・ヴェンデッタ』(1989年完結)を最後に寄稿は打ち切られた{{sfn|Parkin|2013|p=237}}。なお米国コミック出版のもう一方の雄[[マーベル・コミックス]]とは『マーベルマン』の名の使用を巡ってそれ以前に絶縁していた{{Sfn|smoky man & Millidge (ed.)|2003|p=18}}{{sfn|Parkin|2013|p=176}}(同作は ''Warrior'' 終刊後に米国の{{仮リンク|エクリプス・コミックス|en|Eclipse Comics|label=エクリプス}}社に版権が売られ、『ミラクルマン』と改題された{{sfn|Carpenter|2016|p=58}})。 |
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作品の著作権の問題はその後も尾を引き続けた。米国のコミック界では作者のオリジナルな作品やキャラクターでも出版社が著作権を保有するのが一般的だが、当時のDCコミックスはクリエイターの権利を拡大していく方針を取っており{{sfn|Parkin|2013|p=213}}、『ウォッチメン』と『Vフォー・ヴェンデッタ』の契約書には「作品が絶版になれば著作権は作者に復帰する」という条項が加えられていた。しかし、年数が経っても2作が絶版になることはなかった<ref name="vendettavendetta"/>{{sfn|Parkin|2013|p=214}}。ムーアはこれを裏切りとみなした{{sfn|Ayres|2016|p=147}}。 |
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=== インディペンデント期とマッドラブ: 1988年–1993年 === |
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メジャー出版社に背を向けたムーアは{{sfn|Ayres|2021|p=211}}、自分の書きたいテーマはSF冒険ものやスーパーヒーローのジャンルには収まりきらないと公言し{{sfn|Moore|1990b|p=78}}、それらのジャンル作品で確立したポストモダンな作風を社会的な作品に適用し始める{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 795–797/2302}}。しかし大手出版社・取次から離れた執筆活動は順調に行かず、一般コミックファンからの関心は薄れていった{{sfn|Ayres|2021|p=87}}{{sfn|Moore & Sobel|2016|p=152}}。ムーアは後に振り返ってこの時期を{{行内引用|原野行の時代}}{{sfn|Moore & Sobel|2016|p=152}}{{行内引用|一大私的作品期}}{{sfn|Parkin|2013|p=251}}と呼んでいる。 |
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1988年にムーアは個人出版社マッドラブを設立した。[[後天性免疫不全症候群|エイズ]]禍が高まる中で[[マーガレット・サッチャー]]政権が提出した反[[同性愛]]法案「{{仮リンク|第28条 (英国の1988年地方自治法)|en|Section 28|label=第28条}}」に抗議するのが目的だった{{sfn| Moore & Sobel|2016|p=64}}{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 773–784/2302}}。このころムーア夫妻はデボラ・デラノという女性と同居して3人でオープンな性的関係を結んでいたため、その種の規制は他人事ではなかった{{sfn| Moore & Sobel|2016|p=64}}。同年に刊行されたチャリティ・コミック [[:en:AARGH (Artists Against Rampant Government Homophobia)|''AARGH'']] {{Efn2|書名 ''AARGH'' は ''Artists Against Rampant Government Homophobia''{{翻訳|猖獗を極める政府の[[ホモフォビア|同性愛嫌悪]]に抗議する芸術家集団}} の略。}}には、[[ロバート・クラム]]ら錚々たるコミック作家の寄稿に加えて<ref name=cbldfaargh>{{cite web|url=http://cbldf.org/2019/06/aargh-artists-against-rampant-government-homophobia-2/|accessdate=2022-02-20|title=AARGH!: Artists Against Rampant Government Homophobia|publisher=Comic Book Legal Defense Fund|date=2019-06-18|archivedate=2022-02-26 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220226032155/http://cbldf.org/2019/06/aargh-artists-against-rampant-government-homophobia-2/}}</ref>、同性愛の歴史を綴ったムーアの詩 [[:en:The Mirror of Love|''The Mirror of Love'']] が掲載されていた{{Efn2|作画リック・ヴィーチ、スティーヴン・ビセット。この詩は2004年に美術研究者{{仮リンク|ホセ・ヴィジャルビア|en|José Villarrubia}}によって写真集となり<ref>{{Cite web|title=Moore and Villarrubia on The Mirror of Love|publisher= Future US |website=Newsarama|url=http://newsarama.com/pages/Other_Publishers/Mirror_Love.htm|accessdate=2022-02-07|archiveurl=https://web.archive.org/web/20071012161400/http://newsarama.com/pages/Other_Publishers/Mirror_Love.htm|archivedate=2007-10-12}}</ref>、数か国で刊行されることになる<ref>{{cite web|url=https://www.libreriauniversitaria.it/specchio-amore-moore-alan-edizioni/libro/9788861231092|accessdate=2022-02-07|title=Lo specchio dell'amore - Moore Alan, Villarubia José, Edizioni BD, Trama libro, 9788861231092|publisher= Libreria Universitaria|archivedate= 2022-02-08|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220208152207/https://www.libreriauniversitaria.it/specchio-amore-moore-alan-edizioni/libro/9788861231092}}</ref><ref>{{cite web|url=https://www.actuabd.com/Le-Miroir-de-l-Amour-Alan-Moore-et-Jose-Villarrubia-Carabas|accessdate=2022-02-07|title=Le Miroir de l’Amour – Alan Moore et José Villarrubia|publisher= ActuaBD|date=2006-12-01|archivedate= 2022-02-08|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220208153502/https://www.actuabd.com/Le-Miroir-de-l-Amour-Alan-Moore-et-Jose-Villarrubia-Carabas }}</ref>。}}<ref name=cbldfaargh/>{{sfn|Parkin|2013|pp=244, 247}}。政治的な主張を込めた同書の出版はムーアにとって転機となった{{sfn| Moore & Sobel|2016|p=65}}。続いて、米国[[中央情報局]] (CIA) を相手取った連邦訴訟に関わっていた公益法律事務所{{仮リンク|クリスティック・インスティチュート|en|Christic Institute}}の依頼を受けて、CIAの非合法活動を告発する ''Shadowplay: The Secret Team''{{Efn2|作画{{仮リンク|ビル・シンケビッチ|en|Bill Sienkiewicz}}。}}を書いた。内容はクリスティックが提供した大量の調査資料に基づいていた{{sfn|Parkin|2013|pp=244–245}}。徹底した取材によって実在の事件を作品化する経験はその後の執筆活動に影響が大きかった{{sfn|Parkin|2013|pp=244–245}}{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|p=107}}。''Shadowplay'' はクリスティックが刊行したアンソロジー ''[[:en:Brought to Light|Brought to Light]]''{{翻訳|白日の下へ}}(1988年、エクリプス刊)で発表された{{sfn|Ayres|2021|pp=102–103}}{{Efn2|後の1998年にムーアと作曲家{{仮リンク|ゲイリー・ロイド|en|Gary Lloyd}}の手で[[スポークン・ワード]]としてCD化された{{Sfn|Vollmar|2017}}}}。 |
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1990年、コミック自己出版の伝道者{{仮リンク|デイヴ・シム|en|Dave Sim}}に触発されて自身のマッドラブから ''[[:en:Big Numbers (comics)|Big Numbers]]'' を発刊した{{sfn|Moore|1990a|pp=69–70}}。『ウォッチメン』に続く代表作として構想された同作は{{sfn|Moore & Sobel|2016|p=152}}、生地ノーサンプトンをモデルにした英国の地方都市を舞台に、巨大ビジネスが一般人に与える影響と[[カオス理論]]{{Efn2|当初ムーアはカオスの代表例である ''Mandelbrot Set''{{翻訳|[[マンデルブロ集合]]}}{{sfn|Pastor et al.|2007}}をそのまま作品タイトルにしようと考えていた。しかし、数学者[[ブノワ・マンデルブロ]]本人に許可を求めたところ「カオスが数学界でギミック扱いされているので、コミックで大きく扱ってほしくない」と言われて断念したという{{sfn|Moore|1990b|pp=104–105}}。}}の概念を組み合わせた社会的リアリズム作品だった{{sfn|Carpenter|2016|pp=179–180, 185}}{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 795–806/2302}}。読者を選ぶ題材だが、全12号×大判40ページという大部の構想で、ビッグネームのビル・シンケビッチが作画を担当するとあってファンの期待も高かった<ref name=rereadbignumbers>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/05/21/the-great-alan-moore-reread-big-numbers/|accessdate=2022-02-08|title= The Great Alan Moore Reread: ''Big Numbers''|website= Tor.com|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220512082124/http://www.paulgravett.com/articles/article/alan_moore/ |archivedate=2022-05-12|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan |date=2012-05-21}}</ref>。しかし2号が出た時点でシンケビッチが[[スーパーリアリズム|フォトリアリスティック]]なペイントアートという方針を維持できなくなり、作画を降りた{{Sfn|Carpenter|2016|p=185}}<ref>{{Cite journal|last=Gravett|first=Paul|date=Winter 2002|title=Al Columbia: Columbia's Voyage of Discovery|url=http://www.paulgravett.com/index.php/articles/article/al_columbia/|journal=The Comics Journal|issue=Special Edition|accessdate=2022-02-05|archivedate=2022-02-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015040/https://www.tor.com/2012/05/21/the-great-alan-moore-reread-big-numbers/}}</ref>。ムーアの奔走にもかかわらず、続刊は出なかった。この失敗はファンの失望を招き<ref name=rereadbignumbers/>、ムーアにも大きな金銭的損失をもたらした{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|loc="Introduction", No. 97/5874}}。ムーアの心境は翌年に書籍出版社{{仮リンク|ビクター・ゴランツ・リミテッド|en|Victor Gollancz Ltd|label=ビクター・ゴランツ}}から[[書き下ろし|書き下ろされた]][[グラフィックノベル]]{{Efn2|書籍形式で刊行されたコミック作品をいう{{sfn|Gavaler|2019|p=290}}。}} ''[[:en:A Small Killing|A Small Killing]]'' {{Efn2|"a small killing" には「小さな殺し」と「ちょっとした儲け」の二つの意味がある{{sfn|Ayres|2021|p=96}}。作画{{仮リンク|オスカー・サラテ|en|Oscar Zárate}}。}}に反映されている{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 2089/2302}}<ref name=rereadsmallkilling>{{cite web|url= https://www.tor.com/2012/05/28/the-great-alan-moore-reread-a-small-killing/|accessdate=2022-02-08|title= The Great Alan Moore Reread: ''A Small Killing''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan |date=2012-05-28|archivedate=2022-02-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015041/https://www.tor.com/2012/05/28/the-great-alan-moore-reread-a-small-killing/}}</ref>。広告会社の重役が理想家だった少年時代の自分自身に取りつかれ、一線から退いて新しい目的を探すという内容である{{sfn|Parkin|2013|pp=250–251}}{{sfn|Carpenter|2016|pp=266, 273}}。同作はあまり部数が伸びず{{sfn|Hasted|1996|pp=108, 110}}、「もっとも過小評価されているムーア作品」とされることがある<ref name=avclubprimer/>{{Sfn|Parkin|2002|p=49}}。 |
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[[ファイル:William_Gull_3.jpg|サムネイル|イングランド人の外科医[[ウィリアム・ガル|サー・ウィリアム・ガル]]は『[[フロム・ヘル]]』で[[切り裂きジャック]]事件の犯人とされた。]] |
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過去の共作者スティーヴン・ビセットが自己出版するアンソロジーコミック誌 [[:en:Taboo (comic)|''Taboo'']] では、内容に制約を受けることなく性や暴力、政治や宗教といった題材を自由に追求することができた{{sfn|Carpenter|2016|p=172}}。ムーアが同誌で行った連載の一つ目は、1880年代の[[切り裂きジャック]]事件をフィクション化した『[[フロム・ヘル]]』(1989年){{Efn2|作画{{仮リンク|エディ・キャンベル|en|Eddie Campbell}}。}}である。数多くの歴史的・社会的テーマを取り込んだ芸術志向の野心作だった{{sfn|Carpenter|2016|pp=172–174}}。''Taboo'' は短命に終わり、『フロム・ヘル』は小出版社からコミックブック形式で続刊が出た{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1347/2302}}。しかしDC期のように締め切りに束縛されなくなったことで各号の執筆期間は延びていき、新刊を追い続けるのも困難な状況にファンも離れていった{{sfn|Hasted|1996|pp=109–110}}。『コミックス・ジャーナル』の論説によると、カジュアルな読者を拒絶するかのようなムーアの行動は半ば意図的なものだった{{sfn|Hasted|1996|p=111}}。1999年、10年越しに完結した『フロム・ヘル』は単行本化と映画化を経て名作としての評価が確立している{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1347/2302}}。 |
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''Taboo'' で開始されたもう一つの作品 ''[[:en:Lost Girls (graphic novel)|Lost Girls]]''(1991年)はムーアによると{{行内引用|知的な[[ポルノグラフィ]]}}だった{{sfn|Ayres|2021|p=201}}<ref name="SFW">{{Cite web|url=http://www.scifi.com/sfw/interviews/sfw13282.html|title=Alan Moore leaves behind his ''Extraordinary Gentlemen'' to dally with ''Lost Girls''|accessdate=2022-02-05|last=Schindler|first=Dorman T.|date=2006-08-07|website=Science Fiction Weekly|publisher= SYFY Media |archiveurl=https://web.archive.org/web/20060811174459/http://www.scifi.com/sfw/interviews/sfw13282.html|archivedate=2006-08-11}}</ref>。作中では、セックスのアンチテーゼとしての[[第一次世界大戦|世界大戦]]の前夜、成長した[[児童文学]]の女主人公たちがウィーンのホテルに集い、互いに性の目覚めを物語る{{Sfn|Carpenter|2016|pp=262, 264–265}}。原典の内容は性体験のメタファーとして解釈される{{sfn|Parkin|2013|p=338}}。ムーアは[[ティファナ・バイブル]]や[[ロバート・クラム]]を例に挙げて非主流のコミックにポルノの伝統があると主張しており{{sfn|Carpenter|2016|p=263}}、芸術的水準の高いポルノ・コミックを作ることを一つの挑戦と考えていた{{sfn|Parkin|2013|p=345}}{{Sfn|Khoury|2003|pp=154–155}}。''Lost Girls'' は ''Taboo'' 廃刊後に出版の当てがないまま書き続けられ、2006年に完成すると{{仮リンク|トップシェルフ・プロダクションズ|en|Top Shelf Productions|label=トップシェルフ}}から刊行された{{sfn|Parkin|2013|p=343}}(作画の[[メリンダ・ゲビー]]とムーアはその翌年に結婚した<ref name=guardianinterview/>)。[[児童ポルノ]]と受け取られうる内容を含むものの、おおむね芸術的価値が認められて各国で出版・販売が実現し、高い評価を得ている{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1321–1332/2302}}。同年にムーアはポルノグラフィの歴史をたどる論説を発表し、社会の活力は性的な寛容さによって決まると論じて公の評価に耐える新たなポルノの必要性を訴えた{{sfn|Moore|2006}}。このテーマは2009年の評論本 ''25,000 years of Erotic Freedom''{{翻訳|性の自由の2万5千年史}}に発展した<ref>{{Cite web|last=Jones|first=Jonathan|url=https://www.theguardian.com/artanddesign/jonathanjonesblog/2010/jan/04/alan-moore-graphic-sex-art|title=From graphic novels to graphic sex: Alan Moore's history of erotic art|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2010-01-04|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131024132540/http://www.theguardian.com/artanddesign/jonathanjonesblog/2010/jan/04/alan-moore-graphic-sex-art|archivedate= 2013-10-24|accessdate=2022-02-05}}</ref>。 |
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|file: Alice par John Tenniel 22.png|''Lost Girls'' の主人公の一人、[[アリス (不思議の国のアリス)|アリス]]([[不思議の国のアリス]])は厭世的な同性愛者の老貴婦人として登場する{{sfn|Parkin|2013|p=338}}<ref name=telegraphsusanna/>。 |
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|file: Wendy Darling.PNG|中流階級出身の[[ウェンディ・モイラー・アンジェラ・ダーリング|ウェンディ]]([[ピーター・パン]])は家庭の主婦になっている{{sfn|Parkin|2013|p=338}}<ref name=telegraphsusanna/>。 |
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|file: Dorothy and the wizard in Oz; a faithful record of their amazing adventures in an underground world, and how with the aid of their friends Zeb Hugson, Eureka the Kitten, and Jim the Cab-Horse, they (14750769814).jpg |エネルギーに満ちた田舎育ちの[[ドロシー・ゲイル|ドロシー]]([[オズの魔法使い]]){{sfn|Parkin|2013|p=338}}<ref name=telegraphsusanna>{{cite web|url=https://www.telegraph.co.uk/tv/0/watchmen-writer-alan-moore-talks-sex-superheroes-susanna-clarke/|accessdate=2022-02-17|title=The wonderful wizard of Northampton: Watchmen writer Alan Moore talks sex and superheroes with novelist Susanna Clarke|publisher= Telegraph Media Group|website=The Telegraph|date=2019-10-21|archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101727/https://www.telegraph.co.uk/tv/0/watchmen-writer-alan-moore-talks-sex-superheroes-susanna-clarke/}}</ref>。 |
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1996年には初の小説本 ''[[:en:Voice of the Fire|Voice of the Fire]]''(ビクター・ゴランツ刊)が出た。紀元前4000年から現代までの出来事を描いた短編連作で、時代は異なれどすべてムーアの生地ノーサンプトンが舞台となっている<ref name=avclubvotf/>。言語や文化の発展を再現した実験的な語り口で書かれており<ref name=avclubvotf>{{Cite web|url=https://www.avclub.com/alan-moore-voice-of-the-fire-1798199276|title=Alan Moore: Voice Of The Fire|accessdate=2022-01-01|publisher=G/O Media|website=The A.V. Club|first=Tasha|last=Robinson|date=2004-01-27|archivedate=2022-01-11 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220111165536/https://www.avclub.com/alan-moore-voice-of-the-fire-1798199276}}</ref>、全体として{{行内引用|想像力と「幻視」が私たち自身をどのように形作ってきたか}}についてのストーリーとなっている{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 931–938/2302}}。 |
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=== メインストリーム復帰とイメージ・コミックス: 1993年–1998年 === |
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ムーアは1993年にメインストリーム・コミックに復帰して再びスーパーヒーロー作品を発表し始めた{{Sfn|Teiwes|2010}}。その意図としては、自身の[[脱構築]]的アプローチが低質な[[エピゴーネン]]を生み出したことに責任を感じ、コミックに「喜びと純真さ」を取り戻そうとしたのだと語っている{{Sfn|Teiwes|2010}}。しかし衆目の見るところによると、前言を翻した理由には経済的なものもあった{{sfn|Parkin|2013|pp=261–263}}。個人資産を投入した出版社マッドラブは ''Big Numbers'' の挫折と共に活動を停止していた{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|loc="Introduction", No. 97/5874}}。社名の由来となったムーア夫妻ら3人の恋愛関係も数年しか続かなかった{{sfn|Parkin|2013|p=248}}。フィリスとデボラは娘たちを連れて2人で新しい生活を始め、1980年代の作品で稼いだ財産のほとんどを持ち去っていった{{sfn|Ayres|2021|p=13}}{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 922/2302}}。このころムーアは魔術と神秘思想に傾倒し始めたが([[#魔術と芸術論|後述]])、自身ではそれを「[[中年の危機|ミッドライフ・クライシス]]から目を逸らすため」のようにも語っている{{sfn|Moore & Campbell|2010|pp=108}}。 |
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[[ファイル:Spawn_at_C2E2_2013_(8708957714).jpg |左|150px|サムネイル|[[イメージ・コミック|イメージ社]]の人気キャラクター、[[スポーン]](写真)は地上に送り込まれた地獄の尖兵であり、「グリム・アンド・グリッティ」の風潮の典型だった<ref name=spawn>{{cite web|url=https://comicsalliance.com/spawn-compendium-20-years-todd-mcfarlane/|accessdate=2022-05-14|title=Spawn 20 Years Later: Looking Back at the Quintessential ’90s Comic Book|website=Comics Alliance|publisher=Townsquare Media|date=2012-02-02|archiveurl= https://web.archive.org/web/20190218022636/https://comicsalliance.com/spawn-compendium-20-years-todd-mcfarlane/|archivedate=2019-02-18}}</ref>。]] |
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寄稿先の[[イメージ・コミック|イメージ・コミックス]]は当時ブームの真最中だった。同社は暴力描写・女性の性的対象化といった作風{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 941–947/2302}}、作画重視・マーケティング重視の方針で知られており、ムーアのような「文学的」コミックを称揚する批評家からは評価が低かった{{sfn|Ayres|2021|pp=115–116}}。しかしクリエイター主導で設立された新会社ということもあり、著作権や創作上の自由についての方針はムーアにとって賛同できるものだった{{Sfn|Parkin|2011|loc=953–955/2302}}{{sfn|Ayres|2021|p=105}}。ムーアはまず10万ドル+印税という破格の報酬で『[[スポーン]]』第8号(1993年)のゲスト原作者を務め{{sfn|Parkin|2013|p=259}}{{Efn2|作画に比べてストーリー面の評価が低かった『スポーン』誌のテコ入れとして、当時のスター原作者(アラン・ムーア、[[ニール・ゲイマン]]、[[フランク・ミラー]]、{{仮リンク|デイヴ・シム|en|Dave Sim}}ら)を1号ずつゲストに迎える企画だった{{sfn|Parkin|2013|p=259}}。}}、同年にオリジナル作品『{{仮リンク|1963 (コミック)|en|1963 (comics)|label=1963}}』{{Efn2|作画リック・ヴィーチ、スティーヴン・ビセット。}}全6号を出した。60年代の[[マーベル・コミック|マーベル・コミックス]]作品の[[パスティーシュ]]で{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 961/2302}}、後に一般的になる[[スタン・リー]]パロディの先駆けだったが<ref name=reread1963/>、ムーア自身が生み出したシリアスでダークなスーパーヒーロー像の全盛期でもあり、こうした路線はファンの支持を得られなかった{{sfn|Ayres|2021|p=105}}{{sfn|Parkin|2013|pp=260–261}}。ムーアは後にこう語っている。{{行内引用|… 私がいなかった間にコミック読者がどれほど変わったか気づいた。突然、読者の大半が読みたがっているのはページ全体がピンナップ風になったストーリー皆無のやつだと思えてきた。そこで、そういうマーケットに向けてまともな作品を書くことができるか純粋に試してみようと思った}}{{Sfn|Khoury|2003|p=173}} |
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ムーアは{{行内引用|13歳から15歳向けの、平均よりはましな作品}}の執筆を始めた。『スポーン』の派生作『{{仮リンク|バイオレーター|en|Violator (comics)}}』(1994年)、『バイオレーターvs{{仮リンク|バドロック|en|Badrock}}』(1995年)、『スポーン: ブラッド・フュード』(1995年)はその例である{{Sfn|Parkin|2011|loc=No. 973/2302}}。これらの作品は評者によって{{行内引用|バカバカしい[[エクスプロイテーション映画|エクスプロイテーション]]・コミックでも風格を保っている}}とされることもあれば<ref name=rereadviolator/>、{{行内引用|{{interp|当時の読者には}} ムーアの感覚が鈍ったように見えたことだろう}}という評価もある{{sfn|Carpenter|2016|p=368}}。そうして収入を確保するかたわら、非商業的な『フロム・ヘル』と ''Lost Girls'' の執筆を続けた。本人の言によると{{行内引用|交響楽団に所属しながら、週末にだけ[[バブルガム・ポップ|バブルガム・バンド]]で演奏するようなもの}}だった{{sfn|Carpenter|2016|p=368}}{{sfn|Parkin|2013|pp=263–264}}。 |
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1995年には[[ジム・リー]]の月刊シリーズ『{{仮リンク|ワイルドキャッツ (コミック)|en|Wildcats (comics)|label=WILDC.A.T.S}}』の原作を任され、第21号から14号にわたって書き続けた<ref name=rereadwildcats>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/06/25/the-great-alan-moore-reread-wildcats/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: ''WildC.A.T.s''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan |date=2012-06-25|archivedate= 2022-02-13|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015047/https://www.tor.com/2012/06/25/the-great-alan-moore-reread-wildcats/}}</ref>。しかし自身でもその出来に満足しておらず、ファンの好みを推し量りすぎて新しいものを書けなかったと言っている{{Sfn|Khoury|2003|p=174}}{{Efn2|2000年前後にリーのスタジオから出版された人気作 [[:en:Stormwatch (comics)|''Stormwatch'']] や [[:en:The Authority (comics)|''The Authority'']]({{仮リンク|ウォーレン・エリス|en|Warren Ellis}}原作)の演出法や{{行内引用|アイロニーを前面に出した、自己パロディ的・自己言及的な}}作風にムーア期『WILDC.A.T.S』からの影響がみられるという指摘もある<ref name=rereadwildcats/>{{sfn|Ayres|2021|p=117}}。}}。ある評者は、絶頂期にメインストリームを離れるという決断によって、1980年代のムーアが体現していたポップなエネルギーが霧散したと論じた{{sfn|Hasted|1996|p=112}}。 |
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次に請け負った{{仮リンク|ロブ・ライフェルド|en|Rob Liefeld}}の『{{仮リンク|スプリーム (コミック)|en|Supreme (character)|label=スプリーム}}』(1996年)は[[スーパーマン (架空の人物)|スーパーマン]]の亜流でしかないキャラクターだった{{sfn|Carpenter|2016|p=369}}<ref name=rereadsupreme1>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/07/16/the-great-alan-moore-reread-supreme-part-1/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: ''Supreme'' Part 1|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan |date=2012-07-16|archivedate=2022-02-14 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220214234706/https://www.tor.com/2012/07/16/the-great-alan-moore-reread-supreme-part-1/}}</ref>。ムーアはここで、キャリアの初期で手掛けたスーパーヒーロー作品のように徹底した再構築を行った。しかしリアリズムを強調する代わりに、1960年代のいわゆる「{{仮リンク|アメリカン・コミックスのシルバーエイジ|en|Silver Age of Comic Books}}」期の牧歌的なスーパーマンをそっくり真似た<ref name=reread1963>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/06/18/the-great-alan-moore-reread-1963/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: ''1963''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2012-06-18|archivedate=2022-02-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213081358/https://www.tor.com/2012/06/18/the-great-alan-moore-reread-1963/}}</ref><ref name=rereadsupreme1/>{{sfn|Carpenter|2016|pp=369–370}}。その上で[[メタフィクション|メタ]]な視点を取り入れ、アメリカのスーパーヒーロー神話への回帰と、当時のコミックシーンの批評を行ったのである<ref name=rereadsupreme1/>{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 86–88, 1007–1035/2302}}。『スプリーム』はムーアにとって数年ぶりに内容と売上の両面で成功をおさめた{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1042/2302}}。1997年には『スプリーム』と『フロム・ヘル』の両作によって[[アイズナー賞]]原作者部門を受賞した。エアーズはこれがムーアにとって商業性と作家性の両立を果たした象徴的な出来事だったと書いている{{sfn|Ayres|2021|p=14}}。 |
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=== アメリカズ・ベスト・コミックス: 1999年–2008年 === |
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{{Main|:en:America's Best Comics}} |
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ロブ・ライフェルドのスタジオが経営不振によって出版活動を中止すると、ムーアは仕事を失った共作者のために複数の新シリーズを企画し始めた{{sfn|Khoury|2003|p=178}}。イメージ共同経営者の一人[[ジム・リー]]がそれらを引き受け、自身の{{仮リンク|ワイルドストーム|en|Wildstorm}}社にムーアが統括するレーベル{{仮リンク|アメリカズ・ベスト・コミックス|en|America's Best Comics}}(ABC) を設立した。しかしその直後、リーはABCを含むワイルドストーム社をDCコミックスに身売りした。このときリーは事情を説明するため自らイングランドに赴き、ムーアがDCと直接やり取りしなくて済むようにすると請け合った{{sfn|Parkin|2013|p=297}}。DCによる買収の目的は、ワイルドストームが保有する[[知的財産権|IP]]やデジタル彩色技術のみならず、ムーアを再び確保するところにあったと見る向きがある。少なくともムーア自身はそう信じていた{{sfn|Parkin|2013|p=297}}<ref>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/07/09/the-great-alan-moore-reread-mr-majestic-voodoo-and-deathblow/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: ''Mr. Majestic'', ''Voodoo'', and ''Deathblow''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2012-07-09|archivedate= 2022-02-13|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015048/https://www.tor.com/2012/07/09/the-great-alan-moore-reread-mr-majestic-voodoo-and-deathblow/}}</ref>。間接的にであれDCと再び関わるのは本意ではなかったが、多くの同業者を巻き込んでいたため後戻りはできず、ABCは計画通り出版を開始することになった{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1087/2302}}。 |
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[[ファイル:CAPTAIN_NEMO_PLAYING_THE_ORGAN.jpg|左|サムネイル|『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』では[[ネモ船長]](図)を始めとする[[ヴィクトリア朝文学]]キャラクターが「怪人連盟」として英国の危機に立ち向かう{{sfn|Ayres|2016}}。 |
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ムーアがABCでやろうとしたのは、スーパーマンがデビューした1930年代以前の作品から抽出してきたエッセンスによって{{行内引用|レトロであると同時にアヴァンギャルドな何か}}を作り出し、コミックの想像力の源泉と可能性を指し示すことだった<ref name=pappu>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/weblogarticle/0,,194417,00.html|accessdate=2022-01-30|title=We need another hero|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2014-02-20|first=Sridhar|last=Pappu|archivedate=2022-02-22 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220202003454/https://www.theguardian.com/weblogarticle/0,,194417,00.html }}</ref>。ABCから最初に刊行された『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』(1999年。以下「リーグ」){{Efn2|作画ケヴィン・オニール。}}は[[ヴィクトリア朝]]時代の[[冒険小説]]の世界に「[[アベンジャーズ (マーベル・コミック)|アベンジャーズ]]」のようなヒーローチームのアイディアを適用した作品だった{{sfn|Dickson|2011|p=722}}。[[:en:Tom Strong|''Tom Strong'']](1999–2006年)は[[ドック・サヴェジ]]のような[[パルプ・マガジン|パルプ小説]]ヒーローをモデルにした作品で{{sfn|Parkin|2013|p=296}}、過去一世紀にわたるトム・ストロングの冒険はコミックの歴史へのオマージュでもある{{sfn|Parkin|2013|p=296}}。『[[トップ10]]』(1999年){{Efn2|作画{{仮リンク|ジーン・ハー|en|Gene Ha}}、{{仮リンク|ザンダー・キャノン|en|Zander Cannon}}。}}は住人全員がスーパーヒーロー風の能力を持っている世界の[[警察小説|刑事ドラマ]]で{{sfn|Parkin|2013|p=296}}{{sfn|Beaty|2011|p=716}}、ポップカルチャーからの引用やギャグがストーリーと調和した熟練の一作だと評されている{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1157/2302}}。アンソロジー誌 ''[[:en:Tomorrow Stories|Tomorrow Stories]]''(1999–2002年) には[[パルプ・フィクション]]風の「{{仮リンク|コブウェブ|en|Cobweb (comics)}}」や『[[MAD (雑誌)|MAD]]』流の風刺作「ファースト・アメリカン」などが掲載された{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1168–1173/2302}}<ref>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/11/12/the-great-alan-moore-reread-tomorrow-stories-part-one/|accessdate=2022-02-08|title= The Great Alan Moore Reread: ''Tomorrow Stories'', Part One |website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2012-11-12|archivedate=2022-02-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015104/https://www.tor.com/2012/11/05/the-great-alan-moore-reread-top-10-the-forty-niners/}}</ref>。 |
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『[[プロメテア]]』(1999年){{Efn2|作画{{仮リンク|J・H・ウィリアムズIII|en|J. H. Williams III}}。}}では女子大生の主人公が「想像力の具現化」である女神プロメテアの依代となる。一見すると神話的な女性ヒーロー[[ワンダーウーマン]]へのオマージュのようだが{{sfn|Parkin|2013|p=296}}、ストーリーは意外な展開をたどり、主人公は[[タロット]]やカバラのような[[神秘学]]の象徴体系を通じて世界の成り立ちを学んでいく<ref name=telegraphsusanna/>{{sfn|Lehmann|2011|p=710}}。観念的な内容に合わせて視覚表現の実験が数多く行われている<ref name=telegraphsusanna/><ref>{{cite web|url=https://www.avclub.com/the-best-comics-of-the-00s-1798220915|accessdate=2022-01-30|title=The best comics of the ’00s|publisher=G/O Media|website=The A.V. Club|date=2009-11-24|archivedate=2022-01-30 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220130152811/https://www.avclub.com/the-best-comics-of-the-00s-1798220915}}</ref>。この時期のほかの作品が総じて{{行内引用|知的遊戯<!--intellectual exercises-->{{sfn|Carpenter|2016|p=383}}}}{{行内引用|平均より知的な感性による、競争力十分のジャンル作品<ref name=reread49r>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/11/05/the-great-alan-moore-reread-top-10-the-forty-niners/|accessdate=2022-02-08|title= The Great Alan Moore Reread: ''Top 10: The Forty-Niners''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2012-11-05|archivedate= 2022-02-13|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015104/https://www.tor.com/2012/11/05/the-great-alan-moore-reread-top-10-the-forty-niners/}}</ref>}}などと呼ばれるのに対し、本作には神秘学や芸術論のようなムーアの個人的テーマが色濃く出ている{{sfn|Ayres|2010|p=487}}。 |
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=== 再びインディペンデントへ: 2000年代– === |
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DC社はムーアの執筆活動に干渉しないと約束していたが、他社との摩擦や訴訟を引き起こしかねない内容の号を差し止めることがあった{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1273/2302}}{{sfn|Parkin|2013|pp=316–317}}。そのほか自身の望まない形で作品を利用されたことへの不満もあり、ムーアは再びメインストリーム・コミック界と絶縁することを決めた{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|loc="Introduction", No. 109/5874}}。2005年には{{行内引用|コミックというメディアは愛している。コミック業界は大体において反吐が出る}}と語っている{{Sfn|Baker|2005|p=65}}。 |
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ムーアはワイルドストーム社でABCを設立するとき、共作者が手にする金額が多くなるように、多少の原稿料上乗せと引き換えに大半の作品の著作権を手放していた。ムーアはジム・リーを信頼して自作を預けたのだが、その後の買収劇により、再びそれらをDCに取得される成り行きになった<ref name=rereadtom1>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/08/27/the-great-alan-moore-reread-tom-strong-part-1/|accessdate=2022-02-08|title=The Great Alan Moore Reread: ''Tom Strong'', Part 1|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2012-08-27|archivedate=2022-02-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015039/https://www.tor.com/2012/08/27/the-great-alan-moore-reread-tom-strong-part-1/}}</ref>{{sfn|Parkin|2013|p=298}}。ABC作品でムーアが書き続けたのは「[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン|リーグ]]」シリーズだけだった{{Efn2|同作はABC発足より前に映画化権が売られており、ほかの作品とは著作権の扱いが異なっていた{{sfn|Parkin|2013|p=297}}。}}。当初はスーパーヒーロー・コミックの変種か[[スチームパンク]]活劇として始まった「リーグ」だが、作中の時代が現代に近づくにつれて芸術と現実世界の関係を考察する個人的な作品になっていった{{sfn|Carpenter|2016|p=378}}{{sfn|Parkin|2013|pp=374–375}}。 |
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[[ファイル: Alan Moore, TAM London.jpg|右|170px|サムネイル|[[科学的懐疑主義]]の大会 [[:en:The Amazing Meeting|TAM London 2010]] に登壇し、[[宗教右派|キリスト教右派]]を批判した(2010年)<ref>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/science/the-lay-scientist/2010/oct/15/1|accessdate=2022-05-10|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|title=The TAM London 2010 live blog |date=2016-03-09|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160420205853/https://www.theguardian.com/science/the-lay-scientist/2010/oct/15/1 |archivedate=2016-04-20}}</ref>。]] |
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複数のシリーズを並行して書いていたABC期はムーアのキャリアの中でも多産な時期だったが、2000年代半ば以降はコミックの執筆量が目に見えて減少した{{sfn|Parkin|2013|p=299}}。ムーアの精力は小説執筆や神秘学関連の[[パフォーマンス・アート|パフォーマンス]]公演のほか、マッドラブを復活させて2010年に発刊した{{行内引用|21世紀最初のアングラ雑誌}}こと ''[[:en:Dodgem Logic|Dodgem Logic]]''{{翻訳|ドッジェム・ロジック{{Efn2|{{仮リンク|バンパーカー|en|Bumper cars|label=ドッジェム}}はバンパーのついたカートに乗って互いにぶつかり合う遊園地の遊び<ref name=wireddodgem>{{cite web|url=https://www.wired.com/2009/12/alan-moore-dodgem-logic/|accessdate=2022-02-08|title=Alan Moore: Comics Won't Save You, but Dodgem Logic Might|publisher= Condé Nast|website=WIRED|date=2009-12-31|archivedate=2021-10-01 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20211001022351/https://www.wired.com/2009/12/alan-moore-dodgem-logic/}}</ref>。}}}}に注がれていた{{sfn|Parkin|2013|pp=299, 366}}<ref name=leahdodgem/>。同誌はムーアの地元ノーサンプトンを地盤とする隔月刊誌で<ref name=leahdodgem>{{Cite web|url=http://www.moorereppion.com/announcing-alan-moores-dodgem-logic/02/10/2009/|title=Announcing: Alan Moore's ''Dodgem Logic''|first=Leah|last=Moore|publisher=Leah Moore|date= 2009-10-02|archiveurl=https://web.archive.org/web/20091007143057/http://www.moorereppion.com/announcing-alan-moores-dodgem-logic/02/10/2009|archivedate= 2009-10-07|website=Moorereppion.com|accessdate=2022-1-11}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://www.mustardweb.org/dodgemlogic/|title=Alan Moore talks ''Dodgem Logic''|last=Musson|first=Alex|publisher=Mustard|archiveurl=https://web.archive.org/web/20091026171315/http://www.mustardweb.org/dodgemlogic/|archivedate= 2009-10-26|accessdate=2022-1-11}}</ref>、[[1960年代のカウンターカルチャー|1960年代のアンダーグラウンド文化]]を受け継ぐものだった{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2897/3275 }}。ムーアは編集思想について「中央集権的な権威が力を失った今、個人主義的な文化をどう構築するか」「グローバル時代に地域をどう[[エンパワーメント|エンパワー]]するか」「来るべき企業主義文化の崩壊にどう対応するか」といった問題意識を挙げている<ref name=wireddodgem/>。誌面では地域のコンサート情報や節約レシピと並んで<ref name=wireddodgem/>、[[花ゲリラ|ゲリラ・ガーデニング]]や[[スコッター|スクワッティング]]のような政治的行為のハウトゥ記事が載せられていた<ref name=wireddodgem/>。売り上げは地域貢献に充てられた{{sfn|Parkin|2013|p=367}}。同誌は8号が発行された後、資金難により2011年4月に廃刊された{{sfn|Parkin|2013|p=367}}。 |
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災害支援のためのチャリティ出版や、社会運動の資金調達のための出版物に寄稿することもあった{{sfn|Ayres|2021|p=204}}。2001年、[[アメリカ同時多発テロ事件]]の翌月に[[マーベル・コミックス]]が刊行した [[:en:List of comics about the September 11 attacks|''Heroes'']] に ''This is Information''{{Efn2|作画メリンダ・ゲビー。}}を書いた{{sfn|Ayres|2021|p=204}}<ref>{{cite web|url=https://www.nytimes.com/2001/12/29/arts/comics-turning-tragedy-into-tribute.html|accessdate=2022-02-18|title=Comics Turning Tragedy Into Tribute|website=The New York Times |publisher=The New York Times Company|date=2001-12-29|archivedate=2022-02-27 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220227102155/https://www.nytimes.com/2001/12/29/arts/comics-turning-tragedy-into-tribute.html }}</ref>{{efn2|ムーアが米国のマーベル・コミックスに寄稿したのは、''Heroes'' のほか、アフリカの飢餓をテーマにした1985年のチャリティ・コミック ''X-Men: Heroes for Hope'' のみである{{sfn|Sandifer|2019|p=721}}。}}。2013年には[[反グローバリゼーション]]の{{仮リンク|占拠運動|en|Occupy movement}}に賛同し、運動の資金調達のために刊行された『{{仮リンク|オキュパイ・コミックス|en|Occupy Comics}}』にカウンターカルチャーとしてのコミック論を寄稿した<ref name=wiredbuster>{{cite web|url=https://www.wired.com/2012/12/alan-moore-exclusive/|title=Exclusive: Alan Moore's Essay for the Activist Occupy Comics Anthology|publisher= Condé Nast|website=WIRED|date=2012-12-07|archivedate=2021-05-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20210519031921/https://www.wired.com/2012/12/alan-moore-exclusive/|accessdate=2022-02-19}}</ref><ref name=wiredoccupy>{{Cite web|last=Till|first=Scott|url=https://www.wired.com/underwire/2011/12/alan-moore-occupy-comics/|title=''V for Vendetta's'' Alan Moore, David Lloyd Join Occupy Comics|publisher= Condé Nast|website=WIRED |date=2011-12-05|archiveurl=https://web.archive.org/web/20140404010938/http://www.wired.com/2011/12/alan-moore-occupy-comics/|archivedate=2014-04-04|accessdate=2022-02-05}}</ref>。2018年、前年に起きた[[グレンフェル・タワー火災]]の被災者へのチャリティとして刊行されたコミック・アンソロジー ''24 Panels'' に詩を提供した{{sfn|Ayres|2021|p=204}}<ref>{{Cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2018/aug/20/disgrace-and-shame-alan-moore-points-to-boris-johnson-in-grenfell-fire-comic|title='Disgrace and shame': Alan Moore points to Boris Johnson in Grenfell fire comic|first=Alison|last=Flood|date=2018-08-20|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180901194351/https://www.theguardian.com/books/2018/aug/20/disgrace-and-shame-alan-moore-points-to-boris-johnson-in-grenfell-fire-comic|archivedate=2018-09-01|accessdate=2022-02-05}}</ref>。 |
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この時期、[[スプラッター映画|スプラッター・ホラー]]で知られるニッチな出版社{{仮リンク|アヴァター・プレス|en|Avatar Press}}がムーアの未発表原稿や散文作品のコミック化を行った<ref name=tcjcinema>{{cite web|url=https://www.tcj.com/their-other-last-hurrah-cinema-purgatorio/|accessdate=2022-02-20|title=Their Other Last Hurrah – Cinema Purgatorio|website=The Comics Journal |publisher=Fantagraphics Books|date=2020-09-15|archivedate= 2022-02-26|archiveurl= https://web.archive.org/web/20211119174642/https://www.tcj.com/their-other-last-hurrah-cinema-purgatorio/}}</ref>。2003年には[[クトゥルフ神話]]関連作を集めたアンソロジー ''[[:en:Alan Moore's Yuggoth Cultures and Other Growths|Yuggoth Cultures and Other Growths]]'' と、クトゥルフテーマの短編小説を原作とする「{{仮リンク|中庭 (コミック)|en|Alan Moore's The Courtyard|label=中庭}}」全2号が出た。翌年の ''[[:en:Alan Moore's Hypothetical Lizard|A Hypothetical Lizard]]''{{翻訳|仮想の蜥蜴}}全1号は[[世界幻想文学大賞]]にノミネートされた1980年代の中編小説が元になっている{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1232/2302}}。2012年には全10号のコミック [[:en:Fashion Beast|''Fashion Beast'']] {{Efn2|作画 Facundo Percio。}}が刊行された。原作はムーアが1985年に書いた未発表の映画脚本で<ref name=bcfashionbeast>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/first-look-the-malcolm-mclaren-graphic-novel-by-alan-moore-antony-johnston-and-facundo-percio/|accessdate=2022-01-15|title=Fashion Beast: The Malcolm McLaren Graphic Novel by Alan Moore, Antony Johnston And Facundo Percio|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |date=2010-04-11|archivedate=2021-01-26 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20210126021153/https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/first-look-the-malcolm-mclaren-graphic-novel-by-alan-moore-antony-johnston-and-facundo-percio/}}</ref>、音楽プロデューサーの[[マルコム・マクラーレン]]から依頼されたものである。[[クリスチャン・ディオール]]の生涯をモデルにして[[異性装]]と『[[美女と野獣]]』を組み合わせた作品の企画だった<ref name=bcfashionbeast/>{{sfn|Parkin|2013|p=174}}<ref>{{cite web|url=https://www.queerty.com/comic-book-legend-alan-moores-gender-bending-fashion-beast-finally-published-20120908|accessdate=2022-01-15|title=Comic-Book Legend Alan Moore’s Gender-Bending “Fashion Beast” Finally Published |publisher=Queerty|date=2012-09-08|archivedate=2022-02-28 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220118182910/https://www.queerty.com/comic-book-legend-alan-moores-gender-bending-fashion-beast-finally-published-20120908}}</ref>。 |
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原作者としての活動末期にはもっぱらホラー作品に注力した{{sfn|Ayres|2021|p=147}}。DC離脱によって税金の支払いに窮したムーアはアヴァターからのオファーを受け<ref name=guardian2011>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2011/jul/25/alan-moore-league-extraordinary-gentlemen|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220303031239/https://www.theguardian.com/books/2011/jul/25/alan-moore-league-extraordinary-gentlemen |archivedate=2022-03-03|accessdate=2023-01-30|title=Alan Moore: an extraordinary gentleman – Q&A|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian |date=2011-07-25}}</ref>、「中庭」の作画を手掛けた{{仮リンク|ジェイセン・バロウズ|en|Jacen Burrows}}と組んでコミックオリジナルのクトゥルフ作品『[[ネオノミコン]]』(全4号、2010–2011年)<ref>{{Cite web|url=http://www.bleedingcool.com/2011/03/23/wednesday-comics-review-neonomicon-4-and-hellraiser-prelude-and-1/|title=Wednesday Comics Review: ''Neonomicon'' 4 and ''Hellraiser'' Prelude And 1|first=Rich|last=Johnston|date= 2011-03-23|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |archiveurl=https://web.archive.org/web/20110324165312/http://www.bleedingcool.com/2011/03/23/wednesday-comics-review-neonomicon-4-and-hellraiser-prelude-and-1/|archivedate= 2011-03-24|accessdate=2022-1-11}}</ref>、『{{仮リンク|プロビデンス (コミック)|en|Providence (comics)|label=プロビデンス}}』(全12号、2015–2017年)を出した<ref>{{Cite web|title=Alan Moore's Providence Revealed|url=http://www.avatarpress.com/2015/02/alan-moores-providence-revealed/|publisher=Avatar Press|date=2015-02-18|accessdate=2022-02-05|archivedate=2022-01-11 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220111165538/http://www.avatarpress.com/2015/02/alan-moores-providence-revealed/}}</ref>{{sfn|Ayres|2021|p=149}}。ジャクソン・エアーズはこれらの作品を{{行内引用|… そこで描かれる暴力と荒廃感には、ムーアが考える現代文化の恐るべき実相が込められている}}と書き、ラヴクラフトの[[パルプ・フィクション]]からジャンル小説やコミックに受け継がれた[[人種差別]]性やセクシュアリティ観の系譜を批評的に描き出していると論じた{{sfn|Ayres|2021|pp=147–149}}。2016年4月からはアヴァターのホラー・アンソロジー誌 ''Cinema Purgatorio''{{翻訳|煉獄のシネマ}}のキュレーションを務めはじめ、自身でもケヴィン・オニールと組んで同題の巻頭連載を寄稿した{{sfn|Ayres|2021|p=155}}<ref>{{Cite web|url=https://www.bleedingcool.com/2016/04/30/opening-the-doors-to-cinema-purgatorio-1-alan-moore-kevin-oneill-max-brooks-garth-ennis-kieron-gillen-and-christos-gages-latest-thing/|title=Opening The Doors To ''Cinema Purgatorio'' #1 – Alan Moore, Kevin O'Neill, Max Brooks, Garth Ennis, Kieron Gillen And Christos Gage's Latest Thing|first=Rich|last=Johnston|date=2016-04-30|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |archiveurl=https://web.archive.org/web/20160707010549/https://www.bleedingcool.com/2016/04/30/opening-the-doors-to-cinema-purgatorio-1-alan-moore-kevin-oneill-max-brooks-garth-ennis-kieron-gillen-and-christos-gages-latest-thing/|archivedate= 2016-07-07|accessdate=2022-01-12}}</ref>。主人公が悪夢のような映画館に座り、どこかねじれた古い映画を続けざまに見せられるという体の作品で<ref>{{cite web|url=https://www.comicon.com/2021/05/15/review-alan-moore-and-kevin-oneills-cinema-purgatorio-this-is-sinerama/|accessdate=2022-02-20|title=Review: Alan Moore And Kevin O’Neill’s ‘Cinema Purgatorio: This is Sinerama’|publisher=COMICON|date=2021-05-15|archivedate=2022-02-26 |archiveurl= https://www.comicon.com/2021/05/15/review-alan-moore-and-kevin-oneills-cinema-purgatorio-this-is-sinerama/}}</ref>、軽いパロディ連作のようだが、やはり娯楽産業におけるクリエイターの苦悩や、創作の意味についての考察が読み取れる<ref name=tcjcinema/>。 |
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==== コミック界引退へ ==== |
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ムーアがメインストリーム・コミックに再復帰する見込みがなくなるにつれて、それまでムーアの意向を慮っていたDC社も『ウォッチメン』の著作権を行使することをためらわなくなっていった{{Efn2|ムーアの立場に理解を示していた発行人ポール・レヴィッツが2009年にDCを退いたことも影響しているという見方がある<ref name=cbr2017/>。}}{{sfn|Ayres|2021|p=3}}。2009年の[[ウォッチメン (映画)|映画化]]や、2012年の前日譚シリーズ『{{仮リンク|ビフォア・ウォッチメン|en|Before Watchmen}}』の刊行はムーアの意に反するもので、ファンや業界関係者の間でも賛否は分かれた<ref name=cbr2017>{{cite web|url=https://www.cbr.com/alan-moore-watchmen-feud-dc-comics-explained/|publisher=www.CBR.com|website=CBR.com |accessdate=2022-03-16|title=Watchmen's Success Made Alan Moore Refuse to Work With DC Comics|date=2017-11-25|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220316192941/https://www.cbr.com/alan-moore-watchmen-feud-dc-comics-explained/ |archivedate=2022-03-16}}</ref>。2017年には『[[ドゥームズデイ・クロック (DCコミックス)|ドゥームズデイ・クロック]]』によって『ウォッチメン』が内容的にもDC社の作品世界に組み込まれた<ref name=cbr2017/>{{sfn|Ayres|2021|p=3}}。 |
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ムーアのコミックに対する毒舌は拡大していった{{sfn|Ayres|2021|p=211}}。2010年には「出版社が過去作のスピンオフを出したがるのは創造性の欠如」「業界に大した才能がいないのかもしれない」という趣旨の発言を行い{{sfn|Ayres|2021|p=211}}<ref>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/alan-moore-speaks-watchmen-2-to-adi-tantimedh/|accessdate=2022-02-19|title=Alan Moore Speaks Watchmen 2 To Adi Tantimedh|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |date=2010-09-09|archivedate=2022-02-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220219134258/https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/alan-moore-speaks-watchmen-2-to-adi-tantimedh/}}</ref>、DCやマーベルで原作者として活動する[[ジェイソン・アーロン]]から「現代の作品を読んでもいないムーアの言葉に耳を貸すのは止めよう」と批判されるなど、現役クリエイターから反発を招いた<ref>{{cite web|url=https://www.cbr.com/240180-2/|accessdate=2022-02-19|title=THE YEAR I STOPPED CARING ABOUT ALAN MOORE|publisher=www.CBR.com|website=CBR.com|first=Jason|last=Aaron|date=2011-01-05|archivedate=2022-02-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220219154917/https://www.cbr.com/240180-2/}}</ref><ref>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/creators-react-to-jason-aarons-reaction-to-alan-moores-reaction-to-being-offered-the-watchmen-rights-back/|accessdate=2022-02-19|title=Creators React To Jason Aaron's Reaction To Alan Moore's Reaction To Being Offered The Watchmen Rights Back|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |date=2011-01-06|archivedate=2022-02-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220219155018/https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/creators-react-to-jason-aarons-reaction-to-alan-moores-reaction-to-being-offered-the-watchmen-rights-back/ }}</ref>。ムーアは業界内で尊敬と同情を寄せられてきたが、潮目は変わり始めた{{sfn|Ayres|2021|p=212}}。2013年には、前世紀に子供の読み物として作られたヒーロー物が映画を通じて広い年齢層に受け入れられている文化状況を{{行内引用|複雑極まる現代からの逃避}}だと発言し、ファンコミュニティからの怒りを買った<ref name=guardianwhy/>{{sfn|Roddy|2014|p=111}}。ムーアはスーパーヒーロー・フィクションそのものに幻滅しており、自身の幼少期にそうだったように奇想天外な内容で子供の想像力をかきたてる物としては認められるが、大人が卒業せずにいるのは不健全な逃避だと主張した<ref name=vulturewhy/>。 |
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同じく2013年、ムーア作品に人種的ステレオタイプやミソジニー的な表現が見られるとしてオンラインの批判が寄せられた{{sfn|Ayres|2021|p=176}}。ウェブメディアが反論の場を設けると、ムーアは自身の立場を強く防衛し、批判者やコミック関係者への逆批判を行った<ref name=beat20140110>{{cite web|url=https://www.comicsbeat.com/alan-moores-seven-most-painful-grant-morrison-burns/|publisher= Superlime Media|accessdate=2022-07-10|title=Alan Moore’s seven most painful Grant Morrison burns|website=The Beat|date=2014-01-10|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220222065144/https://www.comicsbeat.com/alan-moores-seven-most-painful-grant-morrison-burns/|archivedate=2022-2-22}}</ref>{{sfn|Roddy|2014|p=112}}。さらに、以後同様の問題が起きないようにインタビューや公の発言を制限する、特に{{行内引用|コミックに関わること}}については発言しない、と述べた<ref name=lastinterview>{{cite web|url=https://slovobooks.wordpress.com/2014/01/09/last-alan-moore-interview/|accessdate=2022-02-24|title=Last Alan Moore Interview?|website= Pádraig Ó Méalóid AKA Slovobooks|publisher= Pádraig Ó Méalóid|date=2014-01-09|archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217034845/https://slovobooks.wordpress.com/2014/01/09/last-alan-moore-interview/}}</ref>{{sfn|Ayres|2021|p=176}}<ref>{{cite web|url=https://www.tcj.com/dont-look-back/|accessdate=2022-04-29|title=Don't Look Back|website=The Comics Journal |publisher=Fantagraphics Books|date=2014-01-10}}</ref>。 |
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2016年9月、執筆に10年以上を費やした1000ページを超える長編小説 [[:en:Jerusalem (Moore novel)|''Jerusalem'']]{{翻訳|エルサレム}}を刊行した<ref name=bbcroots/><ref name=vulturewhy>{{cite web|url=https://www.vulture.com/2016/09/alan-moore-jerusalem-comics-writer.html|accessdate=2022-02-13|publisher= Vox Media |website=vulture|title=Alan Moore on Why Superhero Fans Need to Grow Up, Brexit, and His Massive New Novel|date=2016-09-12|archivedate=2022-02-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015037/https://www.vulture.com/2016/09/alan-moore-jerusalem-comics-writer.html }}</ref>。生地ノーサンプトンの歴史、創作と想像力、魔術と超越性といった近年のテーマの集大成だった{{sfn|Parkin|2013|p=376}}。それとともに、新しい分野に挑戦するため「リーグ」シリーズの完結を最後にコミック原作から引退すると宣言した<ref>{{Cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2016/sep/08/alan-moore-confirms-he-is-retiring-from-creating-comic-books|title=Alan Moore confirms he is retiring from creating comic books|date= 2016-09-08|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|accessdate=2022-01-12|archivedate=2022-02-08 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220208061032/https://www.theguardian.com/books/2016/sep/08/alan-moore-confirms-he-is-retiring-from-creating-comic-books }}</ref>。ポップカルチャーの歴史を通覧する大河長編となった「リーグ」最終作 ''Tempest'' では、メディア大企業によって管理されるスーパーヒーロー・キャラクターが{{行内引用|偉大な英雄という概念そのものの[[ディストピア]]的な終着点}}として描かれていた<ref>{{cite web|url=https://ew.com/movies/james-bond-alan-moore-league-of-extraordinary-gentlemen/|publisher= Meredith|accessdate=2022-05-13|title=How Alan Moore ripped James Bond to shreds|website= EW.com|date=2021-09-24|archiveurl= https://web.archive.org/web/20211020072820/https://ew.com/movies/james-bond-alan-moore-league-of-extraordinary-gentlemen/ |archivedate=2021-10-20}}</ref>。同作は2019年に完結し<ref>{{Cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/final-issue-alan-moore-cinema-purgatorio/|title=The Final Issue of Alan Moore's Cinema Purgatorio|accessdate=2022-01-10|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |date=2019-03-13|archivedate=2022-01-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220113093104/https://bleedingcool.com/comics/final-issue-alan-moore-cinema-purgatorio/}}</ref>、それ以降は予告通りコミック作品を発表していない{{sfn|Ayres|2021|p=2}}<ref name=guardian2021/>。 |
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2021年、5部作の長編ファンタジー小説 ''Long London'' などを{{仮リンク|ブルームズベリー・パブリッシング|en|Bloomsbury Publishing|label=ブルームズベリー}}から刊行予定であることが発表された<ref name=guardian2021>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2021/may/03/im-bursting-with-fiction-alan-moore-announces-five-volume-fantasy-epic|accessdate=2022-02-02|title=‘I’m bursting with fiction’: Alan Moore announces five-volume fantasy epic |publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2021-05-03|archivedate=2022-02-15 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220215060957/https://www.theguardian.com/books/2021/may/03/im-bursting-with-fiction-alan-moore-announces-five-volume-fantasy-epic }}</ref>。 |
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=== 執筆以外の活動 === |
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[[ファイル: Alan Moore, I'll Be Your Mirror.jpg|左|サムネイル|音楽イベント I'll Be Your Mirror に出演し、[[ポエトリーリーディング|詩を朗読]]した(2011年)<ref>{{cite web|url=http://www.atpfestival.com/events/ibymportishead/news/1104071300|accessdate=2022-02-08|title=Godspeed You! Black Emperor, Alan Moore/Stephen O'Malley, Cinema Programme for I'll Be Your Mirror London w/ Portishead|publisher=All Tomorrow's Parties|date=2011-04-07|archivedate=2022-02-08 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220208151822/http://www.atpfestival.com/events/ibymportishead/news/1104071300}}</ref><ref>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/music/2011/jul/25/ill-be-your-mirror-review|accessdate=2022-01-30|title=I'll Be Your Mirror – review |publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2011-07-25|archivedate=2022-02-02 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220202203842/https://www.theguardian.com/music/2011/jul/25/ill-be-your-mirror-review }}</ref>。]] |
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1994年、神秘学の先達スティーヴ・ムーアとともに [[:en:The Moon and Serpent Grand Egyptian Theatre of Marvels|The Moon and Serpent Grand Egyptian Theatre of Marvels]]{{翻訳|月と蛇の大エジプト魔術団}}を結成した。ランス・パーキンによると「[[薔薇十字団]]や[[フリーメイソン]]のパロディのような架空の秘術結社」であり{{sfn|Parkin|2013|pp=279–281}}、後に二人は神秘学のハウトゥ本 ''[[:en:The Moon and Serpent Bumper Book of Magic|The Moon and Serpent Bumper Book of Magic]]''{{翻訳|月と蛇の魔術大図鑑}}も共作している{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1507/2302}}<ref>{{Cite web|url=http://www.topshelfcomix.com/catalog.php?type=2&title=578|title=The Moon and Serpent Bumper Book of Magic |publisher=Top Shelf Productions|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131205041843/http://www.topshelfcomix.com/catalog/the-moon-and-serpent-bumper-book-of-magic/578|archivedate= 2013-12-05|accessdate=2022-01-12}}</ref>。ムーアは同年7月に団体名と同題で音楽や詩の朗読からなる[[パフォーマンス・アート]]公演を行った{{sfn|Parkin|2013|pp=279–281}}。1995年の公演 ''The Birth Caul''{{翻訳|誕生の羊膜{{Efn2|"caul" は羊膜の一部が新生児の頭に被さったもの。魔除けとされる。}}}}では母親の死や人間の意識活動が題材とされた<ref name=avclubprimer/>{{sfn|Parkin|2013|p=4}}。一種の魔術儀式として構成されており、ムーアの朗読が呪文の詠唱のような効果を生んでいた{{sfn|Ayres|2021|p=165}}。同様の[[スポークン・ワード]]公演はその後も断続的に行われた{{Efn2|''The Highbury Working''(1997年)、''Snakes and Ladders''(1999年)、''Angel Passage''(2001年){{sfn|Ayres|2021|p=165}}。}}。公演はいずれも開催地や開催日をコンテクストに取り込んだ一回限りの内容だが{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No.1843–1850/2461}}、すべてCD化されており{{Sfn|Vollmar|2017}}、一部はエディ・キャンベルによってコミック化されてトップシェルフから刊行された{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No.1843/2461}}<ref>{{cite web|url=https://www.topshelfcomix.com/catalog/the-birth-caul/228|accessdate=2022-02-08|publisher=Top Shelf Productions|title=The Birth Caul|archivedate=2022-02-08 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220208151821/https://www.topshelfcomix.com/catalog/the-birth-caul/228}}</ref><ref>{{cite web|url=https://www.topshelfcomix.com/catalog/snakes-ladders/227|accessdate=2022-02-08|publisher=Top Shelf Productions|title=Snakes & Ladders|archivedate=2022-02-08 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220208151819/https://www.topshelfcomix.com/catalog/snakes-ladders/227}}</ref>。 |
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2010年代には写真家ミッチ・ジェンキンズとともに低予算の[[短編映画]]を撮り始めた。短編数編を再構成した [[:en:Show Pieces|''Show Pieces'']] は英国の映画祭で公開された<ref name=bcshowpieces>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/alan-moore-and-mitch-jenkins-show-pieces-proves-its-mettle-at-the-leeds-film-festival-plus-q-and-a-with-moore-jenkins-and-cast/|accessdate=2022-01-17|title=Alan Moore And Mitch Jenkins' Show Pieces Proves Its Mettle At The Leeds Film Festival - Plus Q And A With Moore, Jenkins, And Cast|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |date=2014-11-14|archivedate=2022-01-18 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220118182529/https://bleedingcool.com/comics/recent-updates/alan-moore-and-mitch-jenkins-show-pieces-proves-its-mettle-at-the-leeds-film-festival-plus-q-and-a-with-moore-jenkins-and-cast/}}</ref>。[[トム・バーク]]が主演し、ムーアが脚本・音楽・出演を兼ねた長編 [[:en:The Show (2020 film)|''The Show'']] <ref>{{cite web|url=https://www.imdb.com/title/tt9165824/fullcredits/?ref_=tt_cl_sm|accessdate=2022-01-17|title=The Show (2020) - Full Cast & Crew |publisher= IMDb.com|archivedate=2022-01-18 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220118192935/https://www.imdb.com/title/tt9165824/fullcredits/?ref_=tt_cl_sm}}</ref>は2020年10月に[[シッチェス・カタロニア国際映画祭]]で上映され<ref name=ignshowreview>{{cite web|url=https://www.ign.com/articles/the-show-review-alan-moore|accessdate=2022-01-14|title=The Show Review |publisher= IGN Entertainment |website=IGN|date=2020-10-08|archivedate=2021-10-27 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20211027024019/https://www.ign.com/articles/the-show-review-alan-moore}}</ref><ref>{{cite web|url=https://sitgesfilmfestival.com/eng/film?id=10006528|accessdate=2022-01-14|title=THE SHOW - Sitges Film Festival - Festival Internacional de Cinema Fantàstic de Catalunya|publisher= Sitges Film Festival|archivedate=2022-01-16 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220116171426/https://sitgesfilmfestival.com/eng/film?id=10006528 }}</ref>、翌年8月には英米で劇場公開とデジタル配信が行われた<ref>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/movies/alan-moores-movie-the-show-to-stream-widely-from-18th-of-october/|accessdate=2022-01-14|title=Alan Moore's Movie, The Show, To Stream Widely From 18th Of October|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |date=2021-08-26|archivedate=2022-01-18 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220118182503/https://bleedingcool.com/movies/alan-moores-movie-the-show-to-stream-widely-from-18th-of-october/}}</ref>。探偵らしき主人公がノーサンプトンを訪れる一種の[[フィルム・ノワール]]だが、奇矯な人物が横行する昼の街と、悪夢と死後の世界が入り混じった夜の街の間でシュルレアルなストーリーが展開される<ref name=polygonshowreview>{{cite web|url=https://www.polygon.com/2020/10/8/21508074/the-show-review-alan-moore-movie-sitges-2020|accessdate=2022-01-14|title=The Show review: Alan Moore’s weird fantasy movie is in theaters tonight only|publisher= Vox Media|website=Polygon|date=2021-08-26|archivedate= 2022-01-16|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220116171421/https://www.polygon.com/2020/10/8/21508074/the-show-review-alan-moore-movie-sitges-2020}}</ref>。映画の小道具としてムーアが発案したインタラクティブ・コミックのアイディアは、実際のアプリ開発プロジェクトへと発展した<ref name=guardianinterview/><ref name=pipedream>{{cite web|url=https://pipedreamcomics.co.uk/interview-leah-moore-electricomics-alan-moore-digital-comics/|accessdate=2022-01-15|title=Leah Moore talks Electricomics, Alan Moore digital comics and iPad app|publisher=Pipedream Comics|date=2022-01-15|archivedate=2022-01-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220119052251/https://pipedreamcomics.co.uk/interview-leah-moore-electricomics-alan-moore-digital-comics/}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://www.comicbookresources.com/?page=article&id=53084|title=Alan Moore Launches Electricomics Digital Comics App|date=2014-05-28|publisher=www.CBR.com|website=CBR.com |archiveurl=https://web.archive.org/web/20141006162736/http://www.comicbookresources.com/?page=article&id=53084|archivedate=2014-10-06|accessdate=2022-01-12}}</ref>。2015年にリリースされた ''Electricomics'' はコミック制作ツールキットと頒布プラットフォームが一体化したオープンソースアプリで、ムーアもそれを用いて作品を発表している<ref>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/alan-moore-gives-us-a-tour-of-big-nemo-the-digital-world-of-electricomics/|date=2015-09-14|title=Alan Moore Gives Us A Tour Of 'Big Nemo' & The Digital World Of Electricomics|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |accessdate=2022-02-16|archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101727/https://bleedingcool.com/comics/alan-moore-gives-us-a-tour-of-big-nemo-the-digital-world-of-electricomics/}}</ref><ref>{{cite web|url=https://bleedingcool.com/comics/alan-moore-and-colleen-dorans-big-nemo-to-be-a-print-comic-as-well-tb15/|accessdate=2022-02-17|title=Alan Moore And Colleen Doran's Big Nemo To Be A Print Comic As Well? #TB15|date=2015-11-15|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool |archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101729/https://bleedingcool.com/comics/alan-moore-and-colleen-dorans-big-nemo-to-be-a-print-comic-as-well-tb15/}}</ref>{{Efn2| [https://web.archive.org/web/20220120131610/https://electricomics.net/news/ ''Electricomics'' 公式サイト]は2016年8月を最後に更新を停止している(2022年1月20日アーカイブ、2022年8月11日閲覧)。}}。 |
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2022年から、著名な作家・製作者・映画監督が講師となる[[eラーニング]]コース「[[英国放送協会|BBC]]マエストロ」で創作論を教えている<ref>{{cite web|url=https://www.bbcstudios.com/news/bbc-maestro-in-partnership-with-bbc-studios-announce-brand-new-e-learning-service/|accessdate=2022-07-29|title=BBC Maestro, in partnership with BBC Studios, announce brand new e-learning service|website=BBC Studios|publisher=BBC Studios|archivedate=2022-07-29 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220730100220/https://www.bbcstudios.com/news/bbc-maestro-in-partnership-with-bbc-studios-announce-brand-new-e-learning-service/}}</ref><ref>{{cite web|url=https://uproxx.com/movies/bbc-maestro-film-classes-edgar-wright-sam-mendes/|accessdate=2022-07-29|title=The BBC Is Launching A New Series Of ‘Maestro’ Classes With Edgar Wright And Sam Mendes|website=UPROXX|publisher=UPROXX|archivedate=2022-07-13|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220713112825/https://uproxx.com/movies/bbc-maestro-film-classes-edgar-wright-sam-mendes/}}</ref><ref>{{cite web|url=https://www.comicsbeat.com/alan-moore-storytelling-course-notes-bbc-maestro/|publisher= Superlime Media|accessdate=2022-03-10|title=EXCLUSIVE: Read course notes from BBC Maestro’s Alan Moore-led Storytelling class|website=The Beat|date=2022-04-01|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220429191223/https://www.comicsbeat.com/alan-moore-storytelling-course-notes-bbc-maestro/|archivedate=2022-04-29}}</ref>。 |
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== 作風 == |
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=== テーマ === |
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経歴が長く活動範囲も広く、{{行内引用|多作で無節操}}(ダグラス・ウォーク)といわれるムーアだが{{sfn|Acosta-Ponce|2020|p=24}}、ジャクソン・エアーズはムーア作品に共通するテーマとして歴史や文化の形成、権力と統治、知覚と意識、[[性]]と精神の解放などを挙げている{{sfn|Ayres|2021|p=159}}。 |
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==== リヴィジョニズムと間テクスト性 ==== |
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常套的な表現やジャンルの慣習を覆す作品が多く{{sfn|Parkin|2013|p=11}}、「[[リヴィジョニズム]]」の作風だとされる{{sfn|Ayres|2021|p=194}}。フィクションにおけるリヴィジョニズムとは、既存の作品やジャンルに大きな改作を行い、原典の持つ意味や隠れたイデオロギーを批評的に描いて新しい読み方を提示することをいう{{sfn|Ayres|2021|p=215}}。ムーアのスーパーヒーロー作品の多くはジャンルの基盤となるイデオロギーを問い直すものだった{{sfn|Ayres|2021|p=64}}。80年代の作品はヒーローの[[自警団|自警行為]]にともなう暴力性や[[全体主義]]に光を当て、作中人物や読者の動機が[[性的対象化]]に支えられていることを指摘した{{sfn|Wandler|2022}}。「ヒーロー=敬意の対象」という前提はムーアによって過去のものになった{{sfn|Ayres|2021|p=195}}。しかし自身の影響によってインモラルなアンチヒーローや暴力を特徴とする「グリム・アンド・グリッティ」が流行すると{{sfn|Ayres|2021|p=197}}、そのようなヒーロー像へのさらなるリヴィジョニズムとして{{行内引用|[[キッチュ]]とイノセンス}}を打ち出している{{sfn|Ayres|2021|p=196}}。また別に、児童文学やホラーのようなジャンルから性的な文脈を暴き出した作品もある{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2871/3275 }}。 |
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ジャンル[[脱構築]]の性格が明らかな作品以外にも、古典文学からキャラクターを借用した「[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン|リーグ]]」のように[[間テクスト性]]の強い作品が多い{{sfn|Ayres|2021|p=163}}。文芸翻訳者アンナリーザ・ディ・リッド{{sfn|Comer & Sommers|2012|loc=No. 3095/3275}}はムーアの作品に{{行内引用|[[引用|引用句]]、引喩、[[パロディ]]、… 良く知られた作品やパターンの再検討}}という形で常に間テクスト性が見られると述べている{{sfn|Ayres|2021|pp=161–162}}。エアーズは{{行内引用|既存のテクストを取り上げて作り変え、新鮮で力強く、なおかつ原典と豊かに響き合う何かを生み出す}}才能を持つ{{行内引用|熟練の翻案家}}と書き{{sfn|Ayres|2021|p=207}}、メディア横断的な参照が行われる現代ポップカルチャーを先取りしていたと論じた{{sfn|Ayres|2021|pp=209–211}}。 |
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ランス・パーキンはムーアの間テクスト性の源流をコミック原体験に求め、スーパーヒーロー・コミックが過去の物語の絶えざる語り直しであり、それ自体の歴史や神話を題材とする自己完結的なメディアだと指摘した{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 60–74/2302}}。パーキンによるとムーアはその手法を押し進め、コミックにとどまらず小説やジャーナリズムのようなあらゆるナラティヴを包含していったのだという{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 60–74/2302}}。英文学者の福原俊平は、その間テクスト的な運動が{{行内引用|物語が持つ可能性に対するムーアの信念の反映}}であり、コミックの形式を変革するため、また作品に{{行内引用|時代と地域を超えた普遍性}}を与えるために活用されていると論じた{{sfn|福原|2020}}。 |
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==== 社会性・政治性 ==== |
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[[ファイル:Alan_Moore_at_the_ICA_on_June_2nd_2009.jpg|サムネイル|「誰も {{interp|絵や文章に}} 人間や社会を変革する力を見ていない。単なるエンターテインメントと思っている。死ぬのを待つ間の20分、30分を埋めるためのものだ。<br/>受け手が欲しがっているものを与えるのは芸術家の仕事ではない。… 受け手に必要なものを与えるのが芸術家の仕事なのだ<ref>{{cite book||title= Sekiro: The Second Life of Souls|first= Ludovic|last=Castro|publisher= Third Editions|year=2020|url={{Google books| eBI1EAAAQBAJ| Sekiro: The Second Life of Souls|plainurl=yes}}|page=PT4|accessdate=2022-04-11}}</ref>」(写真は2009年)]] |
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ディ・リッドによると、ムーア作品は物語そのものについてのメタ的な考察であると同時に現実社会を分析する手段でもある{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 1830–1833/2461}}。ポップカルチャー研究者コーリー・クリークマーは、ムーアのスーパーヒーロー・ジャンルへの関心に{{行内引用|もしヒーローが実在したらどんな政治的機能を果たすか?}}という社会的な問いがあったと述べている{{sfn|Ayres|2021|p=196}}。 |
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ムーアの作品は政治的な主張が強く、その点で一般コミックファンの好みとは逆行している{{sfn|Parkin|2013|pp=9–10}}。エアーズは作品に{{行内引用|[[アナキズム|アナキスト]]的、[[左派リバタリアニズム|左派リバタリアン]]的}}な価値観が込められているとしている{{sfn|Ayres|2021|p=203}}。反格差を掲げる[[占拠運動]]の刊行物に寄稿した論説(2012年)では、コミックを民衆による政治表現の伝統に連なるものだとしている{{sfn|Ayres|2021|pp=202–204}}。{{行内引用|支配者、神、制度に対する健全な[[懐疑主義]]に根差した偉大な伝統 … 真に大衆的な芸術形式であり … 正しく使われれば社会変革の道具としてこの上ない力を発揮することできる<ref name=wiredbuster/>}}。その本来の姿が、1930年代に成立したコミックブック出版によって{{行内引用|エンターテインメント産業の一部品<ref name=wiredbuster/>}}に堕したというのがムーアの主張だった{{sfn|Ayres|2021|pp=202–204}}{{sfn|Parkin|2013|p=325}}。とはいえ、ムーアの関心は読者に明快な思想を提示することではなく、あいまいで矛盾をはらんだ領域に向かっている{{sfn|Ayres|2021|p=203}}。ムーア自身、代表作『ウォッチメン』のテーマでもっとも興味深いのは{{行内引用|この世界が多くのエゴ、欲求や欲望、偶然で無原則な出来事の絡み合いからなるという世界観}}であり、それが一つの政治的声明だと述べている{{sfn|Moore|1990a|p=81}}。 |
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==== 時間と歴史 ==== |
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ムーアは自身の個人的な大テーマが時間だと述べている{{sfn|Ayres|2021|pp=159–160}}。作品ではコミックで時間を表現するための実験が様々に行われており{{sfn|Ayres|2021|pp=159–160}}、『ウォッチメン』では映画でいう[[クロスカッティング]]や文学でいう[[意識の流れ]]に通じる非線形の時間表現が試みられている{{sfn|Bernard & Carter|2004}}。ムーアはそこで、異なる時空に属するコマが同時に目に入るコミックの特性を巧みに利用して、ほかのメディアよりも自然な感覚を作り出している{{sfn|Bernard & Carter|2004}}。 |
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時間への関心は歴史のテーマとも結びついている{{sfn|Ayres|2021|p=159}}。 |
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{{Quote|quote= {{interp|…}} 我々一人一人の存在価値、我々の生の意義をわずかにでも実感するには、それらの生がどこから来たのか、我々がどうやってここにたどり着いたのかを、個人のレベルであっても、あるいは文化や国家、旧石器時代にまで続く歴史のすべてであったとしても、必ず知らなければならない。私はそういうことに惹きつけられる。|source=アラン・ムーア(“The Dark Side of the Moore: An Interview”、2003年){{sfn|Bernard & Carter|2004}}}} |
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ムーアの時間論は物理学の「ブロック宇宙論」に影響されている。それによると、時空は一つの不変な連続体であって、過去はその中に永久に残っており、未来もすでに確定したものとして存在する。人間の認識だけがその「ブロック」の中を移動している<ref name=quietus2022/>。『ウォッチメン』のDr.マンハッタンはこの時空観を体現したキャラクターで、過去・現在・未来を同時に知覚する能力を持っている{{sfn|Bernard & Carter|2004}}。未来が歴史の中であらかじめ定められているという視点は[[決定論]]と[[ニヒリズム]]に傾きうるものだが、マンハッタンは最終的に、混沌の中から偶発的に人間存在が発生するプロセスの全体に意味を見出す{{Sfn|Carney|2005}}。時空的な全体性の感覚が生に意味を与える可能性となるというアイディアはそれ以降の作品でも扱われている{{Sfn|Carney|2005}}。 |
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==== 性愛とレイプ ==== |
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ディ・リッドはムーア作品の多くが性愛から衝動を受けていると指摘し、エロティックな感覚に満ちた{{行内引用|[[全性愛|パンセクシュアル]]な物語世界}}だと呼んでいる{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2849/3275}}。ディ・リッドによると、ムーアは{{行内引用|反復的で自動的な}}[[ポルノグラフィ]]の形式を借りた作品で性が持つ力を取り扱い{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2874/3275}}、『[[プロメテア]]』のユートピアや ''Lost Girls'' の自己発見に代表されるように、個人の達成と共同性の実現というアナキズムの理想をそこに表現している{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2915/3275}}。しかしムーア作品で描かれる性はきれいなものばかりではない{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2862/3275}}。 |
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[[フェミニスト]]批評家はムーアがフェミニズム思想を持っていると大勢において認めているが{{Sfn|Sandifer|2019|p=110}}、一方で女性に対する[[レイプ]]がムーア作品に頻出することもまたよく批判されている<ref name=tcjprovidence>{{cite web|url=https://www.tcj.com/providence-lovecraft-sexual-violence-and-the-body-of-the-other/|accessdate=2022-02-27|title=Providence: Lovecraft, Sexual Violence, and the Body of the Other|website=The Comics Journal |publisher=Fantagraphics Books|date=2016-02-03|archivedate=2021-12-30 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20211230193555/https://www.tcj.com/providence-lovecraft-sexual-violence-and-the-body-of-the-other/}}</ref>{{Sfn|Sandifer|2019|p=448}}。80年代の『[[バットマン: キリングジョーク]]』では歴史の長い女性キャラクターが性的に辱められ、暴力の後遺症で下半身不随になる{{sfn|Ayres|2021|pp=65–66}}。その衝撃とムーアの高名が相まって、同作はスーパーヒーロー・ジャンルにおいて女性への暴力が「シリアスさ、深み」として受け取られる風潮の一因となった{{sfn|Ayres|2021|p=187}}。『キリングジョーク』はフェミニストから批判を集めており{{sfn|Darius|2012b|p=42}}、ムーア自身も後に「暴力描写が作品に何の価値も与えていない」失敗作だと発言している{{sfn|Ayres|2021|pp=66, 186}}。[[クトゥルフ神話]]の性的側面を扱った2010年代の『[[ネオノミコン]]』でも、主人公が怪物に妊娠させられることによってある種の解放を得るストーリーが論議を呼んだ{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2878/3275 }}。ムーア自身によると、生地ノーサンプトンの「バロウズ」地区は非常に治安が悪く、身近に多くのレイプ被害者がおり、レイプは現実の一部であって正面から取り扱う価値がある<ref name=vulturewhy/>。しかしレイプをエロティックなものとしては扱わない、物語を刺激的にするためだけにはレイプを用いない、被害者に見せられないようなものは書いていない、というのだった<ref name=vulturewhy/>。実際、全編で性器と性行為を描いているポルノ作品 ''Lost Girls''(2006年刊)でもレイプは1シーンでしか登場させず、それも画面外の描写にとどめている<ref name=vulturewhy/>。 |
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=== 技法 === |
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==== 形式と構成 ==== |
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初期のコミックストリップから後年の作品に至るまでプロットの緻密さで知られており{{sfn|Sandifer|2019|p=97}}、結末が冒頭とつながる円環的な構成が多い{{sfn|Sandifer|2019|p=265}}。形式上のシンメトリーへのこだわりも強く{{sfn|Ayres|2021|p=29}}{{sfn|Wolk|2007|p=234}}、冒頭からの各ページが結末からの各ページの鏡像となるようにコマ割りされた作品もある{{sfn|Ayres|2021|p=80}}{{sfn|Carpenter|2016|p=66}}。ダグラス・ウォークによると遊びのない構成は読んでいて息が詰まるほどだが、ジャンルや物語構造の定型を覆して読者の予想を裏切っていく作風がそれを緩和させているという{{sfn|Wolk|2007|p=234}}。 |
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[[ファイル: Je continurais.jpg |右|140px|サムネイル|『ウォッチメン』を象徴する[[スマイリーフェイス|スマイリーバッジ]]<ref>{{cite web|url=https://screenrant.com/watchmen-smiley-badge-logo-blood-meaning-explained/|accessdate=2022-03-22|publisher= screenrant.com |title=Watchmen’s Smiley Badge Logo Explained: What The Blood Tear Means|date=2019-08-21|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220327132927/https://screenrant.com/watchmen-smiley-badge-logo-blood-meaning-explained/ |archivedate=2022-03-27}}</ref>。血で汚された無邪気な笑顔は、コミックの幻想に対する辛辣さの表明とも受け取れる{{sfn|モリソン|2013|p=308}}。]] |
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コマの中には膨大な情報が描きこまれている{{sfn|Ayres|2021|p=160}}。『ウォッチメン』の冒頭第1コマは「血に染まった街路に[[スマイリーフェイス|スマイリーバッジ]]が落ちている」というだけの構図だが、原作スクリプトでそのコマの描写は日本語にして1500字を超えていた<ref name=cinemore>{{Cite web|和書|url=https://cinemore.jp/jp/erudition/1590/article_1591_p4.html|accessdate=2022-03-04|title=『ウォッチメン』原作の持つ迷宮的魅力。その再現にこだわりぬいたザック・スナイダー :4ページ目|publisher=太陽企画|website=CINEMORE|author=稲垣哲也|date=2020-08-22|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220304131826/https://cinemore.jp/jp/erudition/1590/article_1591_p4.html |archivedate=2022-03-04}}</ref>。丸いバッジに飛び散った血は真夜中の5分前を指す時計の針を形作っている。これは『ウォッチメン』全編に散りばめられた[[終末時計]]の[[メタファー]]の一つ目である{{sfn|Parkin|2013|p=190}}。時計やカウントダウンのイメージは作品の随所に偶然のように置かれており、バッジそのものも後のシーンで再登場する{{sfn|Parkin|2013|p=190}}。そのような、多くのイメージが織りなすパターンや偶然の絡み合いによる多重構造のストーリーはムーアが好んで用いたものだった{{sfn|Parkin|2013|p=267}}。映画評論家の[[柳下毅一郎]]は、コマの端に描かれた人物や路上の落書きまでが役割を持つ『ウォッチメン』について{{行内引用|現実には無意味な人間などいないし、無駄なエピソードなどない。すべての人が物語の主人公だ。それをコミックにおいて実現したのがムーアの多層的ストーリーテリングだった}}と書いている<ref name=allreviewsyanashita>{{Cite web|和書|url=https://allreviews.jp/review/3904|accessdate=2022-03-02|title=『フロム・ヘル <nowiki>[新装合本]</nowiki>』(みすず書房) - 著者:アラン・ムーア 翻訳:柳下 毅一郎 - 柳下 毅一郎による解説|publisher= NOEMA |website=ALL REVIEWS|date=2019-11-08|archivedate= 2021-05-10|archiveurl= https://web.archive.org/web/20210510222512/https://allreviews.jp/review/3904}}</ref>。 |
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絵と言葉で相反する内容、もしくは一見無関係な内容を伝え、それによって重層的な意味を生み出す{{行内引用|[[アイロニー|アイロニック]]な対位<!--{{翻訳|counterpoint}}-->}}は特徴的な技法である{{sfn|Ayres|2021|p=160}}。『Vフォー・ヴェンデッタ』の冒頭で、王族の最新の装いを伝えるラジオ放送が、娼婦として街に立つために身支度する少女の絵と対比されるシーンは一例である{{sfn|Parkin|2013|p=92}}(当時のコミックでは絵で描かれた内容をそのままなぞるだけの文章が一般的だった{{sfn|Murray|2018|p=223}})。 |
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==== コマ割り ==== |
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ほとんどのページが3×3に9等分されている『ウォッチメン』を始め、格子状のコマ割りを用いた作品が多い{{sfn|Schneider|2013|ps=, "The most obvious structure {{interp|of ''Watchmen''}} is the strict panel grid, a staple technique of Moore's comics. Most pages are subject to a matrix of 3 x 3 panels, ... "}}。米国コミックのコマの形や大きさは1970年代から多様化しており、その中では前時代的にも見える方式だが{{sfn|Gavaler|2019|p=215}}、ムーアは定型的なフォーマットを通じてリズムを生み出したり<ref name=rereadfromhell1>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/04/23/the-great-alan-moore-reread-from-hell-part-1/|accessdate=2022-02-08|title= The Great Alan Moore Reread: ''From Hell'', Part 1|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan |date=2012-04-23|archivedate=2022-02-14 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220214234904/https://www.tor.com/2012/04/23/the-great-alan-moore-reread-from-hell-part-1/}}</ref>、シンメトリーや破調を巧みに利用して語りの効果を作り出した{{sfn|Ayres|2021|p=80}}<ref name=iambic>{{cite web|url=https://comicbook.com/comics/news/on-watchmen-and-shakespeare-the-9-panel-grid-and-iambic-pentameter/|accessdate=2022-05-05|title=On Watchmen And Shakespeare, the 9-Panel Grid And Iambic Pentameter|publisher= ComicBook.com|date=2017-09-06|first=Michael|last=Brown|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220209005850/https://comicbook.com/comics/news/on-watchmen-and-shakespeare-the-9-panel-grid-and-iambic-pentameter/ |archivedate=2022-02-09}}</ref>{{sfn|Wolk|2007|p=239}}<ref name=beat20170426>{{cite web|url= https://www.comicsbeat.com/dave-gibbons-reveals-the-origin-of-watchmens-9-panel-grid-and-has-an-upcoming-book-about-it/|publisher= Superlime Media|accessdate=2022-07-10|title= Dave Gibbons reveals the origin of Watchmen's 9-panel grid - and has an upcoming book about it (comicsbeat.com)|website=The Beat|date=2017-04-26|archiveurl= https://web.archive.org/web/20210302172815/https://www.comicsbeat.com/dave-gibbons-reveals-the-origin-of-watchmens-9-panel-grid-and-has-an-upcoming-book-about-it/ |archivedate=2021-03-02}}</ref>。ムーアの格子状コマ割りは現在まで多くの作家によって引用されている<ref name=vulture100>{{cite web|url=https://www.vulture.com/article/100-most-influential-pages-comic-book-history.html|accessdate=2023-03-05|publisher= Vox Media |website=vulture|title=The 100 Most Influential Pages in Comic Book History|date=2018-04-16|archivedate=2018-05-09 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20180509031940/https://www.vulture.com/article/100-most-influential-pages-comic-book-history.html }}</ref>。コマ間の移動ではコントラストや反復が強く意識されている{{sfn|Ayres|2021|p=160}}。次のシーンに移るタイミングでは、読者のストーリーへの没入が途切れないように、前のシーンのセリフの一部を次のシーンにオーバーラップさせたり、図像や色彩を引き継がせたりといったテクニックが使われている{{sfn|Parkin|2013|p=113}}{{sfn|Moore|2003|pp=16–17}}(ただし[[クリシェ]]化を避けるため後年の作品では多用されていない{{sfn|Moore|2003|p=44}})。 |
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=== ストーリー上の傾向 === |
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『マーベルマン』、『スワンプシング』、『スプリーム』など、既存のコミック作品の原作を請け負ったときムーアが何度も取った手段は{{行内引用|過去の経緯を一掃し、主人公を記憶喪失にし、それまで書かれたあらゆることが嘘だったと明かす{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 999/2302}}}}{{行内引用|ちゃぶ台返し{{sfn|石川|2009}}}}である{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 999/2302}}。そうすることで過去の[[カノン (文芸)|歴史]]に縛られずにキャラクターをリブートするのである。この方法はコミック界でごく一般的に使われるようになっているが、80年代当時は新鮮だった{{sfn|Parkin|2013|p=149}}。 |
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ムーアは1984年のインタビューにおいて、[[小池一夫]]と[[小島剛夕]]による日本漫画『[[子連れ狼]]』{{efn2|英語版の初刊は1987年だが<ref>{{Cite web| date=2019-04-19|title=Lone Wolf and Cub Creator Kazuo Koike Has Passed Away|url=https://bleedingcool.com/comics/lonewolfandcub-kazuo-koike/|accessdate=2022-08-24|website=bleedingcool.com|publisher=Bleeding Cool|archivedate=2021-11-13|archiveurl=https://web.archive.org/web/20211113010715/https://bleedingcool.com/comics/lonewolfandcub-kazuo-koike/}}</ref>、このころすでに[[フランク・ミラー]]への影響は知られていた{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|p=41}}。}}を{{行内引用|ストーリーは非常に単純だが、語り方によって大きな重みが生まれている}}と評し、自身の作風にも通じるところがあると語っている。物語をエスカレートさせて大きな事件を連発するより、状況やキャラクターの描写を積み上げてから小さな事件を起こす方が効果的なのだという{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|p=41}}。 |
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=== 原作執筆のスタイル === |
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アメリカン・コミックの[[スクリプト (アメリカンコミック)|スクリプト]](原作脚本)は出版社や書き手によって形式が異なるが、ムーアは長大細密な散文を書くことで知られている{{sfn|Parkin|2013|p=114}}。通常の5–6倍の分量があり<ref name=rereadviolator>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/06/11/the-great-alan-moore-reread-violator/|accessdate=2022-02-08|title= The Great Alan Moore Reread: ''Violator''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2012-06-11|archivedate= 2022-02-13|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015042/https://www.tor.com/2012/06/11/the-great-alan-moore-reread-violator/}}</ref>、コマ割りや各コマの構図、ディテールが事細かに指示されている{{sfn|Ayres|2021|p=7}}。会話体で書かれたスクリプトには作画家が参考にするための背景知識や演出意図までもが盛り込まれている{{sfn|Murray|2018|p=226}}{{sfn|Ayres|2021|p=7}}<ref name=tcj2020>{{cite web|url=https://www.tcj.com/providence-was-really-exhausting-finishing-it-felt-like-finishing-college-an-interview-with-jacen-burrows/|accessdate=2021-10-08|title="Providence Was Really Exhausting. Finishing It Felt Like Finishing College": An Interview With Jacen Burrows|website=The Comics Journal |publisher=Fantagraphics Books|date=2020-10-06|archivedate= 2021-10-08|archiveurl= https://web.archive.org/web/20211008115858/https://www.tcj.com/providence-was-really-exhausting-finishing-it-felt-like-finishing-college-an-interview-with-jacen-burrows/}}</ref>{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 325/2461}}。DCコミックスでの担当編集者[[カレン・バーガー]]は次のように語っている。 |
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{{Quote|quote=すべてのコマが隅から隅まで絵として描写されていた。アランは確か、挫折した作画家だったはずだ。… 作画家になろうとしてこの世界に入ったので、原作のアプローチもまるで絵を描いているかのようだった。… その上で、やはり優れた作家だったから、アートディレクションの文章なのに読んで面白かった。|source=カレン・バーガー(2012年){{sfn|Carpenter|2016|pp=50, 466}}}} |
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[[ポエトリー・リーディング]]の経験から文章のリズムや[[強勢]]を重視しており{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|p=82}}、自ら音読しながら書いている{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|p=120}}。重要なセリフには[[弱強格]]の[[韻律 (韻文)|韻律]]が用いられることがある{{sfn|Wolk|2007|p=235}}{{sfn|Sandifer|2019|p=164}}。キャリア初期には一人芝居をしながら登場人物の所作や声色を想像する{{行内引用|[[メソッド演技法]]}}を行っていた{{sfn|Moore|2003|p=26}}{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|pp=117–118}}。 |
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ムーアは ''2000 AD'' 時代に多くの相手と短編を共作する経験を通じて{{行内引用|作画家が描きたいものを的確に提示する能力}}を身に着けたと言われている{{sfn|Parkin|2013|p=72}}。想像力の相乗効果を生むため、共作者には原作から自由に逸脱するよう勧めてもいる{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 341–348/2461}}。原作者と作画家が主導権や貢献度を巡って争うことは珍しくないが{{sfn|Parkin|2013|pp=127–128}}、ムーアは自身のコミック作品が作画家との共同制作物であることを常に強調しており{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 337/2461}}、共作者との関係は概して円満なものである{{sfn|Parkin|2013|pp=127–128}}。 |
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=== 影響 === |
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[[ファイル: Michael Moorcock, Alan Moore, Iain Sinclair closeup (3682629866).jpg|左|サムネイル|マイケル・ムアコック、イアン・シンクレアと共に(2009年)。]] |
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時代に即した新しい形式を生み出すには広範な知識が不可欠だと語っており{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 269/2461}}、古典演劇から現代の実験小説やジャンル・フィクションまで読書傾向は幅広い{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 262/2461}}。影響を受けた作家には[[ウィリアム・S・バロウズ]]ら[[ビート・ジェネレーション|ビートニク作家]]<ref name=mousse/>、[[ウィリアム・ブレイク]]{{sfn|Santorun|2020}}{{Efn2|ムーアはブレイク協会の後援者のひとりであり<ref>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/culture/2015/sep/23/campaigners-buy-william-blakes-cottage-and-his-vegetable-patch|accessdate=2022-02-04|title=Campaigners buy William Blake's cottage – and his vegetable patch|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2015-09-23|archivedate=2022-02-04 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220204154749/https://www.theguardian.com/culture/2015/sep/23/campaigners-buy-william-blakes-cottage-and-his-vegetable-patch }}</ref>、[[テート・ブリテン]]でブレイク展が開催されたときに[[ガーディアン]]紙に寄稿<ref>{{Cite web|date=2019-08-30|title=Heavenly visions of hell: Alan Moore on the sublime art of William Blake|url=http://www.theguardian.com/books/2019/aug/30/from-heaven-and-hell-alan-moore-on-the-sublime-visions-of-william-blake|accessdate=2022-02-05|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|language=en|archivedate= 2022-02-05|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220205221502/http://www.theguardian.com/books/2019/aug/30/from-heaven-and-hell-alan-moore-on-the-sublime-visions-of-william-blake }}</ref>を行っている。}}、[[トマス・ピンチョン]]<ref name=mousse>{{Cite web|url=http://moussemagazine.it/alan-moore-hans-ulrich-obrist-2013/|publisher= Mousse Magazine and Publishing|website=Mousse|title=A for Alan Moore|date=2013-12-01|accessdate=2022-02-05|archivedate=2022-05-23 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20210523170635/http://moussemagazine.it/alan-moore-hans-ulrich-obrist-2013/}}</ref>、{{仮リンク|イアン・シンクレア (作家)|en|Ian Sinclair|label=イアン・シンクレア}}{{sfn|Moore|1993|p=46}}、[[マイケル・ムアコック]]ら[[ニュー・ウェーブ (SF)|ニューウェーヴ]]SF作家、[[クライヴ・バーカー]]らホラー作家{{sfn|Gaiman|1989|pp=24–29}}がいる。 |
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コミック作品からはあまり影響を受けていないと自ら語っているが{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 258/2461}}、1984年のインタビューでは例外として同時代の[[フランク・ミラー]]、''[[:en:American Flagg!|American Flagg!]]''、『[[ラブ・アンド・ロケッツ]]』を挙げている{{sfn|Moore|1984|p=79}}。またティム・キャラハンによれば、コミックのストーリーテリング技法を開拓した[[ウィル・アイズナー]]からの影響は別格として挙げられる。『[[MAD (雑誌)|MAD]]』誌で多くのパロディ作品を書いていた[[ハーヴェイ・カーツマン]]と{{仮リンク|ウォーリー・ウッド|en|Wally Wood}}からは、スーパーヒーローの[[脱構築]]というアイディアだけでなく、特徴的な均等分割のコマ割りに影響が見られるという<ref name=rereadspirit>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/08/20/the-great-alan-moore-reread-the-spirit/|accessdate=2022-02-08|title= The Great Alan Moore Reread: ''The Spirit''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2012-08-20|archivedate=2022-02-14 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220214234921/https://www.tor.com/2012/08/20/the-great-alan-moore-reread-the-spirit/}}</ref>。そのほかには[[ジャック・カービー]]や<ref name="TwoMorrows">{{Cite web|url=http://www.twomorrows.com/kirby/articles/30moore.html|title=The ''Supreme'' Writer: Alan Moore, Interviewed by George Khoury|date=November 2000|website=The Jack Kirby Collector|publisher=TwoMorrows Publishing|accessdate=2022-02-05|archiveurl=https://web.archive.org/web/20100112013036/http://twomorrows.com/kirby/articles/30moore.html|archivedate= 2010-01-12}}</ref>、{{仮リンク|ブライアン・タルボット|en|Brian Talbot}}の名が挙げられることがある{{sfn|Moore|1987}}。 |
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ムーアの魔術思想はベースとなる[[アレイスター・クロウリー]]の宇宙論に[[ロバート・アントン・ウィルソン]]や[[オースティン・オスマン・スパー]]からの影響を加えたものである{{sfn|Parkin|2013|p=285}}。 |
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== 評価 == |
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=== 社会的評価 === |
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[[ファイル: Alan Moore, Orbital Comics.jpg |右|サムネイル|140px |ロンドンのコミックショップで開催されたサイン会において(2008年)。]] |
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幅広い題材の作品で批評家から高く評価されており{{Sfn|Carney|2005}}、複数の評者によって史上最高の原作者と呼ばれている{{Sfn|Creekmur|2004|p=286}}。コーリー・クリークマーは2004年に「コミック界で比類ない地位を占めている」と書いた{{Sfn|Creekmur|2004|pp=285–286}}。ウェブメディア[[コミック・ブック・リソーシズ|CBR]]はコミック原作者の影響力を論評する2022年の記事で{{行内引用|コミックの歴史上もっとも才能ある原作者}}とした<ref>{{cite web|url=https://www.cbr.com/dc-comics-most-influential-modern-writers/|accessdate=2022-03-03|title=DC's 10 Most Influential Modern Writers|publisher=www.CBR.com|website=CBR.com|date=2022-02-10|archivedate= 2022-02-13|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213104437/https://www.cbr.com/dc-comics-most-influential-modern-writers/}}</ref>。コミック史家{{仮リンク|ジョージ・クーリー|en|George Khoury (author)}}は{{行内引用|この自由人をコミックブック史上最高の原作者と呼んでは過小評価だ}}と書いた{{Sfn|Khoury|2003|p=10}}。批評家ダグラス・ウォークはこう書いている。 |
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{{Quote|quote=ムーアは誰の異論も受けずにコミックの殿堂入りを果たした。英語圏のコミックを支える柱石の一つであり、同格の存在は[[ジャック・カービー]]、[[ウィル・アイズナー]]、[[ハーヴェイ・カーツマン]]などほとんどいない。殿堂の中でも突出して異質な存在だ。ほかの柱はいずれも作画家か、そうでなければたいてい原作兼任なのだから。ムーアはほぼ原作専門だが、その精妙巧緻なスクリプトは必ず作画家の長所が生きるように書かれている。… つまりムーアはコミック創作理論の百般に通じているのだ。漫画家が一人でぜんぶ描く方が原作と作画を分担するより優れたやり方だ、などという主張を誰も口にしないのは、ムーアの著作目録が立ちはだかっているためだ。|source=ダグラス・ウォーク(2007年){{sfn|Wolk|2007|p=229}}}} |
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一般紙誌でも賛辞を寄せられている{{sfn|Ayres|2021|p=2}}。英[[インデペンデント|インディペンデント]]紙日曜版は2006年の ''Lost Girls'' 出版時に「英語圏における最初の偉大な現代コミック作家」と紹介し{{sfn|Parkin|2013|p=337}}、[[ガーディアン]]紙は2019年の引退に際して{{行内引用|もっとも重要な英語のフィクション作家のひとり}}とした<ref name=guardiangoodbye/>。2005年に『[[タイム (雑誌)|タイム]]』誌が選出した「[[タイム誌が選んだ小説100選|1923年から現在までの小説100選]]」には漫画作品として唯一『ウォッチメン』が挙げられた{{Sfn|Comer & Sommers|2012|loc="Preface and Acknowledgments", No. 35/3275}}<ref>{{Cite web|url= https://entertainment.time.com/2005/10/16/all-time-100-novels/slide/watchmen-1986-by-alan-moore-dave-gibbons/ |title=All-Time 100 Novels, ''Watchmen''|last=Grossman|first=Lev|author2=Lacayo, Richard|date=2010-01-11|publisher= TIME USA|website=Time|accessdate=2022-04-08|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220416015309/https://entertainment.time.com/2005/10/16/all-time-100-novels/slide/watchmen-1986-by-alan-moore-dave-gibbons/|archivedate=2022-04-16}}</ref>。 |
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実作者の評を見ると、原作者・映画脚本家の[[J・マイケル・ストラジンスキー]]はムーアを{{行内引用|我々の中で一番上手い}}と言っている{{sfn|Parkin|2013|p=331}}。ホラー小説家[[ラムジー・キャンベル]]はムーアの{{行内引用|科白のセンス、簡潔明瞭なストーリーテリングの才能、ペース配分とタイミングの確かな感覚}}がコミック文化の最良の部分を受け継ぐものだと書いた{{sfn|Campbell|2012}}。日本の直木賞作家[[真藤順丈]]は{{行内引用|ストーリーテリングが神業の域}}と書いており{{sfn|真藤|2020}}、ホラー小説家[[澤村伊智]]も{{行内引用|お話が滅茶苦茶うまい}}としている<ref>{{ Cite web|和書|url=http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi186_sawamura/20170920_7.html|accessdate=2023-09-16|title=第186回:澤村伊智さんその7「上京&アメコミとの出会い」 - 作家の読書道 | website=WEB本の雑誌|date=2017-09-20|archivedate=2023-09-16|archiveurl=https://web.archive.org/web/20230916104145/http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi186_sawamura/20170920_7.html}}</ref>。DCコミックスでの担当編集者[[カレン・バーガー]]は{{行内引用|{{interp|作品に}} 私が手を入れる部分はなかった。… {{interp|クリエイターには}} アランとそれ以外しかいない。アランは一人だけ別の階級にいた}}と語った{{sfn|Carpenter|2016|p=53}}。その一方で原作者[[グラント・モリソン]]は、ムーア作品は技巧が勝ち過ぎて自己顕示欲さえ感じると述べている{{sfn|Ayres|2021|p=83}}。またコミック界にはムーアのジャンル脱構築を歓迎しない者もいた{{Sfn|Comer & Sommers|2012|loc="Introduction: The Polarizing of Alan Moore's Sexual Politics", No. 111/3275}}。ムーアより先にDCとマーベルで人気作家となっていた漫画家{{仮リンク|ジョン・バーン (漫画家)|en|John Byrne (comics)|label=ジョン・バーン}}は、『ウォッチメン』におけるスーパーヒーローの描写が{{行内引用|否定的、虚無的すぎる}}と述べている。また歴史あるヒーローキャラクターが暴力によって障害を負う『キリングジョーク』を{{行内引用|自己満足のマスターベーション}}と呼んだ{{sfn|Parkin|2013|pp=234–235}}。 |
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学問としての[[コミックス・スタディーズ]]でももっとも頻繁に言及されるクリエイターのひとりであり、そもそもコミックが学術研究に値するという考えが一般化したのは『[[ウォッチメン]]』などの功績だとみなされている{{sfn|Ayres|2021|pp=1–2}}。しかし分野の歴史が浅いこともあり、コミック研究のカノン(正典、名作)としての位置づけが定まっているとは言えない{{sfn|Ayres|2021|p=1}}。2000年代以降の再評価では、ムーアが{{行内引用|独自のスタイルを持つ手練れの作家}}に過ぎず、それまでの偶像化が行き過ぎだったという指摘も現れた{{sfn|Ayres|2021|pp=3–4}}。クリークマーは、コミックというメディアがムーアによって芸術的に「高められた」というファンの見方は素朴すぎるものだと述べている{{sfn|Creekmur|2004|p=287}}。バート・ビーティとベンジャミン・ウーはムーアが{{行内引用|中程度の教養<!--middlebrow-->}}の象徴だと述べ、良質のコミック作品に過ぎないものが{{行内引用|コミックの進歩の上限}}として扱われてきたと主張した{{sfn|Ayres|2021|p=4}}。また同時期にムーア作品における[[人種差別|レイシズム]]や[[ミソジニー]]の扱いに対する批判も目立ってきた{{sfn|Ayres|2021|p=3}}。 |
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=== 米国コミック史における位置づけ === |
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ムーアのキャリアはコミック界におけるオーサーシップ(著者性)観の変遷と密接に関わっている{{sfn|Ayres|2021|p=189}}。米国コミックの伝統では作品のオーサーシップを担うのは出版社であり、クリエイターは制作のために雇われるだけの存在だった。コミックブックが読み捨ての娯楽だという一般の見方もその状況を反映していた{{sfn|Ayres|2021|p=191}}。しかし1970年代に至るとコミックファンダムが成熟し、ブランドやキャラクターではなく個々の作家に注目する読者も現れ始めた{{sfn|Ayres|2021|p=190}}。また業界内でも[[アメリカン・コミックスにおけるクリエイターの権利|制作者の権利拡大]]を訴える労働運動が起こった{{sfn|Ayres|2021|p=190}}。これらが相まって{{行内引用|個人のヴィジョンと感性}}をオーサーシップの中心におく[[作家主義]]が生まれた{{sfn|Ayres|2021|p=190}}{{efn2|[[ロバート・クラム]]ら[[アンダーグラウンド・コミックス|非主流コミック]]からの流れもあった{{sfn|Murray|2018|p=219}}。}}。読者の嗜好の変化を知ったメインストリーム出版社は、熱心なファンの多い[[ダイレクト・マーケット|専門店マーケット]]向けにスター作家を擁立するようになった。その最初の世代がムーアや[[フランク・ミラー]]らであり{{Sfn|Creekmur|2004|p=285}}{{sfn|Ayres|2021|pp=192–194}}、中でもムーアは作画家ではなく原作者に注目を集めさせたことで特筆される{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|loc="Introduction", No. 52/5874}}{{sfn|Murray|2018|pp=218–219}}。 |
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ムーアはキャリアを通して、コミックを芸術作品として認知させようと試みるとともに、出版社に対してクリエイターの権利を主張し続けた{{sfn|Ayres|2021|pp=193–194}}。ムーアは前の世代のクリエイターと異なり『ウォッチメン』を始めとするDC社のベストセラーから多額の印税を得ることができた{{sfn|Parkin|2013|p=256}}。しかし自作の著作権は取り戻せず、そのことに遺恨を抱いていた(同時期にミラーや[[ニール・ゲイマン]]などはDCと契約を結び直してオリジナル作品の著作権を獲得している)<ref name="vendettavendetta"/>{{sfn|Parkin|2013|p=234}}。人気米国アニメ『[[ザ・シンプソンズ]]』に本人役で出演し、著作権をめぐるDCとの確執についてのジョークを演じたこともある<ref>{{cite web|url=https://www.cbr.com/the-simpsons-comic-creator-cameos-explained/|accessdate=2022-01-16|title=The Simpsons Most Absurd Comic Creator Cameos, Explained|publisher=www.CBR.com|website=CBR.com|date=2021-04-10|archivedate=2022-01-16 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220116171417/https://www.cbr.com/the-simpsons-comic-creator-cameos-explained/}}</ref>{{Efn2|第19シーズン第7エピソード "[[:en:Husbands and Knives|Husbands and Knives]]"<ref>{{Cite web|url=http://www.northantset.co.uk/ViewArticle.aspx?SectionID=317&ArticleID=1865011|title=Writer drawn into ''Simpsons'' show|first=Steve|last=Scoles|date= 2006-11-08|accessdate=2022-01-16|publisher= Johnston Press Digital Publishing |website=Northants Evening Telegraph|archiveurl=https://web.archive.org/web/20070615040340/http://www.northantset.co.uk/northampton-chronicle-and-echo/Writer-drawn-into-Simpsons39-show.1865011.jp|archivedate= 2007-06-15}}</ref><ref>{{cite web|url=https://www.rottentomatoes.com/tv/the_simpsons/s19/e07|accessdate=2022-01-16|title=The Simpsons: Season 19, Episode 7|publisher=Fandango|website= Rotten Tomatoes|archivedate=2022-01-18 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220118192419/https://www.rottentomatoes.com/tv/the_simpsons/s19/e07}}</ref>{{small|(邦題: ホーマーの美容整形)}}。}}。このような闘争は作品にも反映されており、ジャクソン・エアーズによるとムーアは常に「企業化されたエンターテインメント/芸術家の個人的ヴィジョン」のダイナミクスをテーマとしている{{sfn|Ayres|2021|p=192}}。ダグラス・ウォークはムーアが{{行内引用|商業性と芸術性の合間を行くコミックの道行きの先導者}}だと論じ、ポピュラーなコミックに文学性を持ち込んだこと、クリエイターを搾取する出版モデルと闘ったこと、身をもってコミック作品の価値を示したことを評価した{{sfn|Ayres|2021|p=193}}。 |
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=== 批判 === |
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ムーアの作品には{{行内引用|[[人種差別]]的、[[異性愛規範]]的、[[ミソジニー|女性嫌悪]]的な表現}}があるにもかかわらず、ある種の批評と解釈されて見過ごされてきたという主張がある{{sfn|Ayres|2021|p=177}}。ただし、数多くの作品の中でそれらのテーマの描き方が一貫しているわけではなく、裏にあるムーアの思想を単純に図式化するのは難しい{{sfn|Ayres|2021|p=188}}{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2844/3275}}。元来ムーアは、コミックに性的・人種的・社会的マイノリティの描写を取り入れることでは先駆的な立場にあった{{sfn|Wandler|2022}}。ムーアの批判者であるジャーナリストのローラ・スネッドンも、ムーアが{{行内引用|芸術、[[男女同権]]、[[フェミニズム]]などで明確に女性を支持しており、コミック業界が抱える女性嫌悪と多様性欠如の問題を糾弾してきた}}ことは認めている{{sfn|Ayres|2021|p=185}}。 |
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[[ファイル:Golliwogg1.jpg|右|サムネイル|200px|[[フローレンス・ケイト・アプトン]]が描いた[[ゴリウォーグ]]とオランダ人形たち(1895年)。]] |
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ムーア作品で人種描写に関して批判されるのは ''[[:en:The League of Extraordinary Gentlemen: Black Dossier|The League of Extraordinary Gentlemen: Black Dossier]]''(2007年)が代表である{{sfn|Ayres|2021|p=177}}。同作では、ヴィクトリア朝時代の黒人キャラクターである[[ゴリウォーグ]]が(名前を変えて)登場する<ref name=tcjprovidence/>。これはある観点では{{行内引用|人種差別的な図像、ひいては人種差別思想に基づくメッセージ}}を再生したことになる{{sfn|Ayres|2021|p=177}}。コミック研究者クレイグ・フィッシャーはムーア自身の人種差別意識に加えて{{行内引用|西洋文化の中で人種差別的イメージが力を持ち続けていること}}の露悪的な告発、そして「ステレオタイプの誇張したパロディ」という多面的な意味があるのではないかと書いている<ref name=tcjprovidence/>。 |
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ジャクソン・エアーズの考察によると、ムーアの作品は基本的にリベラルな傾向が強く、明確に人種差別批判を意図して書かれている作品もある{{sfn|Ayres|2021|p=180}}。ナチズムを継承した人種主義的な独裁政権が敵役となる『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』や{{sfn|Ayres|2021|p=180}}、スーパーヒーロー神話と[[白人至上主義|白人優越主義]]の神話を結び付けて再考した『[[ウォッチメン]]』はその例である{{sfn|Ayres|2021|p=179}}。しかし『ヴェンデッタ』が完全に白人主人公たちのドラマとして描かれ、迫害される当の少数者が不在であるように、実際の描写が逆の効果を生む部分があるのだという{{sfn|Ayres|2021|p=180}}。[[性的指向]]の描写についても同様で、ムーア自身は[[クィア]]への[[ストレート・アライ|支援者]]として出版・執筆活動を行っている{{sfn|Ayres|2021|p=181}}{{sfn|Di Liddo|2012|loc=No. 2871/3275 }}。しかしエアーズによると、『ウォッチメン』にはスーパーヒーロー・ジャンルが病的なクィアネスや暴力性の産物であるかのような描写が見られ、やはり異性愛規範を強化するような読み方ができる{{sfn|Ayres|2021|pp=182–185}}。 |
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=== 受賞 === |
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アメリカコミック界の主要な賞である[[アイズナー賞]]と[[ハーヴェイ賞|ハーベイ賞]]、それらの前身である{{仮リンク|カービー賞|en|Kirby Awards}}<ref>{{ Cite web|和書|url=https://natalie.mu/comic/column/462017|accessdate=2022-02-02|title=海外のマンガ賞まるわかり|publisher=ナターシャ|website=コミックナタリー|date=2022-02-02|archivedate= 2022-02-27|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220227194339/https://natalie.mu/comic/column/462017}}</ref>は数多く受賞している。以下のリストを参照のこと。 |
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{| class="wikitable sortable mw-collapsible mw-collapsed" |
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|+ style="background-color:lightgray"|カービー賞受賞一覧 |
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!年 |
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!部門 |
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!対象 |
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!備考 |
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|1985 |
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|原作者 |
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|『スワンプシング』 |
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|{{sfn|Parkin|2013|p=175}} |
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|1985 |
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|単一号 |
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|『スワンプシング・アニュアル』第2号(ジョン・タトルベン、スティーヴ・ビセットとともに) |
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|{{sfn|Parkin|2013|p=175}} |
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|- |
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|1985 |
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|定期シリーズ |
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|『スワンプシング』(ジョン・タトルベン、スティーヴ・ビセットとともに) |
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|{{sfn|Parkin|2013|p=175}} |
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|- |
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|1986 |
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|原作者 |
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|『スワンプシング』 |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|- |
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|1986 |
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|定期シリーズ |
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|『スワンプシング』(ジョン・タトルベン、スティーヴ・ビセットとともに) |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|- |
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|1986 |
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|新シリーズ |
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|『ミラクルマン』(複数の作画家とともに) |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|1987 |
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|原作者 |
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|『ウォッチメン』 |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|- |
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|1987 |
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|定期シリーズ |
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|『スワンプシング』(ジョン・タトルベン、スティーヴ・ビセットとともに) |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|- |
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|1987 |
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|新シリーズ |
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|『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|- |
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|1987 |
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|原作/作画チーム |
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|『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|} |
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{| class="wikitable sortable mw-collapsible mw-collapsed" |
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|+ style="background-color:lightgray"| [[アイズナー賞]]受賞一覧 |
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!年 |
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!部門 |
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!対象 |
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!備考 |
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|1988 |
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|原作者 |
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|『[[ウォッチメン]]』 |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|1988 |
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|原作/作画チーム |
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|『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|1988 |
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|限定シリーズ |
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|『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|1988 |
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|単行本 |
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|『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|1989 |
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|原作者 |
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|『[[バットマン: キリングジョーク]]』 |
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|<ref name=eisner1980s/> |
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|1989 |
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|単行本 |
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|『バットマン: キリングジョーク』(ブライアン・ボランドとともに) |
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|<ref name=eisner1980s>{{cite web|url=https://www.comic-con.org/awards/1980s-recipients|accessdate=2022-02-17|title=1980s |publisher= Comic-Con International: San Diego|archivedate=2022-01-22 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220122212014/https://www.comic-con.org/awards/1980s-recipients }}</ref> |
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|- |
|||
|1993 |
|||
|連載ストーリー |
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|「フロム・ヘル」(エディ・キャンベルとともに) |
|||
|''Taboo'' 連載版<ref name=eisner1990s/> |
|||
|- |
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|1994 |
|||
|単行本(書き下ろし) |
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|''A Small Killing''(オスカー・サラテとともに) |
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|<ref name=eisner1990s/> |
|||
|- |
|||
|1995 |
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|原作者 |
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|『[[フロム・ヘル]]』 |
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|<ref name=eisner1990s/> |
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|1996 |
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|原作者 |
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|『フロム・ヘル』 |
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|<ref name=eisner1990s/> |
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|1997 |
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|原作者 |
|||
|『フロム・ヘル』、『スプリーム』 |
|||
|<ref name=eisner1990s>{{cite web|url=https://www.comic-con.org/awards/1990s-recipients|accessdate=2022-02-17|title=1990s |publisher= Comic-Con International: San Diego |archivedate=2022-01-22 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220122212025/https://www.comic-con.org/awards/1990s-recipients }}</ref> |
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|- |
|||
|2000 |
|||
|原作者 |
|||
|『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』、『[[プロメテア]]』、''Tom Strong'' 、''Tomorrow Stories'' 、『[[トップ10]]』 |
|||
|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2000 |
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|単一号/単一話 |
|||
|''Tom Strong'' 第1号 "How Tom Strong Got Started"(クリス・スプラウス、アル・ゴードンとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2000 |
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|連載ストーリー |
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|''Tom Strong'' 第4–7号(クリス・スプラウス、アル・ゴードンらとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2000 |
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|新シリーズ |
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|『トップ10』(ジーン・ハー、ザンダー・キャノンとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2000 |
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|単行本(再録) |
|||
|『フロム・ヘル』(エディ・キャンベルとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2000 |
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|アンソロジー |
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|''Tomorrow Stories''(リック・ヴィーチ、ケヴィン・ノーラン、メリンダ・ゲビー、ジム・ベイキーとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2001 |
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|原作者 |
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|『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』、『プロメテア』、''Tom Strong''、''Tomorrow Stories'' 、『トップ10』 |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2001 |
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|単一号/単一話 |
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|『プロメテア』第10号「セックス、スター、スネーク」(J・H・ウィリアムズIII、ミック・グレイとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2001 |
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|定期シリーズ |
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|『トップ10』(ジーン・ハー、ザンダー・キャノンとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2003 |
|||
|限定シリーズ |
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|『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(ケヴィン・オニールとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
|||
|2004 |
|||
|原作者 |
|||
|『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』、『プロメテア』、''Smax'' 、''Tom Strong''、''Tom Strong's Terrific Tales'' |
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|<ref name=eisner2000s/> |
|||
|- |
|||
|2006 |
|||
|原作者 |
|||
|『プロメテア』、''Top 10: The Forty-Niners'' |
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|<ref name=eisner2000s/> |
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|- |
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|2006 |
|||
|単行本(書き下ろし) |
|||
|''Top 10: The Forty-Niners''(ジーン・ハーとともに) |
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|<ref name=eisner2000s>{{cite web|url=https://www.comic-con.org/awards/2000s|accessdate=2022-02-17|title=2000s |publisher= Comic-Con International: San Diego|archivedate= 2022-02-28|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220228071111/https://www.comic-con.org/awards/2000s }}</ref> |
|||
|- |
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|2006 |
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|アーカイバル・コレクション(コミックブック) |
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|''Absolute Watchmen''(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=eisner2000s/> |
|||
|- |
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|2014 |
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|殿堂 |
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|本人 |
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|<ref>{{cite web|url=https://www.comic-con.org/awards/eisner-award-recipients-2010-present|accessdate=2022-02-17|title=2010-Present|publisher=Comic-Con International: San Diego|archivedate=2022-01-22 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220122212158/https://www.comic-con.org/awards/eisner-award-recipients-2010-present }}</ref> |
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|} |
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{| class="wikitable sortable mw-collapsible mw-collapsed" |
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|+ style="background-color:lightgray"| [[ハーベイ賞]]受賞一覧 |
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!年 |
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!部門 |
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!対象 |
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!備考 |
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|1988 |
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|原作者 |
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|『ウォッチメン』 |
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|<ref name=harvey>{{cite web|url=https://www.harveyawards.com/en-us/winners/previous-winners.html|publisher=The Harvey Awards|accessdate=2022-02-17|title=Previous Winners|archivedate=2022-01-09 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220109213700/https://www.harveyawards.com/en-us/winners/previous-winners.html }}</ref> |
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|1988 |
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|定期/限定シリーズ |
|||
|『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|- |
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|1988 |
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|単一号 |
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|『ウォッチメン』第9号(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|1988 |
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|単行本 |
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|『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|- |
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|1988 |
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|特別賞 Excellence in Presentation |
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|『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|1989 |
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|単一号 |
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|『バットマン:キリングジョーク』(ブライアン・ボランド、ジョン・ヒギンズとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|1989 |
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|単行本 |
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|『バットマン:キリングジョーク』(ブライアン・ボランド、ジョン・ヒギンズとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|1995 |
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|原作者 |
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|『フロム・ヘル』 |
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|<ref name=harvey/> |
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|- |
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|1995 |
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|定期/限定シリーズ |
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|『フロム・ヘル』(エディ・キャンベルとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|1996 |
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|原作者 |
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|『フロム・ヘル』 |
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|<ref name=harvey/> |
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|1999 |
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|原作者 |
|||
|『フロム・ヘル』、『スプリーム』ほか全著作 |
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|<ref name=harvey/> |
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|2000 |
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|原作者 |
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|『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』 |
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|<ref name=harvey/> |
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|2000 |
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|単行本(再録) |
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|『フロム・ヘル』(エディ・キャンベルとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|2001 |
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|原作者 |
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|『プロメテア』 |
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|<ref name=harvey/> |
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|2003 |
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|原作者 |
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|『プロメテア』 |
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|<ref name=harvey/> |
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|- |
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|2003 |
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|定期/限定シリーズ |
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|『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(ケヴィン・オニールとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|- |
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|2003 |
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|単一号 |
|||
|『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』第1号(ケヴィン・オニールとともに) |
|||
|<ref name=harvey/> |
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|2004 |
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|定期/限定シリーズ |
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|『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(ケヴィン・オニールとともに) |
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|<ref name=harvey/> |
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|} |
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[[サンディエゴ・コミコン]]が選出する[[インクポット賞]]は1985年に受賞した<ref>{{Cite web|url=https://www.comic-con.org/awards/inkpot|title=Inkpot Award|date=2016|publisher=[[San Diego Comic-Con]]|archiveurl=https://web.archive.org/web/20170129155249/http://www.comic-con.org/awards/inkpot|archivedate= 2017-01-29|accessdate=2022-01-12}}</ref>。アメリカのコミック情報誌『{{仮リンク|コミックス・バイヤーズ・ガイド|en|Comics Buyer's Guide}}』の{{仮リンク|コミックス・バイヤーズ・ガイド・ファン・アワード|en|Comics Buyer's Guide Fan Awards|label=ファン・アワード}}には何度もノミネートしており、1985–1987年、1999年、2000年には原作者部門で、1987年には作品部門(ウォッチメン)で、1988年にはオリジナル・グラフィックノベル/グラフィックアルバム部門(バットマン: キリングジョーク)で受賞している{{sfn|Thompson (ed.)|1995}}。 |
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英国のコミックファンによる{{仮リンク|イーグル賞|en|Eagle Awards}}を受けるのもたびたびで、1982年に『Vフォー・ヴェンデッタ』によって原作者部門と作品部門で受賞したのに始まり{{sfn|Parkin|2013|p=136}}、1986年には米国原作者と英国原作者のダブル受賞を果たした<ref>{{cite web|archiveurl= https://web.archive.org/web/20120314223156/http://www.eagleawards.co.uk/category/previous-winners/1986/|title=Previous Winners - 1986|publisher=The Eagle Award |url=http://www.eagleawards.co.uk/category/previous-winners/1986/|accessdate=2023-02-11 |archivedate=2012-03-14}}</ref>。英国{{仮リンク|ナショナル・コミックス・アワード|en|National Comics Awards}}は2002年時点で殿堂入りしており、オールタイムベスト原作者にも選ばれている<!--2001年、2003年のベスト原作者については出典不明--><ref name=NCA02>{{cite web|title=NATIONAL COMICS AWARDS 2002: THE 5TH NATIONAL COMICS AWARDS RESULTS|publisher=2000ADonline.org.|archiveurl=https://web.archive.org/web/20060216121640/http://www.2000adonline.com/index.php3?zone=news&page=newsimage&choice=awards02|archivedate=2006-02-16|accessdate=2022-02-17|url=http://www.2000adonline.com/index.php3?zone=news&page=newsimage&choice=awards02}}</ref>。英米以外では、ドイツの漫画賞である{{仮リンク|マックス・ウント・モーリッツ賞|de|Max-und-Moritz-Preis}}(2008年、全作品に対して)がある<ref>{{cite web|url=https://www.kulturkaufhaus.de/de/detail/ISBN-9780861661411/Moore-Alan/From-Hell|accessdate=2022-02-15|language=German, read via Google Translate|title=From Hell - Moore, Alan; Campbell, Eddie - Dussmann|publisher=Das Kulturkaufhaus|archivedate=2022-02-16 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220216112645/https://www.kulturkaufhaus.de/de/detail/ISBN-9780861661411/Moore-Alan/From-Hell }}</ref>。フランスでは[[アングレーム国際漫画祭]]の[[アングレーム国際漫画祭 最優秀作品賞|最優秀作品賞]]海外アルバム部門を『[[ウォッチメン]]』(1989年)と『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』(1990年)に対して{{sfn|Lesage & Gabilliet|2020}}、{{仮リンク|批評家賞 (フランスの漫画賞)|fr|Grand prix de la critique|label=批評家賞}}を『[[フロム・ヘル]]』(2001年)に対して授与された<ref>{{cite web|url=https://www.acbd.fr/919/grand-prix-de-la-critique/2001/|accessdate=2022-02-17|publisher= Association des Critiques et journalistes de Bande Dessinée |title=Prix de la Critique 2001|language=French, read via Google Translate|date=2007-01-13|archivedate= 2021-04-16|archiveurl= https://web.archive.org/web/20210416231546/https://www.acbd.fr/919/grand-prix-de-la-critique/2001/}}</ref>。そのほかスウェーデンの[[:en:Urhunden Prizes|Urhunden賞]]を『ウォッチメン』で(1992年)<ref>{{cite web|url=https://serieframjandet.se/kvinnliga-serieskapare-far-arets-urhundenpriser/|accessdate=2022-02-17|title=Kvinnliga serieskapare får årets Urhundenpriser|publisher=Seriefrämjandet|date=2012-09-16|language=Swedish, read via Google Translate|archivedate=2022-01-09 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220109214635/https://serieframjandet.se/kvinnliga-serieskapare-far-arets-urhundenpriser/}}</ref>、スペインの[[:es:Premio Haxtur|Haxtur賞]]を『ウォッチメン』(1988年、長編作品部門)<ref>{{cite web|url=http://www.elwendigo.net/haxtur/hax88/haxt1988.htm|publisher=El Wendigo|accessdate=2022-02-17|title=Haxtur - PREMIOS HAXTUR 1988|date=2007-12-09|language=Spanish, read via Google Translate|archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101728/http://www.elwendigo.net/haxtur/hax88/haxt1988.htm }}</ref>と『スワンプシング』第5号(1989年、原作者部門)<ref>{{cite web|url=http://www.elwendigo.net/haxtur/hax89/haxt1989.htm|publisher=El Wendigo|accessdate=2022-02-17|title=Haxtur - PREMIOS HAXTUR 1989|date=2007-12-09|language=Spanish, read via Google Translate|archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101730/http://www.elwendigo.net/haxtur/hax89/haxt1989.htm }}</ref>で受賞している。 |
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コミック賞以外にも、1988年には『ウォッチメン』がSFの[[ヒューゴー賞]]をコミックとして初めて受賞し(1988年のみ置かれた「その他の形式」部門)<ref name=hugo2008/>{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 675/2302}}、同じく[[ローカス賞]]にも選ばれた<ref>{{cite web|url=https://www.locusmag.com/2003/Issue07/Moore.html|accessdate=2022-04-08|title=Alan Moore interview excerpts|publisher= Locus Publications|website= Locus Online |date=2017-10-07|archiveurl= https://web.archive.org/web/20210612110214/https://www.locusmag.com/2003/Issue07/Moore.html |archivedate=2021-06-12}}</ref>。『Vフォー・ヴェンデッタ』は2006年に[[リバタリアンSF]]の古典を対象とする[[プロメテウス賞]]殿堂賞を与えられた<ref>{{cite web|url=http://lfs.org/blog/a-dystopian-action-film-with-radical-and-libertarian-ideas-v-for-vendetta-the-2007-prometheus-special-award-winner/#more-3501|accessdate=2022-04-08|title=A dystopian action film with radical and libertarian ideas: V for Vendetta, the 2007 Prometheus Special Award winner|website=Prometheus Blog|publisher= Libertarian Futurist Society|archiveurl= <!--Wayback Machine でアーカイブ化に失敗--> |archivedate=|date=2022-01-18}}</ref>。1988年に小説 ''A Hypothetical Lizard'' が[[世界幻想文学大賞]]中編小説部門にノミネートされた<ref>{{cite web|url=http://www.worldfantasy.org/1988-the-14th-world-fantasy-convention/|accessdate=2022-02-17|title=1988: The 14th World Fantasy Convention|publisher= World Fantasy Convention|archivedate= 2022-02-17|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101729/http://www.worldfantasy.org/1988-the-14th-world-fantasy-convention/}}</ref>。{{仮リンク|国際ホラーギルド賞|en|International Horror Guild Awards}}はグラフィック・ストーリー/イラストレーテッド・ナラティヴ部門で受賞している(1995年『フロム・ヘル』)<ref>{{Cite web|url=http://www.horroraward.org/prevrec.html|title=IHG Award Recipients|publisher=International Horror Guild|accessdate=2022-02-17|archiveurl=https://web.archive.org/web/20090422073428/http://horroraward.org/prevrec.html|archivedate=2009-04-22}}</ref>。[[ブラム・ストーカー賞]]はイラストレーテッド・ナラティヴ部門で2回受賞したほか(2000年「リーグ」<ref>{{cite web|url=https://www.thebramstokerawards.com/uncategorized/2000-bram-stoker-award-winners-nominees/|accessdate=2022-02-17|title=2000 Bram Stoker Award Winners & Nominees|publisher=The Bram Stoker Awards|date=2001|archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101747/https://www.thebramstokerawards.com/uncategorized/2000-bram-stoker-award-winners-nominees/}}</ref>、2011年『[[ネオノミコン]]』<ref>{{cite web|url=https://www.thebramstokerawards.com/uncategorized/2011-bram-stoker-award-winners-nominees/|accessdate=2022-02-17|title=2011 Bram Stoker Award Winners & Nominees|publisher= The Bram Stoker Awards|date=2012|archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101737/https://www.thebramstokerawards.com/uncategorized/2011-bram-stoker-award-winners-nominees/}}</ref>)、2015年に生涯功労賞を受けている<ref>{{cite web|url=https://www.thebramstokerawards.com/graphic-novel/moore-alan/|accessdate=2022-04-08|title=Moore, Alan|publisher=The Bram Stoker Awards|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217112244/https://www.thebramstokerawards.com/graphic-novel/moore-alan/ |archivedate=2022-02-17}}</ref>。 |
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== 影響 == |
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=== アメリカンコミックへの影響 === |
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ジェフ・クロックはムーアの『ウォッチメン』が時代を画す傑作の一つであり、それ以降のスーパーヒーロー・コミックすべてに影響を与えたと書いている{{sfn|Di Liddo|2009|loc=No. 592/2461}}。歴史的にアメリカのコミックブック出版は子供向けのメディアであり、荒唐無稽なスーパーヒーロー物はその中心だった{{sfn|Hudsick|2012|pp=17–18}}。1970年代にはファン出身の書き手によって大人向けのストーリーが散発的に書かれていたものの、新たな形式を生み出すには至っていなかった{{sfn|Hudsick|2012|p=19}}。1986年に発表された『ウォッチメン』は、それまでになかったレベルのリアリズムをジャンルに持ち込んだ{{Sfn|Darius|2012a|p=102}}。ヒーローの内面や社会的観点を導入したのに加え{{Sfn|マズロン&キャンター|2014|p=232}}、[[効果線|流線]]・擬音・内心の[[ふきだし]]・作者による[[語り手|語り]]といった伝統表現を排したリアリティのある描写を広めた{{sfn|Hudsick|2012|pp=20–22}}。ティム・キャラハンによると、このジャンルで[[脱構築]]を行ったのはムーアが最初ではないが、その{{行内引用|スマートで洗練され、シリアスであると同時に痛烈に皮肉な}}スーパーヒーロー物語こそが後の世代にとってのひな型となった<ref name=rereadlegacy/>。 |
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クロックによるとムーアらの作品はヒーローコミックにおける自意識の目覚めであり{{sfn|Klock|2002|p=3}}、以降10年ほどにわたって米国コミックはその模倣に陥った。しかしやがてムーアらの影響を受けた世代の作家が、過去の歴史を受け継ぎつつ自己批評性を備えた作品によって新しい時代を打ち立てていった{{sfn|Creekmur|2004|pp=287–288}}。コミック原作者グラント・モリソンは2011年の著書で『ウォッチメン』を[[白亜紀と古第三紀の間の大量絶滅|恐竜絶滅イベント]]に例え、{{行内引用|スーパーヒーロー・コミックに過酷な選択が突きつけられた⸺進化するか、それとも滅亡するか⸺その影響はいまもこだましている}}と書いた{{sfn|モリソン|2013|p=300}}。 |
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=== サブカルチャーへの影響 === |
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アンドリュー・ホベレクは『ウォッチメン』の研究書 ''Considering Watchmen: Poetics, Property, Politics''(2014年)の中で、同作がスーパーヒーロー・ジャンルで行った{{行内引用|リアリズムの強調と形式の洗練}}は、コミックブック出版への直接的な影響を超えて現代アメリカ文化全体に広く浸透したと論じている。ホベレクはムーアに続いてスーパーヒーロー・ジャンルでシリアスな作品を残した小説家として[[マイケル・シェイボン]]、[[ジュノ・ディアズ]]、[[エイミー・ベンダー]]を挙げている{{sfn|Ayres|2021|p=209}}。映画評論家{{仮リンク|マイケル・スラゴウ|en|Michael Sragow}}はディズニー映画『[[Mr.インクレディブル]]』(2004年)を取り上げて、子供向け作品ながらヒーローの社会的・政治的意味付けや心理の描き方に『ウォッチメン』の影響が見られると述べた。これはエアーズによれば、ムーアのアイロニックな脱構築がすでに革新的なアプローチからジャンルの規範へと変わったことを意味している{{sfn|Ayres|2021|p=194}}。 |
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[[柳下毅一郎]]は、『ウォッチメン』の革新性は内容よりも{{行内引用|ストーリーの語り方、非線形のストーリーテリングと多重的な意味の重ね合わせ}}だと述べた<ref name=allreviewsyanashita/>。コミック研究者メラニー・ギブソンも、対置や重層性を用いた複雑なストーリーテリングを可能にしたことが後世への影響として重要だと書いている{{sfn|Gibson|2011|p=490}}。ウェブメディア [[:en:The A.V. Club|''The A.V. Club'']] は『ウォッチメン』の重層的な構成が{{行内引用|[[ギーク]]文化の一世代全体に影響を与えた}}と書き、テレビドラマ『[[LOST]]』(2004–2010年)を例に挙げた<ref name=avclubprimer/>。『LOST』制作者[[デイモン・リンデロフ]]は『ウォッチメン』から特徴的な[[フラッシュバック (物語)|フラッシュバック]]・[[フラッシュフォワード (物語)|フラッシュフォワード]]を取り入れたと語っており{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 683/2303}}、同作を{{行内引用|これまでに作られたポピュラー・フィクションの中の最高傑作}}と呼んでいる<ref name="EntertainmentWeekly">{{Cite news|url=http://www.ew.com/ew/article/0,,1120854,00.html|title=Watchmen: An Oral History|last=Jensen|first=Jeff|date=2005-10-21|newspaper=Entertainment Weekly|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131214220508/http://www.ew.com/ew/article/0%2C%2C1120854%2C00.html|archivedate=2013-12-14|accessdate=2022-02-03}}</ref>。 |
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1980年代に『ウォッチメン』でムーアの筆名が上がったころ、{{仮リンク|カメレオンズ|en|The Chameleons}}、[[ポップ・ウィル・イート・イットセルフ]]、{{仮リンク|トランスヴィジョン・ヴァンプ|en|Transvision Vamp}}のような英国バンドがムーアの作品にインスパイアされた楽曲を作っている{{sfn|Parkin|2013|p=207}}。パンクバンド、[[マイ・ケミカル・ロマンス]]の[[ジェラルド・ウェイ]]は音楽活動を始めるインスピレーションとなったのは音楽よりもまず『ウォッチメン』だと述べており、自身でも同作の影響を受けたコミックシリーズ [[:en:The Umbrella Academy|''The Umbrella Academy'']](2007年)の原作を書いて[[アイズナー賞]]を受けている{{sfn|Borsellino|2012|pp=35–36}}。 |
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=== 社会への影響 === |
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[[ファイル: Anonymous @ Million Mask March, Boise ID- Nov 5, 2013- Protest rally 99% anon Guy Fawkes sign occupy 2013-11-13 08-24.jpg|右|サムネイル|2013年の11月5日([[ガイ・フォークス・ナイト|ガイ・フォークス・デー]])に行われた{{仮リンク|ミリオン・マスク・マーチ|en|Million Mask March}}。『[[ Vフォー・ヴェンデッタ]]』の主人公が着用する[[ガイ・フォークス・マスク|ガイ・フォークスの仮面]]は現実の政治行動に取り入れられた。]] |
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全12号のコミックブックとして世に出た『ウォッチメン』は当時の米国コミックとしては珍しく単行本([[グラフィックノベル]]と呼ばれた)として再刊された。書籍版の人気はコミックブック専門店に足を踏み入れない読者層にも届き{{sfn|Parkin|2013|p=216, 220–221}}、「もうコミックは子供の読み物ではない」という見方を広めた{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|loc="Introduction", No. 52/5874}}。米国の図書館や一般書店にコミック(グラフィックノベル)が置かれるようになったのには同作の影響がある<ref name=cbldfcasewatchmen>{{cite web|url=http://cbldf.org/banned-challenged-comics/case-study-watchmen/|accessdate=2022-02-20|title=Case Study: Watchmen|publisher=Comic Book Legal Defense Fund|archivedate=2022-02-26 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220226032150/http://cbldf.org/banned-challenged-comics/case-study-watchmen/}}</ref>。DC社によると、一般書店を通じた『ウォッチメン』単行本の販売数は25年間で200万部を超えた{{sfn|Parkin|2013|p=216, 220–221}}。 |
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『ウォッチメン』や『Vフォー・ヴェンデッタ』は米国の大学教育でよく題材にされている{{Sfn|Carter|2011}}。コミック文化の振興を目的とする[[コミック弁護基金]]が2019年に行った調査によると、米国の幼稚園から高等教育までの学校のおよそ半数でコミックの教育利用が行われており<ref>{{cite web|url=http://cbldf.org/2019/10/cbldfs-comics-in-education-survey-reveals-top-comics-in-schools-a-broad-embrace-of-the-format/|accessdate=2022-02-20|title=CBLDF’s Comics In Education Survey Reveals Top Comics in Schools & A Broad Embrace of the Format|publisher= Comic Book Legal Defense Fund|date=2019-10-02|archivedate= 2022-02-26|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220226032153/http://cbldf.org/2019/10/cbldfs-comics-in-education-survey-reveals-top-comics-in-schools-a-broad-embrace-of-the-format/}}</ref>、取り上げられることが多い作品の10位に『ウォッチメン』が挙げられている<ref>{{cite web|url=http://cbldf.org/2019/12/11-most-popular-comics-in-classrooms-with-signed-copies-to-support-cbldf/|accessdate=2022-02-20|title=11 Most Popular Comics in Classrooms (with Signed Copies to Support CBLDF!)|publisher=Comic Book Legal Defense Fund|date=2022-02-20|archivedate=2022-02-26 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220226032152/http://cbldf.org/2019/12/11-most-popular-comics-in-classrooms-with-signed-copies-to-support-cbldf/}}</ref>。 |
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『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』で主人公が着用する[[ガイ・フォークス・マスク|ガイ・フォークスの仮面]]は、2005年の[[Vフォー・ヴェンデッタ (映画)|映画化]]を経て、現実世界において政治的反抗の象徴として広く受け入れられた<ref name=rereadlegacy>{{cite web|url= https://www.tor.com/2013/01/14/the-great-alan-moore-reread-the-alan-moore-legacy/|accessdate=2022-02-08|title= The Great Alan Moore Reread: The Alan Moore Legacy|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2013-01-14|archivedate=2021-04-14 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20210414145908/https://www.tor.com/2013/01/14/the-great-alan-moore-reread-the-alan-moore-legacy/}}</ref><ref>{{cite web|url=https://www.bbc.com/news/world-34744710|accessdate=2022-01-12 |
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|title=Million Mask March: What are Anonymous' demands?|publisher=BBC|website=BBC.com News|date=2015-11-06|archivedate=2021-11-07 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20211107190708/https://www.bbc.com/news/world-34744710}}</ref>。占拠運動<ref>{{Cite web|last=Caron|first=Christina|url=https://abcnews.go.com/blogs/business/2011/11/occupy-protesters-embrace-v-for-vendetta/|title=Occupy Protesters Embrace ''V for Vendetta''|website=ABC News|publisher= ABC News Internet Ventures|date=2011-12-04|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131109001524/https://abcnews.go.com/blogs/business/2011/11/occupy-protesters-embrace-v-for-vendetta/|archivedate=2013-12-09|accessdate=2022-03-04}}</ref><ref>{{Cite web|last=Olson|first=Geoff|url=http://commonground.ca/?p=3120|title=Demonstrators don ''V for Vendetta'' masks in Occupy Everywhere|website=Common Ground Publishing|date=2011-11|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131109001619/http://commonground.ca/2011/11/demonstrators-don-v-for-vendetta-masks-in-occupy-everywhere/|archivedate=2013-11-09|accessdate=2022-03-04}}</ref>、[[アノニマス (集団)|アノニマス]]<ref name=guardian2011-11/>、[[エジプト革命 (2011年)|エジプト革命]]<ref>{{Cite web|url=http://www.jadaliyya.com/pages/index/1723/v-for-vendetta_the-other-face-of-egypts-youth-move|title=''V for Vendetta'': The Other Face of Egypt's Youth Movement|first=Linda|last=Herrera|date= 2011-05-30|publisher=Koein|website=Jadaliyya.com|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131107022311/http://www.jadaliyya.com/pages/index/1723/v-for-vendetta_the-other-face-of-egypts-youth-move|archivedate= 2013-11-07|accessdate=2022-01-12}}</ref>、[[反グローバリゼーション]]デモで使用例が見られる<ref name=guardian2011-11>{{Cite web|last=Lamont|first=Tom|url=https://www.theguardian.com/books/2011/nov/27/alan-moore-v-vendetta-mask-protest|title=Alan Moore – meet the man behind the protest mask|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian |date=2011-11-26|archiveurl=https://web.archive.org/web/20131205091521/http://www.theguardian.com/books/2011/nov/27/alan-moore-v-vendetta-mask-protest|archivedate=2013-12-05|accessdate=2011-12-12}}</ref>。占拠運動の支持者で『オキュパイ・コミックス』を発刊した映画監督{{仮リンク|マット・ピッツォーロ|en|Matt Pizzolo}}はムーアを運動の{{行内引用|非公式のゴッドファーザー}}と呼び、同世代の世界観形成に大きな影響があったと語っている<ref name=wiredoccupy/>。 |
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=== 日本での受容 === |
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日本では1990年代にアニメやゲーム、[[アクションフィギュア|フィギュア]]を入り口にしたアメリカン・コミックのブームが起き<ref name=nikkei/>、その流れで代表作『ウォッチメン』が刊行された<ref>{{cite news|和書|newspaper=[[読売新聞]](夕刊)|date=1999-02-09|page=7|title=長編で独自世界ひらく 近頃の米国マンガ事情|author=[[小野耕世]]}}</ref>。このときは大きなヒットにならなかったが<ref>{{cite news|和書|newspaper=[[北海道新聞]](夕刊全道)|date=2009-04-24|page=9|title=<カルチャープラス BOOK こだわり選書>SF史・技術文化史家 永瀬唯*SF*科学に夢抱いた時代体験|author=[[永瀬唯]]}}</ref>、間を置いて2000年代末にスーパーヒーロー映画との相乗効果によって「アメコミ第2次ブーム」が起きると同作の新版が市場をけん引することになった<ref name=nikkei>{{cite news|和書|newspaper=[[日経MJ|日経流通新聞]]|date=2010-08-16|page=16|title=アメコミ 大人の深み 映画化でファン層拡大}}</ref><ref name=mainichi2011>{{cite news|和書|newspaper=[[毎日新聞]]|date=2011-02-17|page=24|title=バンド・デシネ:仏語圏の漫画、翻訳相次ぐ 日本の作家にも影響}}</ref>。同時期に人文学系の出版社[[みすず書房]]が初のコミック作品として出した『[[フロム・ヘル]]』もヒットし<ref name=asahi20091008/>、こちらは文学・美術ファンを対象に[[バンド・デシネ]]を翻訳出版する動きにつながった<ref name=mainichi2011/>。日本の書評家、研究者、一般紙などからはアメリカン・コミック界の「鬼才」と呼ばれている<ref>{{cite news|和書|newspaper=北海道新聞(朝刊全道)|date=2009-12-13|page=11|title=<ほん 名作料理店>豊崎由美*フロム・ヘル(上・下)*アラン・ムーア作、エディ・キャンベル画*柳下毅一郎訳*みすず書房*「ジャック」の恐怖 漫画で再び|author=[[豊崎由美]]}}</ref><ref>{{cite news|和書|newspaper=北海道新聞(朝刊全道)|date=2009-12-27|page=12|title=<ほん>今年の3冊*わたしのお薦め(2の1)|author=[[大森望]]}}</ref><ref>{{cite web|和書|url=https://honyakumystery.jp/1255033761|accessdate=2023-11-15|title=私設応援団・これを読め!『フロム・ヘル』(執筆者・千街晶之)|website= 翻訳ミステリー大賞シンジケート|date=2019-10-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20230322092709/https://honyakumystery.jp/1255033761|archivedate=2023-03-22|author=[[千街晶之]]}}</ref><ref>{{cite web|和書|url=https://konomanga.jp/guide/6190-2|accessdate=2023-11-15|title=【日刊マンガガイド】『プロメテア』第1巻 アラン・ムーア(作)J・H・ウィリアムズIII(画)柳下毅一郎(訳)|website=このマンガがすごい!WEB|publisher=宝島社|date=2014-07-15|archiveurl=https://web.archive.org/web/20230314004008/https://konomanga.jp/guide/6190-2|archivedate=2023-03-14|author=四海鏡}}</ref>{{sfn|福原|2010|p=139}}<ref>{{cite news|和書|newspaper=北海道新聞(夕刊全道)|date=2009-11-12|page=7|title=<スクエア>硬派「みすず書房」が路線転換?*コミック出版し好調*歴史好きにも照準}}</ref>。 |
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日本にも熱心なムーアファンがおり<ref>{{cite news|和書|newspaper=読売新聞(東京夕刊)|date=2005-04-22|page=5|title=英国人劇画作家 アラン・ムーア 不気味な世界、映画化続々}}</ref><ref name=asahi20091008>{{cite news|和書|newspaper=[[朝日新聞]](夕刊)|date=2009-10-08|page=11|title=みすず書房がコミック刊行 切り裂きジャック題材『フロム・ヘル』}}</ref>、ライトノベル『[[魔法少女禁止法]]』([[伊藤ヒロ]]、2010年)やアニメ『[[コンクリート・レボルティオ~超人幻想~]]』(2015–2016年)のように、スーパーヒーローが実在する仮想歴史としての『ウォッチメン』から影響を受けた作品もある<ref>{{cite news|和書|newspaper=朝日新聞(夕刊)|date=2019-09-21|page=2|title=(エンタメ for around 20)ウェブ小説、黎明期の空気|author=[[大樹連司|前島賢]]}}</ref><ref>{{cite news|和書|newspaper=朝日新聞(夕刊)|date=2015-10-25|page=18|title=(エンタメ for around 20)戦後史にみる超人への憧れ|author=前島賢}}</ref><ref>{{ Cite web|和書|url=https://animeanime.jp/article/2016/05/20/28601.html|accessdate=2022-03-18|title=虚淵玄×水島精二×會川昇「コンクリート・レボルティオ」超人鼎談 “虚淵玄にとって正義とは?” |publisher=IID|website=アニメ!アニメ!|date=2016-05-20}}</ref>。 |
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『[[フロム・ヘル]]』などの翻訳者でもある[[柳下毅一郎]]は、ムーアの特徴的な格子状コマ割り([[#コマ割り|作風節参照]])について、コマの大きさに強弱をつけて直感的に動きを感じさせる[[日本の漫画|日本漫画]]の文法とは異質だと論じている。そのため要求される読み方も異なっており、日本漫画がスピーディーに読み進められるのに対し、ムーア作品は一つ一つのコマをじっくりと眺め、[[構図]]の中に圧縮された情報を読み解くことで初めて味わえるのだという。柳下はその違いが日本の読者にとって読みづらさになるとも指摘している<ref name=yanashitautamaru>{{Cite web|和書|url=http://fromhell-info.jugem.jp/?eid=19|title=柳下さん×宇多丸さんの刊行記念イベント報告|website=アラン・ムーア『フロム・ヘル』 Infomation|publisher=みすず書房 |date=2009-11-02|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220707184016/http://fromhell-info.jugem.jp/?eid=19|archivedate=2022-07-07|accessdate=2022-08-03}}</ref>。これを踏まえて、『フロム・ヘル』日本語版の版元[[みすず書房]]は同作を{{行内引用|日本の漫画とはまったく異なる方向の進化形}}と紹介した<ref name=misuzutopics>{{Cite web|和書|url= https://www.msz.co.jp/topics/archives/07491;07492.html |title=『フロム・ヘル』―トピックス|website=アラン・ムーア『フロム・ヘル』 Infomation|publisher=みすず書房 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220803120323/https://www.msz.co.jp/topics/archives/07491;07492.html |archivedate=2022-08-03|accessdate=2022-08-03}}</ref>。評論家[[上野昻志]]は書評で「コマ割りされた静止画のもたらす緊迫感」「「[[グラフィック・ノベル]]」のダイナミズムは … 流動的な動き主体の {{interp|日本産}} マンガからは失われたものかもしれない」と述べた<ref>{{Cite web|和書|url=http://fromhell-info.jugem.jp/?eid=17|title=各種メディアでご紹介いただきました(2/9更新)|website=アラン・ムーア『フロム・ヘル』 Infomation|publisher=みすず書房|date=2009-10-21|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200128151749/http://fromhell-info.jugem.jp/?eid=17|archivedate=2020-01-28|accessdate=2022-08-07}}</ref>。 |
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== 人物 == |
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[[ファイル:Alan_Moore.jpg|左|サムネイル|2006年、サイン中のムーア。指輪や指甲冑を着け始めたのは[[メリンダ・ゲビー]]からのプレゼントがきっかけだった<ref name="Babcock"/>。]] |
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190 [[センチメートル|cm]]近い長身で{{sfn|Parkin|2013|p=1}}、若いころから髪とひげを伸び放題にしている<ref name=guardianinterview>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2012/dec/15/alan-moore-why-i-rejected-hollywood-interview|accessdate=2022-01-16|title=Alan Moore: why I turned my back on Hollywood|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2012-12-15|archivedate= 2022-01-27|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220127035924/https://www.theguardian.com/books/2012/dec/15/alan-moore-why-i-rejected-hollywood-interview }}</ref>。ドキュメンタリー番組に出演した際、自分に[[メサイアコンプレックス|救世主コンプレックス]]があるか自問して「この髪でないわけないだろう?」と言ったことがある{{sfn|Parkin|2013|p=208}}。蛇頭の杖を携帯し{{sfn|Parkin|2013|p=283}}、大きな指輪をいくつも着用するのが常で<ref name=guardianwhy>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2013/nov/22/alan-moore-comic-books-interview|accessdate=2022-02-25|title=Alan Moore: 'Why shouldn't you have a bit of fun while dealing with the deepest issues of the mind?' |publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2013-11-22|archivedate=2022-02-26 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220226032148/https://www.theguardian.com/books/2013/nov/22/alan-moore-comic-books-interview }}</ref>、{{行内引用|{{interp|一見すると}} 村の奇人変人}}だと書かれたことがある<ref name="Moore's murderer">{{Cite web|last=Rose|first=Steve|url=http://books.guardian.co.uk/departments/sciencefiction/story/0,6000,643500,00.html|title=Moore's murderer|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2002-02-02|accessdate=2022-02-18|archiveurl=https://web.archive.org/web/20060219151930/http://books.guardian.co.uk/departments/sciencefiction/story/0%2C6000%2C643500%2C00.html|archivedate=2006-02-19}}</ref>。 |
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その風貌や政治的・闘争的な発言から気難しい世捨て人というイメージが広まっているが、実際に会うとサービス精神豊富で気さくな人物であることも報道されている<ref name=guardianinterview/>{{sfn|Parkin|2013|pp=6, 354}}。ファンタジー作家[[マイケル・ムアコック]]は無名時代のムーアと同席する機会があって人柄に興味を持ち、作品を追うようになったと書いている。{{行内引用|… 妥協を知らない爛々たる眼差し … そこにいるのは本物の予見者、進んでリスクを取る男、何があろうと夢を追い続ける過激で頭が沸いた人物のようだった}}{{Sfn|smoky man & Millidge (ed.)|2003|p=51}}。後の2019年にムーアと会った作家[[スザンナ・クラーク]]は、眼光の鋭さよりも{{行内引用|いたずらっぽい}}表情が印象に残ると書いている<ref name=telegraphsusanna/>。 |
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自ら{{行内引用|ミクロコズム(小宇宙)}}と呼ぶ生地[[ノーサンプトン]]に住み続けており、旅行することもめったにない{{sfn|Parkin|2013|pp=274, 368, 370}}。ムーアはノーサンプトンの歴史や文化を ''Voice of the Fire'' や ''Jerusalem'' のような心理地理学的小説で描いている{{sfn|Parkin|2013|pp=274, 368, 370}}。同郷の作家{{仮リンク|ジェレミー・シーブルック|en|Jeremy Seabrook}}(ムーアの初等学校時代の教師でもある)はノーサンプトン市民について{{行内引用|みな偏狭で迷信深く、吝嗇で狷介、かつ頑固だが、概して誇り高く言葉に嘘がない}}と書いている。伝記作家ランス・パーキンによるとこれらの言葉はムーアの一般的イメージにも当てはまる{{sfn|Parkin|2013|pp=23–24}}。 |
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インタビューで語ったところでは、15歳で[[マリファナ]]を、16歳で[[LSD (薬物)|LSD]]を使用し始めた。LSDは短期間で止めたが、キャリアを通じて執筆のために[[ハシシ]]を常用している。[[マジックマッシュルーム]]による[[サイケデリック体験]]から得たアイディアを作品化することもある{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|pp=198–199}}。パフォーマンス公演では朗読や音楽、映像やバレエのような複数のメディアが生む感覚の氾濫を通じてドラッグや宗教儀式と同じ[[変性意識状態]]を作り出すことを狙っている。コミックでも絵と言葉だけでそれを実現するのが一つの目標だという{{sfn|Berlatsky (ed.)|2011|p=200}}。 |
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=== 家族 === |
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1973年に結婚した最初の妻フィリスとの間に[[リーア・ムーア|リーア]]とアンバーの2人の娘を儲けた{{sfn|Ayres|2021|p=13}}。リーアは長じてコミック原作者となり、''2000 AD'' などで活動している<ref>{{cite web|url=https://www.theguardian.com/books/2016/feb/07/kapow-creators-shaking-up-comics-saga-bitch-planet-wicked-and-the-divine|accessdate=2022-03-10|title=Framed! Meet the creators shaking up modern comics|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2016-02-07|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220310152415/https://www.theguardian.com/books/2016/feb/07/kapow-creators-shaking-up-comics-saga-bitch-planet-wicked-and-the-divine |archivedate=2022-03-10}}</ref>。その夫 [[:en:John Reppion|John Reppion]] も同業であり<ref>{{cite web|url=https://www.comicsbeat.com/crowdfunding-campaign-set-up-after-writer-leah-moore-suffers-a-brain-injury/|publisher= Superlime Media|accessdate=2022-03-10|title=Crowdfunding campaign set up after writer Leah Moore suffers a brain injury|website=The Beat|date=2018-06-20|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220310155409/https://www.comicsbeat.com/crowdfunding-campaign-set-up-after-writer-leah-moore-suffers-a-brain-injury/|archivedate=2022-03-10}}</ref>、ムーアは娘夫婦と共同でヒーローコミック [[:en:Albion (comics)|''Albion'']](2005–2006年)の原作を書いている<ref name=rereadalbion>{{cite web|url=https://www.tor.com/2012/12/31/the-great-alan-moore-reread-albion/|accessdate=2022-02-22|title= The Great Alan Moore Reread: ''Albion''|website= Tor.com|publisher= Macmillan |first=Tim|last=Callahan|date=2013-01-14|archivedate=2022-02-26 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220226032150/https://www.tor.com/2012/12/31/the-great-alan-moore-reread-albion/}}</ref>。ムーアとフィリスは数年にわたってデボラという女性と同居して3人でオープンな関係を結んでいたが、1990年代初頭に破局した。このときフィリスとデボラは2人で娘たちを連れて出て行った。 |
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2007年、長年にわたって ''Lost Girls'' の共作を続けてきた[[カリフォルニア州|カリフォルニア]]出身の[[アンダーグラウンド・コミック]]作家[[メリンダ・ゲビー]]と再婚した{{sfn|Parkin|2013|p=249}}<ref>{{Cite web|url=http://www.villagevoice.com/2006-08-15/books/alan-moore-s-girls-gone-wilde/|title=Alan Moore's ''Girls'' Gone Wilde|last=Gehr|first=Richard|publisher= Village Voice|website=The Village Voice|date=2006-08-15|archiveurl=https://web.archive.org/web/20130916232042/http://www.villagevoice.com/2006-08-15/books/alan-moore-s-girls-gone-wilde/|archivedate=2013-09-16|accessdate= 2022-02-18}}</ref>。 |
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=== 関連人物 === |
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信頼を裏切られたと感じると許さない一面があり、多くの出版社やコミック業界の友人と絶縁してきた{{sfn|Parkin|2013|p=354}}。ムーアがマーベル・コミックスと対立して、マーベルUK時代の「キャプテン・ブリテン」の再版を拒絶したときは、同作の作画家アラン・デイヴィスと袂を分かつことになった{{Sfn|smoky man & Millidge (ed.)|2003|p=18}}。『[[ウォッチメン]]』のデイヴ・ギボンズは同作の権利問題ではムーアと近い立場に立っていたが{{sfn|Parkin|2013|p=356}}、同作のスピンオフ企画が持ち上がったときにDCの意を受けて間に立ったことを理由に絶交された{{sfn|Parkin|2013|p=357}}<ref>{{cite web|url=http://www.seraphemera.org/seraphemera_books/AlanMoore_Page1.html|accessdate=2022-02-27|title=Interview with Alan Moore|publisher=seraphemera books|date=2013-05-25|Generator=iWeb 3.0.4|archivedate=2022-02-27 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220227112506/http://www.seraphemera.org/seraphemera_books/AlanMoore_Page1.html}}</ref>。『[[スワンプシング]]』の共作者スティーヴン・ビセットとは『1963』刊行中断{{Efn2|『1963』はレトロな主人公たちが最新のイメージ・ヒーローと対決する特別号で完結するはずだったが、イメージ社内でクロスオーバーを調整するのが難しく未刊に終わっていた{{sfn|Ayres|2021|p=106}}。}}の責めをムーアに負わせるインタビュー発言がもとで関係を絶たれた{{sfn|Parkin|2013|pp=354–356}}。 |
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小説家・コミック原作者[[ニール・ゲイマン]]は駆け出しジャーナリストだったころに『スワンプシング』の影響を受け、ムーアに直接教えを乞うてコミックの道に進んだ{{sfn|Olson|2005|pp=16–18}}。二人はそれ以来の友人である{{sfn|Carpenter|2016|p=8}}。ムーアと後妻メリンダ・ゲビーを引き合わせたのもゲイマンだった{{sfn|Parkin|2013|p=249}}。 |
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ムーアは執筆活動の他にはほとんど趣味を持たないが、小説家{{仮リンク|アリスター・フルーシュ|en|Alistair Fruish}}と共に散歩する習慣がある<ref name=parkin2014>{{Cite web|url=https://lanceparkin.wordpress.com/page/2/|title=Alan Moore Interview, Part V: Underland, Hancock, Jerusalem, Literary Difficulty|last=Parkin|first=Lance|date= 2014-11-06|accessdate=2022-01-10|website=Moore's biographer's official website|archivedate= 2022-01-11|archiveurl= https://web.archive.org/web/20220111165538/https://lanceparkin.wordpress.com/page/2/ }}</ref>。フルーシュとは21世紀に再結成されたノーサンプトン・アーツ・ラボの成員同士でもある<ref>{{Cite web|url=https://thequietus.com/articles/20183-alistair-fruish-alan-moore-interview|title=Alistair Fruish On The Sentence & Alan Moore Art|accessdate=2022-01-08|publisher=The Quietus}}</ref>。 |
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==== グラント・モリソン ==== |
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コミック原作者[[グラント・モリソン]]はムーアとキャリアや関心が似通っているが、不仲なことでも知られている{{sfn|Ayres|2021|p=197}}{{sfn|Carpenter|2016|p=8}}{{Efn2|2010年にウェブメディア[[コミック・ブック・リソーシズ|CBR]]が行ったオールタイム最優秀原作者の一般投票ではムーアが首位、モリソンが第2位だった<ref>{{cite web|url=https://www.cbr.com/top-125-comic-book-writers-master-list/|accessdate=2022-02-09|title=Top 125 Comic Book Writers Master List |publisher=www.CBR.com|website=CBR.com|date=2010-12-07|archivedate=2022-02-13 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220213015037/https://www.cbr.com/top-125-comic-book-writers-master-list }}</ref>。}}。モリソンは自著でムーアについて以下のような人物評を書いている。 |
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{{Quote|quote=独学で道を拓いた野心的な人物で、華々しく猛烈な才気があり、数々の巧みなトリックを使いこなすが、一番巧妙なのは自分を斬新に見せるトリックだった。まるでムーアの前にはコミックに歴史などなかったかのようだ。その機知に富んだ、歯に衣着せぬ、謙遜の利いた発言(「自分がメシアだと言いたいわけじゃないが … 」)は、コミックシーンを一新した燦然たる自信と裏腹だった。|source=グラント・モリソン(2011年、''Supergods: Our World in the Age of the Superhero''){{sfn|Carpenter|2016|p=14}}}} |
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モリソンは1990年のコラムで、ムーアのスーパーヒーロー作品が1977年に英国で出版された [[:en:Superfolks|''Superfolks'']]{{翻訳|スーパーな人々}}というユーモア小説からヒントを得ていると指摘した{{Efn2|''Superfolks'' とムーア作品の類似点には「魔法の言葉を封印してヒーローへの変身を止めた中年男性([[ミラクルマン|マーベルマン]])」「警察がヒーローに抗議してストライキを起こす(ウォッチメン)」「いたずらな小妖精が真に邪悪な黒幕であった([[何がマン・オブ・トゥモローに起こったか?]])」などが挙げられる<ref name=thebeatsuperfolks1/>。}}。ムーアは同書からの影響は特別に大きなものではないと発言しているが、盗用説は根強く残っている<ref name=thebeatsuperfolks2>{{cite web|url=https://www.comicsbeat.com/alan-moore-and-superfolks-part-2-the-case-for-the-defence/|accessdate=2022-04-30|title=Alan Moore and Superfolks Part 2: The Case for the Defence|publisher= Superlime Media |website=The Beat|date=2012-11-11|archiveurl= https://web.archive.org/web/20210506023504/https://www.comicsbeat.com/alan-moore-and-superfolks-part-2-the-case-for-the-defence/ |archivedate=2021-05-06}}</ref><ref name=thebeatsuperfolks1>{{cite web|url=https://www.comicsbeat.com/alan-moore-and-superfolks-part-1-the-case-for-the-prosecution/|accessdate=2022-04-29|title=Alan Moore and Superfolks Part 1: The Case for the Prosecution|date=2012-10-25|publisher= Superlime Media |website=The Beat|archiveurl= https://web.archive.org/web/20210421000259/https://www.comicsbeat.com/the-strange-case-of-grant-morrison-and-alan-moore-as-told-by-grant-morrison/ |archivedate=2021-04-21 }}</ref>。 |
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2012年には『[[ローリング・ストーン]]』誌のインタビューで「ムーアはレイプに執着しており、レイプが出てこない作品は一握りしかない」と発言した{{sfn|Parkin|2013|p=339}}。翌年、「女性や人種的マイノリティの描写に関する批判」について反論を求められたムーアは、自らモリソンの名前を出し、作品や人格を激しく批判し、自身のストーカーだと呼び、モリソンの共作者・出版社・ファンと絶縁すると宣言した<ref name=lastinterview/><ref name=beat20140110/>。 |
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== 思想・信条 == |
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=== 映画化 === |
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ムーアは自身のコミック作品が映画化不能だと常々語っており{{sfn|Taylor|2017}}、公開された原作映画を公然と酷評している{{sfn|Ayres|2021|p=206}}。[[メディア・フランチャイズ]]化が当然の前提となっている21世紀のアメリカン・コミックにおいて、このような姿勢は珍しい{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1243–1251/2302}}{{Efn2|米国コミックブック市場の約8割を分け合う2大出版社、[[DCコミックス|DC]]と[[マーベル・コミックス|マーベル]]はそれぞれメディア複合企業[[タイム・ワーナー]]と[[ウォルト・ディズニー・カンパニー|ディズニー]]の傘下である{{sfn|Ayres|2016|p=147}}。}}。 |
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ムーアの映画化に対する考え方はハリウッドとの関わりが増すにつれてどんどん辛辣なものになっていった{{sfn|Ayres|2021|p=206}}。初期の『フロム・ヘル』(2001年)や『[[リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い|リーグ・オブ・レジェンド]]』(2003年)はいずれも原作から大きく改変されていたが{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1352–1355/2302}}、これらについては{{行内引用|映画を見ずにすんで関りを持たずにいられて、オプション料が入ってくる限り、誰も原作と映画を混同したりしないと思って気にしなかった}}と語っている<ref name="Lying in Gutters">{{Cite web|first=Rich|last=Johnston|url=http://www.comicbookresources.com/columns/index.cgi?column=litg&article=2153|title=Lying in the Gutters|publisher=www.CBR.com|website=CBR.com |date=2005-05-23|archiveurl=https://web.archive.org/web/20140106220427/http://www.comicbookresources.com/?page=article&id=14937|archivedate=2014-01-06|accessdate=2022-02-03}}</ref>。ムーアの姿勢が硬化したのは、2003年に映画製作者{{仮リンク|マーティン・ポール|en|Martin Poll}}と脚本家[[ラリー・コーエン]]が脚本を『リーグ・オブ・レジェンド』に盗作されたとして[[20世紀スタジオ|20世紀フォックス]]とムーアを訴えたのがきっかけだったと考えられている{{sfn|Ayres|2021|p=207}}{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1281–1283/2302}}{{sfn|Parkin|2013|p=313}}。係争は裁判外の和解で決着し、潔白を証し立てる機会を失ったムーアは映画業界全体に対して怒りを募らせた{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1288–1291/2302}}{{sfn|Parkin|2013|pp=315–316}}。2005年に『[[Vフォー・ヴェンデッタ (映画)|Vフォー・ヴェンデッタ]]』が公開されると、ムーアが映画化に期待していたという製作者の発言を強く否定して物議を醸した<ref>{{Cite news|url=http://newsarama.com/movies/VforPressConf.htm|title=''V for Vendetta's'' Press Conference|newspaper=Newsarama|accessdate=2022-02-18|archiveurl=https://web.archive.org/web/20071012161343/http://newsarama.com/movies/VforPressConf.htm|archivedate=2007-10-12}}</ref>{{sfn|Parkin|2013|p=320}}。また原作の政治的コンテキストが変えられたことを批判した{{sfn|Parkin|2013|pp=322–323}}<ref>{{Cite web|url=http://www.mtv.com/shared/movies/interviews/m/moore_alan_060315/|title=Alan Moore: The Last Angry Man|first=Jennifer|last=Vineyard|website=Movies on MTV.com|publisher= Viacom International|accessdate=2022-02-18|archiveurl=https://web.archive.org/web/20081222014726/http://www.mtv.com/shared/movies/interviews/m/moore_alan_060315/|archivedate=2008-12-22}}</ref>。 |
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ムーアはその後、著作権を手放したコミック作品に自分の名前を載せない意向を示した。さらに映画化されても自身の名前を出さず、原作料も受け取らないと発言した<ref>{{Cite web|url=http://www.comicsreporter.com/index.php/alan_moore_asks_for_an_alan_smithee/|title=Alan Moore Asks for an Alan Smithee|last=Spurgeon|first=Tom|date=2005-11-09|website=The Comics Reporter|accessdate=2022-02-18|archiveurl=https://web.archive.org/web/20051124004336/http://www.comicsreporter.com/index.php/alan_moore_asks_for_an_alan_smithee/|archivedate=2005-11-24}}</ref>。それ以降の映画『[[コンスタンティン (映画)|コンスタンティン]]』(2005年)、『[[ウォッチメン (映画)|ウォッチメン]]』(2009年、ワーナー)、『[[ウォッチメン (テレビドラマ)|ウォッチメン]]』(2019年、[[HBO]]ドラマ)ではこの希望が守られ、ムーアへの原作料は替わりにコミックの作画家に支払われた<ref name=guardianinterview/>{{sfn|Ayres|2021|p=207}}{{sfn|Parkin|2011|loc=No. 1310–1313/2302}}。2012年のインタビューにおいて、映画化に協力しなかったことで逃した金額を尋ねられたムーアは「少なくとも数百万ドル」と答え、こう続けた<ref name=leftlion/>。 |
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{{Quote|quote=目の前で自分に値段をつけさせない、どれだけ金を積まれても一歩だって自己の原則を譲らない、たとえ実際上の意味がないとしても。そんな風に思える誇らしさは金では買えないからな。|source=アラン・ムーア(2012年)<ref name=leftlion>{{cite web |url= http://www.leftlion.co.uk/articles.cfm/title/alan-moore/id/4861/|title= Alan Moore: one of the finest exponents of the comic book art form to have ever lived|first= Jared|last= Wislon|accessdate=2022-01-12|date= 2012-08-07|publisher=LeftLion |archivedate=2012-12-10 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20121210104952/http://www.leftlion.co.uk/articles.cfm/title/alan-moore/id/4861/}}</ref>}} |
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これらの態度は奇矯さや自我肥大の現れと見られることもある{{sfn|Wegner|2010}}。マーク・ヒューズは『[[フォーブス (雑誌)|フォーブス]]』誌への寄稿で、「リーグ」や ''Lost Girls'' で古典文学のキャラクターを借用しているムーアが自作の翻案については認めないのを{{行内引用|完全な偽善}}と批判した<ref>{{cite web|url=https://www.forbes.com/sites/markhughes/2012/02/01/alan-moore-is-wrong-about-before-watchmen/?sh=7483e4065def|accessdate=2022-02-18|title=Alan Moore Is Wrong About 'Before Watchmen'|publisher= Forbes Media |website=Forbes|first=Mark|last=Hughes|date=2012-02-01|archivedate=2022-02-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220219134251/https://www.forbes.com/sites/markhughes/2012/02/01/alan-moore-is-wrong-about-before-watchmen/?sh=7483e4065def}}</ref>。 |
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=== 政治的傾向 === |
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[[ファイル: London Southbank Centre graffiti 5.JPG|右|サムネイル|160px|{{行内引用|ムーアの宿敵{{sfn|Parkin|2013|p=246}}}}、[[マーガレット・サッチャー]](2011年の[[グラフィティ]])。]] |
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政治的には[[アナキズム|アナキスト]]を自認している<ref name="Heidi, pt1"/>。ムーアは英国[[労働党 (イギリス)|労働党]]による福祉国家政策が確立した1950年代に生まれ育ち{{sfn|Ayres|2021|p=16}}、若いころは自身の属する[[労働者階級]]に素朴な[[社会主義]]的理想を重ねていた{{sfn|Moore|1990b|p=82}}。社会主義の{{行内引用|センチメンタルな[[人道主義|ヒューマニタリアニズム]]}}は自然に受け入れられるものだった{{sfn|Moore|1990b|p=86}}。しかし1979年に[[保守党 (イギリス)|保守党]]の[[マーガレット・サッチャー]]が首相の座に就き、経済自由化を推し進めて平等主義を覆すと{{sfn|Ayres|2021|pp=15–16}}、庶民がそれを支持したことに幻滅してアナキズムに傾いた{{sfn|Moore|1990b|p=82}}。サッチャーに対しては非常に批判的であり、80年代の主要作品で描かれるディストピアにはいずれもサッチャー政権への風刺が読み取れる{{sfn|Ayres|2021|pp=15–16}}。90年代以降も[[サッチャリズム]]の遺産は[[新自由主義]]として残っているが、ムーアはそれにとどまらず、現代のマーケットで起きている芸術の商品化をサッチャー的なるものとして批判している{{sfn|Ayres|2021|p=16}}。 |
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1990年のインタビューで支持政党について聞かれると、アナキズムの理想は政党政治を通じて実現できるものではないが、それに向けた第一歩として、基本的な生活を保障するとともに自由競争を認める[[緑の党]]に期待すると述べた{{sfn|Moore|1990b|p=84}}。[[2017年イギリス総選挙|2017年]]と[[2019年イギリス総選挙|2019年の総選挙]]では、左派[[社会主義者]]の[[ジェレミー・コービン]]が党首を務めていることを理由に[[労働党 (イギリス)|労働党]]への支持を表明した<ref>{{Cite news|url=https://momentumnorthants.org.uk/alan-moore-statement/|title=Alan Moore statement for Momentum in Northamptonshire|newspaper=Momentum Northants|archiveurl=https://web.archive.org/web/20161210200216/https://momentumnorthants.org.uk/alan-moore-statement/|archivedate=2016-12-10|accessdate=2022-03-04|publisher=[[:en: Momentum (organisation)|Momentum]]|first=Alan|last=Moore}}</ref><ref name="theguardian2">{{Cite web|last=Flood|first=Alison|url=https://www.theguardian.com/books/2019/nov/21/alan-moore-drops-anarchism-to-champion-labour-against-tory-parasites|title=Alan Moore drops anarchism to champion Labour against Tory 'parasites'|publisher= Guardian News & Media |website=The Guardian|date=2019-11-21|accessdate=2022-03-04|archivedate=2022-02-05 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220205221500/https://www.theguardian.com/books/2019/nov/21/alan-moore-drops-anarchism-to-champion-labour-against-tory-parasites }}</ref><ref name="independent">{{Cite web|last=Stolworthy|first=Jacob|url=https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/news/alan-moore-watchmen-vote-general-election-labour-manifesto-corbyn-a9211671.html|title=Alan Moore: Watchmen creator and self-proclaimed anarchist to vote in election for first time in 40 years|publisher=The Independent|date=2019--11-21|accessdate= 2022-03-04|archivedate=2022-01-11 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220111165537/https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/news/alan-moore-watchmen-vote-general-election-labour-manifesto-corbyn-a9211671.html }}</ref>。 |
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ムーアはアナキスト作家を扱った{{仮リンク|マーガレット・キルジョイ|en|Margaret Killjoy}}の著書 ''Mythmakers and Lawbreakers''{{翻訳|神話作りと法律破り}}(2009年)でアナキスト哲学を語っている。ムーアにとっては無政府状態こそが自然であり、体制秩序や指導者のような概念は不当なものだった{{sfn|Ayres|2021|p=50}}。 |
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{{Quote|quote=あらゆる政体は無政府という基本状態の一種か、その派生だ。もちろんほとんどの人は、アナキズムを話題に出すと、最大のギャングが牛耳るようになるだけだからダメだ、と返してくるだろう。だが私に言わせればそれこそが現代社会そのものだ。我々が生きているのは発展の仕方を間違えた無政府状態であり、最大のギャングが政権を握って、これはアナキズムではなく資本主義だとか共産主義だとか言い張っているのだ。しかし私は、人間がその手で営む政治形態としては無政府状態がもっとも自然だと考えている。|source=アラン・ムーア(2009年、'' Mythmakers and Lawbreakers''){{sfn|Killjoy (ed.)|2009|loc="Introduction" by Robinson, Kim Stanley}}}} |
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ムーアはアナキズムの基礎に「完全な自己責任と、自主独立の尊重」を置いている{{sfn|Ayres|2021|p=50}}。80年代にメインストリーム・コミック出版社が年齢レイティング制と制作者へのガイドラインを導入しようとしたときには、あらゆる形式の表現規制に反対する立場をとった{{sfn|Parkin|2013|p=225}}。評論誌『[[コミックス・ジャーナル]]』のインタビューでは、子供が[[ハードコア (ポルノ)|ハードコア・ポルノ]]に触れることにさえ、法的規制という対処法をとるべきではないと語った{{sfn|Parkin|2013|p=225}}{{sfn|Moore|1987|loc=pp. 70–71 in the original publication}}。ムーアは性差別表現や『[[地上最強のエキスパートチーム G.I.ジョー|G.I.ジョー]]』のような戦争賛美的な作品は個人的なモラルに反すると言っている{{sfn|Moore|1987| loc=p. 64 in the original publication}}。しかしそれらを規制したり、ゾーニング・包装・レイティング表示などの手段で子供の手から遠ざけるのではなく、自身の信条を伝える優れた表現によってマーケットから淘汰するのが理想なのだという{{sfn|Moore|1987| loc=p. 64 in the original publication}}。 |
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=== 魔術と芸術論 === |
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{{Quote|quote={{interp|『[[ウォッチメン]]』と『[[フロム・ヘル]]』を書いた後で}} 理詰めの創作については理解の限界に達した気がした。その先に進むためには理性を超える一歩が必要に思えた。次の一歩の足場となってくれる唯一の領域が魔術だった。…『ウォッチメン』を何度も繰り返せないことは分かっていたし、それと同じくらい、『フロム・ヘル』をいくらでも繰り返せることも分かっていた。|source=アラン・ムーア(2003年)<ref name="Babcock"/>}} |
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1993年、40歳の誕生日に[[魔術師]]になると宣言した<ref name="Moore Documentary">{{Cite AV media|last=DeZ Vylenz (Director)|date=2008-09-30|title=The Mindscape of Alan Moore|url=https://www.imdb.com/title/tt0410321/|publisher=Shadowsnake Films|accessdate=2022-05-14}}</ref>。独学で[[魔術]]を学び始めるきっかけとなったのは[[フリーメイソン]]や[[神秘学]]の[[シンボリズム]]を大きく扱った『[[フロム・ヘル]]』だった<ref name="Babcock"/><ref name="Moore's murderer"/>。魔術が言語芸術の延長線上にあることを見出すにつれて、創作についての疑問への答がそこにあると考えるようになった{{sfn|Moore & Campbell|2010|pp=110–111}}。ムーアによると魔術と芸術はいずれも[[象徴]]を用いて他者の意識を変える行為であり、個人を変えることによって世界を変革することができる{{sfn|Ayres|2021|pp=166–167, 215}}。実際、魔術は人類の歴史の中で絵画や文学と同じ役割を果たしてきたのだという<ref name="Babcock"/>。 |
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ムーアは魔術を軸にして言語、芸術、集合的想像力についての考え方を再構成し{{sfn|Ayres|2021|p=13}}、キャリア後半の執筆活動を支える思考の枠組みとした{{sfn|Parkin|2013|p=299}}。ランス・パーキンはその思考体系が{{仮リンク|心理地理学|en|psychogeography}}、蛇神信仰、「[[イデア]]空間{{翻訳|Idea Space}}」の三要素にまとめられると述べている{{sfn|Parkin|2013|p=282}}。 |
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ムーアがいう心理地理学は、土地の歴史と景観を深く掘り下げ、魔術の象徴体系を用いて一見無関係な出来事の間につながりを見出していくことで豊かな意味のネットワークを引き出してくる方法である{{sfn|Parkin|2013|p=272}}{{sfn|Moore & Campbell|2010|p=114}}{{efn2|心理地理学は元々フランスの前衛的な[[シチュアシオニスト・インターナショナル|シチュアシオニスト]]からイアン・シンクレアら英国の[[ポストモダニズム|ポストモダン]]作家に受け継がれた文学的傾向で{{sfn|Ayres|2021|p=215}}{{sfn|Parkin|2013|p=273}}、[[消費主義]]や商品化に基づく都市開発への抵抗という性格がある{{sfn|Parkin|2013|p=274}}。}}。主人公がロンドンの史跡を巡る中で男性性と女性性の神話的闘争が立ち上ってくる『フロム・ヘル』はその典型である{{sfn|Parkin|2013|p=272}}。 |
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[[ファイル: Glycon (51644816839).jpg|サムネイル|左|160px|2世紀に作られた蛇神グリュコンの像。]] |
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「蛇神」はローマ時代の神{{仮リンク|グリュコン|en|Glycon}}を指す。ムーアは1994年以来この神を崇めていると公言している{{sfn|Parkin|2013|pp=274–275}}。グリュコンは{{仮リンク|アボヌテイコスのアレクサンドロス|en|Alexander of Abonoteichus}}として知られる預言者が創始した教団の信仰対象だが、同時代の[[ルキアノス]]によると人形の頭を被せた大蛇に過ぎなかった{{sfn|前野|2018}}。ムーアもグリュコンが{{行内引用|完全な作り事}}だということは認めている<ref name="SLATEDW">{{cite magazine|url=http://www.slate.com/id/2092739/sidebar/2092745/ |title=Sidebar: How Alan Moore transformed American comics |last=Wolk |first=Douglas |date=2003-12-17 |magazine=Slate|accessdate=2022-01-12|archiveurl=https://web.archive.org/web/20080928000657/http://www.slate.com/id/2092739/sidebar/2092745/ |archivedate=2008-09-28 |url-status = live}}</ref>。[[ペイガニズム|ペイガン]]研究者イーサン・ドイル=ホワイトは{{行内引用|ムーアが主張するように想像力は現実そのものと同じくらいリアルなのだから、グリュコンがおそらく巨大なペテンだったという事実そのものが、ムーアにとってはその恐るべき神への信仰に身を捧げるのに十分な理由だった}}と説明している{{sfn|Doyle-White|2009}}。ムーアは[[国家宗教]]と比較して魔術を「スピリチュアルにおけるアナキズム」としており、グリュコンの信仰は他人と共有できるものではないと語っている<ref name=quietus2022>{{cite interview|url=https://thequietus.com/culture/books/alan-moore-illuminations-interview/|interviewer=Miles Ellingham|last=Moore|first=Alan|accessdate=2024-06-15|title=Haunted Resonance: An Interview With Alan Moore |website=The Quietus|publisher=Black Sky Thinking |date=2022-10-08}}</ref>。 |
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「イデア空間」は人間の[[意識]]活動を空間のメタファーで表したもので、意識研究でいう[[クオリア|クオリア空間]]と近い<ref name="Babcock"/>。後年の作品にはイデア空間が「フィクションの登場人物や概念が住む、現実と相互作用する異空間」という形で繰り返し扱われている{{sfn|Ayres|2021|pp=162–163}}。芸術家によって共有される集合意識空間という考えはムーアの[[間テクスト性|間テクスト]]的な作風と深く結びついている{{sfn|Ayres|2021|pp=162, 215}}。ジャクソン・エアーズはこれらを{{行内引用|理想化された[[パブリック・ドメイン]]}}と呼び、著作権の過剰適用<!--maximalist copyright regimes-->や企業によるオーサーシップから芸術活動を守るための寓話として論じた{{sfn|Ayres|2021|p=164}}{{sfn|Ayres|2016}}。 |
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== 主要作品 == |
== 主要作品 == |
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{{Main|アラン・ムーアの作品一覧|:en:Alan Moore bibliography}} |
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* 『マーベルマン』([[:en:Marvelman|Marvelman]]) |
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* 『[[Vフォー・ヴェンデッタ]]』(V for Vendetta) |
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== 脚注 == |
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* 『[[スワンプシング]]』(Swamp Thing) |
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{{脚注ヘルプ}} |
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* 『[[ウォッチメン]]』(Watchmen) |
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=== 注釈 === |
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* 『シュプリーム』(Supreme) |
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{{Notelist2|2}} |
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* 『[[フロム・ヘル]]』(From Hell) |
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* 『[[トップ10]]』(Top 10) |
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=== 出典 === |
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*『[[リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン]]』(The League of Extraordinary Gentlemen) |
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{{Reflist|20em}} |
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*『[[プロメテア]]』(Promethea) |
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== 参考文献 == |
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=== 雑誌記事 === |
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{{refbegin}} |
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*{{Cite journal|last=Berlatsky|first=Eric C.|year=2010|title=Review of Annalisa Di Liddo’s ''Alan Moore: Comics as Performance, Fiction as Scalpel''|url=https://imagetextjournal.com/review-of-annalisa-di-liddos-alan-moore-comics-as-performance-fiction-as-scalpel/|journal=ImageTexT|issn=1549-6732|volume=5|issue=4|accessdate=2022-05-14|ref={{sfnref|Berlatsky|2010}}}} |
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*{{cite journal|first=Corey|last=Creekmur |year=2004|title=Review: Superheroes and Science Fiction: Who Watches Comic Books? |journal=Science Fiction Studies |volume=31|issue= 2|pages=283–290|url=https://www.jstor.org/stable/4241260|accessdate=2022-01-22|ref={{SfnRef|Creekmur|2004}}}} |
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*{{Cite journal|last=Doyle-White|first=Ethan|date=2009|title=Occultic World of Alan Moore|journal=Pentacle|issue=29|ref={{sfnref|Doyle-White|2009}}}} |
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*{{Cite interview|last=Gaiman|interviewer=Whitaker, Steve|first=Neil|date=January 1989|title=Neil Gaiman interview|work=Fantasy Advertiser|issue=109|ref={{sfnref|Gaiman|1989}}}} |
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*{{Cite journal|first=Nick |last=Hasted|year=1990|title=Whatever Happened to Alan Moore? |journal=The Comics Journal|issue=183|url=https://www.tcj.com/tcj-issue/the-comics-journal-no-183-january-1996/ |pages=107–112|ref={{SfnRef|Hasted|1996}}}} |
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*{{Cite interview|last=Moore|first=Alan|pages=77–85|work=The Comics Journal|year=1984|issue=93|url=https://www.tcj.com/tcj-archive/the-comics-journal-no-93-september-1984/|accessdate=2022-08-01|title=Alan Moore (Interview)|interviewer=Burbey, Mark|ref={{SfnRef|Moore|1984}}}} |
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*{{Cite interview|last=Moore|first=Alan|year=1986|title=Alan Moore on (Just About) Everything|journal=The Comics Journal|issue=106|url=https://www.tcj.com/tcj-issue/the-comics-journal-no-106-march-1986/|accessdate=2022-08-13|pages=38–45|ref={{SfnRef|Moore|1986}}}} |
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*{{Cite interview|last=Moore|first=Alan|pages=50–72|work=The Comics Journal|year=1987|issue=118|url=https://www.tcj.com/the-alan-moore-interview-118/|accessdate=2021-03-01|title=Alan Moore (Interview)|interviewer=Groth, Gary|ref={{SfnRef|Moore|1987}}}} |
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*{{Cite interview|first=Alan|interviewer=Groth, Gary|last=Moore|year=1990a|title=Big Words|work=The Comics Journal|issue=138|pages=56–95|url=https://www.tcj.com/tcj-archive/the-comics-journal-no-138-october-1990/|ref={{SfnRef|Moore|1990a}}}} |
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*{{Cite interview|first=Alan |interviewer=Groth, Gary|last=Moore|year=1990b|title=More Big Words|work=The Comics Journal|issue=139|url=https://www.tcj.com/tcj-issue/the-comics-journal-no-139-december-1990/|pages=78–109|ref={{SfnRef|Moore|1990b}}}} |
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*{{cite interview| last=Moore | first=Alan | interviewer=Dave Windett, Jenni Scott, Guy Lawley | title=Writer From Hell: The Alan Moore Experience | work=Comics Forum|issue= 4 |publisher=Comics Creators Guild| year=1993|ref={{sfnref|Moore|1993}}}} |
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*{{Cite journal|date=2006|title=Bog Venus Versus Nazi Cock-Ring: Some Thoughts Concerning Pornography (Arthur Magazine #25 PDF file – Part 1)|first=Alan|last=Moore|url= https://arthurmag.com/2021/10/19/bog-venus-versus-nazi-cock-ring-some-thoughts-concerning-pornography-by-alan-moore-arthur-2006/|journal=Arthur Magazine|accessdate=2022-02-20|volume=1|issue=25|ref={{sfnref|Moore|2006}}}} |
|||
*{{Cite journal|last=Roddy|first=Kate|date=2014|title=Matthew J. A. Green (ed.) ''Alan Moore and the Gothic Tradition''|journal=The Irish Journal of Gothic and Horror Studies|issue=13|pages=110–113|ref={{sfnref|Roddy|2014}}}} |
|||
*{{cite journal|title=Northampton Calling: A Conversation with Alan Moore|first=Rob|last=Vollmar|journal=World Literature Today|volume=91|issue=1|year= 2017|pages=28–34|doi= 10.7588/worllitetoda.91.1.0028| ref={{SfnRef|Vollmar|2017}}}} |
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*{{Cite journal|last=Wandler|first=Steven|year=2022|title=Review of ''Alan Moore: A Critical Guide''|url=https://imagetextjournal.com/review-of-alan-moore-a-critical-guide/|journal=ImageTexT|issn=1549-6732|volume=14|issue=1|accessdate=2023-08-14|ref={{sfnref|Wandler|2022}}}} |
|||
*{{cite journal|和書|journal=映画秘宝|author=石川裕人|title=このアラン・ムーアを読め! WILDC.A.T.S.|page=27|year=2009|volume=15|issue=5|ref={{sfnref|石川|2009}}}} |
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*{{cite journal|和書|journal=Pen|title=生涯をともにしてきた、“捨てられない”愛読書。- 真藤順丈|page=39|date=2020-11-01|ref={{sfnref|真藤|2020}}}} |
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{{refend}} |
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=== 論文 === |
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{{refbegin}} |
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*{{Cite thesis|last=Acosta-Ponce|first=Carlos David|year=2020|title=Identity, Oppression, and Upheaval in the British Invasion: the Comics of Alan Moore, Neil Gaiman, Peter Milligan, and Jamie Delano|degree=Ph.D.|publisher= The University of Tulsa|url= https://www.proquest.com/openview/4fb4418d9ff4e60a3efd77a8e5633b4a/ |accessdate=2022-09-24|ref={{sfnref|Acosta-Ponce|2020}}}} |
|||
*{{Cite journal|last=Ayres|first=Jackson|year=2016|title=The Integrity of the Work: Alan Moore, Modernism, and the Corporate Author|journal=Journal of Modern Literature |volume=39|issue=2|pages=144–166|ref={{sfnref|Ayres|2016}}|doi=10.2979/jmodelite.39.2.11}} |
|||
*{{Cite journal|last=Bernard|first=Mark|last2=Carter|first2=James Bucky|date= 2004|title=Alan Moore and the Graphic Novel: Confronting the Fourth Dimension|url=https://imagetextjournal.com/alan-moore-and-the-graphic-novel-confronting-the-fourth-dimension/|issn=1549-6732|journal=ImageTexT|volume=1|issue=2|accessdate=2021-03-21|ref={{sfnref|Bernard & Carter|2004}}}} |
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*{{Cite journal|first=Sean|last=Carney|year=2005–2006|title=The Tides of History: Alan Moore’s Historiographic Vision|url=https://imagetextjournal.com/the-tides-of-history-alan-moores-historiographic-vision/|issn=1549-6732|journal=ImageTexT|volume=2|issue=2|accessdate=2022-04-08| ref={{SfnRef|Carney|2005}}}} |
|||
*{{cite journal|first=James Bucky|last=Carter |year=2011|title=Introduction: Teaching the Works of Alan Moore|journal=SANE journal: Sequential Art Narrative in Education|volume=1|issue= 2|url= http://digitalcommons.unl.edu/sane/vol1/iss2/1|accessdate=2022-01-22|ref={{SfnRef|Carter|2011}}}} |
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*{{Cite journal|first=Eric|last=Doise|year=2015–2016|title=Two Lunatics: Sanity and Insanity in The Killing Joke|url=https://imagetextjournal.com/two-lunatics-sanity-and-insanity-in-the-killing-joke/|journal=ImageTexT|volume=8|issue=1|accessdate=2022-01-10|archivedate=2022-01-11|issn=1549-6732 |archiveurl= https://imagetextjournal.com/two-lunatics-sanity-and-insanity-in-the-killing-joke/|ref={{sfnref|Doise|2015}}}} |
|||
*{{cite journal|title=Angoulême and the ninth Art: from comics fandom to cultural policies|first=Sylvain|last=Lesage|first2=Jean-Paul|last2=Gabilliet|journal= Journal of Comics and Culture|year=2020|volume=5|pages=69–89|url=https://hal.univ-lille.fr/hal-03424490|accessdate=2022-02-17|archivedate=2022-02-17 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20220217101754/https://hal.univ-lille.fr/hal-03424490|ref={{sfnref|Lesage & Gabilliet|2020}}}} |
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*{{cite journal|title=On periodic and chaotic regions in the Mandelbrot set|first=Gerardo|last=Pastor|first2=Miguel|last2=Romera|first3=Gonzalo|last3=Álvarez|first4=D.|last4=Arroyo|first5=Fausto|last5=Montoya|journal=Chaos, Solitons & Fractals|year=2007|volume=32|issue=1|pages=15–25|doi=10.1016/j.chaos.2005.10.099|ref={{sfnref|Pastor et al.|2007}}}} |
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* {{Cite journal|title=‘Terrible monsters Sin-bred’: Blakean monstrosity in Alan Moore’s graphic novels|year=2020|publisher= Palgrave Macmillan |first=M. Cecilia Marchetto|last=Santorun|journal=Palgrave Communications|volume=6|issue=1|pages=1-15|doi=10.1057/s41599-020-0451-2 |ref={{sfnref|Santorun|2020}}}} |
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*{{cite journal|title= The Continuing Adventures of the "Inherently Unfilmable" Book: Zack Snyder's "Watchmen"|first=Aaron|last=Taylor|journal=Cinema Journal|volume=56|issue=2|year= 2017|pages=125–131|doi= 10.1353/cj.2017.0007|ref={{sfnref|Tailor|2017}}}} |
|||
*{{Cite journal|last=Teiwes|first=Jack|year=2010–2011|title=A Man of Steel (by any other name): Adaptation and Continuity in Alan Moore’s “Superman”|url=https://imagetextjournal.com/a-man-of-steel-by-any-other-name-adaptation-and-continuity-in-alan-moores-superman/|journal=ImageTexT|issn=1549-6732|volume=5|issue=4|ref={{SfnRef|Teiwes|2010}}}} |
|||
*{{Cite journal|last=Wegner|first=Phillip E.|date=2010–2011|title=Alan Moore, “Secondary Literacy,” and the Modernism of the Graphic Novel|url=https://imagetextjournal.com/alan-moore-secondary-literacy-and-the-modernism-of-the-graphic-novel/ |journal=ImageTexT|volume=5|issue=3|accessdate=2022-05-07|ref={{sfnref|Wegner|2010}}}} |
|||
*{{cite journal|title= World-Building in "Watchmen"|first=Mark J. P.|last=Wolf|journal=Cinema Journal|volume=56|issue=2|year=2017|pages=119–125|doi= 10.1353/cj.2017.0006|ref={{sfnref|Wolf|2017}}}} |
|||
*{{cite journal|和書|title=儀礼としての物語 : 『Vフォー・ヴェンデッタ』のインターテクスト的構築|journal=福岡大學人文論叢|volume=52|issue=1|pages=139–158|year=2020|author=福原俊平|naid=120006869356|ref={{sfnref|福原|2010}}}} |
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*{{Cite journal|和書|author=前野弘志|year=2018|title=ある魔術師のサクセスストーリー : ルキアノス『偽預言者アレクサンドロス』|url=https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/ja/list/HU_journals/AA11643449/78/--/item/46855|journal=広島大学大学院文学研究科論集|volume=78|pages=15–41|accessdate=2022-01-08|ref={{sfnref|前野|2018}}}} |
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=== 書籍 === |
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==== ムーアの著作 ==== |
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*{{cite book|title=Alan Moore’s Writing for Comics|publisher=Avatar Press|isbn=978-1592910120|first=Alan |last=Moore|year=2003|ref={{SfnRef|Moore|2003}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Moore|first=Alan|last2=Capmbell|first2=Eddie|title=A Disease of Language|edition=Kindle (copytext: {{ISBN2|0-86166-153-2}}, 2005) |publisher=Knockabout|year=2010|asin=B013OOSV1I|ref={{SfnRef|Moore & Campbell|2010}}}} |
|||
*{{cite book|title=Brighter Than You Think: Ten Short Works by Alan Moore| first=Alan|last=Moore|first2=Marc|last2=Sobel|publisher=Uncivilized Books|isbn=978-1-9412501-2-9|year=2016|series=Critical Cartoons 003|ref={{sfnref|Moore & Sobel|2016}}}} |
|||
*{{cite book|title=Saga of the Swamp Thing|volume=Book One|first=Alan|last=Moore|author2=et al.|publisher=Vertigo|asin= B009DNVU9K|year=2012|edition=Kindle|ref={{sfnref|Moore et al.|2012}}}} |
|||
**{{cite book|first=Ramsey|last=Campbell|chapter=Foreword|p=12 |ref={{sfnref|Campbell|2012}}}} |
|||
*{{Cite book|first=Bryan|last=Talbot|year=1987|title=The Adventures of Luther Arkwright, Book 2: Transfiguration|edition=Proutt|publisher=Valkyrie Press|isbn=978-1-870923-00-2|ref={{sfnref|Talbot|1987}}}} |
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**{{Cite book|last=Moore|first=Alan|chapter=Introduction|ref={{sfnref|Moore|1987}}}} |
|||
*{{cite book|和書|first=アラン|last=ムーア|first2=エディ|last2=キャンベル|translator=柳下毅一郎|title=フロム・ヘル 上|year=2009|publisher=みすず書房|isbn= 9784622074915| ref={{SfnRef|ムーア & キャンベル|2009}}}} |
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==== 評伝・インタビュー集・トリビュート集 ==== |
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*{{Cite book|first=Bill|last=Baker|title=Alan Moore Spells It Out|date=2005|publisher=Airwave Publishing|isbn=978-0-9724805-7-4|ref={{SfnRef|Baker|2005}}}} |
|||
*{{cite interview|title=Alan Moore: Conversations|editor-first=Eric C.|editor-last=Berlatsky|publisher=The University Press of Mississippi|year=2011|asin=B005UW2R40|edition=Kindle |ref={{SfnRef|Berlatsky (ed.)|2011}}}} |
|||
*{{cite book|last=Carpenter|first=Greg|title=The British Invasion: Alan Moore, Neil Gaiman, Grant Morrison, and the Invention of the Modern Comic Book Writer|publisher=Sequart Organization|edition=Kindle|year=2016|asin=B01KBRSIWS|ref={{SfnRef|Carpenter|2016}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Khoury|first=George|title=The Extraordinary Works of Alan Moore|date=2003|publisher=Twomorrows Publishing|isbn=978-1893905245|ref={{SfnRef|Khoury|2003}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Parkin|first=Lance |title=Alan Moore|date=2011|publisher= Old Castle|series=Pocket Essentials|edition=Kindle (copytext: {{ISBN2|978-1842432846}}, 2009)|isbn=978-1-84243-460-4|asin=B00796E1PS|ref={{SfnRef|Parkin|2011}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Parkin|first=Lance |title=Magic Words: The Extraordinary Life of Alan Moore |date=2013|edition=Kindle|publisher=Aurum|asin=B00H855FCI|isbn=978-1-78131-146-2|ref={{SfnRef|Parkin|2013}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Sandifer|first=Elizabeth|title=The Last War in Albion Volume 1: The Early Work of Alan Moore and Grant Morrison |date=2019|edition=Kindle|publisher= Eruditorum Press|asin=B01N9GOE8T|isbn=|ref={{SfnRef|Sandifer|2019}}}} |
|||
*{{Cite book|editor=smoky man|editor2-first=Gary Spencer|editor2-last=Millidge|title= Alan Moore: Portrait of an Extraordinary Gentleman |date=2003|publisher=abiogenesis|isbn=0-946790-06-X|ref={{SfnRef|smoky man & Millidge (ed.)|2003}}}} |
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==== 作品評・研究書 ==== |
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*{{Cite book|title=Alan Moore: A Critical Guide|year=2021|publisher=Bloomsbury Publishing|first=Jackson|last=Ayres|edition=Kindle|isbn=978-1-3500-6048-7|asin= B08VD5YKNZ |ref={{SfnRef|Ayres|2021}}}} |
|||
*{{Cite book |title=Minutes to Midnight: Twelve Essays on Watchmen |date=2012|publisher=Sequart Organization|editor-last=Bensam|editor-first=Richard |edition=Kindle (copytext: {{ISBN2|978-1466350892}}, 2011)|asin=B0072XITD8|ref={{SfnRef|Bensam (ed.)|2012}}}} |
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**{{Citation|chapter=How the Ghost of You Clings: ''Watchmen'' and Music|first=Mary|last=Borsellino|page=24|ref={{SfnRef|Borsellino|2012}}}} |
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**{{Citation|chapter= 58 Varieties: ''Watchmen'' and Revisionism |first=Julian|last=Darius|page=97|ref={{SfnRef|Darius|2012a}}}} |
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**{{Citation|chapter= Reassembling the Components in the Correct Sequence: Why You Shouldn't Read ''Watchmen'' First|first=Walter|last=Hudsick|page=8 |ref={{SfnRef|Hudsick|2012}}}} |
|||
*{{Cite book|editor-last=Comer|editor-first=Todd A.|editor2-last=Sommers|editor2-first=Joseph Michael |edition=Kindle|isbn=978-0786464531|asin=B007QW0LHC| title=Sexual Ideology in the Works of Alan Moore: Critical Essays on the Graphic Novels|date=2012|publisher=McFarland|ref={{Sfnref|Comer & Sommers|2012}}}} |
|||
**{{Citation|chapter= Afterword: Disgust with the Revolution |first=Annalisa|last=Di Liddo|page=No. 2897/3275|ref={{Sfnref|Di Liddo|2012}}}} |
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**{{Citation|chapter= When “One Bad Day” Becomes One ''Dark Knight'': Love, Madness, and Obsession in the Adaptation of ''The Killing Joke'' into Christopher Nolan's ''The Dark Knight''|first=Joseph Michael|last=Sommers|page=No. 558/3275 |ref={{Sfnref|Sommers|2012}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Darius|first=Julian|title=And the Universe so Big: Understanding Batman The Killing Joke|date=2012b|publisher=Sequart Organization|edition=Kindle (copytext: {{ISBN2|978-1481041706}}, 2012)|asin=B00AG6FM2E|ref={{SfnRef|Darius|2012b}}}} |
|||
*{{Cite book|first=Annalisa|last=Di Liddo|title=Alan Moore: Comics as Performance, Fiction as Scalpel|date=2009|asin=B002RT8NY2|publisher=The University Press of Mississippi |edition=Kindle (copytext: {{ISBN2|978-1-60473-212-2}}, 2009)|ref={{SfnRef|Di Liddo|2009}}}} |
|||
*{{cite book|title=Alan Moore, Out from the Underground: Cartooning, Performance, and Dissent|publisher=Palgrave Macmillan|year=2017|first=Maggie|last=Gray |asin=B0772Q74WN|edition=Kindle, sample|chapter=1. Introduction|ref={{SfnRef|Gray|2017}}}} |
|||
*{{Cite book|editor-last=Green|editor-first=Matthew J. A.|isbn=978-0719085994|chapter= ‘Nothing ever ends’: Facing the apocalypse in Watchmen|first=Christian W.|last=Schneider|page=|title=Alan Moore and the Gothic Tradition|date=2013|publisher=Manchester University Press|doi=10.7765/9781526101839.00015|ref={{Sfnref|Schneider|2013}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Wolk|first=Douglas|title=Reading Comics|url=https://archive.org/details/readingcomicshow00wolk|accessdate=2021-03-04|year=2007|chapter=Alan Moore: The House of the Magus|publisher=Da Capo Press|isbn=978-0-306-81616-1|pages=228–257|ref={{SfnRef|Wolk|2007}}}} |
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==== コミック全般・その他 ==== |
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*{{cite book|first=Jackson|last=Ayres|chapter=Promethea|title=Encyclopedia of Comic Books and Graphic Novels|volume=2|editor-first=M. Keith|editor-last=Booker|publisher=ABC-CLIO|year=2010|url={{Google books|K2J7DpUItEMC|Encyclopedia of Comic Books and Graphic Novels |plainurl=yes}}|accessdate=2022-02-11|ref={{SfnRef|Ayres|2010}}}} |
|||
*{{Cite book|editor-last=Baetens|editor-first=Jan, et al.|isbn=978-1107171411|title=The Cambridge History of the Graphic Novels|date=2018|publisher=Cambridge University Press|ref=}} |
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**{{Citation|chapter=The Superhero Graphic Novel|first=Darren|last=Harris-Fain|pages=492–508|ref={{Sfnref|Harris-Fain|2018}}}} |
|||
**{{Citation|chapter= Alan Moore: The Making of a Graphic Novel|first=Christopher|last=Murray|pages=219–234|ref={{Sfnref|Murray|2018}}}} |
|||
*{{cite book|last=Berlatsky|first=Eric C.|chapter=Moore, Alan|title=Comics through Time: A History of Icons, Idols, and Ideas|editor-first=M. Keith|editor-last=Booker|publisher=ABC-CLIO|year=2014| url={{Google books|hnuQBQAAQBAJ|Comics through Time: A History of Icons, Idols, and Ideas|plainurl=yes}}|accessdate=2022-02-06|ref={{SfnRef|Berlatsky|2014}}}} |
|||
*{{Cite book|first=David|last=Bishop|title= Thrill-power Overload: Thirty Years of 2000 AD |edition=hardcover|date=2007|publisher=Rebellion Developments|isbn=978-1-905437-22-1|ref={{SfnRef|Bishop|2007}}}} |
|||
*{{Cite book|editor-last=Dolan|editor-first=Hannah|title=DC Comics Year By Year: A Visual Chronicle|publisher=Dorling Kindersley|year=2010|isbn=978-0-7566-6742-9}} |
|||
**{{Citation|first=Alan|last=Cowsill|chapter=2000s|ref={{SfnRef|Cowsill|2010}}}} |
|||
**{{Citation|first=Matthew K.|last=Manning|chapter=1980s|ref={{SfnRef|Manning|2010}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Daniels|first=Les|title=DC Comics: Sixty Years of the World's Favorite Comic Book Heroes|publisher=Bulfinch Press|year=1995|isbn=0-8212-2076-4|ref={{sfnref|Daniels|1995}}}} |
|||
*{{cite book|title=Superhero Comics|publisher=Bloomsbury Academic |year=2019|first=Chris|last=Gavaler |isbn=9781474226349|ref={{SfnRef|Gavaler|2019}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Greenberger|first=Robert|last2=Manning|first2=Matthew K.|title=The Batman Vault: A Museum-in-a-Book with Rare Collectibles from the Batcave|publisher=Running Press|year=2009|isbn=978-0-7624-3663-7|ref={{sfnref|Greenberger & Manning|2009}}}} |
|||
*{{cite book | last=Killjoy|first=Margaret|others=Robinson, Kim Stanley| title=Mythmakers and Lawbreakers|chapter=Introduction|publisher=AK Press|year=2009|page=42| isbn=978-1-84935-002-0 | oclc=318877243|ref={{sfnref|Killjoy (ed.)|2009}}}} |
|||
*{{cite book | last=Klock|first=Geoff|title=How to Read Superhero Comics and Why |publisher=Continuum International Publishing Group |year=2002|isbn=0-8264-1419-2|ref={{sfnref|Klock|2002}}}} |
|||
*{{cite book|title=1001 Comics You Must Read Before You Die |publisher=Cassell Illustrated|year=2011|editor-first=Paul|editor-last=Gravett |isbn=9781844036981|ref={{SfnRef|Gravett (ed.)|2011}}}} |
|||
**{{citation|chapter=Top 10|first=Bart|last=Beaty|page=716|ref={{SfnRef|Beaty|2011}}}} |
|||
**{{citation|first=Ben|last=Dickson|chapter=The League of Extraordinary Gentlemen|page=722|ref={{SfnRef|Dickson|2011}}}} |
|||
**{{citation|chapter=Watchmen|first=Melanie|last=Gibson|page=490|ref={{SfnRef|Gibson|2011}}}} |
|||
**{{citation|chapter=Promethea|first=Timothy R.|last= Lehmann |page=710|ref={{SfnRef|Lehmann|2011}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Manning|first=Matthew K.|chapter=1980s|title=Batman: A Visual History|publisher=Dorling Kindersley|year=2014||isbn=978-1465424563|ref={{SfnRef|Manning|2014}}}} |
|||
*{{Cite book|last=Olson|first=Stephen P.|title=Neil Gaiman|url=https://archive.org/details/neilgaiman0000olso|quote=gaiman - moore - friendship.|year=2005|location=New York|publisher=Rosen Publishing Group|isbn=978-1-4042-0285-6|accessdate=2022-02-03|ref={{sfnref|Olson|2005}}}} |
|||
*{{Cite book|editor-last=Thompson|editor-first=Maggie|title=Comics Buyer's Guide 1996 Annual|publisher=Krause Publications|year=1995|pages=30–31|isbn=978-0-87341-406-7|ref={{sfnref|Thompson (ed.)|1995}}}} |
|||
*{{Cite book|和書|author=小田切博|authorlink=小田切博|title= 戦争はいかに「マンガ」を変えるか―アメリカン・コミックスの変貌|date=2007|publisher=NTT出版|isbn=978-4-7571-4144-5|ref={{SfnRef|小田切|2007}}}} |
|||
*{{cite book|和書|title=THE HERO アメリカンコミック史|first=ローレンス|last=マズロン|first2=マイケル|last2=キャンター|publisher=東洋書林|year=2014| translator=越智道雄|isbn=978-4-88721-819-2|ref={{SfnRef|マズロン&キャンター|2014}}}} |
|||
*{{Cite book|和書|first=グラント|last=モリソン|title=スーパーゴッズ アメリカン・コミックスの超神たち|translator=中沢俊介|date=2013|publisher=小学館集英社プロダクション|isbn=978-4-7968-7115-0|ref={{SfnRef|モリソン|2013}}}} |
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== 外部リンク == |
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* [http://www.dodgemlogic.com/ 公式ウェブサイト] |
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2024年11月11日 (月) 06:45時点における最新版
アラン・ムーア | |
---|---|
アラン・ムーア(2008年) | |
現地語名 | Alan Moore |
ペンネーム |
|
誕生 |
1953年11月18日(71歳) イギリス イングランド ノーサンプトン |
職業 |
漫画原作者、漫画家、小説家 音楽家、魔術師、神秘家 |
活動期間 | 1970年代 - |
ジャンル | SF、一般フィクション、ノンフィクション、スーパーヒーロー、ホラー |
代表作 | |
配偶者 |
|
子供 |
|
ウィキポータル 文学 |
アラン・ムーア(英: Alan Moore、1953年11月18日 - )は、主にコミック原作で知られるイングランド人作家。子供向けのメディアと見なされていた1980年代の米国コミックに文学性を持ち込み、文化的な地位を向上させたことで知られる[6][7][8]。代表作『ウォッチメン』はスーパーヒーロー・ジャンルの再解釈と洗練された語りによって後世に多大な影響を与えた。
概要
[編集]1970年代後半に英国のアンダーグラウンド出版物でカウンターカルチャー色の強いコミックを描き始めた。原作者に転向して 2000 AD や Warrior などのSFコミック誌に寄稿するようになると、スーパーヒーロー・コミックを現代的に再定義する『マーベルマン』(1982年)や政治スリラー『Vフォー・ヴェンデッタ』(1982年)で名を上げた。1983年に米国の大手出版社DCコミックスに起用され、『ザ・サガ・オブ・スワンプシング』誌を皮切りにスーパーマンのようなメジャーなキャラクターを手掛けてスター作家となり、米国コミックが英国的な感覚を取り入れて発展する流れを作り出した。コミック史に残る成功を収めたオリジナル作品『ウォッチメン』(1986年)や『バットマン: キリングジョーク』(1988年)はヒーローの内面描写や社会的な観点を導入してジャンル全体の行方に影響を与えた。
1980年代末からは『ウォッチメン』の著作権を獲得できなかったことなどが理由でDC社を離脱し[9]、スーパーヒーロー・ジャンルを中心とするメインストリーム・コミック界[注 3]にも背を向けて、自己出版や小出版社での活動を中心にし始めた。歴史と社会の総体を描いた『フロム・ヘル』(1989年)や、児童文学とポルノグラフィを組み合わせた Lost Girls(1991年)はアート志向の野心作だった。その後、新興のスーパーヒーロー系出版社イメージ・コミックスを経てアメリカズ・ベスト・コミックスという出版レーベルを立ち上げ、ヴィクトリア朝文学から登場人物を借りた『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(1999年)や、神秘学による精神の解放を描いた『プロメテア』(1999年)など[11]、創作や集合的想像力をテーマとする作品を残した[12]。キャリア後半にはコミック業界やファンダムに対して批判的な姿勢を強めていき、2019年にコミック原作を引退した。小説家としては2016年の長編 Jerusalem など新作の発表を続けている。
ムーアはポップカルチャーで引用されることが多く[13][14]、文芸家や映像作家への影響も大きいことで知られている[15][16]。奇人としても有名である[17]。神秘主義者[18]、儀式魔術師、アナキスト[19]でもあり、作品の多くでこれらのテーマを扱っている。神秘学関連の前衛的なスポークン・ワード公演を行うこともある。自作のハリウッド映画化には否定的だが、その意思に反して『フロム・ヘル』(2001年)、『リーグ・オブ・レジェンド』(2003年)、『Vフォー・ヴェンデッタ』(2005年)、『ウォッチメン』(2009年)などが公開されるに至っている。
来歴
[編集]生い立ち: 1953年-1978年
[編集]1953年11月18日、ノーサンプトンに生まれる[21]。共に暮らす家族は醸造所に勤める父アーネストと印刷労働者の母シルヴィア、弟、そして迷信深いが威厳あるヴィクトリア朝風の女家長[22]
こと母方の祖母だった[23]。労働者階級の一家は17世紀以前から代々当地に住んでいた[24]。フレスコ画を生業にしていた父方の曾祖父は放蕩家で[25]、パブでカリカチュアを描いて支払いの代わりにしていたという[26]。しかしムーアの両親の代には芸術や文学とは無縁だった[27]。
ムーアの生家は屋外便所の古い建物だったが、電気が通っているだけ恵まれている方だった[28]。ノーサンプトンの「バロウズ[注 4]」地区は英国でも有数の貧困地域で[29]、識字率が低く公共サービスも乏しかったがその住民とコミュニティには愛着を持った[30]。幼いムーアは金銭的な豊かさより優先すべきものがあると教えられた[26]。コミックス・スタディーズ研究者ジャクソン・エアーズは[31]、ムーアは労働者階級の育ちを通じて共同体主義、個人の対等、自主自律の感覚をバランスよく身に着けたと書いている[32]。
5歳で読むことを覚え、地元の図書館に通った[33]。高度な教育を受けなかった両親も息子には読書を勧めた[34]。ムーアはSF、魔術、ファンタジー、神話や伝説のように現実から離れたジャンルを好んでいた[35]。初等学校に入学するころコミックを読み始めた[36]。The Topper や The Beezer のような英国の週刊コミック誌を手始めに、やがて貨物船の底荷として米国から流れてくる『フラッシュ』『ディテクティヴ・コミックス』『ファンタスティック・フォー』などを漁るようになった[37]。労働者階級の現実から一歩も出ない英国コミック誌に比べて[38]、米国のヒーローコミックに描かれる大都市は未来世界のように見えた[39][40]。数年のうちにヒーローの活躍よりも作品の仕掛けや作者の意図に興味を持ち始め[41]、自身でもコミックを描き始めると友人に回覧して小銭を集めては子供支援団体に募金した[26][42]。
初等学校時代、学力と体格に優れたムーアは自己肯定感にあふれちょっとした神様気取り
だった。中等教育に進むにあたってイレブンプラス試験に合格し、大学進学者向けの上位校(グラマースクール)への入学資格を得た[42]。そこで初めて教育の高い中流階級と出会い、首席の優等生から最底辺になったことを知って衝撃を受けた[43]。やがて学校を嫌うようになり、勉強にも興味を持てず、公教育には子供に時間順守、服従、退屈への順応
を教え込む隠されたカリキュラム
があると考えるようになった[44]。
1960年代後半から黎明期のコミックファンジンで詩やエッセイ、イラストレーションを発表し始め、ファン活動を通じて後の共作者の多くと知り合った[21][45][46][注 5]。その中でもスティーヴ・ムーア(血縁なし)からは、後のコミック界入りや魔術への入門で大いに影響を受けることになる[48]。当時の英国ファンダムはヒッピー文化色が強く、ムーアの人格形成には1960年代のカウンターカルチャーが深く根差された[45]。ムーアは学校でも詩の同人誌 Embryo(→胚、萌芽)を出したが[49][50]、「マザーファッカー」という言葉を載せたことが元で校長から発禁にされた[51]。
1971年、ティモシー・リアリーの思想に影響を受けて校内で幻覚剤LSDを売買したことでグラマースクールを放校された[52][53][54]。校長は近隣の学校に通達を出し、ムーアが在校生の風紀に悪影響を与える
から入学させないように伝えたという[52][55]。型にはまらない息子の個性を認めていた両親もこれには落胆した。ムーアは両親が亡くなる1990年代までドロップアウトした理由を公には語らなかった[56]。
LSDは素晴らしい経験だった。人に勧めるつもりはないが、私には … 現実が確定したものではないという考えを叩きこんでくれた。いつも見ている現実は一つの確かな現実だが、それがすべてではない。ほかのものが同じくらい確かな意味を持つような別の視点が存在する。そう知ることで私は根底から変わった。—アラン・ムーア(2003年)[57]
それから数年はトイレ清掃や皮革工場の仕事をしながら実家で暮らした[58]。学校の友人とは縁が切れ、社会への怒りを抱えていた[59]。このころは Embryo を通じて加入したノーサンプトン・アーツ・ラボの活動が数少ない他人との交流の機会だった[60]。アーツ・ラボは実験的・反体制的な芸術運動で、ジャンルの異なる芸術家の協同を趣旨の一つとしていた[61][62]。ノーサンプトンのグループはせいぜい数十人の無名の集まりにすぎなかったが、ムーアはそこで作詞や劇作、演技に目を開かれた[63][64]。特に詩の朗読には自身でも才能を感じた[65]。これらの経験は後の執筆や公演活動の基礎となった[66][67]。
1970年代にもヒーローコミックは読み続けていたが、瑣末な設定にこだわるコミックファン一般とは距離を置くようになった[68]。当時の作品の中ではジャック・カービーの「フォースワールド」やフランク・ミラー期の『デアデビル』に引きつけられた[69][70]。それ以上に熱中したのはユーモア誌『MAD』や[71]、アート・スピーゲルマンとビル・グリフィスによる前衛的な Arcade: The Comics Revue 誌だった。後のエッセイでは同誌をアンダーグラウンド・コミックスというそもそもの思想のほとんど完璧な到達点
と呼んでいる[72]。
1973年ごろに芸術関係の集まりを通じて出会ったフィリス・ディクソンと結婚してアパートに移り、ガス委員会の下請け会社で事務仕事をした[73][74]。しかし仕事に満足できず、芸術的な活動で生計を立てたいと考えた[75]。1974年から翌年にかけてローカル紙 Anon にアマチュアとしてコミックストリップ[注 6] Anon E. Mouse(→アノニーマウス)を描いたが、掲載紙の穏健な政治志向に合わず5回で終わった[77]。1977年の秋にフィリスが妊娠すると、赤ん坊の顔を見てしまえば決心が鈍ると考えてすぐに勤めを辞め、週42.50ポンドの失業給付に頼りながらコミック作家を目指して本格的に活動を始めた[78]。
漫画家としての活動初期: 1978年-1983年
[編集]1978年2月、アーツ・ラボの人脈を通じてオックスフォードのアングラ隔週刊紙 Back Street Bugle に St. Pancras Panda(→パンダのセント・パンクラス[注 7])を無償で寄稿し[80]、翌年3月まで描き続けた[81]。『MAD』誌に影響を受けた1回10–15コマのギャグ漫画だった[80]。初めて対価を得たのは、1978年10月に音楽週刊誌『NME』に掲載されたエルヴィス・コステロのイラストレーションだった[82]。翌年、ヒッピー文化の影響が強い音楽雑誌 Dark Star に友人の原作者スティーヴ・ムーアと組んだ連作を寄稿した[83]。失業給付を受給しながら収入を得ていることを明るみに出したくなかったため[78]、作曲家クルト・ヴァイルをもじった Curt Vile(→「不愛想で下品な」)という筆名を使っていた[54]。
Dark Star とほぼ同時に発行数25万部の音楽週刊誌 Sounds でチャンドラーを気取った口調の
探偵が「ロックンロールの死」を調査するスピーゲルマン風の作品 Roscoe Moscow(1979年–1980年)が連載された[84][85]。同誌では Curt Vile として音楽評やインタビュー記事の執筆も行った[86]。Roscoe Moscow が終わるとSFパロディ The Stars My Degradation(→わが落ち行くは星の群[注 8])(1980年–1983年)が後を引き継いだ[87][88]。基本的にムーアが一人で描いていたが、連載の終盤は多忙になったためスティーヴ・ムーアに原作を任せた[3]。この時期の作品は英国アンダーグラウンド・コミックの伝統に沿っており、労働者階級の卑俗な視点から権威や良識に対抗するというものだったが[89]、Sounds 連載作には後の作品にも通じる自己言及性や凝ったコマ割りがすでに見て取れる[90][91]。
1979年から地方紙 Northants Post でコミックストリップ Maxwell the Magic Cat(→魔法の猫マクスウェル)を描き始めた(筆名 Jill de Ray)[92][93]。「子供向けに」という編集者の注文に応じたシンプルな絵柄の5コマ漫画だが、政治的テーマや、コマ漫画の構造をネタにした実験的なユーモアが紛れ込むことがあった[38][94]。この作品はムーアにとって地元の気楽な仕事であり、原作者として大成した後の1986年まで連載を続けていた[95]。
これらの活動を通して、自身の作画の才能に見切りをつけて原作に専念すべきだと考えるようになった。画力不足を点描で補っていたため原稿を量産できなかったことも大きかった[96]。原作スクリプト(脚本)の書き方はスティーヴ・ムーアから教わった[97]。執筆先としてシニカルなSFで人気があった 2000 AD 誌[98][注 9]に狙いを定め、人気連載「ジャッジ・ドレッド」のスクリプトを書いて投稿した。同作はオリジナルの原作者ジョン・ワグナーが書いていた時期で、新人の原稿は求められていなかったが、副編集長アラン・グラントは投稿作に将来性を見て取った[100]。ムーアはグラントに示唆されて投稿を続け、定期的に読み切りが掲載されるようになった[101]。同誌の Future Shocks はひねりを利かせたSF短編が掲載される連載枠で[102]、多くのコミック作家が修業時代に携わったことで名高く[103]、ムーアも後にストーリーの組み立て方を学ぶにはこの上ない教育だった
と回想している[104]。
英国コミック界での活動、2000 AD と Warrior : 1980年–1986年
[編集]ムーアは1980年から1986年まで英国コミックの原作を書き続けた[105]。それらはギャグからシリアスまで幅広かったが一貫した作家性を感じさせ、同時代の原作者の中ですぐに頭角を現した[106]。英国でコミックブック文化が成熟していく時期であり[107]、伝記作家ランス・パーキンは英国のコミックシーンはかつてないほど盤石になり、読者が歳を重ねても卒業していかないのは明らかだった。コミックはもはや小さい男の子だけのものではなく、ティーンも … 読むようになっていた
と書いている[108]。
マーベルUKでは1980年から翌年にかけて『ドクター・フー・ウィークリー』や『スターウォーズ・ウィークリー』に短編をいくつか書いた。それらのシリーズに関心がなかったため、内容は自己流だった[109]。やがて『マーベル・スーパーヒーローズ』誌の連載「キャプテン・ブリテン」を任され(1982年)、前任者デイヴ・ソープが始めたストーリーを完結させた[110][注 10]。
2000 AD とマーベルUKの編集に関わっていたデズ・スキンが1982年に創刊した月刊誌 Warrior は[111]、原稿料が低い代わりに執筆者と作品の著作権を共有したり(他誌では著作権買い切りが一般的だった)[112]、作家の書きたいものを書かせる方針を取っていた[113][注 11]。ランス・パーキンによるとムーアが原作者として本領を発揮するようになったのは Warrior 誌からである[114]。ムーアが創刊号で始めた二つの連載はテーマと形式の両面で革新的なものだった[115]。『Vフォー・ヴェンデッタ』[注 12]は近未来の英国に舞台を取ったディストピア・スリラーで、アナキストの主人公はガイ・フォークスの装束をまとい、テロによって政府を打倒しようとする。当時の英国首相マーガレット・サッチャーに対するムーアの失望を反映した作品で[19]、ムーアの文学志向が現れた最初の作品でもあった[116]。もう一つの連載『マーベルマン』[注 13]は英国で1954年から1963年にかけて刊行されていた同題作品のリブートで、オリジナル版は米国の『キャプテン・マーベル』を焼き直しただけのヒーロー物だった[118]。原作を依頼されたムーアはキッチュな子供向けのキャラクターを1982年の現実世界に置く
ことを決め、科学と進歩への牧歌的な信頼から生まれた主人公を核テロと直面させた[119]。この作品に込められたリアリズム、ジャンル脱構築、詩的なナレーションといった手法は後世のスーパーヒーロー・ジャンルに巨大な影響を与えることになる[120]。遅れて始まった3つ目の連載 The Bojeffries Saga(→ボージェフリー家のサガ)[注 14]はイングランドの労働者階級として暮らす吸血鬼や狼男の一家が主人公のコメディで、ムーア自身の子供時代が投影されている[121][122]。視覚的ギャグを連発する『MAD』の作風から離れて性格喜劇を狙った作品である[123]。これら3作には共通してゴシックでダークな感覚や、ジャンルやメディアの越境といった要素が現れていた[116]。
ムーアは1980年から1983年まで 2000 AD 誌の短編を仕事の主軸の一つにしていたが[124]、同誌から連載を任されたのはかなり遅かった[125]。最初の企画は映画『E.T.』を模倣しろというものだった。ムーアは反発心から実際の映画を見ることなく原作を書いたと語っている[126]。出来上がった Skizz(1983年)[注 15]は不時着した異星人が地球人の少女に助けられる物語だが、ポスト工業化時代の失業問題と社会的混乱が背景にされていた[127]。続く D.R. & Quinch(→D.R.とクインチ)(1983年)[注 16]は、米国のユーモア誌『ナショナル・ランプーン』の人気キャラクター「O.C.とスティッグス」にヒントを得た宇宙人の不良少年コンビを主人公にしたギャグ作品だった[128]。The Ballad of Halo Jones(→ヘイロー・ジョーンズのバラッド)(1984年)[注 17]は一般に 2000 AD 誌で連載した作品のベストとみられており[129]、自身でももっとも上手くいった作品
と述べている[130]。同誌で主流だったバイオレンスSFの形式を反転させて、社会福祉が後退した未来世界に生きる特に勇敢でも賢くも強くもない[20]
失業者の女性を主人公にしていた[131][132]。英国の社会状況を反映した物語は若者の共感を集めた[133]。
ムーアは英国コミック界で成功を収めながら、クリエイターの権利が守られていないことに不満を募らせていた[134]。1986年には 2000 AD が作品の著作権を保持していたことに対してほかのクリエイターと共に抗議し、寄稿を止めた。全9部の構想だった The Ballad of Halo Jones は第3部までで未完に終わった[135][136]。ムーアは主義主張をはっきり口にする人物で、特に著作権の帰属や創作上の制約については強硬であったため、その後もキャリアを通じて数多くの出版社と絶縁することになる[19][137][138]。
米国進出とDCコミックス: 1983年–1988年
[編集]1983年、米国のメジャー出版社DCコミックスの編集者レン・ウィーンは 2000 AD 誌のムーア作品に注目し[115][140]、『ザ・サガ・オブ・スワンプシング』の原作に起用した。原稿料は英国時代の4–5倍になった[141]。これ以降ムーアは英国での仕事を整理しながら米国に軸足を移していく[142]。
ムーアは作画家スティーヴン・R・ビセット、リック・ヴィーチ、ジョン・タトルベンらとともに、古臭く不人気なモンスター物だった『スワンプシング』の再創造を行った[143]。植物の意識を描くなど表現様式の実験が行われたほか[144]、環境問題のような社会的テーマや、性交・月経といったタブー破りの題材が取り入れられた[145]。ムーアは同誌を第20号(1983年9月)から第64号(1987年6月)まで4年近く書き続け[146]、月間発行部数を1万7千部から10万部以上に伸ばした[147]。この成功を見たDC社は英国から積極的に新人原作者を起用するようになった(グラント・モリソンやニール・ゲイマンなど)[148]。伝統的なスーパーヒーロー物が中心だった米国と異なり、英国のコミック文化はアンチヒーローやブラックコメディ、暴力性や反権威が持ち味だった[149]。研究者グレッグ・カーペンターによると当時の米国コミックはファン出身の書き手がマニアックなストーリーを再生産する停滞期であり[150]、新しい感覚の流入(ブリティッシュ・インヴェイジョン(→英国の侵攻)と呼ばれた)は影響が大きかった[151]。これが米国で「文学的」コミックを生み出した流れの一つである[10][152][注 18]。
この時点でのムーアは幼少期の思い出と結びついたDC作品と関われることに高揚していた[154]。1985年の春からDC社のほかの二線級シリーズに携わり始め、『ヴィジランテ』誌には児童虐待を扱った前後編を書いた(第17–18号、1985年)[155][156]。『グリーンランタン』シリーズでは、この時期にムーアが導入したアイディアが後の世代によって『シネストロ・コァ・ウォー』(2007年)や『ブラッケスト・ナイト』(2009年)のような大型ストーリーに発展させられることになる[157][158]。やがて編集部からの評価が高まり、1985年の「他に何を望もう」[注 19]でDC最大のスーパーヒーローの一人であるスーパーマンを書く機会を与えられた[159]。続いて1986年に大ベテランの作画家カート・スワンと共作した「何がマン・オブ・トゥモローに起こったか?」は、『クライシス・オン・インフィニット・アース』でDCの作中世界が全面的にリニューアルされるにあたって、旧バージョンのスーパーマンのフィナーレとして企画された記念碑的作品だった[160][161]。同作は時代遅れとなったスーパーヒーローへの懐古的な賛歌であり、心に残る名作として何度も再刊されることになる[162][163]。評論誌『コミックス・ジャーナル』は当時ムーアを今もっとも売れているわけではないとしても、間違いなくもっとも尊敬されている原作者
と呼んだ[164]。
1986年に刊行開始され、翌年に単行本化された全12号のオリジナルシリーズ『ウォッチメン』[注 20]はムーアの名声を不動のものとした[165]。同作は優れたヒーローコミックであると同時に核戦争の前兆に包まれた冷戦時代のミステリであり[166]、スーパーヒーローの存在を踏まえた歴史改変SFでもあった[167]。この作品は一般にスーパーヒーローという概念に対するポストモダンな脱構築を行ったと見られており[168]、コミック史研究者レス・ダニエルズはこのジャンルが基本的な前提としてきたものに疑問を投げかけた
と書いている[169]。構成や表現様式の洗練も際立っており[170]、グレッグ・カーペンターによると当時のムーアが持つ技法の粋が集められている[171]。『ウォッチメン』はコミックの域を超えて読書界やアカデミズムから大きな注目を浴びた[172]。SFのヒューゴー賞を最初に受賞したコミック作品でもある[173]。広くムーアの最高傑作とみられており、あらゆるコミックの中で最高の名作と呼ばれることもある[174]。時代の近い『バットマン: ダークナイト・リターンズ』(フランク・ミラー)、『マウス』(アート・スピーゲルマン)と並んで、1980年代後半の米国コミックが大人向けの内容に移行する流れの一端でもあった[175]。
ムーアは『ウォッチメン』によってポップアイコンになりかけ[176]、1987年にはドキュメンタリー番組 Monsters, Maniacs and Moore の主役となった[177]。しかしやがて個人崇拝を嫌ったムーアはファンとの関りを減らすようになり、コンベンションへの参加も止めた[178]。
1988年、作画家ブライアン・ボランドの誘いを受けて『バットマン: キリングジョーク』を共作し[179]、バットマンと宿敵ジョーカーをトラウマに憑りつかれた表裏一体の存在として描いた[180]。フランク・ミラーの『ダークナイト・リターンズ』や『イヤーワン』と並んでバットマンのキャラクターを再定義した重要作品であり[181][182]、ティム・バートンやクリストファー・ノーランによる映画版にも影響を与えている[180][183]。しかしムーア自身の評価は低く[9]、ランス・パーキンは風刺や … 脱構築の強い衝動もなく、バイオレンスとペシミズムだけを[184]
扱った作品だと書いている。
これらのシニカルな作品は、同時代のコミック界からはジャンルに暗い現実を突きつけるリヴィジョニズムとして受け取られた[185]。その影響は大きく、ヒーローコミック全体が「グリム・アンド・グリッティ(→暗く、ざらっとした)」と呼ばれる方向性に流れることになった。しかしそれらは多くが「バイオレンス、セックス、神経症」というムーアの表層的な部分だけを模倣したものだった[186]。ムーアは『ウォッチメン』がきっかけとなってジャンルの可能性を広げる作品が出てくることを期待していたが、同工の亜流作ばかりで失望させられたと述べている[187]。1986年には独立系出版社ファンタグラフィックスのチャリティ誌に書いた短編 In Pictopia によって[188]、流行に乗って過去のクリエイターの営為を改変するメジャー出版社を批判した[189]。同年の後半には未来の荒廃したDCユニバースを舞台にした Twilight of the Superheroes(→スーパーヒーローの黄昏)という大型クロスオーバーシリーズの構想を立てたが、それが実現するより先にDC社と関係を絶つことになった[190][注 21]。
DCとの決裂
[編集]DCコミックスで活動していた5年あまりの間に、ムーアは影響力の強い作品を次々に発表して名声を築き上げた[194]。『ウォッチメン』の成功はムーアを生活の不安から解放し、生涯にわたる創作上の自由をもたらした[195]。その一方でDCとの関係はいくつかの問題を巡って徐々に悪化していった[196]。完結した自作の続編やスピンオフを別の作家に書かせるような販売策はムーアの信条にそぐわなかった[197][注 22]。1987年にDC社が映画のような年齢レイティング制とガイドラインを導入しようとすると[注 23]、ムーアはフランク・ミラーらとともに反対の論陣を張った[202]。レイティングは「子供向け」作品を毒にも薬にもならないものにし、「成人向け」作品をセックスと暴力頼りの低質なものにするというのがムーアの考えだった[203]。クリエイターらの抗議は受け入れられず、それがDC離脱の直接的な理由となった[196][204]。DCに移籍して刊行されていた『Vフォー・ヴェンデッタ』(1989年完結)を最後に寄稿は打ち切られた[205]。なお米国コミック出版のもう一方の雄マーベル・コミックスとは『マーベルマン』の名の使用を巡ってそれ以前に絶縁していた[206][207](同作は Warrior 終刊後に米国のエクリプス社に版権が売られ、『ミラクルマン』と改題された[208])。
作品の著作権の問題はその後も尾を引き続けた。米国のコミック界では作者のオリジナルな作品やキャラクターでも出版社が著作権を保有するのが一般的だが、当時のDCコミックスはクリエイターの権利を拡大していく方針を取っており[209]、『ウォッチメン』と『Vフォー・ヴェンデッタ』の契約書には「作品が絶版になれば著作権は作者に復帰する」という条項が加えられていた。しかし、年数が経っても2作が絶版になることはなかった[196][210]。ムーアはこれを裏切りとみなした[211]。
インディペンデント期とマッドラブ: 1988年–1993年
[編集]メジャー出版社に背を向けたムーアは[212]、自分の書きたいテーマはSF冒険ものやスーパーヒーローのジャンルには収まりきらないと公言し[213]、それらのジャンル作品で確立したポストモダンな作風を社会的な作品に適用し始める[214]。しかし大手出版社・取次から離れた執筆活動は順調に行かず、一般コミックファンからの関心は薄れていった[215][216]。ムーアは後に振り返ってこの時期を原野行の時代
[216]一大私的作品期
[217]と呼んでいる。
1988年にムーアは個人出版社マッドラブを設立した。エイズ禍が高まる中でマーガレット・サッチャー政権が提出した反同性愛法案「第28条」に抗議するのが目的だった[218][219]。このころムーア夫妻はデボラ・デラノという女性と同居して3人でオープンな性的関係を結んでいたため、その種の規制は他人事ではなかった[218]。同年に刊行されたチャリティ・コミック AARGH [注 24]には、ロバート・クラムら錚々たるコミック作家の寄稿に加えて[220]、同性愛の歴史を綴ったムーアの詩 The Mirror of Love が掲載されていた[注 25][220][224]。政治的な主張を込めた同書の出版はムーアにとって転機となった[225]。続いて、米国中央情報局 (CIA) を相手取った連邦訴訟に関わっていた公益法律事務所クリスティック・インスティチュートの依頼を受けて、CIAの非合法活動を告発する Shadowplay: The Secret Team[注 26]を書いた。内容はクリスティックが提供した大量の調査資料に基づいていた[226]。徹底した取材によって実在の事件を作品化する経験はその後の執筆活動に影響が大きかった[226][227]。Shadowplay はクリスティックが刊行したアンソロジー Brought to Light(→白日の下へ)(1988年、エクリプス刊)で発表された[228][注 27]。
1990年、コミック自己出版の伝道者デイヴ・シムに触発されて自身のマッドラブから Big Numbers を発刊した[230]。『ウォッチメン』に続く代表作として構想された同作は[216]、生地ノーサンプトンをモデルにした英国の地方都市を舞台に、巨大ビジネスが一般人に与える影響とカオス理論[注 28]の概念を組み合わせた社会的リアリズム作品だった[233][234]。読者を選ぶ題材だが、全12号×大判40ページという大部の構想で、ビッグネームのビル・シンケビッチが作画を担当するとあってファンの期待も高かった[235]。しかし2号が出た時点でシンケビッチがフォトリアリスティックなペイントアートという方針を維持できなくなり、作画を降りた[236][237]。ムーアの奔走にもかかわらず、続刊は出なかった。この失敗はファンの失望を招き[235]、ムーアにも大きな金銭的損失をもたらした[238]。ムーアの心境は翌年に書籍出版社ビクター・ゴランツから書き下ろされたグラフィックノベル[注 29] A Small Killing [注 30]に反映されている[241][242]。広告会社の重役が理想家だった少年時代の自分自身に取りつかれ、一線から退いて新しい目的を探すという内容である[243][244]。同作はあまり部数が伸びず[245]、「もっとも過小評価されているムーア作品」とされることがある[170][246]。
過去の共作者スティーヴン・ビセットが自己出版するアンソロジーコミック誌 Taboo では、内容に制約を受けることなく性や暴力、政治や宗教といった題材を自由に追求することができた[247]。ムーアが同誌で行った連載の一つ目は、1880年代の切り裂きジャック事件をフィクション化した『フロム・ヘル』(1989年)[注 31]である。数多くの歴史的・社会的テーマを取り込んだ芸術志向の野心作だった[248]。Taboo は短命に終わり、『フロム・ヘル』は小出版社からコミックブック形式で続刊が出た[249]。しかしDC期のように締め切りに束縛されなくなったことで各号の執筆期間は延びていき、新刊を追い続けるのも困難な状況にファンも離れていった[250]。『コミックス・ジャーナル』の論説によると、カジュアルな読者を拒絶するかのようなムーアの行動は半ば意図的なものだった[251]。1999年、10年越しに完結した『フロム・ヘル』は単行本化と映画化を経て名作としての評価が確立している[249]。
Taboo で開始されたもう一つの作品 Lost Girls(1991年)はムーアによると知的なポルノグラフィ
だった[252][253]。作中では、セックスのアンチテーゼとしての世界大戦の前夜、成長した児童文学の女主人公たちがウィーンのホテルに集い、互いに性の目覚めを物語る[254]。原典の内容は性体験のメタファーとして解釈される[255]。ムーアはティファナ・バイブルやロバート・クラムを例に挙げて非主流のコミックにポルノの伝統があると主張しており[256]、芸術的水準の高いポルノ・コミックを作ることを一つの挑戦と考えていた[257][258]。Lost Girls は Taboo 廃刊後に出版の当てがないまま書き続けられ、2006年に完成するとトップシェルフから刊行された[259](作画のメリンダ・ゲビーとムーアはその翌年に結婚した[26])。児童ポルノと受け取られうる内容を含むものの、おおむね芸術的価値が認められて各国で出版・販売が実現し、高い評価を得ている[260]。同年にムーアはポルノグラフィの歴史をたどる論説を発表し、社会の活力は性的な寛容さによって決まると論じて公の評価に耐える新たなポルノの必要性を訴えた[261]。このテーマは2009年の評論本 25,000 years of Erotic Freedom(→性の自由の2万5千年史)に発展した[262]。
1996年には初の小説本 Voice of the Fire(ビクター・ゴランツ刊)が出た。紀元前4000年から現代までの出来事を描いた短編連作で、時代は異なれどすべてムーアの生地ノーサンプトンが舞台となっている[264]。言語や文化の発展を再現した実験的な語り口で書かれており[264]、全体として想像力と「幻視」が私たち自身をどのように形作ってきたか
についてのストーリーとなっている[265]。
メインストリーム復帰とイメージ・コミックス: 1993年–1998年
[編集]ムーアは1993年にメインストリーム・コミックに復帰して再びスーパーヒーロー作品を発表し始めた[163]。その意図としては、自身の脱構築的アプローチが低質なエピゴーネンを生み出したことに責任を感じ、コミックに「喜びと純真さ」を取り戻そうとしたのだと語っている[163]。しかし衆目の見るところによると、前言を翻した理由には経済的なものもあった[266]。個人資産を投入した出版社マッドラブは Big Numbers の挫折と共に活動を停止していた[238]。社名の由来となったムーア夫妻ら3人の恋愛関係も数年しか続かなかった[267]。フィリスとデボラは娘たちを連れて2人で新しい生活を始め、1980年代の作品で稼いだ財産のほとんどを持ち去っていった[115][268]。このころムーアは魔術と神秘思想に傾倒し始めたが(後述)、自身ではそれを「ミッドライフ・クライシスから目を逸らすため」のようにも語っている[269]。
寄稿先のイメージ・コミックスは当時ブームの真最中だった。同社は暴力描写・女性の性的対象化といった作風[271]、作画重視・マーケティング重視の方針で知られており、ムーアのような「文学的」コミックを称揚する批評家からは評価が低かった[272]。しかしクリエイター主導で設立された新会社ということもあり、著作権や創作上の自由についての方針はムーアにとって賛同できるものだった[273][274]。ムーアはまず10万ドル+印税という破格の報酬で『スポーン』第8号(1993年)のゲスト原作者を務め[275][注 32]、同年にオリジナル作品『1963』[注 33]全6号を出した。60年代のマーベル・コミックス作品のパスティーシュで[276]、後に一般的になるスタン・リーパロディの先駆けだったが[277]、ムーア自身が生み出したシリアスでダークなスーパーヒーロー像の全盛期でもあり、こうした路線はファンの支持を得られなかった[274][278]。ムーアは後にこう語っている。… 私がいなかった間にコミック読者がどれほど変わったか気づいた。突然、読者の大半が読みたがっているのはページ全体がピンナップ風になったストーリー皆無のやつだと思えてきた。そこで、そういうマーケットに向けてまともな作品を書くことができるか純粋に試してみようと思った
[279]
ムーアは13歳から15歳向けの、平均よりはましな作品
の執筆を始めた。『スポーン』の派生作『バイオレーター』(1994年)、『バイオレーターvsバドロック』(1995年)、『スポーン: ブラッド・フュード』(1995年)はその例である[280]。これらの作品は評者によってバカバカしいエクスプロイテーション・コミックでも風格を保っている
とされることもあれば[281]、[当時の読者には] ムーアの感覚が鈍ったように見えたことだろう
という評価もある[282]。そうして収入を確保するかたわら、非商業的な『フロム・ヘル』と Lost Girls の執筆を続けた。本人の言によると交響楽団に所属しながら、週末にだけバブルガム・バンドで演奏するようなもの
だった[282][283]。
1995年にはジム・リーの月刊シリーズ『WILDC.A.T.S』の原作を任され、第21号から14号にわたって書き続けた[284]。しかし自身でもその出来に満足しておらず、ファンの好みを推し量りすぎて新しいものを書けなかったと言っている[285][注 34]。ある評者は、絶頂期にメインストリームを離れるという決断によって、1980年代のムーアが体現していたポップなエネルギーが霧散したと論じた[287]。
次に請け負ったロブ・ライフェルドの『スプリーム』(1996年)はスーパーマンの亜流でしかないキャラクターだった[288][289]。ムーアはここで、キャリアの初期で手掛けたスーパーヒーロー作品のように徹底した再構築を行った。しかしリアリズムを強調する代わりに、1960年代のいわゆる「アメリカン・コミックスのシルバーエイジ」期の牧歌的なスーパーマンをそっくり真似た[277][289][290]。その上でメタな視点を取り入れ、アメリカのスーパーヒーロー神話への回帰と、当時のコミックシーンの批評を行ったのである[289][291]。『スプリーム』はムーアにとって数年ぶりに内容と売上の両面で成功をおさめた[292]。1997年には『スプリーム』と『フロム・ヘル』の両作によってアイズナー賞原作者部門を受賞した。エアーズはこれがムーアにとって商業性と作家性の両立を果たした象徴的な出来事だったと書いている[293]。
アメリカズ・ベスト・コミックス: 1999年–2008年
[編集]ロブ・ライフェルドのスタジオが経営不振によって出版活動を中止すると、ムーアは仕事を失った共作者のために複数の新シリーズを企画し始めた[294]。イメージ共同経営者の一人ジム・リーがそれらを引き受け、自身のワイルドストーム社にムーアが統括するレーベルアメリカズ・ベスト・コミックス(ABC) を設立した。しかしその直後、リーはABCを含むワイルドストーム社をDCコミックスに身売りした。このときリーは事情を説明するため自らイングランドに赴き、ムーアがDCと直接やり取りしなくて済むようにすると請け合った[295]。DCによる買収の目的は、ワイルドストームが保有するIPやデジタル彩色技術のみならず、ムーアを再び確保するところにあったと見る向きがある。少なくともムーア自身はそう信じていた[295][296]。間接的にであれDCと再び関わるのは本意ではなかったが、多くの同業者を巻き込んでいたため後戻りはできず、ABCは計画通り出版を開始することになった[297]。
ムーアがABCでやろうとしたのは、スーパーマンがデビューした1930年代以前の作品から抽出してきたエッセンスによってレトロであると同時にアヴァンギャルドな何か
を作り出し、コミックの想像力の源泉と可能性を指し示すことだった[299]。ABCから最初に刊行された『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(1999年。以下「リーグ」)[注 35]はヴィクトリア朝時代の冒険小説の世界に「アベンジャーズ」のようなヒーローチームのアイディアを適用した作品だった[300]。Tom Strong(1999–2006年)はドック・サヴェジのようなパルプ小説ヒーローをモデルにした作品で[301]、過去一世紀にわたるトム・ストロングの冒険はコミックの歴史へのオマージュでもある[301]。『トップ10』(1999年)[注 36]は住人全員がスーパーヒーロー風の能力を持っている世界の刑事ドラマで[301][302]、ポップカルチャーからの引用やギャグがストーリーと調和した熟練の一作だと評されている[303]。アンソロジー誌 Tomorrow Stories(1999–2002年) にはパルプ・フィクション風の「コブウェブ」や『MAD』流の風刺作「ファースト・アメリカン」などが掲載された[304][305]。
『プロメテア』(1999年)[注 37]では女子大生の主人公が「想像力の具現化」である女神プロメテアの依代となる。一見すると神話的な女性ヒーローワンダーウーマンへのオマージュのようだが[301]、ストーリーは意外な展開をたどり、主人公はタロットやカバラのような神秘学の象徴体系を通じて世界の成り立ちを学んでいく[263][306]。観念的な内容に合わせて視覚表現の実験が数多く行われている[263][307]。この時期のほかの作品が総じて知的遊戯[308]
平均より知的な感性による、競争力十分のジャンル作品[309]
などと呼ばれるのに対し、本作には神秘学や芸術論のようなムーアの個人的テーマが色濃く出ている[310]。
再びインディペンデントへ: 2000年代–
[編集]DC社はムーアの執筆活動に干渉しないと約束していたが、他社との摩擦や訴訟を引き起こしかねない内容の号を差し止めることがあった[311][312]。そのほか自身の望まない形で作品を利用されたことへの不満もあり、ムーアは再びメインストリーム・コミック界と絶縁することを決めた[313]。2005年にはコミックというメディアは愛している。コミック業界は大体において反吐が出る
と語っている[314]。
ムーアはワイルドストーム社でABCを設立するとき、共作者が手にする金額が多くなるように、多少の原稿料上乗せと引き換えに大半の作品の著作権を手放していた。ムーアはジム・リーを信頼して自作を預けたのだが、その後の買収劇により、再びそれらをDCに取得される成り行きになった[315][316]。ABC作品でムーアが書き続けたのは「リーグ」シリーズだけだった[注 38]。当初はスーパーヒーロー・コミックの変種かスチームパンク活劇として始まった「リーグ」だが、作中の時代が現代に近づくにつれて芸術と現実世界の関係を考察する個人的な作品になっていった[317][318]。
複数のシリーズを並行して書いていたABC期はムーアのキャリアの中でも多産な時期だったが、2000年代半ば以降はコミックの執筆量が目に見えて減少した[320]。ムーアの精力は小説執筆や神秘学関連のパフォーマンス公演のほか、マッドラブを復活させて2010年に発刊した21世紀最初のアングラ雑誌
こと Dodgem Logic(→ドッジェム・ロジック[注 39])に注がれていた[322][323]。同誌はムーアの地元ノーサンプトンを地盤とする隔月刊誌で[323][324]、1960年代のアンダーグラウンド文化を受け継ぐものだった[325]。ムーアは編集思想について「中央集権的な権威が力を失った今、個人主義的な文化をどう構築するか」「グローバル時代に地域をどうエンパワーするか」「来るべき企業主義文化の崩壊にどう対応するか」といった問題意識を挙げている[321]。誌面では地域のコンサート情報や節約レシピと並んで[321]、ゲリラ・ガーデニングやスクワッティングのような政治的行為のハウトゥ記事が載せられていた[321]。売り上げは地域貢献に充てられた[326]。同誌は8号が発行された後、資金難により2011年4月に廃刊された[326]。
災害支援のためのチャリティ出版や、社会運動の資金調達のための出版物に寄稿することもあった[327]。2001年、アメリカ同時多発テロ事件の翌月にマーベル・コミックスが刊行した Heroes に This is Information[注 40]を書いた[327][328][注 41]。2013年には反グローバリゼーションの占拠運動に賛同し、運動の資金調達のために刊行された『オキュパイ・コミックス』にカウンターカルチャーとしてのコミック論を寄稿した[330][331]。2018年、前年に起きたグレンフェル・タワー火災の被災者へのチャリティとして刊行されたコミック・アンソロジー 24 Panels に詩を提供した[327][332]。
この時期、スプラッター・ホラーで知られるニッチな出版社アヴァター・プレスがムーアの未発表原稿や散文作品のコミック化を行った[333]。2003年にはクトゥルフ神話関連作を集めたアンソロジー Yuggoth Cultures and Other Growths と、クトゥルフテーマの短編小説を原作とする「中庭」全2号が出た。翌年の A Hypothetical Lizard(→仮想の蜥蜴)全1号は世界幻想文学大賞にノミネートされた1980年代の中編小説が元になっている[334]。2012年には全10号のコミック Fashion Beast [注 42]が刊行された。原作はムーアが1985年に書いた未発表の映画脚本で[335]、音楽プロデューサーのマルコム・マクラーレンから依頼されたものである。クリスチャン・ディオールの生涯をモデルにして異性装と『美女と野獣』を組み合わせた作品の企画だった[335][336][337]。
原作者としての活動末期にはもっぱらホラー作品に注力した[338]。DC離脱によって税金の支払いに窮したムーアはアヴァターからのオファーを受け[339]、「中庭」の作画を手掛けたジェイセン・バロウズと組んでコミックオリジナルのクトゥルフ作品『ネオノミコン』(全4号、2010–2011年)[340]、『プロビデンス』(全12号、2015–2017年)を出した[341][342]。ジャクソン・エアーズはこれらの作品を… そこで描かれる暴力と荒廃感には、ムーアが考える現代文化の恐るべき実相が込められている
と書き、ラヴクラフトのパルプ・フィクションからジャンル小説やコミックに受け継がれた人種差別性やセクシュアリティ観の系譜を批評的に描き出していると論じた[343]。2016年4月からはアヴァターのホラー・アンソロジー誌 Cinema Purgatorio(→煉獄のシネマ)のキュレーションを務めはじめ、自身でもケヴィン・オニールと組んで同題の巻頭連載を寄稿した[344][345]。主人公が悪夢のような映画館に座り、どこかねじれた古い映画を続けざまに見せられるという体の作品で[346]、軽いパロディ連作のようだが、やはり娯楽産業におけるクリエイターの苦悩や、創作の意味についての考察が読み取れる[333]。
コミック界引退へ
[編集]ムーアがメインストリーム・コミックに再復帰する見込みがなくなるにつれて、それまでムーアの意向を慮っていたDC社も『ウォッチメン』の著作権を行使することをためらわなくなっていった[注 43][348]。2009年の映画化や、2012年の前日譚シリーズ『ビフォア・ウォッチメン』の刊行はムーアの意に反するもので、ファンや業界関係者の間でも賛否は分かれた[347]。2017年には『ドゥームズデイ・クロック』によって『ウォッチメン』が内容的にもDC社の作品世界に組み込まれた[347][348]。
ムーアのコミックに対する毒舌は拡大していった[212]。2010年には「出版社が過去作のスピンオフを出したがるのは創造性の欠如」「業界に大した才能がいないのかもしれない」という趣旨の発言を行い[212][349]、DCやマーベルで原作者として活動するジェイソン・アーロンから「現代の作品を読んでもいないムーアの言葉に耳を貸すのは止めよう」と批判されるなど、現役クリエイターから反発を招いた[350][351]。ムーアは業界内で尊敬と同情を寄せられてきたが、潮目は変わり始めた[352]。2013年には、前世紀に子供の読み物として作られたヒーロー物が映画を通じて広い年齢層に受け入れられている文化状況を複雑極まる現代からの逃避
だと発言し、ファンコミュニティからの怒りを買った[15][353]。ムーアはスーパーヒーロー・フィクションそのものに幻滅しており、自身の幼少期にそうだったように奇想天外な内容で子供の想像力をかきたてる物としては認められるが、大人が卒業せずにいるのは不健全な逃避だと主張した[354]。
同じく2013年、ムーア作品に人種的ステレオタイプやミソジニー的な表現が見られるとしてオンラインの批判が寄せられた[355]。ウェブメディアが反論の場を設けると、ムーアは自身の立場を強く防衛し、批判者やコミック関係者への逆批判を行った[356][357]。さらに、以後同様の問題が起きないようにインタビューや公の発言を制限する、特にコミックに関わること
については発言しない、と述べた[358][355][359]。
2016年9月、執筆に10年以上を費やした1000ページを超える長編小説 Jerusalem(→エルサレム)を刊行した[55][354]。生地ノーサンプトンの歴史、創作と想像力、魔術と超越性といった近年のテーマの集大成だった[360]。それとともに、新しい分野に挑戦するため「リーグ」シリーズの完結を最後にコミック原作から引退すると宣言した[361]。ポップカルチャーの歴史を通覧する大河長編となった「リーグ」最終作 Tempest では、メディア大企業によって管理されるスーパーヒーロー・キャラクターが偉大な英雄という概念そのもののディストピア的な終着点
として描かれていた[362]。同作は2019年に完結し[363]、それ以降は予告通りコミック作品を発表していない[364][365]。
2021年、5部作の長編ファンタジー小説 Long London などをブルームズベリーから刊行予定であることが発表された[365]。
執筆以外の活動
[編集]1994年、神秘学の先達スティーヴ・ムーアとともに The Moon and Serpent Grand Egyptian Theatre of Marvels(→月と蛇の大エジプト魔術団)を結成した。ランス・パーキンによると「薔薇十字団やフリーメイソンのパロディのような架空の秘術結社」であり[368]、後に二人は神秘学のハウトゥ本 The Moon and Serpent Bumper Book of Magic(→月と蛇の魔術大図鑑)も共作している[369][370]。ムーアは同年7月に団体名と同題で音楽や詩の朗読からなるパフォーマンス・アート公演を行った[368]。1995年の公演 The Birth Caul(→誕生の羊膜[注 44])では母親の死や人間の意識活動が題材とされた[170][371]。一種の魔術儀式として構成されており、ムーアの朗読が呪文の詠唱のような効果を生んでいた[372]。同様のスポークン・ワード公演はその後も断続的に行われた[注 45]。公演はいずれも開催地や開催日をコンテクストに取り込んだ一回限りの内容だが[373]、すべてCD化されており[229]、一部はエディ・キャンベルによってコミック化されてトップシェルフから刊行された[374][375][376]。
2010年代には写真家ミッチ・ジェンキンズとともに低予算の短編映画を撮り始めた。短編数編を再構成した Show Pieces は英国の映画祭で公開された[377]。トム・バークが主演し、ムーアが脚本・音楽・出演を兼ねた長編 The Show [378]は2020年10月にシッチェス・カタロニア国際映画祭で上映され[379][380]、翌年8月には英米で劇場公開とデジタル配信が行われた[381]。探偵らしき主人公がノーサンプトンを訪れる一種のフィルム・ノワールだが、奇矯な人物が横行する昼の街と、悪夢と死後の世界が入り混じった夜の街の間でシュルレアルなストーリーが展開される[382]。映画の小道具としてムーアが発案したインタラクティブ・コミックのアイディアは、実際のアプリ開発プロジェクトへと発展した[26][383][384]。2015年にリリースされた Electricomics はコミック制作ツールキットと頒布プラットフォームが一体化したオープンソースアプリで、ムーアもそれを用いて作品を発表している[385][386][注 46]。
2022年から、著名な作家・製作者・映画監督が講師となるeラーニングコース「BBCマエストロ」で創作論を教えている[387][388][389]。
作風
[編集]テーマ
[編集]経歴が長く活動範囲も広く、多作で無節操
(ダグラス・ウォーク)といわれるムーアだが[390]、ジャクソン・エアーズはムーア作品に共通するテーマとして歴史や文化の形成、権力と統治、知覚と意識、性と精神の解放などを挙げている[391]。
リヴィジョニズムと間テクスト性
[編集]常套的な表現やジャンルの慣習を覆す作品が多く[392]、「リヴィジョニズム」の作風だとされる[393]。フィクションにおけるリヴィジョニズムとは、既存の作品やジャンルに大きな改作を行い、原典の持つ意味や隠れたイデオロギーを批評的に描いて新しい読み方を提示することをいう[10]。ムーアのスーパーヒーロー作品の多くはジャンルの基盤となるイデオロギーを問い直すものだった[394]。80年代の作品はヒーローの自警行為にともなう暴力性や全体主義に光を当て、作中人物や読者の動機が性的対象化に支えられていることを指摘した[8]。「ヒーロー=敬意の対象」という前提はムーアによって過去のものになった[185]。しかし自身の影響によってインモラルなアンチヒーローや暴力を特徴とする「グリム・アンド・グリッティ」が流行すると[395]、そのようなヒーロー像へのさらなるリヴィジョニズムとしてキッチュとイノセンス
を打ち出している[396]。また別に、児童文学やホラーのようなジャンルから性的な文脈を暴き出した作品もある[397]。
ジャンル脱構築の性格が明らかな作品以外にも、古典文学からキャラクターを借用した「リーグ」のように間テクスト性の強い作品が多い[398]。文芸翻訳者アンナリーザ・ディ・リッド[399]はムーアの作品に引用句、引喩、パロディ、… 良く知られた作品やパターンの再検討
という形で常に間テクスト性が見られると述べている[400]。エアーズは既存のテクストを取り上げて作り変え、新鮮で力強く、なおかつ原典と豊かに響き合う何かを生み出す
才能を持つ熟練の翻案家
と書き[401]、メディア横断的な参照が行われる現代ポップカルチャーを先取りしていたと論じた[402]。
ランス・パーキンはムーアの間テクスト性の源流をコミック原体験に求め、スーパーヒーロー・コミックが過去の物語の絶えざる語り直しであり、それ自体の歴史や神話を題材とする自己完結的なメディアだと指摘した[403]。パーキンによるとムーアはその手法を押し進め、コミックにとどまらず小説やジャーナリズムのようなあらゆるナラティヴを包含していったのだという[403]。英文学者の福原俊平は、その間テクスト的な運動が物語が持つ可能性に対するムーアの信念の反映
であり、コミックの形式を変革するため、また作品に時代と地域を超えた普遍性
を与えるために活用されていると論じた[404]。
社会性・政治性
[編集]ディ・リッドによると、ムーア作品は物語そのものについてのメタ的な考察であると同時に現実社会を分析する手段でもある[406]。ポップカルチャー研究者コーリー・クリークマーは、ムーアのスーパーヒーロー・ジャンルへの関心にもしヒーローが実在したらどんな政治的機能を果たすか?
という社会的な問いがあったと述べている[396]。
ムーアの作品は政治的な主張が強く、その点で一般コミックファンの好みとは逆行している[407]。エアーズは作品にアナキスト的、左派リバタリアン的
な価値観が込められているとしている[408]。反格差を掲げる占拠運動の刊行物に寄稿した論説(2012年)では、コミックを民衆による政治表現の伝統に連なるものだとしている[409]。支配者、神、制度に対する健全な懐疑主義に根差した偉大な伝統 … 真に大衆的な芸術形式であり … 正しく使われれば社会変革の道具としてこの上ない力を発揮することできる[330]
。その本来の姿が、1930年代に成立したコミックブック出版によってエンターテインメント産業の一部品[330]
に堕したというのがムーアの主張だった[409][410]。とはいえ、ムーアの関心は読者に明快な思想を提示することではなく、あいまいで矛盾をはらんだ領域に向かっている[408]。ムーア自身、代表作『ウォッチメン』のテーマでもっとも興味深いのはこの世界が多くのエゴ、欲求や欲望、偶然で無原則な出来事の絡み合いからなるという世界観
であり、それが一つの政治的声明だと述べている[411]。
時間と歴史
[編集]ムーアは自身の個人的な大テーマが時間だと述べている[412]。作品ではコミックで時間を表現するための実験が様々に行われており[412]、『ウォッチメン』では映画でいうクロスカッティングや文学でいう意識の流れに通じる非線形の時間表現が試みられている[413]。ムーアはそこで、異なる時空に属するコマが同時に目に入るコミックの特性を巧みに利用して、ほかのメディアよりも自然な感覚を作り出している[413]。
時間への関心は歴史のテーマとも結びついている[391]。
[…] 我々一人一人の存在価値、我々の生の意義をわずかにでも実感するには、それらの生がどこから来たのか、我々がどうやってここにたどり着いたのかを、個人のレベルであっても、あるいは文化や国家、旧石器時代にまで続く歴史のすべてであったとしても、必ず知らなければならない。私はそういうことに惹きつけられる。—アラン・ムーア(“The Dark Side of the Moore: An Interview”、2003年)[413]
ムーアの時間論は物理学の「ブロック宇宙論」に影響されている。それによると、時空は一つの不変な連続体であって、過去はその中に永久に残っており、未来もすでに確定したものとして存在する。人間の認識だけがその「ブロック」の中を移動している[414]。『ウォッチメン』のDr.マンハッタンはこの時空観を体現したキャラクターで、過去・現在・未来を同時に知覚する能力を持っている[413]。未来が歴史の中であらかじめ定められているという視点は決定論とニヒリズムに傾きうるものだが、マンハッタンは最終的に、混沌の中から偶発的に人間存在が発生するプロセスの全体に意味を見出す[415]。時空的な全体性の感覚が生に意味を与える可能性となるというアイディアはそれ以降の作品でも扱われている[415]。
性愛とレイプ
[編集]ディ・リッドはムーア作品の多くが性愛から衝動を受けていると指摘し、エロティックな感覚に満ちたパンセクシュアルな物語世界
だと呼んでいる[416]。ディ・リッドによると、ムーアは反復的で自動的な
ポルノグラフィの形式を借りた作品で性が持つ力を取り扱い[417]、『プロメテア』のユートピアや Lost Girls の自己発見に代表されるように、個人の達成と共同性の実現というアナキズムの理想をそこに表現している[418]。しかしムーア作品で描かれる性はきれいなものばかりではない[419]。
フェミニスト批評家はムーアがフェミニズム思想を持っていると大勢において認めているが[420]、一方で女性に対するレイプがムーア作品に頻出することもまたよく批判されている[421][422]。80年代の『バットマン: キリングジョーク』では歴史の長い女性キャラクターが性的に辱められ、暴力の後遺症で下半身不随になる[423]。その衝撃とムーアの高名が相まって、同作はスーパーヒーロー・ジャンルにおいて女性への暴力が「シリアスさ、深み」として受け取られる風潮の一因となった[424]。『キリングジョーク』はフェミニストから批判を集めており[425]、ムーア自身も後に「暴力描写が作品に何の価値も与えていない」失敗作だと発言している[426]。クトゥルフ神話の性的側面を扱った2010年代の『ネオノミコン』でも、主人公が怪物に妊娠させられることによってある種の解放を得るストーリーが論議を呼んだ[427]。ムーア自身によると、生地ノーサンプトンの「バロウズ」地区は非常に治安が悪く、身近に多くのレイプ被害者がおり、レイプは現実の一部であって正面から取り扱う価値がある[354]。しかしレイプをエロティックなものとしては扱わない、物語を刺激的にするためだけにはレイプを用いない、被害者に見せられないようなものは書いていない、というのだった[354]。実際、全編で性器と性行為を描いているポルノ作品 Lost Girls(2006年刊)でもレイプは1シーンでしか登場させず、それも画面外の描写にとどめている[354]。
技法
[編集]形式と構成
[編集]初期のコミックストリップから後年の作品に至るまでプロットの緻密さで知られており[428]、結末が冒頭とつながる円環的な構成が多い[429]。形式上のシンメトリーへのこだわりも強く[127][430]、冒頭からの各ページが結末からの各ページの鏡像となるようにコマ割りされた作品もある[431][432]。ダグラス・ウォークによると遊びのない構成は読んでいて息が詰まるほどだが、ジャンルや物語構造の定型を覆して読者の予想を裏切っていく作風がそれを緩和させているという[430]。
コマの中には膨大な情報が描きこまれている[435]。『ウォッチメン』の冒頭第1コマは「血に染まった街路にスマイリーバッジが落ちている」というだけの構図だが、原作スクリプトでそのコマの描写は日本語にして1500字を超えていた[436]。丸いバッジに飛び散った血は真夜中の5分前を指す時計の針を形作っている。これは『ウォッチメン』全編に散りばめられた終末時計のメタファーの一つ目である[437]。時計やカウントダウンのイメージは作品の随所に偶然のように置かれており、バッジそのものも後のシーンで再登場する[437]。そのような、多くのイメージが織りなすパターンや偶然の絡み合いによる多重構造のストーリーはムーアが好んで用いたものだった[438]。映画評論家の柳下毅一郎は、コマの端に描かれた人物や路上の落書きまでが役割を持つ『ウォッチメン』について現実には無意味な人間などいないし、無駄なエピソードなどない。すべての人が物語の主人公だ。それをコミックにおいて実現したのがムーアの多層的ストーリーテリングだった
と書いている[39]。
絵と言葉で相反する内容、もしくは一見無関係な内容を伝え、それによって重層的な意味を生み出すアイロニックな対位
は特徴的な技法である[435]。『Vフォー・ヴェンデッタ』の冒頭で、王族の最新の装いを伝えるラジオ放送が、娼婦として街に立つために身支度する少女の絵と対比されるシーンは一例である[439](当時のコミックでは絵で描かれた内容をそのままなぞるだけの文章が一般的だった[440])。
コマ割り
[編集]ほとんどのページが3×3に9等分されている『ウォッチメン』を始め、格子状のコマ割りを用いた作品が多い[441]。米国コミックのコマの形や大きさは1970年代から多様化しており、その中では前時代的にも見える方式だが[442]、ムーアは定型的なフォーマットを通じてリズムを生み出したり[443]、シンメトリーや破調を巧みに利用して語りの効果を作り出した[431][444][445][446]。ムーアの格子状コマ割りは現在まで多くの作家によって引用されている[447]。コマ間の移動ではコントラストや反復が強く意識されている[435]。次のシーンに移るタイミングでは、読者のストーリーへの没入が途切れないように、前のシーンのセリフの一部を次のシーンにオーバーラップさせたり、図像や色彩を引き継がせたりといったテクニックが使われている[448][449](ただしクリシェ化を避けるため後年の作品では多用されていない[450])。
ストーリー上の傾向
[編集]『マーベルマン』、『スワンプシング』、『スプリーム』など、既存のコミック作品の原作を請け負ったときムーアが何度も取った手段は過去の経緯を一掃し、主人公を記憶喪失にし、それまで書かれたあらゆることが嘘だったと明かす[451]
ちゃぶ台返し[452]
である[451]。そうすることで過去の歴史に縛られずにキャラクターをリブートするのである。この方法はコミック界でごく一般的に使われるようになっているが、80年代当時は新鮮だった[453]。
ムーアは1984年のインタビューにおいて、小池一夫と小島剛夕による日本漫画『子連れ狼』[注 47]をストーリーは非常に単純だが、語り方によって大きな重みが生まれている
と評し、自身の作風にも通じるところがあると語っている。物語をエスカレートさせて大きな事件を連発するより、状況やキャラクターの描写を積み上げてから小さな事件を起こす方が効果的なのだという[455]。
原作執筆のスタイル
[編集]アメリカン・コミックのスクリプト(原作脚本)は出版社や書き手によって形式が異なるが、ムーアは長大細密な散文を書くことで知られている[456]。通常の5–6倍の分量があり[281]、コマ割りや各コマの構図、ディテールが事細かに指示されている[457]。会話体で書かれたスクリプトには作画家が参考にするための背景知識や演出意図までもが盛り込まれている[458][457][459][460]。DCコミックスでの担当編集者カレン・バーガーは次のように語っている。
すべてのコマが隅から隅まで絵として描写されていた。アランは確か、挫折した作画家だったはずだ。… 作画家になろうとしてこの世界に入ったので、原作のアプローチもまるで絵を描いているかのようだった。… その上で、やはり優れた作家だったから、アートディレクションの文章なのに読んで面白かった。—カレン・バーガー(2012年)[461]
ポエトリー・リーディングの経験から文章のリズムや強勢を重視しており[462]、自ら音読しながら書いている[463]。重要なセリフには弱強格の韻律が用いられることがある[464][465]。キャリア初期には一人芝居をしながら登場人物の所作や声色を想像するメソッド演技法
を行っていた[466][467]。
ムーアは 2000 AD 時代に多くの相手と短編を共作する経験を通じて作画家が描きたいものを的確に提示する能力
を身に着けたと言われている[468]。想像力の相乗効果を生むため、共作者には原作から自由に逸脱するよう勧めてもいる[469]。原作者と作画家が主導権や貢献度を巡って争うことは珍しくないが[470]、ムーアは自身のコミック作品が作画家との共同制作物であることを常に強調しており[471]、共作者との関係は概して円満なものである[470]。
影響
[編集]時代に即した新しい形式を生み出すには広範な知識が不可欠だと語っており[472]、古典演劇から現代の実験小説やジャンル・フィクションまで読書傾向は幅広い[473]。影響を受けた作家にはウィリアム・S・バロウズらビートニク作家[474]、ウィリアム・ブレイク[475][注 48]、トマス・ピンチョン[474]、イアン・シンクレア[478]、マイケル・ムアコックらニューウェーヴSF作家、クライヴ・バーカーらホラー作家[479]がいる。
コミック作品からはあまり影響を受けていないと自ら語っているが[480]、1984年のインタビューでは例外として同時代のフランク・ミラー、American Flagg!、『ラブ・アンド・ロケッツ』を挙げている[481]。またティム・キャラハンによれば、コミックのストーリーテリング技法を開拓したウィル・アイズナーからの影響は別格として挙げられる。『MAD』誌で多くのパロディ作品を書いていたハーヴェイ・カーツマンとウォーリー・ウッドからは、スーパーヒーローの脱構築というアイディアだけでなく、特徴的な均等分割のコマ割りに影響が見られるという[482]。そのほかにはジャック・カービーや[483]、ブライアン・タルボットの名が挙げられることがある[484]。
ムーアの魔術思想はベースとなるアレイスター・クロウリーの宇宙論にロバート・アントン・ウィルソンやオースティン・オスマン・スパーからの影響を加えたものである[485]。
評価
[編集]社会的評価
[編集]幅広い題材の作品で批評家から高く評価されており[415]、複数の評者によって史上最高の原作者と呼ばれている[486]。コーリー・クリークマーは2004年に「コミック界で比類ない地位を占めている」と書いた[487]。ウェブメディアCBRはコミック原作者の影響力を論評する2022年の記事でコミックの歴史上もっとも才能ある原作者
とした[488]。コミック史家ジョージ・クーリーはこの自由人をコミックブック史上最高の原作者と呼んでは過小評価だ
と書いた[489]。批評家ダグラス・ウォークはこう書いている。
ムーアは誰の異論も受けずにコミックの殿堂入りを果たした。英語圏のコミックを支える柱石の一つであり、同格の存在はジャック・カービー、ウィル・アイズナー、ハーヴェイ・カーツマンなどほとんどいない。殿堂の中でも突出して異質な存在だ。ほかの柱はいずれも作画家か、そうでなければたいてい原作兼任なのだから。ムーアはほぼ原作専門だが、その精妙巧緻なスクリプトは必ず作画家の長所が生きるように書かれている。… つまりムーアはコミック創作理論の百般に通じているのだ。漫画家が一人でぜんぶ描く方が原作と作画を分担するより優れたやり方だ、などという主張を誰も口にしないのは、ムーアの著作目録が立ちはだかっているためだ。—ダグラス・ウォーク(2007年)[490]
一般紙誌でも賛辞を寄せられている[364]。英インディペンデント紙日曜版は2006年の Lost Girls 出版時に「英語圏における最初の偉大な現代コミック作家」と紹介し[491]、ガーディアン紙は2019年の引退に際してもっとも重要な英語のフィクション作家のひとり
とした[16]。2005年に『タイム』誌が選出した「1923年から現在までの小説100選」には漫画作品として唯一『ウォッチメン』が挙げられた[492][493]。
実作者の評を見ると、原作者・映画脚本家のJ・マイケル・ストラジンスキーはムーアを我々の中で一番上手い
と言っている[494]。ホラー小説家ラムジー・キャンベルはムーアの科白のセンス、簡潔明瞭なストーリーテリングの才能、ペース配分とタイミングの確かな感覚
がコミック文化の最良の部分を受け継ぐものだと書いた[495]。日本の直木賞作家真藤順丈はストーリーテリングが神業の域
と書いており[496]、ホラー小説家澤村伊智もお話が滅茶苦茶うまい
としている[497]。DCコミックスでの担当編集者カレン・バーガーは[作品に] 私が手を入れる部分はなかった。… [クリエイターには] アランとそれ以外しかいない。アランは一人だけ別の階級にいた
と語った[498]。その一方で原作者グラント・モリソンは、ムーア作品は技巧が勝ち過ぎて自己顕示欲さえ感じると述べている[499]。またコミック界にはムーアのジャンル脱構築を歓迎しない者もいた[500]。ムーアより先にDCとマーベルで人気作家となっていた漫画家ジョン・バーンは、『ウォッチメン』におけるスーパーヒーローの描写が否定的、虚無的すぎる
と述べている。また歴史あるヒーローキャラクターが暴力によって障害を負う『キリングジョーク』を自己満足のマスターベーション
と呼んだ[501]。
学問としてのコミックス・スタディーズでももっとも頻繁に言及されるクリエイターのひとりであり、そもそもコミックが学術研究に値するという考えが一般化したのは『ウォッチメン』などの功績だとみなされている[502]。しかし分野の歴史が浅いこともあり、コミック研究のカノン(正典、名作)としての位置づけが定まっているとは言えない[503]。2000年代以降の再評価では、ムーアが独自のスタイルを持つ手練れの作家
に過ぎず、それまでの偶像化が行き過ぎだったという指摘も現れた[504]。クリークマーは、コミックというメディアがムーアによって芸術的に「高められた」というファンの見方は素朴すぎるものだと述べている[505]。バート・ビーティとベンジャミン・ウーはムーアが中程度の教養
の象徴だと述べ、良質のコミック作品に過ぎないものがコミックの進歩の上限
として扱われてきたと主張した[506]。また同時期にムーア作品におけるレイシズムやミソジニーの扱いに対する批判も目立ってきた[348]。
米国コミック史における位置づけ
[編集]ムーアのキャリアはコミック界におけるオーサーシップ(著者性)観の変遷と密接に関わっている[507]。米国コミックの伝統では作品のオーサーシップを担うのは出版社であり、クリエイターは制作のために雇われるだけの存在だった。コミックブックが読み捨ての娯楽だという一般の見方もその状況を反映していた[508]。しかし1970年代に至るとコミックファンダムが成熟し、ブランドやキャラクターではなく個々の作家に注目する読者も現れ始めた[509]。また業界内でも制作者の権利拡大を訴える労働運動が起こった[509]。これらが相まって個人のヴィジョンと感性
をオーサーシップの中心におく作家主義が生まれた[509][注 49]。読者の嗜好の変化を知ったメインストリーム出版社は、熱心なファンの多い専門店マーケット向けにスター作家を擁立するようになった。その最初の世代がムーアやフランク・ミラーらであり[511][512]、中でもムーアは作画家ではなく原作者に注目を集めさせたことで特筆される[513][514]。
ムーアはキャリアを通して、コミックを芸術作品として認知させようと試みるとともに、出版社に対してクリエイターの権利を主張し続けた[515]。ムーアは前の世代のクリエイターと異なり『ウォッチメン』を始めとするDC社のベストセラーから多額の印税を得ることができた[516]。しかし自作の著作権は取り戻せず、そのことに遺恨を抱いていた(同時期にミラーやニール・ゲイマンなどはDCと契約を結び直してオリジナル作品の著作権を獲得している)[196][517]。人気米国アニメ『ザ・シンプソンズ』に本人役で出演し、著作権をめぐるDCとの確執についてのジョークを演じたこともある[518][注 50]。このような闘争は作品にも反映されており、ジャクソン・エアーズによるとムーアは常に「企業化されたエンターテインメント/芸術家の個人的ヴィジョン」のダイナミクスをテーマとしている[521]。ダグラス・ウォークはムーアが商業性と芸術性の合間を行くコミックの道行きの先導者
だと論じ、ポピュラーなコミックに文学性を持ち込んだこと、クリエイターを搾取する出版モデルと闘ったこと、身をもってコミック作品の価値を示したことを評価した[522]。
批判
[編集]ムーアの作品には人種差別的、異性愛規範的、女性嫌悪的な表現
があるにもかかわらず、ある種の批評と解釈されて見過ごされてきたという主張がある[523]。ただし、数多くの作品の中でそれらのテーマの描き方が一貫しているわけではなく、裏にあるムーアの思想を単純に図式化するのは難しい[524][525]。元来ムーアは、コミックに性的・人種的・社会的マイノリティの描写を取り入れることでは先駆的な立場にあった[8]。ムーアの批判者であるジャーナリストのローラ・スネッドンも、ムーアが芸術、男女同権、フェミニズムなどで明確に女性を支持しており、コミック業界が抱える女性嫌悪と多様性欠如の問題を糾弾してきた
ことは認めている[526]。
ムーア作品で人種描写に関して批判されるのは The League of Extraordinary Gentlemen: Black Dossier(2007年)が代表である[523]。同作では、ヴィクトリア朝時代の黒人キャラクターであるゴリウォーグが(名前を変えて)登場する[421]。これはある観点では人種差別的な図像、ひいては人種差別思想に基づくメッセージ
を再生したことになる[523]。コミック研究者クレイグ・フィッシャーはムーア自身の人種差別意識に加えて西洋文化の中で人種差別的イメージが力を持ち続けていること
の露悪的な告発、そして「ステレオタイプの誇張したパロディ」という多面的な意味があるのではないかと書いている[421]。
ジャクソン・エアーズの考察によると、ムーアの作品は基本的にリベラルな傾向が強く、明確に人種差別批判を意図して書かれている作品もある[527]。ナチズムを継承した人種主義的な独裁政権が敵役となる『Vフォー・ヴェンデッタ』や[527]、スーパーヒーロー神話と白人優越主義の神話を結び付けて再考した『ウォッチメン』はその例である[528]。しかし『ヴェンデッタ』が完全に白人主人公たちのドラマとして描かれ、迫害される当の少数者が不在であるように、実際の描写が逆の効果を生む部分があるのだという[527]。性的指向の描写についても同様で、ムーア自身はクィアへの支援者として出版・執筆活動を行っている[529][397]。しかしエアーズによると、『ウォッチメン』にはスーパーヒーロー・ジャンルが病的なクィアネスや暴力性の産物であるかのような描写が見られ、やはり異性愛規範を強化するような読み方ができる[530]。
受賞
[編集]アメリカコミック界の主要な賞であるアイズナー賞とハーベイ賞、それらの前身であるカービー賞[531]は数多く受賞している。以下のリストを参照のこと。
年 | 部門 | 対象 | 備考 |
---|---|---|---|
1985 | 原作者 | 『スワンプシング』 | [532] |
1985 | 単一号 | 『スワンプシング・アニュアル』第2号(ジョン・タトルベン、スティーヴ・ビセットとともに) | [532] |
1985 | 定期シリーズ | 『スワンプシング』(ジョン・タトルベン、スティーヴ・ビセットとともに) | [532] |
1986 | 原作者 | 『スワンプシング』 | [533] |
1986 | 定期シリーズ | 『スワンプシング』(ジョン・タトルベン、スティーヴ・ビセットとともに) | [533] |
1986 | 新シリーズ | 『ミラクルマン』(複数の作画家とともに) | [533] |
1987 | 原作者 | 『ウォッチメン』 | [533] |
1987 | 定期シリーズ | 『スワンプシング』(ジョン・タトルベン、スティーヴ・ビセットとともに) | [533] |
1987 | 新シリーズ | 『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) | [533] |
1987 | 原作/作画チーム | 『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) | [533] |
年 | 部門 | 対象 | 備考 |
---|---|---|---|
1988 | 原作者 | 『ウォッチメン』 | [533] |
1988 | 原作/作画チーム | 『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) | [533] |
1988 | 限定シリーズ | 『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) | [533] |
1988 | 単行本 | 『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) | [533] |
1989 | 原作者 | 『バットマン: キリングジョーク』 | [533] |
1989 | 単行本 | 『バットマン: キリングジョーク』(ブライアン・ボランドとともに) | [533] |
1993 | 連載ストーリー | 「フロム・ヘル」(エディ・キャンベルとともに) | Taboo 連載版[534] |
1994 | 単行本(書き下ろし) | A Small Killing(オスカー・サラテとともに) | [534] |
1995 | 原作者 | 『フロム・ヘル』 | [534] |
1996 | 原作者 | 『フロム・ヘル』 | [534] |
1997 | 原作者 | 『フロム・ヘル』、『スプリーム』 | [534] |
2000 | 原作者 | 『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』、『プロメテア』、Tom Strong 、Tomorrow Stories 、『トップ10』 | [535] |
2000 | 単一号/単一話 | Tom Strong 第1号 "How Tom Strong Got Started"(クリス・スプラウス、アル・ゴードンとともに) | [535] |
2000 | 連載ストーリー | Tom Strong 第4–7号(クリス・スプラウス、アル・ゴードンらとともに) | [535] |
2000 | 新シリーズ | 『トップ10』(ジーン・ハー、ザンダー・キャノンとともに) | [535] |
2000 | 単行本(再録) | 『フロム・ヘル』(エディ・キャンベルとともに) | [535] |
2000 | アンソロジー | Tomorrow Stories(リック・ヴィーチ、ケヴィン・ノーラン、メリンダ・ゲビー、ジム・ベイキーとともに) | [535] |
2001 | 原作者 | 『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』、『プロメテア』、Tom Strong、Tomorrow Stories 、『トップ10』 | [535] |
2001 | 単一号/単一話 | 『プロメテア』第10号「セックス、スター、スネーク」(J・H・ウィリアムズIII、ミック・グレイとともに) | [535] |
2001 | 定期シリーズ | 『トップ10』(ジーン・ハー、ザンダー・キャノンとともに) | [535] |
2003 | 限定シリーズ | 『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(ケヴィン・オニールとともに) | [535] |
2004 | 原作者 | 『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』、『プロメテア』、Smax 、Tom Strong、Tom Strong's Terrific Tales | [535] |
2006 | 原作者 | 『プロメテア』、Top 10: The Forty-Niners | [535] |
2006 | 単行本(書き下ろし) | Top 10: The Forty-Niners(ジーン・ハーとともに) | [535] |
2006 | アーカイバル・コレクション(コミックブック) | Absolute Watchmen(デイヴ・ギボンズとともに) | [535] |
2014 | 殿堂 | 本人 | [536] |
年 | 部門 | 対象 | 備考 |
---|---|---|---|
1988 | 原作者 | 『ウォッチメン』 | [537] |
1988 | 定期/限定シリーズ | 『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) | [537] |
1988 | 単一号 | 『ウォッチメン』第9号(デイヴ・ギボンズとともに) | [537] |
1988 | 単行本 | 『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) | [537] |
1988 | 特別賞 Excellence in Presentation | 『ウォッチメン』(デイヴ・ギボンズとともに) | [537] |
1989 | 単一号 | 『バットマン:キリングジョーク』(ブライアン・ボランド、ジョン・ヒギンズとともに) | [537] |
1989 | 単行本 | 『バットマン:キリングジョーク』(ブライアン・ボランド、ジョン・ヒギンズとともに) | [537] |
1995 | 原作者 | 『フロム・ヘル』 | [537] |
1995 | 定期/限定シリーズ | 『フロム・ヘル』(エディ・キャンベルとともに) | [537] |
1996 | 原作者 | 『フロム・ヘル』 | [537] |
1999 | 原作者 | 『フロム・ヘル』、『スプリーム』ほか全著作 | [537] |
2000 | 原作者 | 『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』 | [537] |
2000 | 単行本(再録) | 『フロム・ヘル』(エディ・キャンベルとともに) | [537] |
2001 | 原作者 | 『プロメテア』 | [537] |
2003 | 原作者 | 『プロメテア』 | [537] |
2003 | 定期/限定シリーズ | 『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(ケヴィン・オニールとともに) | [537] |
2003 | 単一号 | 『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』第1号(ケヴィン・オニールとともに) | [537] |
2004 | 定期/限定シリーズ | 『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(ケヴィン・オニールとともに) | [537] |
サンディエゴ・コミコンが選出するインクポット賞は1985年に受賞した[538]。アメリカのコミック情報誌『コミックス・バイヤーズ・ガイド』のファン・アワードには何度もノミネートしており、1985–1987年、1999年、2000年には原作者部門で、1987年には作品部門(ウォッチメン)で、1988年にはオリジナル・グラフィックノベル/グラフィックアルバム部門(バットマン: キリングジョーク)で受賞している[539]。
英国のコミックファンによるイーグル賞を受けるのもたびたびで、1982年に『Vフォー・ヴェンデッタ』によって原作者部門と作品部門で受賞したのに始まり[540]、1986年には米国原作者と英国原作者のダブル受賞を果たした[541]。英国ナショナル・コミックス・アワードは2002年時点で殿堂入りしており、オールタイムベスト原作者にも選ばれている[542]。英米以外では、ドイツの漫画賞であるマックス・ウント・モーリッツ賞(2008年、全作品に対して)がある[543]。フランスではアングレーム国際漫画祭の最優秀作品賞海外アルバム部門を『ウォッチメン』(1989年)と『Vフォー・ヴェンデッタ』(1990年)に対して[544]、批評家賞を『フロム・ヘル』(2001年)に対して授与された[545]。そのほかスウェーデンのUrhunden賞を『ウォッチメン』で(1992年)[546]、スペインのHaxtur賞を『ウォッチメン』(1988年、長編作品部門)[547]と『スワンプシング』第5号(1989年、原作者部門)[548]で受賞している。
コミック賞以外にも、1988年には『ウォッチメン』がSFのヒューゴー賞をコミックとして初めて受賞し(1988年のみ置かれた「その他の形式」部門)[173][549]、同じくローカス賞にも選ばれた[550]。『Vフォー・ヴェンデッタ』は2006年にリバタリアンSFの古典を対象とするプロメテウス賞殿堂賞を与えられた[551]。1988年に小説 A Hypothetical Lizard が世界幻想文学大賞中編小説部門にノミネートされた[552]。国際ホラーギルド賞はグラフィック・ストーリー/イラストレーテッド・ナラティヴ部門で受賞している(1995年『フロム・ヘル』)[553]。ブラム・ストーカー賞はイラストレーテッド・ナラティヴ部門で2回受賞したほか(2000年「リーグ」[554]、2011年『ネオノミコン』[555])、2015年に生涯功労賞を受けている[556]。
影響
[編集]アメリカンコミックへの影響
[編集]ジェフ・クロックはムーアの『ウォッチメン』が時代を画す傑作の一つであり、それ以降のスーパーヒーロー・コミックすべてに影響を与えたと書いている[557]。歴史的にアメリカのコミックブック出版は子供向けのメディアであり、荒唐無稽なスーパーヒーロー物はその中心だった[558]。1970年代にはファン出身の書き手によって大人向けのストーリーが散発的に書かれていたものの、新たな形式を生み出すには至っていなかった[559]。1986年に発表された『ウォッチメン』は、それまでになかったレベルのリアリズムをジャンルに持ち込んだ[560]。ヒーローの内面や社会的観点を導入したのに加え[561]、流線・擬音・内心のふきだし・作者による語りといった伝統表現を排したリアリティのある描写を広めた[562]。ティム・キャラハンによると、このジャンルで脱構築を行ったのはムーアが最初ではないが、そのスマートで洗練され、シリアスであると同時に痛烈に皮肉な
スーパーヒーロー物語こそが後の世代にとってのひな型となった[563]。
クロックによるとムーアらの作品はヒーローコミックにおける自意識の目覚めであり[564]、以降10年ほどにわたって米国コミックはその模倣に陥った。しかしやがてムーアらの影響を受けた世代の作家が、過去の歴史を受け継ぎつつ自己批評性を備えた作品によって新しい時代を打ち立てていった[565]。コミック原作者グラント・モリソンは2011年の著書で『ウォッチメン』を恐竜絶滅イベントに例え、スーパーヒーロー・コミックに過酷な選択が突きつけられた⸺進化するか、それとも滅亡するか⸺その影響はいまもこだましている
と書いた[566]。
サブカルチャーへの影響
[編集]アンドリュー・ホベレクは『ウォッチメン』の研究書 Considering Watchmen: Poetics, Property, Politics(2014年)の中で、同作がスーパーヒーロー・ジャンルで行ったリアリズムの強調と形式の洗練
は、コミックブック出版への直接的な影響を超えて現代アメリカ文化全体に広く浸透したと論じている。ホベレクはムーアに続いてスーパーヒーロー・ジャンルでシリアスな作品を残した小説家としてマイケル・シェイボン、ジュノ・ディアズ、エイミー・ベンダーを挙げている[567]。映画評論家マイケル・スラゴウはディズニー映画『Mr.インクレディブル』(2004年)を取り上げて、子供向け作品ながらヒーローの社会的・政治的意味付けや心理の描き方に『ウォッチメン』の影響が見られると述べた。これはエアーズによれば、ムーアのアイロニックな脱構築がすでに革新的なアプローチからジャンルの規範へと変わったことを意味している[393]。
柳下毅一郎は、『ウォッチメン』の革新性は内容よりもストーリーの語り方、非線形のストーリーテリングと多重的な意味の重ね合わせ
だと述べた[39]。コミック研究者メラニー・ギブソンも、対置や重層性を用いた複雑なストーリーテリングを可能にしたことが後世への影響として重要だと書いている[168]。ウェブメディア The A.V. Club は『ウォッチメン』の重層的な構成がギーク文化の一世代全体に影響を与えた
と書き、テレビドラマ『LOST』(2004–2010年)を例に挙げた[170]。『LOST』制作者デイモン・リンデロフは『ウォッチメン』から特徴的なフラッシュバック・フラッシュフォワードを取り入れたと語っており[568]、同作をこれまでに作られたポピュラー・フィクションの中の最高傑作
と呼んでいる[569]。
1980年代に『ウォッチメン』でムーアの筆名が上がったころ、カメレオンズ、ポップ・ウィル・イート・イットセルフ、トランスヴィジョン・ヴァンプのような英国バンドがムーアの作品にインスパイアされた楽曲を作っている[570]。パンクバンド、マイ・ケミカル・ロマンスのジェラルド・ウェイは音楽活動を始めるインスピレーションとなったのは音楽よりもまず『ウォッチメン』だと述べており、自身でも同作の影響を受けたコミックシリーズ The Umbrella Academy(2007年)の原作を書いてアイズナー賞を受けている[571]。
社会への影響
[編集]全12号のコミックブックとして世に出た『ウォッチメン』は当時の米国コミックとしては珍しく単行本(グラフィックノベルと呼ばれた)として再刊された。書籍版の人気はコミックブック専門店に足を踏み入れない読者層にも届き[572]、「もうコミックは子供の読み物ではない」という見方を広めた[513]。米国の図書館や一般書店にコミック(グラフィックノベル)が置かれるようになったのには同作の影響がある[573]。DC社によると、一般書店を通じた『ウォッチメン』単行本の販売数は25年間で200万部を超えた[572]。
『ウォッチメン』や『Vフォー・ヴェンデッタ』は米国の大学教育でよく題材にされている[14]。コミック文化の振興を目的とするコミック弁護基金が2019年に行った調査によると、米国の幼稚園から高等教育までの学校のおよそ半数でコミックの教育利用が行われており[574]、取り上げられることが多い作品の10位に『ウォッチメン』が挙げられている[575]。
『Vフォー・ヴェンデッタ』で主人公が着用するガイ・フォークスの仮面は、2005年の映画化を経て、現実世界において政治的反抗の象徴として広く受け入れられた[563][576]。占拠運動[577][578]、アノニマス[579]、エジプト革命[580]、反グローバリゼーションデモで使用例が見られる[579]。占拠運動の支持者で『オキュパイ・コミックス』を発刊した映画監督マット・ピッツォーロはムーアを運動の非公式のゴッドファーザー
と呼び、同世代の世界観形成に大きな影響があったと語っている[331]。
日本での受容
[編集]日本では1990年代にアニメやゲーム、フィギュアを入り口にしたアメリカン・コミックのブームが起き[581]、その流れで代表作『ウォッチメン』が刊行された[582]。このときは大きなヒットにならなかったが[583]、間を置いて2000年代末にスーパーヒーロー映画との相乗効果によって「アメコミ第2次ブーム」が起きると同作の新版が市場をけん引することになった[581][584]。同時期に人文学系の出版社みすず書房が初のコミック作品として出した『フロム・ヘル』もヒットし[585]、こちらは文学・美術ファンを対象にバンド・デシネを翻訳出版する動きにつながった[584]。日本の書評家、研究者、一般紙などからはアメリカン・コミック界の「鬼才」と呼ばれている[586][587][588][589][590][591]。
日本にも熱心なムーアファンがおり[592][585]、ライトノベル『魔法少女禁止法』(伊藤ヒロ、2010年)やアニメ『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』(2015–2016年)のように、スーパーヒーローが実在する仮想歴史としての『ウォッチメン』から影響を受けた作品もある[593][594][595]。
『フロム・ヘル』などの翻訳者でもある柳下毅一郎は、ムーアの特徴的な格子状コマ割り(作風節参照)について、コマの大きさに強弱をつけて直感的に動きを感じさせる日本漫画の文法とは異質だと論じている。そのため要求される読み方も異なっており、日本漫画がスピーディーに読み進められるのに対し、ムーア作品は一つ一つのコマをじっくりと眺め、構図の中に圧縮された情報を読み解くことで初めて味わえるのだという。柳下はその違いが日本の読者にとって読みづらさになるとも指摘している[596]。これを踏まえて、『フロム・ヘル』日本語版の版元みすず書房は同作を日本の漫画とはまったく異なる方向の進化形
と紹介した[597]。評論家上野昻志は書評で「コマ割りされた静止画のもたらす緊迫感」「「グラフィック・ノベル」のダイナミズムは … 流動的な動き主体の [日本産] マンガからは失われたものかもしれない」と述べた[598]。
人物
[編集]190 cm近い長身で[599]、若いころから髪とひげを伸び放題にしている[26]。ドキュメンタリー番組に出演した際、自分に救世主コンプレックスがあるか自問して「この髪でないわけないだろう?」と言ったことがある[600]。蛇頭の杖を携帯し[601]、大きな指輪をいくつも着用するのが常で[15]、[一見すると] 村の奇人変人
だと書かれたことがある[602]。
その風貌や政治的・闘争的な発言から気難しい世捨て人というイメージが広まっているが、実際に会うとサービス精神豊富で気さくな人物であることも報道されている[26][603]。ファンタジー作家マイケル・ムアコックは無名時代のムーアと同席する機会があって人柄に興味を持ち、作品を追うようになったと書いている。… 妥協を知らない爛々たる眼差し … そこにいるのは本物の予見者、進んでリスクを取る男、何があろうと夢を追い続ける過激で頭が沸いた人物のようだった
[604]。後の2019年にムーアと会った作家スザンナ・クラークは、眼光の鋭さよりもいたずらっぽい
表情が印象に残ると書いている[263]。
自らミクロコズム(小宇宙)
と呼ぶ生地ノーサンプトンに住み続けており、旅行することもめったにない[605]。ムーアはノーサンプトンの歴史や文化を Voice of the Fire や Jerusalem のような心理地理学的小説で描いている[605]。同郷の作家ジェレミー・シーブルック(ムーアの初等学校時代の教師でもある)はノーサンプトン市民についてみな偏狭で迷信深く、吝嗇で狷介、かつ頑固だが、概して誇り高く言葉に嘘がない
と書いている。伝記作家ランス・パーキンによるとこれらの言葉はムーアの一般的イメージにも当てはまる[606]。
インタビューで語ったところでは、15歳でマリファナを、16歳でLSDを使用し始めた。LSDは短期間で止めたが、キャリアを通じて執筆のためにハシシを常用している。マジックマッシュルームによるサイケデリック体験から得たアイディアを作品化することもある[607]。パフォーマンス公演では朗読や音楽、映像やバレエのような複数のメディアが生む感覚の氾濫を通じてドラッグや宗教儀式と同じ変性意識状態を作り出すことを狙っている。コミックでも絵と言葉だけでそれを実現するのが一つの目標だという[608]。
家族
[編集]1973年に結婚した最初の妻フィリスとの間にリーアとアンバーの2人の娘を儲けた[115]。リーアは長じてコミック原作者となり、2000 AD などで活動している[609]。その夫 John Reppion も同業であり[610]、ムーアは娘夫婦と共同でヒーローコミック Albion(2005–2006年)の原作を書いている[611]。ムーアとフィリスは数年にわたってデボラという女性と同居して3人でオープンな関係を結んでいたが、1990年代初頭に破局した。このときフィリスとデボラは2人で娘たちを連れて出て行った。
2007年、長年にわたって Lost Girls の共作を続けてきたカリフォルニア出身のアンダーグラウンド・コミック作家メリンダ・ゲビーと再婚した[612][613]。
関連人物
[編集]信頼を裏切られたと感じると許さない一面があり、多くの出版社やコミック業界の友人と絶縁してきた[614]。ムーアがマーベル・コミックスと対立して、マーベルUK時代の「キャプテン・ブリテン」の再版を拒絶したときは、同作の作画家アラン・デイヴィスと袂を分かつことになった[206]。『ウォッチメン』のデイヴ・ギボンズは同作の権利問題ではムーアと近い立場に立っていたが[615]、同作のスピンオフ企画が持ち上がったときにDCの意を受けて間に立ったことを理由に絶交された[616][617]。『スワンプシング』の共作者スティーヴン・ビセットとは『1963』刊行中断[注 51]の責めをムーアに負わせるインタビュー発言がもとで関係を絶たれた[619]。
小説家・コミック原作者ニール・ゲイマンは駆け出しジャーナリストだったころに『スワンプシング』の影響を受け、ムーアに直接教えを乞うてコミックの道に進んだ[620]。二人はそれ以来の友人である[621]。ムーアと後妻メリンダ・ゲビーを引き合わせたのもゲイマンだった[612]。
ムーアは執筆活動の他にはほとんど趣味を持たないが、小説家アリスター・フルーシュと共に散歩する習慣がある[622]。フルーシュとは21世紀に再結成されたノーサンプトン・アーツ・ラボの成員同士でもある[623]。
グラント・モリソン
[編集]コミック原作者グラント・モリソンはムーアとキャリアや関心が似通っているが、不仲なことでも知られている[395][621][注 52]。モリソンは自著でムーアについて以下のような人物評を書いている。
独学で道を拓いた野心的な人物で、華々しく猛烈な才気があり、数々の巧みなトリックを使いこなすが、一番巧妙なのは自分を斬新に見せるトリックだった。まるでムーアの前にはコミックに歴史などなかったかのようだ。その機知に富んだ、歯に衣着せぬ、謙遜の利いた発言(「自分がメシアだと言いたいわけじゃないが … 」)は、コミックシーンを一新した燦然たる自信と裏腹だった。—グラント・モリソン(2011年、Supergods: Our World in the Age of the Superhero)[625]
モリソンは1990年のコラムで、ムーアのスーパーヒーロー作品が1977年に英国で出版された Superfolks(→スーパーな人々)というユーモア小説からヒントを得ていると指摘した[注 53]。ムーアは同書からの影響は特別に大きなものではないと発言しているが、盗用説は根強く残っている[627][626]。
2012年には『ローリング・ストーン』誌のインタビューで「ムーアはレイプに執着しており、レイプが出てこない作品は一握りしかない」と発言した[628]。翌年、「女性や人種的マイノリティの描写に関する批判」について反論を求められたムーアは、自らモリソンの名前を出し、作品や人格を激しく批判し、自身のストーカーだと呼び、モリソンの共作者・出版社・ファンと絶縁すると宣言した[358][356]。
思想・信条
[編集]映画化
[編集]ムーアは自身のコミック作品が映画化不能だと常々語っており[629]、公開された原作映画を公然と酷評している[630]。メディア・フランチャイズ化が当然の前提となっている21世紀のアメリカン・コミックにおいて、このような姿勢は珍しい[631][注 54]。
ムーアの映画化に対する考え方はハリウッドとの関わりが増すにつれてどんどん辛辣なものになっていった[630]。初期の『フロム・ヘル』(2001年)や『リーグ・オブ・レジェンド』(2003年)はいずれも原作から大きく改変されていたが[632]、これらについては映画を見ずにすんで関りを持たずにいられて、オプション料が入ってくる限り、誰も原作と映画を混同したりしないと思って気にしなかった
と語っている[633]。ムーアの姿勢が硬化したのは、2003年に映画製作者マーティン・ポールと脚本家ラリー・コーエンが脚本を『リーグ・オブ・レジェンド』に盗作されたとして20世紀フォックスとムーアを訴えたのがきっかけだったと考えられている[401][634][635]。係争は裁判外の和解で決着し、潔白を証し立てる機会を失ったムーアは映画業界全体に対して怒りを募らせた[636][637]。2005年に『Vフォー・ヴェンデッタ』が公開されると、ムーアが映画化に期待していたという製作者の発言を強く否定して物議を醸した[638][639]。また原作の政治的コンテキストが変えられたことを批判した[640][641]。
ムーアはその後、著作権を手放したコミック作品に自分の名前を載せない意向を示した。さらに映画化されても自身の名前を出さず、原作料も受け取らないと発言した[642]。それ以降の映画『コンスタンティン』(2005年)、『ウォッチメン』(2009年、ワーナー)、『ウォッチメン』(2019年、HBOドラマ)ではこの希望が守られ、ムーアへの原作料は替わりにコミックの作画家に支払われた[26][401][643]。2012年のインタビューにおいて、映画化に協力しなかったことで逃した金額を尋ねられたムーアは「少なくとも数百万ドル」と答え、こう続けた[644]。
目の前で自分に値段をつけさせない、どれだけ金を積まれても一歩だって自己の原則を譲らない、たとえ実際上の意味がないとしても。そんな風に思える誇らしさは金では買えないからな。—アラン・ムーア(2012年)[644]
これらの態度は奇矯さや自我肥大の現れと見られることもある[645]。マーク・ヒューズは『フォーブス』誌への寄稿で、「リーグ」や Lost Girls で古典文学のキャラクターを借用しているムーアが自作の翻案については認めないのを完全な偽善
と批判した[646]。
政治的傾向
[編集]政治的にはアナキストを自認している[19]。ムーアは英国労働党による福祉国家政策が確立した1950年代に生まれ育ち[648]、若いころは自身の属する労働者階級に素朴な社会主義的理想を重ねていた[649]。社会主義のセンチメンタルなヒューマニタリアニズム
は自然に受け入れられるものだった[650]。しかし1979年に保守党のマーガレット・サッチャーが首相の座に就き、経済自由化を推し進めて平等主義を覆すと[651]、庶民がそれを支持したことに幻滅してアナキズムに傾いた[649]。サッチャーに対しては非常に批判的であり、80年代の主要作品で描かれるディストピアにはいずれもサッチャー政権への風刺が読み取れる[651]。90年代以降もサッチャリズムの遺産は新自由主義として残っているが、ムーアはそれにとどまらず、現代のマーケットで起きている芸術の商品化をサッチャー的なるものとして批判している[648]。
1990年のインタビューで支持政党について聞かれると、アナキズムの理想は政党政治を通じて実現できるものではないが、それに向けた第一歩として、基本的な生活を保障するとともに自由競争を認める緑の党に期待すると述べた[652]。2017年と2019年の総選挙では、左派社会主義者のジェレミー・コービンが党首を務めていることを理由に労働党への支持を表明した[653][654][655]。
ムーアはアナキスト作家を扱ったマーガレット・キルジョイの著書 Mythmakers and Lawbreakers(→神話作りと法律破り)(2009年)でアナキスト哲学を語っている。ムーアにとっては無政府状態こそが自然であり、体制秩序や指導者のような概念は不当なものだった[656]。
あらゆる政体は無政府という基本状態の一種か、その派生だ。もちろんほとんどの人は、アナキズムを話題に出すと、最大のギャングが牛耳るようになるだけだからダメだ、と返してくるだろう。だが私に言わせればそれこそが現代社会そのものだ。我々が生きているのは発展の仕方を間違えた無政府状態であり、最大のギャングが政権を握って、これはアナキズムではなく資本主義だとか共産主義だとか言い張っているのだ。しかし私は、人間がその手で営む政治形態としては無政府状態がもっとも自然だと考えている。—アラン・ムーア(2009年、 Mythmakers and Lawbreakers)[657]
ムーアはアナキズムの基礎に「完全な自己責任と、自主独立の尊重」を置いている[656]。80年代にメインストリーム・コミック出版社が年齢レイティング制と制作者へのガイドラインを導入しようとしたときには、あらゆる形式の表現規制に反対する立場をとった[658]。評論誌『コミックス・ジャーナル』のインタビューでは、子供がハードコア・ポルノに触れることにさえ、法的規制という対処法をとるべきではないと語った[658][659]。ムーアは性差別表現や『G.I.ジョー』のような戦争賛美的な作品は個人的なモラルに反すると言っている[660]。しかしそれらを規制したり、ゾーニング・包装・レイティング表示などの手段で子供の手から遠ざけるのではなく、自身の信条を伝える優れた表現によってマーケットから淘汰するのが理想なのだという[660]。
魔術と芸術論
[編集][『ウォッチメン』と『フロム・ヘル』を書いた後で] 理詰めの創作については理解の限界に達した気がした。その先に進むためには理性を超える一歩が必要に思えた。次の一歩の足場となってくれる唯一の領域が魔術だった。…『ウォッチメン』を何度も繰り返せないことは分かっていたし、それと同じくらい、『フロム・ヘル』をいくらでも繰り返せることも分かっていた。—アラン・ムーア(2003年)[18]
1993年、40歳の誕生日に魔術師になると宣言した[661]。独学で魔術を学び始めるきっかけとなったのはフリーメイソンや神秘学のシンボリズムを大きく扱った『フロム・ヘル』だった[18][602]。魔術が言語芸術の延長線上にあることを見出すにつれて、創作についての疑問への答がそこにあると考えるようになった[662]。ムーアによると魔術と芸術はいずれも象徴を用いて他者の意識を変える行為であり、個人を変えることによって世界を変革することができる[663]。実際、魔術は人類の歴史の中で絵画や文学と同じ役割を果たしてきたのだという[18]。
ムーアは魔術を軸にして言語、芸術、集合的想像力についての考え方を再構成し[115]、キャリア後半の執筆活動を支える思考の枠組みとした[320]。ランス・パーキンはその思考体系が心理地理学、蛇神信仰、「イデア空間(→Idea Space)」の三要素にまとめられると述べている[664]。
ムーアがいう心理地理学は、土地の歴史と景観を深く掘り下げ、魔術の象徴体系を用いて一見無関係な出来事の間につながりを見出していくことで豊かな意味のネットワークを引き出してくる方法である[665][666][注 55]。主人公がロンドンの史跡を巡る中で男性性と女性性の神話的闘争が立ち上ってくる『フロム・ヘル』はその典型である[665]。
「蛇神」はローマ時代の神グリュコンを指す。ムーアは1994年以来この神を崇めていると公言している[669]。グリュコンはアボヌテイコスのアレクサンドロスとして知られる預言者が創始した教団の信仰対象だが、同時代のルキアノスによると人形の頭を被せた大蛇に過ぎなかった[670]。ムーアもグリュコンが完全な作り事
だということは認めている[671]。ペイガン研究者イーサン・ドイル=ホワイトはムーアが主張するように想像力は現実そのものと同じくらいリアルなのだから、グリュコンがおそらく巨大なペテンだったという事実そのものが、ムーアにとってはその恐るべき神への信仰に身を捧げるのに十分な理由だった
と説明している[672]。ムーアは国家宗教と比較して魔術を「スピリチュアルにおけるアナキズム」としており、グリュコンの信仰は他人と共有できるものではないと語っている[414]。
「イデア空間」は人間の意識活動を空間のメタファーで表したもので、意識研究でいうクオリア空間と近い[18]。後年の作品にはイデア空間が「フィクションの登場人物や概念が住む、現実と相互作用する異空間」という形で繰り返し扱われている[673]。芸術家によって共有される集合意識空間という考えはムーアの間テクスト的な作風と深く結びついている[674]。ジャクソン・エアーズはこれらを理想化されたパブリック・ドメイン
と呼び、著作権の過剰適用や企業によるオーサーシップから芸術活動を守るための寓話として論じた[675][298]。
主要作品
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ The Original Writer(→原著者)は、著作権の所在が争われている過去作が再版される際に、自身の名を載せることを拒んで用いた筆名である[1]。
- ^ Translucia Baboon は1980年代に音楽活動を行ったときのステージ名である[2]。デイヴィッド・J(ゴシック・ロックバンド、バウハウスのメンバー)らと結成した The Sinister Ducks というバンドからは1983年にシングルがリリースされている[3]。そのほか、Brilburn Logue の名で作詞を手掛けたこともある[4]。
- ^ 「メインストリーム・コミック」とは、歴史的にコミックブック出版の主流を占めてきたスーパーヒーロー・ジャンルとその周辺のファンタジーや冒険ものを意味する[10]。
- ^ The Boroughs、現在は Spring Boroughs[28]。
- ^ このころ知り合った中には、ケヴィン・オニール(『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』)、デイヴィッド・ロイド(『Vフォー・ヴェンデッタ』)、ブライアン・ボランド(『バットマン: キリングジョーク』)、デイヴ・ギボンズ(『ウォッチメン』)がいる[47]。
- ^ 新聞漫画。形式は横一列に並べたコマ割りを基本とする[76]。
- ^ 「くまのパディントン」のパロディ[79]。
- ^ タイトルはSF小説 The Stars My Destination(邦題: わが赴くは星の群)の引用[54]。
- ^ 当時の週間販売部数は12万部だった[99]。
- ^ ソープとムーアがこの作品で導入した並行宇宙「アース616」は後にマーベル・ユニバース公式の作品世界となった[110]。
- ^ ただしムーアは差別語(黒人を指す「チョコレート」)や性的な言葉(「童貞」や「生理」)を使わないようにという要求も創作の自由への侵害と見なしたため、デズ・スキンと論争を起こした[113]。
- ^ 作画デイヴィッド・ロイド。
- ^ 作画ギャリー・リーチ、アラン・デイヴィスほか[117]。
- ^ 作画スティーヴ・パークハウス。
- ^ 作画ジム・ベイキー。
- ^ 作画アラン・デイヴィス。
- ^ 作画イアン・ギブソン。
- ^ ほかには1978年に A Contract with God を描いたウィル・アイズナーの流れがある[153]。
- ^ 作画デイヴ・ギボンズ。
- ^ 作画デイヴ・ギボンズ。
- ^ ムーアがDCに提出した Twilight 企画書は関係者の間で広く知られており[191]、2020年の作品集 DC Through the 80s: The End of Eras に全文が収録されている[192][193]。
- ^ ムーア自身の回想によると、当時のDC社長ジェネット・カーンが「ムーアがDCへの寄稿を続けるなら『ウォッチメン』スピンオフの出版計画は取りやめる」と言ったのを自身への脅しと受け取り、非常な悪感情を持ったという[198]。
- ^ コミック取次業者の間でレイティングを求める動きが生じたのは、ムーアが『ミラクルマン』第9号(1985年)で出産を克明に描写したのが一因だった[199]。グレッグ・カーペンターによるとDCの対応は「テレビ伝道師ジェリー・ファルウェルの影響のもとでレーガン政権が取った表現規制施策」を踏まえていた[200]。DCは最終的にクリエイターからの反対を受けて、読者の年齢に合わせて作品内容を自主規制するのではなく、特に暴力的・性的な号にだけ「For Mature Readers(→成人読者向け)」のラベルを表示することにした[201]。
- ^ 書名 AARGH は Artists Against Rampant Government Homophobia(→猖獗を極める政府の同性愛嫌悪に抗議する芸術家集団) の略。
- ^ 作画リック・ヴィーチ、スティーヴン・ビセット。この詩は2004年に美術研究者ホセ・ヴィジャルビアによって写真集となり[221]、数か国で刊行されることになる[222][223]。
- ^ 作画ビル・シンケビッチ。
- ^ 後の1998年にムーアと作曲家ゲイリー・ロイドの手でスポークン・ワードとしてCD化された[229]
- ^ 当初ムーアはカオスの代表例である Mandelbrot Set(→マンデルブロ集合)[231]をそのまま作品タイトルにしようと考えていた。しかし、数学者ブノワ・マンデルブロ本人に許可を求めたところ「カオスが数学界でギミック扱いされているので、コミックで大きく扱ってほしくない」と言われて断念したという[232]。
- ^ 書籍形式で刊行されたコミック作品をいう[239]。
- ^ "a small killing" には「小さな殺し」と「ちょっとした儲け」の二つの意味がある[240]。作画オスカー・サラテ。
- ^ 作画エディ・キャンベル。
- ^ 作画に比べてストーリー面の評価が低かった『スポーン』誌のテコ入れとして、当時のスター原作者(アラン・ムーア、ニール・ゲイマン、フランク・ミラー、デイヴ・シムら)を1号ずつゲストに迎える企画だった[275]。
- ^ 作画リック・ヴィーチ、スティーヴン・ビセット。
- ^ 2000年前後にリーのスタジオから出版された人気作 Stormwatch や The Authority(ウォーレン・エリス原作)の演出法や
アイロニーを前面に出した、自己パロディ的・自己言及的な
作風にムーア期『WILDC.A.T.S』からの影響がみられるという指摘もある[284][286]。 - ^ 作画ケヴィン・オニール。
- ^ 作画ジーン・ハー、ザンダー・キャノン。
- ^ 作画J・H・ウィリアムズIII。
- ^ 同作はABC発足より前に映画化権が売られており、ほかの作品とは著作権の扱いが異なっていた[295]。
- ^ ドッジェムはバンパーのついたカートに乗って互いにぶつかり合う遊園地の遊び[321]。
- ^ 作画メリンダ・ゲビー。
- ^ ムーアが米国のマーベル・コミックスに寄稿したのは、Heroes のほか、アフリカの飢餓をテーマにした1985年のチャリティ・コミック X-Men: Heroes for Hope のみである[329]。
- ^ 作画 Facundo Percio。
- ^ ムーアの立場に理解を示していた発行人ポール・レヴィッツが2009年にDCを退いたことも影響しているという見方がある[347]。
- ^ "caul" は羊膜の一部が新生児の頭に被さったもの。魔除けとされる。
- ^ The Highbury Working(1997年)、Snakes and Ladders(1999年)、Angel Passage(2001年)[372]。
- ^ Electricomics 公式サイトは2016年8月を最後に更新を停止している(2022年1月20日アーカイブ、2022年8月11日閲覧)。
- ^ 英語版の初刊は1987年だが[454]、このころすでにフランク・ミラーへの影響は知られていた[455]。
- ^ ムーアはブレイク協会の後援者のひとりであり[476]、テート・ブリテンでブレイク展が開催されたときにガーディアン紙に寄稿[477]を行っている。
- ^ ロバート・クラムら非主流コミックからの流れもあった[510]。
- ^ 第19シーズン第7エピソード "Husbands and Knives"[519][520](邦題: ホーマーの美容整形)。
- ^ 『1963』はレトロな主人公たちが最新のイメージ・ヒーローと対決する特別号で完結するはずだったが、イメージ社内でクロスオーバーを調整するのが難しく未刊に終わっていた[618]。
- ^ 2010年にウェブメディアCBRが行ったオールタイム最優秀原作者の一般投票ではムーアが首位、モリソンが第2位だった[624]。
- ^ Superfolks とムーア作品の類似点には「魔法の言葉を封印してヒーローへの変身を止めた中年男性(マーベルマン)」「警察がヒーローに抗議してストライキを起こす(ウォッチメン)」「いたずらな小妖精が真に邪悪な黒幕であった(何がマン・オブ・トゥモローに起こったか?)」などが挙げられる[626]。
- ^ 米国コミックブック市場の約8割を分け合う2大出版社、DCとマーベルはそれぞれメディア複合企業タイム・ワーナーとディズニーの傘下である[211]。
- ^ 心理地理学は元々フランスの前衛的なシチュアシオニストからイアン・シンクレアら英国のポストモダン作家に受け継がれた文学的傾向で[10][667]、消費主義や商品化に基づく都市開発への抵抗という性格がある[668]。
出典
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- モリソン, グラント 著、中沢俊介 訳『スーパーゴッズ アメリカン・コミックスの超神たち』小学館集英社プロダクション、2013年。ISBN 978-4-7968-7115-0。
外部リンク
[編集]- アラン・ムーア (OfficialAlanMoore) - Facebook
- アラン・ムーア - IMDb
- アラン・ムーア - Curlie
- アラン・ムーア - Internet Book List
- アラン・ムーア - Internet Speculative Fiction Database